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JP4466196B2 - 耐疲労き裂進展性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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耐疲労き裂進展性に優れた鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、土木建築構造物および船体などの構造物の材料として好適な、大気中および腐食環境中における耐疲労き裂進展性に優れた鋼板に関する。
船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクあるいは自動車などで使用される鋼材には、強度、靱性等各種の機械的性質が優れていること、および溶接性に優れていることが要求される。特に機械的性質のなかで疲労特性は構造物の強度設計上極めて重要である。
特許文献1には、疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法の発明が開示されている。この発明は、同じ引張り強度でも疲労強度または疲労限度比を上げるために金属組織を規定したもので、PおよびCuを添加した鋼をフェライトとベイナイトからなる組織にし、フェライト部分の硬さを120Hv以上とすれば、加工性にすぐれ、疲労限が向上することが示されている。
特許文献2には、疲労特性と伸びフランジ性の優れた高強度熱延鋼板に係わる発明が開示されている。この発明では、Si、P、MnおよびCrの各含有量を規定した、フェライトと第二相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト等)からなる高強度熱延鋼板において、第二相の硬さを 200〜 600Hv、体積率を 5〜10%とし、フェライトの 硬さを第二相の量から決まるある硬さに制御することにより疲労限度比の向上を図っている。
これらの文献に記載の発明では、疲労限度を改善したことを特徴としているが、疲労限度あるいは疲労限度比は、通常は回転曲げ、薄板の場合は平面曲げの疲労試験によるS−N曲線から求められる。それらの試験片は特定の場合を除いて、最も応力の加わる部分は可能な限り平滑にされるので、材料に疵やき裂が存在する場合の参考にはなり得ない。
一般に疲労破壊が起こる過程は、応力集中部でのき裂の発生、およびその後の疲労き裂の進展とに大きく2つの過程に区分できるが、前記のような試験法により求めた疲労限度や疲労限度比の値では、それらがき裂の発生と進展過程に及ぼす影響が不明である。
溶接構造物では、応力集中部としての溶接止端部が多数存在しており、疲労き裂の発生を完全に防止することは技術的に不可能に近く、また、経済的にも得策ではない。そのため、き裂がすでに存在している状態からのき裂進展寿命を大幅に延長させる必要がある。
したがって、き裂の進展速度をできるだけ遅くすることが重要になってくる。
構造物の設計時における対策として、応力が集中しないように荷重を分散させ、強度的に充分な余裕を持たせることにより、たとえき裂が発生しても、致命的な破壊に至ることのないようにすることは可能である。しかし、強度上充分な余裕を持たせることは、経済上の制約があり、できれば鋼材自身の疲労き裂の進展を遅くすること、すなわち、き裂進展抵抗を増大させることが望ましい。ところが、この材料の疲労き裂進展抵抗性を向上させる技術については、従来あまり検討されていなかった。
特許文献3には、疲労強度と疲労き裂伝播抵抗の共に優れた高強度熱延鋼板の製造方法が記載されており、PおよびCuの含有量を規制し、フェライト結晶粒径を5〜25μm、第二相の体積分率が10〜30%の二相組織とすることにより疲労強度と疲労き裂伝播抵抗が改善されることが開示されている。ただし、この文献で言う疲労き裂伝播抵抗とは、後述の疲労き裂の進展における下限界応力拡大係数範囲(ΔKth)のことであり、疲労き裂が進展する下限の応力拡大係数値を高める効果はあるが、疲労き裂進展速度を遅くすることについては効果のある方法ではない。
特許文献4には、組織の20%以上がベイナイトである鋼材の疲労き裂進展速度評価方法が開示されている。しかし、この文献に記載の発明は評価方法に関わるものであり、鋼材の強度や靭性など機械的特性が考慮されておらず、土木建築構造物、船体や海洋構造物などへの適用が適切とは言えない。
特開平 4−276016号公報 特開平 4−329848号公報 特開平4-337026号公報 特開2001-41868号公報
本発明の課題は、各種の溶接構造物等の溶接部等に内在するき裂が、繰り返し応力を受けて進展することに対する抵抗性を高めた耐疲労破壊性能に優れた鋼板とその製造方法を提供することにある。具体的には、後述する繰り返し荷重1サイクル中の応力拡大係数Kの最大値と最小値の差である△Kが20MPa√mで、応力比0.1の条件で求めた疲労き裂進展速度を3.2×10−5mm/cycle以下とすることを目標とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため種々の実験と検討を重ねた結果、以下に示す耐疲労き裂進展性に優れた鋼板およびその製造方法を発明するに至った。
(1)鋼板については次の通りである。
1)質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.03〜0.6%、Mn:0.3〜2%、sol.Al:0.001〜0.1%、N:0.0005〜0.008%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、かつ金属組織が面積率で30%以上のベイナイト組織、合計で0〜5%のマルテンサイト組織とパーライト組織、残部がフェライト組織であることを特徴とする鋼板。
2)上記の鋼板は、さらに下記の第1群から第3群までのうちの少なくとも1群から選んだ1種以上の成分を含有させることができる。
第1群:
質量%で、Cu:0.05〜1%、Ni:0.05〜1%、Cr:0.05〜1%、Mo:0.05〜0.8%およびW:0.05〜0.5%。
第2群:
質量%で、Nb:0.005〜0.08%、Ti:0.005%〜0.03%、V:0.005〜0.08%およびB:0.0005〜0.003%。
第3群:
質量%で、Ca:0.0005〜0.007%、Mg:0.0005〜0.007%およびREM:0.0005〜0.05%。
(2)製造方法については次の通りである。
1)上記の化学組成を有する鋼片を、1000℃〜1250℃の温度範囲内に加熱した後、熱間圧延して冷却し、冷却後に形状矯正をおこなう鋼板の製造方法であって、前記冷却に際し、少なくとも650℃〜500℃の温度域は平均冷却速度5℃/s以上の加速冷却する鋼板の製造方法。
2)上記の化学組成を有する鋼片を、1000℃〜1250℃の温度範囲内に加熱した後、熱間圧延をして、熱間圧延後Ac点以上の温度に再加熱して冷却し、冷却後に形状矯正をおこなう鋼板の製造方法であって、前記冷却に際し、少なくとも650℃〜500℃の温度域は平均冷却速度5℃/s以上の加速冷却とする鋼板の製造方法。
3)上記1)または2)に記載の製造方法において、冷却後さらに450℃以下に加熱して焼戻す鋼板の製造方法。
4)形状矯正における鋼板の塑性変形率を0.3〜0.87として矯正する上記1)〜3)のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
5)形状矯正に用いる装置をローラレベラとし、下式から求まるローラレベラーの鋼板入り側から3本目のロールによる鋼板の塑性変形率(η)を0.3〜0.87として矯正する上記1)〜3)のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
η=1−2ρiσy/Et
ここで、ρi:ローラレベラー入り側から3本目のロールでの鋼板の曲率半径、σy:2次元降伏応力、σy=1.15×σe(σeは通常鋼材で表現する降伏応力)、E:縦弾性係数、t:板厚とする。
(3)構造物については次の通りである。
上記のいずれかの鋼材または上記のいずれかに記載の製造方法により製造された鋼材を用いた構造物。
図1は、疲労き裂進展速度と応力拡大係数との関係を示す図である。
前述のように疲労破壊が起こる過程は、応力集中部でのき裂の発生と、その後の疲労き裂の進展とに大きく2つの過程に区分できる。すでに疲労き裂が発生した状態において、き裂の進展を破壊力学的に取り扱うと、繰り返し応力の応力比(R=σmin /σmax :1サイクル中の最大応力と最小応力の比)が一定の場合、疲労き裂進展速度(da/dN:繰り返し荷重1サイクル当たりのき裂進展量)と応力拡大係数範囲(ΔK=Kmax −Kmin :1サイクル中の応力拡大係数Kの最大値と最小値の差)との間には、両対数表示にて図1に示すような関係がある。
この図で、第IIa と示したΔKが小さい領域では、き裂があっても進展速度は小さく、ある下限値ΔKthにおいて疲労き裂進展速度da/dNは急激に小さくなり、き裂の進展は事実上認められなくなる。このΔKthを下限界応力拡大係数範囲と言い、これ以下の応力であれば、き裂が存在した状態であっても進展はない。
第IIbと示したところは、き裂先端のすべり面分離が支配的機構となってき裂が進展する領域である。この領域で形成されるストライエーションは、典型的な疲労破壊の破面として観察される。この第IIbの領域では、パリス則として知られる式
da/dN=C(△K)
が成立する。ここで、Cおよびmは材料、環境、応力比などに依存する定数である。
第IIcと示した領域では、通常の引張り応力による破壊、すなわちへき開や粒界割れ、あるいは微小空孔の合体のような微視的な金属組織的様相を示す静的な破壊に近く、き裂進展速度は著しく加速される。
ここで、疲労き裂進展速度の測定方法について説明しておく。
図6は、疲労き裂進展速度の測定方法を説明するための図である。同図に示すように応力拡大係数範囲ΔKが約18、22、26、30、34MPa√mの場合のda/dNの値を求める。次にパリス式
da/dN=C(△K)
を用いて5つのda/dNとΔKの関係から対数グラフを作成し、直線近似からCとmの値を求める。そして内挿法によってΔK=20 MPa√mのときのda/dNを求め、3.2×10-5 mm/cycle以下を本発明の目標値としている。
本発明者らは、図1の第IIb領域でのき裂進展を遅くすることに着目し、同領域における疲労き裂進展速度da/dNにおよぼす材料の影響および製造方法に関し、種々の試験を繰り返しおこない検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
1)疲労き裂進展速度da/dNは組織によって左右され、ベイナイト組織が30%以上であると小さくなること。特に60〜85%でda/dNが最も小さくなる。
2)形状矯正を適正な条件で行えば、da/dNがさらに小さくなる。
3)マルテンサイト組織とパーライト組織は硬くて脆い組織のため相境界で疲労き裂の進展を抑制することができなく、これらの組織が面積率で5%を超えるとda/dNが劣化する。
上記1)について本発明者らは、疲労き裂が進展してベイナイト相に遭遇すると、その粒界でき裂が停留したり、ベイナイト組織を避けるように屈曲したりしながら進展することを確認した。
図2は、ベイナイト相の疲労き裂の進展に及ぼす影響を調べるために用いた、フェライト単相鋼およびベイナイト単相鋼からなる積層型CT試験片の斜視図である。
本発明者らは、同図に簡易的に示すようにフェライト単相鋼(F)、ベイナイト単相鋼(B)からなる積層型CT試験片を作製し、疲労き裂10の進展方向が積層境界に直角となるように加工した。この試験片を用いてΔK=25MPa√mにおける疲労き裂進展速度を応力比0.1の条件で測定した。
図3は、測定結果から得られた疲労き裂長さと疲労き裂進展速度(伝播速度)との関係を示す図である。同図に示すようにフェライト相(F)からベイナイト相(B)にき裂が進展する際に、進展速度が大きく抑制されていることが明らかとなり、ベイナイト相境界でのき裂の停留、屈曲が影響していることが示唆された。
また、ベイナイトは疲労き裂進展試験のような繰り返し変形を受けると加工軟化することが知られている。これは変態によって導入された転位が、繰り返し変形によって合体、消滅するためであり、これによって疲労き裂先端に蓄積する歪が緩和される。すなわち加工軟化特性によってき裂進展駆動力が低下することもベイナイトがき裂進展の抑制に有効であると考えられる。
そこで、本発明者らは下記の試験を実施した。
C:0.08%, Si:0.25%, Mn:1.4%, Nb:0.02%, Ti:0.01%, sol.Al:0.025%、N:0.004%の化学組成を有する鋼片を1150℃に加熱し、熱間圧延を施した後、加速冷却を行い、ベイナイト分率が異なる4種類のベイナイト−フェライト鋼板を得た。それらの鋼板のΔK=20MPa√mにおけるda/dNを応力比0.1の条件で測定した。
図4は、測定結果から得られたベイナイト組織分立と疲労き裂進展速度da/dNとの関係を示す図である。同図に示すようにベイナイト分率が30%以上であるとda/dNが小さくなり、特に60〜85%で最も小さくなることを知るに至った。
多くの場合、圧延後あるいは熱処理後にローラレベラやプレス機による形状矯正を施す。
特にローラレベラによる矯正は形状矯正のためだけでなく、疲労き裂進展速度低下にも効果的であり、塑性変形率が重要な管理項目となるということを、本発明者らの下記実験により知るに至った。
C:0.05%, Si:0.20%, Mn:1.45%, Cu:0.2%, Ni:0.1%, Nb:0.02%, sol.Al:0.030%、N:0.004%の組成を有する鋼片を1150℃に加熱後、仕上げ温度880℃で熱間加工を施した後、800℃から加速冷却を開始し、100℃以下で冷却を停止して板厚15mmの鋼板を得た。
その鋼板を、圧下条件を種々変えたローラレベラに通して矯正を実施し、得られた鋼板から試験片を採取して疲労き裂進展速度を測定すると共に、矯正する前の鋼板の疲労き裂進展速度も測定し、矯正前後の鋼板で比較した。なお、疲労き裂進展速度は応力比0.1の条件で、ΔK=20MPa√mのときのものである。
図5は塑性変形率とき裂進展速度変化比の関係を示す図である。図中の疲労き裂進展速度比は、矯正前のda/dNを矯正後のda/dNで除したものである。すなわちこの比が1を超えれば矯正によってda/dNが増加し、1より小さければda/dNが低下したことを示す。また、レベラーの塑性変形率とは、ここではレベラーの入り側から数えて3本目のロールで設定した。一般的にローラレベラーの場合、入り側から出側にかけて圧下量を傾斜的に小さくする、いわゆる入り側から出側に向かってテーパ状になるようなロール間隔にして矯正する。従って、入り側のロールの方が出側に比べ、負荷は大きくなる。材料力学的に考えた場合、1,2本目のロールには支点数が少ないため、一番負荷がかかるロールが3本目であるためである。この3本目のロールによる塑性変形率の計算方法を以下に示す。
塑性変形率ηは下記式により求めることができる。
η=1−2ρiσy/Et
ここでρi:ローラレベラー入り側からi本目のロールでの鋼板の曲率半径、σy:2次元降伏応力、σy=1.15×σe(σeは通常鋼材で表現する降伏応力)、E:縦弾性係数、t:板厚 である。
なお、縦弾性係数は鋼板の温度によって変化する。例えば機械工学便覧A4編材料力学のA4-6ページの表2に、炭素鋼(C:0.25%以下)の温度と縦弾性係数の関係が提示されており、この値を使うことが望ましい。
図5から、塑性変形率を適正化することによって矯正加工前に比べ、き裂進展速度変化比が小さくなることがわかる。これは矯正加工によって、試験片内部の転位が、疲労試験の際に容易に動きやすい転位に変化するためと考えられる。通常転位は、圧延によって多量に組織に導入されるが、これらの転位は互いにからみあって疲労試験の際に動き難く、繰り返し変形においても転位同士の消滅が起こらず繰り返し軟化の現象が生じない。これに対し、レベラーによる矯正を行うことにより、組織中の転位が動き易くなり、繰り返し変形による転位同士の合体、消滅が多くなり、繰り返し軟化量が大きくなり、その結果、進展速度が遅くなるためと考えられる。
本発明によれば、疲労き裂進展に対する抵抗性が大きい鋼板が得られ、この鋼板を船舶、橋梁、建築物、タンク等の繰り返し荷重下で使用される鋼構造物にこれを適用することによって、その安全性が高まり、構造物の寿命の延長、さらには鋼材使用量の削減が可能となる。
本発明の鋼板および製造方法における各条件の限定理由について詳細に説明する。
なお、以下に示す各元素の含有量を示す%は、質量%である。
鋼板の化学組成
C:0.01〜0.1%
強度の確保および適量のベイナイト相を生成させるために、含有量を管理する必要がある。含有量が0.01%未満では、ベイナイト量が不十分で、き裂進展の抵抗性を増すことができない。一方、含有量が0.1%をこえると、溶接性が悪化する。そこで、C含有量は、0.01〜0.1%とした。望ましくは0.02〜0.08%である。
Si:0.03〜0.6%
Siは脱酸および強度を高める目的で添加する。 0.03%未満の含有量ではその効果が十分でなく、0.6%を超えるとベイナイト組織中に島状マルテンサイトが形成され、靱性の劣化や、表面性状の悪化をきたすので、その含有量は 0.03〜0.6%とした。なお、好適な範囲としては0.1〜0.5%である。
Mn:0.3〜2%
Mnは構造用鋼としての強度の保証や安定したベイナイト相の生成に必要な元素で、0.3%未満では効果が十分でなく、2%をこえると溶接性や靱性が劣化する。好ましくは0.5%以上である。
安定して良好な効果が得られる望ましい範囲は、0.8 〜1.8 %である。
Sol.Al:0.001〜0.1%
Alは、脱酸の目的で製鋼時に添加する。含有量が0.001%未満では脱酸不十分で圧延前の鋼塊に内部欠陥が増加し、0.1%を超えると靱性が劣化する。好ましくは0.01%以上である。
したがって、Al含有量は0.001%〜0.1%とした。なお、ある程度以上添加しても効果が飽和してくるので、望ましいのは0.01〜0.05%である。
N:0.0005〜0.008%
NはAlやTiと結合して析出物となり、オーステナイト粒の細粒化に寄与し、靭性を改善する作用がある。この効果を得るためには、Nは0.0005%以上含有させる必要がある。他方、N含有量が0.008%を超えると島状マルテンサイト比率が増加し、靭性が劣化するため、その上限は0.008%とした。
Cu、Ni、Cr、Mo、W:
これらの元素は、鋼の強度向上、疲労き裂進展抑制に効果があるとともに、耐食性向上にも効果がある。そのため、サワー原油中などの腐食環境下においても疲労き裂進展抑制に効果を発揮し、必要により含有させる。含有させる場合はCu、Ni、Crでは0.05〜1% 、Moでは0.05〜0.8%、Wでは0.05〜0.5%とする。これらの下限未満では十分な効果が得られない。一方、これらの上限を超えると、Cuでは熱間圧延時の割れ、Ni、Crでは溶接性の劣化、Mo、Wでは靭性の劣化をきたす。
Ti、Nb、V、B:
これらの元素は、強度を高め、疲労き裂進展速度を抑制する効果があり、必要により含有させる。
TiおよびNbは、析出硬化により強度を改善することができる。また、圧延条件や熱処理条件と組合せによりオーステナイト粒径の制御ができ、さらには焼入性向上による転位導入により疲労き裂進展速度が抑制する。これらの効果を十分得るにはTi、Nb共に0.005%以上含有させる必要がある。一方、多すぎると鋼の靱性を劣化させるので、その含有量の上限はどちらも 0.1%以下とした。好ましくは、どちらも0.01〜0.05%である。V、Bは、鋼の強度を高める他に靭性を高める効果がある。また、これらの元素は焼入性向上により、組織中の転位密度を上昇させ疲労き裂進展速度の向上に寄与する。特にBは焼入性向上による変態点低下の効果が大きいので、有効である。これらの効果を十分得るにはVは0.005%以上、Bは0.0005%以上含有させる必要がある。一方、Vは0.08%を、Bは0.003%を超えると、靭性が劣化する。好ましい含有量は、Vでは0.02〜0.06% 、Bでは0.0008〜0.002%である。
Ca,Mg、REM(希土類元素):
これらの元素は組織を微細化し、靭性改善に効果があり必要により含有させる。これらの効果を十分得るには各元素共に0.0005%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に入れると靭性が劣化するのでCa、Mgの上限は0.007%、REMの上限は0.05%とした。したがって、Ca:0.0005〜0.007%、Mg:0.0005〜0.007%、REM:0.0005〜0.05%とした。
PおよびSは、いずれも靱性を劣化させる不純物元素であり、少なければ少ないほどよい。本発明の鋼では、目立った影響をおよぼさない限界として、PおよびSの含有量はそれぞれ0.02%、0.01%以下とするのが望ましい。
(2)金属組織
ベイナイト組織
耐疲労き裂進展性に優れた鋼板の開発目標として、ΔK=20MPa√mで応力比0.1の条件においてda/dNを3.2以下としたが、図4で示したようにベイナイト分率で80%近辺において最もda/dNが小さくなることが分かった。
したがって、da/dNを3.2以下にするには、図4から分かるようにベイナイト分率を30%以上とする必要がある。好ましくは35〜90%である。なお、上限は規定しないが92%以下が望ましい。
マルテンサイト組織、パーライト組織
マルテンサイト、パーライトは、硬く脆い組織のため相境界で疲労き裂の進展を抑制できないことから極力少ない方がよい。それらの合計が5%を超えるとda/dNが劣化するので、0〜5%とした。なお、残部はフェライト組織からなる。
(3)製造方法
(i)鋼片の加熱温度、熱間圧延:
加熱温度は1000〜1250℃としたが、この温度は鋼片(スラブ)の中心温度である。これは伝熱計算により上記温度範囲になるように、加熱炉の各ゾーンの温度設定、在炉時間を決めればよい。1000℃未満ではフェライト率が高くなり、き裂の進展速度が大きくなる。また1250℃を超える場合、組織が粗大になり、靭性が劣化するためである。熱間圧延は通常の方法でおこなえばよく、また仕上げ温度は特に規定はしていないが、Ar3 点を充分上回る温度にて所要厚さに仕上げることが望ましい。また圧延中の各パス、特に仕上げ圧延工程においては、圧下率を10%以上とすることが望ましい。これは金属組織のベイナイト分率を30%以上とするためである。
(ii) 加速冷却:
加速冷却とは、水などの冷却媒体を用いて強制的に鋼板を冷却することをいう。
a)熱間圧延直後に加速冷却をおこなう、いわゆるTMCP型の製造方法。
少なくとも650〜500℃の温度範囲の強制冷却速度を5℃/s以上とするのは、5℃/s未満ではフェライト率が高くなり、き裂進展速度が大きくなるからである。また、強制冷却停止温度を500℃以下とするのは、強制冷却停止温度が500℃より高くなると、フェライト率が高くなり、裂進展速度が大きくなるからである。好ましい強制冷却停止温度範囲は450℃以下であり、更に好ましくは400℃以下である。
b)圧延直後に加速冷却はせずに一旦放冷した後で再度鋼板を加熱して強制冷却により焼き入れする製造方法。
この方法は熱間圧延後放冷し、別ラインで再加熱、強制冷却および形状矯正をおこなう方法であり、強制冷却条件および強制冷却停止温度の限定理由は上記a)の場合と同様である。
上記a)およびb)の方法共に強制冷却の停止温度の下限は限定するものではなく、常温まで強制冷却してもよい。
再加熱温度をAc点以上とするのは、Ac点を下回ると焼入れによる変態が生じないので目標のベイナイト分率30%以上を有した鋼材を得ることができないためである。
(iii) 焼戻し温度:
焼戻し処理は、強度調整と靭性改善が必要な場合に施す。焼戻しをおこなう場合、焼戻し温度は450℃以下とし、下限は限定しないが、その効果を得るには300℃以上とするのが好ましい。
本発明者らは、C:0.06%,Si:0.30%,Mn:1.50%,Cu:0.2%,Ni:0.1%, Nb:0.02%, sol.Al:0.03%、N:0.003%の組成を有する鋼片を1150℃に加熱後、仕上げ温度870℃で熱間加工を施した後、810℃から加速冷却を開始し、400℃で冷却を停止して得た板厚25mmの鋼材を用いて、焼戻し温度がda/dNに及ぼす影響を調査した。
図7は、試験の結果得られた焼戻し温度と疲労き裂進展速度の関係を示す図である。
同図に示すように450℃以上では、き裂進展速度が急激に劣化することが明らかとなった。原因は定かではないが、ベイナイト中の転位が消滅し、き裂進展抑制効果が減少するためと考えられる。
(iv) 形状矯正:
形状矯正に用いる装置は特に限定するものでないが、特にローラレベラー方式が望ましい。発明者らの実験によれば、ローラレベラーの場合、塑性変形率が重要な管理項目となる。
塑性変形率と、き裂進展速度の関係は試験結果から得られた図5で示した通りで、塑性変形率が0.3〜0.87であれば、矯正加工前に比べ、速度変化比が小さくなることがわかる。例えばこの速度変化比を0.9以下とする場合には、レベラーの塑性変形率を0.3〜0.82とすることが望ましい。
なお、本発明ではこのレベラーによる矯正が特に重要である。このメカニズムとしては圧延で生じた初期転位を疲労試験の際に容易に動きやすい転位に変化させるためである。
圧延によって多量の転位が組織に導入されるが、これらの転位は互いにからみあって疲労試験の際に動き難く、繰り返し変形においても転位同士の消滅が起こらず繰り返し軟化の現象が生じない。これに対し、レベラーによる矯正を行うことにより、組織中の転位が動き易くなり、繰り返し変形による転位同士の合体・消滅が多くなり、繰り返し軟化量が大きくなり、その結果、進展速度が遅くなるためと考えられる。
表1に示す化学組成の鋼片(スラブ)を用い、 表2に示す製造条件で板厚15mmの熱間圧延鋼板を製造した。
Figure 0004466196
Figure 0004466196
得られた鋼板から各種試験片を採取し、光学顕微鏡組織観察、引張試験およびシャルピー試験を実施した。また、図8で示したCT試験片を採取しASTM規格E 647にしたがって疲労き裂進展試験をおこなった。その結果を表3に示す。
Figure 0004466196
金属組織の観察、引張強度、靭性および疲労き裂進展速度の評価は以下の方法でおこなった。
金属組織は、板厚の1/4に相当する部分から採取した試料の断面を研磨し、2%ナイタール腐食液によりエッチングを施した面について、光学顕微鏡観察によりベイナイト、パーライトの分率を測定した。1試料について10視野測定し、10個の測定値の平均を当該鋼板のベイナイト分率、パーライト分率とした。
引張試験片は、JIS14B号引張試験片を圧延方向に直角に採取して、引張試験に供した。靭性は、JIS-Z2202に規定される4号のシャルピー衝撃試験片を板厚中心部から圧延方向に平行に採取してシャルピー衝撃試験をおこない、衝撃吸収エネルギー(vE-20、単位はJ)を求めた。
疲労き裂進展速度は、図8に示したCT試験片と電気油圧式閉ループ型疲労試験装置を用いる疲労試験法により測定した。
図8は、CT試験片を示す図で、図8(a)は正面図、図(b)は側面図である。
図9は電気油圧式閉ループ型疲労試験装置を示す側面図である。図9に示す装置で、参照番号1はCT試験片、2は荷重測定用ロードセル、3は油圧シリンダー、4は油圧源、5は油圧バルブ、6は波形発生器、7は負荷制御器、8aおよび8bは負荷棒をそれぞれ示す。図8に示すCT試験片にはノッチの先端に長さ2.5mmの疲労予き裂が導入してあり、その上下の穴部に負荷棒8aおよび8bを装着する。
本装置により、CT試験片1に油圧シリンダ3より負荷棒8aおよび8bを経由して疲労予き裂先端部に繰り返し応力を負荷する。試験片は厚さ方向で板厚中心の部分から疲労き裂の長手方向が圧延方向に直角になるように採取し、表裏面を0.5mmずつ削除し鏡面研磨を施した。
疲労試験条件は次のとおりとした。
f(繰り返し速度)=20Hz
R(応力比)=0.1
T(試験温度)=室温
試験雰囲気は大気中
疲労き裂進展試験の結果、いずれの試験片の場合も、中ΔK領域(△K:応力拡大係数範囲で最大応力拡大係数と最小応力拡大係数との差)における疲労き裂進展速度が評価された。本試験での中△K領域(15〜34MPa√m)は疲労き裂進展の第IIb領域に相当した。すなわちParis則〔Trans.ASTM,Ser.D.85、523(1963)〕
da/dN=C(△K)m
ただし△K:MPa√m、da/dN:mm/cycle
が成り立つことが判明した。
このことから、本発明では、疲労き裂進展特性はこの中△K領域の△K=20MPa√mにおける、き裂進展速度da/dN(mm/cycle)で評価した。
表2、3に上記の各試験の結果を示す。これらの表に示すように、組織と成分が本発明で規定する条件を満足する鋼種記号A〜Lは、疲労き裂進展速度が3.2×10-5mm/cycle以下と遅く、極めて優れた疲労き裂進展抵抗性を有していた。これに対し、鋼種記号M〜Qの鋼板は、吸収エネルギーが100Jに満たなかったり、疲労き裂進展速度が4×10-5mm/cycleを超えており、所望の疲労き裂進展抵抗性が得られなかった。
疲労き裂進展速度と応力拡大係数範囲との関係を示す図である。 フェライト単相鋼、ベイナイト単相鋼からなる積層型CT試験片の斜視図である。 疲労き裂長さと疲労き裂進展速度との関係を示す図である。 ベイナイト組織分率と疲労き裂進展速度da/dNとの関係を示す図である。 塑性変形率とき裂進展速度変化率との関係を示す図である。 図6(a) 、(b) 、(c) は、疲労き裂進展速度の測定方法を説明するための図である。 焼戻し温度と疲労き裂進展速度の関係を示す図である。 CT試験片正面図と側面図である。 電気油圧式閉ループ型疲労試験装置を示す側面図である。
符号の説明
1.CT試験片
2.荷重測定用ロードセル
3.油圧シリンダー
4.油圧源
6.波形発生器
7.負荷制御器
8.負荷棒

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.03〜0.6%、Mn:0.3〜2%、sol.Al:0.001〜0.1%、N:0.0005〜0.008%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、かつ金属組織が面積率で60〜85%のベイナイト組織、合計で0〜5%のマルテンサイト組織とパーライト組織、残部がフェライト組織であることを特徴とするシャルピー衝撃試験の衝撃吸収エネルギーvE-20が387J以上である、土木建築構造物または船体用鋼板。
  2. Feの一部に代えて、さらに質量%で、Cu:0.05〜1%、Ni:0.05〜1%、Cr:0.05〜1%、Mo:0.05〜0.8%およびW:0.05〜0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
  3. Feの一部に代えて、さらに質量%で、Nb:0.005〜0.08%、Ti:0.005%〜0.03%、V:0.005〜0.08%およびB:0.0005〜0.003%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板。
  4. Feの一部に代えて、さらに質量%で、Ca:0.0005〜0.007%、Mg:0.0005〜0.007%およびREM:0.0005〜0.05%の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を、1000℃〜1250℃の温度範囲内に加熱した後、熱間圧延をしてから冷却を行い、冷却後に鋼板の塑性変形率を0.3〜0.87として形状矯正をおこなう鋼板の製造方法であって、前記冷却に際し、少なくとも650℃〜500℃の温度域は平均冷却速度5℃/s以上で加速冷却をすることを特徴とするシャルピー衝撃試験の衝撃吸収エネルギーvE-20が387J以上である、土木建築構造物または船体用鋼板の製造方法。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を、1000℃〜1250℃の温度範囲内に加熱した後、熱間圧延をして、次いで熱間圧延後Ac1点以上の温度に再加熱して冷却を行い、冷却後に鋼板の塑性変形率を0.3〜0.87として形状矯正をおこなう鋼板の製造方法であって、前記冷却に際し、少なくとも650℃〜500℃の温度域は平均冷却速度5℃/s以上で加速冷却をすることを特徴とするシャルピー衝撃試験の衝撃吸収エネルギーvE-20が387J以上である、土木建築構造物または船体用鋼板の製造方法。
  7. 請求項5または6に記載の製造方法において、加速冷却後さらに450℃以下に加熱して焼戻し処理を施すことを特徴とする鋼板の製造方法。
  8. 形状矯正をローラレベラにより行い、下記式から求まるローラレベラーの鋼板入り側から3本目のロールによる鋼板の塑性変形率(η)を、0.3〜0.87として形状矯正をすることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
    η=1−2ρiσy/Et
    ここで、ρi:ローラレベラー入り側から3本目のロールでの鋼板の曲率半径、σy:2次元降伏応力、σy=1.15×σe(σeは通常鋼材で表現する降伏応力)、E:縦弾性係数、
    t:板厚とする。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材または請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法により製造された鋼材を用いた構造物。
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