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JP4100358B2 - プレフォスフェイト鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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JP4100358B2 - プレフォスフェイト鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車の車体等に好適に用いられる、プレフォスフェイト鋼板及びその製造方法に関する。
自動車の車体等には、その耐食性や外観等の向上を目的として、亜鉛系めっき鋼板が用いられている。自動車メーカー等の車体製造工程では、鋼板をプレス成形することにより車体を製造するため、自動車車体等に用いられる亜鉛系めっき鋼板は、優れたプレス成形性を有することが望まれる。この特徴を有する亜鉛系めっき鋼板を得る技術としては、亜鉛系めっき皮膜の上層にさらに鉄−亜鉛合金電気めっき皮膜を設けて、潤滑性を向上させる技術が広く知られており、この他に、鋼板表面の潤滑性を向上させる技術として、亜鉛系めっき皮膜の上層にリン酸塩皮膜を設ける技術等が提案されている。なお、プレス成形前に鋼板表面に設けられるリン酸塩皮膜は、非特許文献1にあるように「プレフォスフェイト皮膜」と呼ばれている(以後、鋼板表面の表層にプレフォスフェイト皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板を、単に「プレフォスフェイト鋼板」と記述することがある。)。
プレフォスフェイト皮膜を形成させる処理(以後、「プレフォスフェイト処理」と記述する。)に関する技術は、これまでにいくつか開示されており、例えば、特許文献1には、亜鉛系めっき皮膜の上層にプレフォスフェイト処理を施し、当該処理後に水洗を経てプレフォスフェイト鋼板を乾燥させる技術が開示されている(以下、このように水洗を経る処理形式を「反応型処理」という。)。一方、特許文献2、3、4、及び5には、プレフォスフェイト処理後に鋼板を水洗せず、そのまま乾燥させる処理形式(以下、このように水洗を経ない処理形式を「塗布型処理」という。)に関する技術が開示されている。この塗布型処理によれば、処理液の劣化や処理条件の変動の影響が比較的小さく、鋼帯を処理する場合のような大量・高速の処理に適するとされている。中でも、特許文献3、4では、プレフォスフェイト皮膜を縮合リン酸系の皮膜とすること、及びその製造法として、酸化物を含有する処理液を用いた塗布型処理によって皮膜を形成させる技術が開示されており、また、特許文献5では、皮膜中にFeを含有させた非晶質の皮膜を形成させる技術が開示されている。
特開平7−138764号公報 特開2000−64054号公報 特開2002−226976号公報 特開2001−98383号公報 特開2001−271153号公報 日本パーカライジング技報、Vol.8、1995年12月、p.33−40
しかし、特許文献1に開示されている技術では、皮膜の付着量や皮膜構造に及ぼす処理液及び処理条件の影響が比較的大きいという問題があった。また、プレフォスフェイト鋼板に要求される性能として、成形性、溶接性、及び化成処理性等を挙げることができるが、例えば、特許文献3、4に開示されている技術では、これらの性能を並立させることが困難であった。
一方で、近年、自動車車体の軽量化を目的として、引張強度が60キロ(580MPa)級、80キロ(780MPa)級、又はそれ以上の高張力鋼板(以後、「ハイテン材」ということがある。)の適用拡大が検討されている。しかしながら、高張力の亜鉛系めっき鋼板(現状は、主として合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以後、「GA」と記述する。)が検討されている。)をプレス成形する場合には、工具と鋼板との間の面圧が従来材を母材とする場合よりも大きくなり、皮膜成分等が金型に焼きついてめっき片が金型に凝着・堆積するため、成形品に押し込み状の欠陥が発生しやすくなることが懸念されている。さらに、この焼きつきは金型にも負担をかけるため、金型表面の超硬処理皮膜が脱落する等の不具合が発生しやすくなるという問題もある。
このように、高張力GAには従来のGAよりも成形性に問題がある。したがって、自動車車体等への適用を拡大するために、当該鋼板のプレス成形性の向上及び安定化が望まれている。
鋼板のプレス成形性に影響する因子の一つとして、鋼板表面の摺動性を挙げることができる。摺動性がよい(定性的には、動摩擦係数が低くかつその変動が小さいことをいう。)ほど、プレス成形性が安定化する傾向があるといわれているため、特にハイテン材の適用を検討する場合には、プレス成形性の評価よりも摺動性の改善が重視されることもある。
そこで、本発明では、摺動性が改善されるとともに、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性が並立し得るプレフォスフェイト鋼板、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、プレフォスフェイト皮膜の構成や製造条件と、摺動性との関係について調査した。その結果、まず、優れた摺動性を有する鋼板を得るには、プレフォスフェイト皮膜の付着量がある程度必要であることを見出した。しかしながら、当該皮膜の付着量を多くするだけでは摺動性は必ずしも満足するレベルとはならない一方で、付着量の増加は、溶接性の低下に繋がるとの知見を得た。そこで、さらに検討を進めたところ、プレフォスフェイト皮膜のごく表層におけるPとZn(II)との存在比が摺動性に影響し、Pの割合が大きいほど、摺動性が良好であることを見出した。さらに、かかるプレフォスフェイト皮膜を得るには、処理液の酸濃度等と同時に強電解質カチオンおよびアニオン濃度についても所定範囲に管理することが重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
請求項1に記載の発明は、少なくとも片面のめっき表面にプレフォスフェイト皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、
プレフォスフェイト皮膜の付着量が、P換算で1mmol/m以上5mmol/m以下であり、
プレフォスフェイト皮膜中に含有されるZnとPとのモル比Zn/Pが、1.0以上2.0以下であり、
プレフォスフェイト皮膜表面のZn(II)とPとのモル比Zn(II)/Pが、1.0未満であることを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板により、上記課題を解決しようとするものである。
請求項1に記載の発明によれば、良好な摺動性及び溶接性を有するプレフォスフェイト鋼板を提供することが可能になる。
ここで、「プレフォスフェイト皮膜」とは、プレス成形前に鋼板表面に設けられるリン酸塩皮膜のことをいう。したがって、プレフォスフェイト皮膜表面のZn(II)とPとのモル比Zn(II)/Pにおいて、分母のPが0になることはない。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板において、プレフォスフェイト皮膜が、結晶性のホパイトと非晶質性のリン酸塩とを有するものであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板において、プレフォスフェイト皮膜が、Ni、Mn、及びFeを実質的に含まないことを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、良好な化成処理性を有するプレフォスフェイト鋼板を提供することが可能になる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板において、引張強度が、580MPa以上であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性を並立し得る高張力亜鉛系めっき鋼板を提供することが可能になる。
請求項5に記載の発明は、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板の少なくとも一面に、リン酸塩処理液を接触させる第1の工程と、
第1の工程後に水洗することなく上記処理液を接触させた鋼板を乾燥させる第2の工程とを有し、
上記処理液は、0.3〜1.0mol/Lのリン酸根と、リン酸根に対してモル比が0.5以下の亜鉛イオンとを含有し、
上記処理液中における全酸濃度T.A.と、遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、4.5以上6.5以下であり、
上記処理液中の強電解質アニオン濃度[Am−](m:アニオンの電荷)と強電解質カチオン濃度[Mn+](n:カチオンの電荷)とが、式(1)の関係を満たすことを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法により、上記課題を解決しようとするものである。
Σ(n×[Mn+])−Σ(m×[Am−])>0 (1)
請求項6に記載の発明は、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板の少なくとも一面に、リン酸塩処理液を接触させる第1の工程と、
第1の工程後に水洗することなく上記処理液を接触させた鋼板を乾燥させる第2の工程とを有し、
上記処理液は、0.3〜1.0mol/Lのリン酸根と、前記リン酸根に対してモル比が0.5以下の亜鉛イオンとを含有し、
上記処理液中における全酸濃度T.A.と、遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、4.5以上6.5以下であり、
T.A.と、F.A.と、亜鉛イオン濃度[Zn2+]とが、式(4)の関係を満たすことを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法により、上記課題を解決しようとするものである。
T.A.−2×F.A.−(14/5)×[Zn2+]>0 (4)
請求項5又は6に記載の発明によれば、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性を並立し得るプレフォスフェイト鋼板を容易に製造する方法が提供される。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法において、第1の工程と第2の工程との間に、鋼板に付着した処理液を減少させる工程を有することを特徴とする。
請求項7に記載の発明によれば、鋼板表面の皮膜が短時間で乾燥し得るプレフォスフェイト鋼板の製造方法が提供される。
本発明のプレフォスフェイト鋼板及びその製造方法によれば、自動車車体用鋼板等として有用であるプレフォスフェイト鋼板において、摺動性を改善するとともに、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性を並立させることが可能となり、当該特徴を有するプレフォスフェイト鋼板を容易に製造する方法を提供することができる。
本発明では、亜鉛系めっき鋼板のめっき表面に所定のプレフォスフェイト皮膜を形成するものである。以下、本発明の実施の形態について説明する。
1.亜鉛系めっき鋼板
本発明においては、目的とするプレフォスフェイト皮膜が得られるものであれば、めっきの種類は特に限定されない。現状では、自動車用途に広く使用されている合金化溶融亜鉛めっき鋼板が好ましいが、今後自動車用途への展開が期待される溶融亜鉛めっき鋼板(合金化しないもの)や、電気亜鉛系めっき鋼板等も使用可能である。
また、めっきの付着量等も特に限定されない。ただし、加工性や溶接性の観点からは、めっき付着量は150g/m以下であることが好ましい。
さらに、本発明は、従来材と比較して成形性に劣るハイテン材において有用である。たとえば、現在検討が進められている、引張強度が60キロ(580MPa)級、80キロ(780MPa)級、又はそれ以上の高張力鋼板の適用を進める上で有用である。
2.プレフォスフェイト皮膜
2−1 皮膜の構造
本発明におけるプレフォスフェイト皮膜の平均的なZnとPとのモル比(以後、「Zn/P」と記述する。)は、1.0以上2.0以下とする。この値は、リン酸亜鉛Zn(POにおけるZn/Pの化学量論比(=1.5)に、ほぼ等しい。
なお、本発明の方法で得られるプレフォスフェイト皮膜は、Zn/Pが1.0以上のものについては、概ね結晶質の皮膜として観察される。一方、本発明のプレフォスフェイト皮膜は塗布型処理で形成されるため、処理液がそのまま乾燥し成膜された部分(主として、非晶質性のリン酸塩)も存在する。この部分も含め、プレフォスフェイト皮膜全体としての平均的なZn/Pを、1.0以上2.0以下とする。
プレフォスフェイト皮膜中には、特許文献1にもあるように、一般的には、Ni、Mn、Fe等のZn以外の金属元素を含有させる場合が多い。また、特許文献5では、Feを必須成分として含有させている。しかしながら、本発明では、Ni、Mn、Fe等を皮膜中に実質的に含有しない方が好ましい。これは、以下の理由による。
プレフォスフェイト鋼板は、ほとんどの場合、成型加工後に最終的に塗装される。自動車メーカー等では塗装下地処理としてリン酸亜鉛処理が施される。健全な下地処理層を形成させるためには、その時点でプレフォスフェイト皮膜はかえって存在していない方がよく、そのためには、下地処理に先立つ脱脂工程で、プレフォスフェイト皮膜は除去されてしまう方がよい(以下、脱脂工程におけるプレフォスフェイト皮膜の除去されやすさを「脱膜性」という。)。Ni、Mn、Fe等を皮膜中に含有すると、脱膜性が劣化する傾向がある。そこで、上記のような成形後に塗装されるような用途では、プレフォスフェイト皮膜中にNi、Mn、Fe等を実質的に含有しない方が好ましいのである。
ここで、本発明において、「Ni、Mn、Fe等を実質的に含まない」とは、プレフォスフェイト皮膜中のNi、Mn、Fe等の元素成分の合計量が質量%で1%以下であることをいう。
なお、Ni、Mn、Fe等を実質的に含まないプレフォスフェイト皮膜の場合、上記脱脂工程で皮膜が完全に除去されず若干残存したとしても、その後の下地処理工程における鋼板表面のエッチングがかえって活性化されるため、良好な塗装下地処理層が得られる。したがって、上記特徴を有するプレフォスフェイト皮膜は、脱脂液や塗装下地処理液が劣化している場合や、形状により薬液がまわりにくい部位がある加工品の下地処理をする場合等にも有効である。
2−2 皮膜付着量
本発明におけるプレフォスフェイト皮膜の付着量は、P換算で1mmol/m以上5mmol/m以下(おおよそ30〜160mg/m)であることが必須である。摺動性確保の観点から、1mmol/m以上であることが好ましく、スポット溶接時における連続打点性の劣化防止の観点から、5mmol/m以下であることが好ましいためである。より好ましい当該皮膜の付着量は、2〜4mmol/mである。
2−3 皮膜の表面構造
本発明では、プレフォスフェイト皮膜のごく表層におけるZn(II)とPとのmol比(以後、「Zn(II)/P」と記述する。)を、1.0未満とする。Zn(II)/Pが低いほど、摺動性が良いためである。実際のプレス方法や形状によって、求められる摺動性は異なることがあるため、Zn(II)/Pのしきい値もそれに応じて変動しうるが、Zn(II)/Pが1.0未満であれば、摺動性が概ね良好なレベルになる。このほか、プレス成形工程における材料の割れや金型の焼付き等を防止する観点からも、1.0未満であることが好ましく、より好ましくは、0.9未満である。
Zn(II)/Pを1.0未満とすることにより摺動性が向上する理由は明らかではないが、当該条件下における上記皮膜の表面状態は、後述する(i)〜(iii)式の化成反応があまり進行しておらず、皮膜表面の活性が高い状態であると考えられる。この高活性状態により、皮膜表面への潤滑油や防錆油の化学吸着が促進され、摺動性良好な潤滑膜が形成されるためであると考えられる。
なお、皮膜表面のZnを後述するX線光電子分光分析(以後、「XPS」と記述する。)で調査する場合、金属Znに起因するピークとZn(II)に起因するピークとが検出されるので、これらをピーク分離してZn(II)に起因するピークからZn(II)/Pを求めるものとする。
3.プレフォスフェイト鋼板の製造方法
3−1 前洗浄
本発明のプレフォスフェイト鋼板の製造方法においては、鋼板のプレフォスフェイト処理におけるめっき鋼板基材表面の反応性を確保するために、基材表面を覆う酸化物や汚れが除去されていることが必要である。亜鉛系めっき鋼板表面を覆う酸化物としては亜鉛酸化物、アルミニウム酸化物等が想定され、これらを効率よく除去するために、アルカリ性若しくは酸性の水溶液を用いることが好ましい。例えば、水酸化ナトリウム水溶液や塩酸水溶液等をベースとする水溶液を用いることができる。特に、溶融亜鉛めっき鋼板の場合は表面をアルミニウム酸化物が覆っている場合が多く、当該酸化物を除去する目的においては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液をベースとする洗浄液等を使用することが好ましい。
3−2 表面調整
上記前洗浄工程の後、めっき表面を活性に均一化して、プレフォスフェイト皮膜を均一に付着させるために、さらに表面調整を行うことが好ましい。めっき鋼板は、通常、調質圧延が施されるが、この場合、圧延ロールとの接触部/非接触部等との間で、めっき表面の活性が不均一になり、プレフォスフェイト処理時の反応ムラが生じやすくなるためである。当該表面調整処理としては、チタンコロイド含有水性液、リン酸亜鉛コロイド含有水性液等への浸漬処理等が挙げられる。
3−3 プレフォスフェイト処理
本発明のプレフォスフェイト鋼板の製造方法におけるプレフォスフェイト処理は、主成分としてリン酸根(PO 3−、HPO 、HPO 2−、HPO)と亜鉛イオンとを含有する処理液を、めっき鋼板に接触させた後、水洗することなく乾燥させる塗布型処理により、亜鉛系めっき鋼板の表層にプレフォスフェイト皮膜を形成させるものである。塗布型処理である以外は、本発明のプレフォスフェイト鋼板を得る方法は特に限定されないが、好ましい形態について以下に説明する。
<処理形式>
本発明では、いわゆる塗布型処理によりプレフォスフェイト鋼板を製造するものである。塗布方法としては、処理液をスプレーした後、余分な処理液を搾り取るスプレーリンガー法や、アプリケーターロールから鋼材へ処理液を転写させるロールコート法等が挙げられる。これら2つの方法を比較すると、処理液のマスバランスを維持する観点からは、鋼板と接触した処理液の戻りの少ないロールコート法の方が有利であり、ロールコート法の中でも特にリバースコート法は戻りが少なくて有利である。一方、連続操業時の生産性の観点からは、スプレーリンガー法の方がリンガーロールの磨耗が少なくて有利である。特に、リンガーロールの周速を、鋼板の通板速度と同期させた場合(リンガーロールを無駆動とし、ロール周速と通板速度とがほぼ一致した場合を含む。)には、ロール損耗低減が図れるため有利である。したがって、少量生産ではロールコート法が有利である一方、大量生産では、薬液のマスバランス維持のシステムを付加した上でスプレーリンガー法により操業することが好ましい。
<処理液>
本発明において、プレフォスフェイト処理液中のリン酸根の含有量は、0.3〜1.0mol/Lの範囲が好ましい。また、リン酸根に対する亜鉛イオンのモル比は、0.5未満が好ましく、より好ましくは0.35以上0.5未満である。これは、主として、皮膜付着量を本発明の範囲とするためには当該範囲が適当であるという理由、及び亜鉛イオン濃度が高くなりすぎると薬液中にリン酸亜鉛系のスラッジが発生し製品の表面品質に悪影響を及ぼすためであるという理由によるものである。
さらに、処理液の全酸濃度(T.A.)及び遊離酸濃度(F.A.)から導出される酸比(T.A./F.A.)も重要である。表面からのZn溶出量の増加防止の観点及びプレフォスフェイト皮膜の急激な析出低減の観点から、上記酸比の好ましい範囲は4.5〜6.5である。
本発明の塗布型処理において、摺動性に優れたプレフォスフェイト皮膜を有する亜鉛めっき鋼板を得るためには、処理液浴中のリン酸イオンを除く強電解質アニオンAm−及び亜鉛イオンを除く強電解質カチオンMn+の濃度の関係を、下記の式(1)を満たすように調整する。これによって、概ねプレフォスフェイト皮膜表面のZn(II)/Pの値が1.0未満となり、摺動性が改善される。
δ≡Σ(n×[Mn+])−Σ(m×[Am−]) > 0 (1)
ただし、[Am]: Amの濃度(mol/L)
m : アニオンの電荷
[Mn+]: Mn+の濃度(mol/L)
n : カチオンの電荷
である。
強電解質アニオンAm−としては、後述するように、復極剤としての硝酸イオンやエッチング剤としてのフッ化物イオン等が挙げられる。これら強電解質アニオンは、言い換えると、プレフォスフェイト皮膜成分として液中に添加されるリン酸イオンを除く、処理液、処理性を成り立たせるためのアニオンのことである。また、強電解質カチオンMn+としては、主として上記酸比を調整する際に添加されるアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液)中のアンモニウムイオンやナトリウムイオン等が挙げられる。これら強電解質カチオンは、言い換えると、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン等、プレフォスフェイト皮膜成分として液中に添加されるカチオンを除く、処理液、処理性を成り立たせるために付随的に添加されるカチオンのことである。
強電解質カチオンと強電解質アニオンとの関係が、上記式(1)を満たさない場合、つまり、処理液中の強電解質カチオン量が不足する場合は、得られる皮膜表層におけるZn(II)/Pの組成が大きくなり、摺動性に悪影響を及ぼす。強電解質カチオン量がプレフォスフェイト皮膜の表面組成に影響を及ぼす理由は明確ではないが、例えば、以下のような機構が考えられる。
すなわち、プレフォスフェイト反応は、下記式(i)のエッチング反応と下記式(ii)及び(iii)の加水分解反応よりなる。
Zn(めっき皮膜)+2HPO→Zn2++2HPO +H↑ (i)
Zn2++2HPO →ZnHPO↓+HPO(ii)
3ZnHPO→Zn(PO↓(ホパイト)+HPO(iii)
上記(i)〜(iii)の反応の進行に伴って、処理液中のリン酸根が消費され、減少してゆく。このとき、処理液中の未反応のリン酸根と過剰の強電解質カチオンとが酸・塩基として当量を迎えた時点で、(ii)及び(iii)の反応が停止すると考えられる。この結果、乾燥造膜過程では、例えば、強電解質カチオンとリン酸根とが結合した塩がプレフォスフェイト皮膜近傍に生成され、結果としてごく表層のZn(II)/Pの値が小さくなると考えられる。上述したように、このような状態の表面は、活性が高く潤滑油や防錆油と吸着性が大きいと想定されるため、これが摺動性改善効果につながると考えられる。
一方、処理液中のF.A.及びT.A.は、以下の式で表される。
F.A.=[PO]+Σ(m×[Am−])−2×[Zn2+]−Σ(n×[Mn+]) (2)
T.A.=F.A.+[PO]+(4/5)×[Zn2+] (3)
ただし、[PO] : 処理液中のリン酸根の濃度
[Zn2+]: 処理液中のZn(II)の濃度
である。
上記式(1)〜(3)より、式(1)は、下記式(4)の形で表すこともできる。
δ=Σ(n×[Mn+])−Σ(m×[Am−])
=T.A.−2F.A.−(14/5)×[Zn2+]>0 (4)
δの、より好ましい値は、0.05以上である。
その他の条件についても説明する。
プレフォスフェイト処理液における上記以外の成分としては、復極剤としての硝酸イオン(NO )を、リン酸根に対するモル比で0.05以上0.5以下含有させることが好ましい。また、エッチング性フッ化物(たとえばフッ化水素酸、フルオロケイ酸、フルオロほう酸等)を、フッ化水素酸換算でリン酸イオンに対するモル比が0.05以上0.5以下となるように含有させることが好ましい。これらの成分が少なすぎると、上記(i)〜(iii)の反応の進行速度が小さく、短時間で本発明の目的とする皮膜が得られ難い。一方、これらの成分を含有させることは、δの値を大きくする方向に影響する。
また、上述のように、プレフォスフェイト皮膜中には、Ni、Fe、Mn等を実質的に含有しないことが好ましいため、処理液中にもこれらの元素を極力含まないことが好ましい。連続操業下では、鋼帯や設備から溶出する成分が当該皮膜中に混入することから、処理液中におけるこれらの元素の含有量は、合計で100ppm以下であることが好ましい。
(実施例1)
<プレフォスフェイト鋼板の作製>
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、めっき付着量:片面あたり約45g/m)に、前洗浄及び表面調整処理を行ってから、表1及び表2に示すように、成分を適宜変更したプレフォスフェイト処理液を用いてスプレーリンガー法でプレフォスフェイト処理を行い、プレフォスフェイト鋼板を作製した。主なプレフォスフェイト処理条件及びプレフォスフェイト処理液の分析方法は、以下の通りである。
・プレフォスフェイト処理条件
前洗浄条件:7%NaOH水溶液(70℃)に5秒間浸漬し、浸漬後水洗。
表面調整処理:パーコレンZ(日本パーカライジング社製)1g/L液(常温)に10秒間浸漬。
・プレフォスフェイト処理液の分析方法
処理液をろ紙に所定量染み込ませて試料とし、蛍光X線分析装置を用いて、リン酸濃度及び亜鉛イオン濃度を定量分析した。全酸濃度(T.A.)及び遊離酸濃度(F.A.)は、酸・塩基滴定によって測定した。全酸濃度(T.A.)、遊離酸濃度(F.A.)、及び亜鉛イオン濃度の測定値から、上記式(4)を用いて、表1のδを算出した。
<プレフォスフェイト処理液の評価>
上記のようにして得られたプレフォスフェイト鋼板のサンプルについて、皮膜分析及び性能評価を実施した。プレフォスフェイト皮膜の分析方法及び性能の評価方法を、以下にそれぞれ示す。
・プレフォスフェイト皮膜の付着量測定、バルク組成分析
5%クロム酸水溶液を用いてプレフォスフェイト皮膜だけを溶解し、溶解液中のP及びZnを原子吸光法により定量分析した。
・プレフォスフェイト皮膜の表面組成分析
XPS法により、プレフォスフェイト皮膜表面のZn及びPそれぞれのスペクトルの積分強度を測定(評価面積:5mm×5mm)し、Zn(II)/Pの値を算出した。Znのピークについては、金属ZnのピークとZn(II)のピークとを分離し、Zn(II)のみの値を用いた。
・摺動性評価法
特開2003−136151号公報に記載のピンオンディスク試験法により、防錆油を塗布した状態で、以下の条件にて摩擦係数を測定し、摩擦係数及び摩擦係数の変動から、摺動性を評価した。
試験条件;
押し付け荷重:30N 試験具先端形状:球
試験具先端形状曲率:2.5mmR 試験具先端材質:SKD鋼
試験温度:60℃ 回転半径:10mm
摺動速度:63mm/min(1rpm) 摺動回数:20回転
摩擦係数μ:1回転毎に12個の測定値から算出した平均値20個の最大値
摩擦係数の変動ν:上記最大摩擦係数が得られた周回における12個の測定結果の標準偏差値
評価基準;
×:μが0.15以上
×:μが0.15未満であって、かつ、Bが0.04以上
○:μが0.15未満であって、かつ、Bが0.04未満
・スポット溶接性評価法
スポット溶接機を用いて、以下の条件でスポット溶接を行い、ナゲット径(mm)が4√t(t:鋼板厚み(mm))より小さくなるまでの打点数で評価した。
電極:ドーム型電極
加圧力:2450N
通電時間:12サイクル(周波数は50Hz)
溶接電流:チリが発生し始める最小電流をあらかじめ調査して、その電流に設定。
評価基準;
○:3000打点以上
×:3000打点未満
・化成処理性評価法
サンプルに、下記のアルカリ脱脂、水洗、及び表面調整の各処理を施した後、下記の条件で化成処理(リン酸亜鉛処理)を行った。得られた化成処理材の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、化成処理性を調査した。
脱脂条件:ファインクリーナー4380(日本パーカライジング社製)200g/l液(50℃)に、2分間浸漬。
表面調整条件:パーコレンZ(日本パーカライジング社製)1g/L液(常温)に10秒間浸漬。
化成処理条件:PB−3080(日本パーカライジング社製、液温43℃)を2分間スプレー。
評価基準;
○:1μm程度の化成結晶粒が緻密に析出している。
×:結晶がまばらに析出している。
×:結晶粒の大きさが不均一である。
×:結晶粒が粗大である。
本実施例の皮膜分析及び性能評価の結果を、表1及び表2にあわせて示す(No.1〜24)。以下、本発明のプレフォスフェイト鋼板を「本発明の鋼板」と、本発明のプレフォスフェイト鋼板でない鋼板を「比較例の鋼板」と、それぞれ記述する。
Figure 0004100358
Figure 0004100358
表1及び表2から、本発明の鋼板(No.5、6、9、10、17〜24)は、摺動性、スポット溶接性、化成処理性の評価が全て○であったため、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性を並立しているとの結果が得られた。一方、比較例の鋼板は、プレフォスフェイト皮膜の付着量が少ない場合(No1、2)、及び表層Zn/Pの値が1以上の場合(No.13〜16)は、摺動性の評価が×となり、摺動性が劣った。これに対し、皮膜付着量が多すぎる場合(No.3、4、7、8、11、12)は、スポット溶接性の評価が×となり、溶接性が劣った。なお、本実施例で使用した全ての鋼板において、化成処理性は良好であった。これは、プレフォスフェイト処理液中にNi、Mn、Fe等を実質的に含んでおらず、皮膜中にも含まれていないためと考えられる。また、本実施例で使用した全ての鋼板において、バルクのZn/Pの値は、ほぼ1.5程度で安定していた。さらに、本発明の製造方法よれば、良好な摺動性、溶接性、及び化成処理性を並立し得るプレフォスフェイト鋼板(本発明の鋼板)を、安定して製造することができた。
(実施例2)
溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、付着量90/90(g/m))に、実施例1と同様の前洗浄及び表面調整処理を施してから、ロールコート法でプレフォスフェイト処理を行い、性能を評価した。プレフォスフェイト条件は、表3及び表4のとおりである。一方、評価方法については、概ね実施例1と同様であるが、スポット溶接性の評価基準は以下の通りとした。
・スポット溶接性の評価基準
○:1000点以上
×:1000点未満
本実施例の皮膜分析及び性能評価の結果を、表3及び表4にあわせて示す(No.25〜33)。
Figure 0004100358
Figure 0004100358
表3及び表4から、母材がGI(溶融亜鉛めっき鋼板)である場合でも、本発明の鋼板(No.28、29、31〜33)は、良好な摺動性、溶接性、化成処理性を並立し得るという結果が得られた。これに対し、表層Zn(II)/Pの値が1以上であった比較例の鋼板(No.25〜27、30)は、摺動性が劣るとの結果が得られた。

Claims (7)

  1. 少なくとも片面のめっき表面にプレフォスフェイト皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、
    前記プレフォスフェイト皮膜の付着量が、P換算で1mmol/m以上5mmol/m以下であり、
    前記プレフォスフェイト皮膜中に含有されるZnとPとのモル比Zn/Pが、1.0以上2.0以下であり、
    前記プレフォスフェイト皮膜表面のZn(II)とPとのモル比Zn(II)/Pが、1.0未満であることを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板。
  2. 前記プレフォスフェイト皮膜が、結晶性のホパイトと非晶質性のリン酸塩とを有するものであることを特徴とする、請求項1に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板。
  3. 前記プレフォスフェイト皮膜が、Ni、Mn、及びFeを実質的に含まないことを特徴とする、請求項1又は2に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板。
  4. 引張強度が、580MPa以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板。
  5. リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
    亜鉛系めっき鋼板の少なくとも一面に、リン酸塩を含む液体を接触させる第1の工程と、
    前記工程後に水洗することなく前記液体を接触させた鋼板を乾燥させる第2の工程とを有し、
    前記液体は、0.3〜1.0mol/Lのリン酸根と、前記リン酸根に対してモル比が0.5以下の亜鉛イオンとを含有し、
    前記液体中における全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が4.5以上6.5以下であり、
    前記液体中の強電解質アニオン濃度[Am−](m:アニオンの電荷)と強電解質カチオン濃度[Mn+](n:カチオンの電荷)とが、式(1)の関係を満たすことを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
    Σ(n×[Mn+])−Σ(m×[Am−])>0 (1)
  6. リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
    亜鉛系めっき鋼板の少なくとも一面に、リン酸塩を含む液体を接触させる第1の工程と、
    前記工程後に水洗することなく前記液体を接触させた鋼板を乾燥させる第2の工程とを有し、
    前記液体は、0.3〜1.0mol/Lのリン酸根と、前記リン酸根に対してモル比が0.5以下の亜鉛イオンとを含有し、
    前記液体中における全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が4.5以上6.5以下であり、
    前記T.A.と、前記F.A.と、亜鉛イオン濃度[Zn2+]とが、式(4)の関係を満たすことを特徴とする、リン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
    T.A.−2×F.A.−(14/5)×[Zn2+]>0 (4)
  7. 前記第1の工程と、前記第2の工程との間に、前記鋼板に付着した前記液体を減少させる工程を有することを特徴とする、請求項5又は6に記載のリン酸塩被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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