しかし、特許文献2の電子放出素子では、比較的厚い絶縁膜中に金属あるいは半導体の微粒子が含まれており、絶縁膜中ではこれら微粒子が均一に分散されないため、電極近傍に存在する金属または半導体の微粒子が不足してしまう場合がある。このような場合、電子放出素子からの電子放出電流が少なくなる。
そこで、電子放出量を向上させるため、電子加速層を薄くすることが考えられるが、電子加速層を薄くすると電子加速層の均一性や機械的強度が低下してしまうという問題がある。
また、大気中で従来の電子放出素子を動作させた場合、気体分子が内部の電子加速層に侵入し、電子加速層の電気的特性を変質させ、電子放出電流が減少するという問題もある。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、電子放出量を向上させることができる電子放出素子等の提供を目的とする。さらに、電子加速層の劣化を抑制でき、機械的強度の高い電子放出素子等の提供も目的とする。
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極と該電極基板および該薄膜電極に挟持された電子加速層とを有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子であって、上記電子加速層は、上記電極基板側から順に、導電微粒子と当該導電微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径の絶縁体微粒子とを含む微粒子層、および電子輸送剤とバインダー成分とを含む保護層を備えることを特徴としている。
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、絶縁体微粒子および導電微粒子を含む微粒子層と、電子輸送剤を含む電子輸送剤と、を備えた電子加速層が設けられている。この電子加速層は、絶縁体微粒子、導電微粒子、電子輸送剤およびバインダー成分を含む層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
電子放出素子において、適度な半導電性が必要であるため、上記保護層では、絶縁体であるバインダー成分に電子輸送剤を分散させることで適度な半導電性を付与している。また、電子輸送剤がバインダー成分に分散していることでミクロな表面凹凸を形成し電気抵抗が低くなる。その結果、電子輸送剤を含む保護層が電子放出を容易にする。
ここで、MIM構造を有する電子放出素子において、素子表面のミクロな表面凹凸と電子放出機構との関係が、非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、電子放出が素子の表面形状と絶縁体層中の電気的不均一性に起因すると指摘しており、少なくとも素子表面に存在する凸形状が局所的な強電界部を形成し、電子放出を可能にすると理解できる。本発明において電子加速層を形成する電子輸送剤の表面凹凸は、電子放出に必要な局所的強電界部を形成する役割を担っていると考えられる。
よって、上記構成によると、電子放出量が向上した電子放出素子を提供することができる。
ここで、本発明の電子放出素子において、上記電子輸送剤は、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムが挙げられるが、これに限定されない。
また、本発明の電子放出素子では、上記保護層は、バインダー成分を含んでいる。保護層にバインダー成分が含まれることで、その下の層である微粒子層に含まれる導電微粒子が大気中の酸素から保護されるため、酸化に伴う素子劣化を発生し難い。よって、電子放出素子を、真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。また、バインダー成分により保護層の機械的強度を高めることができ、電子放出素子全体の機械的強度を高めることができる。
さらに、バインダー成分により、電子加速層表面の平滑性をよくすることができ、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。
このように、上記構成によると、電子加速層の劣化を抑制でき、真空中だけでなく大気圧中でも効率よく安定した電子の放出が可能となる。さらに本発明の電子放出素子は、機械的強度を高められる。
ここで、本発明の電子放出素子において、上記バインダー成分はシリコーン樹脂であってもよいが、これに限定されない。
また、本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、抗酸化力が高い導電体であってもよい。
ここで、ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の平均粒径よりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
上記構成によると、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、電子放出素子を大気圧中でもより安定して動作させることができる。よって、寿命を長くでき、大気中でも長時間連続動作をさせることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記導電微粒子の平均粒径は、導電性を制御する必要から、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さくなければならず、3〜10nmであるのが好ましい。このように、上記導電微粒子の平均粒径を、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体微粒子が、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁体微粒子として酸化物(SiO2、Al2O3、及びTiO2の)を用い、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
ここで、上記絶縁体微粒子の平均粒径は10〜200nmであるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。上記絶縁体微粒子の平均粒径を好ましくは12〜110nmとすることにより、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径の上記導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層の層厚は、10〜6000nmであるのが好ましく、300〜6000nmであるのがより好ましい。上記電子加速層の層厚を、好ましくは10〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmとすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在してもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさよりも小さい小絶縁体物質が存在することは、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記小絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
ここで、本発明の電子放出素子では、上記小絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、当該付着物質は、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
上記構成によると、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を高効率で、安定して放出させることができる。
さらに、本発明の電子放出装置を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で発光させることができる。また、安定で長寿命な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
また、本発明の電子放出装置を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で冷却することができる。また、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却することができる。
また、本発明の電子放出装置を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で帯電することができる。さらに、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して、被帯電体を帯電させることができる。
また、本発明の電子放出装置を、電子線硬化装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で電子線を照射することができる。また、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と、薄膜電極と、該電極基板および該薄膜電極に挟持され導電微粒子と絶縁体微粒子とを含む電子加速層と、を有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電子加速層の形成には、
上記電極基板上に、導電微粒子と当該導電微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径の絶縁体微粒子とが溶媒に分散された分散液を塗布して微粒子層を形成する微粒子層形成工程と、上記微粒子層上に、電子輸送剤がバインダー成分に分散された分散液を塗布して保護層を形成する保護層形成工程と、を含むことを特徴としている。
上記方法によると、電子加速層の形成において、電極基板側から順に、導電微粒子と絶縁体微粒子とを含む微粒子層、電子輸送剤とバインダー成分とを含む保護層とが形成される。
電子放出素子において、適度な半導電性が必要であるため、上記保護層では、絶縁体であるバインダー成分に電子輸送剤を分散させることで適度な半導電性を付与している。また、電子輸送剤がバインダー成分に分散していることでミクロな表面凹凸を形成し電気抵抗が低くなる。その結果、電子輸送剤を含む保護層が電子放出を容易にする。
よって、上記方法によると、電子放出量が向上した電子放出素子を製造することができる。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記微粒子層形成工程および上記保護層形成工程おいて、スピンコート法を用いて各分散液の塗布を行ってもよい。
スピンコート法を用いることで、上記導電微粒子と上記絶縁体微粒子および、電子輸送剤を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。
本発明の電子放出素子では、以上のように、上記電子加速層は、上記電極基板側から順に、導電微粒子と当該導電微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径の絶縁体微粒子とを含む微粒子層、および電子輸送剤とバインダー成分とを含む保護層を備えている。
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、絶縁体微粒子および導電微粒子を含む微粒子層と、電子輸送剤およびバインダー成分とを含む保護層と、を備えた電子加速層が設けられている。この電子加速層は、絶縁体微粒子、導電微粒子、電子輸送剤、バインダー成分を含む層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
電子放出素子において、適度な半導電性が必要であるため、上記保護層では、絶縁体であるバインダー成分に電子輸送剤を分散させることで適度な半導電性を付与している。また、電子輸送剤がバインダー成分に分散していることでミクロな表面凹凸を形成し電気抵抗が低くなる。その結果、電子輸送剤を含む保護層が電子放出を容易にする。よって、上記構成によると、電子放出量が向上した電子放出素子を提供することができる。
以下、本発明の電子放出素子の実施形態および実施例について、図1〜13を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の電子放出素子の一実施形態の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、電極基板2と薄膜電極3とは電源11に繋がっており、互いに対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を透過および/あるいは薄膜電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源11とから電子放出装置14が成る。
下部電極となる電極基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。
例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、下部電極となる電極基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。ただし、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、電極基板2には、酸化物導電材料として透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、電極基板2は、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
薄膜電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。
また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
電子加速層4は、図1に示すように、電極基板2側から順に、微粒子層5および保護層6の2つの層を含む。電極基板2側の微粒子層5は、導電微粒子8と絶縁体微粒子7とを含んでいる。
絶縁体微粒子7の材料としては、絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、SiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子7の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。
ここで、絶縁体微粒子7は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
また絶縁体微粒子7の大きさは、導電微粒子8に対して優位な放熱効果を得るため、導電微粒子8の平均粒径よりも大きいことが好ましい。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子8を用いる場合、絶縁体微粒子7の平均粒径は、10〜200nmであるのが好ましい。
導電微粒子8の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い導電体である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子8は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
ここで、導電微粒子8の平均粒径は、導電性を制御する必要から、絶縁体微粒子7の平均粒径よりも小さくなければならず、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子8の平均粒径を、絶縁体微粒子7の平均粒径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、微粒子層5内で、導電微粒子8による導電パスが形成されず、微粒子層5内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子8を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、微粒子層5における導電微粒子8の割合は、0.5〜30重量%が好ましい。0.5重量%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30重量%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10重量%であることがより好ましい。
なお、導電微粒子8の周囲には、導電微粒子8の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子8の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子8の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、導電微粒子8の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子8の大きさよりも小さい絶縁体物質が導電微粒子8を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子8の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
電子加速層4中の薄膜電極3側に位置する保護層6は、電子輸送剤9とバインダー成分10とを含んでいる。
電子輸送剤9は、例えば、Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)が挙げられる。Alq3は、有機EL素子の発光材料もしくは電子輸送材料として広く知られている。また、電子輸送剤9は、Alq3に限定されず、例えば、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、プロマニル、クロラニル、ベンゾキノン、ジフェノキノン、等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
バインダー成分10は、電子輸送剤9を分散でき、絶縁性を有するものであればよい。このようなバインダー成分10として、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂などの樹脂、等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
バインダー成分10としてシリコーン樹脂を用いる場合、使用できる市販のシリコーン樹脂としては、例えば、東レダウコーニング(株)製:SR2405、SR2410、SR2411、SR2431、SR2510、東芝(株)製:TSR115、TSR114、TSR102、TSR103、YR3061、TSR110、TSR116、TSR117、TSR108、TSR109、TSR180、TSR181、TSR187、TSR144、TSR165、信越化学工業(株)製:KR271、KR272、KR275、KR280、KR282、KR267、KR269、KR211、KR212が挙げられる。
これらの熱硬化性シリコーン樹脂を架橋させるには、該樹脂を150〜250℃程度に加熱処理することが必要であるが、触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、オクチル酸、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ラウレート、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等がある。
シリコーン樹脂は1種を単独で使用でき又は2種以上を併用できる。
電子加速層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、層厚を均一化できること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となることなどから、電子加速層4の層厚は、12〜6000nmが好ましく、300〜6000nmがより好ましい。
上記のように、電子加速層4の薄膜電極3側に電子輸送剤9およびバインダー成分10を含む保護層6が施されることで、後述のように、電子放出素子1の電子放出量が向上する。
ここで、例えば、電極基板2上の電子加速層4が導電微粒子8および絶縁体微粒子7のみで構成されていると、機械的強度が弱く、その上に薄膜電極3を設けてももろく、壊れやすいため、電子放出も不安定になる。しかし、保護層6にバインダー成分10が含まれているので、電子放出素子1の機械的強度が向上する。よって、電子放出素子1の性能が均一になり、安定した電子供給が可能となる。また、バインダー成分10により、電子加速層4表面の平滑性をよくすることができ、その上の薄膜電極3を薄く形成することができる。
さらに、保護層6中のバインダー成分10によって微粒子層5中の導電微粒子8が大気中の酸素から保護され、酸化に伴う素子劣化を発生し難い。よって、電子放出素子1を、真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。
次に、電子放出の原理について説明する。図2は、電子放出素子1の電子加速層4付近の断面を拡大した模式図である。電子加速層4は絶縁体微粒子7、導電微粒子8、電子輸送剤9およびバインダー成分10を含み、半導電性を有する。よって電子加速層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層4内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極3を透過および/あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
ここで、電子放出素子1において、適度な半導電性が必要であるため、保護層6では、絶縁体であるバインダー成分10に電子輸送剤9を分散させることで適度な半導電性を付与している。また、電子輸送剤9が分散していることでミクロな表面凹凸を形成し電気抵抗が低くなる。その結果、電子輸送剤9を含む保護層6が電子放出を容易にする。
MIM構造を有する電子放出素子において、素子表面のミクロな表面凹凸と電子放出機構との関係が、非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、電子放出が素子の表面形状と絶縁体層中の電気的不均一性に起因すると指摘しており、少なくとも素子表面に存在する凸形状が局所的な強電界部を形成し、電子放出を可能にすると理解できる。本発明において電子加速層を形成する電子輸送剤の表面凹凸は、電子放出に必要な局所的強電界部を形成する役割を担っていると考えられる。
よって、本実施形態の電子放出素子1は、電子放出量が向上する。
さらに、保護層6にバインダー成分10を含むことで、電子加速層4の劣化を抑制でき、機械的強度を高められる。
次に、電子放出素子1の、製造方法の一実施形態について説明する。
まず、絶縁体微粒子7を有機溶媒に分散させることで絶縁体微粒子分散液を得る。ここで用いられる有機溶媒としては、絶縁体微粒子7を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器にかけることで分散させることができる。絶縁体微粒子7の含有率は、1〜50重量%が好ましい。1重量%より少ない場合は絶縁体として電子加速層4の抵抗を調整するという効果を発揮せず、50重量%より多い場合は絶縁体微粒子7の凝集が発生する。なかでも、5〜20重量%であることがより好ましい。
次に、導電微粒子8を溶媒に分散させた導電微粒子分散液を得る。例えば、導電微粒子8を有機溶媒に分散させることで得ることができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で攪拌すればよい。この有機溶媒としては、導電微粒子8を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、ナフテン、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。
上記の絶縁体微粒子分散液と導電微粒子分散液とを混合し、微粒子層形成用塗布液を得る。
また、電子輸送剤9をバインダー成分10に分散させることで保護層形成用塗布液を得る。
そして、上記の微粒子層形成用塗布液を電極基板2上に塗布し、絶縁体微粒子と導電微粒子とから成る微粒子層5を得る。この塗布は例えば、スピンコート法を用いて行えばよい。続けて、上記のように作製した微粒子層5上に、電子輸送剤9を含む電子輸送形成用塗布液を塗布する。この塗布は例えば、スピンコート法を用いて行えばよい。ここで、微粒子層5が常温で乾燥し、経時変化を起こさなければ、続けて保護層形成用塗布液の塗布を行って構わない。
スピンコート法を用いると、絶縁体微粒子7および導電微粒子8を含む微粒子層5の上に電子輸送剤9を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。以上により電子加速層4が形成される。
電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極3は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
(実施例)
以下の実施例では、本発明に係る電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
まず実施例1および2の電子放出素子と比較例1の電子放出素子を以下のように作製した。そして、作製した電子放出素子について、図3に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図3の実験系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ13を挟んで対向電極12を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極12は、それぞれ、電源11に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極12にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を1×10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行った。また、実験では、絶縁体スペーサ13を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=50Vとした。
(実施例1)
まず、10mLの試薬瓶に溶媒であるヘキサン3.0gと、絶縁体微粒子7として平均粒径110nmの球状シリカ粒子とを0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散液を調製した。得られた絶縁体微粒子分散液1.0gに、導電微粒子8が分散された分散溶液として、銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm、銀微粒子固形分濃度7%)0.7gを混合し、分散液Aを調整した。
次に、バインダー成分10として、シリコーン樹脂(SR2431、東レ・ダウコーニング株式会社製) 3.0gと、硬化触媒(オルガチックスTC−750、マツモトファインケミカル株式会社製)のトルエン溶液(濃度20%) 0.06gを混合した。この混合液に電子輸送剤9として、Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)、東京化成工業株式会社製)0.2gを投入し、分散液Bを調整した。
電極基板2となる25mm角のITOガラス基板上に、上記で得られた分散液Aを滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と導電性微粒子とを含む微粒子層5を形成した。この微粒子層5は常温で乾燥し、経時変化を起こさないため、続けて次の工程に移った。
上記で得られた分散液Bを、微粒子層5上に滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの2段階にてAlq3とシリコーン樹脂から成る保護層6を形成し電子加速層4を作製した。この電子加速層4をホットプレートを用いて150℃で1分間加熱した。電子加速層4の層厚は1.14μm、中心線平均粗さは0.37μmであった。
このように形成した電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
この実施例1の電子放出素子を用いた、1×10−8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図11に示す。図11は、薄膜電極3への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。実施例1の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=14.1Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、0.028mA/cm2、素子内電流は131mA/cm2が確認された。
(実施例2)
まず、10mLの試薬瓶に溶媒であるトルエン3.0gと、絶縁体微粒子7として平均粒径110nmの球状シリカ粒子を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散液を調製した。得られた絶縁体微粒子分散液1.0gに、導電微粒子8が分散された分散溶液として、銀ナノ粒子(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm)0.03gを混合し、分散液Cを調整した。
電極基板2となる25mm角のITOガラス基板上に、上記で得られた分散液Cを滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と導電性微粒子から成る微粒子層5を形成した。この微粒子層5は常温で乾燥し、経時変化を起こさないため、続けて次の工程に移った。
これ以降の手順は実施例1と同様にして、実施例2の電子放出素子を作製した。電子加速層4の層厚は1.10μm、中心線平均粗さは0.37μmであった。
この実施例2の電子放出素子を用いた、1×10−8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図12に示す。図12は、薄膜電極3への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。実施例2の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=18.5Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、6.23×10-5A/cm2、素子内電流は2.18×10-1A/cm2が確認された。
(比較例1)
まず、実施例2と同様に分散液Cを調製し、電極基板2となる25mm角のITOガラス基板上に得られた分散液Cを滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と導電性微粒子から成る微粒子層5を形成した。この微粒子層5は常温で乾燥し、電子加速層4を形成した。なお、比較例1では、保護層6は形成していない。
このように形成した電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
これ以降の手順は実施例1と同様にして、比較例1の電子放出素子を作製した。電子加速層4の層厚は0.71μm、中心線平均粗さは0.07μmであった。
この比較例1の電子放出素子を用いた、1×10−8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図13に示す。図13は、薄膜電極3への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。この比較例1の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=12.0Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、4.96×10-7A/cm2、素子内電流は4.45×10-4A/cm2が確認された。
実施例1、実施例2および比較例1から、絶縁体微粒子と導電微粒子を含む層と表面電極の間に、Alq3とシリコーン樹脂とを含む層を施すことで、電子放出素子の電子放出量が向上することがわかる。
〔実施の形態2〕
図3に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置14を利用した本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11とを有する電子放出装置14から成り、感光体15を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体15に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体15を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体15から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
帯電装置90として用いられる電子放出装置14は、保護層6にバインダー成分10が含まれるので大気中で動作でき、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体15やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置14を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は電子放出効率が高く、電子放出量が向上しているため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置14は、面電子源として構成されるので、感光体15の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体15のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
〔実施の形態3〕
図4に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置14を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11とを有する電子放出装置14と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
これに対し、電子放出素子1を用いた本発明に係る電子線硬化装置100は、保護層6にバインダー成分10が含まれるので大気中動作可能であるため、真空封止の必要がない。また、電子放出素子1は電子放出効率が高く、電子放出量が向上しているため、電子線硬化装置は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
〔実施の形態4〕
図5〜7に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置14を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図5に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源11からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
図6に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
図7に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11を有する電子放出装置14を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子7と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子7に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子7に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子7として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32’に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出効率が高く、電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、電子放出装置14の保護層6にバインダー成分10が含まれるため、大気中で電子を放出できるため、大気中動作可能であるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
さらに、図8に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図8に示す画像表示装置140は、図8で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
また、本発明に係る画像表示装置として、図5に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
〔実施の形態5〕
図9及び図10に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置14を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
図9に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源11とを有する電子放出装置14からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出することが好ましい。
図10に示す送風装置160は、図9に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図10に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cm2とするのが好ましい。
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は電子放出効率が高く、電子放出量が向上しているため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。送風装置150および送風装置160は、保護層6にバインダー成分10が含まれるため大気中動作も可能である。
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。