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JP4425856B2 - 可逆的に増殖可能なインスリン発現ヒト膵島細胞株およびその用途 - Google Patents
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可逆的に増殖可能なインスリン発現ヒト膵島細胞株およびその用途 Download PDF

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Description

本発明は、可逆的に増殖可能なインスリン発現ヒト膵島細胞株に関する。さらに、本発明は、糖尿病用治療剤およびインスリンの製造方法に関する。
糖尿病は、インスリン活性の低下の原因に基づき、1型糖尿病(若年型糖尿病)と2型糖尿病とに大きく二つに分類される。
1型糖尿病は自己免疫の異常によって、インスリンを産生する膵β細胞が特異的に破壊されることで発症する(Atkinson MA, Maclaren NK., N. Engl. J. Med. 331:1428-1436, 1994参照)。その根本的治療には、膵β細胞の再生置換療法のひとつである移植が考えられる。この方法として膵臓移植と膵島移植がある。これら二つの移植の目的は、非常に厳格な血糖調節を可能とし、低血糖さらには長期合併症の発症を回避することである。単にインスリン療法による日常の煩わしさから患者を開放し生活の質(QOL)を向上させる事だけが目的ではない。移植療法はインスリン依存性糖尿病を治癒という最終目標に向かわせる手段として、インスリン療法よりは遙かに潜在能力を持った治療法である。しかしながら、膵臓移植では手術侵襲が大きいこと、また付随して移植される外分泌腺による合併症が重度となりうるなどの問題がある。これに対して、移植操作に伴う合併症の原因となっている外分泌腺を除去し膵β細胞のみを単離して移植することを目的とした膵島移植は、現在、最も生理的に近い方法で糖尿病発症以前の状態に戻ることが期待できる治療法といえる。また、インスリンの分泌がある程度保たれている2型糖尿病においても病期が進むと糖毒性やβ細胞の疲弊によってインスリンの不足を来すが、2型糖尿病は現在のところ、移植膵島の不足という厳然たる事実から、膵島移植の適応とはなっていない。将来、豊富な移植膵島の供給が可能となった場合には、インスリン抵抗性を契機としたインスリン依存型糖尿病もその適応となる可能性は充分にある。
2000年カナダ・エドモントンのアルバータ大学から臨床膵島移植7症例について、後に「エドモントン・プロトコール」と呼ばれる免疫抑制剤の斬新な使用法によって膵島移植を受けた全ての1型糖尿病症例でインスリンから離脱できたという報告がなされた(Shapiro AM, Lakey JR, Ryan EA, et al., N. Engl. J. Med. 343:230-238, 2000参照)。膵島移植はインスリン依存型糖尿病患者にとって現在もっとも理想に近い治療法であると考えられている。
膵島は、膵臓の内分泌腺組織であり、その容積は膵臓全容積の2%以下である。膵島は内分泌細胞の集団であり、α細胞、β細胞、PP細胞、δ細胞などからなっている。体内のホルモンで唯一血糖を下げる作用をもつインスリンは膵島のβ細胞から分泌される。β細胞は膵島を構成する全細胞の80〜85%を占め、単にインスリンを分泌するのみではなく、血中の糖分を感知できる。この膵島を膵臓から単離し、インスリン依存型糖尿病の患者に移植して一旦廃絶した血糖降下システムの置換再生を目指すのが膵島移植である。
しかしながら、現行の膵島移植には、免疫抑制剤の使用による安全性の問題、さらには、移植膵島の不足という大きな問題がある。移植膵島の不足という問題は、現在の膵島単離技術がいかに向上したとしても、膵臓移植・膵島単離に要する脳死体からの摘出膵はそれを必要とする患者数に対して圧倒的に少なく、今後解消される見込みはない。
したがって、膵島あるいは膵β細胞に匹敵する機能をもつ細胞を作成することは高い社会的貢献と大きな医療経済的影響を有するものである。また、近年急速に進歩し注目を集めている幹細胞研究でも膵内分泌細胞への分化誘導の可能性が示されており(Lumelsky N, Blondel O, Laeng P, et al., Science 292: 1389-1394, 2001; Assady S, Maor G, Amit M, et al., Diabetes 50: 1691-1697, 2001参照)、人為的膵β細胞産生に対する関心をさらに助長する要因となっている。
現在、ヒト成熟膵島β細胞にかわる細胞の供給源として、ヒトES細胞、組織幹細胞などが活発に研究されている。分化誘導で一部の細胞(マウスES細胞や肝幹細胞)でインスリン発現が認められたとの報告があるが、どの段階で、どの遺伝子を導入すれば効果的にインスリンが分泌されるか未だに不明である。また、こうした幹細胞の使用は多分化能と活発な増殖能をもつこと自体に由来する制御の困難さを本質的に内包しており、実用化には今後かなりの時間を要するものと考えられる。
また、ブタ組織・細胞を利用した研究が進む一方、人畜共通感染症、生体組織適合性や倫理的問題も浮上してきた。とくにウイルスの潜在的危険性が大きな問題となってきた。たとえば、ブタの臓器、細胞が保有するブタ由来のウイルスがレシピエントに感染して病気を起こす危険性(とりわけ、内因性ブタ特異的レトロウイルス(porcine endogenous retrovirus; PERV)は、染色体に組み込まれているために排除は不可能である)、それが家族や医療スタッフに感染を広げ、さらに社会に新しいウイルス感染を広げる危険性などである。
よって現在、ヒト成熟膵島β細胞にかわる細胞の供給源として、取り扱いの容易なインスリン分泌ヒト膵島細胞株の樹立が望まれている。しかしながら、これまで、多くの研究者がヒト膵島細胞を不死化しようと精力的に取り組んでいるが、インスリンを産生するヒト膵島細胞株は一切報告されていない。これは、1)インスリンを産生するβ細胞が膵島の内部に存在するため遺伝子導入が困難である、2)不死化株を樹立するためにウイルス由来の癌遺伝子(シミアンウイルス40腫瘍抗原など)を使用したものであるために細胞寿命の延命は起こるが完全な不死化には至らないためと考えられる。事実、ヒト細胞が増殖崩壊を越えて無制限に増殖し続けることができる頻度は低い(Shay JW, Wright WE, Exp. Cell Res. 184: 109-118, 1989; Ray FA, Kraemer PM, Carcinogenesis 14: 1511-1516, 1993参照)。さらには、SV40Tを使用した細胞のin vitroでの自然な不死化の確率はおよそ3.3×10-7であると報告されており、これには内因的なテロメラーゼ活性の自然発現が必要といわれている(Bondar AG, Science 279: 349-352, 1998; Zhu J, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 3723-3728, 1999; Halvorsen TL, et al., Mol. Cell Biol. 19: 1864-1870, 1999参照)。
本発明は、従来の問題点を解消し、インスリンを産生することができ、かつ需要に見合った細胞数を容易に確保することができるヒト膵島細胞株を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、我々は、健常分離ヒト膵島細胞に、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(以下、「hTERT遺伝子」と略称する)を発現する組み換えレトロウイルスベクターSSR#197(Watanabe T, et al., Transplantation 15;75(11):1873-1880, 2003参照)、およびシミアンウイルス40腫瘍抗原遺伝子(以下、「SV40T遺伝子」と略称する)を発現する組み換えレトロウイルスベクターSSR#69(Westerman KA, Leboulch P., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 93: 8971-8976, 1996参照)を導入したところ、可逆的に増殖可能な不死化細胞であって、インスリン産生能を有し、かつhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去したのちにインスリンの発現が増強されるという特徴を有する細胞株を樹立できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、それぞれ一対のLoxP配列に挟まれたhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を含有する可逆性不死化ヒト膵島細胞株であって、インスリン産生能を有し、かつ該hTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去したのちにインスリンの発現が増強されることを特徴とする可逆性不死化ヒト膵島細胞株またはその継代株に関する。
前記可逆性不死化ヒト膵島細胞株がNAKT−13(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)であることが好ましい。
本発明はまた、前記可逆性不死化ヒト膵島細胞株またはその継代株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞に関する。
本発明はさらに、前記可逆性不死化ヒト膵島細胞株またはその継代株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞を含有する糖尿病用治療剤に関する。
本発明はまた、前記可逆性不死化ヒト膵島細胞株もしくはその継代株、または前記可逆性不死化ヒト膵島細胞株もしくはその継代株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞を用いることを特徴とするインスリンの製造方法に関する。
本発明の可逆性不死化ヒト膵島細胞株により、インスリン産生能を有する細胞を、需要に見合った数だけ容易に確保することができる。また、hTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を当該細胞株から除去して得られる復帰ヒト膵島細胞は、増強されたインスリンの発現を示し、かつ安全であり、糖尿病治療において非常に有用である。
さらに、本発明の細胞を基に、インスリンの製造、または拡散チャンバー型、マイクロカプセル型、中空糸型のモジュール(デバイス)と分離・培養細胞を組み合わせたハイブリッド型などのバイオ人工膵臓の開発が可能である。
本発明の可逆性不死化ヒト膵島細胞株の製造方法および該可逆性不死化細胞からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られる本発明のヒト膵島細胞の製造方法を示す概略図である。ここで、ATGは開始コドン、Ψはパッケージングシグナル、LoxPはLoxP配列、hTERTは、hTERT遺伝子、EGFPは増強緑色蛍光タンパク質遺伝子、MoMLV LTRはモロニーマウス白血病ウイルス長末端反復配列、ECMV IRESは脳心筋炎ウイルス内リボゾームエントリー部位、HygroRはハイグロマイシン耐性遺伝子、HSV−TKは単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、SV40TはSV40T遺伝子、NeoRはネオマイシン耐性遺伝子をそれぞれ示す。 NAKT−13細胞(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)を示す位相差顕微鏡写真である。部分1は核を示し、部分2は神経内分泌細胞様の突起を示す。 インスリン免疫染色法により染色されたNAKT−13細胞(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)を示す写真である。濃淡を問わず赤色にあらわれている部分1はすべて細胞の核を示し、濃淡を問わず緑色にあらわれている部分3はすべてインスリンを示す。 インスリンおよび細胞の核をより明確に示すために描いた図3のスケッチ図である。1は図3の1に対応しており、細胞の核を示す。また、3は図3の3に対応しており、インスリンを示す。 インスリン免疫染色法により染色された、AxCANCreにて処理したNAKT−13細胞を示す写真である。濃淡を問わず赤色にあらわれている部分1はすべて細胞の核を示し、濃淡を問わず緑色にあらわれている部分3はすべてインスリンを示す。 インスリンおよび細胞の核をより明確に示すために描いた図5のスケッチ図である。1は図5の1に対応しており、細胞の核を示す。また、3は図5の3に対応しており、インスリンを示す。
本発明において、「可逆性不死化」または「可逆的に増殖可能な」とは、不死化遺伝子を細胞に形質導入して、当該細胞を無限に増殖可能な状態にしたものであって、目的の細胞数まで増殖させた後、当該不死化遺伝子を取り除くことで、細胞増殖を停止し、元の安全性の高い状態に復帰させることのできる状態を意味する。
本発明の可逆性不死化ヒト膵島細胞株は、それぞれ一対のLoxP配列に挟まれたhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を含有するヒト膵島細胞株である。さらに詳しくは、健常分離ヒト膵島細胞に、一対のloxP配列に挟まれたhTERT遺伝子を含有するレトロウイルスベクターSSR#197、および一対のloxP配列に挟まれたSV40T遺伝子を含有するレトロウイルスベクターSSR#69を導入することにより得られ、インスリン産生能を有し、かつ該hTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去したのちにインスリンの発現が増強される細胞である。このなかでも、NAKT−13細胞株(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)が好ましい。また、本発明の可逆性不死化膵島細胞は、図2(NAKT−13細胞(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461))に示すように、小型で、突起(部分2)を伸ばしており、神経内分泌細胞の特徴を有する。
本発明に使用する健常分離ヒト膵島細胞は、公知の方法に従ってヒト膵臓から分離することができる(Staudacher C, Ricordi C, Stella M, Socci C, Cammelli L, Ferrari G, Dicarlo V. Minerva Chir. 31: 1665-1668, 1985 または Ricordi C, Finke EH, Lacy PE., Diabetes 35: 649-653, 1986参照)。
「インスリンの発現が増強」とは不死化遺伝子を除去することにより、除去前の細胞と比較してインスリンの発現量が増加することを意味し、たとえば、2〜100倍増加されることが好ましい。
インスリンの発現は、公知の方法、たとえば、インスリン抗体を用いたインスリン免疫染色法によって評価することができ、その発現量は、インスリン染色された試料の蛍光強度を測定することにより比較することができる。この蛍光強度の比較には、画像処理解析ソフトNIH image (Vo1.62)(米国NIH(National Institute of Health)により無償で配布)などを用いることができる。
レトロウイルスベクターSSR#197は、hTERT遺伝子以外に、増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子がコードされており、レトロウイルスベクターSSR#69は、SV40T遺伝子以外に、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HygroR)と単純ヘルペスウイルスヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV−TK)との融合遺伝子、およびネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)がコードされている。これらはそれぞれ公知の方法、たとえば、前述した Watanabe T, et al., Transplantation 15;75(11):1873-1880, 2003および Westerman KA, Leboulch P., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 93: 8971-8976, 1996に記載された方法にしたがって製造することができる。
前記LoxP配列は、Cre組換え酵素によって認識される公知の部位特異的組換え配列であり、この配列間でDNA鎖の切断、鎖の交換、および結合という相同組換えを行なう特異的配列である。同一のDNA分子上に同方向の一対のLoxP配列が存在する場合は、その間に挟まれたDNA配列が切り出されて環状分子となる(切り出し反応)。
前記hTERT遺伝子は、正常細胞のTERT遺伝子由来である。hTERT遺伝子は、血液、皮膚、腸管粘膜、子宮内膜など、生涯にわたり再生を繰り返している臓器の幹・前駆細胞、および特定の抗原に暴露するたびにクローン増殖しているリンパ球では自然と発現増強している遺伝子である。
前記SV40T遺伝子は、公知のDNA型腫瘍ウイルスの腫瘍抗原(T抗原)遺伝子である。
レトロウイルスベクターSSR#197およびレトロウイルスベクターSSR#69の導入は、培養細胞へのこれらレトロウイルスベクターの直接播種による方法により行なわれる。
レトロウイルスベクターを培養細胞に直接播種することによって培養細胞にレトロウイルスベクターを導入する方法としては、本発明の目的を達成するものであればどのような方法でも用いることができる。たとえば、レトロウイルスベクター産生細胞を培養し、その培養上清を、別途培養中の膵島細胞に播種することにより導入を達成することもできる。各細胞の培養条件および播種濃度など種々の条件は、当該技術分野で周知の方法で決定することができる。
また、培養細胞への播種回数は、細胞への影響、たとえば染色体の安定性を考えると、1回のみが好ましい。しかしながら、該ベクターの導入効率を考慮すると、細胞への播種回数は多い方が好ましい。これらのことから、本発明では、4時間感染を1日に2回、計3日間実施することが最も好ましい。
本明細書において、Cre組換え酵素は、LoxP配列を特異的に認識する公知の組換え酵素であり、LoxP配列に挟まれたヌクレオチド配列を切り出すことができる限り限定されるものではない。本発明においては、可逆性不死化ヒト膵島細胞株の染色体上に存在するLoxP配列に挟まれたhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を切り出すために、Cre組換え酵素を使用する。LoxP配列に挟まれたhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を可逆性不死化ヒト膵島細胞の染色体上から切り出すことにより得られた細胞は、癌化の危険性がなく安全であり、細胞移植に適する。
Cre組換え酵素を使用して、hTERT遺伝子およびSV40T遺伝子をインビトロで大量培養した可逆性不死化ヒト膵島細胞株から除去する方法としては、(1)遺伝子導入効率の良好なアデノウイルスベクターによりCre組換え酵素を形質導入する方法、(2)リン酸カルシウム法にて、Cre組換え酵素DNAを細胞培養液中に添加する方法、(3)培養上清中に、human immunodeficiency virus(HIV)由来のTATタンパク質とCre組み換え酵素との融合タンパク質を添加する方法、(4)Cre組換え酵素タンパク質をカチオニック化して、細胞培養液中に添加する方法、さらに(5)薬剤誘導性Cre組み換え酵素発現ベクターを導入することにより、薬剤を添加することで該遺伝子の除去を自由に起こさせるシステムを付加する方法などがあげられる。アデノウイルスベクターを用いない方法では、ウイルスベクターによる更なる重複感染が不要であり、より好ましい。
本発明の可逆性不死化ヒト膵島細胞株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞(以下、「復帰ヒト膵島細胞」と略称する)は、たとえば、図5(復帰NAKT−13細胞)に示すように、インスリンの発現が増強され、自然と細胞同士が凝集し、正常膵島構造に類似した形態をとるようになる。
本発明の糖尿病用治療剤は、前記復帰ヒト膵島細胞を含有する細胞製剤として使用することができる。本発明の糖尿病用治療剤は、前記復帰ヒト膵島細胞以外に、そのほかの活性成分として、糖尿病の治療に用いられる成分を含有することができる。そのような活性成分としては、トログリタゾンなどがあげられる。また、インスリンの分泌を促進させる目的で、ニコチンアミドを添加することが好ましい。本明細書において細胞製剤とは、前記ヒト膵島細胞を培地、等張液、または緩衝液に懸濁した懸濁液、もしくは遠心などにより濃縮したペレットなどの細胞塊などがあげられる。培地、等張液、または緩衝液は、前記ヒト膵島細胞に適合するよう適宜選択される。さらに、前記細胞製剤は、DMSOなどの保護剤を加え、凍結保存することもできる。また、前記細胞製剤は、ヒト体内に接種されることを考慮して、細胞増殖性をなくしておくとより安全である。細胞製剤として、より安全に利用するために、加熱処理、放射線処理、あるいはマイトマイシンC処理など、細胞製剤としての機能を残しつつ、病原細胞のタンパク質が変性する程度の条件下で処理をすることができる。
復帰ヒト膵島細胞を移植する場合、細胞は、経門脈的に肝臓に移植することが好ましい。その方法としては、たとえば、右下腹部に小切開を置き、腸間膜の細い血管を露出して直視下にカテーテルを挿入して細胞を移植する方法、またはエコーにて肝臓の門脈を同定して、カテーテルを穿刺して細胞を移植する方法があげられる。なかでも、エコーにて細胞移植を行なう方法の方が、侵襲が少ないため好ましい。
また、該治療剤の投与量(移植量)は、たとえば1億〜100億細胞個/個体が好ましく、10億〜100億細胞個/個体がさらに好ましく、10億〜20億細胞個/個体が最も好ましい。
本発明の可逆性不死化ヒト膵島細胞株および復帰ヒト膵島細胞は、たとえば、糖尿病を標的とした移植医療またはバイオ人工膵臓のソースとして利用できる。移植医療またはバイオ人工膵臓としては、たとえば、インスリン分泌細胞を高分子素材で作成したデバイス中に封入された、拡散チャンバー型、マイクロカプセル型、中空糸型のモジュール(デバイス)と分離・培養細胞を組み合わせたバイブリッド型の人工膵臓などが挙げられる。バイオ人工膵臓は、体外に装着して血管に接続するもの、体内に留置して血管に接続するもの、または血管に接続せずに腹腔内に留置するものの三つの形態がある。本発明の可逆性不死化膵島細胞および復帰ヒト膵島細胞はどちらも、いずれの形態のバイオ人工膵臓にも使用可能である。
また、本発明の可逆性不死化膵島細胞および復帰ヒト膵島細胞はどちらも、インスリンの製造に使用することができる。復帰ヒト膵島細胞は、インスリンの発現が増強されているため、可逆性不死化膵島細胞を大量培養したのち、hTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去し復帰ヒト膵島細胞としてインスリンを効果的に製造することが好ましい。
インスリンの製造は、細胞培養物から細胞を除去し、得られた培養液をアフィニティーカラムなど、通常タンパク質の精製に使用される方法によって精製することにより行なうことができる。
以下、具体的な実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:可逆性不死化ヒト膵島細胞株NAKT−13(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)の樹立
カナダのアルバータ大学から提供された健常分離ヒト膵島細胞(カナダ、アルバータ大学、ヒト膵島移植プログラム、ジョナサン レイキー(Jonathan RT. Lakey)博士より、万人が入手可能である)から、球形のきれいな形態を呈しているものを実体顕微鏡(STEMI、Carl Zeiss社、ドイツ)下にhand pickup 法にて10個選別し、これをT25培養フラスコに播いた。培養液は、ウイリアムズ ミディアム E(WILLIAM′S MEDIUM E)(シグマ社、セントルイス、米国)に10%ウシ胎仔血清(FCS、シグマ社)、10-7 mol/l インスリン(シグマ社)、10-6 mol/l デキサメタゾン(シグマ社)、25μg/ml 上皮成長因子(EGF、シグマ社)、10mM ニコチンアミド(シグマ社)、抗生物質のペニシリンG/ストレプトマイシン(シグマ社)の組成のものを基本培養液として用いた。播種から3日目までは、基本培養液を4mlとし、培養液の交換はしなかった。4日目より、培養液の交換の際に、基本培養液を2ml、レトロウイルスベクターSSR#69産生細胞の培養上清とレトロウイルスベクターSSR#197産生細胞の培養上清をそれぞれ0.45ミクロンのフィルターにかけたものをそれぞれ1mlずつ加え、計4mlとして4時間インキュベーションすることにより、遺伝子導入を1日2回行なった。この操作を、4、6、8日目(計6回)に、同様に繰り返した。
なお、レトロウイルスベクターSSR#197産生細胞の培養上清およびレトロウイルスベクターSSR#69産生細胞の培養上清の調製は以下のように行なった。
米国マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード−マサチューセッツ工科大学のフィリッペ レボルフ博士より提供されたレトロウイルスベクターSSR#197産生細胞であるCrip細胞(SSR#197)(Watanabe T, et al., Transplantation 15;75(11):1873-1880, 2003.)(力価4×106cfu/ml)およびレトロウイルスベクターSSR#69産生細胞であるCrip細胞(SSR#69)(Westerman KA, Leboulch P., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 93: 8971-8976, 1996)(力価4×106cfu/ml)を用い、各Crip細胞を、T75フラスコに10万細胞個/cm2で播種し、10mlのDMEM+10%NCS(新生仔ウシ血清)培養液で培養した。細胞密度が約90%となった時点で、培養液をDMEM+10%NCS培養液10mlに交換した。培養液交換後24時間培養し、それぞれレトロウイルスベクターSSR#197およびレトロウイルスベクターSSR#69を含有する培養上清を得た。
前記ヒト膵島細胞の播種から10日目(最終感染から2日目)より、基本培養液を、低グルコースDMEM(ギブコ社、オークランド、ニュージャージー州)に10%FCS、10mM ニコチンアミド、320μl/l ハイグロマイシン、ペニシリン G/ ストレプトマイシンの組成のものに変更し、100μg/mlのハイグロマイシン(シグマ社)による選別を行なった。ハイグロマイシン耐性株が出現したところで、クローニングリングを用いて細胞をクローン化した。各クローン細胞が増殖してきたところで、フローサイトメーター MoFlo(ダコ・サイトメーション(株)製、京都、日本)にてGFP陽性細胞を回収することで、可逆性不死化ヒト膵島細胞株NAKT−13(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)を樹立した。このNAKT−13を、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した(あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)。得られた細胞株NAKT−13(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)は、図2に示すように、小型で、突起(部分2)を伸ばしており、神経内分泌細胞の特徴を有する。
実施例2:可逆性不死化ヒト膵島細胞株からのSV40T遺伝子およびhTERT遺伝子の除去
実施例1で得られた可逆性不死化ヒト膵島細胞株を10万細胞個/mlで、培地として低グルコースDMEM(ギブコ社、オークランド、ニュージャージー州)に10%FCS、10mM ニコチンアミド、ペニシリン G/ ストレプトマイシンの組成のもので培養した。培養開始から24時間で、培地中にCre組み換え酵素の発現アデノウイルスベクターAxCANCreを1モイ(MOI:multiplicity of infection)添加し、その後48時間持続感染を行なった。得られた細胞をPBSで2回洗浄し、培地の交換を行なった。得られた復帰NAKT−13細胞は、図5に示すように、自然と細胞同士が凝集し、正常膵島構造に類似した形態をとるようになるという特徴を有する。
実施例3:インスリン発現と形態
実施例1および2で得られた細胞(各5万細胞個)を、6ウェルプレートの中にカバースライドを敷いたところに播種し、培地として低グルコースDMEM(ギブコ社、オークランド、ニュージャージー州)に10%FCS、10mM ニコチンアミド、ペニシリン G/ ストレプトマイシンの組成のものを用いて、細胞が60%密集となるまで24時間培養した。ついで、培地を高グルコースDMEM(ギブコ社、オークランド、ニュージャージー州)に10%FCS、10mM ニコチンアミド、ペニシリン G/ ストレプトマイシンの組成のものに交換し、6時間培養した。
培養終了後、ウサギ抗ヒトインスリン抗体(ダコ・サイトメーション(株)製、京都、日本)を用いる免疫染色法にて、細胞におけるインスリンの発現を検討した。染色結果を図3および5に示す。また、図4および6はそれぞれ、図3および5のスケッチ図である。図3および5はそれぞれ、実施例1で得られたNAKT−13細胞(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)、および実施例2で得られた復帰NAKT−13細胞を示す。図3および図5において、濃淡を問わず赤色にあらわれている部分1はすべて細胞の核を示し、濃淡を問わず緑色にあらわれている部分3はすべてインスリンを示す。
図3より、実施例1で得られたNAKT−13細胞(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)では、インスリンの発現が確認された。また、図3および5より、実施例2で得られた復帰NAKT−13細胞では、画像処理解析ソフトNIH image (Vo1.62)(米国NIHにより無償で配布)を使用して、蛍光度の強度を比較することで、復帰前の不死化膵島細胞よりインスリンの発現が約30倍と顕著に増加していることが確認された。

Claims (4)

  1. 可逆性不死化ヒト膵島細胞株NAKT−13(寄託機関 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)、寄託日 平成15年9月4日、受託番号FERM BP−08461)またはその継代株。
  2. 請求項1記載の可逆性不死化ヒト膵島細胞株またはその継代株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞。
  3. 請求項1記載の可逆性不死化ヒト膵島細胞株またはその継代株からhTERT遺伝子およびSV40T遺伝子を除去することにより得られるヒト膵島細胞を含有する糖尿病用治療剤。
  4. 請求項1記載の可逆性不死化ヒト膵島細胞株もしくはその継代株、または請求項記載のヒト膵等細胞を用いることを特徴とするインスリンの製造方法。
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