以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、前進6速の変速が可能な自動変速機を搭載したFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に本発明を適用した場合について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両に搭載された動力伝達装置8のスケルトン図である。また、図2は、この動力伝達装置8に備えられた車両用自動変速機(以下、単に自動変速機という)10において複数の変速段を成立させる際の摩擦係合要素(クラッチ及びブレーキ)の作動状態を示す作動表である。
この自動変速機10は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。
上記入力軸22は、入力部材に相当するものであり、本実施形態では走行用の動力源であるエンジン28によって回転駆動されるトルクコンバータ30のタービン軸である。また、上記出力回転部材24は、自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図4に示す差動歯車装置34に動力を伝達するためにデフドリブンギヤ(大径歯車)36と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。
上記エンジン28の出力は、トルクコンバータ30、自動変速機10、差動歯車装置34、及び1対の車軸38,38を介して1対の駆動輪(前輪)40,40へ伝達されるようになっている。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分を省略している。
上記エンジン28は、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ30は、上記エンジン28のクランク軸に連結されたポンプインペラ30aと、上記自動変速機10の入力軸22に連結されたタービンランナ30bと、一方向クラッチを介して上記自動変速機10のハウジング(変速機ケース)26に連結されたステータ30cとを備えており、上記エンジン28により発生した動力を上記自動変速機10へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。また、上記ポンプインペラ30a及びタービンランナ30bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ32が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ32が完全係合状態とされた場合には、上記ポンプインペラ30a及びタービンランナ30bが一体回転することになる。
図2に示す作動表は、上記自動変速機10において成立する各変速段とクラッチC1,C2、ブレーキB1,B2,B3の作動状態との関係をまとめたものである。図中の「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、「空欄」は解放をそれぞれ表している。上記自動変速機10に備えられたクラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合要素である。また、これらクラッチC及びブレーキBは、図3を用いて後述する油圧制御回路42のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡油圧などが制御されるようになっている。
上記自動変速機10では、上記第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられると共に、後進変速段「R」が成立させられる。
以下、自動変速機10のギヤレイアウトについて具体的に説明する。
第1変速部14を構成している第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、キャリアCA1、及び、リングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸22に連結されている。更に、サンギヤS1は、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介してハウジング26に固定されることにより、キャリヤCA1を中間出力部材として減速回転される。
第2変速部20を構成している第2遊星歯車装置16及び第3遊星歯車装置18においては、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。
具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成されており、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2及び第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成されている。更に、第2遊星歯車装置16のキャリアCA2及び第3遊星歯車装置18のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成されている。また、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。
上記第2遊星歯車装置16及び第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2及びCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2及びR3が共通の部材にて構成されている。更に、第3遊星歯車装置18のピニオンギヤが第2遊星歯車装置16の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、中間出力部材である第1遊星歯車装置12のキャリアCA1に一体的に連結されており、第1ブレーキB1によってハウジング26に選択的に連結されて回転停止される。第2回転要素RM2(リングギヤR2及びR3)は、第2クラッチC2を介して入力軸22に選択的に連結される一方、ワンウェイクラッチF1及び第2ブレーキB2を介してハウジング26に選択的に連結されて回転停止される。
第3回転要素RM3(キャリアCA2及びCA3)は出力回転部材24に一体的に連結されている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1(発進用摩擦係合要素)を介して入力軸22に選択的に連結される。
以上の自動変速機10では、摩擦係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、及び、ワンウエイクラッチF1などが、所定の状態に係合または解放されることによって変速段(ギヤ段)が設定される。
図2の作動表に示すように、例えば前進変速段では、クラッチC1及びブレーキB2の係合により第1変速段「1st」が、クラッチC1及びブレーキB1の係合により第2変速段「2nd」が、クラッチC1及びブレーキB3の係合により第3変速段「3rd」が、クラッチC1及びクラッチC2の係合により第4変速段「4th」が、クラッチC2及びブレーキB3の係合により第5変速段「5th」が、クラッチC2及びブレーキB1の係合により第6変速段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。
また、ブレーキB2及びブレーキB3の係合により後進変速段「Rev」が成立させられ、クラッチC、ブレーキBのいずれもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
このようなクラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3の切り換え動作により各変速段が成立するようになっており、特に、第2変速段「2nd」と第3変速段「3rd」との間での切り換え動作、第3変速段「3rd」と第4変速段「4th」との間での切り換え動作、第4変速段「4th」と第5変速段「5th」との間での切り換え動作、第5速変速段「5th」と第6変速段「6th」との間での切り換え動作それぞれにあっては、ある1つの摩擦係合要素(クラッチ或いはブレーキ)を解放すると共に他の1つの摩擦係合要素(クラッチ或いはブレーキ)を係合させるクラッチツークラッチ変速となっている。
本実施例の自動変速機10では、第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いものとなっている。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
また、自動変速機10の入力軸22の回転数(タービン回転数)はタービン回転数センサ70によって検出される。自動変速機10の出力回転部材24の回転数は車速センサ(出力軸回転数センサ)58によって検出される。これらタービン回転数センサ70及び車速センサ58の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)に基づいて、自動変速機10の現在の変速段を判定することができる。
図3は、上記動力伝達装置8に備えられた油圧制御回路42のうちリニアソレノイドバルブSL1,SL2,SL3,SL4,SL5に関する部分を示す回路図である。この図3に示すように、上記油圧制御回路42では、ライン油圧PLを元圧としてリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置44からの指令信号に応じた油圧が調圧され、上記自動変速機10に備えられたクラッチC1,C2、ブレーキB1,B2,B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ等)AC1,AC2,AB1,AB2,AB3にそれぞれ係合圧が供給されるようになっている。このライン油圧PLは、上記エンジン28によって回転駆動される機械式のオイルポンプや電動オイルポンプからの出力圧から図示しないリリーフ型調圧弁等により、アクセル操作量(アクセル開度)ACC或いはスロットル開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。また、上記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成とされたものであり、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5からの出力圧(係合圧) は、ソレノイドの電磁力に従って入力ポートと出力ポート又はドレーンポートとの間の連通状態が変化させられることにより出力圧が調圧制御され、上記油圧アクチュエータAC1,AC2,AB1,AB2,AB3に供給される。このようにして、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5にそれぞれ備えられたソレノイドは、電子制御装置44により独立に励磁され、各油圧アクチュエータAC1,AC2,AB1,AB2,AB3の油圧(係合圧)が独立に調圧制御されるようになっている。
図4は、上記動力伝達装置8等を制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック図である。この図4に示す電子制御装置44は、例えばROM、RAM、CPU、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータである。CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理することで、上記動力伝達装置8に関する種々の制御等を実行する。
また、所謂アクセル開度として知られるアクセルペダル46の操作量ACCがアクセル操作量センサ48により検出されると共に、そのアクセル操作量ACCを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。このアクセルペダル46は、運転者の出力要求量に応じて踏み込み操作されるものであり、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量ACCは出力要求量に相当する。また、上記エンジン28の吸気配管には電子スロットル弁74が設けられており、上記電子制御装置44により制御されるスロットルアクチュエータ76によってスロットル開度θTHが変化させられるようになっている。また、上記エンジン28には、燃料噴射量制御のための燃料噴射弁(インジェクタ)78と、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置80とが設けられており、上記電子制御装置44によりその燃料噴射弁78による燃料噴射量の制御が行われると共に、点火装置80による点火時期が制御されるようになっている。
また、上記動力伝達装置8には、上記エンジン28の回転速度(エンジン回転数)NEを検出するためのエンジン回転速度センサ50、エンジン28の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ(エアフローメータ)52、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ54、電子スロットル弁74の全閉状態(アイドル状態)及びその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ56、車速V(出力回転部材24の回転速度(回転数)NOUTに対応)を検出するための車速センサ58、エンジン28の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ60、常用ブレーキであるフットブレーキペダル62の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ64、シフトレバー66のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ68、タービン回転速度(タービン回転数、自動変速機10の入力軸回転数)NTを検出するためのタービン回転数センサ70、油圧制御回路42内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ72等が設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無、シフトレバー66のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOILなどを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。なお、上記タービン回転速度NTは、上記自動変速機10の入力軸22の回転速度(入力軸回転速度NIN)に等しい。
上記電子制御装置44は、基本的な制御として、例えば、図5に示すような予め記憶された関係から実際のアクセル操作量ACC(%)等に基づいてスロットル開度θTH(%)を制御するスロットル開度制御を行う。また、図6に示すような予め記憶された関係から実際のアクセル操作量ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)と車速V(km/h)等とに基づいて上記自動変速機10のギヤ段を自動的に切り換える変速制御を行う。更に、図7に示すような予め記憶された関係から車速V及びスロットル開度θTH等に基づいて上記トルクコンバータ30に備えられたロックアップクラッチ32の係合、解放、或いはスリップを実行する制御を行う。その他、燃料噴射量制御、点火時期制御等も実行するようになっている。
図8は、上記シフトレバー66を備えたシフト操作装置82を説明する図である。このシフト操作装置82は例えば運転席の横に配設されており、そのシフト操作装置82に備えられたシフトレバー66は、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは上記自動変速機10内の動力伝達経路を解放し且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車位置である。「R」ポジションは上記自動変速機10の出力回転部材24の回転方向を逆回転とするための後進走行位置である。「N」ポジションは上記自動変速機10内の動力伝達経路を解放するための動力伝達遮断位置である。「D」ポジションは上記自動変速機10の第1変速段〜第6変速段の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で自動変速制御を実行させる前進走行位置である。「S」ポジションはシフトレバー66の手動操作によって変速段を切り換え可能な前進走行位置である。この「S」ポジションにおいては、上記シフトレバー66の操作毎に変速段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、シフトレバー66の操作毎に変速段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。
図6は、自動変速機10による変速動作を制御するために、上記ROMに予め記憶された変速線図(変速マップ)である。この変速線図から実際のアクセル操作量ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)と車速V(km/h)とに基づいて上記自動変速機10の変速を判断し、この判断された変速段及び係合状態が得られるように上記油圧制御回路42に備えられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する。
具体的には、上記電子制御装置44は、車速センサ58の出力信号から車速Vを算出するとともに、アクセル操作量センサ48の出力信号からアクセルペダル46の操作量ACCを算出し、それら車速V及びアクセル操作量ACCに基づいて、図6の変速線図を参照して目標ギヤ段を算出する。更に、タービン回転数センサ70及び車速センサ58の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)を求めて現在ギヤ段を判定し、その現在ギヤ段と目標ギヤ段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
その判定結果により、変速の必要がない場合(現在ギヤ段と目標ギヤ段とが同じで、ギア段が適切に設定されている場合)には、現在ギヤ段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機10の油圧制御回路42に出力する。
一方、現在ギヤ段と目標ギヤ段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機10のギヤ段が「2速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Aから点Bに変化した場合、シフトアップ変速線[2→3]を跨ぐ変化となるので、変速線図から算出される目標ギヤ段が「3速」となり、その3速のギヤ段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機10の油圧制御回路42に出力して、2速のギヤ段から3速のギヤ段への変速(2→3アップ変速)を行う。
−油圧学習制御−
次に、本実施形態の特徴とする動作である油圧制御回路42に対する油圧学習制御(以下、単に学習制御と呼ぶ)について説明する。
上記自動変速機10において、クラッチツークラッチ変速時に、解放側クラッチ(又はブレーキ:以下ではクラッチを代表して説明する)の解放の進行が係合側クラッチの係合の進行よりも相対的に速い状況になると、変速段の切り換えが円滑に行われず、クラッチのトルク容量不足に起因して自動変速機10の入力軸22の回転数が急上昇する「nt吹き」が発生してしまう。例えば、「2速」から「3速」へのシフトアップ時には、ブレーキB1が解放されブレーキB3が係合されることになるが、この際、ブレーキB1の解放の進行がブレーキB3の係合の進行よりも相対的に速い状況になると、トルク容量不足に起因して上記nt吹きが発生してしまう。
本実施形態の学習制御は、このnt吹きを解消するべく、クラッチツークラッチ変速時に各クラッチに供給する油圧の設定値を補正するための補正量としての学習量を求め、この学習量を反映させた学習値に基づいた油圧設定を行うためのものである。つまり、nt吹きが発生する状況では、クラッチのトルク容量が適正値よりも不足していると判断して、クラッチに対する油圧(例えばドレン油圧)を高く設定することでトルク容量を高めるような学習値を求め、この学習値に従って油圧設定を行って、nt吹きを解消するようにしている。
そして、本実施形態の特徴として、パワーオンアップシフト時に上記学習制御を実施するに際し、入力軸22の回転数が上昇した場合、この入力軸22の回転数の上昇開始タイミングと略同じタイミングまたは入力軸22の回転数の上昇開始タイミングよりも早いタイミングにおけるエンジントルク(自動変速機10の入力トルク)の変動が所定量以上であった場合には上記学習制御を禁止する一方、上記各タイミングにおけるエンジントルク(自動変速機10の入力トルク)の変動が所定量未満であった場合には上記クラッチのトルク容量を増加させるための上記学習制御を実行するようにしている(学習制御実行手段による学習実行動作)。
ここでいう所定量とは、上記入力軸22の回転数が上昇したと判断するための閾値(後述するように同期回転数に対して25rpm上昇側の値)を超えるような入力軸22の回転数上昇を発生させるトルク変動量をいう。
以下、本実施形態に係る学習制御の手順を図9のフローチャートに沿って説明する。この図9に示した制御ルーチンは、エンジン28の起動後、所定時間毎に繰り返して実行される。
先ず、ステップST1において、パワーオンアップシフト制御の実行中であるか否かを判定する。ここでは、例えば、アクセル操作量センサ48の出力信号からアクセルペダル46の操作量ACCを算出し、その操作量ACCが所定量(例えばアクセル開度20%)以上であって、エンジントルクが発生している(エンジンが被駆動状態ではない)こと、及び、上記図6の変速線図に従って行われる変速動作が、現在、アップシフト側への変速動作中であることが共に認識された場合に、このステップST1でYES判定される。尚、上記アクセル操作量ACCの所定量としては上記値に限定されるものではない。
パワーオンアップシフト制御の実行中でない場合には、ステップST1でNO判定され、本制御ルーチンを一旦終了する。
一方、パワーオンアップシフト制御の実行中である場合には、ステップST1でYES判定され、ステップST2に移る。このステップST2では、学習制御を実行するための前提条件が成立しているか否かを判定する。この前提条件としては、例えば、上記冷却水温センサ60によって検出されているエンジン28の冷却水温TWが所定温度(例えば60°)以上まで上昇しておりエンジン28が温間状態にあること、上記AT油温センサ72によって検出されているAT油温TOILが所定温度(例えば60°)以上まで上昇していること等の各条件が共に成立していることが挙げられる。上記の値はこれに限定されるものではない。
学習制御を実行するための前提条件が成立していない場合には、ステップST2でNO判定され、本制御ルーチンを一旦終了する。
一方、学習制御を実行するための前提条件が成立している場合には、ステップST2でYES判定され、ステップST3に移る。このステップST3では、上記タービン回転数センサ70によって検出されている入力軸22の回転数(タービン回転数)が、現在の変速段(パワーオンアップシフトでの変速前の変速段)における同期回転数に対して所定回転数以上高い状態となっているか否かを判定する。つまり、何らかの原因で入力軸22の回転数が上昇している上記nt吹き(ここでは、上記トルク容量不足による回転数上昇とエンジントルク増大による回転数上昇とを総称して「nt吹き」と呼ぶこととする)が発生しているか否かを判定する。
具体的に、上記入力軸22の同期回転数は、車速センサ58によって検出されている出力回転部材24の回転数に現在の変速段の変速比を乗算することで求められる。また、このステップST3では、上記同期回転数に対して実際の入力軸回転数が25rpm(閾値)以上高い場合(同期回転数に対して実際の入力軸回転数の方が高く、その偏差が25rpm以上である場合)には、YES判定されるようになっている。この値はこれに限定されるものではなく、例えば、上記同期回転数に対して実際の入力軸回転数が50rpm以上高くなった場合にYES判定されるようにしてもよい。
nt吹きが発生していない場合(上記同期回転数に対して実際の入力軸回転数が所定の範囲内である場合)には、ステップST3でNO判定され、本制御ルーチンを一旦終了する。
一方、nt吹きが発生している場合(上記同期回転数に対して実際の入力軸回転数が所定回転数以上高い場合)には、ステップST3でYES判定され、ステップST4に移る。このステップST4では、上記ステップST3でYES判定されてからの経過時間の計測を開始する。つまり、上記nt吹きの発生開始からの経過時間の計測を開始する。これは、上記電子制御装置44に予め備えられていたタイマにより実行される。
その後、ステップST5に移り、nt吹き時間計測終了までの間、学習制御禁止条件が不成立であったか否かを判定する。
具体的に、nt吹き時間計測の終了タイミングは、上記nt吹きが解消されたタイミングであって、例えば、入力軸22の回転数が変速後の変速段における同期回転数に低下するまでのタイミング(変速完了タイミング)である。また、パワーオンアップシフト中における同期回転数に対して実際の入力軸回転数が所定回転数(例えば25rpm)以上高い状態が解消されたタイミングとしてもよい。更には、入力軸22の回転数が変速前の同期回転数に戻るまでのタイミングとしてもよい。
また、学習制御禁止条件は、上記アクセル操作量センサ48により検出されているアクセルペダル46の操作量ACCの変動量が所定範囲を超えた場合に成立する。例えば、ドライバに加速要求が生じてアクセルペダル46の操作量(踏み込み量)ACCが所定量以上大きくなった場合(例えば10%以上の踏み増しがなされた場合)に学習制御禁止条件が成立する。
nt吹き時間計測終了までの間に、学習制御禁止条件が成立した場合、つまり、nt吹きが解消する前に、アクセルペダル46の操作変動量が所定量以上であって、エンジントルクが増大した場合には、ステップST5でNO判定されてステップST7に移る。一方、nt吹き時間計測終了までの間に、学習制御禁止条件が成立しなかった場合、つまり、アクセルペダル46が所定量以上の踏み込まれることなしにnt吹きが解消した場合には、ステップST6に移る。
尚、クラッチツークラッチ変速途中で操作変動量が所定量以上となるアクセルペダル46の踏み込み操作がなされた場合に限らず、nt吹きが発生する前に、操作変動量が所定量以上となるアクセルペダル46の踏み込み操作がなされた場合にも、上記ステップST5ではNO判定されることになる。
ステップST6では、上記ステップST4でnt吹き経過時間の計測が開始されてから、ステップST5でnt吹きが解消したことが判定されるまでの時間(ステップST5でYES判定されるまでの時間)を「nt吹き継続時間」とし、この「nt吹き継続時間」からドレン油圧不足分に相当する学習量を演算する。図10は、このnt吹き継続時間と学習量(ドレン油圧不足量に相当)との関係を示しており、nt吹き継続時間が長いほど学習量としては大きな値として求められ、ドレン油圧不足(トルク容量不足)を解消するべく、油圧上昇量を大きく設定することになる。
このようにして学習量が演算された後、ステップST10に移り、前回の学習制御によって求められていた学習値に対して今回の上記学習制御によって演算された学習量だけ補正して新たな学習値として更新し、この学習値に従ってドレン油圧を調整することになる。
一方、クラッチツークラッチ変速途中やクラッチツークラッチ変速直前のタイミングで操作変動量が所定量以上となるアクセルペダル46の踏み込み操作がなされたことで上記ステップST5でNO判定された場合には、ステップST7以降の動作に移る。ステップST7及びステップST8の動作は、nt吹きの発生原因を判断するためのステップであり、言い換えると、nt吹きの発生原因としてクラッチのトルク容量が含まれているか否かを判断するためのステップである。
ステップST7では、入力軸回転数が所定回転数を超えている(nt吹きが発生しているか)か否かを判定する。この判定閾値としては、上記ステップST3と同一の値であってもよいし、このステップST3での閾値よりも高い値(条件2)を閾値として設定するようにしてもよい。
そして、ステップST8では、上記ステップST7での判定条件が成立するまでの間に、学習制御禁止条件が不成立であったか否かを判定する。つまり、上記ステップST7でnt吹き発生と判断されたタイミングと略同一タイミング及びこのnt吹き発生と判断されたタイミングよりも僅かに早いタイミングにおいて、アクセルペダル46の操作量(踏み込み量)ACCの変動量が所定量以上大きくなるような(例えば10%以上の踏み増しがなされていた)状況が発生しなかったか否かを判定する。
そして、上記ステップST7での判定条件が成立するまでの間に、学習制御禁止条件が不成立であり、ステップST8でYES判定された場合には、ステップST9に移る。このステップST9では、予め固定値(予め、上記電子制御装置44のROMに記憶させておいた固定値:例えばドレン油圧を5%上昇させるような値)として設定された所定の学習量を、今回の学習制御における学習量として取得する。この学習量の値としてはこれに限定されるものではないが、1回の学習制御でドレン油圧が過上昇しないような(最適なドレン油圧よりも高くなってしまうことがないような)比較的小さな値として設定されている。
その後、ステップST10では、前回の学習制御によって求められていた学習値に対して今回の上記学習制御によって演算された学習量(固定値)だけ補正して新たな学習値として更新し、この学習値に従ってドレン油圧を調整することになる。
以上のようにして、学習制御によって得られた学習量を反映させた学習値に更新していくことになるので、次回のクラッチツークラッチ変速時にあっては、この学習値に従って油圧上昇量を大きく設定することで、クラッチのトルク容量不足が解消または軽減されることになる。
図11は、「2速」から「3速」へのクラッチツークラッチ変速時におけるタービン回転数及びアクセル開度の変化についての複数パターンを示している。
図11(a)は、入力軸22の回転数(タービン回転数)が上昇することなしにクラッチツークラッチ変速が完了した場合を示している。つまり、クラッチのトルク容量不足が生じておらず、クラッチツークラッチ変速時にアクセル開度の変化が無くエンジントルクが変動していない場合を示している。この場合、タービン回転数は、2nd同期回転数から3rd同期回転数へ円滑に変化することになる。
一方、図11(b)は、クラッチツークラッチ変速が行われる際にクラッチのトルク容量不足のみに起因してnt吹きが発生している場合を示している。つまり、変速指令がなされてクラッチツークラッチ変速が開始された際、ブレーキB1の解放の進行がブレーキB3の係合の進行よりも相対的に速い状況であり、トルク容量不足に起因してnt吹きが発生している。そして、タービン回転数が、nt吹き閾値を超えたことで(上記図9のフローチャートにあってはステップST3でYES判定されたことで)学習制御が実行される場合を示している。
この図11(b)に示す場合には、エンジントルクの増大に起因するタービン回転数の上昇は生じていないので、上記図9のフローチャートにあっては、ステップST3→ステップST4→ステップST5→ステップST6と進み、nt吹き継続時間からドレン油圧不足分に相当する学習量を演算し、この学習量を反映させた学習値に従って油圧上昇量を大きく設定することで、次回のクラッチツークラッチ変速時にあっては、クラッチのトルク容量不足が解消されることになる。
そして、図11(c)の実線は、クラッチツークラッチ変速が行われる際にクラッチのトルク容量不足に起因するnt吹きが発生していると共に、クラッチツークラッチ変速が開始される直前にアクセル開度が増大し、それに伴ってエンジントルクが増大した場合を示している。この図11(c)に示す場合には、エンジントルクの増大に起因するタービン回転数の上昇が生じているので、上記図9のフローチャートにあっては、ステップST3→ステップST4→ステップST5→ステップST7→RETURNと進み、学習制御を禁止することになる。
また、図11(b)に示す二点鎖線は、クラッチツークラッチ変速が行われる際にクラッチのトルク容量不足に起因するnt吹きが発生していると共に、クラッチツークラッチ変速が開始された後にアクセル開度が増大し、それに伴ってエンジントルクが増大した場合を示している。この図11(b)に二点鎖線で示す場合には、上記図9のフローチャートにあっては、ステップST3→ステップST4→ステップST5→ステップST7→ステップST8→ステップST9と進み、学習量として所定の固定値を取得し、この学習量を反映させた学習値に従って油圧上昇量を大きく設定することで、次回のクラッチツークラッチ変速時にあっては、クラッチのトルク容量不足が軽減されることになる。
(変形例)
次に、本発明の変形例について説明する。本変形例は、学習制御の手順が上述した実施形態のものと異なっている。その他の構成及び制御は上記実施形態と同一であるので、ここでは、上記実施形態との相違点についてのみ説明する。
図12は、本変形例に係る学習制御の手順を示すフローチャートである。本変形例においても、図12に示した制御ルーチンは、エンジン28の起動後、所定時間毎に繰り返して実行される。
ステップST1及びステップST2の動作は、上記実施形態の場合(図9に示したフローチャートにおけるステップST1及びステップST2)と同様である。そして、このステップST2でYES判定された場合(学習制御を実行するための前提条件が成立している場合)には、上記ステップST3〜ステップST6に亘る第1の学習量演算動作と、上記ステップST7〜ステップST9に亘る第2の学習量演算動作とが同時並行されることになる。
上記第1の学習量演算動作では、上述した実施形態におけるステップST3〜ステップST6の動作と同様にして、nt吹き継続時間からドレン油圧不足分に相当する学習量を演算することになる(図12では、同一動作のステップについては同一ステップ番号を付している)。
一方、第2の学習量演算動作では、上述した実施形態におけるステップST7〜ステップST9の動作と同様にして、予め固定値として設定された所定の学習量を、今回の学習制御における学習量として取得することになる(図12では、同一動作のステップについては同一ステップ番号を付している)。
これら学習量演算動作の後、ステップST11に移り、上記第1の学習量演算動作で得られた学習量(演算値)と、上記第2の学習量演算動作で得られた学習量(固定値)とを比較し、そのうち大きい方の学習量(max学習量)を選択する。
尚、クラッチツークラッチ変速の際に、アクセル開度が増大し、それに伴ってエンジントルクが増大した場合には、上記ステップST5でNO判定されることになるため、上記第1の学習量演算動作は実行されない。この場合、ステップST11では、学習量として上記固定値を取得することになる。
このようにして学習量を選択または取得した後、ステップST10に移り、この学習量を反映させた学習値に更新する。つまり、次回のクラッチツークラッチ変速時にあっては、この学習値に従って油圧上昇量を大きく設定することで、クラッチのトルク容量不足が解消または軽減されることになる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態及び変形例では、前進6速の変速が可能な自動変速機10を搭載したFF型車両に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、前進5速や前進8速等の変速が可能な自動変速機を搭載した車両や、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両や4輪駆動車に適用することも可能である。
また、上述した実施形態及び変形例では、ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用した場合について説明したが、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両に対しても本発明は適用可能である。また、車両の動力源については、エンジン(内燃機関)のほか、電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えているハイブリッド形動力源であってもよい。
また、上述した実施形態及び変形例では、アクセルペダル46が所定量以上の踏み込まれることなしにnt吹きが解消した場合には、nt吹き継続時間からドレン油圧不足分に相当する学習量を演算するようにしていた。本発明は、これに限らず、アクセルペダル46が所定量以上の踏み込まれることなしにnt吹きが解消した場合には、入力軸回転数の変速前の同期回転数と実際の入力軸回転数との偏差の最大値に基づいて学習量を演算するようにしてもよい。
更に、上述した実施形態及び変形例では、アクセル操作量センサ48により検出されているアクセルペダル46の操作量ACCの変動量によってエンジントルクの変化、言い換えると入力軸22に対する入力トルクの変化を求めるようにしていた。本発明はこれに限らず、エンジン28において、吸入空気量センサ52によって検出される吸入空気量Q、燃料噴射弁78からの燃料噴射量、点火装置80による点火時期等のパラメータによってエンジントルクを推定するようにしてもよい。