JP4243066B2 - 生物付着防止材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、海洋構造物、船舶、水輸送用の配管又は水路、漁網、熱交換器あるいは、海水取水口のスクリーンなどに生物やスケールなどが付着することを電気化学的に防止する生物付着防止材に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水や淡水中には多くの生物が存在し、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶やブイに付着すると推進抵抗の増大といった問題が発生する。また、養殖用生け簀に付着すると海水の交流阻害といった問題が発生する。更に、定置網などの漁網に付着すると網成りの変形といった問題などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は海水や淡水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生する。
海水や淡水に接している構造物表面への生物の一般的な付着機構は以下の通りである。
まず付着性のグラム陰性菌が構造物表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらにグラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜上に大型生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の生物が付着する。付着した大型生物が繁殖成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
こうした水中構造物および海水や淡水に接しているものの表面に付着した生物の防汚手段としては、殺菌性を有する物質を防汚面に添加したり、有機スズ系化合物を含有した塗料で塗膜を形成し、有機スズ系化合物を溶出させる方法や、海水を電気分解する事により発生する塩素を利用した防汚方法が一般的に行われていた。しかし、これらの方法は有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される。
【0003】
近年、有害物質を発生させないで電気化学的に水中構造物や海水や淡水に接しているものの表面などに付着する生物を制御する方法が提案されている。
この電気化学的な生物の制御方法は、微生物との直接電気化学反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質が不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であるというものである(特公平6−91821号公報)。ちなみに、本発明で用いた海洋付着細菌ビブリオ・アルギノリチクスでは、0.7Vvs.SCEにて酸化ピーク電流が確認できる。すなわち、微生物との直接電気化学反応が確認される所定電位が、電解液となる淡水や海水の分解電位以下で起こるため、化学物質の生成がなく、導電性基材に付着する微生物のみを殺菌でき、その後の水生生物の付着を防止することができる。そのため、海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がない優れた防汚方法となることが示されている。
また、特開平11−19249号公報には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板にさらに高い正電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している微生物の細胞を破壊し、導電性基板に付着し殺菌された微生物やその分解物を脱離する工程とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。また、特許3105024号公報には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程(+0〜1.5VvsSCE)と、前記導電性基板に負電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物を脱離する工程(−0〜0.4VvsSCE)とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。また、特開2001−198572号公報には、水中において、導電性基板に電気分解の起こらない正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板に電気分解の起こる負電位を印加し導電性基板表面を還元すると共に、アルカリ性物質を導電性基板表面に誘導し、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物やその分解物を脱離する工程とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。
さらに、近似した防汚方法としては、導電性基材に酸素を発生させて防汚する方法が、特公平1−46595号公報及び特開平11−303041号公報に開示されている。これらの方法では、酸素発生電位を0.55V〜1.1V程度とする範囲としているが、前記電気化学的防汚方法では、細胞と導電性基板が直接接触したときのみに微生物の殺菌ができることを明らかにしているのに対して、ほぼ同電位にて発生する酸素が、導電性基材に接触しない微生物を殺菌し、防汚できることを示す明確な証明がない。従って、従って、導電性基材に微生物などが付着しないのは、前記電気化学的防汚方法との概念的分離が難しい。
また、導電性塗膜皮膜に正電位を印加し、次亜塩素酸イオンや塩素イオンを生成させる防汚方法が、特公平6−15069号公報及び特公平8−14036号公報に記載されており、海水電解装置による塩素注入方式による防汚効果を、被防汚面で直接塩素などを発生させることで達成しているものと考えられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
生物付着防止材に、海水や淡水の電気分解が起こらない電位を印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行う方法は、海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がないことから優れた防汚方法である。
ところで、上記電気化学的な防汚方法は、海水や淡水の電気分解が起こらない正電位を印加し付着微生物を殺菌する工程、海水や淡水の電気分解が起こらない負電位を印加し殺菌された微生物や帯電している有機物やスケールを脱離する工程、及び海水や淡水の電気分解が起こる負電位を印加し被防汚面を洗浄還元する工程からなる。電気化学的防汚方法において、その効果を長期間維持するためには、洗浄工程によって、被防汚面たる生物付着防止材を殺菌工程が十分に行えるように洗浄還元する必要がある。
また一方で、洗浄工程を行っている間は、殺菌工程及び脱離工程が実施できないことや、生物付着防止材の表面に水酸化マグネシウムなどの析出が起こり、電子移動反応を阻害したりするため、それぞれの工程の時間配分などは、環境に対応して変更する必要がある。また、被防汚面たる生物付着防止材が過度に酸化された場合には、生物付着防止材表面での電気抵抗値の増加に伴う微生物と生物付着防止材間での電子移動速度の低下が起こったり、被防汚生物付着防止材全体に設定電位を均一に印加することが難しくなるといった場合がある。また、生物付着防止材の表面は、構成される物質の劣化に伴う電極としての機能低下などが起こる場合があるなど、課題を有している。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明はこれらの問題に鑑みなされたものであり、防汚面たる生物付着防止材の電極としての機能を維持向上すると共に、被防汚生物付着防止材全体の電気化学的防汚効果を長期に渡って安定的に得ることを目指したものである。
本発明は、生物付着防止材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法に用いる生物付着防止材であって、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面の一部もしくは全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持したものであることを特徴とする生物付着防止材を要旨とする。
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明に係る生物付着防止材は、チタン又はチタン合金よりなる基材表面の一部もしくは全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持したものである。
基材となるチタン又はチタン合金において、チタン合金としては、チタンを主体とする耐食性のある導電性の合金が使用され、例えば、チタン−タンタル−ニオブ(Ti−Ta−Nb)、チタン−パラジウム(Ti−Pd)、チタン−ジルコニウム(Ti−Zr)、チタン−アルミニウム(Ti−Al)等の組合せからなる、通常電極材料として使用されているチタン基合金が挙げられる。
この生物付着防止材は、水生生物を効率よく吸着して直接または間接的に接触し、電位を付与できるものであればよく、板状、有孔板状、棒状、板網状の所望形状に加工して構造を維持する機能を有するものであれば特に限定されない。
本発明で用いる、チタン又はチタン合金よりなる基材は、海水電解用電極や酸素発生電極などを製造する際に、一般的に用いられる定法に従って導電性物質の微粒子で被覆したり、積層して用いることができる。被覆及び積層する際には、導電性物質の微粒子と基材との密着性を高める等の考慮が必要である。
【0007】
基材表面の一部又は全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持した生物付着防止材は、水や海水から酸素や塩素の発生の無い正電位を印加することにより、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物を殺菌し、増殖を抑制すると共に、水や海水などから塩素化合物もしくは、ラジカルを生成させ、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物及びスケールの脱離洗浄及び生物付着防止材を再活性化ができる。
また、電解液が海水の場合には、塩素過電圧が酸素過電圧より低い正電位となるように、白金と酸化イリジウムと酸化タンタルとの複合体の構成比を調整することが好ましい。
電解液が塩素化合物を含まない水の場合には、酸素過電圧が塩素過電圧より低い正電位となるように、白金と酸化イリジウムと酸化タンタルとの複合体の構成比を調整することが好ましい。
【0008】
本発明で用いるチタン又はチタン合金(以下、チタン基材)は、通常行われているように、予め前処理することが望ましい。そのような前処理の好適具体例としては、以下に述べるものが挙げられる。
先ず、チタン基材の表面を常法に従い、例えばアルコール等による洗浄及び/又はアルカリ水溶液中での電解により脱脂した後、フッ化水素濃度が1〜20重量%、特に5〜10重量%の範囲内にあるフッ化水素酸又はフッ化水素酸と硝酸、硫酸などの他の酸との混酸で処理することにより、チタン基材表面の酸化膜を除去するとともにチタン結晶粒界単位の粗面化を行う。該酸処理は、チタン基材の表面状態に応じて常温ないし約40℃の温度において数分間ないし十数分間行うことができる。なお、粗面化を十分行うためにブラスト処理を併用してもよい。
このように酸処理されたチタン基材表面を濃硫酸と接触させて、該チタン結晶粒界内部表面を突起状に細かく粗面化するとともに該チタン基材表面に水素化チタンの薄い膜を形成する。
使用する濃硫酸は一般に40〜80重量%、好ましくは50〜60重量%程度の濃度のものが適当であり、この濃硫酸には必要により、処理の安定化を図る目的で少量の硫酸ナトリウムその他の硫酸塩などを添加してもよい。該濃硫酸との接触は通常チタン基材を濃硫酸の浴中に浸漬することにより行うことができ、その際の浴温は一般に約100〜150℃、好ましくは、約110〜130℃の範囲内の温度とすることができ、また浸漬時間は通常約0.5分〜10分間、好ましくは約1分〜3分間で十分である。この硫酸処理により、チタン結晶粒界内部表面を突起状に細かく粗面化するとともに、チタン基材の表面にごく薄い水素化チタンの被膜を形成させることができる。
硫酸処理されたチタン基材は硫酸浴から取り出し、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で急冷してチタン基材の表面温度を約60℃以下に低下させる。この冷水には洗浄も兼ねて大量の冷水を用いるのが適切である。
このようにして、ごく薄い水素化チタンの被膜を形成したチタン基材は、希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液(例えばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム等)中で浸漬処理して該水素化チタン被膜を成長させ、該被膜の均一化及び安定化を図る。ここで使用しうる希フッ化水素酸又は希フッ化物水溶液のフッ化水素の濃度は一般に0.05〜3重量%、好ましくは0.3〜1重量%の範囲内とすることができ、また、これらの溶液による浸漬処理の際の温度は一般に10〜40℃、好ましくは20〜30℃の範囲である。該処理はチタン基材表面に通常0.5〜10μm、好ましくは1〜3μmの厚さの水素化チタンの均一膜が形成されるまで行うことができる。この水素化チタン(TiHy、ここでyは1.5〜2の数である)は水素化の程度に応じて灰褐色から黒褐色を呈するので、上記範囲の厚さの水素化チタンの被膜の生成は、経験的に該基材表面の色調の変化を標準色源と明度対比によってコントロールすることができる。
【0009】
このようにしてチタン基材表面を粗面化すると共に水素化チタンの被膜を形成したチタン基材表面上に、次いで60〜80モル%の白金と10〜30モル%の酸化イリジウムと10〜30モル%の酸化タンタルの複合体を担持させる。ここでいう複合体とは、白金と酸化イリジウムと酸化タンタルとが相互作用を及ぼすように混合又は緊密に接触した状態にあるものをいう。この際、該混合物を同時に担持させても、また白金を酸化物より先に担持させても、更にはそれぞれ個々に担持させてもよい。なお、個々に担持する場合は、白金、イリジウムの基材への密着性を上げるために基材と同族であるタンタルを最後に担持させることが好ましい。従って、白金、酸化イリジウム、酸化タンタルの順に担持することが好ましい。
【0010】
以下、白金を酸化物より先に担持させる場合について具体的に説明する。
前記の如く粗面化すると共に水素化チタンの被膜を形成したチタン基材表面に白金を分散担持する。この白金の分散担持は通常電気めっき法により行うことができる。この電気めっき法に使用しうるめっき浴の組成としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸アンモニウム、塩化白金酸カリウム、ジニトロジアミノ白金などの白金化合物を硫酸溶液(pH1〜3)又はアンモニア水溶液(pH11〜13)に白金換算で約2〜20g・dm-3、好ましくは約5〜15g・dm-3の範囲内の濃度になるように溶解し、さらに必要に応じて浴の安定化のために硫酸ナトリウム(酸性浴の場合)、亜硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム(アルカリ性浴の場合)などを少量添加した酸性又はアルカリ性のめっき浴が挙げられる。かかる組成のめっき浴を用いての白金電気めっきは、チタン基材表面に形成された水素化チタン被膜の分解をできるだけ抑制するため、約30〜60℃の範囲内の比較的低温で行うのが望ましい。
この電気めっきにより、チタン基材の水素化チタン被膜上に分散した白金を担持せしめることができる。その際の白金の分散状態のコントロールは、例えば白金めっき浴の組成及び/又はめっき条件(電流密度や電流波形)を経験的に調整することによって行うことができる。
かくして、チタン基材上にその基材表面が部分的に露出する程度に分散された白金を担持せしめる。その分散の状態は、5,000倍の電子顕微鏡で観察すると白金がチタン基材表面に点状、線状、網目状に分散していることがわかる。白金の析出量としては、0.1〜20g・m-2、好ましくは1〜5 g・m-2とすることができる。
白金の分散担持の程度は、被覆率で表して、10〜80%、好ましくは30〜60%の範囲内とするのが適当である。白金の被覆率が少なすぎると防汚効果の安定性が悪くなり、また反対に多すぎると後述する混合酸化物の密着強度が不安定となる。本明細書において白金の「被覆率」は、白金を分散担持したチタン基材表面を40,000倍の電子顕微鏡写真にとり、その写真よりチタン基材表面1μm2当たりの白金の被覆面積を測定し、下記式により算出される値をいう。
被覆率(%)=100×(写真平面での白金被覆面積)/(写真平面上でのチタン基材面積)
以上の如く白金が分散担持されたチタン基材表面は、次いで必要により、大気中で焼成することにより、該水素化チタンの被膜を熱分解して、該水素化チタンを実質的にほとんどチタン金属に戻し、さらに白金担持物との境界部近傍のチタンを低酸化状態の酸化チタンに変えることができる。この焼成は一般に大気中、約300〜600℃、好ましくは約300〜400℃の温度で10分〜4時間程度加熱することにより行うことができる。これにより、チタン基材表面にごく薄い導電性の酸化チタン層が形成される。この酸化チタン層の厚さは一般に10〜100nm、好ましくは20〜60nmの範囲内にあるのが好適であり、また、酸化チタンの組成はTiOxとしてxが一般に1<x<2、特に1.9<x<2の範囲にあるのが望ましい。
また別法として、白金の分散担持を行ったチタン基材は、上記の如き加熱処理を行わずに直接次ぎの工程に付してもよい。この場合には、次工程での酸化物の焼成時にチタン基材表面の水素化チタンの被膜は、チタン金属及び低酸化状態の酸化チタンに転換される。
【0011】
しかる後、このように熱処理された白金を分散担持したチタン基材表面に、酸化イリジウムと酸化タンタルの混合酸化物を担持させる。この際の白金と酸化イリジウムと酸化タンタルの担持割合は、Pt/Ir/Taの金属換算モル比で60〜80/10〜30/10〜30範囲内とすることが好ましい。
前記の如く白金が分散担持されたチタン基材表面に、イリジウム化合物とタンタル化合物を含む溶液、好ましくは低級アルコール溶液を塗布した後乾燥することにより、イリジウム化合物とタンタル化合物を該基材表面に付着せしめる。ここで使用しうるイリジウム化合物及びタンタル化合物としては、後述する焼成条件下で熱分解して、それぞれ酸化イリジウム及び酸化タンタルに転化しうる低級アルコール溶媒に可溶性の化合物が包含される。そのようなイリジウム化合物としては塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、塩化イリジウム酸カリウム等が例示され、また、タンタル化合物としては、例えば塩化タンタル、タンタルエトキシド等が挙げられる。
一方、これらのイリジウム化合物及びタンタル化合物を溶解しうる低級アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール又はこれらの混合物が挙げられる。
白金が分散担持されたチタン基材表面上への該溶液の塗布は、例えば、吹き付け法、ハケ塗り法、浸漬法などにより行うことができ、このようにしてイリジウム化合物及びタンタル化合物の低級アルコール溶液を適用したチタン基材は、約20〜100℃の範囲内の比較的低温で乾燥させた後、酸化性雰囲気中、通常大気中で焼成する。
以上に述べた処理は担持量が前記の範囲内に達するまで繰り返して行うことができる。該焼成は、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉などの適当な加熱炉中で一般に約450〜650℃、好ましくは約500〜600℃の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。その際の加熱時間は、焼成すべき基材の大きさに応じて、大体5分〜2時間程度とすることができる。この焼成により、イリジウム化合物及びタンタル化合物はそれぞれ酸化イリジウム及び酸化タンタルに変わり、白金−酸化イリジウム−酸化タンタルの複合体を該チタン基材上に担持させることができる。
【0012】
次に、粗面化すると共に水素化チタンの被膜を形成したチタン基材表面上に白金と酸化イリジウムと酸化タンタルとを同時に担持させる場合について具体的に説明する。
ここで使用する白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物は、以下に述べる条件下で分解してそれぞれ白金、酸化イリジウム及び酸化タンタルに転化しうる化合物であり、白金化合物としては、塩化白金酸、塩化白金、ジニトロジアミノ白金などが挙げられる。また、イリジウム化合物としては、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、塩化イリジウム酸カリウム等が例示され、また、タンタル化合物としては、例えば塩化タンタル、タンタルエトキシド等が挙げられる。
一方、これらの白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物を溶解するための溶媒としては、低級アルコールが好適であり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はこれらの混合物が用いられる。なお、ジニトロジアミノ白金は、低級アルコールに直接溶解しないので、はじめに硝酸水溶液に溶解し、白金金属換算で250〜450g・dm-3の濃度に調整した後、低級アルコールに溶解するのが好ましい。
低級アルコール溶液中における白金化合物、イリジウム化合物及びタンタル化合物の合計の金属濃度は、一般に2〜200g・dm-3、好ましくは20〜100g・dm-3の範囲内とすることができる。該金属濃度が2g・dm-3より低いと担持効率が悪くなり、また、200g・dm-3を越えると焼成時に凝集が生じやすくなり、担持強度、担持量の不均一性などの問題が生ずる。
【0013】
粗面化すると共に水素化チタンの被膜を形成した該チタン基材表面上に上記溶液を塗布し、約20〜100℃の範囲内の比較的低温で乾燥させた後、酸化性雰囲気中、例えば大気中で焼成する。焼成は例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉などの適当な加熱炉中で一般に約450〜650℃、好ましくは約500〜600℃の範囲内の温度に加熱することによって行うことができる。その際の加熱時間は、焼成すべき基材の大きさに応じて、大体5分〜2時間程度とすることができる。この焼成により、チタン基材表面上に白金−酸化イリジウム−酸化タンタルの複合体を担持させることができる。
そして、1回の担持操作で所定の白金−酸化イリジウム−酸化タンタルの複合体を担持することができない場合には、以上に述べた溶液の塗布−乾燥−焼成工程を所望の回数繰り返し行うことができる。
【0014】
本発明に係る生物付着防止材を用いた防汚装置は、生物付着防止材と接触しないように対極が設置されている。対極基材は生物付着防止材と同様のものを用いることもできる。また、被防汚面の物性や形状により適宜選択することもできる。また、生物付着防止材と対極の電極は生物付着防止材と微生物が電気化学的に反応する程度に配置されていればよく、特に限定されない。
【0015】
上記、生物付着防止材と対極とはリード線により電源装置に接続されている。この電源装置は、生物付着防止材と対極との間に直流を通電する装置であって、極性が変換できる機能を有していることが好ましい。また、電極と微生物との直接電子移動反応が起きる電位より高い電位を印加するだけで防汚を維持できる程度に、水や海水中に生息する生物が少ない場合には、定電流発生装置(ガルバノスタット)を使用しても差し支えない。
使用できるポテンショスタット、ガルバノスタットとしては、生物付着防止材に、予め定められた電位を印加できるものや、定電流を流すことのできるものであれば特に限定されない。特に、直流電源装置に電圧の制御または電流の制御およびそのタイミングの制御手段を付加したものでも実施することが好ましい。
【0016】
更に、必要に応じて、参照極を用いることもできる。
参照極は作用極の近傍に設置することが好ましいが、生物付着防止材と対極間で、防汚効果が発現される時の電流値が明らかである場合などには参照極を使用しなくても差し支えない。
【0017】
本発明に係る電気化学的防汚方法における基本的防汚機能発現構成は、
(1)殺菌工程:生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することにより殺菌する工程(+0〜1.5VvsSCE)と、
(2)脱離工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加し、直接または間接的に付着接触する水生生物およびスケールを静電的機能により脱離する工程(−0〜−0.6VvsSCE)と、
(3)洗浄還元工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加し、前記生物付着防止材に付着接触した水生生物およびスケールをアルカリ分解洗浄及び前記生物付着防止材表面を還元する工程(−0.6〜−2.0VvsSCE)と、
(4)分解洗浄再活性化工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる正電位を印加し、前記生物付着防止材表面に直接または間接的に付着接触した水生生物およびスケールを、塩素化合物もしくはラジカルの生成により脱離分解洗浄し、前記生物付着防止材表面をクリーニングし、再活性化する工程(+1.5VvsSCEより高い正電位)との、
任意の工程を被防汚面たる生物付着防止材に対して実施し、最も電解生成化学物質による水や海水への負荷が少なく、且つ、安定的に長期の防汚効果を得るようにするものである。
但し、これらの電位は、使用される被防汚面たる生物付着防止材及び対極の材料とその組み合わせや水や海水の基準電位を測定する基準電極により変化しうるものである。例えば、基準電極として、SCE(飽和カンコウ電極)やAg/AgCl(銀/塩化銀電極)など一般的に電気化学計測に使用する照合電極が挙げられる。
【0018】
次に各工程での電位印加条件について説明する。
(1)殺菌工程
水生生物を含む水中において、生物付着防止材に正電位を印加すると、水中の水生生物は生物付着防止材表面に吸着する。さらに生物付着防止材に印加されている正電位には、生物付着防止材表面に吸着して接触した水生生物を電気化学的に殺菌する作用がある。即ち、水生生物は、正電位によって生物付着防止材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。このとき、設定される電位は電解液中から電気化学的に生成物が発生しない電位であり、水や海水の分解に伴う酸素や塩素の発生電位以下の電位である。
好ましい電位は、+0〜1.5Vvs.SCE、より好ましくは+0.5〜+1.2Vvs.SCEである。しかしながら、本電位は、使用される生物付着防止材の物性に依存するものであり、水の分解に伴う酸素や塩素の発生電位以下であれば、水や海水中への電解生成物質による汚染を最小限に抑制でき、長期に渡り安定的な防汚効果を示すことができる。また、+0Vvs.SCEから微生物との直接電子移動反応が確認される正電位未満では水生生物を基材に吸着させて殺菌することができないが、生物付着防止材の劣化や消耗を考慮し、間欠的に電位を変動させることが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生しない正電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.5〜24時間程度でも、数年間でも防汚効果が維持されるのであれば、電解生成化学物質による水や海水への負荷が少ないため、単位時間あたりなるべく長く設定されることが好ましい。生物付着防止材によってはその酸化物の形成速度にもよるが0.1〜1000時間の印加がより好ましい。
【0019】
(2)脱離工程
次に、前記生物付着防止材表面に負電位を印加すると、直接または間接的に接触する水生生物およびスケールが脱離する。電解液中から電気化学的に生成物を発生しない負電位は、0〜−1.0Vvs.Ag/AgClである。好ましくは、−0〜−0.6Vvs.Ag/AgClである。その際、生物付着防止材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物は、静電的機構や電位変動による生物付着防止材表面でのpH等の変動により脱離する。
さらに、負電位における電位を変動させることによって脱離と洗浄をより効率よくさせることもできる。変動する電位の幅は−0.3Vから−0.9V程度が好ましく、周期は10Hzから0.001Hzが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.1〜24時間程度が好ましい。生物付着防止材の劣化を考慮すると0.1〜2時間の印加がより好ましい。
【0020】
(3)(洗浄還元工程)
さらに、水や海水などの電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位は、−1.0Vvs.Ag/AgClより負電位で、好ましくは−1.0V〜−2.0Vvs.Ag/AgCl程度である。この負電位を印加することによって、生物付着防止材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物の脱離が促進される。それは、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加すると、電解液の分解により生物付着防止材表面では水素が発生し、この水素によって生物付着防止材表面の付着物が除去されるためである。また、生物付着防止材近傍ではpHがアルカリ性となる。さらに、強アルカリ雰囲気になることによって水酸化物の析出が起こる場合があり、印加する電位及び印加時間を適宜選択する必要がある。しかし、該水酸化物によって、有機物は溶解する。これらの除去及び溶解によって、生物付着防止材表面は洗浄されることになる。また、生物付着防止材表面の酸化物を還元し、生物付着防止材界面での電子移動反応を阻害する酸化物を還元し、殺菌工程の機能を維持回復するために必要な場合がある。さらに、負電位における電位を変動させることによって脱離と洗浄をより効率よくさせることもできる。変動する電位の幅は−0.3V〜−2V程度が好ましく周期は10Hz〜0.001Hzが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.5〜24時間程度が好ましい。生物付着防止材の劣化を考慮すると0.5〜2時間の印加がより好ましい。
【0021】
(4)(分解洗浄再活性化工程)
また、電解液中から電気化学的に生成物が発生する電位とは、水や海水の分解にともない酸素や塩素の発生する電位であり、+1.5Vvs.Ag/AgClを越えた電位により、明確に確認される。これらの高い電位を長時間印加すると水や海水が電気分解して塩素や未知の物質を発生する可能性が高く、また、生物付着防止材の劣化が起こることがあるので、長期に渡って安定的に防汚効果を維持し、水や海水中への電解生成物質による汚染を最小限に抑制するためには、不適切な場合がある。
しかしながら、長期間の防汚を目的とした本発明においては、被防汚面となる生物付着防止材表面に各種電位印加を行っても排除できない殺菌された微生物、有機物及びスケールが付着することがあり、これらを生物付着防止材の交換などのコスト無く、再活性化させて長期間の防汚効果を再現させるためには、必要最小限の塩素化合物及びラジカル発生機能を制御することが好ましい。
ちなみに、生物付着防止材表面の物性が、塩素過電圧が酸素過電圧より低い場合には、塩素化合物の生成が起こり、逆であれば酸素が先に発生する現象が確認できる。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する正電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性は、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが、生物付着防止材の劣化及び水や海水の電解物質による汚染を最小限とするための設定を行うことが好ましい。その点を考慮すると一ヶ月あたり0.5〜24時間程度の印加がより好ましい。また、(1)の殺菌工程の設定時間と比較して、10分の1〜一万分の1程度の時間に設定して運用することも可能である。
【0022】
本発明では、化学物質による水や海水の汚染を最小限とし、且つ長期に渡り防汚効果を維持するため、上記(1)殺菌工程、(2)脱離工程、(3)洗浄還元工程、(4)分解洗浄再活性化工程の各工程は、印加電位及び印加時間を適宜設定したうえで、状況に応じて任意の順序及び頻度で周期的に適用することができる。
【0023】
本発明により処理することができる電解液は、生物を含有する水であれば特に限定されない。例えば、海水、河川の水、湖沼の水、水道水、飲料水、または各種緩衝液などが挙げられる。また、対象となる生物も、それらの水中に存在する生物であれば特に限定されるものではない。
【0024】
【作用】
本発明に係る生物付着防止材は、生物付着防止材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法に用いる生物付着防止材であって、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面の一部もしくは全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持したものであることを特徴とする生物付着防止材であるので、少なくとも前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加し、前記生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の増殖を抑制することができる。また、生物付着防止材と、対極と、前記生物付着防止材と前記対極との間に電圧を印加する電源とからなり、前記生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物と前記生物付着防止材との直接電子移動反応を制御する電気化学的防汚装置によって、前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる正電位を印加することで、前記生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物およびスケールの脱離洗浄及び前記生物付着防止材を再活性化する工程を設定でき、前記電気化学的防汚装置は、前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物が発生しない正電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位と、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位とを任意に設定でき且つ周期的に印加できる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
図1は以下の実施例に用いた装置の模式図である。
試験槽6内には、生物付着防止材3、参照極4、及び対極5が配置されている。ポテンショスタット2は、生物付着防止材3、参照極4、及び対極5のそれぞれと個々に連結している。試験槽6内には滅菌海水が入っており、また、その底部には攪拌器8および攪拌棒7が配置されている。参照極4には銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)を、対極5には導電性材料で形成した電極を用いた。
制御部1は、生物付着防止材3の参照極4に対する印加電位の指示値をアナログ出力し、ポテンショスタット2は、生物付着防止材3の参照極4に対する電位がアナログ入力した指示値になるよう、生物付着防止材3と対極5に電圧を出力する。また、電位を変動させるために、制御部1は、印加電位の指示値のアナログ出力を少なくとも100Hz、好ましくは1kHz以上の時間分解能をもって出力する。更に、ポテンショスタット2は、それに応じて、電位のアナログ入力値に対し、少なくとも100Hz、好ましくは1kHz以上の応答性能をもって反応する。
制御部1は、CPU、入出力ポート、デジタル/アナログ変換器、及びROMやRAM等のメモリ(図示せず)から構成された回路からなる。制御プログラムや後述する制御のためのタイミングチャートをROMに内蔵しており、CPUは、制御プログラム及びタイミングチャートに従って、電位の指示値をデジタル/アナログ変換器によってアナログ変換し、ポテンショスタット2に出力する。制御部1に前記構成部を内蔵したワンチップコンピュータを用いることにより、全体の回路構成を簡素化し安価にすることが可能である。
【0026】
次に、図2に示す電位制御のタイミングチャートを詳細に説明する。タイミングチャートは横軸が時間を、縦軸は生物付着防止材3の参照電極4に対する電位の指示値を示す。ここでは明示的に、次の4種の工程(6つの電位印加工程)の組み合わせをタイミングチャートとして例示するが、特にこれ以外の電位の印加の仕方による工程を除外するものではない。
(1)(殺菌工程)電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1):正電位側電解生成物発生電位9より低い正電位を印加する工程。工程によって印加する電位値を変化させることが可能である。
(2)(脱離工程)電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程(T2)又は電気化学的生成物を発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T3):両工程とも、負電位側電解生成物発生電位10より高い負電位を印加する。振幅電位印加工程(T3)においては、ほぼ連続的に印加電位を変化させる。系の応答性によっては、指示電位として三角波ではなく台形波的に変化させた電位を与えることも可能である。
(3)(洗浄還元工程)電気化学的生成物を発生する負電位印加工程(T4)又は電気化学的生成物を発生する負電位領域及び/又は発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T5):両工程とも、負電位側電解生成物発生電位10より低い負電位を印加する。
(4)(分解洗浄再活性化工程)電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6):正電位側電解生成物発生電位9より高い正電位を印加する。
図2のタイミングチャートが示す電位印加パターンでは、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)及び電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を交互に繰り返す。それぞれの工程の印加電位及び印加期間は場合に応じて適宜決定可能であり、例えば電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)においてそれぞれ異なる複数の電位値を印加するパターンも作成可能である。
図3のタイミングチャートが示す電位印加パターンでは、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)、電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程(T2)、及び電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を交互に繰り返す。それぞれの工程の印加電位及び印加期間は場合に応じて適宜決定可能であり、順序及び頻度も任意である。例えば、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)と電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程(T2)とを交互にある回数だけ繰り返し、その後電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を適用する、というパターンを作成することができる。
図4のタイミングチャートが示す電位印加パターンでは、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)、電気化学的生成物を発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T3)、及び電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を交互に繰り返す。それぞれの工程の印加電位及び印加期間は場合に応じて適宜決定可能であり、順序及び頻度も任意である。電気化学的生成物を発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T3)における電位の振幅及び変化速度は、系の応答性にもよるが、制御部1が出力可能な範囲で設定することができる。図3同様、例えば、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)と電気化学的生成物を発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T3)とを交互にある回数だけ繰り返し、その後電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を適用する、というパターンを作成することも可能である。
【0027】
図5のタイミングチャートが示す電位印加パターンでは、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)、電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程(T2)、電気化学的生成物を発生する負電位印加工程(T4)、及び電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を交互に繰り返す。それぞれの工程の印加電位及び印加期間は場合に応じて適宜決定可能であり、順序及び頻度も任意である。例えば、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)と電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程(T2)とを交互にある回数だけ繰り返し、その後電気化学的生成物を発生する負電位印加工程(T4)と電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を適用する、というパターンを作成することができる。
図6のタイミングチャートが示す電位印加パターンでは、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)、電気化学的生成物を発生する負電位領域及び/又は発生しない負電位領域での振幅電位印加工程(T5)、及び電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を交互に繰り返す。それぞれの工程の印加電位及び印加期間は場合に応じて適宜決定可能であり、順序及び頻度も任意である。電気化学的生成物を発生する/しない負電位領域での振幅電位印加工程(T5)における電位の振幅及び変化速度は、系の応答性にもよるが、制御部1が出力可能な範囲で設定することができる。例えば、電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程(T1)と電気化学的生成物を発生する/しない負電位領域での振幅電位印加工程(T5)とを交互にある回数だけ繰り返し、その後電気化学的生成物を発生する正電位印加工程(T6)を適用する、というパターンを作成することができる。
【0028】
<生物付着防止材の調製>
以下実施例1〜4の作成手順を示す。
実施例1
JIS2種相当のチタン基材(t1×100×100mm)をエチルアルコールで脱脂洗浄した後、20℃の8重量%フッ化水素酸水溶液中で2分間処理した後、120℃の60重量%硫酸水溶液で3分間処理した。チタン基材を硫酸溶液中から取り出し、窒素雰囲気中で冷水を噴霧し急冷した。さらに、20℃の0.3重量%フッ化水素酸溶液中に2分間浸漬した後水洗した。
水洗後、ジニトロジアミノ白金を硫酸溶液に溶解して白金含有量5g・dm-3、pH約2、50℃に調整した状態の白金めっき浴中で、チタン基材に3A・dm-2で約50秒間のめっきを行って白金を析出させた。白金の分散担持量は0.02g・dm-2であった。また、この時のチタン基材の白金被覆率は約60%であった。
次いで、塩化イリジウム酸のブタノール溶液と塩化タンタルのエタノール溶液を混合し、イリジウム(Ir)15g・dm-3及びタンタル(Ta)25g・dm-3(金属換算)を含有する塗布液を調整した後、メスピペットで1dm2当たり0.2cm3秤量し、それを上記基材上に塗布した後、50℃で30分間乾燥させ、更に500℃の大気中で10分間焼成した。酸化イリジウム及び酸化タンタルの担持量は金属換算でそれぞれ0.003g・dm-2、0.005g・dm-2であった。
以上の工程で、チタン基材表面上に、70モル%の白金と11モル%の酸化イリジウムと19モル%の酸化タンタルの複合体を担持した生物付着防止材を作製した。
【0029】
実施例2
上記実施例1において、担持物の割合を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様になして、実施例2を作製した。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例3
上記実施例1と同様の方法でチタン基材を酸処理した後、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)、塩化イリジウム酸(H2IrCl6・6H2O)およびタンタルエトキシド(Ta(OC2H5)5)をブタノールに個々溶解して、担持物の組成比が70モル%の白金と11モル%の酸化イリジウムと19モル%の酸化タンタルとからなるように配合し、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とタンタル(Ta)の金属濃度の合計が70g・dm-3である溶液をメスピペットで1dm2当たり0.4cm3秤量し、それを上記チタン基材上に塗布した後、室温で30分間乾燥させ、次いで大気中、500℃で10分間焼成した。白金、酸化イリジウム及び酸化タンタルの担持量は金属換算でそれぞれ0.02 g・dm-2、0.003g・dm-2、0.005g・dm-2であった。
以上の工程で、チタン基材表面上に、70モル%の白金と11モル%の酸化イリジウムと19モル%の酸化タンタルの複合体を担持させた生物付着防止材を作製した。
【0032】
実施例4
上記実施例1と同様の方法でチタン基材を酸処理した後、白金を0.02g・dm-2分散担持させた。
次いで、イリジウム(Ir)濃度7.5g・dm-3である塩化イリジウム酸(H2IrCl6・6H2O)のブタノール溶液をメスピペットで1dm2当たり0.4cm3秤量し、それを上記基材上に塗布した後、室温で30分間乾燥させ、次いで大気中、500℃で10分間焼成した。
更に、タンタル(Ta)濃度12.5g・dm-3であるブタノール溶液をメスピペットで1dm2当たり0.4cm3秤量し、それを上記基材上に塗布した後、室温で30分間乾燥させ、次いで大気中、500℃で10分間焼成した。酸化イリジウム及び酸化タンタルの担持量は金属換算でそれぞれ0.003g・dm-2、0.005g・dm-2であった。
以上の工程で、チタン基材表面上に、70モル%の白金と11モル%の酸化イリジウムと19モル%の酸化タンタルの複合体を担持した生物付着防止材を作製した。
【0033】
比較例1〜5
上記実施例3と同様の方法で担持物の割合を表1に示すようにかえて、比較例1〜5を作製した。
【0034】
<微生物懸濁液の調整>
海洋付着細菌ビブリオ・アルギノリチクス(Vibrio・alginolyticus:ATCC17749)を、マリンブロス(Marine broth)2216(DIFCO Laboratory社製)中30℃で1次培養後、100μl採取し25mlの遠沈管に培地(マリンブロス15ml)と共に30℃、150rpm、2時間好気的に培養した。培養後の菌体を遠心集菌し、その後滅菌海水で洗浄後滅菌海水中に懸濁させ、菌数をヘマタイトメーターにてカウントし、1×107cell/ml濃度の菌体懸濁液を作製した。
【0035】
<生物付着防止材への微生物付着と電位印加>
生物付着防止材は、200rpmで撹拌した懸濁液中に室温で90分間浸漬し、生物付着防止材表面に菌体を付着させた。試験槽6に入っている滅菌海水中に浸漬し、200rpmの撹拌速度で滅菌海水を撹拌しながら各種電位を印加した。電位印加条件は、図2〜6に示した各パターンを印加した。また、T1の電位は、0.9VvsAg/AgCl、60分間印加とした。T2の電位は、−0.6VvsAg/AgCl、30分間印加とした。T3の電位は、−0.3V〜−0.6VvsAg/AgCl、30分間印加し、電位を2分間隔で振幅させた。T4の電位は、−1.4VvsAg/AgCl、60分間印加とした。T5の電位は、−0.3V〜−1.4VvsAg/AgCl、60分間印加し、電位を2分間隔で振幅させた。T6の電位は、1.6VvsAg/AgCl、5分間印加とした。
【0036】
<微生物の殺菌評価と各工程の効果判定>
殺菌効果確認と死滅した付着微生物の脱離、洗浄効果の判定には、Propidium Iodide(PI)と、4,6−Diamidino−2−Phenylindole(DAPI)の2重染色法により行った。PIとDAPIは、微生物の細胞膜浸透性の違いにより、微生物の核酸に付着し、青色の蛍光を示すものを生菌体、赤色の蛍光を示すものを死菌体とする微生物の生死判定法として使用されている。また、殺菌された赤色の蛍光を発する微生物の生物付着防止材表面での存在量を比較することによって、スケールや有機物の脱離、洗浄機能の判定を行った。
微生物の染色は、電位を印加した生物付着防止材を滅菌海水で洗浄し、生物付着防止材上の付着菌体をPIの250μg/ml水溶液、DAPI20μg/ml水溶液(染色前に調整)を各々30μl滴下して行った。その後、紫外線の励起光を照射し、蛍光顕微鏡観察下で、青色の蛍光を示すものを生菌体、赤色の蛍光を示すものを死菌体として、電位印加前に生物付着防止材上に吸着した菌体数に対する死菌体数により評価した。
尚、判定は、○は殺菌率80%以上、△は殺菌率20〜80%、×は殺菌率20%未満を示す。
【0037】
図2〜6の電位印加パターンにおいて、T1工程を終了後、微生物の殺菌効果を判定した。脱離工程T2及びT3の判定は、電位印加後の付着生物量が殺菌判定後のT1工程時からの減少比として、○は減少率70%以上、△は減少率30〜70%、×は減少率30%未満として示した。T4、T5及びT6工程の判定は、各パターンのT4,T5及びT6工程前の状態と各工程実施後の死菌体の存在有無によって判定した。
尚、試験結果の優位さを判定するため、電位印加時間及び印加電圧については、各種行った。従って、試験結果は、総合的に短時間で、また、完全に低い電位で、等々を考慮した結果を優先することが望ましく、本実施例及び応用例に限定されるものではない。
以下、図2〜6の工程における、実施例1〜4及び比較例1〜5について応用例に基づきその効果を示す。
【0038】
応用例1
上記装置(図1参照)の生物付着防止材3として、上記実施例1〜4及び比較例1〜5で得た生物付着防止材を用い、印加パターンとして図2に記載したタイミングチャートが示す電位印加パターンを採用した場合のT1工程における殺菌率、T6工程における洗浄率を判定した。結果を表2に示す。
T1工程では、0.9VvsAg/AgClを60分間印加し、殺菌効率を判定した。また、T1工程のみにて付着していた死細胞の数とT6工程を1.0VvsAg/AgCl、5分間印加とした後に付着していた有機物と見なした死菌体の存在有無によって、分解洗浄効果を判定した。
【0039】
【表2】
【0040】
殺菌効果の判定は、○は殺菌率80%以上、△は殺菌率20〜80%、×は殺菌率20%未満を示す。
分解洗浄効果は、付着死細胞の有無を○は洗浄率80%以上、△は洗浄率20〜80%、×は洗浄率20%未満を示す。
【0041】
応用例2
上記装置(図1参照)の生物付着防止材3として、上記実施例1〜4及び比較例1〜5で得た生物付着防止材を用い、印加パターンとして図3、4に記載したタイミングチャートが示す電位印加パターンを採用した場合のT2及びT3工程における脱離率を判定した。結果を表3に示す。
殺菌効果は、応用例1とほぼ同様の殺菌効率を示していたので、T1工程で0.9VvsAg/AgClを15分間印加し、死菌と生菌が混在して、付着している生物付着防止材を調整した。その後、図3でのT2電位は−0.6VvsAg/AgCl、30分間印加とし、図4でのT3の電位は、−0.3V〜−0.6VvsAg/AgCl、30分間印加し、電位を2分間隔で振幅させた。その際のT2工程及びT3工程の前後にて、死菌と生菌の総和である付着微生物数に対して、脱離した微生物数の比較し、減少比を求め、脱離効果を判定した。
【0042】
【表3】
【0043】
減少率が、○は減少率70%以上、△は減少率30〜70%、×は減少率30%未満として示した。尚、その後T6工程を実施した生物付着防止材のすべてで洗浄効果が確認でき、組み合わせによる洗浄促進効果が期待できた。
【0044】
応用例3
上記装置(図1参照)の生物付着防止材3として、上記実施例1〜4及び比較例1〜5で得た生物付着防止材を用い、印加パターンとして図5、6に記載したタイミングチャートが示す電位印加パターンを採用した場合のT4及びT5工程における洗浄率を判定した。結果を表4に示す。
殺菌効果は、実施例1とほぼ同様の殺菌効率を示していたので、T1工程で0.9VvsAg/AgClを15分間印加し、死菌と生菌が混在して、付着している生物付着防止材を調整した。その後、T2電位は−0.6VvsAg/AgCl、30分間印加とした。次いで、T4の電設定を、−1.4VvsAg/AgCl、10分間印加とした。また、T5の電位設定を−0.3V〜−1.4VvsAg/AgCl、10分間印加とし、電位を2分間隔で振幅させた。T4及びT5工程の前後にて、付着していた有機物と見なした死菌体の存在有無によって、洗浄還元効果を判定した。
【0045】
【表4】
【0046】
洗浄率が、○は洗浄率70%以上、△は洗浄率30〜70%、×は洗浄率30%未満として示した。
また、その後T6工程を実施した場合、短時間で生物付着防止材のすべてでほぼ完全な洗浄効果が確認でき、組み合わせによる洗浄促進効果が期待できた。
【0047】
応用例4(塩素発生の確認)
実施例1〜4及び比較例1〜5で得た生物付着防止材を、海水50mlに浸し、1.0Vvs.Ag/AgCl以上の電位を印加した場合の海水中の塩素濃度を測定した。電位を印加した海水中の塩素濃度は、残留塩素電極(97・70BN;OrionResearch社製)を用いて測定した。電位印加後の海水を10mlサンプリングし、沃素試薬(Orion Research社製)及び酸試薬(OrionResearch社製)をそれぞれ100μl添加し、撹拌した。溶液を2分間放置した後、マルチメーター(83MULTIMETER;FLUKE社製)を接続し残留塩素電極により電位を測定し、標準サンプルとの電極電位差から検量線を用いて塩素濃度を求めた。尚、塩素測定限界は、0.2ppmである。標準サンプルは、残留塩素標準液(OrionResearch社製)、沃素試薬、酸試薬を各々100μl混ぜ2分間撹拌した後、9900μlの蒸留水を添加し再度撹拌することにより作成した。
その結果、塩素の発生量については差があったが、実施例1〜4及び比較例1〜5のすべてより塩素の発生が確認された。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係る生物付着防止材は、生物付着防止材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法に用いる生物付着防止材であって、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面の一部もしくは全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持したものであるので電気化学的防汚効果を長期に渡って安定的に得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の装置の模式図である。
【図2】 電位制御のタイミングチャート図である。
【図3】 電位制御のタイミングチャート図である。
【図4】 電位制御のタイミングチャート図である。
【図5】 電位制御のタイミングチャート図である。
【図6】 電位制御のタイミングチャート図である。
【符号の説明】
1 制御部
2 ポテンショスタット
3 生物付着防止材
4 参照極
5 対極
6 試験槽
7 攪拌棒
8 攪拌器
9 正電位側電解生成物発生電位
10 負電位側電解生成物発生電位
T1 電気化学的生成物を発生しない正電位印加工程
T2 電気化学的生成物を発生しない負電位印加工程
T3 電気化学的生成物を発生しない負電位領域での振幅電位印加工程
T4 電気化学的生成物を発生する負電位印加工程
T5 電気化学的生成物を発生する/しない負電位領域での振幅電位印加工程
T6 電気化学的生成物を発生する正電位印加工程
Claims (1)
- 生物付着防止材と生物との直接電子移動反応を利用した電気化学的防汚方法に用いる生物付着防止材であって、チタン又はチタン合金よりなる基材の表面の一部もしくは全部に、金属換算に基づく60〜80モル%の白金と金属換算に基づく10〜30モル%の酸化イリジウムと金属換算に基づく10〜30モル%の酸化タンタルとの複合体を担持したものであることを特徴とする生物付着防止材。
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