JP4155097B2 - 電子線照射装置の偏向方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は走査型電子線照射装置において対象物の近傍で電子線ビームを左右に走査し、走査に同期してビーム偏向させ対象物に斜め上左右方向から電子線を照射できるようにした電線ビームの偏向方法に関する。電子線照射装置というのは真空中でフィラメントから熱電子を発生させ加速して所定のエネルギーとし照射窓から大気中に取り出して被処理物に当てるようにした装置である。被処理物は電線被覆、高分子膜、印刷塗膜、医療器具、医療材料、排ガス、穀物など多様である。電子線を照射する目的も高分子架橋促進、塗膜硬化、プラスチック膜の改質、殺菌、硫黄酸化物除去など様々である。電子線照射目的や被処理物(対象物)によって装置の規模も加速エネルギーも異なる。
【0002】
電子線照射装置は、一般に、高圧電源、フィラメント、フィラメント電源、真空チャンバ、加速管、照射窓、遮蔽筐体、搬送機構、冷却機構などを備える。加速エネルギーが低い(300keV以下)場合はビームを走査しない非走査型のものを用いる。その場合はフィラメントの数が多くて、実効的な面積が広くフィラメントから出る電子線ビーム自体に広がりがあり被照射物に広く電子線を当てることができるような工夫がなされている。
【0003】
加速エネルギーが高い(3MeV〜500keV)場合は細いビームを多段に加速し、それを左右(前後にも振ることもある)に振って被照射物に当てて広い面積に電子線を当てるようにする。それを走査型と呼ぶ。走査型の場合は三角形の形状をした走査管を加速管に続いて設け走査コイルによって交番磁界を発生させてビームを左右に走査する。その場合は高圧電源も大がかりなものになる。
【0004】
電子線照射装置の概略の作用を述べる。真空チャンバ内のフィラメントに負電圧を印加し、かつ交流のフィラメント電流を流すとフィラメントが加熱されて熱電子を発生する。
【0005】
フィラメントには負の高電圧が印加されており、この電圧により加速管中で加速される。
【0006】
走査型の場合は、走査コイルによってビーム走査させる。非走査型の場合は直進する。加速された電子線は照射窓(Ti箔あるいはAl箔などの金属)を透過し、大気中に出て、電子線は被処理物に当たり殺菌、高分子架橋、塗膜硬化などの処理をする。
【0007】
【従来の技術】
電子線は直進するから、被処理物の上面にしかビームが当たらない。ビームに対して直交するような面には効率良くビームが当たるが、ビームと僅かな角度をなすような面にはビームが当たりにくい。それにビームに対して負の角度をなす面には電子線が全く当たらない。被処理物の形状によってはそれでは困るといううこともある。
【0008】
例えば電線被覆の高分子架橋処理のために電子線を当てるというような場合である。電線の被覆は高分子材料でできており、それに電子線を当てるという場合、芯線が邪魔になるから、いかにエネルギーの高い電子線を当てても芯線より下の部分は電子線が当たらない。そこで電線の場合は、8の字を描くように引き回し照射窓の下を二度通し表面裏面が等しく電子線を浴びるようにする。実際には複数の電線を平行に並べて同時走行させ同時に複数本を一挙に処理する。
【0009】
図1は8の字型走行する電線に電子線照射装置1から電線9に電子線5を照射している有り様を示す。電線コイルローラ20から巻き出された複数の電線9が帯状に並び照射窓6の直下を通過し、反転ローラ22を周り反対向きに走行し再び照射窓6の直下を通過する。電線は8の字を描くように走行しており電子線が二度照射されるから上下面に電子線を浴びる。それに対し一方向から電子線が照射されるということになる。
【0010】
初めに照射窓の直下を通過するときは一方の面(A面)に電子線を照射し、二回目に照射窓の直下を通るときは裏返っており他方の面(C面)に電子線が当たるようになる。現在はそのように上下から2回の電子線照射によって電子線被覆の処理をしている。図2に示すように最初の電子線照射で電線9のA面の方に電子線が照射され被覆の内部へ入り高分子架橋反応が起こる。二回目は裏側のC面が電子線の照射を受ける。両側から電子線が被覆に入るので被覆は残らず高分子架橋反応を起こす。
【0011】
しかしそれだとかなり高いエネルギーの電子線を照射しなければならない。被覆の半径をR、芯線(導線)の半径をrとし中心からのビームズレをyとすると、電線の上を照射している場合は必要浸透長さLはL={(R2−y2)1/2−(r2−y2)1/2}である。最大値を与えるのは電線にビームが外接するとき(y=r)である。電線に外接するビームの必要な浸透長さLはL=(R2−r2)1/2となり、これはかなり大きい値となる。そのような浸透長さを得るためには、かなりの加速電圧が必要である。被覆が厚い場合、必要な加速電圧が1MeVというようなこともある。
【0012】
そこで必要な加速電圧Vaccを減らしたい。その場合、電子線を上下二方向だけでなくて斜め上下の4方向から電子線被覆へ照射できるようにすればよい。4方向から電子線を照射できれば必要な浸透深さLが減る。だから、より厚い被覆の電線を処理できるようになる。例えば45゜をなす一定の角度から斜めに電子線を全ての平行走行する電線に当てる事ができれば4方から電子線照射できる。図3にそのように4方から電子線照射を受けた電線を示す。E、F、G、Hの4方から電子線を照射している。
【0013】
そのように4方から照射すれば必要な浸透長さが減少する。だから、より低いエネルギーで処理できる。あるいは、より厚い被覆の電線を処理できるようになる。そのようにするためには電子線のビームを45゜の斜め上から電線に浴びせるようにすればよい。そのためには電子線を45゜曲げるということよりも電子線自身を鉛直下方から45゜曲げて対象物へ向けて照射するようにすればよいのである。厳密に45゜でなくてもよいが、それに近い角度からビームを当てることができるようにすればよい。そのためには走査機構とは別にビームを対象物の近くでさらに彎曲させるような機構が必要である。本発明の目的はそのように平行に走行する電線に斜めに電子線を当てる事によって処理能力を増強できるような電子線照射方法に関する。
【0014】
電線を照射するための従来技術はないが、ボトルのような容積のある被処理物の側面を電子線処理するためにビームを内側へ曲げてボトル外壁により効率良く電子線を当てるように工夫したものがある。
【0015】
【特許文献1】
特開平11−248900号「電子線照射方法及びその装置」
【0016】
特許文献1は、二次元走査する電子線照射装置において、電磁偏向コイルを走査管の下に設けペットボトルのキャップの内側面と外側面に電子ビームを当てるように工夫したものである。外側の電子ビームを電磁偏向コイルによって強く曲げてキャップの内側へ電子ビームが当たるようにし、内側のビームを強く曲げて球殻ミラーに当てて反射させてキャップの外側へ電子ビームが当たるようにしている。それは走査コイルの電流と偏向コイルの組み合わせによってビームを内側へ強く振って、垂直に置かれたキャップの内面と外面に斜めから電子線が当たるようにしている。
【0017】
走査自体が一次元的ではなくて、二次元である。それは円筒対称形のキャップを対象とするからである。ビームを螺旋軌道に沿って曲げるような走査をする必要がある。螺旋走査とともに偏向コイルによってビームを強く内側に曲げるのであるから逆円錐形の包絡線をもつようなビームが得られ円筒形のキャップの内外面を電子線照射できる。
【0018】
【特許文献2】
特開平11−248895号「電子線照射方法及びその装置」
【0019】
特許文献2は二次元走査管に加えて二次元の偏向コイルを設けて、ペットボトルの本体に斜めから電子線を照射できるようにした電子線照射装置を提案している。これも円筒対称形のペットボトルの周囲壁面を全体的に殺菌するのが目的なので二次元走査が条件となる。さらに偏向コイルも二次元的である。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
走査管の下に偏向コイルを設けて偏向コイルによってビームを中央部へ向けて強制的に収束させるような電子線照射装置は特許文献1、2に提案されている。いずれも偏向角を一定にしており、走査角と偏向角の和である偏向後のビームの角度は一定でない。それは平行走行する複数本の電線の斜め照射には不適である。さらにまた、いずれも走査角θが0になるときに偏向方向を切り換えるようになっており平行に並んだ電線に均一に斜めから電子線を照射するようなことはできない。同じ条件で複数の対象物に斜めから電子線を照射したいものである。それは当然に特許文献1、2のように二次元でなく一次元の走査偏向が必要だということである。しかも走査角と偏向角の関係が一義的でないということである。
【0021】
それは第1の目的となるが、ビームの偏向角をあまりに急激に変化させるとコイル電流の変化が大きく、それにも増して電圧変化が大きくて大型の電源を必要とする。大型の電源を使っても良いのであるが、それはビームの非連続変化を大きくする場合だけに必要なもので非連続を小さくすれば電圧変化をより小さくでき電源ももっと小容量のものを使うことができるようになる。だから電源にあまり負担がかからないように走査偏向方法を工夫するということも大事なことである。
【0022】
同時平行に走行する等価な対象物に対する傾斜角Φが一定であるようにした偏向電子ビームを得る事ができるようにした電子線照射装置の偏向走査方法を提供することが本発明の第1の目的である。同時走行する等価な対象物に対する傾斜角をほぼ一定にしつつ偏向コイルの電源の電圧変化をより小さくできるような電子線照射装置の偏向方法を提案することが本発明の第2の目的である。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明の電子線照射装置は、走査管における走査と偏向コイルによる偏向を加えてクロス角(ビームと鉛直のなす角度)が±Φとした電子線を与えるものであるが、偏向コイル電流Ihの不連続をなくすように、+Φのクロス角と−Φのクロス角の間および−Φのクロス角と+Φのクロス角の間に偏向角が0となる期間を持たせるようにする。偏向角を0とする期間を休止期間という。つまりプラスの偏向角とマイナスの偏向角の中間に休止期間を設けるというのが本発明の特徴である。
【0024】
そのようにすると偏向コイルの電流の不連続による電圧の異常な上昇を防ぐことができるので電源にかかる負担が減る。ということはつまり、より容量の小さい電源を利用することができるということである。クロス角というのは鉛直軸線とビームのなす角度であり、偏向角は偏向コイルによる偏向角度であるが、本発明はクロス角をほぼ一定値である±Φにしつつ、偏向コイルに休止期間を設けて、その間偏向電流が0となるようにする。偏向電流の微分が偏向コイルにかかる電圧であるから偏向電流が0となる休止期間を設けることによって偏向コイル電圧を大きく削減することができるのである。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明は偏向コイルによってビームを偏向させて被処理物の斜め上方から電子線を照射するようにしたものであるが、走査コイルの電流・電圧変化の周期Tsと、偏向コイルの電流・電圧の周期Thを同一にせず、偏向コイル電流の不連続をなくし常に連続となるようにし途中に偏向コイル電流が0となる休止期間を設ける。そのようにすると休止期間と連続性が偏向コイル電圧の巨大化を防止することができる。その結果、走査周期Tsと偏向周期Thの関係がTh=3Tsとなる。
【0026】
もしも走査コイルの左右の走査と偏向コイルの左右の偏向を同期させると、常にクロス角を±Φとすることができる。しかしそうすると偏向コイルの電流の変化が大きくなりすぎて電圧が巨大化してしまう。それを防ぐために偏向コイル電流Ihが連続であるようにする。偏向コイル電流Ihを連続にさせて、かつ常にクロス角を±Φにすることは不可能である。そこで一部の期間はクロス角が±Φから外れるのを許容して、一部の休止期間を偏向コイル電流に設けることにする。そのようにすると偏向コイル電流が連続になるので、その微分である偏向コイル電圧Vhの肥大を好適に防ぐことができるのである。
【0027】
初めに走査角θ、偏向角Υ、クロス角Φの定義を説明する。図4は加速管、走査管と、偏向磁石を示す図である。加速管2、走査機構3、走査管4、偏向磁石8、照射窓6、窓箔7、電子線5を示す。ここでは下向きにz軸をとり右向きにy軸をとる。走査機構の中心をOとする。フィラメント(図示せず)から発生した熱電子は加速管2でz方向に加速されてNOと進み、走査機構3で左右に一次元走査される。走査機構3では磁界が紙面に直交する方向にありビームはファラディ力によって±y方向に曲げられる。
【0028】
元の軸線NOPとビームOQのなす反時計回り角度を走査角θとして定義する。ビームはさらに進んで偏向磁石8にいたる。ここでも紙面と直交する方向に磁界があってファラディ力でビームが±y方向に曲げられる。その場合の偏向磁石8によって曲げられた角度が偏向角Υである。つまり走査ビーム方向OQと偏向ビームの方向QUが反時計回りになす角度が偏向角Υである。
【0029】
そのビームが照射窓6を経て外部へ出て行き平行に並べられx方向に走行する電線9に斜めから当たる。その場合の鉛直線mとビームのなす反時計回りの角度がクロス角Φである。走査角θ、偏向角Υ、クロス角Φいずれも+y方向に曲がるとき正に、−y方向に曲がるときに負になるように方向を定義している。走査コイル電流、偏向コイル電流も右曲がり(+y)で正、左曲がり(−y)で負となるようにしている。電流、角度の正負をどのように定義しても良いのであるが、ここでは右曲がり(+y)の場合、方向も角度も正になるようにしている。
【0030】
クロス角Φは先述のように好ましくは±45゜であるが、本発明の場合必ずしも常に45゜になるというわけではない。
そのような定義から、クロス角Φは、走査角θと偏向角Υの和である。
【0031】
Φ=θ+Υ (1)
【0032】
偏向角Υはクロス角から走査角を引いたものであり、Υ=Φ−θである。どのようにして電子線に偏向を与えるのかという事を述べる。偏向磁石8を図5〜図7によって説明する。図4に示したように走査管4の下方に偏向磁石8を設けるが、それは図5、図6、図7に示すように、強磁性体の細長い枠をなす偏向磁石8である。それは枠状の鉄芯23にコイル28、29を巻き付けたものである。鉄芯23は長い前辺24、短い左辺25、長い後辺26、短い右辺27よりなるy方向に延びた枠体である。内部に自由空間30をもつ。短い左右辺25、27に左右コイル28、29がある。
【0033】
それらの左右短辺にあるコイル28、29に同方向に電流Ihを流すことによって、前辺24、後辺26の間にx方向に向かう磁束密度Bを発生させる。同方向に電流を流し同方向に磁界を発生させるので磁束密度Bは前後辺24、26の間で漏洩してx方向の磁束密度となるのである。鉄芯23の透磁率は高く空気の透磁率は低いので、コイルによる起磁力In=∫Hdsの大部分は空気中である枠内空間30にかかる。
【0034】
z方向に電子線が走行し枠内空間30に入るとx方向の磁束密度Bによってファラディ力が発生しビームの経路が折れ曲がる。図6はzy平面を示す。ビームの偏向コイルでの折れ曲がりの角度が偏向角Υである。コイルの起磁力が同方向であり前辺24、後辺26での磁力が相反するので磁束密度が鉄芯から全て漏れて空間30を通るようになる。コイル28、29の電流は同方向であるが交流(例えば200Hz)であるから極性と大きさは時時刻々変化する。だから偏向角Υもコイル電流Ihに比例して変化する。
【0035】
前辺24、後辺26の間の相対面32、33で磁束密度Bが一番大きくなるのであるが、相対面32、33からずれた面34、35、36、37を通る磁束もあるので図7のように磁束は相対面32、33から少し広がっている。相対面からずれていても依然として電子ビームの軌跡にあるのだから電子ビームを彎曲させる作用がある。磁束の一部が漏れて無駄になっているというのではない。
【0036】
図8は走査角θをなしてビームが偏向磁石8に入ってきたとき磁束密度Bの作用で半径rをえがいてビームが彎曲する有り様を示している。磁束密度の存在する領域の幅をhとする。つまり前辺24、後辺26の上下の幅がhである。走査角θで振られたビームが鉄芯空間30に入ると半径rの円弧を描いて進む。円弧の中心をQとする。入射点をJとし、出射点をMとする。入ってくるビームをOJとする。ビームはJ点からJ、K、M、Uというように彎曲進行する。K点はQからy軸に平行に引いた直線と軌跡の交点である。∠JQK=−θ、∠MQK=+Φである。J点からKQへ下した垂線の足をRとし、MからKQへ下した垂線の足をWとする。
【0037】
JR=−rsinθ (2)
WM=rsinΦ (3)
【0038】
でありその和がhなのであるから、
【0039】
h=r(−sinθ+sinΦ) (4)
【0040】
である。クロス角Φはθ+ΥであるからΥ=Φ−θであり、θが三角波あるいは正弦波で左右に振られたとき、Φを±45゜に固定したいというなら、Υを三角波あるいは正弦波になるように動かせばよいのである。
【0041】
ビーム半径rは、電子線の速度をwとして、遠心力mw2/rとファラディ力qwBが吊り合うことから決まる。
【0042】
mw2/r=qwB (5)
【0043】
電子線のz方向の速度wは、加速エネルギーによって決まるが、加速電圧をVaccとすると加速エネルギーはqVaccであるから、
【0044】
qVacc+m0c2=mc2 (6)
【0045】
であるが、mは相対論的な電子質量であり、静止質量m0に対して、
【0046】
m=m0/(1−w2/c2)1/2 (7)
【0047】
の関係がある。これらの式から、加速電圧Vaccの関数として電子速度wが求められる。電子の静止エネルギーがm0c2=510keVであるから、加速エネルギーqVaccがそれの何倍に当たるかという係数をkとして
【0048】
qVacc=km0c2 (8)
【0049】
となり、kで加速エネルギーを表現すると、
【0050】
w/c=(k2+2k)1/2/(k+1) (9)
【0051】
である。たとえば、加速エネルギーが800keVであると、k=1.56である。その場合、電子線の速度wは
【0052】
w/c=0.92 (10)
【0053】
というようになる。鉄芯間での電子線の彎曲経路の半径rは
【0054】
r=mw/qB (11)
【0055】
であるが、mとwが、qVaccの関数であるので、kを使って表現すると、
【0056】
r=m0c(k2+2k)1/2/(k+1)qB (12)
【0057】
というようになる。電子線の偏向コイルでの軌跡の半径は、磁束密度Bに反比例し、加速エネルギーの静止エネルギーに対する倍数kを用いた定数(k2+2k)1/2倍になるということである。これを必要なBr積を決める式だと解釈することもできる。
【0058】
Br=m0c(k2+2k)1/2/q(k+1) (13)
【0059】
m0=9.1×10−31kg、c=3×108cm/s、q=1.6×10−19Cであるから、
【0060】
Br=1.7×10−3(k2+2k)1/2/(k+1)Wm(14)
【0061】
となるわけである。単位はウエーバーメートル(Wm)である。
【0062】
偏向角をたとえば常に±45゜とするには走査と偏向を同期して行わなければならない。それは走査が右行き走査であれば偏向は左偏向に、走査が左行き走査であれば偏向は右偏向にというようなことである。図9(比較例)にそのような走査と偏向を1:1に同期させた場合の走査、偏向を示す。上段が電子線照射装置での走査、偏向ビームの変化を示す。中段が走査コイル電流Isの変化を示す。下段が偏向コイル電流Ihの変化を示している。
【0063】
図9(1)はビームをイ、ロ、ハ、ニ、ホという順で左から右へと走査しており、ビームを左45゜(Φ=−45゜)に偏向しているものを示している。先述の定義によって、Y走査コイル電流Isが正電流の時ビームは右へ、負電流のときビームは左へ走査される。Y走査コイル電流Isはだから、イロハニホという左から右への走査(走査角が負から正に変わる)において負から正へ電流が一様に変化する。偏向コイル電流Ihはやはり左偏向の時に負電流となるように図示している。
【0064】
Y走査コイル電流Isは走査角θに比例する。偏向コイル電流Ihは偏向角Υに比例する。どちらも反時計回りに角度を定義しておりイロハニホではクロス角Φは一定で−45゜なのであるが、偏向角Υは一定でない。Υ=Φ−θであるから、θが極大(イ点)では、Φとθが近似し(θが負で最小)ているので偏向角Υは負で絶対値が小さく、電流も小さい。ところがθが増えると(ロ点)、Φとの差が増えるので、Υが増える。偏向角Υの絶対値が増えるから、Ihは負で絶対値が増える。ハ点では走査角がθ=0となり正走査に変わる。クロス角は−45゜で不変だから、偏向角Υの絶対値はさらに増える。ニ点では走査角が正になり、ホ点では走査角の最大に達する。クロス角Φは−45゜であるから、ここで偏向角Υが負で絶対値が最大となる。上の図で偏向角が大きくなっていることがよくわかる。
【0065】
クロス角Φをここで突然に−45゜から+45゜に切り換えるとする。それがヘ点である。図9(2)の右端のようなビーム軌跡となる。そのとき偏向角Υが突然に90゜も変化するから偏向コイル電流Ihが不連続に突然増える。それがホヘの不連続である。走査角θは正の最大値をとりクロス角Φも正の最大値をとるから、偏向角Υ=Φ−θは小さい。そのあと走査角θはヘトチリヌというように減少する。走査角の減少はY走査コイル電流Isの減少ヘトチリヌのように一様な電流の減少に対応する。
【0066】
走査角θが減少するが、クロス角をΦ=+45゜で一定値を保持するので、偏向角Υ、偏向コイル電流Ihは増えて行く。左端のヌ点でクロス角を+45゜から−45゜に突然に変化させる。そのために偏向コイル電流Ihが不連続に低下し(ヌイ)負電流となる。そのあとはイロハニホという先ほどと同じ繰り返しになる。
【0067】
図9は時系列的な変化を示すが、回帰的に表現するとより分かりやすい。図10は1周期を左右の往復運動で表現した回帰表現である。中央横線が0である。それを横切る斜め1本の線分がY走査コイル電流Is(或いは走査角θ)である。走査電流Is、走査角θはイロハニホと負からリニヤに増加し、正の領域に達し最大ホから同じ経路を経て減少し、ヘトチリヌとなる。走査角θはホヘ、ヌイで不連続はない。
【0068】
偏向角Υ、偏向コイル電流Ihは、ここでは符号を反対にして示す。−Ih、−Υは平行四辺形イロハニホヘトチリヌというように変化する。クロス角ΦはΦ=+Υ+θであるから、θと−Υの差に等しい。ということは、図10で平行四辺形の上辺、下辺と、中線の差異に等しい。それは±Φであって常に同一である。クロス角を+Φまたは−Φにするというのであれば、そのように−Ih、−Υが平行四辺形を、θ、Isがその中線を描くように変化するしかない。
【0069】
そうなると右端ホヘの不連続、左端イヌでの不連続が不可避となる。どうしてもそのようにビームが右端(ヘ)に来たときの偏向コイル電流Ihのヌイの不連続、左端(イ)へ来たときの偏向コイル電流Ihのホヘの不連続がある。コイルは誘導性の負荷であるからコイル電流の不連続は電圧についてはより大きい不連続をもたらす。それは電源に大きい負担を課することになる。ヌイ、ホヘの不連続は1周期に2回現れるだけであるが、そのために過大な電源が必要だという事になってしまう。
【0070】
偏向コイル電流Ihをもしも連続変化させるとヌイ、ホヘの不連続をなくし急峻な電圧変化を除くことができ電源の負担を低減できる。そこで本発明は、偏向コイル電流Ih、偏向角Υの変化を連続のものとする。
【0071】
図11によって本発明の場合のビーム走査・偏向、Y走査コイル電流Is、偏向コイル電流Ihの時間変化を説明する。図11(1)においてワカヨタレというようにビームを左端から右端まで右方向へ走査する。ビームは左に振れ、クロス角Φは負の一定角であり(たとえば−45゜)、Y走査コイル電流Isは負の最小値から増え始めワカヨと負の値を取り、ヨタレと正の値をとり線形に増加する。偏向コイル電流Ihは負でワカヨタレというように絶対値が増加する。そこまでは図9のイロハニホと同様である。しかしビームが右端(θが正の最大)にきたレ点での、偏向コイル電流Ihの変化が違う。
【0072】
どう違うのか?不連続をなくし連続のものとするのである。偏向コイル電流Ihを連続にするために、ここで偏向方向を反転しないで同一偏向をなお持続するようにする。だからレに続いて、ソツネナラというようにビームの振れはなお左方向とする。つまり1周期ワカヨタレソツネナラで常に同一の左向きの負クロス角Φ(たとえば−45゜)を保持する。走査角θは左右の走査だから、図9の場合と同じようになりワカヨタレソツネナラは三角波の上下一周期となる。偏向コイル電流Ihの方はレから連続的に少しずつソツネナラムというように絶対値を減少させる。
【0073】
つまり図9と比べて、ホヘの不連続がない。図11(1)、(2)はだからクロス角Φが負の一定値のままである。図11(3)では本発明に特有の場合が現れる。左端のム点では殆ど偏向コイル電流Ih、偏向角Υが0である。ビームを左から右へ走査するがその間、偏向コイル電流Ih、偏向角Υは0とする。つまり偏向コイル電流Ihの休止期間ウヰノを新たに設ける。そのあいだ偏向しない。クロス角Φは走査角θに等しい。その場合は電線の表面の上面に電子線を打ち込むということになる。
【0074】
右端オまで走査する(θが最大)と、少しずつ偏向角Υ、偏向コイル電流Ihを正方向に増大させる。左向き走査のクヤマケフにおいて、偏向コイル電流Ih、偏向角Υを正方向に増加させる。クヤマケフにおいては、走査角θの減少、偏向角Υの増加がほぼ同じ速度であり、クロス角ΦはΦ=θ+Υなので、Φは一定角度(たとえば+45゜)を保持することになる。
【0075】
左端フまで走査する(θが最小)と、偏向コイル電流Ih、偏向角Υを少しずつ下げて行く。コエテアサの部分では走査角θは増加し(右への走査)てゆき、同じ速度で偏向コイル電流Ihを下げる。クロス角ΦはΦ=θ+Υだからそれはほぼ一定値(たとえば+45゜)となるのである。右端サ点では走査角θは最大でありクロス角Φとほぼ同じなので偏向角Υ(偏向コイル電流Ih)は小さい。
【0076】
さらに右端サ点で偏向方向を急激に変化させず、連続的にゆるやかに変化させる。偏向角Υ、偏向コイル電流Ihを0としてビームは走査だけにする。その場合クロス角Φは走査角θに等しい。それがキユメミシの部分である。そこにも休止期間メミシが設けられているのである。
【0077】
シの後は、図11(1)のワに戻る。だから偏向コイル電流Ihは、0からワカヨタレとリニヤに下がり、右へとビームが走査される。
【0078】
ワ〜シは走査角θの変動からみれば3周期(3Ts)にあたる。ところがクロス角Φについていえばそれが一つの周期となる。走査の初めの1周期ワ〜ラではクロス角Φは負の一定値(たとえば−45゜)であり、走査の1.5周期〜2.5周期のクヤマケフコエテアサでは、クロス角Φは正の一定値(たとえば+45゜)である。
【0079】
ムウヰノオの部分では偏向角Υ、偏向コイル電流Ihが小さくウヰノでは負から正へ変化の準備をするための休止期間となる。キユメミシでも偏向角Υ、偏向コイル電流Ihが小さくて、メミシでは休止期間となっている。
【0080】
休止期間は半周期かそれより僅かに短い期間である。休止期間は2回あり、それが半周期だとすると、偏向角Υ、偏向コイル電流Ihの動きは走査の3周期分3Tsであり、1周期分は正の一定偏向角、1周期分は負の一定偏向角、半周期は負から正への休止、残り半周期は正から負への休止期間となるのである。3Ts=Thとなるのである。
【0081】
図12は横軸を時間軸とするが往復運動を線分で示したものである。3本の平行斜線が引いてあるが、走査は中間の斜線であり、それは走査角θ、Y走査コイル電流Isを表現している。3周期Tsの動きをするので走査角θ、Y走査コイル電流Isは、ワカヨタレと左下端から右上端まで変化し、ソツネナラと右上端から左下端へと変動する。
【0082】
さらに同じ経路をムウヰノオと上り、クヤマケフと下りる。さらにコエテアサと上り反転して左下端に戻る。それは3回往復走査になるが、偏向角Υの動きとしては1周期になる。図12において上下の斜線と中央の水平線を含めたS字型の経路は、偏向角Υ、偏向コイル電流Ihのマイナス分、−Υ、−Ihの変化の経路を示している。上分枝の左下からワカヨタレというように偏向コイル電流Ih、偏向角Υの絶対値が増えて行く。レ点で負の最大値に到達する。つまりビームはもっとも強く左方へ偏向する。
【0083】
レ点で折り返し、ソツネナラというように偏向コイル電流Ih、偏向角Υの絶対値が減少する。クロス角Φは負の一定値を保持するが、走査角θが正から負へと変化して行き、その差である偏向角Υ=Φ−θの絶対値は減少する。ワカヨタレソツネナラが負の一定クロス角Φの期間であり負偏向期間Taと呼ぶ。
【0084】
ムで偏向角Υは0に近く、ウヰノで偏向角Υ=0となる。ウヰノを休止期間Tbと呼ぶ。休止期間Tbは走査周期Tsの半周期以下の長さをもつ。
【0085】
その後は偏向コイル電流Ih、偏向角Υが正で増大し始める。−Υ、−Ihは図12において、ノオクヤマケフというように下斜め分枝を辿って下がる。フ点で偏向コイル電流Ih、偏向角Υが最大値になる。それは図11の(4)のフの折れ線が強く折れ曲がっていることに対応する。フ点でも不連続を作らず、そこから偏向コイル電流Ih、偏向角Υを連続的に下げてゆく。
【0086】
だから図12の下分枝をコエテアサキユというように斜め右向きにはい上がってゆく。それが正偏向期間Tcである。偏向コイル電流Ih、偏向角Υが0に接近する。ユ点の近くで0となりメミシという休止期間になる。その休止期間は正から負への遷移のための休止であり、Tdとする。その後やっと初めのワカヨタレという分枝へつながる。
【0087】
だから偏向コイル電流Ih、偏向角Υのマイナス分−Ih、−Υは図12のS字型分枝を、3Tsかけて上中下中上というように辿る。つまり偏向周期Thは
【0088】
Th=3Ts (15)
【0089】
であって、かつ
【0090】
Th=Ta+Tb+Tc+Td (16)
【0091】
である。走査周期Tsを単位にして数えると、負偏向期間Ta、正偏向期間Tcは1Ts〜1.5Tsであり、休止期間Tb、Tdは0.5Ts〜0である。
休止期間Tb、Tcがあるので偏向コイル電流Ihの変化が少なくなり電圧の変化も減少する。
【0092】
休止期間Tb、Tdは最大で0.5Tsとすることができる。その場合は左から右への半走査、右から左への半走査においてずっと無偏向ということになる。それは図11に示したものよりも休止期間が長くなる。図11においてムウヰノオ部分が休止期間Tbになり、キユメミシの部分が休止期間となる。
【0093】
休止期間Tb、Tdを0.5とした場合のY走査コイル電流Is、偏向コイル電流Ihのダイヤグラムを図13に示す。図12の折れ先ムウ、オクのような部分がなくて3本の平行斜線が存在し、中央の斜線がY走査コイル電流Isであり、斜線の左下端から始まり右上端へ上昇し、さらに左下端へ折り右上端へ行き左下端へ進み右上端へ移動し左下端へとゆく。つまり3回往復変化するのである。
【0094】
偏向コイル電流Ih、偏向角Υのマイナスである−Ih、−Υの方は、ワカヨタレというように上分枝を左下から右上に上り、右上端からソツネナラというように左下へ降りてくる。その大きさが偏向コイル電流Ihであり偏向角Υの大きさである。そのあいだクロス角Φは一定の負の値をとる。クロス角ΦはΦ=θ+Υ=θ−(−Υ)であるから、走査角θと、偏向角のマイナス−Υの差であって、上斜線と中斜線の差となる。平行線だからその差は一定であり、それは偏向角が一定だという事を示す。
【0095】
偏向コイル電流Ihのマイナスである−Ih、−Υの変化は、その後休止期間ムウヰノオとなる。それは水平軸線での変化として表現される。図11の(3)の期間の全体が休止(Ih=0、Υ=0)となるのである。
【0096】
オで休止が終り、クヤマケフというように−Ih、−Υが下がって行く。それは正の偏向をする期間である。偏向角Υは増加する。左下端で偏向角Υの最大をとる。そのあと左下端から反対に斜線を右上に遡行してコエテアサというように減少しながら0に近付いて行く。クヤマケフコエテアサの間において偏向角は正である。
【0097】
正偏向をしている間において、クロス角Φは走査角θから−Υを引いたものであり、中斜線と下斜線の縦方向の距離に等しい。平行線だから距離は常に一定である。それは、この期間クヤマケフコエテアサキにおいてクロス角Φが正の一定値だということである。その後はキ点で偏向コイル電流Ih、偏向角Υが0となり、0のままキユメミシというようになる。
【0098】
図12は負偏向期間Ta、正偏向期間Tcにおいて、ムウ、ノオ、キユ、ミシのように一過的な遷移部分を設けている。それが休止期間Tb、Tdを短くしているのであるが、反面偏向コイル電流Ihの変化の速度を緩和する作用がある。
【0099】
図13は負偏向期間Ta、正偏向期間Tcにおいて、そのような一過性の遷移部分がない。それは休止期間Tb、Tdを長くすることを可能にする。しかしそれは偏向コイル電流Ihの変化の速度を早くしなければならないという制限をもたらす。休止期間Tb、Tdの設定はそのようなことを勘考して適宜、0<Tb、Td≦0.5Tsという範囲で決定するべきである。
【0100】
【実施例】
[800keVの加速電圧の場合の実施例]
加速電圧が800keV(相対論的な取扱が必要)であるとする。図5の偏向コイルにおいて、空隙30の幅をd=84mm、空隙30の長さをW=1000mm、空隙の厚みをh=60mmとする。つまり
【0101】
d=0.084m、W=1m、h=0.06m (17)
【0102】
であると仮定する。(4)式が走査角θ、クロス角Φに対して、偏向コイルの高さhと、電子線の彎曲半径を関係付ける。hはここでは60mmとしているから、そこからrの最小値を計算することができる。クロス角Φを45度、走査角θの最大値を42゜と仮定すると式(4)のsinθとsinΦの和の最大は1.376となる。これでh(60mm)を割ったものが最小半径rだから、最小半径rminは
【0103】
rmin=43.6mm=0.0436m (18)
【0104】
となる。800keVの加速電圧であり、電子の静止エネルギーは510keVであるからその比kは
【0105】
k=800/510=1.57 (19)
【0106】
である。Br積は、これを式(14)に代入して
【0107】
Br=1.566×10−3 Wm (20)
【0108】
である。最小彎曲半径がr=0.0436mだとすると、最大磁束密度Bは
【0109】
B=0.0359テスラ=359ガウス (21)
となるわけである。
【0110】
そのような磁束密度を形成するために必要なコイル巻き数N、コイル電流Ihを試算しよう。
【0111】
図5、6に示すように、両側に同等のコイルが二つあるから、その内の一つについて計算して、その値を2倍すればよい。磁力線は、コイルの間を通り、鉄芯を通って、空間に出て、さらに鉄芯に戻ってさらにコイルに戻るような閉磁路を描く。磁場Hの経路積分が電流巻き数積NIである。磁場Hの経路積分は鉄芯部分を空間(d)に分けられるが、鉄芯部分は透磁率μが大きく磁束密度Bの連続性があるので、H自体は小さいものである。磁場Hが大きいのは空間部分である。だから、空間部分のHだけを考えることにする。
【0112】
Hd=NI (22)
【0113】
(22)式は近似式である。だから、H=NI/dとなり、これに真空の透磁率μ0を掛けたものが空気中の磁束密度Bを与える。B=μ0NI/dである。これから必要なNIはdB/μ0ということになる。d=0.084m、B=0.0359T(テスラ)、μ=4π×10−7H/mだから、
【0114】
NI=2400AT (23)
【0115】
となる。コイル巻き数と電流の積が決まるが、積の値を与えるための電流、巻き数には自由度がある。これを満たすものであればいくらでも良い。簡単に、ここでは、巻き数をN=80Tm、電流を30Aとする。
【0116】
今度はそのような条件で、磁束密度B、コイルの誘導L、磁束Ψ、電圧Vなどを考えてみよう。
【0117】
Hd=NI=2400AT (24)
【0118】
偏向コイルの空隙の幅をd=84mm=0.084mとしているので、空隙部の磁場Hは、
【0119】
H=NI/d=28571A/m (25)
【0120】
である。空隙部の磁場のμ0(真空の透磁率:4π×10−7H/m)をHに掛けたものが空隙部の磁束密度Bであるから、
【0121】
【0122】
となって先述のように、h=60mmで、±42゜の走査角、±45゜のクロス角を発生させるための磁束密度359ガウスに合致する。
【0123】
コイルの誘導Lは、単位時間での電流変化1単位に対してコイルの両端に出る電圧変化として定義される。電圧変化というのはコイルを横切る全磁束Ψの変化である。コイルはN回巻線をもつので、全磁束Ψはコイルを横切る磁束のN倍である。上の関係を時間で積分すると、Ψ=L1Iによって一つのコイルの誘導L1が定義されるということである。磁束は磁束密度Bを面積で積分したものである。全磁束Ψは
【0124】
Ψ=N∫BdS (28)
【0125】
面積は空隙部分である。空隙部分は長さがWであり、幅がd、高さがhである。磁束密度Bは必ずしも一様でないが平均の磁束密度Bがあるとし、長さWのうち半分が一方のコイルによる磁束密度によるものだとして、積分の範囲を限定し、空隙の面積(hW/2)を掛けたものが積分だとする。
【0126】
Ψ=NBhW=80×0.0359×0.06×1/2=0.086W(29)
【0127】
となる。単位はウエーバWである。これを電流I=30Aで割ると、L1=0.00287Hとなる。BをHになおし電流Iと関係付けると、
【0128】
Ψ=Nh(W/2)μ0H=Nh(W/2)μ0NI/d=L1I (30)
【0129】
となり、この式で一方のコイルの誘導Lが定義される。
【0130】
L1=μ0N2hW/2d (31)
【0131】
となる。これは
【0132】
L1=0.00287H (32)
となり同じ結果を与える。実際には両方に等価なコイル(L1、L2)がある。それを直列に繋ぐので、その二倍が全誘導L0=L1+L2であり、
【0133】
L0=μ0N2hW/d=0.00574H (33)
【0134】
である。それは鉄芯の対向する部分(幅h)での磁束密度Bだけを考慮しているが図7のように実際には、鉄芯の上下から発生する漏れ磁力線がある。それが電子線を曲げる作用があるしコイル電流を消費するという作用がある。鉄芯の幾何学的形状によって上下面からの漏れ磁力線は異なる。その評価は難しいから余裕をみて、対面での磁力線の3倍の磁力線が、鉄芯間に存在するとして、全誘導Lを3L0で計算すると、
【0135】
L=3L0=0.0172H=17.2mH (34)
【0136】
というようになる。3倍というのは概算であるが、この計算は大体の必要電圧を見積もるためのものだから、それでもよいのである。コイルの誘導としてこれは大きい値である。200Hzのような低い周波数で偏向コイルを駆動するとしても、それはかなり大きい電圧を必要とするのである。
【0137】
図9の比較例において、ヘホ、ヌイでのコイル電流の不連続を考える。ヌ点で電流が30Aであり、イ点で電流が−5Aであるから、電流の変化は35Aである。200Hzの場合周期は5msであるが、電流の変化に要する時間を100μs=0.1ms=10−4sだとする。電流変化に誘導Lを掛けたものが電圧だから、
【0138】
【0139】
というような巨大な電圧が必要だということになる。電流が30Aというように大きい負荷であるが、それに6kVもの高電圧を掛けるのは容易でない。よほど大型の容量の大きい電源が必要になる。それは偏向装置の製造を困難にし高価格にする。
【0140】
ところが図11のように休止期間を設けるようにすると、電流は連続的になり電流の時間微分は著しく減少する。ソツネナラム、ノオクヤマケフというような一様連続の増加において正の電流変化(dI/dt)があり、ワカヨタレ、コエテアサキユの一様連続の減少において負の電流変化がある。どちらも30Aの電流変化を0.5周期(周期はTs走査周期として)で変化するのだから、時間は2.5msである。このときの2.5msをとって計算すると、電圧は
【0141】
【0142】
ということになる。不連続のある電流変化をする比較例に比べて、連続変化する場合、電圧は約1/30に減る。すこぶる顕著な電圧減少である。コイル電流は30Aであって大電流が流れる負荷であるが、200Hzで、200V程度の電圧を掛けるのはそれほど難しくない。市販されているあり振れた電源回路を用いることができる。
【0143】
図11の本発明のものは、図9の比較例に比べて偏向周期Thが長くなっているからクロス照射のためのコイル電流の変化を小さくすることができる。比較例はTh=Tsであるが、本発明はTh=3Tsである。
【0144】
比較例はクロス角Φが±定数(たとえば45゜)であって、それ以外の値を取らないようにできる。それは常に図3のE、F、G、Hの方向からの電子線照射となり被覆の奥深くまで電子線を打ち込むことができる。
【0145】
本発明の場合は、休止期間Tb、Tdが入るので、どうしてもクロス角Φを±定数というようにはできない。しかしそれでも走査Tsの3周期分(3Ts)のうち初めのTs程度をマイナス定数のクロス角にできるし、後ろのTs程度をプラス定数のクロス角にできる。だから図14のようにE、F、G、Hの側方斜めから充分な電子線照射をすることができる。それに休止期間Tb、Tdといっても無駄だということではなくて、直上から(A、C方向から)電子線が照射されるので、それも被覆の高分子架橋反応に有効に利用されるのである。
【0146】
【発明の効果】
本発明の電子線照射装置はビームの方向を軸線に対して傾斜させるための偏向コイルを備えているので電線被覆の高分子架橋のために電子線を照射する場合に斜めからも電子線を当てるようにできる。そのために必要な電子線浸透長さを短縮することができる。同じ太さの被覆をもつ電線であれば加速電圧をより小さくできるし、同じ加速電圧であればより太い被覆をもつ電線の処理をすることができる。
【0147】
偏向角Υを走査角θの関数として変更するが周期が同一でない。偏向角変化の周期Thと走査角θ変化の周期Tsを同一にする(Th=Ts)と、どうしても偏向角変化に不連続が出る。不連続な偏向角変化は偏向コイル電源に対し大きな電圧変化を要求する。それは電源の負担を著しく増加させ望ましくない。そこで本発明は、偏向角周期Thを、走査角周期Tsの3倍にして、正偏向期間と負偏向期間の間、負偏向期間と正偏向期間の間に休止期間を設けている。そのようにすると偏向コイル電流Ihが連続変化するようにできるから偏向コイル電圧が巨大にならない。それは電源の負担を低減する。つまり、より小さい定格の電源を利用することができるということである。
【0148】
コイル負荷というものは、電流の微分が電圧であるから、通常の抵抗負荷とは違って電流の不連続性が電圧にもたらす影響は多大のものがある。だから電流は連続にしたいものである。本発明は、偏向コイルの電流に連続性を与えたので最大電圧はあまり大きくならずに済む。実際、連続的に電流を変化させたものは、不連続に電流変化させるものに比べて約1/30に電圧を減らすことができる。それは電源の設計、製造を容易にし装置コストを縮減することができ、偏向コイルを備えた走査型電子線照射装置をより現実性のあるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電線被覆の高分子架橋反応のために電子線照射する場合に、8の字型に電線を移動させて2度電子線を浴びるようにし表裏に電子線が当たるようにしたものの概略構成図。
【図2】 電線を8の字型に引き出して2回照射窓の下を通し、電線被覆に上下2方向から電子線を照射したときにおいて、芯線の近くで必要浸透深さが大きくなることを示すための電線、電子線の断面図。
【図3】 電子線を±45度斜め上方から電線被覆に照射することによって4方から電子線を当てることができるようになり必要浸透深さが減少することを示すための電線、電子線の断面図。
【図4】 走査型電子線照射装置の走査管の下方に偏向コイルを有するビーム偏向装置を設け電子線ビームを走査し偏向して電線に照射する際において縦軸線に対し走査ビームが反時計回りに成す角を走査角θとし、偏向装置においてビームが反時計回りに偏向した角度を偏向角Υとして定義することを説明する電子線照射装置の全体図。
【図5】 細長い枠型をした鉄芯とコイルからなる電子線ビーム偏向機構の平面図。
【図6】 細長い枠型をした鉄芯とコイルからなる電子線ビーム偏向機構の縦断面図。
【図7】 対向する鉄芯の間には対向側面間だけでなく上面、下面でも磁力線が形成されるので端面の磁束の3倍程度の磁束が鉄芯間に存在するということを説明するための鉄芯間磁力線図。
【図8】 高さhの偏向機構の鉄芯に、走査角−θで入ってきた電子ビームが縦に通過するとき鉄芯の対面間に存在する磁束密度Bの作用で偏向角Υだけ偏向し外部に出てくるとクロス角Φのビームになり、Φ=θ+Υであり、h=r(−sinθ+sinΦ)であることを説明するための説明図。
【図9】 偏向機構の偏向の周期Thを、ビーム走査の周期Tsと同一にし、左右の走査端で急激にクロス角Φを−45度から+45度、あるいは+45度から−45度に偏向すると電流の不連続が大きくなることを説明するための電子線ビームの走査・偏向図。(1)は左クロス角Φ(−45度)を維持してビームを左から右へ走査する過程イロハニホを示す。(2)は右クロス角Φ(+45度)を維持してビームを右から左へ走査する過程ヘトチリヌを示す。(3)は左クロス角Φ(−45度)を維持してビームを左から右へ走査する過程イロハニホを示す。(4)は右クロス角Φ(+45度)を維持してビームを右から左へ走査する過程ヘトチリヌを示す。(5)は左クロス角Φ(−45度)を維持してビームを左から右へ走査する過程イロハニホを示す。(6)は右クロス角Φ(+45度)を維持してビームを右から左へ走査する過程ヘトチリヌを示す。左右端点にビームがあるときにクロス角Φを急激に90度変化させるから電流の不連続がヘホ、ヌイで著しいことを示すためのビーム・電流・電圧の時系列変化図。
【図10】 図9のように走査コイル電流の変化の周期Tsと偏向コイル電流の変化の周期Thを同一とし走査の左右端でクロス角Φを不連続変化させるような偏向方式において周期的な走査角θ、走査コイル電流Isの時間変化と、偏向コイル電流Ih、偏向角Υのマイナス分−Ih、−Υの時間変化を平行四辺形上の動きとして示す時系列ダイヤグラム図。
【図11】 本発明の方法を示すもので、偏向機構の偏向の周期Thを、ビーム走査の周期Tsの3倍として、一定のクロス角を維持しながらビーム偏向をしてビーム走査したとき左右の走査端でビーム偏向を一次中止し休止期間として反対向きの走査を行い反対側の走査端でビームを反対向きにビーム偏向して走査と偏向を同時にして一定のクロス角を保持し、走査端に達したとき、ビーム偏向を中止して休止期間とするというような周期変化を行う。(1)は左クロス角Φ(たとえば−45度)を維持してビームを左から右へ走査する過程ワカヨタレを示す。(2)は左クロス角Φ(たとえば−45度)を維持してビームを右から左へ走査する過程ソツネナラを示す。(3)は偏向コイル電流を0とし偏向を中止してビームを左から右へ走査する休止過程ムウヰノオを示す。(4)は右クロス角Φ(たとえば+45度)を維持してビームを右から左へ走査する過程クヤマケフを示す。(5)は右クロス角Φ(たとえば+45度)を維持してビームを左から右へ走査する過程コエテアサを示す。(6)は偏向コイル電流を0とし偏向を中止してビームを右から左へ走査する休止過程キユメミシを示す。左右端点にビームがあるときはクロス角Φと走査角はほぼ等しいのでそこで偏向コイル電流を0とし偏向の休止期間とする。正偏向と負偏向の間に休止期間を入れるからコイル電流が連続的になり必要な電圧は小さくてすむ。
【図12】 図11のように走査コイル電流の変化の周期Tsと偏向コイル電流の変化の周期Thを異ならせ、Th=3Tsとし、走査の左右端でクロス角Φを微小値から0へ或いは0から微小値へと連続変化させる本発明の偏向方式において、休止期間Tb、Tdを走査の半周期0.5Tsより短くしたときの、周期的な走査角θ、走査コイル電流Isの時間変化と、偏向コイル電流Ih、偏向角Υのマイナス分−Ih、−Υの時間変化を平行四辺形上の動きとして示す時系列ダイヤグラム図。
【図13】走査コイル電流の変化の周期Tsと偏向コイル電流の変化の周期Thを異ならせTh=3Tsとし、走査の左右端で一過性の遷移部分がない場合の本発明の偏向方式において、休止期間Tb、Tdを走査の半周期0.5Tsより短くしたときの、周期的な走査角θ、走査コイル電流Isの時間変化と、偏向コイル電流Ih、偏向角Υのマイナス分−Ih、−Υの時間変化を平行四辺形上の動きとして示す時系列ダイヤグラム図。
【図14】 本発明のように偏向コイルの偏向運動の途中に休止期間Tb、Tdを設けると、電線被覆を往復させ両面から電子線を照射したとき、偏向時にはE、F、G、Hの斜めから電子線が被覆に当たり、休止期間には、A、Cの方向から電子線が被覆に当たるようになることを示す電子線、電線の断面図。
【符号の説明】
1 走査型電子線照射装置
2 加速管
3 走査機構
4 走査管
5 電子線
6 照射窓
7 窓箔
8 偏向磁石
9 電線
20 電線コイルローラ
22 反転ローラ
23 鉄芯
24 前辺
25 左辺
26 後辺
27 右辺
28、29 コイル
30 自由空間
32、33 相対面
34〜37 相対面からずれた面
Is 走査コイル電流
Ih 偏向コイル電流
θ 走査角
Υ 偏向角
Φ クロス角
E、F、G、H クロス照射方向
A、C 垂直照射方向
B 磁束密度
Ts 走査周期
Ta 負偏向期間
Tb 休止期間
Tc 正偏向期間
Td 休止期間
Claims (1)
- 真空中で熱電子を発生する熱電子源と、高圧の加速電圧Vaccを発生する加速電源と、真空中で加速電源電圧によって電子線を加速する加速管と、真空に引かれた三角形状の走査管と、走査管の上部にあって交番磁場によって電子線を走査角θ、周期Tsで往復走査する走査機構と、走査管の下部の真空中に設けられ電子ビームと直角の方向に交番磁束密度Bを発生させ走査された電子ビームをさらに交番磁束密度Bによって、+Φ方向から−Φ方向、−Φ方向から+Φ方向にビームを偏向させる偏向機構と、電子線を外部へ取り出すための窓箔を張った走査管下部の照射窓と、照射窓の直下に対象物を搬送する搬送機構とを含む電子線照射装置において、走査の周期Tsに同期して、1〜1.5Tsの負偏向期間Ta、0〜0.5Tsの休止期間Tb、1〜1.5Tsの正偏向期間Tc、0〜0.5Tsの休止期間TdよりなるTsの3倍の偏向周期Th(=3Ts)で電子ビームを偏向させるようにしたことを特徴とする電子線照射装置の偏向方法。
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