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JP3552565B2 - 高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法 - Google Patents
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JP3552565B2 - 高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法 - Google Patents

高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車輌用等の内燃機関に使用される高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関に使用されるピストンとして、軽量化を図るためアルミニウム合金AC8A(Si:11.0〜13.0重量%,Cu:0.8〜1.3重量%,Mg:0.7〜1.3重量%,Ni:0.8〜1.5重量%)を重力鋳造法したアルミニウム製ピストンが使用されている。要求特性としても、耐熱性があり、高温疲労強度も250℃における設定値をクリアーすれば十分であった。
しかし、不完全燃焼なく燃費を向上させ、大出力が得られる直噴型エンジンでは、ピストンヘッドに燃料が直接噴射されるため、従来の内燃機関に比較して約100℃程度高い高温雰囲気にピストンが曝される。雰囲気の高温化は、ガソリンを使用したエンジンに止まらず、ジーゼルエンジンでも同様の傾向にある。それに伴って、従来の設定値を350℃でも満足する特性、具体的には350℃における100MPa以上の強度及び60MPa以上の高温疲労強度(×10 サイクル)が要求される。
【0003】
アルミニウム合金製ピストンとして、350℃での高温特性を満足する材料は種々開発されている。たとえば、超急冷凝固したナノクリスタル材料,セラミックファイバ等を複合化したFRM材料等が挙げられるが、何れも製法上から非常に高価な材料となる。そこで、生産性が良く、安価なダイカスト鋳造が望まれている。
しかし、ダイカスト鋳造によるとき、金型キャビティに残留するN ,水蒸気等のガス成分が注入されたアルミニウム合金溶湯に巻き込まれ、ブローホール,ポロシティ等の鋳造欠陥となって製品に移行する。鋳造欠陥は、フクレや高温疲労クラックの起点となり、ピストンの耐久性を低下させる。また、介在物が高温疲労クラックの原因になることもある。
【0004】
ガス成分は、キャビティに残留している空気の外に、金型内面に塗布された離型剤,プランジャに塗布された潤滑剤等に由来する水蒸気等もある。ガス成分は、アルミニウム合金の圧入に先立って金型キャビティを真空引きする真空ダイカスト法である程度除去できるものの、ピストン等の機能材料としてダイカスト製品を使用するには混入ガス由来の鋳造欠陥が依然として含まれている。
真空ダイカスト法の欠点を解消するものとして、酸素ダイカスト法が知られている(特開昭50−21143号公報参照)。酸素ダイカスト法では、キャビティ内のガスを酸素に置換するため、大気圧以上の圧力で酸素をキャビティに充満させている。キャビティに送り込まれた酸素は金型の合せ目や注入口から吹き出すため、金型の合せ目や注入口から外気がキャビティに侵入することが防止される。送り込まれた酸素は、溶湯と反応して微細なAl になって製品内に分散し、ダイカスト製品に悪影響を及ぼすことはない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
大気圧以上で酸素をキャビティに送り込むことによっても、キャビティからガスを完全に除去することは困難である。ガスの残留は、キャビティが複雑形状をもつ場合に発生しがちである。すなわち、ピストン鋳造用の金型では、複雑形状のキャビティに設計されるため、酸素が供給されない隘路が生じ易い。隘路では空気,水蒸気等のガスが酸素と置換されずに残留し、残留ガスがダイカスト製品に取り込まれ、鋳造欠陥を発生させる原因になる。
また、ダイカスト製品にT5処理,T6処理等の熱処理を施して機械的特性を向上させようとすると、製品内部に取り込まれているガスに起因して熱処理後の製品に膨れが発生してしまう。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、アルミニウム合金溶湯の圧入に先立って金型のキャビティをガス成分が完全に除去された雰囲気に調整し、保持処理された所定組成のアルミニウム合金溶湯を圧入することにより、吸蔵ガス量を大幅に低減し、疲労破壊の起点となるガス起因の鋳造欠陥や介在物を抑制し、優れた高温疲労強度をもつダイカスト製ピストンを得ることを目的とする。
【0007】
本発明のダイカスト製ピストンの製造方法は、その目的を達成するため、Si:11〜16重量%,Mg:0.5〜2.0重量%,Cu:3〜7重量%,Ni:3〜7重量%,Fe:0.2〜1.5重量%,Mn:0.2〜1.0重量%,P:0.003〜0.015重量%,Ca:0.002重量%以下を含み、残部が実質的にAlで、他の不純物が合計量0.2重量%以下に規制された組成を有し、脱ガス・脱滓処理を経て740〜780℃で保持処理したアルミニウム合金溶湯を、真空度100ミリバール以下に減圧した後で大気圧以上の圧力で酸素を吹き込むことにより雰囲気調整した金型のキャビティに650〜740℃の鋳造温度で圧入することを特徴とする。
【0008】
使用するアルミニウム合金溶湯は、更にTi:0.01〜0.3重量%,B:0.0001〜0.03重量%,Cr:0.01〜0.3重量%,Zr:0.01〜0.3重量%の少なくとも1種を含むことができる。
鋳造後、170〜230℃に1〜10時間加熱するT5処理又は470〜500℃に1〜10時間加熱する溶体化,水焼入れ,次いで170〜230℃に1〜10時間加熱するT6処理で強度を向上させることもできる。
【0009】
【作用】
金型のキャビティを真空度100ミリバール以下に減圧した後で、大気圧以上の圧力で酸素を吹き込むと、吹き込まれた酸素は、従来の酸素ダイカスト法に比較して格段に速い流速で流動し、複雑形状のキャビティであってもキャビティの隅々まで十分に行きわたる。そのため、金型内面に付着している離型剤や潤滑剤由来の水蒸気等も酸素流によって十分に洗い出される。このように金型内部が清浄化されたキャビティにアルミニウム合金溶湯が圧入されるため、キャビティを充満する合金溶湯に巻き込まれるガスが大幅に少なくなる。
得られたダイカスト製品は、ガス巻込みに起因するブローホール,ポロシティ等の鋳造欠陥がなく、介在物も抑制されているため、優れた高温疲労強度を示す。高温疲労強度は、Al−Ni系やAl−Ni−Cu系の晶出物によって更に改善される。更には、熱処理時に膨れ発生がないため、T6処理でMg Si,CuAl 等を析出させることによって必要強度を付与できる。たとえば、従来の重力鋳造法で金型に注湯して製造されるピストンの吸蔵ガス量が0.2〜1.0cc/100g−Alであるのに対し、普通ダイカスト法で製造した鋳物では吸蔵ガス量が5〜20cc/100g−Alと多く、ピストン用には適さない。これに対し、本発明法で得られるダイカスト製ピストンは、吸蔵ガス量が1.0cc/100g−Al以下と非常に低くなるため、ピストンとして使用可能である。
【0010】
以下、本発明で使用するアルミニウム合金の成分,含有量,製造条件等を説明する。
Si:11〜16重量%
初晶Siとして晶出し、耐熱性及び耐摩耗性を改善する合金成分である。また、共晶Siにより熱膨張率を低下させ、鋳造時の湯流れを向上する上でも有効な成分である。更に、時効処理によってMg Siとして析出し、機械強度を向上させる。このような効果は、11重量%以上のSi含有量で顕著になる。しかし、16重量%を超える過剰量のSiが含まれると、疲労破壊の原因となる粗大な初晶Siが発生しやすくなる。また、鋳造温度を730℃以上の高温にする必要が生じる。
Mg:0.5〜2.0重量%
時効処理でMg Siとして析出し、機械強度を向上させる合金成分であり、0.5重量%以上でMgの添加効果が顕著になる。しかし、Mg含有量が2.0重量%を超えると、鋳造時に粗大なMg Siが晶出し、疲労強度が劣化する。他方、0.5重量%未満のMg含有量では、時効処理によるMg Siの析出量が少なく、強度が不足する。
【0011】
Cu:3〜7重量%
マトリックスに固溶し、またNiと共存するときAl Ni(Cu) 等の微細な高融点晶出物となって、高温強度及び高温疲労強度を改善する合金成分である。また、時効処理でAl Cuとして晶出することにより、材料強度を向上させる作用も呈する。必要な高温強度を確保する上では、3重量%以上のCu含有量が必要である。しかし、同含有量が7重量%を超えると、伸びを低下させる粗大なAl Cuが晶出しやすくなる。
Ni:3〜7重量%
マトリックスに固溶したNiは、高温強度,高温疲労強度及び耐熱性の向上に有効である。固溶しないNi分は、ダイカストで得られる鋳造組織においては初晶Siと同様に、Al Ni,Al Ni ,Al Ni(Cu) 等の金属間化合物として晶出し、塊状の晶出物となる。高温で安定なこれらの金属間化合物によっても高温強度が向上し、耐摩耗性が改善される。必要な高温強度を確保するため、本発明ではNi含有量を3重量%以上に設定した。しかし、Ni含有量が7重量%を超えると、溶湯中に初晶Al Niが晶出しやすくなり、粗大に成長したAl Niによって高温疲労強度が低下する。また、鋳造温度を高温にする必要が生じる。
【0012】
Fe:0.2〜1.5重量%
ダイカスト時に金型への焼付きを防止すると共に、種々の金属間化合物として晶出することにより高温強度を向上させる合金成分であり、0.2重量%以上でFeの添加効果が顕著になる。しかし、1.5重量%を超える過剰量のFeが含まれると、Al−Fe系の粗大針状晶出物が生成し、高温疲労強度を劣化させる。
Mn:0.2〜1.0重量%
Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物として塊状に晶出し、高温強度を向上させる合金成分である。また、Mn添加によってAl−Fe系の粗大針状晶の生成も抑えられる。このような作用は、0.2重量%以上のMn含有量で顕著になる。しかし、Mn含有量が1.0重量%を超えると、Mn系晶出物が粗大になり、却って高温疲労強度を低下させる。
【0013】
P:0.003〜0.015重量%
初晶Siを微細化し、高温疲労強度を低下させる粗大初晶Siの生成を抑制する。また、耐摩耗性に有効な平均長さ2〜5μmに共晶Siのサイズを調整する作用を呈する。初晶Siの微細化作用は、0.003重量%以上のP含有量で顕著になる。しかし、0.015重量%を超える過剰量のPが含まれると、湯流れ性が悪化する。
Ca:0.002重量%以下
湯流れ性を悪化させ、共晶Siを過度に微細化する作用を呈する。本発明においては、共晶Siにも耐摩耗性を負担させていることから、共晶Siが過度に微細化されないように、Ca含有量を可能な限り少なくする。Ca含有量が0.002重量%を超えると、Caで共晶Siの微細化され始め、耐摩耗性が低下する傾向がみられる。
【0014】
Ti:0.01〜0.3重量%,B:0.0001〜0.03重量%,Cr:0.01〜0.3重量%,Zr:0.01〜0.3重量%の少なくとも1種以上
Ti,B,Cr及びZrは、必要に応じて添加される成分であり、何れも耐摩耗性及び高温強度の向上に有効である。
Ti,Bは、α−Al鋳造結晶粒を微細化して高温強度を改善し、0.01重量%以上のTi添加及び0.0001重量%以上のB添加で微細化効果が顕著になる。しかし、0.3重量%を超えるTi添加量や0.03重量%を超えるB添加量では、TiAl ,TiB 等の粗大金属間化合物が晶出し、高温疲労強度を低下させる。Cr:0.01重量%以上で耐摩耗性の向上効果、Zr:0.01重量%以上で鋳造結晶粒の微細化効果が顕著になるが、何れも0.3重量%を超える過剰量では粗大金属間化合物となって高温疲労強度を低下させる。
【0015】
他の不純物:合計量0.2重量%以下
本発明で使用するアルミニウム合金には、スクラップ地金等からNa,Sr,Sb,Zn等の不純物が混入する。高温雰囲気でシリンダと接触して摺動するピストンとして使用されることから、高温疲労強度に有害な粗大な酸化物や金属間化合物が製品中に極力混入しないように管理することが重要である。Znは、鋳造割れの発生原因になることもある。この点、不純物は少ないほど好ましく、本発明ではNa,Sr,Sb,Zn等の不純物を合計量で0.2重量%以下に規制した。
【0016】
溶湯の調製
所定組成に溶製されたアルミニウム合金溶湯を、N ,Arガス等を吹き込んで脱ガス処理し、脱滓フラックスを投入した後、740〜780℃に好ましくは30分以上保持する。保持温度が780を超えるとエネルギ的に不経済になり、逆に740℃に達しない保持温度では酸化物等の介在物の浮上分離が十分でなくなる。保持処理としては、生産性を向上させる上で鋳造炉とは別途の保持炉を使用することが好ましい。保持処理によって、すでに原料地金中に生じている金属間化合物が十分に溶湯に溶し込まれ、疲労クラックの原因が予め除去される。疲労破壊の起点となる炉滓も、保持処理によって溶湯から浮上分離される。
【0017】
保持処理されたアルミニウム合金溶湯は、降温して650〜740℃になったときに鋳造に供される。740℃を超える温度でダイカストすると、金型の寿命が短くなり、金型に対する溶湯の焼付きが生じ易くなる。逆に650℃未満の鋳造温度では、金型に圧入された溶湯の湯流れが悪化し、肉厚不良等の鋳造欠陥が発生しやすくなる。鋳造温度650〜740℃の比較的低温に溶湯を保持する時間は、短いほど好ましい。このときの保持時間が30分を超えると、Al Ni,TiAl ,TiB ,Mg−Sb等の金属間化合物が溶湯中に晶出し始める。金属間化合物が成長し、製品中で粗大金属間化合物となって分散すると、高温疲労破壊の原因となる。
【0018】
金型キャビティの雰囲気調整
保持処理したアルミニウム合金溶湯を金型に圧入するに先立って、キャビティを真空引きし、次いで大気圧以上の圧力で酸素を吹き込む。真空度100ミリバール以下にキャビティを減圧すると、キャビティ内にあるN 等のガス成分が減少する。真空度100ミリバールまで減圧するため、金型の合せ目等をシール材で充填し、外気の侵入を防止することが好ましい。
次いで、大気圧以上の圧力で酸素を吹き込むと、吹き込まれた酸素が高速流となってキャビティの隅々まで行きわたり、金型内面に塗布された離型剤やプランジャに塗布された潤滑剤等に由来する水蒸気が完全に酸素流で洗い出され、複雑形状のキャビティにあっても空気,水蒸気等がない雰囲気となる。このとき、キャビティが大気圧以上の圧力に維持されているため、外気の侵入が抑えられる。雰囲気調整されたキャビティにアルミニウム合金溶湯が圧入されるため、キャビティ内でアルミニウム合金溶湯が冷却凝固する際に空気,水蒸気等の有害ガス成分がアルミニウム合金に巻き込まれることがない。また、キャビティにある酸素は、アルミニウム合金溶湯と反応し、反応生成物Al が微細粒子としてマトリックスに分散するため、得られるダイカスト製品に悪影響を及ぼさない。
【0019】
このような雰囲気調整により、ダイカスト製品に含まれる吸蔵ガス量を1cc/100g−Al以下に下げることが可能になる。
得られたダイカスト製品は、吸蔵ガス量が大幅に低減しているので、従来のダイカスト製品を熱処理したとき製品表面に発生していた膨れが検出されず、T5処理,T6処理等の熱処理で機械的強度を向上させることができる。また、高温雰囲気でピストンとして使用している際にも、吸蔵ガスの膨張がなく、長期間にわたり円滑な運転が可能となる。更に、吸蔵ガス量が極端に少ないことは、高温疲労破壊の起点となるブローホール,ポロシティ等のないことを意味し、この点でも高温強度,高温疲労強度,耐摩耗性が要求されるピストンに適した材料といえる。
【0020】
鋳造組織
雰囲気調整されたキャビティに圧入されたアルミニウム合金は、吸蔵ガス量が極めて少ないダイカスト製ピストンが得られる。しかも、成分調整によって初晶Si,Al−Ni系,Al−Ni−Cu系の初晶晶出物の平均粒径を5〜10μmの範囲にしているので、高温雰囲気でシリンダと接触して運転されるピストンに要求される耐摩耗性及び高温強度が満足される。平均粒径が10μmを超える初晶晶出物は高温疲労破壊の亀裂発生原因となり、平均粒径5μm未満の初晶晶出物では耐摩耗性が不足する。
【0021】
介在物の平均個数:K 10 値で0.01個/cm 以下
ダイカストで得られた鋳造組織には、Al,Na,Ca,Sr,Mg等の酸化物による酸化皮膜,Al−Si−Fe系,Al−Ti系,Ti−B系,Mg−Sb系等の晶出金属間化合物,地金溶解時に溶解しきれない粗大金属間化合物,炉材,工具等から混入する異物等に由来する介在物が肉眼や10倍ルーペ等で観察される。ピストンとして要求される疲労強度をもたせるためには、粗大介在物を観察視野において0.01個/cm 以下に抑えることが重要である。
介在物の平均個数は、鋳造された合金材料の破断面を10倍ルーペで観察し、カウントされた個数を単位面積当りに換算したK10値で表示される。平均個数 の測定に際しては、左右の2破断面を一片とし、5〜6片を1試料として評価される。本発明では、更にその面積25cm で1試料のデータとし、7試料のデータの平均値として介在物の平均個数を算出した。このように求められたK10 値が0.01個/cm 以下であると、優れた伸び特性及び疲労強度が合金材料に付与される。他方、K10値が0.01個/cm を超える場合、必要とする疲労強度が得られない。
【0022】
0.01個/cm 以下のK10値は、次の方法で達成できる。合金配合時に混入してくるNa,Ca,Sr,Sb,Zn,Pb,Sn,Bi等を配合原料の選択によって極力抑えると共に、溶製時の酸化後に溶湯を740〜780℃で好ましくは30分以上高温保持することにより、混入してきたNa,Ca,Sr,Sb,Zn,Pb,Sn,Bi等を炉滓として溶湯から浮上分離する。浮上したスラグを溶湯から除去すると、Na,Ca,Sr,Sb,Zn,Pb,Sn,Bi等の極めて少ないアルミニウム合金溶湯となる。Mg,Al等も酸化皮膜となって溶湯表面に浮遊するが、これら酸化皮膜は、除滓時に溶湯から分離される。更に、鋳造時の低温保持時間を短くすることにより、Fe,Ti,Sb等がFeAl 系,TiAl 系,Mg−Sb系化合物として粗大晶出物に成長することを抑制する。炉材や工具に由来する介在物は、740〜780℃の保持処理で溶湯から分離される。
【0023】
熱処理
ダイカスト製ピストンは、T5処理又はT6処理でMg Si,CuAl 等を析出させることにより、更に強度が向上する。T5処理では、鋳物を170〜230℃に1〜10時間加熱する。T6処理では、470〜500℃×1〜10時間の溶体化処理後に水焼入れし、170〜230℃×1〜10時間で時効処理する。焼入れに際しては、常温〜80℃の水が使用される。この熱処理条件を外れると、十分な処理効果が得られず、或いは熱処理コストが高くなる。T6処理は、溶体化を伴うことから処理コストが高くなるが、より高い機械強度が得られる。
熱処理される鋳物は、金型キャビティの雰囲気調整によって吸蔵ガス量が極めて低く抑えられているため、熱処理時の加熱でガス成分が膨張して膨れを発生させることがない。この点は、従来のダイカスト製品と大きく相違するところである。また、要求される設計値を満足する限り、強度は若干低下するものの、時効処理温度を高くして時効析出による寸法の歪みを抑え、機械加工量も少なくする寸法安定化処理も採用できる。この場合の時効条件は、230〜350℃×1〜5時間に設定される。この時効条件は、本発明ピストンの最高使用温度が350℃であることを考慮すると、T5処理,T6処理の時効条件としても使用可能である。
【0024】
【実施例】
回転ロータからN ガスを30分噴出させ、成分調整したアルミニウム合金溶湯を脱ガス処理した。次いで、脱滓フラックスを用いて脱滓処理し、750℃に45分間保持することにより溶湯から介在物を十分に浮上分離させ、溶湯表面に浮遊している滓を除去した。調製されたアルミニウム合金溶湯は、Si:12.6重量%,Cu:4.2重量%,Mg:1.2重量%,Ni:4.5重量%,Fe:0.51重量%,Mn:0.35重量%,P:0.007重量%,Ca:0.001重量%,Ti:0.02重量%,B:0.0001重量%,Cr:0.08重量%,Zr:0.05重量%,Na<0.001重量%,Sr<0.001重量%,Sb<0.001重量%,Zn:0.03重量%,残部が不純物を除きAlの組成をもっていた。
【0025】
アルミニウム合金溶湯が660℃に降温したとき、ダイカスト金型に鋳込み、図1に示す形状をもち外径84mm,高さ72mmのピストンを製造した。なお、鋳造に先立って200℃に加熱した金型の内面に離型剤を塗布し、キャビティを吸引量700ミリバール/秒で真空引きして真空度75ミリバールに減圧し、次いで1200ミリバールの圧力で酸素を吹き込んでオーバーフローさせることにより雰囲気調整した。また、アルミニウム合金溶湯をキャビティに圧入するプランジャにも潤滑剤を塗布した。
雰囲気調整されたキャビティに鋳込まれたアルミニウム合金が冷却凝固した後、製品であるピストンを金型から鋳物を取り出した。得られた製品から試験片を切り出し、成分分析すると共に、ミクロ組織を観察し、吸蔵ガス量及び介在物の個数を測定した。また、鋳造後の製品に220℃×6時間加熱のT5処理を施した後、機械的性質を調査した。吸蔵ガス量は、ランズレー法で測定した。
【0026】
介在物の個数測定では、鋳造されたピストンから切り出された高さ0.5cm,長さ5cmの長尺厚板にノッチを入れて破断し、肉眼及び10倍ルーペで1試料につき0.5cm×5cmの10破断面(2面)、すなわち合計で25cm の面積を観察して1試料のデータとし、7試料のデータの平均値として介在物の個数をカウントし、カウント数を1cm に換算することによりK10値を算出した。介在物は、大半が酸化物系であり、0.1〜3mm程度の介在物が黒みがかった色調を呈していた。
調査結果を表1に示す。なお、比較のため、重力鋳造法で鋳造する以外は同じ条件下で製造したピストン(比較例1),780℃で溶解したアルミニウム合金溶湯を脱ガス・脱滓処理した後で保持処理することなく、660℃に下がったときキャビティが雰囲気調整された金型に鋳込んで製造したピストン(比較例2)についても同様に調査した。
【0027】
比較例1は、同じ条件下で調製したアルミニウム合金溶湯から作られたものであるため介在物の個数はほぼ同じであったが、冷却速度が遅い重力鋳造法で製造されたことから、初晶Siが平均粒径で16μm,Al−Ni系,Al−Ni−Cu系晶出物が平均粒径で35μmと大きな鋳造組織をもっていた。粗大な晶出物のため、高温の機械的性質が劣っていた。ただし、吸蔵ガス量は、ダイカスト法で製造した本発明例及び比較例2よりも若干少なかった。
比較例2では、介在物の浮上分離させる保持処理を施さなかったため、得られたダイカスト製品に多数の介在物が分散した。また、吸蔵ガス量は低いものの、本発明例との比較で高温の機械的性質が劣っていた。
これに対し、本発明例では、介在物が少なく適正な大きさの晶出物が分散した組織をもっていた。吸蔵ガス量は、ダイカスト法の1種であるにも拘わらず、重力鋳造で製造した比較例1とほぼ同じ低い値を示した。このようなことから、重力鋳造法よりも格段に生産性が高いダイカスト法により、350℃での引張強さが100MPa以上,高温疲労強度(×10 サイクル)が60MPa以上となり、高温雰囲気で稼動する直噴型エンジンのピストンとして十分使用できることが判った。
【0028】
Figure 0003552565
【0029】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のダイカスト製ピストンは、ダイカスト法で製造されたものであるにも拘わらず、吸蔵ガス量が極めて低く抑えられているため、疲労破壊の起点となるブローホール,ポロシティ等の鋳造欠陥がなく、また膨れの発生なく熱処理で強度を向上させることもできる。このようにして、生産性に優れたダイカスト法で製造できることから、高温雰囲気で稼動される直噴型エンジンを始めとする各種内燃機関に使用され、高温強度,高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたダイカスト製ピストンが安価に提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で製造したピストン

Claims (4)

  1. Si:11〜16重量%,Mg:0.5〜2.0重量%,Cu:3〜7重量%,Ni:3〜7重量%,Fe:0.2〜1.5重量%,Mn:0.2〜1.0重量%,P:0.003〜0.015重量%,Ca:0.002重量%以下を含み、残部が実質的にAlで、他の不純物が合計量0.2重量%以下に規制された組成を有し、脱ガス・脱滓処理を経て740〜780℃で保持処理したアルミニウム合金溶湯を、真空度100ミリバール以下に減圧した後で大気圧以上の圧力で酸素を吹き込むことにより雰囲気調整した金型のキャビティに650〜740℃の鋳造温度で圧入することを特徴とする高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法。
  2. アルミニウム合金溶湯が、更にTi:0.01〜0.3重量%,B:0.0001〜0.03重量%,Cr:0.01〜0.3重量%,Zr:0.01〜0.3重量%の少なくとも1種を含むものである請求項1記載の高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法。
  3. 鋳造後、170〜230℃に1〜10時間加熱する時効処理を施す請求項1又は2記載の高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法。
  4. 鋳造後、470〜500℃に1〜10時間加熱する溶体化処理,水焼入れ,次いで170〜230℃に1〜10時間加熱する時効処理を施す請求項1又は2記載の高温疲労強度に優れたダイカスト製ピストンの製造方法。
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