JP4032464B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インバータによって速度制御されるファンモータに使用される転がり軸受の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ファンモータ(以下、単にモータともいう)に組み込まれる転がり軸受(以下、単に軸受ともいう)は、外輪がハウジングに内輪がモータのロータ軸にそれぞれすきま嵌め又は締まり嵌めされて取り付けられる。締まり嵌めされるものはいうまでもないが、すきま嵌めの場合でも、軸受の剛性を高めて振動を防止するなどの目的で内輪または外輪の側面を間座等を介して押圧することにより軸受に予圧がかけられるために、外輪とブラケット、及び内輪とロータ軸とはそれぞれ電気的に導通状態になる。
【0003】
一方、ファンモータは、風量を制御するために回転数を可変できるインバータを介して速度制御される場合が増えてきている。その場合、インバータのキャリア周波数を高く設定することによってスイッチングによるモータ騒音を低減することができ、また半導体素子の性能向上,回路技術の向上によりキャリア周波数を高く設定することが可能となってきたこともあって、インバータのキャリア周波数は高く設定されるようになってきている。それに伴って、インバータ駆動されるモータに発生する軸電圧が増加し、ロータ軸とハウジング間ひいては軸受の内外輪間に電位差が生じることにより軸受内に転動体を経て電流が流れ、その結果、内外輪の軌道面もしくは転動体の転動面に電食を生じる可能性が増加してきている。
【0004】
従来、インバータで駆動されるファンモータに電食のおそれがあるときには、次のような対策がとられている。
▲1▼電気的ブラシを設置することが可能な場合は、ロータ軸に電気的ブラシを接触させてロータ軸とハウジングとを等電位に保ち、軸受の内外輪間に電流が流れることを防止する。
【0005】
▲2▼または、軸受に電気的導通性を付与したグリースを封入することにより、軸受の内外輪間を等電位に保ち電流が流れることを防止する。
▲3▼または、軸受に基油粘度の高いグリースを封入して、軸受外輪と転動体、及び軸受内輪と転動体との間に形成される油膜厚さを厚くすることにより、内外輪を電気的に絶縁させる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら従来の電食防止対策には、それぞれに以下のような問題点があった。
【0007】
電気的ブラシの設置については、モータのロータ軸の一端はハウジング内に収納されて電気的ブラシ設置のスペースが無く、またロータ軸の他端には合成樹脂などの絶縁物で形成されたファンが取り付けられるので、ロータ軸に電気的ブラシを接触させることが困難な場合が多く、実際問題としてファンモータに電気的ブラシを設置することは不可能なことが多い。また、たとえ電気的ブラシの設置が可能であったとしても、当該ブラシの摩耗粉がファンモータから排出されて空気中に塵埃として放出されるという不具合がある。このことは例えば電気的ブラシを設置したファンモータをクリーンルームに使用した場合には致命的な欠陥となってしまうため、実用に供することはできない。
【0008】
電気的導通性を付与したグリースの封入については、当該グリースはカーボン粒子のような電気良導体を含有させてあるために、軸受の回転騒音が通常のグリースに比べて大きくならざるを得ない。また、こうした高価な特殊グリースを使用すると軸受のコストアップになるという弊害もある。
【0009】
基油粘度の高いグリースの封入については、当該グリースの粘度に起因する軸受トルクの増大により温度上昇が引き起こされる不具合、及び軸受の内外輪間を通過する電流が周波数の高い交流であると、油膜厚さ程度の間隙では電流が導通してしまうおそれがあるという不具合がある。また、封入したグリースの経時劣化もしくは異物のグリース内侵入により油膜形成状態が変動し、そのため電気的に導通状態と絶縁状態とが交互に起きて電食が発生する可能性もあり、完全な対策とはなり得ない。
【0010】
更に他の電食防止対策として、軸受の外輪にプラスチックスやセラミックスからなる絶縁被膜を形成することも知られている。絶縁被膜がプラスチックスの場合、例えば組成としては、ガラス繊維を含有するPPS樹脂等があり、熱伝導率は約0.2 〜0.4 W/m・K程度に過ぎない。そのため、軸受の回転により発生する熱が逃げにくくて軸受の温度が上昇する。つまり、軸受の放熱性の更なる向上が望まれているという問題点がある。また、上記絶縁被膜がセラミックスの場合、溶射後、目標とする外径まで切削加工し、更に精度を上げるために研磨加工を行うことができるが、コストが樹脂被膜に比べて高くなる。
【0011】
そこで本発明発明は、このような従来の転がり軸受の電食防止対策の問題点に着目してなされたものであり、電気的ブラシの設置や特殊なグリースの封入等の手段に代えて軸受外輪の外周部を熱可塑性エラストマからなる絶縁被膜で被覆することにより、電食を防止するのみならずハウジングへの軸受の挿入性を改善し且つクリープ発生も防止できる転がり軸受を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、電気的ブラシの設置や特殊なグリースの封入等の手段に代えて、外輪の外周部及び端面の一方を覆うように、比抵抗が1×1013Ω・cm以上で、かつ熱伝導率が0.5w/m・k以上の合成樹脂組成物からなるリング状絶縁部材を圧入することにより、電食を防止しつつ放熱性を確保した転がり軸受を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するため、本発明の請求項1の発明は、外輪及び内輪と、当該外輪と内輪との間に介在する転動体とを少なくとも有する転がり軸受において、下記の5つの条件を満足することを特徴とする。
【0014】
条件A:前記外輪の外周部の全面に熱可塑性エラストマの層が形成されている。
条件B:前記熱可塑性エラストマの層は、硬さが60〜90[HD A ]であり、且つ厚さが0.5〜5mmである。
条件C:前記熱可塑性エラストマの層は、熱伝導率が10W/m・k以上で且つ比抵抗が1×10 4 Ω・cm以上の熱伝導性フィラーを含有する。
条件D:前記熱可塑性エラストマの層の外周面の全面にわたって凹凸が設けられている。
条件E:前記凹凸が、前記外輪の幅方向に連続するヘリンボン状の凹部、菱形状に連続する帯状の凹部、又は不規則に散在する不定形の突起により形成されている。
【0015】
また、本発明の請求項2の発明は、請求項1に記載の転がり軸受において、前記熱可塑性エラストマの層は、前記外周面の凹凸の高さ(深さ)が5〜100μmであることを特徴とする。
【0017】
本発明による転がり軸受は、外輪の外周部に形成された熱可塑性エラストマの層により、軸受外輪とハウジングとが電気的に絶縁される。そのため、インバータ駆動されるモータに軸電圧が生じても、軸受の内外輪間には電位差を生じることがない。したがって、軸受の内外輪間に電流が流れることがなくなり、内外輪の軌道面あるいは転動体の転動面の電食が防止される。
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマの層の硬さが60〜90[HDA ]であると、通常の金属の薄膜層やプラスチックス層に比べて軟らかく変形し易いため、ハウジングへの軸受の挿入が容易である。且つまた、軸受をハウジングへ圧入することにより前記熱可塑性エラストマの層がハウジング内で突っ張ってクリープ防止に有効に機能する。さらに、その熱可塑性エラストマの表面に凹凸があると、平らなものに比べてハウジングへの接触面積が小さくなるため、より変形し易くなってハウジングへの軸受挿入が一層容易になる。
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマの層に熱伝導性フィラーを添加すると、当該エラストマの層に蓄熱されずに、軸受からハウジングへと有効に放熱されるため、当該エラストマの熱劣化を抑制できる。
【0020】
また、上記の第2の目的を達成するため、本発明は、外輪及び内輪と、当該外輪と内輪との間に介在する転動体とを少なくとも有する転がり軸受において、前記外輪の外周部及び軸受両端面のうち少なくとも一方の端面を被うように、比抵抗(値)が1×1013Ω・cm以上で、且つ熱伝導率が0.5W/m・k以上の合成樹脂組成物からなるリング状絶縁部材を圧入した事を特徴とする。
【0021】
ここで、前記リング状絶縁部材は、前記合成樹脂組成物の強化に貢献する熱伝導率が10w/m・k未満で且つ比抵抗が1×103 Ω・cm以上の繊維材〔A〕と、飽和磁化が20emu/g以上で且つ比抵抗が1×103 Ω・cm以上の磁性充填材〔B〕とを含み、両者の合計〔A+B〕が30〜75重量%であるものとすることができる。
【0022】
また、磁性充填材〔B〕の含有量は20〜65重量%とすることができる。
また、磁性充填材〔B〕はフェライトとすることができる。
また、磁性充填材〔B〕はその少なくとも一部を熱伝導向上充填材で置き換えることができる。
【0023】
前記熱伝導向上充填材は、熱伝導率が10w/m・k以上で且つ比抵抗が1×103 Ω・cm以上の非磁性高熱伝導性充填材〔C〕とすることができる。
また、非磁性高熱伝導性充填材〔C〕は無機化合物の粉体,繊維及びウィスカーのいずれかから選定したものとすることができる。
【0024】
一般に、樹脂や、ガラス繊維のような繊維材は熱伝導率が小さいため、この両者のみを混合した樹脂組成物から形成される絶縁被膜の熱伝導率も小さい。また、ガラス繊維のような繊維材はそれ自体に磁性を持っていないため、繊維同士が樹脂中で磁気的に吸引しあってつながることはしない。したがってガラス繊維を互いに接触させて熱伝導率を上げようとすると、かなり多量に樹脂中に混入しなければならず、それによって成形性やウエルド強度等の機械的強度が著しく低下し、軸受に使用するのに必要とされる以上の性能を有する絶縁被膜(リング状絶縁部材)を形成できなくなる。
【0025】
そこで第2の目的を達成する本発明にあっては、磁性粒子(飽和磁化20emu/g以上、且つ比抵抗1×103 Ω・cm以上)からなる絶縁性の充填材を別途に樹脂に添加する。添加した磁性充填材の磁性粒子同士が樹脂中で互いに吸引し合って接触し易く、それによってリング状絶縁部材の熱伝導率を上げて放熱特性を向上させる。かくして耐クリープ強度と共に耐熱性,絶縁性,放熱性にも優れた絶縁被膜が得られる。
【0026】
また、本発明にあっては、上記の強化繊維材〔A〕と磁性充填材〔B〕の少なくとも一部を、熱伝導率が10w/m・k以上で且つ比抵抗が1×103 Ω・cm以上の非磁性高熱伝導性充填材〔C〕で置き換えてもよい。この非磁性高熱伝導性充填材〔C〕は熱伝導向上充填材として添加するもので、繊維状あるいはウィスカー状であればガラス繊維などの強化材と同じように使用でき、樹脂自体の強度を低下させることなく熱伝導性を向上できてより一層効果的である。
【0027】
以下、本発明の詳細について説明する。
第1の目的を達成する本発明の転がり軸受に使用できる熱可塑性エラストマとしては、ポリエステル系エラストマ,ポリアミド系エラストマ,ポリウレタン系エラストマ,ポリオレフィン系エラストマ,ニトリル系エラストマ,アクリル系エラストマ,スチレン系エラストマ,その他動的架橋タイプのエラストマなどがある。耐熱性の面を考慮すると、なかでもポリエステル系エラストマが好適である。
【0028】
これらの熱可塑性エラストマ材料の具体例を挙げると、オレフィン系には「ミラストマ」〔三井石油化学工業(株)製、登録商標〕を、ポリエステル系には例えば「ペルプレン」〔東洋紡績(株)製、登録商標〕及び「ハイトレル」〔東レ・デュポン(株)製、登録商標〕を、ポリアミド系には「ペバックス」〔東レ(株)製、登録商標〕及び「UBEポリアミドエラストマ」〔宇部興産(株)製〕を、ポリウレタン系には「エラストラン」〔武田バーディッシュウレタン工業(株)製、登録商標〕を、ニトリル系,アクリル系には「ミラプレーン」〔三菱化成MKV(株)製〕を、その他特殊なものとして動的架橋タイプである「santoprene」〔エーイーエスジャパン(株)、登録商標〕を例示することができる。
【0029】
熱可塑性エラストマの硬度としては60〜90[HDA ](デュロメータAスケール硬さ)が好適であり、より好ましくは70〜85[HDA ]である。60[HDA ]未満では、軟らかすぎるために変形能力が大きく、軸受をハウジングに圧入するとき熱可塑性エラストマの層が潰れて軸受外輪本体の端面から出っ張ってしまうおそれがあり、ラジアル荷重に対する剛性が劣化する。一方、硬度が90[HDA ]を越えると、変形能力が小さくなってハウジングへの挿入性や耐クリープ性が低下する。
【0030】
熱可塑性エラストマ層の厚さとしては、0.5〜5mm程度あれば、絶縁性及びクリープ防止には十分である。0.5mm未満では層(被膜)としての強度が低下する。一方、厚さ5mmを越える場合は使用する材料の量が増えてコストアップにつながる。
【0031】
熱可塑性エラストマ層の凹凸部の高さ(深さ)は、成形時の離型及び変形性やクリープ防止性を考慮すると5〜100μmが好適であり、より好ましくは10〜50μmである。5μm未満では変形性・クリープ防止性に十分な寄与は求められなくなり、一方、100μmを越えると金型からの離型性が悪くなり生産性が低下する。
【0032】
熱可塑性エラストマの層と外輪本体との接合は、熱可塑性エラストマ部分を別途に射出成形により成形し、それを変形させて外輪に嵌め込んでもよいし、或いは外輪本体の外周部もしくは端面部に脱落防止用の溝(好ましくはアリ溝)を設け、軸受本体をコアにしてインサート成形する方法で行ってもよい。
【0033】
また、その接合をより強固に行うために、熱可塑性エラストマの層と外輪本体の外周部もしくは端面部との間に接着剤を介在させても良い。接着剤としては、エポキシ系などの弾性接着剤が、外輪本体と熱可塑性エラストマ間の線膨張の違いを相殺するのに好適である。
【0034】
更に、熱可塑性エラストマの熱伝導性の向上を目的として、熱伝導率で10w/m・k以上で且つ比抵抗が1×104 Ω・cm以上の熱伝導性フィラーを当該エアストマに添加しても良い。これにより、軸受の運転で発生する熱が熱可塑性エラストマの層に蓄熱されずに有効に軸受からハウジングへ放熱されて、熱可塑性エラストマの熱劣化を抑制することができる。熱伝導性フィラーの添加量としては10〜50重量%程度がよく、熱可塑性エラストマの層の熱伝導率が0.5w/m・k以上で且つ比抵抗が1×1013Ω・cm以上になるように、種々のフィラーを組み合わせて使用される。熱伝導性フィラーの添加量が10重量%未満では熱伝導率の向上があまり望めない。一方、その添加量が50重量%を越えると熱可塑性エラストマの層の成形性が低下する。
【0035】
この熱伝導性フィラーの具体例としては、SiCウィスカ,Al2 O3 (ウィスカ,繊維,粒子状等),AlN(粒子状),MgO(粒子状),BeO(粒子状)等を挙げることができる。
【0036】
また、本発明の熱可塑性エラストマの層の強度を向上させる目的で、ガラス繊維などの強化繊維を添加しても良い。その場合の強化繊維の添加量は、前記熱伝導性フィラーとの合計で30〜65重量%とする。その合計添加量が30重量%未満では、一定レベル以上の強度と熱伝導性とのバランスのとれたものが得られない。一方、合計添加量が65重量%を越えると成形性が低下する。
【0037】
続いて、更に第2の目的を達成する本発明を詳細に説明する。
本発明のリング状絶縁部材の形成に使用する樹脂材料としては、PPS樹脂や芳香族ナイロン(芳香族ポリアミド樹脂)や脂肪族ポリアミド樹脂の4.6ナイロンなどを好適に用いることができる。PPS樹脂は吸水性が低く、また成形性が良好であることから、低吸水性で寸法安定性に優れたリング状絶縁部材を射出成形により低コストで形成することができる。また、芳香族ナイロンは高融点,高強度を有し、軸受の高速回転時には絶縁部材温度が120℃にも達する高温で絶縁性能を維持できて好ましい。一方、4.6ナイロン等の脂肪族ポリアミド樹脂も良好な電気絶縁性を有し、リング状絶縁部材に適する。
【0038】
但し、上記樹脂は、単味では、電食防止転がり軸受用の絶縁部材に要求される複数の機能を同時に満たすことはできず、次に述べる添加材料と併用する。
その樹脂材料の強化に用いる本発明の繊維材〔A〕は、主としてマトリックス樹脂の耐クリープ性を向上させ尚且つリング状絶縁部材の電気絶縁性を維持するために用いられるものであり、電気絶縁性については高い方がよいが比抵抗値で1×103 Ω・cm以上好ましくは1×104 Ω・cm以上が良い。熱伝導性についても高い程好ましい。具体的な好適例としては、グラスファイバ(GF)繊維あるいは6チタン酸カリウムや8チタン酸カリウムなどのチタン酸カリウムウィスカー,ホウ酸アルミニウムウィスカー,炭酸カルシウムウィスカー(アルゴナイト),塩基性硫酸マグネシウムウィスカー等が有効であるが、その他アラミド繊維などを用いることもできる。表1にこれらの比抵抗値を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
これらの主として耐クリープ性向上のための繊維材〔A〕の添加量は、混合物全体の10〜55重量%であり、好ましくは20〜40重量%である。55重量%を越えると成形性が悪くなり、10重量%未満では耐クリープ性が悪くなる。
【0041】
本発明の磁性充填材〔B〕は、リング状絶縁部材の電気絶縁性の維持と伝熱性の向上とを同時に満たすために用いられ、その熱伝導率は高い程好ましいが、少なくともガラス繊維と同程度の5〜10W/m・Kであれば良い。一方、電気絶縁性についても高い方がよいが、比抵抗値で1×103 Ω・cm以上、より好ましくは1×104 Ω・cm以上であれば使用上問題はない。さらに、飽和磁化については、20emu/g以上、より好ましくは50emu/g以上が磁気吸引力が大きくなるので好適である。20emu/g未満では磁気吸引力が小さすぎて所期の伝熱性の向上が得られない。
【0042】
このような条件を満たし得る磁性充填材は、例えばMgFe2 04 (マグネシウムフェライト),MnFe2 O4 (マンガンフェライト),Fe3 O4 (マグネタイト),CoFe2 O4 (コバルトフェライト),NiFe2 O4 (ニッケルフェライト),CuFe2 O4 (銅フェライト),γ−Fe2 O3 (マグヘマイト)などの粒状粉体から選定される。表2にこれらの充填材物質の飽和磁化と比抵抗を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
磁性充填材〔B〕の添加量は、リング状絶縁部材を形成する合成樹脂組成物全体の20〜65重量%であり、好ましくは25〜55重量%の範囲で選定される。65重量%を越えると耐クリープ性,成形性を満たすことが困難となり、一方、20重量%未満では伝熱性の向上が期待できず、そのため本願発明の電気絶縁性,伝熱性,耐クリープ性の3拍子そろった向上という効果が期待できなくなる。
【0045】
更に、本発明の非磁性高熱伝導性充填材〔C〕は、磁性充填材[B]と同様に、リング状絶縁部材の伝熱性の向上と電気絶縁性の維持とを同時に満たすために用いられるが、その熱伝導率は、磁性充填材[B]のように粒子同士が磁気吸引力によって積極的につながろうとはしないので、粒子個々により高い熱伝導性が必要になる。具体的には10W/m・K以上さらに好ましくは20W/m・K以上が必要である。一方、電気絶縁性についても高い方がよいが、比抵抗値で1×103 Ω・cm以上、より好ましくは1×104 Ω・cm以上であれば使用上問題ない。
【0046】
このような条件を満たし得る非磁性高熱伝導性充填材〔C〕は、例えば、SiC(炭化 ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、BeO(ベリリア)、BN(窒化ホウ素)、Al2 O3 (アルミナ)、MgO(マグネシア)などの粉体、繊維またはウィスカー等から選定される。表3に、これらの充填材物質の熱伝導率と比抵抗をCu(銅)、ガラス繊維(Eガラス)と比較して示す。
【0047】
【表3】
【0048】
なお、表3に示されるもののうち、SiC,Al2 O3 は繊維及びウィスカー(記号〔C−1〕で示す)もあるが、それ以外は粒状(記号〔C−2〕で示す)のみである。よって、耐クリープ性が更に要求される場合には、ガラス繊維(GF)を用いずにSiC,Al2 O3 のウィスカー又は繊維〔C−1〕を使用すれば耐クリープ性が更に向上し、加えて伝熱性の向上も得られる。
【0049】
この非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕は、少なくとも一部を磁性充填材〔B〕の代わりに使用することができる。その場合の添加量は、両者混合(〔B+C−1〕)の場合で合成樹脂組成物全体の30〜75重量%、前者のみ単独(〔C−1〕)の場合で、20〜75重量%であり、好ましくは25〜50重量%の範囲で選定される。75重量%を越えると成形性を満たすことが困難となる。一方、20重量%未満ではリング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。したがって、耐クリープ性,伝熱性の向上が期待できず、そのため本願発明のリング状絶縁部材の電気絶縁性,伝熱性,耐クリープ性の3拍子そろった向上という効果が期待できなくなる。なお、コスト的には、磁性充填材〔B〕の方が非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕に比べて安価なため、非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕単独で用いるよりも磁性充填材〔B〕のみ或いは両者混合〔B+C−1〕で使用する方が有利である。
【0050】
以上述べた上記第2の目的を達成する本発明の合成樹脂組成物への各種充填材の単独での充填量をまとめると表−4のようになる。
【0051】
【表4】
【0052】
但し、次に述べるように、〔C−1〕と組合せると〔A〕の充填量は0〜40重量%、同じく〔B〕の充填量は0〜55重量%となる。
【0053】
これらの各種充填材は組み合わせて使用することも可能である。
その場合に考えられる合成樹脂組成物のマトリッスス中での充填材の組合せ方と充填比率は、次の5通りとなる。
【0054】
▲1▼ A+B 45〜75wt%
▲2▼ A+C−2 45〜75wt%
▲3▼ B+C−1 30〜75wt%
▲4▼ A+C−1 45〜75wt%
▲5▼ A+B+C 45〜75wt%
何れも、下限値未満の充填量ではリング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。一方、上限値を超えると成形性が低下する。
【0055】
それぞれの組合せにおける臨界的意義を、以下に述べる。
(1) 繊維材〔A〕と磁性充填材〔B〕との組合わせ:
表5に、充填材〔A+B〕の場合について、当該充填材の添加比率の違いによるリング状絶縁部材の熱伝導率と比抵抗の測定結果を示す。但し、繊維材〔A〕(ガラス繊維)は20重量%に固定し、磁性充填材〔B〕(MnFe2 O4 )の添加量を変化させた。
【0056】
【表5】
【0057】
図1は、表5をグラフにしたものである。この図から明らかなように、合計添加量〔A+B〕は、45〜75重量%の範囲が好ましい。75重量%を越えるとリング状絶縁部材の比抵抗が1×1013Ω・cm未満になってしまう。また、マトリックス樹脂が不足して成形時の流動性低下をまねき、その結果、形成されたリング状絶縁部材の表面粗さが悪くなると共にウエルド強度が低下する。一方、45重量%未満では、繊維材〔A〕,磁性充填材〔B〕が共に必要最低量が確保できず、伝熱性,耐クリープ性の両立が困難になり、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。更に、高い伝熱性,耐クリープ性を確保するためには、合計添加量〔A+B〕が50〜75重量%の範囲にあると、より好適である。
【0058】
なお、このような繊維材〔A〕,磁性充填材〔B〕を含有する樹脂組成物にあっては、必要に応じて離型剤や、強度向上を目的としてシランカップリング剤等のカップリング剤を添加しても良い。あるいは、カップリング剤などで処理した繊維材又は充填材を使用してもよい。
(2) 繊維材〔A〕と粒状非磁性高熱伝導性充填材〔C−2〕との組合せ:
表6に、充填材〔A+C−2〕の場合について、当該充填材の添加比率の違いによるリング状絶縁部材の熱伝導率と比抵抗の測定結果を示す。但し、繊維材〔A〕(ガラス繊維)は20重量%に固定し、粒状非磁性高熱伝導性充填材〔C−2〕(Al2 O3 )の添加量を変化させた。
【0059】
【表6】
【0060】
図2は、表6をグラフにしたものである。この図から明らかなように、合計添加量〔A+C−2〕は、45〜75重量%の範囲が好ましい。75重量%を越えると、比抵抗はなお高いがマトリックス樹脂が不足して成形性が低下する。一方、45重量%未満では、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。
(3) 磁性充填材〔B〕と繊維またはウィスカ状非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕との組合せ:
表7に、充填材〔B+C−1〕の場合について、当該充填材の添加比率の違いによるリング状絶縁部材の熱伝導率と比抵抗の測定結果を示す。但し、磁性充填材〔B〕(MnFe2 O4 )は20重量%に固定し、非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕(Al2 O3 繊維)の添加量を変化させた。
【0061】
【表7】
【0062】
図3は、表7をグラフにしたものである。この図から明らかなように、合計添加量〔B+C−1〕は、30〜75重量%の範囲が好ましい。75重量%を越えると、比抵抗はなお高いがマトリックス樹脂が不足して成形性が低下する。一方、30重量%未満では、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。
【0063】
なお、表8に、上記繊維またはウィスカ状非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕単独の場合について、当該充填材〔C−1〕(Siウィスカ使用)の添加比率の違いによるリング状絶縁部材の熱伝導率と比抵抗の測定結果を示す。
【0064】
【表8】
【0065】
図4は、表8をグラフにしたものである。この図から明らかなように、〔C−1〕充填材単独の添加量は、20〜75重量%の範囲が好ましい。75重量%を越えると、比抵抗はなお高いがマトリックス樹脂が不足して成形性が低下する。一方、20重量%未満では、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならず、伝熱性,耐クリープ性の両立が困難である。
(4) 繊維材〔A〕と繊維またはウィスカ状非磁性高熱伝導性充填材〔C−1〕との組合せ:
充填材〔A+C−1〕の場合について、当該充填材の添加比率の違いによるリング状絶縁部材の熱伝導率と比抵抗の変化を上記同様に測定した結果、図示しないが合計添加量〔A+C−1〕は、45〜75重量%の範囲が好ましいことが判った。75重量%を越えると、比抵抗はなお高いがマトリックス樹脂が不足して成形性が低下する。一方、45重量%未満では、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならない。
(5) 繊維材〔A〕と磁性充填材〔B〕と非磁性高熱伝導性充填材〔C〕との組合せ:
繊維材〔A〕と磁性充填材〔B〕と非磁性高熱伝導性充填材〔C〕との合計添加量〔A+B+C〕は、45〜75重量%が好ましい。75重量%を越えるとマトリックス樹脂が不足して成形時の流動性低下をまねき、その結果、成形されたリング状絶縁部材の表面粗さが悪くなると共にウエルド強度が低下する。一方、45重量%未満では、リング状絶縁部材の熱伝導性が0.5w/m・k以上にならないばかりか、繊維材〔A〕,磁性充填材〔B〕,非磁性高熱伝導性充填材〔C〕の各必要最低量が確保できないために、伝熱性,耐クリープ性の両立が困難になる。更に、高い伝熱性,耐クリープ性を確保するためには、合計添加量〔A+B+C〕が50〜75重量%の範囲にあるとより好適である。
【0066】
上記三者の合計添加量〔A+B+C〕の内訳は、次のような電食を防止する転がり軸受のリング状絶縁部材として必要な物性が得られるように、それぞれ決められる。
【0067】
熱伝導率 :0.5w/m・k以上
比抵抗 :1×1013Ω・cm以上
ウエルド強度 :70MPa以上
【0068】
アイゾット衝撃強度:2kJ /m2 以上、より好ましくは落下時の強度向上のため5kJ /m2 以上とする。これにより電食防止転がり軸受自体の取扱いがより容易になる。すなわち、ウエルド強度70MPa以上、アイゾット衝撃強度2kJ /m2 以上であれば軸受をハウジングに挿入する際の絶縁被膜の損傷を防止できる。
【0069】
【0070】
【発明の実施の形態】
以下、第1の目的を達成する本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図5に示すものは、本発明の転がり軸受の第1の実施形態の半断面図で、ファンモータのロータ軸に嵌着される内輪1、ハウジングに嵌着される外輪2、内輪1と外輪2との間に介在する転動体のボール3、そのボール3を保持する保持器4を備えた深溝玉軸受に本発明を適用したものである。外輪2の外周面2g及び両側面2s,2sからなる外輪外周部は、その略全面が熱可塑性エラストマの被膜状の層5で被覆されている。
【0071】
この実施形態の熱可塑性エラストマの層5は薄い個所での厚さtが1.5mmであり、その外周面5gに、図6に拡大して示すような断面半円形で高さhが50μm程の凸部7が円周方向に環状に連続して多数列形成されている。また、熱可塑性エラストマの層5の内周面5n及び内側面には、断面四角形の突起8が円周方向に連続して環状にそれぞれ形成されている。これらの突起8は、外輪2の外周面2g及び両側面2S,2Sに予め形成されている断面四角形で円周方向に連続して環状に形成されている凹溝9に対応させてあり、当該突起8が凹溝9に嵌合して脱落を防止する構造になっている。
【0072】
前記熱可塑性エラストマの層5は、例えばポリエステル系エラストマであるペルプレン(登録商標),P−30B」を採用し、所定の金型を用いて射出成形されている。その性状は、硬さ:71[HDA ],熱伝導率:0.22w/m・k,比抵抗:1×1012Ω・cmである。これを、外輪2に取り付けるに際しては、当該外輪2の外周部に、予め、室温硬化型のエポキシ系弾性接着剤「EP−001」を塗布しておき、前記射出成形された熱可塑性エラストマの層5を変形させてその外輪2の外周部に嵌め込み、完全に接着するまで放置するという方法をとった。
【0073】
いま、上記の深溝玉軸受を、例えば図7に示すようにファンモータに固定側軸受として組み込んで使用する場合に、内輪1をファンモータのロータ軸Jに締まり嵌めで嵌着し、外輪2の方はハウジングHに嵌着し間座Kを介して予圧を付与するものとする。このとき、外輪2はその外周部に取り付けてある熱可塑性エラストマの層5を介してハウジングHの内面に挿入される。かくしてファンモータに装着された本実施形態の転がり軸受は、外輪2の外周部に形成された熱可塑性エラストマの層5により、軸受外輪2の外周面5gとハウジングHとが電気的に絶縁される。且つまた、軸受外輪2の一方の外側面2sとの間及び他方の外側面2sと同じくハウジングを構成する間座Kとの間も介在する熱可塑性エラストマの層5により電気的に絶縁される。したがってインバータ駆動されるファンモータに軸電圧が生じても、軸受の内輪1外輪2間には電位差を生じることがない。すなわち、軸受の内外輪間に電流が流れることがなくなり、内輪1外輪2の各軌道面あるいはボール3の転動面の電食が防止される。
【0074】
しかして、熱可塑性エラストマの層5は、硬さが71[HDA ]と従来のプラスチックスやセラミックスにより形成された絶縁被膜に比べて材質的に柔らかく変形し易いうえに、外周面5gが凸部7で凹凸状になっていてハウジングHとの接触面積が小さいことから形状的にも変形し易くされているため、ハウジングH内への挿入が容易に行われる。しかも、ハウジングH内に圧入された熱可塑性エラストマの層5は、今度は突っ張って変形に対して抵抗する。すなわち、本実施形態によれば、軸受の挿入性を損なわずにしかもクリープ発生も防止できるという効果を奏する。
【0075】
図8,図9に、本発明の転がり軸受の第2の実施形態を示す。
この実施形態では、軸受の外輪2の外周部を被覆している熱可塑性エラストマの被膜状の層5の材質及び外周面5gの表面構造が上記第1の実施形態とは異なっている。すなわち、本実施形態例の熱可塑性エラストマの層5の材質は、ポリアミド系エラストマ(詳しくはポリアミド・ポリエーテル系)である「ペバックス,登録商標、2533SA**」(東レ(株)製)硬さ75[HDA ]である。その性状は、硬さ:75[HDA ],熱伝導率:0.26w/m・k,比抵抗:1014〜1015Ω・cmである。成形方法及び外輪2の外周部への接合方法は上記第1の実施形態例の場合と同じである。また、本実施形態例の熱可塑性エラストマの層5の外周面5gの表面構造については、図9に示すように、断面半円状の凸部7の代わりに、断面台形状で周方向に深さh1 が30μm程の凹部11が円周方向に環状に連続して多数列形成されている。
【0076】
その他の構成及び作用効果は、第1の実施形態と同様である。
図10,図11に、本発明の転がり軸受の第3の実施形態を示す。
この実施形態は、軸受の外輪2の外周部を被覆している熱可塑性エラストマの被膜状の層5の材質,外輪外周部への取付け構造及び層の外周面5gの表面構造が上記第1,第2の各実施形態とは異なっている。すなわち、本実施形態例の熱可塑性エラストマの層5の材質は、第1の実施形態例の場合と同じポリエステル系エラストマである「ペルプレン(登録商標),P−30B」に、補強材(熱伝導性フィラー)のSiCウィスカを40重量%添加したものである。また、外輪外周部への取付けについては、図10に示すように、外輪2の外周面2gと両側面2sとに断面台形状の溝(アリ溝)12を円周方向に連続して予め形成し、この外輪2をコアとして金型に装着して熱可塑性エラストマの層5をインサート成形することにより、熱可塑性エラストマの層5の内周面5nと内側面5sとの前記アリ溝12に対応する個所を突起13としてアリ溝12内に嵌入させ、熱可塑性エラストマの層5の脱落を防止する構造になっている。突起13を除いた熱可塑性エラストマの層5の厚さtは1.0mmである。
【0077】
熱可塑性エラストマの層5の外周面5gの表面には、図11に示すように、外輪2の幅方向に連続する杉綾模様状(ヘリンボン状)の深さ50μmの凹部14が形成されている。この熱可塑性エラストマの層5の性状は、硬さ:75[HDA ],熱伝導率:0.6w/m・k,比抵抗:1×1015Ω・cmである。
【0078】
その他の構成及び作用効果は、第1の実施形態と同様である。
続いて、本発明の転がり軸受の第4の実施形態(図12)を説明する。
この実施形態における熱可塑性エラストマの被膜状の層5の材質は、ポリエステル系エラストマである「ペルプレン(登録商標),P−30B」に、熱伝導性フィラーとしてAlN粉末を30重量%及び補強材としてガラス繊維(シランカップリング剤処理したもの)20重量%を含有させたものを用いている。
【0079】
この実施形態例の熱可塑性エラストマの層5の外輪外周部への取付け構造は、上記図10に示したものと同じである。
熱可塑性エラストマの層5の外周面5gの表面には、図12に示すように、菱型模様とした深さ50μmの帯状の凹部16が点在している。この熱可塑性エラストマの層5の性状は、硬さ:77[HDA ],熱伝導率:0.62w/m・k,比抵抗:9×1014Ω・cmである。
【0080】
その他の構成及び作用効果は、第1の実施形態と同様である。
図13に、本発明の転がり軸受の第5の実施形態を示す。
この実施形態は、例えば転がり軸受の外輪2の一側面2sをバネで押圧して予圧するなどのように、外輪2の外周部としての外周面と一端側とがハウジングに対し電気的導通状態となるような使用態様の場合に好適に利用できるものである。すなわち、熱可塑性エラストマの層5は、外輪2の外周面2gを被覆する部分5Aとこれに直交して外輪2の一側面2sを被覆する部分5Bとからなる断面ほぼL形とされている。この熱可塑性エラストマの層5により、転がり軸受(図示のものは、シール17を有する密閉型軸受)の外輪2の外周面2g及び一方の側面2sが被覆されている。被覆する側面2sは、熱可塑性エラストマの層5が無い場合にハウジングと導通する側である。
【0081】
なお、この実施形態の熱可塑性エラストマの層5の外周面には、図5,図6に示すものと同様の断面半円形の凸部7が、円周方向に環状に連続して多数形成されている。
【0082】
予め所定の金型を用いて断面L形に射出成形された熱可塑性エラストマの層5は、その内周面5nの被覆しない方の側面2sに近い個所に、円周方向に連続した断面四角形の突起8を備えている。一方、外輪2の外周面2gには、前記突起8に対応する位置に、円周方向に連続した断面四角形の凹溝9が予め形成してある。
【0083】
熱可塑性エラストマの層5の装着は、第1の実施形態におけると同様に、外輪2の被覆面に予め弾性接着剤を塗布し、熱可塑性エラストマの層5の前記突起8を外輪の前記凹溝9に嵌合させるようにして熱可塑性エラストマの層5を貼り付ける方法で行う。
【0084】
ファンモータに装着された本実施形態の転がり軸受は、断面L形の熱可塑性エラストマの層5のうちの外輪2の外周面2gを被覆する部分5Aにより、ハウジングHと電気的に絶縁されると共に、外輪の一側面2sを被覆する部分5Bにより予圧用の部材とも電気的に絶縁される。かくして、インバータ駆動されるファンモータに軸電圧が生じても、軸受の内輪外輪間には電位差がなくしたがって軸電流が流れないから、内輪外輪の軌道面やボール3の転動面の電食が防止される。
【0085】
その他の構成及び作用効果は、第1の実施形態とほぼ同様である。
図14に、本発明の転がり軸受の第6の実施形態を示す。
この実施形態は、転がり軸受の外輪2の両側面2s,2sがハウジングに接触せず電気的に非導通である使用態様の場合に好適に利用できるものである。すなわち、転がり軸受の外周部である外輪2の外周面2gに、円周方向に環状に連続した三列の凹溝18,18,18が平行に形成されており、各凹溝18に断面長方形の環状の熱可塑性エラストマの層(帯)5が下半部を嵌め込んで接着されている。その熱可塑性エラストマの層5の外周面には、図5,図6に示すものと同様の断面半円形の凸部7が、円周方向に環状に連続して多数形成されている。
【0086】
本実施形態の転がり軸受をファンモータに装着した場合、外輪2の外周面2gに取り付けた帯状の熱可塑性エラストマの層5によりハウジングと電気的に絶縁され、一方、軸受外輪2の両側面2s,2sとハウジングとはもともと非接触非導通であるから、上記各実施形態例の場合と同じく内輪外輪の軌道面やボール3の転動面の電食を効果的に防止することができる。
【0087】
なお、本発明において熱可塑性エラストマの層5の外周面5gに形成される凹凸のパターンは上記各実施形態例のものに限らず、その他種々のものが可能である。図15,図16はその他のパターン例を示したもので、図15のものはヘリンボン状の凹部20が外輪の円周方向に連続しているパターン、図16のものは不定形の突起21が不規則に多数散在しているパターンである。
【0088】
また、上記各実施形態では深溝玉軸受の場合を例にして説明したが、本発明はこれに限らず、アンギュラ玉軸受やころ軸受等のその他の転がり軸受にも同様に適用することができる。
【0089】
続いて、第2の目的を達成する本発明の実施の形態(第7の実施形態)を説明する。
図17の転がり軸受Aには、その外輪2の外周面2gと片側の端面2sを被うようにしてリング状絶縁部材30が圧入されている。内輪1の方はそのままになっている。3はボール、4は保持器である。リング状絶縁部材30の角部には、ハウジングへの当該転がり軸受Aの挿入性が良くなるように、円周に面取り30aが施されている。リング状絶縁部材30は、その材料として例えばPPS樹脂40重量%(以下、wt%とも記述する)と、強化繊維剤〔A〕であるガラス繊維35重量%と、磁性充填材〔B〕であるマンガンフェライト(MnFe204 )25重量%とからなる樹脂組成物を用いて、射出成形により製作した。
【0090】
すなわち、先ず、予め各材料組成を、ブレンダやヘンシェルミキサ等により混合して二軸押出機等の押出機に供給し、押出機から材料ペレットを得た。次に、金型中に前記ペレットを溶融した材料を射出して所定の時間冷却することにより、厚さ1.0mmのリング状絶縁部材30を得た。その後、当該リング状絶縁部材30を外輪2に圧入した。その際、必要に応じてリング状絶縁部材30を加熱して膨張させてから圧入した。
【0091】
図18は、上記図17に示した第2の目的を達成する本発明の転がり軸受Aを、2個一対でファン駆動用電動モータ40内に取り付けた状態を示す断面図である。両転がり軸受Aの外輪2は、それぞれモータハウジング41の両端部に形成した保持段部42或いは保持凹部43の内側に、リング状絶縁部材30を介して嵌めこまれている。なお、41aはハウジング本体、41bはハウジング前蓋、41cはハウジング後蓋である。また、44はモータ回転軸、45はロータ、46はステータである。そして、リング状絶縁部材30の大鍔部30bを上記保持段部42或いは保持凹部43の奥面に対向させた状態で固定されている。前記大鍔部30bは、軸受外輪2の一端面2sと保持段部42或いは保持凹部43の奥面とに挟持されて、これら両面が当接するのを阻止する。また、各リング状絶縁部材30の円筒部30cは、外輪2の外周面2gと、保持段部42或いは保持凹部43の内周面との間に挟持されて、これら両周面同志が当接するのを阻止する。なお、外輪2の他方の端面2sは空気中にさらされた状態になっており、特にリング状絶縁部材30で被う必要がない。
【0092】
このように、第2の目的を達成する本発明の転がり軸受をモータ中に組み込むことによって、インバータからステータ46に印加される高周波電流に基づいてモータ回転軸44に軸電圧が惹起されても、この回転軸44とモータハウジング41との間に電流が流れることを抑えることができる。すなわち、上記回転軸44を支持する転がり軸受Aの外輪2と、これらの外輪2を保持している部材であるモータハウジング41との取付け箇所が絶縁されているので、上記回転軸44の電位がモータハウジング41の電位より高くなっても、これら外輪2を組み込んでなる各転がり軸受Aに電流が流れることがなくなる。従って、これら各転がり軸受Aに電食が発生することがない。
【0093】
(実施例)
以下、第2の目的を達成する本発明の実施例と比較例とに付いて実施した比較試験について説明する。
【0094】
図17に示したリング状絶縁部材30を有する転がり軸受において、そのリング状絶縁部材30の樹脂組成物の材料組成を種々に変えたものを被試験体として用いた。
【0095】
表9に、リング状絶縁部材30の各実施例1−1〜15−2及び比較例1の成分組成を示す。
【0096】
【表9】
【0097】
また、表9に示す樹脂,繊維材〔A〕,磁性充填材〔B〕,非磁性高熱伝導性充填材〔C〕の具体的な商品名(登録商標にはR を付す),メーカを下記に記す。
【0098】
樹脂:
PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂);呉羽化学工業(株)「フォートロンKPS」。
【0099】
芳香族PA(芳香族ポリアミド樹脂);三井石油化学「アーレンR 」。
【0100】
強化繊維材〔A〕:
ガラス繊維;日東紡績(株)「CS3J−273」(シランカップリング剤処理ガラスチョップドストランド)。
【0101】
6チタン酸カリウムウィスカー;大塚化学(株)「ティスモ−D」。
【0102】
ホウ酸アルミニウムウィスカー;四国化成工業(株)「アルボレックスYS3」(シランカップリング剤処理済)。
【0103】
炭酸カルシウムウィスカー;丸尾カルシウム(株)「ウィスカルA」。
【0104】
磁性充填材〔B〕:
MnFe2O4 ;(株)高純度化学研究所。
【0105】
CoFe2O4 ;(株)高純度化学研究所。
NiFe2O4 ;(株)高純度化学研究所。
【0106】
非磁性高熱伝導性充填材〔C〕:
SiCウィスカー;出光マテリアル(株),Mグレード。
【0107】
AlN ;出光マテリアル(株),AGSD−100。
【0108】
BN(h−BN);出光マテリアル(株),Fグレード。
【0109】
Al2O3 ;日本アエロジル(株),Aluminium Oxide C。
【0110】
Al2O3 繊維 ;ニチアス(株) ,ルビールR バルクファイバーT/5470−RS。
MgO ;協和化学工業(株) ,パイロキスマ5301K。
それらの絶縁被膜に関して以下の特性評価を実施した。
【0111】
▲1▼熱伝導率と比抵抗の測定:
表9の実施例1−1〜15−2および比較例1に示す樹脂組成物について、レーザフラッシュ法で20℃における熱伝導率(W/m・K)及び比抵抗(Ω・cm)の測定を行った。その結果を表5に示す。
【0112】
【表10】
【0113】
実施例1−1〜15−2は熱伝導率が比較例1に比べて大きく、いずれも0.5w/m・k以上と、通常のプラスチック材料(0.2 〜0.4 w/m ・k )よりも良好な伝熱性を示している。特に、ガラス繊維を用いずにSiCウィスカー又はAl2 O3 繊維を使用した実施例11−1〜12−2において、顕著な熱伝導率が得られている。
【0114】
また、各実施例1−1〜15−2の比抵抗は比較例1よりも小さくなっているが、いずれも1×1013Ω・cm以上を有しており、十分な電気絶縁性を備えていることがわかる。
【0115】
▲2▼ウエルド強度,アイゾット衝撃強度の測定:
表9の実施例1−1〜15−2および比較例1の組成を有する樹脂組成物について所定の試験片を成形し、23℃でウエルド強度及びアイゾット衝撃強度の測定を行った。すなわちウエルド強度は、金型キャビティの両端から絶縁被膜樹脂組成物を注入させてその樹脂組成物の会合部(ウエルド部)を中央に持つJIS1号試験片(t=3mm)を成形し、これを用いて引張り速度5mm/minで測定した。また、アイゾット衝撃強度は、ノッチ付試験片で測定した。
【0116】
それらの測定結果を表6に示す。
【0117】
【表11】
【0118】
なお、実施例1−1〜10−2では、マトリックス樹脂の充填材として強化性の高いガラス繊維を用い、実施例13−1〜実施例15−2では同じく強化繊維材〔A〕に属するウィスカー類を用いているので、ウエルド強度は差異が少なく、いずれも70MPa以上であった。これに対して、実施例11−1,11─2は強化繊維材〔A〕ではなく非磁性高熱伝導性充填材〔C〕であるSiCウィスカーを、また実施例12−1,12−2ではアルミナ繊維を用いているが、やはり70MPa以上のウエルド強度が得られている。
【0119】
また、アイゾット衝撃強度は、ガラス繊維〔A〕を減らして粉体系の充填材〔B〕,〔C〕を添加することによって比較例1(ガラス繊維40重量%)より少し低めになっているが、いずれも2.0KJ/m2 を越えており、使用上問題ないことがわかった。
【0120】
▲3▼耐クリープ性の把握:
実施例1−1〜15−2及び比較例1の組成を有する樹脂組成物について円柱状の試験片を成形し、図19に示す試験装置を用いて圧縮クリープ試験を行った。測定は、当該試験片を試験装置ごと、120℃に設定された恒温槽にいれて100時間放置(面圧2.9kg/mm2 )し、その後取り出して1時間室温に保持した後に当該試験片TPの高さ変化率を測定した。測定結果を表12に示す。
【0121】
【表12】
【0122】
各実施例とも、比較例1よりも高さ変化率は小さく、耐クリープ性は良好である。特に、磁性充填材〔B〕をガラス繊維と併用した実施例1−1〜4−2、非磁性高熱伝導性充填材〔C〕のうちのアルミナ繊維をガラス繊維と併用した実施例10−1,10−2及びガラス繊維を使わずにSiCウィスカーやアルミナ繊維を単独で充填した実施例11−1〜12−2は、高さ変化率が小さくて顕著な耐クリープ性を示している。
【0123】
なお、図示しないが、図5,図8,図10,図13,図14,図17のような外輪2の外周面又は端面2sに施した本願発明の絶縁被膜を、内輪1の内周面又は内輪1の端面の少なくとも1つの面に選択的に施しても、本願発明の目的が達せられる。
【0124】
【発明の効果】
以上説明したように、第1の目的を達成する本発明の転がり軸受によれば、外輪の外周部を被覆する熱可塑性エラストマの層がモータハウジングと外輪間の電気的導通を阻止するため、この軸受をインバータ駆動されるファンモータに用いると、従来のように電気的導通性を有する特殊なグリースを使用したり、塵埃が発生し易い電気的ブラシを設置することなく、軸受内外輪間を電流が流れることを阻止することができ、その結果、内外輪軌道面あるいは転動体転動面の電食を防止できるという効果を奏する。
【0125】
また、外周面に凹凸を有する変形し易い熱可塑性エラストマの層にすると、上記の効果に加えて更に、軸受のハウジングへの挿入が容易で且つハウジング内で突っ張ってクリープ防止機能を発揮するという効果も得られる。
【0126】
更に、熱可塑性エラストマに熱伝導性フィラーを含有させると、熱可塑性エラストマの層自体の熱伝導性が向上する結果、良好な絶縁性を維持しつつ、十分な放熱性も維持できてエラストマの熱劣化を抑制できるという効果をも奏する。
【0127】
また、第2の目的を達成する本発明の転がり軸受によれば、外輪の外周部に圧入されたリング状絶縁部材がモータハウジングと外輪間の電気的導通を阻止するため、この軸受をインバータ駆動されるファンモータに用いると、従来のように電気的導通性を有する特殊なグリースを使用したり、塵埃が発生し易い電気的ブラシを設置することなく、軸受内外輪間を電流が流れることを阻止することができ、その結果、内外輪軌道面あるいは転動体転動面の電食を防止できるという効果を奏する。
【0128】
また、リング状絶縁部材を、比抵抗が1×1013Ω・cm以上で且つ熱伝導率が0.5W/m・K以上の合成樹脂組成物からなるものとしたため、電気絶縁性,耐クリープ性のみでなく放熱性にも優れた転がり軸受を提供できるという効果が得られる。
【0129】
また、前記リング状絶縁部材の合成樹脂組成物として、マトリックス樹脂に耐クリープ性の大きい繊維材〔A〕と、飽和磁化及び比抵抗が一定値以上の磁性充填材〔B〕とを両者の合計〔A+B〕30〜75重量%の範囲で混合したものにすると、磁性充填材〔B〕の電気絶縁性向上作用及び伝熱性向上作用により、耐クリープ性,伝熱性,成形性及び電気絶縁性に一層優れた絶縁被膜が得られて、高速回転で高温にさらされる使用条件下でも安定した性能が保証できる電食防止転がり軸受を提供できるという効果を奏する。
【0130】
さらに、前記リング状絶縁部材の合成樹脂組成物の磁性充填材〔B〕の少なくとも一部を非磁性高熱伝導性充填材〔C〕で置換しても、上記同様の効果を奏する。
【0131】
また、磁性充填材〔B〕及び非磁性高熱伝導性充填材〔C〕の含有量を当該充填材の種類に応じて単独もしくは合わせて20〜65重量%の範囲内で任意に調整すると、リング状絶縁部材の耐クリープ性,伝熱性,成形性及び電気絶縁性の諸特性のバランスを調整できて、軸受の使用条件等に応じて製品に多様性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の絶縁材の組成と熱伝導率及び比抵抗との関係を示す図である。
【図2】本発明の絶縁材の組成と熱伝導率及び比抵抗との関係を示す図である。
【図3】本発明の絶縁材の組成と熱伝導率及び比抵抗との関係を示す図である。
【図4】本発明の絶縁材の組成と熱伝導率及び比抵抗との関係を示す図である。
【図5】本発明の転がり軸受の第1の実施形態の半断面図である。
【図6】図5に示す熱可塑性エラストマの層の表面の部分拡大断面図である。
【図7】図5に示す転がり軸受のモータへの取付け態様を示す模式図である。
【図8】本発明の転がり軸受の第2の実施形態の半断面図である。
【図9】図8に示す熱可塑性エラストマの層の表面の部分拡大断面図である。
【図10】本発明の転がり軸受の第3の実施形態の半断面図である。
【図11】図10に示す熱可塑性エラストマの層の表面の部分拡大平面図である。
【図12】本発明の転がり軸受の第4の実施形態における、熱可塑性エラストマの層の表面の部分拡大平面図である。
【図13】本発明の転がり軸受の第5の実施形態の半断面図である。
【図14】本発明の転がり軸受の第6の実施形態の半断面図である。
【図15】本発明の転がり軸受における熱可塑性エラストマの層の表面パターンの他の例を示す平面図である。
【図16】本発明の転がり軸受における熱可塑性エラストマの層の表面パターンのさらに他の例を示す平面図である。
【図17】本発明の転がり軸受の第7の実施形態の半断面図である。
【図18】図17に示す転がり軸受のモータへの取付け態様を示す断面図である。
【図19】耐クリープ性試験装置の模式側面図である。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
2g 外周部(外輪の外周面)
2s 外周部(外輪の側面)
3 転動体(ボール)
5 熱可塑性エラストマの層
30 リング状絶縁部材
A 転がり軸受
Claims (2)
- 外輪及び内輪と、当該外輪と内輪との間に介在する転動体とを少なくとも有する転がり軸受において、下記の5つの条件を満足することを特徴とする転がり軸受。
条件A:前記外輪の外周部の全面に熱可塑性エラストマの層が形成されている。
条件B:前記熱可塑性エラストマの層は、硬さが60〜90[HD A ]であり、且つ厚さが0.5〜5mmである。
条件C:前記熱可塑性エラストマの層は、熱伝導率が10W/m・k以上で且つ比抵抗が1×10 4 Ω・cm以上の熱伝導性フィラーを含有する。
条件D:前記熱可塑性エラストマの層の外周面の全面にわたって凹凸が設けられている。
条件E:前記凹凸が、前記外輪の幅方向に連続するヘリンボン状の凹部、菱形状に連続する帯状の凹部、又は不規則に散在する不定形の突起により形成されている。 - 前記熱可塑性エラストマの層は、前記外周面の凹凸の高さ(深さ)が5〜100μmである請求項1に記載の転がり軸受。
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