JP4622091B2 - パルス磁場偏向電磁石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、真空容器の偏向部に設けられ、加速された陽子を偏向させるための常伝導のパルス磁場偏向電磁石に係り、特に真空容器の偏向部に一様な磁場を発生させることができるパルス磁場偏向電磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、患者への負担の少ない陽子線がん治療装置の普及を図るため、敷地面積の縮小やコストダウンが求められている。陽子線がん治療装置は、陽子シンクロトロンが装置の中核であり、陽子シンクロトロンから高エネルギーとなった陽子ビームを取り出し、この高エネルギーの陽子ビームを、患者のがん細胞に当ててがん細胞のみを確実に破壊するものである。陽子線がん治療装置は、粒子である陽子を利用しているので、他の正常な細胞を傷つけることがなく、しかも放射線の影響もないという利点がある。
【0003】
装置の中核をなす陽子シンクロトロンの大きさは、真空容器の偏向部に設けられ、加速された陽子を偏向させる偏向電磁石で発生する磁場の強度に反比例する。磁極の飽和を出来るだけ抑制し、常伝導で定常的に発生できる磁場は3Tが上限となっている。このため、陽子シンクロトロンは約7m四方の大型のものとなり、価格も高価となる。
【0004】
磁束密度が3T以上の磁場を得るには2つの方法がある。1つの方法は、超伝導磁石を利用することである。超伝導磁石は磁束密度が3T以上の磁場を発生可能であるが、シンクロトロンに適用するとコストが膨大となるため現実的でない。
【0005】
もう1つの方法は、磁極の飽和を前提とした常伝導のパルス磁場電磁石を用いることである。
【0006】
従来のパルス磁場電磁石を利用した陽子シンクロトロンとして、例えば、ロシアで5Tの磁場を発生する超小型のパルス型陽子シンクロトロンが試作された(L.Pidarde,C.Ronsivalle,A.Vignati,"Preliminary Design of a Technologically Advanced and Compact Synchrotron for Proton Therapy,"1994.11.) 。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のパルス磁場電磁石は、磁束密度が3T以上の磁場を発生させることができる一方で、そのように発生した磁場は時間的に大きく変動しているため、シンクロトロンに必要となる真空容器の偏向部における磁場の均一性を維持することが困難であるという問題がある。
【0008】
上述のパルス型陽子シンクロトロンは、小型ではあるものの、真空容器の偏向部の磁場が性能上問題となるほど不均一であったため、未完成となっている。このロシアで試作された陽子線がん治療用の陽子シンクロトロンでは、最大加速エネルギーが200MeVで、真空容器の偏向部の中心磁場が5Tであったが、真空容器の偏向部の磁場の多重極成分(間隙内の磁場の歪み)が1/100のオーダーであったため、十分なビームが得られないという解析結果となった。陽子が真空容器の偏向部で十分に偏向されず、真空容器に衝突するなどしてエネルギーが失われてしまうのである。これにより、偏向電磁石で発生する多重極成分を減らし、真空容器の偏向部における磁場の均一性を維持することが要求されている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、真空容器の偏向部に一様な磁場を発生させることができ、加速された陽子の軌道半径を小さくして加速器の小型化・低価格化を図ったパルス磁場偏向電磁石を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、内部に陽子ビームの通路を有する環状の真空容器の偏向部に設けられ、加速された陽子を偏向させるための3T以上の磁場を発生するパルス磁場偏向電磁石において、前記偏向部において、真空容器の垂直な両外側面に沿って配置され、前記真空容器を挟んで対向に巻き付けられた、偏向コイルの真空容器側の表面と前記偏向コイル内部との電流密度分布の差を抑えて、前記偏向部に一様な磁場を発生させるべく、真空容器側から離れるにつれて、前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の幅を前記真空容器側の陽子ビームと交差する磁場方向の幅よりも広くしたパルス磁場偏向電磁石である。
【0011】
請求項2の発明は、前記偏向コイルの真空容器側の陽子ビームと交差する磁場方向の両側部に段差部を形成して前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の幅を変化させた請求項1記載のパルス磁場偏向電磁石である。
【0012】
請求項3の発明は、前記偏向部の偏向コイルを、前記真空容器に沿って巻き付け、その偏向部で対向した前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の両側部に段差部を形成すると共にヨークで覆い、その偏向コイルに、繰り返し周波数が約1Hz、立上がり時間が3.5msec、電流値が200kAのパルス電流を印加してヨークを飽和させ、前記真空容器の偏向部に磁束密度が約4Tの一様な磁場を発生させる請求項2記載のパルス磁場偏向電磁石である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
まず、図2で陽子シンクロトロンを説明する。
【0015】
図2は、本発明の適用例である陽子シンクロトロンの平面図を示したものである。
【0016】
図2に示すように、陽子シンクロトロン20は、環状に形成された真空容器21と、真空容器21内に入射された陽子ビームを加速する高周波加速空洞22a、22bと、真空容器21の偏向部23a〜dに設けられ、加速された陽子ビームを偏向させるための偏向電磁石24a〜dと、偏向された陽子ビームを収束するための収束電極25a〜dと、偏向電磁石24a〜dに、電流通路26a〜dを介してパルス電流を印加するパルス電流供給部27とを備えている。
【0017】
図では描いていないが、陽子シンクロトロン20には、エネルギーが約1MeVの陽子ビームを陽子シンクロトロン20に入射させるためのバンデグラーフ(Van de Graaff) 形加速器などが接続されている。
【0018】
陽子シンクロトロン20は、入射部28に入射された約1MeVの陽子ビームを、高周波加速空洞22a、22bで加速しつつ、偏向部23で偏向させて真空容器21内を周回させ、数十MeV〜数百MeVの陽子ビームとして出射部29から取り出すものである。この陽子シンクロトロン20を陽子線がん治療装置に組み込み、がん治療に使用する。
【0019】
さて、図1は、本発明の好適実施の形態であるパルス磁場偏向電磁石の断面図を示したものである。
【0020】
図1に示すように、本発明のパルス磁場偏向電磁石1は、内部に陽子ビームの通路を有する環状の真空容器21の偏向部23に設けられ、加速された陽子を偏向させるための3T以上の磁場を発生するものであり、偏向部23において、真空容器21の垂直な両外側面に沿って配置され、真空容器21を挟んで対向に巻き付けられた、偏向コイル2の真空容器21側の表面と偏向コイル2内部との電流密度分布の差を抑えて、偏向部23に一様な磁場を発生させるべく、真空容器21側から離れるにつれて、偏向コイル2の真空容器21の反対側の図示上下の長さ(偏向コイル2の陽子ビームと交差する磁場方向の幅)を真空容器21側の図示上下の長さ(真空容器21側の陽子ビームと交差する磁場方向の幅)よりも長く(広く)したものである。
【0021】
図では、偏向コイル2の上下に、真空容器21からの距離に応じて偏向コイル2の高さが高くなるように階段状の段差部3a〜cを形成した例で描いているが、傾斜面を有する段差部3を形成してもよいし、滑らかな曲線状の段差部3を形成してもよい。すなわち、偏向コイル2の真空容器21側の上下は、パルス電流のコイル2内への浸透深さに応じて高さを変化させればよい。
【0022】
本実施の形態では、偏向コイル2を、真空容器21の偏向部23の周囲に沿って巻き付け、その偏向部23で対向したコイル2の上下に段差部3a〜cを形成すると共にヨーク4で覆っている。真空容器21、偏向コイル2、ヨーク4で囲まれた部分には、間隙5が区画形成される。
【0023】
偏向コイル2としては、例えば、銅からなる1つの導体を、真空容器21の偏向部23の周囲に沿って1巻となるように巻き付けているが、数回巻きとしてもよい。
【0024】
ヨーク4は、鉄などからなる磁性体で形成されている。ヨーク4は、偏向コイル2で発生した磁束が外部へ漏れるのを防ぐためのものであり、真空容器21の上下では磁極4a,4bともなる。
【0025】
本発明は、偏向コイル2に、後述するパルスの大電流を流すことにより、ヨーク4を飽和させ、真空容器21の偏向部23に磁束密度が約4Tの一様な磁場を発生させるものである。鉄は磁束密度が約2Tで飽和するために、それ以上の磁束密度下では空気と見なせるので、本発明では、磁極4a,4bの形状は不問であり、さらに言えば、ヨーク4の部分は空気でもよい。
【0026】
真空容器21内の真空度は、10-7Pa以下にしている。真空容器21の断面は、陽子が周回する軌道に直角方向(図では縦方向)が長くなるように略長穴状に形成されている。加速された陽子は、真空容器21の偏向部23において、自身の速度と、偏向コイル2が発生する周回軌道面に対して鉛直方向の磁束密度とによる電磁力によって偏向される。このとき陽子には、周回軌道の中心方向に働く電磁力と、この電磁力に対して反対方向に働く遠心力とがつり合って作用する。真空容器21の断面形状は、陽子が電磁力や遠心力によって周回軌道の径方向に微動しても、真空容器21内面に衝突しないようにして決定される。
【0027】
本発明の作用を説明する。
【0028】
まず、偏向コイル2にパルス電流を印加する。パルス電流は高周波電流なので偏向コイル2内に電流が一気に浸透することはなく、表皮効果により、パルス電流印加後の時間経過に伴って偏向コイル2内に徐々に浸透していく。この電流の浸透深さは一定である。
【0029】
このとき、偏向コイル2は真空容器21を挟んで対向するように配置されているため、従来のようにコイルの高さが一定のままでは、近接効果により、間隙5側の偏向コイル2表面では電流密度が極端に高く、偏向コイル2内部では電流密度が低いという状態となり、偏向コイル2の表面と内部とで電流密度分布の差が広がってしまう。
【0030】
本発明のパルス磁場偏向電磁石1は、偏向コイル2の真空容器21の反対側の上下の長さを真空容器21側の上下の長さよりも長くしているので、すなわち、偏向コイル2の高さを、電流の浸透深さに応じて変えているので、電流が偏向コイル2内に浸透するにつれて偏向コイル2の高く形成した部分(段差部3a〜c)にも呼び込まれ、間隙5側の偏向コイル2表面では電流密度が下がる。コイル断面で言えば、電流の浸透深さに応じてコイル断面積が増加するように偏向コイル2の高さを変えているので、偏向コイル2内部の電流密度の減少に伴い、間隙5側の偏向コイル2表面では電流密度が低くなって偏向コイル2全体の電流密度が下がる。
【0031】
これにより、偏向コイル2の表面と内部とで電流密度分布の差を抑えることができ、真空容器21の偏向部23に磁束密度が一様な磁場を発生させることができる。
【0032】
このパルス磁場偏向電磁石1を加速器に用いれば、加速された陽子に、周回軌道の中心方向に働く強力な電磁力を発生させることができるので、加速された陽子の軌道半径を小さくして加速器の小型化・低価格化を図ることができる。よって、陽子シンクロトロンを2m四方ほどの大きさに小型化し、陽子線がん治療装置の敷地面積の縮小、コストダウンを実現することができる。
【0033】
このように、本発明のパルス磁場偏向電磁石1は、常伝導で磁束密度が約4Tの一様な磁場を発生させることができるので、陽子シンクロトロンの小型化が図れ、医院程度の小さな施設にも陽子線がん治療装置を設置することが可能となり、医療サービスの充実化にも貢献することができる。
【0034】
次に、本発明に係る偏向コイル2の形状を決定する手順を説明する。
【0035】
まず、数値解析によって、偏向コイル2にパルス電流を印加したときのコイル2断面の電流密度分布を経時的に求める。
【0036】
図3は、本発明に係る偏向コイルの形状を決定する数値解析のための概念図である。
【0037】
図3に示すように、段差部を形成しない偏向コイル30を想定し、その偏向コイル30を用いたパルス磁場偏向電磁石1の断面図を、間隙5の中心点(真空容器21の偏向部23の中心点)を原点OとしてX−Y平面としている。
【0038】
ここでは、陽子の周回軌道の径方向をX軸にとり、偏向コイル2によって間隙5内に発生する磁場の方向をY軸にとって、間隙5内に発生する座標(r,θ)におけるY方向成分の磁束密度Byとして極座標表示している。なお、図3ではヨーク4を支持部材6で覆ったものを描いている。
【0039】
図4は、本発明に係る偏向コイルに印加するパルス電流の一例を示す波形図である。図では横軸を時間Tにとり、縦軸を電流値Iにとってパルス電流波形Pを示している。
【0040】
図4に示すように、本実施の形態では、偏向コイル2に、繰り返し周波数が約1Hz(時間0から時間t2 までの周期が約1秒)、立上がり時間(時間0から時間t1 まで又は時間t2 からt3 まで)が3.5msec、電流値Ipが200kAのパルス電流を印加する。パルス電流波形Pは、略1/4正弦波である。本発明では、このパルス電流を偏向コイルに印加することによって、常伝導でヨーク(磁極)を3.5msecという短時間で瞬時に飽和させ、間隙内に磁束密度が約4Tの一様な磁場を発生させるようにしている。
【0041】
図5は、数値解析によって求めた偏向コイル30(断面)内の電流密度分布図を示したものである。図5(a)はパルス電流印加開始から0.42msec経過時、図5(b)は1.4msec経過時、図5(c)は3.5msec経過時の電流密度分布の経時変化をそれぞれコンタ(等高線)表示している。
【0042】
図では、偏向コイル30の断面右端Rがヨーク4側、断面左端Lが間隙5側となっている。断面右端Rと太線で囲まれた領域D0 が最も電流密度の低い領域で、以下、太線と実線で囲まれた領域D1 、実線と点線で囲まれた領域D2 、点線と一点鎖線で囲まれた領域D3 、一点鎖線と二点鎖線で囲まれた領域D4 となるにしたがって電流密度が高くなり、二点鎖線と断面左端Lで囲まれた領域D5 が最も電流密度の高い領域である。なお、図中の断面円状の空間はコイル通電による発熱を冷却するための冷却水流路である。
【0043】
図5(a)〜(c)に示すように、パルス電流印加後の時間経過に伴い、電流はコイル30断面において内部へと浸透し、間隙5側で電流密度が極端に高く、コイル30内部で低いという分布となる。電流がコイル30内に浸透するにつれてコイル30の表面と内部とで電流密度分布の差が広がっていることがわかる。
【0044】
この経時的に変化する電流密度分布は、電流の浸透深さに応じてコイルの高さを変えることで意図的に変化させることができ、ひいてはそれによって生じる間隙5内の磁束密度分布をも変化させることが可能となる。
【0045】
図6は、図5の電流密度分布に基づき、間隙内の磁束密度分布図の経時的変化を求めて示したものである。図では、横軸を間隙5中心点からの距離X(cm)にとり、縦軸としては磁束密度Byを間隙中心点の磁束密度By0 で正規化(By/By0 )した値にとっている。図中の曲線は、時間0msecのときBy/By0 が1で横軸に平行な直線であり、時間がたつにつれて曲率が大きくなっている。
【0046】
図6に示すように、コイル30では、コイル30の表面と内部とで電流密度分布の差が広がっていることから、パルス電流印加後の時間経過に伴い、磁束密度分布図が間隙5中心点から離れるにつれて立ち上がっていることがわかる。これは、間隙5内の磁場の歪み(多重極成分)が大きいことを示している。
【0047】
以上の結果を用いて、本発明に係る偏向コイル2の形状を決定する。偏向コイル30内部への電流の浸透深さに応じてコイル30の高さを変えることで、コイル30内部の電流密度分布をコントロールし、間隙5内の磁場の多重極成分を減少させる。
【0048】
一例を挙げると、間隙5断面において、その断面の中心の磁束密度By0 に対してコイル側の磁束密度Byが大きくなる場合は、コイル30内部側のコイル30の高さを高くすることで、浸透深さは一定で面積が増加するためコイル30内部の電流密度が減少し、間隙5内のコイル30側の磁束密度が小さくなり、間隙5内の磁束密度分布(あるいは磁場)を一様な方向に導くことができる。
【0049】
図7は、図1に示したパルス磁場偏向電磁石1を用いた真空容器21の偏向部23(間隙内)における磁束密度分布図の経時的変化を示したものである。
【0050】
図7に示すように、図6と比較すると、本発明のパルス磁場偏向電磁石1では、偏向コイル2の上下に段差部3a〜cを形成しているので、パルス電流印加後の時間経過に伴い、磁束密度分布図が間隙5中心点から離れるにつれて立ち下がっていることがわかる。これは、間隙5内の磁場の歪み(多重極成分)が小さくなったことを示している。
【0051】
図8は、偏向コイル2(断面)内の電流密度分布図を示したものである。図8(a)はパルス電流印加開始から0.42msec経過時、図8(b)は1.4msec経過時、図8(c)は2.8msec経過時、図8(d)は3.5msec経過時の電流密度分布の経時変化をそれぞれコンタ表示している。
【0052】
図8に示すように、図5と比較すると、本発明のパルス磁場偏向電磁石1では、電流が偏向コイル2内に浸透するにつれて段差部3a〜cにも呼び込まれることで、偏向コイル2の表面と内部とで電流密度分布の差を抑えていることがわかる。これにより、真空容器21の偏向部23に磁束密度が一様な磁場を発生させることができる。
【0053】
次に、上述した内容を簡略化して本発明を図9〜図15で説明する。
【0054】
図9は、簡略化したコイル30の断面図を示したものである。説明を簡単にするため、図9中のX軸上の磁束密度Byと電流密度についてのみ考慮する。さらに、コイル内X軸上を4等分し、それぞれの領域に電流が集中しており、コイル30内X軸上に4本の無限線電流Iが流れていると考える。
【0055】
コイル30内X軸上の電流密度分布の経時的変化を簡略化して描くと、図10のようになる。図10(a)から図10(c)の順で時間が経過している。
【0056】
ここで、無限線電流IがX軸上に作る磁束密度Bは透磁率をμとすると、ビオ・サバールの法則により、(μ/2π)・(I/x)とあらわせるので、図10に適用すると、それぞれの無限線電流が作る磁束密度Byは図11のようになる。それらを重ね合わせると図12のようになり、磁束密度By分布図が得られる。
【0057】
図12に示すように、コイル30では高さが一定であるので、パルス電流印加後の経過時間に伴って電流がコイル30の間隙5側に集中してしまい、磁束密度Byの曲線の両端が立ち上がってしまうことがわかる。
【0058】
いま、電流の浸透深さに応じてコイル高さを高くしていくコイル2の場合を図13〜図15に示す。時間経過では、図13〜図15の各(a)、(b)が、図10〜図12の各(b)、(c)にあたる。
【0059】
図15に示すように、ヨーク4側のコイルの高さを高くする(電流の浸透深さに応じて真空容器21側のコイル2の上下に段差部3a,3bを形成する)と、電流がコイル2の間隙5側に集中することがなく、コイル2全体の電流密度(電流)が減少し、磁束密度Byの曲線の両端の立上がりを抑えることができることがわかる。
【0060】
図16は、本発明の第2の実施の形態であるパルス磁場偏向電磁石160の断面図とその間隙内の磁束密度分布図の経時的変化を図7と同様にして示したものである。また、図17は、本発明の第3の実施の形態であるパルス磁場偏向電磁石170の断面図とその間隙内の磁束密度分布図の経時的変化を示したものである。
【0061】
パルス磁場偏向電磁石160では、偏向コイル2の真空容器側21の上下に段差部3aを形成している。パルス磁場偏向電磁石170は、偏向コイル2の真空容器側21の上下に段差部3a,3bを形成したものである。
【0062】
図16および図17に示すように、偏向コイル2の上下に、1つの段差部3aを形成しても、磁束密度Byの曲線の両端の立上がりを抑えることができ、2つの段差部3a,3bを形成すればより効果的であることがわかる。このことは、図18に示したロシアで試作されたパルス磁場偏向電磁石180の磁束密度分布図と比較するとより明確になる。
【0063】
また、多重極成分の経時的変化について本発明とロシアで試作されたパルス磁場偏向電磁石180とを比較してみる。
【0064】
ロシアのパルス磁場偏向電磁石180では、多重極成分(n=2)が1/100のオーダーになる。これに対し、本発明に係るパルス磁場偏向電磁石1では、多重極成分(n=2)を1/10000のオーダーまで減少できる。
【0065】
このように、電流の浸透深さを考慮してコイルの高さを変化させると、陽子シンクロトロンで性能上有害となる間隙内の磁場の多重極成分を抑制することが可能であることがわかる。
【0066】
なお、上述の効果はコイル2が1巻であると効果的であるが、数回巻であっても本発明を適用することができる。
【0067】
本発明は、常伝導のパルス磁場偏向電磁石において性能上有害となる、間隙内の磁場の歪み(多重極成分)をコイル形状を工夫することで抑制させるものである。この磁場は、短パルスの高電流を印加することで鉄(ヨーク)を瞬時に飽和させ、間隙内に鉄の飽和磁束密度約2Tを超える4T程度の磁場を発生させるものである。これほどの磁場で、しかも偏向電磁石を小型化すると従来の技術では間隙内の磁場の歪み(多重極成分)が大きくなりすぎて、陽子線がん治療に十分なビームを得ることができないが、本発明のパルス磁場偏向電磁石1によれば、真空容器の偏向部に一様な磁場を発生させることができる。
【0068】
また、本発明は偏向部を有する加速器であればいかなる加速器にも適用することができる。例えば、シンクロトロン放射光を取り出すためのSOR装置(Synchrotoron Orbit Radiation)にも適用可能である。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のごとき優れた効果を発揮する。
【0070】
(1)真空容器の偏向部に一様な磁場を発生させることができる。
【0071】
(2)加速された陽子の軌道半径を小さくすることで、加速器の小型化・低価格化が図れる。
【0072】
(3)陽子シンクロトロンを小型化し、陽子線がん治療装置の敷地面積の縮小、コストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明の適用例である陽子シンクロトロンの平面図である。
【図3】本発明に係る偏向コイルの形状を決定する数値解析のための概念図である。
【図4】本発明に係る偏向コイルに印加するパルス電流の一例を示す波形図である。
【図5】段差部を形成しない偏向コイル内の電流密度分布図である。
【図6】段差部を形成しない偏向コイルを用いた真空容器の偏向部(間隙内)における磁束密度分布図である。
【図7】 図1に示したパルス磁場偏向電磁石を用いた真空容器の偏向部(間隙内)における磁束密度分布図である。
【図8】 図1に示したパルス磁場偏向電磁石の偏向コイル内の電流密度分布図である。
【図9】段差部を形成しない偏向コイルを簡略化した断面図である。
【図10】図9に示した簡略化した段差部を形成しない偏向コイル内における電流密度分布図である。
【図11】図10に示した各無限線電流による磁束密度分布図である。
【図12】図11に示した磁束密度分布を重ね合わせた磁束密度分布図である。
【図13】本発明に係る偏向コイルを簡略化した断面図である。
【図14】図13に示した各無限線電流による磁束密度分布図である。
【図15】図14に示した磁束密度分布を重ね合わせた磁束密度分布図である。
【図16】本発明の第2の実施の形態を用いた真空容器の偏向部における磁束密度分布図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態を用いた真空容器の偏向部における磁束密度分布図である。
【図18】 従来のパルス磁場偏向電磁石を用いた真空容器の偏向部における磁束密度分布図である。
【符号の説明】
1 パルス磁場偏向電磁石
2 偏向コイル
21 真空容器
23 偏向部
Claims (3)
- 内部に陽子ビームの通路を有する環状の真空容器の偏向部に設けられ、加速された陽子を偏向させるための3T以上の磁場を発生するパルス磁場偏向電磁石において、
前記偏向部において、真空容器の垂直な両外側面に沿って配置され、前記真空容器を挟んで対向に巻き付けられた、偏向コイルの真空容器側の表面と前記偏向コイル内部との電流密度分布の差を抑えて、前記偏向部に一様な磁場を発生させるべく、真空容器側から離れるにつれて、前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の幅を前記真空容器側の陽子ビームと交差する磁場方向の幅よりも広くしたことを特徴とするパルス磁場偏向電磁石。 - 前記偏向コイルの真空容器側の陽子ビームと交差する磁場方向の両側部に段差部を形成して前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の幅を変化させた請求項1記載のパルス磁場偏向電磁石。
- 前記偏向部の偏向コイルを、前記真空容器に沿って巻き付け、その偏向部で対向した前記偏向コイルの陽子ビームと交差する磁場方向の両側部に段差部を形成すると共にヨークで覆い、その偏向コイルに、繰り返し周波数が約1Hz、立上がり時間が3.5msec、電流値が200kAのパルス電流を印加してヨークを飽和させ、前記真空容器の偏向部に磁束密度が約4Tの一様な磁場を発生させる請求項2記載のパルス磁場偏向電磁石。
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