JP4331859B2 - 狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、工業用のガス機器等の寿命を予測する方法に関するものであり、更に詳細には、ガス機器の部品等の損傷過程を確率過程として取り扱うことによってガス機器等の寿命を予測する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
工業炉をはじめとする高温用のガス機器材料には、点検の時期や方法に関する共通の基準はなく、機器の用途に応じた対策が行われている。これらの機器は、高温や腐食など熱的・化学的に厳しい環境で使用されることが多く、全く同じ仕様の機器でも利用者によって機器に対する負荷が異なり、機器の被る損傷の蓄積速度や機器寿命比較的に大きなばらつきが生ずる。この問題に対処するためには、機器の部品の状態を詳細に監視する方法が考えられるが、センサーの動作環境や設置場所の制限、監視に要するコスト増加などの問題が生じるため、実用可能な技術がほとんどないのが現状である。
【0003】
特に、実働条件下のガス機器では、機器の操業スケジュールに伴なう起動と停止の繰返しや、被加熱物等との熱伝達量のばらつきが生じ、材料には比較的に熱応力などの負荷応力のピーク値がランダムに変動する狭帯域ランダム応力振幅変動が加わる。ここで、狭帯域とは熱応力などの負荷応力のピーク値のばらつきが比較的に狭い範囲であるという意味である。
このため、高温のガス機器開発では、実働条件下の負荷変動による損傷蓄積を評価することが可能な損傷評価技術の開発が必要とされている。
【0004】
このような、損傷評価技術として、材料の損傷過程を確率過程として取り扱う方法が知られている。その方法においては次のような方法が知られている。
【0005】
すなわち、材料中のき裂の進展を確率過程として取り扱うもので、さらに、損傷発展のモデル中の不規則性の要因として、き裂進展抵抗を採用した研究と、負荷応力の不規則性を採用した研究に分類することが可能である。これらは、不規則性の原因によらず基本的にクラック進展を表す決定論的方程式であるParis則の一部に不規則性の源であるランダム項を取り入れ、確率微分方程式とすることによって損傷発展のモデルを構築している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記のような方法によってガス機器の寿命を予測する場合、基本的にクラックの進展を基にして計算するため、機器のうちクラックが形成されやすい場所を決定する必要がある。このとき、一般的に、機器のうち応力が集中しやすい場所を基にして、クラックが発生しやすい場所を決定する。しかしながら、生産現場で稼動するガス機器を構成する部品は形状が複雑であるため、機器のうちクラックを生じやすい場所を予測することが困難な場合が多い。また、ガス機器を構成する部品は形状が複雑であることによって、クラックが形成される場所によって、破壊に至るまでのプロセスが大きく異なる場合がある。
さらに、クラックが形成された場合において、その状況を詳細に測定しなければならないが、ガス機器を構成する部品は形状が複雑であるため、それを詳細に測定することは困難である。
以上のことから、生産現場で稼動するガス機器の寿命を高い精度で予測する場合に、サイズや位置の明確なクラックとして直接計算することによって、基本的にクラック進展を表す決定論的方程式であるParis則の一部に不規則性の源であるランダム項を取り入れ、確率微分方程式とすることによって損傷発展のモデルを構築することは困難な場合が多い。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、その課題とするところは、材料の損傷過程を確率過程として取り扱うときにおいて、サイズや位置の明確なクラックとして直接計算を行うことなく狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測を行うことを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法は、マイナー則に基づく損傷蓄積過程から損傷蓄積量の確立密度関数を求め、該確立密度関数に基づいて機器の寿命を予測するランダム応力振幅変動下における機器の寿命予測方法において、(1)前記ランダム応力振幅変動が狭帯域にあるとき、1回当たりの損傷量を表す損傷係数を1次式で近似し、(2)前記ランダム応力振幅変動σ(t)(瞬時)を時間平均値σ(t)(平均)と確率的変動分σ´(t)との和で表すことを特徴とする。
【0009】
このような特徴を有する狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法では、マイナー則を利用している。ここで、マイナー則とは、SN曲線を用いて応力と繰り返し数により決定される寿命を累積することによって損傷蓄積量を算出し、残っている寿命を予測する方法である。従って、クラック進展を表す決定論的方程式であるParis則を利用しなくても良いため、クラックの進展について考慮しなくてもよい。さらに、前記ランダム応力振幅変動σ(t)(瞬時)を時間平 均値σ(t)(平均)と確率的変動分σ´(t)との和で表し、さらに、1回当たりの損傷量を表す損傷係数を1次式で近似することにより、マイナー則を表す損傷蓄積量のランジュバン方程式が導出される。ここでマイナー則を表す損傷蓄積量のランジュバン方程式とは、応力振幅が一定である場合のマイナー則によって示された損傷発展を示す力学方程式に確率過程を含む関数が取り入れられた確率微分方程式のことである。これにより、マイナー則は、負荷応力振幅が狭帯域でランダムに変動する場合に拡張される。
従って、このランジュバン方程式を解くことによって傷蓄積量の発展のモデルを示すことができるので、サイズや位置の明確なクラックを直接取り扱うことなくある時点で材料に蓄積される損傷の平均値や偏差を求めることができる。
【0010】
また、本発明は、前記損傷蓄積過程として、ランジュバン方程式とそれに相当するフォッカープランクの方程式を用いることを特徴とする。
【0011】
すなわち、材料の損傷評価や寿命評価においては、ある時点で材料に蓄積される損傷の平均値や偏差だけでなく、損傷の確率密度関数や確率分布が重要な役割を果たす。損傷の確率密度関数は正規分布、対数正規分布、ワイブル分布などで整理するのが一般的であるが、応力振幅がランダムに変動する場合の分布は現在のところ明らかではない。そこで、前記ランジュバン方程式に相当するフォッカープランク方程式を導出する。ここでフォッカープランク方程式とは、連続的なマルコフ過程において、推移量の3次以上の高次のモーメントを無視できるとして導かれた確率密度関数における2階の偏微分方程式である。また、マルコフ過程とは、確率変数に関する将来の時点t2の情報が現時点t1における情報によって完全に記述される過程である。
従って、このフォッカープランク方程式を解くことにより、実験開始から破壊に至るまでの任意の時刻における損傷蓄積量の確率密度関数を正規分布形で表すことができる。
さらに、このフォッカープランク方程式に基づいて、既に損傷を受けている材料の任意の損傷蓄積量からの残存寿命の予測式を求めることができる。従って、応力振幅がランダムに変動する場合であっても、損傷の確率密度関数や残存寿命の予測式を求めることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法を具体化した実施の形態について、添付図面及び数式を参照しつつ詳細に説明する。尚、本実施の形態の数式に使用された記号の説明を簡単に図1に示す。
変動荷重下での寿命推定法として、一定振幅荷重下でのS-N曲線を基準とした線形損傷則であるマイナー則が多く用いられる。しかしながら、過去の研究の中ではマイナー則に合わない研究結果も報告されている。その原因として応力による損傷度曲線の相違および応力が変動することによる干渉効果などがある。この点に関して、統計的平均としてマイナー則が成立するためには、(1)損傷度曲線の乗り移り則が成立することと、(2)損傷度曲線が損傷度の順序と応力によらないことが必要である。このことから、本解析の対象は、上述の2条件が満たされている材料であると仮定する。また、本解析では損傷度を見積もるためにS-N曲線を使用するが、これには一定振幅荷重のS-N曲線を用いる。
【0013】
まず、マイナー則に関するランジュバン方程式を導出する。
ある材料に、等しい時間間隔Δt毎にランダムな応力振幅σiを負荷する場合を考える。ここで、下付き添え字iは、実験開始から起算した繰返し回数を表す。実験を開始してからある繰返し数nにおける損傷蓄積量pnは、マイナー則に従って各負荷毎に材料に蓄積される損傷量を総和して
【数1】
と表せる。ここでNiは、材料の一定応力振幅σiによる破断繰返し数である。ここで、S-N曲線としてべき乗則
【数2】
を仮定する。上式中のCは材料定数である。負荷繰返し周波数を一定とすると、応力振幅σiが一定時間間隔Δtで負荷されることから、以下に示すように時間の次元で表すことができる。
【数3】
ここで、pnΔtはnΔt秒後の損傷蓄積量を表し、Tiは未損傷材料に対する一定応力振幅負荷時の残存寿命NiΔtを表す。上式においては、形式上1/Tiが単位時間当たりに材料が被る損傷量を表す。そこで、ある応力振幅σで繰返し試験を行った時の単位時間当たりの損傷蓄積量を表す関数
【数4】
を定義してこれを損傷係数と呼び、損傷蓄積過程を決定付ける基本的な量とする。ここで時間の次元を用いた理由は、高温のガス機器の損傷は繰返し応力による疲労だけでなく、高温クリープも同時に進行していることがあるため、損傷を総合的に判断する際に時間で整理すると都合が良いからである。
損傷係数を用いれば、ある時間間隔dtに材料が受ける損傷量dpを以下の式で表すことができる。
【数5】
これが時間の経過に伴なった損傷の発展を表す力学方程式である。なお、本モデルの範囲内では、損傷蓄積量は実験開始からの経過時間と応力振幅値のみで決定されるので、以下の考察では任意の時刻の応力値を応力のピーク値の時間変化を表す連続関数として取り扱う。概念を図2に示した。尚、図2では、横軸は時間であり、縦軸は応力振幅のピーク値である。
【0014】
次に、損傷の力学方程式(数5)におけるランダムに変動する応力振幅の影響を調べる。以降、時間と共に変動する応力振幅を変動応力と呼び、その瞬時値をσ(瞬時)で表す。ここでは、実働機械の定常運転を想定して、変動応力がある時間平均値周りでランダムな変動をするものと考え、この変動応力を以下のように時間平均値σ(平均)と確率的変動分σ´に分解する。
【数6】
これらの式中の各項は、時間の関数である。また、ここでは式(数6)の成分のうち、確率的変動分の大きさが平均値に比べて十分に小さい狭帯域変動
【数7】
を考える。式(数7)の右辺第2項の確率的変動分は、変動の強度を表すパラメータQσと、確率的な変動を表現するためのノイズξ(t)により以下のように表す。
【数8】
ここで、ξ(t)はガウス分布を有する変化の速い不規則な関数の数学的表現で、そのアンサンブル平均は〈ξ(t)〉=0、異なる時刻t≠t´おける値ξ(t)、ξ(t´)が統計 的に独立で、自己相関関数がディラックのデルタ関数δ(t)を用いて〈ξ(t)ξ(t´)〉=δ(t−t´)と表されるものである。
すると、σ´は以下の性質をもつことになる。
(a) σ´のアンサンブル平均は、
【数9】
(b) σ´の自己相関関数は、
【数10】
(c) σ´(t)はガウス分布を示す。
【0015】
損傷蓄積量を見積もるためには、変動応力の瞬時値σ(瞬時)からφ(σ(瞬時))を計算する必要があるが、実用上は変動応力を直接利用するのは困難である。そこで、以下に示すように、損傷係数φ(σ(瞬時))をσ(平均)周りでテイラー展開し、変動応力の平均値と変動の強度から損傷係数を見積もる。
【数11】
ところが、狭帯域変動の条件(数7)のもとでは、式(数11)中の各項のオーダがそれぞれ
【数12】
となることから、高次の項が非常に小さくなると見積もられる。なお、式(数12)中O.は項のオーダを表す。そこで、上式中の2次以上の微小項を無視して
【数13】
により損傷係数を近似する。この式を式(数5)に代入することにより、次式
【数14】
を得る。この式が、狭帯域ランダム応力変動の場合のマイナー則を表すランジュバン方程式である。上式中のφ(平均)はφ(σ(平均))を表し、dWσ(t)はσ´についてのWiener過程の増分である。なお、dWσとξの間には、dWσ = ξdtの関係がある。式(数14)の右辺の各項の係数は定数であるので簡単に積分することができ、次式のようにp(t)の発展式が得られる。
【数15】
ここで、tbは試験の開始時刻、pbは時刻tbの時点で既に材料に存在した初期損傷量を表す。この式は、いわば初期状態(tb,pb)から始まる無数の疲労試験の結果を表すものである。ところが、実用上で必要となるのは時刻tの時点で蓄積されている損傷の確率的期待値であるので、上式のアンサンブル平均〈p〉を取ることで、平均値の発展を見積もる。
【数16】
この式から明らかなように、このモデルにおいては損傷の平均値の発展は、変動のない場合に通常の方法でマイナー則により計算される損傷の発展と一致する。更に、損傷蓄積量の変動の2乗偏差は、
【数17】
となる。従って、材料が損傷を受け始めてから破壊するまでの間の任意の時刻における損傷の分布は、S-N曲線の勾配と変動強度、そして経過時間の平方根に比例した広がりを持つことになる。
【0016】
次に、材料の損傷評価や寿命評価においては、ある時点で材料に蓄積される損傷の平均値や偏差だけでなく、損傷の確率密度関数や確率分布が重要な役割を果たす.損傷の確率密度関数は正規分布、対数正規分布、ワイブル分布などで整理するのが一般的であるが、応力振幅がランダムに変動する場合の分布は現在のところ明らかではない。
そこで、ランジュバン方程式(数14)と等価なフォッカープランク方程式とその解である損傷の確率密度関数をGardinerに従って導出しランダムな応力変動が材料に負荷される条件のもとで、ある時刻に材料に蓄積される損傷量の確率密度関数形状の計算を行う。
【0017】
今、ランダム変数であるp(t)の関数f(p(t))を導入し、微小な時間間隔dtの間の関数f変化を次式
【数18】
のように表す。高階の微分の微小な時間間隔dtに比例した寄与を考慮に入れるため、dpの2次の冪まで展開する。さらに、式(数13)を代入して整理すると次式を得る。
【数19】
ここで、(dt)2 = 0 dtdWσ= 0、(dWσ)2 = dtを使用した。この式の両辺のアンサンブル平均をとると、
【数20】
となる。ここでは、〈dWσ〉 = 0とした。関数f(p(t))が、t=tbにおいて初期値p = pbで条件付けられた条件付確率密度関数(以降、条件付確率密度関数)g(p, t | pb, tb)を持つと仮定して、g(p, t | pb, tb)により式(数20)を再び表すと以下のようになる。
【数21】
【0018】
次に、g(∞ , t | pb, tb) = 0、 ∂g(±∞ , t | pb, tb) / ∂p = 0を仮定してこの式を積分すると、以下の偏微分方程式を得る。
【数22】
この式が、ランダム応力負荷の場合のマイナー則に関する条件付確率密度関数の発展を表すフォッカープランク方程式である。
上式中の各係数は定数であるため、解析的に解くことが可能である。初期条件を(pb,tb)として上式を解くと、最終的に次に示す正規分布型の条件付き確率密度関数 g(p,t | pb,tb)が得られる。
【数23】
この確率密度関数により、初期損傷(pb,tb)が存在する条件下で、損傷を受け始めてから破壊に至るまでの間の任意の時刻における損傷蓄積量の確率密度分布、あるいは任意の損傷蓄積量に到達する時間の確率密度分布を見積もることが可能である。図3に(pb,tb)=(0,0)の条件下で、式(数23)から得られる分布形状の模式図を示す。図3において、向かって右側の軸は時間tであり左側の軸は損傷蓄積量pである。そして、高さ軸が確率密度である。
【0019】
次に、フォッカープランク方程式に従って発展する損傷蓄積量分布から、材料の残存寿命分布を見積もる。これは、First Passage Timeと呼ばれるもので、本解析の場合、未破壊の状態0 ≦ p <1 にある損傷値が最も短期間に破壊の状態p=1に到達するのに要する平均時間を意味する。この時間はフォッカープランク方程式から以下のように求められる。
【数24】
ここでT(p)は、ある時点での損傷蓄積量pから予想される平均の残存寿命を表す。右辺第1項は、くり返し毎の応力値に変動がない場合に既存のマイナー則によって与えられる残存寿命値を表し、第2項以降は残存寿命に与える変動の影響を表す。
【0020】
【実施例】
ここで、これまでに展開した損傷蓄積量の予測法の、ランダム荷重による疲労データへの適用を試みる。ここで示す適用の手順は2段階に分かれており、第1段階では後述する方法でランダム荷重による疲労寿命分布へ式(数23)を適合させることによって応力変動強度を決定し、第2段階では得られた応力変動強度と式(数24)から最終的な目的である残存寿命分布の予測を行うものである。
【0021】
対象としたのは、Jakobyらによって行われた航空機用アルミニウム合金2040-T3のランダム荷重による疲労寿命の分布に関するデータである。なお、この実験結果は狭帯域変動ではない他、航空機の離着陸を模擬するための荷重パターンがランダム荷重波形の一部に含まれるが、ランダム荷重と疲労寿命の関係をよく表している数少ないデータであるため、以下に示す方法で本モデルの適用を試みた。
【0022】
Jacobyらの実験には切欠き材(中央楕円孔板、応力集中係数Kt=3.1)の試験片が使用されている。実験に用いたランダム荷重の特性は公称応力の平均応力値と最大応力値により表されており、それぞれσm=124.6 MPa、 σmax=2.2σm MPaである。
式(数23)による寿命分布の計算の際には、損傷係数の微係数∂φ(平均) / ∂σを見積もるために疲労データが必要となるが、Jacobyらの論文にはKt=3.1の場合の疲労データが示されていないため、Kt=3.1の場合に比較的に近い値を示すKt=2.54疲労データを使用した。図4にその疲労データを○で示す。図4において、縦軸が疲労寿命であり、縦軸が応力振幅である。また、図5には、図4の疲労データにおいて負荷繰返し周波数を1Hzとした時の損傷係数を示した。図中の○は図4の疲労寿命値の逆数に対応する損傷係数値である。同時に、疲労データ間を直線近似して算出した∂φ(平均)/ ∂σの値を●で示した。尚、図5では、横軸は応力振幅であり、縦軸は、損傷係数値又は疲労データ間を直線近似して算出した∂φ(平均)/ ∂σの値である。
【0023】
なお、寿命分布の計算に必要となる変動応力の平均値に関する損傷係数φ(平均)(式(数23)の分子)については、Jacobyらによる疲労寿命分布の平均値の逆数を採用した。これらの値は、Kt=3.1とKt=2.54から得られるφ(平均)と∂φ(平均) / ∂σとの値の間に、実用的な範囲で問題となるような差が生じないとの判断に基づいて採用した。
【0024】
図6に、Jacobyらの疲労寿命分布を○で示した。同時にJacobyらの実験条件下で、材料の損傷蓄積量が破壊(p=1)の状態に到達する時間の確率分布
【数25】
を破線で示した。なお、分布の予測には、(pb,tb)=(0,0)、Qσ=1.1σm MPa、∂φ(平均)/∂σ=1.41239×10-7・s-1・MPa-1を使用した。また、ここでは便宜上、積分範囲を-∞から+∞とした。図6では横軸に損傷蓄積量が破壊(p=1)の状態に到達する時間(×105s)をとり、縦軸に確率分布をとった。本解析による予測では、実験中の材料特性に変化が無いことを定めた初期の仮定に付け加え、実験の以前に材料自体が持つ材質のばらつきや応力波形、実験方法などによる疲労寿命ばらつきの効果がモデルに組み込まれていないことから、基本的に瞬時の負荷応力値と負荷回数のみによって分布形状が決定される。
【0025】
従って、図6に示すように予測される破壊確率は実験結果に比べて分布の幅が小さくなる。そこで、材料特性などに起因するすべてのばらつきの影響を包含する定数Mを定義し(以降、このMを拡大率と呼ぶ)、分布形状に影響与える応力の変動分の強度Qσを形式的にM倍した修正応力変動σ´(修正) = M Qσ ξで実験結果を表すことを試みた。図中の各線は、応力の変動強度Qσとして負荷応力の最大振幅σmax-σmを採用し、2種類の拡大率M=2.0、 4.5によって修正したσ´(修正)を用いた予測結果を示している。図からM=4.5の場合に実験値と予測値が良く一致していることが分かる。なお、本モデルでは変動強度として最大振幅を用いたが、応力変動の標準偏差を用いても良い。
【0026】
次に、M=4.5の場合のσ´(修正)を式(数24)のσ´に代入することによって、任意の損傷蓄積量からの残存寿命を予測した。図7に、同材料の残存寿命の予測結果を示す。図7では、横軸が損傷蓄積量であり、縦軸が残存寿命の予測(×105s)である。
Jacobyらの実験が比較的に長寿命を示す領域、すなわち損傷係数の微係数が小さい領域で行われていることから、式(数24)の第2項以降の効果が第1項と比較して相対的に小さくなるため、損傷蓄積量の増加に伴ない残存寿命が直線的に減少すると予測される。
【0027】
なお、S-N線図の時間軸上にある疲労寿命分布からS-N曲線を表す関数を介して、材質のばらつきや負荷応力のばらつきなど全ての誤差を含んだ値である換算応力分布を見積もる方法が提案されているが、損傷の時間的な発展を見積もることができず実用的には不十分である。
一方、本解析は修正応力変動σ´(修正)を求めるために、実験から得た疲労寿命分布に式(数23)を適合させる必要が生じたが、一旦σ´(修正)が決定されれば、損傷を受け始めてから破壊に至るまでの間の任意の時刻における損傷蓄積量や任意の損傷蓄積量に到達する時間の確率密度関数、初期損傷がある場合の条件付き確率密度関数、さらに任意の損傷蓄積量からの余寿命の評価が可能であるといった実用的な利点がある。
【0028】
以上詳細に説明したように、本実施の形態における狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法では、損傷係数φ(σ(瞬時))をσ(平均)周りでテイラー展開し、変動応力の平均値と変動の強度から損傷係数を見積もられた式(数11)中の2次以上の微小項を無視して、式(数13)を得る。さらに、この式を式(数5)に代入することにより、狭帯域ランダム応力変動の場合のマイナー則を表すランジュバン方程式(数14)を得ることができる。式(数14)の右辺の各項の係数は定数であるので簡単に積分することができ、式(数15)のように正規化された損傷蓄積量p(t)の発展式が得られる。
これにより、サイズや位置の明確なクラックを直接取り扱うことなく、ある時点で材料に蓄積される損傷の平均値や偏差を求めることができる。
従って、サイズや位置の明確なクラックとして直接計算を行うことなく狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測を行うことができる。
【0029】
また、ランジュバン方程式に相当するマイナー則に関する条件付確率密度関数の発展を表すフォッカープランク方程式(数22)を導きだし、式(数22)中の各係数は定数であるため、それを解くことによって最終的に式(数23)示す正規分布型の条件付き確率密度関数 g(p,t | pb,tb)が得られる。
これにより応力振幅がランダムに変動する場合における損傷の確率密度関数や確率分布が明らかになっていないくても、このフォッカープランク方程式を解くことによって、応力振幅がランダムに変動する場合における正規分布型の条件付き確率密度関数が得られ、さらに、この確率密度関数により、初期損傷(pb,tb)が存在する条件下で、損傷を受け始めてから破壊に至るまでの間の任意の時刻における損傷蓄積量の確率密度分布、あるいは任意の損傷蓄積量に到達する時間の確率密度分布を見積もることが可能である。
【0030】
なお、本実施の形態は、単なる例示にすぎず本発明を何ら限定するものではない。従って、本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内での種々の変形、改良が可能である。
【0031】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、マイナー則に基づく損傷蓄積過程から損傷蓄積量の確立密度関数を求め、該確立密度関数に基づいて機器の寿命を予測するランダム応力振幅変動下における機器寿命の予測方法において、(1)前記ランダム応力振幅変動が狭帯域にあるとき、1回当たりの損傷量を表す損傷係数を1次式で近似し(2)前記ランダム応力振幅変動σ(t)(瞬時)を時間平均値σ(t)(平均)と確率的変動分σ´(t)の和で表すことにより、連続体損傷力学の観点から狭帯域ランダム応力振幅変動に対するマイナー則を表すランジュバン方程式を導出し、損傷蓄積量の発展のモデルを示すことができる。
。これにより、サイズや位置の明確なクラックを直接取り扱うことなく機器の寿命を予測することができる。
【0032】
また、本発明は、前記損傷蓄積過程として、ランジュバン方程式とそれに相当するフォッカープランクの方程式を用いることにより、実験開始から破壊に至るまでの任意の時刻における損傷蓄積量の確率密度関数を正規分布形で表すことができる。さらに、フォッカープランク方程式に基づいて、既に損傷を受けている材料の、任意の損傷蓄積量からの残存寿命の予測式を求めることができる。
これにより、応力振幅がランダムに変動する場合における損傷の確率密度関数や確率分布が明らかになっていないくても、損傷の条件付き確率密度関数や残存寿命の予測式を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に使用されている数式の記号を表す表である。
【図2】任意の時刻の応力値を応力のピーク値の時間変化を表す連続関数として取り扱う概念図である。
【図3】 (pb,tb)=(0,0)の条件下で、式(数23)から得られる分布形状の模式図である。
【図4】 Jacobyらの論文において、Kt=2.54疲労データ示したものである。
【図5】図3の疲労データにおいて負荷繰返し周波数を1Hzとした時の損傷係数を示したものである。
【図6】 Jacobyらの疲労寿命分布を○で示し、同時にJacobyらの実験条件下で、材料の損傷蓄積量が破壊(p=1)の状態に到達する時間の確率分布を示したものである。
【図7】M=4.5の場合の任意の損傷蓄積量からの残存寿命を予測した結果を示したものである。
Claims (2)
- マイナー則に基づく損傷蓄積過程から損傷蓄積量の確率密度関数を求め、該確率密度関数に基づいて機器の寿命を予測するランダム応力振幅変動下における機器の寿命予測方法において、
(1)前記ランダム応力振幅変動が狭帯域にあるとき、1回当たりの損傷量を表す損傷係数を1次式で近似すること、
(2)前記ランダム応力振幅変動σ(t)(瞬時)を時間平均値σ(t)(平均)と確率的変動分σ´との和で表すこと、
を特徴とする狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法。 - 請求項1に記載された狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法において、
前記損傷蓄積過程として、ランジュバン方程式とそれに相当するフォッカープランクの方程式を用いることを特徴とする狭帯域ランダム応力変動下における機器の寿命予測方法。
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