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死を直接には言わない日本語の美意識

日本語では強い表現をあえて避け、別の言葉に意味を込める文化が育まれいます。
「死」を婉曲的に表す言葉には、相手への配慮だけでなく出来事を静かに受け止める日本人特有の美意識が反映されているとも考えられるでしょう。
なお日本における「死」の表現には、大きく分けると「旅立ちとして捉えるもの」「眠りにたとえるもの」「自然の循環ととらえるもの」があります。
それぞれの例を見ておきましょう。
「旅立ち」を表す美しい死の言葉
死を「終わり」ではなく「次の場所へ向かうこと」と捉える言葉には、別れの痛みをやわらかく包み込むニュアンスも含まれます。
♦︎旅立つ(たびだつ)
人生を旅になぞらえ、旅を終えて新たな場所へ向かうという比喩。
弔辞や追悼文でも多く使われています。
♦︎逝去(せいきょ)
公的な場や改まった場面で用いられる表現です。
敬意と距離感を保ちながらも、落ち着いた響きがあります。
♦︎他界(たかい)
「死」を、この世とは異なる世界へ行くことだと捉える表現です。
やや宗教的な色を含みつつも、一般的にも使われている柔らかい印象の言葉です。
眠りや静けさにたとえる表現
死を「苦しみの終わり」や「安らぎ」として表す言葉には、表現を柔らかにするだけでなく、残された側の心を慰める役割もあります。
♦︎永眠(えいみん)
死を、永遠の眠りだとたとえる表現です。
悲しみのなかにも、安らかな印象を感じさせるニュアンスがあります。
♦︎眠りにつく
こちらも死を眠りにたとえて用いられますが、一方で日常的な言葉としても使われる表現です。
文脈によっては「死」を表す言葉として、私的な文章や文学的な表現に向いています。
♦︎静かに息を引き取る
故人の最期の様子を穏やかに伝える表現です。
看取りの場面などで使われることが多く、遺族のコメントでも多く用いられます。
自然の循環と捉える表現
人間の死を自然の一部として捉える表現は、日本的な死生観を反映しているともいえます。
自然と一体になる表現は、ビジネスシーンよりも私的な会話や文章、手紙などで用いられるのが一般的です。
♦︎土に還る(つちにかえる)
人間は、自然から生まれて最後は自然へ戻るという循環思想を感じさせる言葉です。
♦︎星になる(ほしになる)
近年よく使われている表現です。
特に子どもに対して「死」を説明するときに用いられがちです。
文学的に「死」を表現するなら?
なお、文学や詩の世界でも「死」はよく扱われるテーマです。
抽象化され、美しい情景を連想させるものとして描かれる場合も少なくありません。
♦︎この世を去る
会話でも使われることがありますが、文学の世界でよく用いられています。
生きていた場所から離れるという意味によって「死」を表しています。
♦︎命の灯が消える
生命を、灯火に見立てた比喩。
感情的な余韻を残しやすい表現で、静かな印象を与えます。
♦︎露と消える
命のはかなさを、朝露になぞらえた表現です。
寂しさや静寂な雰囲気も連想させ、静かな情景として描かれるケースが多いでしょう。
「死」を表す言葉は使い方に注意を

どんなに美しい言葉であっても使いどころを誤ると、軽く感じさせたり教養がないと思われたりしがちです。
「死」は特にデリケートなテーマなので、使い方にはくれぐれも注意を払いましょう。
アラサー世代が心得ておきたいポイントを整理しました。
♦︎公的な場では定型的な表現が無難
ビジネスシーンなどの公的な場では、あえて個性的な表現を選ばずに「逝去」「永眠」などの定型的な表現を用いるのが無難です。
デリケートな話題だからこそ、奇抜な印象を与えると悪目立ちしやすいでしょう。
♦︎私的な文章では、相手との関係性に合った言葉を選ぶ
LINEや手紙などの私的な文章では、相手との関係性に合う言葉を選びます。
必要以上に美しく飾ろうとせずに、素直な気持ちを伝えるのが一番です。
♦︎SNSや軽い文脈では、詩的すぎる表現を避ける
SNSや軽い文脈で複雑な表現を用いると、温度差や誤解が生じがちです。
背景を知る人にとっては美しいと受け止めてもらえても、詳しく知らない人から見ると唐突に感じる場合も多々。
正しい意味で捉えてもらいにくい場面では、わかりにくい表現は避けるのが賢明です。
死を表す美しい言葉は日本が育んできた文化
死を表す美しい言葉は「死」という出来事を飾るためではなく、悲しみをそのままぶつけずに静かに受け止めるために育まれてきたと考えられます。
直接的な言葉を避け少し曖昧なニュアンスの表現を選ぶのは故人への敬意だけでなく、残された人への気遣いにもつながります。
「死」を表す表現は、調べるほど奥の深さを感じさせるテーマでもあります。大人の教養のひとつとして、適切な言葉を選べるようにしておきたいものです。
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並木まき
ライター、時短美容家、メンタル心理カウンセラー。企業研修や新人研修に講師として数多く携わっている。シドニー育ちの東京都出身。28歳から市川市議会議員を2期務め政治家を引退。数多くの人生相談に携わった経験や20代から見てきた魑魅魍魎(ちみもうりょう)な人間模様を活かし、Webメディアなどに執筆。