JP4565137B2 - 新規酵母及びその取得方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の糖に対して低資化性であり、原料利用率が良い有機酸高生産性新規酵母及びその取得方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
清酒酵母を馴養あるいは変異処理することにより、親株よりリンゴ酸を高生産する株を取得した例としては、以下の報告がある。親株の1.7〜2.1倍程度のリンゴ酸を高生産する酵母としては、コハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤であるテノイルトリフルオロアセトン又はオキシカルボキシン耐性酵母(特開平6−121670号公報)、アコニット酸ヒドラターゼの阻害剤感受性、基質耐性又は基質感受性酵母(特開平11−46757号公報)が知られている。親株の約3倍程度リンゴ酸を多く生産する酵母については、コハク酸デヒドロゲナーゼの阻害剤であるジメチルサクシネートの感受性酵母(特開平3−175975号公報)、爽快な酸味を生成する泡なし清酒酵母(特開平5−317036号公報)、メタ亜硫酸カリウムに対する馴養により取得した酵母(特開平7−203951号公報)がある。また、親株の約5〜6倍程度のリンゴ酸を生産するシクロヘキシミド耐性一倍体酵母(日本醸造協会誌、第88巻、第8号、第645〜647頁、1993年)及び親株の約4〜6倍程度のリンゴ酸を生産するシクロヘキシミド耐性酵母(日本醸造協会誌、第90巻、第10号、第751〜758頁、1995年)が知られている。しかしながら、前者は一倍体酵母であり、また後者は変異、交雑を繰り返しているため増殖性が低く、いずれも日本酒度の切れ、つまり原料利用率が悪いものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術にかんがみ、原料利用率の良い、有機酸を高生産する実用性の高い新規酵母、及びその取得方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明はマルトース及び/又はガラクトース低資化性であり、原料利用率の良い有機酸高生産酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) M20(FERM P−17980)に関し、第2の発明は、マルトース低資化性を指標とする有機酸高生産酵母の取得方法に関する。
【0005】
本発明者らは、糖の資化性が変った酵母を選択することにより、有機酸生合成のバランスが変化し、有機酸生成量の変化した株が選択できるのではないかと考えた。特に、酵母のマルトース及び/又はガラクトース資化性に注目し、変異処理した酵母から、TTC(トリフェニルテトラゾリウムクロリド)染色により、マルトース及び/又はガラクトース資化性の低下したコロニーを選択し、それらの有機酸生産性を調べた結果、マルトース及び/又はガラクトース資化性が低下したコロニーから有機酸生産性の高い株が高頻度に分離できることを見出した。
その中には、特にリンゴ酸を高生産する変異株が含まれていたが、この変異株は、従来知られているリンゴ酸高生産株と同等以上のリンゴ酸生産性を示し、しかも増殖性は親株と比べて遜色がなく、原料利用率も良かった。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0007】
本発明における酵母のマルトース及び/又はガラクトース低資化性とは、酵母をマルトース含有培地又はガラクトース含有培地、例えば、SM液体培地(0.67w/v%イーストニトロゲンベース、2w/v%マルトース)又はSGal液体培地(0.67w/v%イーストニトロゲンベース、2w/v%ガラクトース)にて3日間培養したとき、親株に比べて増殖しにくい、又は生育が悪いことを言う。
【0008】
本発明のマルトース及び/又はガラクトース低資化性酵母の取得方法に特に限定はないが、一般的には、次のように行う。まず、前培養して集菌した親株を適当な変異剤で変異処理する。次いで、変異処理した酵母をマルトース及び/又はガラクトースを含む培地で数時間培養し、これにナイスタチンを添加して更に培養し、マルトース及び/又はガラクトース資化性を有する酵母を死滅させる(以下、ナイスタチン濃縮という)。ナイスタチン濃縮を繰り返して生き残った酵母をグルコースを含む寒天培地に接種して培養後、マルトース及び/又はガラクトースとTTCを含む寒天培地を重層して、ピンク色を呈するコロニー、すなわち、マルトース及び/又はガラクトース低資化性のコロニーを選択する。これらのコロニーの有機酸生産性の評価方法は任意であるが、例えば、各コロニーを麹汁培地で培養した後、上澄液を有機酸分析装置等により、有機酸生産性を評価することができる。
【0009】
本発明におけるマルトース及び/又はガラクトース低資化性酵母の取得に使用する親株としては、特に限定はないが、サッカロミセス・セレビシエに属する酵母(清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母、ビール酵母又はパン酵母等)が挙げられる。また、親株としては、変異処理株の他に野性株、馴養株、交雑株、細胞融合株及びプラスミド等による形質転換株をも含む。変異処理方法としては、酵母に公知の変異誘導方法、例えば紫外線、放射線を照射させる方法、又はN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチメタンスルホネート(以下、EMSと称す)等の薬剤を適宜用いることにより行えばよく、有効な変異処理としてはEMS処理が好ましい。
【0010】
本発明における原料利用率が良いとは、一般的な培養条件においては、残存するグルコース濃度が対照(例えば、K−701株やNo.28株)に比べて低いことをいい、また、小仕込試験においては、残存グルコース濃度及び日本酒度が対照に比べて、それぞれ低い及び高いことをいう。
【0011】
本発明における有機酸高生産性酵母とは、後述する実施例1に記載の仕込条件において、リンゴ酸の濃度及びコハク酸の濃度の総和が2500ppm以上、より好ましくは2800ppm以上で、かつリンゴ酸の濃度が1500ppm以上、より好ましくは2110ppm以上である酵母のことをいう。
【0012】
本発明にて得られる酵母は、マルトース及び/又はガラクトース低資化性で、有機酸、特にリンゴ酸を高生産する新規酵母であり、グルコースを炭素源とする培地での生育が親株に比べて遜色がないので、清酒、焼酎、ワイン、ビール等の酒類、又はパン等の食品を製造すれば、爽快な口当りで、香気に優れ、酸味が向上した、原料利用率の良い製品を製造することができる。これらの酒類、又は食品の原料は特に限定するものではなく、例えば、精白及び/又は未精白の粳米、糯米、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、ヒエ、アワ、コウリャン、ソバ、トウモロコシ、モロコシ、マイロ等の穀類が挙げられるが、一般的な原料を適宜用いることができる。また、本発明の新規酵母は1種類単独又は2種類以上併用してもよく、該新規酵母にK−701株等の公知酵母を組合せて使用してもよい。更に、該新規酵母又は該公知酵母を用いて製造した酒類・食品を混合して新規の酒類・食品も製造できる。
【0013】
本発明により、酸度が高く、有機酸、特に、リンゴ酸並びに高級アルコールを高生産し、しかも親株に比べて遜色のない増殖性を示す、原料利用率の良い、従って実用性の高い酵母が提供される。また、本発明により有機酸高生産性酵母の効率的な取得方法が提供される。
【0014】
本発明の代表的菌株であるM20株は、Saccharomyces cerevisiae M20と命名、表示され、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17980として寄託されている。
【0015】
本発明の代表的菌株であるM20株は、K−701株の変異株であり、それらの菌学的性質を以下に示す。
(菌学的性質)
1.形態学的性質
YPD培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)で30℃、2日間培養した後、顕微鏡で観察した。
a)形:卵円形
b)大きさ:長さ4.7〜7.9μm、幅3.8〜5.5μm
2.増殖の形態:出芽
3.生化学的観察
a)糖の発酵性
0.67w/v%イーストニトロゲンベース(ディフコ社製)、下記記載の糖(2w/v%)をダーラム管入り試験管に分注して、当該菌株を接種し、30℃で5日間培養して、その炭酸ガス発生の有無を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (±)
スクロース (+) マルトース (±)
ラクトース (−) メリビオース (−)
b)糖の資化性
0.67w/v%イーストニトロゲンベース(ディフコ社製)、下記記載の糖(2w/v%)を用いて、オキザノグラフ法により、30℃で14日間の生育を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (±)
スクロース (+) マルトース (±)
ラクトース (−)
c)硝酸塩の同化性:(−)
硝酸塩は硝酸カリウムとしてウイッカーハムの炭素化合物同化試験用培地(ディフコ社製)を用いて、オキザノグラフ法により生育を観察した。
d)TTC染色性:ピンク色
e)β−アラニン培地、35℃、3日間培養での生育:(−)
4.高泡の形成
清酒の小仕込みを行ったところ、高泡の形成は観察されなかった。
以上、形態学的、生化学的結果は、本発明酵母菌株がサッカロミセス・セレビシエに属する酵母であることを示すものである。また、β−アラニン培地、35℃での生育が陰性、及び清酒の小仕込試験において、高泡の形成も認められないことから、該菌株はK−701株の変異株であることを示すものである。
【0016】
5.薬剤に対する感受性
ジメチルサクシネート(1.5v/v%)を含むYM培地(0.3w/v%酵母エキス、0.3w/v%麦芽エキス、0.5w/v%ペプトン、2w/v%グルコース)を用いて、30℃で7日間培養した。親株(K−701株)と同様に生育してきた株を+で表した。ジメチルサクシネートに対する感受性の結果を表1に示す。親株であるK−701株、その変異株であるM20株及び醸造協会から市販されている多酸酵母のNo.28は生育し、感受性を示さなかったが、醸造協会から市販されている多酸酵母のNo.77は、生育せず、感受性を示した。
【0017】
【表1】
【0018】
6.薬剤に対する耐性
シクロヘキシミド(0.5μg/ml)含有YM培地、テノイルトリフルオロアセトン(0.1mg/ml)含有YNBC培地、50w/v%オキシカルボキシンを含有する農薬プラントバックス〔50w/v%オキシカルボキシンが3.2mg/ml:日本曹達(株)製〕含有YNBC培地(0.67w/v%ディフコ社イーストニトロゲンベース、2w/v%クエン酸、2w/v%寒天、pH6.0)、メタ亜硫酸カリウム(0.2mg/ml)含有SD培地(0.67w/v%ディフコ社イーストニトロゲンベース、2w/v%グルコース、2w/v%寒天)を用いて30℃で7日間培養した。生育してこなかった株を−で示した。
薬剤含有培地での生育の結果を表2に示す。M20株はいずれの薬剤に対しても生育せず、耐性を示さなかった。
【0019】
【表2】
【0020】
8.増殖性
10mlのYPM培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%マルトース)にM20株を107個接種し、30℃にて培養を行い、経時的に培養液のOD660を測定した。対照として、K−701株と多酸酵母のNo.28を用いた。その結果を図1に示す。マルトースを炭素源に用いた場合、M20株は対照株(K−701株、No.28)と比較し、増殖性は低かった。図1において、縦軸はOD660の値、横軸は時間(hr.)を示す。また白丸印はNo.28、白三角印はK−701、白四角印はM20を示す。
なお、一般培地であるYPD培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)を用いて、上記の条件にてM20株及び親株であるK−701株増殖性を検討した結果、M20株は親株であるK−701株と同程度の増殖性を示した。
【0021】
9.多酸性酵母の比較
上記の結果より、マルトース及びガラクトースの資化性、シクロヘキシミド(以下、CHYと称す)耐性及びジメチルサクシネート(以下、DMSと称す)感受性の比較データを表3に示す。参考株として、特願平11−290387号明細書にて取得した多酸性酵母(リンゴ酸及びコハク酸を高生産)である2OG−R39株(工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17470として寄託済み)のデータも記載した。
【0022】
【表3】
【0023】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1 マルトース低資化性有機酸高生産株の取得
K−701株をYPD液体培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%グルコース)5mlで30℃にて一夜振とう培養後、遠心分離で集菌し、滅菌水で洗浄した。洗浄菌体を4.35mlの0.2Mリン酸バッファー(pH8.0)に懸濁し、20w/v%グルコース溶液を0.5ml添加してかくはんした後、エチルメタンスルホネートを0.15ml添加して、30℃にて1時間穏やかに振とうした。振とう後、そのうちの1mlを49mlの6w/v%チオ硫酸ナトリウム溶液に加えて、室温で10〜15分放置後、遠心分離で集菌し、5mlのYPD液体培地に懸濁し、30℃、6時間静置培養した。次に以下のようにナイスタチン濃縮を実施した。集菌、滅菌水で洗浄後、0.67w/v%イーストニトロゲンベース含有滅菌水10mlに懸濁し30℃で一夜静置した。集菌後、SM液体培地(0.67w/v%イーストニトロゲンベース、2w/v%マルトース)10mlに懸濁、30℃、4時間振とう培養した後、5μg/mlになるようにナイスタチンを添加し、30℃、1時間振とうしマルトースを資化する株を死滅させた。この操作を3回繰り返した後、30枚のSD平板培地に、1枚当りの生菌数が約1000個になるように植菌した。SD平板培地で適当な大きさにコロニーが生育した時、TTC(0.05w/v%TTC、0.5w/v%マルトース、1.5w/v%寒天)寒天培地を重層し、ピンク色を呈するコロニーを66株選択し、以下に示す麹汁培養試験を実施した。すなわち、各株を5mlのYPD(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、5w/v%グルコース)液体培地に懸濁し、30℃、一晩、振とう培養した。次に各培養液3mlを集菌し、1mlの滅菌蒸留水に懸濁した後、30mlの麹汁培地(Brix 10.0)に植菌し、15℃、13日間発酵させた。次に、発酵させた培養液を遠心(3000rpm,5分間)処理後、上澄を0.45μmのフィルターにてろ過し、島津高速液体クロマトグラフ有機酸分析システム〔島津(株)製〕にて有機酸分析を行った。その結果、これら選択株すべてが親株であるK−701株よりも有機酸を高生産する株であった。これらのうち顕著に酸度が高い14株を表4に示す仕込条件にて小仕込試験を実施した。表4に示す仕込配合において、掛米は77%精白のα化米を使用した。麹は、精米歩合75%の白米を使用して製造した。酵母は、5.0ml中に109個含むものを用いた。発酵温度は15℃一定で仕込後15日目で上槽した。
【0025】
【表4】
【0026】
M20株及び親株のK−701株を用いた上槽液の分析結果を表5に示す。
【表5】
【0027】
表5に示すように、M20株は、親株のK−701株に比べて、酸度が2倍と高く、爽快な酸味を呈するリンゴ酸が約6.7倍高生産であり、高級アルコールであるイソブタノール及びイソアミルアルコールが親株と比較して各々約2.6倍、1.4倍であった。また、残存グルコース濃度は、親株の約58%であり、原料利用率が良くなっていた。これを反映して日本酒度も親株に比べて高くなっていた。
なお、醸造協会より販売されているリンゴ酸高生産酵母のNo.28及びNo.77は、K−701株と比較してリンゴ酸をそれぞれ約6.8倍及び約4.6倍生産しているが、親株と比較して増殖が悪く、使用するのに大量の酵母を必要としており、日本酒度の切れも良くない(日本醸造協会誌、第90巻、第10号、p751−758、1995年)。本発明で得られたM20株は、親株であるK−701株と比較してリンゴ酸を約6.7倍生産しており、しかも増殖性が親株と同程度であり、日本酒度の切れ及び原料利用率も良く、実用性に優れていることが示された。
【0028】
【発明の効果】
本発明により、有機酸、特にリンゴ酸並びに高級アルコールを高生産し、親株と遜色のない増殖性を示す、原料利用率の良い新規酵母を提供することができる。これらの酵母は実用性が高く、従来の酒類、食品に比べ酸味が強い酒類、食品を製造できる。これらの特性を生かして、貴醸酒への応用や、割り水しても味が薄くならず幅のある爽やかな酸味を有する低アルコール酒類等の製造への応用も可能となる。また、本発明により、有機酸高生産性酵母の効率的な取得方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】YPM培地(1w/v%酵母エキス、2w/v%ポリペプトン、2w/v%マルトース)での各酵母の増殖性を示す図である。
Claims (3)
- マルトース及び/又はガラクトース低資化性であり、原料利用率が良い有機酸高生産性新規酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) M20(FERM P−17980)。
- 有機酸がリンゴ酸である請求項1に記載の新規酵母。
- マルトース低資化性を指標とする有機酸高生産性新規酵母の取得方法。
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