JP3787697B2 - 重イオンビーム照射によるキメラ植物の作出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重イオンビームを照射することにより、斑入りペチュニアなどのキメラ植物を作出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ペチュニアは古くから育種、利用されてきた世界的にも重要な花卉園芸作物の1つであり、近年では様々な草型を示すペチュニアも開発されてきている。サントリーと京成バラ園芸とが共同で開発したサフィニアシリースは、生育旺盛で春から秋まで開花するほふく性のペチュニアで、数あるペチュニアの品種の中でも特に人気の高い品種である。
【0003】
ところで、植物の葉は通常緑一色であるが、中には葉の一部に黄、白、紅色などの模様が規則的あるいは不規則入るものもある。このような植物は一般に斑入り植物と呼ばれ、その美しい外観から古くから珍重されてきた。斑入り植物は、様々な原因によって生じるが、キメラ(周縁キメラ、区分キメラ)によって生じるものもある。
【0004】
ペチュニアにおいては、ライムライト、パッションバリエガータの2品種が知られているのみで、その数は多くはない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
キメラのペチュニアを効率的に作出できる手段を確立できれば、斑入りの品種など商品価値の高いペチュニアを大量に得ることができる。また、このような技術は、ペチュニア以外の植物に応用することも可能である。
【0006】
本発明は、このような技術的背景のもとになされたものであり、斑入りのペチュニアなど商品価値の高い植物を効率的に作出する手段を提供することを目的とする。
【0007】
【発明が解決しようとする手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、キメラの選抜を無菌培養段階で行うこと、及び無菌培養段階で選抜されたキメラのシュートから外植片を採取し、その外植片から形成されたシュートについて再度のキメラの選抜を行うことにより、効率的にキメラの成熟個体を得ることができるのを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、以下の(1)〜(4)の工程を含むキメラ植物の作出方法である。
(1)植物の外植片に重イオンビームを照射する工程;
(2)重イオンビームを照射した外植片からシュートを形成させる工程;
(3)形成させたシュートの中からキメラのシュートを選抜する工程;
(4)選抜したシュートを生育させ、成熟個体を得る工程;
また、本発明の第二は、以下の(1)〜(7)の工程を含むキメラ植物の作出方法である。
(1)植物の外植片に重イオンビームを照射する工程;
(2)重イオンビームを照射した外植片からシュートを形成させる工程;
(3)形成させたシュートの中からキメラのシュートを選抜する工程;
(4)選抜したシュートから外植片を採取する工程;
(5)採取した外植片を再分化させ、シュートを形成させる工程;
(6)形成させた再分化シュートの中からキメラのシュートを選抜する工程;
(7)選抜したシュートを生育させ、成熟個体を得る工程;
以下、上記第一の発明をFSRP(First Screening of Regenerated Plants)法、上記第二の発明をSSRP(Second Screening of Regenerated Plants)法という。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
FSRP法は、以下の(1)〜(4)の工程を含むものである。
【0011】
工程(1)では、植物の外植片に重イオンビームを照射する。
【0012】
使用する植物は特に限定されず、例えば、ペチュニアを使用することができる。ペチュニアとしては、ペチュニア(Petunia)属に属するものであればどのようなものでもよく、サフィニアなどの市販の品種を使用することができる。また、ペチュニア以外の植物としては、トレニア、ラン、ダリアなども使用することができる。
【0013】
外植片としては、再分化可能な切片であればどのようなものでもよいが、腋芽を含む茎のように将来芽になり得る部分を含む切片を使用するのが好ましい。
【0014】
重イオンビームとしては、核子当り15 MeV以上の Cイオンビーム、Nイオンビーム、又はNeイオンビームなどを使用することができる。線量は、外植片に害を与えず、キメラを生じさせ得る範囲内であれば特に限定されないが、核子当り135 MeVのCイオンビームについては5〜50Gray、Nイオンビームについては5〜50Gray、Neイオンビームについては1〜20Grayとするのが好ましい。
【0015】
工程(2)では、重イオンビームを照射した外植片からシュートを形成させる。
【0016】
シュートの形成は常法(例えば、外植片をMS寒天培地などに置床し、数ヶ月間培養する)に従って行うことができる。
【0017】
工程(3)では、形成させたシュートの中からキメラのシュートを選抜する。
【0018】
選抜するキメラのシュートはどのようなものでもよいが、園芸作物として商品価値の高いものが好ましく、例えば、斑入りシュートなどが好ましい。選抜方法は特に限定されず、例えば、外観観察などによって選抜することができる。この際、完全にキメラであると確認できるシュートだけでなく、キメラであると疑わしいシュートも選抜することが望ましい。例えば、斑入りシュートを選抜する場合は、完全に斑の入っているシュートだけでなく、葉や花の色が薄いシュートやアルビノシュートなども選抜することが望ましい。
【0019】
工程(4)では、選抜したシュートを生育させ、成熟個体を得る。選抜されたシュートは、正常細胞と重イオンビームの照射によって生じた異常細胞とから構成されるが、このような異常細胞は、正常細胞に比べ一般に生存能力が低く、植物が生育する過程で消滅してしまう場合がある。このため、シュートの段階ではキメラであっても、成熟すると正常な個体になってしまうようなことがしばしば起こる。従って、成熟個体にまで生育させる過程では、可能な限り異常細胞が生存、増殖し易い環境にすることが望ましい。例えば、斑入りシュートの場合、異常細胞(斑の部分を構成する細胞)は光に弱いため、光の弱い条件下(具体的には、100μmolm-2s-1 以下程度)で生育させるのが好ましい。
【0020】
SSRP法は、以下の(1)〜(7)の工程を含むものである。
(1)植物の外植片に重イオンビームを照射する工程;
(2)重イオンビームを照射した外植片からシュートを形成させる工程;
(3)形成させたシュートの中からキメラのシュートを選抜する工程;
(4)選抜したシュートから外植片を採取する工程;
(5)採取した外植片を再分化させ、シュートを形成させる工程;
(6)形成させた再分化シュートの中からキメラのシュートを選抜する工程;
(7)選抜したシュートを生育させ、成熟個体を得る工程;
上記(1)〜(7)の工程は、FSRP法の各工程と同様に行うことができるが、工程(4)で採取する外植片は、腋芽を含む茎よりも葉の方が好ましい。
【0021】
SSRP法は、FSRP法のように選抜したキメラのシュートをそのまま生育させるのではなく、選抜したキメラのシュートから外植片を採取し、その外植片から再度シュートを形成させる点に特徴がある。FSRP法や従来の選抜方法では、選抜されたキメラの形質が安定しておらず、生長途中でキメラの形質が消失してしまうことがある。このようなキメラ形質の不安定なシュートから採取された外植片からのキメラ植物の再分化能力は低い。このため、SSRP法のように、キメラのシュートの選抜を2回行うことにより、形質の不安定なキメラを排除し、形質の安定したキメラを効率的に選抜することができる。
【0022】
【実施例】
〔実施例1〕 斑入りペチュニアの作出
表1に示すサフィニア12品種の無菌植物から腋芽を含む茎の切片を調製し、各品種ごとに150本ずつ(50本からなる照射区を3つ設けた)MS寒天培地に置床した。
【0023】
【表1】
従来選抜法:置床した茎の切片に核子当り135 MeVの12C イオンビーム5 Gray、14Nイオンビーム5 Gray、20Neイオンビーム 1 Grayを理研サイクロトロン施設にて照射した。照射後の茎の切片は、MS寒天培地上で1〜3ヶ月間培養し、シュートを形成させた。再生シュートは馴化発根させ、温室等で生育させたのち、斑入り個体を選抜した。
【0024】
FSRP法:置床した茎の切片に12Cイオンビーム5 Gray、14Nイオンビーム5 Gray、20Neイオンビーム1 Grayを理研サイクロトロン施設にて照射した。照射後の茎の切片は、MS寒天培地上で1〜3ヶ月間培養し、シュートを形成させた。形成されたシュートの外観を観察し、斑入り個体の出現率を調べた。この結果を表2に示す。なお、斑入り個体には、完全な斑の存在が確認できた個体のほか、葉全体の緑色が薄くなる個体も含めた。
【0025】
【表2】
表2に示すように、3種類の重イオンビームのいずれを用いた場合でも、高い率で斑入り個体が出現した。しかしながらこれらの斑入りシュートは、キメラ形質が安定しておらず、その後キメラが消失し、斑入り個体は保持されたのは、12品種のうち1系統のみであった。
【0026】
SSRP法:12品種の斑入り個体よりそれぞれ1系統を選抜した。その葉から7枚のリーフディスクを調製し、1mg/L BAおよび0.1mg/L NAAを含むMS寒天培地に置床し、シュートを再分化させた。1系統よりシュートは50〜100個体得られ、その殆どは健常(緑色)又はアルビノシュートであったが、3個体の斑入りシュートが得られた。こうして得た斑入り個体は形質が安定しており、それぞれ馴化発根させ、成熟斑入り個体を得た。
【0027】
従来選抜法、FSRPおよびSSRP法により得られた斑入りの成熟個体の数を表3に示す。
【0028】
【表3】
表3に示すように、温室で斑入り個体を選抜する従来方法では、全く斑入り個体は得られなかった。それに対して、無菌培養段階で斑入り個体を選抜するFSRP法およびSSRP法ではいすれも斑入りの成熟個体が得られた。無菌培養段階で1次選抜した斑入り個体の葉よりシュートを再分化させたSSRP法の方がより多くの斑入りの成熟個体が得られ、またこうして得られた斑入り形質は安定しており、消失することは無かった。なお、SSRP法から得られた斑入りの成熟個体の品種は、ピンクミニ、パープル、パープルミニであり、FSRP法から得られた斑入りの成熟個体の品種はブルーベインのみであった。
〔実施例2〕 斑入りトレニアの作出
従来選抜法:トレニアサマーウエーブ品種のカルス誘導処理を1週間施した茎および葉切片に14Nイオンビーム5 Gray、20Neイオンビーム10 Grayを理研サイクロトロン施設にて照射した。照射後の茎および葉切片カルスは、1mg/L BAを含むMS寒天培地上で1〜3ヶ月間培養し、シュートを形成させた。再生シュートは馴化発根させ、温室等で生育させたのち、斑入り個体を選抜した。
【0029】
FSRP法:トレニアサマーウエーブ品種のカルス誘導処理を1週間施した茎および葉切片に14N イオンビーム5 Gray、20Neイオンビーム 10 Grayを理研サイクロトロン施設にて照射した。照射後の茎および葉切片カルスは、1mg/L BAを含むMS寒天培地上で1〜3ヶ月間培養し、シュートを形成させた。形成シュートの外観を観察し、斑入り個体の出現率を調べた。1外植片から多数の再分化シュートが形成されたため、アルビノ(白色)シュートおよび緑色シュートが混在しているカルスを選抜した。その後、外植片より独立した健全な斑入りシュートを選んで馴化した。
【0030】
【表4】
表4に示すように、2種類の重イオンビームのいずれを用いた場合でも、高い率で斑入り個体が出現した。しかしながらこれらの斑入りシュートは、キメラ形質が安定しておらず、その後キメラが消失し、緑色個体かアルビノ体となったが、1系統で斑入りの成熟個体が得られた。
【0031】
従来選抜法およびRPFS法により得られた斑入りの成熟個体の数を表5に示す。
【0032】
【表5】
表5に示すように、温室で斑入り個体を選抜する従来方法では、全く斑入り個体は得られなかった。それに対して、重イオン照射カルスより再分化したシュート個体より斑入り個体を選抜するFSRP法により、斑入りの成熟個体が得られ、またこうして得られた斑入り形質は安定しており、消失することは無かった。
【0033】
【発明の効果】
本発明は、キメラ植物を効率的に作出する方法を提供する。斑入り植物のようなキメラ植物は、通常の品種よりも園芸作物としての商品価値が高いため、このような品種を効率的に作出する方法は、農業分野において非常に有用である。
Claims (5)
- 以下の(1)〜(7)の工程を含むキメラ植物の作出方法。
(1)植物の外植片に重イオンビームを照射する工程;
(2)重イオンビームを照射した外植片からシュートを形成させる工程;
(3)形成させたシュートが無菌培養段階にある間にその中からキメラのシュートを選抜する工程;
(4)選抜したシュートから外植片を採取する工程;
(5)採取した外植片を再分化させ、シュートを形成させる工程;
(6)形成させた再分化シュートからキメラのシュートを選抜する工程;
(7)選抜したシュートを生育させ、成熟個体を得る工程; - キメラのシュートが、斑入りのシュートである請求項1記載のキメラ植物の作出方法。
- 外植片が、将来芽になりえる部位を含む切片であることを特徴とする請求項1又は2に記載のキメラ植物の作出方法。
- 重イオンビームが、Cイオンビーム、Nイオンビーム、又はNeイオンビームであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のキメラ植物の作出方法。
- 植物が、ペチュニアである請求項1乃至4のいずれか一項に記載のキメラ植物の作出方法。
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