JP4132582B2 - 成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に自動車構造材として、例えば、ルーフ、フード、ドアパネル等のように曲率が大きな部分を有する部品に好適な張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境問題に対する関心の高まりと共に自動車の燃費向上のニーズが強くなっている。燃費向上のための有効な方策の一つとして車体重量の軽減があり、その中でも車体を構成す低炭素冷延鋼板の板厚を低減することが重要視されている。板厚を低減する際に最も問題となるのが、成形部品の張り剛性の低下である。張り剛性が低下すると、成形品が外部から力を受けた際に容易にたわみを生じてしまう。一般に張り剛性は式(1)に示すように板厚とヤング率に依存する。
S∝E・tm ・・・(1)
ここでSは張り剛性,Eはヤング率、tは板厚、mはパネル形状に依存した乗数で1〜3の値を持つ。
【0003】
この式からも明らかなように、薄肉化による張り剛性の低下を防ぐためには、鋼板のヤング率を向上させる以外に手段はない。そこで、例えば、特開昭58−9932号公報や特開平3−3731号公報に開示されているように、鋼のヤング率の異方性に着目し、成分や圧延方法を限定することで板厚方向に対してヤング率の高い方位の集積度を上げることが行われている。しかし、この方法ではヤング率の向上代は小さく、かつ等方的なヤング率の向上は期待できない。
【0004】
ところで、ヤング率は物理定数であることから、張り剛性の評価を行う場合も一定値として取り扱われてきた。しかし、パネルのようにプレス成形などによって材料に歪みが与えられた部品に再度力が加わると、一般に弾性域と言われる歪み量(0.1%以下)の範囲においても、歪みの増加に伴い、応力−歪み曲線の刻々の傾きが低下していく。この傾きのことを、以後、瞬間ヤング率と呼ぶ。すなわち、従来完全な弾性範囲内での変形であり、一定値のヤング率で評価できると考えられていた張り剛性は、実際は、歪みの増加に伴う瞬間ヤング率の低下という現象を含めた形で取り扱われるべきである。しかし、これまでにこのような現象に着目して張り剛性向上を検討した例は全くない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記課題を有利に解決し、張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前述のように、本発明者らは瞬間ヤング率の低下という現象と張り剛性との相関に着目し、歪みの増加に伴う瞬間ヤング率の低下を抑制することで張り剛性が著しく向上するという全く新しい知見を得た。すなわち、プレスに相当する2%予歪みを与え、150〜170℃で20分以内の熱処理を施し、その後再度引張試験を行った際の瞬間ヤング率をX(応力−歪み曲線の傾きに相当)、ヤング率をYとしたとき、歪み量0.06%まで式(2)の関係を保つ鋼板で、かつ熱処理前からの降伏応力の上昇代が40N/mm2以上の鋼板は張り剛性が著しく向上することを見いだした。
X/Y>0.8 ・・・(2)
【0007】
瞬間ヤング率の低下には、前述したようにプレス成形などによって材料中に導入された歪みが深く関係している。すなわち、プレス成型時に可動転位が導入されていると、マクロには弾性変形範囲内とされる歪み域においても、徐々に局所的な降伏現象が進行し、それが、瞬間ヤング率の低下の要因になっていると考えられる。そこで本発明者らは鋼中において可動転位の動きを抑制し、瞬間ヤング率の低下を抑制する方法として、成形後に熱処理でCの様な侵入型固溶元素を可動転位の周囲に偏析させることが極めて効果的であるという事実を新たに見いだした。また、張り剛性はヤング率の他に板厚の影響も著しく受けることから、この瞬間ヤング率の向上による張り剛性改善効果は限定された板厚範囲のみで発揮されることも初めて見いだした。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.01超〜0.05%,Si≦1.0%,Mn≦1.5%,P≦0.15%,Al0.005〜0.2%,N≦0.007%,Mo:0.01〜3%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、固溶C量と固溶N量の合計が、質量%で、0.0007〜0.005%である、板厚0.5〜0.8mm、降伏応力が120〜250N/mm2の低炭素冷延鋼板であって、相当歪みで2%の予歪みを施し、150〜170℃で5〜20分の熱処理を施した後に、再度引張試験を行った際の歪み量0.06%での応力歪み曲線の傾きXとヤング率Yの比A(=X/Y)がA>0.8を満たし、熱処理後の降伏応力の上昇代が40N/mm2以上であることを特徴とする成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板。
【0009】
(2)板厚0.5〜0.75mmであることを特徴とする前記(1)に記載の成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板。
【0010】
(3)前記(1)又は(2)に記載の低炭素冷延鋼板の製造方法であって、前記(1)に記載の成分を有する熱延鋼板を冷間圧延後、700℃〜Ac3 点で20秒〜120秒の再結晶焼鈍を施し、更に250〜400℃で1〜5分の過時効処理を施すことを特徴とする成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板の製造方法にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、プレスに相当する2%の予歪みを与え所定の熱処理を施した後に引張試験を行った際の瞬間ヤング率をX(応力−歪み曲線の傾きに相当)、ヤング率をYとした時、歪み量0.06%でのX/Y>0.8という関係を有する鋼板に関するものである。以下に、その限定理由を述べる。
板厚:冷延鋼板の板厚は0.5〜0.8mm、好ましくは0.6〜0.8mmとする。先に述べた様に張り剛性は板厚の1〜3乗に依存するため、板厚の影響を著しく受ける。従って、板厚が0.5mm未満に薄手化されると板厚の負の効果が大きくなりすぎ、十分な焼付処理を施しても張り剛性向上の効果が得られなくなる。一方、0.8mm超の厚手材になると板厚の正の効果が大きいために、焼付処理による張り剛性向上効果が見かけ上見えにくくなる。従って、板厚は0.5〜0.8mm、望ましくは0.6〜0.8mmとする。
【0012】
降伏応力:プレス前の降伏応力が120N/mm2未満では、張り剛性向上の効果が顕著に現れないことから本発明に係る冷延鋼板の降伏応力の下限は120N/mm2とする。また、プレス前の降伏応力が250N/mm2を超えるとプレス成形が難しくなり、形状凍結性も低下する。従って、プレス前の降伏応力は250N/mm2以下とする。
瞬間ヤング率と降伏応力の上昇代:まず、張り剛性と瞬間ヤング率の関係は以下の実験によって決定した。表1に示す化学成分の鋼を熱間圧延・冷間圧延後同表中に示した条件で焼鈍し、同表中に示した固溶C,N量および機械的性質を有する板厚0.75mmの冷延鋼板を製造した。
【0013】
【表1】
【0014】
これらの鋼板のL方向からJIS5号引張試験片および振動法によるヤング率測定用試験片を切り出し、残部より図1の模式図に示した型のパネルを作製した。各々の試験片およびパネルに表2に示した種々の熱処理を施し、まず、ヤング率測定と引張試験より瞬間ヤング率の測定を行った。図2にNo.2,5,6,10の歪み量に伴う瞬間ヤング率の変化を示す。歪み量0のところに表示されている値が振動法によって測定されたヤング率である。鋼種によるヤング率の違いはほとんど認められないが、歪み量の増加に伴い、鋼種および熱処理によって瞬間ヤング率の低下の挙動が異なる事がわかる。
【0015】
【表2】
【0016】
一方パネルは、周囲を拘束しパネル正面を構成する部分の中央部を押して荷重100Nでのたわみ量を求めた。図3には歪み量0.06%でのNo.1〜10のヤング率比A(=X/Y)とたわみ量の関係を示す。これより、歪み量0.06%でのヤング率比が0.8以上、降伏応力の上昇代が40N/mm2以上であれば高い張り剛性が得られることがわかる。ヤング率比は原理的に1.0を越えることはない。また、前記熱処理時の降伏応力の上昇代の上限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
熱処理:引張試験の前に施される熱処理条件は実際にそのパネルを製造するラインで塗装焼付等の目的のために行われている条件に準じる。従って、熱処理条件は150〜170℃で5〜20分とする。もちろん、張り剛性向上の目的で、更に高温長時間の熱処理を施して特性を評価しても良い。
【0017】
次に、化学成分の限定理由について説明する。
C:Cを0.01%未満にすると連続焼鈍における過時効時の炭化物の析出が十分進行せず、固溶C量を十分低減することが出来なくなる。また、C量が0.05%超になると炭化物やパーライトの析出量が増加し、延性や深絞り性などの加工性が劣化する。従って、C量の範囲は0.01%超〜0.05%とする。
固溶C,N量:固溶C,N量の合計が0.0007%未満では可動転位を固着する能力が十分ではない。従って、固溶C,N量の合計は0.0007%以上が望ましい。また、固溶C,N量の合計が0.005%を越えると室温で放置している間に時効硬化が進行し、パネルを成形するのが困難になる。従って、固溶C,N量の上限は0.005%とする。
【0018】
Si,Mn,P:強度向上のために通常含まれる成分、すなわち、Si,Mn,Pの上限をそれぞれSi:1.0%以下、Mn:1.5%以下、P:0.15%以下とする。これはそれ以上の添加は加工性を劣化するためである。また、SiとMnは脱酸のため、それぞれ0.01%以上含まれていることが好ましい。B:Bの添加は二次加工性を向上させるので必要に応じて0.0002%以上を添加することは効果的であるが、0.005%超になると加工性の劣化が著しくなるため、上限を0.005%とする。
【0019】
Al:Alは脱酸材として用いる。また、熱延、または焼鈍中にAlNとして析出し固溶Nを低減する。そのため少なくとも0.005%の添加が望ましい。しかし、0.2%超添加すると加工性が劣化することから上限を0.2%とする。 N:Nは不純物であり、0.007%超含有すると加工性が劣化する。従って、Nの上限は0.007%とする。
Cr:Crは強度上昇に有効な元素であり、かつ熱処理後の降伏応力の上昇代を高めることから状況に応じて添加してもよい。しかし、その添加量が0.2%未満では効果が現れないため、その下限を0.2%とする。一方、3%を超えると熱延板の酸洗性が低下したり、製品板の化成処理性が劣化したりするので、上限を3%とする。
【0020】
Mo:Moも強度上昇に有効な元素であり、かつ熱処理後の降伏応力の上昇代を高めることから状況に応じて添加しても良い。しかし、その添加量が0.01%未満ではその効果が現れないためその下限を0.01%とする。一方、3%を超えると強度が上昇しすぎて成形性が劣化するだけでなく、降伏応力上昇の効果も飽和することからその上限を3%とする。
上記成分を得るための原料はとくに限定しないが、鉄鉱石を原料として、高炉、転炉により成分を調整する方法以外にスクラップを原料としてもよいし、これを電炉で溶製してもよい。スクラップを原料の全部または一部として使用する際には、Cu,Ni,Sn,Sb,Zn,Pb等の元素を含んでもよい。
【0021】
以上のように成分調整された鋼を常法にしたがって鋳造、熱延後、冷延鋼板とする。
熱間圧延に供するスラブは特に限定する物ではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターで製造したものなどであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う、連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。熱間圧延の仕上温度はAr3 点より高いことが望ましい。冷間圧延率は50〜90%が望ましい。また、加工性向上のため、仕上げ圧延をα域で行うα域連続熱延プロセスによって得られた素材を冷間圧延、焼鈍して冷延鋼板としてもよい。
【0022】
焼鈍温度:焼鈍温度が700℃未満では再結晶が完了せず、加工性が劣化したり、再結晶を完了させるのに著しく長い時間を要し、生産性を低下させてしまう。また、Ac3 点超で焼鈍を行うと加工性が劣化する。従って、焼鈍温度の範囲は700℃〜Ac3 点とする。
焼鈍時間:焼鈍時間が20秒未満では再結晶が完了せず、加工性が劣化する。また、120秒超焼鈍を行っても顕著な効果は得られず、生産性が低下する。従って、焼鈍時間は20秒〜120秒とする。
【0023】
過時効温度:過時効温度が250℃未満では十分炭化物を析出させるため著しく長い時間を要し、生産性を低下させる。また、500℃超では炭化物の析出が不十分になり、固溶Cを低減できなくなる。したがって過時効温度は250℃〜500℃とする。
過時効時間:上記過時効温度範囲で1分未満の過時効を行っても十分な炭化物析出が得られず、また、5分超行ってもその効果は飽和することから、過時効時間は1分〜5分とする。
【0024】
【実施例】
以下に本発明を実施例をもって詳細に述べる。
(参考例)
表3に示す機械的性質と固溶C,N量を有する板厚0.8mmの冷延鋼板を実機にて製造した。冷延後、780℃で60秒の再結晶焼鈍を施し、更に表3中に示した過時効処理を施した。L方向からJIS5号引張り試験片およびヤング率測定用試験片を切り出し、残部より図1に示したパネルを作製した。相当歪みで2%の予歪みを施した各々の試験片及びパネルに170℃で20分の熱処理を施した後に、ヤング率測定と瞬間ヤング率測定を行った結果から得られたヤング率比A(=0.06%歪みでの瞬間ヤング率/ヤング率)およびパネル周囲を拘束し、パネル正面を構成する部分の中央部を押した時の荷重100Nでのたわみ量を表4に示す。これより、ヤング率比が0.8以上を有し、かつ熱処理による降伏応力の上昇代が40N/mm2の鋼板はいずれも高い張り剛性を示すことがわかる。また、鋼Qの鋼板は原板の降伏応力が高すぎるため、適切な曲率を持ったパネルを成形することができなかった。
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
(実施例)
表1中の鋼Cの冷延率を変えることによってに表5に示した様な種々の板厚にした。冷延後、表1中の鋼Cと同じ条件で再結晶焼鈍及び過時効処理を施した。機械的な性質は、表5中に示したようにいずれも大きな違いはない。このような材料の張り剛性を参考例と同様な方法で評価した結果を表5と図4に示す。これより板厚が0.5mm〜0.8mmの範囲で熱処理を施すによってたわみ量が低下し、優れた張り剛性が得られることがわかる。
【0028】
【表5】
【0029】
【発明の効果】
以上のように、歪みの増加に伴う瞬間ヤング率の低下代が低い鋼板の板厚範囲を制限した上でパネルに適用することによって張り剛性が著しく向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で張り剛性を評価するために作製したパネルを示す図
【図2】歪みの増加に伴う瞬間ヤング率の変化を示すグラフ
【図3】ヤング率比と張り剛性との関係を表すグラフ
【図4】張り剛性に及ぼす板厚と熱処理の関係を表すグラフである。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.01超〜0.05%,Si≦1.0%,Mn≦1.5%,P≦0.15%,Al0.005〜0.2%,N≦0.007%,Mo:0.01〜3%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、固溶C量と固溶N量の合計が、質量%で、0.0007〜0.005%である、板厚0.5〜0.8mm、降伏応力が120〜250N/mm2の低炭素冷延鋼板であって、相当歪みで2%の予歪みを施し、150〜170℃で5〜20分の熱処理を施した後に、再度引張試験を行った際の歪み量0.06%での応力歪み曲線の傾きXとヤング率Yの比A(=X/Y)がA>0.8を満たし、前記熱処理後の降伏応力の上昇代が40N/mm2以上であることを特徴とする成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板。
- 板厚0.5〜0.75mmであることを特徴とする請求項1に記載の成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板。
- 請求項1又は2に記載の低炭素冷延鋼板の製造方法であって、請求項1に記載の成分を有する熱延鋼板を冷間圧延後、700℃〜Ac3 点で20秒〜120秒の再結晶焼鈍を施し、更に250〜500℃で1〜5分の過時効処理を施すことを特徴とする成形性と張り剛性に優れた低炭素冷延鋼板の製造方法。
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