JP4592131B2 - シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター及びその遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はシスチン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及びその類似物質の輸送に関与する遺伝子と、その遺伝子がコードするポリペプチドに関する。
【0002】
【従来の技術】
アミノ酸は小腸上皮から吸収、あるいは腎近位尿細管上皮から再吸収され、体内に補給あるいは保持されるが、この機能は吸収上皮細胞に存在する膜タンパク質であるアミノ酸トランスポーターによって担われている。特に腎近位尿細管のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を輸送するアミノ酸輸送系b0,+は、その遺伝的欠損によって重篤な臨床症状を伴う遺伝的疾患シスチン尿症を引き起こすため、その分子的実体の解明が待たれていた。
【0003】
アミノ酸輸送系は、中性アミノ酸輸送系、塩基性アミノ酸輸送系及び酸性アミノ酸輸送系に分類されており、アルファベット又はその組み合わせにより命名される。一般にNa+依存性輸送系はアルファベットの大文字で、Na+非依存性輸送系はアルファベットの小文字で命名される。文字の右肩に付される+は塩基性アミノ酸系を示し、−は酸性アミノ酸系を示し、無印又は0は中性アミノ酸系であることを示す。したがって、前記した係るアミノ酸輸送系b0,+は、bという名のアミノ酸輸送系であって、Na+非依存性輸送系で(小文字のアルファベット)、中性アミノ酸及び塩基性アミノ酸(右肩の0及び+)を輸送するものである。
アミノ酸輸送系b0,+は、もともとは、マウス胞胚で始めて記載され、その後、腎刷子縁膜小胞標本、腎上皮由来細胞株においてもその機能が存在するとされていた [Palacin, et al., Physiol. Rev.,第78巻、969-1054頁、1998年]。アミノ酸輸送系b0,+の機能は、ナトリウム非依存的な、すなわちその機能にナトリウムイオンを必要としないトランスポーターである。また、その輸送形態はアミノ酸の交換輸送であるとされている。
【0004】
一方、腎臓及び小腸に発現する、アミノ酸トランスポーターの活性化因子であると考えられている膜貫通構造を一回しか持たない二型膜糖タンパク質rBAT(related to b0,+ amino acid transporter) のcDNAがクローニングされ、それらをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させるとアミノ酸輸送系b0,+の特性を示すアミノ酸の取り込み活性が出現することが報告された[Palacin、J. Exp. Biol.、第196巻、123-137頁、1994年]。しかし、これはrBATによりアフリカツメガエル卵母細胞の内因性トランスポーターが活性化されたためであり、腎尿細管のアミノ酸輸送系b0,+が発現したものではない。
【0005】
以上のように、従来の方法では、輸送基質の詳細や、アミノ酸上皮輸送におけるアミノ酸輸送系b0,+の役割を解析することは困難であり、アミノ酸輸送系b0,+の機能を担うシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を輸送基質とするトランスポーターの遺伝子を単離して詳細な機能解析をすることが望まれていた。
【0006】
アミノ酸トランスポーターとしては種々のものが既にクローニングされており、例えば、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸をともに基質とするトランスポーターとしては、アミノ酸輸送系y+Lに相当する、y+LAT1およびy+LAT2がクローニングされている[Torrents et al.、J. Biol. Chem. 第273巻、32437-32445頁、1998年]。しかし、これらは、シスチンは輸送基質とせず、アミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
塩基性アミノ酸のみを基質とするトランスポーターとして、アミノ酸輸送系y+に相当する塩基性アミノ酸トランスポーター(CAT1〜4)がクローニングされた。しかし、これもアミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
【0007】
中性アミノ酸を選択的に輸送するトランスポーターとして、輸送系Lに相当する中性アミノ酸トランスポーターLAT1[Kanai et al., J. Biol. Chem., 第273巻、23629-23632頁、1998年]、及びLAT2[Segawa et al., J. Biol. Chem., 第274巻、19745-19751頁、1999年]がクローニングされた。また、LAT1及びLAT2は、補助因子4F2hcと共存することによってのみ機能することが示された。両者はNa+に依存せず、LAT1はロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジンなど大型の中性アミノ酸を輸送する交換輸送活性を示し、LAT2は、大型の中性アミノ酸に加えグリシン、アラニン、セリン、システイン、スレオニンなどの小型の中性アミノ酸も輸送する広い基質選択性を有する。しかし、これらもアミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
【0008】
中性アミノ酸トランスポーターLAT1及びLAT2の類似蛋白質として、中性アミノ酸及び塩基性アミノ酸を輸送する輸送系y+Lの機能を有する前記y+LAT1とy+LAT2がクローニングされた[Torrents et al., J. Biol. Chem., 第273巻、32437-32445頁、1998年]。また、y+LAT1とy+LAT2共に補助因子4F2hcと共存することによってのみ機能することが示された。y+LAT1とy+LAT2は、中性アミノ酸としてはグルタミン、ロイシン、イソロイシンを主に輸送し、アミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
【0009】
シスチンを輸送するトランスポーターとして、中性アミノ酸トランスポーターLAT1及びLAT2の類似蛋白質であるxCTがクローニングされた [Sato et al., J. Biol. Chem. 274: 11455-11458, 1999]。xCTも補助因子4F2hcと共存することによってのみ機能することが示された。しかし、xCTもアミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
【0010】
トランスポーター自体ではないが、アミノ酸トランスポーターの活性化因子であると考えられている膜貫通構造を一回しか持たない二型膜糖タンパク質である4F2hcのcDNAがクローニングされており、それらをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させるとアミノ酸輸送系y+Lに相当する塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸の取り込みを活性化することが知られている[Palacin、J. Exp. Biol.、第196巻、123-137頁、1994年]が、これもアミノ酸輸送系b0,+とは基質選択性が異なっている。
【0011】
以上のように、4F2hcと連結することによって機能するトランスポーターの分子的実体が明かにされ、類似の構造を持つrBATも特定のトランスポーターと連結し、輸送機能のある分子複合体を形成すると考えられた。しかし、rBATと連結するトランスポーターの実体は明かにされていなかった。
rBATの遺伝的変異は、I型シスチン尿症を惹起することがすでに示されている[Palacin、J. Exp. Biol.、第196巻、123-137頁、1994年]。しかし、非 I 型シスチン尿症においては、rBATに変異が検出されないため、非I型シスチン尿症はrBATと連結するトランスポーターの異常でると考えられ、その分子的実体解明が待たれていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送系b0,+の機能を担い、rBATと連結するトランスポーターの遺伝子及びその遺伝子がコードするポリペプチドであるアミノ酸トランスポーターを提供することにある。その他の目的については、以下の記載より明らかである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、LAT1のcDNAの翻訳領域の塩基配列を用いてEST(expressed sequence tag ) データベースを検索し、LAT1と類似の塩基配列を同定した。それに相当するプローブを作製してcDNAライブラリーをスクリーニングし、新規タンパク質をコードする遺伝子をクローニングした。さらに、この遺伝子の産物をCOS−7細胞に発現させて、この遺伝子の産物が機能を発揮するためにはrBATが必須であること、及び発現する機能は、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送系b0,+に相当することを確認し、本発明を完成するにいたった。
【0014】
すなわち、本発明は、アミノ酸トランスポーターであって、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送活性化因子rBATにより活性化されるタンパク質に関し、より詳細には、以下の(A)及び(B)から選択されるタンパク質に関する。
(A)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号5又は6で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質あるいは1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質と共存したとき、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送系b0,+に相当する輸送能力を有するタンパク質。
本発明のタンパク質は、天然のものから抽出されるものであってもよいが、遺伝子組換え技術により得られる組換えタンパク質であってもよい。
【0015】
本発明の中性アミノ酸を輸送する能力を有する新規タンパク質、すなわちシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1(b0,+ type amino acid transporter 1)は、アミノ酸輸送活性化因子rBATと共存することにより、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を輸送する(取り込む)能力を有する。
また、本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1は、生体内においては小腸及び腎に主に発現している。腎においては、BAT1、rBATともに管腔側膜に存在し、尿細管内のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸の再吸収を担当していると考えられる。
【0016】
また、本発明は、前記したタンパク質をコードする遺伝子に関し、より詳細には、以下の(a)及び(b)から選択されるDNAからなる遺伝子に関する。
(a)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNA。
(b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号5又は6で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質あるいは1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質と共存したとき、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送系b0,+に相当する輸送能力を有するタンパク質をコードするDNAに関する。
本発明の遺伝子はDNAに限定されるものではなく、遺伝情報を担うものであればDNAでもRNAであってもよい。
【0017】
さらに、本発明は、前記した本発明のタンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド、当該プラスミドで形質転換された宿主細胞に関する。
また、本発明は、前記した本発明の遺伝子、好ましくは前記した(a)又は(b)で示される遺伝子の塩基配列中の連続する14塩基以上の部分配列もしくはその相補的な配列を含むヌクレオチドに関し、当該ヌクレオチドは本発明のタンパク質をコードする遺伝子を検出するためのプローブとして、また、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現を変調させるために使用することができる。
また、本発明は、前記した本発明のタンパク質又はその断片に対する抗体に関する。
【0018】
さらに、本発明は、前記した本発明のタンパク質又は当該タンパク質を含有する細胞を用いて、好ましくは輸送活性化因子rBATを併用する、当該タンパク質の有するシスチン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力に対する被検物質の基質としての作用を測定する方法、及び、被検物質の生体内におけるシスチン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力に対する体内動態を測定するための方法に関する。
また、本発明は、前記した方法により、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターにより細胞に取り込まれ易い又は細胞に取り込まれにくい物質をスクリーニングする方法に関する。
【0019】
【発明の実施の形態】
後記配列表の配列番号1は、ラット腎由来のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1(ラットBAT1)のアミノ酸配列(487アミノ酸)を表わし、配列番号2はその遺伝子の全長cDNA塩基配列(約1.7kbp)をその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列と共に示したものである。
後記配列表の配列番号3は、ヒト腎由来のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1(ヒトBAT1)のアミノ酸配列(487アミノ酸)を示し、配列番号4はその遺伝子の全長cDNA塩基配列(約1.7kbp)をその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列と共に示したものである。
また、後記配列表の配列番号5は、ラットの輸送活性化因子rBATの遺伝子の全長cDNA塩基配列をその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列と共に示したものであり、配列番号6は、ヒトの輸送活性化因子rBATの遺伝子の全長cDNA塩基配列をその翻訳領域にコードされたタンパク質のアミノ酸配列と共に示したものである。
【0020】
前記配列番号1〜4に示される塩基配列もしくはアミノ酸配列について、既知DNAデータベース(GenBankおよびEMBL)及びプロテインデータベース(NBRF及びSWISS-PROT)に含まれるすべての配列に対してホモロジー検索を行った結果、一致するものはなく、これらの配列は、新規なものであると考えられる。
【0021】
本発明のタンパク質としては、配列番号1又は3で示されたアミノ酸配列を有するもののほか、例えば配列番号1又は3で示されたアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。アミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、中性アミノ酸輸送活性が失われない程度であればよく、通常1〜約97個、好ましくは1〜約48個である。このようなタンパク質は、配列番号1で示されたアミノ酸配列と通常、1〜80%、好ましくは1〜90%のアミノ酸配列のホモロジーを有する。
【0022】
また、本発明の遺伝子としては、配列番号2又は4で示された塩基配列を有するもののほか、配列番号2又は4で示された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAを含むものが挙げられる。このようにハイブリダイズし得るDNAは、そのDNAにコードされるタンパク質がシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送系b0,+ に相当する輸送能力を有するものであればよい。このようなDNAは配列番号1又は3で示された塩基配列と通常、70%以上、好ましくは80%以上の塩基配列のホモロジーを有する。このようなDNAとしては、自然界で発見される変異型遺伝子、人為的に改変した変異型遺伝子、異種生物由来の相同遺伝子等が含まれる。
【0023】
本発明において、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、通常、ハイブリダイゼーションを、5xSSC又はこれと同等の塩濃度のハイブリダイゼーション溶液中、37〜42℃の温度条件下、約12時間行い、5xSSC又はこれと同等の塩濃度の溶液などで必要に応じて予備洗浄を行った後、1xSSC又はこれと同等の塩濃度の溶液中で洗浄を行うことにより実施できる。
【0024】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター遺伝子は、適当な哺乳動物の組織や細胞を遺伝子源として用いてスクリーニングを行うことにより単離取得できる。哺乳動物としては、イヌ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、ブタ、ウサギ、ラット及びマウスなどの非ヒト動物のほか、ヒトが挙げられる。
【0025】
遺伝子のスクリーニング及び単離は、ホモロジークローニング法などにより好適に実施できる。
例えば、ラットあるいはヒト腎臓を遺伝子源として用い、これからmRNA(ポリ(A)+RNA)を調製する。これから cDNA ライブラリーを構築し、EST(expressed sequence tag)データベースの検索によって得られるLAT1類似配列(例えば、GenBanskTM/EBI/DDBJ accession No. AA162896) に相当するプローブを用いて cDNA ライブラリーをスクリーニングすることによって BAT1遺伝子のcDNAを含むクローンを得ることができる。
得られたcDNAについては、常法により塩基配列を決定し、翻訳領域を解析して、これにコードされるタンパク質、すなわち、BAT1のアミノ酸配列を決定することができる
【0026】
得られたcDNAが、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター遺伝子のcDNAであること、すなわちはcDNAにコードされた遺伝子産物がシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターであることは、例えば次のようにして検証することができる。すなわち、得られたBAT1cDNAを哺乳動物細胞発現ベクターに挿入し、同じく哺乳動物細胞発現ベクターに挿入したrBATとともにCOS−7細胞に導入して発現させ、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を細胞内へ輸送する(取り込む)能力を、前記と同様、シスチンあるいは適当な塩基性又は中性アミノ酸を基質とする取り込み試験(Kanai et al.、J. Clin. Invest. 第93巻、397-404貢、1994年)により、細胞内への基質の取り込みを測定することにより確認できる。
また、得られたBAT1遺伝子のcDNAから調整した、これに相補的なRNA(cRNA)を用いて、インビトロ翻訳法[Hedigerら、Biochim. Biophys. Acta、第1064巻、360頁、1991年]により、BAT1タンパク質を合成し、電気泳動によりタンパク質のサイズ、糖付加の有無等を検討することができる。
【0027】
一方、rBATの遺伝子のcDNAはすでに報告されている[Wells and Hediger、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、第89巻、5596-5600頁、1992年]ので、この配列情報から、PCR法などを用いて、容易にrBATの遺伝子を得ることが可能である。
また、発現細胞について、同様の取り込み実験を応用して、BAT1の特性、例えば、BAT1がアミノ酸の交換輸送を行っているという特性や、BAT1の基質選択性、イオン依存性などを調べることができる。
【0028】
得られたBAT1遺伝子のcDNAを用いて、異なる遺伝子源で作製された適当なcDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、異なる組織、異なる生物由来の相同遺伝子や染色体遺伝子等を単離することができる。
また、開示された本発明の遺伝子の塩基配列(配列番号2又は4に示された塩基配列、もしくはその一部)の情報に基づいて設計された合成プライマーを用い、通常のPCR(Polymerase Chain Reaction)法によりcDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリーから遺伝子を単離することができる。
cDNAライブラリー又はゲノミックDNAライブラリー等のDNAライブラリーは、例えば、「Molecular cloning」[Sambrook, J., Fritsh, E.F.及びManitis, T.著、Cold Spring Harbor Pressより1989に発刊] に記載の方法により調整することができる。あるいは、市販のライブラリーがある場合はこれを用いてもよい。
【0029】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター(BAT1)は、例えば、それをコードするcDNAを用い、遺伝子組換え技術により生産することができる。例えば、BAT1 をコードするDNA(cDNA等)を適当な発現ベクターに組み込み、得られた組換えDNAを適当な宿主細胞に導入することができる。ポリペプチド生産するための発現系(宿主−ベクター系)としては、例えば、細菌、酵母、昆虫細胞及び哺乳類細胞の発現系等が挙げられる。このうち、機能タンパクを得るためには、昆虫細胞及び哺乳類細胞を用いることが好ましい。
例えば、ポリペプチドを哺乳類細胞で発現させる場合には、広い基質選択性を有する中性アミノ酸トランスポーターBAT1をコードするDNAを、適当な発現ベクター(例えば、アデノウイルス系ベクター、レトロウイルス系ベクター、パピローマウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、SV40系ベクター等)中の適当なプロモーター(例えば、サイトメガロウイルスプロモーター、SV40 プロモーター、LTRプロモーター、エロンゲーション1a プロモーター等)の下流に挿入して発現ベクターを構築する。次に、得られた発現ベクターで適当な動物細胞を形質転換し、形質転換体を適当な培地で培養することによって、目的とするポリペプチドが生産される。宿主とする哺乳動物細胞としては、サルCOS−7細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、又はヒトHeLa細胞などの細胞株などが挙げられる。
【0030】
シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1をコードするDNAとしては、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列を有するcDNAを用いることができるほか、前記のcDNA配列に限定されることなく、アミノ酸配列に対応するDNAを設計し、ポリペプチドをコードするDNAとして用いることもできる。この場合、ひとつのアミノ酸をコードするコドンは各々1〜6種類知られており、用いるコドンの選択は任意で良いが、例えば発現に利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い配列を設計することができる。設計した塩基配列を持つDNAは、DNAの化学合成、前記cDNAの断片化と結合、塩基配列の一部改変等によって取得できる。人為的な塩基配列の一部改変、変異導入は、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用して部位特異的変異導入法(site specific mutagenesis)[Mark, D.F. et al.、Proceedings of National Academy of Sciences、第81巻、第5662頁(1984年)] 等によって実施できる。
【0031】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター又はこれと免疫学的同等性を有するポリペプチドを用いて、その抗体を取得することができる。抗体は、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターの検出や精製などに利用できる。抗体は、本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーター、その断片、またはその部分配列を有する合成ペプチドなどを抗原として用いて製造できる。ポリクロナール抗体は、宿主動物(例えば、ラットやウサギ等)に抗原を接種し、免疫血清を回収する、通常の方法により製造することができ、モノクロナール抗体は、通常のハイブリドーマ法などの技術により製造できる。
【0032】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1、その遺伝子およびその発現細胞は、BAT1により輸送されるアミノ酸類似薬物(例えば、L−DOPA等)の、細胞膜通過や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)での透過効率についての、インビトロでの試験に使用できる。また、BAT1を発現する細胞膜や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)を効率良く透過する薬物の開発に使用できる。さらに、BAT1を発現する細胞膜や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)での薬物間相互作用のインビトロでの試験に使用できる。
【0033】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1、その遺伝子およびその発現細胞は、BAT1により輸送される毒物(例えば、メチル水銀のシステイン抱合体等)や外来性異物の、細胞膜通過や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)での透過効率についての、インビトロでの試験に使用できる。
また、本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1を抑制することにより、BAT1を発現する細胞膜や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)の毒物(例えば、メチル水銀のシステイン抱合体等)や外来性異物の透過を制限することができる。また、本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1、その遺伝子およびその発現細胞は、BAT1により輸送される毒物(例えば、メチル水銀のシステイン抱合体等)や外来性異物の、細胞膜通過や、BAT1が存在すると予想される部位(例えば小腸上皮、腎尿細管上皮など)の透過を制限する薬物(BAT1の特異的なインヒビター等)の開発に使用できる。
【0034】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1は、その遺伝的欠損が非I型シスチン尿症を惹起すると考えられるため、BAT1cDNAあるいは、ゲノミックDNAを適当なプロモーターに接続し、遺伝子治療ベクターを作製することが可能である。ここで言う適当なプロモーターとは、腎近位尿細管での発現を可能とするプロモーターのことである。
【0035】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
なお、下記実施例において、各操作は特に明示がない限り、「Molecular cloning」[Sambrook, J., Fritsh, E.F.及びManitis, T.著、Cold Spring Harbor Pressより1989年に発刊] に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
【0036】
実施例1 シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターのラット及びヒトcDNA のクローニング
(1)ヒトrBATのcDNAの単離と哺乳類発現細胞へのサブクローン化
cDNAライブラリーはヒト腎臓由来ポリ(A)+RNA(クロンテク社から購入)から、cDNA合成用キット(商品名:Superscript Choice System、ギブコ社製)を使用して作製し、ファージベクターλZipLox(ギブコ社製)の制限酵素EcoRI切断部位に組み込んだ。ラットrBAT遺伝子(後記配列表の配列番号5)[Wells and Hediger、Proc. Natl. Acad. Sci. 第89巻、5596-5600頁、1992年]の全長配列を32P−dCTPでラベルしてプローブとして用いて、ヒト腎cDNAライブラリーをスクリーニングした。ハイブリダイゼーションは、37℃のハイブリダイゼーション用溶液中一晩行い、フィルター膜は、37℃で0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄した。ハイブリダイゼーション用溶液としては、5xSSC、3xデンハード液(Denhard's液)0.2%SDS、10%硫酸デキストラン、50%ホルムアミド、0.01%Abtiform B(商品名、シグマ社)(消泡剤)、0.2mg/mlサーモン精子変性DNA、2.5mMピロリン酸ナトリウム、25mM MESを含むpH6.5の緩衝液を用いた。cDNAを組み込んだλZipLoxファージのcDNA部分を、プラスミドpZL1に組み込み、さらにプラスミドpBluescript
II SK−(Stratagene社製)へサブクローン化した。
【0037】
得られたクローンすなわち、ヒトrBATのcDNAを含むクローンについて、塩基配列決定のための合成プライマーを用いてダイターミネーターサイクルシーケンシング法(Applied Biosystems社)により、cDNAの塩基配列を決定した。これにより、クローニングしたcDNAがヒトrBAT遺伝子のものであることが確認できた。得られたヒトrBATの塩基配列を後記配列表の配列番号6に示した。
ラット及びヒトrBATのcDNAを含むプラスミドから、挿入cDNA断片を切りだし、哺乳類細胞発現ベクター pcDNA3.1 (インビトロゲン社製)にサブクローン化した。
【0038】
(2)ラット及びヒトシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1cDNAの単離と哺乳類発現細胞へのサブクローン化
LAT1の翻訳領域の塩基配列を用いたEST(expressed sequence tag) データベースの検索によって得られたLAT1類似配列 GenBanskTM/EBI/DDBJ accession No. AA162896 に相当するIMAGE(Integrated and Molecular Analysis of Genoms and their Expression) cDNAクローンNo.578502のEcoRI切断断片を32P−dCTPでラベルしてプローブとして用いて、ラット及びヒト腎cDNAライブラリーをスクリーニングした。
【0039】
cDNAライブラリーはラット腎から調整したポリ(A)+RNA及びヒト腎由来ポリ(A)+RNA(クロンテク社から購入)から、cDNA合成用キット(商品名:Superscript Choice System、ギブコ社製)を使用して作製し、ファージベクターλZipLox(ギブコ社製)の制限酵素EcoRI切断部位に組み込んだ。32P−dCTPでラベルしてプローブによるハイブリダイゼーションは、37℃のハイブリダイゼーション用溶液中一晩行い、フィルター膜は、37℃で0.1xSSC/0.1%SDSで洗浄した。ハイブリダイゼーション用溶液としては、5xSSC、3xデンハード液(Denhard's液)0.2%SDS、10%硫酸デキストラン、50%ホルムアミド、0.01%AbtiformB(商品名、シグマ社)(消泡剤)、0.2mg/mlサーモン精子変性DNA、2.5mMピロリン酸ナトリウム、25mM MESを含むpH6.5の緩衝液を用いた。cDNAを組み込んだλZipLoxファージのcDNA部分を、プラスミドpZL1に組み込み込んだ。
得られたクローンすなわち、ラットBAT1 あるいはヒトBAT1 のcDNAを含むクローンについて、塩基配列決定のための合成プライマーを用いてダイターミネーターサイクルシーケンシング法(Applied Biosystems社)により、cDNAの塩基配列を決定した。
これにより、ラット及びヒトBAT1 遺伝子の塩基配列が得られた。また、cDNAの塩基配列を常法により解析して、cDNAの翻訳領域とそこにコードされるBAT1のアミノ酸配列を決定した。
【0040】
これらの配列を、後記配列表の配列番号1及び3にそのアミノ酸配列を、配列番号2及び4にその塩基配列を示した。ヒト及びラットBAT1の配列の比較を図1に示した(相互の相同性87%)。
BAT1はラットLAT1及びLAT2と43%のアミノ酸配列の相同性を有していた。また、中性および塩基性アミノ酸輸送系y+Lに相当するヒトトランスポーターy+LAT1と42%、y+LAT2と44%の相同性を有していた。さらに、シスチン/グルタミン酸交換輸送体xCTと43%の相同性を有していた。
ラットBAT1とヒトy+LAT1、ラットLAT1、およびマウスxCTのアミノ酸配列の比較を図2に示した。
【0041】
SOSUIアルゴリズム[Hirokawa, T. et al.、Bioinformatics、第14巻、第378頁(1998年)]により、BAT1のアミノ酸配列を解析した結果、図2に示したように、12個の膜貫通領域(membrane-spanning domain)が予想された。また、第2の親水性ループにチロシンリン酸化部位、N−末端細胞内領域、及び第8の親水性ループにプロテインキナーゼC依存性のリン酸化部位と考えられる部位があった。
【0042】
(3)ラットの種々の組織におけるBAT1遺伝子の発現(ノーザンブロッティングによる解析)
BAT1 遺伝子の第1−793番目の塩基に相当するcDNA断片を制限酵素EcoRIで切り出し、32P−dCTP でラベルしてプローブとして用いて、ラットの種々の組織及びラット由来の培養腫瘍細胞株C6グリオーマ細胞から抽出したRNAに対してノーザンブロッティングを以下のようにして行った。3μgのポリ(A)+RNAを1%アガロース/ホルムアルデヒドゲルで電気泳動したのち、ニトロセルロースフィルターにトランスファーした。このフィルターを42℃で、32P−dCTPでラベルしたBAT1cDNA断片を含んだハイブリダイゼーション液で1晩ハイブリダイゼーションを行った。フィルターを、65℃にて、0.1%SDSを含む0.1xSSCで洗浄した。
ノーザンブロッティングの結果を図3に示す。小腸及び腎において1.9kb付近にバンドが検出された。
【0043】
(4)ラット腎におけるBAT1及びrBAT蛋白の発現(免疫組織化学による解析)
ラットBAT1の474−487に相当する合成オリゴペプチド[QMLMEVVPPEKDPEC]、及びラットrBATの629−642に相当する合成オリゴペプチド[SDVDTHAVSLEKGEC](両者のC−末端のシステン残基はKLH(keyhole limpet hemocyanine) とのコンジュゲーションのために導入)に対する特異抗体をアルトマン(Altman)らの方法に準じて作製した[Altman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 第81巻、2176-2180頁、1984年]。得られた抗血清は、抗原ペプチドを用いてアフィニティ精製し免疫組織化学に用いた。ヒサノ(Hisano)らの方法[Hisano et al., Brain Res. 第710巻、299-302頁、1996年]に準じて、精製抗BAT1抗体(希釈率1:5,000)及び精製抗rBAT抗体(希釈率1:5,000)を用いて、ラット腎連続切片(3μm)を用いた免疫組織化学を行った。
図4に示すように、BAT1及びrBATともに腎近位尿細管の管腔側膜に存在することが示された。特に近位曲尿細管において、管腔側膜上でBAT1とrBATが共存することが示された(例えば図4の矢尻)。
【0044】
(5)ラット腎におけるBAT1及びrBAT蛋白の発現(ウェスタンブロットによる解析)
ラット腎膜画分をトレンス(Thorens)らの方法[Thorens et al. Cell 第55巻、281-290頁、1988]に従って調整した。タンパク試料は、5%の2−メルカプトエタノール存在下(還元条件下)あるいは非存在下(非還元条件下)で100℃で5分間処理後、SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、Hybond−P PVDVトランスファー膜にブロッティングし、抗BAT1抗血清(1:4,000)あるいは抗rBAT抗血清(1:40,000)で処理した。
抗BAT1抗血清では、図5に示すように、非還元条件下において観察される251KDaと125kDaのバンドは還元条件下では消失し、41kDaのバンドが出現した。抗rBAT抗血清では、非還元条件下において観察される231KDaと125kDaのバンドは還元条件下では消失し、90kDaのバンドが出現した。これらの結果は、BAT1とrBATがジスルフィド結合により連結し、ヘテロダイマーを形成することを示唆する。
【0045】
実施例2 シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターのBAT1の機能的特徴づけ
(1)BAT1の輸送活性におけるrBATの役割
ラットBAT1遺伝子を単独でCOS−7細胞に発現させた場合と、ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に卵母細胞に発現させた場合、ラットBAT1遺伝子とラット4F2hc遺伝子を共に卵母細胞に発現させた場合のシスチンの取り込みを比較した。
COS−7細胞浮遊液(800μl、1.25x107細胞/ml、各10μgのcDNAをサブクローン化したプラスミドを含有)を、ジーンパルサー(Bio-Rad社製)に装着した0.4cmのキュベット内で200V、960μFで処理し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後、細胞は24穴プレートで3日間培養し、14C−シスチン(100μM)の取り込みを測定した。 取り込み測定は、培養液を取り除き、14C−シスチンを含むDulbecco’s PBS(Gibco 社製)を添加することにより開始し、それを取り除き氷冷Dulbecco’s PBSにより洗浄することにより終了した。洗浄後、0.1 N NaOHで溶解し、液体シンチレーションカウンターにより放射活性を測定した。
【0046】
その結果を図6に示す。シスチンの取り込みは、BAT1のみ、rBATのみ、4F2hcのみを発現させたもの、そしてBAT1と4F2hcの共発現させたCOS−7細胞では、対照としてcDNAを含まないプラスミドを導入したCOS−7細胞と同レベルであった。これに対して、BAT1とrBATを共発現させたCOS−7細胞では、有意なシスチン取り込みが観察された。これにより、BAT1とrBATが連結することが、機能的にも示された。
【0047】
(2)LAT2の輸送活性の塩依存性
ラットBAT1遺伝子とrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞によるシスチン取り込み実験において培地に添加する塩の影響を調べた。
シスチンの取り込み実験は、ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞を用い、前記実施例2(1)記載方法に準じて実施した。但し、取り込み用溶液は、ナトリウムイオンの影響をみる場合は、Dulbecco’s PBSにかえて、コリン取り込み溶液(uptake solution)(塩化ナトリウムを塩化コリンで置換したもの)を用いた。塩素イオンの影響をみる場合は、グルコン酸取り込み溶液(uptake solution)(塩化ナトリウムをグルコン酸ナトリウムに変えたもの)を用いた。
その結果を図7に示す。細胞外のコリンをナトリウムに変えても、細胞外の塩素イオンをグルコン酸イオンに変えても、シスチン取り込みに何ら影響を与えなかった。このことから、BAT1はナトリウムイオン及び塩素イオンに非依存的に働くトランスポーターであることが示された。
【0048】
(3)BAT1のミカエリス−メンテン動力学試験
シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1のミカエリス−メンテン動力学試験を行った。基質シスチンの濃度の違いによるシスチン取り込み率の変化を調べることにより、BAT1のミカエリス−メンテン動力学試験を行った。シスチンの取り込み実験は、ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞を用い、前記実施例2(1)記載方法に準じて実施した。
その結果、Km値は305±43.4μM、Vmax値は1970±380pmol/mg・protein/min(平均±標準誤差、n=3)であった。
【0049】
シスチン以外のBAT1の基質となるアミノ酸においても同様にミカエリス−メンテン動力学試験を行い、Km値とVmax値を算出した。
その結果、Km値とVmax値は、リジン、アルギニン、オルニチン、ロイシン、フェニルアラニンに対して、それぞれ463μM;2,990pmol/mg・protein/min、203μM;2,570pmol/mg・protein/min、387μM;2,530pmol/mg・protein/min、269μM;1,330pmol/mg・protein/min、190μM;1,730pmol/mg・protein/minであった。
【0050】
(4)BAT1の基質選択性(アミノ酸及びその類似物質添加による阻害実験)
ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞よるシスチンの取り込み実験において、系への各種アミノ酸及びその類似物質添加の影響を調べた。
シスチンの取り込み実験は、ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞を用い、前記実施例2(1)記載方法に準じて実施した。但し、5mMの各種化合物(非標識)の存在下及び非存在下で、14C−シスチン(50μM)の取り込みを測定した。
その結果を図8に示す。シスチン、塩基性アミノ酸および中性アミノ酸で、cis−阻害効果が観察された。アミノ酸輸送系L特異的阻害薬BCH、アミノ酸輸送系A特異的阻害薬MeAIB、及びD−アミノ酸は、シスチン取り込みを全く阻害しないか、あるいは弱い阻害効果を示したのみであった。
【0051】
(5)BAT1の基質選択性(各種アミノ酸及びその類似物質を基質とする取り込み試験)
各種アミノ酸及びその類似物質を基質として、BAT1による取り込みを調べた。
各種アミノ酸及びその類似物質の取り込み実験は、ラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞を用い、前記実施例2(1)記載方法に準じて実施した。但し、基質としては、14C−シスチンに変えて、放射能ラベルされた各種の化合物を用いた。
【0052】
その結果を図9に示す。L−シスチン(14C化合物)、L−リジン(14C化合物)、L−アルギニン(14C化合物)、L−オルニチン(14C化合物)、L−ロイシン(14C化合物)、L−イソロイシン(14C化合物)、L−バリン(14C化合物)、L−フェニルアラニン(14C化合物)、L−チロシン(14C化合物)、L−トリプトファン(14C化合物)、L−ヒスチジン(14C化合物)、L−メチオニン(14C化合物)、L−グルタミン(14C化合物)、L−アスパラギン(14C化合物)、L−スレオニン(14C化合物)、L−システイン(14C化合物)、L−セリン(14C化合物)、L−アラニン(14C化合物)を基質とした場合に、COS−7細胞への取り込みが認められた。グリシン(14C化合物)に関しては、極めて低い取り込みが見られた。L−プロリン(14C化合物)、L−グルタミン酸(14C化合物)、L−アスパラギン酸(14C化合物)に関しては、有意な取り込みは認められなかった。
【0053】
ヒトBAT1遺伝子、あるいはヒトrBAT遺伝子を導入したCOS−7細胞、及びヒトBAT1遺伝子とヒトrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞について、基質としてシスチンを用い、基質の取り込み実験を実施例2(1)に準じて行った。
その結果、シスチンの取り込みは、ラットと同様、BAT1のみを導入したCOS−7細胞では、対照としてcDNAを含まないプラスミドを導入したCOS−7細胞と同レベルであったが、BAT1とrBATを共に発現させたCOS−7細胞では大きなシスチンの取り込みが観察された。よって、ヒトBAT1もラットBAT1と同様、rBATと共存することにより始めて機能を発揮することが示された。
【0054】
【発明の効果】
本発明のシスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターBAT1およびその遺伝子は、アミノ酸類似化合物、薬物及び毒物の小腸上皮や腎尿細管上皮からの吸収のインビトロでの解析など、アミノ酸類似化合物、薬物及び毒物の動態の分子レベルでの解明、および小腸や腎尿細管での吸収効率の良いアミノ酸類似化合物、薬物の開発、透過するアミノ酸類似化合物、薬物及び毒物の透過を抑制する薬物の開発に有用と考えられる。さらに、BAT1遺伝子は、シスチン尿症治療を目的とした遺伝子治療ベクターの作製に使用し得る。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ラットBAT1とヒトBAT1のアミノ酸配列の比較を示す図。
【図2】ラットBAT1、ヒトy+LAT1、ラットLAT1、およびマウスxCTのアミノ酸配列の比較を示す図。予想される膜貫通部位を付線で示した。
【図3】ラットの各臓器組織におけるBAT1遺伝子mRNAの発現をノーザンブロッティングにより解析した結果を示した写真。
【図4】ラット腎の免疫組織化学的解析の結果を示した写真。抗BAT1抗体(左)と抗rBAT抗体(右)を用いた。
【図5】ラット腎膜標本を用いたウェスタンブロット解析の結果を示した写真。抗BAT1抗体(左)と抗rBAT抗体(右)を用い、非還元条件下(−)及び還元条件下(+)で行った。
【図6】ラットBAT1遺伝子、ラットrBAT遺伝子、あるいはラット4F2hc遺伝子を導入したCOS−7細胞、及びラットBAT1遺伝子とラットrBAT遺伝子を共に導入したCOS−7細胞、ラットBAT1遺伝子とラット4F2hc遺伝子を共に導入したCOS−7細胞によるシスチン取り込み実験の結果を示す図。
【図7】ラットBAT1遺伝子及びラットrBAT遺伝子を導入したCOS−7細胞によるシスチン取り込み実験において添加する塩の影響を調べた結果を示す図。
【図8】ラットBAT1遺伝子の及びラットrBAT遺伝子を導入したCOS−7細胞によるシスチン取り込み実験において、系への各種アミノ酸もしくはその類似化合物添加の影響を調べた結果を示す図。
【図9】ラットBAT1遺伝子及びラットrBAT遺伝子を導入したCOS−7細胞による放射能標識アミノ酸の取り込みを調べた結果を示す図。
Claims (18)
- 配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるアミノ酸トランスポーターであって、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とし、アミノ酸輸送活性化因子rBATにより活性化されるタンパク質。
- 組換えタンパク質である請求項1に記載のタンパク質。
- ヒト又はラット由来である請求項1又は2に記載のタンパク質。
- 臓器、組織、もしくは培養細胞由来である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
- 配列番号2又は4で示される塩基配列、又は、配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなる遺伝子である請求項5に記載の遺伝子。
- ヒト又はラット由来である請求項5又は6に記載の遺伝子。
- 臓器、組織、もしくは培養細胞由来である請求項7に記載の遺伝子。
- 請求項5〜8のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子の中のタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミド。
- プラスミドが、発現プラスミドである請求項9に記載のプラスミド。
- 請求項9又は10記載のプラスミドで形質転換された宿主細胞。
- 請求項1〜4のいずれかに記載するタンパク質に対する抗体。
- 請求項1〜4にいずれかに記載のタンパク質又は当該タンパク質を含有する細胞を用いて、該タンパク質の有するシスチン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力に対する被検物質の基質としての作用を測定する方法。
- 請求項1〜4にいずれかに記載のタンパク質又は当該タンパク質を含有する細胞を用いて、被検物質の生体内におけるシスチン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及びその類似物質を輸送する能力に対する体内動態を測定するための方法。
- 輸送活性化因子rBATを併用する請求項13又は14に記載の方法。
- 被検物質が薬物又は毒物若しくは外来性異物である請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
- 請求項13〜16のいずれかに記載の方法により、シスチン、塩基性アミノ酸及び中性アミノ酸を基質とするトランスポーターにより細胞に取り込まれ易い又は細胞に取り込まれにくい物質をスクリーニングする方法。
- 腎尿細管上皮もしくは小腸上皮におけるスクリーニングである請求項17に記載の方法。
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