前回、OpenSignalのレポートから携帯各社の5G SA展開状況について触れましたが、2025年8月に実施された携帯各社の決算では、各社のトップからそのレポートと5G SAに取り組み方針も聞くことができました。それらの発言からは、携帯電話会社によって5G SAへの移行にかなりの温度差がある様子が見えてきます。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。
法人需要開拓が進まず消極姿勢の2社
5Gの本領を発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行は、携帯電話会社にとって法人ビジネスの拡大につながるネットワークスライシングなどが利用できるメリットがあります。
しかし、現状は5Gの高い性能を活用した法人ソリューションを開拓できておらず、それでいて移行にはコストがかかることもあって、高速大容量通信のみを実現するノンスタンドアローン(NSA)運用からの移行があまり進んでいないというのは前回触れた通りです。
では実際のところ、国内の携帯各社は現状、5G SAへの移行にどれだけ力を入れているのでしょうか。2025年8月初頭に実施された携帯各社の決算説明会で、大手3社のトップに前回取り上げたOpenSignalのレポートに対する受け止めと、5G SAの整備に対する姿勢を聞いてみたのですが、その取り組み方には差がある様子です。
従来と同様、5G SAへの移行に慎重な姿勢を示している1社がソフトバンクです。同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、OpenSignalのレポートでKDDIと比べ評価が低かったことに「結果は真摯に受け止めるべきだと思う」と話す一方、同社ではネットワークの信頼性に重きを置いていることから、5G SAの信頼性で高い評価を得たことは「良かった」と話しています。
また5G SAの整備に関して、宮川氏は「早く全て(の5Gネットワーク)をSAにすべきと思う」と話す一方、「5G SAにしたから特別になることは、実はあまりない」とも答えています。5G SAでの具体的なソリューションの開拓ができていない現状、5G SAの優先度があまり高まっていない様子が伺えます。
NTTドコモを有するNTTグループも、やはり5G SAには慎重な姿勢です。NTTの代表取締役社長である島田明氏は、OpenSignalのレポートでNTTドコモの5G SAネットワークが一部評価の対象外となったことに対し「4Gと5Gの電波を同時に吹いている場所が多いため」としており、要はNSAのエリアがまだ多くを占めていることが理由と話しています。
また5G SAへの移行に関しても、島田氏は「5G SA自体、法人が対象になると思っている」と答えていました。それゆえ、顧客となる企業と連携して実現可能な所から導入を進めていくという従来の方針は変えないようで、積極的に全国に面展開しようという様子は見せていません。
KDDIが5G SAで目指す通信品質向上と運用効率化
競合の慎重姿勢に対し、5G SAへの移行に前向きな様子なのがKDDIです。実際、同社の代表取締役社長である松田浩路氏は5G SAに関して「前向きに取り組んでいる」と話しています。
他社が5G SAへの移行に慎重にもかかわらず、KDDIは積極的な移行を進めているのでしょうか。松田氏の説明によると、5G SAに移行するメリットは法人需要の開拓だけでないようです。
NSA運用は4Gのネットワークの中に5Gの基地局を設置し、5Gの高速大容量通信を実現するという複雑な仕組みで、5Gに接続するには必ず4Gのネットワークに接続する必要があります。それゆえ4Gにかかる負担が大きくなり、4Gの通信品質に5Gの品質も大きく左右されてしまうのです。
しかしながらSA運用に移行すれば、ネットワーク自体が4Gから独立するので4Gの影響を受けなくなりますし、構成もシンプルになるので遅延も抑えられる。そうした効果がOpenSignalの評価にも表れていると松田氏は話しており、5G SAへ早期に移行することが、スマートフォン利用者のネットワーク品質向上、そして運用そのものの効率化にもつながるとしています。
確かに、ここ最近は大規模イベントなどでのトラフィック対策に5G SAを活用する機会は増えている印象です。先に触れたように、5G SAは4Gとネットワークが切り離されていることから、5G SAに接続する人が増えれば4Gのトラフィックが減少し、5G、4G双方の利用者共に通信品質が向上するからです。
直近の事例を示しますと、ソフトバンクは2025年8月16日から、東京ビックサイトで開催された同人誌即売会イベント「コミックマーケット106」において、会場全体で帯域幅の広い3.9GHz帯を整備し、移動基地局車と衛星通信の「Starlink」を組み合わせたトラフィック対策を進めるとともに、会場全体で5G SAが利用できる環境を整備したとしています。
そうしたメリットを見出したKDDIは5G SAへの移行を今後も積極化するとしており、慎重な姿勢を見せる2社や、まだ5G SAを展開していない楽天モバイルと比べネットワークの優位性は高まるものと考えられます。ですが短期的視点で見た場合、積極的な5G SAへの移行は投資コストの増加にもつながるだけに、今後の業績に与える影響も気になる所です。