JP5082099B2 - アミロイドβ蛋白凝集制御剤 - Google Patents
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Description
化学合成したアミロイドβ蛋白を用いた実験から、アミロイドβ蛋白は凝集性が強く(例えば、Jarret,J.T.ら(1993年)Cell第73巻1055−1058頁、Burdick,D.ら(1992年)The Journal of Biological Chemistry第267巻546−554頁、Fraser,P.E.ら(1992年)Biochemistry第31巻10716−10723頁など参照)、また凝集したアミロイドβ蛋白は神経細胞に対し、直接細胞毒性を示しえることや興奮性アミノ酸などによる細胞傷害に対する感受性を高めることなどが報告されている(例えば、Pike,C.J.ら(1993年)The Journal of Neuroscience第13巻1676−1687頁、Mattson,M.P.ら(1993年)Trends in Neuroscience第16巻409−414頁など参照)。
具体的には、アミロイドβ蛋白の部分ペプチドβ25−35(アミノ酸配列GSNKGAIIGLM)が神経細胞毒性を示すこと、及び、β25−35の作用点の一つは神経細胞のミトコンドリア電子伝達系であり、細胞のMTT(3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide)還元能低下作用を測定することにより、細胞毒性の強度を知ることができることが既に報告されている(Yanknerら、Science250,279−282,1990;金子ら、神経化学、32、148−149、1993)。
さらにはアミロイドβ蛋白の脳内への沈着による老人斑の形成は、アルツハイマー型痴呆症患者脳のもう1つの特徴的病理変化である、神経源線変化よりも早期から出現する病理的変化であることが知られている(例えば、Seiko,D.J.(1991年)Neuron第6巻487−498頁、Rumbler,B.ら(1998年)The new England journal of medicine第320巻1446−1452頁など参照)。
すなわち、アルツハイマー型痴呆症においてはアミロイドβ蛋白の脳組織中での凝集、沈着が引き金となり、老人斑が形成され、その結果、神経細胞死が惹起され、痴呆症となるとする発症機構が有力である。
従って、アミロイドβ蛋白の凝集および沈着を阻害する薬剤は、アルツハイマー型痴呆症の治療薬及び、予防薬として有用であることが期待される。かかる阻害活性を有する薬物として、リファマイシン類(国際公開第95/11248号パンフレット)、ハイドロキノン類(特開平8−193026号公報)、チオナフタレン誘導体類(特開平9−95444号公報)、ピリジン誘導体類(特表2004−506633号公報)に関する報告があるが、糖類に関してはアミロイドβ蛋白の凝集およびまたは沈着を阻害する活性を有することは報告されていない。
一方、本来可溶である、アミロイドβ蛋白質が凝集するメカニズムについても研究がするめられている。近年、脳内に豊富に存在する酸性糖脂質のGMl(Yanagisawa,KらNature Med.第1巻1062−1066頁(1995年))や硫酸化多糖のヘパリンなど(Watson,D.J.ら(1997年)The Journal of Biological Chemistry第272巻31617頁−31624頁)が、アミロイドβ蛋白質の凝集を促進する働きを有することがわかってきた。
そこで、アミロイドβ蛋白の凝集を促す化合物である、糖脂質、多糖との相互作用や、アミロイドβ蛋白間での相互作用を抑制できる化合物を探索した結果、有望な化合物群を発見した。
本発明では、上記実情に鑑み完成されたものであり、糖鎖とアミロイドβ蛋白の相互作用に着目し、人工硫酸化糖鎖を製造し、その人工硫酸化糖鎖によるアミロイドβ蛋白凝集抑制剤の提供を解決すべき課題とする。
すなわち、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤は、OH基のうちの一部乃至全部が、
(i)―OSO 3 H又は―OSO 3 Hの塩、並びに、
(ii)疎水基、
にて置換されており、
残りのOH基の一部乃至全部は、H、NH2、−NHR6及び−NR6R7(R6及びR7はアルキル基及びアセチル基から独立して選択可能な基である。)からなる基により置換可能である、
単糖類又は2以上の単糖類が結合した糖鎖から構成される化学構造で表される化合物を含有することを特徴とする。
また、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤は、OH基のうちの一部乃至全部が、−O−φ−NO2(φはフェニレン基)にて置換されており、
残りのOH基の一部乃至全部は、H、―OSO 3 H、NH2、NHR6及びNHR6R7(R6及びR7はアルキル基及びアセチル基から独立して選択可能な基である。)からなる基により置換可能である、
単糖類又は2以上の単糖類が結合した糖鎖から構成される化学構造で表される化合物を含有することを特徴とする。
ここで、本化合物は、化学構造中で含有・結合している単糖類の数により、アミロイドβ蛋白に対する挙動が変化する。化学構造中の単糖類の数が少ない場合にはアミロイドβ蛋白凝集抑制剤として作用する。反対に単糖類の数が多い場合にはアミロイドβ蛋白凝集促進剤として作用する。
本アミロイドβ蛋白凝集制御剤(特に凝集抑制剤)は、アルツハイマー型痴呆症などのアミロイドβ蛋白異常などに対抗して病的状態に移行することを抑制及び/又は治療すること、並びにアミロイドβ蛋白異常診断薬に応用することができると考えられる。そして、アミロイドβ蛋白に対し、凝集促進剤として作用する場合には、主に、アミロイドβ蛋白異常診断薬に好適に応用することができると考えられる。なお、抑制剤から促進剤に変化する単糖類の数は、置換基の種類、数などにより一義的には決定できない。
更に、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。そのなかで、好適な本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤としては、前記一般式(1)で表される化合物は下記一般式(2)で表される化合物である。本化合物は、置換基の種類、数によるものの、主に、アミロイドβ蛋白凝集抑制剤としての作用を発揮しやすい。
前記式(1)中、R1〜5のうちの少なくとも1つは―OSO 3 H又は―OSO 3 Hの塩であり、R1〜5のうちの少なくとも1つは疎水基であることが望ましい。
ここで、前記疎水基は−A(R8)n(nは1又は2;n=1のときAは−O−、−S−、−NH−;n=2のときAは−N;R8は、一部水素がニトロ基、OH基、ビニル基及び/又は−NHCOCH3にて置換可能な、アルキル基、フェニル基、ナフチル基から独立して選択可能な基である。)であることが望ましい。
更に、これらのアミロイドβ蛋白凝集制御剤を有効成分とするアミロイドβ蛋白異常診断薬及び診断薬キットを提供することができる。アミロイドβ蛋白凝集促進剤として作用する場合は、凝集を促進することで凝集が速やかに発生するので、発生する凝集を観察などして検知することでアミロイドβ蛋白の異常(量の異常や質の異常)が診断できる。また、アミロイドβ蛋白凝集抑制剤として作用する場合は、凝集したアミロイドβ蛋白の変化を観察(顕微鏡下での観察など)することや、アミロイドβ蛋白との間での相互作用を利用したプローブとしての作用が期待できる。
第2図は、実施例における、本発明のアミロイドβ蛋白質凝集抑制剤による、ペプチドの凝集抑制効果の経時変化を示した図である。
第3図は、実施例における、本発明のアミロイドβ蛋白質凝集抑制剤による、ペプチドの二次構造の変化を表した図である。
第4図は、実施例における、本発明のアミロイドβ蛋白質凝集抑制剤による、ペプチドの凝集性の変化を示したTEM写真である。
第5図は、実施例における細胞毒性の評価の結果を示したグラフである。
第6図は、実施例における本発明のアミロイドβ蛋白質凝集抑制剤の効果とその置換基との関係を評価した結果を示したグラフである。
本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤は単糖類又は2以上の単糖類が結合した糖鎖から構成される化学構造で表される化合物を含有する。単糖類及び糖鎖が有するOH基は、そのうちの幾つかが置換されている。置換基としては、―OSO 3 H又はその塩(以下、「―OSO 3 Hなど」と称する)と、疎水基とのいずれか一方を有する。
まず、―OSO 3 Hなどにて1以上のOH基が置換されている場合がある。―OSO 3 Hの塩としてはNa、Kなど通常の塩が例示でき、溶解性の調整などのために自由に選択することができる。全体のうち、1のOH基を―OSO 3 Hなどにて置換することでも充分に作用を発揮できる。その他、単糖類の単位が1つ又は2つに対して1つずつOH基を―OSO 3 Hなどにて置換することが好適な例として挙げられる。―OSO 3 Hなどにて置換する位置も限定しないが、単糖類又は糖鎖を構成する単糖類の6位のOH基を置換することが合成反応の容易性などの観点から好ましい。
そして、疎水基にて1以上のOH基が置換されている。ここで、疎水基とは一般的な意味で用いており全体として疎水性の基を表している。疎水基としては疎水性が高いものが望ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基や、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基などの、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基や、それらが有する水素の一部を必要に応じて(疎水性の調節や、その他の生理活性の付与の目的など)ニトロ基、アミノ基、アシル基などの何らかの特性基にて置換された基でも良い。全体のうち、1のOH基を疎水基にて置換することでも充分に作用を発揮できる。その他、単糖類の単位が1つ又は2つに対して1つずつ疎水基にて置換することが好適な例として挙げられる。疎水基にて置換する位置も限定しないが、単糖類又は糖鎖を構成する単糖類の1位のOH基を置換することが合成反応の容易性などの観点から好ましい。疎水基としては特に−O−φ−NO2(φはフェニレン基)が望ましい。この場合、ニトロ基はパラ位に置換されていることが望ましい。
更に、他のOH基についても、必要に応じ、以下に示す特性基にて置換することができる。例えば、H、NH2、NHR6及びNHR6R7である。ここで、R6及びR7はアルキル基及びアセチル基から独立して選択可能な基である。これら他のOH基を適正な基にて置換することで、必要な性能を付与することができる。ここで、単糖類のOH基の一部がNH2にて置換されたものは、グルコサミン、ガラクトサミンなどのヘキソサミンとして、N−アセチル体(NHR6におけるR6がアセチル記の化合物)として天然物中に含有されている。
以上説明した化合物のうち、特に好ましい化合物としては前述の一般式(1)及び(2)にて示した化合物である。特に、R1が―OSO3H又は―OSO3Hの塩;R2及びR3がOH基;R4が−NHCOCH3;AがOである化合物が望ましい。R8としては、アルキル基、フェニル基、ナフチル基並びにこれら基の一部水素がニトロ基、OH基、ビニル基及び/又は−NHCOCH3にて置換されている基から独立して選択できる。
更に、上述した化合物が有効成分として体内などの作用部位で存在することができるものであれば、プロドラッグ化することが可能である。例えば、吸収性やバイオアベイラビリティーの向上、標的組織への選択的移行性の増強(血液−脳関門の透過性を向上するために脂溶化するなど)、代謝を阻害して作用の持続性を向上、などの目的で行われるプロドラッグ化が挙げられる。その場合、後述する使用態様に応じて、適正な化学構造が選択される。
(使用態様:アミロイドβ蛋白の凝集を抑制し、沈着、凝集の阻害薬としての使用)
本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤はアミロイドβ蛋白との親和性に優れた化合物であり、アミロイドβ蛋白の凝集を制御することができる。例えば、凝集を阻害乃至抑制する場合には、アミロイドβ蛋白との間で相互作用を生じ、凝集を抑制することができる。その結果、アミロイドβ蛋白に異常が有っても凝集が生成し難くなるとともに、生成している凝集についても再溶解させることができるので、症状の緩和乃至治癒も期待できる。
従って、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤(特に凝集抑制・阻害剤)は、アミロイドβ蛋白の凝集及び/または沈着阻害剤として好適に使用できる。その場合に、製薬学的に許容される担体を配合することも可能である。
この場合の製薬学的に許容される担体としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、pH調整剤、可溶化剤、安定剤、粘稠剤などが例示できる。また、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤は軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤などの経口剤、注射剤、坐剤または外用剤として提供できる。
添加剤を例示すると、植物油(例えば、トウモロコシ油、綿実油、ココナッツ油、アーモンド油、落花生油、オリーブ油など)、中鎖脂肪酸グリセライド油などの油状エステル、鉱物油、トリカプリリン、トリアセチンなどのグリセリンエステル類、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、カカオ脂、動物油脂、セルロース誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
(使用態様:アミロイドβ蛋白の凝集に関する診断薬及び診断薬キット)
本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤はアミロイドβ蛋白との親和性に優れた化合物である。従って、生体中などにてアミロイドβ蛋白に異常が発生した場合(濃度の異常、性状の異常など)に、そのアミロイドβ蛋白に対して相互作用を生じることで、その異常を検出することができる。例えば、本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤であって凝集を促進する化合物の場合に、血液、髄液などの生体サンプルに対し添加することで、アミロイドβ蛋白における異常発生時に凝集を生成し、その異常を速やかに検出することができる。
また、本アミロイドβ蛋白凝集制御剤が、アミロイドβ蛋白の凝集を抑制・阻害する場合には、本アミロイドβ蛋白凝集制御剤がアミロイドβ蛋白との間で相互作用を生じた際に発光が生じるように、本化合物に蛍光標識などを導入することで、アミロイドβ蛋白に異常が発生してアミロイドβ蛋白の沈着・凝集などが生起するおそれに対する、簡便な診断薬及びその診断薬を構成する主要成分を提供できる診断薬キットとして使用できるアミロイドβ蛋白凝集制御剤としての応用が期待できる。
(使用した試料の合成)
(1−1)本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤の一例として、本実施例にて用いた硫酸化糖鎖(パラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−2−デオキシ−6−スルホネート−β−D−グルコピラノシド;下式(3))は下記反応式に従い、合成した。
アセチルグルコサミン(東京化成社製、4.90g,20.9mmol)に塩化酢酸(東京化成社製、30mL)を加え、24時間攪拌した、反応液に氷水を加え、反応を停止させ、クロロホルムで抽出し、その後、飽和NaHCO3水で2回、氷水で1回洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム/メタノール=50/1→クロロホルムのみ)で精製した。
収量は560mg、収率は6.9%であった。1H−NMR(CDCl3,500MHz.):d6.19(d,J=4.0,1H,H−1),5.76(d,J=8.5,1H,CONH),5.32(dd,J=9.10,1H,H−3),5.22(m,1H,H−4),4.53(ddd,J=3.5,9.0,10.5,1H,H−2),4.30−4.25(m,2H,H−5,H−6ProR),4.16−4.12(m,1H,H−6proS),2.05(dd,12H,Ac).
IR(KBr):1747(C=O),1228(C−O),601(Cl).
2)パラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシドの合成
クロロ 2−アセタミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−デオキシ−α−D−グルコピラノシド(560mg,1.53mmol)をメチレンクロライド5mLに溶解させ、1N NaOH 5mL、Bu4NBr(東京化成社製、490mg,1.5mmol)とp−ニトロフェノール(東京化成社製、430mg,3.1mmol)を加え、12時間攪拌した。その後、酢酸エチルで抽出し、1N NaOH、飽和食塩水、水で洗浄した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム:メタノール=100:1)で精製した。
収量は290mg,収率は40%であった。1H−NMR(CDCl3,500MHz):d8.20(dt,2H,Ph),7.07(dt,2H,Ph),5.60(1H,NHCO),5.47(d,1H,H−1),5.46(t,J=10.5Hz,1H,H−3),5.15(t,J=9.5Hz,1H,H−4),4.29(dd,J=5.5,12.0Hz,1H,H−6proR),4.20(dd,J=2.0,5.5,9.5Hz,1H,H−5),4.10(ddd,J=8.5,8.5,10.5Hz,1H,H−2),3.94(ddd,J=2.0,5.5,9.5Hz,1H,H−5),2.08,2.067(sxs,s,3H,OAc),1.97(s,3H,NHAc). IR(KBr):1745(C=O),1523(NO2),1344(NO2),1228(C−O).
3)パラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシドの合成
パラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(130mg,0.29mmol)をメタノール10mLに溶解させ、ナトリウムメトキシド(東京化成社製、10mg,0.19mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。陽イオン交換樹脂(アンバーリスト、オルガノ社製)で中和し、ろ過した。ろ液を濃縮し、再結晶により目的化合物を得た。
収量は100mg,収率は100%であった。1H−NMR(D2O,500MHz):d8.26(dt,2H,Ph),7.20(dt,2H,Ph),5.32(d,J=8.5Hz,1H,H−1),4,03(dd,J=8.5,10.5Hz,H1,H−2),3.96(dd,J=2.5,12.5Hz,H−1,H−6proS),3.80(dd,J=5.5,12.5Hz,1H,H−6proR),3.69(m,2H,H−3,H−5),3.38(dd,J=9.0,10.0Hz,1H,H−4),2.01(s,3H,Ac). IR(KBr):3307(OH),1521(NO2),1346(NO2),1250(C−O).
4)パラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−2−デオキシ−6−スルホネート−β−D−グルコピラノシドの合成
30mLナスフラスコにパラ−ニトロフェニル 2−アセタミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド200mgを入れてDMF8mLに溶かした。よく溶解させた後、40℃のオイルバス中でDMF6mLに溶かしたスルファトリオキシド トリメチルアミン錯体(Sulphur trioxide−trimethylamine complex)Me3N・SO3 3e.q.(シグマアルドリッチ社製、240.5mg)を一滴ずつ加えて3時間攪拌した。その間TLCで反応を追跡していった(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=2:1)。反応終了後、メタノールを14mL加えて室温で3時間攪拌し、エバポレーターで濃縮して逆相カラムで分離精製を行った。その後、得られた化合物を陽イオン交換樹脂を2mL加えて3日間攪拌した。その後陽イオン交換樹脂をガラスフィルターでろ別し、得られた液体を濃縮し凍結乾燥させた。
収量は123.1mg、収率は47.2%であった。1H−NMR(500MHz,D2O,30℃)δ 8.02(m,2H,Hmetha of phenyl group),7.00(m,2H,Hortho of phenyl group),5.16(d,1H,J=8.5Hz,H−1β),4.27(dd,1H,J=2.0,11.5Hz,H−6pros),4.11(dd,1H,J=5.5,11.5Hz,H−6proR),3.92(dd,1H,J=8.5,10.5Hz,H−2),3.80(m,1H,H−5),3.58(dd,1H,J=10.5,9.0Hz,H−3),3.48(dd,1H,J=9.0,10.0Hz,H−4),2.74(s,9H,3×Me),1.89(s,3H,Ac).
(1−2)本発明のアミロイドβ蛋白凝集制御剤の一例として、下記化合物(A)及び(B)を合成した。
(2)アミロイドβ1−42及びアミロイドβ1−40ペプチドの合成
以下の実施例において用いる、アミロイドβ蛋白質として、アミロイドβ1−42ペプチドを合成した。
ペプチドの合成は、Fmoc−アミノ酸を原料として、固相法により、ペプチドシンセサイザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。合成終了後、ペプチドをレジンから切り出し、逆相カラム(C18、昭和電工社製)を用いた、高速液体クロマトグラフィーによってこれを精製した。得られたアミロイドβ1−42ペプチドが目的のアミノ酸配列を有していることを、質量分析(MALDI−TOF−MS、Voyager、アプライドバイオシステムズ社製)によって確認した。このアミロイドβ1−42を凍結乾燥し、以下の実施例に用いた。更に、アミロイドβ1−40についても同様に合成した。以下、「アミロイドβ蛋白」と記載した場合、特に「アミロイドβ1−40」に限定する記載がない場合にはアミロイドβ1−42を意味する。
(3)アミロイドβ蛋白凝集阻害活性の試験方法
色素(チオフラビンT)を用いる方法によって実施した。チオフラビンT(ThT)は、アミロイドβ蛋白などの凝集した蛋白のβシート構造に結合して、遊離の状態では示さなかった新たな蛍光(482nm)を発することが報告されている(Harry Levi ne III.1993、Protein Science2,404−410)。蛍光の強さは結合する蛋白の凝集の程度に比例する。薬剤を含むアミロイドβ蛋白の凝集の程度をそれに結合するThTの蛍光の強さで測定することにより、薬剤のアミロイドβ蛋白凝集阻害活性を調べることができる。
具体的には、pNP 6−Sulfo−GlcNAc(上記式(3))を含む0.02%NH4OH水溶液に溶かしたアミロイドβ蛋白質の溶液から5μLを取り、これを50mM Gly−NaOH(pH9.0)に5μMの濃度で溶かされたThTの溶液500μLに加え、攪拌する。攪拌後、速やかにスペクトルトロフルオロメーター(JASCO社製 FP−777)で励起波長415nm、蛍光波長482nmで溶液の蛍光を測定する。硫酸化糖質の量を変化させて、または、経時的に測定を行った。硫酸化糖質を含まない、アミロイドβ蛋白質のみの溶液と比較して、蛍光の上昇が抑えられれば、その薬剤はアミロイドβ蛋白質凝集阻害活性を有すると判定される。
第1図にアミロイドβ蛋白質とpNP 6−Sulfo−GlcNAcをインキュベートして1日後の結果を示す。第1図は本実施例におけるpNP 6−Sulfo−GlcNAcによる、ペプチドの凝集抑制効果とその濃度依存性を示している。10μMのアミロイドβ蛋白質水溶液にpNP 6−Sulfo GlcNAcを10−1000μM加えて、一日間インキュベートした後に、ThTを加えて、蛍光を測定した。図中の棒グラフの表示は、0μMがコントロールにあたり、その他は凝集抑制剤であるpNP 6−Sulfo GlcNAcの濃度を表す。第1図より明らかなように、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えなかった場合はThTが強い蛍光を示したのに対して、10μM以上のpNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えた場合は蛍光強度の減少が観測された。このことから、pNP 6−Sulfo−GlcNAcはアミロイドβ蛋白質の凝集を阻害していることが明らかである。なお、ヘパリンを100μM添加した場合には1日後で蛍光強度が245(a.u)となることが判っている。つまり、アミロイドβに対して、ヘパリンは凝集する作用を発揮し、pNP 6−Sulfo−GlcNAcは凝集を阻害する作用を発揮することが判った。
アミロイドβ蛋白をアミロイドβ1−40に代えた以外、同様の条件で検討を行った結果、ヘパリンもpNP 6−Sulfo−GlcNAcも添加しない系では蛍光強度が153(a.u)であったのが、ヘパリンを100μM添加すると蛍光強度が181(a.u)、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを100μM添加すると蛍光強度が160(a.u.)であった。つまり、アミロイドβ1−40に対して、pNP 6−Sulfo−GlcNAcはヘパリンほどではないものの凝集を促進する作用を発揮することが判った。
第2図にアミロイドβ蛋白質と100μMの硫酸化糖質とを加え、インキュベートした後、1日から7日までの経時変化を測定した結果を示す。第2図は本実施例におけるpNP 6−Sulfo−GlcNAcによる、ペプチドの凝集抑制効果の経時変化を示す。10μMのアミロイドβ蛋白質水溶液にpNP 6−Sulfo GlcNAcを100μM加えて、7日間インキュベートして、それぞれの経過時間後にThTを加えて測定した蛍光の値を示す。0日は1時間後である。図中のグラフの表示は、○がコントロールであるアミロイドβ蛋白のみにあたり、□は凝集抑制剤であるpNP 6−Sulfo GlcNAcを100μM加えた後の値を示す。第2図より明らかなように、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えていない場合は、インキュベーション後、高い蛍光発光を示し、凝集していることが分かった。一方、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えた場合には、7日までインキュベーションしても、蛍光強度は低く、凝集が抑えられていることがわかった。つまり、一週間の長きにわたって、凝集が抑制されることがわかった。
(4)アミロイドβ蛋白の構造の解析方法
円偏向二色性(CD)スペクトルによって測定した。具体的にはpNP 6−Sulfo−GlcNAcを含むアミロイドβ蛋白の試料溶液10μMを取り、CDスペクトロメーター(JASCO社製 J−725)で、波長260nmから190nmまでのCDスペクトルを測定した。また、凝集促進剤である、天然多糖のヘパリンを加えた時との比較も行った。CDスペクトルにおいては218nmのβシート構造に基づくピークの比較をおこなった。ここで、βシート化したアミロイドβ蛋白質は、218nmに極小値を有している。
第3図に1日インキュベートした後のCDスペクトルを示す。第3図より明らかなように、10μMのアミロイドβ蛋白質溶液をそのまま、pNP 6−Sulfo GlcNAcを100μM加えたもの、ヘパリンを100μM加えたものについて、それぞれ1日インキュベートした後の変化を見ると、pNP 6−Sulfo GlcNAcを加えたときは218nmのピークは小さいが、何も加えないとき及び凝集促進剤である、酸性多糖(ヘパリン)を加えたときには強いピークを示すことが分かった。従って、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えた、アミロイドβ蛋白質溶液では、βシート性が抑制されていることがわかった。
(5)アミロイドβ蛋白質の凝集の観察
透過型電子顕微鏡を用いて、アミロイドβ蛋白質の凝集の観察を行った。具体的にはpNP 6−Sulfo−GlcNAc 100μMとアミロイドβ蛋白質10μMを1日間インキュベートし、カーボングリッド膜に写し取り、2%リンタングステン酸水溶液でネガティブ染色した。この試料を透過型電子顕微鏡(日立社製 H−800)によって形態の観察を行った。
第4図に1日インキュベートした後のTEMの観察結果を示す。(a)はアミロイドβ蛋白にヘパリンを添加してインキュベートしたもの、(b)はアミロイドβ蛋白をそのままインキュベートしたものであり、はっきりとした繊維状のアミロイド凝集体が観察される。一方、(c)はペプチドに凝集抑制剤としてのpNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えたもので、小さな凝集体がわずかに観察されるだけであり、繊維状のアミロイド蛋白質凝集体は全く観察されなかった。
(6)細胞毒性の評価
アミロイドβの濃度を0M、10−8M、10−7Mそして10−6Mと3段階とし、100μMヘパリン、0.4mM HCl、100mM HEPES、そして0.1M NaClの存在下、37℃で2日間Hela細胞を培養した後の細胞数をカウントした。更に、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを100μM添加した場合についても評価を行った。そして、アミロイドβを添加していない場合を100%とした生存率を算出した。評価の結果を第5図に示す。図より明らかなように、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを添加することで、アミロイドβの毒性が低減されることが明らかになった。特に、アミロイドβの濃度が10−6M未満(よく詳しくは10−7M以下)の場合にはアミロイドβを添加しない場合よりも高い生存率を示すことが明らかになった。
(7)置換基の評価
pNP GlcNAc(化合物(A))及びAllyl 6−Sulfo−GlcNAc(化合物(B))について、pNP 6−Sulfo−GlcNAcと同様にアミロイドβ凝集阻害作用を上記(3)アミロイドβ蛋白凝集阻害活性の試験方法と同様の方法にて検討した。
10μMのアミロイドβ蛋白質水溶液に、pNP GlcNAc、Allyl 6−Sulfo−GlcNAc、そしてpNP 6−Sulfo GlcNAcをそれぞれ100μM加えて、一日間インキュベートした後に、ThTを加えて、蛍光を測定した。結果を第6図に示す。
第6図より明らかなように、pNP GlcNAc、Allyl 6−Sulfo−GlcNAc、そしてpNP 6−Sulfo GlcNAcのいずれにおいても凝集阻害能を発揮することが明らかになった。特に、pNP 6−Sulfo−GlcNAcを加えた場合が、一番高い凝集阻害能を発揮することが判った。従って、凝集阻害能には―OSO3Hと疎水基(本評価ではp−ニトロフェノール基)とが双方共に重要な役割を果たしていることが示唆された。
(8)凝集体の解離作用の評価
凝集したアミロイドβについての作用を検討した。上記(3)アミロイドβ蛋白凝集阻害活性の試験方法と同様の方法にて、10μMのアミロイドβについて、そのままのものとヘパリンを100μM添加したものとについて、37℃で1日間放置することで、凝集させた。その後、pNP 6−Sulfo GlcNAcを100μM添加し、37℃で1日間放置した後に、上記(3)アミロイドβ蛋白凝集阻害活性の試験方法と同様の方法にて、凝集の程度を評価した。
その結果、ヘパリンを添加した系では蛍光強度が219(a.u.)であったものがpNP 6−Sulfo GlcNAcを添加することで184(a.u.)(元の状態の84%)にまで減少した。また、アミロイドβだけの系では蛍光強度が183(a.u.)であったものがpNP 6−Sulfo GlcNAcを添加することで166(a.u)(元の状態の91%)にまで減少した。従って、一度、凝集が進行したアミロイドβであっても、凝集体を解離することができることが明らかになった。つまり、生体内でのアミロイドβの凝集を減少できる可能性があることが判った。
Claims (1)
- 下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とするアミロイドβ蛋白凝集制御剤。
(一般式(2)中、R 1 はOH、NH 2 、NHR 6 、NR 6 R 7 、OSO 3 H、またはOSO 3 Hの塩、R 6 及びR 7 はアルキル基又はアセチル基、R 2 及びR 3 はOH、R 4 がNHAc、AはOまたはS、R 8 はニトロ、OH、ビニル基もしくは−NHCOCH 3 で置換されていてもよいフェニル基もしくはナフチル基、またはビニル基で置換されたアルキル基である。)
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