マイナビニュースのインタビューに応じた片岡氏は、企画の考え方について講義を行うようなった経緯を明かした。最初に実施したのはフジテレビ在籍時代のことで、担当部署からの依頼で、同局の若手制作者を対象に行った。

その講義で伝授したのが、あるフォーマットを使って番組を言語化することにより、「自分が番組のどこをどう面白がっているのか」を相手に伝えやすくする技術。フジテレビ時代、数百本もの若手制作者の企画書を見た時に「何か足りないものを感じた」というが、このフォーマットに当てはめることで、世の中に届く番組、刺さる番組が必ず持っている共通項があることに気づいたという。

片岡氏自身、企画を考えるという行為は「わりと感覚的に」やってきたものだったが、「後輩たちへの講義もきっかけとなり、人に“脳内の感覚”を伝える時には、やっぱり言葉にするしかない」と、このメソッドの精度を上げていくことに。

そのため、「『めちゃイケ』をやっていた頃は戦場のような日々だったから、当時一緒にやっていたディレクターたちには、こんなに理論立てて教える余裕もありませんでした。でも、かつての仲間が私の講義を聴いたら“あの時言っていたのはこういうことか”と腑に落ちるところもあると思います」と、キャリアを通じて一貫した思考であるという。

『めちゃイケ』テロップにも宿っていた“研ぎ澄ます”精神

伝える言葉を、言葉の海の中から“探す”→“選ぶ”→“練る”→“研ぎ澄ます”というレベルまで考え抜く精神は、短いフレーズで仕留める『めちゃイケ』のテロップにも宿っていた。

「ディレクターは短いテロップで伝えられるほど単純にエラいと思うんです。“ダラダラつまんないこと書いても、読んでくれるお客さんはいないよ”って。その究極が『?』とか『!』だけを一発で出すというものだったのかも。ただ、それも感覚でやっていましたね」

それゆえ、言葉を磨くことと同時に感覚も大事にしていくべきだと、くぎを刺す。

「この講義を受けてそれぞれの現場に戻っていくと、左脳(=論理的思考)ばかりで考えて議論し始める人が増えがちなんですけど、それは間違っている。インプットは左脳でいいんですけど、クリエイターは作る瞬間には右脳(=創造的思考)から行くべき。言葉を覚えて言葉に酔い始めると、途端に面白くなくなってしまうので、そこは直感でやったほうがいいです」

多くの若いテレビマンたちが参加した今回の講義。「皆さんが受け取ったことで何を発揮してくれるかという一元的な期待はもちろんありますけど、それよりも今回対面した40人の人たちが、“片岡飛鳥という人からこんな話を聞いたんだよ…”と語り継いでくれて、それが広がっていくことで、この業界がシュリンク(縮小)していかないようにという思いがあります」と、使命感を持って臨んでいる。

そこには、自分を育ててくれたテレビを守りたいという思いもある。

「テレビというものにいろんなことがあって、ネガティブなイメージもある昨今、 親御さんによっては、お子さんの就職の時に“テレビの仕事なんかやらないで”と言いそうな気がしていて。テレビに限らずどの世界だって、若い才能が集まってこなければ終わってしまう。だからこそ、テレビに恩返しをしたいという気持ちもありますね」