JP3853250B2 - 局部腐食センサ、及び同局部腐食センサを使用した局部腐食検出方法並びに局部腐食検出装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐腐食性金属材料に発生する局部腐食を初期に感度よく検出する局部腐食センサ、及び同局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法並びに局部腐食検出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐食性を有する金属や合金の腐食は、孔食と呼ばれる局部的な腐食が進行する形態を取る。すなわち、孔食は全面に一様に起こらず、局所的に進行するため、形状観察による局部腐食の評価には困難を伴う。
従来、金属の腐食をモニタするには、当該溶液中に被検体となる金属試料を浸漬し、その表面変化を顕微鏡で観察したり、あるいは、交流インピーダンス法と呼ばれる測定手段等によって測定、評価されていた。しかし、耐食性を有する金属や合金の場合、前述のように孔食と呼ばれる局部的な腐食が進行する形態を取り、孔食が全面に一様に起こらず、極めて局所的に進行し、しかもその進行速度は遅いため、形状観察による局部腐食の評価には困難が伴い、金属や合金の耐食性、溶液の金属や合金に対する腐食性を初期の段階で見つけ出すには限界があった。そして、これは交流インピーダンス法による測定手段においても例外ではなく、孔食の測定、評価には困難と、限界があった。
【0003】
孔食が生じる原因については、幾つかのモデルが提唱されている。その中の一つに、図11に示すようなモデルがある。すなわち、孔食は、ステンレス綱のような耐食性金属や合金の表面の不働態皮膜の不完全な部分に、極めて微小な孔が形成される腐食現象であり、進行していくに従いより深い孔が形成される。すなわち、この微小な孔の奥では、金属の酸化反応に必要な酸素が不足状態となり、図11に示すように、金属表面に不働態皮膜が形成されることがないので、
水溶液中に金属Mが溶出し腐食が進行する。このとき金属Mに生じる電子e-は、孔の周囲の金属表面の不働態皮膜に移動し、不働態皮膜表面での溶存酸素の還元反応に作用する。換言すると、孔の奥の金属面と孔の周囲の不働態皮膜との間に局部電池が形成されるため、孔の中の金属の溶解反応が進むことになる。
【0004】
上記のように一旦孔があくと、その孔の奥の部分には酸素が供給されないため不働態皮膜が形成されず、金属の溶解反応が進行する。これに対して金属の表面では溶存酸素の還元反応が進行する。
このとき電子は孔の奥の金属表面でのアノード反応によって発生し、孔の周囲の不働態被膜表面でのカソード反応領域に供給され、消費される。
この反応モデルは、次式で表すことができる。
2M → 2M++2e- (孔の中)
1/2O2+H2O+2e- → 2OH- (不働態皮膜表面)
【0005】
このように孔食は、他の腐食と異なり、孔の周囲の不働態皮膜表面は侵されず、孔の深部の金属面だけが侵され続けて腐食が深く進行し、このため発見が遅れ重大な事故につながるおそれがある、といわれている所以である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上から、金属や合金の孔食性を極力初期の段階で発見し、正確に評価することが極めて重要であり、したがって、時間をかけることなく、迅速に評価できる方法の実用化が望まれていた。本発明者等は、以上の事情に鑑み、上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、耐食性を有する金属や合金が、溶液中で理想的な状態に不働態化する、すなわち金属の表面に酸化物が生成すると、電流がほとんど流れなくなる現象に注目した。
【0007】
一般に電極に流れる電流は、一様な電位の下では、電極の面積が大きいほど電流密度は小さくなり、反対に電極の面積が小さいほど電流密度は大きくなる面積依存性が見られる。
これに対して前掲図11に示すような孔食のモデルの場合も含め、いわゆる一般に微小電極と呼ばれる極めて局所的な狭い領域、極めて小さな面積の電極に電流が流れると、そこに際だった電流集中が起きることになる〔図1(b)〕。
このような微小電極と呼ばれる電流が集中するモデルにおいては、電流が集中するとエッジ効果や曲率効果による電流分布の変化によって局所的に電流密度が大きくなり、電流密度の面積依存性が成立しなくなる。
したがって、金属表面全面が不働態被膜に覆われ、電極面のほとんどに電流が流れなくなっている電極に局部的な腐食が進行して孔が生じると、あたかも微小電極の作用のように電流がその孔に集中して流れるようになる。したがってこのような場合には、電極の面積を変化させても、前述の電流密度の面積依存性は観測されない。
逆に均一な不働態被膜が生成して金属表面が不働態化している孔食部のない電極では、このような局所的な電流集中は起こらず、むしろ電極面積が小さくなることによってはじめて、電流集中が観測されることになる。
【0008】
そこで、面積の異なる複数の電極を対にし、組み合わせて電流を測定し、その電流集中の状況を観測することで、局部腐食の有無が観測でき、これにより孔食の有無を判別でき、上記課題を解決し得るとの知見を得、本発明は、この知見に基づいてなされたものである。すなわち、見かけの面積が異なる複数の電極を対にして、その電流集中の状況を観測することで、局部腐食センサとして利用できることを意味するとの知見を得、本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、以下の述べる手段を講ずることによって、局部腐食に対してもその進行の具合や範囲、そして局部腐食に対する健全性を評価し得ること、すなわち、腐食センサとしての機能を提供できることを見いだしたものである。その解決手段は、下記(1)ないし(5)に記載する技術的構成によるものである。
【0010】
(1)被検材料とする金属材料における局部腐食検出方法において、被検材料とする金属材料と同一金属材料からなる面積が異なる複数個の電極を対にしてなる局部腐食センサを、その対の最も大きい電極と最も小さい電極との面積比を1より大きく、かつその対の最も小さい電極の面積が1cm2以下になるように設定し、該局部腐食センサを腐食試験液に浸漬し、各電極を定電位に保持し、各電極の電流値の経時変化をプロットして電流−時間一次曲線をそれぞれ求め、次いでこのデータを処理して各電極に流れる電流値を各電極面積で除して電流密度を求め、この得られたデータをさらに処理して電流密度と電極面積の常用対数値の関係を求めてプロットし、その傾きからその電流密度の面積依存性の有無を知り、これによって局部腐食が生じているか否かを検出することを特徴とする、面積が異なる複数個の電極による局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
(2)前記面積が異なる複数個の電極としての対が、少なくとも大小2個1組からなる局部腐食センサであることを特徴とする前記(1)項に記載の局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
【0011】
(3)被検材料とする金属材料に対して腐食作用を有する腐食試験液を使用することを特徴とする(1)または(2)項に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
(4)前記腐食試験液が、リチウム塩を含む非水性溶液か、アジピン酸アンモニウム水溶液であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
【0012】
(5)局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法において、被検材料とする金属材料と同一の金属材料からなる複数の異なる面積の電極を対として構成した局部腐食センサを、該金属材料に対して腐食作用を有する腐食試験液に浸漬し、各電極と対極との間に定電圧を印加保持したときの前記各電極に流れる電流を測定し、各電極面積、各電極に流れる電流値、その経時変化をコンピュータに入力してデータ処理し、電圧印加経過時間と電流密度との関係、及び電流密度と電極面積の常用対数値との関係をグラフとして表示させることを特徴とした、(1)〜(4)のいずれか1項に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面及び実施例に基づいて説明する。
図1は、微小電極による電流集中モデルを原理的、模式的に示すものである。
この図1において、(a)図は、試料極と対極(標準極)から成る一対の同面積の平行電極に、一定の電位が与えられ、両電極の全面にわたり電流が一様に流れている態様を表している。これに対して(b)図は、試料極を微小面積とした場合における過度の電流集中の態様を示したものである。図1(a)の場合には、両電極の面積が小さくなるとともに電極の電流密度が高まるが、図1(b)のように一方の電極を微小にすると、そこに過度の電流が集中して流れ、この際の電流密度は、図1(a)の場合に見られた電極面積に依存した通常の関係の電流密度に比し、極めて大きな値を示すことになる。
【0015】
図2は、孔食による電流集中モデルを原理的、模式的に示したものである。
すなわち、図2において(a)は、図1の(a)と同様の一対の同一面積の平行電極からなる電極モデルであり、両電極間には一定の電位が与えられている。 上記モデルにおいて、試料極はその全面に不働態皮膜が形成されており、したがって、試料極には検出可能な微小な電流が流れているだけである。しかし、この試料極の一部に不働態被膜が破れた部分が存在している場合、あるいは、すでに局部腐食が発生している場合には、観測される電流は、被膜破損部又は局部腐食部に集中する電流をも含んだものとなる。すなわち、この観測だけではそこに局部腐食による過度の電流集中に基づく電流を観測しているとは同定することができず、あくまでも、試料極には電位に応じた電流が均等に流れているものとして観測されているだけである。これはたとえ、電極面積を変えたとしても、同様であり、観測される電流は、与えられた試料極に一様に流れる電流として観測されるだけである。すなわち、試料極に局部腐食を含んでいるとか、局部腐食が発生したとかはこれだけでは判定、同定することができない。
【0016】
図2(a)は、如上のとおりの局部腐食モデルを表しているものである。このモデルにおける局部腐食部に流れる電流は、(b)に示す電流集中モデルによって示すことができ、この態様は図1(b)で述べた微小電極モデルをそのまま適用することができ、このモデルによって説明することができることを示しているものである。
【0017】
【実施例】
以下本発明を、具体的に実施例に基づいて説明する。ただし、これはあくまでも本発明を理解するための一助としてであって、決して本発明の限定する趣旨ではない。
【0018】
(試料極の調製)
以下で述べる実施例において使用する試料極は、腐蝕試験を行う試料金属と同じ材質のものを用い、以下の要領で作製した。
なお、以下に示す実施例においては、腐蝕試験を行う試料として、感受性のあるアルミニウム金属を採用し、これに基づいて行った。この試料極については、以下に開示する実施例においてはアルミニウム金属を用いたが、調査しようとする被検材料が例えばステンレス鋼である場合には、これと同じ材料のステンレス鋼を用いて実施するものでなければならないことはいうまでもないことである。
【0019】
まず、アルミPET(厚さ7μmのポリエチレンテレフタレート製シート上に厚さ0.1μmのアルミ箔が積層されたもの)を用意し、この上にフォトリソグラフィーにより、43.2mm2、6.0mm2、0.7mm2の面積の異なる3種類の四角形をパターニングし、これをリン酸+純水(1:1)から成る腐食溶液でエッチングしてアルミニウム金属表面を不働態化した。
次いでこのアルミ箔からなる試料に、銀ペーストにより銅線がリードとして取り付けられて電極を構成し、これをガラス板の上に載置し、さらに上記のパターニングした四角形のアルミ箔部分を除き、エポキシ樹脂により被覆して試料極を作成した。その態様は、図12に示されているとおりである。
【0020】
すなわち、図12には、ガラス板の上にアルミ箔が載置され、貼り付けられている構造が示されている。その構成は、試料極に相当する四角形にパターニングされた部分と、リード線を取り付ける端子部、及び試料極部分と端子部を結ぶ連結部とからなり、これらは全て1枚のアルミPETから一体として切り出されている。前記端子部には、電流を測定するためのリード線(銅線)が銀ペーストを介して取り付けられ、試料極部分を除き、端子部及び連結部のアルミ箔、リード線等は全てエポキシ樹脂によってシールされている。すなわち、試料極部分だけが外部に解放されている構造に設定され、これによって、腐食電流の測定を実施するのに必要な電気的接続等が、その場で簡単、かつ確実に確保され、測定作業がスムーズに実行できる。
【0021】
なお、この試料極の作製にあたり、再利用を可能とするセンサとするために、所定の断面積を持つ金属材料の組をしかるべきシール材に埋め込み、その表面を研磨してフレッシュな面を出すようにする態様なども、実用性のある有力な実施態様の一つである。この態様を具体的に図示すると、図13に示すような構造も考えられる。すなわち、所定の面積を有する、センサに相当する複数の電極棒が、シール材に埋め込まれている構造のものである。図13には、センサにあたる電極として大小2個一組よりなるものが示されているが、大中小の3個一組なるものも実施態様として含むものであることは言うまでもない。この構造にしたことにより、一々その都度センサを作製準備する必要はなく、ただ、その都度表面を研磨することにより、新しい被検試料金属がいつでも用意することができ、再利用を図れるだけでなく、設定された試料極は、常に一様な面積を確保でき、測定数値に変動がなく、測定の安定性、信頼性が担保される。
【0022】
図13に示すセンサは、図14に示すような配置関係によって、対極と平行に配置され、各測定電極に付設したリード線の端子を替えスイッチを介し電源に接続され、両極間に定電位が付加されて、電流値が求められる。また、各リードにそれぞれ個別にスイッチを設け、それらのスイッチの開閉によって、それぞれの試料極を選択使用する方式をとることでもよい。
【0023】
(腐食試験液の準備、測定条件)
次に腐食試験液として、〔1〕LiPF6/PC+DME 、〔2〕LiClO4/PC+DME 、〔3〕LiBF4/PC+DME 、〔4〕5.0wt%アジピン酸アンモニウム水溶液の都合4種類の組成の異なる電解液を用意し、これらの溶液に前記の3種類異なる面積にパターニングしたアルミ箔の試料極と、白金の対極とを浸漬し、両極間の電位を5.0Vに保持し、試料極の酸化皮膜に流れる漏れ電流を測定した。
この電流測定に際しては、採用する測定の態様、要領、そして測定手段等には特に制限はない。上記漏れ電流の測定のほかに、電位掃引、交流インピーダンス法、その他、種々の電圧印加法による電流測定手段によって実施しうることは言うまでもない。
【0024】
(実施例1);
上記アルミ箔の試料極と白金の対極を、LiPF6/PC+DMEからなる電解液〔1〕に浸漬して前示測定条件にて測定を行った。その結果、図3(電流密度−時間特性)を得た。図3は、大面積、中面積、小面積のアルミ箔試料極を電解液(LiPF6/PC+DME)中で定電位に保持したときにおける(電流−時間特性)を示しているものである。この図からも、測定開始直後の電流の流れに不安定さが見られるが、その後は各試料極の電流密度は、試料極の面積が大きいものほど小さく、逆に試料極の面積が小さいものほど大きくなっていることが分かる。すなわち、図3に示されている測定結果から、電流密度が電極面積に依存することが観測された。これを、電流密度と面積の常用対数との関係についてプロット作図した結果が、図4のとおりである。
【0025】
図4によると、電流密度は、電極面積が大きくなるにつれて、直線的に右下がりを呈していることがはっきりと示され、電流密度が試料極の面積に依存していることが分かる。また、この試料における電流密度と試料極の面積との関係については、時間的変化に基づく違いも観測されず、15分後、30分後とも、同様の傾向を示していた。そして、これらの傾向は、何れの場合も、電流密度が試料極の面積に依存する単調な勾配、すなわち、面積が小さいときには電流密度は大きく、面積が大きいときには電流密度は小さくなる直線的に右下がりの傾向を示していた。これからは局部腐食によって生じた孔(以下ピットと記す)に電流が集中するときの異常な傾向は認められなかった。したがって、この段階では、孔食が生じていないことを示していると特定することができた。すなわち、図3、4に示す測定結果は、ピットに生じる電流集中による異常電流はなく、孔食の発生を知らせる兆候は検出されず、健全な材料であることを示したものである。事実、デジタルハイスコープによる表面観察によっても、孔食は観察されなかった。以上から、これらの図3、図4に示されている曲線、直線からは、ピットに生じる電流集中による異常電流はなく、孔食の発生がなかったことを示していることが裏付けられた。
【0026】
前示図3の電流密度−時間特性は、図14に示す態様によって測定した。すなわち、ポテンショスタットにより一定の電圧を印加して試料極に流れる電流を経時的に読みとり、これから電流密度を求めてプロットした(ポテンショスタットは、北斗電工株式会社製造 HA151を使用した)。また、図4の電流密度と試料極の面積の常用対数との関係は、各面積の試料極の電流−電位特性から、最終電流密度を読み取り、試料極の面積の常用対数に対して電流密度をプロットしたものである。
なお、以下に示す実施例で用いる各図は、すべて本実施例に準じて、同様に測定し、プロットしたものである。
【0027】
(実施例2);
次に、大面積、中面積、小面積の3種のアルミ箔からなる試料極と白金の対極とをLiClO4/PC+DMEからなる電解液〔2〕に浸漬し、両極間を定電位に保持したときの試料極に流れる電流を測定した。その結果、図5(電流密度−時間特性)を得た。
図5によれば、孔食がない場合に観測される図3に示されたような電流密度の面積依存性は見られず、通常の説明では困難な異常な傾向を示していることが分かる。
また、図5に示す結果から、電流密度と試料極の面積の常用対数との関係を求めてプロットした結果、図6を得た。図6には、試料極の面積に大小の違いがあるにもかかわらず、電流密度はほぼ一定の値を示しており、実施例1の試料におけるような、すなわち、孔食がないときに観測される試料極の面積の大小に依存する勾配はなく、通常の説明では困難な異常な傾向を示していることが、より明確に検出されていることが理解される。
測定に供した試料を、デジタルハイスコープにて写真撮影し、金属の表面を観察した結果、腐食を示すピットが観察された(図7)。
【0028】
この結果から、前示図5、6に示す測定結果は、試料極に局部腐食が生じていることを示すものであることが検証された。すなわち、局部腐食によるピットが生じ、そこに通常の域を超えた異常な電流集中が起き、これによって測定した電流は、電極面積に依存する傾向を失い、崩れたことを示している。すなわち、孔食が生じていることを示していることが検出、検証されたものである。
【0029】
(実施例3);
電解液〔3〕(LiBF4/PC+DME)を使い、前述実施例1、2と同様、電流密度と試料極の面積の常用対数との関係を求める測定試験を行った。その結果、図8に示す結果が得られた。すなわち、実施例1と同様、電流密度は試料極の面積に依存した単調な右下がりの関係を示していた。その傾向は、15分後、30分後においての、径時的変化も認められなかった。すなわち、図8に示す測定結果は、孔食が発生したときに見られる、ピットへの電流の異常集中による面積依存性の崩壊は観測されず、孔食が検出されなかったことを意味しているものである。このことは、デジタルハイスコープによる表面観察からも、何ら腐食を示す兆候等も観察されなかった事実からも、その正しさが証明された。
【0030】
(実施例4);
次に試料極を、5.0wt%アジピン酸アンモニウム水溶液〔4〕 に浸漬し、電流密度−時間特性を求める測定実験を行った。
その結果は、図9に示すとおりである。
図9の測定結果によると、面積の一番大きな試料極と2番目に大きな試料極との間に、総じて面積依存性が崩れ、実験開始後の経過時間220秒付近からこの崩れ方は顕著となり、電流密度の面積依存性が完全に崩れ、この傾向は、電極面積の一番小さな電極の場合においても、同様の傾向を示している。
すなわち、この実施例4における試料極は、測定中に通常の面積依存性が崩れ、異常な電流集中が生じたものと推測され、孔食が発生したものと推測された。すなわち、孔食の発生により異常な電流集中が生じ、これによって電流密度の面積依存性が崩れたことを示したものであると予測された。この予測は、デジタルハイスコープによる表面観察の結果にも符合し、測定中に孔食によるピットが発生し、腐食が始まったことが確認された。
【0031】
(実施例5);
実施例4と同じ電解液〔4〕を使用し、3分後、5分後における電流密度と試料極の面積の常用対数との関係求める測定実験を行い、孔食の有無を検出、同定した。
その結果は、図10に示すとおりであった。
図10に示す電流密度と試料極の面積の常用対数との関係は、面積依存性を示しており、そこにはピットに電流が異常に集中する場合に検出される、面積依存性の崩壊は見られず、孔食の発生はなかったことを示している。事実、デジタルハイスコープによる表面観察の結果、腐食は観察されなかった。
【0032】
以上、本発明は、上記開示した実施例に示すとおり、非常に簡単な手段により、すなわち、被検試料と同じ材質で、異なる面積の電極を対とする非常に簡単な手段により、これを非常に短時間で済む要領により腐蝕試験を行い、被検試料の電流密度と電極面積との関係を特定し、これにより、腐食の有無について早期発見しうる腐食センサを提供しうるものである。特に発見の困難な孔食を検知しうる腐食センサを提供することができたものであることは、実施例からも明らかとなった。
【0033】
本発明は、以上の実施例からも明らかなように、被検試料と同じ材質のものを用いて実際に腐食させ、そこに流れる電流値から、電流密度を求め、これを少なくとも大小2個からなる試料極について実施し、面積の異なる各試料極について電流密度−時間特性、あるいは電流密度と試料極の面積の常用対数との関係を求め、これによって、電流密度の面積依存性を検出し、腐食の有無、その状態の程度を検出するものであり、極めて簡単な原理に基づくものであり、その検出手段を構成する機器類は、いたって入手容易なものによって構成され、従来提案されているこの種センサに比し、簡単であり、また正確に反応し、極めて早期に局部腐食を検出できる極めて優れたものである。加えて、これまでのものが、測定方法によほど習熟し、データ解析に精通していないと困難であったことからすると、本発明は、検出に要する時間も短時間ですみ、解析も簡単で、結果がすぐに得られる点でも優れている。
【0034】
上記測定及び孔食の有無の検出、同定をコンピュータを使用して自動的に行う装置として、図15に示す自動腐食センサが、発明の実施態様の一つとして考えられる。図15においては、異なる所定断面積を持つ複数の金属棒がしかるべきシール材に埋め込まれた図13に示すような構造の試料極が、腐食試験液に浸漬され、同腐食試験液に浸漬された対極との間に定電圧電源が接続され、1測定時間内、試料極と対極の間に一定の電圧が加えられるよう構成されている。また、また各試料極のリード端子にはスイッチが設けられ、コンピュータに予め記憶させた手順により当該スイッチを開閉して、測定する試料極を選択することができ、それぞれの試料極の電流値を単独に測定できる構造となっている。なお、前記スイッチは切替スイッチであってもよい。
試料極に流れる電流値は、電流電圧変換器によって電圧値に変換された後、A−D変換器によりデジタルデータに変換されてコンピュータに入力され記憶装置に記憶され、またコンピュータでデータ処理され、表示装置に電流密度−時間特性、又は電流密度と試料極の面積の常用対数との関係として表示される。
なお、試料極と対極との間に加えられる定電圧も、コンピュータに予め入力されたプログラムに基づいて順次変更し、さまざまな電圧での上記電流密度−時間特性、及び電流密度と試料極の面積の常用対数との関係を得ることができる。
【0035】
本発明の腐食センサの主要な利点は、以下の通りである。
1)本発明の腐食センサは、面積の異なる被検試料そのものを腐食試験液につけ、電流密度を計測するという簡単な原理に基づくものであり、被検試料と同じ材質を入手できれば簡単かつ安価に製作でき、何ら特殊な機器類は要しない。
しかも、腐食センサとして使用する被検試料は、実施例でも開示したように薄い箔状でよく、しかもほんの僅かな面積を必要としているだけである。
2)測定は、通常行われる曝露試験による判定法等に比し、極めて短時間で行え、孔食の有無の判定が短時間でできる。
3)センサとして使用する被検試料片(金属フィルム)は、調査しようとする構造物の材料、構造、履歴等を反映して組み合わせ、変更することができ、これによって、実際に即した測定、判定が可能となる。
4)測定に際しては、腐食試験液に浸漬する態様も含むため、腐食環境に基づいて行うので実際的であり、劣化の影響に対して一層敏感に評価することが可能であり、高い判定精度が期待できる。
5)本発明の腐食センサは、ピット腐食、クレビィス腐食、応力腐食、クラッキング腐食疲労、粒界腐食、等の局部的腐食の全てを感知し、予測可能である。
6)コンピュータを使用した自動腐食センサの導入により、表示装置に表示される電流密度−時間特性、及び電流密度と試料極の面積の常用対数との関係から、即座に局部腐食の有無が判定でき、より迅速な評定か可能になる。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、金属の腐食、とりわけ発見しにくいといわれている孔食をも含めた局部腐食を検知しうる新規な腐食センサを提供するものであり、その解決手段とする構成は、極めて単純かつ簡単であり、しかも、極めて短時間で精度よく測定、検知、感知、判定しうる腐食センサを提供するものであり、その意義は、極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】微小電極による電流集中モデルを示す概要図。
【図2】孔食による電流集中モデルを示す概要図。
【図3】(LiPF6/PC+DME)中の5V保持時の電流密度−時間特性。
【図4】(LiPF6/PC+DME)中の5V保持におけるアルミ箔試料極の15分後、30分後の各電流密度と面積の常用対数との関係を示す概要図。
【図5】(LiClO4/PC+DME)中の5V保持時の電流密度−時間特性。
【図6】(LiClO4/PC+DME)中の5V保持におけるアルミ箔試料極の270秒後の電流密度と面積の常用対数との関係を示す概要図。
【図7】(1M LiClO4/PC+DME)中の5V保持におけるアルミ箔試料極表面の腐食状態を示す観測図(デジタルハイスコープ写真)。
【図8】(LiBF4/PC+DME)中の5V保持におけるアルミ箔試料極の15分後、30分後の各電流密度と面積の常用対数との関係を示す概要図。
【図9】アジピン酸アンモニウム水溶液中の5V保持時の電流密度−時間特性。
【図10】アジピン酸アンモニウム水溶液中の5V保持におけるアルミ箔試料極の3分後、5分後の各電流密度と面積の常用対数との関係を示す概要図。
【図11】孔食の発生を説明する原理的モデルの概要図。
【図12】センサの構造を示す概要図。
【図13】再使用可能なセンサ構造の概要図。
【図14】本発明によるセンサを使用する実施態様図。
【図15】コンピュータを使用した自動腐食センサの構成図。
Claims (5)
- 被検材料とする金属材料における局部腐食検出方法において、被検材料とする金属材料と同一金属材料からなる面積が異なる複数個の電極を対にしてなる局部腐食センサを、その対の最も大きい電極と最も小さい電極との面積比を1より大きく、かつその対の最も小さい電極の面積が1cm2以下になるように設定し、該局部腐食センサを腐食試験液に浸漬し、各電極を定電位に保持し、各電極の電流値の経時変化をプロットして電流−時間一次曲線をそれぞれ求め、次いでこのデータを処理して各電極に流れる電流値を各電極面積で除して電流密度を求め、この得られたデータをさらに処理して電流密度と電極面積の常用対数値の関係を求めてプロットし、その傾きからその電流密度の面積依存性の有無を知り、これによって局部腐食が生じているか否かを検出することを特徴とする、面積が異なる複数個の電極による局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
- 前記面積が異なる複数個の電極としての対が、少なくとも大小2個1組からなる局部腐食センサであることを特徴とする、請求項1に記載の局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
- 被検材料とする金属材料に対して腐食作用を有する腐食試験液を使用することを特徴とする、請求項1または2に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
- 前記腐食試験液が、リチウム塩を含む非水性溶液か、アジピン酸アンモニウム水溶液であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
- 局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法において、被検材料とする金属材料と同一金属材料からなる複数の異なる面積の電極を対として構成した局部腐食センサを、該金属材料に対して腐食作用を有する腐食試験液に浸漬し、各電極と対極との間に定電圧を印加保持したときの前記各電極に流れる電流を測定し、各電極面積、各電極に流れる電流値、その経時変化をコンピュータに入力してデータ処理し、電圧印加経過時間と電流密度との関係、及び電流密度と電極面積の常用対数値との関係をグラフとして表示させることを特徴とした、請求項1〜4のいずれか1項に記載する局部腐食センサを用いた局部腐食検出方法。
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