JP4355866B2 - 溶接熱影響部特性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接入熱200kJ/cm以上の大入熱溶接から、溶接入熱40kJ/cm以下の小入熱溶接に至る広い入熱条件における、電子ビーム溶接またはレーザー溶接により溶接した鋼材の溶接熱影響部の特性に優れた鋼材に関する。なお、本発明では溶接熱影響部の特性とは、溶接熱影響部の靱性、および耐食性をいい、耐食性は耐硫化物応力腐食割れ性(以下、耐SSCと記す)をいう。
【0002】
【従来の技術】
一般に鋼材を溶接すると、溶接金属に接する溶接熱影響部(以下、HAZと記す)では、結晶粒が粗大化して靱性が劣化することが知られている。特に溶接金属と母材の境界部分(以下、ボンド部と記す)は、組織の粗大化が最も著しく靱性が最も低下する。
【0003】
また、鋼材は大入熱溶接を施される一方で、しばしば小入熱溶接も実施される。小入熱溶接の場合は、鋼材の成分、板厚および予熱条件等によっては溶接後の溶接部の冷却速度が大きくなり、焼入れ状態になってHAZは著しく硬化してしまう。HAZの硬化は、溶接部の低温割れや耐食性(耐SSC性)の低下を招くのみでなく靱性も劣化させる。
【0004】
電子ビーム溶接やレーザー溶接という、指向性高エネルギービームによる溶接ではこの傾向が特に顕著である。
【0005】
このようなHAZの硬化による溶接低温割れを管理する指標として、Pcm がある。このPcm と鋼板の板厚tおよび溶接金属中の水素量Hできまる溶接低温割れ感受性指数 Pc値(Pc=Pcm+H/60+t/600)を制限することで、溶接部の低温割れを回避することができることは知られている。しかし、このPc値を制限する方法は、合金成分の含有量を削減することによりHAZ硬度を減じる方法であり、成分設計に対して強い制限を与えるため、必ずしも満足できる方法ではない。
【0006】
特開平10−88276号公報には、溶接熱影響部靱性に優れた溶接構造用高張力鋼が開示されている。この高張力鋼は、希土類元素,V,N,OおよびBの規制によって、小入熱から大入熱溶接に至るまで、HAZにおけるγ粒の成長抑制とγ粒内核生成による組織微細化を図ったことを特徴としている。このγ粒の成長抑制およびγ粒内核生成サイトの導入のどちらも焼き入れ性を下げる効果があるため、同公報には記載されていないものの、HAZ硬化の抑制も期待できる。しかし、この方法は高価な希土類元素を使用しなければならず、鋼材のコスト面では必ずしも好ましい方法ではない。
【0007】
特公平4−28474号公報には、溶接金属の靱性に優れた低合金高張力鋼の溶接方法が開示されている。この方法は、鋼板にTi酸化物を均一に分散させておくことで、電子ビーム溶接時に溶接金属をTi酸化物の働きで微細な針状フェライト組織にして、靱性を改善することを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、溶接金属の組織は微細化され高靱化される。しかし、HAZには効果がない。小入熱溶接のHAZの組織の微細化には、大入熱溶接に比べて多数の酸化物粒子が分散している必要があり、Ti酸化物では小入熱溶接の熱影響部を微細化するに足るだけの十分な分散密度が確保できない。
【0009】
また、耐HIC性、耐SSC性を鋼板に付与するためには、Sを低減して粗大なMnS系介在物の生成を防止する必要があるが、脱硫処理をおこないつつTi酸化物の微細分散を図ることは著しく困難である。脱硫元素は脱酸反応も起こし、一般にSよりもOの方が反応性が高いため、脱硫処理はより強い脱酸処理となり、酸化物としての安定度が低いTi系酸化物は、還元されて鋼中から失われてしまう。
【0010】
耐炭酸ガス腐食性向上のためには、Cr添加が有効なことが知られている(特開平4−341540号公報)。しかし、Crの添加は、不可避的にPcm値を高め、小入熱溶接部における硬度を過度に高めてしまう。
【0011】
生産が容易で、大入熱から小入熱に至る入熱条件で溶接した熱影響部で過度の硬化が起らず、HAZの靱性および耐食性が優れた鋼材の開発が望まれている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、溶接入熱200kJ/cm以上の大入熱溶接から、40kJ/cm以下の小入熱溶接に至る広い入熱条件の溶接において、電子ビーム溶接やレーザー溶接というであっても、溶接熱影響部の硬化が小さく良好な靱性を有し、かつ耐硫化物応力腐食割れ性(以下、耐SSC性と記す)に優れた鋼材を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)質量%で、C:0.015〜0.18%、Si:1%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、sol.Al:0.0002〜0.0012%、Ti:0.003〜0.02%、O(酸素):0.002〜0.005%、B:0.002%以下、N:0.007%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、下記式(1)を満足していることを特徴とする、溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
0.3<O(酸素)/sol.Al 0.7 <1.8 ・・・・・(1)
(2)さらに、質量%で、Cu:1.5%以下、Nb:0.1%以下およびMo:0.5%以下のうち、1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
(3)さらに、質量%で、Ni:4%以下を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
(4)さらに、質量%で、Cr:2%以下を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
【0015】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの化学組成を有する鋳片を連続鋳造法にて鋳造するに際して、下記の(a)および(b)のうちの一方または双方の操作を加えて鋳造し、その後に熱間圧延することを特徴とする、溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材の製造方法。
【0016】
(a)鋳型から引き抜かれた鋳片にバルジングを生じさせ、鋳片の凝固完了前にバルジング量相当の圧下を加える。
【0017】
(b)鋳型から引き抜いた鋳片の未凝固部を、電磁撹拌装置を用いて撹拌する。
【0018】
本発明者らは、小入熱から大入熱で溶接した熱影響部が靱性や耐食性に優れた鋼材を開発するため、実験室および実製造ラインにて様々な試験をおこなった結果、以下のような知見を得て本発明を完成するに至った。
【0019】
1)Ti脱酸にて鋼を溶製した鋼は、大入熱溶接をおこなった場合、HAZ部でγ粒内フェライト析出による組織微細化が起こるが、小入熱のSAWや電子ビーム溶接、レーザー溶接の場合のHAZでは、そのような効果は観察されない。これは、小入熱溶接HAZでγ粒内フェライトを析出させるためには、大入熱溶接の場合に比して、高い分散粒子密度が必要で、Ti酸化物では十分な分散密度が確保できないためである。
【0020】
2)スラグ組成やAlの添加量を調整して、凝固後のsol.Al量が0.0002〜0.0012%となるように制御した場合、小入熱溶接したHAZにおいても粒内核生成組織が観察された。この効果により、小入熱溶接したHAZの靱性が向上するだけでなく、HAZの硬さも低減された。また、小入熱HAZで良好な特性が得られた場合、大入熱溶接HAZでも良好な特性が得られた。ただし、sol.Al量の制限だけでは、安定して好ましい特性の鋼材を得ることはできない。
【0021】
3)sol.Al量の高精度制御に加えて、鋼材中のO(酸素)の全含有量と、sol.Al量との関係を下記の(1)式を満足させることで、安定して小入熱HAZ特性を確保することができる。
0.3<O(酸素)/sol.Al0.7<1.8 ・・・・・(1)
【0022】
0.3<O/sol.Al 0.7 <1.8
4)Al、TiおよびMnの含有量を適正範囲にすると、鋼中には直径0.2〜3μm程度の微細なAl−Ti−Mn系複合酸化物粒子が多数形成され、これらの粒子が小入熱溶接条件から大入熱溶接条件に至る広い入熱条件でγ粒内におけるγ−α核生成サイトとして機能し、組織が微細化される。
【0023】
5)鋼中の全酸素量Oとsol.Alとが、上記範囲から外れた場合、鋼中の酸化物はTi 2 O 3 あるいはAl−Ti酸化物となって分散密度は減少し、核生成の頻度も低下する。
【0024】
6)Al、OおよびTiの含有量を適正範囲にすると、Al−Ti−Mnが析出し、凝固組織が微細化され、その結果MnSも微細化されて耐HIC性、耐SSC性が改善できる。
【0025】
7)耐炭酸ガス腐食性を向上させるためには、Cr添加が有効であるが、CrはPcmを高めるため通常はHAZ硬さを高める。しかし、Al−Ti−Mn酸化物粒子からの粒内核生成効果によって、HAZ硬度の上昇が抑制されて靱性劣化も回避される。
【0026】
8)連続鋳造に際して、鋳型から引き抜かれた鋳片に対して一旦バルジングを起こさせ、鋳片中心部の凝固完了直前に、圧下ロールによって鋳片に対してバルジング量相当の圧下を加えることで、耐サワー特性で最も問題になる鋳片中心部のMn偏析が大きく改善され、6)の効果と相まって、耐HIC性、耐SSC性が改善される。
【0027】
9)鋳片の凝固完了前に、電磁撹拌装置を用いて未凝固溶鋼に対して撹拌を加えることで、やはり鋳片中心部のMn偏析は大きく改善され、8)と同様の効果が得られる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の鋼材の化学組成を限定した理由を説明する(以下、%表示は質量%を示す)各成分の限定理由に付いて述べる。
【0029】
C
Cは、強度を確保するために必要な元素で、0.015%未満では必要とする強度を確保することができない。望ましくは、0.02%以上である。一方、0.18%を超えると、溶接した場合にHAZ、母材共に靱性を確保することが難しくなる。望ましくは、0.16%未満である。したがって、Cの含有量は、0.015〜0.18%とした。
【0030】
Si
Siは、脱酸作用があると共に鋼板の強度上昇にも寄与する。しかし、1%を超えて含有させた場合、靭性の低下をもたらすため、1%を上限とする。また、鋼の脱酸に支障を来さない限り、Siは幾ら少なくとも問題はない。
【0031】
Mn
Mnは鋼の焼入れ性高める効果があり、強度確保に有効な成分である。含有量が0.5%未満では、焼入れ性の不足によって強度および靱性が得られない。一方、2.5%を超えて含有させると、偏析が増すと共に焼入れ性が高まりすぎて溶接時にHAZ、母材共に靱性が低下する。従ってMnの含有量は0.3〜2.5%とした。
【0032】
P
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。0.05%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招くため0.05%以下とする必要がある。加えて、Pは延性破面率を悪化させ、X70(API規格)以上の高強度で延性破面率の低下をもたらす。したがって、X70以上の強度を得る場合には、0.02%以下とすることが望ましい。
【0033】
S
SはMnと結合して硫化物を形成し、介在物として鋼中に存在してHICやSSCの原因となる。鋼材に耐HIC性を要求しない場合は厳しく低減する必要はないが、それでも0.008%を超えると母材靱性の劣化をもたらすので、上限を0.008%とした。本発明鋼は、後述するようにsol.Al含有量を微量調整することによりAl−Ti−Mn酸化物を鋼中に析出させたことを特徴としているが、その酸化物により凝固組織が微細化され、その結果粗大なMnSが形成されにくくなる。そのため、S含有量の影響が小さくなって比較的良好な耐HIC性、耐SSC性を備える。それでも、耐HIC性、耐SSC性が必要な用途に使用する場合は、S量は0.006%未満にするのが好ましく、さらに望ましいのは0.005%未満である。
【0034】
sol.Al
sol.Alは、通常のAlキルド鋼においては脱酸のためにsol.Alの形で0.03%程度含有させるが、本発明ではAl−Ti−Mn系複合酸化物を鋼中に形成させる必要があるため、sol.Alはより低い値に制御しなければならない。しかし、0.0002%未満では、鋼中酸化物はTi酸化物あるいはTi−Si−Mn酸化物となってしまうため、有効な酸化物が鋼中に形成されない。一方、sol.Alが0.0012%を超える場合は、鋼中酸化物はAl酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって鋼中に分散しなくなる。好ましくは0.001%以下である。
【0035】
また、適正なAl−Ti−Mn酸化物を形成させるためには、sol.Al量は、下記式(1)の関係も満足しなければならない。これ以外の範囲では、微細分散する適正な酸化物は得られない。
【0036】
0.3<O(酸素)/ sol. Al 0.7 <1.8 ・・・・・・・ (1)
この酸化物の分散状況は、凝固時の冷却速度が遅いほど低下する様相を示したが、0.2℃/分以上の冷却速度で有れば、溶接HAZの靱性は良好であった。この冷却速度は、連続鋳造で製造する場合には容易に得られる速度である。
【0037】
Al−Ti−Mn系複合酸化物は、Al酸化物やTi酸化物に比べて融点が低く、鋳造時にはAl、Ti、Mnを含む液相の酸化物として溶鋼から分離してくると考えている。一般に液相−液相界面は、液相−固相界面よりも界面エネルギーが低いため、Al−Ti−Mn系複合酸化物は、Al酸化物やTi酸化物に比べて遙かに凝集しにくく微細分散し易い。Al−Ti−Mn系複合酸化物は、Al、Ti、Mnの各酸化物以外にMg、CaやSi等のような酸化物を微量含んでいる。Al−Ti−Mn系複合酸化物の融体は凝固して固体となるが、その際にTi2MO4やAl2MnO4(Galaxite)にちかい組成を有する酸化物に分離する傾向がある。
Ti
Tiは、主に脱酸元素として利用するが、Al,Ti,Mnからなる酸化物相を形成させる。この酸化物相を鋼中に形成させるためには、鋼中のTiの総量は0.003%以上は必要であり、一方0.02%を超えて含有させた場合には、形成される酸化物がTi酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって分散密度が低下し、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われる。このため、Ti含有量は0.02%未満でなくてはならない。好ましくは0.017%である。
【0038】
O(酸素)
酸素は、Al−Ti−Mn複合酸化物を形成させるための重要な元素であり、、0.002%未満ではAl酸化物やTi酸化物が形成され、十分な量のAl−Ti−Mn系複合酸化物を形成させることができなくなる。一方0.005%を超えると清浄度が低下して靱性が劣化する。したがって、酸素含有量は0.002〜0.005%とした。
【0039】
B
Bは、焼入れ性を向上させる元素で、含有量が0.002%を超えると靱性の劣化をもたらす。なお、含有させる場合は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0040】
N
鋼中のNは、多量に存在する場合にはHAZ靭性の悪化原因となる。通常は、鋼にTiを添加してTiNの形で固定して無害化しているが、本発明においては、Tiは上限が厳しく制限されている上に、Tiのほとんどの量は酸化物の形成に消費されてしまい、TiNは殆ど形成されない。そのため、Nは0.007%以下でなければ母材、HAZとも靱性が劣化するのを避けることができない。望ましくは、0.006%以下である。
【0041】
上記の元素以外に、必要により下記のような他の元素を含有させることができる。代表的な元素を以下に示すが、それらに限定されるものではない。
【0042】
Cu
Cuは、強度および耐食性をより向上させる場合に含有させる。特に、pHの高い環境では鋼中への水素侵入を抑制して母材の耐HIC性を向上させる作用を有する。母材の耐HICを向上させるためには、0.5%以下の含有量で効果を得ることができる。一方、強度向上に利用する場合、0.5%以下でも効果があるが、それ以上含有させると焼入れ−焼戻し処理をおこなった場合にCu時効効果が得られ、一層強度が高まる。しかし、1.5%を超えて含有させても、コスト上昇に見合った性能の改善が見られない。
【0043】
Ni
Niは固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靭性を高める効果があるので、より優れた靭性を安定して得る必要がある場合に含有させるのがよい。含有量を0.05%以上とすると焼入性向上効果も得られるので、0.05%以上とすることが望ましい。特に、Cuを添加する場合は圧延時のひび割れ(Cuチェッキング)を防止するために、0.1%以上のNiを含有させる必要がある。しかし、4%を超えると合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られないので、上限は4%とするのがよい。
【0044】
Cr
Crは、耐炭酸ガス腐食性を高め、また焼入性を高めるのに有用である。Crのこの様な効果を積極的に利用しようとする場合、0.2%以上の含有量とするのがよい。しかし、2%を超えて含有させると、他の成分条件を満足させても、HAZの硬化の抑制が難しくなる他、耐炭酸ガス腐食性向上効果も飽和する。望ましくは、1.5%以下である。
【0045】
Nb
Nbは、細粒化と炭化物析出により母材の強度および靱性を向上させる。また、細粒化によって母材の耐SSC性を向上させる効果がある。しかし、その含有量が0.002%未満では前記効果が得られない。一方、0.1%を超えると母材の性能向上効果が飽和する一方でHAZの靱性を著しく損なう。
【0047】
Mo
Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果がある。しかし、含有量が0.03%未満では前記効果が得られなく、また0.5%を超えると特にHAZの硬度が高まり靱性と耐SSC性を損なう。
【0048】
次に、製造方法について説明する。
【0049】
上記の化学組成を有する鋼を連続鋳造設備にて鋳造するに際して、下記の(a)および(b)のうちの一方、または双方の操作を加えて鋳造するのがよく、HAZに一層優れた耐SSC性を、また母材に耐HIC性および耐SSC性を付与することができる。
【0050】
(a)鋳型から引き抜かれた鋳片にバルジングを生じさせ、鋳片の凝固完了前にバルジング部に圧下ロールによりバルジング量相当の圧下を加える。
【0051】
(b)鋳型から引き抜いた鋳片の未凝固部を、電磁撹拌装置を用いて撹拌する。
【0052】
このような操作をおこなうのは、鋳片の最終凝固部となる鋳片厚さ方向の中心部にMn、SおよびPなどが偏析するのを防止するためである。偏析が生じると偏析部分において靱性の低下や耐食性の劣化が生じやすい。
【0053】
鋳片にバルジングを起こさせるためには、鋳型の下流側に配列されたガイドロールの鋳片厚さ方向の間隔を、下流側に段階的に増加させるのがよい。また、バルジングを発生させる位置は、鋳片中心部の固相率が0.1以下の位置が好ましい。バルジング量は、鋳片の厚さが200〜300mm程度の場合、鋳片の厚さ(鋳型短辺の長さ)より20〜100mm厚くする量とするのが適当である。
【0054】
バルジング量相当の圧下は、偏析部分を分散させるためで鋳片中心部の固相率が0.8未満となる凝固完了点の少し前の位置でおこなうのが好ましい。
【0055】
ここで、固相率とは、液相と固相からなる未凝固部における固相の比率(体積比率)を意味する。この固相率は、鋳片厚さ方向の一次元非定常伝熱解析により求めることができる。溶鋼の凝固中は潜熱が放出されるので、固液共存域における潜熱の放出比率から固相率を求めることができる。
【0056】
上記(a)の他に、一般に使用されている電磁撹拌装置を用いて、鋳片内の未凝固溶鋼に対して撹拌を加え偏析元素を分散させることも有効である。この撹拌は、固相率0.05〜0.7の範囲の領域でおこなうと効果的である。
【0057】
【実施例】
表1に示す17種の化学組成の鋼を溶製し、連続鋳造設備による鋳片または真空溶解炉による150kgインゴットとした。鋳片の寸法は、厚さ200mm、長さ2000mmで、インゴットは真空溶解炉で溶解して150kgインゴットとした。連続鋳造では、表2に示すように、鋳型から引き抜かれた後鋳片内部が凝固する前に鋳片をバルジングさせて圧下および/または電磁撹拌をおこなった。バルジングさせた場合の圧下は一対のロールによりおこなった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
次に、インゴットは鍛造してスラブとし、鋳片と共に1100℃に加熱した後、表3に示す条件で熱間圧延と熱処理を施して鋼板とした。溶接前の特性を調べるため、得られた鋼板からJIS Z 2201号引張試験片、JIS Z 2202に規定のVノッチシャルピー衝撃試験片および腐食試験片を製作した。腐食試験は、耐HIC性、耐SSC性および耐炭酸ガス腐食性を調べるため下記の方法でおこなった。
【0061】
【表3】
【0062】
▲1▼ 耐HIC性
米国の規格「NACE TM−0284 METOD A」に規定されている方法で評価した。すなわち、NACE浴(0.5%酢酸+5%食塩水,25℃,1気圧H 2 S飽和)に96時間浸漬したときの割れ面積率(CAR)を測定した。評価は、「CAR≦2%」のものが耐HIC性に優れるとして0.2%を超えるものは耐HIC性に劣るとして×印で示した。
【0063】
HIC試験片の寸法は、厚さ:表3に記載の鋼板厚さ、幅:20mm、長さ:100mmとし、各鋼板毎に3枚採取した。これの試験片を浸漬試験に供した後、超音波探傷法で断面のHIC面積(CRA)を下記式で求め、3枚の平均値で評価した。
【0064】
CAR(%)=100×{HIC面積/(試験片幅×試験片長)}
なお、CARは、CLR(幅方向の割れ長さ)のほぼ3分の1に対応していることが経験的に知られており、「CAR≦2%」は「CLR≦5%」に対応する。
【0065】
図2は、鋼板7から、耐HIC性を調べるための腐食試験片を採取した位置を示す図である。
【0066】
図3は、腐食試験後の試験片の縦断面図で、斜線部は水素誘起割れした部分を示す。
【0067】
▲2▼ 耐SSC
米国の規格「NACE TM−0177 METHOD A」に規定されている方法で評価した。すなわち、、鋼板の板厚中心部から平行部が6.35mm×25.4mmの丸棒試験片を採取した後、これにNACE浴中で80%SMYS(規格最小YS)の引張り応力を付与し、720時間が経過するまでの間に破断が生ずるか否かを調べた。そして破断しなかったものを耐SSC性に優れるとして○印で、破断したものについては、耐SSC性が劣るとして×印で表示した。
【0068】
▲3▼ 耐炭酸ガス腐食性
耐炭酸ガス腐食性については、各鋼板から切り出した試験片を、1気圧の炭酸ガスを飽和させた50℃の人工海水中に96時間浸漬し、その際の腐食減量から計算した腐食速度にて評価した。
【0069】
これらの試験結果を併せて表3に示す。
【0070】
鋼番号2〜9は、本発明例の鋼である。鋼番号10〜18の鋼は、本発明の鋼に対応する比較例であり、主要な強化元素の含有量は同一であるが、Al、TiおよびO(酸素)の含有量が異なっており、本発明で規定する範囲外になっている。
【0071】
表3から明らかなように、本発明例の場合は靱性、耐HIC性および耐SSC性ともに良好であるが、比較例10a〜12aおよび16aは耐HIC性および耐SSC性の一方または双方とも好ましくない。比較例の13a〜15aおよび17a、18aは、母材としての特性は良好であるが、後述するHAZの特性が好ましくない。
【0072】
鋼板番号3aおよび7a、8aおよび9aは、本発明の方法により製造されたものである。これに対して、鋼板番号4a、5aおよび6aは150kgインゴットから鋼板にしたものであり、インゴットのサイズが比較的小さくMn、Sの偏析が小さいため母材特性は良好である。
【0073】
Crを含有している鋼板2aおよび6aは、表3に示すように耐HIC性、耐SSC性に加えて、耐炭酸ガス腐食性も良好である。これに対し、Crを含まない鋼板1a、9aは、腐食速度が速く耐炭酸ガス腐食性が好ましくない。
【0074】
次いで、溶接後のHAZの特性を調べるため、各鋼板から溶接用の縦:400mm、横:300mmの試験片を切り出し、突き合わせ溶接をおこなった。
【0075】
溶接方法は、レーザー溶接、電子ビーム溶接およびSAWの3種類の方法とした。
【0076】
SAWにおいては、ルートギャップ1〜2mmのV開先に対して、20kJ/cmにて多層溶接をおこなった。
【0077】
レーザー溶接は、出力10kWの炭酸ガスレーザーを用い、大気圧Arガスシールド雰囲気で、ルートギャップ無しのI開先にて実施した。
【0078】
電子ビーム溶接は、真空チャンバー内で、電圧150kV、電流150mA、振幅0.8mmにて、ルートギャップ無しのI開先に対して、速度20cm/min〜80cm/minで溶接した。このレーザー溶接や電子ビーム溶接の溶接入熱は、20kJ/cmか、あるいはそれよりも小さな入熱に相当する。
【0079】
また、板厚が32t以上の鋼板については、X開先にて、内外面一層SAWの大入熱溶接も実施して、大入熱HAZ特性を調査した。
【0080】
溶接後、各鋼板のHAZを含む位置から硬度測定試験片、シャルピー衝撃試験片、引張試験片および腐食試験片をそれぞれ切り出し、HAZの最高硬さ、HAZ靱性、溶接部(溶接金属部およびHAZをいう)の引張り強さおよび溶接部の耐SSC性を求めた。
【0081】
溶接熱影響部の最高硬さは、ビッカース10kgfにて測定した。
【0082】
図1は、突き合わせ溶接した鋼板からシャルピー衝撃試験片および引張試験片を採取した位置を示す図で、図1(a)はサブマージアーク溶接した鋼板の場合、図1(b)は電子ビーム溶接およびレーザ溶接した場合の図である。
【0083】
図1(a)および図1(b)に示すように、シャルピー衝撃試験片1は、溶接した鋼板2の溶接金属5とHAZ6の境界であるボンド部にVノッチ4がくるように採取した。試験片は、JISZ2202 Vノッチ衝撃試験片とした。ただし、母材厚さが10mmに満たない鋼材については、5mm厚のハーフサイズ試験片で代用した。
【0084】
また、引張試験片は、図1(a)および図1(b)に示すように、引張試験片3の平行部の中央に溶接金属がくるように採取した。
【0085】
溶接部の耐食性については、図1で示した引張り試験片を採取した同等の位置である板厚中心部から溶接金属が中心に位置するようにSSC試験片を切り出し、母材の場合と同様の試験をおこなってSSC性を評価した。
【0086】
なお、各試験方法は前記の方法と同じ方法でおこなった。これらの小入熱溶接した場合の試験結果を表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
鋼板2a〜9aは、本発明例の鋼板であるが、いずれの溶接方法にて溶接した場合でも優れたHAZ靱性を示す。これに対し、比較例の10a〜18aの鋼板のHAZ靱性は、軒並み好ましくない。
【0089】
また、本発明例の鋼板では、耐SSCも良好であるが、比較例ではSを低減した13a〜15aの鋼板で良好な結果が得られているものの、他の比較例の鋼板では、HAZ硬さが高いことなどが影響して、耐SSCも劣悪となっている。11aも比較的Sは低いが、HAZ硬さが高いため、耐SSC性は好ましくない。
【0093】
【発明の効果】
接熱影響部の靱性に優れており、また本発明の製造方法で製造した鋼材は、耐硫化物応力腐食割れ性に優れており、溶接施工に対する制限を大きく緩和し、腐食環境を含む多様な環境下で使用に耐える安全な溶接構造物を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】突き合わせ溶接した鋼板から引張り試験片等を採取した位置を示す図である。
【図2】鋼板から腐食試験片を採取した位置を示す図である。
【図3】水素誘起割れ状態を示す試験片の断面図である。
【符号の説明】
1 シャルピー衝撃試験片採取位置
2 鋼板
3 引張試験片採取位置
5 溶接金属
6 溶接熱影響部(HAS)
7 腐食試験片(耐HIC性調査用)
Claims (5)
- 質量%で、C:0.015〜0.18%、Si:1%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、sol.Al:0.0002〜0.0012%、Ti:0.003〜0.02%、O(酸素):0.002〜0.005%、B:0.002%以下、N:0.007%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、下記式(1)を満足していることを特徴とする、溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
0.3<O(酸素)/sol.Al0.7<1.8 ・・・・・(1) - さらに、質量%で、Cu:1.5%以下、Nb:0.1%以下およびMo:0.5%以下のうち、1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
- さらに、質量%で、Ni:4%以下を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
- さらに、質量%で、Cr:2%以下を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材。
- 請求項1から4までのいずれかに記載の化学組成を有する鋳片を連続鋳造法にて鋳造するに際して、下記の(a)および(b)のうちの一方または双方の操作を加えて鋳造し、その後に熱間圧延することを特徴とする、溶接熱影響部特性に優れた電子ビーム溶接用またはレーザー溶接用鋼材の製造方法。
(a)鋳型から引き抜かれた鋳片にバルジングを生じさせ、鋳片の凝固完了前にバルジング量相当の圧下を加える。
(b)鋳型から引き抜いた鋳片の未凝固部を、電磁撹拌装置を用いて撹拌する。
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