JP4930815B2 - ミシンの糸調子装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ミシンの糸に付与する張力が可変な糸調子器を備えた糸調子装置に関し、特に低張力設定時の糸調子器の駆動法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
糸に付与する張力が可変なミシンの糸調子装置として、糸に張力を付与する糸調子器と、この糸調子器の張力付与部(調子皿、ロータリーテンション等)に作用する電気的なアクチュエータ(駆動手段)とを備えたものがある。糸張力の設定制御は、アクチュエータから直接もしくはリンク機構を介して推力(押圧とは逆方向の吸引力を含む)を糸調子器の可動軸に伝達して、可動軸により張力付与部を駆動する(押すまたは引く)ことによって行っている。
【0003】
たとえば図1に示す糸調子装置は、アクチュエータとしてボイスコイルモータ111を備え、モータ111の可動コイル116に直流の駆動電流を供給するによって推力を発生させ、可動コイル116に取り付けられた可動軸105を糸調子器101の中空軸104内で前進または後退させて、中空軸104の外面に取り付けた可動皿103を中空軸104内の当接片106を介して移動し、可動皿103と中空軸104の外面の固定皿102との押圧力を変更して、これにより可動皿と固定皿の間に介挿した糸に付与する張力を制御し、ミシン回転中またはミシン停止中に所望の張力を設定するものである。
【0004】
図15は、このボイスコイルモータ111を用いた糸調子装置のミシン停止時における印加電圧Vdcに対する張力Pの特性の一例を示すものである。糸張力Pは、印加電圧(直流)Vdcの上昇および下降に対し、理想的には図2の一点鎖線で示すように、同一の印加電圧(例えばVd)に対して同一の張力(例えばPe)となることが望ましいが、実際には、糸調子器の可動部の摩擦抵抗による不感帯d1、d2が存在し、印加電圧Vdcの下降および上昇にともなって実線上を矢印a〜dの順に変化して、印加電圧の下降時と上昇時とでは、同一の印加電圧(例えばVd)に対して異なる張力(例えばPmあるいはPe)が発生し、正確な張力を付与することができないことに加えて、残留張力Pbが残ってしまうため、張力を0にすることができない。
【0005】
図16は、図15と同じ条件で糸調子装置を駆動した場合の印加電圧Vdcと糸張力Pの関係を横軸を時間軸として図15に対応させて図示したものである。印加電圧Vdcは時間tに対し直線的に増加し、直線的に減少させる条件とした。図16に示されるように、印加電圧Vdcが張力Pが上昇を開始するVhに達する時間t=tdまでは、張力Pは残留張力Pbのままであり、印加電圧Vdcの増加に対し張力Pが増大し始めるには時間tdだけの遅れがある。つぎに印加電圧VdcをVxまで増加した状態から減少すると、張力PはVdcの減少から時間teだけ遅れて減少に転じ、Vdc=0Vで残留張力Pbになる。
なお、図15および図16は、ミシン停止時における従来の糸調子装置の特性を示したものであるが、ミシンの振動が少ない低速時においても同様な特性となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記したように、糸調子装置には、駆動手段による駆動に対し糸調子器の可動部に摩擦による不感帯がある。つまり、糸調子器のスライドする可動軸や可動皿に中空軸と摩擦が発生する。この摩擦は小さいため、張力が強い場合には無視できるが、押し・引きする推力が弱い低張力時には摩擦の影響が無視できなくなり、スライドする部分が摩擦抵抗によって引っ掛かってなめらかに移動せず、いわゆるスティックスリップを起こす。その結果、従来は低い張力を正確に設定できない問題があった。また、ミシン回転中に、被縫製物の縫製部位に対応させて駆動手段を制御して、張力を種々変更しながら縫製を行う場合には、図16に示すような応答遅れが発生し、各縫製部位に所望の張力を付与できないという問題もあった。
【0007】
また印加電圧に頼らず実際に張力を測定しながら、ミシンの停止時に張力設定を行っても、可動軸や可動皿の摩擦抵抗による引っ掛かりが発生した状態で張力が設定され、ミシンの高速運転時には引っ掛かり状態が振動によって開放されてなくなるので、ミシン停止時に設定した張力が高速運転時に変わってしまう問題もあった。
【0008】
また糸経路の1カ所で糸調子装置により張力を付与し、制御しようとすると、大きな力を発生するアクチュエーターが必要となるので、糸経路上の複数箇所に糸調子装置を設置して、張力を複数個の糸調子装置に分担させて糸に付与させる方法がある。このようにすると、個々の糸調子装置で付与する張力を、1個の糸調子装置だけで張力を付与する場合の算術平均値よりも小さくできるが、この場合、糸調子装置の個数分だけ摩擦抵抗も増大するので、さらに正確な設定ができなくなるという問題があった。
【0009】
一方、張力の設定をボイスコイルモータ等の駆動手段によらず、可動皿と固定皿を押圧するバネ圧を手動にて調整するタイプの糸調子装置も知られているが、同様な問題が発生していた。
【0010】
本発明の課題は、糸に付与する張力が可変な糸調子器を備えるミシンの糸調子装置において、糸調子器の可動軸や可動皿など可動部の摩擦の影響を無くして、低張力の正確な設定など、所望の張力を正確に設定可能とすることである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決すべく請求項1記載の発明は、ミシンの糸調子装置であって、
たとえば図1に示すように、ミシンの糸に付与する張力が変更可能な糸調子器101と、
前記糸調子器に連結されるとともに、駆動電流により動作して、前記付与する張力を制御する駆動手段(ボイスコイルモータ111)と、
前記駆動手段を動作させる駆動電流を周期的に変化させることにより、張力設定値(Pa)に基づいて、前記糸調子器に一定振幅の振動を加える振動印加手段(ボイスコイルモータ110+脈流電源120)とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の発明によれば、以下の作用効果を有する。
(1)低張力の張力設定時に、振動印加手段で糸調子器に振動を加えるので、糸調子器の可動部(可動軸、可動皿)の摩擦抵抗を緩和し、ほぼなくならせることができ、可動部をスティックスリップすることなくなめらかに駆動して、低張力であっても所望の張力を正確に設定して糸に付与することができる。
(2)ミシン停止時に糸調子器の可動部の摩擦による影響をなくして張力を正確に設定できるので、ミシン高速運転時にミシン停止時に設定した張力と同じ張力が得られ、縫い始め、縫い途中および縫い終わりの全段階で、安定した同じ縫い目を得ることができる。
(3)ミシン運転中に張力を変更する場合、ミシンが低速で回転していると、スティックスリップが発生するため正確な張力を設定できないが、振動を加えることによりスティップスリップをなくすので、ミシンの回転数にかかわらず、正確な張力をできるようになる。
(4)駆動手段により糸調子器の可動部(可動軸、可動皿)を駆動して張力設定する糸調子装置のみならず、手動により糸調子器の可動部(可動皿)を駆動して張力設定するタイプの糸調子装置についても、張力設定時に糸調子器に振動を加えることにより、上記(1)〜(3)の作用効果を得ることができる。
(5)脈流の駆動電流で駆動手段を動作させるので、駆動手段に糸調子器の可動部を微振動しながら押し・引きする推力を容易に得ることができ、また振動印加手段を含めて糸調子装置全体を小型化、安価にすることができる。さらに脈流の交流成分の振幅を変えることにより、糸調子器に加える振動の大きさ(振幅)を容易に変えることができる利点もある。
【0013】
さらに、請求項1記載の発明は、
前記振動印加手段は、直流電圧に交流電圧を重畳した駆動電流で前記駆動手段を駆動して張力を設定することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸調子装置において、
前記振動印加手段による前記糸調子器への振動の付加を、前記糸に付与する張力が所定の張力より小さい場合にのみ行うことを特徴とする。
【0016】
糸調子器の可動部の駆動の際に摩擦の影響が無視できなくなるのは、駆動手段により弱い推力で可動部を駆動して、低い張力を設定する場合である。
従って、請求項2記載の発明によれば、糸調子器への振動の付加を、糸に付与する張力が所定の張力より小さい場合にのみ行うので、適切かつ合理的な張力の設定制御ができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸調子装置において、
前記振動印加手段により前記糸調子器に加える振動の大きさを、前記糸に付与する張力が小さくなるにしたがって大きくすることを特徴とする。
【0018】
糸調子器の可動部の駆動に対する摩擦の影響の度合いは、設定する張力が低いほど強くなる。
従って、請求項3記載の発明によれば、糸調子器に加える振動の大きさ(振幅)を、糸に付与する張力が小さくなるにつれて大きくするので、適切かつ合理的な張力の設定制御ができる。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸調子装置において、
前記振動印加手段による前記糸調子器への振動の付加を、ミシンの速度が所定速度より小さい場合にのみ行うことを特徴とする。
【0020】
ミシンの速度が高い場合、ミシンの振動が大きくなり、糸調子器の振動も大きくなるため、低張力の設定でも、糸調子器の可動部の摩擦の影響をなくして、張力を正確に設定できる。
従って、請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明により奏する前述した作用効果(1)〜(5)に加え、ミシンの速度が所定速度より小さい場合にのみ糸調子器に振動を付加するので、張力の適切かつ合理的な設定制御ができる。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸調子装置において、
前記振動印加手段により前記糸調子器に加える振動の大きさを、ミシンの速度が高くなるにしたがって小さくすることを特徴とする。
【0022】
ミシンの振動、糸調子器の振動(振幅)の度合いは、ミシンの速度が高いほど、大きくなる。
従って、請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の発明により奏する前述した作用効果(1)〜(5)に加え、糸調子器に加える振動の大きさを、ミシンの速度が高くなるにしたがって小さくするので、適切かつ合理的な張力の設定制御ができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
[第一の実施の形態]
図1は、本発明の第一の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。本実施の形態において、糸調子装置は、糸調子器101に駆動手段として、直動アクチュエータのボイスコイルモータ(VCM)111を取り付けた基本構成を有している。本発明は、たとえばボイスコイルモータ111で糸調子器101を駆動して、糸調子器で糸に付与する張力を設定するに際し、糸調子器101に振動を印加することにより、その可動軸105および可動皿103の摩擦による影響を無くして、低張力であっても正確に設定することを可能とした。
【0026】
まず、糸調子装置の全体構成について説明する。
糸調子装置において、糸調子器101は、軸受ケース107に回転自在に軸支された中空軸104を有し、中空軸104の先端部側に張力付与部として1対の調子皿102、103を設けている。この1対の皿のうちの外側の皿102は、中空軸104の外面に固定した固定皿であり、これと対向した内側の皿103は、中空軸104の外面にスライド自在に組み付けた可動皿である。中空軸104の先端部外周には雄ねじ部181が形成され、調子皿調節手段としてのナット182を雄ねじ部181に螺合して、ナット182により固定皿102の固定位置を調節することにより、固定皿102と可動皿103の初期の押圧力を調節している。
【0027】
軸受ケース107内には、中空軸104の外面に被嵌したねじりコイルバネ(糸取りバネ)108が介挿されており、コイルバネ108の先端には、固定皿102の外周に臨む糸掛け棒109が一体に設けられている。中空軸104の内部には、可動軸105がスライド自在に挿入され、また可動軸105の先端によって押される当接片106が配置されていて、この当接片106は可動皿103に一体に設けられている。軸受ース107は、ミシンアームブロック100の組み込み穴に填め込んで固定されている。
【0028】
なお、この実施の形態とは逆に、内側の皿103を固定皿とし、外側の皿102を可動皿としてもよく、その場合には、当接片106を外側の可動皿102と一体に設けて、その当接片106に可動軸105の先端部を係合等により接続することで、可動軸105により当接片106を介して可動皿102を引けるようにしておけばよい。
【0029】
ボイスコイルモータ111は低イナーシャの直流リニアモータで、磁気回路112を構成する円筒型ヨーク113と、その端部内周に設けた永久磁石の外極114と、円筒形ヨーク113の中心部に一体的に設けた鉄心の中央極115と、この中央極115と外極114との間に配設された円筒状の可動コイル116とからなる。可動コイル116は、補償銅管117の外周にコイル巻線118を設けてなり、その先端部のコイルヘッド119の中央部に前記の可動軸105を一体に取り付けている。
【0030】
上記の可動コイル116には、外極(永久磁石)114により中央極(鉄心)115との間に形成された磁界が作用しており、この磁界中にある可動コイル116のコイル巻線118に、電源から直流の駆動電流を供給すると、その駆動電流の極性によって可動コイル116に推力(糸調子器方向への押し力またはこれと反対方向への引っ張り力)が生じる。この可動コイル116の推力により、可動軸105が駆動されて中空軸104内を前進または後退し、中空軸104内で可動軸105に押圧された当接片106を介して、当接片106と一体の可動皿103が軸線方向に沿って前後方向に移動し、可動皿103と固定皿102との間の押圧力が変更され、糸に付与する張力が設定される。
【0031】
すなわち、ミシンの糸巻(糸駒)から繰り出されて糸取りバネに至るまでの糸巻と天秤との間の糸経路で、固定皿102と可動皿103との間に通した糸に対する把持力が変わり、糸の繰り出し量が規制されて糸に所望の張力が付与される。なお、上記では、外極114を永久磁石、中央極115を鉄心として、ボイスコイルモータを構成しているが、外極114を鉄心、中央極115を永久磁石として、ボイスコイルモータを構成してもよい。
【0032】
ボイスコイルモータ111は、インダクタンスが小さく、また移動体が可動コイル116だけで慣性が小さいので、駆動電流の入力に対する推力の出力応答が早いという特性を具備している。さらに駆動電流に比例した線形の推力(押し力・吸引力)を取り出せる特性を有しており、可動皿103を駆動電圧(駆動電流)に比例した線形の移動量で駆動することができる。
【0033】
しかしながら、従来技術の項で述べたように、糸調子器101の中空軸104に対しスライドする可動軸105や可動皿103には、それぞれ中空軸104の内面、外面と摩擦が発生し、押し・引きする推力が弱い低張力時に摩擦の影響が無視できなくなり、スライドする部分が摩擦抵抗により引っ掛かって、いわゆるスティックスリップを起こし、正確に張力を設定できない問題があった。
【0034】
そこで、本発明では、低張力設定時に、可動軸105や可動皿103が摩擦抵抗の影響を受けずになめらかに移動可能とするために、糸調子器101に振動印加手段を設置して、駆動手段による糸調子器の可動部(可動軸105、可動皿103)の駆動に際し、糸調子器101に振動を付加するようにした。
【0035】
本実施の形態の場合には、糸調子器101の駆動手段に直流電流により動作するボイスコイルモータ111を用いているので、図2に示すように、ボイスコイルモータ(VCM)111の電源として、直流を周期的に変化させる脈流を発生する脈流電源120を用いることにより、ボイスコイルモータ111を利用して糸調子器101の振動印加手段を構成した。脈流電源としては、直流に交流を重畳した電流を発生する電源を使用することができる。交流としてはサイン波、矩形波、三角波など各種のものを使用することができる。
【0036】
このような脈流の駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させれば、可動コイル116に移動方向に微振動しながら可動軸105を押し・引きする推力が容易に得られ、可動軸105および当接片106を介して可動軸105により駆動される可動皿103を微振動しながら駆動できるので、これら可動軸105や可動皿103の中空軸104との摩擦抵抗を緩和して、ほぼなくならせることができる。このため弱い推力で駆動しても、可動軸105や可動皿103が摩擦抵抗により引っ掛からず、スティックスリップを起こすことなくなめらかに移動する。したがって、本実施の形態によれば、糸に付与する張力が低い張力であっても、所望の張力を正確に設定して付与することができる。
【0037】
振動印加手段(本例では、ボイスコイルモータ+脈流電源)による糸調子器101への振動の付加は、図3に示すように、糸に付与する張力Pが所定の張力P1より小さい場合にのみ行うことが好ましい。これは、可動軸105、可動皿103の移動の際に摩擦の影響が無視できなくなるのは、糸に付与する張力が低いとき、つまりボイスコイルモータ111を弱い推力で動作させて、弱い推力で可動軸105、可動皿103を駆動するときだからである。糸に付与する張力が高く、可動軸105、可動皿103を強い推力で駆動する場合は、これら可動軸105、可動皿103は摩擦に影響されずになめらかに移動する。
【0038】
振動印加手段により糸調子器に加える振動の大きさ(振幅)は、糸に付与する張力が小さくなるにつれて、可動軸105、可動皿103の移動に対する摩擦抵抗の影響の度合いが強くなることから、同じ図3に示すように、P1以下よりもP2以下(P2<P1)の方が大きいというように、張力Pが小さいほど大きくすることが好ましい。
【0039】
振動印加手段による糸調子器101への振動の付加は、図4に示すように、ミシン停止時も含めて、ミシンの速度Sが所定速度S1より小さい場合にのみ付加するようにすることが好ましい。これは、ミシンの速度が高くなると、ミシンの振動が大きくなって糸調子器101の振動も大きくなるので、低張力の設定でも、可動軸105、可動皿103の摩擦の影響が緩和され、これらをなめらかに移動して、張力を正確に設定することができるからである。
【0040】
振動印加手段により糸調子器に加える振動の大きさ(振幅)は、同じ図4に示すように、ミシンの速度Sが高くなるほど糸調子器の振動が大きくなることから、ミシンの速度が高くなるにしたがって小さくすることが好ましい。
【0041】
糸調子器101に加える振動の大きさを変えるには、図5に示すように、電源120でボイスコイルモータ111に加える駆動電流について、重畳する交流電圧Vaの大きさを変えればよい。たとえば交流電圧VaをVa1からVa2に増大すれば、振幅をa1からa2に大きくできる。
【0042】
図6に、本実施の形態の糸調子装置を備えたミシンの制御部を示すブロック図を掲げる。図6に示すように、ミシン制御部はCPU2を有し、CPU2には、たとえばミシンのペダル1、操作パネル3、針上下位置検出器7が接続され、これら各部の信号が入力される。またCPU2には、モータドライバー4を介してミシンモータ5が、VCM(ボイスコイルモータ)ドライバ9を介してボイスコイルモータ8(図1のボイスコイルモータ111である)が接続され、さらにミシンモータの回転速度を検出するモータエンコーダ6が接続され、これら各部の信号が入力される。そしてCPU2により、これら入力された各部のデータをROM10やRAM11に設定されているデータと比較演算して、所望の糸張力が設定されるように、ボイスコイルモータ111に流す駆動電流について、直流にだけにするか、あるいは脈流にするかを決定し、直流だけのときはその直流の大きさを決め、脈流にするときはその直流分および交流分の大きさを決める等の制御をする。
【0043】
本実施の形態における張力設定制御の一例を図7のフローチャートにより説明する。図7において、張力設定制御のシーケンスがスタートすると、CPU2が、設定しようとする張力設定値Paを読み込む(ステップST1)。なお、この張力設定値Paは、例えば操作パネル3により入力され、RAM11に記憶されている。ついで張力設定値Paが基準値P1よりも低いか否かを判断し(ステップST2)、設定値Paが基準値P1より低くないとき、つまり高いときは糸調子器101の駆動、すなわち可動軸105、可動皿103の駆動に対する摩擦の影響が少ないので、直流電圧Vdの駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、可動軸105を駆動し、これによって可動皿103を移動して、張力Paを設定する。可動皿103と固定皿102との間隙に通された糸には、所望の設定値Paの張力が付与される。
【0044】
ステップST2で、張力設定値Paが基準値P1より低いときは、糸調子器101の駆動に対し摩擦の影響があるので、さらに基準値P1よりも低い第2の基準値P2に対し低いか否かを判断し(ステップST4)、設定値Paが基準値P2より高いときは、摩擦の影響を無くすために、交流電圧Va1を重畳した電圧Vd+Va1の駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、糸調子器を駆動し(ステップST5)、張力Paを設定する。
【0045】
ステップST4で、張力設定値Paが基準値P2より低いときは、上記よりも摩擦抵抗の影響が大きいので、直流電圧VdにVa1よりも大きい交流電圧Va2を重畳した電圧Vd+Va2の駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、糸調子器を駆動し(ステップST6)、張力Paを設定する。
【0046】
糸張力をさらに変更するときは、ステップST3、ST4またはST5からステップST1に戻って、新たに設定する張力についての設定値Paの読み込み以下の操作を行い、同様な手法により、糸に新たな張力Paを設定すればよい。
【0047】
本実施の形態における張力設定制御の他の例を図8のフローチャートにより説明する。図7で示した張力設定制御では、ミシンの速度を変えずに一定とした条件下で行ったが、本例は、ミシンの速度が変更される場合の張力設定時の制御である。
【0048】
図8において、張力設定制御のシーケンスがスタートすると、CPUが、設定しようとする張力設定値Paを読み込んだ後(ステップST11)、モータエンコーダ6で検出したミシンの速度Sを読み込んで(ステップST12)、ミシン速度Sが基準値S1よりも低いか否かを判断し(ステップST13)、ミシン速度Sが基準値S1より低くないときは、つまり高いときはミシンの振動により、糸調子器101の駆動、すなわち可動軸105、可動皿103の駆動に対する摩擦の影響が取り除かれるので、直流電圧Vdの駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、糸調子器101を駆動し(可動軸105を駆動して可動皿103を移動し)(ステップST14)、張力Paを設定する。可動皿103と固定皿102との間隙に通された糸には、所望の設定値Paの張力が付与される。
【0049】
ステップST13で、ミシン速度Sが基準値S1より低いときは、さらに基準値S1よりも低い第2の基準値S2に対し低いか否かを判断し(ステップST15)、ミシン速度Sが基準値S1よりも低くS2より高いときは、ミシンの振動により摩擦の影響を余り解消できないので、摩擦の影響を無くすために、交流電圧Va1を重畳した電圧Vd+Va1の駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、糸調子器を駆動し(ステップST16)、張力Paを設定する。
【0050】
ステップST15で、ミシン速度Sが基準値S2より低いときは、ミシンの振動で摩擦の影響を解消する効果がほとんど期待できないので、直流電圧VdにVa1よりも大きい交流電圧Va2を重畳した電圧Vd+Va2の駆動電流でボイスコイルモータ111を動作させて、糸調子器を駆動し(ステップST17)、張力Paを設定する。
【0051】
糸張力をさらに変更するときは、ステップST14、ST15またはST17からステップST11に戻って、新たに設定する張力についての定値Paの読み込み、ミシン速度Sの読み込み以下の操作を行い、同様な手法により、新たな張力Paを設定すればよい。
【0052】
[第二の実施の形態]
図9は、本発明の第二の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。図9において、図1に付した符号と同一の符号は同一の部材を示す。
【0053】
本実施の形態では、糸調子装置は、図9に示すように、ミシンアームブロック100に設置された糸調子器101の駆動手段として、低イナーシャモータであるコアレスモータ301を具備する。説明の簡便のために内部構造を省略するが、このコアレスモータ301は、ケーシング内に固定の永久磁石と、この永久磁石に対応して設けられた、鉄心を持たない回転自在な電機子とを内蔵してなり、電機子の巻線に駆動電流を流すことにより電機子が回転し、電機子の中心部に設けた出力軸302が回転する。このコアレスモータ301は、前述したボイスコイルモータ(VCM)と非常に良く似た特性を有する。
【0054】
コアレスモータ301は、その出力軸302に取り付けたリンク303を継ぎ手304で糸調子器101の可動軸105に接続することにより、出力軸302の回転運動を直線運動に変換して可動軸105に伝えるようになっている。これにより、ボイスコイルモータ(VCM)の場合と同様、コアレスモータ301の動作で、糸調子器101の可動部、すなわち可動軸105および可動皿103を駆動して、糸に所定の張力を設定するようになっている。
【0055】
なお、コアレスモータ301の出力軸302から糸調子器101の可動軸105までの動力伝達機構として、リンク303および継手304に代えて、プーリ等の他の機構を用いて、出力軸302の回転運動を可動軸105の直線運動に変換するよう構成してもよい。
【0056】
本実施の形態でも、第一の実施の形態のときと同様、コアレスモータ301の駆動電源として脈流を発生できる電源を使用することにより、コアレスモータを利用して糸調子器101の振動印加手段を構成した。同様に、脈流電源からコアレスモータ301に脈流の駆動電流を供給して、コアレスモータを動作させれば、コアレスモータの出力軸302に微振動する推力が発生するので、糸調子器101の可動軸105、可動皿103を微振動させながら駆動することができる。このため、弱い推力で駆動しても、可動軸105や可動皿103が摩擦抵抗により引っ掛からず、スティックスリップを起こすことなくスムーズに移動する。したがって、本実施の形態によっても、糸に付与する張力が低い張力であっても、張力を正確に設定して付与することができ、第一の実施の形態のときと同様な作用効果を奏する。
【0057】
[第三の実施の形態]
図10は、本発明の第三の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。図10において、図1に付した符号と同一の符号は同一の部材を示す。本実施の形態では、糸調子装置の糸調子器101は吸引型に構成されている。糸調子器101の駆動手段はボイスコイルモータ111である。
【0058】
糸調子器101は、中空軸104の外面に配置した1対の皿のうち、内側の皿102を固定皿とし、外側の皿103を可動皿としている。可動皿103は、糸調子器101の中空軸104の外面にスライド自在に取り付けられ、中空軸104先端部のネジ部181に螺合されたナット182の内側位置の回り止め130と可動皿103との間には、中空軸104の外面に被嵌した圧縮コイルバネ132が取り付けられている。中空軸104内にスライド自在に挿入された可動軸105の先端は、この回り止め130に係合している。
【0059】
ボイスコイルモータ111の可動コイル116に駆動電流を流して吸引方向の推力を発生させ、可動軸105をモータ111側に引くと、回り止め130に係合されたコイルバネ132が圧縮されて、可動皿103を固定皿102に押圧し、その間に挿通された糸に張力が付与される。可動コイル116に流す駆動電流の極性を反対にすると、可動コイル116は可動軸105を押圧し、これによりコイルバネ132が広がって可動皿103の押圧が緩み、糸に付与された張力が減り、さらに駆動すると張力が解除される。
【0060】
このような吸引型の糸調子装置でも、低張力の設定時、糸調子器101の可動軸105、可動皿103と中空軸104との間の摩擦が無視し得ず、スティックスリップが生じて、張力を正確に設定できない。そこで、本実施の形態でも、第一の実施の形態のときと同様、ボイスコイルモータ111の駆動電源として脈流電源を使用することにより、ボイスコイルモータを利用して糸調子器101の振動印加手段を構成した。同様に、脈流電源から可動コイル116に脈流の駆動電流を供給して動作させることにより、可動コイル116に微振動する推力を発生させて、糸調子器101の可動軸105、可動皿103を微振動させながら駆動できる。したがって、第一の実施の形態のときと同様に、弱い推力で駆動しても、可動軸105や可動皿103が摩擦抵抗により引っ掛からず、スティックスリップを起こすことなくスムーズに移動して、張力を正確に設定して付与することができる等、同様な作用効果を奏する。
【0061】
[第四の実施の形態]
図11は、本発明の第四の実施の形態における糸調子装置を示す斜視図である。図11において、図1に付した符号と同一の符号は同一の部材を示す。
【0062】
本実施の形態では、糸調子装置は、糸調子器101の可動軸105とボイスコイルモータ111とを、その間に介挿したリンク機構171で連結している。リンク機構171は図示しないミシンアーム内に収容され、ボイスコイルモータ111はブラケット161により、糸調子器101の側とは反対側のミシンアーム裏面に固定されている。
【0063】
リンク機構171は、上下方向の揺動アーム174と、このアーム174の上端に継ぎ手173を介して取り付けられた水平方向のロッド172と、アーム174の下端に継ぎ手178を介して取り付けられた水平方向のロッド177とを備え、アーム174はミシンアームブロックに固定したブラケット176に対し、支軸175で下端部寄りの位置を軸支されている。上記のロッド172はボイスコイルモータ111の可動コイル116のヘッド119に固定され、ロッド177は糸調子器101の可動軸105に連結され、ロッド177の先端部にはフランジ180が設けられている。フランジ180と糸調子器101の軸受ース107の端面との間には、リンク機構171が有する摩擦力の分だけ可動軸105を戻すための圧縮コイルバネ179が介挿され、コイルバネ179は糸調子器101の中空軸104の外面に被嵌されている。
【0064】
ボイスコイルモータ111の可動コイル116に駆動電流を流して、可動コイルに推力を発生させるとロッド172が駆動されて、ロッド172がボイスコイルモータ111の方向またはその逆の方向に移動し、ロッド172の移動によりアーム174が支軸175を中心に反時計方向または時計方向に揺動し、アーム174の揺動によりロッド177が糸調子器101の方向またはその逆の方向に移動し、かくして可動軸105が中空軸104内を進退して可動皿103を駆動し、可動皿103と固定皿102との間の押圧力が制御される。
【0065】
この糸調子装置では、リンク機構171のアーム174の揺動中心を下端寄りの位置として、可動コイル116に連結したロッド172の移動量に比べて、可動軸105に連結したロッド177の移動量を小にしているので、可動コイル116の推力を増幅して可動軸105に伝達することができる。このため、大きな推力で可動軸105を押し・引きして、可動皿103、固定皿102の押圧力を調整することができ、糸に高い張力を付与することが可能になる。
【0066】
このような推力増幅型の糸調子装置でも、低張力の設定時、糸調子器101の可動軸105、可動皿103と中空軸104との間の摩擦が無視し得ない事情は同じであるから、スティックスリップが生じて、張力を正確に設定できない。本実施の形態でも、これまでの実施の形態と同様、ボイスコイルモータを利用して糸調子器101の振動印加手段を構成し、脈流電源から可動コイル116に脈流の駆動電流を供給して微振動する推力を発生させることにより、糸調子器101の可動軸105、可動皿103を微振動させながら駆動する。これにより、弱い推力で駆動しても、可動軸105や可動皿103が摩擦抵抗により引っ掛からず、スティックスリップを起こすことなくなめらかに移動して、張力を正確に設定して付与することができ、同様な作用効果を奏する。
【0067】
[第五の実施の形態]
本発明の第五の実施の形態における糸調子装置を図12に示す。図12において、図1に付した符号と同一の符号は同一の部材を示す。
【0068】
図12に示されるように、本実施の形態では、糸調子装置の糸調子器101は、中空軸104の外面の先端部寄りの位置に回転自在に装着した糸車401を有する。この糸車401は、皿の面を形成するように中心から外側に旋回形状に延びて端部で湾曲した複数本の間隔を開けた細幅の条材を2組み、2枚の皿が背中合わせでクロスする格好に設けた構造とされ、糸車401の外皿部と内皿部が交わった外側周縁部は、糸を1巻きする溝をなしている。
【0069】
糸車401の外皿部の内面、内皿部の内面には、それぞれフェルト製の摩擦板402、403が接触され、その外側に糸車401の回転を制動する制動部材であるブレーキ板404、405が配設されている。外側のブレーキ板404は中空軸104の外面に固定し、内側のブレーキ板405は中空軸104の外面にスライド自在に取り付けられている。中空軸104の内部には可動軸105により押される当接片406が配置され、この当接片406は可動ブレーキ板405と一体に設けられている。
【0070】
ボイスコイルモータ111の可動コイル116に駆動電流を流して推力を発生させ、可動コイルに取り付けられた可動軸105を中空軸104内で移動すると、可動軸105により可動ブレーキ板405が当接片406を介して移動し、これにより可動ブレーキ板405と固定ブレーキ板404との間の押圧力が変って、その内側の摩擦板402、403による糸車401の回転に対する制動力を変えることができる。したがって、糸経路の途中で糸車401に巻き付けて引かれることにより、糸車401を回転しながら走行する糸に、糸車401によって張力が付与され、糸車401の制動力を変更することによって付与される張力が変えられる。
【0071】
なお、この実施の形態とは逆に、内側のブレーキ板405を固定ブレーキ板とし、外側のブレーキ板404を可動ブレーキ板としてもよく、その場合には、当接片406を外側の可動ブレーキ板404と一体に設けて、その当接片406に可動軸105の先端部を係合等により接続することで、可動軸105により当接片406を介して引けるようにしておけばよい。
【0072】
このような糸車タイプの糸調子装置でも、低張力の設定時、糸調子器101の可動軸105、可動ブレーキ板405等と中空軸104との間の摩擦が無視し得ず、スティックスリップが生じて、張力を正確に設定できない。そこで、本実施の形態でも、これまでと同様、ボイスコイルモータ111の駆動電源として脈流電源を使用して、ボイスコイルモータを利用して糸調子器101の振動印加手段を構成し、脈流電源から可動コイル116に脈流の駆動電流を供給して動作させることにより、可動コイル116に微振動する推力を発生して、糸調子器101の可動軸105、可動ブレーキ板405等を微振動させながら駆動するようにした。したがって、弱い推力で駆動しても、可動軸105や可動ブレーキ板405等が摩擦抵抗により引っ掛からず、スティックスリップを起こすことなくスムーズに移動して、張力を正確に設定して付与することができ、第一の実施の形態と同様な作用効果を奏する。
【0073】
[第六の実施の形態]
図13は、本発明の第六の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。図13において、図1に付した符号と同一の符号は同一の部材を示す。
【0074】
本実施の形態において、糸調子装置自体は第一の実施の形態と同じで、糸調子器101およびボイスコイルモータ111を備える。ただし、ボイスコイルモータ111は、本来の駆動法にしたがって直流の駆動電流で動作させる。
【0075】
本実施の形態では、糸調子器101に振動を加えるために、振動印加手段として圧電素子振動器200を設けたことが大きな特徴である。圧電素子振動器(アクチュエータ)200は、ミシンアームブロック100に設けた凹嵌部202に下部を挿入して取り付け、ボイスコイルモータ111寄りの位置で、糸調子器101の軸受ース107の外面に当接配置している。
【0076】
圧電素子はピエゾ素子といわれるもので、圧電素子振動器には、圧電板を金属薄板を介して張り合わせたバイモルフ型と、多数の圧電板を積層したスタック型とがあり、いずれも使用できるが、変位の安定性がよい、エネルギー変換効率が高いなどの利点を有するスタック型が好ましい。
【0077】
スタック型の素子構造の一例を示せば、圧電セラミック層(圧電板)と内部電極層とが交互に重なった均一層を複数層層積し、その上下に圧電セラミック層と内部電極層が交互に重なった不均一層を2層ずつ積層し、その上下に圧電セラミック層のみの保護層を1層ずつ重ねた態様をしている。外部電極を介して内部電極層とコンタクトを取ったリード線に振動電圧(たとえば±150V以下)を印加して駆動すると、圧電素子が振動電圧に高い追従性で積層方向に伸縮し振動する。
【0078】
本実施の形態によれば、低張力設定時、ボイスコイルモータ111を脈流でなく、交流成分のない直流の駆動電流で動作させて、糸調子器101を駆動すると同時に、圧電素子振動器200を振動電圧で駆動して、糸調子器101に振動を加える。これにより、糸調子器101に可動軸105の進退方向と直交する方向の振動が加わり、可動軸105、可動皿103が微振動しながら駆動されるので、摩擦の影響をなくして低張力の正確な設定ができ、第一の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0079】
なお、図13は、圧電素子振動器200が振動を加える方向が、可動軸105の進退方向と直交方向となるように構成されているが、可動軸105の進退方向と平行な方向に振動を加えるように構成しても、振動の回り込みにより同様な効果が得られる。
【0080】
[第七の実施の形態]
上記の第六の実施の形態では、低張力設定時の振動印加手段として圧電素子振動器200を、糸調子器101の駆動手段としてボイスコイルモータ111を備えた糸調子装置に適用した場合を示したが、図9に示したようなコアレスモータ301を備えた糸調子装置にも適用することができる(勿論、この場合には、コアレスモータ301は、脈流でなく、交流成分のない直流の駆動電流で動作させる)。また駆動手段として電磁石を用いたソレノイドタイプの糸調子装置にも、圧電素子振動器を適用することができる(電磁石に供給する直流電流は、脈流でなく、交流成分のない直流とする)。また糸調子器の駆動手段としてエアーシリンダーを用いた糸調子装置も知られているが、エアーシリンダーで糸調子器を駆動して低張力を設定する際にも、糸調子器の振動印加手段として圧電素子振動器を用いることができる。
【0081】
さらには、本第七の実施の形態を示す図14に示されるように、手動で張力設定する糸調子装置にも圧電素子振動器200を適用することができる。本実施の形態では、糸調子装置は、糸調子器101の電磁力等を用いた駆動手段を有せず、手動で可動皿103を駆動し、糸に付与する張力を制御するようになっている。
【0082】
糸調子器101は、中空軸104の外面に配置した1対の皿のうち、内側の皿102を固定皿とし、外側の皿103を可動皿としており、可動皿103は、糸調子器101の中空軸104の外面にスライド自在に取り付けられ、中空軸104先端部のネジ部181に螺合されたナット182の内側位置の回り止め130と可動皿103との間には、中空軸104の外面に被嵌した圧縮コイルバネ132が取り付けられている。
【0083】
この糸調子装置では、人が手でナット182を回して可動皿103の方向に押し進めることにより、回り止め130に係合されたコイルバネ132を圧縮して、可動皿103を固定皿102に押圧し、これにより可動皿103と固定皿102との間に挿通された糸に押圧力に応じた張力が付与される。ナットを逆方向に回転して緩めると、コイルバネ132の圧縮力が小さくなって可動皿103の押圧が弱まり、糸に付与された張力が減る。さらに回転すると張力が解除される。
【0084】
このような手動調整型の糸調子装置でも、低張力の張力設定時、糸調子器101の可動皿103と中空軸104との間の摩擦が無視し得ず、スティックスリップが生じて、張力を正確に設定できないことが起こる。そこで、本実施の形態でも、圧電素子振動器200を、ミシンアームブロック100に設けた凹嵌部202に取り付け、糸調子器101の軸受ケース107の外面に当接配置した。
【0085】
そして、低張力設定時、手動でナット182を回して可動皿103を移動し、糸に付与する張力を設定する際、圧電素子振動器200を振動電圧で駆動して、糸調子器101に可動皿103の移動方向と直交する方向の振動を加える。これにより、摩擦の影響をなくした低張力の正確な設定ができ、第一の実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。なお、この場合も、圧電素子振動器200により振動を加える方向は、図14に示した方向に限らず、図14の方向と直交する方向に振動を加えてもよい。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)糸調子器に振動を印加することにより、その可動部(可動軸、可動皿)の摩擦抵抗を緩和して、可動部をスティックスリップすることなくなめらかに駆動でき、低張力であっても所望の張力を正確に設定して糸に付与することができる。
(2)ミシン高速運転時にも、ミシン停止時に設定した張力と同じ張力が得られ、縫い始め、縫い途中および縫い終わりの全段階で、安定した同じ縫い目を得ることができる。
(3)手動により糸調子器の可動部(可動皿)を駆動して、張力設定するタイプの糸調子装置についても、糸調子器に振動を印加しながら張力設定することにより、同様な効果を得ることができる。
(4)糸の経路上の複数箇所に糸調子装置を設置して、個々の糸調子装置で付与する張力を、1個の糸調子装置だけで付与する場合の算術平均値よりも小さくできる利点のある、張力を分担して付与させるような使用法ができる。これにより、個々の糸調子装置における糸調子器の駆動手段(アクチュエータ)を小さくでき、また個々の糸調子装置における駆動手段を個別に動作させることにより、糸調子装置を縫製時は張力設定用に使用し、糸切り時は張力を変えて糸切り後の残り長さをコントロールするような使用法もできる。
(5)駆動手段に糸調子器の可動部を微振動しながら押し・引きする推力を容易に得ることができ、また振動印加手段を含めて糸調子装置全体を小型化、安価にすることができる。さらに脈流の交流成分の振幅を変えることにより、糸調子器に加える振動の大きさ(振幅)を容易に変えることができる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図2】図1の糸調子装置の糸調子器への振動印加手段を示すブロック図である。
【図3】図1の糸調子装置の糸調子器への振動の付加の有無および振動の大きさと付与する張力との関係を概念的に示す説明図である。
【図4】図1の糸調子装置の糸調子器への振動の付加の有無および振動の大きさとミシンの速度との関係を概念的に示す説明図である。
【図5】図2の振動印加手段の脈流電源の交流電圧を変えることによって付加する振動の振幅を変更することを示す説明図である。
【図6】図1の糸調子装置を備えたミシンの制御部を示すブロック図である。
【図7】図1の糸調子装置における張力設定制御を示すフローチャートである。
【図8】図1の糸調子装置における張力設定制御の他の例を示すフローチャートである。
【図9】第二の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図10】第三の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図11】第四の実施の形態における糸調子装置を示す斜視図である。
【図12】第五の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図13】第六の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図14】第七の実施の形態における糸調子装置を示す断面図である。
【図15】ボイスコイルモータを用いた糸調子装置の印加電圧−張力特性の一例を示す説明図である。
【図16】図15の印加電圧−張力特性を時間軸に対し図示した説明図である。
【符号の説明】
2 CPU
6 モータエンコーダ
8 ボイスコイルモータ
9 VCMドライバ
101 糸調子器
102 固定皿
103 可動皿
104 中空軸
105 可動軸
111 ボイスコイルモータ
116 可動コイル
120 脈流電源
Claims (5)
- ミシンの糸に付与する張力が変更可能な糸調子器と、
前記糸調子器に連結されるとともに、駆動電流により動作して、前記付与する張力を制御する駆動手段と、
前記駆動手段を動作させる駆動電流を周期的に変化させることにより、張力設定値に基づいて、前記糸調子器に一定振幅の振動を加える振動印加手段とを備え、
前記振動印加手段は、直流電圧に交流電圧を重畳した駆動電流で前記駆動手段を駆動して張力を設定することを特徴とするミシンの糸調子装置。 - 前記振動印加手段による前記糸調子器への振動の付加を、前記糸に付与する張力が所定の張力より小さい場合にのみ行うことを特徴とする請求項1記載のミシンの糸調子装置。
- 前記振動印加手段により前記糸調子器に加える振動の大きさを、前記糸に付与する張力が小さくなるにしたがって大きくすることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸調子装置。
- 前記振動印加手段による前記糸調子器への振動の付加を、ミシンの速度が所定速度より小さい場合にのみ行うことを特徴とする請求項1記載のミシンの糸調子装置。
- 前記振動印加手段により前記糸調子器に加える振動の大きさを、ミシンの速度が高くなるにしたがって小さくすることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸調子装置。
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