JP5017751B2 - プレス成形性と歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車用熱延鋼板に係り、とくに、延性、伸びフランジ加工性、絞り加工性等のプレス成形性が良好で、しかもプレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に増加する、極めて大きな歪時効硬化特性を有する高延性熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全問題からの排出ガス規制に関連して、自動車の車体重量の軽減が極めて重要な課題となっている。最近、車体重量の軽減のために、自動車用鋼板を高強度化して鋼板板厚を低減することが検討されている。
鋼板を素材とする自動車の車体用部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される熱延鋼板には、優れたプレス成形性を有することが要求される。優れたプレス成形性を有する鋼板となるためには、まず高い延性を確保することが肝要となる。また、伸びフランジ成形が多用される場合もあり、高い穴拡げ率を有することも必要となる。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、延性が低下し、穴拡げ率が低下して、プレス成形性が低下する傾向となる。このため、従来から、高い延性を有し、プレス成形性に優れた高強度熱延鋼板が要望されていた。
【0003】
また最近では、衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性が重視され、そのために衝突時における安全性の目安となる耐衝撃特性の向上が要求されている。耐衝撃特性の向上には、完成車での強度が高いほど有利になる。したがって、自動車部品の成形時には、強度が低く、高い延性を有してプレス成形性に優れ、完成品となった時点には、強度が高くて耐衝撃特性に優れる熱延鋼板が最も強く望まれていた。
【0004】
このような要望に対し、プレス成形性と高強度化とを両立させた鋼板が開発された。この鋼板は、プレス加工後に100〜200℃の高温保持を含む塗装焼付処理を施すと降伏応力が上昇する塗装焼付硬化型鋼板である。この鋼板では、最終的に固溶状態で存在するC量(固溶C量)を適正範囲に制御し、プレス成形時には軟質で、形状凍結性、延性を確保し、プレス成形後に行われる塗装焼付処理時に、残存する固溶Cがプレス成形時に導入された転位に固着して、転位の移動を妨げ、降伏応力を上昇させる。しかしながら、塗装焼付硬化型自動車用鋼板では、降伏応力は上昇させることができるものの、引張強さまでは上昇させることができなかった。
【0005】
また、特公平5-24979号公報には、C:0.08〜0.20%、Mn:1.5〜3.5%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織がフェライト量5%以下の均一なベイナイトもしくは一部マルテンサイトを含むベイナイトで構成された焼付硬化性高張力冷延鋼板が開示されている。特公平5-24979号公報に記載された冷延鋼板は、連続焼鈍後の冷却過程で400〜200℃の温度範囲を急冷し、その後を徐冷とすることにより、組織を従来のフェライト主体の組織からベイナイト主体の組織として、従来になかった高い焼付け硬化量を得ようとするものである。
【0006】
しかしながら、特公平5-24979号公報に記載された鋼板では、塗装焼付け後に降伏応力が上昇し、従来になかった高い焼付け硬化量が得られるものの、依然として引張強さまでは上昇させることが難しく、耐衝撃特性の向上が期待できないという問題があった。
プレス成形後に熱処理を施し、降伏応力のみならず引張強さをも上昇させようとする熱延鋼板がいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特公平8-23048号公報には、C:0.02〜0.13%、Si:2.0%以下、Mn:0.6〜2.5%、sol.Al:0.10%以下、N:0.0080〜0.0250%を含む鋼を、1100℃以上に再加熱し、850〜950℃で仕上圧延を終了する熱間圧延を施し、ついで15℃/s以上の冷却速度で150℃未満の温度まで冷却し巻取り、フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織とする、熱延鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら、特公平8-23048号公報に記載された技術で製造された鋼板は、歪時効硬化により降伏応力とともに引張強さが増加するものの、150℃未満という極めて低い巻取温度で巻き取るため、機械的特性の変動が大きいという問題があった。また、プレス成形−塗装焼付処理後の降伏応力の増加量のばらつきが大きく、さらに、穴拡げ率(λ)が低く、伸びフランジ加工性が低下しプレス成形性が不足するという問題もあった。
【0008】
また、特許第2802513号公報には、熱延板をめっき原板とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%、Al:0.1%以下、Cu:0.8〜2.0%を含む鋼スラブを巻取温度:530℃以下の条件で熱間圧延を行い、続いて530℃以下の温度に加熱し鋼板表面を還元したのち、溶融亜鉛めっきを施すことにより、成形後の熱処理による著しい硬化が得られるとしている。しかしながら、この方法で製造された鋼板では、成形後熱処理により著しい硬化を得るためには、熱処理温度を500℃以上とする必要があり、熱処理温度が高く、実用上問題を残していた。
【0009】
また、特開平10-310824号公報には、熱延板あるいは冷延板をめっき原板とし、成形後の熱処理により強度上昇が期待できる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.01〜0.08%を含み、Si、Mn、P、S、Al、Nを適正量としたうえで、Cr、W、Moの1種または2種以上を合計で0.05〜3.0%含有する鋼を熱間圧延したのち、あるいはさらに冷間圧延または、調質圧延し焼鈍したのち、溶融亜鉛めっきを行い、その後、加熱合金化処理を施すというものである。この鋼板は、成形後、200〜450℃の温度域で加熱することにより引張強さ上昇が得られるとされる。しかしながら、得られた鋼板は、ミクロ組織が、フェライト単相、フェライト+パーライト、またはフェライト+ベイナイト組織であるため、高い延性と低い降伏強さが得られず、プレス成形性が低下するという問題があった。
【0010】
また、特開平11-199975号公報には、C:0.03〜0.20%を含み、Si、Mn、P、S、Alを適正量としたうえで、Cu:0.2〜2.0%とB:0.0002〜0.002%を含み、ミクロ組織が、フェライトを主相とし、マルテンサイトを第2相とする複合組織であり、フェライト相におけるCuの存在状態を2nm以下の固溶状態および/または析出状態とした、疲労特性に優れた加工用熱延鋼板が提案されている。特開平11-199975 号公報に記載された鋼板は、CuとBを複合添加し、しかもCuの存在状態を2nm以下と極微細としてはじめて疲労限度比が向上するものである。しかも、そのためには、Ar3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了し、冷却過程のAr3 〜Ar1 変態点までの温度域で1〜10s間空冷し、その後20℃/s以上の冷却速度で冷却し、350℃以下の温度で巻き取ることを必須としている。このように巻取温度を350℃以下という低温にすると、熱延鋼板の形状が大きく乱れやすく、工業的に安定して製造することが難しいという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したように、極めて強い要求があるにもかかわらず、これらの特性を満足する鋼板を工業的に安定して製造する技術がこれまでなかったことに鑑み成されたものであり、上記した問題を有利に解決し、自動車用鋼板として好適な、優れたプレス成形性を有し、かつプレス成形後に、比較的低い温度での熱処理によって引張強さが極めて大きく上昇する歪時効硬化特性に優れた高延性高張力熱延鋼板およびこの高延性高張力熱延鋼板を安定して生産できる製造方法を提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、歪時効硬化特性におよぼす鋼板組織と合金元素の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、鋼板組織をフェライトと残留オーステナイトを含む相との複合組織とし、さらに加えて、C含有量を低炭素域〜中炭素域とし、適正範囲内のCu、あるいはCuに代えてMo、Cr、Wのうちの1種または2種以上を含有することにより、予歪量:5%以上とした予変形処理と150℃以上350℃以下の比較的低い温度の熱処理後に、降伏応力の増加に加え、引張強さも顕著に増加する高い歪時効硬化を有する鋼板が得られることを見い出した。また、この鋼板は、このような高い歪時効硬化特性に加えて、良好な延性、高い穴拡げ率を有し、プレス成形性に優れた鋼板となることを見いだした。
【0013】
まず、本発明者らが行った基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.10%、Si:1.4%、Mn:1.5%、P:0.01%、S:0.005%、Al:0.04%、N:0.002%を含有し、Cuを0.3%、1.3%と変化した組成を有するシートバーについて、1250℃に加熱−均熱後、仕上圧延終了温度が850℃となるように3パス圧延を行って板厚2.0mmとした後、冷却条件と巻取り温度を種々変化させて、組織がフェライト単相から、フェライトを主相とし残留オーステナイトを含む相を第2相とする複合組織(以下、フェライト+残留オーステナイトの複合組織ともいう)を有する熱延板とした。
【0014】
得られた熱延板について、引張試験を実施し引張特性を調査した。さらに、これら熱延板から採取した試験片に引張予歪量5%の予変形処理を施し、ついで50〜350℃×20minの熱処理を施したのち、引張試験を実施し引張特性を求め、 歪時効硬化特性を評価した。
歪時効硬化特性は、熱処理前後の引張強さ増加量ΔTSで評価した。ΔTSは、熱処理を施した後の引張強さTSHTと、熱処理を施さない場合の引張強さTSとの差{=(熱処理後の引張強さTSHT)−(予変形処理前の引張強さTS)}とした。なお、引張試験は、圧延方向に採取したJIS 5号引張試験片を用いて実施した。
【0015】
図1に、ΔTSと鋼板組織の関係におよぼすCu含有量の影響を示す。なお、ΔTSは、引張予歪量5%の予変形処理を施し、ついで250℃×20minの熱処理を施して求めた。図1から、Cu含有量が1.3質量%の場合には、鋼板組織をフェライト+残留オーステナイトの複合組織にすることにより、ΔTS:80MPa以上という高い歪時効硬化特性が得られることがわかる。Cu含有量が0.3質量%の場合には、鋼板組織にかかわらず、ΔTS:80MPa未満であり、高い歪時効硬化特性は得られない。
【0016】
このように、Cu含有量を適正範囲とし、組織を、フェライトを主相とし、第2相を残留オーステナイトを含む相とする複合組織とすることにより、高い歪時効硬化特性を有する熱延鋼板を製造することが可能であることがわかる。
図2に、ΔTSと予変形処理後の熱処理温度の関係におよぼすCu含有量の影響を示す。鋼板のミクロ組織は、フェライトを主相とし、第2相を残留オーステナイトを含む相とする複合組織であり、残留オーステナイトの組織分率は組織全体に対する体積率で8%であった。
【0017】
図2から、ΔTSは、熱処理温度が上昇するとともに増加するが、その増加量はCu含有量に大きく依存する。Cu含有量が1.3質量%の場合には、熱処理温度が150℃以上でΔTS:80MPa以上という高い歪時効硬化特性が得られることがわかる。Cu含有量が0.3質量%の場合には、いずれの熱処理温度でも、ΔTS:80MPa未満であり、高い歪時効硬化特性は得られない。
【0018】
また、組織がフェライト単相組織あるいは、フェライト+残留オーステナイトの複合組織とし、Cuを0.3質量%と1.3質量%含有する熱延板について、穴拡げ試験を実施し、穴拡げ率λを求めた。穴拡げ試験は、10mmφのポンチで打ち抜いて供試片にポンチ穴を形成したのち、 頂角60度の円錐ポンチを用い、 バリが外側となるようにして、 板厚を貫通する割れが発生するまでの穴拡げを行い、 穴拡げ率λを求めた。穴拡げ率λは、λ(%)={(dーd0)/d0}×100で求めた。ここで、d0:初期穴径、d:割れ発生時の内穴径である。
【0019】
Cu含有量が1.3質量%で、かつ組織がフェライト+残留オーステナイトの複合組織を有する熱延板の場合には、穴拡げ率が約 140%であり、また、組織がフェライト単相の場合にも、穴拡げ率は約 140%であった。一方、Cu含有量が0.3%の場合には、 組織がフェライト単相の場合、穴拡げ率は 120%であったが、組織がフェライト+残留オーステナイトの複合組織を有する場合では、穴拡げ率は約80%と低かった。
【0020】
このように、組織をフェライト+残留オーステナイトの複合組織とする熱延鋼板では、Cuの含有量が多くなると、穴拡げ率が高くなり、穴拡げ成形性が向上することが明らかになった。Cuを含有することにより穴拡げ成形性が高くなる詳細な機構については、現在までには明確とはなっていないが、Cu含有によりフェライトと残留オーステナイトおよび歪誘起変態したマルテンサイトとの硬度差が小さくなったためではないかと考えられる。
【0021】
また、本発明の熱延鋼板では、通常の熱処理前後の変形応力増加量測定時の予歪量である2%よりも多い歪量での予変形と、150℃以上350℃以下といった比較的低温度域での熱処理により、鋼板中に極微細Cuが析出する。本発明者らの検討によれば、この極微細Cuの析出により、降伏応力の増加に加え、引張強さが顕著に増加する高い歪時効硬化特性が得られたと考えられる。このような低温域での熱処理による極微細Cuの析出は、これまで報告されている極低炭素鋼あるいは低炭素鋼では全く認められなかった。低温域での熱処理によって極微細Cuが析出することについては、現在まで、その理由は明確となっていないが、熱間圧延終了後急冷し、620 〜 780℃の温度域での等温保持処理または該温度域からの徐冷処理中に、γ相にCuが多量に分配され、それが冷却後も引き継がれて残留オーステナイト中にCuが過飽和に固溶した状態になる。そして、5%以上の予歪により、残留オーステナイトがマルテンサイトに歪誘起変態し、歪誘起変態したマルテンサイト中に、その後の低温熱処理により、極微細にCuが析出したものと考えられる。
【0022】
本発明者らは、以上の新知見に基づき、さらに鋭意研究を重ねた結果、上記のような現象は、Cuを含まない鋼組成に関しても起こりうることを見いだした。
Mo、Cr、Wの1種または2種以上を含む組成の鋼の組織を、フェライト相を主相とし、残留オーステナイトを含む相を第2相とする複合組織とし、予歪を付加し、低温域にて熱処理を施すことにより、歪誘起したマルテンサイト中に極微細炭化物が歪誘起析出し、引張強さが上昇することを見出した。この歪誘起低温微細析出は、Mo、Cr、Wの1種または2種以上に加え、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を複合添加することにより、より顕著になることも見出した。本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討して完成されたものである。本発明の要旨は下記のとおりである。
【0023】
(1)質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:1.0〜3.0%、Mn:3.0%以下、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.30%以下、N:0.02%以下、Cu:0.5〜3.0%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、体積率で75%以上のフェライト相を主相とし、体積率で8〜11%の残留オーステナイト相を含み、残部がベイナイト相およびマルテンサイト相からなる相を第2相とする複合組織を有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、次A群〜C群
A群:Ni:2.0%以下
B群:Cr,Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下
のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。
(3)質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:1.0〜3.0%、Mn:3.0%以下、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.30%以下、N:0.02%以下を含み、さらにW:0.05〜2.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、体積率で75%以上のフェライト相を主相とし、体積率で8〜11%の残留オーステナイト相を含み、残部がベイナイト相およびマルテンサイト相からなる相を第2相とする複合組織を有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。
(4)(3)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W,Mo、Crの合計で2.0%以下含有することを特徴とする高延性熱延鋼板。
(5)(3)または(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。
(6) 質量%で
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0〜3.0%、
Mn:3.0%以下、 P:0.10%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.30%以下、
N:0.02%以下、 Cu:0.5〜3.0%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブに、熱間圧延を施し所定板厚の熱延板とするにあたり、前記熱間圧延を、仕上圧延終了温度が780〜980℃である熱間圧延とし、仕上げ圧延終了後、0.5 秒以内に60℃/s以上の冷却速度で620〜780℃の温度域まで冷却し、該温度域で1〜10s間の等温保持処理または冷却速度:20℃/s以下の徐冷処理を施したのち、ついで再び60℃/s以上の冷却速度で300〜500℃まで冷却し、コイルに巻き取ることを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板の製造方法。
(7)(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、次A群〜C群
A群:Ni:2.0%以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下
のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする高延性熱延鋼板の製造方法。
(8)(6)において、前記鋼スラブを、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:1.0〜3.0%、Mn:3.0%以下、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.30%以下、N:0.02%以下を含み、さらにW:0.05〜2.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブとすることを特徴とするプレス成形性に優れ、かつ、△TS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板の製造方法。
(9)(8)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W,Mo、Crの合計で2.0%以下含有することを特徴とするプレス成形性に優れ、かつ、△TS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板の製造方法。
(10)(8)または(9)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とするプレス成形性に優れ、かつ、△TS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板の製造方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の熱延鋼板は、引張強さTS:440MPa以上の高張力熱延鋼板であり、組織がフェライト相を主相とし、体積率で1%以上の残留オーステナイト相を含む相を第2相とする複合組織を有し、プレス成形性に優れ、かつプレス成形後の比較的低い温度での熱処理により引張強さが顕著に上昇し、ΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板である。
【0025】
本発明でいう「高延性熱延鋼板」とは、強度(TS)と延性(El)のバランス(TS×El)が19000MPa %以上の引張特性を有することを意味する。
まず、本発明熱延鋼板の組織について説明する。
本発明の熱延鋼板は、組織が、フェライト相を主相とし、体積率で全組織に対して1%以上の残留オーステナイト相を含む相を第2相とする複合組織を有する。
【0026】
このような複合組織とすることにより、高い延性(El)と高い強度延性バランス(TS×El)を有し、優れたプレス成形性を有する鋼板となる。
主相であるフェライト相は、体積率で50%以上とするのが好ましい。フェライト相が、50%未満では、高い延性を確保することが困難となりプレス成形性が低下する。また、さらに良好な延性が要求される場合には、フェライト相の体積率は80%以上とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は98%以下とするのが好ましい。
【0027】
また、第2相として、本発明では、残留オーステナイト相を体積率で全組織に対して1%以上含有する相とする必要がある。残留オーステナイト相が1%未満では、高い延性(El)を得ることができない。より高い延性を得るためには、残留オーステナイト相は2%以上含有することが好ましく、より好ましくは3%以上である。なお、第2相は、体積率で1%以上の残留オーステナイト相単独としても、あるいは体積率で1%以上の残留オーステナイト相と、それ以外のパーライト相、ベイナイト相、マルテンサイト相のいずれかと混合する相としてもよく、とくに限定されない。
【0028】
上記した組織を有する熱延鋼板は、高延性を有するとともに、プレス成形性に優れ、かつ歪時効硬化特性に優れた鋼板である。
本発明でいう、「極めて優れた歪時効硬化特性」あるいは「歪時効硬化特性に優れた」とは、引張塑性歪量5%以上の予変形処理後、150〜350℃の範囲の温度で保持時間:30s以上の熱処理を施したとき、この熱処理前後の引張強さ増加量ΔTS{=(熱処理後の引張強さTSHT)―(予変形処理前の引張強さTS)}が80MPa以上となることを意味する。なお、望ましくはΔTSは100MPa以上である。この熱処理により降伏応力も上昇し、ΔYS{=(熱処理後の降伏応力YSHT)―(予変形処理前の降伏応力YS)}が80MPa以上となることはいうまでもない。
【0029】
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量は重要な因子である。本発明者らは、自動車用鋼板が適用される変形様式を想定して、予歪量がその後の歪時効硬化特性に及ぼす影響について調査した。その結果、極めて深い絞り加工以外はおおむね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、また、実部品においては、この1軸相当歪量がおおむね5%を上回っていること、また、部品強度が予歪5%の歪時効処理後に得られる強度と良く対応すること、が明らかになった。これらのことから、本発明では、熱処理の予歪(変形)5%以上の引張塑性歪とした。
【0030】
従来の塗装焼付処理条件は、170℃×20minが標準として採用されているが、本発明におけるように、極微細Cuあるいは微細炭化物の析出強化を利用する場合には、熱処理温度は150℃以上が必要となる。一方、350℃を超える条件では、その効果が飽和し、逆にやや軟化する傾向を示す。また、350℃を超える温度に加熱すると、熱歪みやテンパーカラーの発生などが顕著となる。このようなことから、本発明では、歪時効硬化のための熱処理温度は150〜350℃とした。なお、熱処理温度における保持時間は30s以上とする。熱処理の保持時間については、150〜350℃ではおおむね30s程度以上保持すれば、ほぼ十分な歪時効硬化が達成される。より大きな安定した歪時効硬化を得たい場合は60s以上とするのが望ましく、より好ましくは300 s以上である。
【0031】
予変形後の熱処理における加熱方法は、とくに限定されないが、通常の塗装焼付処理におけるように、炉による雰囲気加熱以外に、たとえば誘導加熱、無酸化炎、レーザー、プラズマなどによる加熱などがいずれも好適である。また、鋼板の温度を高めてプレスする、いわゆる温間プレスも、本発明においては極めて有効な方法である。
【0032】
つぎに、本発明熱延鋼板の組成限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.05〜0.20%
Cは、鋼板の強度を増加し、さらにフェライトと残留オーステナイトの複合組織の形成を促進する元素であり、本発明では複合組織形成の観点から0.05%以上含有する必要がある。一方、0.20%を超える含有は、鋼中の炭化物の分率が増加し、延性、さらにはプレス成形性を低下させる。さらに、より重要な問題として、C含有量が0.20%を超えると、スポット溶接性、アーク溶接性等が顕著に低下する。このため、本発明では、Cは0.05〜0.20%に限定した。なお、成形性の観点からは0.18%以下とするのが好ましい。
【0033】
Si:1.0〜3.0%
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な強化元素であるとともに、残留オーステナイト相を得るために必要な元素であり、1.0%以上含有する必要がある。より好ましくは 1.2%以上とする。一方、Si含有量が3.0%を超えると、プレス成形性の劣化を招くとともに、表面性状が悪化する。このため、Siは1.0〜3.0%に限定した。
【0034】
Mn:3.0%以下
Mnは、鋼を強化する作用があり、また、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は、0.5%以上の含有で顕著となる。一方、3.0%を超える含有は、プレス成形性および溶接性が劣化する。このため、本発明ではMnは3.0%以下に限定した。なお、より好ましくは1.0%以上である。
【0035】
P:0.10%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有することができるが、強度増加の観点からは 0.005%以上含有することが好ましい。一方、0.10%を超えて含有するとプレス成形性が劣化する。このため、Pは0.10%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、0.08%以下とするのが好ましい。
【0036】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.02%以下に低減すると、さほど悪影響をおよぼさなくなるため、本発明ではSは0.02%を上限とした。なお、より優れた伸びフランジ成形性を要求される場合には、Sは0.010%以下とするのが好ましい。
【0037】
Al:0.30%以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また残留オーステナイトの形成にも有効な元素である。このような効果は0.01%以上の含有で顕著となるが、0.30%を越えて含有してもより一層の効果は得られず、逆にプレス成形性が劣化する。このため、Alは0.30%以下に限定した。なお、好ましくは0.10%以下である。また、本発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。その際、CaやREM等を溶鋼に添加しても、本発明鋼板の特徴はなんら阻害されない。
【0038】
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であり、これらの効果を得るためには0.0010%以上含有することが好ましいが、0.02%を超えて含有しても、鋼板中に窒化物が増加し、鋼板の延性、さらにはプレス成形性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合には0.01%以下とするのが好ましく、さらに好ましくは0.0050%未満である。
【0039】
Cu:0.5〜3.0%
Cuは、鋼板の歪時効硬化(予変形―熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。Cu含有量が0.5%未満では、たとえ予変形―熱処理条件を変化させても、ΔTS:80MPa以上の引張強さの増加は得られない。一方、3.0%を超える含有は、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、プレス成形性の劣化を招き、さらに鋼板の表面性状が悪化する。このため、Cuは0.5〜3.0%に限定した。なお、より大きなΔTSと優れたプレス成形性とを両立させるためには、Cuは1.0〜2.5%の範囲にするのが好ましい。
【0040】
また、本発明では、Cuを含有する上記した組成に加えてさらに、質量%で、次A群〜C群
A群:Ni:2.0%以下
B群:Cr,Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下
C群:Nb,Ti,Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下
のうちの1群または2群以上を含有することが好ましい。
【0041】
A群:Ni:2.0%以下
A群:Niは、Cu添加時に鋼板表面に発生する表面欠陥の防止に有効であり、必要に応じ含有できる。含有する場合には、その含有量は、Cu含有量に依存し、およそCu含有量の半分程度、すなわちCu含有量(%)の30〜80%程度とするのが好ましい。なお、2.0%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなく経済的に不利となるうえ、逆にプレス成形性が劣化する。このようなことから、Niは2.0%以下に限定することが好ましい。
【0042】
B群:Cr,Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下
B群:Cr,Moは、いずれもMnと同様に、鋼板を強化する作用を有しており、必要に応じて1種または2種を含有できる。このような効果はCr 0.1%以上、Mo 0.1%以上含有することにより顕著となり、このため、Cr:0.1 %以上、Mo:0.1 %以上のうちの1種または2種含有することが好ましい。一方、Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%超えて含有すると、プレス成形性が低下する。このため、Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下に限定するのが好ましい。
【0043】
C群:Nb,Ti,Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下
C群:Nb,Ti,Vは、いずれも炭化物形成元素であり、炭化物の微細分散により高強度化に有効に作用するため、必要に応じ選択して含有できる。このような効果は、各々Nb:0.01%以上、Ti:0.01%以上、V:0.01%以上で有利に得ることができる。しかし、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Nb、Ti、Vは合計で2.0%以下に限定するのが好ましい。
【0044】
また、本発明では、上記したCu、あるいはさらに上記したA群〜C群のうちの1群または2群以上の含有に代えて、W:0.05〜2.0%を、あるいはさらにMo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W、Mo、Crの合計で2.0%以下、あるいはさらにNb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で2.0%以下含有してもよい。
W:0.05〜2.0%、あるいはさらにMo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W、Mo、Crの合計で2.0%以下
WあるいはさらにMo、Crは、鋼板の歪時効硬化(予変形―熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。すなわち、本発明者らは、鋼板組織を、フェライトを主相とし、残留オーステナイトを含む相を第2相とする複合組織とし、さらにW、あるいはさらにMo、Crのうちの1種または2種を含有させることにより、5%以上の予歪みの付加と低温熱処理を施した際に、残留オーステナイトがマルテンサイトに歪誘起変態し、歪誘起変態したマルテンサイト中に微細炭化物の歪誘起低温析出が起こり、ΔTS:80MPa以上の引張強さの増加が得られる。なお、これらW、あるいはさらにMo、Crのうちの1種または2種の含有量が、それぞれ0.05%未満では、鋼板組織および予変形―熱処理条件を変化させても、ΔTS:80MPa以上の引張強さの増加は得られない。一方、W、あるいはさらにMo、Crのうちの1種または2種の含有量が、それぞれ2.0%を超えると、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、プレス成形性の劣化を招く。このため、Mo、Cr、Wはそれぞれ0.05〜2.0%に限定することが好ましい。なお、プレス成形性の観点から、複合して含有する場合には、Mo、Cr、Wの含有量の合計を2.0%以下に限定することがより好ましい。
【0045】
Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下
Nb、Ti、Vは、いずれも炭化物形成元素であり、必要に応じ含有できる。Mo、Cr、Wのうちの1種または2種以上に加えて、これらNb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を含有させ、さらにフェライト相を主相とし残留オーステナイトを含む相を第2相とする複合組織とすることにより、歪誘起変態したマルテンサイト中に微細炭化物が形成され、歪誘起低温析出が誘発され、ΔTS:80MPa以上の引張強さの増加が得られる。このような効果を得るためには、Nb、Ti、VはそれぞれNb:0.01%以上、Ti:0.01%以上、V:0.01%以上とすることが好ましく、必要に応じて1種または2種以上を選択して含有できる。しかし、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下に限定することが好ましい。
【0046】
なお、上記した成分以外に、Ca:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちの1種または2種を含有してもよい。Ca、REMはいずれも介在物の形態制御を通して伸びフランジ性の向上に寄与する元素である。しかし、 Ca:0.1%、REM:0.1%をそれぞれ超える含有は清浄度を低下させ、延性をかえって低下させる。
上記した成分以外の残部は,Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下、Zr:0.1%以下、B:0.1%以下が許容できる。
【0047】
つぎに、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の熱延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し所定板厚の熱延板とする。
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0048】
上記した素材(鋼スラブ)の加熱温度SRTはとくに限定する必要はないが、900℃以上とするのが好ましい。
スラブ加熱温度:900℃以上
スラブ加熱温度は、素材がCuを含有する組成の場合には、Cu起因の表面欠陥を防止するために低い方が望ましい。しかし、加熱温度が900℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。なお、酸化重量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
【0049】
なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることは言うまでもない。
加熱された鋼スラブは、ついで熱間圧延されて熱延板とされる。熱間圧延は仕上げ圧延終了温度FDTを780〜980℃とする熱間圧延とすることが好ましい。
【0050】
本発明では、仕上げ圧延条件が特に重要であり、仕上げ圧延終了温度FDTを780〜980℃とすることが好ましい。
FDTが、780℃未満では鋼板中に加工組織が残存して延性の劣化を招き、一方980℃を越えると組織が粗大化し、フェライト変態の遅延に起因して成形性の低下を招く。このため、FDTは780〜980℃とすることが好ましい。
【0051】
仕上げ圧延後、強制冷却処理を施すが、本発明ではこの強制冷却条件が特に重要である。本発明では、仕上げ圧延終了後、2s以内に50℃/s以上の冷却速度で620〜780℃まで強制冷却することが好ましい。 冷却開始時間が2sを越えると、組織が粗大化し、フェライト変態が遅延してプレス成形性が低下する。このため、仕上げ圧延終了後の冷却開始時間は2s以内に限定することが好ましい。
【0052】
また、仕上げ圧延終了後の冷却速度が50℃/s未満では、強制冷却中にフェライト変態が開始してしまい、その後の等温保持処理または徐冷処理でのフェライト変態が遅延し、プレス成形性の低下につながる。そのため、冷却速度は50℃/s以上に限定することが好ましい。しかしながら、冷却速度が300℃/sを越えると鋼板形状の悪化が懸念されるので、冷却速度の上限は300℃/sとするのが好ましい。
【0053】
上記した強制冷却により、620〜780℃の温度域の初析フェライト域のノーズ近傍まで冷却されることが好ましい。強制冷却の冷却停止温度が620℃未満では、初析フェライトが生成せずパーライトが生成するという問題があり、一方、780 ℃を超えると、初析フェライトの生成に伴う炭素のオーステナイトへの濃化が低下するという問題がある。なお、より好ましくは、 強制冷却の冷却停止温度は 650〜 750℃である。
【0054】
620〜780℃の温度域の初析フェライト域のノーズ近傍まで強制冷却したのち、該温度域で1〜10s間の等温保持処理または冷却速度:20℃/s以下の徐冷処理を施すことが好ましい。
上記した温度域(620〜780℃)での短時間の等温保持処理または上記した温度域での短時間の徐冷処理により、所望量の初析フェライトを得ることができる。
【0055】
なお、等温保持処理あるいは徐冷処理は、フェライト変態に伴う炭素のオーステナイトへの濃化のため、620 ℃以上 750℃以下の温度域で行うことがより好ましい。
また、等温保持処理の保持時間あるいは徐冷処理に要する時間が1s未満では、炭素のオーステナイトへの濃化が不十分であり、一方、10sを超えると、パーライト変態が生じる。
【0056】
また、徐冷処理の冷却速度が20℃/sを超えると、 オーステナイトへの炭素の濃化が不十分という問題がある。
等温保持処理または徐冷処理を施したのち、再び50℃/s以上の冷却速度で300〜500℃まで冷却してから、すなわち巻取り温度CT300〜500℃で、コイルに巻き取ることが好ましい。
【0057】
等温保持処理または徐冷処理後、300〜500℃まで冷却するが、この時の冷却速度も50℃/s以上とすることが好ましい。というのは、この時の冷却速度が50℃/sに満たないと、パーライト変態が生じて延性が低下するためである。なお、より好ましくは、50〜 200℃/sである。
また、巻取り温度CTが、300 ℃未満では、第2相がマルテンサイトとなり、一方、500 ℃を超えると、第2相がパーライトとなる。このため、巻取り温度CTは300〜500℃とすることが好ましい。
【0058】
なお、本発明では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0059】
熱間圧延後、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を施してもよい。
なお、本発明の熱延鋼板は、加工用としてのみならず、表面処理用原板としても適用できる。表面処理としては、亜鉛めっき(合金系を含む)、すずめっき、ほうろう等がある。
【0060】
また、本発明の熱延鋼板には、焼鈍または亜鉛めっき後、特殊な処理を施して、化成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の改善を行ってもよい。
【0061】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブを加熱し、表2に示す条件で熱間圧延して、板厚2.0mmの熱延鋼帯(熱延板)にし、さらに圧下率:1.0%の調質圧延を施した。
【0062】
得られた熱延鋼帯(熱延板)について、微視組織、引張特性、歪時効硬化特性、穴拡げ率を求めた。なお、プレス成形性は、伸びEl(延性)、TS×Elバランスおよび穴拡げ率λから評価した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)微視組織
得られた熱延板から試験片を採取し、鋼板の圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を観察した。鋼板中のフェライト相、ベイナイト相およびマルテンサイト相については、倍率1000倍の断面組織写真を用いて、画像解析装置により各組織の組織分率を求め、該当相の体積率とした。また、残留オーステナイト相については、鋼板を板厚方向の中心面まで研磨し、板厚中心面での回折X線強度測定により求めた。入射X線にはMoKα線を使用し、フェライト相の{110}、{200}、{211}の各面の回折X線強度に対する、残留オーステナイト相の{200}、{220}、{311}各面の回折X線強度比を求め、これらの平均値から残留オーステナイトの体積率を求めた。
(2)引張特性
得られた熱延板からJIS5号引張試験片を圧延方向に採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを求めた。
(3)歪時効硬化特性
得られた熱延板から、JIS5号引張試験片を圧延方向に採取し、予変形(引張予歪)として5%の塑性変形を与えて、ついで250℃×20minの熱処理を施したのち、引張試験を実施し、熱処理後の引張特性(降伏応力YSTH、引張強さTSHT)を求め、ΔYS=YSTH−YS、ΔTS=TSHT−TSを算出した。なお、YSTH、TSHTは予変形―熱処理後の降伏応力、引張強さであり、YS、TSは熱延板の降伏応力、引張強さである。
(4)穴拡げ率
得られた熱延板から採取した試験片について、日本鉄鋼連盟規格(JFS T 1001-1996 )に準拠して、10mmφのポンチで打ち抜いてポンチ穴を形成したのち、頂角60°の円錐ポンチを用い、ばりが外側になるようにして、板厚を貫通する割れが発生するまで穴拡げ試験を行い、穴拡げ率λを求めた。なお、穴拡げ率λは、λ(%)={(d−d0)/d0}×100で求めた。なお、d0:初期穴径(ポンチ径)、d:割れ発生時の内穴径である。
【0063】
これらの結果を表3に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
本発明例は、いずれも、高い伸びElと高い強度延性バランス(TS×El)を有し、さらに大きな穴拡げ率λを示して、伸びフランジ成形性に優れている。 また、 本発明例は、いずれも、極めて大きなΔTSを示し、歪時効硬化特性に優れた鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、伸びElが低いか、あるいは穴拡げ率λが小さいか、ΔTSが小さく、プレス成形性、歪時効硬化特性が低下した鋼板となっている。
【0068】
(実施例2)
表4に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを加熱し、表5に示す条件で熱間圧延して、板厚2.0mmの熱延鋼帯(熱延板)にし、さらに圧下率:1.0%の調質圧延を施した。
得られた熱延鋼帯(熱延板)について、実施例1と同様の方法で、微視組織、引張特性、歪時効硬化特性、穴拡げ率を求めた。なお、プレス成形性は、伸びEl(延性)、TS×Elバランスおよび穴拡げ率λから評価した。
【0069】
得られた結果を表6に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
本発明例は、いずれも、高い伸びElと高い強度延性バランス(TS×El)を有し、プレス成形性に優れるとともに、極めて大きなΔTSを示し、歪時効硬化特性に優れた鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、伸びElが低いか、あるいはΔTSが小さく、プレス成形性、歪時効硬化特性が低下した鋼板となっている。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、優れたプレス成形性を維持しつつ、プレス成形後の熱処理により引張強さが顕著に上昇する熱延鋼板を、安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。本発明の熱延鋼板を自動車部品に適用した場合、プレス成形が容易で、かつ完成後の部品特性を安定して高くでき、自動車車体の軽量化に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】予変形−熱処理後のΔTSと鋼板組織の関係におよぼすCu含有量の影響を示すグラフである。
【図2】予変形−熱処理後のΔTSと熱処理温度の関係におよぼすCu含有量の影響を示すグラフである。
Claims (10)
- 質量%で
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0 〜3.0 %、
Mn:3.0 %以下、 P:0.10%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.30%以下、
N:0.02%以下、 Cu:0.5 〜3.0 %
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、体積率で75%以上のフェライト相を主相とし、体積率で8〜11%の残留オーステナイト相を含み、残部がベイナイト相およびマルテンサイト相からなる相を第2相とする複合組織を有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記A群〜C群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高延性熱延鋼板。
記
A群:Ni:2.0%以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下 - 質量%で
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0〜3.0%、
Mn:3.0%以下、 P:0.10 %以下、
S:0.02%以下、 Al:0.30%以下、
N:0.02%以下
を含み、さらにW:0.05〜2.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織が、体積率で75%以上のフェライト相を主相とし、体積率で8〜11%の残留オーステナイト相を含み、残部がベイナイト相およびマルテンサイト相からなる相を第2相とする複合組織を有することを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa 以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W,Mo、Crの合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項3に記載の高延性熱延鋼板。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項3または4に記載の高延性熱延鋼板。
- 質量%で
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0〜3.0%、
Mn:3.0 %以下、 P:0.10%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.30%以下、
N:0.02%以下、 Cu:0.5〜3.0%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブに、熱間圧延を施し所定板厚の熱延板とするにあたり、前記熱間圧延を、仕上圧延終了温度が780〜980℃である熱間圧延とし、仕上げ圧延終了後、0.5 秒以内に60℃/s以上の冷却速度で620〜780℃の温度域まで冷却し、該温度域で1〜10s間の等温保持処理または冷却速度:20℃/s以下の徐冷処理を施したのち、ついで再び60℃/s以上の冷却速度で300〜500℃まで冷却し、コイルに巻き取ることを特徴とする、プレス成形性に優れ、かつΔTS:80MPa以上になる歪時効硬化特性に優れた高延性熱延鋼板の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記A群〜C群のうちの1群または2群以上を含有することを特徴とする請求項6に記載の高延性熱延鋼板の製造方法。
記
A群:Ni:2.0%以下、
B群:Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下、
C群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.2%以下 - 前記鋼スラブを、質量%で
C:0.05〜0.20%、 Si:1.0〜3.0%、
Mn:3.0 %以下、 P:0.10%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.30%以下、
N:0.02%以下
を含み、さらにW:0.05〜2.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブとすることを特徴とする請求項6に記載の高延性熱延鋼板の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜2.0%、Cr:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を、W,Mo、Crの合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項8に記載の高延性熱延鋼板。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項8または9に記載の高延性熱延鋼板の製造方法。
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