JP4424769B2 - 電子透かしの埋め込み装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電子透かし技術に関し、特に、画像などのデータに透かし情報を埋め込む技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、デジタル化された画像や音楽などの著作物に、著作権情報を埋め込む電子透かしの技術が種々提案されている。デジタル化されたデータは容易に完全な形式で複製できる(すなわち、忠実な再現性を有している)という特徴があるため、無許可の複製に対する保護対策が必要とされるからである。電子透かしは、人間が知覚できない形式で、著作権情報などの透かし情報を、データの中に電子的に埋め込まれ、必要に応じてこれを取り出すことで、著作権の存在を第三者に対して明確にしようとする技術である。電子透かしには、通常、著作者を特定できる情報が含まれるので、電子透かしが埋め込まれたデータを署名済みのデータと呼ぶことがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の電子透かし技術では、類似の方式で別の情報を上書きすると、もとの透かし情報を正しく取り出すことができなくなるという問題があった。署名済みのデータに対して、埋め込まれた電子透かしを無効にしようとする改竄を、電子透かしに対する上書き攻撃と呼ぶことがある。署名済みのデータが、上書き攻撃を受け、埋め込まれた正規の電子透かしが読みとれなくなると、電子透かしとしての意義は失われてしまう。更に、上書き攻撃を行なったものの透かしのみが残ることになれば、署名の意義自体がなくなってしまう。
【0004】
また、電子データの配信や保管に際し、その電子データを圧縮することが一般的に行なわれている。しかし、従来の電子透かし技術技術では、このデータ圧縮処理によって電子透かしのデータが変質もしくは消失することがあり、実用性に乏しいという問題があった。
【0005】
この発明は、従来技術における上述の課題を解決するためになされたものであり、公開した電子データに対して上書き攻撃やデータ圧縮処理を受けても正規の電子透かしの保存性が高く、かつ第三者に対して、電子透かしの秘匿性を高めた埋め込み方法およびこれに関する技術を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の透かし情報を原データに埋め込む装置は、
原データを、主として低周波成分に対応した領域を特定可能なデータに変換するデータ変換手段と、
該変換されたデータのうち、前記主として低周波成分に対応した領域に対応するデータを離散フーリエ変換する変換手段と、
該離散フーリエ変換により得られた実数部および虚数部のうち虚数部に、透かし情報として予め定めた位相差パターンに対応した微小変化分を付加する位相差パターン付加手段と、
前記実数部と前記微小変化分が付加された前記虚数部とからなるデータをフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段と、
該フーリエ逆変換された後に、該フーリエ逆変換されたデータに対して、他の領域のデータと共に前記データ変換手段が行なったデータ変換の逆変換を施すことより透かし情報を埋め込んだデータを生成する逆変換手段と
を備えることを要旨とする。
【0008】
この技術は、原データを周波数領域に離散的にフーリエ変換したとき、スペクトルの実数部または虚数部の一部を増減すると、位相に変化を招く性質があることを利用している。したがって、原データの離散フーリエ変換により得られた実数部または虚数部に、位相差パターンに対応する微小変化を付加し、これを逆変換することにより埋め込まれた透かし情報は、原画像データと比較することにより、この位相差パターンを取り出すことができ、埋め込まれた透かしを位相差パターンとして直感的に把握することができる。しかも、電子透かしが埋め込まれていない原データが特定されない限りは、位相差パターンは、例え上書き攻撃を受けたとしては、取り出すことが可能である。
【0009】
こうした位相差パターンの書込は、離散フーリエ変換により得られる実数部あるいは虚数部の特定周波数(m,n)のスペクトルF(m,n)に微小な変化分ΔFを付加することにより、容易に実現することができる。
【0010】
実数部または虚数部に微小な変化分を付加する場合、これら実数部または虚数部の対称性を保存して、微小な変化分ΔFの付加を行なうことが好ましい。離散フーリエ変換では、実数部は偶対称性、虚数部は奇対称性を持つから、これらの点を考慮して微小な変化分を加えることにより、原データが本来持っていた性質を保存することができる。
【0011】
電子透かしとして付加する微小変化分は、原データに影響を与えることは免れないから、付加されるスペクトルの2ないし10パーセントの大きさに留めることが、原データの品質を低下させないという点で有用である。
【0012】
また、微小変化分を実数部または虚数部に付加する際には、その低周波領域内の成分に対して操作を行なうことが望ましい。高周波成分に付加すると、JPEGなどのデータ圧縮により、透かし情報が失われることが考えられるからである。低周波領域に付加しおけば、データ圧縮により、電子透かしとしての位相差パターンが失われることはない。なお、圧縮時にデータを保存しデータの伸張により元の情報を完全に回復可能ないわゆる可逆的な圧縮方法だけを考慮するのであれば、高周波領域に、上記の位相パターンを付加することも何ら差し支えない。
【0013】
上記の手法で電子透かしを埋め込んだデータ、即ち署名済みデータが存在する場合に、この署名済みデータから、透かし情報を検出する方法の発明は、
前記原データと前記署名済みデータとの差分を位相差パターンとして取り出し、
該位相差パターンを前記署名済みのデータの電子透かしとして検出すること
を要旨とする。
【0014】
かかる電子透かしの検出方法は、極めて簡便な手法であるが、原データを非公開にしておけば、電子透かしを検出し得るのは、原データの正当な所有者に限られ、有効である。原データなしで、埋め込まれた微小変化分を推定することは極めて困難である。
【0015】
圧縮などにより電子透かしが失われないよう微小変化分を付加する方法として、原データの離散フーリエ変換に先立って予め原データから、主として低周波成分に対応したデータを得る画像変換を施し、その結果に対して離散フーリエ変換を行ない、該変換により得られた実数部または虚数部に透かし情報として予め定めた位相差パターンに対応した微小変化分を付加しても良い。この場合、微小変化分を付加した後、フーリエ逆変換を行ない、更に上記のデータ変換の逆変換を施せばよい。このデータ圧縮と離散フーリエ変換との組み合わせによれば、電子透かしが低周波領域に確実に埋め込まれるため、上書き攻撃に強い離散フーリエ変換による位相透かしの埋め込み方法の効果を維持しつつ、高圧縮処理に対してもその透かしデータが変質もしくは消失しない相乗的効果が発揮される。このデータ変換およびデータ逆変換としては、例えばウェーブレット変換およびウェーブレット逆変換を用いることが、透かし情報の埋め込みと復元の手続きが簡便となり好適である。なお、ウェブレット変換には、様々な手法が知られており、いずれの変換手法も採用可能であるが、代表的なものを挙げれば、ハール基底を用いる直交ウェブレット変換等がある。ウェブレット変換以外の他のデータ変換およびデータ逆変換であっても、主として低周波成分に対応したデータを得ることができる変換アルゴリズムであれば、採用可能である。
【0016】
上記の手法で透かし情報が埋め込まれた署名済みデータが存在する場合に、この透かし情報を検出する方法の発明は、
前記原データを前記工程a0により変換し、
前記署名済みデータを前記工程a0により変換し、
両変換されたデータの差分を位相差パターンとして取り出し、
該位相差パターンを前記署名済みデータの電子透かしとして検出すること
を要旨としている。
【0017】
かかる電子透かしの検出方法は、極めて簡便な手法であるが、原データを非公開にしておけば、電子透かしを検出し得るのは、原データの正当な所有者に限られ、有効である。原データなしで、埋め込まれた微小変化分を推定することは極めて困難である。更に、主として低周波成分からなる領域が存在する変換方法自体を秘匿しておけば、二重に安全である。
【0018】
こうした電子透かしの埋め込みの技術は、様々なデータに対して適用可能である。例えば、原データを二次元的な画像データとすることができる。この場合、上記の手法により埋め込まれた位相差パターンは、画像上視認することはできず、画質の低下を招くことはほとんどない。その他、音声などの一次元データにも適用可能である。
【0019】
なお、上記の埋め込み方法や埋め込み装置は、汎用もしくは専用のコンピュータに、ICカードやフレキシブルディスクあるいはCD−ROMなどの記憶媒体を読み取られ、この記憶媒体に記憶されたプログラムを実行するという形態で実現することができる。
【0020】
したがって、本発明の記憶媒体は、
透かし情報を原データに埋め込むプログラムをコンピュータにより読み取り可能に記憶した記憶媒体であって、
原データを入力する機能と、
該入力した原データを離散フーリエ変換する機能と、
該フーリエ変換により得られた実数部または虚数部に、透かし情報として予め定めた位相差パターンに対応した微小変化分を付加する機能と、
該微小変化分を付加したデータを逆変換したデータを出力する機能と
をコンピュータにより実現可能に記憶したことを要旨とする。
【0021】
また、高圧縮処理と離散フーリエ変換との組み合わせによる電子透かしの埋め込み方法をコンピュータなどに実現させる記憶媒体は、
透かし情報を原データに埋め込むプログラムをコンピュータにより読み取り可能に記憶した記憶媒体であって、
原データを入力する機能と、
該入力した原データを、主として低周波成分に対応した領域を特定可能なデータに変換する機能と、
該変換されたデータのうち、前記領域に対応するデータを離散フーリエ変換する機能と、
該フーリエ変換により得られた実数部または虚数部に、透かし情報として予め定めた位相差パターンに対応した微小変化分を付加する機能と、
該微小変化分を付加したデータをフーリエ逆変換する機能と、
該フーリエ逆変換されたデータを他の領域のデータと共に、前記変換の逆変換することにより透かし情報を埋め込んだデータを生成する機能と
をコンピュータにより実現可能に記憶したことを要旨とする。
【0022】
なお、離散フーリエ変換やデータ圧縮自体は、コンピュータ側がライブラリの形で保有していると考えられるから、上記の各機能のうち、原データを離散フーリエ変換する機能は「入力した原データを、離散フーリエ変換する機能を利用して変換結果としての実数部および虚数部を受け取る機能」として、データ変換機能は「入力した原データを、主として低周波成分に対応した領域を特定可能なデータに変換する機能を利用してその変換結果を受け取る機能」として、実現することも可能である。
【0023】
ところで、電子透かしが埋め込まれた原データに対する上書き攻撃がなされる場合、異なる手法による電子透かしの上書きは、これを弁別することが容易である。最も問題になるのは、同じ手法による上書き攻撃である。かかる場合、即ち原データP0に位相差パターンW1の透かし情報を正規に埋め込んだ正規データP1に対して請求項1記載の方法により、複数回他の位相差パターンWi(i=2,3・・・)を透かし情報として埋め込んだデータPiが存在する場合に、原データP0に埋め込まれた透かし情報である位相差パターンW1を証明する方法が存在すれば、上書き攻撃に対する耐性が高いと言える。そこで、上記の発明に関連して、電子透かし情報である位相差パターンW1を証明する以下の発明がなされた。即ち、この証明方法の発明は、
(d)原データP0と複数回他の位相差パターンが埋め込まれたデータPiとの差分を取り出す工程と、
(e)正規データP1と複数回他の位相差パターンが埋め込まれたデータPiとの差分を取り出す工程と、
(f)前記正規の位相差パターンW1を、前記(d)および(e)の工程により取り出された差分の差分として抽出する工程と
を備えたことを要旨とする。
【0024】
また、原データP0を、主として低周波成分からなる領域を特定可能なデータに変換した後、該領域に位相差パターンW1の透かし情報を正規に埋め込んだ正規データQ1に対して、同様の手法により、複数回他の位相差パターンWi(i=2,3・・・)を透かし情報として埋め込んだデータQiが存在する場合に、原データQ0に埋め込まれた透かし情報である位相差パターンW1を証明する方法の発明は、つぎの工程からなる。即ち、
(g)原データQ0と複数回他の位相差パターンが埋め込まれたデータQiとの差分を取り出す工程と、
(h)正規データQ1と複数回他の位相差パターンが埋め込まれたデータQiとの差分を取り出す工程と、
(i)前記正規の位相差パターンW1を、前記(g)および(h)の工程により取り出された差分の差分として抽出する工程と
を備えたことを要旨とする。
【0025】
これらの手法によれば、複数回の上書き攻撃がなされた場合でも、原データに正規に埋め込まれた位相差パターンを抽出することができ、いずれのデータが正規のデータであるかを容易に証明することができる。
【0026】
【発明の他の態様】
この発明は、以下のような他の態様も含んでいる。第1の態様は、フーリエ変換に変えて、これに等価な変換を用いる態様である。周波数領域への変換により実数部と虚数部を持つような変換であれば、同様に適用することができる。第2の態様は、コンピュータに上記の発明の各工程または各部の機能を実現させるコンピュータプログラムを通信経路を介して供給するプログラム供給装置としての態様である。こうした態様では、プログラムをネットワーク上のサーバなどに置き、通信経路を介して、必要なプログラムをコンピュータにダウンロードし、これを実行することで、上記の方法や装置を実現することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
A.装置の全体構成:
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施例としての電子透かし処理装置の構成を示すブロック図である。この電子透かし処理装置は、CPU22と、ROMおよびRAMを含むメインメモリ24と、フレームメモリ26と、キーボード30と、マウス32と、表示装置34と、ハードディスク36と、モデム38と、画像を読み取るスキャナ39と、これらの各要素を接続するバス40と、を備えるコンピュータである。なお、図1では各種のインターフェイス回路は省略されている。モデム38は、図示しない通信回線を介してコンピュータネットワークに接続されている。コンピュータネットワークの図示しないサーバは、通信回線を介してコンピュータプログラムを画像処理装置に供給するプログラム供給装置としての機能を有する。
【0028】
メインメモリ24には、電子透かし埋め込み部42の機能を実現するためのコンピュータプログラムが格納されている。電子透かし埋め込み部42の機能については後述する。
【0029】
この電子透かし埋め込み部42の機能を実現するコンピュータプログラムは、フレキシブルディスクやCD−ROM等の、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で提供される。コンピュータは、その記録媒体からコンピュータプログラムを読み取って内部記憶装置または外部記憶装置に転送する。あるいは、通信経路を介してコンピュータにコンピュータプログラムを供給するようにしてもよい。コンピュータプログラムの機能を実現する時には、内部記憶装置に格納されたコンピュータプログラムがコンピュータのマイクロプロセッサによって実行される。また、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをコンピュータが読み取って直接実行するようにしてもよい。
【0030】
この明細書において、コンピュータとは、ハードウェア装置とオペレーションシステムとを含む概念であり、オペレーションシステムの制御の下で動作するハードウェア装置を意味している。また、オペレーションシステムが不要でアプリケーションプログラム単独でハードウェア装置を動作させるような場合には、そのハードウェア装置自体がコンピュータに相当する。ハードウェア装置は、CPU等のマイクロプロセッサと、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを読み取るための手段とを少なくとも備えている。コンピュータプログラムは、このようなコンピュータに、上述の各手段の機能を実現させるプログラムコードを含んでいる。なお、上述の機能の一部は、アプリケーションプログラムでなく、オペレーションシステムによって実現されていても良い。
【0031】
なお、この発明における「記録媒体」としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等の、コンピュータが読取り可能な種々の媒体を利用することができる。
【0032】
実施例1
B.透かし情報の埋め込み処理1:
図2は、離散フーリエ変換の実数部または虚数部の位相を制御することで透かし情報を埋め込む電子透かし埋め込み部42の機能を示すブロック図である。電子透かし埋め込み部42は、離散フーリエ変換部50と、微小変化分付加部52と、フーリエ逆変換部54とからなる。これらは、各々、変換手段、位相差パターン付加手段、フーリエ逆変換手段に相当する。
【0033】
各部の機能を簡単に説明する。フーリエ変換部50は、スキャナ39により読み取った画像データに対して離散フーリエ変換を行なう。横方向M画素,縦方向N画素からなる画像Pの離散フーリエ変換Fは、画像P0の画素値をp(m,n)で表わすと、次式(1)により表わすことができる。なお、m=0,1,・・・M−1、n=0,1,・・・N−1である。
【0034】
【数1】
【0035】
上記離散フーリエ変換により得られた行列(フーリエスペクトル)Fは、画像P0の空間周波数成分を表わしている。ここで、オイラーの公式から
exp(−jθ)=cosθ±jsinθ
であることから、上記行列Fの実数部FR(u,v)は偶対称性を有し、虚数部FI(u,v)は奇対称性を有する。そこで、u=0,1,2・・・・M−1、v=0,1,2・・・N−1であることを利用して、F(±u,±v)について検討すると、次式(2)の関係が存在することになる。
【0036】
【数2】
【0037】
上記行列の周期性に着目して、更に拡張すれば、
F(aM+u,bN+v)=F(u,v)
が成立していることは容易に理解されよう。なお、a,bは、いずれも整数である。
【0038】
微小変化分付加部52は、離散フーリエ変換部50により得られた上記行列Fに、位相差パターンを電子透かしとして埋め込む。位相差パターンの埋め込みの実際については、後述するが、上記のフーリエ変換により得られた行列の対称性を保存するように、行列の所定のスペクトルに微小な偏差を加えている。
【0039】
フーリエ逆変換部54は、電子透かしとしての位相差パターンが埋め込まれたデータに対して、フーリエ変換部50が行なった離散フーリエ変換の逆変換を行なう。この逆変換は、式(1)に対応した記載に従えば、次式(3)として表わすことができる。
【0040】
【数3】
【0041】
ここで、逆変換された画素値p(m,n)も、上述した対称性を有しており、
p(aM+m,bN+n)=p(m,n)
となっている。
【0042】
次に、図3のフローチャートを参照しつつ、微小変化分付加部52での処理を中心に、本実施例における電子透かしの埋め込み手法について説明する。図3は、CPU22が実行する電子透かし埋め込み処理ルーチンを示すフローチャートである。画像に電子透かしを埋め込む場合には、まず、画像P0の読み込みを行なう(ステップS100)。この処理は、既述したように、スキャナ39を駆動して写真などから直接画像データを読み取るものであってもよいし、予め用意した画像ファイルを読み込むものであっても良い。画像ファイルは、例えばCD−ROMなどにより提供されるものでもよいし、モデム38を介して通信により読み込むものであっても良い。図4(A)に、読み込んだ画像P0の一例を示す。この画像P0は、256×256画素からなり、各画素毎に256階調(8ビット)の階調値を持っている画像である。
【0043】
こうして読み込んだ画像データに対して、離散フーリエ変換を行なう(ステップS110)。この離散フーリエ変換は、上述した通りのものであって、離散フーリエ変換部50による上記の演算処理として実現される。なお、離散フーリエ変換部50は、専用のプロセッサにより実現しても良いし、CPU22による演算により実現しても良い。離散フーリエ変換(DFT)を行なう処理はライブラリ化されており、周知のものなので、ここでは説明を省略する。
【0044】
離散フーリエ変換により、行列F(u,v)が得られる。得られた行列Fの一部を図5に示した。図5では、便宜的に、要素u,v=0,1,2,3およびu,v=253,254,255の部分のみを示している。図5(A)は実数部FRの係数を、(B)は虚数部FIの係数を、各々示している。なお、上述した対称性から関連ある箇所を把握し易くするため、図5(A)(B)では、要素0,0を中心にして示している。この行列Fに対して、次に微小変化分の付加を行なう(ステップS120)。その後、微小変化分が付加された行列Fを、逆変換し(ステップS130)、これを電子透かしが埋め込まれた画像データとして出力する(ステップS140)。電子透かしが埋め込まれた後の画像P1を、図4(B)に示した。
【0045】
微小変化分を付加する処理(ステップS120)は、図6にその詳細を示すが、次のように行なわれる。微小変化分ΔFの付加は、実数部FRまたは虚数部FIに対して行なうことができる。以下の説明では、虚数部FIに付加する場合を取り上げるが、実数部FRに付加することも、対称性の違いに留意すれば、同様に可能である。まず、微小変化分ΔFを付加する要素を特定する処理を行なう(ステップS122)。微小変化分ΔFの付加は、高周波領域に付加するか、あるいは付加する変化分の大きさが小さければ、逆変換により得られる画像上でこれを視認することは困難になる。しかし、高周波領域に付加した場合、データ圧縮により、失われる可能性が生じる。そこで、ここでは、圧縮に対する耐性を高めるために、加える成分の大きさを所定値以下に押さえるものとして、低周波領域に微小変化分ΔFを加えることにしている。そこで、本実施例では、微小変化分ΔFを加える領域を低周波領域内で特定している。この実施例では、FI(0,2)およびFI(2,0)に、微小変化分ΔFを加えるものとして、要素を特定している。なお、上述した行列Fの対称性を示す式(2)に従い、微小変化分ΔFを減算する要素として、FI(0,254)およびFI(254,0)もまた特定する。後述するように、どの要素にどの程度の微小変化分ΔFを加えるかにより、電子透かしとしての位相差パターンの形態は異なるから、どの要素に微小変化分を加えるかということ自体が電子透かしを埋め込むこと(署名)に直結している。したがって、この実施例では、微小変化分ΔFを付加する要素を固定したり、微小変化分ΔFの大きさを固定するといった構成とはしていないのである。
【0046】
次に、加える微小変化分ΔFの大きさを特定する処理を行なう(ステップS124)。上述したように、微小変化分ΔFの大きさは、電子透かしが埋め込まれた画像の画質に影響を与えるので、その大きさは制限される。したがって、付加しようとする要素の大きさの2ないし10パーセント程度となるように、この実施例では調整している。ここで、約5パーセントとなるよう特定している。
【0047】
次に、ステップS122で特定した要素に、ステップS124で特定した大きさの微小変化分ΔFを付加する処理を行なう(ステップS126)。この実施例では、要素FI(0,2)、FI(2,0)に、微小変化分ΔFとして、
ΔF=1.0×104
を加算し、要素FI(0,254)およびFI(254,0)から同じ値ΔFを減算した。
【0048】
以上で微小変化分付加処理を完了し、図3に示したフーリエ逆変換処理を実行することになる。こうして得られた変換済みの画像P1(図4(B)参照)は、次の数式(4)により表わされる。
【0049】
【数4】
【0050】
上記の処理が施された画像P1は、その空間周波数における虚数成分のみを変化させているので、位相のみが変化していることになる。即ち、得られた画像P1は、もとの画像P0に対して、付加した微小変化分ΔFに対応する位相成分Δθだけ変化した画像となっている。そこで、二つの画像の画素値pの差分を求めると、これが位相差W01となる。位相差W01は、次式(5)として定義される。
【0051】
【数5】
【0052】
この式(5)における位相差W01の絶対値|W01|を求め、これを図示すると、本実施例では、図4(C)に示すパターンが得られる。このパターンを、位相差パターンと呼ぶ。この位相差パターンW01は、微小変化分を加える要素の座標値(u,v)や、付加する変化分ΔFの大きさにより、様々な模様を採り得る。したがって、この位相差パターン|W01|は、電子透かしとして扱うことが可能である。即ち、
(1)微小変化分ΔFを付加する要素の選択
(2)要素に付加される微小変化分ΔFの大きさ
の組み合わせを変えることにより、ほぼ無数の位相差パターンのバリエーションを生み出すことができ、電子署名として使用することができるのである。なお、署名として用いられた位相差パターンは、図4(C)に示したように、二次元的な繰り返しを含む特徴的な形状をしており、図形的なパターンとして人間にとって把握しやすいという利点を有する。また、この電子透かしを埋め込む画像の原画像P0は、公開せず秘匿しておく。
【0053】
以上本発明の一実施例としての電子透かしの埋め込み装置および埋め込み方法について説明したが、埋め込まれたデータが電子透かしとして機能するためには、いくつかの条件が必要となる。この条件の一つがデータ圧縮などにより発生するノイズに対する耐性であることは既に述べた。本実施例の埋め込み方法によれば、微小変化分ΔFは低周波領域に付加されているので、高周波領域の情報を削除するタイプの圧縮に対して高い耐性を発揮することも説明したが、これらの耐ノイズ性という点について、いくつかの実例を挙げて説明する。
【0054】
まず、データ圧縮の場合について検討する。原画像P0に対して上述した手法により電子透かしを埋め込んだ。即ち、原画像P0のフーリエスペクトルに対して位相差パターンW01に対応した微小変化分ΔFを付加し、これを逆変換して画像P1を得た。次に、この画像P1をJPEG方式で75パーセントに圧縮した。圧縮により、元の画像の情報の一部が失われ、ノイズが発生する。図7にこの一例を示す。図7に示した例では、画像P1に埋め込まれている位相差パターン|W01|(図7(A)参照)に対して、圧縮後の画像P1′から抽出された位相差パターン|W01′|は、図7(B)のようになり、かなりのノイズが重畳されることが理解される。しかし、この場合でも、位相差パターンの形態自体は崩れておらず、これを署名として利用することができる。
【0055】
次に、下位ビットプレーンの削除に対して、本実施例の電子透かしがどの程度の耐性を持っているかを示す。図8(A)は、原画像P0に埋め込まれる位相差パターンをしめす。署名された画像P1において、その下位ビットプレーン0から2までのデータを削除し、替わりに0で埋める処理を行なった。この結果得られた画像P1′を、図8(B)に示した。下位ビットプレーン0ないし2を、0で埋めたことによりノイズが生じるが、この画像P1′と原画像P0との差分として抽出される位相差パターン|W01′|は、図8(C)に示すように、埋め込んだ位相差パターンの特徴を残しており、電子透かしとして機能する。
【0056】
更に、位相差パターンを電子透かしとして埋め込んだ画像に、−40dBから+40dBのホワイトノイズを加えた場合についても検討した。図9(A)に示す位相差パターン|W01|を埋め込んだ後、上記のホワイトノイズが付加された画像を図9(B)に示した。この画像P1′と原画像P0との差分として抽出される位相差パターン|W01′|は、図9(C)に示すように、埋め込んだ位相差パターンの特徴を良く残している。したがって、こうしたホワイトノイズが重畳した場合でも、本実施例による電子透かしは十分に機能することが了解される。
【0057】
以上、本実施例の電子透かしが、種々のノイズに対して耐性が高いことを示したが、電子透かしに要求されるもう一つの条件は、正規の権限を有するものだけが透かしを取り出すことができ、また不正な手法でこの透かし情報を消去したり改竄したりできないことである。この点について以下説明する。
【0058】
本実施例では電子透かしを埋め込んだ画像P1は、公開するが、原画像P0は、公開しない。とすると、電子透かしが埋め込まれた画像P1から、権限なき者が透かし情報を読み取ることができないことがまず必要とされる。電子透かしが埋め込まれた画像P1は、原画像P0とそのフーリエスペクトルに加えた微小変化分ΔFのみから作り出されている。したがって、原画像P0が秘匿されていれば、署名済みの画像P1から、第三者が署名に相当する位相差パターン|W01|を取り出すことはできない。
【0059】
しかも、署名済みの画像P1をフーリエ変換してフーリエスペクトルを得たとしても、微小変化分ΔFの大きさおよびこれが付加された要素F(u,v)を特定することもできない。位相差パターン|W01|を分離するために必要な微小変化分ΔFの大きさは要素の値に対して数パーセントで足りるから、フーリエスペクトルを見ても際だって目立つことはない。したがって、本実施例のように、5パーセント程度変化させられている要素の値から、いずれかの要素に加えた微小変化分を推定することはできない。
【0060】
次に、この電子透かしに対して上書きがなされた場合について検討する。電子透かしに対する上書きには、様々な手法が考えられるが、最も影響が大きいものの一つは、同じアルゴリズムを用いた上書きである。上述した署名済みの画像P1から、微小変化分ΔFの大きさやこれが付加された要素F(u,v)を判読または推定することはできないから、全く同じ条件で微小変化分が付加されることはあり得ないと考える。しかし、この位相差パターンの考え方を理解している者が、同じアルゴリズムを用いた上書き攻撃を試みる可能性は存在する。そこで署名済みの画像P1に対して1回以上の上書き攻撃がなされた場合を考える。このとき、i番目の攻撃を行なった者(以下、i番目の偽造者と呼ぶ)は、入手した画像Pi-1 を原画像であると考えてこれに位相差パターンを埋め込み、得られた画像Piを公開して署名済みの画像であると主張する。この場合i番目の偽造者は、両画像の差
Wi-1,i =Pi-1 −Pi (i=2,3,・・・)
をもって正規の透かしパターンであると主張することになる。
【0061】
このとき、画像P0の正当な所有者(正規の署名者)は、自己が公開した画像P1と、i番目の偽造者が公開した画像Piとを用いて、容易に、
W0i=P0−Pi
W1i=P1−Pi
を作成することができる。こうして得られた位相差W0i,W1iの更に差分を求めると、
ΔW=W0i−W1i=P0−Pi−(P1−Pi)=P0−P1=W01
となり、画像P0の正当な所有者は、偽造されて公開された画像Piから、直ちに自己の署名W01を取り出すことができる。これは、公開した画像P1に、多重に上書き攻撃を加えても、画像Piには、依然として、正規の署名が保存されていることを意味している。
【0062】
この関係をi=2のケースについて例示したのが、図10(a)ないし(g)である。図10(a)に示した原画像P0に対して正規の署名として図10(d)の位相差パターン|W01|を加える処理S1がなされ、この処理により得られた画像P1(図10(b))に、偽造者により他の位相差パターンを加える処理S2がなされて、図10(c)に示す画像P2が公開されたとする。この場合、公開された画像P2と原画像P0とから図10(e)に示した位相パターン|W02|を得ることができる。同様に、正規の所有者が公開した画像P1と原画像P0とから図10(f)に示した位相差パターン|W12|を得ることもできる。両者の差分を求めると、図10(g)に示す位相差パターンを得ることができる。これは、正規の所有者が原画像に与えた署名と一致している。この例では、i=2としたので、偽造者が加えた位相差パターンW12自体が求められているが、i=3以上の場合のように、偽造者が加えた位相差パターン自体は未知であって差し支えない。本発明の署名によれば、偽造者が加えた位相差パターンが不明であっても、正規の所有者が埋め込んだ位相差パターンを、複数回の上書き攻撃がなされた画像から取り出すことができるのである。
【0063】
以上説明したように、本実施例の電子透かしの埋め込み方法により埋め込んだ電子透かしは、データ圧縮に対してもまた複数回の上書き攻撃に対しても、十分な耐性を有する。なお、図7ないし図9を用いて説明したノイズやデータ圧縮と上記の上書き攻撃とが重複した場合でも、原画像P0に加えた位相差パターンは保存され、電子透かしとして用いることができる。
【0064】
実施例2
C.透かし情報の埋め込み処理2:
図11は、電子透かし埋め込み部42の他の実施例である機能ブロック図である。この実施例における電子透かし埋め込み部42は、データ圧縮処理とフーリエ変換の実数部または虚数部の位相を制御する処理とを組み合わせることで、透かし情報を埋め込む。従って、データ圧縮関連の処理を除いては前述の実施例1と同様であるため、以下は本実施例に特徴的な部分について説明する。
【0065】
電子透かし埋め込み部42は、データ圧縮処理部60と、実施例1と同じ離散フーリエ変換部62,微小変化分付加部64,フーリエ逆変換部66と、データ逆圧縮(伸長)処理部68とからなる。このデータ圧縮処理部60がデータ変換手段に、データ逆圧縮(伸長)処理部68が逆変換手段に相当する。
【0066】
本実施例に特有の機能を簡単に説明する。データ圧縮処理部60は、スキャナ39により読み取った画像データに対してウェーブレット変換(WaveletTransform)を行なう。このウェーブレット変換の詳細は「ウェーブレットビギナーズガイド」(東京電機大学出版局 1995)に詳しい。本実施例では、その中でも最も簡単なハール(Haar)基底を用いる直交ウェーブレット変換について述べる。
【0067】
図12(a)に示す2×2画素の領域に対して次式(6)の変換を定義する。
【0068】
【数6】
【0069】
その結果を同図(b)に示す。この演算規則を与えられた画像の全域に対して図13に示す手順で逐次1/2×1/2の領域に適用する方法をハールウェーブレット変換と呼んでいる。この分割はLLn部分が1×1要素になるまでn回再帰的に繰り返すことが可能である。また、原画像が縦横半分に分割されたとき、第1階層におけるLL1は直流成分、LH1は横方向の差分、HL1は縦方向の差分、HH1は斜め方向の差分情報をそれぞれ表現している。また、LLは多重解像度近似(MRA成分と呼ぶ)、LH,HH,HLは多重解像度表現(MRR成分と呼ぶ)を表している。すなわち、LL部分が画像の内容を表す低周波成分をもっており、他の部分は画像の高周波成分を示している。
【0070】
一方、一般に行なわれているデータ圧縮技術においては、画像のもつ高周波成分を削除するアルゴリズムが主流である。従って、画像の高周波領域に透かし情報を埋め込むと、この画像を圧縮する際、透かし情報が失われてしまう可能性がある。
【0071】
そこで、実施例1にて説明したフーリエ変換に先立って原画像データをウェーブレット変換し、原画像の輝度情報を豊富に保有している多重解像度近似(MRA)成分にフーリエ変換を施し、位相差パターンによる透かし情報を埋め込むのである。この処理方法によれば、フーリエ変換による位相差パターンの埋め込み単独では弱いデータ圧縮処理への耐性が強化され、ウェーブレット変換単独では防ぐことができない上書き攻撃を容易に識別することができるという優れた相乗効果を発揮する。
【0072】
こうしたデータ圧縮処理部60による処理の後に、実施例1と同じ離散フーリエ変換部62,微小変化分付加部64,フーリエ逆変換部66による処理を行なって位相差データを埋め込み、最後にウェーブレット逆変換を行なうデータ逆圧縮(伸長)処理部68によって電子透かし埋め込み済みの画像データを得るのである。
【0073】
以下、図14のフローチャートを参照しつつ、本実施例における電子透かしの埋め込み手法について説明する。図14は、CPU22が実行する電子透かし埋め込み処理ルーチンを示すフローチャートである。画像に電子透かしを埋め込む場合には、まず、画像P0の読み込みを行ない(ステップS200)、読み込んだ画像データに対して、ウェーブレット変換を行なう(ステップS210)。図15は、前述した実施例同様に図4(A)の画像データP0を原画像とし、第2階層へと分解したときの画像データを示している。破線で囲った領域LL2が、MRA成分を示しているが、上述した式(6)から了解されるように、この領域はダウンサンプリングされた通常のデータと何ら変わるところがなく、主として低周波成分からなる領域である。
【0074】
この領域LL2の画像データに対して離散フーリエ変換を施し(ステップS220)、こうして得られた虚数部FIの座標(0,2)及び(2,0)に注目し、透かし信号S1としてΔFI(0,2)=ΔFI(2,0)=1.0×102 を付加する(ステップS230)。なお、この時には同時に、その対称性を維持するためにΔFI(0,62)およびΔFI(62,2)に、−1.0×102 を加える処理を行なう。
【0075】
この結果をフーリエ逆変換し(ステップS240)、その後、図15に示した全画像に対して、最上位層までウェーブレット逆変換を施し(ステップS250)、最終目的である電子透かし情報が埋め込まれた画像を出力する(ステップS260)。この一連の処理により得られた変換済みの画像Q1(={q1(m,n)|m,n=0,1,2,・・・・,255})は、図16(a)に示すように、微小変化分ΔFIに対応して、位相成分がΔθだけ変化した画像となる。電子透かし情報を付加したことによる原画像P0からの画質の劣化は認められない。また、こうして得られた画像Q1を、高周波成分を削除するいわゆる非可逆的な圧縮方法で圧縮しても、電子透かしは、低周波成分に対応した領域LL2に加えられていることから、失われることがない。
【0076】
こうして付加された電子透かし、即ち位相差パターンは、2つの画像{P0,Q1}間の各画素値の差分、すなわち位相差W01として、第1実施例同様、次のようにして得られる。図15に示す画像LL2に何の処理も施さず、そのまま最上階層までウェーブレット逆変換した画像をQ0(={q0(m,n)|m,n=0,1,2,・・・・,255})で表すと、Q0≒P0であるから、このQ0と変換済みの画像Q1との位相差W01の絶対値|W01|を求めて図示すると、前述の図16(b)の位相差パターンが得られる。これを、電子透かしとして扱うことが可能である。
【0077】
本実施例にあっても、位相差パターンを求めるに当たり原画像P0が必要であるから、この原画像を秘密状態に保管しておけば、第三者は、変換済みの画像Q1のみから、電子透かしの情報を抽出することはできない。また、Q1からΔFI(u,v)を推定することも前記第1実施例同様に困難である。
【0078】
更に、同じアルゴリズムを用いた上書き攻撃についても、同様に十分な耐性を有する。すなわち、i番目の攻撃を行なう者は、入手した画像Qi-1 を原画像であると考えてこれをウェーブレット変換し、同じアルゴリズムを使って透かし信号Siを加え、ウェーブレット逆変換してQiを作成する。そして、この画像Qiを公開し、Wi-1=Qi-1−Qiをもって偽造者iの透かしパターンであると主張する。
【0079】
そこで、画像P0の正当な所有者(正規の署名者)は、自己が公開した画像Q1と、i番目の偽造者が公開した画像Qiとを用いて、容易に、
W0i=Q0−Qi
W1i=Q1−Qi
を作成することができる。そして、画像Q0(≒P0)の所有者は、公開された画像Qiの中に既にW01が埋め込まれていることを次のように証明することができる。すなわち、
W0i−W1i=(Q0−Qi)−(Q1−Qi)=Q0−Q1=W01 (7)
となり、画像Q0の正当な所有者は、偽造されて公開された画像Qiから、直ちに自己の署名W01を取り出すことができるのである。
【0080】
この関係をi=2のケースについて例示したのが、図17(a)ないし(g)である。図17(a)に示した原画像Q0に対する透かし信号S1によってQ1が得られ、画像Q0,Q1から位相差パターン図(d)が生成される。同様な透かし信号S2によってQ1が上書きされても、同図(g)に示すように画像Q2の中に、正当な位相差パターンが保存されていることが直ちに理解される。
【0081】
更に過酷な上書き攻撃として結託攻撃がある。これは、原画像P0の所有者が2人以上の人物に、原画像P0のコピー(但し、埋め込まれた電子透かし情報は異なる)を正当な手段で配布したとき、その受領者が結託して原画像P0を推定することが可能であるか否かという問題である。電子透かしは、配布の形態を考えると、同じ画像に対して、異なる署名を用いなければならない場合が存在する。例えば、一つの画像を二以上のものに正規に配布した後で、不正なコピーが配布された場合は、その流出元を探索するためには、正規に配布された画像には、異なる署名がなされていることが必要になる。複数のコピーを、異なるチャンネルに正規に配布する場合には、異なる署名を付加することが望ましいが、同じアルゴリズムで異なる電子透かしを埋め込んだ2以上の画像が存在すると、原画像を秘密状態に保管しておいても、配布された2以上の画像から、電子透かしを特定し、これを攻撃することが容易となりやすい。
【0082】
この結託攻撃に対する本実施例の電子透かしの耐性について簡略に検討する。議論を簡単にするために、コピー受領者をa,bとし、それぞれに異なる透かし信号を埋め込んだ画像Q1a,Q1bを配布したとする。このとき、Q1a,Q1bのフーリエ変換による周波数スペクトルF1a,F1bの差分を作ると、透かし信号S1a,S1bを知ることができる。従って、仮にS1a≠S1bならば(S1a,S1b)の結果とフーリエスペクトルF1a,F1bから、原画像のフーリエスペクトルF0を推定し、これを逆変換することで原画像P0の近似画像Q0を再構築することができる。この場合、結果的に透かし信号S1を察知することができることになる。そこで、こうした結託攻撃に対処するためには、微小変化分ΔFを、微小変化分ΔFを埋め込んだ後、画像を異なる圧縮率で圧縮して、周波数スペクトルF1a,F1bの分布を歪ませておけばよい。あるいは、付加する微小変化分ΔFの絶対値は異ならせるものの、微小変化分ΔFを加えるフーリエスペクトル上の位置を同一にしておけばよい。後者の例を、図17(h)ないし(j)に示す。図17(h)は、周波数スペクトルF1a,F1b上の同一個所に異なる量の透かし信号S3を埋め込んだときに得られる画像を、同図(i)は透かし信号S3に対する位相差パターンを、各々示している。この例では、同図(j)に示す周波数スペクトルF1a,F1bの差分値|S1a−S1b|は、同じ箇所に累積した値として現われるから、二つのコピー画像にそれぞれ付加した電子透かしに対応したスペクトル値を予想することは実質上まったく困難である。
【0083】
以下、その他の画像処理に対する本実施例の優位性について説明する。図18(a)〜(c)は、電子透かしを埋め込んだ画像Q1を作成するために必要とした微小変化分ΔF1(u,v)の値を変化させたときの出力画像、位相差パターンを、対応づけて示す説明図である。埋め込み情報が大きくなるに従い画質の劣化を招き、画像が乱れるが、埋め込み量がΔF1(u,v)=2.0×102 程度までは出力画像に視覚的な劣化は認められず、必要十分な実用性が認められることが理解されよう。
【0084】
図19は、データ圧縮処理と上書き攻撃についての実験である。図19(a)は、第2実施例の手法により電子署名が埋め込まれた画像Q1の位相差パターン|W01|を示しており、この画像Q1をJPEG方式で75パーセントに圧縮した場合の画像を、同図(b)に示す。この画像Q′1には、非圧縮のQ0(≒P0)との差分に相当するノイズが生じる。このとき、位相差パターンW01は、同図(c)に示したように、W′01=Q0−Q′1に変化する。そして、このQ′1に対して第三者が、同図(d)に示す位相差パターンW′′12(=Q′1−Q′2)を、電子透かしとして埋め込むと、画像の位相差パターンW02は、同図(e)に示すように、W′02に変化する。この場合でも、画像Q1と画像Q2との差分として得られる位相差パターンのW′12(図19(f)参照)を用いて、
W′02−W′12=W′01≒W01 (8)
として元の位相差パターンW01を取り出すことができる。
【0085】
図20は、下位ビットプレーンの削除に対して、第2実施例の電子透かしがどの程度の耐性を持っているかを示す説明図である。同図(a)は、電子透かしとして付加された位相差パターン|W01|を示す。この透かし信号S1を埋め込んだ画像Q1のビットプレーン0から1までのデータを削除し、替わりに0で埋め、最大値が255になるような正規化する処理を行なった。このとき得られた画像Q′1を、同図(b)に示した。下位のビットプレーンを削除すると、この画像Q′1と原画像P0との差分にノイズが発生し、位相差パターンW01は、同図(c)に示す位相差パターンW′01に、変化した。この画像Q′1に対し、第三者が、同図(d)に示す位相差パターンW′′12(=Q′1−Q′2)を、新たな電子透かしとして埋め込んだとき、同図(e)に示した位相差パターンW′02が得られる。この場合でも、同図(f)に示した位相差パターンW′12を用いて、上式(8)で示したように、元の位相差パターンW01とほぼ同じパターンを得ることが可能である。また、削除するビットプレーンを変えて実験を行なった結果、ビットプレーンは0〜3までであれば、削除しても、位相差パターンを復元できた。
【0086】
次に、電子透かしを埋め込んだ画像に種々のノイズを加えた場合の透かしの保存性について説明する。図21は、原画像P0に、(a)に示す位相差パターンW01を電子透かし信号S1として埋め込んだ画像Q1に対し、−40dBから+40dBのガウス性雑音を加えた場合についての検討結果を示す説明図である。雑音が付加された画像Q′1を、同図(b)に示す。この場合、原画像P0との差分がノイズとなり、埋め込まれた位相差パターンW01は、同図(c)に示すように、パターンW′01に変化する。かかるノイズが加えられた画像Q′1に対し、第三者が同図(d)に示す位相差パターンW′′12(=Q′1−Q′2)を、電子透かしとして埋め込んだとき、位相差パターンW′02は、同図(e)のように変化する。かかる場合でも、二つの画像の差分として得られる位相差パターンW′12(図21(f)参照)を用いて、式(8)で示したように、正規の電子透かしに対応した位相差パターンW01とほぼ同じパターンを得ることが可能である。すなわち、こうしたノイズの重畳に対しても本実施例による電子透かしは十分に機能する。
【0087】
図22は、誤差拡散法を用いた階調変換に対する検討結果を示す説明図である。同図(a)は位相差パターン|W01|を示しており、この位相差パターンW01を、透かし信号S1として埋め込んだ画像Q1を6階調に落とす処理を行なった結果を、同図(b)に示した。階調を低減したことにより画像Q′1が得られた。この画像Q′1と原画像P0との差分にはノイズが発生し、埋め込まれた位相差パターンW01は、同図(c)に示したパターンW′01に変化する。この画像Q′1に対し、第三者が同図(d)に示す位相差パターンW′′12(=Q′1−Q′2)を電子透かしとして埋め込んだとき、位相差パターンW02は、同図(e)に示したパターンW′02に変化する。この場合でも、同図(f)に示した位相差パターンW′12を用い、上述した式(8)で示した演算操作を行なうことにより、容易に、正規の電子透かしに対応した位相差パターンW01とほぼ同じパターンを得ることができる。
【0088】
以上説明したように、第2実施例の電子透かしの埋め込み方法により埋め込んだ電子透かしは、データ圧縮に対してもまた複数回の上書き攻撃に対しても、十分な耐性を有するばかりでなく、最も悪意的な結託攻撃に対しても実用的な耐性を付与することができる。また、図19ないし図22を用いて説明したノイズやデータ圧縮と上記の上書き攻撃とが重複した場合でも、原画像P0に加えた位相差パターンは保存され、電子透かしとして用いることができる。
【0089】
以上本発明のいくつかの実施例について説明したが、本発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。例えばフーリエ変換により得られた行列の実数部に、微小変化分を付加することも何ら差し支えない。また、フーリエ変換された行列の高周波領域に対応する要素に、微小変化分を付加するものとしても良い。更に、主として低周波成分からなる領域が特定できる変換方法としては、ウェッブレット変換に何ら限定されるものではなく、他の変換方法を採用することも何ら差し支えない。もとより、ウェッブレット変換も、ハール基底を用いるものに限定されるものではなく、他の手法を用いたウェッブレット変換を用いこるともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例としての電子透かし処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】電子透かし埋め込み部42の機能を示すブロック図である。
【図3】実施例1の透かし情報の埋め込み処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施例において扱われる原画像P0、電子透かしを埋め込んだ画像P1および埋め込まれた位相差パターンW01の一例を示す説明図である。
【図5】実施例において得られたフーリエ変換スペクトルの実数部FR,虚数部FIの一部を示す説明図である。
【図6】微小変化分付加ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図7】データ圧縮による実施例の位相差パターンの変化の様子を示す説明図である。
【図8】同じく下位ビットレートの一部代替による画像と位相差パターンの変化の様子を示す説明図である。
【図9】同じくホワイトノイズによる画像と位相差パターンの変化の様子を示す説明図である。
【図10】多重攻撃を受けた画像と位相差パターンの一例を示す説明図である。
【図11】実施例2の透かし情報の埋め込み処理の手順を示すフローチャートである。
【図12】ハールウェーブレット変換の説明図である。
【図13】画像の多重解像度解析手順の説明図である。
【図14】実施例2の遠視透かし埋め込み処理ルーチンのフローチャートである。
【図15】実施例2の第2階層への分解を説明する説明図である。
【図16】その透かし埋め込み画像と位相差パターン図である。
【図17】その透かし埋め込み画像への多重上書き攻撃の一例の説明図である。
【図18】透かし埋め込みによる画質の評価結果の説明図である。
【図19】JPEG圧縮への耐性の評価結果の説明図である。
【図20】下位ビットプレーン削除処理への耐性の評価結果の説明図である。
【図21】雑音付加への耐性の評価結果の説明図である。
【図22】階調変換への耐性の評価結果の説明図である。
【符号の説明】
22…CPU
24…メインメモリ
26…フレームメモリ
30…キーボード
32…マウス
34…表示装置
36…ハードディスク
38…モデム
39…スキャナ
40…バス
42…電子透かし埋め込み部
50…離散フーリエ変換部
52…微小変化分付加部
54…フーリエ逆変換部
60…データ圧縮処理部
62…離散フーリエ変換部
64…微小変化分付加部
66…フーリエ逆変換部
68…データ逆圧縮処理部
Claims (1)
- 透かし情報を原データに埋め込む装置であって、
原データを、主として低周波成分に対応した領域を特定可能なデータに変換するデータ変換手段と、
該変換されたデータのうち、前記主として低周波成分に対応した領域に対応するデータを離散フーリエ変換する変換手段と、
該離散フーリエ変換により得られた実数部および虚数部のうち虚数部に、透かし情報として予め定めた位相差パターンに対応した微小変化分を付加する位相差パターン付加手段と、
前記実数部と前記微小変化分が付加された前記虚数部とからなるデータをフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段と、
該フーリエ逆変換された後に、該フーリエ逆変換されたデータに対して、他の領域のデータと共に前記データ変換手段が行なったデータ変換の逆変換を施すことより透かし情報を埋め込んだデータを生成する逆変換手段と
を備える電子透かしの埋め込み装置。
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