JP4336770B2 - 致死遺伝子を用いた形質転換体選択用マーカー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、形質転換体の選択用マーカーとして有用なDNA断片、該DNA断片を挿入したベクター、及び該DNA断片からなる形質転換体選択用マーカーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、外来遺伝子をベクターに挿入し、これにより宿主を形質転換させて所定の形質転換体を得るに際し、目的とする形質転換体のみを選択するため、種々の遺伝子マーカーを使用している。例えば、βガラクトシダーゼ遺伝子をマーカーとする場合には、該遺伝子と外来遺伝子とを接合してベクターに挿入し、これにより宿主を形質転換する。外来遺伝子を保持した形質転換体は、βガラクトシダーゼ遺伝子が発現するのに対し、これ以外のものはβガラクトシダーゼ遺伝子が発現しないので、βガラクトシダーゼ遺伝子の発現を、培地に添加した発色物質の構造変化に基づくコロニーの色の変化として検出することにより、所定の形質転換体を選択するものである(Sanbrook et al. (1989) Molecular Cloning - A Laboratory Manual -, 2nd ed, 1.85-1.86)。
【0003】
また、トポイソメラーゼやコリシンE1遺伝子など、致死遺伝子を遺伝子マーカーとして利用する方法も知られている(特開昭57−139095号公報)。この方法は、致死遺伝子の翻訳領域に外来遺伝子が挿入されることによって、該遺伝子の発現が抑制され、外来遺伝子を保持するクローンのみを選択的に生育させるものである。しかし、βガラクトシダーゼ遺伝子などを用いた発色による選択では、培地にX-galなどの発色物質を添加する必要があるばかりでなく、挿入断片を保持しない形質転換体も生育することから、多くの形質転換体を分離するためには広い寒天培地の面積を必要とした。一方、致死遺伝子を用いた場合には、挿入断片を保持しない形質転換体は死滅することから、形質転換体を分離するための培地面積を減少したり、液体培地を用いた選択も可能である。しかし、致死遺伝子の致死性が高すぎる場合には、(1)培養中に高い頻度で致死遺伝子に変異が挿入され、致死性が安定して保持できないこと、(2)ベクターを増幅するためには、致死遺伝子の毒性を調節するために、不活化遺伝子あるいは変異を導入した宿主を用いるなどの必要があった。また、致死遺伝子の致死性が低い場合には、過剰発現によって致死性を発揮させるために、発現活性の高いプロモーターが必要であった。
【0004】
さらに、プラスミドベクターあるいはファージベクターなどでライブラリーを構築する場合、ライブラリーのクローンの挿入断片の存在確率を向上させるために、過剰量の制限酵素を用いた完全な切断が重要である。一方、過剰量の制限酵素による完全な切断は、制限酵素に混入するエクソヌクレアーゼ活性などの他のヌクレアーゼ活性の混在により、ライブラリーを構成する独立したクローン数の減少や、末端塩基の欠失によってlacZなどの断片の挿入マーカーの擬陽性を引起こす。従って、ライブラリーを構成する独立したクローンについて最大数を確保するためには、制限酵素による切断を過剰に行えない場合が多い。この様な場合には、挿入断片を保持しないクローンを確実に死滅させることが最も効果的であり、これが達成されれば、クローンの挿入断片の挿入確率を下げることなく、ライブラリーを構成する独立したクローンの数が大きく高品質なライブラリーを作製することが可能になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、致死遺伝子を遺伝子マーカーとするものであって、外来遺伝子を保持しない形質転換体の完全な死滅を達成するとともに、宿主において外来遺伝子を含むベクターの安定な増幅が図れる形質転換体の選択用マーカーを提供しようとするものであり、特に、致死遺伝子に対する各宿主の耐性の程度に応じて、致死遺伝子の活性を適宜制御するための簡便な手段を提供し、上記従来技術の問題点を解消しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意研究の結果、致死遺伝子の5’上流側に翻訳終止コドンを1又は複数個設けて、形質転換体の選択用マーカーとすることにより、上記課題を解決しうること見いだし本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
(1)致死遺伝子から取り出された該遺伝子活性部位の5’上流直近に、1個又は2個以上の翻訳終止コドンを設けたDNA断片からなることを特徴とする、形質転換体選択用マーカー。
(2)上記DNA断片の両端側に制限酵素切断部位を有することを特徴とする、上記(1)に記載の形質転換体選択用マーカー。
(3)活性部位がコリシン由来のポリペプチドをコードするものである上記(1)又は(2)に記載の形質転換体選択用マーカー。
(4)活性部位が配列番号18または19で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
(5)DNA断片が配列番号14で示される塩基配列からなることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
(6)致死遺伝子の活性部位の3’下流側に、致死遺伝子に対する中和遺伝子を接合したものである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
(7)中和遺伝子の塩基配列が配列番号15に示されるものである上記(6)に記載の形質転換体選択用マーカー。
(8)形質転換体が大腸菌を形質転換させたものである上記(1)〜(7)に記載の形質転換体選択用マーカー。
【0007】
本発明において、形質転換体の選択用マーカーとして使用するDNA断片を構成する致死遺伝子としては、例えば宿主が大腸菌の場合には、コリシンのE1, E2, E3, E4, E5, E6, E7, E8, E9, Ia, Ib, D, B, A, M, N, K, クロアシンDF13、クレビシンのA1, A2, A3、ピオシンのAP41, S1, S2, S3, S4、barnase、pemK、等が利用できる。また、宿主がエンテロバクターなどの大腸菌以外の腸内細菌群、緑膿菌、バチルス族などについても、上記あるいは上記のホモログが同様の目的で利用される。イミュニティーE3に対応する中和遺伝子としては、各致死遺伝子に対応するインヒビター(コリシン、クロアシン、クレビシン、ピオシンに対しては各イミュニティー遺伝子、barnaseに対してはbarstar遺伝子、pemKに対してはpemI遺伝子)を用いることができる。酵母に対しては、キラートキシンをコードする遺伝子を、乳酸菌などのグラム陽性バクテリアに対しては、50アミノ酸程度の小型のペプチドおよびファージ様のバクテリオシンを用いることができる。キラートキシンに対する中和遺伝子は特定されていないが、乳酸菌のバクテリオシンに対しては、その不活化遺伝子を利用することができる。本発明が適用可能な生物種の範囲については、上記に限られるものではなく、上記以外の微生物、菌類、植物、動物など、致死性遺伝子を利用可能なあらゆる生物種に適用することができる。
【0008】
本発明においては、これら致死遺伝子の活性部位だけを人工的に取り出して遺伝子サイズを短縮化したものを用い、この活性部位の5’上流側に1個ないし複数個の翻訳終止コドン(TAG、TGA,TAA)を挿入して、形質転換体選択用マーカーとするためのDNA断片を得る。
上記致死遺伝子の致死性活性は、挿入する翻訳終止コドンの数により、調節する。さらに、宿主の有する終止コドンに対するサプレッサー強度は様々ではあるが、このサプレッサー強度に応じて、翻訳終止コドンの数を調節することにより、各々の宿主に対し最も好適なマーカーを調製することができる。例えば、致死遺伝子として極めて強い致死性を有するものを使用する場合においては、挿入する翻訳終止コドンの数を多くし、また、形質転換しようとする宿主のサプレッサー強度も高ければ、さらに翻訳終止コドンの数を増加させる。反対に致死遺伝子の致死活性が高くても、サプレッサー強度が低い宿主を用いる場合においては、挿入する翻訳終止コドンの数を少なくする。すなわち本発明においては、挿入する致死遺伝子の致死活性と宿主のサプレッサー活性強度の両面から挿入する翻訳終止コドンの数を決定する。
【0009】
また、本発明においては、例えば、コリシン等の極めて高い致死活性を有する致死遺伝子の活性部位を用いる場合においては、翻訳終止コドンに加えて、さらに致死遺伝子に対する中和遺伝子(イミュニティー遺伝子)を保持させたDNA断片を調製して形質転換体選択用マーカーとしてもよい。このような致死活性の低減化手段によりに、致死遺伝子の毒性に対して敏感な大腸菌も宿主として用いることが可能となる。さらにこの中和遺伝子を用いる手段は、致死遺伝子の発現が高いベクターを用いる場合にも有効である。また、致死活性の低減化手段としては、選択マーカとして挿入するDNA断片に対する発現プロモータを用いないという手法も有効であり、この場合には、翻訳の読み枠などのベクターDNAとの機能的な関連を考慮する必要がなく、極めて自由度が高いベクターの設計が可能となる。
【0010】
本件発明における翻訳終止コドンの挿入は、コリシン等の致死活性の高い遺伝子を用いる場合に特に有利な結果を与える。すなわち、上記したように、このような高い致死活性を有する致死遺伝子を用いると、培養中に致死遺伝子に高い頻度で変異が生じ、宿主の耐性化が生じ、外来遺伝子を保持していない宿主も生育し、選択マーカーによる目的とする形質転換体の選択効率は低下する。しかし、本発明の場合、翻訳終止コドンの挿入及びその挿入する数の調節により、致死遺伝子の変異を抑制するとともに、外来遺伝子を保持しない形質転換体は完全な死滅させるように、致死遺伝子の致死活性を人為的に適度に抑制することが可能となる。また、さらに、もともと致死活性の高い致死遺伝子の活性部位を用いているため、致死遺伝子の発現を増強させるために強力なプロモーターの下流に位置させたり、他のペプチドとの融合化を行う必要もなく、簡便な手段で各宿主毎に最適な、形質転換体の選択マーカーDNAを調製できる。
【0011】
本発明の選択用マーカーに使用するDNA断片について、コリシンE3遺伝子を使用する場合を例に取り、さらに具体的に説明する。コリシンE3は、大腸菌が産生する抗菌性のポリペプチドであって、バクテリオシンの一種であり、その遺伝子はプラスミド上にある。該プラスミド(plamid ColE3-CA38)の全長遺伝子を配列表の配列番号16に示す。該遺伝子中、331〜1986(終止コドンを含む)番目の塩基配列がコリシンE3の構造遺伝子部分であり、中和遺伝子(イミュニティー遺伝子)E3の構造遺伝子部分は、1996〜2253番目の塩基配列にあり、また、中和遺伝子E8の構造遺伝子部分は2420〜2677番目にある。
【0012】
このコリシンE3遺伝子に対応するアミノ酸配列を同配列番号17に示す。コリシンE3の活性部位は、配列番号17で示されるアミノ酸配列の442番目のアラニン(配列番号16の1654〜1656番目のGCTに対応)ないしは同455番目のリジン(同1693〜1695番目AAAに対応)から、同551番目のロイシン(同1981〜3番目のCTTに対応)に至る部分であり、本発明においては、このアミノ酸配列部分をコードするDNAをマーカ遺伝子として使用する。配列番号18及び19にそれぞれ上記アラニン、リジンから始まるコリシン活性部位のアミノ酸配列を示す。本発明においては、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであれば使用でき、また、該塩基配列においては、核酸の一個または複数個が欠失、置換または付加されたものであっても、宿主に対して致死性活性を有するものであれば使用できる。
【0013】
翻訳終止コドン(TAG;アンバー終止コドン)は、上記活性部位の5’上流に設け、さらに、この終止コドンの上流及び活性部位の3’末の終止コドンの下流側に制限酵素切断部位を設ける。また、必要があれば、中和遺伝子(イミュニティー遺伝子)を、3’末側の制限酵素切断部位の下流側に付加する。このコリシンE3に対する中和遺伝子の塩基配列を配列番号15に示すが、該塩基配列においては、核酸の一個または複数個が欠失、置換または付加されたものであっても、使用する致死遺伝子に対して中和活性を有するものであればいずれのものでも使用できる。このように構成された、形質転換体選択用マーカーとして使用するDNA断片の塩基配列を配列番号20に示すが、該配列においては、上記活性部位の5’上流に翻訳終止コドン(TGA)を3個設けており。また、2カ所のSfiI制限酵素切断部位の突出末端の配列が異なるようにしている。
【0014】
以上は、コリシンE3遺伝子を使用する例について説明したが、本発明の終止コドンを付加する手段は、その原理から見て、上記の例に限定されず広い普遍性を有するものであることは容易に理解されよう。
本発明において、選択マーカーとして使用するDNA断片を調製するには、使用する致死性遺伝子の短縮化および翻訳終止コドンを付加するなどの目的で、該致死性遺伝子を大腸菌などに導入する際には、一般的に該大腸菌内で該致死性遺伝子の中和遺伝子が発現できるようにしておく必要がある。このために、該致死性遺伝子を導入するために用いるベクターに、該中和遺伝子が発現できるように共存させるか、あるいは、該大腸菌に、あらかじめ中和遺伝子が発現できるように構築されたプラスミドなどを導入しておく。好適と思われる数の終止コドンが導入された致死遺伝子を構築した後、該致死遺伝子を保持するDNA断片を制限酵素で切り出し、電気泳動などの適当な手段を用いて該DNA断片を分離回収する。このDNA断片を、最終的にライブラリーの作製などに用いるベクターの対応する制限酵素部位にリガーゼなどで連結させ、増幅に用いる大腸菌に形質転換する。
【0015】
なお、増幅に用いる大腸菌としては、ライブラリーの構築などの最終的に宿主として用いる大腸菌よりも弱いサプレッサー変異を有するか、あるいは、該致死遺伝子を中和する遺伝子をあらかじめ保持している必要がある。また、増幅に用いる大腸菌は、最終的に宿主として用いる大腸菌と同じものであっても良いが、その場合には、ベクター上の該致死遺伝子の発現強度が、適当な誘導物質(誘導条件)あるいは抑制物質(抑制条件)などにより、転写レベルなどで制御ができる必要がある。この場合、ベクターを増幅するときには、該致死性遺伝子は、上記の方法によってその発現が抑制されているか、あるいは、最終的にライブラリーの構築などの最終的な目的に用いる時には、上記の方法によってその発現が誘導される。好適な数の終止コドンが導入された該致死性遺伝子は、上記の上記のいずれかの方法によって、安定に増幅することが可能であり、ライブラリーの構築などの最終的な目的に用いる際には、効果的に宿主を致死に至らしめることができる。
【0016】
本発明のDNA断片を選択マーカーとして使用してベクターを構築するには、(1)通常のβガラクトシダーゼのαフラグメントなどと同様に、該DNA断片の翻訳開始コドンと活性部位の間あるいは活性部位の中に唯一の制限酵素切断部位を導入してベクターに結合し、外来遺伝子断片をこの挿入部位に導入することによって該選択マーカーを不活化させるか、あるいは(2)ベクターを2ヶ所で切断し、2つの異なる突出末端を生じさせたクローニング部位に本発明のDNA断片をあらかじめ挿入しておき、外来挿入断片をこの部分に置換える形で挿入する方法がある。本発明においてはこれらのいずれの方法も使用できるが、この2種の方法のうち、(1)の方法は、制限酵素の切断部位が1ヶ所で実現されるが、往々にして制限酵素に混入するエクソヌクレアーゼ活性などによって1塩基以上の欠失が生じることがあり、この場合、クローニング部位に外来遺伝子断片が挿入されなくても、翻訳のフレームシフトや活性に必要なアミノ酸残基の欠失によってマーカー遺伝子である致死性遺伝子が不活化されることによって擬陽性が生じ、有効な選択が不可能になる場合がある。一方、(2)の方法では、2ヶ所の制限酵素切断部位が必要であるが、翻訳のフレームシフトによる擬陽性の問題が生じないので、(2)の方法の方が望ましい。
【0017】
使用するベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド等いずれのものであってもよく特に制限されない。
また、上記2ヶ所の制限酵素切断部位の導入によってベクターを構築する場合においては、切断部位上流からの翻訳の継続性を必要とせず、本発明におけるDNA断片内に致死性遺伝子活性部位の翻訳の開始および終止コドンの両方を設定することができるから、クローニング部位の上流に翻訳開始コドンを必要としない。したがって、クローニング部位の上流に翻訳開始コドンを設けない場合にあっては。クローニングされた挿入断片の発現を極めて低いレベルに抑えることも可能となる。 したがって、宿主細胞に毒性が強い外来遺伝子であっても、容易なクローニングが実現可能となる。しかし、クローニング部位に翻訳開始コドンを設けて、外来遺伝子を発現させてももちろんよく、この場合には、外来遺伝子を挿入しないベクターを有する形質転換体は死滅するから外来遺伝子のみを発現させることができる。さらに、所望するDNA断片がベクターに挿入されクローンとして取得された場合には、本発明による致死性遺伝子部位は全て除去されることから、該導入遺伝子と選択マーカーとの生物機能的な干渉がなく、ベクターを設計する際の自由度が高い。また、該遺伝子導入後のベクターの大きさを縮小できることから、形質転換や宿主細胞内での増幅の効率が高い。
【0018】
一方、2ヶ所の制限酵素切断部位の導入によるデメリットは、挿入断片の量を入れすぎると効率が落ちることである。しかし、これを防ぐために挿入断片量を減少させると、外来遺伝子断片が挿入されずに繋ぎ戻ったベクターを保持するクローンが増えてくる。繋ぎ戻りクローンの数を減少させるためには、アルカリフォスファターゼ処理による脱リン酸化や、ベクターDNA断片を電気泳動によりゲルから回収する必要があるが、これにより繋ぎ戻りクローンの比率は減らせても、一般的にライブラリーを構成する独立したクローンの数が大幅に減少する。一方、本発明においては、ベクターの2ヶ所の制限酵素切断部位の突出末端が各々異なり、さらにこれら制限酵素切断部位に挟まれた断片中に致死遺伝子が位置するようにベクターを構成したことにより、外来遺伝子断片を該ベクターに挿入する際に生じる繋ぎ戻りクローンは、外来遺伝子断片を含まず、かつ致死性遺伝子の活性部位を含むことになるから、この致死遺伝子の活性部位の発現によって繋ぎ戻りクローンは死滅し、これを特異的に除くことができる。また、このため、外来遺伝子の挿入断片量を少なくして効率的に外来遺伝子が挿入されたクローンの存在確率を向上させることが可能となり、従来のように該クローンの存在確率を向上させるために制限酵素を過剰量使う必要もない。
【0019】
挿入断片を有する形質転換体を選択する場合には、通常は、形質転換体を寒天培地上に生育させコロニーを形成させることによって実施する。なぜならば、挿入断片の存在を、適当な薬剤を含む寒天培地上でのコロニーの発色の有無などで判定する必要があるからである。しかし、致死性の遺伝子を用いれば、挿入断片を保持しない形質転換体は生育できないことから、寒天培地などの固体上にコロニーを形成させる必要はなく、単に液体培地で培養することにより、生育するか否に基づいて選択すれば良い。従って、寒天培地などの固体上でにコロニーを形成させることが不可能な、例えば10万個以上の数の形質転換体から選択する場合であっても、挿入断片を保持するもののみを効率的に濃縮・選別することができる。
【0020】
外来のDNA断片の宿主細胞への導入は、導入されたDNA断片の塩基配列や該DNA断片の有する生物学な機能を明らかにすることを目的としているが、後者については、単にDNA断片を導入するだけではなく、抗生物質に対する抵抗性などの化学的要因、通常の培養温度よりも高い温度で生育できるなどの物理的要因、あるいはその他の何らかの設定可能な要因に対して、該DNA断片を導入したことによる生物的な効果が判別される必要がある。この場合には、着目する要因における生物の増殖能力を指標として、目的とする生物的機能を有するDNA断片を選別することになるが、多くの場合、寒天培地などの固体培地上において、上記の要因を設定することにより、コロニーを形成させることによって判別し、該コロニーが保持するDNA断片の解析を行う。
【0021】
しかし、該コロニーを形成させ得るDNA断片の種類が多数存在し、例えば、数十から数百種類の異なるDNA断片の獲得が期待される場合には、前記のコロニーについて、期待される種類の数以上、通常はその数の10倍から100倍以上の数のコロニーについて、DNAシークエンスなどの方法で解析する必要がある。一方、ゲノム科学的な解析技術が進んだ近年では、多数のDNA断片を一括して解析することが可能であり、例えば、前記コロニーが保持するDNA断片について、その種類を数千種以上の異なる塩基配列を有するDNAマイクロアレイを用いて解析することができる。この場合、解析試料の調製方法については、従来法によれば、以下の2種類の方法が利用される。
【0022】
第一の方法は、形質転換体よりプラスミドなどの形で挿入DNA断片を含んだ状態で調製し、蛍光標識などの適当な標識を施した後に、該DNAマイクロアレイで解析する。この場合には、DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションに必要な挿入断片以外に、解析に不必要なプラスミドなどのベクターに由来するDNAを多量に含むため、不必要な標識DNA断片が多量に混在することにより、バックグラウンドの上昇を引起こし、シグナル・ノイズ比の減少につながる。また、十分な感度を確保するために、多量のDNAの分離精製が必要となる。
【0023】
第二の方法は、第一の方法の問題点を改善するために、PCRを用いることができる。この場合、挿入断片近傍のベクター由来の塩基配列に基づいて、挿入断片を挟む1組のPCRプライマーを設計し、前記コロニーの集団より抽出したDNAを鋳型として、全ての挿入断片を一括してPCRを行う。PCR反応と平行して、あるいはPCR反応後に、PCR産物であるDNA断片を蛍光などで標識し、DNAマイクロアレイで解析する。この方法によれば、増幅産物に混入するベクター由来のDNA部分は、前記PCRプライマーに必要な部分を最小として、極めて少量に限定することが可能であることから、高いシグナル・ノイズ比を実現することができる。また、この方法によれば、PCRによる増幅が可能であることから、前記コロニーの集団からのDNAの調製は少量でよく、簡便に高い検出感度を実現することができる。しかし、前記PCRでは、挿入断片を保持しないベクターも鋳型として増幅されるが、その増幅断片は、挿入断片を保持するベクターに由来する増幅断片に比較して、一般的に数分の一以下の長さの短いDNA断片となる。PCRによる増幅では、短いDNA断片は、長いDNA断片に比較して高い効率で増幅されることから、挿入断片を保持しないベクターの存在により、解析の対象とならない短いDNA断片の大量の混入を引起こす。また、PCRによる増幅に必要な基質が、挿入断片を有しない無駄な短いDNA断片の増幅に消費されることにより、解析に必要な挿入断片の増幅を著しく妨げることになる。この結果、シグナル・ノイズ比、および検出感度のいずれも損なわれることになる。
【0024】
本発明によるベクターを用いれば、挿入断片を有しない形質転換体をほぼ完全に除去することができる。従って、従来法による第二の方法における問題点である、シグナル・ノイズ比および検出感度の減少のいずれについても、大幅に改善することができる。また、本発明では選択マーカーは致死性であることから、寒天培地などの固体培地上だけではなく、液体培養の状態でも選択的に濃縮することが可能である。従って、形質転換体の選択について、固体培地上では一般的に不可能である、例えば10万個以上の数の形質転換体を選択することも可能であり、ヒトのような大きなゲノムサイズの生物からのスクリーニングや、低い発現頻度の遺伝子に由来するcDNAのスクリーニングなど、これまで不可能であった多数の遺伝子についての網羅的な解析の実施を実現することができる。
【0025】
【実施例1】
大腸菌コリシンE3プラスミド(pSH350;FERM P-18949)より、配列番号1および配列番号2で示されるプライマーを用いて、コリシンE3のCRD領域(ref.)を含むDNA断片を、配列番号3および配列番号4で示されるプライマーを用いて、コリシンE3のイミュニティー(ref.)を含むDNA断片を、それぞれ、PCRによって増幅した。次に、両断片が融合した断片を鋳型として、配列5および配列6で示されるプライマーを用いてPCRを行い、配列7で示されるDNA断片を得た。このDNA断片の構造を以下に示す。
【化1】
【0026】
次いで、このDNA断片をpGEM T easy vector (プロメガ社)を用いてTAクローニングを行い、シークエンス解析によって正しい塩基配列の挿入断片を有するプラスミドpGEM-97col+immを得た。なお、コリシンE3イミュニティー遺伝子は、コリシンE3のCRD領域をプラスミド上に安定に保持するために用いた。
【0027】
次に、上記プラスミドを鋳型として、配列番号8と配列番号6で示されるプライマーで増幅した断片を、さらに、配列9から配列13の各々と配列6で示されるプライマーを用いてPCRを行うことにより、コリシンE3のCRD領域の上流直近に1から5個のamber終止コドン(TAG)を有し、下流に前記コリシンE3イミュニティー遺伝子を有するDNA断片を得た。このうち3個のamber終止コドンを挿入したDNA断片(配列番号14)の構造を以下に示す。
【化2】
【0028】
この1〜5個のamber終止コドンを有する各DNA断片をpGEM T easy vector (プロメガ社)を用いてTAクローニングを行い、シークエンス解析によって正しい塩基配列の挿入断片を有するpCI3A1(FERM P-18950)、pCI3A2(FERM P-18951)、pCI3A3(FERM P-18952)、pCI3A4(FERM P-18953)、pCI3A5(FERM P-18954)の5種類のプラスミドを得た。なお、これらはそれぞれ順に1、2、3、4、5個の終止コドン(TAG)を挿入したDNA断片を有する。
【0029】
一方、ベクターについては、配列21と配列22で示される2本の合成一本鎖オリゴヌクレオチドをアニールし、生じた二本鎖DNA断片をpBluscriptII SK(+)のBamHIとEcoRIとの間に挿入して、突出末端の配列が異なる2つのSfiI切断部位(下線で示した)を導入したプラスミドpBS2SKP-SfiIを構築した。このプラスミドをSfiIで消化した後、前記1から3 個のamber終止コドンを有するコリシンE3 CRD遺伝子断片とライゲーションし、エレクロトポレーション法によって大腸菌XL1-Blueに形質転換した。得られた大腸菌懸濁液を100 mg/lアンピシリンおよび0.1%グルコースを含む寒天培地に塗布し、37℃で一昼夜培養した結果、amber終止コドンが3個挿入された場合にのみ、寒天培地上に形質転換体が得られた。得られた形質転換体からプラスミドpBS-Sfi-a3colを回収し、XL1-Blueに形質転換した後、大腸菌懸濁液を100 mg/lアンピシリン+0.1%グルコースを含む寒天培地、および100 mg/lアンピシリン+ 200 μM IPTG(isopropyl-b-D-thiogalactopyranoside)を含む寒天培地に塗布し、37℃で一昼夜培養したところ、グルコースを含む培地で培養した場合のみ、多数のコロニーの形成が見られ、IPTGを含む培地上には、コロニーの形成が全く見られなかった。
【0030】
【実施例2】
配列23および24で示された、GAL4DBDおよびENOAPLの2種類の二本鎖DNA断片を作製し、実施例1で作製したプラスミドpBS-Sfi-a3colをSfiIで切断したDNA断片と混合してDNAリガーゼによって連結反応を行い、大腸菌XL1-Blue株に形質転換した。得られた形質転換体のクローンを任意に選択し、プラスミドを回収して挿入されたDNA断片を解析したところ、グルコース存在下では挿入断片を保持していないクローンが10〜30%存在していたのに対し、IPTG存在下で生育させた場合には、挿入断片を保持しないクローンは全く検出されなかった。ベクターに挿入されたコリシンE3の改変による致死性遺伝子の発現は、その上流に位置する調節可能なプロモーターにより、グルコース存在下では抑制され、IPTG存在下では誘導される。従って、該致死性遺伝子が発現できる状態にしておくことにより、挿入断片を有しないクローンを完全に排除することができることが示された。なお、本発明による終止コドンを挿入されていない場合には、本実施例による転写制御レベルでの調節は不可能であり、グルコースを存在させても、宿主である大腸菌に安定して保持させることはできなかった。この場合には、ベクターDNAを増幅するためには、イミュニティーE3遺伝子を保持させた大腸菌を用いるなどの手間が必要になる。
【0031】
以上より、配列番号14で示されたSfiI切断によるDNA断片は、外来のDNA断片を高効率でクローニングするための致死性マーカーとして機能しうること、およびこの断片を組込んだプラスミドベクターは、外来DNA断片のクローニング用として利用できることが示された。
【表1】
挿入断片を有するあるいは有しないクローンの数
表中の数値は、解析した形質転換体のクローンの中で、挿入断片を保持していたクローンの数を、括弧内は挿入断片を保持していなかったクローンの数を示す。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、コリシンなどの致死遺伝子を用いて、形質転換の際に、外来挿入遺伝子断片を有するクローンを効率的に選択するための極めて有効な手段を提供できる。特に本発明の形質転換体選択用マーカーは、使用する致死遺伝子の致死活性の程度及び利用する宿主が有するサプレッサー変異の強度に応じて、自由に構築および選択が可能であり、利用する宿主に対して最も効率的な選択マーカーを構築及び選択することが可能となり、致死遺伝子の致死活性が強すぎるための宿主の耐性化に基づく選択性の低下を防止できるとともに、該選択マーカーを含むベクターは宿主中において、安定的に増幅することが可能である。また、イミュニティーなどの致死遺伝子に対する耐性化遺伝子をさらに致死遺伝子の活性部分に付加するか、あるいはこのような耐性化遺伝子を保持するプラスミドをあらかじめ宿主大腸菌に保持させておくことにより、同様に安定的に増幅することが可能である。したがって、本発明は、外来挿入遺伝子のクローニング手段として極めて有用な手段を提供する。
【0033】
【配列表】
Claims (8)
- 致死遺伝子から取り出された該遺伝子活性部位の5’上流直近に、1個又は2個以上の翻訳終止コドンを設けたDNA断片からなることを特徴とする、形質転換体選択用マーカー。
- 上記DNA断片の両端側に制限酵素切断部位を有することを特徴とする、請求項1に記載の形質転換体選択用マーカー。
- 活性部位がコリシン由来のポリペプチドをコードするものである請求項1又は2に記載の形質転換体選択用マーカー。
- 活性部位が配列番号18または19で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
- DNA断片が配列番号14で示される塩基配列からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
- 致死遺伝子の活性部位の3’下流側に、致死遺伝子に対する中和遺伝子を接合したものである、請求項1〜5のいずれかに記載の形質転換体選択用マーカー。
- 中和遺伝子の塩基配列が配列番号15に示されるものである請求項6に記載の形質転換体選択用マーカー。
- 形質転換体が大腸菌を形質転換させたものである請求項1〜7に記載の形質転換体選択用マーカー。
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