JP3853482B2 - 球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料及び溶接接合方法、並びに、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料及び溶接補修方法 - Google Patents
球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料及び溶接接合方法、並びに、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料及び溶接補修方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との溶接接合、及び、球状黒鉛鋳鉄部材の溶接補修に用いるのに適したTIG溶接及びアーク溶接用の溶接材料、並びに溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
球状黒鉛鋳鉄は機械的性質が優れており、工業材料として広く用いられている。しかしながら、球状黒鉛鋳鉄の溶接性は著しく悪いので、利用上大きな制約となっている。球状黒鉛鋳鉄の溶接が困難である原因は、母材の炭素含有率が高いため、溶接時の急冷により溶着金属、及び溶着金属と母材との界面であるボンド部に、チル炭化物及び/又はレデブライトが形成されるからである。セメンタイトで構成されたこのチル炭化物及び/又はレデブライト(以下、総称して「チル組織」という)は、硬く脆いので、溶接部に存在するとその部位から破壊される可能性が高い。その他、鋳鉄は一般に溶接時のガス発生によるブローホールやスラグ巻き込み等の溶接欠陥も多い。こうした理由により、球状黒鉛鋳鉄は優れた機械的性質を有するにもかかわらず、溶接困難な材料として扱われてきた。
【0003】
上記理由により従来、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材とを信頼性高く溶接接合することが困難とされている。そこで、両部材の接合方法としては一般に、両部材の接合部にフランジ等を設けてボルトとナットで接合する機械的接合法が採用されている。しかしながら、機械的接合法においては、ボルトやナット等の部品点数が増加するばかりでなく、部材の構造も複雑になり、また組立作業も煩雑である。
【0004】
一方、球状黒鉛鋳鉄は普通鋳鉄に比べてはるかに強靱な機械的性質を有するので使用分野が大きく広がり、球状黒鉛鋳鉄は本来の鋳物用材料から、棒状あるいは板状の加工用材料まで市販されている。例えば、自動車産業では、従来、軟鋼のみで製造されていた部品に対して、強度の重視される部材には軟鋼を用い、その他部材には安価な球状黒鉛鋳鉄製棒状あるいは板状部材を用いる試みがある。このため、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との溶接技術が要請されるに至った。
【0005】
従来、球状黒鉛鋳鉄部材と鋼部材との溶接接合、又は溶接補修に対ついて、下記方法がある。
▲1▼ 通常、軟鋼系溶接材料を用いる方法が知られている。
【0006】
この方法によれば、鋼部材側の溶接性は良好であるが、球状黒鉛鋳鉄部材側の溶接性が悪く、特に接合強度に関して信頼性に欠け、ボンド部でチル組織が発生し、硬さが高くなると共に脆くなり、溶接割れが発生する。
【0007】
▲2▼ 鉄−ニッケル系溶接材料を用いる方法もある。
この方法によれば、球状黒鉛鋳鉄部材側の溶接性は、軟鋼系溶接材を用いた場合よりも良好であるが、球状黒鉛鋳鉄部材側のボンド部及び軟鋼部材側のボンド部のいずれにおいても、チル組織が生成し、強度に劣る。更に、球状黒鉛鋳鉄部材と溶着金属との間での色調及び耐食性が不整合のため、外観上好ましくない。また、軟鋼系溶接材に比べて高価であり経済性に劣る。
【0008】
▲3▼ オーステナイト系ステンレス溶接棒を用いる方法もある。
この方法によれば、鋼部材側の溶接性は優れ、また球状黒鉛鋳鉄部材側の溶接性も比較的良好であるが、球状黒鉛鋳鉄部材側のボンド部に、溶接の熱影響によりチル組織、及び球状黒鉛鋳鉄の基地組織が硬化した硬化基地組織が生成し、溶接割れが発生し易くなり、溶接の信頼性が十分でない。そこで、これを改良するために溶接速度を一般的に行なわれる速度よりも大きくする方法が、特開平8−10952号公報に開示されている。この方法は、溶接速度を速くして球状黒鉛鋳鉄部材と鋼部材とに付与される熱量を少なくすることにより、ボンド部における球状黒鉛鋳鉄のチル組織及び硬化基地組織の生成を抑制し、溶接割れの発生を防ぐというものである。しかしながら、この方法はまだ信頼性が高いとはいえず、溶接速度を高めなければならないという制約があり、また、軟鋼系溶接材に比べて高価であり経済性にも劣る。
【0009】
▲4▼ 球状黒鉛鋳鉄の補修溶接として、従来、アーク溶接法で球状黒鉛鋳鉄心線の被覆アーク溶接棒を用いる方法、又はガス溶接法でSi含有率の高い過共晶球状黒鉛鋳鉄等の鋳鉄裸溶接棒を用いる方法において、母材を500℃以上に予熱することによりチル組織の発生を防止する方法が考えられている。しかしながら、500℃以上の予熱を行なうと溶接作業性を著しく悪化させる。更に、このような高温予熱を施すための加熱装置の新設や加熱作業時間の発生は、近年、溶接の能率化及び省力化を課題とする状況下において望ましくない。しかし、上記方法では鋳鉄製溶接棒を用いるので、溶接棒は安価であり、溶接部は母材に類似した成分組成になるので、この点においては望ましいものである。
【0010】
▲5▼ これに対して、本発明者等は、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼母材とのTIG溶接の一連の研究において、下記結果を報告した。
即ち、溶接棒として、接種剤の粉末を接着剤と混ぜ、棒心線表面に塗布したものを用い、突合わせ溶接を行なった。接種剤の種類はFe−Si接種剤、Ca−Si−Ba接種剤、RE−Ca−Si接種剤及びCa−Si−Bi接種剤の各々を用いた。溶接後溶接部の金属組織及び硬さ測定の結果、Ca−Si−Bi接種剤を棒心線の重量に対してBi量が0.01mass%となるように塗布した溶接棒を使用して、球状黒鉛鋳鉄側のボンド部においても、チルの形成は少量でありビッカース硬さは370HV程度に抑えられた(日本鋳造工学会、第130回全国講演大会概要集(1997)12頁)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、上述したように、溶接棒として棒心線の表面に接種剤を塗布した鋳鉄製溶接棒を用いて球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との突合わせ溶接の研究を重ねてきた。その結果、この方法で接種剤を溶接時に添加することにより接種効果が得られ、チルが減少することがわかった。しかしながら、この方法のように接種剤を鋳鉄製溶接棒に塗布して溶接を行なう方法では、接種剤が溶接部に溶け込みにくく、ビードに接種剤が溶け残って溶接欠陥となることがあった。また、溶融池における流動性が低下し、溶接性が低下するものもあった。
【0012】
球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との溶接には、上述したとおり種々の問題がある。そこで、このような問題を解決するために本発明者等は、この発明の課題として、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との溶接において、軟鋼部材溶接時に行なわれる程度の通常の低温予熱条件下で、溶着金属並びに球状黒鉛鋳鉄部材側及び軟鋼部材側の両ボンド部からなる溶接部全域において、
(a)チル組織を微量に抑制するか、乃至は全く発生させないようにし、
(b)硬度が異常に高くならないようにし、
(c)溶接割れを発生させないようにし、そして、
(d)色調及び耐食性の不整合を解消しうる
TIG溶接及びアーク溶接用の溶接材料、並びにそのような溶接方法を開発することを決めた。
【0013】
従って、この発明の目的は、上記課題を解決することにより、球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との健全な溶接をTIG溶接又はアーク溶接で効率的に行なうことができる溶接接合用溶接材料及び及び溶接接合方法、並びに、球状黒鉛鋳鉄の健全な補修溶接をTIG溶接又はアーク溶接で効率的に行なうことができる溶接補修用溶接材料及び溶接補修方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために鋭意検討及び研究を重ねた。
本発明者等は、先ず、鋳鉄の鋳造における溶湯の接種処理の効果を、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との異材溶接技術に利用することに着眼した。即ち、鋳鉄の鋳造における接種とは、溶湯を鋳込む直前に、合金(接種剤)を添加して組織や性質を改善することをいい、鋳鉄では接種剤を添加すると、チル組織の形成が抑制される。しかしながら、接種剤添加効果にはフェーディングがあり、接種剤溶解後に溶解状態に保持された時間経過とともにその効果が薄れる。つまり、溶製するときに接種剤を添加した溶接棒を使用して溶接しても、接種効果(組織改善)はない。これに対して、溶接棒心線に接種剤を塗布して溶接すると、接種剤が溶け始めるのは溶接棒心線の溶解開始時であり、しかも溶融金属は極めて短時間で凝固が完了するので、接種効果が発揮され、チル組織の形成が抑制されるものと考えた。そして、前述したとおり、日本鋳造工学会、第130回全国講演大会において、接種剤塗布溶接棒による球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との異材溶接実験を行なった。その結果、チルの形成を少量に抑制し、硬さも低く抑えることができることがわかった。しかしながら、接種剤の添加方法として溶接棒心線に塗布した場合には、接種剤の溶け込みが十分ではなく、その溶け残りが溶接欠陥となったり、溶融池の流動性低下による溶接性低下が発生することがあった。
【0015】
このように、接種剤を溶接棒に塗布した場合に見られた、接種剤の溶け込みにくさや、溶融池における流動性の低下による溶接性の低下の原因は、溶接時に溶接棒を盛ると同時に接種剤を溶かし込むため、溶融池の温度が下がって接種剤がとけにくくなることにある。その結果、接種効果が均一には得られにくく、溶着金属が一部モットル組織となって、チル化を完全には防止することが難かしかったものと考えられる。特に、Ca−Si−Ba接種剤を使用した場合には溶接性の低下が著しく、溶接欠陥が生じ易かった。
【0016】
そこで、本発明者等は、溶接棒に塗布された接種剤の溶け込みにくさを改善し、接種効果の均一性を狙って、接種剤を溶接母材側に装着することに着眼した。更に接種剤の効果を高めるために、鋳鉄の黒鉛化促進効果を狙ったインサート材料を付加することに着眼した。そして、冷却過程でのチル発生の抑制効果を狙って後熱処理を試みた。即ち、本発明においては、下記事項の可能性に着眼した。
▲1▼ 接種剤を母材に塗布するか、又は母材の開先に埋めて溶接することにより、溶接部への接種剤の溶け込みを改善し、そして、接種効果を均一に得ることができる。
▲2▼ 上記▲1▼の方法と同時に、Alのような鋳鉄の黒鉛化を促進する金属をインサート材料として開先に挟んで溶接することにより、溶接部の黒鉛量と黒鉛粒数とを増加させ、溶接部のチル化を防止することができる。
▲3▼ 更に、溶接後に適切な後熱処理を行なうことにより溶接部の冷却速度を遅くし、チル化防止を一層促進することができる。
【0017】
次に、本発明者等は、棒心線の材質を選定するために下記実験を行なった。
(実験)
はじめに、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との異材溶接用の溶接棒として、従来知られているものの中から球状黒鉛鋳鉄製溶接棒を選び、更に、過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒を採用し、下記実験を行なった。過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒を試験に加えたのは、片状黒鉛鋳鉄は球状黒鉛鋳鉄母材に類似した成分組成であり、過共晶組成であると完全に黒鉛化し、過冷度が大きくてもチル組織が形成されにくく、しかも球状黒鉛鋳鉄のようにチルを生成し易いMgを含んでいることはないことに着眼したものである。
【0018】
なお、ニッケル及びニッケル−鉄溶接棒は、球状黒鉛鋳鉄部材及び軟鋼部材に対して、色調及び耐食性が不整合のため外観上好ましくなく、また、軟鋼系溶接材に比べて高価であり経済性に劣っているので除外した。
【0019】
実験は、TIG溶接機(Tungsten Inert-Gas arc welding)を用いて、母材板厚3.2mmの球状黒鉛鋳鉄及び軟鋼のそれぞれに対して、ビードオンプレート試験を行なった。ビードオンプレート試験とは、溶接棒を用いて板にビードを盛り、その溶込み深さとビード幅とを測定する手法である。但し、ここでは、ビードオンプレート試験は、上記2種類の溶接棒間の、球状黒鉛鋳鉄母材及び軟鋼母材のそれぞれに対する溶接特性、特に溶着金属及びボンド部の金属組織及び硬さについての差を定性的に比較して2種の溶接棒の順位付けをするために利用したものである。
【0020】
表1に主な溶接条件を、表2に母材(球状黒鉛鋳鉄及び軟鋼)の化学成分組成を、そして表3に溶接棒の化学成分組成を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
溶接条件は、球状黒鉛鋳鉄母材では、溶接電流:150A、アーク電圧:20V、入熱量:9.0kJ/cm、溶接速度:20cm/minとし、また軟鋼母材では、溶接電流:170A、アーク電圧:20V、入熱量:13.6kJ/cm、溶接速度:15cm/minとした。いずれの母材についても、タングステン電極径:2.4mmφ、電極高さ:5mm、Arガス流量:7〜8l/minとし、予熱条件は、予熱なし、150℃及び300℃とした。球状黒鉛鋳鉄製溶接棒はFe−Si−Mgで球状化処理したものを、そして過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒はFe−Siで接種したものを使用した。
【0025】
こうして調製されたビードオンプレート試験片のボンド部及び溶着金属について、金属組織観察を顕微鏡観察試験で、そして硬度分布測定をビッカース硬さ試験で行なった。試験位置は、ビードの長手方向中央部でビードに直角な鉛直断面である。
【0026】
表4に金属組織の観察結果を、そして表5にビッカース硬さ試験結果をまとめて示す。なお、予熱温度が150℃の結果は予熱なしと予熱300℃の中間であり、その記載は省略した。
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
各溶接棒を使用したときの金属組織及び硬さの特徴は次のとおりである。
▲1▼球状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合は、300℃予熱をしても球状黒鉛鋳鉄母材側のボンド部及び溶着金属、並びに軟鋼母材側の溶着金属のいずれにもチル組織が形成されている。また、軟鋼母材側のボンド部については、予熱無しではマルテンサイトが形成したが、300℃予熱で消失した。硬度は金属組織に対応して高い。
▲2▼過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合は、300℃予熱をしても球状黒鉛鋳鉄母材側のボンド部及び溶着金属、並びに軟鋼母材側の溶着金属のいずれにも、チル組織が形成されているが、その量は球状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合よりもかなり少なくなっている。従って、これに対応して硬度も低下している。
また、軟鋼母材側のボンド部については、予熱無しではマルテンサイトが生成したが、300℃予熱をするとマルテンサイトは生成しなかった。
【0030】
上記各種溶接棒の優劣について上記実験結果から次の知見を得た。
上述した金属組織及び硬度の結果によれば、過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合は、軟鋼母材側のボンド部を除く溶接部位にチル組織の形成が認められるが、その形成量は比較的少なく、球状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合と比べても少なくなっている。また、硬さについても、過共晶片状黒鉛鋳鉄製溶接棒を用いた場合には、異常に高値を示す部位がなく安定しており、また、軟鋼母材側のボンド部に予熱なしで生成していたマルテンサイトが300℃の低温予熱で消失していることがわかった。
そこで、溶接棒心線は、過共晶片状黒鉛鋳鉄性溶接棒が適しており、300℃の予熱を施した方がよいと判断した。
【0031】
この発明は、上記着想及び知見に基づきなされたものであり、下記構成を有する。
請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料は、棒心線と溶接用インサート材料と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、前記インサート材料は鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金からなり、そして前記接種剤は前記インサート材料で覆われた形態で前記インサート材料と共に溶接母材に埋められており、前記インサート材料の鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料であり、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっていることに特徴を有するものである。
【0033】
請求項2記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料は、棒心線と溶接用インサート材料と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、前記インサート材料は鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金からなり、そして前記接種剤は溶接母材に塗布されており、前記インサート材料の鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料であり、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっていることに特徴を有するものである。
【0035】
請求項3記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料は、上記請求項1または2に記載された発明において、棒心線の化学成分組成が、C:3.3〜3.8mass%、及び、Si:4.0〜5.0mass%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、C(mass%)+0.31×Si(mass%)で表わされる炭素当量、CE値が、4.8〜5.3の範囲内にあることに特徴を有するものである。
【0036】
請求項4記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法は、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合に際し、請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接接合用溶接材料を用いて行うことに特徴を有するものである。
【0037】
請求項5記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法は、請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0038】
請求項6記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法は、棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該接種剤単独で溶接母材に埋められている球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0039】
請求項7記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法は、棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は溶接母材に塗布されている球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0040】
請求項8記載の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法は、請求項4又は5に記載された発明の内、鋳鉄の黒鉛化を促進させる前記インサート材料が、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料である場合において、前記溶接接合時に溶接部に挿入する前記選ばれたインサート材料の重量(win)を、前記溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(win/W)×100mass%で、
(win/W)×100=0.3〜1.5(mass%)------------(1)
の範囲内に調整することに特徴を有するものである。
【0041】
請求項9記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料は、請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接材料からなることに特徴を有するものである。
【0042】
請求項10記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法は、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修に際し、請求項9に記載された溶接補修用溶接材料を用いることに特徴を有するものである。
【0043】
請求項11記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法は、請求項9に記載された溶接補修用溶接材料の内、いずれか一つの溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0044】
請求項12記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法は、棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該接種剤単独で溶接母材に埋められている球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0045】
請求項13記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法は、棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該溶接母材に塗布されている球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることに特徴を有するものである。
【0046】
請求項14記載の球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法は、請求項10又は11に記載された発明の内、鋳鉄の黒鉛化を促進させる前記インサート材料が、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物、からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料である場合において、前記溶接補修時に溶接部に挿入する前記選ばれたインサート材料の重量(wM,in)を、前記溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(wM,in/W)×100mass%で、
(wM,in/W)×100=0.3〜1.5(mass%)----------(2)
の範囲内に調整することに特徴を有するものである。
【0047】
【発明の実施の形態】
この発明において、棒心線の成分組成、接種剤の添加方法、特定成分のインサート材料の使用とその使用量、及び後熱処理の各条件を上記のとおり限定した理由を説明する。
【0048】
(1)棒心線の成分組成
棒心線の材質として、過共晶片状黒鉛鋳鉄を使用する理由は、上述した(実験)でのビードオンプレート試験の結果で説明したとおり、球状黒鉛鋳鉄性溶接棒を使用した場合よりもボンド部及び溶着金属のいずれにおいてもチルが少なくなるからである。
【0049】
また、棒心線の化学成分組成を、
C :3.3〜3.8mass%、及び、
Si:4.0〜5.0mass%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、C(mass%)+0.31×Si(mass%)で表わされる炭素当量CE値が、
CE値:4.8〜5.3(mass%)
の範囲内に限定する理由は、下記のとおりである。
【0050】
▲1▼棒心線のC含有率=3.3〜3.8mass%
Cは、共晶凝固時のチル組織の生成防止に効果を発揮する。しかしながら、そのC含有率が3.3mass%未満では、チル組織の形成防止効果が不十分である。一方、3.8mass%より多くなると、溶接時に黒鉛の偏析が生じ、溶接部の機械的性質が劣化する。従って、棒心線のC含有率は、3.3〜3.8mass%の範囲内に限定すべきである。
【0051】
▲2▼棒心線のSi含有率=4.0〜5.0mass%
Siは、黒鉛化促進傾向をもつ元素であり、4.0mass%以上含有させることにより、溶接部の組織の黒鉛化を進め、チル組織の形成を抑えることができる。しかしながら、5.0mass%よりも多く含有させると、溶接部の靱性が低下する。従って、棒心線のSi含有率のSi含有率は、4.0〜5.0mass%の範囲内に限定すべきである。
【0052】
▲3▼棒心線のCE値:C(mass%)+0.31×Si(mass%)=4.8〜5.3
CE値が適切な範囲内にあると、共晶凝固に際し黒鉛粒数が多く形成される。CE値が4.8未満になると、溶接時の急冷条件ではチル組織が形成される。一方、CE値が5.3より大きくなると、多数の黒鉛粒が凝集した一種の溶接欠陥を形成して溶接部の機械的性質を著しく劣化させる恐れがある。従って、棒心線のCE値は、4.8〜5.3の範囲内に限定すべきである。
【0053】
なお、棒心線中の不可避不純物としては、通常の鋳鉄製造過程で混入する範囲内の含有率であればよい。即ち、Mn≦0.3mass%、P≦0.08mass%、Ni≦0.5mass%、Cr≦0.4mass%、Mo≦0.4mass%、V≦0.1mass%、Al≦0.05mass%、As≦0.01mass%、Sn≦0.01mass%そしてSb≦0.01mass%であればよい。
【0054】
(2)接種剤の添加方法
接種剤を棒心線表面に存在させず、溶接母材の開先部側に存在させる理由は、上述したように、接種剤の溶融池への溶け残りを防止し、均一に溶解させるためである。こうすることにより、接種剤塗布溶接棒のように、接種剤の溶け残りによる溶接欠陥、溶融池の温度降下による流動性の低下、これに伴う溶接性の低下、あるいは接種剤起因のスラグの巻き込みによる溶接欠陥がなくなる。更に、接種剤の均一溶解により、溶着金属の金属組織にムラがなくなり、組織と硬さが安定する。なお、鋳造における接種のように溶融池に添加する方法にみられるフェーディングも発生しない。
【0055】
更に、溶接母材に塗布せず、インサート材料で覆った形態で母材開先部に埋めるという方式をとり、接着剤を全く使用しない方法を採用すると、溶接時に接着剤から発生するガス発生がない。従って、ブローホール等溶接部ガス欠陥が発生しない。また、ガスによる溶融池の温度低下も避けられる。従って、接種剤の母材に対する装着は、塗布するよりも不純物の混入しない状態で装填する方が望ましい。接着剤無しで装填するには、例えば、Al箔に粉状接種剤を包み、開先形状に沿って埋め込むと隙間無く埋め込みができる。
【0056】
(3)鋳鉄の黒鉛化促進用金属又は合金からなるインサート材料の使用とその使用量
鋳鉄の黒鉛化促進用金属又は合金からなるインサート材料は、この発明の溶接材料の構成物の内、最も重要なものである。もともと、接種剤自体が鋳鉄の黒鉛化を促進することを目的として添加されるものである。しかしながら、従来、接種剤として用いられているものに含まれる黒鉛化促進元素は、過剰に添加すると溶接部の靱性を劣化させたり、強度不足をきたしたりする弊害を引き起こすことや、接種剤を構成する他成分元素との添加量比率が制約となって、それ以上多く添加することができないといった制約がある。
【0057】
そこで、本発明者等は、黒鉛化促進効果のみを抽出してチルの生成を防止することができるという、画期的な方法を着想した。即ち、インサート材料として、例えば、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物、の内少なくとも一種を含む合金がそれに該当する。
【0058】
アルミニウム及びその合金、並びに、銅及びその合金はいずれも、鉄に比べて融点が低く、しかもアルミニウム及びその合金、銅及びその合金、並びに、ニッケル及びその合金はいずれも、延性がよいので箔に加工できる。従って、溶接部開先形状に沿って埋め込むと隙間なく装着することができるという利点をもつ。そして、更に、接着剤を用いず接種剤を母材に装着させようとする場合、接種剤粉末をそれらの箔で包み、これを開先形状に沿って埋め込むことができるので、インサート材料として一層すぐれている。
【0059】
なお、Alはマトリックスをフェライト化させるが、一定値以上添加すると、融池の流動性を害する。従って、Al箔の添加量に適切な使用量範囲を設けることが必要である。
【0060】
この発明におけるインサート材料の使用目的は、鋳鉄の黒鉛化促進作用を補うものであるから、黒鉛化促進効果の観点のみからみれば、その使用量は十分に多い方がよい。しかしながら、インサート材料の溶け込み性、鉄に対する溶解度、均一溶解性あるいは蒸気圧等の高温物性、溶融池の流動性に及ぼす影響や融点等の溶接性に及ぼす影響度、溶接部の機械的性質や耐食性等の物理的及び化学的特性を考慮して、その適切な使用量範囲を決定することが必要である。
【0061】
アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物の場合は、本発明者等の実験結果によれば、溶接部に挿入するインサート材料の重量(win)は、溶接棒心線の溶け込み重量(W)に対して、0.3〜1.5mass%の範囲内に調整することが必要である。(win/W)×100が、0.3mass%未満では黒鉛化促進効果が不十分であり、一方、(win/W)×100が、1.5mass%を超えると溶融池の流動性が低下し、またスラグの発生も見られ、健全なビードが得られなくなる。
【0062】
(4)後熱処理
溶接後の後熱処理は、一般的には、溶接部の冷却速度を遅くしてチルの生成を防止するのに効果を発揮する。しかしながら、この発明においては、上述した黒鉛化促進用の適切なインサート材料の母材への挿入との組合せ操作により、溶接部でのチル発生防止効果に著しい効果を発揮させることが特徴である。従って、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との接合溶接、又は球状黒鉛鋳鉄の補修溶接をこの発明の方法でした後に、適切な後熱処理をすることは極めて望ましいことである。
【0063】
この発明における後熱処理の方法は、溶接部に熱影響が残ってはならない。従って、後熱処理の方式及び処理条件は、溶接部材の形状・寸法、板厚、重量、開先形状、溶け込み重量及び溶接条件により制約し、また、溶接施工の環境条件により制約されるすべきである。従って、後熱処理の方法については、各溶接施工の固有条件に応じた方法を決定すべきである。なお、本発明では、溶接部に対する一般的な後熱処理方法の他に、溶接部を裏側からフュージョン処理したり、あるいは発熱保温剤をビード部に振りかける等の方法がよい。
【0064】
【実施例】
次に、この発明を、実施例によって更に詳しく説明する。
実施例を試験内容で分類すると、▲1▼接種剤を溶接母材に装着する方法、▲2▼溶接部の後熱方法、▲3▼接種剤の種類、及び▲4▼インサート材料の種類の4つになり、下記試験A〜Dを行なった。
【0065】
試験Aにおいては、接種剤としてのCa−Si−Ba粉末を溶接母材の開先に接着剤と混ぜて塗布した方式をベースとし、インサート材料としてのAl箔を溶接母材の開先に置いて溶接した。そして、後熱方法として溶接ビードを裏面からフュージョンを行なった場合の効果を試験した。
【0066】
試験Bにおいては、接種剤として試験Aと同じくCa−Si−Ba粉末を使用したが、接着剤を使わず、インサート材料としてのAl箔に包んで溶接母材の開先に置いた方式の効果について試験した。そして、後熱方法として溶接ビードを発熱保温剤で覆った場合の効果を試験した。
【0067】
試験Cにおいては、試験Bでの接種剤Ca−Si−Baの代わりに、RE−Ca−Si、Ca−Si及びCa−Si−Bi粉末の3種を用いて試験し、合計4種の接種剤間の添加効果の違いについて調べた。後熱処理は溶接ビードを発熱保温剤で覆う方法をベースとした。
【0068】
試験Dにおいては、試験Bでのインサート材料Al箔の代わりに、Ni箔、Cu箔とAl箔との両方、及び、Cu箔の3種を用いて試験し、合計4種のインサート材料間のインサート効果の違いについて調べた。後熱処理は溶接ビードを発熱保温剤で覆う方法をベースとした。
【0069】
(試験A)
図1に、試験Aにおける突合わせ溶接の施工概要図を示す。TIG溶接機を用いて、図1に示すように調整された球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを、開先3aの形状がI型の開先部3で突合せ溶接した。母材の寸法は両方共同じで、板厚3.2mm×幅75mm×長さ100mmである。同図において、4はCa−Si−Ba接種剤、5は溶接棒心線、6はインサート材料としてのアルミニウム箔であり、7はタングステン電極、8はアークである。
【0070】
表6に、使用した球状黒鉛鋳鉄母材(FCD450)及び軟鋼母材(SS400)の化学成分組成を示す。
【0071】
【表6】
【0072】
Ca−Si−Ba接種剤4は、粒径が75μm以下に整粒された粉末状のものである。整粒された接種剤を、酢酸ビニール系接着剤をメチルアルコールで薄めた有機溶剤をバインダーとして混ぜたものを、球状黒鉛鋳鉄母材1及び軟鋼母材2の各開先3a面に直接、均一の厚さで塗布した。塗布量は、溶接予備実験を行ない、溶接時に溶接部に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、その重量に対してCa−Si−Ba接種剤中のSi重量が3mass%となるように調整した。
【0073】
棒心線5は、過共晶片状黒鉛鋳鉄製であり、S含有率の低いもの(低S溶接棒)2種の内、いずれかを用いた。
表7に、使用した棒心線5の化学成分組成を示す。
【0074】
【表7】
【0075】
インサート材料のAl箔6は、厚さ15μmであり、Ca−Si−Ba接種剤が塗布された開先3aの隙間に挟んだ。Al箔6の挟み込み重量(wAl)は、溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(wAl/W)×100mass%で、0.3〜0.5mass%の範囲内となるように調整した。
表8に、使用したCa−Si−Ba接種剤の化学成分組成を示す。
【0076】
【表8】
【0077】
試験Aにおいては、本発明の範囲内の溶接接合方法である実施例1、2及び3、並びに、本発明の範囲外の方法である比較例1の試験を行なった。下記に各試験方法を説明する。
【0078】
▲1▼実施例1の試験方法:
溶接母材1、2にCa−Si−Ba接種剤4を塗布し、溶接棒心線5をアーク8で溶かしながら開先に溶融池を形成させる。開先面に塗布されたCa−Si−Ba接種剤、及び開先内部に挟み込まれたAl箔が溶融池に溶け込み、母材1、2同士が溶接接合される。このようにして、球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを溶接接合した。
【0079】
▲2▼実施例2の試験方法:
この場合は、上記実施例1と全く同じ方法で溶接接合をする。その後、更に、施工体を裏返して、裏面側にフュージョン処理を施す。
【0080】
フュージョン処理とは、本来、ビード外観を補修するためにビード表面をアークのみで再び溶融する処理をさし、溶射等でも行なわれる。しかしながら、この発明の方法においては、ビードの表側を再溶融した場合には、再び熱影響によって溶着金属がチル化する恐れがある。そこで、ビードの裏側を再溶融することにしたものである。これは、開先についたままの接種剤の溶け残りを、アークによって溶かしてしまうこと、及び溶接部の冷却速度を下げることを目的とするものである。
【0081】
▲3▼比較例1の試験方法:
これは、実施例1の試験方法において、インサート材料のAl箔を使用せずに球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを溶接接合した場合である。
【0082】
▲4▼実施例3の試験方法:
この場合は、溶接母材1、2にCa−Si−Ba接種剤4を塗布し、溶接棒心線5をアーク8で溶かしながら開先に溶融池を形成させる。開先面に塗布された接種剤が溶融池に溶け込み、球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とが溶接接合される。インサート材料のAl箔の挟み込みは行わないが、溶接後のフュージョン処理は行なうものである。
【0083】
表9に、実施例1、2及び3、並びに、比較例1の各試験条件の概要をまとめて示し、また、表10に、上記各試験の溶接条件を示す。
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
こうして調製された球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との突合せ溶接試験片のボンド部及び溶着金属について、金属組織観察、及び硬度分布測定を行なった。試験位置は、ビード長手方向中央部でビードに直角な鉛直断面である。
【0087】
表11に、上記金属組織の観察結果をまとめて示す。
【0088】
【表11】
【0089】
ここで、チルについての評価は、チル(HV500以上)生成の有無だけによる評価ではなく、チルの大きさも考慮して、チル多い、チル有り、チル少量等と記載し、チルがあってもその大きさが400μm以下の場合には、チル少量(チルが少ない)とした。そして、チル少量のものは、チル生成を微量に抑制するというこの発明の目標を達成するものである。これは、一般に、溶接施工体が実際に製品となる場合には、チル(HV500以上)が400μm以下なら品質検査をパスすることによるものである。
【0090】
金属組織の観察結果の特徴は次のとおりである。
〔溶着金属の組織〕
すべての試験において、接種効果が得られ、細かい球状黒鉛が多く見られた。また、本発明者等が別途実施した接種剤を棒心線に塗布した溶接棒を使用した場合と比べて、接種剤の効きムラが改善されていた。これは、接種剤の溶け込みが向上し、溶け残りが減ったことにより接種効果が均一に得られ易くなったためである。
▲1▼比較例1では、溶着金属には、球状黒鉛が多く見られ、モットル組織と球状黒鉛組織とが混在していた。
▲2▼実施例1及び3では、モットル組織と球状黒鉛組織とが混在していたけれども、比較例1と比べると黒鉛組織が増加しており、特に、Al箔を開先に挟んだ実施例1では、接種剤の効きムラが改善されていた。この点において、実施例1は実施例3より明確に改善されたといえる。
▲3▼実施例2では、溶着金属にチルが全く見られず、パーライト地の球状黒鉛組織となった。これは、Ca−Si−Ba接種剤の溶け込みが改善されたことにより、接種効果が得られ易くなったこと、フュージョン処理により冷却速度が低下したこと、及びAlにより黒鉛化が促進されたこと等が原因と考えられる。
【0091】
〔ボンド部の組織〕
(a)球状黒鉛鋳鉄側ボンド部は、比較例1並びに、実施例1及び3では、チルが生成している。但し、実施例1及び3では、チルは少量であり、比較例1よりかなり改善されていた。
そして、実施例2では、チルは生成していなかった。
(b)軟鋼側ボンド部の組織には、すべての試験で溶着金属と母材との界面に沿って、ベイナイトが見られた。
【0092】
表12に、上記溶接部のビッカース硬さの測定結果をまとめて示す。
【0093】
【表12】
【0094】
図2、3及び4に実施例1、2及び3の測定結果を、そして図5に比較例1の測定結果を示す。各図は、溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示す。溶接部のビッカース硬さの特徴は次のとおりである。
▲1▼比較例1では、溶着金属には黒鉛化組織とモットル組織とが混在していたため、ビッカース硬さは300HV前後の部分と500〜600HV程度の部分とが混在していた。
▲2▼実施例1及び3では、モットル組織と球状黒鉛組織とが混在していたけれども、比較例1と比べると組織のムラが抑えられていたために、ビッカース硬さが400〜500HV付近に分布した。
▲3▼実施例2では、軟鋼側ボンド部で微細パーライト及びベイナイトの影響により、ビッカース硬さは420HVとなっているけれども、溶着金属及び球状黒鉛鋳鉄側ボンド部でチルが生成していなかったために、ビッカース硬さは400HVを下回る良い結果が得られた。
【0095】
上述した試験Aの結果から、次の知見を得た。
本発明者等が別途実施した接種剤を棒心線に塗布した溶接棒を使用したときに問題となったCa−Si−Ba接種剤の溶け残りは、Ca−Si−Ba接種剤を母材に塗布し、そして適宜溶接速度を抑えることにより減少した。これは、溶接棒を溶融池で溶かす前にCa−Si−Ba接種剤が母材と共に溶けるために、接種剤が溶け込み易くなったこと、また、溶接速度が遅いために溶融池での撹拌が十分に行われたことによると考えられる。また、Ca−Si−Ba接種剤を棒心線に塗布した溶接棒で見られた溶接時のスラグ発生は殆どなくなった。これは、接種剤の溶け込みがよかったので、未反応のCa及びBaが減少したためであると考えられる。その結果、溶融池の流動性は改善され、溶接性は向上した。
【0096】
このように、Ca−Si−Ba接種剤を溶接棒心線に塗布する代わりに、母材に塗布することにより接種剤の溶け残りが減り、その結果、接種効果が均一に得られ、チルが減少することがわかった。また、黒鉛化促進作用を有するAl箔を開先に挟むことにより、溶着金属組織のムラが抑えられ、溶接後ビードの裏側からフュージョン処理を施すことにより冷却速度が下がり、チルの生成しない良好な溶接部を得ることができた。
【0097】
しかし、フュージョン処理はビードの裏側から行なうので、溶接した板を裏返さなければならず、重量の大きいものや、一方向のみから溶接する場合には、適用が制限される。また、溶着金属組織は、フュージョン処理条件に敏感に反応することもわかった。
【0098】
そこで、試験Bにおいては、フュージョン処理の代わりに、後熱処理条件の変化による溶接部金属組織への影響が鈍感である方法として、溶接後のビードを発熱保温剤で覆って後熱処理をすることにした。試験Bにおいては、更に、接種剤をインサート材料で包んで溶接母材に置いた方式をベースとした試験を行なった。
【0099】
(試験B)
図6に、試験Bにおける突合わせ溶接の施工概要図を示す。TIG溶接機を用いて、図6に示すように調整された球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを、開先3bの形状が45°のV型の開先部3で、表から一層のみの突合せ溶接を行なった。
【0100】
母材の寸法は両方共同じで、板厚3.2mm×幅75mm×長さ100mmである。図6において、4はCa−Si−Ba接種剤、5は溶接棒心線、6はインサート材料としてのアルミニウム箔であり、7はタングステン電極、8はアークである。ここで使用した球状黒鉛鋳鉄母材(FCD450)1及び軟鋼母材(SS400)2の化学成分組成は、表6に示した化学成分組成と全く同じである。
【0101】
Ca−Si−Ba接種剤4は、粒径が75μm以下に整粒された粉末状のものであり、試験Aで使用したものと同じである。この接種剤の使用量は、溶接予備実験を行ない、溶接部に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、その重量に対してCa−Si−Ba接着剤中のSi重量が3mass%となるように調整した。
【0102】
棒心線5は、過共晶片状黒鉛鋳鉄製であり、S含有率の低いもの(低S溶接棒)1種を用いた。
表13に、この棒心線の化学成分組成を示した。
【0103】
【表13】
【0104】
試験Bでは、上記Ca−Si−Baの粉末状接種剤をAl箔で包んで溶接母材に置いた方式を採用した点が、試験Aと大きく異なる点である。
図6に示すように、インサート材料のAl箔6は、厚さ15μmであり、Al箔6でCa−Si−Ba接種剤4を包み、これをV型開先の内部に置いて突合わせ溶接をした。Al箔の挟み込み重量(wAl)は、溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(wAl/W)×100mass%で、0.3〜0.5mass%の範囲内となるように調整した。
Ca−Si−Ba接種剤の化学成分組成は、表8に示した化学成分組成と同じである。
【0105】
試験Bにおいては、本発明の範囲内の溶接接合方法である実施例4、5及び6、並びに、本発明の範囲外の方法である比較例2の試験を行なった。下記に各試験方法を説明する。
【0106】
▲1▼実施例4の試験方法:
Ca−Si−Ba接種剤4をAl箔で包み、これを溶接母材1、2のV型開先3bの内部に置いた。そして、溶接棒心線5をアーク8で溶かしながら開先に溶融池を形成させる。開先内部に置かれた上記Al白及びCa−Si−Ba接種剤が溶融池に溶け込み、母材1、2同士が溶接接合される。このようにして、球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを溶接接合した。
【0107】
▲2▼実施例5の試験方法:
この場合は、上記実施例4と全く同じ方法で溶接接合をする。その後、更に、溶接ビードを覆うように発熱保温剤を振りかけ、溶接後溶接部が急冷されないようにする。使用した発熱保温剤は、鋳造作業において鋳造終了後、押湯に添加し被覆して引け巣発生を抑える等の目的で使用されるものであり、商品名は押湯発熱保温剤「ハツネン」(株式会社ハツネン製)である。
【0108】
▲3▼比較例2の試験方法:
これは、実施例4の試験方法において、インサート材料のAl箔を使用せずに球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを溶接接合した場合で、その他の条件は実施例4と同じである。
【0109】
▲4▼実施例6の試験方法:
この場合は、溶接母材1、2にCa−Si−Ba接種剤4を塗布し、溶接棒心線5をアーク8で溶かしながら開先に溶融池を形成させる。開先面に塗布された接種剤が溶融池に溶け込み、球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とが溶接接合される。そして、インサート材料のAl箔は用いないが、溶接後にビード3を覆うように発熱保温剤を振りかけるものである。
【0110】
表14に、実施例4、5及び6、並びに、比較例2の各試験条件の概要をまとめて示し、また、表15に溶接条件を示す。
【0111】
【表14】
【0112】
【表15】
【0113】
こうして調製された球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との突合せ溶接試験片のボンド部及び溶着金属について、金属組織観察、及び硬度分布測定を行なった。試験位置は、ビード長手方向中央部でビードに直角な鉛直断面である。
【0114】
表16に、上記金属組織の観察結果をまとめて示す。
ここで、チルについての評価は、前述したとおり、チル(HV500以上)生成の有無だけによる評価ではなく、チルの大きさも考慮して、チル多い、チル有り、チル少量等と記載し、チルがあってもその大きさが400μm以下の場合には、チル少量(チルが少ない)とした。そして、チル少量のものは、チル生成を微量に抑制するというこの発明の目標を達成するものである。その理由は、一般に、溶接施工体が実際に製品となる場合には、チル(HV500以上)が400μm以下なら品質検査をパスすることによるものである。
【0115】
【表16】
【0116】
金属組織の観察結果の特徴は次のとおりである。
〔溶着金属の組織〕
すべての試験において、溶着金属は均一なフェライト地の球状黒鉛組織となった。黒鉛粒径は、Ca−Si−Ba接種剤を母材に塗布したときと同様に小さく、黒鉛粒数についても同様に多かった。溶着金属がフェライト化した原因としては、接着剤を使用せず、Ca−Si−Ba接種剤を粉末のまま添加したので、非常に溶け易くなったためであると考えられる。
溶着金属では、いずれの試験でもチルは生成していなかった。
【0117】
〔ボンド部の組織〕
(a)球状黒鉛鋳鉄側ボンド部は、比較例2にはチルがあるが、実施例6及び実施例4では、チルが少量に減少し、そして、実施例5では、チルは全く生成していなかった。
(b)軟鋼側ボンド部では、すべての試験で溶着金属と母材との界面に沿って、微細なパーライトとベイナイトが見られ、チルは見られなかった。
【0118】
表17に、上記溶接部のビッカース硬さの測定結果をまとめて示す。
【0119】
【表17】
【0120】
図7、8及び9に実施例4、5及び6の測定結果を、そして図10に比較例2の測定結果を示す。各図は、溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示す。溶接部のビッカース硬さの特徴は次のとおりである。
▲1▼すべての溶着金属において、ビッカース硬さは250〜300HV程度に一定に分布していた。
▲2▼比較例2、並びに、実施例4及び6では、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部には、チルが少量生成しているために、ビッカース硬さは520〜580HV程度に高くなった。
▲3▼実施例5では、チルが生成していないので、ビッカース硬さは250HV程度となり、硬さは最も低くなった。
▲4▼また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部から母材側の数点で、ビッカース硬さが320〜350HVとなっているが、これは熱影響によりマトリックスが微細パーライトとなっているためである。
▲5▼軟鋼側ボンド部では、すべての試験で微細なパーライトとベイナイトとからなっているために、380〜420HV程度と低目になった。
【0121】
上述した試験Bにおいては、接種剤を母材に塗布した試験Aに比べて、溶融池の流動性が向上し、溶接性は非常に良好であり、接種剤の溶け残りも全く見られなかった。また、接種剤を棒心線に塗布した溶接棒により溶接した場合、及び接種剤を母材に塗布して溶接した場合と比べて、溶接作業性は最も良好であった。
【0122】
(試験C)
試験Cは、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とのTIG溶接において、接種剤添加効果の接種剤の種別間の違いを試験したものである。
【0123】
試験Cにおける突合わせ溶接の施工方法は、図6に示した施工概要図を用いた試験Bにおける方法と同じで、15μmのAl箔でRE−Ca−Si、Ca−Si、又はCa−Si−Biの粉末状接種剤を包んでV型開先の内部に置き、TIG溶接で球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを突合わせ溶接した。
【0124】
溶接母材1、2の化学成分組成(表6参照)、溶接棒心線5の化学成分組成(表7の低S溶接棒−1参照)、及び溶接条件(表15参照)も試験Bと同じである。Al箔の挟み込み重量(wAl)は、溶接部への溶け込み棒心線の重量(W)に対する割合(wAl/W)×100mass%で、0.5mass%に調整した。そして後熱処理方法は溶接ビードに発熱保温剤を振りかけるものであり、試験Bと同じである。
【0125】
上記試験Cの共通条件下において、接種剤の種類を変えて、本発明の範囲内の溶接接合方法である実施例7、並びに、本発明の範囲外の溶接接合方法である比較例3及び4の試験を行なった。使用した接種剤の化学成分組成は、表18に示す通りである。なお、その粒径が75μm以下の粉末状接種剤で試験A及びBの場合と同じである。
【0126】
【表18】
【0127】
下記に各試験方法を説明する。
▲1▼実施例7の試験方法
上記共通条件下において、接種剤としてRE−Ca−Siを用いた溶接試験を行なった。RE−Ca−Siの添加量は、溶接時に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、接種剤中のRE重量がこの溶け込み重量に対して、溶接棒心線中のS含有率0.01mass%の2.5倍、即ち、0.025mass%となるように調整した。
【0128】
▲2▼比較例3の試験方法
上記共通条件下において、接種剤としてCa−Siを用いて溶接試験を行なった。Ca−Siの添加量は、接種剤中のSi重量が上記予め測定された溶接棒心線の溶け込み重量に対して、3mass%となるように調整した。
【0129】
▲3▼比較例4の試験方法
上記共通条件下において、接種剤としてCa−Si−Biを用いて溶接試験を行なった。Ca−Si−Biの添加量は、接種剤中のBi重量が上記予め測定された溶接棒心線の溶け込み重量に対して、0.01mass%となるように調整した。
【0130】
表19に、実施例7、並びに、比較例3及び4の各試験条件の概要をまとめて示す。なお、接種剤添加効果の接種剤種別間の違いを調べるために、実施例5(表14参照)の試験条件も併記した。
【0131】
【表19】
【0132】
こうして調製された球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との突合せ溶接試験片のボンド部及び溶着金属について、金属組織観察、及び硬度分布測定を行なった。試験位置は、ビード長手方向中央部でビードに直角な鉛直断面である。
【0133】
表20に、上記金属組織の観察結果をまとめて示す。ここで、チルについての評価は、前述したとおり、チル(HV500以上)生成の有無及び大きさにより評価し、チル多い、チル有り、チル少量等と記載し、チル少量のものは、この発明の目標を達成するものである。
【0134】
【表20】
【0135】
金属組織の観察結果の特徴は次のとおりである。
〔溶着金属の組織〕
溶着金属では、比較例3及び4にはチルが混在するが、実施例7では、パーライト基地の球状黒鉛鋳鉄組織であった。
【0136】
〔ボンド部の組織〕
(a)球状黒鉛鋳鉄側ボンド部は、比較例3及び4にはチルがあるが、実施例7ではチルが少量に減少していた。
(b)軟鋼側ボンド部では、すべての試験で溶着金属と母材との界面に沿って、微細なパーライトとベイナイトが見られ、チルは見られなかった。
【0137】
表21に、上記溶接部のビッカース硬さの測定結果をまとめて示す。
【0138】
【表21】
【0139】
図11に実施例7の測定結果を、そして図12及び13にそれぞれ比較例3及び4の測定結果を示す。各図は、溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示す。溶接部のビッカース硬さの特徴は次のとおりである。
▲1▼比較例3及び4では、溶着金属にチルがあるので、ビッカース硬さは500HV以上と高くなった。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部では600HV以上と高くなった。
▲2▼これに対して、実施例5は、溶着金属のビッカース硬さは250〜300HVと低くなっているが、これはフェライト基地となっているためである。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部にはチルがないので320HVと低くなっている。
▲3▼また、実施例7では、溶着金属のビッカース硬さは400〜500HVとかなり低くなっているが、これはパーライト基地になっているためである。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部にはチルが少なく、510HVと比較的低くなっている。
【0140】
上述した試験Cより、接種剤としてはCa−Si及びCa−Si−Biに比べて、Ca−Si−Ba及びREを含むRE−Ca−Siの方が接種効果が高く溶接性が良好であることがわかった。また、試験Aにおける接種剤を母材に塗布して溶接した場合と比べて、この試験Cでは、溶融池の流動性が向上し、溶接性は非常に良好であり、接種剤の溶け残りも全く見られなかった。
【0141】
(試験D)
試験Dにおいては、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とのTIG溶接において、インサート材料間のインサート効果の違いを試験したものである。
【0142】
試験Dにおける突合わせ溶接の施工方法は、図6に示した施工概要図を用いた試験Bにおける方法と同じで、各種箔状のインサート材料でCa−Si−Baの粉末状接種剤を包んでV型開先の内部に置き、TIG溶接で球状黒鉛鋳鉄母材1と軟鋼母材2とを突合わせ溶接した。溶接母材1、2の化学成分組成(表6参照)、溶接棒心線5の化学成分組成(表7の低S溶接棒−1参照)、及び溶接条件(表15参照)も試験Bと同じである。
【0143】
使用した接種剤Ca−Si−Baの化学成分組成は、表8に示したものと同じであり、その粒径は75μm以下の粉末状Ca−Si−Baで、試験A及びBで使用したものと同じである。そして、接種剤Ca−Si−Baの添加量は、溶接時に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、接種剤中のSi重量がこの溶け込み重量に対して、3mass%となるように調整した。
【0144】
上記試験Dの共通条件下において、インサート材料の種類を変えて、本発明の範囲内の溶接接合方法である実施例8及び9、並びに、本発明の範囲外の溶接接合方法である比較例5の試験を行なった。使用したインサート材料の種類は、Ni、CuとAlとの混合物、及びCuの3種類であり、いずれも箔状である。そして箔の厚さは、Ni及びCuは100μmでAlは15μmである。
【0145】
下記に各試験方法を説明する。
▲1▼実施例8の試験方法
上記共通条件下において、接種剤Ca−Si−Baの粉末をインサート材料としてのNi箔で包んで開先内部に置いて溶接試験を行なった。Ni箔の添加量は、溶接時に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、Ni箔重量(wNi)が、溶接部への溶け込み棒心線の重量(W)に対する割合(wNi/W)×100mass%で、0.5mass%になるよう調整した。溶接後、溶接ビードに発熱保温剤を振りかけて溶接部の後熱処理を行なった。
【0146】
▲2▼実施例9の試験方法
上記共通条件下において、接種剤Ca−Si−Baの粉末をインサート材料としてのCu箔で包み、更にAl箔で包んで開先内部に置いて溶接試験を行なった。インサート材料の添加量は、溶接時に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、Cu箔については、Cu箔重量(wCu)が、溶接部への溶け込み棒心線の重量(W)に対する割合(wCu/W)×100mass%で、0.5mass%になるよう調整し、そしてAl箔については、Al箔重量(wAl)が、溶接部への溶け込み棒心線の重量(W)に対する割合(wAl/W)×100mass%で、0.5mass%になるよう調整した。溶接後、溶接ビードに発熱保温剤を振りかけて溶接部の後熱処理を行なった。
【0147】
▲3▼比較例5の試験方法
上記共通条件下において、接種剤Ca−Si−Baの粉末をインサート材料としてのCu箔で包んで開先内部に置いて溶接試験を行なった。Cu箔の添加量は、溶接時に溶け込む溶接棒心線の重量を予め測定しておき、Cu箔重量(wCu)が、溶接部への溶け込み棒心線の重量(W)に対する割合(wCu/W)×100mass%で、0.5mass%になるよう調整した。溶接後、溶接ビードに発熱保温剤を振りかけて溶接部の後熱処理を行なった。
【0148】
表22に、実施例8及び9、並びに、比較例5の各試験条件の概要をまとめて示す。なお、接種剤添加効果の接種剤種別間の違いを調べるために、実施例5(表14参照)の試験条件も併記した。
【0149】
【表22】
【0150】
こうして調製された球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との突合せ溶接試験片のボンド部及び溶着金属について、金属組織観察、及び硬度分布測定を行なった。試験位置は、ビード長手方向中央部でビードに直角な鉛直断面である。
【0151】
表23に、上記金属組織の観察結果をまとめて示す。ここで、チルについての評価は、前述したとおり、チル(HV500以上)生成の有無及び大きさにより評価し、チル多い、チル有り、チル少量等と記載し、チル少量のものは、この発明の目標を達成するものである。
【0152】
【表23】
【0153】
金属組織の観察結果の特徴は次のとおりである。
〔溶着金属の組織〕
溶着金属では、比較例5にはチルが混在するが、実施例8ではパーライト基地の球状黒鉛鋳鉄組織で、実施例9ではフェライト基地の球状黒鉛鋳鉄組織であった。
【0154】
〔ボンド部の組織〕
(a)球状黒鉛鋳鉄側ボンド部は、比較例5にはチルがあるが、実施例8ではチルが少量に減少し、そして、実施例9ではチルは全く生成していなかった。
(b)軟鋼側ボンド部では、すべての試験で溶着金属と母材との界面に沿って、微細なパーライトとベイナイトが見られ、チルは見られなかった。
【0155】
表24に、上記溶接部のビッカース硬さの測定結果をまとめて示す。
【0156】
【表24】
【0157】
図14及び15に実施例8及び9の測定結果を、そして図16に比較例5の測定結果を示す。各図は、溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示す。溶接部のビッカース硬さの特徴は次のとおりである。
▲1▼比較例5では、溶着金属にチルがあるので、ビッカース硬さは410〜520HVと高くなった。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部ではチルがあるので650HV以上と高くなった。
▲2▼これに対して、実施例8では、溶着金属のビッカース硬さは320〜400HVと低くなっているが、これはパーライト基地となっているためである。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部にはチルが少ないので420HVと低くなっている。
▲3▼また、実施例9では、溶着金属のビッカース硬さは250〜300HVと更に低くなっているが、これはフェライト基地になっているためである。また、球状黒鉛鋳鉄側ボンド部にはチルがないので、490HVと低くなっている。
【0158】
上述した試験Dより、インサート材料としてはCu箔ではチル生成の抑制効果は不十分であるが、Cu箔とAl箔との共同添加、及び、Ni箔添加によりチル生成の抑制乃至防止効果があることがわかった。また、この試験Dにおいても、溶融池の流動性がよく、溶接性は非常に良好であり、接種剤の溶け残りは全く見られなかった。
【0159】
以上、詳述したように、本発明の溶接接合用溶接材料、及びその溶接接合方法を実施すれば、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合が良好に行われうることが明らかとなった。また、上記は球状黒鉛鋳鉄母材と軟鋼母材との溶接接合用溶接材料及び溶接接合方法に関する説明であるが、球状黒鉛鋳鉄の補修溶接及び補修溶接方法においては、一般に、溶融池の冷却・凝固速度が上記実施例での突合わせ溶接時の状態に類似している。従って、球状黒鉛鋳鉄の補修溶接の状態は、上述した球状黒鉛鋳鉄母材と軟鋼母材との異材溶接における球状黒鉛鋳鉄母材側における溶接結果から推定される。よって、この発明の球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料及び溶接接合方法を実施することにより、球状黒鉛鋳鉄の補修溶接及び補修溶接方法についても良好に行われうることがわかる。
【0160】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、従来困難とされていた球状黒鉛鋳鉄部材と軟鋼部材との異材溶接を良好に行なうことができ、また、球状黒鉛鋳鉄の補修溶接を良好に行なうことができる、溶接材料及び溶接方法を提供することができ、工業上極めて有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施するための突合わせ溶接の施工概要図である。
【図2】実施例1における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図3】実施例2における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図4】実施例3における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図5】比較例1における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の他の方法を実施するための突合わせ溶接の施工概要図である。
【図7】実施例4における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図8】実施例5における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図9】実施例6における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図10】比較例2における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図11】実施例7における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図12】比較例3における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図13】比較例4における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図14】実施例8における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図15】実施例9における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【図16】比較例5における溶接部でのビード中心線からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 球状黒鉛鋳鉄母材
2 軟鋼母材
3 開先部
3a I型開先
3b V型開先
4 Ca−Si−Ba接種剤
5 溶接棒心線
6 アルミニウム箔
7 電極
8 アーク
Claims (14)
- 棒心線と溶接用インサート材料と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、前記インサート材料は鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金からなり、そして前記接種剤は前記インサート材料で覆われた形態で前記インサート材料と共に溶接母材に埋められており、前記インサート材料の鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料であり、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料。
- 棒心線と溶接用インサート材料と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、前記インサート材料は鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金からなり、そして前記接種剤は溶接母材に塗布されており、前記インサート材料の鋳鉄の黒鉛化を促進させる金属又は合金は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料であり、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料。
- 前記棒心線は、
C :3.3〜3.8mass%、及び、
Si:4.0〜5.0mass%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、C(mass%)+0.31×Si(mass%)で表わされる炭素当量、CE値が、4.8〜5.3の範囲内にある化学成分組成を有することを特徴とする、請求項1または2に記載された、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料。 - 球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合に際し、請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接接合用溶接材料を用いることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法。
- 請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法。
- 棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該接種剤単独で溶接母材に埋められている球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法。
- 棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は溶接母材に塗布されている球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼とを溶接接合する方法であって、前記溶接接合が終わった後に当該溶接接合部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法。
- 請求項4又は5に記載された発明の内、鋳鉄の黒鉛化を促進させる前記インサート材料が、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料である場合において、前記溶接接合時に溶接部に挿入する前記選ばれたインサート材料の重量(win)を、前記溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(win/W)×100mass%で、
(win/W)×100=0.3〜1.5(mass%)------------(1)
の範囲内に調整することを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄と軟鋼との溶接接合方法。 - 請求項1〜3の内いずれか一つに記載された溶接材料からなることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料。
- 球状黒鉛鋳鉄の溶接補修に際し、請求項9に記載された溶接補修用溶接材料を用いることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法。
- 請求項9に記載された溶接補修用溶接材料の内、いずれか一つの溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法。
- 棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該接種剤単独で溶接母材に埋められている球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法。
- 棒心線と接種剤とで構成され、前記棒心線は過共晶片状黒鉛鋳鉄からなり、そして前記接種剤は当該溶接母材に塗布されている球状黒鉛鋳鉄の溶接補修用溶接材料を用いて、球状黒鉛鋳鉄を溶接補修する方法であって、前記溶接補修が終わった後に当該溶接補修部に後熱処理を施し、前記接種剤は、Ca−Si−BaまたはRE−Ca−Siからなっており、前記後熱処理は、フュージョン処理または発熱保温剤振りかけからなっていることを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法。
- 請求項10又は11に記載された発明の内、鋳鉄の黒鉛化を促進させる前記インサート材料が、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金と銅若しくは銅合金との混合物、からなる群から選ばれたいずれか一種のインサート材料である場合において、前記溶接補修時に溶接部に挿入する前記選ばれたインサート材料の重量(wM,in)を、前記溶接部に溶け込む棒心線の重量(W)に対する割合(wM,in/W)×100mass%で、
(wM,in/W)×100=0.3〜1.5(mass%)----------(2)
の範囲内に調整することを特徴とする、球状黒鉛鋳鉄の溶接補修方法。
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