以下、図面を参照しながら、本発明による実施形態を説明する。以下の図面においては説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
(実施形態1)
図1は、本発明に係る実施形態1の高圧放電ランプ1000の概略図である。高圧放電ランプ1000は、管内に発光物質が封入される発光管101と、発光管101の気密性を保持する側管部(または一般的に「封止部」と言われる)109とを備える。側管部109,109は一対存していて、発光管101の両端からそれぞれ反対の方向に延びている。そして側管部109は、発光管101から延在した第1のガラス部101’と、第1のガラス部101’の内部の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部106とを有している。第1のガラス部101’は、SiO2を99重量%以上含むものである。本実施形態では、第1のガラス部101’は石英ガラスから構成される。発光管101の中央部外径(最大径)は約10mm、内径は約5mm、ガラス厚(肉厚)は約3mmであり、発光管101の内容積は約0.1mlである。
発光管101の管内には一対の電極102,102が配置されており、各電極102の一部は、それぞれ別々の側管部109内に埋没されている。つまり電極102の一部は側管部109を構成するガラスに取り囲まれている。電極102はタングステン製である。電極102の先端間距離は約1.0mmである。なお、電極間の距離は、使用する高圧放電ランプの用途によって約0.8〜1.5mmから適宜選択される。
電極102の発光管101内に存する端部とは反対側の端部には金属箔103が電気的に接続(溶接)されている。また、金属箔103は側管部109に埋没されている。つまり、金属箔103の周囲は側管部109を構成するガラスにより取り囲まれて封止されている。別の言葉でいうと、金属箔103は全面において側管部109を構成するガラスと密着している。本実施形態では、金属箔103の全面は第2のガラス部106により被われている。第2のガラス部と金属箔103とが密着して、発光管101の気密性が確保されている。金属箔103は、少なくともその一部が第2のガラス部106に被われていればよい。つまり、本実施形態では、図8に示すように、側管部109の横断面(側管部109の長手方向に直交する断面)において、金属箔103の周囲全てが第2のガラス部106により被われていて、このことは言い換えると、少なくとも金属箔103の一部はその幅方向の周囲全てを第2のガラス部106により被われており、この部分では金属箔103のエッジ部が第2のガラス部106に囲まれていて、これにより気密性の確保が十分となる。
第2のガラス部106を構成するガラスは、15重量%以下のAl2O3および、4重量%以下のB2O3のうち少なくとも一方と、99重量%よりも少ないSiO2を含み、Li、Na、Kからなる群より選択される少なくとも一つの元素がさらに添加されていて、その総添加量は1重量%以下である。SiO2にAl2O3やB2O3を添加するとガラスの軟化点は下がるため、第2のガラス部106の軟化点は第1のガラス部101’の軟化点よりも低い。本実施形態では、第2のガラス部106を構成するガラスとしてバイコールガラス(Vycor Glass:商標登録1657152号)を使用した。バイコールガラスとは、石英ガラスに添加物を混入させたもので軟化点が石英よりも低いため、加工性が向上している。バイコールガラスの組成は、たとえば、SiO2:96.5%、Al2O3:0.5%、B2O3:3%、このほかに微量ではあるがNa2Oを0.04%含んでいる。本実施の形態の第1のガラス部の軟化点は1680℃、歪点は1120℃で、第2のガラス部(バイコール)の軟化点は1530℃、歪点は890℃である。
本実施形態において側管部109は、圧縮応力が印加されている部位を有している。この圧縮応力が印加されている部位は、第2のガラス部106に相当する部分である。第2のガラス部106は、側管部109の中心部に位置しており、第2のガラス部106の外周は、第1のガラス部101’によって覆われている。
本実施形態の高圧放電ランプ1000に対して、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定を実行して、側管部109を観察すると、第2のガラス部106に相当する部分に圧縮応力が存在していることが確認される。この観察は、側管部109が延びる方向(長手方向)に対して垂直な方向(いわゆる横方向)から行った。鋭敏色板法による歪み測定では、高圧放電ランプ1000の形状を維持したまま、側管部109を輪切り状にした断面内の歪み(応力)の観測を行うことができないのであるが、第2のガラス部106に相当する部分に圧縮応力が観測されたということは、第2のガラス部106の全体または大半に圧縮応力が印加されている場合の他、第2のガラス部106と第1のガラス部101’との境界部に圧縮応力が印加されている場合、第2ガラス部106のうちの第1のガラス部101’側の部分、または、第1ガラス部101’のうちの第2のガラス部106側の部分に圧縮応力が印加されている場合のいずれか又はそれらが複合した形で、側管部109の一部に圧縮応力が印加されているということになる。また、この測定では、側管部109の長手方向に圧縮する応力(または歪み)は積分値で観測される。
なお、本実施形態では第2のガラス部106を構成するガラスとしてバイコールガラスが用いられているが、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラスを用いても良い。
側管部109の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、0kgf/cm2)を超えたものであればよい。なお、この圧縮応力の値は、高圧放電ランプが点灯していない状態における値である。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましい。そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kgf/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部106が有していてもよい。
高圧放電ランプ1000を歪検査器で観測した結果から推測すると、第1のガラス部101’と第2のガラス部106との間の境界周辺には、両者の圧縮応力の差によって生じた歪み境界領域が存在していると思われる。このことは、圧縮応力は、専ら、第2のガラス部106(または、第2のガラス部106の外周近傍領域)に存在しており、第1のガラス部101’全体には、第2のガラス部106の圧縮応力がそれほど(または、ほとんど)伝わってないことを意味していると考えられる。両者(106、101’)の圧縮応力の差は、例えば、約10kgf/cm2から約50kgf/cm2の範囲内となり得る。
なお、本実施形態において、歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、側管部109の圧縮歪みの大きさを、側管部109に印加されている応力の平均値として求めることができる。
図9を参照しながら、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定の原理を簡単に説明する。図9(a)および(b)は、偏光板を透過させてなる直線偏光をガラスに入射させた状態を模式的に示している。ここで、入射させた直線偏光をuとすると、uは、直交する2つの直線偏光u1とu2とが合成してできたものとみなすことができる。
図9(a)に示すように、ガラスに歪みがないときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過するので、ガラスを透過した後ではu1とu2との間にずれは生じない。一方、図9(b)に示すように、ガラスに歪みがあり、応力Fが働いているときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過しないので、ガラスを透過した後ではu1とu2との間にずれが生じる。つまり、u1とu2のうち一方が他方より遅れることになる。この遅れた距離を光路差という。光路差Rは、応力Fと、ガラスの通過距離Lとに比例するため、比例定数をCとすると、
R = C・F・L
で表すことができる。ここで、各記号の単位は、それぞれ、R(nm)、F(kgf/cm2)、L(cm)、C({nm/cm}/{kgf/cm2})である。Cは、ガラス等の材質により決まる定数であって、光弾性常数と呼ばれる。上記式からわかるように、Cが知られていれば、LおよびRを測定すると、Fを求めることができる。
本願発明者は、側管部109における光の透過距離L、すなわち、側管部109の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の側管部109の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果から金属箔103の長手方向の圧縮歪みを定量化した。
なお、本測定では、側管部109の長手方向(電極102軸が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。側管部109の径方向(中心軸から外周へ向かう方向、またはその逆方向)、または、側管部109の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管101や側管部109を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部106の圧縮応力が緩和されてしまう。したがって、ランプ1000に対して切断を行わない状態で測定できるのは、側管部109の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者らは、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
本実施形態のランプ1000では、第1のガラス部101’の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部106に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプ1000の耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、第2のガラス部106に圧縮歪みが存在していないものよりも耐圧強度を高くすることができる。図1に示した本実施形態の放電ランプ1000は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa(水銀封入量200mg/cm3に相当)程度を超える、30MPa(水銀封入量300mg/cm3に相当)以上の動作圧で動作させることが可能である。また、水銀量を300mg/cm3以上に増加できた場合、アーク幅(太さ)が細くなり、アーク輝度を格段に増加させることができる。
金属箔103はモリブデン製である。図示はしないが、発光管101側の金属箔103の先端はエッチング処理が施されている。エッチング処理とは、金属箔103を、例えばNaOHといったアルカリ溶液につけて金属箔103に電流を流すことによって、金属箔103の先端部を溶かすことでバリとりをしたものである。発光管101側の金属箔103の先端における短長側の断面形状は、くさび形状(菱形の角度をなまらした形状)をしている。このようにエッチング処理をした金属箔103を使うことで、エッチング処理をしていないものよりも耐圧を向上させることができる。
金属箔103には、電極102が接続されている側の反対側に外部リード線104が電気的に接続(溶接)されている。外部リード線104はモリブデン製である。
電極102の側管部109に埋没された部分には、タングステン製のコイル107が巻き付けられている。本実施形態のコイル107の線径は、0.06mmである。なお、コイル107の線径は0.06mmに限定されず、0.01〜0.3mmから適宜選択される。なお、コイル107は、電極102の側管部109に埋没された部分の少なくとも一部にあれば良く、発光管101の管内にコイル107が存在しても構わない。ただし、コイル107が発光管101の管内に存在すると、コイル107から点灯開始時に根元放電が起こりやすくなる。したがって、コイル107は発光管101の管内に露出しない方が好ましい。
発光管101の管内には、臭素(図示せず)と希ガス(例えば、アルゴン)と発光物質としての水銀108とが封入されている。臭素は、発光管101の黒化防止のために封入されており、発光管101内の内容積あたりに換算して約10-1μmol/cm3で封入されている。さらに希ガス(アルゴン)は25℃において0.03MPaの分圧となるように封入されている。また、水銀は発光管101内の内容積あたりに換算して300mg/cm3で表される量が封入されている。なお、臭素以外のヨウ素のなど他のハロゲンを発光管101内に封入してもよい。ただし、ハロゲン種によって最適な量は異なるので適宜調整した量を封入すればよい。水銀封入量は発光管101内の内容積あたりに換算して160mg/cm3〜400mg/cm3の範囲であれば良いが、本実施形態のランプは、最高で600mg/cm3(600MPaに相当)までの水銀を封入することができる。そして、水銀封入量は、160mg/cm3以上であれば高圧水銀ランプとして好適であり、300mg/cm3以上であれば明るさをより向上させることができて好ましい。また、希ガスはアルゴン、キセノン、ネオン、クリプトンから少なくとも一つ選ばれ、20℃において0.001〜0.1MPaの分圧になるように封入されれば良い。
参考に第2のガラス部を使った高圧放電ランプの製造方法を簡単に示す。
電極102と金属箔103と外部リード線104からなる電極構造体を第2のガラス部106を構成するバイコールガラスからできた管の中にいれた状態で、発光管101および第1のガラス部101’を構成する石英ガラスからなるバルブ中に挿入する。発光管101内を減圧の状態にしてバーナ等の加熱手段で第1のガラス部101’が加熱され、第1のガラス101’部と第2のガラス部106とが軟化して金属箔103の部分を封止する。その結果、電極102と第1のガラス部101’との間に第2のガラス部106が存在する構造が完成される。
続いて、第2のガラス部106に圧縮応力が加わる機構を説明する。
一般的には、互いに接触する材料同士の熱膨張係数に差がある場合に圧縮応力(圧縮歪み)が存在するようになる、ということが多い。すなわち、側管部109内に設けられた状態の第2のガラス部106に圧縮応力が加わっている理由としては、互いに接触する2つの材料同士の熱膨張係数に差があると考えるのが一般的である。しかし、本実施形態の場合、実際には、両者の熱膨張係数に大きな差はなく、ほぼ等しいと言える。より具体的に説明すると、電極102や金属箔103に用いられる金属であるタングステンおよびモリブデンの熱膨張係数が、それぞれ、約46×10-7/℃および約37〜53×10-7/℃であるところ、第1のガラス部101’を構成する石英ガラスの熱膨張係数は、約5.5×10-7/℃であり、そして、第2のガラス部106のバイコールガラスの熱膨張係数は、石英ガラスの熱膨張係数と同レベルとみなせる約7×10-7/℃である。僅かこれくらいの熱膨張係数の差で、両者の間に、約10kgf/cm2以上の圧縮応力が発生するとは思えない。両者の性質の違いは、熱膨張係数よりも、むしろ軟化点または歪点にあり、この点に着目すると、次のような機構により、圧縮応力が加わることが説明できると思われる。なお、石英ガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1650℃および1070℃(徐冷点は、1150℃)であり、一方、バイコールガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1530℃および890℃(徐冷点は、1020℃)である。
高圧放電ランプ1000の封止工程において、第1のガラス部101’(側管部109)を外側から加熱してシュリンクさせると、最初、第1のガラス部101’と第2のガラス部106の間にあった隙間が埋まり、両者は接する。シュリンク後においては、軟化点が高く、外気に触れる面積の多い第1のガラス部101’の方が先に軟化状態から解放された時点(つまり、固まった時点)でも、それよりも内側に位置し、かつ、軟化点の低い第2のガラス部106は、依然として、軟化したまま(溶融状態のまま)の時点が存在する。このときの第2のガラス部106は、第1のガラス部101’と比較して、流動性を持っており、仮に通常時(軟化状態でない時点)の両者の熱膨張係数がほぼ同じであったとしても、この時点の両者の性質(例えば、弾性率、粘度、密度など)は大きく異なっていると考えられる。そして、さらに時間が経過し、流動性を持っていた第2のガラス部106が冷えて、第2のガラス部106の温度が軟化点を下回ると、第2のガラス部106も、第1のガラス部101’と同様に固まることになる。ここで、第1のガラス部101’と第2のガラス部106との軟化点が同じであれば、外側から徐々に冷えて圧縮歪みが残らないように、両方のガラス部が固まるのであろうが、本実施形態の構成の場合、外側に位置する第1のガラス部101’が早めに固まって、しばらくしてから、内側の第2のガラス部106が固まるため、当該内側の第2のガラス部106に圧縮歪みが残ることになると思われる。
次に、図10を参照しながら、第2のガラス部106に圧縮歪みが入っていることにより、ランプ1000の耐圧強度が上がる理由を説明する。図10(a)は、本実施形態のランプ1000の側管部109の要部拡大図であり、一方、図10(b)は、比較のための第2のガラス部が存せず第1のガラス部101’のみからなる側管部109の要部拡大図である。
ランプ1000の耐圧強度が上がる機構については、実際のところ明確にわからない部分もあるが、本願発明者らは、それについて次のように推論した。
まず前提として、側管部109内の金属箔103は、ランプ動作中に加熱・膨張するため、側管部109のガラス部には、金属箔103からの応力が加わる。より具体的に説明すると、ガラスよりも金属の方が熱膨張率が大きいことに加えて、電極102に熱的に接続されており、かつ、電流が通過する金属箔103の方が、側管部109のガラス部よりも加熱されやすいため、金属箔103から(特に、面積の小さい箔側面から)ガラス部へと応力が加わり易い。
ここで、図10(a)に示すように、第2のガラス部106の長手方向に圧縮応力15が加わっていると(圧縮応力が印加されている部位20)、金属箔103からの応力16の発生を抑制することができると考えられる。言い換えると、第2のガラス部106の圧縮応力15によって、金属箔103から大きな応力16が生じるのを抑制することができると考えられる。その結果、例えば、側管部109のガラス部におけるクラックの発生および側管部109のガラス部と金属箔103との間でのリーク(剥がれ)の発生が低減して、側管部109の強度が向上することになる。
一方、図10(b)に示すように、第2のガラス部106が無い構造の場合には、金属箔103からの応力17は、図10(a)に示した構成の場合よりも、大きくなると考えらる。すなわち、金属箔103の周囲に、圧縮応力の加わっている領域が存在しないので、金属箔103からの応力17は、図10(a)に示した応力16よりも大きくなると思われる。それゆえ、図10(a)に示した構成の方が、図10(b)に示した構成よりも、耐圧強度を向上させることができると推論される。この考えは、ガラスに引っ張り歪み(引っ張り応力)が入っていると割れやすく、圧縮歪み(圧縮応力)が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質と相容れるものと思われる。
ただし、ガラスに圧縮応力が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質から、ランプ1000の側管部109が高い耐圧強度を持つということまで推論することはできない。なぜならば、仮に、圧縮歪みが入っている領域のガラスの強度が増したとしても、側管部109全体として見たら、歪みがない場合と比較して、負荷が生じていることになるため、側管部109全体としての強度はかえって低下するという考えも成り立ち得るからである。ランプ1000の耐圧強度が向上したという結果は、本願発明者らがランプ1000を試作し実験して初めてわかったことであり、まさに理論だけからは導き出せなかったものである。必要以上の大きな圧縮応力が第2のガラス部106(またはその外周周辺領域)に存在したままになれば、実際には、ランプ点灯時に側管部109の破損をもたらし、かえって、ランプの寿命を短くしてしまうことになるかもしれない。そのようなことを考えると、第2のガラス部106を有するランプ1000の構造は、絶妙なバランスの下で、その高い耐圧強度を示しているものと考えられる。発光管101の部分を切断すると、第2のガラス部106の応力歪みが緩和されることから推測すると、第2のガラス部106の応力歪みによる負荷は、発光管101全体で上手く受け止めているのかもしれない。
なお、その高い耐圧強度を示す構造は、第1のガラス部101’と第2のガラス部106との圧縮応力の差によって生じた圧縮応力が印加されている部位20によってもたらされているとも考えられる。つまり、第1のガラス部101’には、実質的に圧縮応力が加わってなく、圧縮応力が印加されている部位20よりも中心側に位置する第2のガラス部106(または、その外周周辺)だけの領域に上手く圧縮歪みが閉じ込めることができたことにより、優れた耐圧特性を発揮させることに成功しているという推論も成立し得る。鋭敏色板法による歪み測定の原理に起因して、応力値が離散的に示されてしまう結果、図10等においては、圧縮応力が印加されている部位20が明確に示されているのであるが、仮に、現実の応力値を連続的に示せるとしても、圧縮応力が印加されている部位20においては応力値が急峻に変化していると考えられ、その急峻に変化する領域にて、逆に圧縮応力が印加されている部位20を規定することができると思われる。
さらに、第2のガラス部106に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を与えるためには、上述した作製方法で完成させた高圧放電ランプ1000(ランプ完成体)に対して、第2のガラス部106の歪点温度よりも高い温度で加熱することが必要であることがわかった。そして、1030℃で2時間以上、加熱することが好ましいこともわかった。具体的には、封止を終えたランプ1000を1030℃の炉に入れて、アニール(例えば、真空ベークまたは減圧ベーク)すればよい。なお、1030℃の温度は例示であり、第2のガラス部(バイコールガラス)106の歪点温度よりも高い温度であればよい。すなわち、バイコールの歪点温度890℃よりも大きければよい。好適な範囲は、バイコールの歪点温度890℃より大きく、第1のガラス部(石英ガラス)101’の歪点温度(SiO2の歪点温度1070℃)よりも低い温度であるが、1080℃や1200℃程度の温度で本願発明者らが実験した場合において効果がある場合もあった。
なお、比較参考のために、アニールを行っていない高圧放電ランプについて、鋭敏色板法による測定を行ったところ、高圧放電ランプの側管部109に第2のガラス部106を設けた構成であるにもかかわらず、封止部に約10kgf/cm2以上の圧縮応力は観測されなかった。
上述の説明では、第2のガラス部106をバイコールガラスから構成した例で説明したが、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス(商品名;SCY2、SEMCOM社製。歪点;520℃)によって第2のガラス部106を構成した場合でも、少なくとも長手方向に圧縮応力が印加された状態になることもわかった。
次に、本願発明者らが推論した、ランプ完成体に対して所定の温度で所定時間以上のアニールを施すと、ランプの第2のガラス部106に圧縮応力が加わる機構について図11を参照しながら説明する。
まず、図11(a)に示すように、ランプ完成体を用意する。なお、ランプ完成体の作製方法は上述した通りである。
次に、そのランプ完成体を加熱すると、図11(b)に示すように、水銀(Hg)108が蒸発を始め、その結果、発光管101内および第2のガラス部106にも圧力が加わる。図中の矢印は、水銀108の蒸気による圧力(例えば、100気圧以上)を表している。発光管101内だけでなく、第2のガラス部106にも水銀108の蒸気圧が加わる理由は、目には見えない程度の隙間13が電極102の封止部分にあるからである。
さらに加熱の温度を上げて、第2のガラス部106の歪点を越える温度(例えば、1030℃)で加熱を続けると、第2のガラス部106が軟らかい状態で、水銀の蒸気圧が第2のガラス部106に加わるため、第2のガラス部106において圧縮応力が発生する。圧縮応力が発生する時間は、例えば歪点で加熱したときに約4時間、徐冷点で加熱したときに約15分であると推測される。この時間は、歪点および徐冷点の定義から導き出したものである。すなわち、歪点とは、この温度で4時間保つと内部歪が実質的に除去できる温度を意味し、徐冷点とは、この温度で15分保つと内部応力が実質的に除去できる温度を意味するところから、上記時間は推測されている。
次に、加熱をやめて、ランプ完成体を冷却させる。加熱をやめた後も、図11(c)に示すように、水銀は蒸発したままであるので、水銀蒸気による圧力を受け続けながら第2のガラス部106は歪点より温度が低くなり、その結果、図12(a)、(b)に示すように、第2のガラス部106に圧縮応力が金属箔の長手方向だけではなく径方向等にも残留することになる(但し、歪検査器では長手方向の圧縮応力しか確認できない)。
最後に、室温程度まで冷却が進むと、図11(d)に示すように、第2のガラス部106に圧縮応力が約10kgf/cm2以上存在するランプ1000が得られる。図11(b)および(c)に示したように、水銀の蒸気圧は、両方の第2のガラス部106に圧力を加えるため、この手法によれば、両方の側管部109に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を確実に加えることができる。
この加熱プロファイルを模式的に図13に示す。まず、加熱を始めると(時間O)、その後、第2のガラス部106の歪点(T2)の温度に達する(時間A)。次に、第2のガラス部106の歪点(T2)と第1のガラス部101’の歪点(T1)との間の温度で、ランプを所定時間保持する。この温度領域は、基本的に、第2のガラス部106だけが変形可能な範囲とみなすことができる。この保持の間に、図14の概略図に示すように、水銀蒸気圧(例えば、100気圧以上)によって第2のガラス部106に圧縮応力が入る。
なお、水銀蒸気圧によって第2のガラス部106へ圧力を加えることが、アニール処理を最も効果的に利用する手法と思えるが、図13におけるT2以上T1以下の温度範囲でランプを保持している時であれば、第2のガラス部106へ何らかの力を加えることができれば、水銀蒸気圧だけでなく、その力によって(例えば外部リード104を押すことによって)、第2のガラス部106に圧縮応力を加えることも可能であると推測する。
次に、加熱をやめると、ランプが冷却していき、時間B以降、第2のガラス部106の温度は歪点(T2)を下回る。歪点(T2)を下回ると、第2のガラス部106の圧縮応力は残留することになる。本実施形態では、1030℃で150時間保持した後、冷却(自然冷却)することによって、第2のガラス部106の圧縮応力を印加して残留させる。
上記のようなメカニズムで、水銀蒸気圧によって圧縮応力が発生するので、圧縮応力の大きさは、水銀蒸気圧(言い換えると、封入水銀量)に依存することになる。
一般的に、水銀量が多くなるほどランプは破裂しやすくなるところ、本実施形態の封止構造を用いると、水銀量を多くするほど圧縮応力が大きくなり、耐圧が向上する。つまり、本実施形態の構成によれば、水銀量を多くするほど高い耐圧構造を実現することができるため、現在の技術では実現できなかったような、極めて高耐圧での安定点灯を可能にする。
次にトリガー線105について説明する。
外部リード線104には、トリガー線105が電気的に接続されている。このトリガー線105は、外部リード線104および金属箔103を介して電極102と電気的に接続している。すなわち、トリガー線105が電気的に接続されている側にある電極102と金属箔103と外部リード線104に、トリガー線105が電気的に接続されていることになる。外部リード線104に接続しているのとは反対側のトリガー線105の端部は、kのトリガー線105が電気的に接続されている電極102の一部が埋め込まれている側の側管部109に巻き付けられている。トリガー線105は、材質がカンタル(Crが22%、Alが5〜6%含有されているFe合金)であり、線径約0.3mmである。なお、トリガー線105は高圧放電ランプ1000の発熱に耐えられるように材料はカンタルであることが好ましい。また、線径はφ0.1〜0.8mm程度が好ましい。0.1mmより細くなると、ランプの熱によってランプ寿命がつきる前にトリガー線105が腐食してしまう可能性が有るためである。また、0.8mmより太くなると、加工が困難で実用的でないといった問題点が有るためである。
続いて、本実施形態の高圧放電ランプの始動性試験の結果を示す。
本実施形態の高圧放電ランプ1000を用い、始動パルスを発生できる点灯回路でランプを点灯させ、始動電圧の測定を行った。測定に使用した始動パルスは、図2に示すような波形であり、ピークの電圧は約13kVである。また、パルスの時間幅はGNDレベルで約280nsecである。
ここで比較のために、第2のガラス部を有していない従来の構成の高圧放電ランプ3000と比較した。従来の高圧放電ランプ3000の模式図を図3に示す。図3に示す高圧放電ランプ3000は、図1の高圧放電ランプ1000と比較して、側管部109に第2のガラス部106が存在しないことのみが異なる。高圧放電ランプ3000のその他の構成は高圧放電ランプ1000と同じであり、高圧放電ランプ1000と同一符号を記して説明を省略する。
始動性試験は次のように実施した。
高圧放電ランプ1000と高圧放電ランプ3000とを160Wで3.5時間ONと0.5時間OFFのサイクルで点滅点灯し、始動電圧の点灯時間の推移を測定した。高圧放電ランプ1000,3000は各10本で測定し、始動電圧の平均値で比較した。
始動電圧測定の結果を図4に示す。図4から本実施形態の高圧放電ランプ1000は、従来の高圧放電ランプ3000と比較して、点灯後の始動電圧が非常に低くなる。例えば、点灯100時間(h)後であれば約4.5kV低くなり、点灯100時間よりも長く点灯した場合であっても少なくとも2kV(点灯後500時間の場合)も始動電圧を低減できる。この始動性の低減の効果は非常に大きく、点灯回路からの高電圧による安全性の向上が図れるとともに、高圧放電ランプ1000への導入線等の絶縁部材がより簡単な構造のもので済む。これにより、より低コストな光源セット(例えばプロジェクタ)を実現できる。また、始動電圧が低減するので、他の電気回路へのノイズ低減も図れ、誤動作の低減も図れる。
本実施形態の高圧放電ランプ1000の構成によって、始動電圧が大きく低下する理由は詳しくはわからないが、トリガー線105によって発生される高電圧と第二のガラス部106中に含まれるNaとが何らかの反応をして、発光管101内の始動を補助するような作用があると考えられる。
側管部109に存在するNaによって始動電圧が低下するという驚くべきかつ際だった上記の効果は、トリガー線105と側管部109内に第2のガラス部106を含む構造が組み合わさったときに起こる特有な現象である。このような効果は、従来の技術の延長では考えられなかった新たな発見である。
なお、本実施形態では、第2のガラス部106にNaが含有するものを示したが、Li、Na、Kから選択される少なくとも1つが存在すれば同様な効果が得られる。また、Li、Na、Kの第2のガラス部106中の総含有量は、0.001重量%以上で1.0重量%以下であることが好ましい。これらの含有量が0.001重量%(10ppm)よりも少なくなると始動電圧の低減の効果が得られない。また、1.0重量%よりも多い場合は、第2のガラス部106の軟化点が低下しすぎて失透の原因となる場合がある。さらに1.0重量%よりも多い場合は、第2のガラス部106の膨張係数が第1のガラス部101’と比較して大きく変化して封止強度が低下する。このために160mg/cm3(160MPaに相当)の水銀が発光管101に封入されたときに気密性の信頼を損ねてしまう場合があり、好ましくない。また、水銀量が160mg/cm3以上になると、反射鏡などと組み合わされてプロジェクタなどに用いられる光源として好適なものとなる。さらに、電極先端間距離を2mm以下にすることで、よりプロジェクタ光源として好適となる。
なお、発光管101に封入される臭素の量は、発光管101の内容積あたりに換算して10-4μmol/cm3以上10μmol/cm3以下であることが好ましい。発光管101内に臭素などのハロゲンを含む高圧放電ランプの場合、始動電圧とハロゲン量との間に相関があることが判った。ハロゲン量が増えると始動電圧が上昇するのである。そのため、点灯回路の始動電圧と整合させて封入するハロゲン量を設計すれば良い。また、ハロゲン種によって、その程度は異なるので、ハロゲン種によって封入ハロゲン量を変化させても良い。例えば、始動電圧を10kV以下にするためには、臭素を含む場合であれば、発光管101の単位内容積あたり10μmol/cm3程度以下である必要がある。また、臭素は、点灯中に発光管101内でハロゲンサイクルをまわして発光管101の黒化を抑制する効果がある。この黒化抑制のためには、臭素は10-4μmol/cm3以上であることが好ましい。
また、側管部109に埋め込まれた電極102の部分の周りには、本実施形態のように、コイル107が巻き付けられていることが好ましい。比較のために、コイル107の巻かれていない高圧放電ランプで始動電圧を測定した。コイル107がない場合、コイル107が巻き付けられている場合と比較して、点灯後100時間後の測定において始動電圧の平均値が約0.5kV高い結果となった。ここで、0.5KVの始動電圧の差は大きな意味を持つ。なぜならば、高圧放電ランプを使用するユーザーは小型なセットを目指して、できるだけ耐圧の低い配線などを使いたいとの要望が強い。この始動電圧が約0.5KV低下するということは、このようなユーザーのセットの小型化を実現できる可能性を秘めている。
また第2のガラス部106は、金属箔103の全面を必ずしも被う必要ない。金属箔103の発光管101側だけを被っても良いし、電極102との接続部分のみを被っても良い。なお、始動性の観点からは、第2のガラス部106の存在する部分の外側(側管部109の周囲)にトリガー線105が巻き付けられていることが好ましい。この構成により、より始動電圧が低いランプを得ることができることを確認している。また、高圧放電ランプ1000の耐圧を向上させるためには、第2のガラス部106は、少なくとも金属箔103の発光管101に近い側を被う方が好ましい。
また、第1のガラス部101’(発光官101も含む)は、高圧放電ランプに用いることを考えると、失透などの点からSiO2が99%以上含まれていることが好ましい。SiO2の成分が減少すると、第1のガラス部101’の軟化点が低下し、失透の原因となる可能性が高くなるためである。
(実施形態2)
実施形態2の高圧放電ランプ5000の模式図を図5に示す。高圧放電ランプ5000は、実施形態1の高圧放電ランプ1000と比較して2本のトリガー線501a、501bが存することのみが異なる。他の構成は、高圧放電ランプ1000と同じなので、同一の符号を記して説明を省略する。
発光管101の管内には一対の電極102a、102bが対向して配置されている。一方の電極102a(図の左側)に電気的に接続されたトリガー線501a(第1のトリガー線)は、他方の電極102b(図の右側)が配置されている側管部109bに巻き付けられている。また、他方の電極102bに電気的に接続されたトリガー線501b(第2のトリガー線)は、一方の電極102aが配置されている側管部109aに巻き付けられている。
高圧放電ランプ5000の始動電圧を実施形態1と同様な方法で測定した結果を図6に示す。参考に図6には、高圧放電ランプ1000、高圧放電ランプ3000の始動電圧の結果を示す。なお、各高圧放電ランプともに10本で測定して平均値で記載している。高圧放電ランプ5000の構成により、すなわち、2本のトリガー線501a、501bを用いることにより、1本のトリガー線105を用いた高圧放電ランプ1000よりも、さらに1kV〜2kV程度低い始動電圧で始動できることがわかった。高圧放電ランプ5000は10本ともすべて、点灯試験中の始動電圧が10kV以下であった。
ここで、生産バラツキを含めて、点灯中に10kV以下の始動電圧で点灯できる高圧放電ランプであれば、非常に有用な高圧放電ランプとなる。なぜならば、10kV以下ならば、現在一般的に高圧放電ランプと点灯回路を接続するために使用されているコネクタおよび接続配線をより小型、軽量、低コストなものに変更できるため、装置までも小型化、軽量化、低コスト化できるためである。本実施形態の高圧放電ランプ5000は、バラツキを含めてすべて10KV以下となっており、装置の小型化が可能となるという大きな利点が有る。
これらのトリガー線501a、501bの敷設方法は、用途に応じて最適な方法を選択すれば良い。
また、第2のガラス部106a、106bが存していることによって、実施形態1と同様に本実施形態でも側管部109a、109bに圧縮応力が印加されている部位が存しているので、ランプ5000の耐圧強度は高い。
(実施形態3)
図7は、本実施形態にかかる高圧放電ランプ7000の構成を模式的に示している。本実施形態の高圧放電ランプ7000の構成は、実施形態1の高圧放電ランプ1000と比較して、コイル107がない点、金属箔103がエッチングされていない点でのみ相違する。他の構成要素は、高圧放電ランプ1000と同一であり、同一符号を記して説明を省略する。
発光管101内には、実施形態1と同様に、水銀108が封入されている。超高圧放電ランプとして高圧放電ランプ7000を動作させる場合、例えば、200mg/cm3程度またはそれ以上(220mg/cm3以上または230mg/cm3以上、あるいは250mg/cm3以上)、好ましくは、300mg/cm3程度またはそれ以上(例えば、300mg/cm3〜500mg/cm3)の水銀と、希ガス(例えば、アルゴン)と、必要に応じて、少量のハロゲンとが発光管101内に封入されている。
本実施形態では、電極102の側管部109への埋没部にコイルを巻き付けておらず、また金属箔103の先端をエッチング処理していないので、実施形態1,2ほどは耐圧強度が向上しないが、従来の第2のガラス部106を有せず圧縮応力が印加されている部位を有しない高圧放電ランプよりは耐圧強度を向上させることができる。また、第2のガラス部106にNaが含有されているので、始動特性も実施形態1と同様な効果が得られる。
(他の実施形態)
上記の実施の形態は、水銀を含まない無水銀高圧放電ランプ(発光物質としてハロゲン化物を使用するランプ)の場合についても同様に実施可能である。
また、パルス幅と始動電圧も相関があることが判った。パルス幅を大きく(時間的に長く)すると、始動電圧が低下するのである。具体的には、上記実施形態の始動パルス幅を小さくすると、始動電圧が上昇する傾向が見られた。また、逆にパルス幅を大きくすると、始動電圧が若干低下する傾向がみられた。この結果より、始動電圧を10kV以下にするためには、上記実施形態のパルス幅より大きい事が好ましいと言える。