JP4094017B2 - 高温耐久性に優れるオーステナイト系耐熱材料、耐熱部品およびエンジン周り用耐熱部品 - Google Patents
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Description
「ステンレス鋼便覧 第3版」,ステンレス協会編,第IV編 実用材料 p.607,608
(1)安価でかつ高温耐久性に優れた耐熱材料を得るためには、高価なNiの含有量を、SUS310Sに比較して大幅に低下せしめた上で、Crの含有量を狭小な適正範囲に限定するとともに、Cu,N,C,Si,Mnを適正量添加することが有効である。
(2)耐高温摩擦摩耗特性を改善するには、Cu,N,Ca,REMの添加が有効であり、いずれも摩耗粉の発生、粗い摩耗痕の生成を抑制する効果がある。特に、Ca,REMを単独もしくは複合添加した場合には、微量にも拘わらず著しい効果がある。この効果は、上記元素を添加することにより、ペロブスカイト系酸化クロムを主体とする高温酸化保護皮膜が生成するとともに、皮膜と地鉄との境界におけるボイド(空孔)が低減する結果、密着性が向上することによる。
(3)材料の組織安定性を確保するには、従来から知られているN添加だけでなく、さらに、Si,Cr,Ni,Cu,Cなどの主要成分の含有量を制御し、Ni当量の値を適正範囲に制御する必要がある。
(4)材料の製造性を改善するには、凝固時に生成するδフェライトの量を適正範囲に制御する必要があり、そのためには、δフェライトの予測値δcalが適正範囲となるよう、Si,Cr,C,N,Ni,MnおよびCuの含有量を制御することが重要である。
(5)材料の塑性加工性を改善するには、C,N量の適正化やCu,Ca,REMの添加だけでなく、C,Si,Mn,Ni,Cr,CuおよびNの含有量から予測される硬さHvを適正範囲に制御することが重要である。
(6)また、本発明材料の優れた特性を、500〜1000℃の温度範囲、特にこの範囲内の高温側で有効に発現させるためには、本発明の耐熱材料を用いて製造した部品の表面に硬質層を設ける表面改質処理を施すことが有効である。
本発明は、上記知見に基づき、開発したものである。
記
Ni当量=Ni+0.65Cr+1.05Mn+0.35Si+0.6Cu+25.2C+12.6N ・・・ (1)
δcal=3.2(1.5Si+Cr)−2.5(30C+30N+Ni+0.5Mn+0.3Cu)−24.7 ・・・ (2)
Hv=87C+2Si−1.2Mn−6.7Ni+2.7Cr−2.6Cu+690N+88 ・・・ (3)
本発明の耐熱材料およびこの材料から製造した耐熱部品にとって、高温耐久性は、極めて重要な特性である。ここで、本発明における上記高温耐久性とは、高温引張特性(引張強度、伸び、寸法安定性)、耐酸化性、耐高温摩擦摩耗特性および組織安定性を総称したものである。
図1は、本発明の耐熱材料(後述する実施例の表1の発明材料A、以下、「本発明材料」とも言う)と現用のSUS310Sについて、600〜900℃の温度範囲で引張特性の温度依存性を調査した結果を示したものである。図1から、引張強度の温度依存性は、本発明材料とSUS310Sとの間に特段の差はないものの、各温度における強度は、本発明の方が例外なく大きい。他方、伸びの温度依存性と各温度における伸びについては、両材料間には大きな差がある。例えば、800℃では、SUS310Sの伸びは80%にも達するのに対し、本発明材料では30%程度であることがわかる。この伸びの違いは、両材料の高温における粒内変形と粒界変形のバランスが異なるためと推定される。また、この違いは、高温での使用中における寸法安定性とも関係しており、過度に変形し易いSUS310Sより、適度に変形する本発明材料のほうが、寸法安定性に優れることを示すものである。言い換えれば、このような巨視的な全伸び(破断伸び)の大きな差は、材料内部の局部的な変形量とその不均一性の発現に関与しており、その程度が本発明材料のほうが少ない。このことが、高温使用時の負荷ならびに熱サイクルによる局部変形とその蓄積を減少し、寸法安定性を向上させることになる。なお、本発明材料は、全伸びが800℃でも30%もあるので、オーステナイト系材料に特有の、冷却過程において生じ易い延性低下高温割れに対しても充分な抵抗性をもつものである。
図2は、本発明の耐熱材料(後述する実施例の表1の発明材料A)と現用のSUS310SおよびSUS304を、10vol%水蒸気添加大気雰囲気中で、850℃で30分保持する熱処理を100サイクル行う酸化試験を行ったときの、酸化増量を測定した結果を示したものである。図2から、本発明材料とSUS310Sとでは、耐酸化性に差がないことがわかる。これは、図3に示した、酸化試験後の試料のスケール断面をX線マイクロアナライザーで分析した結果から明らかなように、本発明材料、SUS310Sともに、表面にペロブスカイト系Cr2O3を主体とする保護皮膜が生成しており、これによって、酸素が内方へ拡散するのを抑制しているからである。このことのために、本発明では、Cr量を比較的狭い範囲に限定したのである。なお、図4に示した、酸化試験後の試料のスケール断面を光学顕微鏡で観察した結果からわかるように、本発明材料とSUS310Sとは、酸化の程度が同等であるが、SUS304は、著しく酸化が進行しており、耐熱材料として使用できるような耐酸化性を有していないことがわかる。
本発明材料(後述する実施例の表1の発明材料A)とSUS310Sについて高温摩擦摩耗試験を行った場合、両者ともに焼き付きの発生はなく、また動摩擦係数にも差はなく、ほぼ同等の摩擦特性をもつが、摩耗に関しては両者間で大きな差がある。例えば、800℃の大気雰囲気中で、ピン、ディスクが同材の組み合わせのピン−オン−ディスク試験を行った場合、本発明材料では、全摩耗粉の発生量が0.0045gに過ぎないのに対し、SUS310Sのそれは0.0215gで、本発明材料の約5倍にも達する。また、図5に示した、摩耗痕を走査型電子顕微鏡で観察した結果によると、本発明材料は、遅進行性の微動摩耗が生じているのに対し、SUS310Sでは、進行性の微動摩耗が生じている。また、同図中に示した摩耗痕の表面粗さチャートを比較しても、明らかに本発明材料の粗度は小さく、凹凸も小さい。これらの違いの起こる原因は、本発明の耐熱材料には、Ca,REMが添加され、かつ高N材であることから、表面に生成したペロブスカイト系Cr2O3を主体とする保護皮膜の母材との密着性が、これらの添加元素およびその化合物の存在によって改善されたためと考えられる。この事実は、本発明材料がSUS310Sよりも高温摩耗特性に優れていることを示すものである。
オーステナイト系材料は、成分組成によっては、高温で長時間使用した場合、σ相の生成による材質劣化や、粒界への炭化物析出(鋭敏化)による脆化、あるいは高温腐食を引き起こすことがある。これらの問題を改善するためには、オーステナイト相の安定度を高めて室温や高温での組織安定性を確保する必要がある。そのためには、従来から知られているオーステナト安定化元素であるNの添加だけでは不十分で、下記(1)式;
Ni当量=Ni+0.65Cr+1.05Mn+0.35Si+0.6Cu+25.2C+12.6N ・・・(1)
(但し、各元素記号は、材料中の各元素の含有量(mass%)を示す)
で表されるNi当量の値を適正範囲となるよう、Ni,Cr,Mn等主要成分の含有量を制御する必要がある。
本発明の耐熱材料およびそれから製造した耐熱部品は、上記のように、現用のSUS310Sと比較しても優れた高温耐久性を有する。しかし、その使用条件や使用環境に応じて、耐熱部品に加工した後、表面改質処理を施して表面に硬質層を形成してから、単品としてあるいは組立品として使用するのが好ましい。特に、本発明の耐熱材料が想定している使用温度範囲(500〜1000℃)の上限近傍の温度で使用する耐熱部品に、表面を硬質化する改質処理を施すことは、極めて有効である。上記表面改質の方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、浸炭処理(真空浸炭、プラズマ浸炭、低温浸炭)、浸窒処理(軟窒化を含む)、塩浴処理、拡散浸透処理、物理/化学蒸着、イオンプレーティング、TD処理、DLC処理等、いずれの方法でもよく、耐熱部品に求められる仕様や使用条件、使用環境、製造コストなどを考慮して決定することが好ましい。
上記[1]で述べた、優れた高温特性を有する新しい耐熱材料の開発に当たって考慮すべき重要なことは、材料の製造性と加工性(塑性加工性、機械加工性)である。前者は、材料の製造コストや安定供給性に関係し、後者は、種々の一般耐熱部品やエンジン周り用耐熱部品の製造性に関係するからである。以下、これらの点について具体的に説明する。
500〜1000℃程度の比較的高温度域で使用される耐熱材料SUS310Sは、希少金属で高価なNiを多量に含有しているため、高コストで、世界経済情勢の影響を受けやすいという問題を抱えている。また、製造性にも問題があり、熱間圧延時に割れを起こし易いため、工程負荷の増大や歩留り低下を招いて、さらなる製造コストの上昇原因となっている。そこで、本発明では、Ni含有量を大幅に削減して原料コストを低減するとともに、凝固組織中に生成し、製造性に大きな影響を及ぼすδフェライトの量に着目し、このδフェライトの生成量を適正範囲に制御することにより、製造性の改善を図っている。
δcal=3.2(1.5Si+Cr)−2.5(30C+30N+Ni+0.5Mn+0.3Cu)−24.7 ・・・(2)
(但し、各元素記号は、材料中の各元素の含有量(mass%)を示す)
で予測することができる。
発明者らは、このδcalと製造性(ここでは、熱間圧延材の表面欠陥(割れ)の発生率を採用)との関係を調査した結果、図9に示すように、δcalが0.5〜8.0の範囲で、製造性が良好となり、δcalを上記適正範囲となるよう、オーステナイト相生成元素であるNi,Cu,C,N、およびフェライト相生成元素であるCr,Siの組成を制御することによって、現用のSUS310Sに比べて大幅な製造性の改善が実現できることを見出した。
現用のSUS310Sが製造性に劣る理由は、鋳造後の凝固組織が、δフェライト相の生成しないオーステナイト(γ)単相組織であり、δフェライト相に優先的に固溶する不純物元素がγ相中に残存し、P,Sの粒界偏析が著しくなる結果、凝固割れや熱間加工時の割れの発生頻度が、凝固組織が(δフェライト+γ)相となる材料よりも高くなるためである。したがって、鋳造時における凝固割れや熱間加工時の割れを防止し、優れた製造性を確保するためには、凝固組織中に、ある程度の、つまりδcalが0.5以上で実現しうるδフェライト相の存在する(δフェライト+γ)二相組織とする必要がある。
本発明の耐熱材料を用いて耐熱部品を製造する場合には、材料に何らかの塑性加工を加える必要がある。塑性加工の方法は、変形モードによって種々に分類されるが、本発明が対象とする耐熱部品の場合には、主に、伸びフランジ成形、縮みフランジ成形や分離加工(打抜加工)等が多く行われている。このうち、前2者の加工性については、C,N量の制御および結晶粒組織の調整のほかに、Cuの適正量(0.5〜4.5mass%)の添加、Hvの上限値規制が有効であり、これによって、SUS310Sなどのオーステナイト系ステンレス鋼と同等の加工性が得られる。Cu添加によって塑性加工性が改善される理由は、Cuが積層欠陥エネルギー(面欠陥生成エネルギー)を増大する元素であるためと考えられる。
Hv=87C+2Si−1.2Mn−6.7Ni+2.7Cr−2.6Cu+690N+88 ・・・(3)
(但し、各元素の記号は、材料中の含有量(mass%)を示す)によって、材料の成分組成から計算される値である。
なお、打抜加工性については、Ni低減による粘性低下、Caおよび/またはREMの添加が有効であるが、Hvの制御も重要であり、特に、切断面のダレの発生を抑制し、加工後の手入れ省略あるいは簡素化を実現するためには、ある程度の硬さが必要であり、また、切断面のバリの発生を抑制し、加工後の手入れを簡略化するには、硬さが小さい方が望ましいから、上限値および下限値の双方を規制する必要がある。
一方、機械加工性(主に、切削加工性)の改善については、Caおよび/またはREMの添加が有効である。その理由は、Caおよび/またはREMの添加によって非金属介在物の形態制御がなされること、これらの微量酸化物の生成によって切削工具の先端に形成される構成刃先の出現が抑制されることによって、平面切削性や、ドリル穴あけ、ホーニング加工などの研削性や研摩性が改善されるためである。
本発明材料において、[1]の高温特性および[2]のプロセス技術において述べた新規な現象、知見を発現させるために必要な成分組成と各種パラメータについて説明する。
(1)成分組成の限定理由
C:0.02〜0.07mass%
Cは、オーステナイト組織を安定化する元素であり、高温強度を確保するためにも必要な元素である。それらの効果を得るためには、少なくとも0.02mass%の添加が必要である。しかし、0.07mass%を超えて添加すると、硬さの増加による塑性加工性の劣化や炭化物析出による組織の不安定化を招くので、0.07mass%以下とする。
Siは、脱酸に必要な元素であり、さらに耐酸化性を向上させる元素である。それらの効果を得るためには、少なくとも0.2mass%の添加が必要である。しかし、1.7mass%を超えて添加すると、連続鋳造時に割れが発生しやすくなる他、σ相の生成を促進したり、高温耐久性をも阻害したりする懸念があるため、上限は1.7mass%とする。
Mnは、Siと同様、脱酸に必要な元素である。しかし、5.0mass%を超えて添加すると、耐酸化性の劣化を招く。よって、Mnの上限は5.0mass%とする。
Niは、オーステナイトを生成させるために添加する元素であり、本発明のオーステナイト系耐熱材料においては必須の重要な元素である。Ni含有量が12.0mass%未満では、高温での組織安定性が劣化する。一方、15.0mass%を超えると、材料の製造性の劣化を招く他、原料コストの上昇を招く。よって、Niの含有量は、12.0〜15.0mass%とする。
Crは、Niと同様、本発明のオーステナイト系耐熱材料における必須の重要な元素であり、耐酸化性向上および組織安定性を改善するために添加する。しかし、Cr含有量が22.0mass%未満となると、基本特性として必須の耐酸化性が劣化するばかりでなく、動摩擦係数の上昇によって焼き付きが生じ易くなり、高温摩擦摩耗特性が劣化するので好ましくない。一方、Cr含有量が25.0mass%を超えると、σ相の生成が容易となり、組織安定性が劣化してしまう。よって、Crの含有量は22.0〜25.0mass%の範囲とする。
Cuは、主として組織安定性を向上することによって高温耐久性を改善するとともに、材料の積層欠陥エネルギーを増加させて、転位の交差すべりを容易にするため、硬さを低減して塑性加工性を向上する元素である。これらの効果を得るためには、少なくとも0.5mass%を添加する必要がある。しかし、4.5mass%を超えて添加すると、耐酸化性の劣化が顕著となる。よって、Cuの添加量は0.5〜4.5mass%の範囲とする。好ましくは、0.5〜2.0mass%の範囲である。
Nは、オーステナイト相を安定化するとともに、酸化皮膜の密着性を向上し、摩耗粉の発生を抑制するので、高温耐久性を向上させる効果を有する元素である。さらに、高温強度を高めるため、高温での変形を抑えて、寸法変化を小さくする効果もある。これらの効果を得るためには、少なくとも0.05mass%を含有させることが必要である。しかし、0.17mass%を超えて添加すると、硬さが上昇し過ぎて塑性加工性に対して悪影響を及ぼすようになる。そのため、Nの含有量は0.05〜0.17mass%とする。好ましくは0.05〜0.14mass%である。
CaおよびREMは、酸化皮膜の密着性を向上させて摩耗粉の発生を抑制することで、高温耐久性を向上させる。また、機械加工性を向上させる元素でもある。これらの効果は、CaおよびREMの単独添加、複合添加のいずれの場合でも得られが、CaおよびREMの合計で少なくとも0.0005mass%添加する必要がある。しかし、0.05mass%を超えて添加しても、その効果は飽和してしまい、添加量に見合った効果は得られない。よって、CaおよびREMの添加量は、合計で0.0005〜0.05mass%とする。好ましくは0.0005〜0.01mass%である。
次に、本発明のオーステナイト系耐熱材料において、組織安定性の指標となるNi当量、製造性の指標となるδcalおよび加工性の指標となるHvを、上記範囲に制限する理由について説明する。
Ni当量は、上述したように、室温、高温でのオーステナイト相の安定性に及ぼす成分組成の影響を示す式であり、下記(1)式;
Ni当量=Ni+0.65Cr+1.05Mn+0.35Si+0.6Cu+25.2C+12.6N ・・・(1)
(但し、各元素記号は、材料中の各元素の含有量(mass%)を示す)
で表される。この値が30.0を下回ると組織安定性が低下するため高温耐久性に問題が生じるようになるので、Ni当量は30.0以上とする。オーステナイト相の安定性をより向上させる観点からは、Ni当量は、36以上がより好ましい。
δcalは、先に述べたように、本発明の耐熱材料の製造性に及ぼす成分組成の影響を示す指標であり、下記(2)式;
δcal=3.2(1.5Si+Cr)−2.5(30C+30N+Ni+0.5Mn+0.3Cu)−24.7 ・・・(2)
(但し、各元素記号は、材料中の各元素の含有量(mass%)を示す)
で表される。このδcalの値が0.5を下回ると、連続鋳造時の凝固組織が、ほぼオーステナイト(γ)単相組織となり、P,Sなどの不純物元素の粒界偏析が著しくなるため、材料自体が脆弱となり、凝固収縮時や熱間圧延時に割れを生じて、製造性を損ねることとなる。一方、δcalの値が8.0を超えると、(γ+δ)の二相組織となり、硬質相と軟質相が混在するようになり、圧延時の負荷に対し、応力の不均一分布が生じるため、却って製造性を劣化させる。さらに、加工部品にまで、金属組織としてはδフェライト相と同質のαフェライト相([0027]参照)が残存して、高温強度の低下を招く。よって、δcalの値は、0.5〜8.0の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、δcalは1.0〜6.0の範囲である。
良好な塑性加工性を確保するためには、材料が適切な硬さを有する必要がある。材料の硬さ(ビッカース硬度Hv)は、成分組成との間で、下記(3)式;
Hv=87C+2Si−1.2Mn−6.7Ni+2.7Cr−2.6Cu+690N+88 ・・・(3)
(但し、各元素記号は、材料中の各元素の含有量(mass%)を示す)
で推定され、良好な塑性加工性を得るためには、上記Hvが160以下であることが好ましい。Hvが160を上回る硬さでは、安定した塑性加工、例えばプレス加工、打ち抜き加工、冷間鍛造などを行うことが難しくなる。一方、Hvが120を下回ると、逆に軟質となりすぎ、切断面のだれが大きくなったり(機械加工性の劣化)、寸法精度や形状凍結性が悪化したりする。よって、Hvは、120〜160の範囲であることが好ましい。より好ましくは、120〜150の範囲である。
<高温引張試験>
高温引張試験は、6mm厚の熱延焼鈍板から、平行部が15mm幅×50mm長さの板状試験片(ピン式)を採取し、800℃の大気雰囲気下で、JIS G 0567に準拠して、引張強さおよび破断までの伸び(全伸び)を測定した。
<寸法安定性試験>
後述する塑性加工性評価のために加工した部品(図11参照)に対し、大気雰囲気中で、850℃×30分保持する熱処理を100サイクル行い、熱処理前後の寸法変化量を測定し、寸法安定性を評価した。測定は、内径を2ヶ所、それぞれが直角となるように行い、この内径の変化が、熱処理前の内径に対して2%未満であれば良(○)、それ以上であれば不良(×)とする2段階で評価した。
<酸化試験>
酸化試験は、JIS Z 2281に準拠し、10vol%水蒸気添加大気雰囲気中で、850℃で100時間保持する連続酸化試験と、JIS Z 2282に準拠し、10vol%水蒸気添加大気雰囲気中で、850℃×30分の熱処理を100サイクル行う繰り返し酸化試験を行い、試験後の酸化増量で耐酸化性を評価した。
<高温摩擦摩耗試験>
高温摩擦摩耗特性は、一定圧力でピンをディスクに押しつけながら一定時間回転させる、いわゆるピン−オン−ディスク法を用いて評価した。評価試験は、800℃に設定された大気雰囲気中で、2.8mmφのピンを、6mmt×50φのディスク上に、荷重49Nで押し付けながら、ディスクを周速3m/minで1分間回転させる条件で行った。ディスク中心からピン位置までの距離は、20mmである。耐摩擦摩耗性の評価は、試験中におけるトルクの経時変化から求められる動摩擦係数と、試験終了後の焼付き発生の有無、摩耗粉、摩耗痕の発生状況などから行った。なお、試験に用いたピンおよびディスクは、ピン、ディスクともに上記冷延板、熱延板から採取したものを用いる場合と、ピンにはSUH660(Fe基超合金)製のものを用い、ディスクには上記熱延板から採取したものを用いる場合の2つの組み合わせで行った。因みに、両組み合わせの試験結果は、ほぼ同様であった。
<表面改質>
材料Aから作製した上記ピンおよびディスクの一部については、さらにその試料の表面に硬質層を形成する改質処理を施し、上記と同様の方法の高温摩擦摩耗試験を行い、その有効性を評価した。なお、試験片に施した表面改質処理は、浸炭処理、浸窒処理もしくはクロム拡散浸透処理のいずれかであり、処理後の表面硬度Hvは、それぞれ、浸炭処理が850、浸窒処理が800、クロム拡散浸透処理が1200であった。
<組織安定性>
組織安定性は、後述する塑性加工性評価のために加工した部品(図11参照)と、これを大気中で850℃×800時間の長時間熱処理した後の部品と、同じく、塑性加工性評価のために加工した部品に対して、さらに10vol%水蒸気添加大気雰囲気中で、850℃で30分保持する熱処理を100サイクル行う繰り返し酸化試験を行った後の部品について、それぞれの断面をKOHもしくは蓚酸電解エッチングしてから光学顕微鏡でミクロ組織を観察し、αフェライトの残留の有無、σ相の析出の程度およびCr炭窒化物の粒界への析出量すなわち鋭敏化の度合いを調べることにより評価した。
<製造性>
製造性は、熱間圧延コイルの表面品質で評価した。すなわち、熱間圧延コイルを焼鈍・酸洗し、その後、このコイルのトップからサンプルを採取して、鋼板表面に発生したスリーバー、ヘゲなどの有害欠陥の個数を目視で測定し、1m2当たり6個以下を良(○)、7個以上を不良(×)と評価した。
<塑性加工性>
塑性加工性については、上記冷延焼鈍板から、3.0mmt×200mm×200mmの試験片を採取し、これに伸びフランジ成形と打ち抜き加工を行って、図11に示した形状の部品を製造し、製品1000個当たりの割れ発生個数、だれによる不良発生個数を調べて、それぞれ6個以下を良(○)、7個以上を劣(×)とする判断基準によって評価した。
<機械加工性>
機械加工性は、平面切削性と穴あけ性によって評価した。平面切削性は、試験材として6mm厚の熱延焼鈍板を用い、これを切削工具として超硬合金のバイトを用いて、シェーパーで、切り込み深さ:1.5mm、切削速度:100m/min、切削長さ:200mm/回の平面切削を行い、1本のバイトで切削できる回数を測定し、600回以上を良(○)、200〜600回未満をやや不良(△)および200回未満を不良(×)とする3段階評価によった。また、穴あけ性は、ボール盤で、高速度鋼製ドリルを用いて、水溶性切削油で潤滑しつつ、回転数:1600rpm、送り速度:100mm/minの条件で、試験材(冷延焼鈍板)に3mmφの貫通穴を連続して開け、1本のドリルで加工できた穴数を測定し、600穴数以上を良(○)、200〜600未満の穴数をやや不良(△)、200穴数未満を不良(×)とする3段階評価によった。
これらの結果から、本発明の条件を満たす発明材料(A〜E)は、高温耐久性に優れていることがわかる。また、これらの材料は、上述した(1)〜(3)式を同時に満たしているので、組織安定性、製造性および加工性(塑性加工性、機械加工性)のいずれにも優れたものとなっている。さらに、本発明材料のAの冷延焼鈍板に、浸炭処理、浸窒処理あるいはクロム拡散浸透処理のいずれかの改質処理を施し、表面に硬化層を設けた材料についても高温摩擦摩耗性を評価したが、いずれも耐摩耗性は良好であることが確認された(Aa,Ab,Ac)。
これに対して、高温耐久性を改善する元素であるCu,Ca,REMを含有していない比較材料F,Hは、酸化試験による酸化増量が多く、摩擦摩耗試験における摩耗粉の発生量が多くて摩耗痕も粗く、しかも鋭敏化の程度も大きく、高温で使用する摺動部品に用いるには適切でない。また、N含有量が本発明範囲より高い比較材料Gは、材料の製造性は良好で、高温強度も高く、高温耐久性は良好であるものの、材料自体が硬質で塑性加工性に劣るため、図11に示した部品に加工することができなかった。また、Cr含有量が本発明範囲より少ない比較材料Iは、摩擦摩耗試験で焼き付きが発生しており、これも高温での使用には難がある。材料の製造性の指標であるδcalが本発明範囲より大きい比較材料Jは、高温での摩耗粉の発生、焼き付きの発生はなく良好であるが、熱延板に表面欠陥が発生し、しかも、図11に示した部品に加工した後でもαフェライト相が残存するため、高温強度、組織安定性がともに劣っている。組織安定性の指標であるNi当量が本発明範囲より低い比較材料Kは、組織安定性に難がある。Hvが本発明範囲より高い比較材料Lは、Jと同様、塑性加工性および機械加工性に難があることがわかった。
また、参考例として調査したSUS304は、高温摩擦摩耗試験では焼付きが発生し、酸化試験でも激しい酸化が生じており、耐熱部品としての使用は難しい。同じく参考例として調査したSUS310Sは、製造過程でスラブ割れや表面欠陥が発生し、製造性が良好とは言えず、また、高温摩擦摩耗試験では、動摩擦係数が本発明材料と同等で、焼付きは発生しないものの摩耗粉が発生しており、組立品の駆動部分に適用した場合には、摩耗により不具合を発生するおそれが大きく、耐熱部品としての使用はやはり難しい。加えて、これらの参考材料はいずれも、塑性加工性、機械加工性(主に切削性)が良好とはいえない。
Claims (5)
- C:0.02〜0.07mass%、Si:0.2〜1.7mass%、Mn:5.0mass%以下、Ni:12.0〜15.0mass%、Cr:22.0〜25.0mass%、Cu:0.5〜4.5mass%、N:0.05〜0.17mass%、かつ、Ca、REMのうちの1種または2種を0.0005〜0.05mass%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で定義されるNi当量が30.0以上、下記(2)式で定義されるδcalが0.5〜8.0、下記(3)式で定義されるHvが120〜160であることを特徴とする高温耐久性に優れるオーステナイト系耐熱材料。
記
Ni当量=Ni+0.65Cr+1.05Mn+0.35Si+0.6Cu+25.2C+12.6N ・・・ (1)
δcal=3.2(1.5Si+Cr)−2.5(30C+30N+Ni+0.5Mn+0.3Cu)−24.7 ・・・ (2)
Hv=87C+2Si−1.2Mn−6.7Ni+2.7Cr−2.6Cu+690N+88 ・・・ (3) - 請求項1に記載の耐熱材料からなることを特徴とする耐熱部品。
- 請求項1に記載の耐熱材料からなることを特徴とするエンジン周り用耐熱部品。
- 部品の表面に硬化層を設けてなることを特徴とする請求項2に記載の耐熱部品。
- 部品の表面に硬化層を設けてなることを特徴とする請求項3に記載のエンジン周り用耐熱部品。
Priority Applications (1)
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