JP4266345B2 - 有機材料の微細領域分析方法 - Google Patents
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Description
本発明は、有機材料、例えば有機EL材料の遷移エネルギー評価、荷電状態評価、異種材料との界面評価など、有機材料についての新しい分析方法を確立し、有機材料の新しい応用開発に利用できるものである。
特に、有機材料を含む複数の材料を積層した有機デバイスが作成されているが、その断面方向に沿ってのナノオーダーの微細領域をサンプリングすることが困難なため、上述したような電子顕微鏡を用いたエネルギー分析方法が確立できていなかった。
また本発明は、サンプリング方法を工夫することで、有機材料のナノオーダーでの価電子遷移、荷電状態、ポテンシャル等に関する情報を、表面方向若しくは断面方向から得ることができる分析方法を提供することを目的とする。
本発明の有機材料の微細領域分析方法は、例えば、ビーム径が測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであるか、または0.01nm〜10nmである電子線を入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行う方法によって、実施することができる。電子線の形状は、円形、楕円形、多角形などの何れの形状であってもよく、また、「ビーム径」とは、電子線を取り囲む外接円の直径をいう。
また、これ以外にも、本発明の有機材料の微細領域分析方法は、電子線を用いた方法では、入射電子を単色化するためのモノクロメータを備えた電子顕微鏡エネルギーフィルター電子顕微鏡という方法によっても、実施することができる。また、電子線用いた方法以外にも、本発明の分析方法は、走査プローブ型顕微鏡、例えば走査トンネル顕微鏡、導電性原子間力顕微鏡、走査型ポテンシャル顕微鏡、走査型広がり抵抗顕微鏡など基本形にした顕微鏡類、XPEEM(X線光電子顕微鏡)等を用いて実施することができる。
これによれば禁水条件下で、有機材料を薄片に切り出すことにより、有機材料と水分が反応すること無く、有機材料そのものが元来持っていた電子構造等の化学状態を変化無く分析することが可能となる。
FIBで有機材料を含む試料を薄片形状に切り出した後、切出面に生じた損傷部分をクライオミクロトームによりさらに切り出すようにしてもよい。
試料を薄片形状に切り出す際の薄片の厚さが1nm〜300nmであればよい。本発明によると、数nmの厚さの試料のみならず、10000nm以上の厚さの試料をも測定することができる。
試料は有機材料を含む2以上の異種材料が積層された構造であり、試料の積層断面が現れる方向に切り出すようにしてもよい。
試料が有機ELデバイスであってもよい。
試料が有機半導体デバイスであってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータはエネルギーフィルター型電子顕微鏡装置により取得するようにしてもよい。
電子エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データであってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、局所的な荷電状態または荷電分布状態の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料の局所的なポテンシャルまたはポテンシャル分布の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料およびこれに隣接する他の材料との間の界面及びその界面近傍における特性分布の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料を含む、異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異の分析であってもよい。
試料加熱冷却機構をさらに備えるようにしてもよい。
分子軌道法計算機能を更に備えるようにしてもよい。
また、電子線を用いる場合には、ビーム径が単分子の分子サイズ、若しくはより小さなサイズで、具体的には0.01nm〜10nmである電子線を有機材料に入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行うことにより、有機材料について従来はナノオーダーで得られなかった新しいデータを得ることができる。
まず、電子エネルギー損失を測定する装置として、入射電子線から特定のエネルギーを選択して分析することができるエネルギーフィルター型電子顕微鏡(EF−TEM)を説明する。
図1は、エネルギーフィルター型電子顕微鏡による電子エネルギー損失の測定方法を説明する図である。図において、1は加速された入射電子であり、分析対象により電子線の加速エネルギーを変化させることが可能にしてある(加速エネルギーの影響については図10にて説明を行う)。加速エネルギーの調整は、電磁レンズなど電子顕微鏡に標準装備された調整機構により5〜1000keVの範囲で行われる。2は有機材料からなる測定(観察)試料である。測定試料は単一の有機材料でも複数の有機材料が含まれているものでもよく、あるいは有機材料を含むデバイスなどの構造体として構成されるものでもよい。3は分析中の試料に対して加熱冷却を行うための温度調節機構であり、さまざまな温度条件下での測定ができるようにしてある(加熱冷却の影響については図11の例で説明する)。
具体的にはビーム径は、概ね、測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであることが望ましく、具体的には0.01nm以上〜10nm以下であることが望ましく、試料厚みは300nm以下、より好ましくは50nm以下であることが望ましい。
この電子線エネルギー損失スペクトル8は、別途に公知の手法で算出される分子軌道法計算結果9と対比することが可能となっている(図9で説明を行う)。
次に、エネルギーフィルター型電子顕微鏡(EF−TEM)による電子エネルギー損失(EELS)スペクトルの取得について説明する。
入射電子線1が試料2にエネルギーを与え、試料構成原子の1s軌道(K殻)の電子を励起する場合を例に説明する。基底状態にある原子においては、フェルミレベル以下の電子準位は、(試料の温度にもよるが)常温付近ではほぼ全て電子により占有されており、1s軌道(K殻)等の内殻電子が励起されるエネルギー準位はフェルミレベル以上の非占有状態の準位となる。したがって、入射電子1が、1s準位とフェルミレベルとのエネルギー差ΔE以上のエネルギーを失った場合に、1s電子が励起される確率が急激に増大し
、これに伴いEELSスペクトルにおいてΔEのエネルギー位置に鋭いピークが現れるこ
とになる。この内殻電子の励起に伴ってEELSスペクトルに現れるピークは、その急峻な立ち上がりの形から特にエッジと呼んでいる。
すなわち、分析領域4を10nm以下、より好ましくは5nm以下に制限することで、分析領域4が個々の分子と大きさがほぼ等しくなり、従来のXPS、UPS、UV−Vis等で求めていたマクロな領域からの分子集合体全体からの情報とは異なり、分子固有の情報を正確に得ることができることがわかった。
さらに、有機材料が薄膜である場合、有機材料層の堆積面に対し平行な方向(断面方向)に評価することにより、準位間の遷移過程や遷移過程に関する情報から導出される荷電状態、局所的なポテンシャルについての深さ方向分布の評価ができることがわかった。
本発明に用いる試料作製法としては、クライオミクロトームに代表される切削法、集束イオンビーム(FIB)装置に代表されるイオンビームを用いた手法でしかも禁水条件下で作製するものがよい。禁水条件下で作成するのがよいのは、機能性有機材料には水分と容易に反応するものも多く、水分と反応することで電子材料としての特性を失活する場合があるからである。
なお、有機材料以外の部分は、研磨とイオンミリング法を併用した研磨法、化学物質を利用して電界研磨法等に代表される電気化学的反応を利用し試料を薄片化する手法、(例えばフッ酸)を利用して、特定の層をエッチングして(例えばSiO2)残った物質を解析するリフトオフと呼ばれる手法等、何れを用いても構わないが、特にそれらを組み合わせて利用する手法等であってもよい。
特に、断面方向からの分子軌道に関わる遷移過程などを10nm以下の空間分解能で分析できるようにするときのサンプリング技術については、後述する図4で説明する。
その他のEELSスペクトルの取得における照射電子ビーム条件としては、電子線が試料を通過する際の電子線照射損傷の影響を抑えることも必要である。例えば室温において電子線損傷が起こる電子線量(ドーズ量)は、ポリエチレンでは加速電圧100keVで、3.1electrons/Å2であり、テトラセンでは加速電圧100keVで、100electrons/Å2である。電子線量は加速電圧の他、試料温度、測定時間、観察倍率にも依存する。
試料温度を下げる効果としては、グルコース置換したtRNAの電子線損傷量は、室温から-265.1℃にすることで20.5倍改善されている。観察試料を冷却する効果により、EELSスペクトルを精度良く解析できる効果も生まれる(図11で詳しく説明する)。試料に与える電子線量は好ましくは室温において0.1electrons/Å2を超えないようにし、−196℃では10electrons/Å2を超えないようにし、−250℃においては50electrons/Å2を超えないように調節する。
まず、有機材料が粉末試料である場合の評価方法について説明する。
具体的な試料として、有機EL材料の発光層として有名な
「Alq3」・・・(化1)
の結晶性粉末試料を用いた。
EELSスペクトル8とUV−Visスペクトル10において、相互によく対応した3.3、4.7、6.4eVに極大を持つスペクトルが得られた。
一方、これらπ、π*に代表される分子軌道は、有機材料の電子的振る舞いを議論する時に用いられる、価電子帯の最上部に相当するHOMO準位(最高被占有分子軌道)、及び伝導体の最下部に対応するLUMO準位(最低未占有分子軌道)と対応関係を持っており、例えば、図2に示された最も低エネルギー側のピークがHOMO−LUMO遷移に対応している。
これはナノオーダーの分析領域で測定したことにより観測が可能となったものである。
また、XPS法など他の方法と比較して、π軌道からπ*軌道への遷移ピークが感度良く観察されやすい。これはエネルギーフィルター型透過電子顕微鏡(EF−TEM)の利点の一つである。
機能性有機材料の評価の一例として以下の手順で作製した簡易素子を評価に用いた。
まず、アクリル製のプラスチック基板上にAu電極を50nmの厚さで積層した。その上に有機EL材料の発光層としてAlq3分子13を50nm、さらに、引き続いて有機ELデバイスにおいて、陰極バッファ層として有名なLiF12を温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で蒸着し、膜厚1nmの陰極バッファ層を得た。
さらにAlq3とLiFを交互に、それぞれ10nm、5nmと0.9nm、0.7nmと蒸着し、最後に50nmの厚さでAl14を蒸着した。この素子をクライオミクロトームで30nmの厚さに切削し試料として用いた。この試料をEF−TEM装置内に配置し、加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、固定位置若しくは0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながらEELSスペクトルを得た。
特にこの簡易素子において、Alq3分子1350nmのうち、Au電極側の30nmの領域にて解析を行ったところ、電子準位間の遷移過程を示すπ軌道から、よりエネルギーの高いπ*軌道へ遷移(π→π*遷移)が、3.3、4.7、6.4eVに極大を持つスペクトルとして得られた。この値は別途行ったUV−Visスペクトルと完全に一致した値を示した。
次に、有機材料の局所的な荷電状態の測定・評価について説明する。本来中性分子である機能性有機分子に、例えば電子や正孔が電荷注入された場合、その分子構造の荷電状態に応じた電子構造スペクトルが観察できれば、有益な情報となる。そして各種有機材料がどのような荷電状態を示すのかを正確に把握することは、新規材料設計の指針となるのに加え、デバイス作製においても、特性や材料劣化等の予測が容易に行えるようになるなど非常に有益な情報を与える。
次に、Alq3分子13を、膜厚モニターで正確に監視しながら、基板温度を−100℃とし、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、10nmの厚さだけ堆積した。その後、基板温度を150度に保ち30分間熱処理した。
HOMO、LUMO等の電子軌道に注目し、数nm以下の位置分解能で遷移エネルギーを評価することにより、局所的なポテンシャル或いはポテンシャル分布を知ることができる。
例えば、電極界面における有機材料の電子遷移(例えばHOMO-LUMO遷移等)のエネルギーを知ることで電極材料と有機材料との組合せに応じたポテンシャル分布の違いを知ることができる。このような情報は、材料間の界面における電子や正孔の注入効率を制御するための知見を与えるため、これまでになかったデバイス構造の構築に利用することができる。
図において、14はAl電極、15はLiF12/Alq313界面から離れたところの充満準位(HOMO)、16はLiF12/Alq313界面から離れたところの空準位(LUMO)、17はLiF12/Alq313界面から離れたところの空準位、15´はLiF12/Alq313界面付近の充満準位、16´はLiF12/Alq313界面付近の充満準位、17´はLiF12/Alq313界面付近の空準位、18はAl電極側の真空準位、18´は異種材料が接することで界面を作り、その結果新たに生じた真空準位、19はAlの仕事関数、20はAlq3のイオン化ポテンシャル、21はLiF/Alq3界面から20nm以上離れた箇所で優先的に観察される遷移ピーク(6.0eV)、22はLiF/Alq3界面ごく近傍で観察される遷移ピーク(5.0eV)である。
FIBの加工条件としては、禁水条件下でGaイオンを30keVで加速し試料表面からスパッタリングを行った。加工時の電流量は、絞り径の大きさで制御され、加工当初は20nAであったものを、薄片化を進めると同時に1000pA、500pA、100pA、50pA、30pA、10pAと段階的に落としていった。更に最終的には試料を±1度ずつ傾けて、加速電圧を5keVに落とし、5pAで表面クリーニング処理を施した。
この薄片化試料をエポキシ樹脂内に包埋後、禁水条件下で更なる薄片化処理を行うために、クライオミクロトームを用いて試料厚さが30nmになるように調整を行い、分析用試料とした。
図中、15、16、17はLiF12/Alq313界面から離れたところ、15’、16’、17’はLiF12/Alq313界面に近いところにおける、相互に対応関係にある分子軌道のエネルギーを模式的に示したものである。これら相互に対応するエネルギー準位の間の対応関係はお互いを結ぶ曲線で示されており、この曲線は、ポテンシャルプロファイルがLiF12/Alq313界面にかけて湾曲していく様子を示している。
20はAlq313のイオン化ポテンシャルの値であり、5.7〜6.6eVの値が報告されている。15はAlq313のもつHOMOのエネルギー準位となり、16は同じくAlq313分子のもつLUMOのエネルギー準位となる。15´はLiF12とAlq313が接することで新たに生じた界面ごく近傍におけるHOMOエネルギー準位である。
21はLiF12/Alq313界面から20nm以上離れた箇所で優先的に観察される遷移ピークであり、その値は概ね6.0eV程度の値を示した。図2で説明した通り、この値は中性状態におけるAlq313分子のイオン化エネルギーに対応する。
二つの領域で見られるピーク位置の違いは、LiF12とAlq313など異種材料が近接して組み合わされた構造で見られる現象であり、界面付近におけるポテンシャルプロフィルの曲がりによって生じたものである。
次に、有機材料での実際の測定分解能を確認するため、ナノオーダー測定を確認する標準試料を作成して検証した例について説明する。
図5は、有機材料表面に対して垂直、または、有限の角度で電子線を照射し、数nm以下の空間分解能で、有機材料における電子準位間の遷移過程、有機材料の局所的な荷電状態、有機材料の局所的なポテンシャル分布の評価を行った例を示す図である。
1は加速された入射電子ビーム、23は銅フタロシアニン、24はポリビニルアルコール(PVA)を示す。
この試料をクライオミクロトームにより、厚さ30nmに薄片化し、電子顕微鏡用観察グリッドに乗せ、加速電圧120keVでビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを用いて観察を行い、EELSスペクトルを取得した。
銅フタロシアニン23の存在している領域は、1.5〜15nmの分散を持っており、PVA24中にほぼ均一に分散していた。この結果より、有機材料の特性評価を2nm以下の空間分解能で観測することが可能であると証明された。
プラスチックフィルムの導電性を、少なくとも2種類以上の材料を分散することで改善しようとした場合、導電性に効果のある機能性有機分子の分散状態を可視化することは有益な情報である。
次に、有機材料を含む多層膜からなる構造体の断面方向から電子線を照射し評価を行う例について説明する。
図6は、有機材料を含む構造体の表面に対して垂直な方向(断面方向)から電子線を照射し、電子準位間の遷移過程、有機材料の局所的な荷電状態、有機材料の局所的なポテンシャル分布などの特性評価を数nm以下の空間分解能で行った例を示す模式図である。
図4で紹介した例を更に発展すると次のようなことが分かる。図4と同様に、300nmのSiO2熱酸化膜25の付いたSi(111)基板26上に、Al電極14を電子ビーム蒸着法にて作製した。このAl電極14は、100μm幅のラインアンドスペースで作られたマスクを利用して150nmの厚さになるよう積層した。
再度Alq313を、膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、50nmの厚さだけ堆積し、引き続いて、LiF12を蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚3nmまで積層した。
FIBの加工条件としては、Gaイオンを30keVで加速し試料表面から順次スパッタリングを行った。加工時の電流量は、絞り径の大きさで制御され、加工当初は20nAであったものを、薄片化を進めると同時に1000pA、500pA、100pA、50pA、30pA、10pAと段階的に落としていった。
図7は有機材料を含む構造体において、異なる材料間の界面及びその近傍における特性分布評価を数nm以下の空間分解能で行った例である。本例は、図6の試料構成において加速された入射電子を界面領域に入射させたものである。
この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、上部Al電極14から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら、LiF12/Alq313界面近傍でのポテンシャルプロファイルを観察した。
すると、膜厚1nmのLiF、3nmのLiFどちらからも、それぞれのAlq313界面近傍においてのみ、ポテンシャルが湾曲している様子が観察された。この時の特性評価の空間分解能は1.5nm以下であった。
例えば、有機ELデバイスを構築する有機材料/無機材料界面、有機材料/有機材料界面での電子準位間の遷移過程等の特性を解析することで、材料設計、デバイス設計の指針が得られた。
図8は、複数の有機材料を含む構造体において、異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異を、数ナノメートル以下の空間分解能で評価し、この値を元にデバイス作製を実施した場合の例である。23は銅フタロシアニン、27はカーボンナノチューブ含有ポリビニルカルバゾールを示す。
例えば異なる有機材料を接合し、そのHOMOエネルギー位置のシフト量が、0.5〜3.0eV以内である界面を作製するようにする。これによりスムーズな正孔の移動を実現でき、かつ、余剰正孔の陰極側へ拡散を防ぎ、投入電力に対して高効率でエキシトンの生成を行うための高効率な接合界面を有する有機デバイスが作製できる。
その結果、イオン化エネルギーから導かれるHOMOエネルギー位置を近接する有機材料間で比較することにより、特に有機/有機接合界面での遷移エネルギーの差異は、0.5〜3.0eVの範囲に収まることが好ましいことが明らかとなった。
この試料をスピンコート装置にて、10000rpmの回転条件にて70nmの薄膜27を形成した。この薄膜上に銅フタロシアニン23を膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.2nm/秒の条件で蒸着し、70nmの層を得た。
一方カーボンナノチューブを加えないPVK膜と銅フタロシアニン23膜を接合してPVK側にCa/Ag電極を作製し、銅フタロシアニン23側にITO電極を用意し、10Vまで連続して電界をかけたが発光しなかった。
各測定において確認されたピークをそれぞれの材料におけるイオン化エネルギーと考えると、界面におけるエネルギーギャップが小さすぎると、キャリアが対極(正孔なら陰極)へ流れこんでしまい、発光デバイスとして機能しなかったものと思われる。
このように有機材料を含む構造体の特性評価を2nm以下の空間分解能で観測することができた。
図9は、有機材料に電子線を照射し透過した電子のエネルギー(エネルギー損失)を測定・分析し、さらに分子軌道法による計算を実行し、材料の特性について測定値と計算値を対比することができる有機材料微細領域分析装置によるデータを示す。
8は図2で用いたEELSスペクトル、9は分子軌道法計算結果、15はHOMO準位、16はLUMO準位である。
分子軌道計算は密度汎関数法等を用いて行うことができ、その計算機能はEF−TEM制御装置内の計算機に組み込まれても、別途計算機システムにより算出されても構わない。
図2に示したAlq3分子13の中性状態(粉末状態の)試料におけるEELSスペクトルと対応させるために、密度汎関数法分子軌道計算プログラムにてAlq3分子13の最小エネルギーに対応する分子構造を求めた。
このようにして求められた各種分子軌道間の遷移エネルギーを横軸、遷移振動子強度を縦軸にプロットすることでグラフ化9を行い、EELSスペクトル8、若しくはUV−Visスペクトル10との比較を行った。
図2で得られた3種の遷移ピークと計算結果を対比すると、3.3、4.7、6.4eVにて計算上もピークの極大を持ち、実測データと非常に良い一致が確認された。
一方、図4のポテンシャル分布をもつ試料については、LiF12/Alq313界面から離れたところでのEELSスペクトルは、ほぼ中性分子について計算した遷移エネルギーに近い値を示したのに対し、界面近傍ではより低エネルギー側へのシフトを示した。これは、ポテンシャルの曲がりの影響で、もともと空準位(LUMO)であったものが一部満たされて新しい充満された準位(HOMO)となったためであり、図3、図4との整合性が取れた。このように、観測データと分子軌道計算の対比により、効果的に、有機材料や有機材料を含む構造体が形成する電子構造を決定することができる。
図10(a)は、分析に用いる電子線の加速エネルギーをコントロールすることにより、材料の組成、構造等に応じて、電子エネルギー準位間の遷移エネルギーを正確に求めることを示す模式図である。
1は加速された入射電子ビーム、2は観察試料でこの場合10nm程度の同じ厚さのAlq3分子13の結晶性粉末試料、8は実際に得られたEELSスペクトルを示す。
ゼロロスピークの半値幅はそれぞれ0.5eV、0.7eVの値を達成するように分光器の調整を行った。ゼロロスピークの半値幅で表現されるエネルギー分解能は加速電圧を下げることで向上していた。一方、ゼロロスピークの最大強度をI0とし、その強度の1/100の強度の位置におけるピークの裾野でのエネルギーの広がりを計測したところ、2.7、4.8eVというように、こちらも加速電圧に大きく依存することが明らかとなった。
一方、加速電圧200keV、ビーム径0.7nmに集束された電子ビームを照射し、EELSスペクトルを得た場合、ゼロロスピークに近い3.3eVのピークは観察されず、4.7、6.4eVに極大を持つ2つのピークしか観察されなかった。
図11は、遷移エネルギーの分析時に、試料温度調節するための加熱冷却機構を説明する図である。
図において、28は上述のAlq3分子13からなる単結晶薄膜、29はグラファイトからなる格子状シート、30は冷却用の液体ヘリウムを通すことができ、かつ、それ自体加熱することのできるタングステン製のパイプである。
また、試料を冷却することによる付属的効果として、有機材料への電子線ダメージを回避できる効果も期待できる。
なお、この方法は有機材料以外の材料にも適用でき、例えば炭素系材料ならば−270℃〜600℃の範囲で、それ以外の材料に関しては−270℃〜1500℃範囲で温度調節することにより、それぞれの材料の熱的な物性を反映した遷移エネルギー等の特性を連続かつ正確に求めることができる。
試料は、電子顕微鏡試料観察用グリッド上にAlq3分子13からなる蒸着膜を、真空装置内に設置した膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で50nmの厚さだけ堆積したものを用いた。
以上、本発明について説明したが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
2:試料
3:加熱冷却システム
4:分析領域
5:磁気プリズム
6:電子線
7:検出器
8:電子線エネルギー損失(EELS)スペクトル
9:分子軌道法計算結果
Claims (6)
- 有機材料を含む試料に対して、ビーム径が測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであるか、または0.01nm〜10nmである電子線を入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行い、前記試料は、FIBまたは/およびクライオミクロトームにより禁水条件下で切り出される薄片形状であり、
前記試料は、有機材料を含む2以上の異種材料が積層された構造であり且つ試料の積層断面が現れる方向に切り出され、
前記エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる電子遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データであり、
前記電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料およびこれに隣接する他の材料との間の界面及びその界面近傍における局所的なポテンシャル分布の分析であり且つ有機材料を含む異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異の分析である有機材料の微細領域分析方法。 - 試料が、FIBで切り出し、切り出し面に生じた損傷部分をさらにクライオミクロトーム切り出された薄片形状であることを特徴とする請求項1に記載の有機材料の微細領域分析方法。
- 薄片形状の厚さが1nm〜300nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機材料の微細領域分析方法。
- 試料が有機ELデバイス、有機半導体デバイスである請求項1〜3の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
- 電子エネルギー損失に関するデータはエネルギーフィルター型電子顕微鏡装置により取得することを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
- 電子エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データである請求項1〜5の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
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