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JP4484560B2 - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents
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JP4484560B2 - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動変速機の変速制御装置に関し、特にアップシフト時の締結要素の締結・解放制御に関するものである。
従来、アップシフト時に締結要素の掛け換え制御によって変速を達成する技術として特許文献1に記載の技術が開示されている。この技術では、解放側油圧が抜けるタイミングに対して、締結側油圧の立ち上がるタイミングを制御することで、トルクフェーズの引きや、締結側容量の上昇前におけるエンジン回転数の空吹きを防止している。
特開平10−299880号公報(第3頁参照)。
しかしながら、上記従来技術にあっては、アップシフト時は必ずトルクフェーズが発生し、かつ、そのトルクフェーズにおける出力軸トルクは、「入力トルクにアップシフト前のギヤ比を掛けたトルク」から「入力トルクにアップシフト後のギヤ比を掛けたトルク」以下にまで下がる(引きショック)こととなる。よって、最適な油圧制御を行ったとしても、トルクフェーズにおける出力軸トルクの引きショックは、これ以上小さくすることができないという問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、アップシフト時の出力軸トルクの減少により生じる引きショックを改善可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では、アップシフト前の変速段では締結し、アップシフト後の変速段では解放している第1締結要素と、アップシフト前の変速段では解放し、アップシフト後の変速段では締結している第2締結要素と、アップシフト時に所定条件が成立したときは、前記第1締結要素の締結容量を低下させる解放制御を実行すると共に、前記第2締結要素の締結容量をイナーシャフェーズの促進可能なイナーシャフェーズ促進締結容量へ上昇させる締結制御を実行する掛け換え制御手段と、を備えた自動変速機の変速制御装置において、前記所定条件を、前記第1締結要素の締結容量を低下させて、ギヤ比が前記アップシフト前の変速段のギヤ比よりも低速側の所定ギヤ比に到達していることとし、前記掛け換え制御手段は、前記第2締結要素の締結容量を前記イナーシャフェーズ促進容量まで上昇させ、前記第1の締結要素の締結容量を、前記第2締結要素の締結容量が前記イナーシャフェーズ促進容量に到達後、アップシフト前の変速段のギヤ比に到達する前にトルク伝達が行われない値である所定締結容量以下となるように解放制御することとした。
よって、本発明の自動変速機の変速制御装置にあっては、アップシフト時において、掛け換え制御前にギヤ比を低速側となるように第1締結要素の締結容量を低下させることで、入力側(例えばエンジン)の回転数を変速前変速段の状態よりも高い状態とし、より高いイナーシャエネルギを保持しているようにする。その後、第1締結要素の解放制御とともに第2締結要素に対する締結制御が始まり、第2締結要素の締結容量が上昇する。それによりギヤ比は変速終了後のギヤ比に向かって変化し始める。次に、アップシフト前のギヤ比よりも低速側であったギヤ比が、アップシフト前の変速段となるギヤ比に到達する。このとき、解放側の第1締結要素の締結容量は、ギヤ比がアップシフト前の変速段となる前に、トルク伝達が行われない値である所定締結容量以下とする。本来トルクフェーズにより出力軸トルクは入力トルクにアップシフト後のギヤ比を掛けたトルクまで低下するが、ギヤ比が低下している最中なので、同時にエンジンのイナーシャエネルギが出力軸トルクに放出され、その分出力軸トルクが上昇する。すなわち、確保されたイナーシャを用いて掛け換え制御を行い、トルクフェーズにおける引きショックを改善することが可能となり、スムーズなアップシフトを達成することができる。
以下、本発明の締結要素の締結制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の自動変速機の油圧制御装置を示す全体システム図である。動力源であるエンジン1と、自動変速機2と、自動変速機2の変速比を制御するコントロールユニット3が設けられている。
自動変速機2は入力軸Inputから入力された回転を変速し、出力軸Outputへ出力する。また、変速段としてN速を達成する際に締結する第1締結要素C1と、(N+1)速を達成する際に締結する第2締結要素C2が設けられている。これらの締結要素C1、C2は、回転体同士を接続するクラッチでもよいし、回転体を変速機ケースのような固定物に係止するブレーキでもよく、少なくとも締結要素C2は、ピストンをストロークさせ押圧することで締結作動する締結要素であり、たとえば多板クラッチ、多板ブレーキなどである。図外のコントロールバルブによって生成された油圧によって制御される。尚、N速から(N+1)速への変速時には、少なくとも第1締結要素C1を解放し、第2締結要素C2を締結する。このとき、図示しない他の締結要素が締結している場合であっても、その締結要素は締結したままとする。
また、複数の変速段を達成するために更に締結要素が追加される場合であっても、変速時には、変速前の所定の締結要素が解放し、変速後の所定の締結要素が締結することで変速するものであればよく、解放する締結要素と締結する締結要素とでトルクの分担を切り換えつつ変速を行う制御を掛け換え制御と定義する。
コントロールユニット3は、エンジン回転数センサ4,車速センサ5,スロットル開度センサ6,ピストンストローク終了判断手段7からの信号が入力され、これらの信号に基づいて図外のコントロールバルブで生成される油圧を制御し、変速段や第1締結要素C1と第2締結要素C2の締結容量を制御する。尚、エンジン回転数は自動変速機2に入力される入力回転数(Input回転数)を表し、車速は自動変速機2から出力される出力回転数(Output回転数)を表す。また、ギヤ比は(入力回転数)/(出力回転数)で表される。
ピストンストローク終了判断手段7は、例えば第2締結要素C2の油圧回路に設置した油圧スイッチのON・OFF、油圧センサの検出値、もしくはピストンストロークの制御を開始した時点からの経過時間などから適宜選択的に構成され、特に限定はしない(特許請求の範囲に記載のピストンストローク終了判断手段に相当)。
図2は自動変速機2におけるN速及び(N+1)速を示す共線図である。図2中、Inputは入力軸Inputの回転数を表す。Outputは出力軸Outputの回転数を表す。M1の軸と共線図の線の交点は、第1締結要素C1の締結により規定される回転メンバM1の回転数を表し、M2の軸と共線図の線の交点は、第2締結要素C2の締結により規定される回転メンバM2の回転数を表す。また、Input,Output,M1,M2の距離a,b,cはギヤ比を表す。距離a,b,cとギヤ比の関係は以下のようになる。
n速のギヤ比=(a+b)/b
(n+1)速のギヤ比=(a+b+c)/(b+c)
図2に示す共線図は、回転数の関係以外にトルクの関係も表記可能であり、剛体レバーが図2上でn速と注釈している線を剛体レバー(1)、(n+1)速と注釈している線を剛体レバー(2)と呼ぶこととする。
本実施例1のアップシフトとは、剛体レバー(1)が剛体レバー(2)の状態に変化することを表す。ちなみに、出力軸Outputのイナーシャ(車体のイナーシャに相当)は、入力軸Input(エンジンのイナーシャに相当)のイナーシャに比べて遙かに大きいため、変速においては出力軸回転数は変化しないものとする。
また、本明細書では、締結容量及び分担トルクについて、次のように定義する。
第1締結要素C1を使って説明すると、通常油圧等により制御している第1締結要素C1が伝達可能なトルクは、そのときの油圧に応じて以下の式で表される。
T=2×N×μ×R×(AP−F)
N:クラッチ枚数
μ:摩擦係数
R:クラッチ半径
A:クラッチパック面積(油圧受圧面積)
P:油圧
F:リターンスプリング力
この伝達可能なトルクTを第1締結要素の締結容量と定義する。なお、締結要素を全く滑らせたくない場合には、実際の伝達に必要とされるトルクよりも、安全率を考えて大きなトルクになるよう上記の油圧が設定されるのが一般的である。よって、第1締結要素C1の締結容量と、第1締結要素C1が締結することにより実際に伝達している第1締結要素のトルクTC1とは必ずしも一致しない。ここで、入力トルクが発生することにより、第1締結要素C1が全く滑らない状態で実際に伝達しているトルクそのものをC1分担トルクと定義する。
なお、C1分担トルクを言い換えると、
(1)第1締結要素C1が完全締結をしていて、相対回転がない場合には、C1分担トルクは、第1締結要素C1が伝達しているトルクそのものである。
(2)第1締結要素C1が滑っていて、相対回転がある場合には、第1締結要素C1の相対回転変化率がゼロになるような第1締結要素C1の締結容量、伝達トルクがC1分担トルクとなる。
ということになる。
図3は本実施例のアップシフト時における掛け換え変速制御を表すフローチャートである。このフローチャートは、アップシフト制御中に、所定の周期(例えば10msec)に実施される。また、図4はアップシフト時における締結側と解放側の制御状態を表すタイムチャートであり、R1〜R4はアップシフト制御全般の解放側の制御フェーズを表し、A1〜A4はアップシフト制御全般の締結側の制御フェーズを表す。
ステップ101では、後述する掛け換え制御A3,R3が開始しているかどうかを判断し、掛け換え制御A3,R3が開始していない時はステップ102へ進み、それ以外はステップ109へ進む。
ステップ102では、ギヤ比がエンジン空吹きを判断する第1ギヤ比よりも大きいかどうかを判断し、大きい時はステップ103へ進み、それ以外はステップ106へ進む。
ステップ103では、締結側(第2締結要素)のピストンストロークが終了したかどうかを判断し、終了した時はステップ104へ進み、それ以外はステップ105へ進む。
ステップ104では、締結側(第2締結要素)において掛け換え制御A3を実行し、解放側(第1締結要素)において掛け換え制御R3を実行する。
ステップ105では、締結側(第2締結要素)において後述するピストンストローク制御A1を実行し、解放側(第1締結要素)において後述する空吹き保持制御R2を実行する。ギヤ比>第1ギヤ比となった後、ピストンストロークが終了するまでは、空吹き保持制御を実行して、ギヤ比の変化速度を抑制し、ギヤ比を第1ギヤ比から所定範囲内で保持するようにする。(請求項5に対応)。
ステップ106では、締結側のピストンストロークが終了したかどうかを判断し、終了した時はステップ107へ進み、それ以外はステップ108へ進む。
ステップ107では、締結側(第2締結要素)において締結容量保持制御A2を実行し、解放側(第1締結要素)において空吹き促進制御R1を実行する。ここで、この締結容量保持制御とは、ピストンストローク終了判断手段7によりピストンストロークを終了した、締結容量がほぼゼロの状態で制御するものをいう。
ステップ108では、締結側(第2締結要素)においてピストンストローク制御A1を実行し、解放側において後述する空吹き促進制御R1を実行する。以上より、掛け換え制御を始める時には、ギヤ比は確実に低速側のギヤ比方向に変化することを保証する。
ステップ109では、ギヤ比が空吹き終了を表す第2ギヤ比(第1ギヤ比>第2ギヤ比≧変速前変速段のギヤ比)よりも大きいかどうかを判断し、大きい時はステップ110へ進み、それ以外はステップ114へ進む。
ステップ110では、解放側(第1締結要素)の締結容量が残っているかどうかを判断し、残っている時はステップ111へ進み、完全解放であればステップ114へ進む。
ステップ111では、締結側(第2締結要素)の締結容量がイナーシャフェーズを促進可能な締結容量よりも小さいかどうかを判断し、小さい時はステップ112へ進み、それ以外はステップ113へ進む。
ステップ112では、締結側(第2締結要素)において締結側掛け換え制御A3を実行し、解放側(第1締結要素)において解放側掛け換え制御R3を実行する。
ステップ113では、締結側(第2締結要素)において後述するイナーシャフェーズ促進制御A4を実行し、解放側(第1締結要素)において解放側掛け換え制御R3を実行する。
ステップ114では、締結側(第2締結要素)においてイナーシャフェーズ促進制御A4を実行し、解放側(第1締結要素)において後述する締結容量ゼロ制御R4を実行する。以上により、掛け換え制御開始以降の制御について、以下のことを保証している。
・ギヤ比が変速前ギヤ比に近付いた場合には、解放側締結容量ゼロ制御R4を行い、かつ、締結側はイナーシャフェーズ促進制御A4を行う。
・解放側の締結容量がゼロとなったと判断された時点で、締結側は即座にイナーシャフェーズ促進制御A4を行う。
・上記の条件が成立するまでは、締結側、解放側共にそれぞれの掛け換え制御を行う。ただし、締結側は、締結側容量がイナーシャフェーズを促進可能な締結容量に到達し時点でイナーシャフェーズ促進制御A4を行う。
上述の制御内容について、図4の変速時タイムチャート及び共線図(図5〜図8)を用いて説明する。尚、以降では、エンジン回転と入力軸回転を同じように表現する。実際に扱う回転数は入力軸回転(タービン回転)であるが、実際の変速に影響を与えるイナーシャはエンジンに起因するからである。
(アップシフト前の定常状態)
図5は、アップシフト前のN速における剛体レバーのトルクバランスを表す図である。エンジン1から入力されるトルクをTIN,第1締結要素C1の締結により伝達しているトルクをTC1,出力軸トルクをT(1) OUTとすると、トルクバランスは、
TIN+TC1=T(1) OUT
と表される。
また、N速で定常状態であるとすると、モーメントは、
a・TIN−b・TC1=0
よって、
a・TIN=b・TC1
と表される。
(アップシフト開始時)
時刻t1において、変速指令に基づき、締結側の第2締結要素C2では、ピストンストロークを終了させるピストンストローク制御A1を実行する。一般に、ピストンが押圧して締結力を発生するような締結要素では、ピストンのストロークが終了していない段階では締結力が発生しない。つまり、この段階では指令油圧通り締結要素の締結容量は働かない。指令油圧で締結要素の締結容量を狙い通りに動かすためには、ピストンストロークが終了していることが必須となる。そこで、変速指令とともに、締結側の第1締結要素C1のピストンストローク制御A1を行い、ピストンストローク終了後に掛け換え制御を始めるようする。
なお、このピストンストローク制御A1は、油圧を使って制御するときには、例えば、変速指令とともに所定のゲイン量で指令油圧を増加させたり、初期に高い指令油圧を発した後これより低い指令油圧でホールドさせる、いわゆるプリチャージ制御など、公知の制御が適宜選択的に適用可能であり、特に限定されない。
一方、第1締結要素C1(解放側)では、空吹け促進制御R1を実行する。ここで、空吹け促進制御R1とは、締結側の第2締結要素C2の締結容量が上昇する前に、解放側の第1締結要素C1の締結容量をC1分担トルクTC1以下に低下させ、変速前の変速段のギヤ比より低速側へギヤ比を変化させる制御である。具体的には、例えば、解放側の第2締結要素C2の締結容量を変速指令とともにC1分担トルクTC1以上の締結容量までステップ状に低下させ、この下げられた締結容量から所定ゲイン量で締結容量を減少させる。なお、この所定ゲイン量は、入力トルクに応じて設定することが好ましく、入力トルクが大きいほどゲイン量が大きくなるよう設定することが好ましい。
時刻t2において、空吹き促進制御R1の結果、第1締結要素C1の締結容量がC1分担トルクよりも低下し始めるため、第1締結要素C1の伝達可能なトルクが入力されるトルクを下回り、容量不足となり第1締結要素C1は滑り出す。このとき入力トルクは入力回転を引き上げるように作用しているため、入力回転は上昇し、ギヤ比は低速段側のギヤ比に変化する。
このとき、解放側の締結容量を低下させるゲイン量が大きすぎると、エンジン回転の急上昇や出力軸のトルクの急低下を伴うため、ギヤ比のゲイン量をそれまでよりも小さなものとすることが好ましい。
以下、図6を使ってC1分担トルクよりも小さな第1締結要素の締結トルクTC1(空吹き保持制御中のトルク)となったときの剛体レバーのトルクバランス状態を説明する。出力軸回転数が一定、入力トルクのイナーシャ変化を考慮した入力トルクTIN(INR)を用いた場合、トルクバランスは下記(式1)により表される。
(式1)
TIN(INR)+TC1=T(2) OUT
ここで、T(2) OUTは、第1締結要素C1が滑って、エンジン回転が上昇している時の出力軸トルクである。また、TIN(INR)は、イナーシャ変化を考慮した入力トルクで、TIN(イナーシャ変化を考慮しない入力トルク)から、エンジン回転の変化に費やしたイナーシャ変化分のトルクを加算したものである。
エンジン回転が上昇している時には、イナーシャ分のトルクは負値となるため、
TIN(INR)<TIN
となり、エンジン回転が下降している時には正の値となるため、
TIN(INR)>TIN
となる。
ここでは、入力軸に付随しているイナーシャ(実際にはエンジンのイナーシャ)、出力軸トルクに付随しているイナーシャ(実際には車両のイナーシャ)に比較して、自動変速機内の他の回転要素のイナーシャは、無視できる程小さいので、上記式でもこれ以降も考慮しないこととする。
また、剛体レバーが回転するため、モーメントは下記(式2)により表される。
(式2)
a・TIN(INR)=b・TC1
この状態では、エンジン回転は上昇を続けているので、
TIN(INR)<TIN
となり、TC1は空吹いていないときよりも小さいことがこの式からも分かる。
また、TIN(INR)とTC1の和で表される出力軸トルクT(2) OUTも、変速前よりも小さくなる(T(1) OUT >T(2) OUT)。
時刻t3において、ギヤ比がエンジンの空吹きを表す変速前の変速段のギヤ比より低速側に設定された第1ギヤ比に到達すると、締結側のピストンストローク制御A1が終了していない場合には、空吹き保持制御R2を実行する。ここで、空吹き保持制御R2とは、解放側の第1締結要素C1の締結容量にて、ギヤ比の変化速度を抑制し、ギヤ比が所定の範囲に収まる状態を保持し続ける制御である。具体的には、第1締結要素C1の締結容量の低下ゲイン量をそれまでよりも小さくしたり、もしくは第1ギヤ比に到達した時点の締結容量で保持させたり、またはC1分担トルク以下であって第1ギヤ比の到達時点の締結容量との間の締結容量で保持させたりする。その結果、ギヤ比の変化速度が抑制され、ギヤ比を所定の範囲内に保持する。そして、ピストンストローク制御A1が終了するまで空吹き保持制御R2を継続する。なお、ギヤ比が第1ギヤ比に到達した時点で、締結側のピストンストローク制御A1が終了している場合には、この空吹き保持制御R2は省略される。
このときの現象を説明する。上記(式2)に当てはめて考えると、TC1が大きくなるため、TIN(INR)も大きくなることがわかる。これは、エンジンの回転上昇率が小さくなることにより、負側のエンジンのイナーシャトルクが小さく(絶対値としては大きく)なることと一致している。
また、上記(式1)を参照すると、TIN(INR)もTC1も大きくなっているため、TOUTもエンジン回転が上昇を続けている間より大きくなる。
もしTC1が上記第1締結要素C1の分担トルクと全く等しい状態が実現できたとすると、
TIN(INR)=TIN
となる。これは、イナーシャトルクが0であることを意味しており、エンジン回転が変化していないことを表している。これは、上記第1締結要素C1の分担トルクの説明と一致していることが分かる。
時刻t4において、ピストンストローク制御A1が終了すると、第1締結要素(解放側)C1及び第2締結要素(締結側)C2ともに、トルクの分担を切り換える掛け換え制御A3,R3を開始する。ここで、締結側掛け換え制御A3とは、第2締結要素C2の締結容量をイナーシャフェーズ促進容量に向けて所定ゲイン量で上昇させる制御であり、解放側掛け換え制御R3とは、第1締結要素C1の締結容量をゼロに向けて所定ゲイン量で低下させる制御である。例えば、油圧を使って制御する時には、入力トルクに応じた所定のゲイン量で油圧を増加させ、解放側では入力トルクに応じた所定ゲイン量で油圧を低下させることが好ましい。
ここで、従来例と比較しながら、本実施例の作用を説明する。
(従来例の変速作用)
図8はエンジンの空吹きを行わない従来の掛け換え制御を行った場合の剛体レバーのトルクバランスを表す図である。図8に示すように、第1締結要素C1の締結容量を下げ(TC1→TC1'に低下)、第2締結要素C2の締結容量を増大(0→TC2'→TC2に上昇)させる。掛け換え制御開始直後のトルクフェーズにおける出力軸トルクをTOUT'とすると、このときのトルクのバランス式は、
{(a+b)/b}・TIN(INR)−a/b・TC2'=TOUT'
と表される。
TC2'>0であるため、TC2'が増加するほどTOUT'が低下していくことが分かる。
第2締結要素C2が分担トルクに到達したときのTC2
TC2={a/(b+c)}・TIN
である。
第2締結要素C2が分担トルクを越えると、
TC2>{a/(b+c)}・TIN
となり、式4から、
TC1<0
となることが分かる。このとき、出力軸トルクTOUTは式3より、
{(a+b+c)/(b+c)}・TIN=TOUT
となることが分かる。つまり、変速終了後の出力軸トルクより更に低い出力軸トルクとなる。ここで、第1締結要素C1の締結容量が所定値よりも小さいと、第2締結要素C2の容量によりイナーシャフェーズに移行する。
このとき、入力トルクにはイナーシャトルクが加算されるため、それ以降は上記関係式が成立しなくなる。ちなみに、イナーシャトルクを含めた入力トルクが増加することにより、出力軸トルクは大きくなる方向に変動する。
(本実施例の変速作用)
図7は締結側及び解放側掛け換え制御A3,R3が開始された段階での剛体レバーのトルクバランスを表す図である。上記と同じように空吹き保持制御中における第1締結要素C1が伝達するトルクをTC1,変速終了時の第2締結要素C2が伝達するトルクをTC2とする。
エンジンの空吹きに係わらず、下記関係が常に成立する。
トルクバランスの関係から、
(式3)
TIN(INR)+TC1+TC2=T{3} OUT
モーメントの関係から、
(式4)
a・TIN(INR)=b・TC1+(b+c)・TC2
が成立する。
ここで、第2締結要素C2の締結容量によりトルク伝達が行われると、第2締結要素C2のトルクTC2は、
TC2={a/(b+c)}・TIN(INR)
となる。
このとき、第1締結要素C1の伝達トルクTC1は0とならないため、式3より出力軸トルクは、
(a+b+c)/(b+c)・TIN(INR)+TC1=TOUT
となる。
TIN(INR)>TIN
TC1>0
であるため、この段階で出力軸トルクTOUTは変速後変速段相当のトルクまで低下していないことが分かる。
時刻t5において、第2締結要素C2の締結容量がイナーシャフェーズを促進可能な締結容量に到達すると、イナーシャフェーズ促進制御A4を開始する。ここで、イナーシャフェーズを促進可能な締結容量とは、締結側の締結容量のみで変速後ギヤ比から変速前ギヤ比方向にギヤ比が変化しない締結容量であり、油圧で制御する場合には、例えば、入力トルクに応じたパラメータと車速とに基づいてこの締結容量に対応する油圧を設定し、到達判定は、かけかえ制御A3中の指令油圧がこの油圧に到達したか否かをもって判定をする。また、イナーシャフェーズ促進制御A4とは、締結側の第2締結要素C2の締結容量を、イナーシャフェーズ促進容量から入力トルクや車速によって決まる、締結側掛け換え制御A3よりも緩やかな勾配で増加させ、ギヤ比を所望の変化速度で変化させる制御である。そして、この時刻における現象について説明すると、第2締結要素C2の締結容量が上昇して、第2締結要素C2の締結点へ向かうトルクを発生させる。すると、剛体レバーには第1締結要素C1の持つ締結容量に相当するトルクTC1と第2締結要素C2の持つ締結容量に相当するトルクTC2が同一方向に作用し、エンジン回転を押し下げる。すなわち、ギヤ比がN速のギヤ比に再度近づくこととなる。この作用によってエンジントルクがイナーシャ分増大する。
尚、本実施例では、第2締結要素C2において、イナーシャフェーズを促進可能な締結容量に到達させるとともに、第1締結要素C1においては、第2締結要素 C2がイナーシャフェーズ促進容量に到達した後に締結容量ゼロとなるように制御している。これは、上述したように、剛体レバーがN速に近づくまでは第1及び第2締結要素C1,C2に極力締結トルクを与えた方がエンジンのイナーシャを効率よく上乗せすることができるからである。
時刻t6において、第2締結要素C2の締結容量が分担トルクを越え、第1締結要素C1の締結容量がゼロとなると、解放側掛け換え制御R3を終了し、締結容量ゼロ制御R4を開始する。ここで、締結容量ゼロ制御とは、解放側の締結容量をゼロ状態を継続する制御である。具体的には、油圧で制御する場合には、指令油圧をゼロにする。
また、締結容量がゼロになったか否かは、ピストンストローク検出手段7を第1締結要素C1に設け、この検出手段の結果を使ったり、指令油圧がゼロを指令してからの経過時間などをもって判定できる。
そして、この時刻t6の現象について説明すると、式3,4から下記関係式が得られる。
TIN(INR)+TC2=T{3} OUT
a・TIN(INR)=(b+c)・TC2
これは、イナーシャフェーズの式そのものである。エンジンの回転降下によるイナーシャトルク分のトルクが出力軸に出力され、出力軸トルクは大きくなることが分かる。
時刻t7において、ギヤ比が空吹き終了を判断する第2ギヤ比に到達した段階では、締結側の第2締結要素C2ではイナーシャフェーズ促進制御A4が継続され、解放側の第1締結要素C1では容量ゼロ制御R4が継続された状態となる。
なお、ギヤ比がエンジンの空吹きにより一旦上昇し、その後N速のギヤ比(第2ギヤ比)に戻った際、解放側の第1締結要素C1の締結容量が残っていると、上述したように剛体レバーに変速方向のモーメントと逆向きのトルクが作用し、出力軸トルクの減少による引きショックにつながる。よって、ギヤ比が第2ギヤ比に到達したときには、第1締結要素C1の締結容量をゼロにしておくことで、出力軸トルクの減少による引きショックを確実に抑制することができる。
また、タイムチャートには図示されてはいないが、ステップ110→ステップ114の流れに示すように、第1締結要素C1の締結容量がゼロに到達する前に、ギヤ比が第2ギヤ比に到達したときは、即座に締結容量をゼロとなるような制御指令を出力する。これにより、第1締結要素C1の伝達トルクが反転することにより、出力軸トルクが減少するために生じる引きショックを最小限に抑制することができる。
同様に、第2締結要素C2の締結容量がイナーシャフェーズを促進可能な締結容量に到達する前であっても、ギヤ比が第2ギヤ比よりも小さくなったときは、第 2締結要素C2の締結容量をイナーシャフェーズを促進可能な締結容量までステップ的に制御する。これにより、トルクフェーズによる引きショックを最小限に 抑制することができる。
図9はイナーシャフェーズ進行時のトルクバランスを表す図である。時刻t7以降、締結側の第2締結要素C2においてイナーシャフェーズ促進制御A4を行い、変速を進行させる。図9に示すように、第1締結要素C1の締結容量が0に制御されているため、図8に示すように第1締結要素C1の伝達トルクが反転することにより、出力軸トルクが減少するために生じる引きショックが発生することがない。また、出力軸回転数がほぼ一定であるにも係わらず、変速後には変速前に対してギヤ比が減少するため、エンジン回転数を引き下げる必要がある。このとき、エンジン1のイナーシャトルクを吸収し変速を終了する。
以上説明した実施例1の自動変速機の変速制御装置のアップシフト制御について作用効果を列挙する。
1)アップシフト時において、掛け換え制御前にギヤ比を変速前の変速段のギヤ比より低速側(第1ギヤ比)となるように第1締結要素C1の締結容量を低下させることで、エンジン回転が持つイナーシャエネルギを通常の変速前変速段の時よりも高い状態とする。次に、この低速側にギヤ比が変化した状態から、トルクの分担を切り換える掛け換え制御を開始し、解放側の第1締結要素C1の締結容量をギヤ比がアップシフト前の変速段となる前(第2ギヤ比到達時)に所定締結容量以下(望ましくはゼロ)とすることで、下記の効果を得ることができる。
・第1締結要素C1と第2締結要素C2で協調して入力回転を落とすことで、変速終了後変速段相当の出力軸トルクまで出力軸トルクを落とさないままエンジン回転を下げることができる。
・通常より高いエンジンのイナーシャエネルギを、変速前変速段のギヤ比に到達する前に放出することで、出力軸トルクを通常のトルクフェーズ時の出力軸トルクよりも高い状態にすることができる。
これにより、従来には回避できなかったトルクフェーズの引きショックを小さくすることが可能となり、スムーズなアップシフトを達成することができる(請求項1,3に対応)。尚、第2ギヤ比に到達時の第1締結要素C1の締結容量は、必ずしもゼロでなくとも実ギヤ比が変速前変速段のギヤ比を下回った後に、第2締結要素C2による入力回転の下げの効果を極端に妨げない範囲であればよく、良好に上記制御を達成することができる。
2)第2締結要素C2において、イナーシャフェーズ促進容量に一気に到達させ、第1締結要素C1においては、第2締結要素C2がイナーシャフェーズを促進 可能な締結容量に到達した後に容量ゼロとなるように制御している。すなわち、実ギヤ比が変速前変速段のギヤ比を下回った後に、第1締結要素C1と第2締結 要素C2で協調してエンジン回転を落とすことによる出力軸トルクの降下防止効果を有効に行え、出力軸トルクが減少するために生じる引きショックを効率よく 改善することができる。
3)第1締結要素C1の締結容量がゼロに到達する前に、ギヤ比が第2ギヤ比に到達したときは、即座に締結容量をゼロとする。これにより、第1締結要素C1 の伝達トルクが反転することにより、出力軸トルクが減少するために生じる引きショックを最小限に抑制することができる。
4)これまで述べてきた現象にて、空吹き後のエンジン回転の低下が、第1締結要素C1の容量が大きいことによって起きているとすると、第1ギヤ比後にギヤ 比が変速前ギヤ段のギヤ比に到達した後は、一旦その回転低下がとまってしまい、その後再び従来技術と同様のトルクフェーズが起きてしまう可能性がある。そ こで、第2締結要素C2の締結容量がイナーシャフェーズ促進容量に到達する前であっても、ギヤ比が第2ギヤ比よりも小さくなったときは、一気に第2締結要 素C2の締結容量をイナーシャフェーズの促進可能な締結容量とする。これにより、上述したような、空吹き後のエンジン回転落ちが、一旦その回転落ちがと まってしまったり、その後再び従来技術と同様のトルクフェーズが起きてしまうといった事態を回避することができる。
5)第2締結要素C2(締結側)では、ピストンストロークを終了させるピストンストローク制御A1を実行する。すなわち、締結要素はピストンのストローク が終了した段階で初めて締結力が発生する。もし、ピストンストロークが終了する前に、締結容量を制御しようとしても、その締結要素は容量を発生できないば かりか、ピストンストローク終了後にオーバーシュート等、急激な容量変化を伴った挙動をし、不快な変速ショックにつながる可能性がある。よって、ピストン ストローク制御A1を実行しておくことで、油圧で制御する場合には指令油圧に素早く応答することができる。また、第1ギヤ比に到達した後であっても、ピス トンストロークが終了していなければ、空吹き保持制御R2を維持し、確実にピストンストロークを終了させた後に、掛け換え制御を開始させる。これにより、 その後の掛け換え制御をスムーズに達成することができる。

6)ギヤ比がエンジンの空吹きにより一旦上昇し、その後N速のギヤ比(第2ギヤ比)に戻った際、解放側の第1締結要素C1の締結容量が残っていると、上述したように剛体レバーに変速方向のモーメントと逆向きのトルクが作用し、出力軸トルクの減少による引きショックにつながる。よって、ギヤ比が第2ギヤ比に到達したときには、第1締結要素C1の締結容量を、トルク伝達ができない、つまりゼロにしておくことで、出力軸トルクの減少による引きショックを確実に抑制することができる
7)ギヤ比がエンジンの空吹きを表す変速前の変速段のギヤ比より低速側に設定された第1ギヤ比に到達したとき、締結側のピストンストローク制御A1が終了していない場合には、解放側の第1締結要素C1の締結容量の低下ゲイン量を変えてそれまでよりも小さくしたり、もしくは第1ギヤ比に到達した時点の締結容量で保持させたり、またはC1分担トルク以下であって第1ギヤ比の到達時点の締結容量との間の締結容量で保持する空吹け保持制御を実行して、ギヤ比の変化速度を抑制し、ギヤ比が所定の範囲に収まる状態を保持し続けるようにした。これにより、エンジン回転が過剰に上昇したり、出力軸トルクが急低下してしまうのを防止できる。
8)空吹け促進制御R1を行う際に、解放側の第2締結要素C2の締結容量を変速指令とともにC1分担トルクTC1以上の締結容量までステップ状に低下させ、この下げられた締結容量から所定ゲイン量で締結容量を減少させ、ギヤ比が低速側に変化し始めたら、解放側の締結容量の低下ゲイン量をそれまでよりも小さなものとすることで、解放側の締結容量を低下させるゲイン量をそのままにしておくと、エンジン回転の急上昇や出力軸のトルクの急低下を伴い運転者に違和感を与える恐れがあるが、上記のように制御することで、エンジン回転の急上昇や出力軸のトルクの急低下を伴い運転者に違和感を与えるといったことがなく、しかも短時間で変速を行うことができる。
実施例1の自動変速機の変速制御装置を示す全体システム図である。 実施例1の自動変速機のN速及び(N+1)速の共線図(トルクバランス図)である。 実施例1のアップシフト制御を表すフローチャートである。 実施例1のアップシフト制御を表すタイムチャートである。 実施例1のN速定常状態における共線図(トルクバランス図)である。 実施例1の空吹き促進制御時の共線図(トルクバランス図)である。 実施例1の掛け換え制御時の共線図(トルクバランス図)である。 従来技術のアップシフト制御を表す共線図(トルクバランス図)である。 実施例1のイナーシャフェーズ促進制御時の共線図(トルクバランス図)である。
符号の説明
1 エンジン
2 自動変速機
3 コントロールユニット
4 エンジン回転数センサ
5 車速センサ
6 スロットル開度センサ
7 ピストンストローク終了判断手段

Claims (3)

  1. アップシフト前の変速段では締結し、アップシフト後の変速段では解放している第1締結要素と、
    アップシフト前の変速段では解放し、アップシフト後の変速段では締結している第2締結要素と、
    アップシフト時に所定条件が成立したときは、前記第1締結要素の締結容量を低下させる解放制御を実行すると共に、前記第2締結要素の締結容量をイナーシャフェーズの促進可能なイナーシャフェーズ促進締結容量へ上昇させる締結制御を実行する掛け換え制御手段と、
    を備えた自動変速機の変速制御装置において、
    前記所定条件を、前記第1締結要素の締結容量を低下させて、ギヤ比が前記アップシフト前の変速段のギヤ比よりも低速側の所定ギヤ比に到達していることとし、
    前記掛け換え制御手段は、前記第2締結要素の締結容量を前記イナーシャフェーズ促進容量まで上昇させ、前記第1の締結要素の締結容量を、前記第2締結要素の締結容量が前記イナーシャフェーズ促進容量に到達後、アップシフト前の変速段のギヤ比に到達する前にトルク伝達が行われない値である所定締結容量以下となるように解放制御することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  2. 請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、
    前記掛け換え制御手段における第締結要素の締結制御は、前記イナーシャフェーズ促進締結容量となる前に、ギヤ比が前記アップシフト前の変速段に到達した時は、前記第2締結要素の締結容量を即座に前記イナーシャフェーズ促進締結容量とすることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  3. 請求項1または2に記載の自動変速機の変速制御装置において、
    前記第2締結要素は、ピストンが押圧することにより作動する締結要素で構成し、
    前記第2締結要素の前記ピストンのストロークが終了したかどうかを判断するピストンストローク終了判断手段を設け、
    前記所定条件を、ギヤ比が前記低速側の所定ギヤ比に到達し、かつ、前記第2締結要素の前記ピストンのストロークが終了したと判断されたときとしたことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
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