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JP4470481B2 - 電動車両 - Google Patents
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Description

本発明は、電気モータを駆動源とし、タイヤの転舵機構を持たない簡便な構成の電動車両の技術分野に属する。
タイヤの転舵機構を持たない簡便な構成の車両形態としては、車両の後輪をキャスター形式とし、前輪を左右独立にモータ駆動するものが知られていて、この電動車両では、前輪のモータ出力を左右独立に調整することにより旋回半径の小さな旋回動作を実現するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
特開昭48−44914号公報
しかしながら、従来の電動車両にあっては、前輪に左右駆動力差を与えて旋回する構成であるため、車両旋回時の挙動は、車両後端が大回りする挙動となる。一方で、通常の前輪操舵の自動車の車両挙動は、車両前端が大回りする挙動である。したがって、通常の前輪操舵の自動車に慣れた運転者が、従来の電動車両を操作すると違和感が大きいという問題があった。
また、従来の電動車両にあっては、車両の旋回特性が車速に応じて大きく変化することを考慮していない(車速に応じて車両の旋回特性が大きく変化することに関しては、安部著「自動車の運動と制御」平成6年5月31日山海堂発行などを参照)。そのため、常に低速に限定して走行し(例えば車速の上限が10km/h)、したがってその車速の範囲で車両の旋回特性がほぼ変わらないとみなせるような車両向きである。しかし、自動車のように車速が0km/hから100km/h以上まで変化する車両へ適用する場合には、車両の旋回特性が車速に応じて大きく変化することを考慮し、左右モータの出力を調整しなければならないという問題が生じる。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、前輪にタイヤの転舵機構を持たない簡便な構成でありながら、通常の自動車に慣れた運転者が違和感少なく旋回でき、自動車としての高速走行やその車速での旋回動作を行うことができる電動車両を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の電動車両では、電気モータにより左右輪に制駆動力および制駆動力差を発生させる後輪と、車体の重心位置が後輪寄りとされ、前記後輪と比較して車体横方向に小さな力しか発生せず、車体の向きに追従して回転する前輪と、旋回指令値、加減速指令値および車速検出値に応じて、前記電気モータの出力を演算するモータ出力演算手段と、を備え、前記モータ出力演算手段は、車両の旋回特性が所望の旋回特性となるように前記旋回指令値および前記車速検出値に応じて前記左右輪の電気モータの出力を調整する
よって、本発明の電動車両にあっては、電気モータにより左右後輪に制駆動力差を発生させた場合、後輪と比較して車体横方向に小さな力しか発生しない前輪は車体の向きに追従して回転するため、前輪旋回時に車両前端が大回りする車両姿勢で旋回動作することが可能になる。また、モータ出力演算手段において、旋回指令値だけでなく車速検出値に応じて後輪左右駆動力差を調整するようにしたので、車速が大きく変化しそれに応じて車両の旋回特性が変化する場合にあっても、その変化に合わせて車両の挙動を安定に保つような旋回特性を実現することが可能になる。この結果、前輪にタイヤの転舵機構を持たない簡便な構成でありながら、通常の自動車に慣れた運転者が違和感少なく旋回でき、自動車としての高速走行やその車速での旋回動作を行うことができる。
以下、本発明の電動車両を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の電動車両を示す全体システム図である。実施例1の電動車両は、図1に示すように、駆動力発生源としての電気モータ3RL、3RRを備えており、各々の電気モータ3RL、3RRの回転軸は、減速機4RL、4RRを介して、電動車両の後輪2RL、2RRに連結されている。ここで、2つの電気モータ3RL、3RRの出力特性、および、2つの減速機4RL、4RRの減速比、および、左右の2つの後輪2RL、2RRの半径はいずれも同じである。
前記電気モータ3RL、3RRは、いずれも永久磁石をロータに埋め込んだ三相同期モータである。リチウムイオンバッテリ6との電力授受を制御する駆動回路5RL、5RRが、それらの電気モータ3RL、3RRの力行および回生トルクを、統合コントローラ30から受信するトルク指令値tTRL(左後輪)、tTRR(右後輪)とそれぞれ一致するように調整する。ただし、トルク指令値通り出力すると後輪2RL、2RRが空転してしまう状況では、駆動回路5RL、5RRに対応する後輪2RL、2RRが空転しないよう、各後輪2RL、2RRごとにトルクを制限して出力する。そして、駆動回路5RL、5RRは、各々のモータ回転軸に取り付けられた図外の回転位置センサにより検出したモータ回転速度をそれぞれ統合コントローラ30(モータ出力演算手段)へ送信する。
ここで、後輪2RL、2RRが空転しないように各輪のモータトルクを制限して出力する方法としては、例えば、特開平6−98418号公報に開示されているように、車輪が路面から受ける反力を推定し、その推定値に基づき各輪のモータトルクを調整する方法、文献『Lateral Motion Stabilization with Feedback Controlled Wheels』(坂井ら6th International Symposium on Advanced Vehicle Control,2002)に開示されているように、モータトルクに対する車輪回転速度特性を表すモデルを使用し、そのモデルが出力する車輪回転速度と実回転速度との差に応じてモータトルクを各輪独立に調整する方法、あるいは、各輪のスリップ率が所定範囲内に収まるようにモータのトルクを各輪独立に調整する方法、などがあるが、いずれかの方式を用いればよいので、ここでは説明を省略する。
前輪42FL、42FRは、前輪42FL、42FRの転舵回転軸41FL、41FRに備え付けられている。キャスター構造による左右前輪42FL、42FRのうち一輪の前輪42を図2に示す。前輪42の転舵回転軸41は、前輪42の中空支持部45の内側にあり、ベアリングを介して45に対して回転運動する。要素44,43および前輪42は、いずれも転舵回転軸41を中心として一体で回転するように支持されている。ここで、回転軸41の中心を延長したときの地表面との交点Pと、タイヤの回転中心点43の直下点Qとは、距離がζ(>0)となるよう構成しており、車両走行時には走行抵抗により、前輪42の転舵回転軸41の進む向きとタイヤの向きAとが一致するようにタイヤが自然に転舵する、いわゆるキャスターの構造としている。前輪42の中空支持部45には、中空支持部45が車両の前後左右方向に変形しにくいよう、車体前後方向と車体横方向にそれぞれ図外の支持軸があり車体と連結されている。また、中空支持部45には、上下方向に対して図外のバネおよびダンパーが備えられており、前輪42が路面から受ける上下方向の力を車体に伝えにくくしている。
また、前輪42には、部位44に図外の油圧システムによる摩擦ブレーキが備え付けられており、運転者によるブレーキペダル22の踏み込みに応じてブレーキ系の油圧が上昇し、油圧の上昇に応じて部位44に固定されたブレーキパッドが、前輪42と共に回転するディスクを挟み込むことで前輪42を制動させる。
前記後輪2RL、2RRにも図外の摩擦ブレーキが備え付けられており、前輪42と同様に、運転者によるブレーキペダル22の踏み込みに応じて後輪2RL、2RRを制動させる。更に、後輪2RL、2RRには左右輪を同じ大きさで転舵させるリンク51が接続されており、転舵用モータ52により、このリンク51を車両左右方向に移動させることで、後輪を転舵させる(後輪転舵手段)。前記転舵用モータ52には、モータ駆動回路53が接続されており、モータ駆動回路53は実舵角センサからの舵角検出値と統合コントローラ30から受信する後輪舵角目標値tδrに基づいて、後輪実転舵角が後輪舵角目標値tδrに一致するように転舵用モータ52のトルクを調整する。このような転舵装置としては、特開2003−19975号公報に開示されているものなどがある。
なお、図1の電動車両の前後重心位置は、後輪寄りになるように後輪2RL、2RRの前後位置に、電気モータ3RL、3RRやバッテリなどが配置されている。例えば、前輪45FL、45FRと後輪2RL、2RRの輪荷重比が、2:8となるように前後重心位置を設計しておく。
前記統合コントローラ30には、アクセルペダルセンサ23によって検出するアクセル開度信号と、ブレーキペダルセンサ22によって検出するブレーキ踏力信号と、ステアリングホイール11の回転軸に取り付けられた操舵角センサ21によって検出するステアリングホイール11の回転角信号と、車両重心位置に取り付けられた加速度センサ24によって検出する車体横加速度(車幅方向の加速度)および前後加速度信号と、ヨーレートセンサ8によって検出するヨーレート信号と、運転者によって操作されるシフトレバー25の状態信号と、左右前輪42FL、42FRの転舵回転軸43FL、43FRにそれぞれ取り付けられた前輪回転センサ49,50によって左右それぞれ検出する前輪回転速度信号が入力される。
前記シフトレバー25のシフト位置としては、車両停止時のみ選択可能でパーキング時に使用する位置「P」、通常前進走行時に使用する位置「D」、通常後退走行時に使用する位置「R」、モードAでの前進走行時に使用する位置「A」、モードAでの後退走行時に使用する位置「AR」、モードBでの旋回時に使用する位置「B」がある。ここで、前記モードAは、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として、車両を回転させる運転モードであり、前記モードBは、左右後輪輪の間の点を旋回中心として車両を回転させる運転モードである。
これらのシフト位置は、シフトレバー25の操作により運転者が選択する。前記統合コントローラ30は、これらの信号に基づいて後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRR、後輪舵角目標値tδrを演算し、各モータ3RL、3RRの駆動回路5RL、5RRに送信する。ここで、後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRRは、いずれも単位はNmで、車両を前向きに加速させる向きを正とする。後輪舵角目標値tδrは、単位はradで左に転舵する向きを正とする。
次に、作用を説明する。
[モード選択制御処理]
図3は実施例1の統合コントローラ30にて実行されるモード選択制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、統合コントローラ30は、マイクロコンピュータのほかにRAM/ROMなどの周辺部品を備えており、図3のフローチャートを一定時間毎、例えば5ms毎に実行する。
ステップS401では、各センサ信号や、駆動回路5RL、5RRからの受信信号をRAM変数に格納し、ステップS402へ移行する。具体的には、アクセル開度信号を変数APS(単位は%で、全開時を100%とする。)に格納し、ブレーキ踏力信号を変数BRK(単位はPa)に格納し、ステアリングホイール11の回転角信号を変数δ(単位はradで、反時計回りを正とする。)に格納し、車体横加速度信号を変数YG(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、車体ヨーレート信号を変数γ(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、車体横加速度信号を変数YG(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、シフトレバー信号を変数SFTに格納する。また、左前輪回転センサ49からの回転速度信号は変数NFLに、右前輪回転センサ50からの回転速度信号を変数NFR(いずれも単位はrad/sで、車両が前進する向きを正とする。)に格納する。さらに、駆動回路5RL、5RRから受信する信号についても、それぞれのモータの回転速度を変数NRL、NRR(いずれも単位はrad/sで、車両が前進する向きを正とする。)に格納する。
ステップS402では、車両の速度V(単位はm/sで、車両が前進する向きを正とする)を次式で演算し、ステップS403へ移行する(車速検出手段)。
V=(NFL*Rf+NFR*Rf+NRL/GG*Rr+NRR/GG*Rr)*R/4
ここで、Rfは前輪の半径、Rrは後輪の半径、GGは後輪の減速機の減速比である。
ステップS403では、シフトレバー位置がパーキング時に使用する位置「P」であるか否かを判定し、「P」の場合、ステップS404へ移行し、tTRL=tTRR=tδr=0として本ルーチンを終了する。そうでない場合にはステップS410へ移行する。
ステップS410では、シフトレバー位置が「D」もしくは「A」もしくは「B」であるか否かを判定し、シフトレバー位置が「D」もしくは「A」もしくは「B」である場合、ステップS411へ移行し、そうでない場合にはステップS420へ移行する。
ステップS411では、シフトレバー位置が「B」であり、かつ、車速Vが第2車速しきい値Vb(例えば、1m/s)未満であるか否かを判定し、Yesである場合、ステップS412へ移行し、後述のモードB時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。そうでない場合にはステップS413へ移行する。
ステップS413では、シフトレバー位置が 「A」であり、かつ車速Vが第1車速しきい値Va(例えば、3m/s)未満であるか否かを判定し、Yesである場合、ステップS414へ移行し、後述のモードA時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。そうでない場合にはステップS415へ移行し、後述のモードD時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
ステップS410からステップS420へ移行した場合は、ステップS420にて、シフトレバー位置が「AR」であり、かつ、車速Vの絶対値|V|が所定値Var(例えば、2m/s)未満であるか否かを判定し、Yesである場合、ステップS421へ移行し、後述のモードAR時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。そうでない場合にはステップS422へ移行し後述のモードR時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
[モード選択制御作用]
シフトレバー25のシフト位置として車両停止時のみ選択可能でパーキング時に使用する「P」位置が選択されたときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS404へと進む流れとなり、ステップS404では、後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRR、後輪舵角目標値tδrは、tTRL=tTRR=tδr=0として本ルーチンを終了する。
シフトレバー25のシフト位置として、「D」または「A」または「B」の位置が選択されたときであって、「A」位置選択条件と「B」位置選択条件の何れも成立しないときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS410→ステップS411→ステップS413→ステップS415へと進む流れとなり、ステップS415では、通常前進走行時に使用するモードD時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
シフトレバー25のシフト位置として、「D」または「A」または「B」の位置が選択されたときであって、「A」位置選択で、かつ、V<VaというA位置選択条件が成立するときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS410→ステップS411→ステップS413→ステップS414へと進む流れとなり、ステップS414では、極低速前進走行時に使用するモードA時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
すなわち、「A」位置選択であっても、車速Vが第1設定しきい値Va以上のときは、ステップS415へと進み、モードD時の演算ルーチンを実行するというように、モードAへの移行が禁止される。このため、車両進行中に急に運転モードAに移行することによる車両挙動不安定化を抑制できる。
シフトレバー25のシフト位置として、「D」または「A」または「B」の位置が選択されたときであって、「B」位置選択で、かつ、V<VbというB位置選択条件が成立するときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS410→ステップS411→ステップS412へと進む流れとなり、ステップS412では、極低速旋回時に使用するモードB時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
すなわち、「B」位置選択であっても、車速Vが第2設定しきい値Vb以上のときは、ステップS413→ステップS415へと進み、モードD時の演算ルーチンを実行するというように、モードBへの移行が禁止される。このため、車両進行中に急に運転モードBに移行することによる車両挙動不安定化を抑制できる。
シフトレバー25のシフト位置としてモードAでの後退走行時に使用する「AR」位置が選択されたときであって、車速絶対値|V|が所定値Var未満というAR位置選択条件が成立するときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS410→ステップS420→ステップS421へと進む流れとなり、ステップS421では、後退走行時に使用するモードAR時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
すなわち、「AR」位置選択であっても、車速絶対値|V|が所定値Var以上のときは、ステップS420→ステップS422へと進み、モードR時の演算ルーチンを実行するというように、モードARへの移行が禁止される。このため、後退走行時に急に運転モードARに移行することによる車両挙動不安定化を抑制できる。
シフトレバー25のシフト位置として通常後退走行時に使用する「R」位置が選択されたときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS401→ステップS402→ステップS403→ステップS410→ステップS420→ステップS422へと進む流れとなり、ステップS422では、通常後退走行時に使用するモードR時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
[規範モデル応答を実現するコントローラの設計原理および演算形態について]
さて次にステップS415のモードD時の演算ルーチン(図5)、ステップS414のモードA時の演算ルーチン(図8)、ステップS412のモードB時の演算ルーチン(図10)、ステップS422のモードR時の演算ルーチン(図12)、ステップS421のモードAR時の演算ルーチン(図14)において、後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRR、後輪舵角目標値tδrを演算する方法について、順次説明するが、各演算ルーチンでの演算処理を説明する前に、まず、その演算原理および実現方法について説明する。
「自動車の運動と制御」(山海堂)には、前後輪を操舵する車両挙動の運動方程式が示されている。例えば、p194には前輪舵角δf[rad]と後輪舵角δr[rad]を操作量とし、車両のヨーレートγ[rad/s]および車体重心位置の車体すべり角β[rad]を状態量としたときの運動方程式が示されている。この運動方程式は、車速V[m/s]は一定(dV=0)かつV≠0かつ滑り角(β[rad])は微少(|β|<<1、sinβ?β、cosβ?1)などの前提で導出している。
本運動方程式の考え方は、本発明の実施例1の電動車両にも拡張して適用できる。即ち、右輪の駆動力をu[N]、左輪の駆動力を-u[N] とする操作量を付加し、前輪を図2のキャスター形式とすることによる作用として、前輪で発生する横力がほぼ0として、運動方程式を次のように導出することができる。
Figure 0004470481
ここで、Lrは後輪軸と重心との距離[m]、Ltは後輪のトレッドベース距離/2[m]、mは車重[kg]、Iγはヨー慣性モーメント[Nmss]である。また、Krは後輪タイヤコーナリングスティッフネス[N/rad] であり、後輪ステアリング剛性の影響によるステアリング角に対するコーナリングパワーの低下分も加味した値である。Vは車速[m/s]であり、γはヨーレート[rad/s]、βは車体重心位置の車体すべり角[rad]である。
「自動車の運動と制御」(山海堂)p52に記されているように横力Y[N]とヨーレートγ[rad/s]と滑り角β[rad]は次の関係にある。
Y=mV(dβ/dt+γ) …(A2)
これらの運動方程式は、微分演算子sを用いて次の形に書き換えられる。
β={Q12(s)/Qden(s)}・δr+{Q13(s)/Qden(s)}・u
γ={Q22(s)/Qden(s)}・δr+{Q23(s)/Qden(s)}・u
Y={Q32(s)/Qden(s)}・δr+{Q33(s)/Qden(s)}・u …(A3)
そして、Q12(s)、Q13(s)、Q22(s)、Q23(s)、Q32(s)、Q33(s)、Qden(s)は、いずれも車速Vの関数になっており、次の式で表される。
12(s)=2VKr(Iγs+mVLr)
13(s)=-2Lt(mV2−2LrKr)
22(s)=-2mV2KrLrs
23(s)=2VLt(mVs+2Kr)
32(s)=2mV2KrIγs2
33(s)=4mVLtKr(Lrs+V)
Qden(s)=mV2Iγs2+2VKr(mLr2+Iγ)s+2mV2LrKr … (A4)
「自動車の運動と制御」(山海堂)p203-p207には、ステアリング操作量δに対する、車両のヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、前輪舵角の指令値δf*と後輪舵角の指令値δr*を生成するコントローラの導出方法も示されている。この方法に従えば、本発明の実施例1において、ステアリング操作量δに対するヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、左右輪の駆動力差の指令値u*と後輪舵角の指令値δf*を演算するコントローラ(図4(a)中のP1(s)とP2(s))を以下のように導くことができる。
いま、ステアリング操作量δに対するヨーレートγの望ましい伝達特性(規範モデル)をGγδ、ステアリング操作量δに対する滑り角βの望ましい伝達特性(規範モデル)をGβδとおき、例えば次の特性とする。
γδ=m2/(s2+2wns+wn2)
βδ=0 …(A5)
つまり、ステアリング操作量δに対するヨーレートγの望ましい応答を滑らかな2次応答特性(例えば、wn=4π,m2=wn2/4)とし、ステアリング操作量δによらず常に滑り角βが0となるように設定する。
ところで、図4(a)において、ステアリング操作量δとヨーレートγとの関係、および、ステアリング操作量δと滑り角βとの関係は、次の関係にある。ここで、1/Td(s)は、後輪操舵系のサーボ遅れである。
β=({Q13(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)})δ
γ=({Q23(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)})δ …(A6)
したがって、この伝達特性を、それぞれ望ましい伝達特性Gβδ、Gγδと一致させるという条件から、式(A7)が導かれ、
βδ=0={Q13(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)}
γδ=m2/(s2+2wns+wn2)
={Q23(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)} …(A7)
この連立方程式を解き、式(A4)の関係式を用いることで、コントローラP1(s)とP2(s)は式(A8)のように導出できる。ここで後輪操舵のサーボ遅れについては、時定数τ(例えば、τ=0.1[s])の一次遅れとし、つまり、Td=τs+1としている。
p1(s)={m2/2Lt}{(Iγs+mVLr)/(s2+2wns+wn2)}
p2(s)={m2(mV2−2LrKr)/2VKr}{(τs+1)/(s2+2wns+wn2)} …(A8)
このように本発明の実施例1において、ステアリング操作量δに対する、ヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、左右輪の駆動力差の指令値u*と後輪舵角の指令値δf*を演算するコントローラ(図4(a)中のP1(s)とP2(s))を導くことができる。
さて次に、式(A8)のコントローラP1(s)とP2(s)の実現方法について説明する。P1(s)とP2(s)は次の(A9)式で書き直せるため、(A9)式の実現方法を説明する。b0,b1は車速Vの関数である。
yx=(b1s+b0)/(s2+2wns+wn2) …(A9)
式(A9)は図4(b)のように書き換えることができる。よって、所定時間ごとに(例えば、5ms毎に)、まず、図4(b)中の積分演算を例えばオイラー近似で行なうことで、X2,X1を更新し、次に、b0,b1を車速Vに応じて逐次更新した上で、最後にX2,X1,b0,b1から出力yxを時々刻々と演算することで実現できる。
[モードD時の演算ルーチン]
図3中のステップS415のモードD時の演算ルーチンでは、図5のフローチャートを実行する。
ステップS501では、車両の目標駆動力tTDを演算する。演算は、予めROMに格納してあるマップMAP_tTD(V、APS)を表引きすることで行なう。マップMAP_tTD(V、APS)は、車速Vとアクセル開度APSを軸とした特性データであり、例えば図6のように設定しておく。
ステップS503〜S506では、ステアリングホイール回転角δおよび車速Vに応じて、後輪左右モータに発生させる駆動力差分の目標トルクtU[Nm]および後輪操舵指令値δtrを演算する。演算は、上記設計原理を踏まえ、ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの応答が規範モデル応答と一致し、ステアリングホイール回転角δに対する車体すべり角の応答も規範モデル応答と一致するように演算する。ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの規範モデル応答は、式(A5)に示す2次伝達特性とし、ステアリングホイール回転角δに対する車体すべり角の規範モデル応答は常に0として説明する。
ステップS503では、ステップS420で演算した車速Vを用い、式(A8)一段目の式について、式(A9)のb0,b1に対応する値を次のように演算する。
b1=m2*Ir/2/Lt
b0=m2*m*V*Lr/2/Lt …(B1)
ここでm2は、ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの定常値が、例えば、δ/4となるように、
m2=wn2/4 (wnは、例えば4πとする)
としておく。mおよびIrおよびLrおよびLtは車両設計値を用いる。
ステップS504では、前回のステップS504を実行した時のX2、X1を用い、図4(b)の積分演算をオイラー近似することでX2、X1を更新する。図4(b)中のuxはステアリングホイール回転角δであり、出力yxは左右輪の駆動力差指令値tUである。演算する際には図4(b)中のX2、X1としては、ステップS504で使用する変数として、変数X2a、X1aを用いることとする。図4(b)のX2、X1を更新した後は、それらの値とステップS503で求めたb0、b1に応じ、図4(b)に示す関係式から出力yxを演算することで、左右輪の駆動力差指令値tUを演算する。
ステップS505では、ステップS420で演算した車速Vを用い、式(A8)二段目の式について、式(A9)のb0、b1に対応する値を次のように演算する。なお0割を防止する意味で車速Vについては最小値をVmin(例えば、1m/s)に制限して演算を行なう。
b1=m2*(m*V*V−2*Lr*Kr)/2/V/Kr*τ
b0=m2*(m*V*V−2*Lr*Kr)/2/V/Kr …(B2)
ここで、mおよびIrおよびLrおよびLtおよびKrは車両設計値を用いる。またτは、後輪操舵系のサーボ遅れに合わせて例えば0.1程度に設定する。
ステップS506では、前回のステップS506を実行した時のX2、X1を用い、図4(b)の積分演算をオイラー近似することでX2、X1を更新する。図4(b)中のuxはステアリングホイール回転角δであり、出力yxは後輪操舵指令値tδrである。演算する際には図4(b)中のX2、X1としては、ステップS504で使用する変数として、変数X2b、X1bを用いることとする。図4(b)のX2、X1を更新した後は、それらの値とステップS505で求めたb0、b1に応じ、図4(b)に示す関係式から出力yxを演算することで、後輪操舵指令値tδrを演算する。
ステップS507では、目標駆動力tTDと目標左右駆動力差tUから、後輪へのトルク指令値tTRL、tTRRを次式で演算する。
TTRL=tTD*Rr/GG/2-tU*Rr/GG
TTRR=tTD*Rr/GG/2+tU*Rr/GG …(B3)
ステップS507の演算後、本ルーチンを終了する。
以上の車両挙動シミュレーション例を図7に示す。車重は1670kg。減速機の減速比は4としている。車速100km/hで走行中に、時刻0にてステアリングホイールをステップ的に操舵した場合の結果例である。図7(a)は時系列波形であり、図7(b)は車両軌跡(上空から見た図)である。車体滑り角をほぼ常に0付近に保ちつつ、旋回動作を行なっており、所望の動作を実現できていることを確認できる。
[モードA時の演算ルーチン]
図3中のステップS414のモードA時の演算ルーチンでは、図8のフローチャートを実行する。
ステップS801では、後輪軸の中心位置の目標速度tVを演算する。例えば、アクセル演算APSが0のときtV=0となり、APSが100%のときにtV=3[m/s]となるように比例的に割り当てる。
ステップS802では、後輪軸の中心位置の旋回半径の逆数値の目標値tρを演算する。目標値tρは左旋回時、つまり左に車両の旋回中心があるときには正の値とし、右旋回時、つまり右に車両の旋回中心があるときには負の値とするものとし、ステアリングホイール回転角δに応じて、例えば、図9のような特性にしておく。ここで、タイヤの幅の半分の長さをWt、後輪のトレッドベース距離の半分の長さをLtとしたときに、目標値tρが-1/(Lt+Wt)と1/(Lt+Wt)との間の範囲となるように設定する
ステップS803では、後輪軸の中心位置の目標速度tVおよび後輪軸の中心位置の旋回半径の逆数値の目標値tρから、左後輪モータおよび右後輪モータの目標回転速度tNRL、tNRRを次式で演算する。
tNRL=tV*(1-Lt*tρ)/Rr*GG
tNRR=tV*(1+Lt*tρ)/Rr*GG …(C1)
ステップS804では、左後輪モータの回転速度NRLが左後輪モータの目標回転速度tNRLに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、左後輪モータへのトルク指令値tTRLを演算する。Kp1は比例ゲインである。
tTRL=Kp1*(tNRL-NRL)
ステップS805では、右後輪モータの回転速度NRRが右後輪モータの目標回転速度tNRRに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、右後輪モータへのトルク指令値tTRRを演算する。Kp1はステップS804と同じ比例ゲインである。
tTRR=Kp1*(tNRR+NRR)
ステップS806では、後輪操舵指令値tδrを演算する。演算は、例えばtδr=0とする。他にも、ステアリングホイール回転角δに応じて関連付けしておいたテーブルをROM内にもたせておき、そのテーブルを参照して演算する方法などでも良い。ステップS806の演算後、本ルーチンを終了する。
以上の演算を行なうことにより、図16(a)に示すように、旋回内輪の後輪近傍(但し、タイヤ幅を除外)を旋回中心として車両を小回り旋回する動作ができるようになる。
[モードB時の演算ルーチン]
図3中のステップS412のモードB時の演算ルーチンでは、図10のフローチャートを実行する。
ステップS1101では、旋回動作を行なうか否かを判定する。アクセル演算APSが0のときは、f_MB=0とし旋回動作を行なわず、それ以外の時にはf_MB=1とし旋回動作を行なうように判定する。
ステップS1102では、左後輪モータの目標回転速度tNRLおよび右後輪モータの目標回転速度tNRRをステアリングホイール回転角δに応じて演算する。このときtNRLとtNRRとは符号が逆になるように(左右輪が逆に回転するように)設定し、特にステアリングホイール回転角δの絶対値が最大のときには、tNRLの絶対値とtNRRの絶対値とが一致するようにするとよい。こうすることで、ステアリングホイール回転角δの絶対値が最大のときに、車両の旋回中心を後輪軸の中心位置近傍で実現することができる。また、ステアリングホイール回転角δが0と最大値との間は、tNRL/tNRRの値が単調に変化するように設定すると、ステアリングホイール回転角δを切り増すにつれて車両の旋回中心が後輪軸の中心位置近傍に近寄ってくる連続的な動きを実現できる。
ステップS1104では、左後輪へのトルク指令値tTRLを次式のように演算する。なお、Kp2は比例ゲインである。
tTRL=Kp2*(RAT*tNRL-NRL)
ここでRATは、初期値が0とし、f_MB=1のときに所定の速度で1に一致させるように増やし(例えば、5msで0.005ずつ1に近づける)、f_MB=0のときに所定の速度で0に一致させるように減らす(例えば、5msで0.005ずつ0に近づける)操作を行なった変数である。こうすることによって、f_MB=0のときとf_MB=1のときの切替え時において、車両挙動を連続的に変化させる。
ステップS1105では、右後輪へのトルク指令値tTRRを次式のように演算する。Kp2は、ステップS1104と同じ比例ゲインである。
tTRR=Kp2*(RAT*tNRR-NRR)
ここでRATは、ステップS1104と同一の値を使用する。
ステップS1106では、後輪操舵指令値tδrを演算する。演算は、例えばtδr=0とする。他にも、ステアリングホイール回転角δに応じて関連付けしておいたテーブルをROM内にもたせておき、そのテーブルを参照して演算する方法などでも良い。ステップS1106の演算後、本ルーチンを終了する。
以上の演算を行なうことにより、図16(b)に示すように、後輪左右輪の間の点を旋回中心として車両を回転させる小回り旋回を行うことができ、車両をモードAより更に小回り動作させることができるようになる。
[モードR時の演算ルーチン]
図3中のステップS422のモードR時の演算ルーチンでは、図12のフローチャートを実行する。
ステップS1301では、車両の目標駆動力tTDを演算する。演算は、予めROMに格納してあるマップMAP_tTDR(V、APS)を表引きすることで行なう。マップMAP_tTDR(V、APS)は、車速Vとアクセル開度APSを軸とした特性データであり、例えば、図13のように設定しておく。
ステップS1302では、目標左右駆動力差tUを演算する。目標左右駆動力差tUは、ステアリングホイール回転角δに比例するように次式で演算する。
tU=KK*δ
KKはステアリングを左に切っているときに、車両上空から見て、車両が時計回りに回転するよう負の値としておく。
ステップS1303では、目標駆動力tTDと目標左右駆動力差tUから、後輪へのトルク指令値tTRL、tTRRを次式で演算する。
tTRL=tTD*Rr/GG/2−tU*Rr/GG
tTRR=tTD*Rr/GG/2+tU*Rr/GG
ステップS1304では、後輪操舵指令値tδrを演算する。演算は、例えばtδr=0とする。他にも、ステアリングホイール回転角δに応じて関連付けしておいたテーブルをROM内にもたせておき、そのテーブルを参照して演算する方法などでも良い。ステップS1304の演算後、本ルーチンを終了する。
以上の演算を行なうことにより、車両を後退させることができる。
[モードAR時の演算ルーチン]
図3中のステップS421のモードAR時の演算ルーチンでは、図14のフローチャートを実行する。
ステップS1501では、後輪軸の中心位置の目標速度tVを演算する。例えばアクセル演算APSが0のときtV=0となり、APSが100%のときにtV=-3[m/s]となるように比例的に割り当てる。
ステップS1502では、後輪軸の中心位置の旋回半径の逆数値の目標値tρを演算する。目標値tρは左旋回時、つまり左に車両の旋回中心があるときには正の値とし、右旋回時、つまり右に車両の旋回中心があるときには負の値とするものとし、ステアリングホイール回転角δに応じて、例えば図9のような特性にしておく。ここで、タイヤの幅の半分の長さをWt、後輪のトレッドベース距離の半分の長さをLtとしたときに、目標値tρが-1/(Lt+Wt)と1/(Lt+Wt)との間の範囲となるように設定する
ステップS1503では、後輪軸の中心位置の目標速度tVおよび後輪軸の中心位置の旋回半径の逆数値の目標値tρから、左後輪モータおよび右後輪モータの目標回転速度tNRL、tNRRを次式で演算する。
tNRL=tV*(1-Lt*tρ)/Rr*GG
tNRR=tV*(1+Lt*tρ)/Rr*GG …(D1)
ステップS1504では、左後輪モータの回転速度NRLが左後輪モータの目標回転速度tNRLに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、左後輪モータへのトルク指令値tTRLを演算する。Kp3は比例ゲインである。
tTRL=Kp3*(tNRL-NRL)
ステップS1505では、右後輪モータの回転速度NRRが右後輪モータの目標回転速度tNRRに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、右後輪モータへのトルク指令値tTRRを演算する。Kp3はステップS1504と同じ比例ゲインである。
tTRR=Kp3*(tNRR-NRR)
ステップS1506では、後輪操舵指令値tδrを演算する。演算は、例えばtδr=0とする。他にも、ステアリングホイール回転角δに応じて関連付けしておいたテーブルをROM内にもたせておき、そのテーブルを参照して演算する方法などでも良い。ステップS1506の演算後、本ルーチンを終了する。
以上の演算を行なうことにより、車両を後退させながら小回りさせることができる。
[電動車両での走行作用]
従来の特開昭48−44914号公報に記載されている電動車両にあっては、前輪に左右駆動力差を与えて旋回する構成であるため、車両旋回時の挙動は、図15(a)に示すように、車両後端が大回りする挙動となる。一方で、通常の前輪操舵の自動車の車両挙動は、図15(b)に示すように、車両前端が大回りする挙動である。したがって、通常の前輪操舵の自動車に慣れた運転者が、特開昭48−44914号公報に記載されている電動車両を操作すると違和感が大きい。
これに対し、実施例1では、電気モータ3RL、3RRにより左右輪に制駆動力および制駆動力差を発生させる後輪2RL、2RRと、車体の重心位置が後輪寄りとされ、前記後輪2RL、2RRと比較して車体横方向に小さな力しか発生せず、車体の向きに追従して転舵動作する前輪42FL、42FRと、旋回指令値および加減速指令値および車速に応じて、前記電気モータ3RL、3RRの出力を演算する統合コントローラ30と、を備えて電動車両を構成するようにした。この構成により、以下の作用を同時に達成することができるようになった。
1) 旋回時に図15(b)のように車両前端が大回りする車両姿勢で旋回動作することが可能であり、通常の前輪操舵の自動車に慣れた運転者も違和感少なく車を操作できる。
2) 特開昭48−44914号公報の電動車両と同様に、通常の車よりも小回りすることができる(図16(a)および(b)の動作)。
3) 旋回指令値だけでなく車速に応じて後輪左右駆動力差を調整するようにしたので、車速が大きく変化しそれに応じて車両の旋回特性が変化する場合にあっても、その変化に合わせて車両の挙動を安定に保つような旋回挙動を実現することが可能になる。
4) 車輪各輪にブレーキ機構を付加することで自動車としての制動性能を達成できる。
5) 前輪の転舵角調整機構が不要となるため車両が軽量化できる。また、車両前部の乗員座席を設定するというように、車室空間を拡大することができる。さらに、車両前部のデザイン自由度も増す。

また、旋回指令値に応じて後輪2RL,2RRを操舵させるリンク51および転舵用モータ52を有するようにした。これにより、自動車の旋回運動性能としてより好ましい、以下の作用を同時に達成することができるようになった。
1) 車両の横方向の移動速度を向上させることができ、車両の横移動時の応答性を速めることが可能となった。実施例1の場合、旋回指令発生時に左右駆動力差を発生させると車両にヨーモーメントが発生し、それに応じて後輪に滑り角がつき、それにあわせて車両横方向の力が発生するメカニズムになっているため、旋回指令発生から車両横方向に力が発生するまでの遅れが存在する。これに対し、旋回指令発生と共に後輪を操舵することで直ちに車両横方向に力を発生させることができるようになったので、速やかなレーンチェンジ動作など、車両横方向のより俊敏な動作が可能となった。
2) 車両時の旋回動作(旋回半径やヨーレート)と旋回姿勢を独立に調整できるようになった。車両挙動を調整できる操作入力として、後輪の左右駆動力差および後輪の転舵角の2つを有することで、車両の旋回動作(旋回半径やヨーレート)と旋回姿勢の2つを過渡的にも独立に所望の特性となるように調整することができる。
さらに、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として、車両を旋回させる運転モードAを有するようにした。これにより、旋回半径を小さくしての旋回動作、すなわち、図16(a)に示す車両動作が可能となり、低速における車両の取りまわしが容易になった。
加えて、運転モードAにおいて、後輪内輪の接地面内に車両の旋回中心がある場合、後輪内輪のタイヤの表面は旋回中心を中心としてねじられ(通常の車ですえ切りしたときの前輪の状態と同じ)、タイヤが摩耗するとともにタイヤ表面と路面とのずれる音(以下、すえ切り音と呼ぶ)が発生する。そこで、実施例1では、運転モードAにおいて、旋回内輪の後輪幅内を旋回中心として除外するようにした。これにより、後輪内輪の摩耗を抑制できるとともに、タイヤのすえ切り音も抑制できるようになった。
そして、車速Vが第1設定しきい値Va以上のときには運転モードAへの移行を禁止するようにした。この結果、車両進行中に急に運転モードAに移行することによる車両挙動不安定化を抑制できるようになった。
さらに加えて、後輪左右輪の間の点を旋回中心として車両を回転させる運転モードBを有するようにした。これにより、運転モードAより更に小さな旋回半径で旋回動作を行なう(図16(b))ことができるようになった。したがって、低速における車両の取りまわしが更に容易になった。
そして、車速Vが第2設定しきい値Vb以上のときには運転モードBへの移行を禁止するようにした。この結果、車両進行中に急に運転モードBに移行することによる車両挙動不安定化を抑制できるようになった。
次に、効果を説明する。
実施例1の電動車両にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) 電気モータ3RL、3RRにより左右輪に制駆動力および制駆動力差を発生させる後輪2RL、2RRと、車体の重心位置が後輪寄りとされ、前記後輪2RL、2RRと比較して車体横方向に小さな力しか発生せず、車体の向きに追従して回転する前輪42FL、42FRと、旋回指令値および加減速指令値および車速に応じて、前記電気モータ3RL、3RRの出力を演算する統合コントローラ30と、を備えて電動車両を構成したため、前輪42FL,42FRにタイヤの転舵機構を持たない簡便な構成でありながら、通常の自動車に慣れた運転者が違和感少なく旋回でき、自動車としての高速走行やその車速での旋回動作を行うことができる。
(2) 旋回指令値に応じて後輪2RL,2RRを操舵させるリンク51および転舵用モータ52を有するため、旋回指令発生と共に後輪2RL,2RRを操舵することで直ちに車両横方向に力を発生させることができ、速やかなレーンチェンジ動作など、車両横方向のより俊敏な動作が可能であると共に、車両挙動を調整できる操作入力として、後輪2RL,2RRの左右駆動力差および後輪2RL,2RRの転舵角の2つを有することで、車両の旋回動作と旋回姿勢の2つを過渡的にも独立に所望の特性となるように調整することができる。
(3) 前記統合コントローラ30は、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として、車両を旋回させる運転モードAを有するため、旋回半径を小さくしての旋回動作が可能となり、低速における車両の取りまわしを容易にすることができる。
(4) 前記統合コントローラ30は、運転モードAの選択時、旋回内輪のタイヤ幅内を旋回中心として除外するため、後輪内輪の摩耗を抑制することができるとともに、タイヤのすえ切り音も抑制することができる。
(5) 前記統合コントローラ30は、車速Vが第1車速しきい値Va以上のときには運転モードAへの移行を禁止するため、車両進行中に急に運転モードAに移行することによる車両挙動不安定化を抑制することができる。
(6) 前記統合コントローラ30は、後輪左右輪の間の点を旋回中心として車両を回転させる運転モードBを有するため、運転モードAより更に小さな旋回半径で旋回動作を行なうことができ、低速における車両の取りまわしを更に容易にすることができる。
(7) 前記統合コントローラ30は、車速Vが第2車速しきい値Vb以上のときには運転モードBへの移行を禁止するため、車両進行中に急に運転モードBに移行することによる車両挙動不安定化を抑制することができる。
以上、本発明の電動車両を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
駆動システムとしては、図1に示す形態に限られるものではなく、例えば、後輪の駆動形態としては、図17に示すようなものでもよい。図17は、後輪をクラッチモータ60(モータのインナーおよびアウターがいずれも回転支持されており、モータにトルクを発生させることで減速機63R、63Lを介して左右輪に逆のトルクを付加することができるモータであり、特開平4−332927号公報などに開示されている。)により後輪左右輪に駆動力差をつけるとともに、駆動用モータ61でデファレンシャルギア62を介して車両に制駆動力を発生させる形態である。このように後輪の左右輪トルクを独立に調整できる形態であれば良い。
また、前輪の形態も車体横向きの力を発生しにくいものであればよく、キャスター式である必要は必ずしも無い。例えば、前輪は全く転舵せず、前輪のタイヤを図18に示すように、転動面方向の回転軸(軸Z)を有する円筒形状のゴム回転体を、路面への接地部分に多数配列したものとしても良い。
図1において後輪転舵手段がない形態についても同じように実現できる。即ち、上述の実施例1に対し、次のように変更することで実現できる。
1) モードP、D、A、B、R、ARの全てにおいて後輪操舵指令値を演算するステップを削除する。
2) モードDについては、実施例1では、ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの応答が規範モデル応答と一致し、ステアリングホイール回転角δに対する車体すべり角の応答も規範モデル応答と一致するように演算するようにしていた。しかし、後輪転舵手段がない形態では操作入力が1つ減るためこれを実現することはできない。そこで、ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの応答のみが規範モデル応答と一致するように左右輪の駆動力差指令値tUを演算する形態とする。つまり式(A7)の第二式の代わりに、Q23(s)/Qden(s)*P1(s)=Gγδを用いて、P1(s)を導出し、それをもとに同様に左右輪の駆動力差指令値tUを演算すればよい。
実施例1では、左右後輪を独立の電気モータで駆動する駆動システムと、後輪転舵手段とを備えた電動車両を示したが、上記のように、後輪の左右輪トルクを独立に調整できる駆動システムを搭載した電動車両にも適用することができるし、また、上記のように、後輪転舵手段がない電動車両にも適用することができる。
実施例1の電動車両を示す全体システム図である。 実施例1の電動車両に適用された前輪を示す側面図および平面図である。 実施例1の統合コントローラにて実行されるモード選択制御処理の流れを示すフローチャートである。 実施例1の統合コントローラでのモードD時における演算方法を説明する図である。 実施例1でのモードD時の演算ルーチンを示すフローチャートである。 実施例1でのモードD時の演算ルーチンにて使用する目標駆動力tTDのROMデータ特性図である。 実施例1でのモードD時の旋回挙動シミュレーション例を示す図である。 実施例1でのモードA時の演算ルーチンを示すフローチャートである。 実施例1でのモードAおよびモードAR時の演算ルーチンにて使用する旋回半径の逆数値目標値tρのROMデータ特性図である。 実施例1でのモードB時の演算ルーチンを示すフローチャートである。 実施例1でのモードB時の演算ルーチンにて使用するモータの目標回転速度tNRL,tNRRのROMデータ特性図である。 実施例1でのモードR時の演算ルーチンを示すフローチャートである。 実施例1でのモードR時の演算ルーチンにて使用する目標駆動力tTDのROMデータ特性図である。 実施例1でのモードAR時の演算ルーチンを示すフローチャートである。 従来例の旋回挙動と通常の前輪操舵の乗車での旋回挙動を示す図である。 実施例1での旋回挙動例を示す図である。 駆動システムの他の実施例を示す図である。 前輪の他の実施例を示す図である。
符号の説明
2RL、2RR 後輪
3RL、3RR 電気モータ
8 ヨーレートセンサ
11 ステアリングホイール
21 操舵角センサ(旋回指令値検出手段)
22 ブレーキペダルセンサ
23 アクセルペダルセンサ
24 加速度センサ
25 シフトレバー
30 統合コントローラ(モータ出力演算手段)
42FL、42FR 前輪
49、50 前輪の回転センサ
51 リンク(後輪転舵手段)
52 転舵用モータ(後輪転舵手段)

Claims (8)

  1. 電気モータにより左右輪に制駆動力および制駆動力差を発生させる後輪と、
    車体の重心位置が後輪寄りとされ、前記後輪と比較して車体横方向に小さな力しか発生せず、車体の向きに追従して回転する前輪と、
    旋回指令値、加減速指令値および車速検出値に応じて、前記電気モータの出力を演算するモータ出力演算手段と、
    を備え
    前記モータ出力演算手段は、車両の旋回特性が所望の旋回特性となるように前記旋回指令値および前記車速検出値に応じて前記左右輪の電気モータの出力を調整することを特徴とする電動車両。
  2. 請求項1に記載された電動車両おいて、
    旋回指令値に応じて後輪を転舵させる後輪転舵手段を有することを特徴とする電動車両。
  3. 請求項1または請求項2に記載された電動車両において、
    前記モータ出力演算手段は、旋回指令時に車速検出値に応じて前記左右輪の電気モータの制駆動力差を調整することを特徴とする電動車両。
  4. 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載された電動車両おいて、
    前記モータ出力演算手段は、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として、車両を旋回させる運転モードAを有することを特徴とする電動車両。
  5. 請求項4に記載された電動車両において、
    前記モータ出力演算手段は、運転モードAの選択時、旋回内輪のタイヤ幅内を旋回中心として除外することを特徴とする電動車両。
  6. 請求項4または請求項5に記載された電動車両において、
    前記モータ出力演算手段は、車速検出値が第1車速しきい値以上のときには運転モードAへの移行を禁止することを特徴とする電動車両。
  7. 請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載された電動車両において、
    前記モータ出力演算手段は、後輪左右輪の間の点を旋回中心として車両を回転させる運転モードBを有することを特徴とする電動車両。
  8. 請求項7に記載された電動車両において、
    前記モータ出力演算手段は、車速検出値が第2車速しきい値以上のときには運転モードBへの移行を禁止することを特徴とする電動車両。
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