JP3736538B2 - 広帯域光周波数変換方法及び広帯域光周波数変換素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、光周波数を所望の光周波数に変換する技術に係り、例えば、1.55μm帯域の光信号を一括して1.3μm帯域の光信号に変換する広帯域光周波数変換方法及び広帯域光周波数変換素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバ通信は、光ファイバの伝送損失が小さいこと、光ファイバ一本当たりの伝送容量が大きいことなどから、主に幹線系の伝送路として広く利用されている。しかしながら、増え続ける情報をより高速に伝送する要求は止まるところを知らず、近年、情報・通信技術において光技術の更なる高度化要求が著しく増大している。
従来、光ファイバ通信技術による大容量化は、時間領域において光パルス幅を狭くし、情報の符号化密度を高めることで行われてきた。近年、さらなる大容量化を目指して、光位相の符号化技術、波長多重技術が盛んに研究されている。特に波長多重通信技術は、ナノメータ(nm)オーダーの波長多重の可能性が予測されており、次世代大容量光通信技術の本命として期待され、精力的に研究が進められている。
波長多重通信技術は、一本の光ファイバ中に伝送する複数の異なった波長の光をそれぞれ独立の情報伝送媒体として使用するものであり、そのためには、高精度の合波・分波技術と共に、極めて広い光波長範囲の波長変換技術、すなわち、広帯域光周波数変換技術が重要である。
【0003】
光通信において波長多重化による情報伝送の利点を活かすためには情報を異なる波長間で相互に変換できることが切に求められる。波長変換技術は、例えば光波長に依存して伝送路を交換する光交換機において、光交換機の動作に最適な波長に変換するために必要である。
光ファイバの伝送損失は波長1.55μm帯で損失が最小となるため1.55μm帯の光ファイバが長距離伝送に適している一方、既に1.3μm帯の光ファイバが特に加入者系ネットワークにおいてインフラストラクチャーとして広く普及しており、1.55μm帯での波長多重伝送される情報を一括して1.3μm帯に変換できれば、既存の光ファイバインフラストラクチャーを有効に活用することが可能となる。
波長多重通信においては、極めて多くの波長の光を独立の伝送媒体として使用するものであるから、異なる波長帯の間を一括して変換する素子、即ち、広帯域光周波数変換素子が重要である。
【0004】
従来の波長変換素子は、非線形光学結晶等の非線形光学効果を用いた高調波変換素子、和周波・差周波変換素子、また、高次ラマン効果を利用したラマンシフター等が知られている。
高調波変換素子は、変換波長が入射光波長の整数分の一の波長に限定されるので、1.55μm帯域光を1.3μm帯域光に変換できない。
和周波・差周波変換素子は、非線形光学媒質中の励起光(周波数ω0 )のもとで信号光(周波数ω1 )がω2 =ω0 ±ω1 の信号光に変換されるものである。例えば、和周波変換素子の場合に、励起光波長10μmとすることで、1.55μm帯域から1.3μm帯域への変換が可能である。また、差周波変換素子の場合に、励起光波長を720nmとすることで1.55μm帯域と1.3μm帯域の相互変換が可能である。しかしながら、これらの変換素子は、非線形光学定数が小さいため変換効率が小さく、また、実用的な波長10μmの励起光源は低コストで製造できない。また、これらの素子は位相整合条件が厳しく、波長毎に高精度の光入射角調整を必要とする。高効率な変換を行うには、素子に周期的分極反転構造を導入して擬似位相整合条件を実現する等の工夫が必要となる。
【0005】
ラマンシフターは、図8に示すように、ω1 の周波数の信号光が物質に入射したときに、ω1 の周波数の信号光が周波数ωp を持つ物質固有の素励起と相互作用することにより、ω2 =ω1 −ωp の周波数の信号光が放出され、さらにω2 の信号光が吸収され、あらためてωp の素励起と結合することによって、ω3 =ω2 −ωp =ω1 −2ωp の周波数の信号光が放出され、この過程を繰り返して、周波数ωn =ω1 −nωp の信号光が放出されるものである。
このラマンシフターによれば、適切なnを実現することにより、1.3μm帯域の信号光を1.55μm帯域の信号光に変換できる。しかしながら、変換された信号光の周波数は、物質固有の極めて狭帯域な周波数ωp 毎の不連続なスペクトルであるため、所望の周波数に精密に変換することができない。
【0006】
【非特許文献1】
工藤恵栄・若木守明 著“基礎量子光学”現代工学社 1998年11月1日初版発行 318頁。
【非特許文献2】
PHYSICAL REVIEW Vol.166,NO.2(1968),p514〜530.
【非特許文献3】
Phys.Rev.B41,(1990)11657.
【非特許文献4】
J.Chem.Phys.vol.48(5),p2240,1968.
【非特許文献5】
Phys.Rev.Lett.vol.89,No.7,(2002)p076404.
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように、波長多重通信においては、広帯域な光周波数変換素子が極めて重要であるが、従来の素子では、所望の周波数に変換できない、周波数毎に位相整合を必要とする、変換効率が低い、といった課題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、広い周波数範囲に亘る信号光を所望の周波数に変換でき、周波数毎に光入射角の調整を必要とせずに一括して、かつ、変換効率が高い広帯域光周波数変換方法と、この方法を用いた広帯域光波長変換素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の広帯域光周波数変換方法は、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体、例えば反強磁性体、あるいは広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体に励起光と入力信号光を照射して、励起光と入力信号光との差周波数に相当するエネルギーを持つ複数の素励起、例えば、反強磁性体の2マグノン(2つのマグノン)、あるいは誘電体の2フォノン(2つのフォノン)を共鳴させ、励起光周波数と差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、以下のように信号光が所望の周波数帯に変換される。
物質に励起光と信号光を照射し、励起光と信号光と、励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの物質の素励起とを共鳴させて励起光周波数と差周波数との和の周波数の出力信号光が得られる現象は、CARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering:非特許文献1参照)と呼ばれる。この現象は、エネルギー保存則と運動量保存則を満たす場合に限られることから、励起光と信号光の周波数が特定の値の場合にのみ可能である。
【0011】
広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、光照射によって正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2つの素励起が同時に励起される物質である。例えば、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体として反強磁性体及びSrTiO3 等の誘電体が知られているが、反強磁性体の場合には正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのマグノンが同時に励起され(非特許文献2参照)、SrTiO3 は正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのフォノンが同時に励起される。
【0012】
光を照射して正負互いにほぼ打ち消しあう2つの素励起が同時に励起される場合、エネルギーと波数の分散関係上で異なる2点の素励起が組み合わされ、エネルギーの和を一定に保ちつつ素励起の運動量が任意に調節されほぼ打ち消されることが可能であり、その結果、エネルギー保存則と運動量保存則が広帯域な周波数領域で満たされるようになり、広帯域ラマン散乱スペクトルを有するようになる。例えば、一般にフォノンは結晶を構成する原子の振動であるので、波長は結晶の原子間隔程度となり、伝搬ベクトルすなわち運動量は光の運動量に比べて大きく、このため、運動量零のフォノンが励起される場合のみラマン散乱が可能であるが、正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのフォノンが同時に励起される誘電体の場合には、フォノンの運動量が互いに打ち消し合うことで、フォノンの全伝搬ベクトルの大きさがほぼ零となることが可能であり、このため、広帯域な周波数領域でラマン散乱が生ずる。
【0013】
本発明の方法は、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体をCARSにおける素励起媒体としたものであり、励起光と信号光の周波数が任意であってもCARSが生じる。従って、信号光を任意の周波数帯域に変換することができる。
この方法によれば、広い周波数範囲の信号光を一括して周波数変換できる。すなわち、極めて広帯域な光周波数変換が可能になる。
また、励起光の周波数を選択して照射することにより、入射信号光を所望の周波数の出力信号光に変換することができる。さらに、光入射角の調整の必要がなく一括して変換できる。さらにまた、CARSは、誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、例えば反強磁性体であれば良く、この場合には、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2マグノンが励起される。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体であっても良く、この場合には、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2フォノンが励起される。
【0014】
また、本発明の広帯域光波長変換素子は、上記の方法を用いたものであり、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体と励起光源と信号光源とから成り、励起光源からの励起光と信号光源からの信号光とを上記の固体に照射し、励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの上記の固体の複数の素励起とを共鳴させて、上記励起光の周波数と上記差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする。
ここで、本発明の広帯域光波長変換素子は、上記の固体が光導波路であれば好ましい。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、好ましくは、ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物である。
ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物は、好ましくは、YFeO3 またはYMnO3 である。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体であっても良く、例えば、SrTiO3 であれば好ましい。
【0015】
この広帯域光波長変換素子によれば、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体が、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2つの素励起を同時に励起することができるので、エネルギー保存則及び運動量保存則が常に満たされ、広い周波数範囲の信号光を所望の周波数帯域に変換することができる。
また、励起光の周波数を選択して照射することにより、入射信号光を所望の周波数の出力信号光に変換できる。また、光入射角の調整の必要がなく一括して変換することが可能になる。また、CARSは、誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
【0016】
さらに、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体を光導波路として構成し、励起光、入力信号光及び出力信号光を光導波路に閉じ込めれば、相互作用が大きくなり、さらに高効率の広帯域光波長変換素子が形成できる。
また、ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物であるYFeO3 またはYMnO3 を使用すれば、3次の非線形光学効果が大きいので、変換効率が高い広帯域光波長変換素子が得られる。また、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体としてSrTiO3 を用いれば、3次の非線形光学効果が大きいので、変換効率が高い広帯域光波長変換素子が得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実質的に同一又は同等な構成要素には同一の符号を用いて説明する。
本発明は、本発明者らによる、フェライト酸化物やマンガン酸化物の超広帯域ラマンスペクトルの発見に基いて完成されたものである。
図1は、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す概念図である。図1(a)は本発明のバルク型の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す。また、図1(b)は本発明の導波路型の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す。なお、下記の説明においては、素励起媒体として反強磁性体を例にとって説明するが、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体の場合においても同様である。
図1(a)に示すように、反強磁性体1に励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )を時間的及び空間的に重ねて入射させて、出力信号光4(周波数ω3 )を得る。なお、ω1 >ω2 であり、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 である。図1(b)に示すように、クラッドに比べ屈折率の高い反強磁性体1からなるコア1aに励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )を導波させて出力信号光4(周波数ω3 )を得る。反強磁性体1は、例えばペロブスカイト型遷移金属酸化物、またはペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物であるYFeO3 、またはYMnO3 である。
【0018】
次に、本発明の広帯域光周波数変換方法の作用を説明する。なお、下記の説明においては、素励起媒体として反強磁性体を例にとって説明するが、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体の場合においても同様である。
図2は、本発明に利用するCARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering)現象を模式的に示す図である。図2において、反強磁性体1に励起光2である励起フォトン2(周波数ω1 )と入力信号光3である入射信号フォトン3(周波数ω2 )を照射すると、励起フォトン2と入射信号フォトン3のエネルギー差に相当して反強磁性体1中に2マグノン5(周波数ωp 、ωp =ω1 −ω2 )が励起される。即ち、励起フォトン2は吸収されてエネルギーhω1 (hはプランクの定数)の準位L1に遷移し、準位L1は入力信号フォトン3による誘導放出によって、誘導放出フォトン6(周波数ω2 )を放出してエネルギーhωp の準位L2に遷移する。準位L2は、さらに励起フォトン2を吸収してエネルギーhω1 +hωp の準位L3に遷移し、準位L3は出力信号フォトン4(周波数ω3 =ω1 +ωp )を放出して基底準位L0に遷移する。
このように、励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )が同時に存在するとき、出力信号光4(周波数ω3 =ω1 +ωp )が放出されるので、高周波側に周波数変換された出力信号光4が得られる。
【0019】
上記のCARS現象が生じるためには、(1)エネルギー保存則を満たすために、エネルギーhωp =hω1 −hω2 のマグノン励起準位5が存在すること、及び、(2)運動量保存則を満足することが必要である。
そこで、先ず上記(1)について説明する。
マグノンは反強磁性体中のスピンが集団運動として励起される素励起であり、固体中のフォノンと同様に調和振動運動である。光を照射してマグノンを励起する場合、光の波長は固体の原子間隔よりはるかに長いために、波長の逆数に比例する光の運動量は固体中では実効的に零と見なされる。マグノンを一つ励起する場合には、運動量保存則により運動量=0を満たす狭帯域のマグノンしか励起されないが、他方、互いに運動量をうち消し合うような2つのマグノンを同時に励起する場合には運動量保存則の制約が緩和されるために、マグノンの分散関係を満たす任意の運動量を持つマグノンが励起可能となる。このために、同時に2つのマグノンを励起する2マグノン励起においては、エネルギー準位は連続的に存在し、励起光2の周波数ω1 と入力信号光3の周波数ω2 によらずに励起光2と入力信号光のエネルギー差に相当するhωp =hω1 −hω2 の2マグノン励起5が極めて広い周波数領域にわたって存在する。
また、本発明で利用する誘電体についても同様であり、励起光2の周波数ω1 と入力信号光3の周波数ω2 によらずに励起光2と入力信号光のエネルギー差に相当するhωp =hω1 −hω2 の2フォノン励起5が極めて広い周波数領域にわたって存在する。
【0020】
次に、上記(2)について説明する。
ペロブスカイト型遷移金属酸化物、またはペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物は可視光域に大きな振動子強度を有する。これは遷移金属原子のd軌道と酸素の2p軌道との重なりが大きいためである。スピン相関に加えて電子相関の非常に大きな典型的強相関化合物である。このような強相関酸化物のうちで、広帯域なラマンスペクトルを示す物質が見つかっている。例えば、銅酸化物においては、2000〜3000cm-1あたりにピークを有する広帯域なラマンスペクトルが観測されている(非特許文献3参照)。さらに、本発明者らによって、反強磁性体であるフェライト酸化物は、数百cm-1以下から〜6000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することが見出された。
一般にフォノンは結晶の対称性に応じて、ラマン活性/不活性、赤外吸収活性/不活性なものに分類される。誘電体においては通常、鋭い線構造を有するラマン散乱スペクトルが得られるが、例えば、SrTiO3 やKTiO3 においては、全てのフォノンがラマン不活性である一方で、2フォノン励起にともなう広帯域ラマン散乱スペクトルが観測される(非特許文献4参照)。
【0021】
図3はフェライト酸化物(YFeO3 )、マンガン酸化物(YMnO3 )及びチタン酸化物(SrTiO3 )のラマンスペクトルを示す図であり、図3(a)はYFeO3 、図3(b)はYMnO3 (非特許文献6参照)、図3(c)はSrTiO3 のラマンスペクトルを示している。図において、横軸はラマンシフト量を表し、縦軸はラマン強度を表す。
図3(a)からわかるように、YFeO3 は、数百cm-1以下から〜6000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することがわかる。また、図3(b)から、YMnO3 は、数百cm-1以下から〜2000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することがわかる。なお、図において、現れている鋭いピークは、フォノンに基づくラマンスペクトルである。同様に、図3(c)見られる広帯域なピークは、いずれもSrTiO3 の2フォノン励起に伴うピークである。
【0022】
このように広帯域かつ連続なラマンスペクトルが得られる理由は以下のように考えられる。
図4は、反強磁性体結晶のスピン配列を示す模式図である。図4において、横線と縦線の交点は反強磁性体結晶の格子点を表している。図に示すように、反強磁性体結晶においては、上向きスピン8と下向きスピン9が交互に格子点に整列しており、このようなスピン配列においてフォトンを照射してマグノンを励起すれば、同じエネルギーを有し、互いに進行方向が逆の伝搬ベクトル±kを有する2つのモードのマグノンが励起される。
フォトンとマグノンでは位相速度が異なり、またフォトンの周波数によっても位相速度が異なるので、一般に、入力フォトンとマグノンと出力フォトンとの間のエネルギー保存則が満たされても運動量保存則は必ずしも満たされるとは限らず、強磁性体等では広帯域なラマンスペクトルは観測されない。
しかしながら、反強磁性体結晶においては、伝搬ベクトル±kを有する2つのモードのマグノンが励起される過程が主にラマン散乱に寄与するので、任意の周波数の励起光と任意の周波数の入力信号光とに対して、伝搬ベクトル+kのマグノンのエネルギー、及び伝搬ベクトル−kのマグノンのエネルギーが調節されて励起されることにより、エネルギ保存則及び運動量保存則が満たされ、広帯域なラマンスペクトルが観測されると考えられる。
【0023】
従って、本発明の広帯域光周波数変換方法においては、反強磁性体結晶の2つのマグノンによって運動量保存則が満たされるため、励起光及び入力信号光の周波数によらずにCARS現象が生起され、励起光の周波数に励起光と入力信号光の差周波数を加えた周波数の出力信号光が得られる。
また、一般にフォノンは結晶を構成する原子の振動であるので、波長は結晶の原子間隔程度のオーダーとなり、光の波長よりも十分短い。そのために、波長の逆数すなわち伝搬ベクトルの大きさは光の伝搬ベクトルの大きさに比べて、ほとんど0であるようなフォノンのみが光によって励起可能になる。他方で、2つのフォノンが同時に励起される散乱過程においては反強磁性体における2マグノン励起と同様に、生成されるフォノン対が互いに運動量をうち消し合うことで、全体の運動量を0とすることが可能となり、広帯域にわたるフォノン励起が可能となる。
【0024】
図5は、本発明の広帯域光周波数変換方法による1.55μm帯域から1.3μm帯域への光周波数の一括変換を模式的に示す図である。図において横軸は周波数を表し、縦軸は光強度及び2マグノンの状態密度を表している。10は広い周波数領域に亘って連続的に分布する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起の準位密度を表す。
図5(a)は、励起光2が214THz(波長1.4μm)の場合に、194THz(波長1.55μm)の入力信号光3が、励起光2と入力信号光3の差周波数20THzに相当する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起準位に基づいて234THzの出力信号光4に変換されることを示している。図5(b)は、励起光2が214THz(波長1.4μm)の場合に、188THz(波長1.60μm)の入力信号光3が、励起光2と入力信号光3の差周波数26THzに相当する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起準位に基づいて240THzの出力信号光4に変換されることを示している。図5(c)は図5(a),(b)と同様に複数の1.55μm帯域の入力信号光3が、一括して1.3μm帯域の出力信号4に変換されることを表している。
【0025】
上記に説明したように、本発明の広帯域光周波数変換方法及び装置によれば、広い周波数範囲の信号光を一括して周波数変換できる。また、励起光の周波数を選択することによって所望の周波数に変換できる。また、2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起によって運動量保存則が満たされるので光入射角の調整の必要がなく一括して変換できる。さらに、CARS現象は誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
【0026】
次に、第1の実施例を示す。
フローティングゾーン法で作製したYFeO3 単結晶から(1−10)面方位の厚み0.6mmの薄板試料を作製した。
図6は、光周波数変換の測定系を示す図である。フェムト秒パルスレーザー装置11からフェムト秒パルスレーザー光12をパラメトリック光増幅器13に入力し、パラメトリック光増幅器13から出力されるシグナル光とアイドラー光をそれぞれ励起光パルス2と入力信号光パルス3として出力する。励起光パルス2は遅延回路14を経由させて行路長調整できるようにし、励起光パルス2と信号光パルス3を集光レンズ15で試料1上に集光する。試料1の出力面側にスクリーン16を配置し、さらにスクリーンの端にIR(赤外−可視変換)カード17を配置する。
【0027】
図6に示す配置で、周波数ω1 =214THz(波長1.4μm)、パワー10μJ/pulseのフェムト秒励起光パルス2と、周波数ω2 =158THz(波長1.9μm)、パワー10μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルス3とをYFeO3 薄板1に約2°の交差角をもってほぼ垂直に照射した。集光レンズ15及び遅延回路14を調節して2つのパルスが空間的、時間的に重なり合ったときにスクリーン16上に図6に示すような4つの肉眼で見える光点(18〜21)が明瞭に観察された。さらに、IR(赤外−可視変換)カード17をかざすと、さらにその外側にもう1つの光点22があることがわかった。
【0028】
5つの光点の波長はそれぞれ、図において右から(18−>22)、460nm(652THz)、510nm(588THz)、570nm(526THz)、630nm(476THz)、及び1.1μm(273THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及び、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
なお上記5光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0029】
次に第2の実施例を示す。
フラックス法で成長させたYMnO3 単結晶から(001)面方位の厚み0.1mmの薄板試料を作製した。第1の実施例と同じ測定系で、周波数ω1 =200THz(波長1.5μm)パワー10μJ/pulseのフェムト秒励起光パルスと、周波数ω2 =176THz(波長1.7μm)パワー10μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルスとを試料面に垂直に照射した。
5つの光点の波長はそれぞれ、500nm(600THz)、520nm(577THz)、540nm(556THz)、560nm(536THz)、及び1.3μm(231THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及びω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
【0030】
1.3μm光がω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 の関係を満たしているので、1.3μm光はCARS光であることがわかる。
また、ω1 −ω2 =900cm-1なのでフォノンとの共鳴によるCARS光ではなく、マグノンとの共鳴によるCARS光であることがわかる。
なお上記5光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0031】
次に第3の実施例を示す。
図6に示す配置で、周波数ω1 =206THz(波長1.46μm)、パワー4μJ/pulseのフェムト秒励起光パルス2と、周波数ω2 =169THz(波長1.78μm)、パワー4μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルス3とをSrTiO3 薄板1に約2°の交差角をもってほぼ垂直に照射した。集光レンズ15及び遅延回路14を調節して2つのパルスが空間的、時間的に重なり合ったときにスクリーン16上に図6に示すような4つの肉眼で見える光点(18〜21)が明瞭に観察された。さらに、IR(赤外−可視変換)カード17をかざすと、さらにその外側に光点22があることがわかった。
【0032】
5つの光点の波長はそれぞれ、図において右から(18−>22)、485nm(618THz)、516nm(581THz)、551nm(544THz)、592nm(507THz)、及び1.23μm(243THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及び、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
なお上記光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0033】
なお、上記の説明では、1.55μm帯域から1.3μm帯域への変換を例にとって説明したが、この帯域に限らず全ての帯域で動作可能なことは明らかである。また、反強磁性体無機結晶を例に説明したが、反強磁性体であれば動作可能であり、例えば有機物の反強磁性体でも動作可能なことは明らかである。
【0034】
次に、任意の波長の信号光が高周波帯域に変換される実施例を示す。
励起光周波数ω1 =230THz(λ1 =1301nm)、信号光周波数ω2 =199,187,182,176,171,164及び149THz(λ2 =1510,1602,1644,1644,1700,1759,1824及び2007nm)のそれぞれの信号光を反強磁性体であるYFeO3 に照射し、図6に示す配置でCARS光の周波数、及び強度を測定した。CARS光は励起光の伝搬ベクトルをk1 、信号光の伝搬ベクトルをk2 として、2k1 −k2 方向にスリットを配置し、CARS光のみを他の光から空間的に分離して、その光周波数及び強度を測定した。
【0035】
図7は任意の波長の信号光が高周波帯域に変換されたことを示す図である。横軸は観測された信号光の周波数の差Δωを示し、縦軸は信号光強度を示す。図から、信号光の周波数がいずれであっても高周波側に変換されることがわかる。
【0036】
【発明の効果】
上記説明から理解されるように、本発明によれば、広い周波数範囲にわたる信号光を所望の周波数に変換でき、周波数毎に光入射角調整を必要とせずに一括して、かつ、高い変換効率で変換することができる。
従って、本発明を次世代大容量光通信技術の本命として期待される光波長多重通信技術に用いれば、広帯域にわたってコーディングされた情報を一括して他の帯域に周波数変換することを可能にするので、光波長多重通信技術実現のためのブレークスルー技術の一つとなる発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の広帯域光周波数変換方法及び装置を示す概念図である。
【図2】本発明に利用するCARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering)現象を模式的に示す図である。
【図3】フェライト酸化物(YFeO3 )、マンガン酸化物(YMnO3 )、及びチタン酸化物(SrTiO3 )のラマンスペクトルを示す図である。
【図4】反強磁性体結晶のスピン配列を示す模式図である。
【図5】本発明の広帯域光周波数変換方法による1.55μm帯域から1.3μm帯域への光周波数の一括変換を模式的に示す図である。
【図6】光周波数変換の測定系を示す図である。
【図7】任意の波長の信号光が高周波帯域に変換されたことを示す図である。
【図8】ラマンシフターの一般的な動作原理を説明するための図である。
【符号の説明】
1 反強磁性体
1a 反強磁性体導波路
2 励起光
3 入力信号光
4 出力信号光
5 マグノン準位
6 誘導放出フォトン
8 上向きスピン
9 下向きスピン
10 マグノン準位密度
11 フェムト秒レーザー装置
12 フェムト秒パルス光
13 パラメトリック光増幅器
14 遅延回路
15 集光レンズ
16 スクリーン
17 IRカード(赤外−可視)
18〜22 出力光スポット
【発明の属する技術分野】
この発明は、光周波数を所望の光周波数に変換する技術に係り、例えば、1.55μm帯域の光信号を一括して1.3μm帯域の光信号に変換する広帯域光周波数変換方法及び広帯域光周波数変換素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバ通信は、光ファイバの伝送損失が小さいこと、光ファイバ一本当たりの伝送容量が大きいことなどから、主に幹線系の伝送路として広く利用されている。しかしながら、増え続ける情報をより高速に伝送する要求は止まるところを知らず、近年、情報・通信技術において光技術の更なる高度化要求が著しく増大している。
従来、光ファイバ通信技術による大容量化は、時間領域において光パルス幅を狭くし、情報の符号化密度を高めることで行われてきた。近年、さらなる大容量化を目指して、光位相の符号化技術、波長多重技術が盛んに研究されている。特に波長多重通信技術は、ナノメータ(nm)オーダーの波長多重の可能性が予測されており、次世代大容量光通信技術の本命として期待され、精力的に研究が進められている。
波長多重通信技術は、一本の光ファイバ中に伝送する複数の異なった波長の光をそれぞれ独立の情報伝送媒体として使用するものであり、そのためには、高精度の合波・分波技術と共に、極めて広い光波長範囲の波長変換技術、すなわち、広帯域光周波数変換技術が重要である。
【0003】
光通信において波長多重化による情報伝送の利点を活かすためには情報を異なる波長間で相互に変換できることが切に求められる。波長変換技術は、例えば光波長に依存して伝送路を交換する光交換機において、光交換機の動作に最適な波長に変換するために必要である。
光ファイバの伝送損失は波長1.55μm帯で損失が最小となるため1.55μm帯の光ファイバが長距離伝送に適している一方、既に1.3μm帯の光ファイバが特に加入者系ネットワークにおいてインフラストラクチャーとして広く普及しており、1.55μm帯での波長多重伝送される情報を一括して1.3μm帯に変換できれば、既存の光ファイバインフラストラクチャーを有効に活用することが可能となる。
波長多重通信においては、極めて多くの波長の光を独立の伝送媒体として使用するものであるから、異なる波長帯の間を一括して変換する素子、即ち、広帯域光周波数変換素子が重要である。
【0004】
従来の波長変換素子は、非線形光学結晶等の非線形光学効果を用いた高調波変換素子、和周波・差周波変換素子、また、高次ラマン効果を利用したラマンシフター等が知られている。
高調波変換素子は、変換波長が入射光波長の整数分の一の波長に限定されるので、1.55μm帯域光を1.3μm帯域光に変換できない。
和周波・差周波変換素子は、非線形光学媒質中の励起光(周波数ω0 )のもとで信号光(周波数ω1 )がω2 =ω0 ±ω1 の信号光に変換されるものである。例えば、和周波変換素子の場合に、励起光波長10μmとすることで、1.55μm帯域から1.3μm帯域への変換が可能である。また、差周波変換素子の場合に、励起光波長を720nmとすることで1.55μm帯域と1.3μm帯域の相互変換が可能である。しかしながら、これらの変換素子は、非線形光学定数が小さいため変換効率が小さく、また、実用的な波長10μmの励起光源は低コストで製造できない。また、これらの素子は位相整合条件が厳しく、波長毎に高精度の光入射角調整を必要とする。高効率な変換を行うには、素子に周期的分極反転構造を導入して擬似位相整合条件を実現する等の工夫が必要となる。
【0005】
ラマンシフターは、図8に示すように、ω1 の周波数の信号光が物質に入射したときに、ω1 の周波数の信号光が周波数ωp を持つ物質固有の素励起と相互作用することにより、ω2 =ω1 −ωp の周波数の信号光が放出され、さらにω2 の信号光が吸収され、あらためてωp の素励起と結合することによって、ω3 =ω2 −ωp =ω1 −2ωp の周波数の信号光が放出され、この過程を繰り返して、周波数ωn =ω1 −nωp の信号光が放出されるものである。
このラマンシフターによれば、適切なnを実現することにより、1.3μm帯域の信号光を1.55μm帯域の信号光に変換できる。しかしながら、変換された信号光の周波数は、物質固有の極めて狭帯域な周波数ωp 毎の不連続なスペクトルであるため、所望の周波数に精密に変換することができない。
【0006】
【非特許文献1】
工藤恵栄・若木守明 著“基礎量子光学”現代工学社 1998年11月1日初版発行 318頁。
【非特許文献2】
PHYSICAL REVIEW Vol.166,NO.2(1968),p514〜530.
【非特許文献3】
Phys.Rev.B41,(1990)11657.
【非特許文献4】
J.Chem.Phys.vol.48(5),p2240,1968.
【非特許文献5】
Phys.Rev.Lett.vol.89,No.7,(2002)p076404.
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように、波長多重通信においては、広帯域な光周波数変換素子が極めて重要であるが、従来の素子では、所望の周波数に変換できない、周波数毎に位相整合を必要とする、変換効率が低い、といった課題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、広い周波数範囲に亘る信号光を所望の周波数に変換でき、周波数毎に光入射角の調整を必要とせずに一括して、かつ、変換効率が高い広帯域光周波数変換方法と、この方法を用いた広帯域光波長変換素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の広帯域光周波数変換方法は、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体、例えば反強磁性体、あるいは広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体に励起光と入力信号光を照射して、励起光と入力信号光との差周波数に相当するエネルギーを持つ複数の素励起、例えば、反強磁性体の2マグノン(2つのマグノン)、あるいは誘電体の2フォノン(2つのフォノン)を共鳴させ、励起光周波数と差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、以下のように信号光が所望の周波数帯に変換される。
物質に励起光と信号光を照射し、励起光と信号光と、励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの物質の素励起とを共鳴させて励起光周波数と差周波数との和の周波数の出力信号光が得られる現象は、CARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering:非特許文献1参照)と呼ばれる。この現象は、エネルギー保存則と運動量保存則を満たす場合に限られることから、励起光と信号光の周波数が特定の値の場合にのみ可能である。
【0011】
広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、光照射によって正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2つの素励起が同時に励起される物質である。例えば、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体として反強磁性体及びSrTiO3 等の誘電体が知られているが、反強磁性体の場合には正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのマグノンが同時に励起され(非特許文献2参照)、SrTiO3 は正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのフォノンが同時に励起される。
【0012】
光を照射して正負互いにほぼ打ち消しあう2つの素励起が同時に励起される場合、エネルギーと波数の分散関係上で異なる2点の素励起が組み合わされ、エネルギーの和を一定に保ちつつ素励起の運動量が任意に調節されほぼ打ち消されることが可能であり、その結果、エネルギー保存則と運動量保存則が広帯域な周波数領域で満たされるようになり、広帯域ラマン散乱スペクトルを有するようになる。例えば、一般にフォノンは結晶を構成する原子の振動であるので、波長は結晶の原子間隔程度となり、伝搬ベクトルすなわち運動量は光の運動量に比べて大きく、このため、運動量零のフォノンが励起される場合のみラマン散乱が可能であるが、正負互いに反対方向の伝搬ベクトルを有する2つのフォノンが同時に励起される誘電体の場合には、フォノンの運動量が互いに打ち消し合うことで、フォノンの全伝搬ベクトルの大きさがほぼ零となることが可能であり、このため、広帯域な周波数領域でラマン散乱が生ずる。
【0013】
本発明の方法は、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体をCARSにおける素励起媒体としたものであり、励起光と信号光の周波数が任意であってもCARSが生じる。従って、信号光を任意の周波数帯域に変換することができる。
この方法によれば、広い周波数範囲の信号光を一括して周波数変換できる。すなわち、極めて広帯域な光周波数変換が可能になる。
また、励起光の周波数を選択して照射することにより、入射信号光を所望の周波数の出力信号光に変換することができる。さらに、光入射角の調整の必要がなく一括して変換できる。さらにまた、CARSは、誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、例えば反強磁性体であれば良く、この場合には、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2マグノンが励起される。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体であっても良く、この場合には、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2フォノンが励起される。
【0014】
また、本発明の広帯域光波長変換素子は、上記の方法を用いたものであり、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体と励起光源と信号光源とから成り、励起光源からの励起光と信号光源からの信号光とを上記の固体に照射し、励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの上記の固体の複数の素励起とを共鳴させて、上記励起光の周波数と上記差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする。
ここで、本発明の広帯域光波長変換素子は、上記の固体が光導波路であれば好ましい。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、好ましくは、ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物である。
ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物は、好ましくは、YFeO3 またはYMnO3 である。
また、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体であっても良く、例えば、SrTiO3 であれば好ましい。
【0015】
この広帯域光波長変換素子によれば、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体が、正負互いにほぼ打ち消しあう波数ベクトルを有する2つの素励起を同時に励起することができるので、エネルギー保存則及び運動量保存則が常に満たされ、広い周波数範囲の信号光を所望の周波数帯域に変換することができる。
また、励起光の周波数を選択して照射することにより、入射信号光を所望の周波数の出力信号光に変換できる。また、光入射角の調整の必要がなく一括して変換することが可能になる。また、CARSは、誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
【0016】
さらに、広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体を光導波路として構成し、励起光、入力信号光及び出力信号光を光導波路に閉じ込めれば、相互作用が大きくなり、さらに高効率の広帯域光波長変換素子が形成できる。
また、ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物であるYFeO3 またはYMnO3 を使用すれば、3次の非線形光学効果が大きいので、変換効率が高い広帯域光波長変換素子が得られる。また、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体としてSrTiO3 を用いれば、3次の非線形光学効果が大きいので、変換効率が高い広帯域光波長変換素子が得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実質的に同一又は同等な構成要素には同一の符号を用いて説明する。
本発明は、本発明者らによる、フェライト酸化物やマンガン酸化物の超広帯域ラマンスペクトルの発見に基いて完成されたものである。
図1は、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す概念図である。図1(a)は本発明のバルク型の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す。また、図1(b)は本発明の導波路型の広帯域光周波数変換方法及び素子を示す。なお、下記の説明においては、素励起媒体として反強磁性体を例にとって説明するが、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体の場合においても同様である。
図1(a)に示すように、反強磁性体1に励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )を時間的及び空間的に重ねて入射させて、出力信号光4(周波数ω3 )を得る。なお、ω1 >ω2 であり、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 である。図1(b)に示すように、クラッドに比べ屈折率の高い反強磁性体1からなるコア1aに励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )を導波させて出力信号光4(周波数ω3 )を得る。反強磁性体1は、例えばペロブスカイト型遷移金属酸化物、またはペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物であるYFeO3 、またはYMnO3 である。
【0018】
次に、本発明の広帯域光周波数変換方法の作用を説明する。なお、下記の説明においては、素励起媒体として反強磁性体を例にとって説明するが、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体の場合においても同様である。
図2は、本発明に利用するCARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering)現象を模式的に示す図である。図2において、反強磁性体1に励起光2である励起フォトン2(周波数ω1 )と入力信号光3である入射信号フォトン3(周波数ω2 )を照射すると、励起フォトン2と入射信号フォトン3のエネルギー差に相当して反強磁性体1中に2マグノン5(周波数ωp 、ωp =ω1 −ω2 )が励起される。即ち、励起フォトン2は吸収されてエネルギーhω1 (hはプランクの定数)の準位L1に遷移し、準位L1は入力信号フォトン3による誘導放出によって、誘導放出フォトン6(周波数ω2 )を放出してエネルギーhωp の準位L2に遷移する。準位L2は、さらに励起フォトン2を吸収してエネルギーhω1 +hωp の準位L3に遷移し、準位L3は出力信号フォトン4(周波数ω3 =ω1 +ωp )を放出して基底準位L0に遷移する。
このように、励起光2(周波数ω1 )と入力信号光3(周波数ω2 )が同時に存在するとき、出力信号光4(周波数ω3 =ω1 +ωp )が放出されるので、高周波側に周波数変換された出力信号光4が得られる。
【0019】
上記のCARS現象が生じるためには、(1)エネルギー保存則を満たすために、エネルギーhωp =hω1 −hω2 のマグノン励起準位5が存在すること、及び、(2)運動量保存則を満足することが必要である。
そこで、先ず上記(1)について説明する。
マグノンは反強磁性体中のスピンが集団運動として励起される素励起であり、固体中のフォノンと同様に調和振動運動である。光を照射してマグノンを励起する場合、光の波長は固体の原子間隔よりはるかに長いために、波長の逆数に比例する光の運動量は固体中では実効的に零と見なされる。マグノンを一つ励起する場合には、運動量保存則により運動量=0を満たす狭帯域のマグノンしか励起されないが、他方、互いに運動量をうち消し合うような2つのマグノンを同時に励起する場合には運動量保存則の制約が緩和されるために、マグノンの分散関係を満たす任意の運動量を持つマグノンが励起可能となる。このために、同時に2つのマグノンを励起する2マグノン励起においては、エネルギー準位は連続的に存在し、励起光2の周波数ω1 と入力信号光3の周波数ω2 によらずに励起光2と入力信号光のエネルギー差に相当するhωp =hω1 −hω2 の2マグノン励起5が極めて広い周波数領域にわたって存在する。
また、本発明で利用する誘電体についても同様であり、励起光2の周波数ω1 と入力信号光3の周波数ω2 によらずに励起光2と入力信号光のエネルギー差に相当するhωp =hω1 −hω2 の2フォノン励起5が極めて広い周波数領域にわたって存在する。
【0020】
次に、上記(2)について説明する。
ペロブスカイト型遷移金属酸化物、またはペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物は可視光域に大きな振動子強度を有する。これは遷移金属原子のd軌道と酸素の2p軌道との重なりが大きいためである。スピン相関に加えて電子相関の非常に大きな典型的強相関化合物である。このような強相関酸化物のうちで、広帯域なラマンスペクトルを示す物質が見つかっている。例えば、銅酸化物においては、2000〜3000cm-1あたりにピークを有する広帯域なラマンスペクトルが観測されている(非特許文献3参照)。さらに、本発明者らによって、反強磁性体であるフェライト酸化物は、数百cm-1以下から〜6000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することが見出された。
一般にフォノンは結晶の対称性に応じて、ラマン活性/不活性、赤外吸収活性/不活性なものに分類される。誘電体においては通常、鋭い線構造を有するラマン散乱スペクトルが得られるが、例えば、SrTiO3 やKTiO3 においては、全てのフォノンがラマン不活性である一方で、2フォノン励起にともなう広帯域ラマン散乱スペクトルが観測される(非特許文献4参照)。
【0021】
図3はフェライト酸化物(YFeO3 )、マンガン酸化物(YMnO3 )及びチタン酸化物(SrTiO3 )のラマンスペクトルを示す図であり、図3(a)はYFeO3 、図3(b)はYMnO3 (非特許文献6参照)、図3(c)はSrTiO3 のラマンスペクトルを示している。図において、横軸はラマンシフト量を表し、縦軸はラマン強度を表す。
図3(a)からわかるように、YFeO3 は、数百cm-1以下から〜6000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することがわかる。また、図3(b)から、YMnO3 は、数百cm-1以下から〜2000cm-1に至る連続的な超広帯域ラマンスペクトルを有することがわかる。なお、図において、現れている鋭いピークは、フォノンに基づくラマンスペクトルである。同様に、図3(c)見られる広帯域なピークは、いずれもSrTiO3 の2フォノン励起に伴うピークである。
【0022】
このように広帯域かつ連続なラマンスペクトルが得られる理由は以下のように考えられる。
図4は、反強磁性体結晶のスピン配列を示す模式図である。図4において、横線と縦線の交点は反強磁性体結晶の格子点を表している。図に示すように、反強磁性体結晶においては、上向きスピン8と下向きスピン9が交互に格子点に整列しており、このようなスピン配列においてフォトンを照射してマグノンを励起すれば、同じエネルギーを有し、互いに進行方向が逆の伝搬ベクトル±kを有する2つのモードのマグノンが励起される。
フォトンとマグノンでは位相速度が異なり、またフォトンの周波数によっても位相速度が異なるので、一般に、入力フォトンとマグノンと出力フォトンとの間のエネルギー保存則が満たされても運動量保存則は必ずしも満たされるとは限らず、強磁性体等では広帯域なラマンスペクトルは観測されない。
しかしながら、反強磁性体結晶においては、伝搬ベクトル±kを有する2つのモードのマグノンが励起される過程が主にラマン散乱に寄与するので、任意の周波数の励起光と任意の周波数の入力信号光とに対して、伝搬ベクトル+kのマグノンのエネルギー、及び伝搬ベクトル−kのマグノンのエネルギーが調節されて励起されることにより、エネルギ保存則及び運動量保存則が満たされ、広帯域なラマンスペクトルが観測されると考えられる。
【0023】
従って、本発明の広帯域光周波数変換方法においては、反強磁性体結晶の2つのマグノンによって運動量保存則が満たされるため、励起光及び入力信号光の周波数によらずにCARS現象が生起され、励起光の周波数に励起光と入力信号光の差周波数を加えた周波数の出力信号光が得られる。
また、一般にフォノンは結晶を構成する原子の振動であるので、波長は結晶の原子間隔程度のオーダーとなり、光の波長よりも十分短い。そのために、波長の逆数すなわち伝搬ベクトルの大きさは光の伝搬ベクトルの大きさに比べて、ほとんど0であるようなフォノンのみが光によって励起可能になる。他方で、2つのフォノンが同時に励起される散乱過程においては反強磁性体における2マグノン励起と同様に、生成されるフォノン対が互いに運動量をうち消し合うことで、全体の運動量を0とすることが可能となり、広帯域にわたるフォノン励起が可能となる。
【0024】
図5は、本発明の広帯域光周波数変換方法による1.55μm帯域から1.3μm帯域への光周波数の一括変換を模式的に示す図である。図において横軸は周波数を表し、縦軸は光強度及び2マグノンの状態密度を表している。10は広い周波数領域に亘って連続的に分布する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起の準位密度を表す。
図5(a)は、励起光2が214THz(波長1.4μm)の場合に、194THz(波長1.55μm)の入力信号光3が、励起光2と入力信号光3の差周波数20THzに相当する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起準位に基づいて234THzの出力信号光4に変換されることを示している。図5(b)は、励起光2が214THz(波長1.4μm)の場合に、188THz(波長1.60μm)の入力信号光3が、励起光2と入力信号光3の差周波数26THzに相当する2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起準位に基づいて240THzの出力信号光4に変換されることを示している。図5(c)は図5(a),(b)と同様に複数の1.55μm帯域の入力信号光3が、一括して1.3μm帯域の出力信号4に変換されることを表している。
【0025】
上記に説明したように、本発明の広帯域光周波数変換方法及び装置によれば、広い周波数範囲の信号光を一括して周波数変換できる。また、励起光の周波数を選択することによって所望の周波数に変換できる。また、2マグノン、2フォノン、またはその他の広帯域素励起によって運動量保存則が満たされるので光入射角の調整の必要がなく一括して変換できる。さらに、CARS現象は誘導ラマン過程を伴うので変換効率が高い。
【0026】
次に、第1の実施例を示す。
フローティングゾーン法で作製したYFeO3 単結晶から(1−10)面方位の厚み0.6mmの薄板試料を作製した。
図6は、光周波数変換の測定系を示す図である。フェムト秒パルスレーザー装置11からフェムト秒パルスレーザー光12をパラメトリック光増幅器13に入力し、パラメトリック光増幅器13から出力されるシグナル光とアイドラー光をそれぞれ励起光パルス2と入力信号光パルス3として出力する。励起光パルス2は遅延回路14を経由させて行路長調整できるようにし、励起光パルス2と信号光パルス3を集光レンズ15で試料1上に集光する。試料1の出力面側にスクリーン16を配置し、さらにスクリーンの端にIR(赤外−可視変換)カード17を配置する。
【0027】
図6に示す配置で、周波数ω1 =214THz(波長1.4μm)、パワー10μJ/pulseのフェムト秒励起光パルス2と、周波数ω2 =158THz(波長1.9μm)、パワー10μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルス3とをYFeO3 薄板1に約2°の交差角をもってほぼ垂直に照射した。集光レンズ15及び遅延回路14を調節して2つのパルスが空間的、時間的に重なり合ったときにスクリーン16上に図6に示すような4つの肉眼で見える光点(18〜21)が明瞭に観察された。さらに、IR(赤外−可視変換)カード17をかざすと、さらにその外側にもう1つの光点22があることがわかった。
【0028】
5つの光点の波長はそれぞれ、図において右から(18−>22)、460nm(652THz)、510nm(588THz)、570nm(526THz)、630nm(476THz)、及び1.1μm(273THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及び、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
なお上記5光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0029】
次に第2の実施例を示す。
フラックス法で成長させたYMnO3 単結晶から(001)面方位の厚み0.1mmの薄板試料を作製した。第1の実施例と同じ測定系で、周波数ω1 =200THz(波長1.5μm)パワー10μJ/pulseのフェムト秒励起光パルスと、周波数ω2 =176THz(波長1.7μm)パワー10μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルスとを試料面に垂直に照射した。
5つの光点の波長はそれぞれ、500nm(600THz)、520nm(577THz)、540nm(556THz)、560nm(536THz)、及び1.3μm(231THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及びω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
【0030】
1.3μm光がω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 の関係を満たしているので、1.3μm光はCARS光であることがわかる。
また、ω1 −ω2 =900cm-1なのでフォノンとの共鳴によるCARS光ではなく、マグノンとの共鳴によるCARS光であることがわかる。
なお上記5光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0031】
次に第3の実施例を示す。
図6に示す配置で、周波数ω1 =206THz(波長1.46μm)、パワー4μJ/pulseのフェムト秒励起光パルス2と、周波数ω2 =169THz(波長1.78μm)、パワー4μJ/pulseのフェムト秒入力信号光パルス3とをSrTiO3 薄板1に約2°の交差角をもってほぼ垂直に照射した。集光レンズ15及び遅延回路14を調節して2つのパルスが空間的、時間的に重なり合ったときにスクリーン16上に図6に示すような4つの肉眼で見える光点(18〜21)が明瞭に観察された。さらに、IR(赤外−可視変換)カード17をかざすと、さらにその外側に光点22があることがわかった。
【0032】
5つの光点の波長はそれぞれ、図において右から(18−>22)、485nm(618THz)、516nm(581THz)、551nm(544THz)、592nm(507THz)、及び1.23μm(243THz)であり、周波数はそれぞれ、3ω1 、2ω1 +ω2 、ω1 +2ω2 、3ω2 、及び、ω3 =ω1 +ω1 −ω2 =2ω1 −ω2 にほぼ対応した。
なお上記光点のうち、可視域において観測された4光点(18〜21)は、3倍高調波発生により発生したもので、本発明の広帯域光周波数変換方法及び素子のCARS過程に基づく発光ではない。
【0033】
なお、上記の説明では、1.55μm帯域から1.3μm帯域への変換を例にとって説明したが、この帯域に限らず全ての帯域で動作可能なことは明らかである。また、反強磁性体無機結晶を例に説明したが、反強磁性体であれば動作可能であり、例えば有機物の反強磁性体でも動作可能なことは明らかである。
【0034】
次に、任意の波長の信号光が高周波帯域に変換される実施例を示す。
励起光周波数ω1 =230THz(λ1 =1301nm)、信号光周波数ω2 =199,187,182,176,171,164及び149THz(λ2 =1510,1602,1644,1644,1700,1759,1824及び2007nm)のそれぞれの信号光を反強磁性体であるYFeO3 に照射し、図6に示す配置でCARS光の周波数、及び強度を測定した。CARS光は励起光の伝搬ベクトルをk1 、信号光の伝搬ベクトルをk2 として、2k1 −k2 方向にスリットを配置し、CARS光のみを他の光から空間的に分離して、その光周波数及び強度を測定した。
【0035】
図7は任意の波長の信号光が高周波帯域に変換されたことを示す図である。横軸は観測された信号光の周波数の差Δωを示し、縦軸は信号光強度を示す。図から、信号光の周波数がいずれであっても高周波側に変換されることがわかる。
【0036】
【発明の効果】
上記説明から理解されるように、本発明によれば、広い周波数範囲にわたる信号光を所望の周波数に変換でき、周波数毎に光入射角調整を必要とせずに一括して、かつ、高い変換効率で変換することができる。
従って、本発明を次世代大容量光通信技術の本命として期待される光波長多重通信技術に用いれば、広帯域にわたってコーディングされた情報を一括して他の帯域に周波数変換することを可能にするので、光波長多重通信技術実現のためのブレークスルー技術の一つとなる発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の広帯域光周波数変換方法及び装置を示す概念図である。
【図2】本発明に利用するCARS(Coherent Anti−Stokes Raman Scattering)現象を模式的に示す図である。
【図3】フェライト酸化物(YFeO3 )、マンガン酸化物(YMnO3 )、及びチタン酸化物(SrTiO3 )のラマンスペクトルを示す図である。
【図4】反強磁性体結晶のスピン配列を示す模式図である。
【図5】本発明の広帯域光周波数変換方法による1.55μm帯域から1.3μm帯域への光周波数の一括変換を模式的に示す図である。
【図6】光周波数変換の測定系を示す図である。
【図7】任意の波長の信号光が高周波帯域に変換されたことを示す図である。
【図8】ラマンシフターの一般的な動作原理を説明するための図である。
【符号の説明】
1 反強磁性体
1a 反強磁性体導波路
2 励起光
3 入力信号光
4 出力信号光
5 マグノン準位
6 誘導放出フォトン
8 上向きスピン
9 下向きスピン
10 マグノン準位密度
11 フェムト秒レーザー装置
12 フェムト秒パルス光
13 パラメトリック光増幅器
14 遅延回路
15 集光レンズ
16 スクリーン
17 IRカード(赤外−可視)
18〜22 出力光スポット
Claims (9)
- 励起光と信号光を広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体に照射して、上記励起光と信号光と、この励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの上記固体の複数の素励起とを共鳴させて、上記励起光の周波数と上記差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする、広帯域光周波数変換方法。
- 前記広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は反強磁性体であり、前記複数の素励起は2マグノンであることを特徴とする、請求項1に記載の広帯域光周波数変換方法。
- 前記広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、広帯域2フォノンラマン散乱スペクトルを有する誘電体であり、前記複数の素励起は2フォノンであることを特徴とする、請求項1に記載の広帯域光周波数変換方法。
- 広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体と励起光源と信号光源とから成り、上記励起光源からの励起光と上記信号光源からの信号光とを上記固体に照射し、上記励起光と信号光の差周波数に対応するエネルギーの上記固体の複数の素励起とを共鳴させて、上記励起光の周波数と上記差周波数との和の周波数の出力信号光を得ることを特徴とする、広帯域光波長変換素子。
- 前記広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体が光導波路であることを特徴とする、請求項4に記載の広帯域光波長変換素子。
- 前記広帯域ラマン散乱スペクトルを有する固体は、反強磁性体または誘電体であることを特徴とする、請求項4または5に記載の広帯域光波長変換素子。
- 前記反強磁性体は、ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物であることを特徴とする、請求項6に記載の広帯域光周波数変換素子。
- 前記ペロブスカイト型遷移金属酸化物又はペロブスカイト型類似の遷移金属酸化物は、YFeO3 またはYMnO3 であることを特徴とする、請求項7に記載の広帯域光周波数変換素子。
- 前記誘電体は、SrTiO3 であることを特徴とする、請求項6に記載の広帯域光周波数変換素子。
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