JP3974840B2 - 鋼板の脱水素方法およびそれを用いた鋼板の製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、製鉄所における厚板等の鋼板製造工程における鋼板や、建築、造船、橋梁、建設機械、海洋構造物などの溶接構造物における溶接部周辺の鋼板に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法およびそれを用いた鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼板に内在する水素は、鋼板の靭性を低下させる。
特に、溶接部など、応力集中が発生し易い箇所は、この鋼板中に内在する水素が遅れ破壊の原因となるため、従来から、鋼板の脱水素方法が提案されている。鋼中水素濃度の低減方法としては、溶鋼の脱ガス処理や、鋳込み後スラブの保温が実施され、さらに圧延後鋼板の加熱保温も行われる。連続鋳造の場合、不純物除去や成分調整の目的もあって、溶鋼の多くが脱ガス処理されるが、これには主としてRH脱ガス法が採用されている。溶鋼中の水素は、この脱ガス処理の時間を長くすることにより十分な低減が可能であるが、処理時間が長くなると処理コストが増し、連続鋳造のサイクルによる時間の制約もあるため、限界がある。より十分な水素濃度低下は、鋳込み終了直後のスラブを間隔をあけて積み重ね、カバーで覆うなどして保温し、高温にある時間を長くしてスラブ中の水素を表面まで拡散させて排除することによって行うことができる。この場合、厚いスラブでは水素の拡散に時間がかかるので数日以上の放置を要し、しかも、スラブの温度が低下してしまう。
近年、エネルギーの効率的利用および製造工程短縮の観点から、鋳込み直後の高温のスラブを、冷却することなく直ちに所要温度に調整して、製品寸法にまで圧延してしまうホットチャージないしは直接圧延の製造方法が多く採用されるようになってきた。この場合、鋳造過程で鋼中に残存した水素は、十分除去されないまま圧延され厚鋼板形状となるので、圧延後の冷却過程において温度の高い間に水素を放出させ低下させなければ、水素起因の靭性低下や遅れ破壊が発生する危険性が増してくる。このため、圧延後の鋼板を積み重ねて徐冷のための場所、加熱保温設備、さらにはそれらによる所要時間の増大など、工程上の問題は避けられない(例えば、特許文献1参照。)。
なお、例えば、特許文献2に、溶接継手部に超音波振動を与えることによって、疲労強度を向上させる方法が開示されているが、超音波振動を鋼板の脱水素処理に利用することは開示されていない。
【0003】
【特許文献1】
特許第3298519号掲載公報
【特許文献2】
米国特許第6,171,415号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、鋼板の板厚方向に分散した水素を表層部に集めることによって、鋼板に内在する水素を十分に効率よく低減する鋼板の脱水素方法およびそれを用いた鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するために鋭意検討の結果なされたもので、鋼板の内部応力を増大させることによって、鋼板の板厚方向に分散した水素を表層部に誘導した後に加熱して、鋼板に内在する水素を十分に効率よく低減する鋼板の脱水素方法およびそれを用いた鋼板の製造方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0006】
(1)鋼板中に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法であって、200℃以下の前記鋼板の表面を、先端の径が5mm以上の超音波振動端子で打撃することにより、該鋼板の表層部の内部応力を増大させた後に、該表層部を150〜220℃に加熱することを特徴とする、鋼板の脱水素方法。
(2)鋼板中に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法であって、200℃以下の前記鋼板の表面に、超音波振動を付与した鋼球を衝突させる超音波ショットピーニング処理を行うことにより、該鋼板の表層部の内部応力を増大させた後に、該表層部を150〜220℃に加熱することを特徴とする、鋼板の脱水素方法。
(3)200℃以下の前記鋼板の表層部を、誘導電流により加熱する誘導加熱装置を用いて加熱することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の鋼板の脱水素方法。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の鋼板の脱水素方法を用いることを特徴とする、鋼板の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。
まず、脱水素を行う前に、予め鋼板の表層部の内部応力を増大させる。
鋼板の板厚方向に分散している水素は、内部応力の高い部分に集まる性質があるので、鋼板の表層部の内部応力を増大させることによって、この部分に水素を誘導して偏在させることにより、水素を除去し易くすることができる。
【0008】
本発明においては、鋼板表層部の内部応力を高める手段は問わないが、脱水素を行う箇所の鋼板表面を先端の直径が5mm以上の超音波振動端子(ハンマー)で打撃する方法(Ultrasonic Impact Treatment、UIT)が好ましい。
鋼板表面を超音波振動端子で打撃することによって、鋼板表面に深さ数百μmの圧痕を形成することができ、これによって、前述の鋼板表層部の内部応力を鋼板の降伏応力の約30%以上に増加させることができる。
前記鋼板の表層部は200℃以下であることが好ましい。表層部の温度が200℃を超えると、UITで内部応力を高めようとしても鋼板が軟化しており容易に塑性変形してしまい、加工が板厚内部まで伝達しなくなるからである。
超音波振動端子の先端の径を5mm以上とするのは、先端の径が大きい方が鋼板表面の広い範囲を打撃することができ、より広範囲で深い範囲の内部応力を高めることができるからである。ただし、30mmを超えると、超音波源の出力が大きくなり過ぎて工業的に成り立たないので、超音波振動端子(ハンマー)の先端の直径は10〜30mmが好ましい。
本発明においては、前述のハンマーで打撃する際の鋼板温度は、脱水素に影響が少ないので、省エネルギーの観点から150℃以下が好ましい。
【0009】
また、本発明に使用する超音波発生装置は問わないが、200w〜3kwの電源を用いて、トランスデューサによって19Hz〜60Hzの超音波振動を発生させ、ウェーブガイドにて増幅させることにより、5mm〜30mmφのピンからなる超音波振動端子を20〜60μmの振幅で振動させる装置が好ましい。
また、超音波振動端子の代わりに、超音波により振動を与えた直径1〜3mmの鋼球を鋼板表面に衝突させる超音波ショットピーニング処理を行うことにより、より広い範囲の内部応力を増大させることができるので、製鉄所において、鋼板を製造する際に、圧延後脱水素処理を実施する際でも、鋼板表層部の内部応力を増大させ、水素を表層に集めてから、焼き戻し炉を短時間通過させれば、効率的に脱水素を行うことができる。
【0010】
鋼板表層部の加熱温度は、150〜220℃とする。
水素は150〜220℃の範囲まで加熱すれば拡散し易くなり、鋼板表層部に集まった水素が大気中に放散されるからであり、150℃未満では鋼板中の水素の除去が不十分であり、220℃超まで加熱しても除去できる水素の量は飽和してしまううえ、鋼板温度が250℃以上になると青熱脆化を起こして靭性が劣化する場合があるほか、300℃以上になると鋼板の強度が圧延ままの材料よりも低下してしまうからである。
ここに、加熱する鋼板の表層部は、脱水素を行う箇所の鋼板表面から板厚方向に4mm以上の深さまで、20分以上加熱することが好ましい。
脱水素を行うためには、板厚方向により深く、長い時間加熱することが好ましいが、本発明においては鋼板の表層部に水素が集められているので、板厚方向に4mm以上の深さまで、20分以上加熱することで十分に脱水素を行うことができる。
本発明においては、鋼板表層部の加熱方法は問わないので、前述のような焼き戻し炉を用いて加熱してもよいが、水素による遅れ破壊が懸念される応力集中部などに限定して加熱するためには、誘導電流により加熱する誘導加熱装置を用いて加熱することが好ましい。
なお、以上説明した鋼板の脱水素方法を用いて鋼板を製造することによって、鋼板に内在する水素が少なく、靭性の優れた鋼板を製造することができる。
【0011】
【実施例】
本発明における鋼板の脱水素方法の実施例を表1乃至表4に示す。
表1および表2は、厚板の製造工程において脱水素処理を行った実施例を示す。
表1に示す化学成分および製造プロセスを用いた厚板に、超音波打撃処理(UIT処理)と脱水素処理を行った結果を表2に示す。
脱水素の評価は、試験片に切欠き(ノッチ)を設けて、脆性の指標であるKc値を測定するディープノッチ試験(金沢武、越賀房夫著、「脆性破壊2−破壊靭性試験−、破壊力学と材料強度講座8」,培風館,1977年9月20日、pp8−14参照。)により行い、切欠きの底部に水素性の脆性破面が無い場合を脱水素が良好とし、切欠きの底部に水素性の脆性破面が有る場合を脱水素が不良とした。
この水素性の脆性破面は、水素が一定量以上含まれている鋼材に負荷している最中に形成される破面であって、それが自然にき裂になるため、き裂先端の応力集中が増大し、150(N/mm1.5)以下の低いKc値にて破断する。
【0012】
NO.1〜NO.5は、本発明例であり、表1に示す化学成分のスラブを1000〜1100℃に加熱して圧延し、鋼板表面を先端の直径が10〜30mmの超音波端子(ハンマー)で打撃した後、180〜220℃まで加熱して脱水素処理を行ったところ、本発明の条件を全て満足しているので、前述のディープノッチ試験の結果、切欠きの底部に水素性の破面は無く、脱水素は良好だった。
NO.6〜NO.10は、比較例であり、表1に示す化学成分のスラブを1000〜1100℃に加熱して圧延し、本発明と異なる条件で脱水素処理を行う場合と、
脱水素処理を行わない場合について、前述のディープノッチ試験を行った。
【0013】
NO.6は、ハンマーの直径が1mmと小さいうえ、脱水素のための加熱温度が100℃と低過ぎるので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素は不良だった。
NO.7は、水素熱処理温度が250℃と高く青熱脆化が起こったために、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素も不良だった。
NO.8は、UITプロセスでの処理温度が300℃と高いため、UITで内部応力を高めようとしても鋼板が軟化しており容易に塑性変形してしまい、加工が板厚内部まで伝達しないので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素も不良だった。
NO.9およびNO.10は、脱水素処理を行わなかったので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素は不良だった。
本発明における鋼板の脱水素方法の実施例を表1乃至表4に示す。
表3および表4は、溶接部に脱水素処理を行った実施例を示す。
表3に示す化学成分および製造プロセスを用いた厚板に、種々の溶接方法にて溶接した溶接継手に、超音波打撃処理(UIT処理)と脱水素処理を行った結果を表4に示す。
脱水素の評価は、前述の厚板の実施例と同様である。
【0014】
NO.11〜NO.15は、本発明例であり、表1に示す化学成分の厚板同士を種々の溶接方法にて溶接した継手表面を先端の直径が10〜30mmの超音波端子(ハンマー)で打撃した後、180〜220℃まで加熱して脱水素処理を行ったところ、本発明の条件を全て満足しているので、前述のディープノッチ試験の結果、切欠きの底部に水素性の破面は無く、脱水素は良好だった。
NO.16〜NO.20は、比較例であり、表1に示す化学成分の厚板同士を種々の溶接方法にて溶接し、本発明と異なる条件で脱水素処理を行う場合と、脱水素処理を行わない場合について、前述のディープノッチ試験を行った。
【0015】
NO.16は、ハンマーの直径が1mmと小さいうえ、脱水素のための加熱温度が100℃と低過ぎるので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素は不良だった。
NO.17は、水素熱処理温度が250℃と高く青熱脆化が起こったために、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素も不良だった。
NO.18は、UITプロセスでの処理温度が300℃と高いため、UITで内部応力を高めようとしても鋼板が軟化しており容易に塑性変形してしまい、加工が板厚内部まで伝達しないので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素も不良だった。
NO.19およびNO.20は、脱水素処理を行わなかったので、Kc値が低く、切欠きの底部に水素性の破面が認められたので、脱水素は不良だった。
なお、本実施例におけるUIT処理は、超音波振動端子で鋼板表面を打撃する方法としたが、直径1〜3mmの鋼球を鋼板表面に衝突させる超音波ショットピーニング処理に代えても効果は変わらない。
【0016】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼板の内部応力を増大させることによって、鋼板の板厚方向に分散した水素を表層部に誘導した後に加熱して、鋼板に内在する水素を十分に効率よく低減する鋼板の脱水素方法およびそれを用いた鋼板の製造方法を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
Claims (4)
- 鋼板中に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法であって、200℃以下の前記鋼板の表面を、先端の径が5mm以上の超音波振動端子で打撃することにより、該鋼板の表層部の内部応力を増大させた後に、該表層部を150〜220℃に加熱することを特徴とする、鋼板の脱水素方法。
- 鋼板中に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法であって、200℃以下の前記鋼板の表面に、超音波振動を付与した鋼球を衝突させる超音波ショットピーニング処理を行うことにより、該鋼板の表層部の内部応力を増大させた後に、該表層部を150〜220℃に加熱することを特徴とする、鋼板の脱水素方法。
- 200℃以下の前記鋼板の表層部を、誘導電流により加熱する誘導加熱装置を用いて加熱することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鋼板の脱水素方法。
- 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の鋼板の脱水素方法を用いることを特徴とする、鋼板の製造方法。
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