JP4135512B2 - 超音波信号処理方法及び超音波計測装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波の信号処理方法に関し、特に鋳造材、耐火レンガ、コンクリートなど超音波が散乱してノイズが多い被検体について探傷や厚み計測を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波(弾性波ということもある)は固体内部への透過性が良いことから、被検体の探傷や厚み計測に広く用いられている。通常、このような探傷や厚み計測にはパルス反射法が一般的に使用されている。このパルス反射法は被検体の表面から超音波パルスを入射し、欠陥あるいは裏面から反射してきた超音波(以下、信号エコーと呼ぶ)を受信し、その信号エコーの伝播時間に基づいて探傷や厚みを測定する方法である。
【0003】
ところでパルス反射法を、鋳造材、耐火レンガ、コンクリートなどの被検体に用いた場合は、被検体内部の結晶粒や微細な空隙、骨材などによって超音波が散乱され、信号エコーがこれらの組織による散乱エコー(以下、散乱ノイズと呼ぶ)によって隠されてしまいS/N(SN比)が悪化するという問題がある。
【0004】
これを避けるためには超音波の周波数を低くすることが効果的で、例えば鋼材を対象とした場合、普通、周波数は1MHz〜50MHz程度が用いられるが、これらの被検体に対しては一般に1MHz以下、場合によっては50KHz程度まで周波数を下げることが行われている。
【0005】
しかし、この程度にまで周波数を下げた場合、超音波ビームの指向角が非常に広くなる。この結果、信号エコーは弱くなってしまい、信号エコーに対して相対的に散乱ノイズが大きくなったり、あるいは1探法の場合は送信パルスの尾引き(これもノイズの1種となる)が大きくなったりし、結局、あまりS/Nは改善されない。
【0006】
この1探法の送信パルスの尾引きをなくすため、1MHz以下の低周波では送信用の探触子と受信用の探触子を別々にした2探法も良く用いられる。しかし、2探法にすると、表面波が直接受信用の探触子に混入しノイズとなる。これも周波数が低く指向角が広いほど、相対的に信号エコーに対して大きくなってくる。
【0007】
このように、単に周波数を下げても散乱ノイズに対してS/Nを向上させることには限界がある。そこで、散乱性の強い材料での超音波計測において、S/Nを向上させる方法として、以下の技術が提案されている。
【0008】
その1つの技術では、耐火物などの厚みを測定する場合において、弾性波を送信する位置と反射波を受信する位置の間隔を変化させて反射波を受信し、その反射波を加算平均することでS/Nの低下を防止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また他の技術では、コンクリート内部欠陥を超音波により検査する場合において、探触子の走査を複数箇所で行ない、これら複数走査線の受信波形を合成するようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
このようにすると、被検体の空隙部あるいは裏面からの信号エコーは探触子を移動してもほぼ同じビーム路程に現れるので加算によって増幅される。一方、散乱ノイズは様々な位置から反射してきたエコーが干渉したものであるため、探触子を移動すると波形がランダムに変化する。従って、散乱ノイズは加算によって増幅されないため、S/Nを向上させることができる。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−61144号公報
【0012】
【特許文献2】
特開平10−288608号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、加算平均を行う方法においてはS/Nを向上させるために、非常に数多くの平均が必要である。例えば、コンクリートの場合を例に取ると、200mm×200mmの範囲で探触子を移動させながら、最低でも500回以上の加算平均をしなければ効果がないとされている(検査技術99年8月号P54−60「超音波によるコンクリート内部の探知▲4▼」)。
【0014】
更に、低周波数を用いる場合は、S/Nを良くするため狭い指向角が得られるようになるべく大きな面積の探触子を使うことが望ましい。そうすると、これらの方法を特許文献1に記載された耐火物の残厚計測に用いる場合は、大きな面積の探触子を用いるため、炉などの鉄皮に大きな開孔を設ける必要がある。しかし、実際には炉などの機械的強度や冷却の観点から炉の鉄皮に大きな開孔を設けることは困難である。従って、大きな面積の探触子を用いることに制限がある。
【0015】
また、特許文献2に記載された、鉄皮開孔といった問題のないコンクリートの場合でも探触子を動かしながら500回以上の平均を行うことは非常に時間を要するため、検査に多大の時間を要するという問題がある。
【0016】
本発明は以上の問題点を解決するためになされたものであり、散乱性の強い材料の超音波計測において、大きな面積の探触子を用いなくても、少ないデータ数で高いS/Nが得られる超音波信号処理方法及び超音波計測装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解消するための、本発明に係る第1の局面の超音波信号処理方法は、超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置の超音波信号処理方法であって、前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を得て、それら複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち少なくとも1つの信号値の極性が異なるときはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、それら複数の時系列信号の同一時点の複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う。
【0018】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置の超音波信号処理方法であって、前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を得て、それら複数の時系列信号の同一時点の信号値を正、負の2つの極性に分類し、少ない極性に属する信号の個数が所定数以上の場合にはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、多い極性に属する複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う。
【0019】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、上記記載の超音波処理方法において、前記測定した位置毎の複数の時系列信号の数をn、前記探触子の1測定毎に変化させる距離をL、前記超音波のビーム巾をBとして、n、Lが下記式を満たすように前記被検体を測定する。
2L ≦ nL ≦ B
【0020】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、上記記載の超音波処理方法において、前記新たな時系列信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去ステップを更に備えた。
【0021】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、上記記載の超音波処理方法において、前記ノイズ除去ステップは、バンドパスフィルタを用いてノイズを除去する。
【0022】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、上記記載の超音波処理方法において、前記ノイズ除去ステップは、前記ノイズの周波数f、前記時系列信号を測定するためのサンプリング周波数fsを用いて下記式により整数Kを求め、前記新たな時系列信号において、信号値が0でない連続した測定点の個数がK個以下のときは、当該連続した測定点の信号値を0とする。
K = [fs/(2f)]
【0023】
また本発明に係る他の局面の超音波信号処理方法は、上記記載の超音波処理方法において、前記被検体は、鋳造材または耐火煉瓦またはコンクリートである。
【0024】
また本発明に係る他の局面の超音波計測装置は、超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置であって、前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を獲得する獲得手段と、それら複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち少なくとも1つの信号値の極性が異なるときはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、それら複数の時系列信号の同一時点の複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求める演算手段と、この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う計測手段とを備えた。
【0025】
また本発明に係る他の局面の超音波計測装置は、超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置であって、前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を獲得する獲得手段と、それら複数の時系列信号の同一時点の信号値を正、負の2つの極性に分類し、少ない極性に属する信号の個数が所定数以上の場合にはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、多い極性に属する複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求める演算手段と、この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う計測手段とを備えた。
【0026】
また本発明に係る他の局面の超音波計測装置は、上記記載の超音波計測装置において、前記新たな時系列信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去手段を更に備え、該ノイズ除去手段は、前記ノイズの周波数f、前記時系列信号を測定するためのサンプリング周波数fsを用いて下記式により整数Kを求め、前記新たな時系列信号において、信号値が0でない連続した測定点の個数がK個以下のときは、当該連続した測定点の信号値を0とする超音波計測装置である。
K = [fs/(2f)]
【0027】
また本発明に係る他の局面の超音波計測装置は、上記記載の超音波計測装置において、前記被検体は、鋳造材または耐火煉瓦またはコンクリートである。
【0029】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施形態を示す構成図である。本実施の形態では、検査材1を固定し、一つの探触子2の位置を4箇所移動して測定する。探触子2には図には示されていない送信部と受信部が接続されている。そして、4箇所のそれぞれの位置において、超音波の送信および受信が行われ、波形記憶部3にそれぞれの位置における超音波の時系列信号が記憶される。ここで、超音波の時系列信号とは、経過時間毎の超音波の受信信号のことをいう。このようにして得た複数の時系列信号は演算部4に送られ、散乱ノイズを低減するための演算が施される。
【0030】
図2は、本発明の原理を説明する図である。
【0031】
探傷や厚み測定においては、信号エコーである欠陥あるいは裏面からの反射エコーを測定するが、探触子2の位置を変化させても、信号エコーが生じる界面と探触子2との距離があまり変化しないように測定条件を整えることができる。そうすると、この場合には、探触子2の位置を変化させて得た複数の時系列信号に含まれる信号エコーの極性は皆揃っている。
【0032】
一方、散乱ノイズは様々な位置の散乱体からの反射波が干渉しあって生じている。従って、探触子2の位置が異なると敏感にその波形が変化する。
【0033】
このような信号の性質の違いの結果、信号エコーについては、探触子2の位置を変化させても常に受信信号の所定位置に、ある一定レベル以上の信号が出ていると考えられ、一方、散乱ノイズについては探触子2の位置を変化させると受信信号の所定位置にある信号値がランダムに変化する。従って、複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち絶対値が最小である信号値をその時点の時系列信号の信号値とすれば、散乱ノイズが小さくなり、S/Nを改善することができる。
【0034】
演算部4は、この原理に基づいて信号処理を行う。すなわち、探触子2の位置をそれぞれ変えて得たN個の時系列信号をxj(i)(j=1〜N)とし、複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち絶対値が最小である信号値をその時点の時系列信号y(i)として、式(1)を用いて求める。
【0035】
y(i)=min|xj(i)| …式(1)
j=1〜N
図3は本発明の第1の実施形態による実験結果を示す図である。本実験は式(1)の演算の有効性を検証するために行った。
【0036】
本実験にはφ19mmの超音波探触子を用い、5MHzの周波数の超音波によって結晶粒径約120μmの鋼材に加工されたφ1mmの平底人工欠陥を探傷した。図3の(1)は、鋼材上のある1点での探傷信号を示す図である。3μsの位置に生じた信号が欠陥信号エコーを表わしており、それ以外の位置に生じた信号は散乱ノイズあるいは、底面からの反射エコーが混入したノイズ成分である。
【0037】
図3の(2)は、鋼材上を1mmピッチで6点移動させて得た探傷信号を平均した結果を示す図である。両図とも、欠陥信号エコーの周りにも散乱ノイズが存在するためS/Nが低い。図3の(3)は、式(1)を用いて最小値演算を行った結果であり、図3の(1)、(2)と(3)を比較すると、S/Nは6dB〜10dB向上していることがわかる。
【0038】
図4は、探触子移動ピッチと信号数とS/N低減効果の関係を示す図である。本図は、移動ピッチを変えて複数回測定し、式(1)の演算を行ってS/Nを求めた結果を示している。図中、横軸は移動ピッチを示し、測定した回数(信号数)別にマークの形状を変えて表わしている。
【0039】
移動ピッチが1mmと小さい場合は信号数が多いほどS/Nが高い結果が得られた。各探傷信号には一定レベル以上の欠陥信号が出ているため、信号数が多い方が散乱ノイズの低減に有利に作用するためと考えられる。しかし、移動ピッチが3mmと大きくなると、信号数が多い場合には反ってS/Nが低下する結果となった。これは、信号数を多くすると探触子は欠陥位置から離れることになるため、探傷信号に表れる欠陥信号が小さくなり、その影響によってS/Nが低下するためと考えられる。
【0040】
従って、欠陥の大きさ、位置等によって、最適な移動ピッチと信号数の組合せが存在することがわかる。本実験の条件では、最適な移動量は移動ピッチ2mm、信号数6であった。
【0041】
次に、この実験で得られた結果について考察する。
【0042】
図5の(1)は、欠陥と探触子の配置を示し、図5の(2)は、それぞれの位置における探傷信号を模式的に示している。図5からわかるように、探触子2が欠陥の真上の位置▲1▼にある場合には、大きな欠陥エコーが得られるが、位置▲2▼、▲3▼と欠陥から離れるにつれて欠陥エコーは小さくなる。
【0043】
従って、第1の実施形態である式(1)で示す信号処理方法を採用する場合には、探触子2の移動距離(=移動ピッチ×(信号数N−1))は、超音波のビーム幅に基づいて定められる所定値より離れてはならず、また、測定回数は、その制限内においてできるだけ多いほうが望ましいことがわかる。
【0044】
図6は、図4の結果に基づいて、移動距離(=移動ピッチ×(信号数N−1))とS/Nの関係を表わした図である。図6では、横軸は移動距離を超音波の波長λの倍数として表わし、縦軸はS/Nを表わしている。また、図中に用いるマークは図4で使用したマークと同じものである。尚、超音波のビーム幅をBとし、その位置と共に0.8B、0.6Bの位置を図中に点線で示している。なお、本実施の形態では、Bは約15mm、λは約1.18mmである。
【0045】
図6によれば、移動距離が0〜8λまではS/Nは増加しているが、それを超える移動距離ではS/Nは逆に低下を始める。移動距離の定義より、S/Nが低下を開始する移動距離の位置は測定回数によって異なることがわかる。
【0046】
従って、S/Nが4以上と、S/N改善効果があると認められる移動距離の範囲は3λ〜ビーム幅Bであり、S/Nが10以上と、S/N改善効果が顕著に認められる移動距離の範囲は5λ〜ビーム幅B×0.8であることがわかる。
【0047】
以上の考察によれば、式(1)で示す信号処理方法を採用した場合には、上述の移動距離の範囲の条件を充足するように測定すれば、高々数回の測定であってもS/Nを効果的に改善することができる。
【0048】
次に、本発明に係る第2の実施形態の構成について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と比べて演算部4の処理方法が異なっている。
【0049】
上述のように、散乱ノイズは様々な位置の散乱体からの反射波が測定されたものである。従って、探触子2の位置を変化させると、その信号値の極性はプラスになったりマイナスになったりして観測される。そうすると、この現象を利用し複数の時系列信号の同一時点の信号値の極性が異なる場合はその時点の時系列信号は散乱ノイズであると推定され、この場合に時系列信号の信号値をゼロとすれば、散乱ノイズが小さくなり、S/Nが改善されることが期待される。
【0050】
演算部4は、この原理に基づいて信号処理を行う。すなわち、複数の時系列信号xj(i)(j=1〜N)の同一時点の信号値の極性を比較し、その時点の時系列信号y(i)の信号値を式(2)に基づいて求める。
【0051】
y(i)=0 xj(i)の内1つでも極性が異なる場合
y(i)=max(xj(i)) xj(i)が全て+側の場合
y(i)=min(xj(i)) xj(i)が全て−側の場合
…式(2)
尚、式(2)の出力y(i)は最終的に絶対値としても良い。これらの演算はCPUを用いることで計算できる。
【0052】
ここで、式(2)は一般化して次のように表わすことができる。
【0053】
複数の時系列信号xj(i)(j=1〜N)の同一時点の信号値の極性を比較し、N個の信号値を正の極性と、負の極性とに分類し、正負いずれの極性が多いかを調べる。そして、その時点の時系列信号y(i)の信号値を式(3)に基づいて求める。
【0054】
少ない極性をもつ信号の数がM個以上の場合
y(i)=0
少ない極性をもつ信号の数がM個よりも小さい場合
y(i)=max(xj(i)) 多い極性が+の場合
y(i)=min(xj(i)) 多い極性が−の場合
…式(3)
ここで、Mの値、即ちMを与えるための比率M/Nの値は、実機における測定データに基づいて求めることが望ましい。
【0055】
尚、式(3)の出力y(i)は最終的に絶対値としても良い。これらの演算はCPUを用いることで計算できる。
【0056】
図7は、探触子移動ピッチと信号数とS/N低減効果の関係を示す図である。
【0057】
図8の(1)は、欠陥と探触子の配置を示し、図8の(2)は、それぞれの位置における探傷信号を模式的に示している。図8からわかるように、探触子2が欠陥の真上の位置▲1▼にある場合には、大きな欠陥エコーが得られるが、位置▲2▼、▲3▼と欠陥から離れるにつれて欠陥エコーは小さくなる。そして、位置▲3▼においては、欠陥から外れているため、散乱ノイズの影響を受けて、欠陥位置において極性が負となる信号が発生することがある。
【0058】
そのため、第2の実施形態である式(2)で示すアルゴリズムを適用した場合、極性の異なる信号があると、その位置での信号は0となってしまい、欠陥の検出が不可能となる。
【0059】
従って、式(2)で示すアルゴリズムを採用する場合は、必ず測定範囲内に欠陥が存在するような移動距離で測定がなされなければならない。そして、その移動距離範囲内で測定が行われるのであれば、最大値を採用する式(2)のアルゴリズムにより、測定回数を増やすことによりS/N改善効果を顕著なものとすることができる。
【0060】
即ち、第2の実施形態の信号処理方法では、測定範囲内に欠陥が存在するように、移動距離をビーム幅B以内とし、そして測定回数を2以上とすることによって、高々数回の測定であっても、S/Nを効果良く改善することができる。
【0061】
図9は、本発明の第3の実施形態を示す構成図である。本実施の形態では、送信用探触子と受信用探触子の2種類の探触子を用いる2探法とし、探触子の位置を図9の▲1▼〜▲6▼まで6方向に変化させてデータを得るようにしている。
【0062】
図10は本発明の第3の実施形態を用いて、耐火物の冷却板である鋳造銅の厚みを計測した結果を示す図である。ここでは鋳造銅を覆っている鉄皮およびスタンプ材をφ50mm開口し、φ20mmの探触子を2個用い、周波数200kHz、探触子の間隔30mmで実験を行った。
【0063】
図10の(1)〜(6)は6方向での生の受信信号、図10の(7)は式(1)のアルゴリズムに従って演算を行った結果、図10の(8)は式(2)のアルゴリズムに従って演算を行った結果を示している。図10の(7)、(8)の矢印の位置が測提しようとする裏面位置を表わすが、式(1)、(2)に係る演算により、生の信号からは判別できない裏面からの信号が明瞭に得られるようになった。
【0064】
図10の(9)はφ40mmの探触子1個を用い一探法で計測した結果である。一般的に探触子のサイズが大きいほど散乱ノイズに対するS/Nは良くなるが、本実験では探触子のサイズが大きいため、鋳造銅の上に残存するスタンプ材の出っ張りの影響により探触子の振動面が鋳造銅に均一に接触できず、その結果、散乱ノイズが目立ち、裏面からのエコーをS/N良く検出できなかった。
【0065】
一方、φ20mmの探触子を用いた場合では接触面積が小さいため、鋳造銅の上に残ったスタンプ材の出っ張りを避けて均一に鋳造銅に接することができ、上述のように計測することができた。
【0066】
このように、限られた開口面積の中で小断面の探触子を用いた場合であっても、本発明の信号処理方法を用いることで高いS/N比を得ることができた。この効果は鋳造銅の耐火物に限らず、カーボンレンガなどの耐火物の計測においても同様である。
【0067】
図11は、図10の(8)に示す信号に対して、バンドパスフィルタ(100〜300Hz)を用いてフィルタ処理を施した例で、信号に現れているパルス状のノイズが除去され、さらにS/Nが向上した。
【0068】
図12は本発明の第4の実施形態を示す構成図である。本実施の形態は、複数の探触子2を電気的に切り替えることにより、機械的な移動を不要としたものである。
【0069】
各探触子2には、図示されていない送信部と受信部が接続されている。これらの送信部と受信部は時分割によって順番に動作し、4箇所の位置それぞれにおいて、超音波の送信および受信が行われる。この受信信号はマルチプレクサ5により順番に波形記憶部3に読み込まれて記憶される。そして、一連の信号が得られた時点で演算部4にて式(1)または式(2)若しくは式(3)を用いた演算が行われる。これにより、機械的に探触子を移動することなく短時間でS/N良いデータを得ることができる。
【0070】
図13は本発明の第5の実施形態に係るパルス状のノイズを除去する方法を示す図である。
【0071】
式(2)の演算では、複数の信号の内、一つでも極性が異なる場合は強制的にゼロにする演算を行っているので位相が変化する散乱ノイズのかなりの部分で信号はゼロになるが、複数の信号の極性がたまたまある1点だけ全て揃ってしまうと、図13の(1)に矢印で示すようにパルス状のノイズとして残ってしまう。
【0072】
これについては、次の演算で除去することができる。すなわち、パルス状のノイズのパルス巾は、時系列的には1点ないしはせいぜい連続した数点としてしか現れない。このため、時系列データのある1点または複数点の両側のデータがゼロである時、それはパルス状のノイズと判断されるので、その1点または複数点のデータをゼロとすれば除去できる。
【0073】
一方、目的の信号はある周波数成分を持ち、パルス状のノイズに比べると、連続してゼロデータになっていない点数は数倍多い。従って、所定の点数以上が連続して0でない場合は、それはパルス状のノイズではないと判断される。図13の(2)は、以上のアルゴリズムにてパルス状のノイズを除去したものである。
【0074】
ここで、ノイズと判定するための所定の点数Kは、ノイズの周波数をf、サンプリング周波数をfsとすると式(4)で表わされる。
【0075】
K =[fs/(2f)] …式(4)
尚、パルス状のノイズは目的の信号と周波数が異なっているため、適切なバンドパスフィルタを用いて除去することもできる。
【0076】
図14は、本発明に係る信号処理方法が適用される超音波計測装置の構成を示す図である。
【0077】
本超音波計測装置は、検査材1を検査するための探触子2a、2b、探触子2aに超音波パルスを送信する送信部6、探触子2bからの信号を受信して増幅する受信部7、複数の受信信号を切り換えるマルチプレクサ5、受信信号をデジタル信号に変換するAD変換器8、変換されたデジタル信号を処理する処理装置9、探触子2a、2bを移動させるための移動装置13で構成されている。
【0078】
そして、処理装置9は、制御部10、波形記憶部3、演算部4、ノイズ除去部11及び判定部12で構成され、演算部4には、最小値演算部4aおよび極性演算部4bが備えられている。
【0079】
ここで、制御部10は、超音波計測装置の各部を統括的に制御する。従って、本説明においては、特に必要ある場合を除いて制御部10の動作については記載しない。
【0080】
次に、超音波計測装置の動作について説明する。
図15は、本発明に係る信号処理方法の概略の手順を示すフロー図である。
【0081】
検査者が超音波計測の動作開始を処理装置9に指示すると、ステップS1で、制御部10は、移動装置13に対して探触子2a、2bを所定位置に移動させるように制御信号を出力する。
【0082】
ステップS2で、移動装置13から探触子2a、2bの位置情報と共に移動完了信号を受信すると、ステップS3で、制御部10は、送信部6に対して超音波パルスの送信を指示する。そして、受信部7は、探触子2bからの信号を受信すると共に増幅し、マルチプレクサ5、AD変換器8を介して処理装置9に出力する。なお、ステップS3については、送信パルスを常に出しておき、波形の記憶を指示するようにしても良い。
【0083】
ステップS4で、波形記憶部3は、入力された超音波信号を位置情報と対応付けてメモリに記憶する。ステップS5で、制御部10は、所定数の超音波信号を測定したかどうかを調べ、ステップS5でNoの場合、即ちまだ所定数の超音波信号を測定していない場合は、移動装置13に対して探触子2a、2bを1ピッチ移動させるように制御信号を出力する。
【0084】
ステップS5でYesの場合、即ち所定数の超音波信号を測定している場合は、ステップS6で、信号処理モードに対応した演算を行う。
【0085】
即ち、信号処理モードが最小値処理の場合は、最小値演算部4aが起動して上述の式(1)で示す信号処理を行う。信号処理モードが極性処理の場合は、極性演算部4bが起動して上述の式(2)または式(3)で示す信号処理を行う。
【0086】
続いて、ステップS7で、ノイズ除去部11が上述のアルゴリズムによりパルスノイズの除去処理を行う。尚、このノイズ除去はバンドパスフィルタを用いても良い。そして、ノイズを除去した後、ステップS8で、判定部12が欠陥の有無を判定する。
【0087】
尚、本実施の形態では、探触子2a、2bを用いる2探法を採用しているが、探触子2aのみを用いる一探法によって構成しても良い。
【0088】
また、移動装置13を用いて探触子2a、2bを移動しているが、探触子2a、2bを予め測定する位置に複数台設置しておき、マルチプレクサ5でそれぞれの測定点を切り換えて測定しても良い。また、これらを組合せ、移動装置13が複数の探触子2a、2bを移動させるように構成しても良い。
【0089】
更に、処理装置9の内、それぞれの機能はハードウエアで構成しても良く、また処理装置9をCPUを用いて構成し、各機能をソフトウエアを用いて実現するようにしても良い。
【0090】
尚、本実施の形態では、本発明に係る信号処理方法を探傷装置について適用したが、本発明はこの形態に限定されず、厚み計測装置にも適用することができる。
【0091】
本発明において探触子の移動量は以下の点に注意する必要がある。すなわち、一探法で探傷する場合は、ビーム幅を越えると欠陥エコーが得られなくなるため、移動量はビーム幅以内に留めるべきである。二探法で探傷する場合は、欠陥から見た二つの探触子の角度は探触子の指向角を越えてはならない。従って、予想される欠陥の位置に応じて、探触子の間隔が決定される。厚み計測を行う場合は、一探法も二探法も移動量は広く取れるが、厚みが局部的に変化している場合は、探傷の場合と同様である。
【0092】
尚、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれているため、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明を抽出することができる。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【0093】
また、本発明の超音波信号処理方法を利用すれば、その測定対象に関連する技術を開発することができる。例えば、本発明により高炉の耐火物の残厚測定を行うことで、高炉補修方法を得ることができる。即ち、「請求項1乃至9のうち何れかに記載の超音波信号処理方法により高炉耐火物の厚さを測定する工程と、前記工程の測定結果に基づき高炉補修のタイミングを決定する工程とを有する高炉の補修方法。」等である。
【0094】
更に、請求項2において、「それ以外の場合には、それら複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち絶対値が最大である信号値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、」とあり、請求項3において、「それ以外の場合には、多い極性に属する信号値のうちその絶対値が最大である信号値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、」とあるが、その新たな時系列信号は、必ずしも「最大値である信号」でなくても良い。
【0095】
例えば、▲1▼これらの信号値の上位から所定数の値を平均した値でも良く、▲2▼また最大値に代えて2番目の値を新たな時系列信号にしても良い(最大値を採用する場合は、ノイズを採用することとなって異常値となる恐れもあるためである。)▲3▼更に対象とする信号値(逆極性の信号値、または少ない極性の信号値を除く)の全ての平均値を新たな時系列信号にしても良い。
【0096】
また、上記処理方法は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変形しても良く、これらの処理を適宜、組合わせて使用するものであっても良い。
【0097】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る信号処理方法によれば、散乱性の強い材料の超音波計測において、大きな面積の探触子を用いなくても、少ないデータ数で高いS/Nが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態を示す構成図。
【図2】 本発明の原理を説明する図。
【図3】 本発明の第1の実施形態による実験結果を示す図。
【図4】 探触子移動ピッチと信号数とS/N低減効果の関係を示す図。
【図5】 欠陥と探触子の配置及びそれぞれの位置における探傷信号を模式的に示す図。
【図6】 移動距離とS/Nの関係を表わした図。
【図7】 探触子移動ピッチと信号数とS/N低減効果の関係を示す図。
【図8】 欠陥と探触子の配置及びそれぞれの位置における探傷信号を模式的に示す図。
【図9】 本発明の他の実施形態を示す構成図。
【図10】 耐火物の冷却板である鋳造銅を計測した結果を示す図。
【図11】 バンドパスフィルタを用いてフィルタ処理を施した例を示す図。
【図12】 本発明の他の実施形態を示す構成図。
【図13】 パルス状のノイズを除去する方法を示す図。
【図14】 本発明に係る信号処理方法が適用される超音波計測装置の構成を示す図。
【図15】 本発明に係る信号処理方法の概略の手順を示すフロー図。
【符号の説明】
1…検査材、 2…探触子、 3…波形記憶部、 4…演算部、
4a…最小値演算部、 4b…極性演算部、 5…マルチプレクサ、
6…送信部、 7…受信部、 8…AD変換器、 9…処理装置、
10…制御部、 11…ノイズ除去部、 12…判定部、 13…移動装置
Claims (11)
- 超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置の超音波信号処理方法であって、
前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を得て、
それら複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち少なくとも1つの信号値の極性が異なるときはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、それら複数の時系列信号の同一時点の複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、
この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行うことを特徴とする超音波信号処理方法。 - 超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置の超音波信号処理方法であって、
前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を得て、
それら複数の時系列信号の同一時点の信号値を正、負の2つの極性に分類し、少ない極性に属する信号の個数が所定数以上の場合にはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、多い極性に属する複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求め、
この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行うことを特徴とする超音波信号処理方法。 - 前記測定した位置毎の複数の時系列信号の数をn、前記探触子の1測定毎に変化させる距離をL、前記超音波のビーム巾をBとして、
n、Lが下記式を満たすように前記被検体を測定することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理方法。
2L ≦ nL ≦ B - 前記新たな時系列信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去ステップを更に備えたことを特徴とする請求項1乃至3の内1項に記載の超音波信号処理方法。
- 前記ノイズ除去ステップは、バンドパスフィルタを用いてノイズを除去することを特徴とする請求項4に記載の超音波信号処理方法。
- 前記ノイズ除去ステップは、前記ノイズの周波数f、前記時系列信号を測定するためのサンプリング周波数fsを用いて下記式により整数Kを求め、前記新たな時系列信号において、信号値が0でない連続した測定点の個数がK個以下のときは、当該連続した測定点の信号値を0とすることを特徴とする請求項4に記載の超音波信号処理方法。
K = [fs/(2f)] - 前記被検体は、鋳造材または耐火煉瓦またはコンクリートであることを特徴とする請求項1乃至6の内1項に記載の超音波信号処理方法。
- 超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置であって、
前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を獲得する獲得手段と、
それら複数の時系列信号の同一時点の信号値のうち少なくとも1つの信号値の極性が異 なるときはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、それら複数の時系列信号の同一時点の複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求める演算手段と、
この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う計測手段と
を備えたことを特徴とする超音波計測装置。 - 超音波により被検体の探傷または厚み計測を行う超音波計測装置であって、
前記被検体に対し探触子の位置を変えて測定した位置毎の複数の時系列信号を獲得する獲得手段と、
それら複数の時系列信号の同一時点の信号値を正、負の2つの極性に分類し、少ない極性に属する信号の個数が所定数以上の場合にはその時点の信号値を0とし、それ以外の場合には、多い極性に属する複数の信号値について、絶対値が最大である信号値、絶対値が大きい方から所定数までの信号値の平均値、絶対値が2番目に大きい信号値、全ての信号値の平均値、のうちの何れか一つの値をその時点の時系列信号の信号値とする新たな時系列信号を求める演算手段と、
この新たな時系列信号に基づいて前記被検体の探傷または厚み計測を行う計測手段と
を備えたことを特徴とする超音波計測装置。 - 前記新たな時系列信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去手段を更に備え、
該ノイズ除去手段は、前記ノイズの周波数f、前記時系列信号を測定するためのサンプリング周波数fsを用いて下記式により整数Kを求め、前記新たな時系列信号において、信号値が0でない連続した測定点の個数がK個以下のときは、当該連続した測定点の信号値を0とすることを特徴とする請求項8または9に記載の超音波計測装置。
K = [fs/(2f)] - 前記被検体は、鋳造材または耐火煉瓦またはコンクリートであることを特徴とする請求項8乃至10のうちいずれか1項に記載の超音波計測装置。
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