JP4072066B2 - 新規分子認識ポリマーおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
標的分子と選択的に結合する分子認識ポリマー、および、分子インプリンティング法を用いた分子認識ポリマーの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
標的分子と特異的に結合する分子認識ポリマーの製造手法として、分子認識ポリマーの機能部位のデザインを分子自身に任せる分子インプリンティングという面白い手法が知られている。分子インプリンティングの原理は、極めて明快である。その原理は、標的分子に対し特異的な結合部位をもつ架橋性ポリマーを合成する際、ポリマー合成用のモノマーに標的分子を混入させて重合を行い、重合後にできたポリマー中から重合前に加えた標的分子を洗いだせば、ポリマー内にはその標的分子に相補的な結合部位が形成されるというものである。標的分子に特徴的な官能基があれば、その官能基と非共有結合により相互作用するモノマー(機能性モノマー)をポリマーのマトリックスとなる架橋剤と共に重合する(以下、これを「非共有結合型分子インプリンティング」と呼ぶ)か、あらかじめ標的分子と機能性モノマーとの複合体を合成し、それを架橋剤と共に重合する(以下、これを「共有結合型分子インプリンティング」と呼ぶ)のが、一般的な手法である。重合後、ポリマーが膨潤し、かつ、標的分子が脱離する条件で洗浄すると、ポリマー内の標的分子が消失したあとの部分に、標的分子の鋳型のような状態で標的分子と相互作用可能な官能基が残り、標的分子と特異的に結合するポリマー(以下、これを「インプリントポリマー」と呼ぶ)が得られる。すなわち,架橋剤由来のポリマーのマトリックス中に機能性モノマー由来の官能基が、標的分子の形に従い特徴的な官能基を認識するように配置される。この意味ありげに局在化した官能基周辺が、標的分子に対して特異的に結合する部位となるわけである。
【0003】
本願発明者等は、分子インプリンティング法において、独自の機能性モノマーを設計して合成し、種々の標的分子を選択的に吸着する分子認識ポリマーをテーラーメイド的に合成できることを実証している(非特許文献1〜5参照)。
【0004】
また、本願発明者等は、この分子インプリンティング法に何らかの機能を付与することにより、標的分子の結合とシンクロしてその機能を発現する新たな分子認識ポリマーを創製することができることを示している(非特許文献1・2参照)。
【0005】
また、本願発明者等は、合成したインプリントポリマーを分離技術やセンサーに応用しており、特に、インプリントポリマーを固相抽出に応用し、有用性を実証している(非特許文献4〜6参照)。
【0006】
また、本願発明者等は、高分子合成とその結合能評価を自動的に行うロボットを開発し、コンビナトリアル分子インプリンティングの概念を確立している(非特許文献7参照)
【0007】
【非特許文献1】
Takeuchi, T., Mukawa, T., Matsui, J., Higashi, M., Shimizu, K. D. Molecularly Imprinted Polymers with Metalloporphyrin-Based Molecular Recognition Sites Coassembled with Methacrylic acid, Anal. Chem. 2001, 73, 3869-3874.
【0008】
【非特許文献2】
Matsui, J., Higashi, M., Takeuchi, T. Molecularly Imprinted Polymer as 9-Ethyladenine Receptor Having a Porphyrin-based Recognition Center, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 5218-5219.
【0009】
【非特許文献3】
Takeuchi, T., Dobashi, A., Kimura, K. Molecular Imprinting of Biotin Derivatives and Its Application to Competitive Binding Assay Using Non-isotopic Labeled Ligands, Anal. Chem. 2000, 72, 2418-2422.
【0010】
【非特許文献4】
Molecularly Imprinted Polymers: Man made Mimics of Antibodies and Their Application in Analytical Chemistry, Sellergren, B. Ed., Elsevier, 2001.
【0011】
【非特許文献5】
Takeuchi, T., Haginaka, J. Separation and Sensing Based on Molecular Recognition Using Molecularly Imprinted Polymers, J. Chromatogr. B 1999, 728, 1-20.
【0012】
【非特許文献6】
Takeuchi, T., Matsui, J. Miniaturized Molecularly Imprinted Continuous Polymer Rods, J. High Resolution Chromatogr. 2000, 23, 44-46.
【0013】
【非特許文献7】
Takeuchi, T., Fukuma, D., Matsui, J. Combinatorial Molecular Imprinting: An Approach to Synthetic Polymer Receptors, Anal. Chem. 1999, 71, 285-290.
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の分子インプリンティング法により製造した分子認識ポリマーによる標的分子の固相抽出では、標的分子の濃縮には標的化合物が吸着剤に吸着されやすい溶媒条件を用い、標的分子の回収には標的分子が吸着剤から脱着しやすい溶媒条件を用いる。この操作は、煩雑で自動化の妨げとなり、標的分子の分解の原因となる場合もある。
【0015】
もし標的分子に対する吸脱着を外部刺激によって制御可能な分子認識材料を提供できれば、固相抽出の際、溶媒を変える煩雑な操作を行うことなく、光のON−OFFにより標的分子の濃縮および回収が繰り返し行えると考えられ、極めて有用であると考えられる。しかしながら、上記分子認識ポリマーを外部刺激に応答して変化させる試みは、これまで例がない。
【0016】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、標的分子と選択的に結合すると共に光照射により物理・化学的変化を誘導できる光感応性を持ち、標的分子に対する吸脱着を光で制御可能な新規分子認識ポリマー、および分子インプリンティング法を用いた上記分子認識ポリマーの製造方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の分子認識ポリマーは、上記の課題を解決するために、標的分子に対して特異的にかつ可逆的に結合する官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有する新規な分子認識ポリマーであることを特徴としている。
【0018】
上記分子認識ポリマーは、官能基によって、標的分子と選択的に結合することができ、かつ標的分子を吸脱着できる。そして、上記分子認識ポリマーは、光感応性部位を有するので、光照射のON−OFFあるいは波長の異なる光の照射により、光感応性部位の異性化(化学的変化、物理的変化)が起こり、この異性化に伴って官能基付近の分子構造が変化し、標的分子に対する官能基の結合能(分子認識能)が変化する。それゆえ、上記分子認識ポリマーは、外部からの光照射のON−OFFあるいは波長変更によって、標的分子に対する官能基の分子認識能を制御し、標的分子を吸脱着させることが可能である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明にかかる分子認識ポリマーは、標的分子(標的化合物)に対して特異的にかつ可逆的に結合(相互作用)する官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有する。
【0020】
分子認識ポリマーとしては、(1)標的分子に対して特異的に可逆的な共有結合を形成する共有結合性官能基と、光照射によって異性化する光感応性部位とを有する分子認識ポリマー(以下、「共有結合性分子認識ポリマー」と称する)、(2)標的分子に対して特異的に可逆的な非共有結合を形成する非共有結合性官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有する分子認識ポリマー(以下、「非共有結合性分子認識ポリマー」と称する)がある。
【0021】
共有結合性分子認識ポリマーの共有結合性官能基に対して標的分子が可逆的な結合を形成するためには、共有結合が容易に生成し、かつ、標的分子が脱離しうる必要がある。この点を考えると、上記共有結合は、あまり強固でなく、共有結合の生成と解離が容易で可逆的でなくてはならない。上記可逆的な共有結合としては、ボロン酸基とcis−ジオールとのエステル結合、アルデヒドと水酸基とのアセタール結合、ケトンと水酸基とのケタール結合、アルデヒドとアミノ基との結合によって形成されるシッフ塩基、金属錯体(例えば亜鉛ポルフィリン)を用いた配位結合、カルボキシル基と水酸基とのエステル結合、カルボキシル基とアミノ基とのアミド結合等が挙げられる。これらのうち、平衡が速いことから、ボロン酸基とcis−ジオールとの可逆的なエステル結合が好適である。
【0022】
一方、非共有結合性分子認識ポリマーに利用できる可逆的な非共有結合としては、水素結合供与性基(アミド基上の水素原子、カルボキシル基上の水素原子、アミノ基、水酸基、フェノール性水酸基等)と水素結合受容性基(アミド基のカルボニル部分、カルボキシル基のカルボニル部分、ピリジン環等の含窒素複素環上の窒素原子等)との水素結合や、イオン結合(陽イオンと陰イオンとの静電的相互作用)等がある。非共有結合性分子認識ポリマーが、標的分子との間で水素結合を形成するものである場合、標的分子と高選択的にかつ強く結合するために、多点水素結合を形成するものであることが好ましく、4点以上で水素結合を形成するものであることが最も好ましい。また、非共有結合性分子認識ポリマーが標的分子と高選択的にかつ強固に結合するために、上記多点水素結合は、8員環キレート型の水素結合複合体を形成するものであることが好ましい。8員環キレート型の水素結合複合体を形成する化合物の組み合わせとしては、アミド基および/またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する化合物と、含窒素複素環上の窒素原子に隣接する位置にアミノ基および/またはカルボニルアミノ基を少なくとも1つ有する化合物との組み合わせが挙げられる。
【0023】
標的分子と分子認識ポリマーとの組み合わせは、これらの間で可逆的な結合を形成しうるものであれば、特に制限はない。すなわち、これらの組み合わせは、分子認識ポリマーが有する官能基(ボロン酸基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基、アミド基等)と標的分子が有する官能基(水酸基等)との間に、可逆的な結合が形成される組み合わせであればよい。標的分子と分子認識ポリマーとの組み合わせの例としては、(1)可逆的なエステル結合を形成しうる、標的分子としてのシスジオールを持つカテコール基を持つ化合物や糖などの多価アルコールと、フェニルホウ酸基を有する分子認識ポリマーとの組み合わせ、(2)水素のドナーとなるような化合物と水素のアクセプタとなるような化合物との組み合わせ(例えば、標的分子としてのアトラジンと、アトラジンと水素結合するカルボキシル基との組み合わせ)、(3)電荷を持つ標的分子と、標的分子と逆の電荷を持つ分子認識ポリマーとの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
また、光感応性部位は、光異性化、すなわち光照射によって何らかの化学的変化または物理的変化が、可逆的に起こるものであればよいが、光照射による可逆的な異性化によって構造(コンフォメーション)が大きく変化するもの、例えばアゾベンゼン部位(アゾベンゼン骨格)やスピロピラン部位(スピロピラン骨格)等が好適である。
〔共有結合性分子認識ポリマーの製造方法〕
上記共有結合性分子認識ポリマーは、いわゆる共有結合型分子インプリンティングにより製造できる。すなわち、上記共有結合性分子認識ポリマーは、共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体(機能性モノマーとも称する)を調製する調製工程と、上記不飽和単量体と標的分子とを可逆的な共有結合により結合させる結合工程と、標的分子と結合した不飽和単量体を架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含む方法により製造できる。
【0025】
上記不飽和単量体は、標的分子の持つ官能基と可逆的な共有結合(前述した配位結合、アセタール−ケタール結合、ホウ酸とcis−ジオールとのエステル結合など)を形成しうる官能基と、付加重合可能な不飽和結合と、光感応性部位とを持つ化合物である。標的分子の持つ官能基と可逆的な共有結合を形成しうる官能基としては、標的分子の持つ酸素原子と配位結合を形成しうる金属錯体部位や、標的分子の持つcis−ジオール部位と環状のエステル結合を形成しうるジボロン酸部位等が挙げられる。
【0026】
上記調製工程では、例えば、光感応性部位を有する化合物にビニル基やメタクリロイル基等の付加重合可能な不飽和基をつけて付加重合可能とし、さらに標的分子と可逆的に共有結合を形成しうる共有結合性官能基(等)をつけて不飽和単量体を調製すればよい。光感応性部位を有する化合物としては、アゾベンゼンやベンゾスピロピランが代表的である。また、光感応性部位を有する化合物として、光照射によって構造はあまり大きく変化しないが、色が変わるものに、書き換え可能な記録材料に応用し得るジアリールエテン系化合物、フルキド類、サリチリデンアニリン系等の可逆型光応答性化合物がある。また、光照射によって3つのフェニル基に囲まれている炭素がカチオンとなり、極性が大きく上昇するトリフェニルメタンシアニドも、光感応性部位を有する化合物である。
【0027】
上記重合工程では、不飽和単量体および架橋剤を溶媒中に溶解させ、重合開始剤を用いて共重合反応を行う。溶媒は、ポリマーを多孔性にするためのポアフォーマーとしての役割もある。上記溶媒としては、標的分子や不飽和単量体を溶解できるものであれば特に限定されないが、各試薬をよく溶解することから、クロロホルムが好適である。また、重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)や2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を用いることができる。
【0028】
上記付加重合に用いる架橋剤は、不飽和単量体が有する重合可能な基と共重合可能な基、例えばビニル基や(メタ)アクリロイル基を持つ化合物である。架橋剤の例を以下の式(1)〜(20)に示す。
【0029】
【化1】
【0030】
架橋剤としては、付加重合可能な基を複数有するものが好ましい。付加重合可能な基を複数有する架橋剤の例としては、式(4)に示すp−ジビニルベンゼン、式(18)に示すo−ジビニルベンゼン、式(19)に示すm−ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン系架橋剤、(メタ)アクリル酸系架橋剤等がある。(メタ)アクリル酸系架橋剤としては、(メタ)アクリロイル基を複数有する化合物、例えば、式(1)に示すエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、式(2)に示すトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、式(3)に示すトリメチロールプロパントリアクリレート、式(6)に示すテトラエチレングリコールジアクリレート、式(11)に示すトリエチレングリコールジメタクリレート、式(12)に示すペンタエリスリトールテトラアクリレート、式(13)に示すペンタエリスリトールトリアクリレート、式(14)に示すビスフェノールAジメタクリレート、式(15)に示すN,N’−メチレンジアクリルアミド、式(16)に示すN,N’−1,4−フェニレンジアクリルアミド、式(17)に示す3,5−ビス(アクリロイルアミド)安息香酸、式(20)に示すN,O−ビスアクリロイル−L−フェニルアラニノール等が好適である。架橋剤として、ビニル基を1つだけ持つ化合物(式(5)に示す塩化ビニル、式(7)に示すスチレン、式(9)に示すフェニルビニルスルホキシド、式(10)に示すフェニルビニルスルホン等)や、(メタ)アクリロイル基を1つだけ持つ化合物(例えば式(8)に示すメタクリル酸メチル等)等のような重合可能な基を1つだけ持つ化合物を用いてもよい。架橋剤としては、不飽和単量体が有する重合可能な基と同じ基を持つ架橋剤を使用することが好ましい。また、架橋剤は、結合部位同士のクロストークを避けるために不飽和単量体に対して大過剰で用いることが好ましい。具体的には、不飽和単量体1モルに対して架橋剤を5モル以上用いることが好ましい。
【0031】
上記脱離工程では、重合工程で得られた重合体における官能基と標的分子との可逆的な結合を分解することにより、標的分子を脱離させる。例えば、可逆的な結合がエステル結合である場合には、エステル結合を酸加水分解あるいはアルカリ加水分解することにより標的分子を脱離させればよい。
【0032】
〔非共有結合性分子認識ポリマーの製造方法〕
上記非共有結合性分子認識ポリマーは、いわゆる非共有結合型分子インプリンティングにより製造できる。すなわち、上記非共有結合性分子認識ポリマーは、上記非共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体を調製する調製工程と、上記不飽和単量体を、標的分子の存在下で架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含む方法により製造できる。
【0033】
上記不飽和単量体は、標的分子の持つ官能基と可逆的な非共有結合(水素結合など)を形成しうる官能基と、重合可能な不飽和結合と、光感応性部位とを持つ化合物である。標的分子の持つ官能基と可逆的な非共有結合を形成しうる官能基としては、標的分子の持つアミノ基と水素結合を形成しうるカルボニル基や、標的分子の持つ含窒素複素環の窒素原子と水素結合を形成しうる水酸基やアミノ基等が挙げられる。
【0034】
上記調製工程では、例えば、光感応性部位を有する化合物にビニル基やメタクリロイル基等の付加重合可能な不飽和基をつけて付加重合可能とし、さらに標的分子と可逆的に非共有結合を形成しうる非共有結合性官能基(カルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基等)をつけて付加重合可能な不飽和単量体を調製すればよい。
【0035】
上記重合工程は、基本的には共有結合性分子認識ポリマーの製造方法と同様であるが、非共有結合型分子インプリンティングでは、標的分子と不飽和単量体との複合体を安定的に存在させるために、不飽和単量体は標的分子に対して過剰に用いることが好ましい。具体的には、標的分子1モルに対して標的分子を2モル以上用いることが好ましい。また、非共有結合が水素結合である場合、使用する溶媒としては、水素結合を妨害しないクロロホルム等のハロゲン系溶媒が好ましい。
【0036】
上記脱離工程では、標的分子を選択的に溶解しうる溶液(例えばアルコール系溶媒等)で洗浄することにより、標的分子を脱離させる。これにより、非共有結合性分子認識ポリマーが得られる。
【0037】
上記の非共有結合型分子インプリンティングにおいては、形成される結合部位の不均一性が問題となることがある。通常、標的分子と不飽和単量体(機能性モノマー)との複合体を形成させるために,不飽和単量体(機能性モノマー)は、標的分子に対して過剰に加えて重合する。当然ではあるが、結合部位に関与する不飽和単量体(機能性モノマー)は限られており、加えられた不飽和単量体(機能性モノマー)のうちの過剰分は、特異的な結合部位にはならず、非特異的な結合となる。すなわち、過剰分は、特異的結合部位と無関係に存在するか、あるいは完成度および特異性が低い結合部位として存在する。
【0038】
そこで、上記の非共有結合型分子インプリンティングにおいては、この問題を解決する方法として、非共有結合型分子インプリンティングの後に、非共有結合型分子インプリンティングにより得られたインプリントポリマーの非特異的結合部位を化学修飾してブロックする処理(以下、「ポストインプリンティング処理」と称する)を行ってもよい。例えば、不飽和単量体(機能性モノマー)として不飽和カルボン酸を用いた非共有結合型分子インプリンティングによって得られたインプリントポリマーに対し、特異的結合部位を保護するために標的分子の共存下で、インプリントポリマー中における不飽和カルボン酸由来のカルボン酸残基で結合部位に関与していないものを、ヨウ化メチルによるメチルエステル化してもよい。このポストインプリンティング処理は、比較的簡便に、標的分子に対する非共有結合性分子認識ポリマーの選択性を向上させ、性能を改善できる可能性がある。
【0039】
また、上記標的分子が水酸基を有し、かつ、上記非共有結合性分子認識ポリマーが標的分子の水酸基に対して特異的に可逆的な水素結合を形成する水酸基を有する場合には、共有結合型分子インプリンティングにより製造できる。すなわち、この場合、非共有結合性分子認識ポリマーは、上記光感応性部位および水酸基を有する不飽和単量体と、上記水酸基を有する標的分子との炭酸エステルを調製する調製工程と、上記炭酸エステルを架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、得られた重合体から、脱炭酸により標的分子を脱離させ、不飽和単量体由来の水酸基を遊離させる脱離工程とを含む方法で製造できる。
【0040】
上記調製工程では、例えば、標的分子のクロロギ酸エステルを、トリエチルアミン存在下で光感応性部位および水酸基を有する不飽和単量体と反応させればよい。
【0041】
上記重合工程は、共有結合性分子認識ポリマーの製造方法と同様である。上記脱離工程では、例えば重合工程で得られた重合体を塩基性条件下で加水分解することにより、脱炭酸を伴う標的分子の脱離を行えばよい。
【0042】
ここで、共有結合型分子インプリンティングおよび非共有結合型分子インプリンティングの各々の利点を挙げる。共有結合型分子インプリンティングの利点は、標的分子と不飽和単量体(機能性モノマー)との複合体が比較的安定であること、結合部位の均一性が比較的高いこと、重合反応に用いる溶媒の選択において、溶媒による複合体の不安定化が起こりにくいために比較的制限が少ないこと等である。一方、非共有結合型分子インプリンティングの利点は、不飽和単量体(機能性モノマー)の重合前に、標的分子と不飽和単量体(機能性モノマー)との複合体を予め合成しておく必要がないこと、標的分子が比較的除去されやすいこと等である。
【0043】
なお、以上の説明では、架橋剤との共重合を用いた分子インプリンティングによる製造方法について説明したが、分子認識ポリマーは、重縮合反応を利用した分子インプリンティングによっても製造可能である。
【0044】
また、上記の説明では、分子認識ポリマーを、共有結合性分子認識ポリマーと非共有結合性分子認識ポリマーとの2種類に分類して説明したが、分子認識ポリマーは、標的分子に対して、可逆的な共有結合と可逆的な非共有結合との両方を形成するものであってもよい。このような結合モードの異なる分子認識の組み合わせは、選択性や親和性の増大が期待でき、応用範囲を広げることになる。このような分子認識ポリマーの例としては、標的分子に対して可逆的な配位結合を形成しうる錯体部位と、標的分子の水酸基に対して可逆的な水素結合を形成しうるカルボキシル基とを併せ持つ分子認識ポリマーが挙げられる。この分子認識ポリマーは、例えば、上記錯体部位を有する不飽和単量体と、カルボキシル基および光感応性部位を有する不飽和単量体と、架橋剤との共重合により得ることができる。
【0045】
(具体例1)アゾベンゼン部位を有する光感応性インプリントポリマー
アゾベンゼンは、光照射により、容易にシス−トランス異性体間を相互変換することが知られている。このアゾベンゼンの二つのベンゼン環に、それぞれ、重合可能な二重結合と標的分子認識のための官能基を導入し、これを機能性モノマーとしてインプリントポリマーを合成すれば、光感応性インプリントポリマー光がえられる(実施例1・2参照)。この光感応性インプリントポリマーは、光照射によるアゾベンゼン部位の異性化にともない結合部位での分子認識能の変化が見られることが期待される。それゆえ、この光感応性インプリントポリマーは、標的分子の光応答性固相抽出(分離)に利用できることが期待される。
【0046】
(具体例2)ベンゾスピロピラン基を持つ光感応性インプリントポリマー
スピロピラン類は、アゾベンゼンと並び代表的なフォトクロミック化合物である。互いに直行している二つのヘテロ環のうちの一つが紫外光の照射により開環し、その構造を大きく変える。従って、それぞれのヘテロ環を含む部分に、重合可能な二重結合と分子認識のための官能基を導入することにより、光照射による官能基の配向の変化により分子認識能が変化するインプリントポリマーを合成できると期待される。
【0047】
ここでは、光異性化可能なベンゾスピロピラン基を導入した機能性モノマー(標的化合物と相互作用可能なモノマー)と、標的分子とを用いて、標的分子を吸脱着可能な光感応性インプリントポリマーを合成する。
【0048】
まず、重合可能なビニル基やメタクリロイル基等の不飽和基と、標的分子と相互作用可能な官能基とを、ベンゾスピロピランに導入し、スピロピラン系機能性モノマーを合成する(図1(a))。例えば、メタクリロイルオキシメチル基を導入したサリチルアルデヒド誘導体を合成し、また、インドリン誘導体のクロル基を分子認識のための官能基(カルボキシル基やボロン酸基)に変換し、その後、これら二つの化合物をカップリングさせてスピロピラン系機能性モノマーを得る。
【0049】
次いで、スピロピラン系機能性モノマーを標的分子と相互作用させて複合体を形成し、この状態で、架橋剤を加えて重合させる(図1(b))。
【0050】
最後に、標的分子を脱離させ、光感応性インプリントポリマーを得る(図1(c))。
【0051】
得られた光感応性インプリントポリマーには、標的分子と相補的な結合部位ができる。この結合部位は、光の入力でベンゾスピロピラン残基の異性化が誘起され、結合特性が変化する。そのため、この光感応性インプリントポリマーは、光のON−OFFあるいは波長の異なる光の照射により標的分子を吸着・脱着し、固相抽出が行えることが期待できる。したがって、上記光感応性インプリントポリマーには、固相抽出の際、溶媒を変えることなく、光のON−OFFあるいは波長の異なる光の照射で標的分子の濃縮および回収が繰り返し行え、分離科学の広い範囲に適用可能であると考えられる。
【0052】
この分離手法は、特にトウモロコシ畑やゴルフ場などによく用いられるトリアジン除草剤の一つであるアトラジンを分離するのに有効であると考えられる。また、標的分子がアトラジンである場合、標的分子と相互作用可能な官能基としては、アトラジン1分子に対して複数の水素結合を形成して高い結合能を発現するカルボキシル基が好適である。アトラジンは、次式
【0053】
【化2】
【0054】
に示すように、カルボキシル基を持つ化合物と多点(4点)で水素結合を形成して、八員環キレート型の水素結合複合体を形成することが知られている。したがって、標的分子としてアトラジンを用い、カルボキシル基を持つ機能性モノマーを用いて分子インプリンティングを行えば、アトラジンを高選択的に吸着する光非共有結合性分子認識ポリマーが得られる。上記非共有結合性分子認識ポリマーを用いて固相抽出を行えば、アトラジンの回収を効率良く行うことができる。
【0055】
上記のアトラジンと特異的に結合する非共有結合性分子認識ポリマーは、以下のようにして製造できる。すなわち、まず、図1(a)(R1、R2はそれぞれ、水素原子または炭化水素基を示す)に示すように、メタクリロイルオキシメチル基およびカルボキシル基を有するベンゾスピロピラン系化合物(スピロピラン系機能性モノマー)と、付加重合可能な基を複数有する架橋剤(例えば、エチレングリコールジメタクリレート)とを用意し、これらをクロロホルム等の溶媒中でアトラジンと混合して、スピロピラン系機能性モノマーのカルボキシル基にアトラジンを結合させる。そして、これを2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等の重合開始剤の存在下で重合した後、アトラジンを溶解しうる酸性溶液(例えばメタノール/酢酸)および溶媒(例えばメタノール)で洗浄することにより、アトラジンが除去され、非共有結合性分子認識ポリマーが得られる。
【0056】
(具体例3)ペプチドを用いた光感応性分子認識ポリマー
水素結合等の非共有結合による分子認識を可能とする側鎖(標的分子に対して特異的にかつ可逆的に結合する官能基)と光異性化可能な基(光感応性部位)とを導入したペプチドを合成し、このペプチドをドーパミン(3,4−ジヒドロキシエチルアミン;カテコールアミン類の1種)等の標的分子の存在下で縮重合してオリゴペプチドとすることにより、光感応性分子認識ポリマーを得る。この光感応性分子認識ポリマーでは、標的分子と光感応性分子認識ポリマーとの相互作用の補強を図るために、チオール基等をさらに導入してもよい。
【0057】
この光感応性分子認識ポリマーは、ドーパミン等の標的分子を認識する部位(官能基)近傍に光に応答する光感応性部位が導入されていれば、光により、認識部位の構造変化に伴う認識能の制御が可能となる。この光感応性分子認識ポリマーは、ドーパミン等の薬剤を担持して輸送し、光によるON−OFFにより薬剤を吸脱着可能であると考えられるため、ドラッグデリバリーシステムへの応用が期待できる(図6)。また、この光感応性分子認識ポリマーは、オリゴペプチドを主体としていることから、生分解性で生体適合性が高いと考えられる。また、この光感応性分子認識ポリマーは、回収、分解、再利用が可能であり、環境にやさしい材料である。
【0058】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0059】
〔実施例1〕
本実施例では、メタクリロイルオキシ基と水酸基とを有するアゾベンゼンを合成し、これをコレステロールとの炭酸エステルとした機能性モノマーを調製し、この機能性モノマーをエチレングリコールジメタクリレートを架橋剤として重合することによりポリマーを合成し、得られたポリマー中の炭酸エステルを加水分解して、光感応性インプリントポリマーを合成した。この光感応性インプリントポリマーは、コレステロールと水素結合を形成しうるフェノール性水酸基と、光照射によりシス−トランス異性化するアゾベンゼン部位とを有することから、コレステロールを認識する分子認識能を持ち、かつ、光照射によりアゾベンゼン部位の異性化に伴って結合部位での分子認識能が変化することが期待される。
【0060】
(S1)3,3’−ジヒドロキシアゾベンゼンの合成
まず、窒素雰囲気下、反応容器に、塩化銅二水和物(分子量170.48)19.05g(0.11mol)、30重量%アンモニア水33mlおよび水20mlを投入した。次に、塩酸ヒドロキシルアミン(分子量69.49)21.07g(0.3mol)を水60mlに溶解した溶液を滴下し、一価の銅錯体溶液を調製した。別の反応容器に、3−アミノフェノール(分子量109.13)10.93g(0.1mol)と5mol/l塩酸水溶液100mlとを投入し、氷冷した。ここに、亜硝酸ナトリウム(分子量69.00)7.04g(0.1mol)を水20mlに溶解した溶液を滴下し、ジアゾニウム塩溶液を生成させた。ここで生成したジアゾニウム塩溶液を水1300mlで希釈し、希釈したジアゾニウム塩溶液を氷冷した上記の銅錯体溶液に約15分間かけて滴下し、そのまま3時間撹拌した。固体をろ別し、その固体を、3重量%アンモニア水500ml、水200ml、1mol/l塩酸水溶液300ml、および水200mlで洗浄した。洗浄した固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル充填カラム、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/3)で精製し、3,3’−ジヒドロキシアゾベンゼン(分子量214.22)4.98g(0.023mol)を得た。収率は46%であった。
【0061】
(S2)3’−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシアゾベンゼンの調製
反応容器に、3,3’−ジヒドロキシアゾベンゼン(分子量214.22)1.28g(6mmol)、塩化メチレン15ml、およびピリジン3mlを投入し、氷冷した。次いで、反応容器内の混合液を撹拌しながら、30分かけて、塩化メタクリロイル(分子量104.54)0.32g(3mmol)を塩化メチレン5mlに溶解した溶液を滴下した。滴下終了後、0℃で30分間、室温で30分間撹拌した。溶媒を留去し、残渣を酢酸エチルに溶解して、水で洗浄した。酢酸エチル層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル充填カラム、展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製し、3’−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシアゾベンゼン(分子量270.29)0.52g(1.9mmol)を得た。収率は63%であった。
【0062】
(S3)炭酸コレステリル3−(3−メタクリロイルオキシ)フェニルアゾフェニルの調製
反応容器に対し、3’−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシアゾベンゼン0.23g(0.8mmol)、テトラヒドロフラン15ml、およびトリエチルアミン2mlを投入し、氷冷した。次いで、反応容器内の混合液を撹拌しながら、この混合液に対し、氷冷によって液温を0〜5℃に保ちながらクロロギ酸コレステリル(分子量449.12)0.40g(0.9mmol)を30分間かけて滴下した。その後、液温を室温に戻し、室温で20時間撹拌を行った。
【0063】
反応混合液を分液ロートに移し、5重量%塩酸水溶液、水、5重量%水酸化ナトリウム水溶液、および水をそれぞれ加えて分液を行い、有機層を分離した。分離した有機層を硫酸マグネシウムで30分間かけて乾燥させ、硫酸マグネシウムを濾過によって除去した。この濾過の濾液から溶媒を留去して得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル充填カラム、展開溶媒:酢酸エチル/クロロホルム/ヘキサン=1/2/17)で精製し、炭酸コレステリル3−(3−メタクリロイルオキシ)フェニルアゾフェニル(分子量682.95)0.21g(0.3mmol)を得た。収率は38%であった。
【0064】
(S4)ポリマーの調製
炭酸コレステリル3−(3−メタクリロイルオキシ)フェニルアゾフェニル69.4mg(0.1mmol)を、0.64mlのヘキサンおよび0.16mlのトルエン(溶媒)に溶解し、得られた溶液に、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート(分子量198.22)377mg(1.9mmol)と、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(分子量164.21)5.0mg(0.02mmol)とを加えた。
【0065】
そして、45℃で18時間かけて重合反応を行った。粗生成物を乳鉢で破砕し、メタノールで洗浄・乾燥した。これにより、ポリマー411mgが得られた。
【0066】
(S5)ポリマーの加水分解
得られたポリマーを、0.1mmol/lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液に懸濁させて、塩基性条件下で3時間かけて加水分解を行った。
【0067】
これにより、脱炭酸を伴うコレステロールの脱離が起こり、結合部位にフェノール性水酸基が残った光感応性インプリントポリマー370mgが得られた。
【0068】
(S6)光感応性インプリントポリマーの分子認識能
クロロギ酸コレステリルに代えてクロロギ酸フェニルを用いる以外は、S2〜S4と同様の反応を行い、比較用のインプリントポリマーを合成した。
【0069】
光感応性インプリントポリマーおよび比較用のインプリントポリマーをn−ヘキサン中に懸濁させて、コレステロールとの結合実験を行ったところ、光感応性インプリントポリマーは、比較用のインプリントポリマーに比べ、コレステロールの結合量が有意に多かった。このことから、光感応性インプリントポリマーが、コレステロールを認識する分子認識能を持っていることが確認された。
【0070】
(S7)光感応性インプリントポリマーに結合させたコレステロールの紫外照射による脱離
この光感応性インプリントポリマーをn−ヘキサン中に懸濁させ、暗所でコレステロールを結合させた後、高圧水銀灯で波長330nmの紫外線を18分間照射したところ、結合していたコレステロールが遊離することが確認された。
【0071】
〔実施例2〕
本実施例では、鋳型分子として4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシドを用いて、結合定数の大きい環状ボロン酸エステル結合を持つ機能性モノマーを調製した。この機能性モノマーの合成スキームを以下に示す。
【0072】
【化3】
【0073】
そして、架橋剤として分解反応を起こさないジビニルベンゼンおよびスチレンを用いて上記機能性モノマーを重合することによりポリマーを合成し、得られたポリマー中のボロン酸エステルを加水分解して、光感応性インプリントポリマーを合成した。
【0074】
この光感応性インプリントポリマーは、4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシドと環状ボロン酸エステルを形成しうるボロン酸部位と、光照射によりシス−トランス異性化するアゾベンゼン部位とを有することから、4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシドを認識する分子認識能を持ち、かつ、光照射によりアゾベンゼン部位の異性化に伴って結合部位での分子認識能が変化することが期待される。
(S1)アゾカップリング反応
2mol/l塩酸水溶液85ml中、0℃、15分間の条件で、p−ブロモアニリン(分子量172.02)4.30g(25mmol)を亜硝酸ナトリウム(分子量94.11)1.90g(27.5mmol)と反応させ、塩化p−ブロモベンゼンジアゾニウムの水溶液を調製した。
【0075】
続いて、得られた塩化p−ブロモベンゼンジアゾニウム水溶液に対してフェノール(分子量94.11)2.35g(25mmol)および水酸化ナトリウム(分子量40.00)2g(50mmol)を加え、0℃、5分間の条件でアゾカップリング反応を行った。
【0076】
アゾカップリング反応生成物を粗生成物から単離することにより、4−ブロモ−4’−ヒドロキシアゾベンゼン(分子量277.125)2.72g(9.8mmol)を得た。収率は39%であった。
(S2)ボロン酸エステルに変換
反応容器に、4−ブロモ−4’−ヒドロキシアゾベンゼン0.56g(2.0mmol)、[1,1'−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド・塩化メチレン(1:1)錯体(分子量816.64)44mg(0.06mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(分子量253.94)0.56g(2.2mmol)、酢酸カリウム(分子量98.15)0.31g(3.1mmol)、および溶媒としての乾燥DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)10mlを投入し、反応混合物を窒素雰囲気下、80℃で18時間加熱した。反応の完了を確認した後、反応混合物をジエチルエーテルで希釈し、セライトで濾過し、水および食塩水で洗浄した。洗浄した溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、真空吸引により溶媒を除去した。その後、残渣を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒による再結晶で精製した。これにより、4’−ヒドロキシアゾベンゼン−4−ボロン酸ピナコラト(分子量324.19)0.60g(1.9mmol)を得た。収率は93%であった。
【0077】
なお、dppfは配位子1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンを指す。
(S3)メタクリル酸エステル生成
4’−ヒドロキシアゾベンゼン−4−ボロン酸ピナコラト0.61g(1.9mmol)を、塩化メチレン10mlに溶解させ、ピリジン1mlを添加した。この溶液に対し、塩化メタクリロイル(分子量104.54)0.27g(2.6mmol)を加えて、0℃で30分間、室温で1時間撹拌することにより、エステル化反応を行った。
【0078】
メタクリル酸エステルを粗生成物から単離することにより、4’−メタクリロイルオキシアゾベンゼン−4−ボロン酸ピナコラト(分子量392.26)0.58g(1.5mmol)を得た。収率は79%であった。
(S4)加水分解
4’−メタクリロイルオキシアゾベンゼン−4−ボロン酸ピナコラト0.58g(1.5mmol)を塩酸/アセトン混合液中、室温、24時間の条件で加水分解させた。
【0079】
加水分解生成物を粗生成物から単離することにより、分子内にメタクリロイル基とボロン酸基とを有する機能性モノマーとしての4’−メタクリロイルオキシアゾベンゼン−4−ボロン酸(分子量310.12)0.19gを得た。収率は41%であった。
(S5)ボロン酸環状エステルモノマー調製
乾燥塩化メチレン20ml中で、4’−メタクリロイルオキシアゾベンゼン−4−ボロン酸31mg(0.1mmol)と、鋳型分子としての4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシド(分子量301.30)15mg(0.05mmol)とを混合し、18時間撹拌した(図2参照)。
【0080】
溶媒を留去することにより、図2のAに示す、4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシドに対して2分子のボロン酸が環状エステルを形成したモノマー(ボロン酸環状エステルモノマー)(分子量849.41)42mgを得た。収率は100%であった。このモノマーは、更なる精製は行わず、そのまま次のポリマー合成に使用した。
(S6)光感応性インプリントポリマーの調製
ボロン酸環状エステルモノマーを、図2に示すように、重合することで光感応性インプリントポリマーを調製した。
【0081】
重合は、図3に示す操作により行った。すなわち、まず、ボロン酸環状エステルモノマー42mg(0.05mmol)をテトラヒドロフラン0.8mlに溶解し、得られた溶液に、架橋剤としてのジビニルベンゼン195mg(1.5mmol)およびスチレン52mg(0.5mmol)と、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)5mg(0.02mmol)とを加えた。
【0082】
そして、45℃で18時間かけて重合反応を行った。粗生成物を破砕し、メタノールで洗浄・乾燥することにより、ポリマーを単離した。これにより、ポリマー41mgが得られた。
(S7)環状ボロン酸エステルの加水分解
得られたポリマーを、図2および図4に示すように加水分解した。すなわち、得られたポリマーを、5重量%の塩酸を含むアセトン30mlに懸濁させることにより、酸性条件下で16時間かけて環状ボロン酸エステルの加水分解を行った。
【0083】
これにより、鋳型分子4−ニトロフェニル−α−D−マンノピラノシドがポリマーから脱離し、光感応性インプリントポリマーが得られた。
(S8)光感応性インプリントポリマーの紫外・可視吸収スペクトルの変化
光感応性インプリントポリマーに対し、波長331nmの紫外線を15分間照射したところ、図5に示すように、波長330nm付近の吸収(トランス体に起因する)が減少し、波長440nm付近の吸収(シス体に起因する)が増加した。これにより、トランス体が減少してシス体が増加すること、すなわちアゾベンゼン部位の異性化が起こっていることが確認された。
【0084】
なお、図5に示す紫外・可視吸収スペクトルは、光感応性インプリントポリマーをクロロホルム中に懸濁させた状態で測定した。
【0085】
【発明の効果】
本発明によれば、以上のように、標的分子と選択的に結合すると共に、光照射により物理・化学的変化を誘導できる光感応性を持ち、標的分子に対する吸脱着を光で制御可能な新規分子認識ポリマーを提供できる。
【0086】
この分子認識ポリマーは、固相抽出の際、溶媒を変える煩雑な操作を行うことなく、光のON−OFFあるいは波長変更により標的分子の濃縮および回収が繰り返し行えるので、標的分子を固相抽出するための分離剤として極めて有用であると考えられる。また、固相抽出における溶媒の交換を不要としたことで、自動化が容易な固相抽出系を構築できる。
【0087】
また、ドーパミン等の薬剤を標的分子とする分子認識ポリマーは、薬剤を担持して輸送し、光によるON−OFFにより薬剤を吸脱着可能であると考えられるため、ドラッグデリバリーシステムへの応用が期待できる。
【0088】
また、本発明の製造方法によれば、上記の新規分子認識ポリマーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における分子認識ポリマーの製造方法を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例における分子認識ポリマーの製造方法を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例における分子認識ポリマーの製造方法における、重合工程および脱離工程の操作・条件を示す図である。上記の図である。
【図4】本発明の他の実施例における分子認識ポリマーの製造方法の一工程を示す図である。
【図5】アゾベンゼン部位を持つ光感応性インプリントポリマーに対し、紫外線を照射したときの紫外・可視吸収スペクトルの変化を示す図である。
【図6】本発明の一形態における光感応性インプリントポリマーの分子認識能が外部刺激(光)により変化する様子を示す図である。
Claims (9)
- 標的分子に対して特異的にかつ可逆的に結合する官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有し、
上記官能基は、標的分子に対して特異的に可逆的な共有結合を形成する共有結合性官能基を含み、
上記共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体を調製する調製工程と、
上記不飽和単量体と標的分子とを可逆的な共有結合により結合させる結合工程と、
標的分子と結合した不飽和単量体を架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法によって得られたことを特徴とするインプリントポリマー。 - 上記標的分子は、複数の水酸基を有し、
上記共有結合性官能基は、標的分子が有する複数の水酸基との結合によって環状のボロン酸エステルを生成するボロン酸基を含むことを特徴とする請求項1記載のインプリントポリマー。 - 標的分子に対して特異的にかつ可逆的に結合する官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有し、
上記官能基は、標的分子に対して特異的に可逆的な非共有結合を形成する非共有結合性官能基を含み、
上記非共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体を調製する調製工程と、
上記不飽和単量体を、標的分子の存在下で架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法によって得られたことを特徴とするインプリントポリマー。 - 標的分子に対して特異的にかつ可逆的に結合する官能基と、光照射により異性化する光感応性部位とを有し、
上記官能基は、標的分子に対して特異的に可逆的な非共有結合を形成する非共有結合性官能基を含み、
上記標的分子は、水酸基を有し、
上記非共有結合性官能基は、標的分子の水酸基に対して特異的に可逆的な水素結合を形成する水酸基を含み、
上記光感応性部位および水酸基を有する不飽和単量体と、上記水酸基を有する標的分子との炭酸エステルを調製する調製工程と、
上記炭酸エステルを架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から、脱炭酸により標的分子を脱離させ、不飽和単量体由来の水酸基を遊離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法によって得られたことを特徴とするインプリントポリマー。 - 上記光感応性部位は、アゾベンゼン部位を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリントポリマー。
- 上記光感応性部位は、スピロピラン部位を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリントポリマー。
- 請求項1記載のインプリントポリマーの製造方法であって、
上記共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体を調製する調製工程と、
上記不飽和単量体と標的分子とを可逆的な共有結合により結合させる結合工程と、
標的分子と結合した不飽和単量体を架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法。 - 請求項3記載のインプリントポリマーの製造方法であって、
上記非共有結合性官能基および光感応性部位を有する不飽和単量体を調製する調製工程と、
上記不飽和単量体を、標的分子の存在下で架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から標的分子を脱離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法。 - 請求項4記載のインプリントポリマーの製造方法であって、
上記光感応性部位および水酸基を有する不飽和単量体と、上記水酸基を有する標的分子との炭酸エステルを調製する調製工程と、
上記炭酸エステルを架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から、脱炭酸により標的分子を脱離させ、不飽和単量体由来の水酸基を遊離させる脱離工程とを含むインプリントポリマーの製造方法。
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