つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明の一例をスケルトン図で示してあり、ここに示す例は、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速比として二つの変速比を設定するように構成した例である。すなわち、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2から第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
その動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。また、この動力源1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
第1遊星歯車機構3がこの発明の第2の差動機構に相当し、また第2遊星歯車機構4がこの発明の第1の差動機構に相当しており、第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。
これらの遊星歯車機構3,4は、シングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されており、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cに第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
第2遊星歯車機構4においても同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部をポンプ軸11が回転自在に挿入されており、このポンプ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
上記のモータ軸9の他方の端部が正逆転可能な可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また、ポンプとして機能する際の吐出口から圧力流体を供給して、ポンプとして機能する際の吸入口から排出させることにより、モータとして機能するようになっている。また、吐出容量がゼロの状態から正負いずれの方向にも斜軸や斜板などの角度を変更できるように構成され、したがってモータとして機能する場合に、その設定の仕方によって正回転および逆回転のいずれも行うことができるようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはP/M1と表示する。
また、ポンプ軸11の他方の端部が可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ13は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また、ポンプとして機能する際の吐出口から圧力流体を供給して、ポンプとして機能する際の吸入口から排出させることにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはP/M2と表示する。
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入口12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出口12D,13D同士が油路15によって連通されている。そして、これらの油路14,15を流通する圧油の量や圧力すなわち各ポンプモータ12,13の押し出し容積や圧力を制御するためのバルブを主体として油圧制御装置16が、油路14,15に介装されている。さらに、この油圧制御装置16や各ポンプモータ12,13の吐出容量を制御するための電子制御装置(ECU)17が設けられている。すなわち、吐出容量を設定するための斜板や斜軸の角度あるいはラジアルピストンポンプのカムリング(図示せず)の位相角度などを変更するためのアクチュエータ(図示せず)に、電子制御装置17から指令信号が出力されるようになっている。
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸18が配置されている。そして、この出力軸18と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された変速比で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対19,20が採用されている。具体的に説明すると、前記第1中間軸8には、第2速駆動ギヤ19Aが配置され、かつ第1中間軸8に対して回転自在に嵌合されている。その第2速駆動ギヤ19Aに噛み合っている第2速従動ギヤ19Bが、出力軸18に一体回転するように取り付けられている。したがって第2速用の駆動ギヤ19Aおよび従動ギヤ19Bが、この発明における第4の伝動機構に相当する。
また、上記の第2速従動ギヤ19Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ20Aが、第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第2速従動ギヤ19Bが第1速従動ギヤを兼ねている。したがって第1速用の駆動ギヤ20Aおよび従動ギヤ19Bが、この発明における第2の伝動機構を構成している。
さらに、発進用ギヤ対21が設けられている。この発進用ギヤ対21は、図1の上側の第1ポンプモータ12が流体圧モータとして機能した場合に、その出力トルクを出力軸18に伝達するためのものであって、この発明の第1の伝動機構に相当する。具体的には、モータ軸9に回転自在に嵌合させられた発進駆動ギヤ21Aと、この発進駆動ギヤ21Aに噛み合うとともに出力軸18に一体回転するように取り付けられた発進従動ギヤ21Bとによって構成されている。
そして、この発明の特徴的構成である後進用ギヤ対22が設けられている。この後進用ギヤ対22は、図1の下側の第2ポンプモータ13が流体圧ポンプとして機能した場合に、その出力トルクを出力軸18に伝達するためのものであって、この発明の第3の伝動機構に相当する。具体的には、モータ軸11に回転自在に嵌合させられた後進駆動ギヤ22Aと、この後進駆動ギヤ22Aに噛み合っているアイドルギヤ22Bと、そのアイドルギヤ22Bに噛み合っているとともに、出力軸18に一体回転するように取り付けられた後進従動ギヤ22Cとによって構成されている。
上述した第1速用および第2速用の各ギヤ対20,19、および発進用のギヤ対21、および後進用のギヤ対22を、いずれかの中間軸8,10と出力軸18との間、もしくはモータ軸9と出力軸18との間でトルク伝達可能な状態とするための係合機構が設けられている。この係合機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させて、その回転軸に対して相対回転するように取り付けられた回転部材のスプラインに係合させ、その過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することで回転軸と回転部材とを同期させることにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記モータ軸9上で、発進駆動ギヤ21Aの図1における右側、すなわち発進駆動ギヤ21Aの動力源1に近い側に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)23が設けられている。この第1シンクロ23は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、発進駆動ギヤ21Aをモータ軸9に連結し、発進用のギヤ対21がモータ軸9と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
また、前記第2中間軸10上で、後進駆動ギヤ22Aと第1速駆動ギヤ20Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)24が設けられている。この第2シンクロ24は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、後進駆動ギヤ22Aを第2中間軸10に連結し、後進用ギヤ対22が第2中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結し、第1速用のギヤ対20が第2中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
この第2シンクロ24は、別の言い方をすると、後進駆動ギヤ22Aを第2中間軸10に連結させる機能と、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結させる機能との両方を兼ね備えている。すなわち、第1速段を設定するための係合機構と後進段を設定するための係合機構とが、第2シンクロ24によって兼用されている。そのため、第2シンクロ24を構成する例えばアクチュエータやシフトフォーク(共に図示せず)などの各種機械装置・部品を共用化することができ、部品点数を削減して、コスト低減、変速機の小型・軽量化を図ることができる。
さらに、前記第1中間軸8上で、第2速駆動ギヤ19Aの図1での左側、すなわち第2速駆動ギヤ19Aの第1ポンプモータ12に近い側に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)25が設けられている。この第3シンクロ25は、そのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第2速駆動ギヤ19Aを第1中間軸8に連結し、第2速用のギヤ対19が第1中間軸8と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
これらのシンクロ23,24,25は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもでき、その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを前述した電子制御装置17の指令信号を動作させるように構成すればよい。
上述したように、図1に示す変速機は、動力源1が出力したトルクが、各いずれかの中間軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸18に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸18には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動機構26を介してデファレンシャル27が連結され、ここから左右の車輪(図示せず)に動力を出力するようになっている。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図2は、各変速段を設定する際の各オイルポンプ(P/M1,P/M2)12,13、および各シンクロ23,24,25の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各オイルポンプ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態を示し、「LOCK」は、ポンプ容量を最大にするとともにオイルの吐出を制限してその出力軸にトルクが現れる状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するオイルポンプ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のオイルポンプ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するオイルポンプ13(もしくは12)は軸トルクを発生し、対応する中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
そして、各シンクロ23,24,25についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ23,24,25におけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「−」はスリーブが中央に位置して中立状態となっていることを示す。
図示しないシフト装置でニュートラルポジションが選択されるなどのことによってニュートラル(N)状態を設定する際には、各オイルポンプ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ23,24,25のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対19,20,21,22も出力軸18に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各オイルポンプ12,13が、ポンプ容量が実質的にゼロとなるように制御され、その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rに動力源1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しないので、出力要素であるキャリヤ3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
車両を発進させる場合、発進用のギヤ対21と第1速用のギヤ対20とを介して出力軸18にトルクが伝達される。すなわち、先ず、第1シンクロ23のスリーブが図1の左側に移動させられて発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結され、モータ軸9と出力軸18とが発進用のギヤ対21を介して連結される。また、同時に、第2シンクロ24のスリーブが図1の右側に移動させられて第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結され、第2中間軸10と出力軸18とが第1速用のギヤ対20を介して連結される。したがって、この場合は、第2遊星歯車機構4を介したトルクの伝達が生じることになる。なお、この場合の第2遊星歯車機構4についての共線図を図3に示してある。
第1および第2のシンクロ23,24を上記のように設定した状態で車両が停止していると、第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rは、動力源1からのトルクを受けて所定の回転数で正回転(動力源1の回転方向と同じ方向の回転)しており、また出力軸18に連結されているキャリヤ4Cの回転が止められているから、サンギヤ4Sおよびこれに連結されている第2ポンプモータ13が逆回転している(図3の線L1で示す状態)。その状態で、第2ポンプモータ13の押し出し容積を次第に増大させ、またその吐出を次第に絞ると、すなわちフリー状態からロック状態に向けて次第に変化させると、ポンプ軸11およびこれに連結されているサンギヤ4Sに、その回転を止める方向のトルク(反力トルク)が発生する。また同時に、第2ポンプモータ13が圧油を吐出し、これが第1ポンプモータ12の吐出口12Dに供給される。
その場合、第1ポンプモータ12に連結されているモータ軸9が回転できないので、第1ポンプモータ12のポンプ容量をゼロから次第に増大させると、圧油が前記油圧制御装置16におけるリリーフバルブ(図示せず)などを介してドレーンされる。すなわち、いわゆるダブルロック状態となることを、圧油をドレーンさせることにより解消するようになっている。
各ポンプモータ12,13のポンプ容量が増大すると、第2遊星歯車機構4でそのサンギヤ4Sに作用する反力が増大するので、キャリヤ4Cおよびこれに連結されている第2中間軸10に現れるトルクが大きくなり、そのトルクが第1速用のギヤ対20を介して出力軸18に伝達される。その場合、第1速用のギヤ対20の変速比に応じた減速作用を受け、伝達されるトルクが増大する。また一方、第2ポンプモータ13が圧油を発生し、これが第1ポンプモータ12に供給される。第1ポンプモータ12は、そのポンプ容量が増大させられることにより、圧油が供給されて油圧モータとして機能し、したがってそのモータ軸9に現れたトルクが発進用のギヤ対21を介して出力軸18に伝達される。その場合、発進用のギヤ対21の変速比に応じた減速作用を受け、伝達されるトルクが増大する。このようにして出力軸18のトルクが増大することにより車両が発進する(図3の線L2で示す状態)。
したがって、発進時には、第1ポンプモータ12をモータとして機能させて反力トルクを生じさせ、それに伴って第2遊星歯車機構4のキャリヤ4Cから第2中間軸10および第1速用のギヤ対20を介して出力軸18にトルクを伝達する。これと同時に、第2ポンプモータ13で生じた圧油を第1ポンプモータ12に供給して動力の回収を行い、それに伴うトルクを発進用のギヤ対21を介して出力軸18に伝達するから、動力源1の動力を有効に利用して、変速機としての大きい出力軸トルクもしくは車両としての大きい駆動トルクを得ることができる。その出力トルクToFを式で表せば、
ToF≒{(1+ρ2)κ1+q1・ρ2・κs/q2}×Tin
であり、また吐出口12D,13D同士を連通させている油路15の圧力PFは、
PF≒(2π・ρ2/q2)×Tin
となる。ここで、q1は第1ポンプモータ12の1回転あたりの押し出し容積、q2は第2ポンプモータ13の1回転あたりの押し出し容積、ρ2は第2遊星歯車機構4のギヤ比、κsは発進用ギヤ対21の変速比、Tinは入力部材2に入力されるトルクをそれぞれ示す。
このように発進時の駆動トルクが大きくなるので、車両の発進加速性を良好なものとすることができ、また動力源1の動力を有効に利用するので、燃費を向上し、内燃機関を使用した場合には排ガスを低減することができる。また、第2ポンプモータ13で発生した圧油を第1ポンプモータ12に供給することにより、その圧油を動力の伝達に使用するから、オイルの温度の上昇を抑制でき、それに伴ってオイルの耐久性や変速機の全体としての信頼性を向上させることができる。そして、発進時には、発進用のギヤ対21を使用したトルクの伝達が可能であり、そのため走行中の加減速時に使用する第1速の変速比を相対的に小さくすることができ、そのために全体としての固定変速比の数を少なくし、変速機の小型・軽量化を図ることができる。
第2ポンプモータ13の吐出量を次第に絞り、ついには圧油の吐出を完全に止めると、これがロック状態であり、第2遊星歯車機構4に対する反力が最大になるとともに、そのサンギヤ4Sの回転が止められる。そしてキャリヤ4Cおよびこれに連結されている第2中間軸10が、入力要素であるリングギヤ4Rの回転数に対して減速されて正回転する(図3の線L3で示す状態)。この場合、第2ポンプモータ13は停止していて圧油を発生しないから、第1ポンプモータ12はトルク伝達に特には関与しない。したがって第1シンクロ23を中立状態(解放状態)に設定し、第1ポンプモータ12を停止させる。
このようにして設定された状態が、固定変速比である第1速でかつ停止待機の状態である。したがって、動力源1の動力は、第2中間軸10から第1速用のギヤ対20を介して出力軸18に伝達されるので、変速比は第1速用のギヤ対20で決まる値となる。なお、車両が停止している状態から発進して固定変速比である第1速が設定されるまでの間では、出力軸18のトルクおよび回転数が第2ポンプモータ13の反力トルクおよび回転数に応じて連続的に変化する。したがって、いわゆる無段変速が実行され、スムースな発進が可能になる。
第1速を設定している場合には、第1シンクロ23のスリーブを図1の左側に、第2のシンクロ24のスリーブを図1の右側に移動させて設定する車両を停止させるため停止待機の状態の他に、固定変速比である第2速へのアップシフトに備える待機状態を設定することが可能である。これは、図2に示すように、第2シンクロ24のスリーブを図1の右側に移動させて第1速の状態を維持したまま、第3シンクロ25のスリーブを図1の右側に移動させて、第2速駆動ギヤ19Aを第1中間軸8に連結して設定される。この場合、第1ポンプモータ12は容量がゼロでかつ吐出を制限しないフリー状態となっている。したがって、第1中間軸8が第2速用のギヤ対19を介して出力軸18に連結されても、第1ポンプモータ12が逆回転するのみであって、いわゆるダブルロックなどの事態が生じることはない。
第2速は、動力源1から第1遊星歯車機構3および第1中間軸8ならびに第2速用のギヤ対19を介して設定するから、フリー状態の第1ポンプモータ12のポンプ容量を次第に増大させるとともにその吐出量を次第に絞ることにより、第2速への変速を実行する。第1ポンプモータ12は第1速で逆回転しているので、そのポンプ容量を増大させると、ポンプとして機能した圧油を吐出し、それに伴う反力トルクが第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sに作用する。したがって、動力源1からのトルクと第1ポンプモータ12からの反力トルクが第1遊星歯車機構3で合成されて第1中間軸8および第2速用のギヤ対19を介して出力軸18に伝達される。
また、第1ポンプモータ12が吐出した圧油が第2ポンプモータ13に供給されるので、第2ポンプモータ13がモータとして機能し、そのトルクが第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに伝達される。したがって、第2遊星歯車機構4では、動力源1から伝達されたトルクと第2ポンプモータ13から伝達されたトルクとが合成され、その合成トルクが第2中間軸10および第1速用のギヤ対20を介して出力軸18に伝達される。
このように、第1ポンプモータ12の押し出し容積を増大させるとともに吐出を次第に絞ることにより、第2速への変速が進行し、したがって変速比およびトルクが連続的に変化する無段変速が実行される。また、その変速の過程で第1ポンプモータ12がポンプとして機能し、圧油を発生するが、その圧油を第2ポンプモータ13に供給して動力として回収するので、動力損失の少ない変速が可能になり、車両の燃費の向上に有利である。
上記のようにして第1ポンプモータ12の吐出を次第に絞り、ついには完全にゼロとすることにより、すなわちロックすることにより、第2速が達成される。また、この第2速状態、特に第1速からアップシフトされた直後の状態もしくは第1速へのダウンシフトに備えた待機状態では、第2ポンプモータ13は容量がゼロで自由回転の可能なフリー状態に設定される。さらに、アップシフトおよびダウンシフトのいずれにも備えていない安定的な第2速の状態は、第2シンクロ24を中立位置に設定した状態である。
したがって、各ギヤ対19,20の変速比に基づいて設定されるいわゆる固定変速比は、一方のポンプモータ12(もしくは13)を「LOCK」状態とするとともに、他方のポンプモータ13(もしくは12)を「OFF」状態にして設定されるから、圧油を介することなくその変速比を設定でき、そのため動力の消費がなく、燃費を向上させることができる。また、これらの固定変速比の間では、変速比およびトルクが連続的に変化するので、いわゆる無段変速を達成することができる。
つぎに、後進段について説明する。図1に示す構成では、第1ポンプモータ12が正回転と逆回転とのいずれも可能であるから、その機能を利用して後進段が設定されるようになっている。具体的には、車両を後進させる場合、発進用のギヤ対21と後進用のギヤ対22とを介して出力軸18にトルクが伝達される。すなわち、先ず、第1シンクロ23のスリーブが図1の左側に移動させられて発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結され、モータ軸9と出力軸18とが発進用のギヤ対21を介して連結される。このとき、第1ポンプモータ12を逆回転させた状態(すなわちいわゆる逆振りの状態)とすることにより、出力軸18には逆回転方向、すなわち前進走行時の回転方向とは反対の方向、つまり後進走行時の回転方向のトルクが伝達される。
また、同時に、第2シンクロ24のスリーブが図1の左側に移動させられて、後進駆動ギヤ22Aが第2中間軸10に連結され、第2中間軸10と出力軸18とが後進用のギヤ対22を介して連結される。このとき、前述のように後進駆動ギヤ22Aは、アイドルギヤ22Bを介して出力軸18と一体回転する後進従動ギヤ22Cと連結されているため、出力軸18には逆回転方向(前進走行時の回転方向とは反対の方向、すなわち後進走行時の回転方向)のトルクが伝達されることになる。したがって、この場合も、前述の発進時の場合と同様に、第2遊星歯車機構4を介したトルクの伝達が生じることになる。なお、この場合の第2遊星歯車機構4についての共線図を図4に示してある。
第1および第2のシンクロ23,24を上記のように設定した状態で車両が停止していると、第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rは、動力源1からのトルクを受けて所定の回転数で正回転(動力源1の回転方向と同じ方向の回転)しており、また出力軸18に連結されているキャリヤ4Cの回転が止められているから、サンギヤ4Sおよびこれに連結されている第2ポンプモータ13が逆回転している(図4の線L4で示す状態)。その状態で、第2ポンプモータ13の押し出し容積を次第に増大させ、またその吐出を次第に絞ると、すなわちフリー状態からロック状態に向けて次第に変化させると、ポンプ軸11およびこれに連結されているサンギヤ4Sに、その回転を止める方向のトルク(反力トルク)が発生する。また同時に、第2ポンプモータ13が圧油を吐出し、これが第1ポンプモータ12の吐出口12Dに供給される。
その場合、第1ポンプモータ12に連結されているモータ軸9が回転できないので、第1ポンプモータ12のポンプ容量をゼロから次第に増大させると、圧油が前記油圧制御装置16におけるリリーフバルブ(図示せず)などを介してドレーンされる。すなわち、いわゆるダブルロック状態となることを、圧油をドレーンさせることにより解消するようになっている。
各ポンプモータ12,13のポンプ容量が増大すると、第2遊星歯車機構4でそのサンギヤ4Sに作用する反力が増大するので、キャリヤ4Cおよびこれに連結されている第2中間軸10に現れるトルクが大きくなり、そのトルクが後進用のギヤ対22を介して出力軸18に逆回転方向のトルクとして伝達される。その場合、後進用のギヤ対22の変速比に応じた減速作用を受け、伝達される逆回転方向のトルクが増大する。また一方、第2ポンプモータ13が圧油を発生し、これが第1ポンプモータ12に供給される。第1ポンプモータ12は、前述のように逆振りの状態に制御されていて、そのポンプ容量が増大させられることにより、圧油が供給されて油圧モータとして機能し、したがってそのモータ軸9に現れた逆回転方向のトルクが発進用のギヤ対21を介して出力軸18に伝達される。その場合、発進用のギヤ対21の変速比に応じた減速作用を受け、伝達される逆回転方向のトルクが増大する。このようにして出力軸18の逆回転方向のトルクが増大することにより車両が後進する(図4の線L5で示す状態)。
したがって、後進時においても、前進時と同様に、第1ポンプモータ12をモータとして機能させて反力トルクを生じさせ、それに伴って第2遊星歯車機構4のキャリヤ4Cから第2中間軸10および後進用のギヤ対22を介して出力軸18にトルクを伝達する。これと同時に、第2ポンプモータ13で生じた圧油を第1ポンプモータ12に供給して動力の回収を行い、それに伴うトルクを発進用のギヤ対21を介して出力軸18に伝達するから、動力源1の動力を有効に利用して、変速機としての大きい出力軸トルクもしくは車両としての大きい駆動トルクを得ることができる。
このようにして設定される後進段での出力軸トルクToRは、後進用ギヤ対22の変速比をκRとすると、
ToR≒{(1+ρ2)κR+q1・ρ2・κs/q2}×Tin
であり、また吐出口12D,13D同士を連通させている油路15の圧力PRは、前述の前進時に出力軸トルクToFを生じさせている際の油路15の圧力PFと同様に、
PR(=PF)≒(2π・ρ2/q2)×Tin
となる。
第2ポンプモータ13の吐出量を次第に絞り、ついには圧油の吐出を完全に止めると、これがロック状態であり、第2遊星歯車機構4に対する反力が最大になるとともに、そのサンギヤ4Sの回転が止められる。そしてキャリヤ4Cおよびこれに連結されている第2中間軸10が、入力要素であるリングギヤ4Rの回転数に対して減速されて逆回転する(図4の線L6で示す状態)。
このように、後進時においても、前述の発進時と同様に、後進時の駆動トルクが大きくなるので、車両の後進時の発進性を良好なものとすることができ、また動力源1の動力を有効に利用するので、燃費を向上し、内燃機関を使用した場合には排ガスを低減することができる。また、第2ポンプモータ13で発生した圧油を第1ポンプモータ12に供給することにより、その圧油を動力の伝達に使用するから、オイルの温度の上昇を抑制でき、それに伴ってオイルの耐久性や変速機の全体としての信頼性を向上させることができる。
つぎに、上記のように構成されたこの発明の車両用変速機を操作する際の制御例を説明する。図5は、その制御例を説明するためのフローチャートである。先ず、例えば車両の起動スイッチがONされることなどにより、システムが起動されたか否かが判断される(ステップS11)。
これは、前進シフトもしくは後進シフトを設定するために、発進用のギヤ対21と、第1速用のギヤ対20もしくは後進用ギヤ対22とを介して出力軸18にトルクが伝達される状態に設定される状態にあることを検出するためのステップであり、言い換えると、このステップS11での制御における機能的手段は、この発明における第1の伝動機構(すなわち発進用のギヤ対21)を介して出力部材(すなわち出力軸18)にトルクが伝達される状態での運転が想定されることを検出する手段に相当している。
システムが起動されなかったことによって、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。これに対して、システムが起動されたこと、すなわち発進用のギヤ対21を介して出力軸18にトルクが伝達される状態での運転が想定されることが検出されたことによって、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、予め、スタートギヤ用シンクロがONにされる。すなわち第1シンクロ23が図1の左側に移動させられ、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結される。
したがって、このステップS12での制御における機能的手段は、この発明における第1の伝動機構(発進用のギヤ対21)を介して出力部材(出力軸18)にトルクが伝達される状態での運転が想定されることが検出された場合に、第1の伝動機構(発進用のギヤ対21)を流体圧モータ(すなわち第1ポンプモータ12)の出力軸(すなわちモータ軸9)と出力部材(出力軸18)との間でトルク伝達可能な状態に設定する手段に相当している。
ついで、運転者により、例えばシフトレバー(図示せず)の切り換え操作などのシフト操作が行われて、変速機のシフトポジションが選択されると(ステップS13)、そのシフトポジションが、車両を前進方向に発進させる前進シフト(例えばドライブ(D)レンジ、1st(第1速)レンジ)であるか否かが判断される(ステップS14)。
選択されたシフトポジションが前進シフトであることによって、このステップS14で肯定的に判断された場合は、ステップS15へ進み、1st用シンクロがONされる。すなわち第2シンクロ24が図1の「右側」に移動させられ、第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結され、発進段が設定される。そしてその後このルーチンを一旦終了する。
一方、選択されたシフトポジションが前進シフトではないことによって、ステップS14で否定的に判断された場合には、ステップS16へ進み、選択されたシフトポジションが車両を後進方向に発進させる後進シフト(例えばリバース(R)レンジ)であるか否かが判断される。
選択されたシフトポジションが後進シフトではないことによって、このステップS16で否定的に判断された場合は、前述のステップS13へ戻り、以降の制御が同様に実行される。これに対して、選択されたシフトポジションが後進シフトであることによって、ステップS16で肯定的に判断された場合には、ステップS17へ進み、リバース用シンクロがONされる。すなわち第2シンクロ24が図1の「左側」に移動させられ、後進駆動ギヤ22Aが第2中間軸10に連結され、後進段が設定される。そしてその後このルーチンを一旦終了する。
このように制御することにより、システムが起動された直後に、予め第1シンクロ23を図1の左側に移動させて、発進用のギヤを設定しておき、運転者のシフト操作に応じて、第2シンクロ24が図1の「右側」・「左側」に切り換えて移動される。そのため、例えば車両を車庫に入れて駐車する際にDレンジとRレンジとを交互に繰り返して切り換えられるいわゆるガレージシフトの際に、同時に複数のシンクロナイザーを作動させることがなくなり、第2シンクロ24だけを制御すればよく、ガレージシフト時の制御を簡素化し、その場合の応答性を向上することができる。また、同時に複数のシンクロナイザーを制御する必要がなくなることにより、例えばシフトアクチュエータなどにかかる負荷を低減し、そのアクチュエータを小型・軽量化することができ、ひいては変速機の小型・軽量化を図ることができる。
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、各伝動機構は、歯車による機構以外に、例えばローラーチェーンとスプロケットホイールとによるローラーチェーン伝動装置、あるいはベルトとプーリとによるベルト伝動装置などの巻き掛け伝動機構によって構成してもよい。
また、この発明においては、差動機構に相当する各遊星歯車機構3,4は、シングルピニオン型遊星歯車機構に替えて例えばダブルピニオン型遊星歯車機構によって構成することもでき、あるいは更に他の構成の差動歯車機構によって構成することもできる。また、出力部材との間に設けられる伝動機構は、適宜の変速比を設定することができればよいのであって、全体としての固定変速比の数は、二速以外に、これより少なくてもよく、あるいは反対に二速以上であってもよく、さらには変速比が連続的に変化する伝動機構であってもよい。さらに、動力源は一方の差動機構に直接連結する替わりに、前述したカウンタギヤ対のアイドルギヤに連結してもよい。
1…動力源、 2…入力部材、 3,4…遊星歯車機構、 8…第1中間軸、 9…モータ軸、 10…第2中間軸、 11…ポンプ軸、 12…第1ポンプモータ、 13…第2ポンプモータ、 18…出力軸、 19…第2速用ギヤ対、 20…第1速用ギヤ対、 21…発進用ギヤ対、 22…後進用ギヤ対、 23,24,25…同期連結機構(シンクロ)。