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JP4084099B2 - N−アセチルヘパロサン画分の製造方法 - Google Patents
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N−アセチルヘパロサン画分の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はN−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液等の未精製または粗精製のN−アセチルヘパロサン溶液から得られる高純度で均一な、すなわち、分子量分散度が低いN−アセチルヘパロサン、該N−アセチルヘパロサンを高純度に含むN−アセチルヘパロサン画分およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
以下本明細書中の糖及び糖残基の表記においては特に明記しない限り光学異性体はすべてD体を示すものとする。
N−アセチルヘパロサンはβ-Dグルクロニル-1,4-α-N−アセチル-Dグルコサミニル(1,4))の二糖単位の繰り返し構造を特徴とするグリコサミノグリカンであり、大腸菌のある種の細菌によって産生され、抗原K5と呼ばれるきょう膜多糖としても知られている(Eur. J. Chem 1981,vol116,359-364)。この多糖はヘパリンの前駆物質であるとされており、N−アセチルヘパロサンが一部脱N−アセチル化された後に硫酸化され、グルクロン酸がイズロン酸に変換されたのち、イズロン酸、N−アセチルグルコサミンの特定の部分がランダムに硫酸化されることによりヘパリンとなる。ヘパリンは有用な抗凝固作用及び抗血栓作用をもち医薬品として用いられている。しかしながら、一般的には原料をウシやブタなどの動物の臓器に頼らざるを得ないため病原性ウイルスやプリオンタンパク質の汚染の危険性を避けがたいという難点がある。
【0003】
動物臓器に頼らないヘパリンあるいはヘパリン類似物質は上記の通り有用性が高く、その工業的な製造について鋭意研究がなされている。例えば大腸菌K5の培養液よりN−アセチルヘパロサンを得たのち化学的に硫酸化を施し、抗凝固活性を有する擬似ヘパリンを作成する試みがなされている(特開平5-271305)。
【0004】
外にも大腸菌K5の培養液からN−アセチルヘパロサンを精製する試みは種々なされている。Vannらは培養液中にセタボロン(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド hexadecyltrimethylammonium bromide)を加えN−アセチルヘパロサンを回収し、続いて塩化カルシウム溶液中でN−アセチルヘパロサンを抽出し、フェノール抽出を繰り返して精製する方法を報告している(Eur. J. Biochem 1981)。この方法により50Lの培養液から1〜3グラムのN−アセチルヘパロサンが精製される(Methods in Enzymology, 1994)。
【0005】
又、Manzoniらは大腸菌K5の培養液を限外ろ過装置により濃縮し、エタノールを添加することによりN−アセチルヘパロサンを沈殿せしめ、プロナーゼで消化した後、透析とエタノールを添加することによる沈殿工程を繰り返して精製する方法を報告している(J. Bioactive compatible polymers 1996)。更に、彼らは培地組成と培養装置の改良をおこない1Lの培養液から350-400mgのN−アセチルヘパロサンの製造を可能にした。このN−アセチルヘパロサンは不純物であるタンパク質を12-16%含有していると報告されている(Biotechnology letters 2000)。これら従来の精製例の中には、大腸菌を不活性化させる目的で熱処理を行っている場合もあるが、本発明のようなN−アセチルヘパロサンの回収率を増加させる意図で熱処理を行った例はない。
【0006】
従来の方法では、培養液を精製した後、種々の複雑な工程によってのみN−アセチルヘパロサンを精製するより他になかった。精製しうるN−アセチルヘパロサンの量は培養液1Lあたり350-400mg程度であるが、その精製品中にはタンパク質が12-16%と比較的大量に含まれ、例えば医薬品のような高純度を要求される用途には適さない。また、従来報告されているN−アセチルヘパロサンの分子量分布は特開平5-271305あるいはJ. Bioactive compatible polymers(1996) vol.11 p301に示されるごとく単分散ではなく、複数のピークを有する多分散の様相を呈している。分子量がある一定の範囲に限定されることはN−アセチルヘパロサンの物性をより一定に保てるという利点があり、また期待される生理活性がより均一のものとなる可能性を強める。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、分子量分散度が低いN−アセチルヘパロサンおよび該N−アセチルヘパロサンを高純度に含むN−アセチルヘパロサン画分の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記実状に鑑み鋭意検討を重ねた結果、比較的簡便な手法でもって分子量分散度の低いN−アセチルヘパロサンを高純度に含むN−アセチルヘパロサン画分を回収率よく精製することに成功し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕N−アセチルヘパロサンと微生物由来成分を有する溶液からN−アセチルヘパロサン画分を製造する方法であって、該溶液に対してアルカリ処理した後、中和処理し、有機酸塩の存在下でアルコール分画を行って画分を得る、N−アセチルヘパロサン画分の製造方法。
〔2〕N−アセチルヘパロサンと微生物由来成分を含有する溶液が、N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液である、〔1〕の製造方法。
〔3〕N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌がK5菌株である、〔2〕の製造方法。
〔4〕N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液が、該大腸菌の培養液に対して80〜121℃の熱処理を行った後、固液分離を行って得られる上清である、〔2〕と〔3〕の製造方法。
〔5〕N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液が、該大腸菌の培養液に対して80〜121℃の熱処理を行った後、固液分離を行って得られる上清において、さらに、N−アセチルヘパロサン画分と低分子成分を分離する膜処理が施されることにより、該低分子成分が除去された溶液である、〔2〕〜〔4〕の製造方法。
〔6〕熱処理の温度が90〜121℃である、〔4〕と〔5〕の製造方法。
〔7〕有機酸塩が酢酸ナトリウムである、〔1〕〜〔6〕の製造方法。
〔8〕酢酸ナトリウムの溶液における終濃度が、5〜15%(重量/容量)である、〔7〕の製造方法。
〔9〕アルコールがエタノールである、〔1〕〜〔8〕の製造方法。
〔10〕エタノールの溶液における終濃度が、30〜50%(容量/容量)である、〔9〕の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)N−アセチルヘパロサン
N−アセチルヘパロサンは天然の多糖類であり、他の多糖類と同様、一定範囲の分子量を有する分子の集合体である。このため、その重量平均分子量の測定は、多糖類の分子量測定の通常の方法、例えば、ゲルろ過、光散乱、立体排除クロマトグラフィー、極限粘度、沈降平衡などの方法を用いて行うことができる。本発明のN−アセチルヘパロサンの重量平均分子量は、後述する高速液体クロマトグラフィーを用いたゲルろ過クロマトグラフィー法で測定を行った場合、35、000〜45,000の範囲を示す。
【0011】
以下、本明細書中において、重量平均分子量(Mw)は、特に、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲルろ過クロマトグラフィー法を用いて測定を行った場合の分子量(Biochem. Biophys. Acta., 1117, 60-70, 1992)を表す。
また、後述する多角度光散乱法で測定した場合、重量平均分子量の範囲は、50,000〜70,000である。
【0012】
本発明のN−アセチルヘパロサンの分子量分散度を示す方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー法による重量平均分子量(Mw)を同様の方法で測定した数平均分子量(Mn)で割る(重量平均分子量/数平均分子量;Mw/Mn)方法、積分値を用いる方法などが挙げられる。
【0013】
本発明のN−アセチルヘパロサンの分子量分散度は、重量平均分子量/数平均分子量で計算した場合、1.1〜1.9である。
尚、数平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィ法による重量平均分子量の測定と同様の方法を用いて行い、得られた数値をデータ解析ソフトウェア にて解析を行うことにより得られる。
【0014】
(2)N−アセチルヘパロサン画分
本発明のN−アセチルヘパロサン画分は、(1)に記載した特定の平均分子量および特定の分子量分散度を示す本発明のN−アセチルヘパロサンを含む高純度かつ均一な調製物であり、核酸含量は0.1%以下、かつ、遊離アミン含量は0.03μM/mg以下である調製物である。
【0015】
核酸含量の測定は、紫外および可視部の分光光度測定法やエチジウムブロマイド(EtBr)比色定量法などを用いて行うことができるが、EtBr比色定量法を用いた測定法によることが好ましい。遊離アミンの定量はYoshizawaらに報告された2,4,6-TNBS方法(Biochemica et Biophysica Acta.(1967)141, 358-365)を用いて測定することができる。
【0016】
(3)N−アセチルヘパロサン画分の製造法
本発明の特定の物性を有するN−アセチルヘパロサン画分は、下記段階A〜Eによって製造することができる。
(段階A)大腸菌の培養
N−アセチルヘパロサン画分を調製するには、例えばN−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌(Escherichia coli)を培養し、培養物から精製する方法によることができる。本発明で用いるN−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌(Escherichia coli)は特に限定されるものではないが、例えば、K5菌株もしくは該菌株と実質的に同一の性質を有する菌株などが挙げられ、K5菌株としては、当業者が容易に入手可能な標準菌株を使用することができる。
【0017】
例えば、E.coli. SEBR3282株(CNCM No.I-1013)、Bi626-42株;012:K5(L):NM)(ATCC (アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)No.23508)、O10:K5(L):H4(ATCC No. 23506)などが挙げられ、E.coli.O10:K5(L):H4(ATCC No.23506)を用いることが特に好ましい。
【0018】
また、培養に用いる培地は、大腸菌の培養に適した炭素源、窒素源、その他消泡剤等を含むものであればよく、特にグリセリンに富んだ培地を使用することが好ましい。
【0019】
大腸菌の培養条件は培養液中にN−アセチルヘパロサンが蓄積される条件であれば特に限定されないが、通常、15〜40℃で15〜24時間、好ましくは37℃、15時間の条件が挙げられる。
【0020】
(段階B)熱処理および固液分離
段階Aで得られた培養液をそのまま熱処理し、次いで固液分離を行う。この熱処理は、N−アセチルヘパロサンが分解せず、収率向上に寄与する方法および温度条件で行う限り限定されないが、通常、80〜200℃の温度条件で加熱すればよく、例えば、オートクレーブで行うことがで出来る。オートクレーブで熱処理する場合、熱処理条件は、90-121℃で5-30分間が好ましく、121℃で5-20分間がより好ましい。この熱処理によって培養液からより多くのN−アセチルヘパロサン画分を精製することが可能となる。
【0021】
熱処理後、通常は常温となるまで冷却または放冷し、固液分離処理を行う。固液分離は菌体等の固形物を除去できる方法であれば限定されず、遠心分離によっても良いし、適当なろ過助剤を用いたろ過に依っても良い。
【0022】
(段階C)膜処理
培養液に含まれる不必要なアミノ酸や塩類などの低分子成分を除去するため、膜処理を行う。本発明においては、膜処理はN−アセチルヘパロサン画分と培養液中の低分子成分を分離できる膜および処理方法を用いて行えばよく、例えば、限外ろ過により行うことができ、分子量10000カットの膜を用いた限外ろ過が好ましい。場合によっては市販のセルロース製等の透析チューブによる透析によっても同様の効果を得られる。
【0023】
(段階D)アルカリ処理
N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液等に段階A〜Cの処理を施した粗精製のN−アセチルヘパロサン画分を含む溶液などのN−アセチルヘパロサンと微生物由来成分を含有する溶液をアルカリ溶液に接触させる。この処理によりN−アセチルヘパロサン画分の純度が格段に上昇する。
【0024】
アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、これらをN−アセチルヘパロサン画分を含む溶液に添加することにより溶液のpHを13以上にする。この中でも、水酸化ナトリウム溶液を用いることが特に好ましい。
【0025】
アルカリ溶液の濃度は終濃度0.1N以上が好ましく、0.5Nがより好ましい。又、アルカリ処理する際に40℃になるように加熱しかつ、十分に撹拌されることが好ましい。又、pH13以上の強塩基性条件下ではβエルミネーション反応によってN−アセチルヘパロサン構造が破壊されるおそれがあるため、反応時間は1時間以下とすることが好ましい。1時間以上の反応を行っても得られるN−アセチルヘパロサン画分の純度に変化はないが、収率が低下する恐れがある。
【0026】
このように処理されたN−アセチルヘパロサン画分を含む溶液は速やかに塩酸などの酸溶液で中和する。ここで、難溶解性の不純物が生じる場合には、ろ過、遠心等の固液分離手段によって不純物の除去を行うか、もしくはラジオライト(昭和化学工業(株))などの珪藻土をろ過助剤とする加圧または減圧ろ過を実施する。
【0027】
(段階E)アルコール分画
上記段階Dで得られた溶液について、アルコール分画を行いタンパク質、核酸等の不純物を除去する。アルコール分画は、多糖類の分画法として公知の方法、すなわち、一定濃度の塩を添加溶解した後、その塩を含む溶液を撹拌しつつアルコールを徐々に添加することによって行われる。
【0028】
この際添加する塩は有機酸塩であれば特に限定されないが、とりわけ酢酸ナトリウムが好ましい。特に、酢酸ナトリウムの場合、溶液の終濃度が5〜15%(重量/容量%)となるように添加することが好ましい。これよりも低い塩濃度では不純物の除去程度が低下する傾向にある。
【0029】
又、使用するアルコールはエタノール、メタノール、イソアミルアルコールなどが挙げられるが、特にエタノールが好ましい。さらに、エタノールを用いる場合、溶液の終濃度が30〜50%(容量/容量%)となるように添加することが好ましく、30%が更に好ましい。これ以上のエタノールを添加すると、回収量は多くなるが分子量分散度並びに蛋白質含有量、核酸含有量が高くなる傾向にある。
エタノール分画後、遠心分離等の固液分離手段により上清と沈殿部分を分離し、沈殿部分を適当量の水に溶解して脱塩を行う。
【0030】
大量処理に適した脱塩方法としては、適当な濃度のアルコールでの分画、すなわち終濃60%-80%になるように前述の沈殿溶解液にアルコールを添加し、遠心分離して上清を除去する工程を繰り返す方法が挙げられる。通常この操作を2〜3回繰り返すことにより、十分な脱塩効果が得られる。
しかしながら最終精製品の用途に応じて透析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィーなどの方法適宜組み合わせて脱塩を行うこともできる。
【0031】
尚、上述の個々の工程は上述の順序で行うことがもっとも好ましいが、目的に応じて順序を入れ替えることも可能である。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<大腸菌K5菌株の培養>
菌株は、E.coli serotype 010:K5(L):H4(ATCC No.23506)を用い、下記の条件にて培養を行った。
【0033】
カザミノ酸2%、酵母エキス0.5%、グルコース0.2%、アデカノールLG-109(商品名;旭電化工業(株))100ppmになるように水道水3Lに溶解し121℃、20分間、1.2気圧の滅菌を行い、培地を調製した。この培地に20%グリセロール保存菌液を1ml植え付け通気量1vvm 、撹拌速度500rpm、37℃で15時間培養した。
【0034】
<熱処理工程>
15時間培養後、培養液を121℃、15分、1.2気圧でオートクレーブし、常温になるまで自然放冷させ、10000×g、4℃で35分間遠心分離し、熱処理培養上清約2.7Lを得た。
【0035】
<限外ろ過工程>
熱処理培養上清を分画分子量10000のスパイラルフィルターカートリッジ(日本ミリポア(株))に通液して限外ろ過し、更に上清の10倍容の水を追加しながら限外ろ過を継続し、熱処理培養上清の濃縮並びに低分子画分の除去を行った。
【0036】
<アルカリ処理工程>
培養上清6ロット分(約16L)を前記工程で処理して約900mLに濃縮したものに39分の1容量の20N 水酸化ナトリウム水溶液を加え、40℃に保温しつつ撹拌を続けた。1時間後濃塩酸で中和し、不溶性の不純物をラジオライト#500(昭和化学工業(株))を用いてろ過してろ液を回収した。
【0037】
<エタノール分画工程>
ろ液に終濃度15%となるように酢酸ナトリウム(特級;和光純薬工業(株))を溶解した。この溶液を撹拌しつつ、終濃度30%になるようにエタノール(特級;和光純薬工業(株))を少量ずつ滴下し、N−アセチルヘパロサン画分の沈殿を得た。
滴下終了後から更に5分間撹拌した後、5000×gで15分間遠心分離し、上清をデカンテーションによって分離し、沈殿を得た。
【0038】
<脱塩工程>
沈殿を少量の水に溶解し、終濃度60%になるようにエタノールを撹拌しながら加えた。更に5分間撹拌した後、5000×gで15分間遠心分離し、上清をデカンテーションによって分離し、N−アセチルヘパロサン画分の沈殿を得た。この作業を更にもう一回繰り返した。
【0039】
更に終濃度80%になるようにエタノールを撹拌しながら加えた。更に5分間撹拌した後、5000×gで15分間遠心分離し、上清をデカンテーションによって分離し沈殿を得た。
沈殿を適当量の水に溶解し、凍結乾燥に付し、4gのN−アセチルヘパロサン画分凍結乾燥品を得た。
【0040】
[実施例2]
〈更に高純度のN−アセチルヘパロサン画分を得るための工程〉
痕跡量混入しているおそれのある金属イオン等の遊離イオンを除去するため、実施例1で得たN−アセチルヘパロサン画分凍結乾燥品を以下の工程によって更に精製した。
【0041】
すなわち、陽イオン交換樹脂ダイヤイオンPK220および陰イオン交換樹脂ダイヤイオンSA-12A(いずれも三菱化学(株))各30mlをそれぞれ2N塩酸および2N水酸化ナトリウム水溶液で再生し、十分量の純水で洗浄した。
【0042】
次いで、実施例1で得たN−アセチルヘパロサン画分凍結乾燥標品を1%になるように純水で溶解し、上記の陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂のカラムに、この順に連続して流速10ml/minで通液し、通過後の溶液を速やかに水酸化ナトリウム水溶液で中和し、0.22μmのフィルターでろ過し、凍結乾燥した。高純度N−アセチルヘパロサン画分の回収率は96%であった。
【0043】
[実施例3]
〈N−アセチルヘパロサンの物性試験〉
実施例2で得られた高純度のN−アセチルヘパロサン画分及び該画分中に含まれるN−アセチルヘパロサンの物性を以下の方法で測定した。
【0044】
(ゲルろ過クロマトグラフィーによる重量平均分子量および数平均分子量の測定)
ゲルろ過クロマトグラフィーによる重量平均分子量の測定は、Araiらの方法(Biochem. Biophys. Acta, 1117, 60-70, 1992)に準拠して測定した。分子量が既知のコンドロイチン硫酸ナトリウム(重量平均分子量39100、18000、8050;いずれも生化学工業(株))およびヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量104000;生化学工業(株))を標準品として高速液体クロマトグラフィーを用いたゲルろ過クロマトグラフィーでの溶出時間により重量平均分子量を決定した。
【0045】
カラムは、TSK gel G4000PWXL、G3000PWXLおよびG2500PWXL(各φ7.8×300mm、東ソー(株))を連結したものを用いた。溶媒は0.2mol/L塩化ナトリウム溶液を用い、流速は0.6ml/分とし、検出器は示差屈折率検出器(RI-8020、東ソー(株))を用いた。その結果得られたクロマトグラフィーのパターンを図1に示す。得られた数値をデータ解析ソフトウェア (GPC-8020 東ソー(株))で解析した結果、ゲルろ過クロマトグラフィー法によって測定した重量平均分子量(Mw)は44,710、また、数平均分子量(Mn)は36,714であった。
【0046】
(分子量分散度の計算)
図1の結果をもとにデータ解析ソフトウェア (GPC-8020;東ソー(株))で解析した結果、分子量分散度(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))は1.212であった。
【0047】
(多角度光散乱による重量平均分子量測定)
多角度光散乱法による分子量は、検出器に示差屈折率検出器(Shodex RI-71、昭和電工(株))及び多角度光散乱検出器(WyattDDAWN EOS;Wyatt Technology Corporation)を使用し、ASTRAソフトウエア(Wyatt Technology Corporation)のジムプロットモジュールを用いて解析を行い決定した。
【0048】
カラムはSB-806HQ(φ8×300mm;昭和電工(株))2本を連結し、溶媒は0.2mol/L硝酸ナトリウム溶液を用いて、流速は0.6ml/分とした。データ取り込み間隔は1秒間に二回とした。
【0049】
光散乱検出器の測定電圧値(LS)は
(LS)=(dn/dc)2 X 濃度 X 重量平均分子量 X KLS
→重量平均分子量=(LS) / {(dn/dc)2 X 濃度 X KLS
dn/dc=試料1gあたりの屈折率増加分(mgl/g)
KLS=装置定数(トルエンにより校正)
【0050】
濃度は示差屈折率検出器の測定電圧値(RI)より以下の式により求めた。
(RI)= (dn/dc) X 濃度 X KRI
→濃度= (RI) / {(dn/dc) X KRI
ここでKRIは示差屈折率検出器の装置定数でプルランにより校正した。
【0051】
N−アセチルヘパロサンのdn/dcはヒアルロン酸により求められた定数0.159ml/gを用いて計算した。
その結果、多角度光散乱法によって測定したN−アセチルヘパロサンの重量平均分子量は約63000であった。
【0052】
(核磁気共鳴(NMR)スペクトルによる構造解析)
N−アセチルヘパロサンのプロトンおよび13C炭素NMRスペクトルの結果を図2および図3に示す。これらの結果は実施例2で得られた高純度N−アセチルヘパロサン画分に含まれるN−アセチルヘパロサンがN−アセチルヘパロサン構造を有することを強く指示するものであった。
【0053】
(セルロースアセテート膜電気泳動)
セルロースアセテート膜電気泳動をHataらの方法(Anal. Biochem 45,462-468 (1972) )に準じて行い、N−アセチルヘパロサンの純度を確認した。
【0054】
すなわち、セルロースアセテート膜(富士写真フィルム(株))に実施例2で得られたN−アセチルヘパロサン画分10mg/ml水溶液1μLを1cmの長さの線上に塗布し、0.1Mピリジン−蟻酸水溶液(pH3)を泳動用緩衝液として電流0.5mA/cmで30分間泳動した。泳動後、セルロースアセテート膜を2%酢酸を含む0.5%アルシアンブルー水溶液で15分間染色し、2%酢酸で脱色した。
このようにして得られたN−アセチルヘパロサンのバンドの位置はヒアルロン酸(生化学工業(株))の泳動位置とほぼ同一かつ単一バンドであった。
【0055】
(カルバゾール定量)
D-グルクロノラクトン 20μg/ml水溶液を標準品として使用し、カルバゾール硫酸法(Bitter-Muir法,T. Bitter, H. Muir, Anal. Biochem. J, 4, 330-334 (1962))でウロン酸含量を測定した。N−アセチルヘパロサンの呈色値は同量のヒアルロン酸の呈色値を100%としたとき89.5%であった。
【0056】
(核酸)
EtBr比色定量法によって実施例2の高純度N−アセチルヘパロサン画分の核酸含量を測定したところ、0.09%であった。
【0057】
(タンパク質定量)
ウシ血清アルブミンを標準物としたLowry法(Lowry J.ら, J. Biol. Chem. 193, 265-275, (1951))によって実施例2のN−アセチルヘパロサン画分中のタンパク質の含量を測定したところ、2.38%であった。
【0058】
(遊離アミンの定量)
遊離アミンの定量はYoshizawaらにより報告された2,4,6-TNBS法(Biochemica et Biophysica Acta. (1967)141, 358-365 )により行った。標準品としてN−アセチルD-グルコサミンを用いた。実施例2のN−アセチルヘパロサン画分中に含まれる遊離アミンのモル数は0.026μM/mgであった。
【0059】
[実施例4]
〈熱処理を行った場合と行わなかった場合の培養上清中に含まれるN−アセチルヘパロサン量〉
熱処理を行った場合と行わなかった場合の培養上清中に含まれるN−アセチルヘパロサン量を比色定量法により比較した。
【0060】
すなわち培養液を4等分し、121℃ 5分、90℃ 30分、80℃ 30分の熱処理を行ったもの、および熱処理をしなかったものを同様に遠心分離して培養上清を得た。これら培養上清中のヘパロサン量をHomer K. A. ら(Analytical Biochemistry 214,435-441 1993)の方法に準じて比色定量した。標準品は実施例2の高純度N−アセチルヘパロサン画分を用いた。
結果を以下の表1に示す。
【0061】
【表1】
Figure 0004084099
【0062】
熱処理、特に121℃ 5分間の熱処理を行った場合において、多くのN−アセチルヘパロサン画分を培養上清中に回収できることが確認された。該上清中に含まれるN−アセチルヘパロサン量は熱処理しない場合の約1.7倍であった。
【0063】
[実施例5]
〈アルカリ処理を行った場合と行わなかった場合におけるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度の比較〉
アルカリ処理を行った場合と行わなかった場合におけるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度の比較は以下の様におこなった。すなわち、大腸菌K5菌株を実施例1に準じて培養し、その培養液を121℃ 5分間熱処理した後、遠心分離し熱処理培養上清を得、次いで分子量1万カットの膜を用いた限外ろ過に供し、低分子画分を除去した。この溶液を2等分し、片方には最終濃度0.5Nになるように20N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、40℃で一時間攪拌した。1時間後室温に冷却し塩酸で中和した。
【0064】
次に、培養液量に対し15%重量の酢酸ナトリウム(和光純薬(株))を溶解した後4等分し、それぞれに終濃度30%、40%、50%、60%になるようにエタノールを攪拌しながら添加し、N−アセチルヘパロサン画分を沈殿せしめた(表2中、2-A、2-B、2-C、2-Dに対応)。
【0065】
また、2等分したもう一方についてはアルカリ処理は行わず、上記と同様に培養液量に対し15%重量の酢酸ナトリウムを溶解し、同様の操作を行い、N−アセチルヘパロサン画分を沈殿せしめた(表2中、1-A、1-B、1-C、1-Dに対応)。
【0066】
沈殿物を回収し適当量の水に溶解し、上述の分子量分布を求める際と同条件で高速液体クロマトグラフィーにより分子量分布を調べた。結果を図4に示す。
尚、それぞれのサンプルの名称は表2の通りである。
【0067】
【表2】
Figure 0004084099
【0068】
0.5Nの水酸化ナトリウムに培養液を接触させるいわゆる、アルカリ処理を実施した後、15%重量/容量の酢酸ナトリウムで中和し、終濃度30%のエタノールを添加して回収した沈殿物(2-A)は、単分散の示差屈折率を与えた。
【0069】
2-Aをへパリナーゼ(生化学工業(株))で分解し、同様に液体クロマトグラフィー(TSLgel G4000PWXL、G3000PWXLおよびG2500PWXL(各φ7.8×300mm、東ソー(株))を連結したもの)で分析したところ約27分から33分にかけてのピークが消失したことから2-Aの本態はヘパリン骨格を有する物質であることが証明された。
【0070】
[実施例6]
〈アルカリ処理条件ならびに分画条件によるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度の変化〉
アルカリ処理条件ならびに分画条件によるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度を比較するために以下の実験を行った。
【0071】
実施例1に準じて得た大腸菌K5菌株の培養液を121℃ 5分間熱処理した後、遠心分離し培養上清を得た。この培養上清を実施例1に準じて分子量1万カットの限外ろ過に供し、低分子画分を除去した。この溶液を3画分に分け、うち2画分には最終濃度0.5N、0.1Nになるように20N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、残り1画分には何も添加せずに40℃で一時間攪拌した。
【0072】
1時間後室温に冷却し、水酸化ナトリウムを添加した画分については塩酸で中和した。各画分をさらに2つに分割し、0.4%(重量/容量)の塩化ナトリウム(和光純薬工業(株))あるいは15%(重量/容量)の酢酸ナトリウム(和光純薬工業(株))を溶解した。
【0073】
0.4%(重量/容量)の塩化ナトリウムを添加した場合には30%、40%、50%、66%、15%(重量/容量)の酢酸ナトリウムを添加した場合には20%、30%、40%、50%の終濃度になるようにエタノールを攪拌しながら添加し、N−アセチルヘパロサン画分を沈殿させた。
【0074】
沈殿物を遠心分離にて回収し、適当量の水に溶解して高速液体クロマトグラフィー分析(上述の分子量分布を求める際と同条件)により、N−アセチルヘパロサン画分に含まれるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度を求めた。コントロールとしてエタノールを添加しない検体を同様に分析した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
Figure 0004084099
【0076】
表中、NaOHは水酸化ナトリウムを、NaClは塩化ナトリウムを、AcONaは酢酸ナトリウムを、EtOHはエタノールをそれぞれ示す。
【0077】
アルカリを添加する工程を実施しなければ、いずれの塩あるいはエタノール濃度でも分子量分散度は5以上となった。
表3中で分子量分散度が2以下となるのは0.1Nあるいは0.5Nのアルカリ処理工程を実施したもので、かつ15%(重量/容量)の酢酸ナトリウムを添加し終濃度30〜50%エタノールで分画した場合である。
【0078】
特開平5-271305(先行技術)で開示されているN−アセチルヘパロサンの製造法は本発明と同じくアルカリ処理工程とエタノールにより分画する工程を含むが、アルカリ処理工程は終濃度0.1Nの水酸化ナトリウムを添加するものであり、エタノール分画によりN−アセチルヘパロサンを回収する工程は0.4%(重量/容量)の塩化ナトリウムを添加し、終濃度66%のエタノールを添加する条件である。
【0079】
表3に示されるごとく、前記先行技術の条件で得られるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度は2.103であり、本発明の15%(重量/容量)酢酸ナトリウムを添加してN−アセチルヘパロサン画分を回収せしめる工程では終濃度30〜50%の少量の添加エタノールによって、画分中のN−アセチルヘパロサンの分子量分散度2以下を達成できるのに対し、塩化ナトリウムを添加塩とする場合には他のエタノール濃度、あるいは0.5Nアルカリ処理工程を実施することによっても分子量分散度2以下を達成することはできなかった。
【0080】
[実施例7]
〈酢酸ナトリウム添加量とN−アセチルヘパロサンの分子量分散度の比較〉
実施例5と同様の実験を、酢酸ナトリウム添加量を変化させて行った。
実施例5と同様にして培養上清をアルカリ処理後中和し、N−アセチルヘパロサン画分を得た。各画分をさらに3つにわけ5,10,15%(重量/容量)の酢酸ナトリウム(和光純薬工業(株))を溶解した。続けて30%,40%,50%の終濃度になるようにエタノールを攪拌しながら添加し、N−アセチルヘパロサン画分を沈殿させた。
【0081】
沈殿物を遠心分離にて回収し、適当量の水に溶解して高速液体クロマトグラフィー分析(上述の分子量分布を求める際と同条件)により、N−アセチルヘパロサン画分に含まれるN−アセチルヘパロサンの分子量分散度を求めた。結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
Figure 0004084099
【0083】
終濃度0.5Nのアルカリ処理を実施した場合においては15%(重量/容量)酢酸ナトリウム添加でかつ終濃度30〜50%エタノール添加する条件においてはもちろんのこと、10%あるいは5%(重量/容量)酢酸ナトリウム添加によっても終濃度30〜50%エタノール添加によって分子量分散度2以下のN−アセチルヘパロサン含む画分を回収できることが示された。
【0084】
【発明の効果】
本発明により、従来の煩雑な手法を簡略化でき、コストを引き下げ、回収量を増大し、分子量分散度が低いN−アセチルヘパロサンおよび該N−アセチルヘパロサンを高純度に含むN−アセチルヘパロサン画分を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3によるN−アセチルヘパロサンの高速液体クロマトグラフィーによる分子量分布を示す図である。
【図2】N−アセチルヘパロサンのプロトン13C−NMRを示す図である。
【図3】N−アセチルヘパロサンの13C−NMRを示す図である。
【図4】実施例5によるN−アセチルヘパロサンの高速液体クロマトグラフィーによる分子量分布を示す図である。

Claims (10)

  1. N−アセチルヘパロサンと微生物由来成分を有する溶液からN−アセチルヘパロサン画分を製造する方法であって、該溶液に対してアルカリ処理した後、中和処理し、有機酸塩存在下でアルコール分画を行って画分を得る、N−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  2. N−アセチルヘパロサンと微生物由来成分を含有する溶液が、N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液である、請求項1に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  3. N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌がK5菌株である、請求項2に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  4. N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液が、該大腸菌の培養液に対して80〜121℃の熱処理を行った後、固液分離を行って得られる上清である、請求項2又は3に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  5. N−アセチルヘパロサン生産能を有する大腸菌の培養液に由来する溶液が、該大腸菌の培養液に対して80〜121℃の熱処理を行った後、固液分離を行って得られる上清において、さらに、N−アセチルヘパロサン画分と低分子成分を分離する膜処理が施されることにより、該低分子成分が除去された溶液である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  6. 熱処理の温度が90〜121℃である、請求項4又は5に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  7. 有機酸塩が酢酸ナトリウムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  8. 酢酸ナトリウムの溶液における終濃度が、5〜15%(重量/容量)である、請求項7に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  9. アルコールがエタノールである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
  10. エタノールの溶液における終濃度が、30〜50%(容量/容量)である、請求項9に記載のN−アセチルヘパロサン画分の製造方法
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