以下、本発明の車両用ブレーキ装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施例)
本実施例は、アンチスキッド制御を行なうことが可能な前輪駆動の4輪車において、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の車両に、本発明による車両用ブレーキ装置を適用した例である。
a)まず、ブレーキ装置の基本構成を、図1に示すブレーキ配管モデル図に基づいて説明する。尚、説明を簡略化するために、以下の説明では特定の配管系統(例えば右前輪及び左後輪)を例に挙げて説明する。図1において、車両に制動力を加える際に運転者によって踏み込まれるブレーキペダル1は、倍力装置3と接続されており、ブレーキペダル1に加えられる踏力及びペダルストロークがこの倍力装置3に伝達される。
マスタシリンダ(M/C)5は、倍力装置3によって倍力されたブレーキ液圧を、ブレーキ配管全体に加えるものであり、このマスタシリンダ5には、ブレーキ液を貯溜するマスタリザーバ7を備えている。前記マスタシリンダ5にて発生したマスタシリンダ圧(M/C圧)は、マスタシリンダ5と、右前輪FRに配設されてこの車輪に制動力を加える第1のホイールシリンダ(W/C)9と、左後輪RLに配設されてこの車輪に制動力を加える第2のホイールシリンダ11とを結ぶ第1の配管系統A内のブレーキ液に伝達される。同様にマスタシリンダ圧は、左前輪と右後輪とに配設された各ホイールシリンダとマスタシリンダ5とを結ぶ第2の配管系統にも伝達されるが、第1の配管系統Aと同様の構成を採用できるため、詳述しない。
前記第1の配管系統Aのブレーキ配管の構成として、右前輪FR側には、マスタシリンダ5と第1のホイールシリンダ9とを連通する管路A1aと、管路A1aを開閉制御する電磁弁(第1の増圧制御弁)13と、第1の増圧制御弁13と並列に設けられたチェック弁19と、第1の増圧制御弁13と第1のホイールシリンダ9との間の分岐点B1から分岐してリザーバ17に至る管路A2aと、管路A2aを開閉制御する電磁弁(第1の減圧制御弁=第1の調整弁)15とを備えている。
また、左後輪RL側には、同様に、マスタシリンダ5と第2のホイールシリンダ11とを連通する管路A1bと、管路A1bを開閉制御する電磁弁(第2の増圧制御弁)14と、第2の増圧制御弁14と並列に設けられたチェック弁21と、第2の増圧制御弁14と第2のホイールシリンダ11との間の分岐点B2から分岐してリザーバ17に至る管路A2bと、管路A2bを開閉制御する電磁弁(第2の減圧制御弁=第2の調整弁)16とを備えている。尚、管路A1a,A1bを管路A1と総称する。
更に、各制御弁13〜16と並列にリザーバ17から(マスタシリンダ5に連通する)管路A1の分岐点B3に至る管路A3と、管路A3に設けられてリザーバ17からブレーキ液を管路A1側に汲み上げるポンプ23と、ポンプ23の上流側及び下流側に設けられたチェック弁25,27とを備えている。
上述したブレーキ配管では、右前輪FR及び左後輪RLに対してアンチスキッド制御を行なう場合には、各制御弁13〜16の開閉制御により、それぞれのホイールシリンダ圧を周知の増圧、保持又は減圧の状態に設定して制動力を調節する。
特に、本実施例では、後述するように、各減圧制御弁15,16及びポンプ23を駆動することにより、第1及び第2のホイールシリンダ9,11間においてブレーキ液を移動させて、それぞれのホイールシリンダ圧(以下第1及び第2のホイールシリンダ圧と称す)を調節する制御(以下調整制御と称する)が行われる。その場合は、両増圧制御弁13,14がオフで管路A1が連通されており、路面限界に近いどちらかの車輪側の減圧制御弁15,16をオンして管路A2を連通させるとともに、ポンプ23を駆動する制御が行われる。
b)次に、本実施例の電気的構成を説明する。前記アンチスキッド制御及び調整制御等は、図2に示す電子制御装置(ECU)30によって行われる。このECU30は、周知のCPU30a、ROM30b、RAM30c、入出力部30d、及びバスライン30e等を備えたマイクロコンピュータとして構成されている。
前記入出力部30dには、ブレーキペダル1が踏み込まれ実質的に車両制動状態となったことを検出するストップスイッチ31、各車輪毎の車輪速度を検出する車輪速度センサ33、各車輪毎のホイールシリンダ圧を検出するW/C圧センサ35が接続されている。また、入出力部30dには、第1及び第2の増圧制御弁13,14、第1及び第2の減圧制御弁15,16、ポンプ23が接続されている。
c)次に、このECU30にて行われる制御処理について説明する。まず、図3のフローチャートに基づいて、アンチスキッド制御を開始する制御処理を説明する。図3のステップ100にて、フラグをクリアする等の周知の状態初期設定の処理を行なう。
続くステップ110では、各車輪の車輪速度センサ33からの信号に基づいて、各車輪の車輪速度VWを算出する。続くステップ120では、例えば各車輪速度VWのうちの最大のものに基づいて、所定のガードをかけて推定車体速度Vsを求める。
続くステップ130では、推定車体速度Vsと各車輪速度VWとに基づいて、下記式(1)より、各車輪毎にスリップ率SWを算出する。SW=(Vs−VW)/Vs …(1)続くステップ140では、ストップスイッチ31がオンか否か、即ちブレーキペダル1が踏み込まれたか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ150に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
ステップ150では、制御対象となる車輪におけるスリップ率SWが、所定値以上か否か、即ちアンチスキッド制御を行なうべき状態か否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ160に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
ステップ160では、アンチスキッド制御を開始する条件が満たされたので、アンチスキッド制御中であることを示すフラグABSFを1にセットする。続くステップ170では、制御対象の車輪に応じて、それぞれの増圧制御弁13,14や減圧制御弁15,16を駆動してホイールシリンダ圧を制御する周知のアンチスキッド制御を行ない、一旦本処理を終了する。
次に、本実施例の要部である調整制御について、図4のフローチャートに基づいて説明する。ここでは、車輪スリップ量Xsに基づいて調整制御を行なう例について説明する。図4のステップ200にて、周知の状態初期設定の処理を行なう。
続くステップ210にて、各車輪の車輪速度センサ33からの信号に基づいて、各車輪の車輪速度VWを算出する。尚、この車輪速度VWは、前記ステップ110にて求めたものをそのまま使用してもよい。続くステップ220では、例えば各車輪速度VWのうちの最大のものに基づいて、所定のガードをかけて推定車体速度Vsを求める。尚、この推定車体速度Vsは、前記ステップ120にて求めたものをそのまま使用してもよい。
続くステップ230では、推定車体速度Vsと各車輪速度VWとに基づいて、下記式(2)より、各車輪毎に車輪スリップ量Xsを算出する。Xs=(Vs−VW) …(2)続くステップ240では、現在アンチスキッド制御中であるか否かを、前記フラグABSFが1であるか否かによって判定し、ここで、アンチスキッド制御中であると判断されると前記ステップ210に戻り、一方そうではないと判断されるとステップ250に進む。尚、このアンチスキッド制御中であるか否かの判定は省略することも可能である。ステップ250では、対象とする車輪が路面限界に近づいているか否かを、前記ステップ230で求めた車輪スリップ量Xsが所定の基準値KXs以上であるか否かによって判断する。ここで、路面限界に近づいていると判断されるとステップ260に進み、一方そうではないと判断されると前記ステップ210に戻る。
尚、この基準値KXsは、調整制御を行なうタイミングが、アンチスキッド制御を行なうタイミングより早くなる値に設定しておく。従って、アンチスキッド制御に先だって調整制御が実行されるので、場合によっては、アンチスキッド制御に入らないこともある。
ステップ260では、前記ステップ250にて、当該車輪(以下の説明では右前輪FRを例に挙げて説明する)が路面限界に近づいていると判断されたので、第1の減圧制御弁15を連通状態にし、管路A1の分岐点B1を介して第1のホイールシリンダ9等からブレーキ液をリザーバ17に逃がして、第1のホイールシリンダ圧を低減する。これによって、右前輪FRは、路面限界から遠ざかる。
続くステップ270では、ポンプ23を駆動して、リザーバ17からブレーキ液を汲み上げて分岐点B3を介して管路A1に供給し、前記ステップ210に戻る。このとき、左後輪RL側の第2の増圧制御弁14は連通状態であり、且つ第2の減圧制御弁16は遮断状態であるので、管路A1側に供給されたブレーキ液は管路A1bを介して第2のホイールシリンダ11に供給され、それによって、第2のホイールシリンダ圧が増加するので、左後輪RLの制動力が高まることになる。
尚、ポンプ23により管路A1に供給されたブレーキ液は、第2のホイールシリンダ11だけでなく第1のホイールシリンダ9にも供給されるが、ブレーキ液は第1のホイールシリンダ9からリザーバ17に逃がしている状態で、ある程度の圧力差が生じるので、結果として、第1のホイールシリンダ圧は低減し、第2のホイールシリンダ圧は増加する。
d)次に、前記調整制御によるブレーキ液圧の変動等の動作を、図5の説明図に基づいて説明する。図5に示す様に、あるタイミング(時点t1)でブレーキペダル1が踏込まれると、車輪にブレーキがかけられて、徐々にマスタシリンダ圧、第1のホイールシリンダ圧、第2のホイールシリンダ圧、及びこの配管系統Aにおける両車輪の制動力が上昇する。これにともなって、図示しないが、車輪速度VWが低下し、徐々に車輪スリップ量Xsが増大する。
そして、例えば右前輪FRにおいて、車輪スリップ量Xsが基準値KXsを上回ると(時点t2)、第1及び第2の増圧制御弁13,14は連通状態で且つ第2の減圧制御弁16は遮断状態において、第1の減圧制御弁15のみが駆動されて連通状態とされるので、ブレーキ液は第1のホイールシリンダ9側から流出し、第1のホイールシリンダ圧が急速に低減する。
このとき(時点t2)、ポンプ23が駆動され、リザーバ17からブレーキ液が管路A1に供給されるので、そのブレーキ液のかなりの量が第2のホイールシリンダ11に供給されて、第2のホイールシリンダ圧が増加する。従って、両車輪の合計の制動力は、一時的には第1のホイールシリンダ圧の低減によって低下するが、その後第2のホイールシリンダ圧が増加するので、結果として増加することになる。
この様に、本実施例では、各車輪の車輪スリップ量Xsを求め、この車輪スリップ量Xsが基準値KXs以上となった場合、例えば右前輪FRが路面限界に近づいたとみなして、第1の減圧制御弁15を駆動して、第1のホイールシリンダ9側からブレーキ液をリザーバ17に逃がすとともに、ポンプ23を駆動させて、第2のホイールシリンダ圧を上げている。
それによって、右前輪FRは路面限界から遠ざかるので、車輪ロックに陥ることがなく、一方、(まだ路面限界からは遠い)左後輪RLの制動力は高められるので、結果として、車両全体の制動力が高められることになる。また、従来では、この様な場合では、右前輪FRのアンチスキッド制御がすぐに開始されてしまい、その分だけ乗員による操作性が損なわれるが、本実施例では、ブレーキ液を移動させることにより、一旦アンチスキッド制御に入る状態から遠ざかるので、乗員による操作性が高まり、ドライブフィーリングが向上するという利点がある。
なお、ここでいうアンチスキッド制御とは、基準値KXsよりも大きい値に設定されている基準値との比較において、制御対象の車輪がロック傾向であると判断された場合に、ホイールシリンダ圧を十分減圧できるようにマスタシリンダ5からホイールシリンダ9への間のブレーキ液の流動を禁止して、ホイールシリンダ圧を減圧する制御以後を指す。
また、マスタシリンダ5からホイールシリンダ9への流動を禁止するアンチスキッド制御では、乗員のペダルフィーリングはポンプ吐出によるキックバック感のみであるが、本実施例における調整制御では、ホイールシリンダ圧の減圧とともにマスタシリンダ圧も低下されるため、ブレーキペダル1の引き込み感があった後に、ポンプ吐出および第2の減圧制御弁16の遮断によるキックバック感がおこる。すなわち、アンチスキッド制御では減圧時にマスタシリンダ5からホイールシリンダ9へのブレーキ液の流動が禁止されているため、板圧感となり、この状態からポンプ吐出によるキックバックが発生するが、調整制御によるペダル引き込み後のキックバックでは、ブレーキペダル1および乗員の足にペダル引き込みの慣性が働き、キックバック感が小さくなる。よって、このような調整制御では、通常のアンチスキッド制御に比べて乗員のペダルフィーリングを向上できるという効果がある。
なお、このような調整制御において、ステップ260では第1の減圧制御弁15の連通遮断を、所定時間(たとえば20mm/s)ごとに切換えるようにしてもよい。このようにすれば、ブレーキペダル1の所定以上の入り込みを抑制することができ、ペダルストロークが所定以上となってマスタピストン(マスタシリンダ5内のピストン)が底付きする可能性を極力無くすことができる。なお、このように、例えば第1の減圧制御弁15のみの連通遮断を所定時間間隔ごとに繰り返す制御を実行している最中においても、スリップ状態が悪化していくようであれば、アンチスキッド制御が実行され、第1,第2の増圧制御弁13,14が遮断状態にされ、十分な減圧量を稼ぐことができる。
また、ステップ260の第1の減圧制御弁15の連通状態へのセットより、ステップ270のポンプ駆動を先に行うようにしてもよい。すなわち、ポンプ駆動には所定のタイムラグが存在することを考慮して、先にポンプ23を駆動する指令を出力するようにしてもよい。なお、本実施例のように、ポンプ吐出指令よりも先に、例えば第1の減圧制御弁15の連通指令をおこなっても、現実には指令タイミングに時間的な差がほとんどないため、ブレーキ圧力の制御自体には問題は生じない。
更に、本実施例は、車両が直進時又は旋回時に限定されず実施することができる。尚、本実施例では、アンチスキッド制御中であるか否かを判定したが、このアンチスキッド制御の判定を行わずに、つまり、アンチスキッド制御とは別個に、調整制御の判定を行なって、調整制御を実施してもよい。(第2実施例)次に、第2実施例について説明する。
本実施例は、前記第1実施例とは、アンチスキッド制御を行なう構成を備えていない点が大きく異なる。尚、前記第1実施例と同様な部分の説明は省略又は簡略化し、ハード構成において同じものは同一番号を使用する。a)図6に示す様に、本実施例のブレーキ配管の第1の配管系統Aにおいては、第1及び第2のホイールシリンダ9,11、第1及び第2の減圧制御弁15,16、リザーバ17、ポンプ23、チェック弁25,27などが配置されている。特に本実施例では、アンチスキッド制御を行わないので、前記第1実施例の増圧制御弁を備えていない。
従って、本実施例では、後述する様に、調整制御の場合には、それぞれの減圧制御弁15,16が連通状態のときに、ポンプ23を駆動する制御が行われる。b)次に、本実施例の調整制御について、図7のフローチャートに基づいて説明する。ここでは、車輪スリップ積算値AXsを調整制御の判断基準に用いた例を説明する。
図8のステップ300にて、周知の状態初期設定の処理を行なう。続くステップ310にて、各車輪の車輪速度センサ33からの信号に基づいて、各車輪の車輪速度VWを算出する。続くステップ320では、例えば各車輪速度VWのうちの最大のものに基づいて、所定のガードをかけて推定車体速度Vsを求める。
続くステップ330では、推定車体速度Vsと各車輪速度VWとに基づいて、前記式(2)より、各車輪毎に車輪スリップ量Xsを算出する。続くステップ340では、車輪スリップ量Xsを積算し、(ストップスイッチ21がオンとなってからの)車輪スリップ積算値AXsを算出する。
続くステップ350では、車輪スリップ積算値AXsが、当該車輪(例えば右前輪FR)が路面限界に近づいたことを示す所定の基準値KAXs以上か否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ360に進み、一方否定判断されると前記ステップ310に戻る。
ステップ360では、例えば右前輪FRが路面限界に近づいたと判断されたので、第1の減圧制御弁15を連通状態にする。これにより、ブレーキ液は第1のホイールシリンダ9からリザーバ17に逃がされるので、第1のホイールシリンダ圧が低減する。これにより、右前輪FRは路面限界から遠ざかる。
続くステップ370では、ポンプ23を駆動して、リザーバ17からブレーキ液を汲み上げて分岐点B3を介して管路A1に供給し、前記ステップ310に戻る。このとき、管路A1側に供給されたブレーキ液は管路A1a側に供給されるだけでなく、管路A1bを介して第2のホイールシリンダ11に供給されるが、左後輪RL側の第2の減圧制御弁16は遮断状態であるので、第2のホイールシリンダ圧が増加し、それによって、左後輪RLの制動力が高まる。
この様に、本実施例では、各車輪の車輪スリップ積算値AXsを求め、この車輪スリップ積算値AXsが基準値KAXs以上となった場合に、路面限界に近づいた例えば右前輪FR側の第1の減圧制御弁15及びポンプ23を駆動し、それによって、第1のホイールシリンダ圧を低減するとともに、第2のホイールシリンダ圧を増加させている。
従って、本実施例の場合も、前記第1実施例と同様に、その配管系統Aにおける左右輪の合計の制動力が向上するという効果を奏する。特に本実施例では、調整制御の判断基準として、車輪スリップ積算値AXsを採用しているので、車輪スリップ量Xsを採用した場合と比較して、その精度が高いという利点がある。
尚、本実施例の構成に代えて、第1の減圧制御弁15と管路A2a、もしくは、第2の減圧制御弁16と管路A2bのどちらか一方のみを構成しても効果がある。例えば、第1の減圧制御弁15と管路A2aを設けた場合には、左後輪RLの制動力向上と、右前輪FRのロック防止との両立が可能となる。一方、第2の減圧制御弁16と管路A2bを設けた場合には、右前輪FRの制動力向上と、左後輪RLのロック防止と、安定性向上とを実現することが可能である。(第3実施例)次に、図8〜図12に基づいて、第3実施例について説明する。
図8は、本実施例におけるブレーキシステム構成を示すものである。このブレーキシステムは、右前輪FR−左後輪RLの各ホイールシリンダ41、42にて第1の配管系統Aを構成し、左前輪FL−右後輪RRの各ホイールシリンダにて図示しない第2の配管系統を構成するダイアゴナル配管のシステムである。
このシステムでは、乗員により踏み込み操作されるブレーキペダル43のペダルストローク或は乗員の踏力を、エンジンのインテークマニホールド負圧等を用いて倍力するバキュームブースタ44が備えられており、バキュームブースタ44の出力に応じて、マスタシリンダ46においてマスタシリンダ圧PMが発生される。尚、ブレーキペダル43及びマスタシリンダ46等によりブレーキ液圧発生手段を構成する。
前記マスタシリンダ46は独自のマスタリザーバ47を備えており、このマスタシリンダ46からは、第1の配管系統Aと第2の配管系統が独立して延びている。尚、第1の配管系統Aと第2の配管系統とは同様の構成を採用することができるため、第2の配管系統の図示及び説明を省略する。
第1の配管系統Aは中途で分岐し、左後輪RL側の(第2の)ホイールシリンダ42と接続される管路A1と、右前輪FR側の(第1の)ホイールシリンダ41と接続される管路A2とを備えている。第1の配管系統Aには、点線で囲うアンチスキッド用アクチュエータBが設けられている。このアンチスキッド用アクチュエータBは、リザーバ48から吸引したブレーキ液を管路A2に吐出するように配置されたポンプ49と、(第1,第2の)増圧制御弁51,52及び(第1,第2の)減圧制御弁53,54によって構成されている。尚、以下の説明では、ホイールシリンダ41,42、増圧制御弁51,52及び減圧制御弁53,54の第1及び第2の区別は省略する。
前記増圧制御弁51,52は管路A1,A2にそれぞれ配置され、この増圧制御弁51,52の弁体位置は、通用ブレーキ時では図示の連通位置とされている。そして、ECU60(図11参照)からの制御信号により所定の電力供給源から各増圧制御弁51,52が電力供給を受けた際には、各増圧制御弁51,52はON状態となり各弁位置は遮断位置となる。
一方、減圧制御弁53,54は各ホイールシリンダ41,42とリザーバ48とを結ぶ管路に配置され、各減圧制御弁53,54の弁位置は、通常ブレーキ時では図示の遮断位置とされている。これら減圧制御弁53,54の弁位置は、電力供給を受けたON状態において遮断位置となる。これら各弁51,52,53,54は2ポート2位置弁であり、電磁ソレノイドの起磁力により弁体が移動する電磁弁により構成されている。
また、管路A2におけるポンプ吐出の接続先よりもマスタシリンダ46側において、比例制御弁56が配置されている。この比例制御弁56は、従来後輪側の管路に配置される周知の構造のものを採用できる。この比例制御弁56の従来の使われ方は、マスタシリンダ圧PMが所定の折れ点圧力P以上となった際に、図9の一点破線に示す如く基圧であるマスタシリンダ圧PMを所定減衰比にて減衰してホイールシリンダ41,42に流動させるものである。
このような作用の比例制御弁56を、本実施例では、基圧がホイールシリンダ41側となるように従来と比べて逆接する。即ち、図9の実線にて示すように、マスタシリンダ圧PM及びホイールシリンダ圧PWが折れ点圧力P以上である際に、ホイールシリンダ41側がマスタシリンダ圧PMより高くなればマスタシリンダ46側に所定の減衰比にて減衰して流動する。比例制御弁56は、この減衰作用によってホイールシリンダ41側の圧力をマスタシリンダ圧PMよりも高く保持することが可能である。
また、図10に示すように、ECU(電子制御装置)60は、周知のCPU60a、ROM60b、RAM60c、入出力部60d等を備え、ストップスイッチ61、車輪速度センサ62、及びステアリング63(図8参照)の回転角ωを検出するステアリングセンサ64等からの信号を入力して各種の演算を行なうとともに、増圧制御弁51,52、減圧制御弁53,54、及びポンプ49等を駆動するための信号を出力する。
次に、図11のフローチャートに基づいて、ECU60において行われる制御フローについて説明する。図示しないイグニッションスイッチのON動作等に伴って制御フローがスタートし、ステップ400において各種フラグ等の状態初期設定を実行する。
ステップ410では、車輪速度センサ63からの出力信号に基づいて、各車輪の車輪速度VWを演算する。ステップ420では、各車輪の車輪速度VW等に基づいて、車体速度VBを演算する。尚、この車体速度VBとしては、例えば車輪速度VWの最大値を採用してもよいし、前記第1実施例の様に、車輪速度VWの最大値に所定のガードをかけた推定車体速度Vsを採用してよい。
ステップ430では、制御対象輪の車輪加速度dVWが演算される。ステップ440では、車輪速度VW及び車体速度VB等に基づいて、例えば前記式(1)を用いて、現フローの制御対象輪のスリップ率SWを演算する。ステップ450では、ストップスイッチ61からの出力信号に基づいて、ストップスイッチ61がON状態であるか否かが判定される。ここで否定判断された場合にはステップ410に戻り、一方肯定判断された場合にはステップ460に進む。
ステップ460では、制御対象輪のスリップ率SWが所定スリップ率KS(例えば15〜20%)以上であるか否かが判断される。ここで否定判断された場合にはステップ410に戻り、一方肯定判断された場合にはステップ470に進む。
ステップ470では、制御対象輪の車輪加速度dVWが正の値であるか否か(0より大きいか否か)が判断される。ここで肯定判断された場合にはステップ480に進み、一方否定判断された場合にはステップ490に進む。ステップ480では、制御対象輪のスリップが復帰傾向にあるとして、車輪の慣性モーメント等を考慮してこの時点からパルス増圧を所定時間もしくは所定パルス数行い、その後ステップ410に戻る。
尚、パルス増圧とは、例えばホイールシリンダ42をパルス増圧する際では、減圧制御弁54がOFF状態の遮断位置で、増圧制御弁52への通電を所定時間毎にON・OFFして連通・遮断位置を繰り返す制御である。また、パルス増圧の前に圧力を保持するいわゆる保持制御を所定時間行ってもよい。
一方、ステップ490では、制御対象輪のスリップ状態が過大であるとして、制御対象輪のホイールシリンダにかかるブレーキ液圧を減圧制御し、その後ステップ410に戻る。例えば、制御対象輪が右前輪FRであり、この右前輪FRのスリップ状態が過大であれば、アンチスキッド制御において増圧制御弁51がONされて保持位置となり、減圧制御弁53がONされて連通位置となる。これにより、ホイールシリンダ41に加えられていたブレーキ液圧はリザーバ48に向けて減圧流動する。尚、このステップ490においてアンチスキッド制御が開始されるとともにポンプ49に通電が開始され駆動されはじめ、アンチスキッド制御の終了まで駆動が持続される。
次に、図12及び図13に基づいて、上述した制御による作用効果について説明する。図12に示すタイムチャートにおいて、車両制動時の時間t1において、車輪スリップ率SWが所定スリップ率KS以上となりアンチスキッド制御(ABS制御)が開始されると、アンチスキッド制御の制御対象輪が時間t2まで減圧制御される。この際、前後輪の車輪制動力配分を図13の一点破線に示すように車両規格として設定されていれば、前輪が先にロック傾向に陥ることとなる。
図13に示す実線は、理想制動力配分線である。即ち、前後輪における車輪制動力の配分がこの配分線上であれば、前後輪が同時にロックする制動力配分である。尚、前輪、後輪の車輪制動力は、同等のブレーキ液圧がホイールシリンダに加えられたとしても、ホイールシリンダ径或はブレーキパッド面積等によって相違するが、ここでは説明を簡略化するために、前後輪の車輪制動力は、前後輪それぞれのホイールシリンダにかかるブレーキ液圧が同等であれば、同様の車輪制動力を発揮することとする。
この理想制動力配分線(実線)に対して、通常の車両では、前記図9の一点破線にて示したような比例制御弁の作用を用いて、図13の一点破線にて示すように前後制動力配分が設定される。即ち、現実的なホイールシリンダ圧PWの範囲において、横軸を前輪制動力(前輪ホイールシリンダ圧PW)、縦軸を後輪制動力(後輪ホイールシリンダ圧PW)とすれば、前後輪が発揮する車輪制動力比率が理想制動力配分線よりも下側である前輪先行ロック側に設定される。
このような構成では、車両制動時に前輪先行ロックするように前後制動力配分が設定されるようにする。即ち、図13の一点破線にて示した制動力配分に設定する。この際には右前輪FRがアンチスキッド制御開始されて減圧制御されたら、この減圧分のブレーキ液が後輪側に加えられることとなり、ホイールシリンダ42のブレーキ液圧はマスタシリンダ圧PMよりも高い第2のブレーキ液圧となる。
つまり、図13における領域βは、理想制動力配分と比較して後輪側の車輪制動力が不足している領域であるが、この領域βにおける後輪の不足分の車輪制動力を前輪の減圧分のブレーキ液量によって補うことができ理想制動力配分に近づけることができる。(第4実施例)次に図14に基づいて、第4実施例について説明する。
この図14に示すブレーキシステムは、第3実施例と同様ダイアゴナル配管にて構成されている。尚、図8に示したブレーキシステムにおける各構成と同様の作用効果を有するものには同様の符号を付し、説明を略する。また、本実施例のECU等の構成及び制御フローは前述の図10及び図11にて説明したものと実質的に同様のものが採用できるため説明を略する。
この図14に示すブレーキシステムでは、マスタシリンダ46と逆接された比例制御弁56との間から延びる管路A2が左後輪RLのホイールシリンダ42に接続されている。また、比例制御弁56とポンプ49の吐出口との間から延びる管路A1は右前輪FRのホイールシリンダ41に接続されている。
この様に、本実施例では、前記第3実施例の図8に示したブレーキシステムとは、比例制御弁56による保持作用が前後輪で反対に作用するように構成されている。即ち、左後輪RLのホイールシリンダ42はマスタシリンダ圧のみを受け、右前輪FRのホイールシリンダ41は、マスタシリンダ圧に加えてホイールシリンダ42の減圧分のブレーキ液がポンプ49により吸引吐出された際のブレーキ液量によるブレーキ液圧を享受する。このように比例制御弁56は前輪側のホイールシリンダ41にかかるブレーキ液圧をマスタシリンダ圧PMよりも高い第2のブレーキ液圧に保持する保持作用を有するように配置される。
本実施例においては、図13の点線にて示す前後制動力配分に設定する。この際では、前後輪の車輪制動力が所定以上となるホイールシリンダ圧PW=KP(=マスタシリンダ圧PM)の際に後輪側の車輪制動力が前輪側を越える。よって、このブレーキ液圧KP以上にて車輪制動力が発揮された場合には、路面状況に応じて後輪側が前輪よりも先行ロックする(領域αに相当)。
よって、このような制動力配分設定を車両に行っておけば、所定のマスタシリンダ圧PM=KP以上において、後輪側のホイールシリンダ42においてアンチスキッド制御が実行され、減圧制御がなされる。この時点を図12における時間t1とすれば、右前輪FRは時間t1近傍ではアンチスキッド制御が実行されていない状態が想定される。
時間t1からホイールシリンダ42の減圧制御がなされ、時間t2においてこの輪の車輪加速度dVWが正の値となったとすると、減圧制御が終了されてパルス増圧が行なわれる。尚、時間t1〜t2の間においてホイールシリンダ41側がアンチスキッド制御されていなければ、ホイールシリンダ42の減圧分のブレーキ液がリザーバを介してポンプ49により吸引され、ホイールシリンダ41に向けて吐出される。この際、元々マスタシリンダ圧PMを備えていたホイールシリンダ41において減圧分のブレーキ液量が足されるため、マスタシリンダ圧PMよりも高い第2のブレーキ液圧が形成される。この第2のブレーキ液圧は、マスタシリンダ圧が折れ点圧力P以上であれば比例制御弁56の作用により保持され、ホイールシリンダ41の圧力はマスタシリンダ圧PMよりも高くなる。
また、時間t2〜t3の間アンチスキッド制御対象輪のホイールシリンダ42がパルス増圧された後、スリップ状態が所定以上となった時間t3において再度減圧制御がなされる。この際の減圧分のブレーキ液量もアンチスキッド制御がなされていない前輪側のホイールシリンダ41に吐出され、ホイールシリンダ41側の第2のブレーキ液圧はさらに高くなる。尚、時間t2〜t3までの間においてホイールシリンダ42がマスタシリンダ圧PMを用いてパルス増圧されている際においても、比例制御弁56の圧力保持作用が前輪側のホイールシリンダ41にのみ作用する位置に比例制御弁56が配置されているため、第2のブレーキ液圧は変わらずに保持される。
このようにして前輪側のホイールシリンダ圧PWが後輪側の減圧制御に応じて第2のブレーキ液圧に順次増大されていくため、たとえ乗員によるブレーキペダル43の踏み増しがなくても前輪側の車輪制動力を増大でき、制動距離を短縮できる。
また、後輪側の車輪の減圧分のブレーキ液を用いて前輪側のホイールシリンダをマスタシリンダ圧PMより高くすれば、前輪もアンチスキッド制御に入らせることができる可能性が高くなる。更に、後輪側の車輪がアンチスキッド制御に入った際には、実質的にこの後輪は最大の車輪制動力を発揮していることになる。
この際に、前輪側の車輪も減圧分のブレーキ液量によってアンチスキッド制御に入らせることができれば、前輪側も最大の車輪制動力を発揮することができ、前後輪の車輪制動力のバランスを向上することができる。よって、前後輪における車体前後方向の路面反力及びサイドフォースを一定範囲にすることができ、アンダステア、オーバステアを回避し、車体挙動を安定させることができる。
尚、図13の点線の如く車輪制動力配分を設定した際には、領域αにおいて後輪側のホイールシリンダ圧PWがアンチスキッド制御により減圧されれば前後輪の制動力配分を理想制動力配分線上に極力のせることができ、これによっても制動距離短縮及び車体挙動の安定性の向上が達成される。
また、第2のホイールシリンダ圧を保持する際に前述を比例制御弁56を用いているが、この比例制御弁56は、マスタシリンダ圧PMに応じてホイールシリンダ側からマスタシリンダ側へのブレーキ液の流動を機械的にいつでも可能としているため、マスタシリンダ圧PMの変動状態に代表される乗員の操作意思に応じたホイールシリンダ圧制御を余分な制御負担をかけずに実現できるという効果を備える。即ち、乗員によるペダルが戻された際には、これに応動して各ホイールシリンダ圧が機械的に減圧される。
尚、通常では後輪先行ロックは車体の安定性が悪化するため避けられているが、アンチスキッド制御を備えていれば、車体安定性を確保することができるため、図13の前後制動力配分を設定することができる。(第5実施例)次に、図15及び図16に基づいて第5実施例について説明する。尚、前記図8に示したブレーキシステムにおける各構成と同様の作用効果を有するものには同様の符号を付し、説明を略する。
本実施例では、ホイールシリンダ圧PWがマスタシリンダ圧PMよりも高い第2のブレーキ液圧となった際にマスタシリンダ46側とホイールシリンダ41,42側とのブレーキ液圧の差圧を保持するものとして、比例制御弁の代わりに、連通・遮断の2位置を備える制御弁71を採用する。
この制御弁71は、通常ブレーキ状態では弁位置が図示の位置である連通位置にある。そして、この制御弁71よりもホイールシリンダ41,42側のブレーキ配管にポンプ吐出先が接続される。尚、第1の配管系統Aにおいて、ホイールシリンダ41側とホイールシリンダ42側とに分岐する点は、制御弁71よりもホイールシリンダ41,42側に設けられている。
また、制御弁71と並列に逆止弁72が設けられ、この逆止弁72はマスタシリンダ46側から各ホイールシリンダ41,42側へのブレーキ液の流動のみを許容する向きに接続されている。更に、制御弁71と並列に差圧弁73が設けられる。この差圧弁43は、ホイールシリンダ側のブレーキ液圧がマスタシリンダ圧PMよりも所定圧(例えば50kgf/cm2)以上高くなった時のみにホイールシリンダ41,42側からマスタシリンダ46側へのブレーキ液の流動を許容するものである。
前記逆止弁72は、制御弁71が遮断故障もしくは詰まり等の不具合を生じた時に少なくとも通常ブレーキを補償するものである。また、差圧弁73は、ホイールシリンダ41,42側の管路におけるブレーキ液圧が許容圧を越えた場合に、ブレーキ液をマスタシリンダ46側に逃がし、管路保護を行うものである。尚、これら逆止弁72、差圧弁73は、制御弁71の性能及び管路耐圧性能等に応じて廃することも可能である。
次に、このような構成のシステムに対する制御フローの一例を図16のフローチャートに基づいて説明する。図16に示す様に、制御フローがスタートするとステップ500からステップ560まで、図11において詳述したと同様の処理を行う。
そして、ステップ550においてストップスイッチ61がON状態でないと判断された場合、或はステップ560においてスリップ率SWが過大ではないと否定判断された場合には、ステップ630に進み、フラグFにアンチスキッド制御中でないことを示す0をセットする。
その後、ステップ640において制御弁71をOFFする信号を出力する。即ち、制御弁71を連通位置に維持する。そしてステップ510に戻り制御フローを繰り返す。一方、ステップ560において肯定判断された場合には、過大なスリップ状態であるとして、ステップ570にて、現在の制御対象輪をアンチスキッド制御することを示すフラグFに1をセットする。
続くステップ580では、同一配管系統における現在の制御対象輪でない方のフラグFが1にセットされているか否かを判断する。例えば現在の制御対象輪が右前輪FRであれば、左後輪RLがアンチスキッド制御が中であるか否かを判断する。そして、ステップ580において肯定判断された場合にはステップ600に進み、一方否定判断された場合にはステップ590に進む。
ステップ590では、制御弁71をONして弁位置を遮断位置とし、ステップ600に進む。ステップ600では、制御対象輪の車輪加速度dVWが正の値となったか否かを判断する。ここで肯定判断されるとステップ610に進み、一方否定判断されるとステップ620に進む。
ステップ620では、制御対象輪に対する減圧制御を実行する。一方、ステップ610では、制御対象輪に対するパルス増圧制御を所定時間或は所定パルス数実行し、前記ステップ510に戻る。尚、パルス増圧によるホイールシリンダ圧の増圧の前に、増圧制御弁及び減圧制御弁共に遮断位置とされる保持制御が所定時間実行されるようにしてもよい。また、パルス増圧の初期出力において、この保持制御と同様の結果となるように制御してもよい。これは制御対象輪のホイールシリンダ圧PWの減圧とポンプ吐出による他輪の増圧とにおいて時間差が生じるため、制御対象輪の減圧制御における増圧制御弁の遮断状態時のみで減圧分の全てのブレーキ液を他輪のホイールシリンダに向けて吐出することができない可能性があるが、制御対象輪の減圧制御後ホイールシリンダ圧を保持するようにすれば、この保持時においても増圧制御弁は遮断状態であるため、ポンプ吸引吐出によるブレーキ液は、非制御対象輪側のホイールシリンダにかかるからである。
このように制御される際にも、上述の第3及び第4実施例と同様の作用効果を得ることができる。尚、この実施例の場合では、前後輪制動力配分は、図13における点線或は一点破線のどちらに設定しておいても効果を得ることができる。本実施例では、同一配管系統内において現在の制御対象輪でない方の車輪がアンチスキッド制御されていない場合、この車輪が発揮できる車輪制動力に余裕があるため、アンチスキッド制御による減圧分のブレーキ液量によりマスタシリンダ圧PMより高く増圧される。
また、同一配管系統内において現在の制御対象輪でない方の車輪がアンチスキッド制御されていない場合のみ制御弁71が遮断位置とされ、ホイールシリンダ側の圧力を保持することができる。更に、同一配管系統内の両輪がアンチスキッド制御に入った際には制御弁71はOFFの状態のままであるため、アンチスキッド制御性能を向上することができる。例えば氷上等の低μ路では、アンチスキッド制御中の増圧制御(パルス増圧)においてホイールシリンダ圧を増圧する基圧が高いと、増圧制御方法いかんによっては直ぐにロック傾向に陥り減圧制御時間が長くなる。この際には制動距離が延びる不具合が考えられるが、本実施例の如く、両輪ともアンチスキッド制御に入った際にマスタシリンダ側とホイールシリンダ側とを遮断する制御弁71を連通状態にすれば、このような不具合を生じることはない。(第6実施例)次に、図17〜図20に基づいて第6実施例について説明する。尚、本実施例の制御フローを実現するブレーキシステム及びその電気的構成の一例として、前記図15及び図10において詳述した構成を採用することができる。
図17に示す様に、制御フローがスタートすると、ステップ700で状態初期設定を行う。ステップ710では、ステアリングセンサ63からの出力信号に基づいてステアリング角ωを検出する。このステアリング角ωは車輪の切れ角に対応するものとして採用されている。
続くステップ720では、マスタシリンダ圧PMを検出する。このマスタシリンダ圧PMは図示しないマスタシリンダ圧センサ等から検出するようにすればよい。尚、マスタシリンダ圧PMと同等のパラメータとしてペダルストローク値ペダル踏力値等を所定のセンサにより検出して代用してもよい。
続くステップ730ではマスタシリンダ圧PMが所定圧力KPMよりも高いか否かが判断される。ここで否定判断された場合にはステップ710に戻り、一方肯定判断された場合には、乗員のペダル踏み込みにより所定以上の車両制動状態とされているとしてステップ740に進む。
ステップ740では、ステアリング角ωの絶対値が所定角Kωよりも大きいか否かが判断される。尚、ステアリング角ωの正負の符号により車両旋回方向が判断される。このステップ740において否定判断された場合にはステップ710に戻り、一方肯定判断された場合には所定以上の旋回状態であるとしてステップ750に進む。
ステップ750では、所定以上の旋回制動状態であるとして、ポンプ49の駆動を開始する。尚、所定以上の旋回制動状態としては、例えば乗員のペダル操作による車体挙動操作では車体挙動の自由がきかず、車体挙動が不安定になるような急旋回制動が挙げられる。このポンプ駆動は、ステップ730又は740において否定判断されるまで、或は車体速度VBが所定速度以下となった状態(例えば停止状態)にて駆動解除されるようにしてもよい。
ステップ760では、制御弁71をONして遮断位置とし、マスタシリンダ46側と各ホイールシリンダ41,42側とのブレーキ液の流動を禁止する。ステップ770では、ステアリング角ωの正負の符号により判断された旋回方向において内輪側の後輪をパルス減圧する。このパルス減圧は、図18に示すステアリング角ωと減圧パルス比との関係マップに基づいて制御されるようにしてもよい。即ち、ステアリング角が所定角Kωより大きい際に、このステアリング角ωが大きくなるにつれて減圧パルス比を大きくする。尚、減圧パルス比は、車体速度VB及び車体減速度dVBを加えて制御するようにしてもよい。例えば車体減速度dVB或は車体速度VBが大きくなるにつれて減圧パルス比を大きくする。
尚、減圧パルス比とは、図19に示すように、単位時間T1当たりの減圧弁のOFF(遮断位置)に対するON(連通位置)状態の比率であり、減圧パルス比=0%であれば単位時間中OFFで、減圧パルス比=100%であれば単位時間中ONである。
次に、このように制御した際の各ホイールシリンダ圧の時間変化等について図20に基づいて説明する。図20に示す様に、時間t1においてブレーキペダル43が踏み込まれ、マスタシリンダ圧PMが各ホイールシリンダ41,42に加えられはじめる。時間t2においてステアリング63が回転されはじめられ、時間t3においてステアリング角ωが所定角Kωよりも大きくなる。そして、時間t4においてマスタシリンダ圧PMが所定圧力KPMよりも大きくなったとすれば、制御弁71がONされ遮断位置とされる。これと同時に旋回内輪側のホイールシリンダ圧が減圧制御され、この減圧分のブレーキ液が旋回外輪側のホイールシリンダに加えられる。よって、この旋回外輪側のブレーキ液圧は一点鎖線で示すマスタシリンダ圧PMよりも高い第2のブレーキ液圧となり、旋回内輪側のブレーキ液圧は一点鎖線で示すマスタシリンダ圧よりも低い圧力となる。
これによって、旋回制動状態に沿つた車輪制動力を各車輪にて発揮できる。即ち、荷重移動によって接地荷重が減少した旋回内輪側にかかるブレーキ液圧が減少され且つ接地荷重が増えた旋回外輪側をマスタシリンダ圧より高くするように、マスタシリンダ圧PMを基準に旋回内外輪ホイールシリンダ圧を増減することによって、各車輪が発揮する前後方向路面反力及びサイドフォースのバランスを全体的に向上することができる。
また、最もアンチスキッド制御に入りやすい旋回内側の後輪に対してアンチスキッド制御による減圧以前にフィードフォワード制御が実現でき、アンチスキッド制御の実行を遅らせることができる。(第7実施例)次に、図21及び図22に基づいて第7実施例について説明する。この第7実施例における制御フローも前記図15及び図10において詳述したブレーキシステム及びその電気的構成を採用することができる。
図21に示す様に、制御フローがスタートすると、ステップ800において状態初期設定を行う。続くステップ810において車輪速度VWを検出する。続くステップ820では、車体速度VBを演算する。
続くステップ830では、図示しないマスタシリンダ圧センサの出力に基づいたマスタシリンダ圧PMを検出する。続くステップ840では、車体速度VBの時間変化或は図示しない車体前後方向加速度センサからの出力等に基づいて車体減速度dVBを演算する。続くステップ850では、マスタシリンダ圧PMが所定圧力KPMよりも大きいか否かが判断され、否定判断された場合にはステップ810に戻り、一方肯定判断された場合にはステップ860に進む。
ステップ860では、車体減速度dVBが所定車体減速度KdVB(例えば0.3G)よりも大きいか否かが判断される。この所定車体減速度KdVBは、乗員によりある程度大きな車両制動状態が要求されている状態或は車体の前後方向の荷重移動がある程度大きく発生する状態を鑑みて設定するようにしてもよい。このステップ860にて否定判断された場合にはステップ810に戻り、一方肯定判断された場合にはステップ870に進む。
ステップ870では、後輪側のホイールシリンダ圧を所定時間パルス減圧する。このパルス減圧比は、例えば図22に示すように、車体減速度dVBの大きさに連れて大きくなるように設定しておいてもよい。また、後輪側のパルス減圧の開始と同時にポンプ駆動を実行開始する。このポンプ駆動は、ステップ850又は860において否定判断されるまで、或は車体速度VBが所定速度以下となった状態(例えば停止状態)にて駆動解除されるようにしてもよい。
このような制御が実行された際には、車両の前後方向の荷重移動により、後輪側の接地荷重が低くなった分抜かれたブレーキ液量を用いて、前輪側のブレーキ液圧を第2のブレーキ液圧に増大するフィードフォワード制御を実現できる。また、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内の各種の態様にて実施できることは勿論である。
(1)例えば前記第1実施例では、調整制御を行なうための判断基準として、車輪スリップ量Xsを採用し、第2実施例では、車輪スリップ積算値AXsを採用したが、それ以外に下記の手段を採用できる。例えば、判断基準として、各車輪のスリップ率を使用することができる。
例えば、判断基準として、各車輪のホイールシリンダ圧を使用することができる。この場合、W/C圧センサ27によって検出したホイールシリンダ圧が基準値以上となった場合に、車輪が路面限界に近づいたと見なして、調整制御を行なう。
例えば、判断基準として、車体減速度を使用することができる。例えば、車体減速度が0.5G以上の様な場合、即ち、高い制動力が付加されている場合に、調整制御(例えば第1の減圧制御弁15を連通状態にする連通制御)を実行すれば、疑似的なポンピングとなり、対象輪がロック状態に陥ることを遅延することができる。
(2)また、前記第3、4実施例における比例制御弁56の代わりに、第5実施例における制御弁71を採用して制御するようにしてもよい。逆に第5実施例における制御弁71の代わりに第3、4実施例における比例制御弁56を採用してもよい。
尚、制御弁71を用いる際には、マスタシリンダ圧PM或はペダルストロークの減少変化に応じて、制御弁71のONを解除するようにし、乗員による減圧意思に沿ったホイールシリンダ圧制御を実現するようにしてもよい。(3)更に、第6実施例における旋回状態の検知をステアリングセンサの代わりに、横加速度センサからの出力に応じて旋回状態を検知するようにしてもよい。
(4)尚、第3〜第5実施例と第6及び第7実施例とは任意に組み合わせて制御するようにしてもよい。(5)前記各実施例では、X配管を例にとって説明したが、例えば前後配管などの様に、一方の車輪側から他方の車輪側にブレーキ液を移動できる配管であれば、各種の配管に適用できる。例えば、第6実施例を右前輪FR−左前輪FL、右後輪RR−左後輪RLの各配管系統を有する前後配管の車両に適用するようにしてもよい。
(6)上述までの実施例では乗員のブレーキペダルによりバキュームブースタを介して直接的にマスタシリンダ圧PMを発生するシステムに本発明を適用していたが、例えば乗員によるブレーキペダル操作を電気信号に変えて、この電気信号によりブレーキ液圧発生源においてマスタシリンダ圧PMとしてのブレーキ液圧を発生するいわゆるブレーキ・バイ・ワイヤーのシステムに適用してもよい。
(7)また、危険回避等を行う自動ブレーキに適用してもよい。この自動ブレーキの際にはマスタシリンダ圧をバキュームブースタを制御することにより発生させてもよい。
1,43…ブレーキペダル5,46…マスタシリンダ9,41…第1のホイールシリンダ11,42…第2のホイールシリンダ13,51…第1の増圧制御弁14,52…第2の増圧制御弁15,53…第1の減圧制御弁16,54…第2の減圧制御弁17,48…リザーバ23,49…ポンプ30,60…電子制御装置(ECU)31,61…ストップスイッチ33,62…車輪速度センサ63…ステアリングセンサ71…制御弁A…第1の配管系統A1,A1a,A1b,A2a,A2b,A3…管路B1,B2,B3…分岐点