JP3747724B2 - 溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、建築、橋梁、水圧鉄管、低温貯蔵タンク、圧力容器、ラインパイプ、船舶及び海洋構造物等に用いられる60キロ級溶接構造用鋼で、特に低温靭性に優れた鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築、橋梁、水圧鉄管、低温貯蔵タンク、圧力容器、ラインパイプ、船舶及び海洋構造物等の大型構造物が脆性破壊を生じた場合、経済、環境に及ぼす影響が大きいため、高度の安全性が求められている。そのため、これらの構造物に使用される鋼材に対し低温靭性が要求されることが多く、その要求水準は極寒地における開発、構造物の大型化、及び信頼性要求水準の引き上げなどにより年々厳しくなっている。また、比較的低温靭性の確保が難しい厚肉材の需要が増加している。
【0003】
鋼材の低温靭性を向上させる手段として、従来よりNi含有量を増加させる方法が知られており、液化天然ガス(LNG)の貯槽タンクにおいては、9%Ni鋼が商業規模で使用されている。しかし、Ni量の増加はコストを大幅に上昇させるため、LNG貯槽以外の用途には多量の添加は難しい。
【0004】
一方、溶接施工性の観点からは、低温割れを防止するために行う予熱温度の低下が求められており、近年、予熱フリーの鋼材の需要が急速に増加している。予熱温度を下げるためには、Ceq(WES),Pcmを低減する必要があり、Cを低減することが最も有効である。
【0005】
特にCを0.09%以下とした場合、予熱フリー化が実現される。しかし、Cの低下は強度を低下させるため、合金元素の添加が必須となるが、コスト的な制約からNi等の靭性向上に有効な元素を添加しない場合、上部ベイナイト組織、すなわち、ベイナイトラス間にセメンタイトが析出した組織となり、優れた低温靭性を得ることは極めて困難となる。
【0006】
このような問題を解決する方法として、加工熱処理により高靭化した570MPa級厚肉高張力鋼板およびその製造方法が、特開平10−158778号公報に開示されている。
【0007】
本技術では、鋼板のフェライト体積率を10〜40%とすることにより、組織を分断し、靭性を向上させることを意図している。しかし、フェライト体積率が大きくなると降伏強さを確保することが困難であり、引張強さ60キロ級鋼に要求される440MPa以上の降伏強さを厚肉鋼で満足することは困難である。
【0008】
また、その製造方法はオーステナイトの未再結晶温度域で強圧下を加えるものであり、鋼板に異方性が生じ、溶接部の超音波探傷試験において探傷不良を生じる場合がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、溶接施工性に優れた60キロ級厚肉鋼材に優れた低温靭性を付与する技術は未だ完成されていない。本発明は、溶接施工性に優れ、かつ優れた低温靭性を有する60キロ級高張力鋼およびその製造方法を提供するものであり、具体的には以下の性能を満足することを目的とする。降伏強さ:440MPa以上、引張強さ:570〜610MPa級、板厚方向1/4位置でのvTs:−70℃以下、溶接時の予熱:不要。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題の達成に向けて鋭意検討を重ね、高価な合金元素を多量に添加することなく、優れた溶接施工性と低温靭性を両立させた鋼材およびその製造方法を完成するに至った。すなわち、少ない合金元素の添加量で、強度を低下させることなく低温靭性を向上させるため、金属組織を最適化することを基本方針とし、光学顕微鏡レベル、さらには電子顕微鏡レベルで検討を行い、以下の知見を得た。
【0011】
60キロ級の強度を確保するため必須となる上部ベイナイトを主体とする組織では、靭性を支配する亀裂の発生または伝播が旧オーステナイト粒界において優先的に生じる。これを阻止するためには、粒界にフェライトを析出させ、亀裂の発生または伝播する個所をベイナイトパケット境界とすることが有効である。
【0012】
しかし、フェライトの体積分率が多くなりすぎる場合は強度が低下し、60キロ級鋼としての降伏強さおよび引張強さを満足することが出来ないため、フェライト相の体積分率が少なくても、低温靭性を向上させる組織形態が望ましく、旧オーステナイト粒界上に膜状フェライトを析出させ、ベイナイト相をベイナイトラス間隔をある一定値以下に細かくし、強化した組織が最も強度の低下が少なくかつ低温靭性向上に有効である。
【0013】
本発明はこれらの知見をもとに更に検討を加えてなされたものである。
【0014】
1.鋼組成として、質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.1〜0.5%、Mn:1.2〜1.8%、Cr:0.1〜0.5%、Nb:0.01〜0.05%、Sol.Al:0.002〜0.07%、N:0.001〜0.005%を含有し、且つ0.50≦Si+3Cr≦1.25%、B:0.0002%以下を満足する残部が鉄および不可避不純物からなり、質量%で、Pcm≦0.2%、Ceq(WES)≦0.42%を満たし、ベイナイトラス幅を2μm以下とし、旧オーステナイト粒界上に厚さ0.1〜5μmの膜状フェライトが20%以上の粒界占有率で析出した組織を有することを特徴とする溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼、
但し、Pcm=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B,Ceq(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/142。
【0016】
2.鋼組成として、更に質量%で、Mo:0.02〜0.3%、Cu:0.1〜0.6%の一種又は二種を含有する1記載の溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
【0017】
3.鋼組成として、更に質量%で、Ni:0.1〜0.5%を含有する1または2記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
【0018】
4.鋼組成として、更に質量%で、V:0.01〜0.08%を含有する1乃至3記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
【0019】
5.鋼組成として、更に質量%で、Ti:0.005〜0.02%,Ca:0.001〜0.004%の一種又は二種を含有する1乃至4記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
【0021】
6.鋼組成として、質量%で、P:0.01%以下,S:0.002%以下とすることを特徴とする1乃至5記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
【0023】
7.下記の工程を具備したことを特徴とする溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法、
(1)1乃至6の何れかに記載の鋼組成を有するスラブを1150℃以下に加熱する工程と、
(2)900〜1000℃の温度域でld/hm≧1.0の圧延を1パス以上行う工程と、
但し、ld:投影接触弧長 ld=(R・(hi−ho))/2
hm:平均板厚 hm=(hi+2ho)/3
R:ロール半径、hi:圧延前の板厚、ho:圧延後の板厚
(3)Ar3以上900℃未満の温度域で累積圧下率10〜50%で圧延する工程と、
(4)鋼材表面温度がAr3以上から冷却を96+開始し、鋼材表面温度が200℃以上の温度域で鋼材表面の冷却速度が40℃/秒以上となる冷却を実施し、鋼材平均温度が500℃以下において冷却を停止する工程。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明におけるミクロ組織、成分組成、製造条件の限定理由について説明する。
【0025】
1.ミクロ組織
本発明鋼のミクロ組織は、60キロ級の強度を確保するため、ベイナイト主体の組織とし、更に強度・靭性の観点からベイナイトラス幅、旧オーステナイト粒界上におけるフェライトの析出状態を規定する。本発明では、ベイナイト主体の組織に、その作用,効果を失わない範囲で、一部フェライト、パーライト等を含むことは差し支えなく、また、ベイナイトとは上部ベイナイトを主体としたベイナイトを意味するものとする。
【0026】
ベイナイトラス幅:2μm以下
低温靭性を向上させるため、粒界にフェライトを析出させると、強度が低下する。溶接施工時の予熱を不要とするため合金添加量を低下したにも拘わらず、コスト的な制約から、高価な合金元素を添加しない場合、厚肉鋼材では60キロ級の強度が満足できないことも生じる。
【0027】
そこで本発明では、ベイナイト相の強度に影響を与えるベイナイトラス幅を調整し、ベイナイトの下部組織を適正化する。ベイナイトラス幅は大きくなるほど、ベイナイトの強度は低下し、ラス幅が2μmを超えると厚肉材の場合、60キロ級鋼としての強度が不足するため、2μm以下とする。尚、ラスのサイズは靭性に影響を与えないことを確認した。
【0028】
粒界フェライト:旧オーステナイト粒界上で、厚さ0.1〜5μmの膜状に20%以上の占有率で析出
ベイナイト組織を高靭化するため、旧オーステナイト粒界上に膜状のフェライトを析出させる。旧オーステナイト粒内に析出したフェライトもベイナイトの高靭化に有効であるが、その効果は粒界上に比して小さいため、フェライトの析出サイトは粒界上とする。
【0029】
また、ポリゴナルなフェライトが析出すると強度の低下が大きくなるため、フェライトの析出形態は膜状とし、その膜厚は厚さが5μmを超えると強度の低下が大きく、0.1μm未満では高靭化の効果が明確でないため、0.1〜5μmとする。さらにフェライトの旧オーステナイト粒界上の占有率が、20%未満では高靭化の効果が明確でないため、20%以上とする。
【0030】
尚、粒界占有率は板厚方向に平行な断面を光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察した際、ある面積中に含まれる旧オーステナイト粒界の総長さに対する、旧オーステナイト粒界上に存在する膜状フェライトの長さの和の割合とする。
【0031】
2.成分組成
本発明では上述したミクロ組織により、60キロ級鋼としての強度を確保するが、溶接性等構造用鋼としての必要な特性を付与するため、成分組成において以下の限定を行う。
【0032】
Pcm:0.2%以下、Ceq(WES):0.42%以下
Pcmは溶接低温割れ性、Ceq(WES)は溶接熱影響部の靭性の指標で、Pcmが0.2%を超えた場合、予熱無しの溶接では低温割れが起こる可能性があり、Ceq(WES)が0.42%を超えた場合、大入熱溶接の熱影響部靭性が著しく劣化するため、それぞれ、0.2%以下、0.42%以下とする。
【0033】
更に、本発明鋼として好ましい具体的な成分組成は以下の通りである。
【0034】
C:0.04%以上、0.09%以下
Cは所定の強度を確保するため添加する。0.04%未満では厚肉材の場合、60キロ級の引張強度を確保することが困難で、0.09%を超えると溶接施工性を阻害するため、0.04%以上、0.09%以下とする。
【0035】
Si:0.1%以上、0.5%以下
Siは強力なフェライト生成元素であり、旧オーステナイト粒界に膜状のフェライトを生成させるため添加する。0.1%未満ではその効果が十分でなく、0.5%を超えると効果が飽和し、溶接熱影響部の靭性が著しく劣化するため、0.1%以上、0.5%以下添加する。
【0036】
Mn:1.2%以上、1.8%以下
Mnは所定の強度を確保するために添加する。1.2%未満では厚肉材の場合、60キロ級の引張強度を確保することが困難で、1.8%を超えると溶接熱影響部の靭性が著しく劣化するため、1.2%以上、1.8%以下とする。
【0037】
P:0.010%以下、S:0.002%以下
P,Sは不純物であり、中央偏析を軽減し、板厚中央の靭性および溶接性を向上させるため、Pは0.010%以下、Sは0.002%以下とする。
【0038】
Cr:0.1%以上、0.5%以下
Crは強力なフェライト生成元素で、旧オーステナイト粒界に膜状のフェライトを生成させるために添加する。0.1%未満ではその効果が不十分で、0.5%を超えると焼入れ性が著しく高まり、膜状のフェライトの生成が困難になるため、0.1%以上、0.5%以下添加する。
【0039】
Nb:0.01%以上、0.05%以下
Nbは、圧延時のオーステナイトの再結晶を抑制し、オーステナイト粒界を活性化させ、膜状フェライトの生成を容易とする。また、Nb炭窒化物として析出し、強度上昇に有効なため添加する。0.01%未満ではそれらの効果が不十分で、0.05%を超えると著しいNb炭窒化物の析出強化により靭性が劣化するため、0.01%以上、0.05%以下添加する。
【0040】
sol.Al:0.002%以上、0.07%以下
Alは脱酸のため添加する。sol.Al量で、0.002%未満の場合その効果が十分でなく、0.07%を超えて含有すると鋼材の表面疵が発生しやすくなるため、0.002%以上、0.07%以下添加する。
【0041】
N:0.001%以上、0.005%以下
Nは圧延加熱時、AlあるいはTiと結合し、AlN,TiNを生成し、オーステナイトを微細化させる。0.001%未満ではその効果が十分でなく、0.005%を超えて含有すると靭性が劣化するため、0.001%以上、0.005%以下とする。
【0042】
B:0.0002%以下
Bは本発明では不純物元素として扱う。冷却開始時、固溶Bとして存在すると、旧オーステナイト粒界における膜状フェライトの生成が抑制されるため、溶解原料の選別などにより、0.0002%以下に規制する。
【0043】
Si+3Cr:0.50%以上、1.25%以下
本パラメータは上記成分範囲で構成される鋼の旧オーステナイト粒界に膜状のフェライトを生成させるためのものであり、Si+3Crが0.50%未満ではその効果が十分でなく、1.25%を超えると過度の焼入れ性により膜状のフェライトの生成が抑制されるため、0.50%以上、1.25%以下とする。
【0044】
基本成分組成は以上のとおりで、十分に本発明の目的を達成できるが、更に特性を向上させる場合、Mo,Cu,Ni,V,Ti,Caを添加させることができる。
【0045】
Mo:0.02%以上、0.3%以下、Cu:0.1%以上、0.6%以下の一種または二種
Moは強度を向上させ、特に厚肉材で有効なため、添加する。0.02%未満ではその効果が十分でなく、0.3%を超えると溶接性および溶接熱影響部の靭性が著しく劣化するため、0.02%以上、0.3%以下とする。
【0046】
Cuは強度を向上させるため添加する。0.1%未満ではその効果が十分でなく、0.6%を超えて添加するとCu割れの懸念が高まるため、0.1%以上、0.6%以下とする。
【0047】
Ni:0.1%以上、0.5%以下
Niは靭性を向上させるため添加する。0.1%未満ではその効果が十分でなく、0.5%を超えると鋼材コストの上昇が著しくなるため、0.1%以上、0.5%以下とする。
【0048】
V:0.01%以上、0.08%以下
Vは炭化物として析出し、強度を向上させるため添加する。0.01%未満ではその効果が十分でなく、0.08%超えでは、著しいV炭化物の析出強化により靭性が劣化するため、0.01%以上、0.08%以下とする。
【0049】
Ti:0.005%以上、0.02%以下、Ca:0.001%以上、0.004%以下の一種または二種
Ti,Caは、母材靭性ならびに溶接熱影響部の靭性を向上させるため添加する。Tiは圧延加熱時あるいは溶接時、TiNを生成し、オーステナイト粒径を微細化するが、0.005%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.02%を超えて添加すると圧延時にTiNbの複合炭化物が析出し、Nb炭窒化物の析出量が不足するようになり、強度が低下するため、0.005%以上、0.02%以下とする。
【0050】
CaはCa硫酸化物として鋼中に存在し、圧延加熱時あるいは溶接時にオーステナイト粒径を微細化する。0.001%未満ではその効果が十分でなく、0.004%を超えて添加すると多量のCa硫酸化物により清浄度を著しく劣化させるため、0.001%以上、0.004%以下とする。
【0051】
3.製造条件
本発明のミクロ組織は、例えば、以下の工程を備えた製造方法により達成される。各工程について説明する。
【0052】
スラブを1150℃以下に加熱する工程
スラブ加熱温度は、1150℃を超えると、オーステナイト結晶粒が急激に粗大化し、その後の圧延によっても細粒化が困難となり、低温靭性が劣化する場合があるため、1150℃以下とする。
【0053】
900〜1000℃の温度域でld/hm≧1.0の圧延を1パス以上行う工程
但し、ld:投影接触弧長 ld=(R・(hi−ho))/2
hm:平均板厚 hm=(hi+2ho)/3
R:ロール半径、hi:圧延前の板厚、ho:圧延後の板厚
オーステナイト粒径を微細化し、靭性を向上させるため、Nb含有鋼における再結晶温度の低温域である900〜1000℃において、ld/hm≧1.0を満たす圧延を1パス以上行い、回復の早い温度域で板厚中央部まで有効に加工歪を導入する。
【0054】
圧延温度は、900℃未満では再結晶が十分でなく、1000℃を超えると再結晶粒が大きくなるため、900〜1000℃とする。ld/hmは、1.0未満の場合、板厚中央部に再結晶を励起するのに十分な加工歪みが加わらないため、1.0以上とする。
【0055】
Ar3以上900℃未満の温度域で累積圧下率10〜50%で圧延する工程
靭性を向上させるため、Nb含有鋼の未再結晶温度域において累積圧下により加工歪を蓄積し、フェライト変態を促進する。圧延温度は、Ar3未満では冷却開始時にフェライト変態の進行により焼入れ性が低下し、所定の強度が得られず、900℃以上では再結晶により、加工歪が蓄積されずフェライト変態が不十分となるため、Ar3以上900℃未満の温度域とする。
【0056】
累積圧下率は、10%未満ではフェライト変態が促進されず、50%を超えるとその効果が飽和し、鋼材の異方性が急激に増大するため、10〜50%とする。
【0057】
鋼材表面温度がAr3以上から冷却を開始し、鋼材表面温度が200℃以上の温度域で鋼材表面の冷却速度が40℃/秒以上となる冷却を実施し、鋼材平均温度が500℃以下において冷却を停止する工程。
圧延後の冷却は、所定の強度、靭性が得られる焼入れ性を確保するため、鋼材表面温度をAr3以上とし、冷却開始時の組織をオーステナイト単相とする。Ar3は例えば、Ar3=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Moとして求められる。
【0058】
冷却速度は、所定の強度が得られるベイナイトラス幅とするため、40℃/秒以上とする。冷却速度は、工業的な測定方法として、冷却開始時と冷却停止時の鋼材表面温度の差を冷却時間で除して求めるが、冷却停止が200℃以下の場合、鋼板表面温度と冷却水の温度差が小さくなり、見かけ上冷却速度が急激に低下するため、冷却開始から鋼材表面温度が200℃の温度域とする。
【0059】
冷却停止が200℃超えの場合は、冷却開始から該冷却停止の温度域とする。冷却は、冷却停止後、所定の強度を有するベイナイト主体の組織に変態させるため、鋼材平均温度500℃以下において停止する。この場合、鋼材平均温度は、冷却停止後鋼材の表面が鋼材内部の潜熱により復熱した後の温度にほぼ等しいことから、鋼材表面の復熱温度で近似することができる。
【0060】
【実施例】
表1に実施例に用いた供試鋼の成分を示す(表示しない残部は実質的にFeおよび不可避不純物よりなる)。これらの化学成分を有する鋳片を加熱後、板厚30〜100mmの鋼板に圧延、冷却した。表2に製造条件、表3に鋼板の特性を示す。
【0061】
ミクロ組織を、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡により観察し、ベイナイトラス幅とフェライトの析出状態を測定した。機械的特性として、強度,靭性を求めた。引張試験は板厚1/4より採取したJIS G14号(14Φ)試験片を用いた試験とし、衝撃試験は、板厚1/4より長手方向が圧延方向と直角となるように採取した2mmVノッチシャルピー衝撃試験片(JIS4号標準試験片)を用いた試験とした。
【0062】
以下、実施例について詳細に説明する。表1における鋼種A〜Hは請求項1〜8の何れかに記載の成分組成を満足し、鋼種I,JはCeq(WES),Pcmの規定が本発明範囲外で、鋼種K,LはSi+3Crが発明の範囲外で比較例となっている。表2,3における鋼番1〜13は鋼種A〜Hを用いた製造例で請求項1〜11のいずれかに記載の発明の実施例となっている。vTsはー70℃以下で良好な低温靭性が得られている。
【0063】
鋼番14は加熱温度が高く、鋼番15は900〜1000℃での圧延を省略したため、vTsがー70℃超えとなり靭性が低い。鋼番16は冷却速度が遅く、ベイナイトラス幅が大きく、強度が低い。鋼番17はオーステナイトの未再結晶温度域での圧延を省略したため、フェライト生成量が少なく、靭性に劣っている。鋼番18は冷却速度が遅くベイナイトラス幅が大きく、またフェライトも厚くなりすぎ、強度,靭性ともに劣っている。
【0064】
鋼番19はオーステナイト未再結晶域での累積圧下が多すぎ、鋼板の異方性が大きくなっている。鋼番20は冷却停止温度が高すぎたため、鋼番21は冷却開始温度がAr3よりも低くなってしまったため、共にフェライトが膜状でなくポリゴナルに析出したため、強度が低い。鋼番22,23はCeq,Pcmが本発明範囲外で、溶接性が劣化している。鋼番24,25はSi+3Crの値が発明の範囲内でなく、フェライトの析出が十分でなく靭性に劣っている。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、高価な合金元素を用いずに、低温靭性及び、溶接性に優れた厚肉60キロ級鋼とその製造方法の提供が可能で、産業上、その効果は極めて大きい。
Claims (7)
- 鋼組成として、質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.1〜0.5%、Mn:1.2〜1.8%、Cr:0.1〜0.5%、Nb:0.01〜0.05%、Sol.Al:0.002〜0.07%、N:0.001〜0.005%を含有し、且つ0.50≦Si+3Cr≦1.25%、B:0.0002%以下を満足する残部が鉄および不可避不純物からなり、質量%で、Pcm≦0.2%、Ceq(WES)≦0.42%を満たし、ベイナイトラス幅を2μm以下とし、旧オーステナイト粒界上に厚さ0.1〜5μmの膜状フェライトが20%以上の粒界占有率で析出した組織を有することを特徴とする溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼、
但し、Pcm=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B,Ceq(WES)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14。 - 鋼組成として、更に質量%で、Mo:0.02〜0.3%、Cu:0.1〜0.6%の一種又は二種を含有する請求項1記載の溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
- 鋼組成として、更に質量%で、Ni:0.1〜0.5%を含有する請求項1または2記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
- 鋼組成として、更に質量%で、V:0.01〜0.08%を含有する請求項1乃至3記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
- 鋼組成として、更に質量%で、Ti:0.005〜0.02%,Ca:0.001〜0.004%の一種又は二種を含有する請求項1乃至4記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
- 鋼組成として、質量%で、P:0.01%以下,S:0.002%以下とすることを特徴とする請求項1乃至5記載の何れかに記載の溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼。
- 下記の工程を具備したことを特徴とする溶接性及び靭性に優れた60キロ級高張力鋼の製造方法、
(1)請求項1乃至6の何れかに記載の鋼組成を有するスラブを1150℃以下に加熱する工程と、
(2)900〜1000℃の温度域でld/hm≧1.0の圧延を1パス以上行う工程と、
但し、ld:投影接触弧長 ld=(R・(hi−ho))/2
hm:平均板厚 hm=(hi+2ho)/3
R:ロール半径、hi:圧延前の板厚、ho:圧延後の板厚
(3)Ar3以上900℃未満の温度域で累積圧下率10〜50%で圧延する工程と、
(4)鋼材表面温度がAr3以上から冷却を開始し、鋼材表面温度が200℃以上の温度域で鋼材表面の冷却速度が40℃/秒以上となる冷却を実施し、鋼材平均温度が500℃以下において冷却を停止する工程。
Priority Applications (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP2000008059A JP3747724B2 (ja) | 2000-01-17 | 2000-01-17 | 溶接性および靭性に優れた60キロ級高張力鋼及びその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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