JP3876554B2 - 化学物質のモニタ方法及びモニタ装置並びにそれを用いた燃焼炉 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願は、一般廃棄物や産業廃棄物を焼却した燃焼排ガス、あるいは金属精錬プロセスから排出されるガス、自動車の排ガスまたは大気などに含まれるダイオキシン及びその関連化合物を検出することにより、排ガスまたは大気中のダイオキシン類やダイオキシン前駆体類などの関連化合物の濃度を求めるモニタ装置に関する。また、モニタした結果を燃焼に生かす燃焼制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ごみ焼却場で廃棄物を焼却すると、その排ガス中に発生した猛毒のダイオキシン類が環境汚染を起こし深刻な社会問題となっている。ダイオキシン類は急性毒性、発ガン性、催奇性などの多様な毒性を有すると同時に、最近では、体内で擬似的なホルモンとして作用する内分泌性撹乱物質、いわゆる環境ホルモンとしての危険性も指摘されている。また、金属精錬プロセスの排ガス、自動車の排ガスやパルプ等の漂白過程の廃液中にもダイオキシン類が排出されることが知られている。なお、ダイオキシン類とは、75種類の異性体をもつポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)および135種類の異性体をもつポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)の総称であり、より広義にはコプラナポリ塩化ビフェニル(Coplanar PCBs)を含めることもある。以降、ダイオキシンおよびそれに関連する化合物群を総称してダイオキシン類と略記する。
【0003】
ダイオキシン類発生のメカニズムに関する知見は集積されてきているが(ぶんせき、1998年、512―519ページ)、ダイオキシン類の発生の条件は、場所や生成メカニズムなどにより大きく異なり極めて複雑である。ごみ焼却場などの高温度条件下の燃焼過程においては飛灰中に存在するコバルト,鉄、銅などの金属塩化物を触媒として炭素と塩素が反応するデノボ (de novo、新生成物)合成が有力なダイオキシン類の発生メカニズムの一つとして考えられている。このデノボ合成の基本的反応は炭素原子、塩素原子、酸素原子が高温で共存すると、ラジカル反応によってダイオキシン類をはじめ、クロロベンゼン類やクロロフェノール類等の多くの有機塩素化合物が生成される。また、この生成したクロロベンゼン類やクロロフェノール類は更にダイオキシン類の前駆体になり、ダイオキシン類を生成するとされる。また廃棄物焼却場におけるダイオキシンの発生は主として二個所で起きるとされている。燃焼温度が800℃より低い燃焼炉内での不完全燃焼の際に生じる過程、及び温度250℃から550℃のボイラや集塵機内でのデノボ合成である。
【0004】
焼却場における猛毒のダイオキシン類の発生をできるだけ低減するために、種々の方策が講じられてきた。 環境へのダイオキシン類排出を抑制するためには、燃焼条件を改良したり、ダイオキシンを効率良く除去する技術を開発することである。しかし、この抑制技術開発には多くの時間と労力を必要とした。ある条件下で燃焼を行い、この条件下での排ガスや飛灰中のダイオキシン類の濃度を定量し、燃焼条件と発生ダイオキシン量との相関を求め、この相関関係から最適燃焼条件や最適除去条件を求めていた。
【0005】
ダイオキシン類の濃度測定を厳密に行うためには、ダイオキシン類の定量法に関する公定法によらなければならない。一般的に、ダイオキシン類の定量分析はファルマシア34巻5号(1998年)441ページから444ページに示したような方法で行われる。すなわち、焼却炉から一定条件で採取した試料を複雑な前処理により目的成分のみを分離し、ダイオキシン類を系外に出さないための特別な設備内に設置された、高価で大型の高分解能質量分析装置(質量分解能10000以上)により定性、定量分析を行う。
【0006】
一方、ごみ焼却炉などの運転制御のため、焼却炉各部には多くの監視モニタが用意されている。各部の温度、酸素濃度モニタ、一酸化炭素モニタ、窒素酸化物(NOX)モニタ、硫黄酸化物(SOX)モニタなどである。これらモニタは燃焼監視、制御のために用いられているが、廃棄物の焼却技術(平成7年、オーム社)89−92ページに記載のように、ダイオキシン類低減のための間接モニタとしても使用されている。すなわち、酸素モニタ、一酸化炭素モニタ、温度モニタ等を監視して、排ガスの完全燃焼を達成し、ダイオキシン類の生成をできるだけ抑制している。
【0007】
さらに、実際の焼却炉の運転状況のモニタのため、直接極く低濃度のダイオキシン類の濃度を求めるのではなく、比較的高濃度の他の代替物質の測定を行ない、その結果からダイオキシン類の濃度を推定する方法が提案されている。この技術としては、横浜国立大学環境研紀要(第18巻、1992年)、特開平4―161849号公報、特開平5―312796号公報、特開平7―155731号公報、特開平9―015229号公報、特開平9―243601号公報に記載されている方法ならびに装置が開示されている。
【0008】
横浜国立大学環境研紀要(第18巻、1992年)、特開平4―161849号公報、特開平5―312796号公報に記載されている技術は、クロロベンゼン類をガスクロマトグラフィ−(GC)により測定し、ダイオキシン類の代替指標にとして用いるものである。両者の相関からダイオキシン類を推定する方法である。
【0009】
特開平7―155731号公報に示された技術は、燃焼灰を加熱処理する事により、灰中に含まれるダイオキシン類などを熱分解しダイオキシン類等を抑制しようとするものである。加熱処理前後の灰中のクロロベンゼン類またはクロロフェノール類を分析しダイオキシン類の除去率を推定する。これにより、熱分解条件の最適化を図ろうとするものである。
【0010】
特開平9―015229号公報に示された技術は、排ガス中のクロロベンゼンとクロロフェノール類の濃度を測定し、これらと別途求めたダスト濃度と排ガスの滞留時間からダイオキシンの濃度を求めようとする方法である。
【0011】
特開平9―243601号公報に示された技術は、排ガス中のクロロベンゼン類、クロロフェノール類をリアルタイムで測定し、ダイオキシン類の濃度を連続的に求めようとするものである。排ガスをレーザイオン化質量分析装置に導きイオン化、質量分析することでクロロベンゼン、クロロフェノール類の濃度を求め、ひいてはダイオキシン類の濃度を間接的に求めようとするものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
燃焼条件の改善や除去技術の採用などによるダイオキシン削減策によりごみ焼却場からのダイオキシンの生成排出を低減することが期待されている。しかし、これら削減策の採用により実際どれだけダイオキシンが低減されたか、リアルタイムで計測されなければならない。このような観点から、上述した従来法には以下のような問題があった。
【0013】
ダイオキシンの定量法に関する公定法は、異性体の種類とその量を含めて正確な分析結果が得られるものの、分析法が極めて複雑であること、ダイオキシン類を系外に出さないための特別な設備、高価で大型の高分解能磁場型質量分析装置が必要であること、そして熟練した測定技術を必要とするという問題があった。そのため、焼却場など現場ではダイオキシン類の分析はできず、焼却炉の煙道などから採取した飛灰やガスの試料を分析センタに送り一週間近い時間をかけて分析していた。また、分析コストも一検体あたり数十万円程度必要であった。
【0014】
ごみ焼却炉などの運転制御のため使用されている酸素モニタ、一酸化炭素モニタ、温度モニタ、窒素酸化物(NOX)モニタ、硫黄酸化物(SOX)モニタなどの監視モニタでは、これらモニタで得られた数値とダイオキシン類の濃度との間の相関は極めて小さい。そのため、焼却炉がダイオキシン排出を抑制した状態で運転されているか否かの判断はまったく不明で、ダイオキシン類排出量も同様にまったく不明のまま運転されていた。これら間接的モニタでは、ダイオキシン類の濃度は推定すらできなかった。
【0015】
横浜大学環境研紀要(第18巻、1992年)、特開平4―161849号公報、特開平5―312796号公報に記載されている技術は、捕捉濃縮時間を除いても測定に最低30分から1時間以上の時間が必要である。また、排ガス中に大量に存在する有機化合物の中から目的とするクロロベンゼン類を選択的に検出することは困難さ有するものであり、妨害物質による定量値の誤認も起きる可能性があった。
【0016】
特開平7―155731号公報に記載されている技術では、オンラインの試料導入、自動測定など具体的な技術は開示されておらず、測定もGCなど従来法を使用するもので、抽出操作を除いても一試料あたり20、30分程度を要していた。
【0017】
特開平9―015229号公報に記載されている技術では、発明の前提となるダイオキシンとクロロフェノール、クロロベンゼン類等の間の関係式に、明確な根拠があるわけではなく、クロロベンゼン、クロロフェノール類等の定量は、ガスクロマトグラフィー等の時間のかかる在来法によって行われた。
【0018】
特開平9―243601号公報に示された技術は、クロロベンゼン類のリアルタイム濃度測定の可能性を示しているものの、この多光子イオン化においては、ベンゼン核に置換した塩素の数が1ケづつ増えるたびに1/7から1/10の感度低下が起こるとされる。トリクロロベンゼンはモノクロロベンゼンの約1/100の効率でしかイオン化されない、すなわちトリクロロベンゼンはモノクロロベンゼンの1/100の感度しかないといえる。一方毒性の最も高いダイオキシンとして知られている2、3、7、8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)はダイオキシンの2、3、7、8位の水素4個が塩素に置換されたダイオキシンである。また、他の有毒なダイオキシンは全て塩素が4個以上置換した化合物である。この猛毒のダイオキシンがクロロベンゼン類、クロロフェノール類を前駆体にして合成されるとすると、少なくとも、塩素が2ケまたは3ケ以上置換したクロロベンゼン、クロロフェノールが前駆物質でなければならない。この公報で示された多光子イオン化方式では、多置換塩素化合物を効率よくイオン化するには相当難しさが残る。すなわち、焼却炉排ガス中に存在するとされる濃度1000ng/Nm3程度のクロロフェノールなどの有機塩素化合物の測定は非常に難しい。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するため、排ガスや大気を採取する試料ガス採取系と、該試料ガス中の微量成分を大気圧あるいはそれに準じる圧力下でイオン化するイオン源と、大気圧よりも低い圧力に真空排気された領域に設けられた、前記イオン源で生成されたイオンを質量分析しそのイオン電流を計測する質量分析部と、計測された信号を処理するデータ処理装置を備えたモニタを使用する。質量分析によるイオン検出は高速で行うことができるので、リアルタイムモニタリングが可能となる。
【0020】
また、このモニタでは、ダイオキシン類、クロロベンゼンやクロロフェノール類等が負イオンになりやすいことを積極的に利用する。まず、吸着を防止するために加熱された配管を用いて、焼却炉からの炭素水素分子を含む試料ガスをイオン源に導く。このイオン源で、所定の圧力下の負のコロナ放電により試料ガス中の微量成分を選択的にイオン化し、負イオンとする。生成した負イオンを質量分析計により分析し、観測されたイオンの質量数から試料ガスの定性、イオン量から試料ガスの定量を行う。また、従来のレーザーイオン化法とは異なり、大気圧化学イオン化法では、イオン化効率が塩素の個数にあまり依存しないため、塩素数の異なるダイオキシン類、あるいはダイオキシン前駆物質(クロロベンゼンまたはクロロフェノール類)を高感度に検出することができる。これにより、ダイオキシン類、またはダイオキシン類の前駆物質などの成分をモニタすることができる。また、排ガス中のダイオキシン前駆体から水素原子が1個取れた負イオン物質を生成する。この負イオン物質を三次元四重極質量分析計に取り込み更に塩素原子1個を脱離させた負イオンを生成する。生成された負のイオンのうち、ダイオキシン前駆体に特有の分解生成物を選択的に質量分析する事によりダイオキシンの発生量を予測することも可能とするものである。
【0021】
れにより、高周波電界を用いてイオンをいったん捕捉した後質量分析を行う、イオントラップ質量分析計を用いることにより、排ガス中に低濃度に存在するダイオキシン類あるいはダイオキシン類の前駆物質などの高感度高速検出を行うことができるようになった。
【0022】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
図1は、本願の一つの実施例のモニタリングシステムの構成を示す図である。基本的には、測定対象場所である煙道1から試料ガスを採取する試料ガス採取部88(図1中の点線内部)、採取した試料ガス中から測定対象物質を検出するモニタ部11、さらには検出結果を燃焼制御に生かす燃焼制御装置15等からなる。
【0023】
試料採取部88は、試料ガス採取プローブ3、試料ガス用配管4、 切り替えバルブ6、フィルタ7、試料ガス用送気ポンプ8、廃棄ガス用配管5、廃棄ガスプローブ2などよりなっている。試料ガス導入系全体は採取した試料ガスを安定にかつ途中で測定対象物質の吸着、凝縮などによる損失がなく、かつ一定流量でモニタ部に送り込む役目を果たしている。そのために、図示していないが、試料採取部88全体は、線状ヒータにより100℃から300℃程度に加熱されている。この加熱温度は測定対象物質によって異なる。保温効果を持たせるために、試料ガス用配管4等のまわりに保温材を設けることは有効である。モニタ部11では、送り込まれた試料ガス中の測定対象物質を選択的にかつ高効率でイオン化し、生成したイオンを質量分析部で質量分析することにより、測定対象物質を検出(モニタ)する。検出された信号はデータ処理部に送られ検量線から濃度に換算され、データとしてCRTやプリンタに出力される。また、信号及び制御ライン14を通して、ごみ焼却焼却場の燃焼制御のためのデータとして燃焼制御装置15に送られる。さらに、酸素モニタ、一酸化炭素モニタ、温度モニタ、窒素酸化物(NOX)モニタ、硫黄酸化物(SOX)モニタ、塩化水素モニタなどの監視モニタを設けた計測部13を設置し、モニタ部11と得られた結果と合わせて燃焼を制御することも可能である。
【0024】
図2及び図3に、試料ガス採取部88とモニタ部11を拡大した。試料ガス採取に当たっては、排ガスの流れの上流に向けた採取口89を持つ試料ガス採取プローブ3を煙道1に挿入する(図3参照)。試料ガス採取プローブ3の後ろには切り替えバルブ6を設け、試料ガスのモニタ部11への導入を制御する。試料ガスの輸送には試料ガス用配管4を使用し、測定対象物質の管壁への吸着、凝縮を防ぐため、線状ヒータ(図示せず)により100℃から300℃程度に加熱する。このとき、配管全体に保温材をまくことにより系全体の温度むらを低減することができる。また、試料ガス用配管4の内径は、通過する試料ガスの流量にも依存するが、1mmから100mm程度である。
【0025】
試料ガスはさらに、フィルタ7に導入され、試料ガス中の固形不純物や飛灰等を取り除く。図3に、フィルタ7部を拡大した。ここでは、ダストフィルタ20と金属フィルタ23の2種類を試料ガス用配管4の途中に設けた場合を示してある。図3(a)の場合では、ダストフィルタ20aは、ダストフィルタ用入り口配管21、ダストフィルタ用出口配管22、そしてダストフィルタ内に詰められた石英ウール19aからなる。このとき、ダストフィルタ用入り口配管21の先端はダストフィルタの底近くまで導かれており、ダストフィルタ用出口配管22から試料ガスが出ていくまでには、内部に詰められた石英ウール19aに必ず接触するような構造となっている。石英ウール19aは汚染されるので、適宜交換する。また、図3(b)のように、石英ウール19bを充填したダストフィルタ20bを横置きにしても良く、このとき、ダストフィルタ20b内部を目視できるようにすれば、汚染状況が容易に判定でき石英ウールの交換時期も明確となる。
【0026】
また、温度の伝わりにくいダストフィルタ20内部にある石英ウール19での試料ガスの吸着を低減するために、試料ガス用配管4の温度よりもダストフィルタ20の壁面温度を上げておくことが必要である。例えば、クロロベンゼンやクロロフェノール類などのダイオキシン前駆物質を測定する場合、試料ガス用配管4温度が120℃程度のとき、ダストフィルタ20部分は180から200℃程度と高くすることは有効である。ダストフィルタ20部分で多くの固形不純物や飛灰等を取り除くことは可能であるが、その後に金属フィルタ23を設けると、さらに細かなダストのモニタ部11への流入を防ぐことができる。取り除くダストの大きさは金属フィルタ部のメッシュの大きさで制御できるが、数ミクロンメートル程度のメッシュを用いることが多い。この部分も交換可能である。なお、試料ガス採取場所の固形不純物や飛灰等の多少により、これらのフィルタを二段、三段と複数組み合わせてもよい。このとき、試料ガス採取場所の配管の上流側から下流側に向けフィルタのメッシュを荒いものから細かいものにすれば長時間の測定が可能となる。排ガスによる腐食を防ぐため、配管、バルブは腐食されにくい、ステンレス製、チタン製であることが望ましい。また、配管の壁面に微量の成分が吸着されるのを防ぐため、配管にはポリテトラフロロエチレンライニングパイプやガラスライニングパイプを用いることが望ましい。ガラスライニングパイプの代わりに配管内部に短く切ったガラス管または石英管を詰めてもよい。また、ガスクロマトグラフィー(GC)のカラムに用いられているワイドボアのフューズドシリカカラム等を用いてもよい。
【0027】
上述した試料ガス前処理部は複数のラインを設けて切替えができるようにすると便利である。すなわち、一方のダストフィルタ20に飛灰等がたまった場合、もう一方のダストフィルタ20にラインを切替え、測定を継続したまま、飛灰等がたまったダストフィルタをクリーニングすることが可能となる。
【0028】
試料ガスは、試料ガス用送気ポンプ8により、モニタ部11へ導入される。導入される試料ガスの流量は、使用する試料ガス用配管の内径や長さ、及び試料ガス用送気ポンプ8の送気スピードなどに依存するが、1−300リットル/分程度である。試料ガス用送気ポンプ8には、ダイアフラムポンプなどの機械的なポンプを使用することができるが、試料ガスが接触する部分はある程度加熱できるようにしておくことは、送気ポンプの部分で試料の吸着を防ぐという意味で重要である。ダイオキシンやその関連化合物は排ガス中に微量しか存在しない。これら化合物は、配管、フィルタ等試料採取系の壁面等に容易に吸着する。この吸着をできるだけ防ぐために、前述のように試料採取系全体を加熱したり、吸着の少ない材料で配管を作成する。 配管を流れる排ガスの量を増やせば、吸着を減らすことができる。すなわち、配管内の排ガスの滞留時間をできるだけ短縮することである。また、試料ガス用配管4に流す試料ガス量と、モニタ部11へ流す最適な試料ガス量に差がある場合には、図1に示すように分岐バルブ9を設けて、モニタ部11に流入するガス量を制御してもよい。
【0029】
試料ガスはさらに、モニタ部11へ導入される。図4、図5に、モニタ部11の外観とモニタ部11内部の詳細をそれぞれ示した。モニタ部11の分析部本体は、煙道近くの室外に設置されることを考えて、ある程度温度制御された(10から50℃程度)、密閉性の高いモニタラック90内部に設置されている。モニタラック90はモニタ部支え28で固定されている。この中で、試料ガスをイオン化するための大気圧化学イオン源収納部26は、定期的に行うイオン源の清掃を考慮して、取り外しやすくなっている。また、後述するが、大量に放熱する真空ポンプ12は、図4のように、モニタラック90外に置くほうがよい。さらに、前述したように、試料ガス配管4の途中にはフィルタ7を設置しているが、それを通過してきた細かなダストが質量分析部内部に流入してくることを考慮して、真空槽内ダストフィルタ収納部27を設けるとよい。一方、モニタ部11で計測されたデータは、信号及び制御ライン14を通して、燃焼制御装置15等に転送される。このとき、モニタ部用のぞき窓18を通して、CRTやプリンタ上の結果がモニタ部11単体でも観測できるようにしてもよい。なお、標準試料発生器10を設けることにより、標準試料切り替えバルブ24、標準試料用配管25を通して、モニタ部の定期点検を行うことが可能となる。すなわち、定期的に排ガスに変えて標準ガスを導入し、観測される標準ガスに由来するイオンがある一定量以上観測されるかどうかをチェックする。観測されるイオン強度が一定量以下の場合には、メンテンナンスを行うことになる。
【0030】
試料ガスはさらに、図5に示した大気圧化学イオン源30に送り込まれる。大気圧化学イオン源30の拡大図を図7に示した。放電用対向電極58内部に存在するコロナ放電用針電極57に、高電圧(−3kVから−7kV程度)が供給される。この領域の温度は、ヒータ(図示せず)により、50から300℃程度に保たれる。コロナ放電用針電極57と、放電用対向電極58との距離は1から10mm程度である。高電圧を印加して針電極先端に発生した負のコロナ放電により、ダイオキシン類やダイオキシン前駆物質などのイオン化が行われる。負のコロナ放電によるイオン化過程を詳しく述べると以下のようになる。ダイオキシン類やこの関連物質は分子内に多くの塩素原子や酸素原子など電気陰性度の高い元素(周期律表VI、VII族の元素)を有している。すなわち有機塩素化合物である。有毒なダイオキシンは4個から8個の塩素が置換したダイオキシン類である。これら化合物は、低エネルギの熱電子を捕獲して負イオンになりやすい。一方、排ガス中に大量に存在する炭化水素類は熱電子を捕獲して負イオンになるイオン化過程が存在しない。そのため、試料ガス中に炭化水素分子が大量に存在しても負イオンになることはない。熱電子は、図10に示すように、大気中でのコロナ放電で大量に生成させることができる。針状のコロナ放電電極57に負の高電圧(−3kVから−7kV程度)を印加すると、コロナ放電電極57の先端においてコロナ放電が開始される。すなわち、コロナ放電による一次電子がコロナ放電電極57先端より放出される。この放電の一次電子は放電電極に印加された高電圧により加速され、周囲の大気分子(窒素や酸素)と衝突し、大量の二次、三次の電子を放出する。これら二次、三次、四次等の電子は中性分子と弾性衝突を繰り返しそのエネルギは次第に低くなる。最終的に共鳴捕獲のエネルギの領域(2eV以下)になる。すなわち、熱電子がコロナ放電電極57の周囲に大量に生成される。これら熱電子は、ダイオキシン類やクロロベンゼン、クロロフェノール類など有機塩素化合物に選択的に捕獲される。酸素は熱電子を捕獲して、O2 -イオンとなる。このイオンはダイオキシンやその関連化合物と衝突し、より負イオンになりやすい有機塩素化合物に電荷を供給したり、有機塩素化合物と反応してそれらの負イオンを生成する。そのため、排ガスや大気中に存在する酸素は、その濃度が数100ppm以上あっても負イオン生成の妨害にはならない。水は大気圧イオン化の過程でOH-イオンを生成する。このOH-イオンはダイオキシンや有機塩素化合物と衝突し、その負の電荷をダイオキシンや有機塩素化合物に移し換えたり、中性分子からプロトン(H+)を引き抜き負のイオンを生成するのに使われる。このように、ダイオキシン類やクロロベンゼン、クロロフェノール類など有機塩素化合物をイオン化するのに、負のコロナ放電を使用することには大きなメリットがある。
【0031】
排ガス中に大量に存在する水分子は、生成した負イオンと衝突し、複数の水分子が負イオンに結合しクラスタイオンを生成する。裸のイオンの質量をMとし、付加した水の分子の数をnとすると、このクラスタイオンの質量は(M+18n)になる。18は水の分子量である。そのため、クラスタイオンの生成は分析の妨害になるばかりでなく、高感度測定を不可能にする。このクラスタイオンの生成は分子やイオンの冷却により促進されるため、大気圧化学イオン源30を50℃から500℃、好ましくは100から300℃程度に保つことがクラスタイオンの抑制策となる。加熱は各部所にヒータを設置しても良いし、図9に示したように試料ガス加熱部62を設け、その中にある金属線を多重に巻いたヒータ63により試料ガスを直接加熱してもよい。この重要性は、図20、21に示すデータからもわかる。図20は、試料ガス加熱部62で加熱した場合に得られる、試料ガスの温度とイオン強度との関係を示したものである。ガス温度が上昇すると、急激にイオン強度が上昇することがわかり、特に100℃を越えた場合の変化は著しい。図21には、気体試料の温度が(a)150℃と(b)30℃の場合に得られるイオン強度の差を示した。同じコロナ放電電圧(−2.5kV)のとき、加熱した場合の方が加熱しない場合より2.5倍程度電流値が増えていることがわかる。しかも、電流の安定度も加熱した場合の方がはるかに良い。試料ガスの温度が高温になっている、例えば100℃以上に上がっていれば、導入された気体状試料の水分も気化しコロナ放電によるイオン化が効率的に、しかも安定に行われる。
【0032】
図5、7を用いて、質量分析部などについて詳細に説明する。生成したイオンを分析するに当たっては、いろいろな種類の質量分析計を使用できるが、以下では、イオン溜め込み型のイオントラップ質量分析計を用いた場合について述べる。同じ高周波電界を用いて質量分離を行う四重極質量分析計や磁場内での質量分散を用いた磁場型質量分析計などの他の質量分析計を用いた場合でも同様である。
【0033】
コロナ放電用針電極57先端のコロナ放電により生成した負イオンは、ヒータ(図示せず)により加熱された、差動排気部の第1フランジ31に設けられた第1細孔59(直径0.3mm程度、長さ0.5mm程度)、第2フランジ32に設けられた第2細孔60(直径0.3mm程度、長さ0.5mm程度)、第3フランジ33に設けられた第3細孔61(直径0.3mm程度、長さ0.5mm程度)を通過する。これらの細孔はヒータ(図示せず)により、100から200℃程度に加熱される。また、第1細孔59と第2細孔60、第2細孔60と第3細孔61間には電圧が印加できるようになっており、イオン透過率を向上させると同時に、残留する分子との衝突により、断熱膨張で生成したクラスタイオンの開裂を行い、試料分子のイオンを生成させる。差動排気部は、通常、ロータリポンプ、スクロールポンプ、またはメカニカルブースタポンプなどの荒引きポンプにより排気される。この領域の排気にターボ分子ポンプを使用することも可能である。第2細孔60と第3細孔61間の圧力は0.1から10Torrの間にある。また、図8に示すように、第1細孔59と第3細孔61細孔と、ふたつの細孔を用いた差動排気部にすることも可能である。ただし、上記の場合に比較して、流入するガス量が増えるので、使用する真空ポンプの排気速度を増やす、細孔間の距離を離すなどの工夫が必要となる。また、この場合も、両細孔間に電圧を印加することは重要となる。
【0034】
生成したイオンは第3細孔61を通過後、収束レンズ34により収束される。この収束レンズ34には、通常、3枚の電極からなるアインツエルレンズなどが用いられる。イオンはさらにスリット付き電極35を通過する。収束レンズ34により、第3細孔61を通過したイオンはこのスリット部分に収束し、収束されないダストなどはこのスリット部分に衝突し質量分析部側に行きにくい構造となっている。スリット付き電極35を通過したイオンは、ゲートバルブ36を通過後、多数の開口部を備えた内筒電極37と外筒電極38よりなる二重円筒型収束レンズ91により再度収束された後、外部電圧による影響をなくするためのシールド電極39内に位置する、偏向用電極40a、b、c、d(円筒電極を4分割した構造)よりなる偏向器92により、ほぼ90度に曲げられる。二重円筒型収束レンズ91では、内筒電極37の開口部より滲みだした外筒電極38の電界を用いて収束している。また、イオンを90度曲げているのは、イオンのみを質量分析部に導入し、第3細孔61から真空内に流入したダストなどの粒子はまっすぐに飛ばし、真空槽内ダストフィルタ43に蓄積するようにするためである。真空槽内ダストフィルタ43の構造としては、図14に示すような、(a)円筒状タイプと(b)90度曲げたような屈曲タイプがある。特に、屈曲タイプでは、ダストなどが蓄積されてくると底の部分にたまり、フランジ71bをはずすことにより簡単にクリーニングが可能となる。
【0035】
偏向器92を通過したイオンは円筒電極44で収束後、イオントラップ質量分析部93に導入される。ゲート電極65、エンドキャップ電極45a、b、リング電極46、つば電極66a、b、絶縁リング68a、b、イオン取り出しレンズ70より構成される、イオントラップ質量分析部93の拡大図を図11に示した。ゲート電極65は、イオントラップ質量分析部93内に捕捉したイオンを系外に取り出す際に、外部からイオンが質量分析部内に導入されないようにする役目をする。図12に示すように、イオントラップ質量分析部93内に導入されたイオンは、イオントラップ質量分析部93内部に導入されたヘリウムなどのバッファーガスと衝突してその軌道が小さくなった後、エンドキャップ電極45a、bとリング電極46間に高周波電源100により印加された高周波電圧を走査することによって質量数毎に系外に排出され、イオン取り出しレンズ70を経てイオン検出器94により検出される。バッファーガスを導入した際のイオントラップ質量分析部93内部の圧力は10-3から10-4Torr程度である。イオントラップ質量分析部93は、質量分析部制御部51(図5、6中に図示)により制御される。イオントラップ質量分析計のメリットのひとつは、イオンを捕捉する特性を有するので、試料の濃度が希薄でも溜め込む時間を伸ばせば検出できる点にある。従って、試料濃度が低い場合でも、イオントラップ質量分析部93のところでイオンの高倍率濃縮が可能となり、濃縮などの試料の前処理を非常に簡便化できる。
【0036】
イオントラップ質量分析部93にイオンを導入している間に、エンドキャップ電極45a、bとリング電極46間に高周波電源100により印加された高周波電圧の振幅をある値に設定すると、エンドキャップ電極45a、bとリング電極46内に捕捉されるイオンの質量数の足切り(低質量イオンのカット)ができる。これは、ある質量より小さなイオンが電極内に捕捉されないようにすることを意味する。質量数100以下低質量領域には、水、塩化水素、NOX、SOXなどに由来するイオンが大量に存在する。これらイオンをエンドキャップ電極45a、bとリング電極46内に捕捉しないようにすれば、電極内のイオンの飽和を未然に防ぐことができ、相対的に存在量が少なく、かつ図31に示したように質量の大きいダイオキシンや有機塩素化合物のイオンを効率よく電極内に捕捉できる。また、図12に示した、補助交流電源98a、bからエンドキャップ電極45a、b間に印加した補助交流電圧の周波数を制御することで、質量の大きな不要なイオンを電極外に排除できる。実際には、イオントラップ質量分析部93に捕捉されるべきイオンの固有振動数を含まないホワイトノイズの補助交流をエンドキャップ電極45a、bに印加する。イオントラップ質量分析部93は目的の質量のイオンのみを電極内に捕捉、積算できる。そのため、目的とする分子イオンやフラグメントイオンを効率よく積算し検出することが可能となる。大気圧化学イオン化法による選択性に加えて、イオントラップ質量分析計による選択性、感度の向上は、ダイオキシン類をはじめとする有機塩素化合物の検出を可能とする。
【0037】
イオントラップ質量分析部93より取り出されたイオンの検出に当たっては、図5、6に示すように、コンバージョンダイノード48でイオンが電子に変換され、その電子をシンチレーションカウンタ49で検出している。得られた信号は増幅器50で増幅後、データ処理装置47等に送られる。
【0038】
図5、6に示すように、収束レンズ34、スリット付き電極35、二重円筒型収束レンズ91、偏向器92、円筒電極44、イオントラップ質量分析部93、イオン検出器94の存在するチャンバーは、スプリットフロータイプのターボ分子ポンプ52(第2差動排気部真空排気用配管55側が50から200リットル/秒程度の排気速度、第3差動排気部真空排気用配管56側が50から150リットル/秒程度の排気速度)で10-4から10-6Torr程度に排気される。このとき、図5に示すように、ゲートバルブ36の後の真空チャンバーを、偏向器92のところで2分割し、スプリットフロータイプのターボ分子ポンプ52一個で、第2差動排気部真空排気用配管55、第3差動排気部真空排気用配管56を通して、2分割された真空チャンバーを排気するようにしておくと、以下の点で都合が良い。すなわち、イオントラップ質量分析部93がダスト等で汚染されにくいこと、さらには、ゲートバルブ36を閉状態とし、第1から第3細孔61を大気圧にし、大気圧化学イオン源30、差動排気部をクリーニングする場合、イオントラップ質量分析部93を真空に保ったままにできるので、クリーニング後のモニタ部11の立ち上げを1から2時間程度と迅速に行うことができる。ターボ分子ポンプ52には背圧側に補助の真空ポンプ12が必要となる。これを差動排気部に用いているポンプと兼用することは可能であり、その場合には、第1差動排気部真空排気用配管54途中にバルブ53を設ける。この実施例では、補助の真空ポンプ12として、排気速度500リットル/分程度のスクロールポンプを使用している。また、図6のように、真空排気用配管29a、bを通して、第1差動排気部真空排気用配管54に接続する荒引き用真空ポンプ88を、ターボ分子ポンプ52の補助の真空ポンプ12と別個にすることはできる。この場合には、ターボ分子ポンプ52の補助の真空ポンプ12には、100リットル/分程度の小さい排気速度のものを用いればよい。図5、6いずれの場合にせよ、このような排気系にすることによって、複雑になりがちな大気圧化学イオン化質量分析装置の排気系を単純化できる。図5、6の例では、3段差動排気の場合について述べたが、第1から第3細孔61におけるガス流入量を抑えた上で、2段の差動排気系にすることも可能である。
【0039】
検出されたイオン電流は増幅器50を経てデータ処理器47に送られ、マススペクトルを与える。本願の大気圧化学イオン化法により得られるマススペクトルの例を、図24(NO2 -、NO3 -など)、図25(1、2、3−トリクロロベンゼンの場合)、図26(1、2、3−トリクロロジベンゾ−パラ−ジオキシンの場合)に示した。これらのマススペクトルでは、モニタすべき成分のイオンの質量が(X軸)に対応したイオンの電流値(Y軸)を示している。1、2、3−トリクロロベンゼン、1、2、3−トリクロロジベンゾ−パラ−ジオキシンの場合では、分子イオンの部分に、複数の同位体ピークが観測されている。これは、塩素原子の安定同位体(35Clと37Clで、その強度比は76対24)に由来するものである。マススペクトルの測定は通常1秒から数十秒程度と短時間で完了する。マススペクトル測定を繰り返し、スペクトルを平準化してS/N比の改善を図ることもできる。
【0040】
測定対象物質に由来する質量数におけるイオン電流値と、あらかじめ作成された標準物質の量とイオン電流値の関係(検量線)から、対象物質の存在量を求めることができる。例えば、2、3―ジクロロフェノール(分子量162、観測されるイオンの質量数161)の場合、図28のように、試料ガスの濃度に対するイオン強度の変化を測定し、図29に示した検量線を作成する。これをもとに、観測されたイオン強度から、そのときの試料ガスの濃度データを推定する。得られたデータはさらに整理され、成分の濃度、その他のパラメータとともに記憶されるとともに、必要によりCRTやプリンタに出力される。
【0041】
ダイオキシンの前駆体であるクロロベンゼン類は、電子を一個捕獲して分子イオンM-を生成する。ここで中性分子の分子をMとし電子を捕獲して負イオンになったものをM-とあらわす。クロロフェノール類はフェノキシ基(−OH基)のプロトン一個を失い擬分子イオン(M−H)ーを与える。ダイオキシン類は分子イオンM-の他に、(M−Cl)ー 、(M−Cl+O) ー 、または解裂して、1、2オルトキノン形のフラグメントイオンなどを与える。これら特徴ピークを選択的に検出すれば選択性の高い高感度測定ができる。
【0042】
クロロベンゼン類、クロロフェノール類、ダイオキシン類の分子量とモニタイオンを図31に示す。塩素の天然同位体は35と37が3:1で存在するため、この同位体パターンを見ることで、イオンに含まれる塩素元素の数を推定できる。また、複数の同位体ピークをモニタし積算すれば高い精度のモニタが可能になる。例えば、トリクロロベンゼンは質量180、182、184、186に、27:27:9:1の同位体パターンを与える。これらイオンを積算すれば、単独の場合に比較して高いS/N比が得られる。実際の測定では、この表のイオンを全てモニタして、その総量からダイオキシン濃度を推測してもよいし、これらのイオンの一部のみをモニタしてもよい。例えば、最も量の多いイオンのみをモニタすることにより、簡便、高感度のモニタが可能である。また、ダイオキシン生成に大きく寄与している、2から4塩素置換体を選びモニタすれば、簡便で高精度のモニタが可能になる。
【0043】
クロロベンゼン、クロロフェノール類の濃度からダイオキシン濃度を推定するには、あらかじめ求められた両者の相関関係を用いる。焼却炉等の方式、型等によって相関関係がやや異なることもあるため、より高精度でダイオキシン濃度を推定するには、モニタを設置する焼却炉ごとに相関関係のデータを求めておくことが好ましい。
【0044】
図1、2に示すように、大気圧化学イオン源30を経過した排ガスは、廃棄ガス用ポンプ95(ダイアフラムポンプ)により、廃棄ガス用配管5を経て、廃棄ガスプローブ2から、試料ガス採取プローブ3の下流側に戻される。これは、計測中有害な排ガスを室内に排出しないためである。一方、質量分析計の真空ポンプ12の排気も、真空ポンプ用廃棄ガス配管96(図2)を用いて集められて、大気圧化学イオン源30を経過した排ガスといっしょに煙道1にもどす構造とする。試料採取部88や大気圧化学イオン源30は気密構造とし、外部への漏洩、外部大気の侵入を防ぎ外乱を未然に防止する。
【0045】
排ガス中には、水、塩化水素、硫黄酸化物、高沸点成分、タール等が多量に含まれており、これらによる凝縮、吸着、腐食等が測定に悪影響を与える場合には、配管系の途中にインピンジャーを入れてこれらを除くことも有効である。
【0046】
これまでの説明で、モニタ部11に試料ガスを導入する際には、その上流側に、試料ガス用送気ポンプ8を設けた場合について述べた。図17に示すように、試料ガス用送気ポンプ8の送気容量とニードルバルブ79a、b、分岐配管80の抵抗によって、イオン源に導入される試料ガスの流量が数リットル/分から数十リットル/分に決定されるが、ニードルバルブ79a、bの制御によって、大気圧化学イオン源30内部の圧力を高めることができる。通常、コロナ放電を利用するような大気圧イオン源では、イオンを真空中に取り込む細孔から流入されない余剰ガスをイオン源の外に出すため、コロナ放電領域はほぼ大気圧(760Torr程度)となっている。しかし、実際には、コロナ放電領域における分子密度が高い方がそれだけイオン化効率が高くなり、コロナ放電領域の圧力の最適値は大気圧の760Torrよりも高いところにある。しかし、その一方で、イオンを真空中に取り込む細孔付近での圧力が高すぎると、細孔を通して高真空下の質量分析部に流入する分子の数が多くなりすぎ、質量分析部における高真空を維持するのが困難となる。図22には、イオン源圧力とイオン強度との関係を示した。イオン強度の最大は、760Torrより高いところにあることは明確である。図23には、コロナ放電領域の圧力を高めて測定した場合(1.2気圧程度)、ほぼ大気圧下で測定した場合(1気圧程度)との感度比較を示した。前者の方が後者の場合より感度は3倍程度高くなっており、大気圧化学イオン源30内部の圧力を高くすることが有効であることがわかる。イオン源内部での圧力を制御するため、ニードルバルブ79aの前に、圧力調整部97を設け、試料ガス用送気ポンプ8が作動している間、この圧力調整部97によって、大気圧化学イオン源30のコロナ放電領域の圧力を制御することも可能である。
【0047】
一方、図16に示すように、モニタ部11の後に排気ポンプ78のみを設けて、モニタ部11の大気圧化学イオン源30に導入される試料ガスの流量を数リットル/分から数十リットル/分に制御することも可能である。この場合には、排気ポンプ78の排気速度、ニードルバルブ79a、b、分岐配管80の抵抗によって流量が決定される。分岐配管80を使用しない場合もある。
【0048】
図33に、ダイオキシン類の測定のフローを図で示す。検出系のゲインは最高感度に設定する。また、イオン導入時間をできるだけ長く(数百msecから数十sec程度)する。図31で示したダイオキシン類のイオンを次々にモニタする。必ずしもこの図31のイオンは全てモニタする必要はなく、モニタ数を少なくすることもできる。塩素数の同じ成分のイオン(例えばm/z320と322)は加算して少しでもS/N比の改善を図る。また、ダイオキシン類に由来する全てのイオンの電流値も積算し(ΣIm)をダイオキシンの総量とする。ダイオキシン類のイオンのモニタが一周期終了したら再びダイオキシン類のモニタを繰り返す。繰り返し回数は外部から設定できるようにしておく。1回から必要なだけ積算を行いS/N比の改善を図る。ダイオキシン類の計測が終了すると、クロロベンゼン類の計測に移る。検出器の感度設定を中感度に設定する。イオン導入時間等も設定する。図31のクロロベンゼン類のイオンを次々にモニタする。モニタされたイオンは塩素の数が同じイオン毎に積算される。これによりクロロベンゼン類の異性体ごとの成分分布を求める事ができる。また全てのイオン量を積算し(ΣIm10)クロロベンゼン類の総量を求める。一回の測定周期が終われば、再びクロロベンゼン類の測定を行ない、イオン量の積算を行なう。繰り返しは一回以上濃度により変更できるようにする。一周期には1秒程度で完了する。クロロベンゼン類が終了すれば。次にクロロフェノール類の測定に移行する。クロロフェノール類は図31のイオンをモニタする。クロロベンゼン類と同じくモニタを繰り返し、成分ごとの分布、クロロベンゼン類総量などを求める。クロロベンゼン類が終了すれば、必要な場合には、NOX、SOX、塩化水素、酸素等をモニタする。測定完了して、前に測定した値やマススペクトルとの比較を行ない異状状態の把握をする。もし、異常であれば、警報を外部に出力する。このモニタは無限ループで回っており必要により外部から、モニタ条件を変更できる。
【0049】
ここでは主としてごみ焼却場から排出される排ガス中のダイオキシン、その関連化合物の測定や実施例を記述した。金属精錬プロセスの過程で出る排ガスや大気中に含まれるダイオキシンやその関連化合物についても同様の装置、方法で測定が達成できる。また、モニタ装置により焼却炉などの排ガスにどれだけのダイオキシン類が含まれているか、変動がどのくらいあるのか、直接把握が可能になり、ダイオキシンモニタのリアルタイム化が達成でき、焼却炉内の多くの場所でのダイオキシン類の濃度測定が可能になる。さらに、焼却炉において燃焼をはじめてから排ガスが煙突から大気中に排出されるまで、排ガスは多くの温度の異なる空間を経るととともに、排ガス中における多くの化学反応プロセスを経て排出される。この複雑なプロセス一つ一つにおけるダイオキシン生成、分解などを追跡することが可能になる。当然、プロセス条件を変更、最適化してダイオキシン類の削減を図るための情報を入手可能になる。
【0050】
上記の例では、負のコロナ放電により生成したイオンを偏向後、質量分析計に導入しているが、偏向しないで質量分析部に導入しても良いことは言うまでもない。
【0051】
さらに、質量分析計としてイオントラップ質量分析計を用いた場合について述べたが、四重極質量分析計や小型の磁場型質量分析計などの他の質量分析計を用いた場合もある。
【0052】
(実施例2)
図30にごみ焼却場排ガス中に含まれる主な成分の一般的な存在比率を示す。縦軸が存在比率を示す。1が100%である。10ー6がppm、10ー9がppb、10ー12がpptに相当する。%レベルの窒素、酸素、二酸化炭素、水に続き、1000ppmレベルには一酸化炭素や炭化水素類が存在する。炭化水素類には多くの成分が存在し、それら濃度は10ppmから1pptレベルと広範囲に分布している。塩化水素(250ppmから1300ppm)、NOX(100から200ppm)、SOX (〜100ppm)等は数百ppmレベルで存在する。一方、ダイオキシンの前駆物質と言われるクロロベンゼン、クロロフェノール類の濃度は、1ppb(1000ng/Nm3)程度とされている。ダイオキシン類の濃度は10ppt(10ng/Nm3)以下である。このように、排ガス中のダイオキシン前駆物質やダイオキシン類等の目的成分を直接計測することは、多種類で高濃度の妨害成分の中から微量の目的成分のみを検出する高い選択性が必須となる。このために、負のコロナ放電を用いること、生成したイオンの検出に質量分析計を用いることは非常に有効である。ただし、同じように負のコロナ放電でイオン化され、生成したイオンの質量数が目的成分と同じ物質が存在する場合もあり、この場合には負のコロナ放電を用いた質量分析計だけでは、目的成分のみの検出は非常に困難となる。
【0053】
しかし、イオントラップ質量分析計を用いると、生成したイオンを解裂させて(イオンからある構成元素やグループを除く)元々とは異なる質量数のイオンにすることによって、通常のマススペクトルに比較して、さらに高い選択性を得ることができる。それは、高周波電源100からリング電極46とエンドキャップ電極45a、bに印加した高周波電圧に加えて、補助交流電源98からエンドキャップ電極45a、bに印加した補助交流電圧から捕捉した分子イオンにエネルギを注入し、電極内のバッファガス(Heなど)分子と衝突させて分子イオンを解離するMS/MS法である。実際には、捕捉されているイオンの固有振動数と一致またはわずかに異なる補助交流電圧(振幅数V以内、印加する時間は数十msec程度、周波数50から500kHz程度)をエンドキャップ電極45a、bに印加する。有機塩素化合物の場合、分子イオンから塩素原子が一または二個脱離するイオンがMS/MS法で観察される。例えば、図13に示すように、2、4ジクロロフェノールの場合、負のコロナ放電を用いてイオン化すると、(M−H)―(M:分子、H:水素)という負イオンが生成する。この負イオンをMS/MS法により解離すると、塩素原子が一個脱離した負イオンが生成する。この負イオンを観測するということは、ジクロロフェノールにおけるMから(M−H)― を経て塩素原子が一個脱離した負イオンの生成過程を観測したことになり、非常に高い選択性を得ることができる。従って、負のコロナ放電でイオン化され同じ質量数のイオンを生成するような妨害物質が存在しても、ジクロロフェノールのみの検出が可能となる。この場合、図27のようなクロマトグラム(イオン強度の時間変化を表わしたもの)が得られるので、このピーク強度から塩素原子が一個脱離した負イオンの量を定量すれば、排ガス中のジクロロフェノールの量を推定できる。測定すべき分子種が複数ある場合にはこの測定過程を繰り返せばよい。ダイオキシン類の場合、脱塩素の他に、脱COCl過程が観察される。特に、脱COClはダイオキシン類にのみ観察される過程であり、逆にこの過程が観察されれば、TCDDや毒性の高いダイオキシンの存在が証明されたといえる。
【0054】
測定すべき分子種が複数ある場合にはMS/MS法による測定過程を繰り返しても良いが、次のように同時に行うことも可能である。すなわち、クロロフェノール類を例にとると、コロナ放電で生成したモノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタクロロフェノールの負イオンのみを選択してイオントラップ質量分析部内に補足する。これは、先に述べたように、捕捉されるべきイオン群の固有振動数を含まないホワイトノイズの補助交流をエンドキャップ電極45a、bに印加することにより達成される。続いて、捕捉されている各イオンの固有振動数と一致またはわずかに異なる補助交流を重ねあわせた補助交流をエンドキャップ電極45a、bに印加し、捕捉されている分子イオンにエネルギーを注入して、前記のクロロフェノールの負イオンから塩素原子を脱離したイオンを生成する。このとき、モノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタクロロフェノールの負イオンから塩素原子が脱離した、フェノール、モノ、ジ、トリ、テトラクロロフェノールに相当するイオンの強度の和が、求めるクロロフェノール類の総量に相当することになる。
【0055】
さらに、実際の焼却炉では、発生するクロロフェノールの場合、ジ、トリ、テトラクロロフェノールが全体のクロロフェノール類の量の50%以上を占めるので、全てのクロロフェノールを測定するのではなく、ジ、トリ、テトラクロロフェノールの量でクロロフェノール類の量を代表することも可能である。この考えは、クロロベンゼン類、ダイオキシン類についても同様なことが言える。
【0056】
(実施例3)
一個所のガス採取点で長時間連続的に測定する事もできるが、ごみ焼却場の場合には測定点を増やすことにより、焼却制御の条件を把握できる。図15はごみ焼却場の模式図である。ごみ投入口72に投入されたごみは乾燥され、多段の火格子74の焼却炉73内に投入され、下方からの一次空気供給により燃焼する。燃焼ガスは炉73内で攪拌され燃焼する。さらに、燃焼ガス中に二次空気注入口75から二次空気を吹き込み燃焼を完全にする。高温の燃焼ガスは次にボイラ76に導かれ、熱の回収が行われる。二次空気の供給による二次燃焼の高温により、大部分の有機化合物や有機塩素化合物は分解される。しかし、二次燃焼により、有機塩素化合物は減少しても、NOX等が新たに生成される。この領域に、本願の試料ガス採取点A、Bを設ければ、二次空気注入や燃焼温度条件によるNOX、ダイオキシン類、有機塩素化合物の濃度変化をほぼリアルタイムで監視することができる。最終的に、NOX、ダイオキシン類の発生を抑制した運転が可能になる。同様に、ボイラ76の前、B点と後のC点でのモニタにより、ボイラ内でのNOX、ダイオキシン類の生成や挙動を知ることができる。さらに、活性炭や消石灰等の吸着剤の投入の前後でモニタすれば、これら投入量の高効率化、投入量の削減、ひいてはコストの削減が可能となる。 多くの側定点を時分割で測定する場合には、図18に示すように、流路切り替えバルブ81により流路を切り替えて行なう。図18には測定点が3点の場合を示しているが、測定点はこれ以上に増やすことができる。図32に、実際のモニタの動作状態を示した。複数点のモニタは流路切り替えバルブ81を時分割で切り替えて行えば、モニタ本体は一台ですむ。A点でのサンプリングは、流路をA点からのものに切り替える。モニタは数秒から数十秒程度で完了するが、測定を繰り返しS/N比を向上させるとともに信号の平準化を図る。繰り返しは必要により自由に設定できる。数秒から数分間のA点での測定が完了すれば、流路切り替えバルブを切り替え、B点の測定に移る。測定点が増えた場合、一回の測定時間が30秒程度であると、10点の測定点でも5分周期で10点の測定を行うことができる。なお、測定している流路の配管は当然、他の測定されていない流路の配管も常に排ガスが流れるようにしておくと、配管系への微量成分の吸着や温度変化、圧力変化を免れることができる。
【0057】
(実施例4)
大気中のダイオキシン測定などの場合、ダイオキシン濃度はごみ焼却場の排ガスに比較して、さらに低下する。そのため、直接試料ガスをイオン源に導入してもダイオキシンを検出することが困難になる。その場合、図19に示すように、試料ガスのサンプリング経路に、ダイオキシンを捕集するトラップカラム83を挿入し、ダイオキシン類などを吸着、濃縮した後、流路を切り替え脱着させ、それを検出することもできる。この場合、脱着時のキャリアガスには、ボンベ85に充填された高純度の窒素ガスや空気等を使用すれば、ガス中の水分や二酸化炭素、炭化水素などによる妨害をなくすことができる。このとき、NOX、SOXなど高濃度物質の測定は、そのまま、大気圧化学イオン源に排ガスを導いて測定し、ダイオキシン類のような極微量成分のみ吸着、濃縮を行なえばよい。
【0058】
図19を用いて説明する。煙道1に挿入した試料ガス採取プローブ3から試料ガスを採取し、ダストフィルタ20、金属フィルタ23により飛灰等を取り除く。試料ガス中に、高濃度に存在するクロロベンゼン、クロロフェノール類などは、三方コック82a、配管、三方コック82bを経て、モニタ部11に直接送り込まれモニタされる。ダイオキシン類をモニタする場合は、三方コック82a、bを切り替える。試料ガスは配管、四方コック84、トラップカラム83、三方コック82bを経て、大気圧化学イオン源30に導かれる。ダイオキシン類はトラップカラム83に吸着、濃縮される。数分間から数十分間程度のトラップ濃縮時間が完了すると、四方コック84は切り替えられ、トラップカラム83に窒素ボンベ85から供給される窒素ガスがトラップカラム83を流れるようになる。四方コック84の切り替えと同時に、トラップカラム83の周囲のカラム用ヒータ99に通電されトラップカラム83は急速に加熱される。トラップカラム83に吸着されたダイオキシン類は脱着し、大気圧化学イオン源30に導かれイオン化されモニタされる。また、高濃度の成分の場合は直結し、中濃度、極微量成分のモニタのためにトラップカラムを複数本用意して別々に行なっても良い。例えば、中濃度成分にはトラップ時間を10秒、極微量成分には100秒とトラップ時間を変えてトラップすれば良い。
【0059】
(実施例5)
モニタ装置により測定したイオン電流は、検量線からダイオキシンや有機塩素化合物の濃度に変換される。そのため、図4に示すように、必要に応じまたは1日に1回など、定期的に標準試料用切り替えバルブ24を切り替え、標準ガスボンベ(図示せず)または標準試料発生器10から標準物質を適当なガスとともに一定量導入しモニタの自動校正を行う。標準物質には、クロロベンゼンやクロロフェノール類など揮発性の有機塩素化合物を用いればよい。また、NOX、SOXなどを用いてもよい。標準物質を導入して得られた信号をあらかじめ入力した値、または前に測定された値と比較しそれらの偏差が大きい場合外部に警報を出し、装置のキャリブレーションを行なう。
【0060】
(実施例6)
オンライン測定中に、あるいは必要に応じて、例えば1日に1回、測定信号やバックグランド、排ガスの温度、圧力や流量等に異常がないか自己診断し、自動洗浄、自動校正、装置異常警報の発信、装置停止等の必要な動作を行う。
【0061】
(実施例7)
突発的な異常状態を知るために、別のプロセスが必要である。図34に示したように常時異常か否かの判断を行なうことができる。異常の判断は、焼却場の平均的な値を、あらかじめ、人手により入出力装置により設定するか、測定を繰り返して自動的に平均値をもとめてもよい。図34では自動的に平均値を求める方法を流れ図で示している。ダイオキシン類、クロロベンゼン、クロロフェノール類などシーケンシャルに測定を行なったのち、各成分の値を平均値と比較する。もし偏差がある定められた値より大きくなった場合、入出力装置や警報機により警報を外部に出力した後、測定を繰り返す。警報が更に繰り返された時更に上位の警報を発したり、自動診断、キャリブレーション、更にモニタ装置停止などを行なう。
【0062】
また、異状時に排ガスの中に異常値を与える原因成分が含まれているはずである。そのため、微量成分モニタ装置は通常のモニタとは異なる測定モードに移行する。異状時に質量分析計の質量走査を行い、マススペクトルを取得し他のパラメータと伴にファイル化し記録するとともに入出力装置に表示する。この状況を監視しながら燃焼制御部15で燃焼炉の一次空気または二次空気の送気量を調節してダイオキシン類、クロロベンゼン、クロロフェノール類の排出を抑制する。またこの測定により、原因の追求の一助ともなる。
【0063】
さらに、異状時のみにマススペクトルを取得するのではなく、ダイオキシン類等のモニタ周期の中にマススペクトルスキャンを組み入れて、モニタと同時にマススペクトルを常時取得記録すれば、焼却炉の状態を常に把握できる。例えば水分の多いごみを大量に燃やせば、水のイオン、また塩化ビニールを大量に燃やせば塩素イオンがマススペクトル中に大きなピークとして出現する事になる。マススペクトルを微量成分のモニタの合間に周期的に取り込みこのマススペクトルを監視しても、異常状態を把握できる。測定されたマススペクトルを以前に測定された平均マススペクトル(比較マススペクトル)と比較して、新たなマスピークが出現したり、大きなマスピークが消えた場合異常状態と判断する。即ち比較する二つのマススペクトル上の同じ質量対電荷比(m/z)マスピークの強度の減算を行なう。マススペクトル上にピークがない場合は強度0とする。もし差スペクトル上に大きなピークが出現していればこれが突然排ガス中に出現した成分であるので、異常成分の出現として警報を外部に出力する。
【0064】
測定したデータはデータ処理で処理され燃焼条件の設定値や実測値等とともにファイル化され記憶される。また、基準値を超えた値を示した部所は赤やピンクなど色表示で行なって、直ちに監視者に警告を出せるようにする。データは必要によりプリンタやCRTに出力される。また、焼却監視、制御システムにデータを送り出す。
【0065】
(実施例8)
大気圧イオン源や配管等には測定中常に排ガスが流れ込むようにして、ガスと壁面吸着物質の交換を平衡状態に保ち、壁面へのごく微量成分の吸着をなくすようにする。焼却炉の停止や保守点検、更にサンプリング系のフィルタ交換等で排ガスの流れが止まる場合には、高純度窒素ガス等を自動的に流し、大気圧イオン源や配管の汚れを防ぐようにする。また、イオン源や配管の汚れに応じて、例えば1週間に1回、高純度ガス等のパージガスを流し、大気圧イオン源や配管の自動洗浄を行う。図1に示すモニタ装置において標準試料発生器10から標準試料の送出を停止すれば窒素ガスボンベ(図示せず)から送られる窒素ガスはそのまま、バルブを経て、配管、大気圧化学イオン源30を流れ、洗浄する。装置の起動時、停止時、また測定の途中定期的に窒素ガスを流すことにより、装置のクリーンアップができる。高純度窒素ガスの導入は標準試料導入系と別に試料採取部88の中に設置してもよい。純窒素を導入系に流した後に排ガスを導入し測定を開始する場合、管壁への吸着を防ぐため、排ガスを30分以上連続して流すようにする。
【0066】
(実施例9)
図30にごみ焼却場排ガス中に含まれる主な成分の一般的な存在比率を示す。縦軸が存在比率を示す。1が100%である。10ー6がppm、10ー9がppb、10ー12がpptに相当する。%レベルの窒素、酸素、二酸化炭素、水に続き、1000ppmレベルには一酸化炭素や炭化水素類が存在する。炭化水素類には多くの成分が存在し、それら濃度は10ppmから1pptレベルと広範囲に分布している。塩化水素(250ppmから1300ppm)、NOX(100から200ppm)、SOX (〜100ppm)等は数百ppmレベルで存在する。一方、ダイオキシンの前駆物質と言われるクロロベンゼン、クロロフェノール類の濃度は、1ppb(1000ng/Nm3)程度とされている。ダイオキシン類の濃度は10ppt(10ng/Nm3)以下である。このように、分子内に酸素、硫黄、ハロゲン元素(F、Cl、Br、I)などの電気陰性度の高い元素を含む無機化合物(窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX),塩素(Cl2)、塩化水素(HCl))も、排ガス中に数百ppmレベルで存在する。これら物質も、大気中に排出量が規制されている有害物質である。この負イオンモード大気圧化学イオン化によればこれらに加え酸素や水もダイオキシン類やクロロフェノール、クロロベンゼンなどの有機塩素化合物と同様にイオン化、測定する事ができる。
【0067】
NOX、SOX類はダイオキシン類の108から109倍高濃度である。そのため、イオン化効率が多少劣っていても、検出されるイオンの量はダイオキシン類に比して非常に多い。そのため、ダイオキシン類やクロロフェノール、クロロベンゼン類とNOX、SOX類を同時に測定することは得策でない。この場合、一回の質量分析(一回のスキャン)では低感度でNOX、SOX類のスペクトルを取得し、その後、中感度モードに切り替えてクロロベンゼン類、クロロフェノール類の測定を行なう。さらに高感度モードにしてダイオキシン類の質量分析を行なう。
【0068】
感度の切り替えにはいくつかの方法がある。図33に質量分析計がイオントラップ質量分析計の場合を示す。イオントラップ質量分析計内部にイオンを外部より導入、蓄積する時間を調節することで、広いダイナミックレンジをカバーすることができる。イオン電流値が少ない時、イオン蓄積時間を長くする。また、逆にイオン電流値が多いとき、イオン蓄積時間を短くする。イオンの導入、蓄積の後、質量スキャンを行いマススペクトルを得る。また、検出器も同期して低、中、高利得と切り替えて測定を行なう。三つの感度を切り替えながら測定を交互に繰り返せば、ほぼリアルタイムに、ダイオキシン類、クロロベンゼン、クロロフェノール類、NOX、SOX類等を測定できる。ダイオキシンは、クロロベンゼン、クロロフェノール類やNOX、SOX類に比して極微量しか存在しない。そのため、三者を平等にモニタせず、ごく微量のダイオキシン類を一周期の測定中複数回測定を増やし、データの平準化を図ることもできる。更に、三者間のモニタの頻度を変えてもよい。
【0069】
(実施例10)
以上の例では、主に、負イオン化モードの大気圧化学イオン化法を用いた場合について述べてきた。排ガス中には種々の成分が含まれているが、オレフィン系炭化水素やベンゼンなどに代表される芳香族化合物等の炭化水素系化合物や塩素数の少ない化合物については、正イオン化モードの大気圧化学イオン化法による測定も可能である。例えば、ベンゼンやモノクロロベンゼンでは、正イオン化モードの大気圧化学イオン化法により、M+のイオン種が生成する。また、正イオン化モードにおけるイオン種には、(M+H)+等も観測される。
【0070】
正イオン化モードにより得られる炭化水素等に由来するイオンは炉における燃焼状態を表しており、一酸化炭素と同様に、不完全燃焼の指標にすることも可能である。すなわち、分子量の大きな炭化水素由来のイオンが大量に観測されている場合には燃焼状態が不十分であることが推定できる。さらに、実際の試料ガス測定では、正負イオン化モードを交互に測定することによって、試料ガス中の情報量を増やすことも有効である。
【0071】
(実施例11)
上記の例では、ダストフィルタ部には主に飛灰等の固形物を取り除く場合について述べたが、塩化水素等のように大量に存在するガス成分を取り除くためのフィルタを設けてもよい。通常の炉では、燃焼させるごみにより発生するガスの組成が変化する場合がある。このような場合には、モニタ部11の前に、大量のガス成分を取り除くためのフィルタを設け、ガス成分組成の大きな変動を押さえることは有効である。例えば、塩化水素の場合には、炭酸カルシウムや消石灰を充填したフィルタを設けると、1000ppmをも越える大量の塩化水素が存在しても数百ppmに低下するので、大量の塩化水素ガスによる目的物質のイオン化阻害が軽減し測定が容易となる。
【0072】
【発明の効果】
負のコロナ放電を用いた大気圧化学イオン化法は多くの妨害物質が存在する中で、有機塩素化合物や電気陰性度の高い元素を含む化合物を選択的にイオン化できる高感度、高選択イオン化法である。また、これにイオントラップ質量分析計を組み合わせることにより、より高感度で高選択性のモニタ法とすることができる。本願により、煙道から直接試料ガスを採取して、排ガス中のダイオキシン類、ダイオキシン類の前駆化合物(クロロベンゼン、クロロフェノール類)、さらには、NOX、SOX等の直接モニタが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】煙道とモニタと燃焼制御部の構成を示した図。
【図2】煙道とモニタの構成を示した図。
【図3】フィルタ部の構成を示した図。
【図4】モニタ部の構成を示した図。
【図5】モニタ内部の構成を示した図。
【図6】モニタ内部の構成を示した図。
【図7】イオン源の構成を示した図。
【図8】イオン源の構成を示した図。
【図9】イオン源の構成を示した図。
【図10】コロナ放電のイオン生成の過程を示した図。
【図11】イオントラップ質量分析部の構成を示した図。
【図12】イオントラップ質量分析部の構成を示した図。
【図13】イオン生成過程を示した図。
【図14】ダストフィルタの構成を示した図。
【図15】モニタによる測定点を示す図。
【図16】モニタ部の構成を示す図。
【図17】モニタ部の構成を示す図。
【図18】モニタ部の構成を示す図。
【図19】モニタ部の構成を示す図。
【図20】大気圧イオン源部におけるガス温度とイオン強度との関係を示した図。
【図21】大気圧イオン源部におけるガス温度とイオン強度との関係を示した図。
【図22】大気圧イオン源部における圧力とイオン強度との関係を示した図。
【図23】大気圧イオン源部における圧力とイオン強度との関係を示した図。
【図24】マススペクトルの一例。
【図25】クロロベンゼンのマススペクトルの一例。
【図26】ダイオキシンのマススペクトルの一例。
【図27】クロロフェノールの検出例。
【図28】感度曲線の測定例。
【図29】検量線の測定例。
【図30】排ガス中に含まれる主成分。
【図31】検出イオン。
【図32】測定シーケンスの例。
【図33】測定シーケンスの例。
【図34】測定シーケンスの例。
【符号の説明】
1---煙道、2---廃棄ガスプローブ、3---試料ガス採取プローブ、4---試料ガス用配管、5---廃棄ガス用配管、6---切り替えバルブ、7---フィルタ、8---試料ガス用送気ポンプ、9---分岐用バルブ、10---標準試料発生器、11---モニタ部、12---真空ポンプ、13---計測部、14---信号及び制御ライン、15---燃焼制御装置、16---計測部用配管---、17---信号ライン、18---モニタ部用のぞき窓、19---石英ウール、20---ダストフィルタ、21---ダストフィルタ用入り口配管、22---ダストフィルタ用出口配管、23---金属フィルタ、24---標準試料用切り替えバルブ、25---標準試料用配管、26---大気圧化学イオン源収納部、27---真空槽内ダストフィルタ収納部、28---モニタ部支え、29---真空排気用配管、30---大気圧化学イオン源、31---第1フランジ、32---第2フランジ、33---第3フランジ、34---収束レンズ、35---スリット付き電極、36---ゲートバルブ、37---内筒電極、38---外筒電極、39---シールド電極、40a、b、c、d---偏向用電極、41---放電及び電極用電源、42---、43---真空槽内ダストフィルタ、44---円筒電極、45a、b---エンドキャップ電極、46---リング電極、47---質量分析部制御部、48---コンバージョンダイノード、49---シンチレータ検出部、50---増幅器、51---高周波電源及び検出器用電源、52---ターボ分子ポンプ、53a、b---バルブ、54---第1差動排気部真空排気用配管、55---第2差動排気部真空排気用配管、56---第3差動排気部真空排気用配管、57---コロナ放電用針電極、58---放電用対向電極、59---第1細孔、60---第2細孔、61---第3細孔、62---試料ガス加熱部、63---ヒータ、64---イオン取り込み細孔、65---ゲート電極、66a、b---つば電極、67---バッファーガス取り込み口、68a、b---絶縁リング、69---イオン取り出し細孔、70---イオン取り出しレンズ、71a、b---フランジ、72---ごみ投入口、73---焼却炉、74---火格子、75---二次空気注入口、76---ボイラ、77---フィルタ部、78---排気ポンプ、79a、b---ニードルバルブ、80---分岐配管、81---分岐した試料ガス用配管、82a、b---三方コック、83---トラップ、84---四方コック、85---ガスボンベ、86---高抵抗、87---、88---試料ガス採取部、89---採取口、90---モニタラック、91---二重円筒型収束レンズ、92---偏向器、93---イオントラップ質量分析部、94---イオン検出器、95---廃棄ガス用ポンプ、96---真空ポンプ用廃棄ガス配管、97---圧力調整部、98a、b---補助交流電源、99---カラム用ヒータ、100---高周波電源。
Claims (11)
- 排ガスや大気を採取する試料ガス採取系と、該試料ガス中の微量成分を大気圧下で大気圧化学イオン化するイオン源と、大気圧よりも低い圧力に真空排気された領域に設けられた、前記イオン源で生成されたイオンを質量分析しそのイオン電流を計測する質量分析部と、計測された信号を処理するデータ処理装置を備え、
試料ガスをイオン源に導入し、該排ガス中の微量成分をイオン化して質量分析を行ない、ダイオキシン類、クロロベンゼン類、クロロフェノール類のうち少なくともひとつ以上の成分をモニタすることを特徴とするモニタ装置。 - 前記イオン源が負イオン化モードの大気圧化学イオン源であることを特徴とする請求項1に記載のモニタ装置。
- 前記質量分析部がイオントラップ質量分析部であることを特徴とする請求項2に記載のモニタ装置。
- 前記ダイオキシン類、またはクロロベンゼン類、またはクロロフェノール類における各異性体に由来するイオン電流を積算してモニタすることを特徴とする請求項3に記載の装置。
- 前記ダイオキシン類、またはクロロベンゼン類、またはクロロフェノール類の測定イオン種に、塩素元素の安定同位体に基づくイオンを含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
- 検出するイオン種が、ダイオキシン類はM-、(M−Cl+O) -またはオルトキノン型イオン、クロロベンゼン類はM-または(M−Cl)-、クロロフェノール類は(M−H)-または(M−H)-から塩素原子が脱離したイオンであることを特徴とする請求項3に記載の装置。
- 排ガスや大気を採取する試料ガス採取系と、該試料ガス中の微量成分を大気圧下で大気圧化学イオン化するイオン源と、大気圧よりも低い圧力に真空排気された領域に設けられた、前記イオン源生成されたイオンを質量分析しそのイオン電流を計測する質量分析部と、計測された信号を処理するデータ処理装置を備え、
測定する分子内に、O,S,F,Cl,BrまたはIの元素をひとつ以上含む有機化合物をモニタすることを特徴とするモニタ装置。 - 測定対象の有機化合物がダイオキシン類、クロロベンゼン類、クロロフェノール類のうち少なくともひとつであることを特徴とする請求項7に記載のモニタ装置。
- 測定対象の無機化合物が窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)、塩化水素(HCl)、塩素(Cl2)、酸素(O2)のうち少なくともひとつであることを特徴とする請求項8に記載のモニタ装置。
- 無機化合物の測定と有機化合物の測定とが時分割に独立に行なわれることを特徴とする請求項9に記載のモニタ装置。
- 試料ガスを配管を経て直接大気圧化学イオン源に導入し、該排ガス中の微量成分をイオン化して質量分析を行うことによって、ダイオキシン類、クロロベンゼン類、クロロフェノール類のうち少なくともひとつ以上の成分をモニタするモニタ装置を用いて、燃焼を制御することを特徴とする焼却炉。
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