以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
第1の実施形態: 以下、図面を参照しながら本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。本発明の瞬時ピーク電力低減方法は、トレリスシェイピングにおける枝メトリックに波形整形フィルタ出力点以降の連続的な部分波形を関連付ける。この部分波形の瞬時ピーク振幅を、所定のリミッタしきい値にできる限り近づけるメトリックを定義する。ビタビアルゴリズムに基づいて、このメトリックを最小化する符号系列から出力シンボルを決定する。複数の連続するシンボルを考慮して部分波形を計算するために、複数の遅延素子を利用する。部分波形の計算量が増大する場合には、使用する変調方法において取り得るシンボルに対して、シンボル区間ごとに部分波形データをあらかじめ記憶しておき、この記憶されたデータを利用して、部分波形を求めてメトリック演算を行なう。符号探索時に、逐次計算を行なわずに計算量を削減して演算を高速化する。
本発明の瞬時ピーク電力低減方法は、トレリスシェイピングの際の符号語の選択段階において、変調後の変調信号波形の瞬時ピーク電力を所定のリミッタしきい値にできる限り近づけるように、この符号語選択(探索)を行うところに特徴がある。あたかも等価的に変調信号がリミッタに入力されたかのように動作するため、リミッタ法と呼ぶ。このリミッタ法の考え方に基き、瞬時ピーク電力を低減させる符号語を選択するのに適した、具体的なメトリックを提案する。
本発明にしたがってトレリスシェイピングされた変調信号は、瞬時ピーク電力が十分に低減されている。したがって、物理的なリミッタを経由させることなしに、出力バックオフの小さい状態で電力増幅器を動作させることができる。電力増幅器の最大出力電力レベルは小さくて済むため、電力増幅器の小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。さらに、出力バックオフの小さい状態で電力増幅器を動作させるため、電力付加効率が高い状態で電力増幅器を動作させることができる。これにより、さらに携帯端末全体の低消費電力と小型化に寄与することができる。以下、本発明の特徴である部分波形を生成するためのシステム構成ならびにリミッタ法に基づく符号化探索メトリックを中心に詳細に説明する。
図1は、本発明の瞬時ピーク電力低減方法を実施するシングルキャリア変調動作の概略を示すブロック図である。全体の構成は、一般的なトレリスシェイピングの構成である。図1のブロック図によるシングルキャリア変調の構成および動作については、非特許文献1に開示された内容と基本的に同一である。トレリスシェイピング技術自身は、非特許文献3、非特許文献4などに開示されており、ここでは詳しくは述べない。
送信情報系列は、シェイピングを施されるビット系列sと、シェイピングされずにそのままマッピングされるビット系列uとに分けらる。これら2つのビット系列に基づいて、符号生成器1において符号語vが生成される。ビット系列sは、インバースシンドローム2において符号化され、1ビットの冗長度が付加されてビット列s*が出力される。符号語vとシェイピングされたビット列s*により、実際に送信される送信信号Aがマッピング器において生成される。
図1には示していないが、マッピング器3からの出力信号Aは、信号空間上において、マッピングされたシンボルに対応する信号点を表すI信号およびQ信号として出力される。送信機のアンテナから出力される無線信号のスペクトラムを一定の周波数帯域幅に制限するために、I信号およびQ信号は波形整形フィルタに入力され、それぞれ連続的なアナログ信号に変換される。その後、これらのアナログ信号は直交変調器に入力されて、送信状系列を振幅と位相によって表現した変調信号が生成される。この変調信号は、さらに電力増幅器に入力される。後述するように、本発明では、波形整形フィルタから出力される連続的なアナログ信号または、変調信号の包絡線に基づいて、メトリックが定義されることに留意されたい。
本発明は、符号生成器1における符号語vの選択方法に大きな特徴があり、特にメトリック演算部1bにおける演算動作によって本発明特有のリミッタ法による符号語選択が実行される。部分波形演算部で1aは、後に詳しく説明するようにメトリック枝と関連付ける部分波形を計算する。メトリック演算部1bは、計算された部分波形に基づいてメトリックを計算する。トレースバック部1cは、計算されたメトリックに基づいてメトリックが最小となるトレリスを選択する。デコーダ1dは、選択されたトレリスに対応する符号語vを求める。ここで、送信信号を生成するために符号語vを選択するにもかかわらず、符号生成器1内においてデコーダ1bと呼んでいることに注目されたい。これは、符号語vの選択のために、通常は受信機の復調動作のために使用されるビタビアルゴリズムを利用するためであることに留意されたい。詳細は、非特許文献3、非特許文献4などに開示されたトレリスシェイピング技術を参照されたい。
また、図1に示した各ブロックは機能的、概念的な機能を含むものであり、実体的な信号が矢印の向きに生成され処理されるものではないことにも留意されたい。本発明において、符号生成器1において符号語vを選択するにあたっては、所定のシェイピング符号にしたがって取り得る複数シンボルの組から決定される全ての部分波形を求める。その後、これら全ての部分波形に対して、順次メトリックを求めるステップを含んでいる。したがって、本発明の方法は、計算機を用いた繰り返し演算処理によって実装されるのに適したものである。より具体的には、例えば本発明の方法の各ステップを実行するソフトウエアプログラムに基づいて計算処理を行なうDSP(デジタルシグナルプロセッサ)などにより実装することができる。次に、本発明における符号語選択のためのトレリスについて説明する。
図2は、従来技術による平均電力を低減させる場合のトレリスとシンボル点の関係を説明する図である。図2aは、例示的なトレリス線図を示す。各状態間の1つのトレリスの1本の枝に対して、図2bの各シンボル点が対応している。従来技術においては、平均電力自身を低減することを目標としていたため、図2bにおける離散的なシンボル点の振幅(具体的には、例えば、原点からのシンボル点までの距離の2乗)を符号選択のメトリック(基準)に利用していた。したがって、例えばQAMの複素信号点空間(コンスタレーション図)において、トレリスの1本の枝は離散的な各シンボル点と対応している。これに対し、本発明の瞬時ピーク電力低減方法では、波形整形フィルタの出力における連続的な信号波形を符号選択のメトリック(基準)に利用する。
図3は、瞬時ピーク電力を低減させる場合のトレリスと部分波形との関係を説明する図である。本発明の瞬時ピーク電力低減方法においては、複数のシンボルを考慮した部分波形を符号選択のメトリックに利用する。図3aは、時系列上の部分波形の概念を示している。詳細は後述するが、例えば、部分波形は、波形整形フィルタ出力点におけるI信号およびQ信号に基づいて求められる瞬時電力波形とすることができる。図3bにおけるトレリスの1本の枝は、この部分波形と関連付けられる。部分波形は、図3cに示すように、複素信号空間においてシンボル点が遷移するときの、シンボル点の遷移軌跡(部分波形)と対応付けることができる。
従来技術においては、離散的なシンボル点自身をトレリスの枝と関連付けていたのに対して、本発明においては、シンボル点の遷移軌跡に対応する連続的な瞬時電力波形を関連付ける点に特徴がある。本発明においては、変調信号のPARを低減させること、すなわち瞬時ピーク電力を低減することを目的とする。瞬時ピーク電力に直接的に対応する連続的な瞬時電力波形をメトリック計算に使用する。離散的なシンボル点ではなく、連続的な信号波形に対してメトリック計算を行うために、後述する方法によって連続的な部分波形が求められる。
図4は、部分波形の概念を説明するための図である。図4aは、2つのシンボルから部分波形を生成する場合を概念的に示している。この場合、トレリスの1つの枝における一時点前の出力をなんらかの方法によって保持しておく。この一時点前の出力に基づいて、一時点前のシンボルと現時点のシンボルの2つに対しそれぞれインパルス応答の畳み込み演算を行い加算することによって、1つのシンボル区間について、連続的な信号波形が得られる。この信号波形を、メトリックによって最適なシンボルを決定しようとしている1つのシンボル区間についての、部分的な波形(部分波形)と呼ぶ。図4aは、このときの2つのシンボルに対応するインパルス応答4a、4b並びにこれらのインパルス応答4a、4bから得られる部分波形例を示している。
実際の変調信号は、すべてのシンボルに対して波形整形フィルタのインパルス応答を畳み込んで加算したものであり、図4aの場合のように2つのシンボルだけから求めた部分波形には不正確さが含まれる。そこで、畳み込み演算を行なうシンボル数を増やすことで求める部分波形の精度を高めることができる。例えば、図4bに示すように、1つのシンボル区間について、4つの連続するシンボルに対するインパルス応答4a、4b、4c、4dから部分波形を求めることによって、より精度の高い部分波形が得られる。
より詳細には、本発明においては、過去Ks個のシンボルの波形整形フィルタのインパルス応答を考慮する。すなわち、シンボル時間をTsとすれば、Ks・Tsの有効区間(時間)のインパルス応答波形を考慮する。この有効区間のインパルス応答畳み込み波形を基に、最適なシンボルを求めようとするシンボル区間内の部分波形を計算する。実際の計算においては、1シンボル時間Ts内をオーバサンプリングして(例えば、4倍、8倍など)、連続的なアナログ信号波形の複数のサンプル近似値に基づいて、後述するメトリックを計算する。ここで、図4aおよび図4bにおけるインパルス応答畳み込み波形は、I信号およびQ信号それぞれについて求めることができ、正および負の極性を取り得るものであることに留意されたい。図4aおよび図4bにおいては、簡単のため、正極性のインパルス応答畳み込み波形のみを概念的に示したものである。さらに、実際のインパルス応答畳み込み波形は、より複雑な形状であることにも留意されたい。後述するように、実際には、I信号波形およびQ信号波形から正規化した瞬時電力波形に変換して、この瞬時電力波形に対してメトリックを計算する。
図5は、本発明における部分波形演算のためのシンボル生成部の概念的な構成図である。すなわち、図1における部分波形演算部1aの機能の一部を示したものであり、外部メモリDを追加してMex個のシンボル点を出力する構成を概念的に示したものである。構成上は、図1に示したトレリスシェイピング変調の基本構成において、インバースシンドロームの出力Sjに複数の遅延素子54a、54b、54cを、シェイピングされない系列ujに複数の遅延素子56a、56b、56cを、並びに符号生成器Gs51aに複数の遅延素子57a、57b、57cをそれぞれ付加したものとなっている。符号生成器Gs51aおよび複数の遅延素子57a、57b、57cは、拡張されたエンコーダ51を構成する。それぞれの遅延素子Dからの出力および拡張されたエンコーダ51からの出力に基づいて、Mex個のマッピング器53a、53b、53c、53dから現在のシンボル、1時点前のシンボル、2時点前のシンボル、Mex時点前のシンボルが得られる。
複数のシンボルを1つのトレリスの枝に関連づけるため、非特許文献1において提案されたようにエンコーダGsに外部的なメモリを付加する方法を用いる。具体的には、ビット列x ={x1,......xj、...}に対し、Gs によって符号化したj 番目の出力は,vj=xjGs となる。したがって、遅延素子Dを用いることによって、式(1)のように過去の出力を表すことができる。
vj-1=xj-1Gs=DxjGs=xj・DGs 式(1)
現時点の出力に加え、複数の過去の出力を同時に保持するためには、Gs を[Gs DGs ・・ DmexGs]によって置き換えればよい。ここで、mex は必要な外部メモリの数を表す。精度の高い部分波形の表現のためには、mex=Ks−1でなければならない。
考慮するシンボルの数を増やすことによって部分波形を計算する精度が高まり、より精度の高いメトリックを求めることが可能となる。非特許文献1におけるモーメント法によるメトリック計算では、2つの連続するシンボルを考慮するのに止まっていた。本発明のリミッタ法においては、例えば、4つの連続するシンボルを考慮して部分波形を求めることによって、より精度の高いシェイピングを実行できる。エンコーダにおけるメモリ数が増えたことにより、トレリスの状態数も増加するため、計算量は増大する。
図1の一般的なトレリスシェイピングの構成と図5のシンボル生成部の構成とは非常に類似しているが、本発明においてはまったく別の過程を説明していることに留意されたい。図5に示されたシンボル生成部は、符号生成器Gsのシェイピング符号で決定されるトレリスによって一意に決定される全てのパスに対応する符号系列パターンを順次生成するものであることに留意されたい。すなわち、図5のシンボル生成部では、符号生成器Gs51aによって生成されるトレリスにしたがって一意に決定される全ての符号系列パターンに対応して、複数の連続するシンボルの組が、順次決定される。
一方、図1の構成のトレリスシェイピングエンコーダは、図5に示されたシンボル生成部によって計算された複数の連続するシンボルの組の中から、最終的に最適なものとして選択されたシンボルの組から決定される符号語vに基づいて、実際に送信機から送信される送信信号Aを出力する。図5のシンボル生成部は、概念的には、図1における部分波形演算部1aの一部を構成することになる。部分波形に対して、図1におけるメトリック演算部1bにおいて各信号系列に対する枝メトリックが計算される。その後、トレースバック部1cにより最小メトリックを与える符号系列が選択される。最小メトリックを与える符号系列は、瞬時ピーク電力を最も低減させる符号系列である。この符号系列がデコーダ1dにより選択されて、最終的にトレリスシェイピングエンコーダから出力されるシンボルが決定され、トレリスシェイピングによる変調が実行される。
次に、本発明特有のリミッタ法に基づくメトリックについて詳細に説明する。メトリックは、所望の特性を実現する符号を探し出して決定するために使用され、その決定の基準となるものである。符号化探索メトリックと呼ぶことができる。本発明では、瞬時ピーク電力を低減するために、先に説明した部分波形の振幅値が所定のリミッタしきい値を越える部分を、このリミッタしきい値にできる限り近づけることができるメトリックを用いる。以下、図6に示すメトリック演算概念の説明図および図7に示すメトリック演算のフロー図を参照しながら説明する。
図6aは、リミッタ法の基本的概念を説明する図である。所定の符号器により生成されるトレリスにしたがって、取り得る全ての符号系列にそれぞれ対応する複数のシンボルが求められる。これら複数のシンボルを考慮して、符号語を選択しようとしているシンボルに対応した1つのシンボル区間の部分波形(I信号およびQ信号)が得られる(図6a左図)。後述するように、I信号の部分波形およびQ信号の部分波形から、さらに瞬時ピーク電力を直接的に表す瞬時電力pが求められる。この瞬時電力pが、所定のリミッタしきい値pmaxをできる限り超えないような符号系列を、取り得る全ての符号系列の中から選択する(図1のトレースバック部1cにより実行される)。この結果、選択された符号系列に基づいたシンボルを出力して、瞬時ピーク電力が低減されることになる。図6a中央図のように、これはあたかも変調信号がリミッタしきい値pmaxを持つリミッタに入力されたかのように作用する。すなわち、本リミッタ法に基づくメトリックを用いて符号選択をすることにより、リミッタしきい値pmaxを超える瞬時ピーク電力を低減させるように作用する(図6aの右図)。
したがって、枝メトリックとしては、複数の連続するシンボルを考慮しながら、符号語を選択しようとしている1つのシンボル区間に対応する瞬時電力pに対して、次式のメトリック変換演算μ(p)を求めればよい。
μ(p)=p−pmax p>pmax 式(2−1)
μ(p)=0 p<pmax 式(2−2)
式2−1は、瞬時電力pがpmaxより大きいときには、リミッタしきい値pmaxと瞬時電力pとの差分をメトリック演算値とすることを意味する。式2−2は、瞬時電力pがpmaxを超えないときは、メトリック演算値は0となる。式2−1、2−2によるメトリック演算値から枝メトリックを最小とするような枝を探索し、この最小の枝メトリックを与えるパスに対応する符号語を選択すれば、瞬時電力pのピークはリミッタしきい値pmaxに近づくことが理解されるだろう。
より具体的には、部分波形を求めるために、1つのシンボル区間において4倍のオーバサンプリングを行なう場合には、4つのサンプル点におけるμ(p)の累計を求め、これをメトリックとすることになる。
図6bは、4つのシンボルを考慮してI信号の部分波形およびQ信号の部分波形を求める過程を説明する図である。簡単のため、図5において、各信号系列sj、ujおよび拡張されたエンコーダ51に対して、それぞれ3つの遅延素子Dを配置した場合を考えている。この時、現時点のシンボルから3時点前のシンボルまで、4つの連続するシンボルがそれぞれ求められる。各々のシンボルに対応するI信号とQ信号は、それぞれ波形整形フィルタに入力され、I信号およびQ信号とインパルス応答の畳み込み波形が得られる。4つの組の畳み込み波形は加算され、4つの連続するシンボル点を考慮したI信号の部分波形およびQ信号の部分波形がそれぞれ求められる。I信号の部分波形とQ信号の部分波形から、図3cで示した複素信号空間における信号点軌跡が決定されることに留意されたい。この信号点軌跡から、瞬時ピーク電力を直接的に表現する瞬時電力pを得ることができる。具体的には、I信号とQ信号に基づいて、信号振幅の2乗を計算することで瞬時電力pを得ることができる。上述のメトリック変換演算μ(p)は、この瞬時電力pの波形に対して行なわれる。
図6cの左図は、符号語を選択しようとするシンボルに対応するシンボル区間における、4倍オーバサンプリング時の瞬時電力pの波形を示している。1シンボル区間内に瞬時電力pの4つのサンプル点がある。図6cの場合では、瞬時電力pは、サンプル点1、2、4においてリミッタしきい値pmaxを超えている。したがって、メトリック値は、pmaxを越えた部分の矢印で表された線分の長さを累計したものに対応する。より具体的に、サンプル点1、2、3、4における瞬時電力pがそれぞれ10、8、4、6であって、pmax=5の場合を考える。各サンプル点のメトリック演算値は、式2−1および式2−2を適用して、それぞれ、10−5=5、8−5=3、0、6−5=1となる。したがって、これらの4つのメトリック演算値を加算して、5+3+0+1=9のメトリック値が求められる。
ここで、式2−1、式2−2のメトリック変換演算μ(p)は一例であり、なんらこれらに限定されない。すなわち、部分波形の振幅値が所定のリミッタしきい値を越える場合に、その越えた分、すなわち振幅値とリミッタしきい値の差分と比例関係にある値を出力をするメトリック変換演算であれば、式2−1のような一次関数に限らなれない。メトリックが最小となる枝を選択することにより、上述のリミッタ法として動作をするからである。また、サンプル点の数も4に限定されない。
図7は、リミッタ法に基づくメトリック演算を実行するフロー図である。図7は、瞬時ピーク電力を低減するために最適なシンボルを1つ決定するためのフロー図である。1つのシンボルを決定するために、ステップ7aからステップ7gまでが実行される。ステップ7aからステップ7gが繰り返され、順次決定されたシンボルから、送信信号Aが送出される。まず、ステップ7aにおいて、トレリスの全てのパスについて枝メトリックが計算される。具体的にはステップ7aを実行するために、ステップ7bからステップ7eまでが繰り返される。図7においては、説明を簡単にするため、部分波形を求めるために考慮するシンボルが4つの場合(追加メモリの数Mex=3)を例示的に示したものであり、これに限定されないのは言うまでもない。
まず、ステップ7bにおいて、4つの連続するシンボルを決定する。これらのシンボルは、使用する畳み込み符号の符号語が与えられれば、その符号語で決定されるトレリス構造により一意に決定されるものであり、有限の数の符号系列が決定される。ステップ7bでは、これらの符号系列に基づいて、図5に示したシンボル生成部により4つの連続するシンボルが決定される。
次に、ステップ7cにおいて、ステップ7bで決定された4つの連続するシンボルに基づいて、波形整形フィルタ通過後のI信号の部分波形およびQ信号の部分波形を求める。符号語を決定しようとするシンボルに対応するシンボル区間に対して部分波形を求めるため、図6bで説明された過程が実行される。
次に、ステップ7dにおいて、I信号の部分波形およびQ信号の部分波形から瞬時電力波形を求める。具体的には、I信号の部分波形のサンプル値およびQ信号の部分波形のサンプル値をそれぞれ2乗して、瞬時電力波形のサンプル値を求める。1つのシンボル区間におけるサンプル値の数は、オーバサンプリング数Nsによって決定される。オーバサンプリング数が大きければ、瞬時電力波形をより精度良く表現できるため、メトリック値の精度が向上し、符号語決定の判断がより正確となる。
さらに、ステップ7eにおいて、リミッタしきい値pmaxを越える瞬時電力波形サンプルについて、リミッタしきい値と瞬時電力の振幅値との差分に相当する線分長さをそれぞれ加算して、メトリック値が求められる。ステップ7eでは、図6cで説明した過程が実行される。トレリスの取り得る全てのパスに対して枝メトリックを計算し終えるまで、ステップ7bからステップ7eまでが繰り返し実行される。
次に、ステップ7fにおいて、枝メトリックが最小となるパスが決定される。ステップ7fは、図1におけるトレースバック部1cにおける動作に対応する。
最後に、ステップ7gにおいて、決定したパスに対応する符号語vが出力されて、実際に変調信号として送信するためのシンボルをマッピング部3から出力する。その後、次に送信するシンボルを決定するために、次のシンボル区間に対するメトリック演算を実行する。したがって、図7の各ステップ全体が繰り返される。
次に、本リミッタ法にもとづく瞬時ピーク電力を低減方法を実装するより具体的な構成例を説明する。図9は、具体的なシェイピングエンコーダの構成を示す図である。図9aは、8PSK変調に対し、符号化率rs=1/2 のシェイピング符号を実装する符号器Gsを示している。符号器Gsは、次式(3)によって表される。
Gs=[1+D2 1+D+D2] 式(3)
エンコーダの符号化率がrs=1/2であるため、1ビットが入力されると、2ビットを出力する関係にある。
インパルス応答を考慮するシンボル数をKs=4とすると、Mex=3の外部メモリがこのエンコーダに付加され、図9bに示すようなエンコーダが得られる。すなわち、図9aの構成のエンコーダに対して、遅延素子Dにより構成される外部メモリ92および複数の加算器が追加されており、1シンボル時間づつ遅延した各出力Gs93a、DGs93b、D2Gs93c、D3Gs93dが得られる。例えば、1シンボル時点前のシンボルGDsは、次式(4)で表される。
DGs=D[1+D2 1+D+D2]=[D+D3 D+D2+D3] 式(4)
図10は、本発明のトレリスシェイピングにおける例示的なトレリス線図である。図10aは、図9aのシェイピングエンコーダに対応するトレリス線図である。図10bは、図9bのシェイピングエンコーダに対応するトレリス線図である。図10bのトレリス線図は、図10aと比べて拡張されており、Ks=4であるため、4つのビット組が1つの枝に対応する。状態数は、4(図10aの状態数)×23=32となる。
次に、本発明のリミッタ法に基づく瞬時ピーク電力低減方法を適用した場合のピーク電力低減効果について説明する。本発明特有のメトリックを使用してトレリスシェイピングを行なうことによって、瞬時ピーク電力を低減して良好なPAR特性を持つシングルキャリア変調が実現されることを説明する。以下、図11から図16に示された各特性は、計算機を使用したシミュレーション結果に基づくものである。
図11は、本発明の瞬時ピーク電力低減方法によるトレリスシェイピングを用いた場合の、ADPRと電力増幅器の出力バックオフとの関係を示す図である。ここで、ADPR(Average Distortion Power Ratio)とは、非線形性によって生じるひずみ成分の平均電力を表す評価指標の1つであり、本特許出願の発明者によって提案されているものである。詳細については、非特許文献2を参照されたい。ADPR値が小さいほど、電力増幅器において発生するひずみが少ないことを意味する。出力バックオフは、一般に良く知られているように、ひずみの発生を抑えて電力増幅をするために、飽和出力電力レベルからどれだけ平均動作点を下げて電力増幅器を使用するかを表している。出力バックオフを大きくすることは、電力増幅器の平均動作点を飽和出力電力レベルから大きく下げる(バックオフする)ことを意味しており、この結果、ひずみの発生が抑えられる。しかし、飽和出力点から平均動作点を下げるにしたがって、電力増幅器の電力付加効率は一般に低下する。したがって、一般にADPR(ひずみ発生量)と出力バックオフは両立することが困難であり、両者は反比例する関係にある。
図11は、出力バックオフ(OBO)とADPRとの関係を示す図である。本発明の瞬時ピーク電力低減方法によるトレリスシェイピングがある場合とない場合とを比較するとともに、従来技術のπ/4シフトQPSK変調の場合も示す。シェイピングが適用される場合は、メトリック演算に使用するリミッタしきい値pmaxをパラメータとしている。波形整形フィルタとして、ロールオフ係数α=0.1または0.4のルートコサインロールオフフィルタを用いている。考慮するシンボル数はKs=12であり、8PSK変調信号に対してシェイピングを行なったものである。シンボル区間内のオーバーサンプリング数は、Ns=8とした。図11aは、α=0.4、図11bは、α=0.1の場合である。ロールオフ係数αがいずれの値においても、本発明のトレリスシェイピングを適用することにより、出力バックオフが小さいにもかかわらず、ひずみの発生量は十分に低減されることがわかる。π/4シフトQPSK変調の場合と比較しても、必要な出力バックオフを小さくする効果は顕著である。
例えば、本来ならば振幅変動が大きくなるα=0.1の場合においても、ADPR=−50dBを実現するのに必要な出力バックオフは、シェイピングがない場合と比較して4〜4.6dBも改善されていることがわかる。本発明特有のメトリックを使用してトレリスシェイピングを行なうため、瞬時ピーク電力が大幅に低減されてることを意味している。また、メトリック演算に使用するリミッタしきい値pmaxを1.13〜1.33と変化させることによって、ひずみ発生量を制御することができる。例えば、pmaxを大きくするほど、ADPR=−50dBを実現するのに必要な出力バックオフは小さくて済む。したがって、システムに許容されるひずみ発生量および利用可能な電力増幅器の出力バックオフに応じて、最適なpmaxの値を選択することができる。
以上述べたように、本発明の瞬時ピーク電力低減法によれば、出力バックオフが小さくて済むので、電力増幅器を飽和点近傍において動作させることが可能となり、電力付加効率を大幅に改善することができる。また、平均電力レベルを基準に考えれば、電力増幅器の最大出力電力レベルはより小さいもので良い。したがって、より小型軽量な電力増幅器を選択することもできる。携帯端末全体の低消費電力化と小型化にさらに寄与することができる。
図12は、本発明の瞬時ピーク電力低減方法によるトレリスシェイピングを用いたベースバンド信号の信号点軌跡を示す信号空間の表示である。波形整形フィルタとして、ロールオフ係数α=0.1または0.4のルートコサインロールオフフィルタを用いている。考慮するシンボル数はKs=12、変調方式は8PSK変調信号であり、シェイピングの有無による比較を行なったものである。シンボル区間内のオーバーサンプリング数は、Ns=8とした。図12a、図12bは、α=0.4の場合であり、図12c、図12dは、α=0.1の場合である。
本発明によるトレリスシェイピングを適用することによって、ロールオフ係数αが小さい場合であっても、8PSK変調の信号点円周の外部に突出する信号軌跡のピークが抑えられている。信号空間上の信号点軌跡は、一定の半径の円内に収まっており、変調信号の瞬時ピークは、ほぼ一定包絡線に抑えられる。したがって、本発明の瞬時ピーク電力低減方法は、ロールオフ係数αを小さくして変調信号が占有する周波数帯域幅を十分狭く抑えながら、同時に瞬時ピーク電力を低減させるという優れた効果を発揮する。瞬時ピーク電力が低減されるため、電力増幅器に必要な最大出力電力レベルを抑えるとともに、出力バックオフが小さくて済む。したがって、電力増幅器を電力付加効率が高い状態で動作させることができるという優れた特徴を持つことがわかる。
本発明によれば、送信信号の瞬時ピーク電力を低減させて周波数利用効率・電力付加効率を向上させるだけでなく、受信時の復調動作においても優れた効果が得られる。受信機におけるサンプリングクロックのジッタの影響などにより、シンボル判定タイミングに誤差を生じた場合には、復調される信号点は、理想信号点の周辺にばらつく。しかしながら、本発明のトレリスシェイピングを適用した送信信号によれば、復調時のシンボル判定タイミングに同期ずれが発生しても、受信シンボル誤り率の悪化を抑えることができる。
図13は、本発明の瞬時ピーク電力低減方法によるトレリスシェイピングを適用した送信信号を受信したときの復調信号点のばらつきを示す図である。復調時のシンボル判定タイミングを1/32シンボル時間だけずらした場合の信号点ばらつきを示している。×点はトレリスシェイピングがない場合を、+点はトレリスシェイピングがある場合の復調信号点を示す。図13は、32PSK変調のコンスタレーション図上において、ばらつきの様子が見やすいように信号点が配置される円の一部を拡大して示したものである。シェイピングがない場合(×点)は、振幅方向(信号点配置円の径方向)および位相方向(信号点配置円の円周方向)の両方において復調信号点のばらつきが生じる。本発明の瞬時ピーク電力低減方法によるシェイピングを適用した場合(+点)には、シンボルの判定タイミングにずれがある場合でも、振幅方向の復調信号点のばらつきが低減されている。
図14は、シンボル判定タイミングにずれがある場合のシンボル誤り率とSNRの関係を示す図である。図13に示したコンスタレーション図における32PSK変調信号の復調特性に対応している。パラメータとして、ロールオフ係数αを0.1、0.3、0.4と変化させている。シェイピングを適用することにより、シンボル誤り率は大きく改善している。図14に示すように、本発明の瞬時ピーク電力低減方法により、変調信号の包絡線変動が緩やかとなるため、受信時の復調動作においてもシンボル誤り率を低減させるという優れた効果がある。
図15は、送信信号を生成するときの量子化ビット数をパラメータとした場合の復調時におけるシンボル誤り率とSNRの関係を示す図である。32PSK変調信号時における、量子化ビット数をパラメータ(3、4、8ビット)としている。本発明の瞬時ピーク電力低減方法により、送信信号のPAR特性が改善され、送信信号のダイナミックレンジが抑えられる。このため、送信信号を生成するときの量子化誤差に起因する受信誤り率の悪化を改善することができる。例えば、図15において、本来ならば振幅変動が大きくなるロールオフ係数α=0.1の場合でも、シェイピングを適用することによって大きくシンボル誤り率が低減されている。
図16は、本発明によるトレリスシェイピングを適用した送信信号をMAP復調した場合のシンボル誤り率とSNRの関係を示す図である。シェイピングにより、シンボルの遷移確率が一様でなくなるので、図16に示すように、MAP復調を利用して誤り率を改善することができる。
本発明の瞬時ピーク電力低減方法においては、複数の連続するシンボル点を考慮して部分波形を求めるために、考慮するシンボル数が増えるにつれて、トレリスの状態数も増加する。このため、メトリック演算に使用する部分波形を求める計算量が増えることが問題となり得る。考慮するシンボル数によっては、部分波形を求める計算処理に、実システムに適用するには非現実的な時間を要する場合も考えられる。この問題を解決するために、最も計算時間を要する波形整形フィルタのインパルス応答の畳み込み計算結果を、予めメモリテーブルとして記憶しておくことができる。以下、この実施形態について説明する。
図8は、本発明のリミッタ法に基づくトレリスシェイピングを適用する別の実施形態を説明する図である。説明の簡単のため、取り得るシンボルが4種類で、部分波形を考慮するシンボル数Ks=4の場合を示している。波形整形フィルタの出力点における、各シンボルS0、S1、S2、S3に対するインパルス応答の畳み込み波形80a、80b、80c、80dは、フィルタ特性と各シンボルに対応する信号レベル(I信号振幅およびQ信号振幅)によって一意に決定される。4種類のシンボルの畳み込み波形のそれぞれについて、4シンボル区間に渡って各々のシンボル区間における波形データを、予めROM等の記憶手段にテーブルとして記憶しておくことができる。
例えば、オーバサンプリング数がNs=4であれば、1種類のシンボルについて、各シンボル区間に対してそれぞれ4つのデータの組を記憶しておくことができる。したがって、例えば、S1→S2→S0→S3のシンボル列に対しては、メモリテーブルに記憶されている4つの波形データ81a、81b、81c、81dを加算するだけで、所望のシンボル区間におけるI信号およびQ信号の部分波形が計算できる。このように、取り得るシンボルのそれぞれに対して、I信号およびQ信号の波形データをシンボル区間ごとに記憶しておくことにより、部分波形の計算処理を大幅に高速化することができる。尚、メモリテーブルに記憶させるデータは、I信号およびQ信号の部分波形データに限られない。I信号およびQ信号から得られる瞬時電力波形の波形データであっても良い。図8に示した例は、4シンボル区間に渡る波形データをテーブル化する例であるが、これに限定されない。利用可能なメモリ容量に応じて、より多くのシンボル区間の波形データを記憶することができるのはいうまでもない。
以上詳細に説明したように、本発明の瞬時ピーク電力低減方法よれば、リミッタ法の概念によるメトリックに基づいて符号語を選択して、変調波の包絡線の瞬時ピークが一定レベルに近づくような変調信号を得ることができる。このリミッタ法によるメトリックに基づいて、瞬時ピーク電力を低減させたシングルキャリア変調方法および変調装置を提供することができる。本発明の瞬時ピーク電力低減方法によれば、波形整形フィルタのロールオフ率を小さくしても変調信号のダイナミックレンジを小さく抑えることが可能である。したがって、周波数利用効率および電力付加効率が共に優れたシングルキャリア変調システムを実現することができる。
また、受信動作において、復調時のシンボル判定タイミングに同期ずれがあった場合でも、シンボル間干渉の影響を小さく抑えることができる。また、送信信号のダイナミックレンジが抑えられることによって、送信信号を生成する際の量子化誤差に起因する受信シンボル誤り率の悪化を緩和することができる。
第2の実施形態:
次に、第1の実施形態において述べたリミッタ法によるトレリスシェイピングまたはモーメント法などの他の方法によるトレリスシェイピングシステムに好適な復号方法について、詳細に説明する。一般に、多くのデジタル通信システムでは、情報データは、誤り訂正符号化の後に変調信号に変換される。その際、生成される変調信号のピーク変動を抑えるなどの目的のため、変調信号の送信シンボル系列の出力パターンが拘束されている。リミッタ法またはモーメント法などによるトレリスシェイピングシステムは、送信シンボル系列の出力パターンが拘束されるシステムの代表的なものである。本発明の復号方法は、このような出力パターンが拘束された送信シンボル系列を生成するシステムをマルコフ過程とみなし、受信側でこの性質を利用して復号を行なうところを特徴とする。軟判定復号処理を用いた反復復号法を利用することにより、硬判定復号処理を用いた従来技術と比べて、誤り訂正符号の復号特性を大幅に改善することができる。
図18は、本発明の第2の実施形態に係る復号方法を実施する受信・復号系を含む通信システムを示すブロック図である。本通信システムは、送信系110ならびに通信路を経て送信系と対向する受信系111から構成される。送信系110においては、情報データは、通信路符号化部100により誤り訂正符号等による符号化処理がなされ、さらにインターリーバ104によりインターリーブされる。インターリーブされたビット列から、マルコフ過程に従う変調器105によってシンボル列が形成され、通信路へ送信される。対向する受信系111は、反復復号システムを構成し、第1のSISOデコーダ106、デインターリーバ107、第2のSISO108および硬判定復号器109を含む。ここで、SISO(Soft−In Soft−Out)デコーダは、ターボ符号に対する反復復号法において用いられる要素復号器の1つである。本発明の復号法においては、マルコフ過程に従う変調器105とSISOデコーダ106とが対応し、通信路符号化器100とSISOデコーダ108とが対応している点に注目されたい。
本発明の復号方法においては、トレリスシェイピングをマルコフ過程(Malkov Process)とみなして、シェイピングに由来するシンボル系列のパターン拘束に着目して、新規なトレリスに基づいて反復復号を行なう点に特徴がある。以下にさらに詳細に説明する。
図19は、本発明の復号方法を適応可能な送信系構成を示す図である。情報ビットbは、チャンネル符号化器112によって誤り訂正符号等による符号化処理がなされ、符号化ビットcが出力される。符号化ビットcは、インターリーバ113によってインターリーブされて、インターリーブ後のビット列sが得られる。インターリーブされたビット列sは、さらにマルコフ過程を形成する変調器114に入力されて、変調送信シンボルSが出力される。マルコフ過程に従うシンボル列Sを生成する変調器114による、ビット列sからシンボル列Sへの変換τを次式のように定義する。
S=τ(s) 式(5)
式(5)に対応して、シンボル列Sからビット列sを生成する逆変換τ―1を、次式のように定義する。
s=τ―1(S) 式(6)
以下、本明細書の記載においては、特に断らない限り、ビット列をs(小文字)、シンボル列をS(大文字)で表記することとする。
先に述べたトレリスシェイピングは、例えば変調信号の振幅ピークを低減させるために、送信シンボルを過去のシンボル情報に基づかせて、所定のメトリック値を計算する符号語選択に係るものである。従って、トレリスシェイピングは、ビット列sからシンボル列Sを出力する一種のマルコフ過程とみなすことができる。図19からわかるように、トレリスシェイピングを含む送信系は、符号化機能部とシェイピング機能部が従属接続された構成となっている点に注目されたい。
図20は、トレリスシェイピングを行なう送信変調系の構成ブロック図である。全体で式(5)に対応する変換作用を行い、ビット列sからシンボル列Sを出力する順変換τを表している。インバースシンドローム変換部116およびシェイピングエンコーダ117およびマッパ118などを含み、既に第1の実施形態において説明したものと同じである。先にも説明したように、トレリスシェイピングにおいては、複数の遅延素子を用いて、所定のアルゴリズムに基づいて最適なメトリック値を与える符号系列を決定しており、送信シンボル列は、所定の数の過去のシンボル列から一意に決定される。
ここで、このようなマルコフ過程とみなされたシェイピングシステムからのシンボル列の復号を考えるために、逆変換作用τ-1に対するトレリス表現を検討する。変調器114からの出力シンボル系列Sの各要素S[n]が、M個の変調信号点(Sk、0≦k<M) を取り得る場合を考える。さらに、シンボル列Sからビット組の列sへの逆変換τ-1において、時刻n番目のビット組s[n]が、n番目のシンボルS[n]および過去の連続するms個のシンボルから一意に決定されるとする。このとき、逆変換τ-1は、次式のように表される。
s[n]=τ-1(S[n−ms],・・S[n]) 式(7)
上式(7)で表される逆変換τ-1は、以下に述べるように、異なる視点から、状態および枝を持つ2種類のトレリス(の組み合わせ)で表現することができる。
(1)第1のトレリス
[状態]: 過去から現在までに観測されたms個の連続するシンボルの情報を保持し、ある時点においてMms個の状態が存在する。
[枝]: 1つの状態につきM本の枝が存在する。時刻k番目の枝には、その区間kにおいて観測される信号点Sk、0≦k<Mがラベルとして付加される。また各枝は、その枝が起源とする状態に蓄えられたms個のシンボルと、その枝が表している時点での観測シンボルとから得られる逆変換τ-1の結果としてのビット組s[n]も保持している。
上述のような第1のトレリスは、トレリスシェイピングの従来の復号方法である硬判定復号処理と関連付けると、以下のような対応関係で説明することができる。トレリスシェイピングの復調過程の具体的な構成例を示す図21に基づいて説明する。
図21は、従来技術による硬判定復号処理に基づいた受信復号系の構成ブロック図である。硬判定復号処理部119は、シンボル列Sからビット列sからを出力する逆変換τ-1に対応する。硬判定復号処理部119は、図17に示した従来技術に係る送受信システムにおいてはシェイピング復調部102に対応し、デマッパ120、シンドローム計算部121から構成される。図20におけるインバースシンドロームによる変換116と、図21におけるシンドローム計算部121で実行されるシンドローム計算とは対応関係にある。図21においてブロック図と対比した示した遅延要素DおよびD2を含むシンドローム行列122に基づいて、受信したシンボル列Sから硬判定されたz[n]から一意にビット列sが求められる。遅延要素DおよびD2を含むことより、シンドローム行列122に含まれる遅延要素の遅延次数は2であるので、ビット列s[n]は、シェイピング復調部102に入力される3つの連続するシンボルS[n−2]、S[n−1]、S[n]から復号される関係にある。シンドローム行列122に含まれる遅延要素の遅延次数をmsとすれば、硬判定復号処理部119に入力されるms個の連続するシンボルS[n]から一意にビット列s[n]が一意に復号される。
このような硬判定復号処理119の復号動作においてシンボル列Sからビット列sを復号する関係は、シンドローム演算が遅延要素を含む畳み込み演算であることより、前述の第1のトレリスに対応させることができる。例えば、硬判定復号処理119からの出力ビット列をs0[n]、s1[n]とすれば、デマッパ120の出力ビットz[n]とビット列s[n]との関係は、図21のシンドローム行列122の場合、次式で示される。
s0[n]=z0[n] +z2[n]+z2[n−1] 式(8)
s0[n]=z1[n] +z2[n]+z2[n−2] 式(9)
式(8)および式(9)から、ビット列sとシンボル列Sとの関係は式(7)と同様に、次のように表される。
図21から分かるように、シンボル列S[n]とデマッパ120のビット出力z[n]の間にのデマッピング処理においては、硬判定復号処理がなされている。ここで留意すべきことは、受信したシンボル列がピーク振幅を低減させるなどのトレリスシェイピングの所定の目的に沿ったシンボル出力パターンの拘束を受けている性質が、復号時になんら利用されていない点である。例えば、ピーク振幅を低減させるなどの所定の目的に沿ったシンボル出力パターンの拘束を受けている場合、シンボル列Sは、出力変調波が滑らかな包絡線を生成するような特定のシンボル列が選択され生成されている。このため、決定されたシンボル列の生成確率は一定でない。しかしながら、図21に示したような硬判定復号処理に基づくデマッパ120による復号では、これらのシンボル列が送信側で決定されたときのそれぞれ異なる生成確率は、なんら考慮されていない。
したがって、シンドローム演算における畳み込み演算に基づいたトレリスにおいては、その状態および枝のいずれについても、確率の概念は存在しない。すなわち、起こりうる各状態に対する定常確率や、状態間の遷移を表す枝に対する遷移確率の概念は存在しない。特定のビット出力z[n]と出力ビット列sとは、シンドローム行列122により一意に機械的に決定される関係にある。シンボル列Sから復号ビット列sまでの復号過程において、シンボル列が所定の目的に沿ったシンボル出力パターンに拘束を受けているという性質は、何ら利用されていない。第1のトレリスにおける状態遷移は、実質的にシンドローム行列によって規定される状態遷移を表現しており、所定の目的に沿ってシンボル出力パターンが拘束を受けていることに起因するシンボル間の遷移確率情報は何ら含まれていないことになる。
(2)第2のトレリス
シンボル列がマルコフ過程に従う点に着目すると、式(7)で表される逆変換τ-1から得られるものとは異なる別のトレリスを構成できる。トレリスシェイピング変調器から実際に出力されたシンボル系列・・・S[n−2],S[n−1],S[n]を観測すれば、トレリスシェイピングシステムは、mm次のマルコフ過程に従うと仮定することができる。つまり、S[n]の生起確率は過去のmm個の出力シンボルS[n−1],S[n−2],S[n−3],S[n−mm]に依存すると仮定れば、この送信シンボル系列は、定常確率Psおよび状態遷移確率Ptが重みとして与えられたトレリスとして表すことができる。このトレリスは、以下のように規定される状態および枝を持つ。
[状態]: 過去に観測されたmm個の連続するシンボルの情報を保持し、ある時点において最大でNs=Mmm個の状態が存在する。定常確率Psが0の状態も存在し得るため、状態数は必ずしもMmmとはならない。
[枝]: 1つの状態につき最大でM本の枝が存在し、各枝には状態遷移確率Ptが重みとして与えられる。遷移確率が0の状態遷移があるため、枝の数は必ずしもM本には達しない。
図22は、第2のトレリスの構成を説明する図である。ここでは、送信信号の取り得る信号点数M(シンボルの種類数)が8であって、2次のマルコフ過程(mm=2)の場合を考える。すなわち、ある状態124は、過去2つのシンボルS[n−1],S[n]の組合せが(Si,Sj)である場合を表す。状態が、過去2つのシンボルS[n−1],S[n]を蓄える、蓄積するなどともいう場合もある。
ある時点128において、状態数Nsは最大でMmm=82=64となる。トレリスシェイピングにおいて、信号点の遷移は、変調信号のピーク振幅を低減させるなどの所定の目的に沿った特定の遷移に拘束されている。このため、遷移確率が0となる状態遷移もあり、起こり得ない状態(すなわち、2つのシンボル間における起こり得ない遷移)もあると言う意味において、状態数Nsは最大でMmm=64となる。
ある時点128におけるある状態(Si,Sj)124からは、最大M個の枝が出ている。ただし、前述のように、信号点の遷移が変調信号のピーク振幅を低減させるなどの所定の目的に沿った特定の遷移に拘束されているので、枝の数は必ずしもM本とはならない。枝126には、シンボルSkへの次の遷移が対応付けられており、同時に、シンボルSkへの状態遷移確率Ptが重みとして与えられている。したがって、図22においては、状態(Si,Sj)124は、枝126の遷移を経て、状態(Sk,Si)127に変化することが表されている。また、各状態は過去2つのシンボルS[n−1],S[n]の状態を保持・蓄積しているので、定常確率Psを持っていることにも留意されたい。
この第2のトレリスにおいては、シンボル列Sの遷移に関する確率情報を知ることができるが、トレリスシェイピングの復号をすることはできない。なぜならば、第2のトレリスには、情報ビットs[n]が何も関連付けられていないからである。すなわち、ある枝を経由して新しいシンボルSが決定された場合にどのようなビットs[n]が出力されるかについては、全く知ることができない。シェイピングを施したシンボル列がマルコフ過程に従うものとして形成された第2のトレリスでは、シンボル遷移に係る確率情報は得られても、ビット列情報は得られない。
発明者らは、従来技術の硬判定に基づくシンドローム計算による復号に基づいた第1のトレリスと、トレリスシェイピングがマルコフ過程に従うものと仮定に基づいて得られた第2のトレリスとを組み合わせることによって、状態遷移に係る確率情報と復号ビット列情報とを関連付けて、通信路符号化およびトレリスシェイピングされた変調信号の軟判定復号処理が実現できることに着目した。軟判定復号処理を行なうことにより、ターボ符号の復号に用いられる反復復号法が利用できる。送信シンボル列がマルコフ過程で近似できる符号化・変調システムにおいて、通信路符号化とトレリスシェイピングが連接されているとみなしたとき、SISO復号器を連結した反復復号法を利用することで、改善された尤度を出力する復号を行なうことができる。
図23は、本発明の復号方法において利用される合成トレリス図を説明する図である。このトレリスは、式(7)により表される逆変換τ-1を表す第1のトレリスと、マルコフ過程を表す第2のトレリスを合成したものである。ここで、シンドロームの遅延次数をms、マルコフ過程の次数をmmとすれば、1つの状態が保存する過去のシンボル列の数はmtは、次式によって表される。
mt=max[mm,ms] 式(11)
すなわち、合成してできるトレリスの状態は、元の2つのトレリスのうちの状態数の大きいほうの状態に一致させる。さらに、合成トレリスの枝には、マルコフ過程を表す第2のトレリスに由来する状態遷移確率Ptおよび逆変換τ-1を表す第1のトレリスに由来するビット列情報s[n]を保持する。
図23に示したトレリスでは、マルコフ過程とみなしたトレリスシェイピングに係る変調の信号点数をM=8、マルコフ過程とみなしたときのマルコフ次数をmm=2、マルコフ過程に対応する逆変換τ-1のシンドローム遅延次数ms=2とする。合成後のトレリスの1つの状態は、mt=2となるので、図22に示したトレリスの場合と同じく、2個連続するシンボル(Si,Sj)を保持した状態124で表される。図22と同様、1つの状態124から出る枝の数は最大で8個であり、例えば、1つの枝126には遷移確率Ptが与えられている。図22に示したトレリスとの相違点は、各々の枝にビット列s[n]の情報160、161が付与されている点である。すなわち、この合成トレリスは、シンボル列S[n]と出力ビット列s[n]とが関連付けられている点に特徴がある。トレリスの枝にビット列s[n]の情報160、161がラベル付けされることによって、受信したシンボル列から、反復復号法を利用するための確率情報すなわち尤度情報を抽出することが可能となる。この結果、後に図25および図26で詳細な構成を説明するように、軟判定復号処理に基づいて復号ビット出力を得ることができる。
トレリスの状態ならびに枝に与えられる確率Ptは、msとmmとの関係に応じて、次のように決定される。図23では、例示的にmm=ms=2の場合を示しており、この時、状態124は、2つのシンボルの組(Si,Sj)を蓄えている。枝126には(S[n],S[n−1])=(Si,Sj)の2つのシンボルに依存した遷移確率Pt=(Sk|Si,Sj)が決定される。一方、枝126に関連付けられるビット列s[n]も、S[n],S[n−1]の2つのシンボルに依存して計算されs0[n] ,s1[n]がこの枝にラベル付けされる。
mm=2、ms=1の場合では、状態124は、2つのシンボルの組(Si,Sj)を蓄えている。枝126には(S[n],S[n−1])=(Si,Sj)の2つのシンボルに依存した遷移確率Pt=(Sk|Si,Sj)が決定される。一方、枝126に関連付けられるビット列s[n]は、直前のシンボルS[n]すなわちSiのみに依存して計算されs0[n] ,s1[n]がこの枝にラベル付けされる。
mm=1、ms=2の場合では、状態124は、2つのシンボルの組(Si,Sj)を蓄えている。しかし、枝126には直前のシンボルS[n]すなわちSiのみに依存した遷移確率Pt=(Sk|Si)が決定される。一方、枝126に関連付けられるビット列s[n]は、状態124に蓄えられたS[n],S[n−1]の2つのシンボルに依存して計算されるs0[n] ,s1[n]がこの枝にラベル付けされる。上述のように、msとmmとの関係に応じて、枝に与えられる遷移確率およびラベル付けされるビット列の決定方法が異なることに留意されたい。
図24は、本発明に係る合成トレリス図の具体的な例を示す図である。各々の枝には、遷移確率Ptとビット列情報S[n]がラベル付けされている。
本発明の復号方法は、通信路符号化と、マルコフ過程とみなすことができる送信シンボル変調とが縦続接続された構成の送信・変調系システムを、異なる復号モジュールが連接された構成による反復復号法を利用するシステムと対応付けて、軟判定復号処理を導入することにより、従来技術の硬判定復号処理と比べて誤り訂正符号の復号特性を大幅に改善するものである。マルコフ過程とみなすことができるトレリスシェイピングは、シェイピングビットを付加する点で、伝送速度の低下をもたらす。このために、シェイピングをしない場合と同じ伝送レートを維持しようとすれば、誤り訂正のために割り当て可能なビット数を減らさざるを得ず、符号化率を高くしなければならない。しかしながら、本発明の復号方法を適用することによって、符号化処理および復号化処理を通じたシステム全体では、むしろS/Nゲインを得ることができる。
本発明の復号方法では、上述の新規な合成トレリスに基づいて、良く知られたBCJRアルゴリズム(非特許文献5)を適用する。BCRJアルゴリズムは、トレリス上で、効率良くかつ理論的に最適なSISO復号を実行可能であり、MAPアルゴリズムとも呼ばれる。BCRJアルゴリズムは、枝メトリック(γ値) の計算(第1のステップ)およびフォワード/バックワード・リカージョン(α、β値) (第2のステップ)の2つのステップに分けることができる。第2のステップは、第1のステップにおいて得られたγ値ならびにα、β値の初期値が与られれば、機械的に実行される。トレリスの第n区間において、状態(S[n]、S[n−1]、・・S[n−mt])と、状態(S[n+1]、S[n]、・・S[n−mt+1])とを結ぶ枝のγ値は、以下の3つの確率Pc、Pa、Ptの積である。
1. S[n+1]を通信路を通して受信したときに、R[n+1]が受信される確率Pc(R[n+1]|S[n+1])。AWGN通信路においては、Cを正規化定数、N0を片側雑音電力として、Pcは次式により表される。
2. 枝に関連づけられたτ―1(S[n―ms+1]、・・S[n]、・・S[n+1])の結果である出力ビットs[n+1]に対する事前確率Pa(s[n+1])。この確率は、後述する反復復号の際に必要となる。
3. マルコフモデルに基づくシンボル遷移確率Pt(S[n+1]|S[n]、S[n−1]・・S[n−mm+1])。
状態の定常確率Ps(S[n]、S[n−1]・・,S[n−mm+1])が、α、β値の初期値となる。
図19に示した本発明の復号方法が適応可能な送信システムにおいて、チャンネル符号化時の誤り訂正符号として畳み込み符号を用いれば、非特許文献6において開示されたターボコードに対するシリアル接続形式の反復復号法を適用することができる。この観点から、本発明の復号法は、SISOコンポーネントの1つをマルコフ過程とみなされたシステムτ(・)に対応する逆変換とみなすことによって、SISOコンポーネントがシリアル接続された構成を利用した反復復号法により実現できることが理解されよう。ここで、τ(・)は、式(5)によりS=τ(s)と表記されたトレリスシェイピングだけに限定されない一般化したマルコフ過程のシステムを意味するとして表記したものである。
図25は、本発明の復号方法を畳み込み符号を用いた反復復号アルゴリズムによって実現した復号系を示すブロック図である。2つのSISOデコーダ130、132が、デインターリーバ131およびインターリーバ133を介して接続されている。事後尤度Ld(b)は、硬判定復号器134によって硬判定復号処理のために使用され、復号ビットbが得られる。SISOデコーダは、良く知られているように、軟判定ビットをもとに復号を行い、改善された尤度を出力する復号器である。反復復号はインターリーバを介して接続された2つのSISOデコーダを交互に動作させることで行われる。
図25中には、各点における対数尤度比が示されている。La(・)は、事前(a priori) 尤度であり、 SISOモジュールへ入力する尤度を言う。尤度ではなく確率値の場合は、事前確率と言われる。Ld(・)は、事後(a posteriori) 尤度であり、SISOモジュールで復号を行った後の尤度を言う。最終的なビット出力を求めるときは、この事後尤度を硬判定する。すなわち、事後尤度が正の場合は0、負の場合は1として判定される。Le(・)は、外部(extrinsic) 尤度であり、SISOモジュールからの出力尤度である。ほかのSISOモジュールに対する事前尤度となる。一般に、外部尤度=事後尤度―事前尤度の関係がある。
図26は、本発明の復号方法をターボコードまたはLDPCを用いた反復復号アルゴリズムで実現する復号系を示すブロック図である。2つのSISOデコーダ135、137が、デインターリーバ136およびインターリーバ138を介して接続されている。硬判定復号器134によって硬判定復号処理され復号ビットが得られる。1回のグローバルループにつき何回のローカルループを実行するかによって、達成できる誤り率特性は変化する。
以下においては、第1の実施形態に係るトレリスシェイピングに対して本発明の復号方法を適応した場合の、復号特性の改善について詳細に述べる。τ(・) の定義を満たすシステムの一例としては、第1の実施形態に係るリミッタ法またはモーメント法によるトレリスシェイピングが挙げられる。
図27は、8PSK変調を対象とした本発明のトレリスシェイピング符号化・変調系の構成を示す図である。図27に示す送信機において、符号化率1/2のチャンネル符号化器140に入力された1ビットの情報ビットbは、インターリーバ141、符号化率2/3のトレリスシェイピング142で処理され、3ビットの出力ビットzが8PSK変調器143に入力される。チャンネル符号化器140およびトレリスシェイピング142により、8PSK変調器143へ入力されるまでの符号化率は1/3となることに注意されたい。本構成による符号化・変調システムの全体では、1[ビット/シンボル] の伝送レートが達成できる。符号化率やマッピングの信号点数を変えることで、これ以外の伝送レートも実現が可能である。本構成において、トレリスシェイピング142および8PSK変調器143を、マルコフ過程に従うシステムS=τ(s)とみなすことができる。
図28は、上述の図27の構成のトレリスシェイピングの場合のシンボル間遷移確率値の例を示す図である。ピーク電力の低減を目的として設計されたリミッタ法、モーメント法においては、シェイピングされたシンボル列の統計的性質として、原点付近を通る遷移は起こりにくく、位相差の小さい遷移は起こりやすい傾向がある。このため、本発明の復号方法が前提とするマルコフモデルを適用することができる。図28に示した各遷移確率は、リミッタ法を用いたトレリスシェイピングの出力シンボル列を1次のマルコフ過程と見なしたとき、シンボルS0からの次のシンボル(S0〜S7)への遷移確率測定値である。
図29は、リミッタ法およびモーメント法によるピーク電力低減効果を示す図である。横軸は、正規化瞬時電力を示し、縦軸は、CCDF(Complementary Cumulative Distribution Function)補累積分布を示す。すなわち、正規化瞬時電力は、平均電力を1に正規化した場合の信号の瞬時電力を、CCDFは、瞬時電力が横軸の値を超える確率を示している。リミッタ法またはモーメント法を利用したトレリスシェイピングは、特に波形整形フィルタのロールオフ係数αが小さい状況で非常に効果がある。α=0.1の場合、図29に示すように、トレリスシェイピングを適用しない場合と比較して、4dB以上のピーク電力の低減が可能である。
図30は、畳み込み符号化およびトレリスシェイピングを連接した符号化・変調系の場合の本発明の復号方法による誤り率特性を示す図である。符号化・変調系の構成は図27に示した構成であり、復調・復号系は図25に示した構成によるものである。比較のためのシェイピングなしのシステムは、符号化率1/3 の畳み込み符号の出力をインターリーバを挟んで8PSKにマッピングするものである。横軸は、受信信号を帯域制限フィルタを通した直後の時点における情報ビットあたりの受信エネルギー対雑音電力密度比Eb/Noを、縦軸は、BERをそれぞれ示す。図30aは、波形成形フィルタのロールオフファクタα=0.4の場合であり、図30bはα=0.1の場合を示す。
αの値がいずれの場合でも、トレリスシェイピングおよび畳み込み符号をそれぞれ独立して硬判定復号処理した従来技術による誤り特性(TS&CC硬判定)と比較して、反復回数の増加あるいはマルコフ過程の連鎖次数の増加とともに、所要Eb/Noは低下する。復号誤り率特性は大幅に改善されている。本発明の復号方法を用いることで、α=0.1の場合では、シェイピングなしの場合と同等の誤り率特性を達成できる。さらに、α=0.4の場合では、シェイピングなしの場合よりも優れた誤り率特性を達成できる。
一般に、シェイピングにおいては、瞬時ピークなどの送信信号特性の制御のために、冗長なシェイピングビットが付加される。シェイピングを適用しない場合と同じ伝送レートを達成しようとすれば、符号化率の低い誤り訂正符号を利用することができない。したがって、復号時の誤り率特性は、シェイピングをしない場合の方が優れている。さらに、冗長度が付加されることで通信路符号化の性能が制限される以外にも、誤り率特性を劣化させる他の要因が存在する。本発明の復号方法を利用することによって、トレリスシェイピングを適用しているにもかかわらず、図30に示したように、同等の伝送レートを持つシェイピングなしのシステムに匹敵する復号誤り特性が実現可能となっている。
図31は、ターボコードとトレリスシェイピングを連接した符号化・変調系の場合の本発明の復号方法による誤り率特性を示す図である。反復復号におけるループ実行の順序は、図26における1回のグローバルループ中で、10回のローカルループを行うという形態とした。図31内に示した反復の回数はグローバルループの回数を、次数はマルコフ過程の連鎖次数をそれぞれ示している。
図32は、LDPCとトレリスシェイピングを連接した符号化・変調系の場合の本発明の復号方法による誤り率特性を示す図である。反復復号におけるループ実行の順序は、図26における1回のグローバルループ中で、20回のローカルループを行うという形態とした。
ターボコードおよびLDPCいずれの場合でも、十分な反復回数を与えれば、図30に示した畳み込み符号とトレリスシェイピングとを連接した場合の結果と比較しても、それほど誤り率特性は変わらないことが確認できる。トレリスシェイピングを用いる場合は、ターボコードやLDPCのような複雑なシステムを用いなくても、本発明に係るSISO復号アルゴリズム用いて反復復号することにより、同等な復号誤り率特性を達成することができる。
図33は、トレリスシェイピングおよび本発明の復号方法を利用した場合のシステム全体のゲインを比較を示す図である。No1からNo4までの各システムについて、トレリスシェイピングおよびマルコフ過程に基づくSISO復号をいずれも適用しないシステムを基準として、符号化・変調から復調・復号化に至るまでの各段階(a)〜(d)におけるシステムゲイン(S/N換算)を比較した。
例えば、No2のシステムに着目すると、8PSK、α=0.4、マルコフ過程の連鎖次数を4としたシステムでは、トレリスシェイピングの適用による(a)ピーク電力の低減量は2dBであるが、シェイピングビットの追加による(b)速度増加は4dBのS/N低下(−4dB)に相当する。しかしながら、本発明の復号方法(No2)を適用すれば、(c)SISO復号によりS/Nゲインを6.5dB獲得することができる。したがって、(d)システム全体では、トレリスシェイピングおよびマルコフ過程に基づくSISO復号をいずれも適用しないシステムと比べて、+4.5dBのS/Nゲインが得られる。また、ロールオフファクタαが大きいほど、S/N改善量が大きい。
本発明に係る復号方法は、第1の実施形態に係るトレリスシェイピングにより変調された信号の復調および復号に好適なものであるが、トレリスシェイピングだけに限られず、マルコフ過程とみなすことができる送信シンボル系列を持つ送信システムに対応した受信システムにも適用できることに留意されたい。マルコフ過程とみなしたシンボル列の状態遷移確率とビット列情報とを関連付け、通信路符号化部分およびマルコフ過程とみなされたシステムを従属して連接したシステムに対し、軟判定復号処理を利用した反復復号方法を適用している。本発明は、ピーク電力の低減などに用いられるシェイピングを、誤り訂正の一部とみなすことによって、反復復号法を利用するという新規な発想に基づいてなされたものである。
以上詳細に述べたように、本発明に係る復号方法によれば、トレリスシェイピングをマルコフ過程に従うシンボル列を生成するものとみなし、反復復号方法を利用して、誤り訂正符号の復号誤り率を大幅に改善することができる。トレリスシェイピングによる伝送速度の低下を補い、さらにシステム全体のS/Nゲインを改善できるという優れた効果を持つ。本発明の復号方法は、マルコフ過程を表すトレリスに由来する状態遷移確率と、シンドローム計算に由来するビット情報とを合成した新たな合成トレリスに基づいて、軟判定復号処理による反復復号を行なうことで、従来の硬判定復号処理に比べて大幅に復号特性を改善する。