JP3555446B2 - レーザ切断性に優れた厚鋼板 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般溶接構造物、海洋構造物、ラインパイプ、圧力容器、橋梁等の使途に好適な厚鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
厚鋼板の切断加工は、従来よりガス切断が主流であった。しかし、近年、レーザ加工技術の進歩がめざましく、大出力(3〜6kW)発振器を有するレーザ加工機も実用化され、レーザ切断が厚鋼板の切断加工に利用されるようになってきた。レーザ切断は、切断面の精度に優れ、切断幅、熱影響部が小さく、自動化、無人化が可能なこと、騒音および粉塵が小さいことなどの利点があるが、厚鋼板の切断加工においては、従来のガス切断に比べ切断品質の安定性が低いという問題があった。しかし、最近では、光学機器の進歩や出力の増加によりレーザ切断の切断品質安定性は、かなり改善され、厚鋼板の切断加工におけるレーザ切断の利用はさらに拡大されつつある。
【0003】
レーザによる切断は、レーザの集光性、使用するガスの純度、ガス流量、鋼板の表面状態により大きく影響されると言われているが、厚鋼板のレーザ切断では、薄鋼板の場合に比べ、レーザ出力、レンズ焦点距離、切断速度等の切断条件の適正範囲が狭く安定した切断が行いにくく、さらに鋼板の表面状態とくにスケール性状に強く影響されることが明らかになってきている。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特開平5−112821号公報には、レーザ切断性を劣化させるSi、Mn、Alを適正量に制限し、さらにスラブ加熱温度を1050〜1300℃とし、800 ℃以上で圧延を終了し冷却する、レーザ切断性に優れた厚鋼板の製造方法が提案されている。この方法によれば、鋼板表面のスケール密着性が良好とならないためレーザ切断のピアス性、切断持続性が良くなるとしている。
【0005】
また、特開平7−155975号公報、特開平8−3692号公報には、レーザ切断用鋼板が提案され、スケール表面の粗さをRa:3.0 μm 以下とすることにより、鋼板表面での乱反射が少なくなりレーザー切断効率が向上するとしている。
一方、特開平7−48622 号公報には、各圧下直後または2パス圧下直後に高圧水で水冷しながら熱間圧延を行い、圧延終了温度を850 ℃以下とする、スケールが黒色で薄くタイト性の優れた鋼板の製造方法が提案されている。また、特開平7−48623 号公報には、各圧下直後に高圧水で水冷しながら熱間圧延を行い、圧延終了後直ちに800 〜700 ℃の温度まで水冷する、スケールが黒色で薄くタイト性の優れた鋼板の製造方法が提案されている。鋼板にこのような薄くて、タイト性の良好なスケールを形成することによりレーザ切断性が良好になるとしている。
【0006】
また、特開平8−218119号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼすC、Si量を低く抑え、さらにデスケーリング条件と圧延後水冷条件を調整し、スケールを薄肉化し、さらにスケール組成を制御するレーザ切断性とスケール密着性に優れた鋼板の製造方法が提案されている。
また、特開平9−20962 号公報、特開平9−20963 号公報には、鋼成分と鋼板表面性状を制御してレーザ切断性を向上させた厚鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を低C系とし、Si+Mn量を所定の範囲に制御し、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整することにより、鋼板表面の光沢を15%以下とするものであり、これにより、レーザ光の吸収率が増加し、切断時の酸化反応熱が最適となって、レーザ切断性が向上するとしている。
【0007】
また、特開平9−194988号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼす鋼成分と鋼板表面性状を制御して、レーザ切断性を向上させた高張力鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を低C−低Si−低Mn系とし、適正量のCu、Cr、Moを含有させて、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整するとともに、圧延終了後500 ℃以上の任意の温度まで水冷することにより、レーザ切断性に優れた高張力鋼板を得ようとするものである。
【0008】
また、特開平9−217145号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼす鋼成分と鋼板表面性状を制御して、レーザ切断性を向上させた高張力鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を中C−中Si−中Mn系とし、適正量のCu、Cr、Moを含有させて、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整するとともに、圧延終了後500 ℃以上の任意の温度まで水冷することにより、レーザ切断性に優れた高張力鋼板を得ようとするものである。
【0009】
また、特開平9−279305号公報には、0.005 〜0.1 wt%の微量Moを含有させスケール層の厚みを10〜60μm とした、安定したレーザー切断性を有する鋼材が提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−112821号公報に記載された技術では、スケール密着性が低く、スケールの部分的剥離等により鋼板の美麗性が低下し外観不良となる場合があり問題があった。
また、特開平7−155975号公報、特開平8−3692号公報に記載された技術では、レーザ切断を安定して行うにはまだ不十分であり、さらにスケールの表面粗さを調整するために頻繁なロール替えを必要とし、また高価な合金元素である、Cu、Ni、Crの比較的多量添加を必要とするなど、製造上の制約や経済的な問題があった。また、特開平7−48622 号公報、特開平7−48623 号公報に記載された技術では、圧延中の水冷強化や、鋼板温度の厳密な制御を必要とし製造上の制約が多く、また水冷や温度制御のために設備を新設あるいは増強する必要があり、コスト高となるなど問題があった。
【0011】
また、特開平8−218119号公報、特開平9−194988号公報、特開平9−217145号公報に記載された技術では、圧延中のデスケーリング強化や、鋼板温度の厳密な制御、圧延後水冷を必要とし製造上の制約が多く、また水冷や温度制御のために設備を新設あるいは増強する必要があり、コスト高となるなど問題があった。
特開平9−20962 号公報、特開平9−20963 号公報に記載された技術では、圧延中のデスケーリング強化や、鋼板温度の厳密な制御を必要とし製造上の制約が多く生産性が低下するという問題があった。さらに、上記した従来技術を用いた鋼板では、圧延後出荷までの鋼板保管中に、鋼板表面スケールに疵、錆、あるいは剥離等の欠陥が発生し、製品として出荷できない等の問題があった。
【0012】
さらに、特開平9−279305号公報に記載された技術では、スケール厚さを調整するために、圧下条件や冷却条件を微妙に調整する必要があり、また微量とはいえ高価な合金元素であるMoを含有させる必要があるなど、製造上の制約やコスト的な問題が残されていた。
本発明は、上記した状況に鑑み、安定したレーザ切断を可能とする、安価で、優れたレーザ切断性を有する厚鋼板を提案することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、厚鋼板のレーザ切断性について鋭意検討した。厚鋼板のレーザ切断においては、レーザビームのエネルギーを効率よく熱エネルギーに変換し鋼板を急速加熱するとともに、酸化反応により発生する熱をも効率的に用いることが、切断を安定して継続するために重要となる。しかし、レーザビーム幅は極めて狭く、照射面積が狭いためレーザビーム照射により鋼板に負荷される熱衝撃は大きく、発生する熱応力により従来の状態の表面スケールではスケールが破壊され剥離する。このスケールの破壊剥離が発生すると、鋼板の切断を安定に維持することが困難となる。
【0014】
そこで、本発明者らは、このスケールの破壊剥離を防止するためには、鋼板表面のスケールを熱衝撃に対し耐剥離性の優れた強固なスケール層とするのが重要であることに想到し、さらに鋭意検討した。その結果、スケール層と地鉄との界面の地鉄側にCr、Al、Cu、Niのいずれかが濃化した濃化層を形成し、あるいはさらにスケール層と地鉄との界面粗さを粗くすることにより鋼板表面のスケールが強固なスケール層となり、レーザ切断性が顕著に向上することを新規に見い出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づき構成されたものである。
すなわち、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層の厚さが1.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板であり、また本発明では、前記スケール層と地鉄との界面の粗さを、中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのがレーザ切断性の向上には好適である。
【0016】
また、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層が、厚さ1.0 μm 以上で、かつCr、Al、Cu、Niのうちの1種以上を、それらの最大濃度の合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で3.0 重量%以上含有することを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板であり、また本発明では、前記スケール層と地鉄との界面の粗さを、中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのが好ましい。
【0017】
また、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、かつ前記スケール層と地鉄との界面の粗さが中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の厚鋼板は、表面にスケール層を有し、スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、濃化層を有する。本発明でいう、スケール層とは、鉄酸化物を主とする鉄酸化物層をいい、濃化層は、Cr、Al、Cu、Niの1種または2種以上が濃化した酸化物層をいう。濃化層は、スケール層である鉄酸化物層の下の地鉄側に位置し、スケール層と地鉄との界面を形成している。
【0019】
鋼中に含まれるCr、Al、Cu、Niは、スラブ加熱、あるいは熱間圧延中、あるいは熱間圧延後に形成されるFeO 、Fe3O4 等を主とする鉄酸化物層内には含まれず、スケール層(鉄酸化層)と地鉄との間に濃化される。地鉄内にこのような濃化層を形成することにより、スケール層と地鉄との密着性が向上する。
本発明においては、Cr、Al、Cu、Niの1種または2種以上が濃化した濃化層はつぎのようにして決定する。
【0020】
鋼板表面に形成されたスケール層(鉄酸化物層)を機械的に剥離したのち、スケール層が剥離した鋼板面を基準表面として、グロー放電発光分析装置を用いて、Fe、O、Cr、Al、Cu、Niの時間−強度変化を測定し、図1に示すような基準表面からの深さ−濃度変化に換算する。測定された時間−強度変化から深さ−濃度変化への換算は、特開平9−273992号公報に示される表面酸化層の定量分析方法により行うものとする。具体的には、この方法は、目的元素の濃度が既知でかつ試料中の濃度が均一な合金を標準試料として、Oについては、純金属の熱処理酸化膜を有し、酸化物組成がX線回折により決定された試料を標準試料とし、目的元素とマトリックス元素(Fe)との濃度比、およびグロー放電により得られる両元素の強度比により検量線を作成し、ついで被測定試料の目的元素とマトリックス元素との発光強度比を測定して、検量線から目的元素の濃度を決定する方法である。
【0021】
図1では、Fe濃度は、最表面から深くなるにしたがい増加し、最終的には最大値となったのち一定となる。Oは、最表面が最も高く、表面から深くなるに従い減少する。Cr、Al、Cu、Niは、最大値を示したのち減少する。
本発明では、図1に示すような表面からの深さ−濃度曲線から、最表面からのFe濃度が、Fe濃度の最大値の90%となるまでの深さを決定し、濃化層の厚さとする。
【0022】
濃化層内では、Cr、Alは、鉄酸化物層(スケール層)からの酸素の供給を受けて酸化物を形成している。Cr、Alの酸化物は、酸化物粒子が小さく、空隙の少ない極めて安定した緻密な酸化物であり、地鉄との密着性が優れている。一方、Cu、Niは、一部酸化物としてCr、Alと同様に緻密な酸化物を形成するが、殆どはこの濃化層内に固溶状態で濃化し、濃化層が多孔化し地鉄との密着性が劣化するのを防止する作用を有している。
【0023】
レーザ光照射による熱衝撃により、スケール層(鉄酸化物層)は簡単に剥離するが、地鉄との密着性の優れた濃化層は剥離することなく残存する。残存した濃化層はレーザ光のエネルギーを効率的に地鉄に吸収させる。このような濃化層の存在により、安定したレーザ切断性が得られる。
レーザ切断性向上に寄与する濃化層の厚さは、1.0 μm 以上とするのが好ましい。濃化層の厚さが1.0 μm 未満では、濃化層の分布が場所により不均一となり、レーザ切断性向上効果が認められない。なお、好ましくは2.0 μm 以上である。
【0024】
また、濃化層におけるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化量は、それらの合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で、3.0 重量%以上とするのが好ましい。濃化層内にCr、Al、Cu、Niのうちの1種以上が濃化すれば、本発明の目的とするレーザ切断性の向上が期待できる。なかでも、Cr、Alが濃化するのが好ましい。(Cr+Al+Cu+Ni)量が3.0 重量%未満では、濃化層内形成される酸化物が緻密とならず、レーザ切断性が劣化する。なお、好ましくは4.0 重量%以上である。なお、本発明では、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni)量は濃化層内での各元素の最大濃度の和で表すものとする。
【0025】
本発明では、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni)量が3.0 重量%以上であれば、レーザ切断性が著しく向上する。
また、本発明では、レーザ切断性向上の観点から、さらにスケール層と地鉄との界面の粗さを中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのが好ましい。スケール層と地鉄との界面の粗さがRaで4.0 μm 未満では、スケールの密着性が低下しレーザ切断性が劣化する。なお、好ましくは中心線平均粗さRaで5.0 μm 以上である。スラブの加熱工程あるいは熱間圧延工程で形成される酸化物が、表面層から地鉄に向かって筋状あるいは粒状に形成されると、スケールと地鉄の界面性状が複雑で界面の粗さが粗くなり、楔止め効果(キー効果)、あるいは釘付け効果(ペギング効果)によりスケール層を地鉄に固着させる作用を有し、レーザ光照射の熱衝撃でスケール層が剥離しにくくレーザ切断が安定する。
【0026】
上記した濃化層は、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上を添加した鋼スラブを用い、スラブ加熱工程、および/または熱間圧延工程でスケール層(鉄酸化物層)と地鉄との間に形成するのが好ましい。スラブ加熱は1000〜1300℃で1〜3hr加熱するのが好ましく、さらにその後の熱間圧延工程で熱間圧延終了温度を800 〜1100℃とするのが好ましい。熱間圧延工程中に 950〜1050℃の間で圧延途中の鋼板を100 sec 以上滞留させてもよい。さらに、圧延終了後、徐冷するのがより好ましい。これにより、スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上が濃化した濃化層が形成される。
【0027】
つぎに、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上を添加した鋼の好適な組成について説明する。
Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上をそれらの含有量の合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で0.1 〜2.0 wt%
Cr、Alは、濃化層内に、スケール層(鉄酸化物層)からの酸素の供給を受けて酸化物を形成して濃化し、空隙の少ない極めて安定した緻密な酸化物を形成し、地鉄との密着性を向上させる。Cu、Niは、殆どは濃化層内に固溶状態で濃化し、濃化層が多孔化し地鉄との密着性が劣化するのを防止する作用を有し、レーザ切断性を改善する。合計量(Cr+Al+Cu+Ni)が、0.1wt %を未満では、濃化層の形成が促進されず、一方、2.0wt %を超えると濃化層の形成が飽和し、添加量に見合う効果が期待できない。
【0028】
C:0.25wt%以下
Cは、レーザ切断性にはほとんど影響しないが、強度を確保するために必要な元素であり所望の鋼板強度に応じ含有される。しかし、0.25%を超えると、溶接性が劣化するため、0.25%以下とするのが好ましい。
Si:0.05〜0.3 wt%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を向上させる元素であり、スケールの密着性をわずかに向上させる。これらの効果は0.05%以上の含有で顕著に認められるが、しかし、0.3 %を超える含有は、溶接性を劣化させる。このため、Siは0.05〜0.3 %とするのが好ましい。
【0029】
Mn:0.2 〜1.5wt %
Mnは、強度および靱性を確保するために必要な元素であり、スケールの密着性をわずかに向上させる。これらの効果は0.2 %以上の含有で顕著に認められるが、1.5 %を超える含有は、溶接割れ感受性が高くなる。このため、Mnは0.2 〜1.5 %以下とするのが好ましい。
【0030】
N:0.01%以下
Nは、レーザ切断性に影響する元素ではないが、多すぎると溶接性を劣化させるため、0.01%以下に限定した。
Nb:0.005 〜0.01%、V:0.005 〜0.01%、Mo:0.05〜0.5 %、Ti:0.005 〜0.1 %から選ばれた1種または2種以上
Nb、V、Mo、Tiは、いずれも、レーザ切断性に影響する元素ではないが、鋼の機械的性質、とくに強度、靱性を向上させるための組織制御に効果のある元素であり、必要に応じ、これら元素のうちから1種または2種以上含有できる。Nb:0.005 %未満、V:0.005 %未満、Mo:0.05%未満、Ti:0.005 %未満では、これらの効果が顕著に認められないため、それぞれ下限とする。一方、Nb:0.01%、V:0.01%、Mo:0.5 %、Ti:0.1 %を超えると、溶接熱影響部の靱性劣化や溶接硬化性の増加などの要因となるためそれぞれ上限とするのが好ましい。
【0031】
本発明では、上記した化学成分以外は残部Feおよび不可避的不純物である。
不可避的不純物として、P、Sはそれぞれ0.05%以下とするのが好ましい。P、Sがそれぞれ0.05%を超えるとレーザ切断性を劣化させる恐れがある。
上記した組成の鋼を、通常公知の溶製方法で溶製し、造塊法または連続鋳造法で凝固させたのち、圧延素材(鋼スラブ)とするのが好ましい。
【0032】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の鋼スラブ(200 〜310 mm厚)に、表2に示す熱間圧延条件で熱間圧延を施し板厚20mmの厚鋼板とした。これら厚鋼板について、濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定、スケール層と地鉄との界面粗さおよびレーザ切断性を調査した。
【0033】
濃化層の平均厚さ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定はつぎのように行った。
厚鋼板を幅方向に20〜30mm、圧延方向に150 〜200mm の大きさに切断し、捩じり試験機に固定して45度以上の捩り角を付与し、スケール層(鉄酸化物層)を機械的に剥離させる。剥離が起こらなくなったのち、反対方向の捩りを付与し元の位置まで戻した。ついで、スケール層(鉄酸化物層)を剥離させた試験片から、20〜30mm×50mmの大きさの分析用試験片を採取し、この分析用試験片のスケール層(鉄酸化物層)剥離面を基準表面とし、グロー放電発光分析装置を用いて、Cr、Al、Cu、Ni、Fe、O各元素の時間−強度変化を測定した。この時間− 強度変化曲線から、特開平9−273992号公報に開示された表面酸化層の定量分析方法により深さ−濃度変化曲線に換算した。深さ−濃度変化曲線の各元素の最大値を求め、基準表面からFe元素の最大値の90%の濃度となる深さを濃化層厚さとした。また、Cr、Al、Cu、Ni各元素の最大濃度をもとめそれら元素の最大濃度の和(合計量)を計算し、濃化層中の(Cr+Al+Cu+Ni) 量とした。なお、含有されない元素は計算から除外するものとする。濃化層厚さ、濃化層中の(Cr+Al+Cu+Ni) 量を表2に併記する。
【0034】
また、スケール層と地鉄との界面粗さは、つぎのように測定した。
スケール層を上記したように鋼板に捩りを付加させて機械的に剥離させたのち、スケール層が剥離した鋼板表面を、表面粗さ計で測定し中心線粗さRaを求めた。各厚鋼板の界面粗さを表2に併記する。
レーザ切断性は、5.5kW 出力の炭酸ガスレーザを用い、酸素圧力0.3kgf/cm2として、切断速度を変化して厚鋼板をレーザ切断した。レーザ切断長さは400 mmとした。切断後鋼板裏面側でドロスの付着が見られない限界切断速度を求め、0、1、2の3段階に区分して評価した。レーザ切断性の評価0は限界切断速度が0.8mm/min 以下の場合であり、評価1は限界切断速度が0.8mm/min 超1.1mm/min 以下、評価2は限界切断速度が1.1mm/min 超の場合である。
【0035】
レーザ切断性の評価結果を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
本発明例鋼板のレーザ切断性は、本発明の範囲を外れる比較例に比べ、優れている。なかでも、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が本発明の範囲内であり、界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.1、No.2、No.4、No.5、No.9、No.10 、No.13 )、および濃化層の厚さあるいは濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が本発明の範囲外であるが、界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.11 、No.20 、No.21 、No.22 、No.24 、No.27 )は、レーザ切断性の評価は2であり、レーザ切断性がもっとも優れている。また、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が3.0 重量%以上と本発明の範囲内である鋼板も、レーザ切断性の評価は2である。一方、本発明の範囲を外れる鋼板(No.3、No.6、No.7、No.8、No.12 、No.14 〜No.19 、No.23 、No.28 )は、レーザ切断性の評価は1または0となり、レーザ切断性が劣化している。
(実施例2)
表1に示す組成の鋼Aのスラブ(300 mm厚)に、表3に示す熱間圧延条件で熱間圧延を施し板厚20mmの厚鋼板とした。これら厚鋼板について、実施例1と同様に、濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定、スケール層と地鉄との界面粗さの測定を行った。ついで、これら厚鋼板について、捩り試験機で機械的にスケール層を剥離したのち、実施例1と同様な条件でレーザ切断を行い、レーザ切断性を評価した。なお、評価方法は、実施例1と同様とした。
【0039】
濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量、界面粗さRaおよびレーザ切断性の評価結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3から本発明例は、スケール層を剥離しても強固な濃化層が残存し、レーザ切断性が良好となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、レーザ切断性の評価が1または0でありレーザ切断性が劣化している。なお、本発明の範囲内でも、濃化層の厚さが1.0 μm 以上で、かつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量が3.0 重量%以上および界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.2−1〜No.2−4) 、または界面粗さRaが4μm 以上である鋼板(鋼板No.2−19 ) はレーザ切断性がとくに良好となっている。さらに、濃化層の厚さが2.0 μm 以上で、かつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量が4.0 重量%以上の鋼板(鋼板No. 2−1 、No. 2−3 ) のレーザ切断性は極めて良好となっている。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、良好なレーザ切断性を有する厚鋼板が得られ、レーザ切断加工の品質、精度が向上し、しかも安定したレーザ切断が可能となるうえ、切断効率が大幅に向上し、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】スケール層を機械的に剥離した鋼板表面のグロー放電発光分析による各元素の濃度の深さ方向変化を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般溶接構造物、海洋構造物、ラインパイプ、圧力容器、橋梁等の使途に好適な厚鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
厚鋼板の切断加工は、従来よりガス切断が主流であった。しかし、近年、レーザ加工技術の進歩がめざましく、大出力(3〜6kW)発振器を有するレーザ加工機も実用化され、レーザ切断が厚鋼板の切断加工に利用されるようになってきた。レーザ切断は、切断面の精度に優れ、切断幅、熱影響部が小さく、自動化、無人化が可能なこと、騒音および粉塵が小さいことなどの利点があるが、厚鋼板の切断加工においては、従来のガス切断に比べ切断品質の安定性が低いという問題があった。しかし、最近では、光学機器の進歩や出力の増加によりレーザ切断の切断品質安定性は、かなり改善され、厚鋼板の切断加工におけるレーザ切断の利用はさらに拡大されつつある。
【0003】
レーザによる切断は、レーザの集光性、使用するガスの純度、ガス流量、鋼板の表面状態により大きく影響されると言われているが、厚鋼板のレーザ切断では、薄鋼板の場合に比べ、レーザ出力、レンズ焦点距離、切断速度等の切断条件の適正範囲が狭く安定した切断が行いにくく、さらに鋼板の表面状態とくにスケール性状に強く影響されることが明らかになってきている。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特開平5−112821号公報には、レーザ切断性を劣化させるSi、Mn、Alを適正量に制限し、さらにスラブ加熱温度を1050〜1300℃とし、800 ℃以上で圧延を終了し冷却する、レーザ切断性に優れた厚鋼板の製造方法が提案されている。この方法によれば、鋼板表面のスケール密着性が良好とならないためレーザ切断のピアス性、切断持続性が良くなるとしている。
【0005】
また、特開平7−155975号公報、特開平8−3692号公報には、レーザ切断用鋼板が提案され、スケール表面の粗さをRa:3.0 μm 以下とすることにより、鋼板表面での乱反射が少なくなりレーザー切断効率が向上するとしている。
一方、特開平7−48622 号公報には、各圧下直後または2パス圧下直後に高圧水で水冷しながら熱間圧延を行い、圧延終了温度を850 ℃以下とする、スケールが黒色で薄くタイト性の優れた鋼板の製造方法が提案されている。また、特開平7−48623 号公報には、各圧下直後に高圧水で水冷しながら熱間圧延を行い、圧延終了後直ちに800 〜700 ℃の温度まで水冷する、スケールが黒色で薄くタイト性の優れた鋼板の製造方法が提案されている。鋼板にこのような薄くて、タイト性の良好なスケールを形成することによりレーザ切断性が良好になるとしている。
【0006】
また、特開平8−218119号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼすC、Si量を低く抑え、さらにデスケーリング条件と圧延後水冷条件を調整し、スケールを薄肉化し、さらにスケール組成を制御するレーザ切断性とスケール密着性に優れた鋼板の製造方法が提案されている。
また、特開平9−20962 号公報、特開平9−20963 号公報には、鋼成分と鋼板表面性状を制御してレーザ切断性を向上させた厚鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を低C系とし、Si+Mn量を所定の範囲に制御し、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整することにより、鋼板表面の光沢を15%以下とするものであり、これにより、レーザ光の吸収率が増加し、切断時の酸化反応熱が最適となって、レーザ切断性が向上するとしている。
【0007】
また、特開平9−194988号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼす鋼成分と鋼板表面性状を制御して、レーザ切断性を向上させた高張力鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を低C−低Si−低Mn系とし、適正量のCu、Cr、Moを含有させて、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整するとともに、圧延終了後500 ℃以上の任意の温度まで水冷することにより、レーザ切断性に優れた高張力鋼板を得ようとするものである。
【0008】
また、特開平9−217145号公報には、レーザ切断性に悪影響を及ぼす鋼成分と鋼板表面性状を制御して、レーザ切断性を向上させた高張力鋼板およびその製造方法が提案されている。この方法は、鋼板組成を中C−中Si−中Mn系とし、適正量のCu、Cr、Moを含有させて、デスケーリング条件と圧延終了温度を調整するとともに、圧延終了後500 ℃以上の任意の温度まで水冷することにより、レーザ切断性に優れた高張力鋼板を得ようとするものである。
【0009】
また、特開平9−279305号公報には、0.005 〜0.1 wt%の微量Moを含有させスケール層の厚みを10〜60μm とした、安定したレーザー切断性を有する鋼材が提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−112821号公報に記載された技術では、スケール密着性が低く、スケールの部分的剥離等により鋼板の美麗性が低下し外観不良となる場合があり問題があった。
また、特開平7−155975号公報、特開平8−3692号公報に記載された技術では、レーザ切断を安定して行うにはまだ不十分であり、さらにスケールの表面粗さを調整するために頻繁なロール替えを必要とし、また高価な合金元素である、Cu、Ni、Crの比較的多量添加を必要とするなど、製造上の制約や経済的な問題があった。また、特開平7−48622 号公報、特開平7−48623 号公報に記載された技術では、圧延中の水冷強化や、鋼板温度の厳密な制御を必要とし製造上の制約が多く、また水冷や温度制御のために設備を新設あるいは増強する必要があり、コスト高となるなど問題があった。
【0011】
また、特開平8−218119号公報、特開平9−194988号公報、特開平9−217145号公報に記載された技術では、圧延中のデスケーリング強化や、鋼板温度の厳密な制御、圧延後水冷を必要とし製造上の制約が多く、また水冷や温度制御のために設備を新設あるいは増強する必要があり、コスト高となるなど問題があった。
特開平9−20962 号公報、特開平9−20963 号公報に記載された技術では、圧延中のデスケーリング強化や、鋼板温度の厳密な制御を必要とし製造上の制約が多く生産性が低下するという問題があった。さらに、上記した従来技術を用いた鋼板では、圧延後出荷までの鋼板保管中に、鋼板表面スケールに疵、錆、あるいは剥離等の欠陥が発生し、製品として出荷できない等の問題があった。
【0012】
さらに、特開平9−279305号公報に記載された技術では、スケール厚さを調整するために、圧下条件や冷却条件を微妙に調整する必要があり、また微量とはいえ高価な合金元素であるMoを含有させる必要があるなど、製造上の制約やコスト的な問題が残されていた。
本発明は、上記した状況に鑑み、安定したレーザ切断を可能とする、安価で、優れたレーザ切断性を有する厚鋼板を提案することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、厚鋼板のレーザ切断性について鋭意検討した。厚鋼板のレーザ切断においては、レーザビームのエネルギーを効率よく熱エネルギーに変換し鋼板を急速加熱するとともに、酸化反応により発生する熱をも効率的に用いることが、切断を安定して継続するために重要となる。しかし、レーザビーム幅は極めて狭く、照射面積が狭いためレーザビーム照射により鋼板に負荷される熱衝撃は大きく、発生する熱応力により従来の状態の表面スケールではスケールが破壊され剥離する。このスケールの破壊剥離が発生すると、鋼板の切断を安定に維持することが困難となる。
【0014】
そこで、本発明者らは、このスケールの破壊剥離を防止するためには、鋼板表面のスケールを熱衝撃に対し耐剥離性の優れた強固なスケール層とするのが重要であることに想到し、さらに鋭意検討した。その結果、スケール層と地鉄との界面の地鉄側にCr、Al、Cu、Niのいずれかが濃化した濃化層を形成し、あるいはさらにスケール層と地鉄との界面粗さを粗くすることにより鋼板表面のスケールが強固なスケール層となり、レーザ切断性が顕著に向上することを新規に見い出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づき構成されたものである。
すなわち、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層の厚さが1.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板であり、また本発明では、前記スケール層と地鉄との界面の粗さを、中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのがレーザ切断性の向上には好適である。
【0016】
また、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層が、厚さ1.0 μm 以上で、かつCr、Al、Cu、Niのうちの1種以上を、それらの最大濃度の合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で3.0 重量%以上含有することを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板であり、また本発明では、前記スケール層と地鉄との界面の粗さを、中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのが好ましい。
【0017】
また、本発明は、表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、かつ前記スケール層と地鉄との界面の粗さが中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の厚鋼板は、表面にスケール層を有し、スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、濃化層を有する。本発明でいう、スケール層とは、鉄酸化物を主とする鉄酸化物層をいい、濃化層は、Cr、Al、Cu、Niの1種または2種以上が濃化した酸化物層をいう。濃化層は、スケール層である鉄酸化物層の下の地鉄側に位置し、スケール層と地鉄との界面を形成している。
【0019】
鋼中に含まれるCr、Al、Cu、Niは、スラブ加熱、あるいは熱間圧延中、あるいは熱間圧延後に形成されるFeO 、Fe3O4 等を主とする鉄酸化物層内には含まれず、スケール層(鉄酸化層)と地鉄との間に濃化される。地鉄内にこのような濃化層を形成することにより、スケール層と地鉄との密着性が向上する。
本発明においては、Cr、Al、Cu、Niの1種または2種以上が濃化した濃化層はつぎのようにして決定する。
【0020】
鋼板表面に形成されたスケール層(鉄酸化物層)を機械的に剥離したのち、スケール層が剥離した鋼板面を基準表面として、グロー放電発光分析装置を用いて、Fe、O、Cr、Al、Cu、Niの時間−強度変化を測定し、図1に示すような基準表面からの深さ−濃度変化に換算する。測定された時間−強度変化から深さ−濃度変化への換算は、特開平9−273992号公報に示される表面酸化層の定量分析方法により行うものとする。具体的には、この方法は、目的元素の濃度が既知でかつ試料中の濃度が均一な合金を標準試料として、Oについては、純金属の熱処理酸化膜を有し、酸化物組成がX線回折により決定された試料を標準試料とし、目的元素とマトリックス元素(Fe)との濃度比、およびグロー放電により得られる両元素の強度比により検量線を作成し、ついで被測定試料の目的元素とマトリックス元素との発光強度比を測定して、検量線から目的元素の濃度を決定する方法である。
【0021】
図1では、Fe濃度は、最表面から深くなるにしたがい増加し、最終的には最大値となったのち一定となる。Oは、最表面が最も高く、表面から深くなるに従い減少する。Cr、Al、Cu、Niは、最大値を示したのち減少する。
本発明では、図1に示すような表面からの深さ−濃度曲線から、最表面からのFe濃度が、Fe濃度の最大値の90%となるまでの深さを決定し、濃化層の厚さとする。
【0022】
濃化層内では、Cr、Alは、鉄酸化物層(スケール層)からの酸素の供給を受けて酸化物を形成している。Cr、Alの酸化物は、酸化物粒子が小さく、空隙の少ない極めて安定した緻密な酸化物であり、地鉄との密着性が優れている。一方、Cu、Niは、一部酸化物としてCr、Alと同様に緻密な酸化物を形成するが、殆どはこの濃化層内に固溶状態で濃化し、濃化層が多孔化し地鉄との密着性が劣化するのを防止する作用を有している。
【0023】
レーザ光照射による熱衝撃により、スケール層(鉄酸化物層)は簡単に剥離するが、地鉄との密着性の優れた濃化層は剥離することなく残存する。残存した濃化層はレーザ光のエネルギーを効率的に地鉄に吸収させる。このような濃化層の存在により、安定したレーザ切断性が得られる。
レーザ切断性向上に寄与する濃化層の厚さは、1.0 μm 以上とするのが好ましい。濃化層の厚さが1.0 μm 未満では、濃化層の分布が場所により不均一となり、レーザ切断性向上効果が認められない。なお、好ましくは2.0 μm 以上である。
【0024】
また、濃化層におけるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化量は、それらの合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で、3.0 重量%以上とするのが好ましい。濃化層内にCr、Al、Cu、Niのうちの1種以上が濃化すれば、本発明の目的とするレーザ切断性の向上が期待できる。なかでも、Cr、Alが濃化するのが好ましい。(Cr+Al+Cu+Ni)量が3.0 重量%未満では、濃化層内形成される酸化物が緻密とならず、レーザ切断性が劣化する。なお、好ましくは4.0 重量%以上である。なお、本発明では、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni)量は濃化層内での各元素の最大濃度の和で表すものとする。
【0025】
本発明では、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni)量が3.0 重量%以上であれば、レーザ切断性が著しく向上する。
また、本発明では、レーザ切断性向上の観点から、さらにスケール層と地鉄との界面の粗さを中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上とするのが好ましい。スケール層と地鉄との界面の粗さがRaで4.0 μm 未満では、スケールの密着性が低下しレーザ切断性が劣化する。なお、好ましくは中心線平均粗さRaで5.0 μm 以上である。スラブの加熱工程あるいは熱間圧延工程で形成される酸化物が、表面層から地鉄に向かって筋状あるいは粒状に形成されると、スケールと地鉄の界面性状が複雑で界面の粗さが粗くなり、楔止め効果(キー効果)、あるいは釘付け効果(ペギング効果)によりスケール層を地鉄に固着させる作用を有し、レーザ光照射の熱衝撃でスケール層が剥離しにくくレーザ切断が安定する。
【0026】
上記した濃化層は、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上を添加した鋼スラブを用い、スラブ加熱工程、および/または熱間圧延工程でスケール層(鉄酸化物層)と地鉄との間に形成するのが好ましい。スラブ加熱は1000〜1300℃で1〜3hr加熱するのが好ましく、さらにその後の熱間圧延工程で熱間圧延終了温度を800 〜1100℃とするのが好ましい。熱間圧延工程中に 950〜1050℃の間で圧延途中の鋼板を100 sec 以上滞留させてもよい。さらに、圧延終了後、徐冷するのがより好ましい。これにより、スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上が濃化した濃化層が形成される。
【0027】
つぎに、Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上を添加した鋼の好適な組成について説明する。
Cr、Al、Cu、Niのうち1種以上をそれらの含有量の合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で0.1 〜2.0 wt%
Cr、Alは、濃化層内に、スケール層(鉄酸化物層)からの酸素の供給を受けて酸化物を形成して濃化し、空隙の少ない極めて安定した緻密な酸化物を形成し、地鉄との密着性を向上させる。Cu、Niは、殆どは濃化層内に固溶状態で濃化し、濃化層が多孔化し地鉄との密着性が劣化するのを防止する作用を有し、レーザ切断性を改善する。合計量(Cr+Al+Cu+Ni)が、0.1wt %を未満では、濃化層の形成が促進されず、一方、2.0wt %を超えると濃化層の形成が飽和し、添加量に見合う効果が期待できない。
【0028】
C:0.25wt%以下
Cは、レーザ切断性にはほとんど影響しないが、強度を確保するために必要な元素であり所望の鋼板強度に応じ含有される。しかし、0.25%を超えると、溶接性が劣化するため、0.25%以下とするのが好ましい。
Si:0.05〜0.3 wt%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を向上させる元素であり、スケールの密着性をわずかに向上させる。これらの効果は0.05%以上の含有で顕著に認められるが、しかし、0.3 %を超える含有は、溶接性を劣化させる。このため、Siは0.05〜0.3 %とするのが好ましい。
【0029】
Mn:0.2 〜1.5wt %
Mnは、強度および靱性を確保するために必要な元素であり、スケールの密着性をわずかに向上させる。これらの効果は0.2 %以上の含有で顕著に認められるが、1.5 %を超える含有は、溶接割れ感受性が高くなる。このため、Mnは0.2 〜1.5 %以下とするのが好ましい。
【0030】
N:0.01%以下
Nは、レーザ切断性に影響する元素ではないが、多すぎると溶接性を劣化させるため、0.01%以下に限定した。
Nb:0.005 〜0.01%、V:0.005 〜0.01%、Mo:0.05〜0.5 %、Ti:0.005 〜0.1 %から選ばれた1種または2種以上
Nb、V、Mo、Tiは、いずれも、レーザ切断性に影響する元素ではないが、鋼の機械的性質、とくに強度、靱性を向上させるための組織制御に効果のある元素であり、必要に応じ、これら元素のうちから1種または2種以上含有できる。Nb:0.005 %未満、V:0.005 %未満、Mo:0.05%未満、Ti:0.005 %未満では、これらの効果が顕著に認められないため、それぞれ下限とする。一方、Nb:0.01%、V:0.01%、Mo:0.5 %、Ti:0.1 %を超えると、溶接熱影響部の靱性劣化や溶接硬化性の増加などの要因となるためそれぞれ上限とするのが好ましい。
【0031】
本発明では、上記した化学成分以外は残部Feおよび不可避的不純物である。
不可避的不純物として、P、Sはそれぞれ0.05%以下とするのが好ましい。P、Sがそれぞれ0.05%を超えるとレーザ切断性を劣化させる恐れがある。
上記した組成の鋼を、通常公知の溶製方法で溶製し、造塊法または連続鋳造法で凝固させたのち、圧延素材(鋼スラブ)とするのが好ましい。
【0032】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の鋼スラブ(200 〜310 mm厚)に、表2に示す熱間圧延条件で熱間圧延を施し板厚20mmの厚鋼板とした。これら厚鋼板について、濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定、スケール層と地鉄との界面粗さおよびレーザ切断性を調査した。
【0033】
濃化層の平均厚さ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定はつぎのように行った。
厚鋼板を幅方向に20〜30mm、圧延方向に150 〜200mm の大きさに切断し、捩じり試験機に固定して45度以上の捩り角を付与し、スケール層(鉄酸化物層)を機械的に剥離させる。剥離が起こらなくなったのち、反対方向の捩りを付与し元の位置まで戻した。ついで、スケール層(鉄酸化物層)を剥離させた試験片から、20〜30mm×50mmの大きさの分析用試験片を採取し、この分析用試験片のスケール層(鉄酸化物層)剥離面を基準表面とし、グロー放電発光分析装置を用いて、Cr、Al、Cu、Ni、Fe、O各元素の時間−強度変化を測定した。この時間− 強度変化曲線から、特開平9−273992号公報に開示された表面酸化層の定量分析方法により深さ−濃度変化曲線に換算した。深さ−濃度変化曲線の各元素の最大値を求め、基準表面からFe元素の最大値の90%の濃度となる深さを濃化層厚さとした。また、Cr、Al、Cu、Ni各元素の最大濃度をもとめそれら元素の最大濃度の和(合計量)を計算し、濃化層中の(Cr+Al+Cu+Ni) 量とした。なお、含有されない元素は計算から除外するものとする。濃化層厚さ、濃化層中の(Cr+Al+Cu+Ni) 量を表2に併記する。
【0034】
また、スケール層と地鉄との界面粗さは、つぎのように測定した。
スケール層を上記したように鋼板に捩りを付加させて機械的に剥離させたのち、スケール層が剥離した鋼板表面を、表面粗さ計で測定し中心線粗さRaを求めた。各厚鋼板の界面粗さを表2に併記する。
レーザ切断性は、5.5kW 出力の炭酸ガスレーザを用い、酸素圧力0.3kgf/cm2として、切断速度を変化して厚鋼板をレーザ切断した。レーザ切断長さは400 mmとした。切断後鋼板裏面側でドロスの付着が見られない限界切断速度を求め、0、1、2の3段階に区分して評価した。レーザ切断性の評価0は限界切断速度が0.8mm/min 以下の場合であり、評価1は限界切断速度が0.8mm/min 超1.1mm/min 以下、評価2は限界切断速度が1.1mm/min 超の場合である。
【0035】
レーザ切断性の評価結果を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
本発明例鋼板のレーザ切断性は、本発明の範囲を外れる比較例に比べ、優れている。なかでも、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が本発明の範囲内であり、界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.1、No.2、No.4、No.5、No.9、No.10 、No.13 )、および濃化層の厚さあるいは濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が本発明の範囲外であるが、界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.11 、No.20 、No.21 、No.22 、No.24 、No.27 )は、レーザ切断性の評価は2であり、レーザ切断性がもっとも優れている。また、濃化層の厚さが1.0 μm 以上でかつ、濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni量)が3.0 重量%以上と本発明の範囲内である鋼板も、レーザ切断性の評価は2である。一方、本発明の範囲を外れる鋼板(No.3、No.6、No.7、No.8、No.12 、No.14 〜No.19 、No.23 、No.28 )は、レーザ切断性の評価は1または0となり、レーザ切断性が劣化している。
(実施例2)
表1に示す組成の鋼Aのスラブ(300 mm厚)に、表3に示す熱間圧延条件で熱間圧延を施し板厚20mmの厚鋼板とした。これら厚鋼板について、実施例1と同様に、濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量の測定、スケール層と地鉄との界面粗さの測定を行った。ついで、これら厚鋼板について、捩り試験機で機械的にスケール層を剥離したのち、実施例1と同様な条件でレーザ切断を行い、レーザ切断性を評価した。なお、評価方法は、実施例1と同様とした。
【0039】
濃化層の厚さ、(Cr+Al+Cu+Ni) 量、界面粗さRaおよびレーザ切断性の評価結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3から本発明例は、スケール層を剥離しても強固な濃化層が残存し、レーザ切断性が良好となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、レーザ切断性の評価が1または0でありレーザ切断性が劣化している。なお、本発明の範囲内でも、濃化層の厚さが1.0 μm 以上で、かつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量が3.0 重量%以上および界面粗さRaが4.0 μm 以上である鋼板(鋼板No.2−1〜No.2−4) 、または界面粗さRaが4μm 以上である鋼板(鋼板No.2−19 ) はレーザ切断性がとくに良好となっている。さらに、濃化層の厚さが2.0 μm 以上で、かつ濃化層内の(Cr+Al+Cu+Ni) 量が4.0 重量%以上の鋼板(鋼板No. 2−1 、No. 2−3 ) のレーザ切断性は極めて良好となっている。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、良好なレーザ切断性を有する厚鋼板が得られ、レーザ切断加工の品質、精度が向上し、しかも安定したレーザ切断が可能となるうえ、切断効率が大幅に向上し、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】スケール層を機械的に剥離した鋼板表面のグロー放電発光分析による各元素の濃度の深さ方向変化を示すグラフである。
Claims (4)
- 表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層の厚さが1.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板。
- 表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、前記濃化層が、厚さ1.0 μm 以上で、かつCr、Al、Cu、Niのうちの1種以上を、それらの最大濃度の合計量(Cr+Al+Cu+Ni)で3.0 重量%以上含有することを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板。
- 前記スケール層と地鉄との界面の粗さが、中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ切断性に優れる厚鋼板。
- 表面にスケール層を有する厚鋼板であって、前記スケール層と地鉄との界面の地鉄側に、Fe 濃度が最大値の 90 %以下であるCr、Al、Cu、Niの1種または2種以上の濃化層を有し、かつ前記スケール層と地鉄との界面の粗さが中心線平均粗さRaで4.0 μm 以上であることを特徴とするレーザ切断性に優れる厚鋼板。
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1998
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