JP3754850B2 - 固定化用担体、発酵生産物の製造方法、及び発酵生産物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固定化用担体、発酵生産物の製造方法、及び発酵生産物に関し、より詳しくは、微生物及び/又は酵素を担持させることが可能な固定化用担体、その固定化用担体を用いた発酵生産物の製造方法、及び、その発酵生産物の製造方法によって製造される発酵生産物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バイオテクノロジーの発展により、麦芽アルコール飲料(ビール及び麦芽を用いた発泡酒)、ワイン、清酒、酢、醤油等の醸造分野において固定化微生物を利用したバイオリアクターによる発酵生産物の製造が検討されており、このようにバイオリアクターを用いることによって、
(1)高濃度の酵母等の微生物や酵素(以下、「微生物等」という)を固定化して発酵を行なうため醸造が速く終了し、醸造期間の短縮が可能となり、それに伴って製造タンクの本数及び建設費の低減が可能となる、
(2)連続発酵が可能となるため微生物等の投入・回収が不要となる、
といったことが期待されている。
【0003】
このような発酵に用いられるバイオリアクターとしては、その形式の違いから完全混合槽型、充填層型、膜型、流動層型、及び横型等の反応器(リアクター)が挙げられる。バイオリアクターを用いて醸造用原料の分解によってアルコールと炭酸ガス等を産生する発酵、例えば、ビール等の主発酵を行う場合には、流動層型リアクターが好適である。また、バイオリアクターで用いられる固定化微生物は、微生物等が担体に担持されて固定化されたものであり、流動層型リアクターで用いる担体には、発酵によって生じる炭酸ガス等の排出を阻害せず、かつ、耐摩耗性、流動性に優れるといった特性が要求される。
【0004】
このような要求を満たす担体としては、キトサン、焼結ガラス等種々の材質から成るものが挙げられるが、耐摩耗性、流動性等の観点からキトサン系の固定化用担体が好ましい。このようなキトサン系の固定化用担体としては、一般に多孔質の球状体のものが用いられている。図4は、このような固定化用担体の一例の内部構造を模式的に示す断面図である。図4に示すように、固定化用担体20はキトサン21から成る球状体に複数の細孔22が設けられており、また、内部に中空部23を有している。そして、細孔22及び中空部23の内表面に微生物等が担持された状態でバイオリアクター内に配置される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような構造の固定化用担体20に微生物等を担持させて固定化したものを流動層型リアクターに用いて発酵を行うと、固定化用担体20の一部又は大部分が容器内で浮上してしまい、ときには流動層型リアクターが閉塞してしまうことがあった。その結果、固定化用担体20の流動化の阻害、ガス成分の排出の阻害、反応効率(発酵効率)の低下といった弊害が生じ、発酵が不安定となる虞があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、発酵によって生じるガス成分の滞留が防止され、流動層型リアクター内で良好な流動性を達成することができ、これにより発酵効率を高く維持しつつ安定な発酵を実施できる固定化用担体を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような固定化用担体を用いることにより、発酵を高効率かつ安定的に行うことが可能な発酵生産物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、発酵が良好に行われて良好な香味を有する発酵生産物を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭酸ガス等のガス成分の固定化用担体内部への滞留による担体の浮上性と、固定化用担体の内部構造及び表面構造が密接に関係することを見出した。そして、この知見に基づいて更に研究を行い、従来の固定化用担体においては、極めて小径の細孔が多く設けられており、発酵によって中空部内で発生したガス成分が十分に外部へ放出され難いと推定された。この推定から、中空部内にガス成分が滞留して固定化用担体に浮力が与えられ、固定化用担体が浮上してしまうものと判断された。そこで、固定化用担体を改良し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の固定化用担体は、略球状を成し、表面及び内部に細孔が設けられており、微生物等を担持した状態でバイオリアクター内に配置され、キトサン系ビーズからなるものであって、平均外径が1.5〜4.0mmであり、上記表面を平滑面とみなしたときのその平滑面の全面積が7.0〜50.0mm2であり、上記表面に開口している細孔(以下、「表面細孔」という)が下記式(1)及び(2);
S1≦S0×0.035 …(1)
S2≧S0×0.150 …(2)
[式中、S0(mm2)は、上記平滑面の全面積を示し、S1(mm2)は、表面細孔のうち開口面積が20μm2以下のものの合計面積を示し、S2(mm2)は、表面細孔のうち開口面積が300μm2以上、好ましくは300〜3300μm2のものの合計面積を示す。]、
好ましくは、下記式(5)及び(6);
S1≦S0×0.015 …(5)
S2≧S0×0.250 …(6)
に示す関係を満たすように設けられたことを特徴とする。
【0009】
このように構成された固定化用担体は、表面細孔、及び内部に設けられた細孔(以下、「内部細孔」という)によって全体が三次元網目構造となっており、原料液(発酵の対象となる液)の良好な発酵を行うのに十分な量の微生物等を担持することができる。また、この固定化用担体は、略球状を成しており、その平均外径が1.5〜4.0mmとされたものである。この平均外径が、1.5mm未満であると、固定化用担体に十分な量の微生物等を担持させ難くなるとともに、固定化用担体をバイオリアクター、特に流動層型リアクター中に配置したときに、固定化用担体の良好な流動性を確保し難くなって発酵効率が低下する傾向にある。一方、その平均外径が4.0mmを超えると、バイオリアクター内の固定化用担体の収容密度が疎となり、原料液と微生物等との実質的な接触面積が減少して発酵効率が低下する傾向にある。更に、固定化用担体が球状を成しているので、角部を有する場合に比して、固定化用担体相互の接触や擦過による損傷や磨耗を受け難くなる。
【0010】
このような固定化用担体と原料液とが接触すると、原料液がその三次元網目構造の内部に浸透し、固定化用担体に担持された微生物等と原料液とが十分に接して発酵が良好に行われる。このとき、微生物等を担持した固定化用担体の内部では、微生物等による原料液の発酵によって炭酸ガス等のガス成分が発生するが、そのガス成分は、固定化用担体の内部に殆ど滞留することなく、固定化用担体の内部細孔及び表面細孔を通して外部へ放出されることが確認された。
【0011】
ここで、上記の平均外径を有する固定化用担体の表面を平滑面、すなわち略球面とみなしたとき、その平滑面の全面積は7.0〜50.0mm2とされている。そして、表面細孔のうち開口面積が20μm2以下のもの(便宜上、「微細孔」という)の合計面積が上記式(1)に示すように上記平滑面の全面積の3.5%以下であると、微生物等を担持した固定化用担体の内部で発生したガス成分がそのような微細孔で遮断されて外部へ放出され難くなることが有効に防止される。よって、固定化用担体の内部にガス成分が滞留し難い。従って、この固定化用担体が原料液に浮上してしまうことが防止され、良好な流動性を達成することができる。その結果、固定化用担体を流動層型リアクターに用いても、従来に比して、原料液の発酵効率を極めて高く維持しつつ安定な発酵を行うことができる。また、表面細孔のうち開口面積が300μm2以上のもの(便宜上、「大細孔」という)の合計面積が上記式(2)に示すように上記平滑面の全面積の15%以上であると、固定化用担体の内部で発生したガス成分が外部へ更に放出されやすくなる。よって、固定化用担体の内部にガス成分が滞留することを一層防止することができ、固定化用担体が原料液に浮上することが十分に防止され、良好な流動性を確実に達成することができる。また、このような大細孔の面積が3300μm2を超えると、十分な量の微生物等を担持し難い傾向にあるため、大細孔の面積は3300μm2以下であることが望ましい。
【0012】
また、本発明の固定化用担体は、略球状を成し、表面及び内部に細孔が設けられており、微生物等を担持した状態でバイオリアクター内に配置され、キトサン系ビーズからなるものであって、平均外径が1.5〜4.0mmであり、上記表面を平滑面とみなしたときのその平滑面の全面積が7.0〜50.0mm2であり、その平滑面の単位面積当たりの上記表面に開口している細孔数が、3000〜9000個/mm2であり、上記表面に開口している細孔が下記式(3)及び(4);
N1≦N0×0.55 …(3)
N2≧N0×0.03 …(4)
[式中、N0(個)は上記表面に開口している単位面積当たりの表面細孔の全個数を示し、N1は、表面細孔のうち開口面積が20μm2以下のものの単位面積当たりの合計個数を示し、N2(個)は表面細孔のうち開口面積が300μm2以上、好ましくは300〜3300μm2のものの単位面積当たりの合計個数を示す。尚、ここでの「単位面積」は上記平滑面における単位面積を示す。]、
好ましくは、下記式(7)及び(8);
N1≦N0×0.45 …(7)
N2≧N0×0.10 …(8)
に示す関係を満たすように設けられたことを特徴とする。
【0013】
このような構成の固定化用担体では、上述した本発明の固定化用担体と同様に、微生物等を担持した固定化用担体の内部で発生するガス成分の外部への放出性に優れており、上記固定化用担体の原料液中での浮上防止と良好な流動性が達成される。そして、微細孔の合計個数が上記式(3)に示すように表面細孔の全個数の55%以下であると、上記固定化用担体の内部で発生したガス成分が微細孔で遮断されて外部へ放出され難くなることが有効に防止される。また、大細孔の合計個数が上記式(4)に示すように表面細孔の全個数の3%以上であると、上記固定化用担体の内部で発生したガス成分が極めて外部へ放出されやすくなる。従って、固定化用担体が原料液に浮上してしまうことが十分に防止され、良好な流動性を確実に達成することが可能となる。その結果、原料液の発酵効率を高く維持しつつ安定な発酵を実施できる。また、このような構成において、固定化用担体としてキトサン系ビーズを用いることを、好ましい態様として本発明の特徴とする。
【0014】
また、本発明の発酵生産物の製造方法は、固定化微生物が内部に配置されたバイオリアクターを用いて発酵を行うことにより発酵生産物を製造する方法であって、固定化微生物として、本発明の固定化用担体に微生物等を担持させて固定化したものを用い、バイオリアクターとして、固定化微生物が内部に配置された流動層部を備えた流動層型リアクターを用いることを特徴とする。
【0015】
このような発酵生産物の製造方法においては、本発明の固定化用担体を用いているため、流動層部において従来のような微生物を担持した固定化用担体が原料液に浮上してしまうことが防止されるとともに、流動層部での固定化用担体の流動性が良好となる。よって、流動層型リアクターの閉塞が抑えられ、発酵効率の低下やガス成分の排出が阻害される虞を格段に低減することができる。従って、発酵を高効率かつ安定に行うことが可能となる。また、その結果、発酵生産物の生産性及び量産性をも向上させることができる。また更に、流動層型リアクターを用いると、他の形式のバイオリアクターに比べ、発酵によって生成したガス成分を系外に排出しやすいという利点がある。
【0016】
更に、このような発酵生産物の製造方法において、発酵により得られた発酵生産物を流動層型リアクターから取り出すとともに、その流動層型リアクターに新たな原料液を供給して発酵を反復実施すると好適である。
【0017】
また、本発明の発酵生産物の製造方法は、固定化微生物が内部に配置されたバイオリアクターを用いて発酵を行うことにより発酵生産物を製造する方法であって、固定化微生物として、本発明の固定化用担体に微生物等を担持させて固定化したものを用い、バイオリアクターとして、固定化微生物が内部に配置された流動層部と、流動層部の下流側から発酵液(発酵が進行している原料液)の一部を抜き出してその流動層部の上流側に戻す液循環部とを備えた流動層型リアクターを用いることを特徴とする。
【0018】
このような発酵生産物の製造方法においては、本発明の固定化用担体を用いているため、流動層部において従来のような微生物等を担持した固定化用担体が原料液に浮上してしまうことが防止されるとともに、流動層部での固定化用担体の流動性が良好となる。よって、流動層型リアクターの閉塞が抑えられ、発酵効率の低下やガス成分の排出が阻害される虞を格段に低減することができる。従って、発酵を高効率かつ安定に行うことが可能となる。また、その結果、発酵生産物の生産性及び量産性をも向上させることができる。更に、発酵液が循環される等によって発酵中に生成したガス成分が流動層部に滞留することが一層防止されるので、発酵効率をより一層確実に維持することが可能となる。また更に、流動層型リアクターを用いると、他の形式のバイオリアクターに比べ、発酵によって生成したガス成分を系外に排出しやすいという利点がある。
【0019】
更に、流動層部の下流側から発酵液の一部を抜き出してその流動層部の上流側に戻すことにより流動層を形成させつつ発酵を行い、得られた発酵生産物を流動層型リアクターから取り出すとともに、その流動層型リアクターに新たな原料液を供給して発酵を反復実施すると好適である。このようにすると、発酵が終了した後、発酵液の循環を停止して発酵が終了した液を流動層型リアクター外に抜き出すと同時、又はその直後に、流動層型リアクターに新たな原料液を供給するので、発酵を反復かつ回分して行いやすくなる。このようにすれば、固定化微生物と原料液との接触が高められ、発酵中の微生物の増殖や固定化微生物の更新が適度に行われ、リアクター内の微生物菌体の分布や活性が良好に保たれる。
【0020】
また、反復回分式の処理を行い得るので、微生物(菌体)の生理状態や増殖挙動が従来からの伝統的な酒類製造の場合と類似し、これにより発酵生産物製品に一層良好な香味を付与できる傾向にある。 従って、本発明により、醸造期間の短縮化や微生物等の投入・回収作業が不要であるという従来のバイオリアクター利用による製造効率のメリットに付け加え、品質面でも好ましい製品を提供することが期待できる。
【0021】
更に、上記微生物等としては酵母、例えば、酒類酵母が挙げられ、酒類酵母を用いると、発酵生産物としての酒類を効率よく製造することができる。また、酒類酵母としてビール酵母を用いると、酒類としての麦芽アルコール飲料を効率よくかつ良好な香味を呈するように製造することが可能となる。特に、本発明の固定化用担体は、酒類酵母等の酵母の担持性、及び上述したように発酵によって生成するガス成分の放出性に特に優れているので、ビールや発泡酒のような麦芽アルコール飲料を生産するための発酵に使用するとその効果が最大限に引き出される。そして、本発明の発酵生産物は、本発明の発酵生産物の製造方法により製造されたものであることを特徴とする。本発明の発酵生産物の製造方法で得られる麦芽アルコール飲料等は、極めて豊潤で華やかなエステル香味を有するものとなる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明による固定化用担体の一実施形態の内部構造を模式的に示す断面図である。図1に示すように、固定化用担体10は、略球状を成しており、表面及び内部に細孔12が設けられたものである。尚、図1には、説明の便宜上、細孔12の形状及び数量を実際とは異なって示している。図1に示すように、固定化用担体10は、その内部に大きな中空部を有しておらず、表面細孔と内部細孔によっていわゆる三次元網目構造が形成されており、これら細孔12の内表面に微生物等を担持することが可能である。そして、微生物等が細孔12の内表面に担持されて固定化された状態でバイオリアクターに充填される。また、この固定化用担体10の平均外径は1.5〜4.0mmとされており、表面を平滑面とみなした場合にその平滑面は略球面となり、その平滑面の全面積は7.0〜50.0mm2となっている。
【0023】
図2は、固定化用担体10の表面の一部を示す模式拡大図である。図2に示すように、固定化用担体10は上記平滑面14に表面細孔13が多数設けられた外観を呈している。ここで、固定化用担体10においては、表面細孔13が下記式(1)〜(4);
S1≦S0×0.035 …(1)
S2≧S0×0.150 …(2)
N1≦N0×0.55 …(3)
N2≧N0×0.03 …(4)
[式中、S0(mm2)は、略球面である平滑面14の全面積を示し、S1(mm2)は、表面細孔13のうち開口面積が20μm2以下のものの合計面積を示し、S2(mm2)は、表面細孔13のうち開口面積が300μm2以上、好ましくは300〜3300μm2のものの合計面積を示し、N0(個)は上記表面に開口している表面細孔13の単位面積当たりの全個数を示し、N1は、表面細孔13のうち開口面積が20μm2以下のものの単位面積当たりの合計個数を示し、N2(個)は表面細孔13のうち開口面積が300μm2以上、好ましくは300〜3300μm2のものの単位面積当たりの合計個数を示す。尚、平滑面14は、表面細孔13の開口面を含む。]、
好ましくは下記式(5)〜(8);
S1≦S0×0.015 …(5)
S2≧S0×0.250 …(6)
N1≦N0×0.45 …(7)
N2≧N0×0.10 …(8)
[式中、S0、S1、S2、N0、N1及びN2は、上記式(1)〜(4)におけるのと同じ。]
に示す関係を満たすように設けられている。
【0024】
固定化用担体10の材質としては、特に制限されず種々の公知のものが使用できるが、特にキチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナン、セルロースが好ましく、とりわけキチン・キトサンが好ましい。ここでいうキチンとは、N−アセチルグルコサミンホモポリマー又はN−アセチルグルコサミンとグルコサミンの共重合体のうち酸水溶液に溶解しないものであり、キトサンとは、グルコサミンホモポリマー又はグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの共重合体のうち酸水溶液に溶解するものである。そして、固定化用担体10として好ましいキトサン系ビーズは後述の如くして製造することができるが、用いるキトサンは特に制限されず、アセチル化の程度や分子量等は、適宜選定すればよい。また、このような固定化用担体10に微生物等を担持させて固定化するのに先立ち、一般に殺菌が行われるが、その殺菌の方法は任意であり、例えば、加圧滅菌法、苛性ソーダによる殺菌法、蒸気による殺菌法等が用いられ、これらのなかでは、加圧減菌法或いは蒸気による殺菌法が好ましい。また、固定化用担体10に微生物等を固定化する方法も特に制限されず、例えば微生物等の懸濁液に固定化用担体10を加えて攪拌又は液を循環させる方法が挙げられ、或いは、その他の公知の方法であってもよい。
【0025】
この固定化用担体10の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
(1)まず、平均分子量が数万程度のキトサンと、平均分子量が数万程度のポリエチレングリコールを酢酸水溶液に溶解する。この溶液を苛性ソーダ、エタノール及び水から成る混合溶液中に、孔直径が0.1〜0.4mm、好ましくは0.2〜0.3mmであるノズルから一定量ずつ滴下させて凝固再生させた後、中性になるまで充分水洗し、粒子の平均外径が1.5〜4.0mmの多孔質キトサン粒状体を得る。上記混合溶液の温度は、好ましくは15〜40℃、より好ましくは20〜35℃とされる。このとき、溶液温度等を調整してキトサンの析出(凝固)速度を調節することにより、本発明の固定化用担体に特徴的な細孔分布を良好に得ることが可能となる。ここで得られる多孔質キトサン粒状体の表面に開孔している細孔の大きさは、本発明の担体と比べると小さいため、引き続いて酸処理をすることが好ましい。
【0026】
(2)この酸処理は、上記(1)の如くして得られた多孔質キトサン粒状体の付着水を除去後、数%程度の酢酸水溶液中に、好ましくは15〜40℃、より好ましくは20〜35℃で数分程度浸漬処理した後、直ちに中性になるまで水洗を行えばよい。これにより、本発明の固定化用担体が得られるが、この担体を発酵に供したとき、発酵液が酸性になると担体が溶解してしまう恐れがあり、必要に応じてアセチル化処理をしてもよい。
【0027】
(3)アセチル化処理は、上記(2)で得られた酸処理済み多孔質キトサン粒状体に含まれる水をエタノールで充分置換後、無水酢酸を含むエタノールを加え、好ましくは15〜40℃、より好ましくは20〜35℃の温度において、十数時間反応させる。その後、未反応の無水酢酸をエタノールで充分除去した後、含まれるエタノールを水で充分置換すればよい。
【0028】
また、固定化用担体10に担持させる微生物等としては、発酵対象となる原料液、及びその発酵に適したもの、例えば、酵母、乳酸菌、酢酸菌等が挙げられ、目的に応じて選択することができる。また、酵母としては、サッカロミセス・セレビシェ、サッカロミセス・ウバルム等を使用することが可能である。この酵母の形態としては、凝集性及び非凝集性のものが挙げられ、いずれを用いても構わない。
【0029】
ここで、酵母の凝集性は、例えば、同じサッカロミセス・セレビシェであっても、醸造用水、原料組成、通気条件、酵母の培養条件、発酵容器、酵母の取り扱い等によって影響を受けたり、発酵経過の時期によって凝集性の強さが変化していくこともある。このように酵母株によっても凝集性には強弱があり、同じ種類の酵母でも株の差によって非凝集性のものと凝集性のものとがある。どちらの酵母を使用するかは、製造する発酵生産物製品、バイオリアクター、及び発酵条件等によって適宜選択することが可能である。例えば、バイオリアクターの容器内への沈降や堆積を防止して原料液中の浮遊性酵母数及び発酵効率を一定に維持する必要があるときには、非凝集性のものを用いた方が望ましい場合がある。また、固定化用担体に酵素を担持させる場合には、これらの酵素は、上記の微生物が産生する酵素を挙げることが出来、これらの酵素を公知の方法により固定化用担体に固定化すればよい。
【0030】
このように構成された固定化用担体10によれば、表面細孔13及び内部細孔によって全体が三次元網目構造となっており、原料液の良好な発酵を行うのに十分な量の微生物等を担持することができる。従って、原料液の発酵効率を十分に高めることが可能となる。また、固定化用担体10は略球状を成しており、その平均外径が1.5mm未満であると、固定化用担体10に十分な量の微生物等を担持させ難くなるとともに、固定化用担体10をバイオリアクター、特に流動層型リアクター中に配置したときに、その流動性を良好に確保し難くなって発酵効率が低下する傾向にある。一方、その平均外径が4.0mmを超えると、バイオリアクター内の固定化用担体10の収容密度が疎となり、原料液と微生物等との実質的な接触面積が減少して発酵効率が低下する傾向にある。従って、本発明の固定化用担体10の平均外径は上記の範囲内の値とされているので、発酵効率を高い水準で安定に維持することが可能となる。
【0031】
更に、固定化用担体10が略球状を成しており、角部を有する場合に比して、固定化用担体10相互の接触や擦過による損傷や磨耗を受け難い。よって、固定化用担体10が使用中(流動中)に削り取られ、担持されている微生物等が脱落してしまうこと等が十分に抑えられるので、発酵効率の低下やバイオリアクターの容器の閉塞を有効に防止することができる。
【0032】
また、固定化用担体10と原料液とが接触すると、原料液がその三次元網目構造の内部に浸透し、固定化用担体10に担持された微生物等と原料液とが十分に接して発酵が良好に行われる。このとき、固定化用担体10の内部では炭酸ガス等のガス成分が発生するが、そのガス成分は、固定化用担体10の内部に殆ど滞留することなく、固定化用担体10の内部細孔及び表面細孔13を通して外部へ放出される。すなわち、固定化用担体10の表面を略球状の平滑面14とみなしたとき、表面細孔13のうち開口面積が20μm2以下のもの(微細孔)の合計面積が上記式(1)に示すように上記平滑面14の全面積の3.5%以下であると、固定化用担体10の内部で発生したガス成分がそのような微細孔で遮断されて外部へ放出され難くなることが十分に防止される。
【0033】
更に、これら微細孔の合計面積が上記式(5)を満たす場合には、ガス成分の遮断を一層十分に防止することができる。よって、固定化用担体10の内部にガス成分が滞留し難く、固定化用担体10が原料液に浮上してしまうことが防止され、良好な流動性を達成することができる。従って、固定化用担体10を流動層型リアクターに用いた場合に、従来に比して、原料液の発酵効率を極めて高くかつ安定に維持することが可能となる。
【0034】
また、表面細孔13のうち面積が300μm2以上のもの(大細孔)の合計面積が上記式(2)に示すように上記平滑面14の全面積の15%以上であると、固定化用担体10の内部で発生したガス成分が極めて外部へ放出されやすくなる。これら大細孔の合計面積が上記式(6)を満たすと、ガス成分が更に一層外部へ放出されやすくなる。その結果、固定化用担体10の内部にガス成分が滞留することをより一層防止することができ、固定化用担体10の原料液中での浮上がより抑えられて流動性が高められるので、発酵効率を極めて高く維持しつつ安定な発酵を実施することが可能となる。また、大細孔の面積が3300μm2を超えると、十分な量の微生物等を担持し難い傾向にある。
【0035】
更に、微細孔の単位面積当たりの合計個数が上記式(3)、好ましくは上記式(7)に示すように、表面細孔13の全個数の55%以下、好ましくは45%以下とされているので、そのような微細孔によるガス成分の遮断が更に一層防止される。一方、大細孔の単位面積当たりの合計個数が上記式(4)、好ましくは上記式(8)に示すように表面細孔13の全個数の3%以上、好ましくは10%以上であると、固定化用担体10の内部で発生したガス成分が極めて外部へ放出されやすくなる。よって、固定化用担体10が原料液に浮上してしまうことがより確実に防止され、原料液中での固定化用担体10の流動性をより向上させることができる。従って、原料の発酵効率を更に良好にかつ更に安定に維持することが可能となる。
【0036】
また、固定化用担体10がキトサン系のもの、例えば、キトサン系ビーズで形成されたものであると、キトサン系物質が親水性で多孔性に富むため、ガス成分の排出が極めて容易となり、その上摩耗し難く、しかも、その密度が一般に使用される原料液の比重に近いため、原料液中での流動性が更に一層良好となる。更に、キトサン系ビーズは保持できる微生物等の量が比較的多いので、原料液の発酵時間をより短縮できる傾向にあり、しかも微生物等が比較的緩やかに固定化されるという特性を有しているため、微生物の増殖や離脱が容易となる。
【0037】
次に本発明の発酵生産物の製造方法について説明する。まず、本発明の発酵生産物の製造方法に好適なバイオリアクターにおいては、上述した固定化用担体10に微生物等を担持させて固定化した固定化微生物が内部に配置され、その内部で原料液と固定化微生物とが接触して発酵が行なわれるものである。このようなバイオリアクターとしては、先述した通り完全混合槽型リアクター、充填層型リアクター、膜型リアクター、流動層型リアクター、横型リアクター等が挙げられるが、麦芽アルコール飲料の主発酵のように醸造用原料の分解によってアルコールと炭酸ガスが生成される発酵には流動層型リアクターが好ましい。
【0038】
本発明による発酵生産物の製造方法においては、このような流動層型リアクターとして、固定化微生物が内部に配置された流動層部と、流動層部の下流側から発酵液(発酵が進行している原料液)の一部を抜き出して流動層部の上流側に戻す液循環部とを備えたものを用いる。図3は、本発明による発酵生産物の製造方法に好適な流動層型リアクターの一例を示す概略模式図である。図3に示す流動層型リアクター1は、反応タンク2及び液循環部3を備えており、反応タンク2はその上流側から順に整流部4、流動層部5、空筒部6により構成されており、反応タンク2の下流側端部にはガス排出部7が設けられている。そして、液循環部3は流動層部5の下流側及び流動層部5の上流側(図3では整流部4)に接続された配管31とポンプ32及びバルブ33とから構成されており、更に配管31は途中で分岐してバルブ34を介して生産物タンク8に接続されている。また、反応タンク2の上流側端部には、原料液タンク9がポンプ91を有する配管92によって接続されている。
【0039】
流動層部5は、微生物等を担持させて固定化した固定化用担体10を内部に配置してある部分であり、液循環部3は、反応タンク2に供給された発酵液の一部を流動層部5の下流側から抜き出して再び反応タンク2の流動層部5の上流側に戻す部分である。図3に示す流動層型リアクター1においては、抜き出された発酵液は整流部4から反応タンク2内に戻され、導入された液の流れがここで整えられる。また、空筒部6は、発酵中に生じる炭酸ガス等のガス成分と発酵液とを気液分離する部分であり、具体的には液面から反応タンク2上部のガス排出部7までの部分である。そして、空筒部6で分離された炭酸ガス等のガス成分はガス排出部7から容器外に排出される。
【0040】
このように構成された流動層型リアクター1においては、微生物等を担持させて固定化した固定化用担体10を流動層部5に配置し、原料液を原料液タンク9からポンプ91を用いて整流部4に供給して発酵を行なう。そして、発酵液の一部を液循環部3のポンプ32を用いて流動層部5の下流側から抜き出し、再び反応タンク2の流動層部5の上流側(図3では整流部4)に戻して循環させることにより流動層を形成させつつ発酵させる。発酵中に生成した炭酸ガスは、発酵液を循環させていること等によってその流動層内に滞留することなく、空筒部6を経てガス排出部7より容器外に排出される。尚、発酵中の液空塔速度(流動層単位体積あたりの流体の線速度)は、固定化用担体10の密度によって変動させることができるが、1〜20cm/minが好ましく、1〜12cm/minがより好ましい。
【0041】
このような流動層型リアクター1を用いた発酵生産物の製造方法によれば、本発明による固定化用担体10を用いているので、流動層部5において従来問題であった固定化用担体10が浮上してしまうことが十分に防止され、流動層部5における固定化用担体10の流動性が良好となる。従って、流動層型リアクター1の容器の閉塞が抑えられ、発酵効率の低下やガス成分の排出が阻害される虞を格段に低減することができる。その結果、発酵を高効率かつ安定に行うことが可能となり、発酵生産物の生産性及び量産性をも向上させることができる。更に、発酵液が循環される等によって発酵中に生成したガス成分が流動層部5に滞留することが防止されるので、発酵効率をより一層高く維持することが可能となる。また更に、流動層型リアクター1を用いることにより、他の形式のバイオリアクターに比べ、発酵によって生成したガス成分を系外に排出しやすいという利点があるので、高発酵効率の安定な維持をより確実に達成できる。
【0042】
また、図3に示す流動層型リアクター1においては、発酵が終了した後、発酵生産物を含む発酵終了液を流動層型リアクター1からポンプ32及びバルブ34を用いて生産物タンク8に取り出すと共に、流動層型リアクター1に原料液タンク9からポンプ91を用いて新たな原料液を供給して上記の発酵を反復実施することが好ましい。すなわち、発酵が終了した後、循環を停止して発酵終了液を流動層型リアクター1外に抜き出すと同時、又はその直後に、流動層型リアクター1に新たな原料液を供給することによって、前述の発酵を反復して行なわせる。流動層型リアクター1等のバイオリアクターの運転方法としては、回分式、反復回分式、連続式のいずれも可能であるが、上記のように発酵を反復実施することにより、反復回分式の発酵処理を極めて実施しやすくなる。よって、良好な香味を有する製品を短時間で得ることができる。
【0043】
また、発酵中に微生物の増殖と更新が行なわれ、流動層型リアクター1内において良好な微生物菌体の分布が図られ、しかも、微生物(菌体)の生理状態や増殖挙動が伝統的な酒類の製造方法である回分式操作に類似しているため、本発明の発酵生産物の製造方法を反復回分式によって行うことにより、製品の香味をより良好なものにすることが可能となる。
【0044】
また、発酵生産物を製造するための原料液としては、使用する酵母等の微生物等による発酵に適したものであればよく、既知のものを任意に使用することができる。例えば、酒類の製造には、通常は麦汁、果汁、糖液、穀類糖化液等を単独で、又は、適宜混合して原料液とすることができる。その他、必要に応じて適当な栄養分等をその原料液に加えても好適である。更に、発酵条件については基本的には既知の条件と変わらず、例えば、麦芽アルコール飲料醸造の場合には、発酵温度が通常15℃以下、好ましくは8〜10℃であり、ワイン醸造の場合は通常20℃以下、好ましくは15〜20℃である。
【0045】
また、本発明の発酵生産物の製造方法によって製造可能な発酵生産物としては、麦芽アルコール飲料、ワイン、清酒、酢、醤油等の様々な醸造分野における発酵生産物が挙げられるが、麦芽アルコール飲料、ワイン、清酒等の酒類が好適である。これらのなかでは、本発明の固定化用担体が酒類酵母等の酵母の担持性に優れたものであり、かつ、上述の如く発酵によって生成するガス成分の放出性に優れているため、その効果が最大限に引き出される観点から、ビールや発泡酒のような麦芽アルコール飲料が好ましい。そして、本発明の発酵生産物の製造方法によって得られる麦芽アルコール飲料は、極めて良好な香味を有するものであり、例えば、豊潤で華やかなエステル香味を有するものとなる。
【0046】
また、発酵が安定して良好に行われるので、麦芽本来の風味が損なわれることがなく、逆に、その風味が強調され、芳醇な味わいが付与されたものとなる。更に、麦芽以外の穀物等が原料に加えられてもよく、その場合にもそれら原料の風味や味わいが損なわれず、各風味が個々に調和した味わい深いものとなり得る。従って、本発明により、醸造期間の短縮化や微生物等の投入・回収作業が不要であるという従来のバイオリアクター利用による製造効率のメリットに付け加え、品質面でも好ましい製品を提供することが期待できる。
【0047】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、含量比を示す「%」は「重量%」を示すものとする。
【0048】
〈実施例1〉
脱アセチル化度78%、平均分子量52000のキトサン80g、平均分子量20000のポリエチレングリコール100gを総量が1000mlになるように5%酢酸水溶液に溶解した。この溶液を25℃の5%苛性ソーダ、20%エタノール、75%水から成る混合溶液中に孔直径0.25mmノズルから一定量ずつ滴下させて凝固再生させた後、中性になるまで充分水洗して粒子の平均外径3.5mmの多孔質キトサン粒状体1L(リットル;以下同様)を得た。得られた多孔質キトサン粒状体の付着水を除去後、1%酢酸水溶液1L中に25℃で1分間浸漬処理した後、直ちに中性になるまで水洗を行い、平均外径3.0mmの酸処理済み多孔質キトサン粒状体0.7Lを得た。得られた酸処理済み多孔質キトサン粒状体に含まれる水をエタノールで充分置換後、63gの無水酢酸を含むエタノール0.7Lを加えて25℃で16時間反応させた。未反応の無水酢酸をエタノールで充分除去した後、含まれるエタノールを水で充分置換し、平均外径3.0mmのアセチル化キトサン担体(固定化用担体)0.7Lを得た。
【0049】
〈実施例2〉
脱アセチル化度78%、平均分子量52000のキトサン80g、平均分子量20000のポリエチレングリコール100gを総量が1000mlになるように5%酢酸水溶液に溶解した。この溶液を25℃の5%苛性ソーダ、20%エタノール、75%水から成る混合溶液中に孔直径0.25mmノズルから一定量ずつ滴下させて凝固再生させた後、中性になるまで充分水洗して粒子の平均外径3.5mmの多孔質キトサン粒状体1Lを得た。得られた多孔質キトサン粒状体の付着水を除去後、1%酢酸水溶液1L中に25℃で2分間浸漬処理した後、直ちに中性になるまで水洗を行い、平均外径3.0mmの酸処理済み多孔質キトサン粒状体0.6Lを得た。得られた酸処理済み多孔質キトサン粒状体に含まれる水をエタノールで充分置換後、54gの無水酢酸を含むエタノール0.6Lを加えて25℃で16時間反応させた。未反応の無水酢酸をエタノールで充分除去した後、含まれるエタノールを水で充分置換し、平均外径3.0mmのアセチル化キトサン担体(固定化用担体)0.6Lを得た。
【0050】
〈比較例1〉
脱アセチル化度78%、平均分子量52000のキトサン80g、平均分子量20000のポリエチレングリコール100gを総量が1000mlになるように4%酢酸水溶液に溶解した。この溶液を35℃の5%苛性ソーダ、20%エタノール、75%水から成る混合溶液中に孔直径0.25mmノズルから一定量ずつ滴下させて凝固再生させた後、中性になるまで充分水洗して粒子の平均外径3.5mmの多孔質キトサン粒状体1Lを得た。得られた多孔質キトサン粒状体の付着水を除去後、0.5%酢酸水溶液1L中に25℃で1分間浸漬処理した後、直ちに中性になるまで水洗を行い、平均外径3.0mmの酸処理済み多孔質キトサン粒状体0.8Lを得た。得られた酸処理済み多孔質キトサン粒状体に含まれる水をエタノールで充分置換後、72gの無水酢酸を含むエタノール0.8Lを加えて25℃で16時間反応させた。未反応の無水酢酸をエタノールで充分除去した後、含まれるエタノールを水で充分置換し、平均外径3.0mmのアセチル化キトサン担体(固定化用担体)0.8Lを得た。
【0051】
〈固定化用担体の表面分析〉
実施例1,2及び比較例1で調製したアセチル化キトサン担体(固定化用担体)の平均外径は、マイクロメーターを取り付けた光学顕微鏡で粒子の外径を測定して、粒子100個の平均値として算出し、得られた平均外径から、固定化用担体の表面を平滑面とみなした場合のその平滑面の全面積を算出した。また、表面を電子顕微鏡で拡大観察してその拡大画像を取得し、その画像を画像処理装置(東洋紡績株式会社製、Image Analyzer V20)で画像解析を行うことにより、観察視野の面積、その視野内にある細孔の計数及び開口面積を測定した。得られた平滑面の全面積、観察視野の面積、及び細孔の開口面積に基づき、上記平滑面の全面積に対する微細孔(開口面積が20μm2以下の細孔)及び大細孔(開口面積が300μm2以上の細孔)の上記平滑面における面積割合(開口率)を算出した。また、細孔の開口面積と計数値に基づき、細孔数の分布を求めた。結果をまとめて表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
〈発酵試験〉
実施例1,2及び比較例1で調製したアセチル化キトサン担体(固定化用担体)に酵母を担持させて固定化したもの(固定化微生物)を、図3に示す流動層型リアクター1(全容積:80リットル)の反応タンク2内に設置し、以下の諸条件の下、前述の繰り返し回分発酵形式(反復回分式)によって主発酵を行い、後述する流動層形成率の測定、発酵性の評価、及び成分量の測定を実施した。尚、固定化用担体の下記所要量は、各実施例及び比較例の操作を繰り返し行って得た。
【0054】
[主発酵条件]
1)担体:実施例1,2及び比較例1で調製したアセチル化キトサン担体
2)スケール:担体28L、麦汁量40L
3)使用酵母:ビール酵母(サッカロミセス・セレビシェ)
4)酵母固定化方法:常法に従い循環しながら2日間固定化用担体と接触させて固定化(担体28Lに対して泥状酵母3kg)
5)液空塔速度:3cm/min
6)発酵温度:8℃一定
7)発酵時間:48時間/回
8)継続発酵回数:7回(回分発酵)
9)使用麦汁:糖度11.5%Platoに調整した麦汁
【0055】
(1)流動層形成率測定
従来の固定化用担体を用いた発酵においては、発酵で生成したガス成分が微生物等を担持した固定化用担体の内部に滞留し、固定化微生物の一部が流動層型リアクター1の反応タンク2内の原料液に浮上してしまい、固定化微生物が浮上層と流動層(浮上しない固定化用担体の層)に二分されてしまう。そこで、上記主発酵工程において、それら浮上層及び流動層の高さを測定し、下記式(9);
η=Hr/(Hr+Hf)×100…(9)
[式中、ηは流動層形成率(%)を示し、Hrは流動層高さ(mm)を示し、Hfは浮上層高さ(mm)を示す。]
の関係を用いて流動層形成率を求めた。その結果を表2に示す。比較例1で調製した固定化用担体(従来品)を用いた場合の流動層形成率が46%であったのに対し、実施例1及び2で調製した本発明の固定化用担体を用いた場合の流動層形成率は、それぞれ100%及び71%と極めて高い値を示した。特に、実施例1の固定化用担体を用いれば浮上層が全く形成されず、このことより、本発明の優位性が確認された。尚、表2には、各固定化用担体に固定化された酵母数を測定した結果を併せて示す。この結果より、本発明の固定化用担体は、従来以上に酵母を固定化できることが確認された。
【0056】
【表2】
【0057】
(2)発酵性評価
発酵速度比較の指標として発酵開始24時間のエキス消費量を振動式密度計(アントンパール社製、DMA58)により測定した。各回の測定値の平均値を上記表2に併せて示す。この値からは、本発明による固定化用担体を用いた場合及び従来品を用いた場合のその発酵速度(約6.5%/24hr)に有意な差異は認められなかった。しかし、本発明の固定化用担体(実施例1及び2)を用いた場合には、各回の発酵速度は極めて安定して推移したのに対し、従来の固定化用担体(比較例1)を用いた場合には、発酵速度の増減が生じた。また、このとき、流動層リアクターには圧力負荷が発生し、実施例1及び2に比べて発酵が不安定なものであった。このことから、本発明の固定化用担体を用いれば、高い発酵効率を安定に維持でき、良好な発酵を実施できることが確認された。
【0058】
(3)成分量測定
主発酵終了後、発酵終了液中の原麦汁エキス、真性エキス、及び発酵液中のアルコールを自動ビール分析装置(SERVOCHEM社製)により測定した。また、ジアセチル(DA)及び酢酸エチルの生成量をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC−14B)により測定した。得られた結果を上記表2に併せて示す。本発明の固定化用担体(実施例1及び2)を用いた場合には、従来の固定化用担体(比較例1)を用いた場合よりも酢酸エチル量が多く、その他の成分はほぼ同等であった。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の固定化用担体によれば、固定化用担体に担持された微生物等による原料液の発酵によって生じるガス成分が内部に滞留することが防止され、流動層型リアクター内で良好な流動性を達成することができ、これにより発酵効率を高く維持しつつ安定な発酵を実施することができる。また、本発明の発酵生産物の製造方法によれば、そのような固定化用担体を用いることにより、発酵を高効率かつ安定的に行うことが可能となる。更に、本発明によれば、発酵が良好に行われるので、良好な香味を有する発酵生産物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による固定化用担体の一実施形態の内部構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明による固定化用担体の一実施形態の表面の一部を示す模式拡大図である。
【図3】本発明による発酵生産物の製造方法に好適な流動層型リアクターの一例を示す概略模式図である。
【図4】従来における固定化用担体の一例の内部構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1…流動層型リアクター(バイオリアクター)、2…反応タンク、3…液循環部、4…整流部、5…流動層部、6…空筒部、7…ガス排出部、8…生産物タンク、9…原料液タンク、10,20…固定化用担体、12,22…細孔、13…表面細孔(細孔)、14…平滑面、23…中空部。
Claims (10)
- 略球状を成し、表面及び内部に細孔が設けられており、微生物及び/又は酵素を担持した状態でバイオリアクター内に配置され、キトサン系ビーズからなる固定化用担体であって、
平均外径が1.5〜4.0mmであり、
前記表面を平滑面とみなしたときの該平滑面の全面積が7.0〜50.0mm2であり、
前記表面に開口している前記細孔が下記式(1)及び(2)に示す関係を満たすように設けられたことを特徴とする固定化用担体。
S1≦S0×0.035 …(1)
S2≧S0×0.150 …(2)
[式中、S0(mm2)は、前記平滑面の全面積を示し、S1(mm2)は、前記表面に開口している前記細孔のうち開口面積が20μm2以下のものの合計面積を示し、S2(mm2)は、前記表面に開口している前記細孔のうち開口面積が300μm2以上のものの合計面積を示す。] - 略球状を成し、表面及び内部に細孔が設けられており、微生物及び/又は酵素を担持した状態でバイオリアクター内に配置され、キトサン系ビーズからなる固定化用担体であって、
平均外径が1.5〜4.0mmであり、
前記表面を平滑面とみなしたときの該平滑面の全面積が7.0〜50.0mm2であり、
前記平滑面の単位面積当たりの前記表面に開口している細孔数が、3000〜9000個/mm2であり、
前記表面に開口している前記細孔が下記式(3)及び(4)に示す関係を満たすように設けられたことを特徴とする固定化用担体。
N1≦N0×0.55 …(3)
N2≧N0×0.03 …(4)
[式中、N0(個)は前記表面に開口している単位面積当たりの前記細孔の全個数を示し、N1は、該細孔のうち開口面積が20μm2以下のものの単位面積当たりの合計個数を示し、N2(個)は前記表面に開口している前記細孔のうち開口面積が300μm2以上のものの単位面積当たりの合計個数を示す。] - 固定化微生物が内部に配置されたバイオリアクターを用いて発酵を行うことにより発酵生産物を製造する方法において、
前記固定化微生物として、請求項1又は2に記載の固定化用担体に微生物及び/又は酵素を担持させて固定化したものを用い、
前記バイオリアクターとして、前記固定化微生物が内部に配置された流動層部を備えた流動層型リアクターを用いることを特徴とする発酵生産物の製造方法。 - 前記発酵により得られた発酵生産物を前記流動層型リアクターから取り出すとともに該流動層型リアクターに新たな原料液を供給して前記発酵を反復実施することを特徴とする請求項3記載の発酵生産物の製造方法。
- 固定化微生物が内部に配置されたバイオリアクターを用いて発酵を行うことにより発酵生産物を製造する方法において、
前記固定化微生物として、請求項1又は2に記載の固定化用担体に微生物及び/又は酵素を担持させて固定化したものを用い、
前記バイオリアクターとして、前記固定化微生物が内部に配置された流動層部と、前記流動層部の下流側から発酵液の一部を抜き出して該流動層部の上流側に戻す液循環部とを備えた流動層型リアクターを用いることを特徴とする発酵生産物の製造方法。 - 前記流動層部の下流側から発酵液の一部を抜き出して該流動層部の上流側に戻すことにより流動層を形成させつつ発酵を行い、
得られた発酵生産物を前記流動層型リアクターから取り出すとともに該流動層型リアクターに新たな原料液を供給して前記発酵を反復実施することを特徴とする請求項5記載の発酵生産物の製造方法。 - 前記微生物が酵母であることを特徴とする請求項3〜6のうちいずれか一項に記載の発酵生産物の製造方法。
- 前記酵母が酒類酵母であり、前記発酵生産物が酒類であることを特徴とする請求項7記載の発酵生産物の製造方法。
- 前記酒類酵母がビール酵母であり、前記酒類が麦芽アルコール飲料であることを特徴とする請求項8記載の発酵生産物の製造方法。
- 請求項3〜9のうちのいずれか一項に記載の発酵生産物の製造方法により製造されたものであることを特徴とする発酵生産物。
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