JP3634883B2 - 耐熱性トレハロースホスホリラーゼ、その製造方法、その製造に使用する菌、及び該酵素を用いるトレハロースの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なトレハロースホスホリラーゼ、その製造方法、その製造に使用する菌、及びその用途に関するものであり、さらに詳しくは、バチルス属に属する好熱性細菌が産生する高い熱安定性を有する新規なトレハロースホスホリラーゼ、その製造方法、該好熱性細菌、並びに該酵素を用いるトレハロースの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トレハロースは、酵母、かび、細菌、昆虫等に広く分布する二糖類で、他の二糖類に比べて安定なことから蛋白質等の乾燥保護剤(特表昭63−500562)としての利用等が考えられている有用な糖質である。
従来、トレハロースを調製する方法としては、酵母からの抽出法(特開平5−292986)、細菌による発酵法(特開平5−211882)等が知られている。しかし、これらの方法で調製したトレハロースは、大量生産が操作的、設備的に困難である、不純物除去工程が複雑である等の理由から製造コストが高くなり、非常に高価である。
【0003】
一方、安価にトレハロースを調製する有効な方法として酵素法が挙げられる。その一つとして、茸類であるグリフォラ・フロンドサ(Grifola frondosa)(日本農芸化学会誌、68、580、1994)やシゾフィラム・コミューネ(Schizophyllum commune)、アガリカス・ビスポーラス(Agaricus bisporus)、プルロータス・オストレアタス(Pleurotus ostreatus)、リフィラム・ウルマリウム(Lyophyllum ulmarium)(特開平6−189779)が産生するトレハロースホスホリラーゼを用い、α−グルコース−1−リン酸とグルコースからトレハロースを製造する方法がある。しかし、本製造方法で用いる酵素は熱安定性が低く、反応温度が25〜50℃であるため、製造工程で雑菌汚染が起こる可能性が高いといった問題がある。
【0004】
また、別な酵素法として、マルトースホスホリラーゼとトレハロースホスホリラーゼを用い、マルトースを基質としてβ−グルコース−1−リン酸を経てトレハロースを製造する方法がある(特公昭63−60998)。しかし、本製造法に使用可能な、既知のトレハロースホスホリラーゼは、緑藻であるユーグレナ・グラチリス(Euglena gracilis)(J.Biol.Chem.,274,3223〜3228,1972)が産生するのみで、この酵素の至適温度は40℃で温度安定性が悪く、しかも調製が非常に難しいので工業的に利用するのは困難であるといった問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
トレハロースを安価に、且つ、工業的規模で製造する方法としてはトレハロースホスホリラーゼを用いた酵素法が最も有効であると考えられる。
一方、工業的に酵素反応で生産を行う場合、雑菌汚染の低減の目的から、反応温度の高温化が一般的に採られている。また、反応温度の高温化は、基質と生産物の溶解度を上げて単位体積当たりの仕込量を多くすることができる、酵素反応速度が早くなり反応時間の短縮化ができる等の利点があり、コスト的にも有効である。
このように高温での酵素反応でトレハロースの製造を行うためには、高い熱安定性を有する耐熱性トレハロースホスホリラーゼが要求される。しかし、前述の茸類や緑藻類起源のトレハロースホスホリラーゼは熱安定性は必ずしも高くない。
従って、実際の高温酵素反応に適する酵素、具体的には55℃以上で安定な酵素の提供が求められていた。
【0006】
本発明者らは高い熱安定性を有し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸からトレハロースを生成する耐熱性トレハロースホスホリラーゼを自然界より探索した結果、バチルス属に属する好熱性細菌が上記目的にかなう酵素をよく産生することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明による耐熱性トレハロースホスホリラーゼ標品の性質は以下の通りである。耐熱性トレハロースホスホリラーゼ標品としては実施例1で得られたものを使用した。
尚、トレハロースホスホリラーゼ活性は以下のように測定した。酵素溶液0.4mlと0.5Mリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)0.06ml、2g/dlトレハロース0.6ml、蒸留水0.14mlを混合し、60℃、20分反応後10分間の煮沸によって反応を停止させた。次に、この反応停止液から0.02mlを採取し、グルコース検査試薬(グルコースCII−テストワコー;和光純薬工業(株))を3ml加え、室温で20分間反応させた後、505nmでの吸光度を分光光度計を用いて測定し、該測定値から生成グルコース量を求めた。またトレハロースホスホリラーゼ活性の定義については、上記測定条件下で1分間に1μmolのトレハロースを加リン酸分解する酵素量を1単位とした。
【0008】
(1)作用
式(1)で示すように、トレハロースを可逆的に加リン酸分解する。すなわち、リン酸存在下でトレハロースに作用させると、等モルのグルコースとβ−グルコース−1−リン酸を生成し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸に作用させると、等モルのトレハロースとリン酸を生成する。
【0009】
【化1】
【0010】
(2)基質特異性
トレハロース、マルトース、イソマルトース、ネオトレハロース、セロビオース、シュークロース、p−ニトロフェニル−α−D−グルコシド、p−ニトロフェニル−β−D−グルコシドを基質として加リン酸分解反応を行ったところ、トレハロース以外にはグルコースの生成がほとんど認められなかった(表1)。
(3)至適温度
40mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)中で各種温度(40〜90℃)で反応させたところ、トレハロース加リン酸分解反応の至適温度は70℃〜75℃付近で、60℃〜75℃の範囲で最高活性の約50%以上を示した(図1)。
(4)熱安定性
10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)中でインキュベートし、残存活性を測定したところ、65℃、15分間処理で無処理の95%以上の活性を示した(図2)。
【0011】
(5)至適pH
25mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH4.0〜7.7)及び25mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.7〜9.0)を用いて60℃で反応を行ったところ、至適pHは6.5〜7.5であった(図3)。
(6)pH安定性
100mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH4.0〜8.0)及び100mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5〜9.0)を用いて60℃で24時間インキュベートし、各pHでの残存活性を測定したところ、本酵素はpH6.0〜8.0で安定であった(図4)。
(7)失活
100℃、10分間の加熱で100%失活する。
(8)分子量
Superdex200pg(ファルマシア・バイオテク(株))を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、各種標準タンパク質との相対溶出保持時間から分子量を求めた結果、本酵素の分子量は11万〜15万であった。
(9)等電点
等電点電気泳動により、各種標準タンパク質との相対移動度から等電点は4.6〜5.2であった。
(10)阻害剤
1mMのHgCl2 で99%、ZnSO4 で80%の活性阻害が見られた(表2)。
【0012】
本発明の耐熱性トレハロースホスホリラーゼ及び従来公知の微生物由来のトレハロースホスホリラーゼの酵素学的性質を比較して表3に示す。表3から明らかなように、本発明の耐熱性トレハロースホスホリラーゼは、既知のトレハロースホスホリラーゼと比べ、少なくとも起源とする菌種、至適温度及び熱安定性が異なるので、新規であると判断された。
【0013】
本発明の耐熱性トレハロースホスホリラーゼはバチルス属に属し、耐熱性トレハロースホスホリラーゼ産生能を有する微生物を栄養培地に培養し、培養物から生成した耐熱性トレハロースホスホリラーゼを採取することによって製造される。
【0014】
本発明に使用される微生物としてはバチルス属に属し、耐熱性トレハロースホスホリラーゼ産生能を有する微生物であればいずれの微生物でもよい。好適な微生物としてはバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)に属し、耐熱性トレハロースホスホリラーゼ産生能を有する微生物があげられる。具体的には本発明者らが神奈川県の山中の土壌から分離したバチルス・ステアロサーモフィラスSK−1(FERM P−14567)が挙げられる。
【0015】
本菌の菌学的性質は表4に示す通りである。
これらの性質により、「バージェーズ・マニュアル・オブ・デターミネーティブ・バクテリオロジー」第8版に基づき本菌をバチルス・ステアロサーモフィラスと同定した。
しかしながら、これまでにバチルス・ステアロサーモフィラスと同定された微生物中でトレハロースホスホリラーゼを産生するものは知られていない。従って、本発明に用いる耐熱性トレハロースホスホリラーゼ生産菌は新規なものであると考えられる。これを確認するために公的菌株機関が保持する同種の菌株のトレハロースホスホリラーゼ生産能について調べたが、トレハロースホスホリラーゼを生産するものはなかった(比較例1)。
【0016】
本発明で使用する微生物は野性株に限らず、野性株例えば上記SK−1株を紫外線、エックス線、放射線、薬品〔NTG(N−メチル−N´−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、EMS(エチル メタンスルホネート)等〕等を用いる既知の人工的変異手段で変異した変異株も、耐熱性トレハロースホスホリラーゼ産生能を有する限り使用できる。
【0017】
本発明に使用する栄養培地としては炭素源、窒素源、無機物、および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。炭素源としてはマルトース、トレハロース、グルコース、フラクトース、糖 、デキストリン、デンプン、グリセリンなどの炭水化物などが用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、グルタミン酸などのアミノ酸、尿酸などの無機有機窒素化合物が用いられる。
【0018】
窒素源としてはまたペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテインなどの窒素含有天然物も使用できる。
無機物としてはリン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどが用いられる。その他にビオチン、チアミン等の微量栄養素を必要に応じ使用する。
【0019】
次に本発明においては培地中にトレハロースやマルトースをトレハロースホスホリラーゼの誘導物質として存在せしめることなく耐熱性トレハロースホスホリラーゼを生産することが可能であるが、トレハロースやマルトースの存在によって、耐熱性トレハロースホスホリラーゼの生成量を増加せしめることができる場合がある。
【0020】
培養法としては液体培養法(振盪培養法もしくは通気攪拌培養法)がよく、工業的には通気攪拌培養法がもっとも適している。培養温度は40〜65℃の範囲で行うことができるが、45〜60℃が好適である。pHは6.5〜7.5が好適である。培養期間は培養条件によって変わってくるが、通常24〜84時間程度であり、耐熱性トレハロースホスホリラーゼの生成が確認されたとき、好ましくは生成が最大に達したときに培養を停止する。
【0021】
このようにして得られた培養物から本発明の耐熱性トレハロースホスホリラーゼを採取するには、まず遠心分離法やろ過法などにより培養物を培養液画分と菌体画分に分画する。耐熱性トレハロースホスホリラーゼは前述の両画分に検出されるが、主に培養液画分から得られるので、この画分をさらに、限外ろ過、塩析、透析、溶媒沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、等電点沈澱等の周知の単離・精製方法の単独或いは組み合わせに付すことにより、耐熱性トレハロースホスホリラーゼの濃縮或いは精製標品を得ることができる。本発明の耐熱性トレハロースホスホリラーゼの単離・精製の具体例を実施例1に示す。
【0022】
本発明はまた上記耐熱性トレハロースホスホリラーゼの存在下にグルコースとβ−グルコース−1−リン酸とを反応させることを特徴とするトレハロースの製造方法を包含する。この反応は水性媒体中で行う。
この場合に用いられる耐熱性トレハロースホスホリラーゼとしては、pH6.0の緩衝液、例えば10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)中で、50〜65℃のいずれかの温度で、好ましくは55〜65℃のいずれかの温度で、さらに好ましくは60〜65℃のいずれかの温度で、特に65℃で、15分処理後に無処理の95%以上の活性を有するものが好適に用いられる。具体的には上記(1)〜(10)の酵素化学的性質のうち、少なくとも(1)〜(6)および(8)の性質を有する酵素が挙げられる。これらの酵素は精製酵素であっても、上記トレハロースの製造方法に悪影響を及ぼさない他の酵素を含有した粗酵素であっても良い。粗酵素としては上記培養液画分等の耐熱性トレハロースホスホリラーゼ含有画分から塩析または溶媒沈澱により沈澱させた粗酵素、またはこれをさらに前記したような精製手段で精製した精製途中段階の粗酵素が挙げられる。さらにこれらの酵素を常法により担体に固定化した固定化酵素を用いることも可能である。
【0023】
この反応に用いるグルコースとβ−グルコース−1−リン酸は試薬等であってもよいし、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属細菌が産生する既知のマルトースホスホリラーゼ(特開平1−9778、特開昭60−54036)や市販のマルトースホスホリラーゼをマルトースに作用させて生成したグルコースとβ−グルコース−1−リン酸であってもよい。
水性媒体としては水、緩衝液等が挙げられる。緩衝液としては酢酸緩衝液、リン酸カリウム・クエン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸・水酸化ナトリウム緩衝液、トリス・塩酸緩衝液等を用いることができる。
【0024】
グルコースとβ−グルコース−1−リン酸の使用比率はモル比で3:1〜1:3、好ましくは1:1が適当であり、酵素は両者のうち少量成分0.1モルに対して0.05〜10単位、好ましくは0.1〜1単位が適当である。
上記反応は温度、一般に55℃以上、雑菌汚染をさらに避けるとともに収率を上げるため好ましくは60〜70℃、pH一般に4.5〜9.0、好ましくは5.5〜8.5で行うのが適当である。上記条件下で十分なトレハロースの生成が見られた時点で反応を終了するが、反応は通常30分〜72時間で終了する。
【0025】
反応終了後、反応液の加熱による酵素の失活、pHの低下(塩酸等の酸の添加)による酵素の失活等の適当な手段で反応を停止させ、活性炭処理、イオン交換樹脂処理、エタノール晶出処理等の単離・精製手段を適宜組み合わせてトレハロースを得ることができる。
【0026】
【実施例】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
バチルス・ステアロサーモフィラスSK−1(FERM P−14567)による耐熱性トレハロースホスホリラーゼの製造及び精製は以下のようにして行った。
(培養)
SK−1株を、酵母エキス0.5g/dl、ポリペプトン1g/dl、マルトース1g/dl(pH7.0)からなる、121℃、20分間オートクレーブ殺菌した液体培地に1白金耳植菌し、55℃で72時間通気攪拌培養後、遠心分離によって菌体と培養液とを分離した。
【0027】
(粗酵素の調製)
分離した培養液に硫安を40〜60%飽和になるよう溶解し、生じたタンパク質の沈澱を遠心分離によって回収して、10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同じ緩衝液に対して透析を行い、粗酵素液とした。
(イオン交換クロマトグラフィー)
10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)によって平衡化した、TSKgelDEAEトーヨーパール650M(東ソー(株))を詰めたカラムに、粗酵素液を添加し、5カラム容量の0〜0.4mMNaClの上昇濃度勾配によって溶出し、溶出液を分取した。活性のある画分を合わせて濃縮、脱塩後、更に、一連の同じクロマトグラフィー操作を行い精製度を上げた。
【0028】
(疎水クロマトグラフィー)
40%飽和となるように硫酸アンモニウムを溶解した10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)によって平衡化した、TSKgelPhenylトーヨーパール650M(東ソー(株))を詰めたカラムに、上記部分精製酵素液を添加し、8カラム容量の40〜0%飽和硫酸アンモニウム溶液の下降濃度勾配によって溶出し、溶出液を分取した。活性のある画分を合わせて濃縮、脱塩を行った。
(吸着クロマトグラフィー)
0.3mMとなるようにCaCl2 を溶解した10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)によって平衡化した、PENTAX GH−0810Mカラムに、上記部分精製酵素液を添加し、10カラム容量の10〜300mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)の上昇濃度勾配によって溶出し、溶出液を分取した。活性のある画分を合わせて濃縮、脱塩を行った。
【0029】
(ゲル濾過クロマトグラフィー)
0.2MとなるようにNaClを溶解した10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)によって平衡化した、Superdex200pg(ファルマシア バイオテク(株))を詰めたカラムに、上記部分精製酵素液を添加し、同じ緩衝液で溶出し、溶出液を分取した。活性のある画分を合わせて濃縮、脱塩を行った。
(ネイティブアクリルアミドゲル電気泳動)
上記精製酵素溶液をネイティブアクリルアミドゲル電気泳動に付し、ゲルをCBB染色してタンパク質のバンドを調べたところ一本のバンドしか検出されず、単一タンパク質であることが確認できた。
【0030】
実施例2
(耐熱性トレハロースホスホリラーゼの調製)
酵母エキス 2g/dl、ポリペプトン 1g/dl、マルトース 1g/dlを含有する培地(pH6.5)100mlを500mlマイヤーフラスコに入れ、121℃、20分間オートクレーブ殺菌したものに、SK−1株を1白金耳植菌し、55℃で72時間通気攪拌培養した。培養終了後、培養物を遠心分離に付して菌体を分離し、上清液に硫安を40〜80%飽和となるように溶解し、析出したタンパク質を遠心分離によって集めた。これを10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同じ緩衝液に対して透析を行い、12単位/ml粗酵素液8mlを得た。
【0031】
(トレハロースの生成)
この様にして調製した耐熱性トレハロースホスホリラーゼ粗酵素液0.3ml(1.5単位/ml)、6g/dlグルコース0.12ml(40mM)、6g/dlβ−グルコース−1−リン酸ナトリウム塩0.2ml(40mM)、0.5M酢酸緩衝液(pH6.0)0.1ml、蒸留水0.28mlからなる反応液を55℃、1時間、2時間、16時間、及び70℃、1時間インキュベートした。反応の停止は、10分間の煮沸によって行った。反応終了後、各反応液を、TSKgelAmido80カラム(250x4.6mmφ)(東ソー(株))、溶離液アセトニトリル/水(76/24(v/v) )、流速0.8ml/min、カラム温度80℃、示差屈折計Shodex(昭和電工(株))(検出手段)を用いる高速液体クロマトグラフィーに付すことにより、生成したトレハロースを定量した。結果を表5に示す。55℃、16時間の反応で生成したトレハロースは24.3mMであった。
【0032】
実施例3
(耐熱性トレハロースホスホリラーゼの調製)
実施例1で調製した耐熱性トレハロースホスホリラーゼ粗酵素液100mlをTSKgelDEAEト−ヨーパール650M(東ソー(株))160mlを充鎮したカラムに吸着させた後、10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)と塩化ナトリウム0.4Mを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)とを用いて800mlの直線濃度勾配溶出を行った。溶出液8mlずつ分取したところ、フラクション番号55〜75の画分に目的の耐熱性トレハロースホスホリラーゼ活性が認められた。この画分を限外濾過により濃縮、脱塩し、酵素単位15.5単位/mlの部分精製酵素液20mlを得た。
【0033】
(トレハロースの生成)
この様にして調製した耐熱性トレハロースホスホリラーゼ粗酵素液を約10倍に希釈したもの0.3ml(0.4単位/ml)、6g/dlグルコース0.12ml(40mM)、6g/dlβ−グルコース−1−リン酸ナトリウム塩0.2ml(40mM)、0.5M酢酸緩衝液(pH6.0)0.1m,、蒸留水0.28mlからなる反応液を65℃で1時間インキュベートした。反応の停止は、10分間の煮沸によって行った。反応終了後、反応液を、実施例1と同じ条件での高速液体クロマトグラフィーに付すことにより、生成したトレハロースを定量した。生成したトレハロースは10.9mMであった。
【0034】
実施例4
(耐熱性トレハロースホスホリラーゼ及びマルトースホスホリラーゼの調製)耐熱性トレハロースホスホリラーゼは実施例1と同様にSK−1株の培養液から硫安沈澱によって得た。活性は1.5単位/mlであった。
一方、既知マルトースホスホリラーゼ(Agric.Biol.Chem.,37,(12),2813〜2819,1973)の調製は以下のように行った。酵母エキス0.2g/dl、ペプトン1g/dl、マルトース1g/dl、酢酸ナトリウム1g/dl、硫酸マグネシウム7水和物0.02g/dl、硫酸マンガン4水和物0.0002g/dlを含有する培地(pH7.0)100mlを500mlマイヤーフラスコに入れ、121℃、20分間オートクレーブ殺菌したものに、ラクトバチルス ブレビスIFO3345を1白金耳植菌し、30℃で72時間通気攪拌培養した。培養終了後、培養物を遠心分離に付して菌体を集め、10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁後、超音波細胞破砕機により菌体を破砕し、菌体破砕物を遠心分離に付し、上清液を粗酵素液とした。得られた粗酵素液の活性は0.8単位/mlであった。
【0035】
(トレハロースの生成)
まず、このようにして調製したマルトースホスホリラーゼ粗酵素液0.5ml(0.4単位/ml)、7.2g/dlマルトース0.2ml(40mM)、0.5Mリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)0.08ml、蒸留水0.22mlからなる反応液を37℃で1時間インキュベートした。この反応液中には7.0mMのβ−グルコース−1−リン酸が生成していた。
さらに、この反応液1mlに耐熱性トレハロースホスホリラーゼ粗酵素液0.14mlを加え、70℃で1時間インキュベートした後、10分間煮沸して反応を停止した。反応終了後、反応液を実施例1と同じ条件での高速液体クロマトグラフィーに付すことにより、生成したトレハロースを定量した。その結果、反応液中には4.6mMのトレハロースが生成していた。
【0036】
比較例1
これまでにトレハロースホスホリラーゼを産生するバチルス・ステアロサーモフィラスの報告はなく、(財)発酵研究所保存の同種菌株について活性の有無を調べたがトレハロースホスホリラーゼ活性は検出されなかった。すなわち、バチルス・ステアロサーモフィラスIFO12550、IFO12983、IFO13737及びSK−1を液体培地(酵母エキス1g/dl、ポリペプトン2g/dl、C源としてトレハロースまたはマルトース2g/dl、pH7.0)に植菌し、55℃で72時間通気攪拌培養し、遠心分離によって菌体と培養液に分けた。菌体は洗浄後、超音波細胞破砕によって菌体内粗酵素液を調製した。培養液は硫安を80%飽和になるように溶解し、生じたタンパク質の沈澱を遠心分離で回収した。これをリン酸緩衝液に溶解した後、透析を行い菌体外粗酵素液とした。それぞれの粗酵素液は以下の条件で反応を行い、トレハロースの合成を調べることでトレハロースホスホリラーゼ活性の有無を判定した。結果を表6に示す。
【0037】
反応液:粗酵素液0.3ml、6g/dlグルコース0.12ml(40mM)、6 g/dlβ−グルコース−1−リン酸ナトリウム塩0.2ml(40mM)、0.5M酢酸緩衝液(pH6.0)0.1ml、蒸留水0.28ml
反 応:55℃、16時間
検 出:TSKgel Amido80カラム(東ソー(株))を用いる高速液体クロマトグラフィーによってトレハロースのピークの検出を行った。
【0038】
【発明の効果】
本発明によって提供されるトレハロースホスホリラーゼは耐熱性を有し、グルコースとグルコース−1−リン酸からトレハロースを生成する。この酵素を用いて高い反応温度で酵素反応を行うことにより、トレハロースを、雑菌汚染の低減、反応時間の短縮化を図りつつ、工業的に有利に製造することができる。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた耐熱性トレハロースホスホリラーゼの至適温度を示す。
【図2】実施例1で得られた耐熱性トレハロースホスホリラーゼの熱安定性を示す。
【図3】実施例1で得られた耐熱性トレハロースホスホリラーゼの至適pHを示す。
【図4】実施例1で得られた耐熱性トレハロースホスホリラーゼのpH安定性を示す。
Claims (6)
- 下記の酵素化学的性質を有する耐熱性トレハロースホスホリラーゼ:
(1)作用
トレハロースを可逆的に加リン酸分解する。すなわち、リン酸存在下でトレハロースに作用させると、等モルのグルコースとβ−グルコース−1−リン酸を生成し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸に作用させると、等モルのトレハロースとリン酸を生成する。
(2)基質特異性
トレハロースに特異的に作用する。
(3)至適温度
トレハロース加リン酸分解反応の至適温度は70℃〜75℃付近で、60℃〜75℃の範囲で最高活性の約50%以上を示す。
(4)熱安定性
10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)中で、65℃、15分間処理後に無処理の95%以上の活性を有する。
(5)至適pH
6.5〜7.5
(6)pH安定性
pH6.0〜8.0で安定。
(7)分子量
11万〜15万(Superdex200pgを用いるゲルろ過クロマトグラフィーによる)。 - 下記の酵素化学的性質を有する耐熱性トレハロースホスホリラーゼ:
(1)作用
トレハロースを可逆的に加リン酸分解する。すなわち、リン酸存在下でトレハロースに作用させると、等モルのグルコースとβ−グルコース−1−リン酸を生成し、グルコースとβ−グルコース−1−リン酸に作用させると、等モルのトレハロースとリン酸を生成する。
(2)基質特異性
トレハロースに作用するが、マルトース、イソマルトース、ネオトレハロース、セロビオース、シュークロース、p−ニトロフェニル−α−D−グルコシド、p−ニトロフェニル−β−D−グルコシドには作用しない。
(3)至適温度
トレハロース加リン酸分解反応の至適温度は70℃〜75℃付近で、60℃〜75℃の範囲で最高活性の約50%以上を示す。
(4)熱安定性
10mMリン酸カリウム・クエン酸緩衝液(pH6.0)中で、65℃、15分間処理後に無処理の95%以上の活性を有する。
(5)至適pH
6.5〜7.5
(6)pH安定性
pH6.0〜8.0で安定。
(7)失活
100℃、10分間の加熱で100%失活する。
(8)分子量
11万〜15万(Superdex200pgを用いるゲルろ過クロマトグラフィーによる)。
(9)等電点
4.6〜5.2。
(10)阻害剤
Hg2+、Zn2+で活性が著しく阻害される。 - バチルス・ステアロサーモフィラスに属し、請求項1又は2記載の耐熱性トレハロースホスホリラーゼを産生する能力を有する微生物を栄養培地に培養し、培養物から生成した耐熱性トレハロースホスホリラーゼを採取することを特徴とする耐熱性トレハロースホスホリラーゼの製造方法。
- 請求項1又は2記載の耐熱性トレハロースホスホリラーゼを産生する能力を有するバチルス・ステアロサーモフィラス。
- バチルス・ステアロサーモフィラスSK−1(FERM P−14567)。
- 請求項1又は2記載の耐熱性トレハロースホスホリラーゼの存在下にグルコースとβ−グルコース−1−リン酸とを反応させることを特徴とするトレハロースの製造方法。
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| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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| JP29576594A JP3634883B2 (ja) | 1994-11-04 | 1994-11-04 | 耐熱性トレハロースホスホリラーゼ、その製造方法、その製造に使用する菌、及び該酵素を用いるトレハロースの製造方法 |
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| JPH10276785A (ja) * | 1997-03-31 | 1998-10-20 | Kureha Chem Ind Co Ltd | 組換え型トレハロースホスホリラーゼをコードする遺伝子、その遺伝子を含むベクター、その遺伝子で形質転換された形質転換体及びこの形質転換体を用いて組換え型トレハロースホスホリラーゼを製造する方法 |
-
1994
- 1994-11-04 JP JP29576594A patent/JP3634883B2/ja not_active Expired - Fee Related
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