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JP5132887B2 - 動圧軸受装置用軸部材 - Google Patents
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JP5132887B2 - 動圧軸受装置用軸部材 - Google Patents

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Description

本発明は、動圧軸受装置用軸部材に関する。
動圧軸受装置は、軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材を相対回転自在に非接触支持するものである。最近では、動圧軸受装置は、その優れた回転精度、高速回転性、静粛性等を活かして、例えば、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等の情報機器に搭載されるスピンドルモータ用の軸受装置をはじめとして、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、あるいはファンモータなどの小型モータ用の軸受装置として使用されている。
例えば、HDD用スピンドルモータに組み込まれる動圧軸受装置においては、軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部又はスラスト方向に支持するスラスト軸受部の双方を動圧軸受で構成したものが知られている。この場合、軸受スリーブの内周面と、これに対向する軸部材の外周面との何れか一方に動圧発生部としての動圧溝が形成されると共に、両面間のラジアル軸受隙間にラジアル軸受部が形成されることが多い。また、軸部材に設けたフランジ部の一端面と、これに対向する軸受スリーブの端面との何れか一方に動圧溝が形成されると共に、両面間のスラスト軸受隙間にスラスト軸受部が形成されることが多い(例えば、特許文献1を参照)。
上記動圧溝は、例えば軸部材の外周面にへリングボーン形状やスパイラル形状等に配列した状態で形成される。この種の動圧溝を形成するための方法として、例えば切削加工(例えば、特許文献2を参照)や、エッチング(例えば、特許文献3を参照)などが知られている。
また、上記切削加工やエッチングに比べて材料コストや加工コストの低減化が可能な動圧溝の形成方法として、例えば転造加工が知られている。この場合、転造加工後に所定の熱処理を施すことで、素材の表面硬度を向上させることが多い(例えば、特許文献4を参照)。
特開2003−239951号公報 特開平08−196056号公報 特開平06−158357号公報 特開平07−114766号公報
しかしながら、熱処理は通常高温下で行われるため、軸自体の変形が避けられず、外周面精度を狂わす可能性がある。特に、動圧溝のように微小サイズで高精度のものが形成されている場合、軸の熱処理時の変形が動圧溝の形状精度に悪影響を及ぼす可能性は高い。これにより、例えば動圧溝の深さや形状にばらつきが生じ、十分な動圧作用を発揮できない可能性がある。上記文献に開示の手段は、単に軸部材の表面硬度を高めることだけを目的になされたものであり、熱処理時の変形による外周面精度の低下を考慮したものではない。
本発明の課題は、耐摩耗性に優れ、かつ高い動圧作用を発揮し得る動圧軸受装置用の軸部材を提供することである。
前記課題を解決するため、本発明は、軸受隙間に流体の動圧作用を生じるための凹部が転造で形成された動圧軸受装置用軸部材において、転造で形成された凹部の表層部及び凹部の周囲領域における表層部に、転造後の窒化処理により軸部材の素材中の窒素が拡散浸透してなる窒化層が形成され、軸部材の外径に対する窒化層の厚みの比が0.05以下に設定されると共に、凹部の周囲領域における窒化層の最表層部分に、窒化処理後のバレル加工により加工硬化を生じた層である加工硬化層が窒化層と重複して形成されていることを特徴とする動圧軸受装置用の軸部材を提供する。また、ここでいう凹部は、軸受隙間に流体の動圧作用を生じるためのものを意味し、例えば軸方向溝状、円周方向溝状、傾斜溝状、交差溝状、軸方向又は円周方向の断続的な溝形状、くぼみ状(ディンプル状)等を含む。
窒化処理は、素材中への窒素の拡散浸透を図るものであるから、その際の熱処理温度を例えば焼入れ、浸炭など他の熱処理時の温度と比べて低く(例えば500〜600℃程度に)設定することができる。従って、熱処理時の変形、具体的には、素材金属の変態点を超える加熱および冷却による変形や、金属組織の変化に伴う体積の変化等を最小限に留めて、凹部あるいは周囲領域の形状精度を高く保つことができる。
また、熱処理により形成される硬化層の深さおよびその硬さは、素材のサイズに関係なく、処理温度や処理時間に依存して定まる傾向にある。そのため、素材の小型化を図りつつ、所要の表面硬さを保持しようとすると、どうしても未硬化層に対して硬化層の占める割合が増加する。これでは、素材(軸部材)自体が変形に対して脆くなり、耐久性の低下につながる恐れがある。これに対して、本発明では、窒化処理による窒化層を表層部に形成するようにした。窒化処理であれば、他の熱処理と比べて非常に薄い硬化層(窒化層)を形成することができるため、軸部材の靭性(変形に対する耐久性)を確保しつつも、表層部の硬度のみを向上させることができる。
また、この種の窒化処理においては、熱処理温度が低くなるにつれて窒化層深さが小さくなると共に、その硬度が高まる傾向にある。そのため、本発明に係る窒化処理は、上述のように、小型部品としての軸部材の表層部のみを硬化させる場合には非常に好適な手段といえる。
また、凹部の転造後、上記窒化処理に加えて、バレル加工を施すこともできる。この場合、窒化層で構成される表層部の表面の少なくとも一部の領域が、バレル加工による加工面を有する。
このように、凹部の転造後、窒化処理とバレル加工を施すことで、熱処理により生じる変形を避けて、凹部やその周辺領域の形状精度の低下を最小限に抑えることができると共に、転造加工により凹部の周囲に形成される盛り上がり部(隆起部)をバレル加工により縮小あるいは除去することができる。従って、凹部あるいは軸受面となる周囲領域表面の形状精度をより一層高めて、さらなる軸受性能の向上を図ることができる。
周囲領域の表層部が、転造後の窒化処理による窒化層で構成されている場合において、前記表層部の下層領域の硬度は400Hv以下であることが好ましい。この程度の硬度であれば、凹部の転造加工性を高めることができ、また、転造時の変形抵抗も小さいため、転造型(ダイス)の使用寿命を延ばすこともできる。
上記構成の動圧軸受装置用軸部材は、例えばこの軸部材を備えた動圧軸受装置として好適に提供可能である。
以上のように、本発明によれば耐摩耗性に優れ、かつ高い動圧作用を発揮し得る動圧軸受装置用の軸部材を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1の断面図を示す。同図において、動圧軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2を内周に挿入可能な軸受部材3とを備える。
軸受部材3は、この実施形態では、電鋳部4と成形部5とからなる有底筒体で、マスターと一体又は別体の電鋳部4をインサート部品として樹脂で一体に射出成形される。軸部材2の外周面2aと対向する電鋳部4の内周面4aは真円形状をなしている。
軸部材2は径一定の軸状をなすもので、例えば各種炭素鋼,クロム鋼,ステンレス鋼や銅合金など、比較的加工性の高い金属材料(硬度でいえば、200Hv〜400Hv程度)から製作される。
軸部材2の外周面2aの全面あるいは一部領域には、外周面2aと電鋳部4の内周面4aとの間のラジアル軸受隙間6に潤滑油の動圧作用を生じるための複数の凹部7が形成されている。この実施形態では、凹部7は、円周方向一端側で連続あるいは近接し、かつ円周方向他端側で互いに離隔する方向に傾斜した傾斜溝9aと傾斜溝9bとからなる。かかる形状をなす複数の凹部7は、いわゆるへリングボーン形状となるように、円周方向に所定の間隔を置いて配列されている。この場合、各凹部7(傾斜溝9a、9b)とこれらの周囲領域8とで、ラジアル軸受隙間6に潤滑油の動圧作用を生じる動圧発生部10が構成される。また、上記構成の動圧発生部10は、この実施形態では、軸方向上下に離隔して2箇所設けられている。
軸部材2の一端面2bは略球面状をなし、軸部材2を軸受部材3の内周に挿入した状態では、対向する電鋳部4の底部4bの上端面4b1に当接する。
軸受部材3と軸部材2との間のラジアル軸受隙間6の大気解放側から潤滑油が注油される。これにより、ラジアル軸受隙間6を含む軸受内部空間を潤滑油で充満した動圧軸受装置1が完成する。
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の相対回転時、軸部材2の外周面2aに設けられた動圧発生部10、10と、これらに対向する電鋳部4の内周面4aとの間のラジアル軸受隙間6に潤滑油の動圧作用が生じる。これにより、軸部材2をラジアル方向に相対回転自在に支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とがそれぞれ形成される。
また、軸部材2の相対回転時、軸部材2の一端面2bが底部4bの上端面4b1に接触支持(ピボット支持)される。これにより、軸部材2をスラスト方向に相対回転自在に支持するスラスト軸受部T1が形成される。
以下、軸部材2の製造工程の一例を、図2〜図4に基づいて説明する。
この実施形態において、軸部材2は、凹部7を転造で形成する転造工程(a)と、転造工程(a)で形成された凹部7の少なくとも周囲領域8に窒化処理を施す窒化処理工程(b)と、周囲領域8にバレル加工を施すバレル加工工程(c)とを経て形成される。
(a)転造工程
図2は、上記材料からなる軸素材11の外周面11aに、図1に示す形状の凹部7を転造で形成する工程を概念的に示したものである。一対の転造ダイス12、13(この図示例では平ダイス)のうち、第1の転造ダイス12の対向面12aには、軸素材11に転写形成すべき凹部7に対応した形状の凸部型(図示は省略)が設けられている。図3(a)に示すように、転造前の状態では、軸素材11の外周面11aは平滑である。
軸素材11を、転造ダイス12、13で挟持した状態から、第2の転造ダイス13を第1の転造ダイス12に対して相対摺動させることで、軸素材11が第1の転造ダイス12の凸部形成領域上を押圧転動する。これにより、第1の転造ダイス12側から、軸素材11に例えば図1に示す形状の凹部7(動圧発生部10)が転造形成される。
この際、軸素材11の外周面11aに形成される凹部7の表層部14には、図3(b)に示すように、転造による第1の加工硬化層14aが形成される。この実施形態では、同時に、凹部7の周囲領域8の表層部15の一部領域にも、転造による第1の加工硬化層15aが形成される。
また、転造に伴い、元々凹部7にあった肉が周囲に押し出される。その結果、図3(b)に示すように、周囲領域8の凹部7寄りの箇所に盛り上がり(隆起部16)が生じる。
(b)窒化処理工程
軸素材11に転造で凹部7を形成した後、かかる軸素材11に窒化処理を施す。このようにして、凹部7の表層部14、および周囲領域8の表層部15の内部に窒素を拡散浸透させることで、各表層部14、15中に、素材金属と窒素との窒化物が形成される。これにより、例えば図3(c)に示すように、第1の加工硬化層14aを含む凹部7の表層部14に窒化層14bが形成される。また、第1の加工硬化層15aを含む周囲領域8の表層部15に窒化層15bが形成される。なお、上記窒化処理(軟窒化処理も含む)の具体的手段として、例えばガス窒化やプラズマ窒化が、また、軟窒化処理の具体的手段として、例えばガス軟窒化や塩浴軟窒化などが使用可能である。
この場合、表層部15を構成する窒化層15bの厚みは、数μm〜十数μmと非常に薄い。また、その硬度(ここでは、表面硬度)は、600Hv〜1000Hvである。窒化層14bについても同様である。
また、ここでいう「窒化層厚み」は、窒化物が主に存在する化合物層と、窒素が生地金属中に拡散浸透している状態の拡散層のうち、比較的容易に他層との区別が可能な化合物層の深さ(厚み)をいう。
窒化処理は、通常500℃〜600℃の温度下で行われるため、例えば焼入れや浸炭等の熱処理と比べて、熱処理時における軸素材11(軸部材2)の変形がはるかに小さい。そのため、熱処理時の変形や、仕上げ研削により生じる凹部7(傾斜溝9a、9b)の形状的なばらつきを最小限に抑えて、高い寸法精度を有する凹部7(動圧発生部10)を軸部材2に設けることができる。従って、かかる軸部材2を、図1に示す動圧軸受装置1に組み込んで使用する場合、ラジアル軸受隙間6に生じる潤滑油の動圧作用を高めることができる。また、外周面11aの仕上げ研削等が不要となるので、かかる工程を省略して低コスト化を図ることができる。
また、軸部材2の回転時、特に起動停止時、凹部7の周囲領域8の表面8aは、対向する電鋳部4の内周面4aと摺動接触する場合があるが、上述のように、周囲領域8の表層部15を窒化層15bで構成することで、かかる軸受面(表面8a)を含む表層部15の硬度を高めることができる。これにより、軸部材2の摺動摩耗を低減して、換言すると、凹部7の磨り減りを抑えて、高い動圧作用を長期に亘って安定的に発揮することができる。
また、本発明は、動圧発生用の凹部7を軸部材2の側に設けることを特徴とするものであるから、最近の情報機器の小型化に伴う動圧軸受装置1の小サイズ化への要求に対しても、凹部7の加工性を低下させることなく対応することができる。現状で数mm程度の軸径を有する軸部材2についても、動圧軸受装置1の小サイズ化に伴い更なる小径化が考えられるが、上述のように、非常に薄肉の窒化層15bが形成可能であれば、軸部材2全体の未硬化層に対する硬化層(ここでは窒化層15b)の割合を最小限に抑えて、軸部材2自体の靭性(耐疲労特性)を高く保つことができる。具体的には、軸部材2の軸径dに対する窒化層15bの厚みtの比t/dを0.05以下とすることで、軸受面となる周囲領域8の表面8aの硬度を高めつつも、軸部材2の靭性を高く保つことができる。
また、この実施形態では、軸素材11(軸部材2)が、硬度400Hv以下の金属材料で形成されているので、転造時、凹部7の加工性を高めることができる。また、転造時の変形抵抗も小さいので、転造ダイス12、13の継続使用に伴う摩耗を最小限に抑えて、かかるダイス12、13の使用寿命を延ばすことができる。
(c)バレル加工工程
この実施形態では、軸素材11に窒化処理を施した後、かかる軸素材11にバレル加工(例えば、遠心バレルや流動バレル、あるいはこれらを組合わせたバレル加工など)を施す。これにより、周囲領域8に形成された隆起部16が押し潰されながら除去され、周囲領域8の表面8aが、例えば図4に示すように平滑な状態に均される。また、この際、周囲領域8の表面8aのうち、少なくとも一部の領域(例えば隆起部16の形成領域)には、バレル加工による加工面(研磨面)が形成される。
この際、使用されるメディアとしては、バレル加工の実効性の観点から、軸部材2のサイズに対してある程度の大きさを有するものが使用される。そのため、凹部7の表面7a(底面7a1や内側面7a2)にはメディアの衝突はなく、周囲領域8の表面8aにメディアが衝突する。これにより、メディアとの衝突による加工硬化が周囲領域8の表層部15で生じ、かかる領域に、バレル加工による第2の加工硬化層15cが形成される(図4を参照)。この実施形態では、周囲領域8の表層部15が、窒化処理により形成される窒化層15bと、バレル加工により形成される第2の加工硬化層15cとで構成される。第2の加工硬化層15cは、先に形成される窒化層15bの最表層部分に重複して形成されている。
上述のように、凹部7を転造形成した軸素材11(軸部材2)の窒化処理後、軸素材11にバレル加工を施すことで、周囲領域8の表層部15に窒化層15b、および第2の加工硬化層15cを形成した軸部材2が得られる。これにより、軸受面となる周囲領域8の表面8aの硬度向上はもちろん、表面8aの平滑性(平面度)や凹部7の形状精度を高めることができる。特に、この実施形態のように、窒化処理の後にバレル加工を施すことによって、軸素材11への衝突痕や変形を極力抑えつつ隆起部16を除去して、軸受面(表面8a)の仕上げ精度をさらに高めることができる。
また、この実施形態のように、硬度400Hv以下の材料からなる軸素材11(表層部14、15の下層領域の硬さが400Hv以下である軸部材2)であれば、凹部7の転造時、周囲領域8に形成される隆起部16のサイズが小さくなり、かつバレル加工で容易に除去可能な形状となり易い。従って、このことによっても、軸受面(表面8a)の仕上げ精度を高めることができる。
また、この実施形態のように、溝状の凹部7(傾斜溝9a、9b)を転造で形成すると、凹部7の周縁部17にバリが発生することもあるが、適当な大きさのメディアを用いてバレル加工を施すことで、かかるバリを除去して、あるいは凹部7の周縁部17を適度に面取りすることができる。これにより、軸部材2の相対回転時、摺動相手面となる電鋳部4の内周面4aの摩耗を極力避け、あるいはかじり等の損傷を避けて、軸受の耐久性を向上させることができる。
バレル加工に使用されるメディアとしては、金属をはじめ、セラミックや樹脂など種々の材質からなるものが使用可能であるが、バレル加工による第2の加工硬化層15cを形成する観点から、比較的硬度の高い金属製やセラミックス柔のメディアを使用するのがよい。また、凹部7の形状を高精度に保つ観点から、凹部7の底面7a1に接触しない程度のサイズのメディアが好ましい。また、球状メディアの他にも、例えば多角形状や棒状のものなど、種々の形状を有するメディアが使用可能である。
また、この実施形態では、軸部材2に転造で形成された凹部7(傾斜溝9a、9b)との間にラジアル軸受隙間6を形成する軸受部材3の内周面を、電鋳部4の内周面4aで形成したので、かかる内周面4aを高精度に形成でき、これにより、ラジアル軸受隙間6をより狭小に設定することができる。むしろ、必要とされる軸受性能にもよるが、ラジアル軸受隙間6の幅を小さくかつ高精度に管理できるのであれば、複数の凹部7を複雑な形状(へリングボーン形状など)に配列させる必要はない。例えば後述する軸方向溝22や、ディンプル32のようなシンプルな形状の(より加工が容易な形状の)凹部7で構成される動圧発生部であっても、ラジアル軸受隙間に高い動圧作用をもたらすことが可能となる。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されることなく、他の構成を採ることもできる。以下、本発明の他構成を、図5〜図8に基づいて説明する。
上記実施形態では、凹部7を傾斜溝9aと傾斜溝9bとで構成し、かかる形状の凹部7をへリングボーン状に配列形成した場合を例示したが、例えば図5(a)に示すように、軸部材21の外周面21aに、凹部7としての軸方向溝22を形成することもできる。この場合、複数の軸方向溝22は、図5(b)に示すように、円周方向に所定間隔おきに形成される。これら軸方向溝22と、その周囲領域23とで動圧発生部24が構成される。従って、図示は省略するが、この軸部材21を、図1に示す軸受部材3の内周に挿入し、軸部材21を軸受部材3に対して相対回転させた状態では、潤滑油で満たされたラジアル軸受隙間に、動圧発生部24による潤滑油の動圧作用が生じ、これにより軸部材21を軸受部材3に対してラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部が形成される。
軸方向溝22を有する軸部材21は、上記実施形態と同様に(a)転造工程、(b)窒化処理工程および(c)バレル加工工程を経て形成される。これにより、例えば図6(a)に示すように、軸方向溝22の表層部25に、窒化処理による窒化層25bが形成される。また、軸方向溝22の周囲領域23の表層部26に、窒化処理による窒化層26bが形成されると共に、表面23aを含む表層部26の最表層部分に、バレル加工による第2の加工硬化層26cが形成される。表面23aには、バレル加工による加工面が形成される。
この実施形態においても、転造で形成された軸方向溝22の表層部25と、軸方向溝22の周囲領域23の表層部26にそれぞれ窒化処理による窒化層25b、26bを設けることにより、軸受面となる周囲領域23の表面23aの硬度向上を図ることができる。また、窒化処理に加えてバレル処理を施すことで、周囲領域23の表面23aの面精度を高めることができる。従って、高い軸受性能と耐摩耗性とを兼ね備えた動圧軸受装置用の軸部材21を得ることができる。
形成可能な軸方向溝22としては、図6(a)に示すように、断面形状が軸方向中心に向けて凸となる断面円弧状の曲面22aの他、例えば図6(b)に示すように、断面形状が外周面21aの円弧に対して弦となる平面22bで構成される軸方向溝22が考えられる。あるいは、図6(c)に示すように、平面22bと外周面21aとの間に段差が形成されるように、平面22bの円周方向両端に立ち上がり部22cを設けた構成の軸方向溝22や、図6(d)に示すように、溝深さが軸方向および円周方向に一定で、外径側に向けて凸となる断面形状の曲面22dで構成される軸方向溝22などが形成可能である。
軸部材21の外周に形成される軸方向溝22の本数は、潤滑油の動圧作用を考慮すると、3本以上が好ましい。同様の理由で、軸方向溝22の円周方向幅を示す円周角αは10°以上60°以下、軸方向溝22の溝深さh1は2μm〜20μmとするのが好ましい。また、低トルク化と高剛性化の両面から見た場合、周囲領域23の表面23aの全面積に対する、軸方向溝22の全面積の比(軸方向溝22の軸方向長さが均一とすると、上記面積比は{α/(360°−α)}となる。)は15%〜70%とするのが好ましい。
また、図5では、ラジアル軸受部を形成すべき領域(動圧発生部24)全体に亘って軸方向に延びた複数の軸方向溝22を円周方向に並列配置した構成を例示したが、この他にも、例えば図7に示すように、軸方向溝22を軸方向に断続的に設けた構成を採ることもできる。この他の構成は、動圧発生部24の軸方向全長に亘って延びる軸方向溝22を設ける場合に準じるので説明を省略する。
上記実施形態では、凹部7として傾斜溝9a、9bや軸方向溝22を例示したが、もちろん溝以外の形状をなす凹部7を形成することも可能である。図8(a)は、その一例を示すもので、軸部材31の外周面31aの一部領域に、凹部7としての複数のディンプル32が分散して配列されている。この場合、複数のディンプル32とそれらの周囲領域33とで動圧発生部34が構成される。従って、図示は省略するが、この軸部材31を、図1に示す軸受部材3の内周に挿入し、軸部材31を軸受部材3に対して相対回転させた状態では、潤滑油で満たされたラジアル軸受隙間に、動圧発生部34による潤滑油の動圧作用が生じ、これにより軸部材31を軸受部材3に対してラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部が形成される。
ディンプル32を有する軸部材31は、上記実施形態と同様に(a)転造工程、(b)窒化処理工程および(c)バレル加工工程を経て形成される。これにより、例えば図8(b)に示すように、ディンプル32の表層部35に、窒化処理による窒化層35bが形成される。また、ディンプル32の周囲領域33の表層部36に、窒化処理による窒化層36bが形成されると共に、表面33aを含む表層部36の最表層部分に、バレル加工による第2の加工硬化層36cが形成される。表面33aには、バレル加工による加工面が形成される。
この実施形態においても、転造で形成されたディンプル32の表層部35と、ディンプル32の周囲領域33の表層部36にそれぞれ窒化処理による窒化層35b、36bを設けることにより、軸受面となる周囲領域33の表面33aの硬度向上を図ることができる。また、窒化処理に加えてバレル加工を施すことで、周囲領域33の表面33aの面精度を高めることができる。従って、高い軸受性能と耐摩耗性とを兼ね備えた動圧軸受装置用の軸部材31を得ることができる。
ディンプル32の大きさとしては、例えば図8(c)に示すように、ディンプル32の長軸方向の幅aの、軸径dに対する比a/dを0.1以上0.4以下とするのが好ましい。また、ディンプル32の深さh2は、例えば軸部材31の外周面31aが臨むラジアル軸受隙間の幅の1〜10倍程度であることが好ましい。このサイズのディンプル32であれば、従来、軸部材に設けられる類のディンプルとは異なり、高い動圧作用を生じる動圧発生部34を構成可能であり、かつラジアル軸受隙間の幅が小さい場合でも、油溜りとして有効に作用する。また、低トルク化と高剛性化との観点から、周囲領域33の表面33aの全面積に対する、ディンプル32形成領域の総面積の比は10%〜70%とするのが好ましい。また、ディンプル32の形状として、例えば短軸幅bに対する長軸幅aの比a/bは、1.0(真円形状)以上2.0以下の範囲内であるのが実用上好ましいが、特に上記範囲外の形状をなすディンプル32であっても問題なく形成可能である。
上記実施形態では、凹部7として、傾斜溝9a、9bや軸方向溝22、ディンプル32などを例示したが、本発明は、ラジアル軸受隙間6などの軸受隙間に、潤滑油の動圧作用を生じるための凹部である限り、上記以外の形状をなす凹部7についても同様に適用することができる。
また、上記実施形態では、凹部7の具体的形状に関わらず、転造後の軸素材11に(b)窒化処理を施し、その後に(c)バレル加工を施す場合を例示したが、この順序に限る必要はない。例えば凹部7を転造で形成した後、(c)バレル加工、(b)窒化処理の順に処理を施すことも可能である。また、使用する軸素材11(軸部材2)の材料によっては、(a)転造工程時に生じる隆起部16が除去を必要とするほどの大きさ(高さ)とならない場合がある。このような場合には、(c)バレル加工工程を省略することも可能である。
以上説明した動圧軸受装置用軸部材およびこれを備えた動圧軸受装置は、例えば情報機器用のスピンドルモータに組み込んで使用可能である。以下、動圧軸受装置用軸部材31を上記モータ用のスピンドルに適用した構成例を、図9に基づいて説明する。なお、図1〜図8に示す実施形態と構成・作用を同一にする部位および部材については、同一の参照番号を付し、重複説明を省略する。
図9は、動圧軸受装置41を組み込んだモータ40の断面図を示している。このモータ40は、例えばHDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータとして使用されるものであって、軸部材31を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置41と、軸部材31に装着されたロータ(ディスクハブ)42と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル43およびロータマグネット44と、ブラケット45とを備えている。ステータコイル43は、ブラケット45の外周に取付けられ、ロータマグネット44はディスクハブ42の内周に取付けられている。ディスクハブ42には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚(図9では2枚)保持されている。ステータコイル43に通電すると、ステータコイル43とロータマグネット44との間の電磁力でロータマグネット44が回転し、それによって、ディスクハブ42及びディスクハブ42に保持されたディスクDが軸部材31と一体に回転する。
この実施形態において、動圧軸受装置41は、軸受部材46と、軸受部材46の内周に挿入される軸部材31とを備えている。軸受部材46は、一端を開口した有底筒状の電鋳部47と、電鋳部47と一体に形成される成形部48とからなる。軸受部材46は、例えばマスターと一体又は別体の電鋳部47をインサート部品として樹脂で成形部48と一体に射出成形される。
軸部材31の外周面31aには、図9に示すように、凹部7としての複数のディンプル32が形成されている。また、軸部材31の一端面31bは球面状をなし、軸部材31を軸受部材46の内周に挿入した状態では、対向する電鋳部47の底部47bの上端面47b1に当接する。また、軸部材31の外周面31aのうち、ディスクハブ42の固定領域となる端部領域には円環溝31cが形成される。円環溝31cを有する軸部材31は、例えば軸部材31をインサート部品とする型成形によりディスクハブ42と一体に形成される。この場合、円環溝31cは、ディスクハブ42の軸部材31に対する抜止めとして作用する。これ以外の構成は、上記実施形態における記載に準じるので説明を省略する。
上記構成の軸部材31を軸受部材46の内周に挿入し、軸受部材46の内部空間に潤滑油を注油する。これにより、電鋳部47の内周面47aや底部47bの上端面47b1と、これらに対向する軸部材31の外周面31aとの間の隙間空間、および軸部材31に形成されたディンプル32を含む軸受内部空間を潤滑油で充満した動圧軸受装置41が完成する。
上記構成の動圧軸受装置41において、軸部材31の回転時、軸部材31の外周面31aに形成された動圧発生部34は、対向する軸受部材46の内周面(電鋳部47の真円内周面47a)との間にラジアル軸受隙間49を形成する。そして、軸部材31の回転に伴い、ラジアル軸受隙間49の潤滑油が動圧発生部34による動圧作用を生じ、その圧力が上昇する。これにより、軸部材31をラジアル方向に回転自在に支持するラジアル軸受部R11が形成される。同時に、軸部材31の一端面31bと、これに対向する電鋳部47の上端面47b1との間に、軸部材31をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部T11が形成される。
以上より、この実施形態に係る動圧軸受装置1であれば、軸部材31と軸受部材46との間の摺動摩耗を低減することができる。従って、軸部材31に設けられたディンプル32あるいはその周囲領域33の摩耗によりラジアル軸受隙間49に生じる動圧作用が減少するといった事態を極力避けて、安定した軸受性能を長期に亘って発揮することが可能となる。
また、軸部材31の側に動圧発生部34(動圧作用を生じるための凹部7)を設けることで、かかる動圧発生部34を軸受部材46の側に設ける場合と比べ加工(特に、窒化処理やバレル加工)が容易である。そのため、上記モータの小サイズ化に対する要求にも容易に対応することができる。
なお、上記実施形態では、軸受部材3、46を、電鋳部4、47と樹脂製の成形部5、48とで構成した場合を例示したが、特にこの構成に限る必要はない。例えば、電鋳部4、47の代わりに、焼結金属製のスリーブ体を使用して軸受部材を構成することもできる。また、金属材料で軸受部材3、47を一体に形成したり、摺動性や耐摩耗性を高めた樹脂組成物で軸受部材3、47を一体に形成することも可能である。あるいは、モータ40側の部材であるブラケット45を、軸受部材46と同一の材料(金属又は樹脂など)で一体に形成することも可能である。
なお、図1や図9では、スラスト軸受部T1、T11をいわゆるピボット軸受で構成した場合を例示しているが、本発明は、動圧溝等の凹部とその周囲領域とで構成される動圧発生部で軸部材2をスラスト方向に非接触支持する動圧軸受にも適用可能である。この場合、軸部材2に、図示は省略するが、例えば軸部材2の外径側に張り出すフランジ部を設け、フランジ部の端面に、傾斜溝やディンプル等の動圧発生用の凹部を転造で形成し、次いで窒化処理を施すことで、スラスト軸受面となる面(凹部の周囲領域の表面)の硬度を高めることができる。
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1、41の内部に充満し、ラジアル軸受隙間等に動圧作用を発生させる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置の断面図である。 動圧軸受装置用軸部材に凹部を転造する工程を概念的に示す図である。 (a)は転造前の軸部材の外周面表層部付近の断面図、(b)は転造後の凹部およびその周辺領域の表層部付近の断面図、(c)は窒化処理後の凹部およびその周辺領域の表層部付近の断面図である。 バレル加工後の凹部およびその周辺領域の表層部付近の断面図である。 (a)は本発明の他実施形態に係る軸部材の側面図、(b)は軸部材の軸直交断面図である。 (a)は軸部材に形成された軸方向溝の一形状を示す拡大断面図、(b)〜(d)は何れも軸方向溝の他形状を示す拡大断面図である。 本発明の他実施形態に係る軸部材の側面図である。 (a)は他実施形態に係る軸部材の側面図、(b)は軸部材に形成されたディンプルの断面形状を示す拡大図、(c)はディンプルの平面形状を示す拡大図である。 本発明に係る動圧軸受装置を組込んだ情報機器用モータの一構成例を概念的に示す断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
3 軸受部材
4 電鋳部
5 成形部
6 ラジアル軸受隙間
7 凹部
8 周囲領域
8a 表面
9a、9b 傾斜溝
10 動圧発生部
11 軸素材
12、13 転造ダイス
14 表層部(凹部)
14b 窒化層(凹部)
15 表層部(周囲領域)
15b 窒化層(周囲領域)
15c 第2の加工硬化層(周囲領域)
21、31 軸部材
22 軸方向溝
32 ディンプル
23、33 周囲領域
24、34 動圧発生部
25、35 表層部
25b 窒化層
26、36 表層部
26b、36b 窒化層
26c、36c 第2の加工硬化層
40 モータ
41 動圧軸受装置
42 ディスクハブ
43 ステータコイル
44 ロータマグネット
46 軸受部材
49 ラジアル軸受隙間
R1、R2、R11 ラジアル軸受部
T1、T11 スラスト軸受部

Claims (4)

  1. 軸受隙間に流体の動圧作用を生じるための凹部が転造で形成された動圧軸受装置用軸部材において、
    前記転造で形成された凹部の表層部及び前記凹部の周囲領域における表層部に、前記転造後の窒化処理により前記軸部材の素材中に窒素が拡散浸透してなる窒化層が形成され、前記軸部材の外径に対する窒化層の厚みの比が0.05以下に設定されると共に、
    前記凹部の周囲領域における前記窒化層の最表層部分に、窒化処理後のバレル加工により加工硬化を生じた層である加工硬化層が窒化層と重複して形成されていることを特徴とする動圧軸受装置用軸部材。
  2. 前記表層部の少なくとも一部の領域が、バレル加工による加工面を有している請求項1記載の動圧軸受装置用軸部材。
  3. 前記凹部の表層部および前記凹部の周囲領域における表層部の下層領域の硬度が400Hv以下である請求項1記載の動圧軸受装置用軸部材。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載の動圧軸受装置用軸部材を備えた動圧軸受装置。
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