本発明は、結晶性多孔質酸化亜鉛にブリッジ配位子と希土類金属を修飾させた金属錯体からなる発光デバイス及びこの発光デバイスを用いたエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」ともいう。)に関する。
表示装置等に使用される発光デバイスとして、イーストマン・コダック社のC.W.Tangらグループによって、有機化合物の積層構造を有する有機EL素子が開発されて以来、有機EL素子の実現化に向けて様々な研究がなされている。
しかし、いまだ有機ELには製品として実現するには課題も多く、特に、現在の有機ELにおいて、緊急の課題とされているのは、長寿命化の問題である。有機ELの長寿命化を妨げる要因として、特に以下の点が問題となっている。
まず、酸素による有機EL層の劣化の問題がある。有機材料が用いられた電子輸送層や正孔輸送層は、これらの層の成膜工程自体や電極の成膜工程において系に酸素が存在すると、電子輸送層や正孔輸送層が酸化されて有機EL層としての性能の劣化を引き起こす可能性がある。
この点については、例えば、電極形成時の有機EL層へのダメージの緩和を目的として、有機EL層と電極との間にバッファ層を設けた有機EL素子が開示されている(特許文献1)。
次に、水分の問題がある。これは、有機EL素子の構成部分の表面に吸着している水分や有機EL内に侵入した水分が、電極界面における電子輸送層又は正孔輸送層の有機分子が活性化状態で水と反応し変性したり、電極と有機層との積層体中に水分が侵入して、電極と有機層との間で剥離を起こし通電しなくなりダークスポットを発生させたりする場合がある。
この点を改善する技術として、例えば、有機EL素子の内部の湿度を下げるため、有機EL素子を封止部材で封止するとともに、封止部材内部に吸湿剤を配設する技術等が開発されている(特許文献2等)。
しかし、これら解決技術は、有機EL素子自体の耐酸化性及び耐水分性を確保したものではなく、有機EL素子そのものの欠点を解決することなく、これら原因となる酸素及び水の遮断したにすぎないものであり、根本的な解決手段を提供するものではなかった。
特開平10−162959号公報
特開平09−148066号公報
本発明は、発光中心として希土類金属錯体分子を用い、電子輸送層又は正孔輸送層に有機化合物ではなく、無機化合物を用いるという新たな構成のハイブリッド型発光デバイスを提供するものであり、この構成によって酸化及び水分に強い発光デバイス及びこの発光デバイスを応用したELを提供することにある。
以上のような課題を解決するために、本発明者らは、亜鉛塩溶液からの結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜のカソード電析において、酸化亜鉛表面への配位性を有する部位と後の処理によって希土類イオンとの錯形成に用いられる部位を有する配位子(本明細書及び特許請求の範囲において「ブリッジ配位子」と呼ぶ。)を電析浴中に混合し、カソード分極して結晶性多孔質酸化亜鉛/配位子の複合膜を得て、若しくは、多孔質構造を形成するためのテンプレート分子を亜鉛塩溶液から成る電析浴に混合し、カソード分極して結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜を得た後に、これを前記ブリッジ配位子の溶液に浸漬して、同様にブリッジ配位子で表面修飾された結晶性多孔質酸化亜鉛を作成し、これら薄膜を希土類金属イオンを溶解させた溶液に浸漬させることで容易に錯体が形成されて発光を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の発光デバイスは、結晶性多孔質酸化亜鉛を主成分とする基部と、前記基部表面に修飾されたブリッジ配位子と希土類金属とで形成された金属錯体からなる発光部と、で構成したことを特徴とする。すなわち、無機化合物である結晶性多孔質酸化亜鉛が電子輸送層として機能し、希土類金属錯体が発光層として機能するものである。
本発明は、基部として結晶性多孔質酸化亜鉛が用いられる。結晶性多孔質酸化亜鉛としては、塩化亜鉛等のハロゲン化物亜鉛を水に溶解させ酸素を溶解した電解液、又は電気化学的還元性を有する硝酸亜鉛及び過塩素酸亜鉛等を水に溶解させた亜鉛塩を含む電解液中において、導電性基板をカソード分極することで当該導電性基板上に電解析出させた酸化亜鉛が挙げられる。溶存酸素の還元や硝酸イオン、過塩素酸イオンの還元に伴って生成するOH−イオンと亜鉛イオンが反応することによる酸化亜鉛生成を利用する。好ましくは、酸化亜鉛に対する吸着性を有するテンプレート化合物を混合した亜鉛塩を含む電解液中で、導電性基板をカソード分極して、導電性基板上に酸化亜鉛/テンプレート分子複合体を析出させた後、この酸化亜鉛/テンプレート分子複合体からテンプレート分子を除去してなる結晶性多孔質酸化亜鉛を用いるとよい。こうして作製された酸化亜鉛は、ワイヤー状の酸化亜鉛が相互に規則的に連結して全体として数マイクロメートルサイズの酸化亜鉛結晶が形成されており、3次元的にナノポアを有して高い比表面積を有するとともに、電子輸送に必要な高い結晶が両立されており、配位子の吸着性、電子輸送層としての機能性に優れるからである。
この結晶性多孔質酸化亜鉛の表面にブリッジ配位子が修飾されている。ブリッジ配位子は、希土類金属と酸化亜鉛との間で橋渡しの効果を有すると同時に、希土類金属と金属錯体を形成して、発光材料を形成する役割を果たすものである。ブリッジ配位子には、1分子中に金属イオンに対する配位性を示す部位を2種以上有する有機分子が用いられ、相手となる希土類金属イオンの種類によって位置選択的な配位化合物を形成しうるものであることが好ましい。好適には、2,2’-ビピリジン4,4-ジカルボン酸(以下「dcbpy」という。)、1,10-フェナントロリン-4,7-ジカルボン酸、2,2';6',2"-ターピリジン-4'-カルボン酸、2,2';6',2"-ターピリジン-4,4',4"-トリカルボン酸、2,2'-ビキノリン-4,4'ジカルボン酸、4-キノリンカルボン酸,2-(4-カルボキシ-2-ピリジニル)、ジベンゾ[b,j][1,10]フェナントロリン-5,8-ジカルボン酸から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上が挙げられる。
希土類金属としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのランタノイド系列元素が挙げられる。好ましくは、それぞれ赤、緑、青の発光を示すEu、Tb、Tm及びCeが挙げられる。
本発明の発光デバイスは、配位子から希土類イオンへのエネルギー移動によってフォトルミネッセンスを発現させると共に、空気中の水分を吸着して容易に分解しやすい希土類金属錯体をブリッジ配位子によって安定化させ、劣化の少ないフォトルミネッセンス等の発光デバイスを提供することができる。
さらに、本発明の発光デバイスには、希土類錯体の表面に、希土類と錯体を形成する配位子によるキャッピングを施すことができる。キャッピング配位子とは、ブリッジ配位子に吸着させた希土類金属と錯体を形成し、希土類錯体の安定化をもたらす配位子を指す。キャッピング処理を施すことよって希土類金属の錯体の安定化が図られ、発光強度が深まる。また、水分による耐性を向上させることができる。
キャッピング配位子としては、配位性を1箇所以上有する配位子であればよい。たとえば、R1COCR2COR3の一般式で表されるβ-ジケトン類[R1 R3は、炭素数1〜20のアルキル基、ハロゲン化した炭素数1〜20のアルキル基、炭素原子6〜20のアリール基、ヘテロ原子1個を含む5員又は6員の複素環式基を示す。R2は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、ハロゲン化した炭素数1〜20のアルキル基、炭素原子6〜20のアリール基、ヘテロ原子1個を含む5員又は6員の複素環式基を示す。]から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上が挙げられる。好ましくは、4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオン、1,10-フェナントロリン及びその誘導体、2,2'-ビピリジン及びその誘導体、2,2';6',2"-ターピリジン及びその誘導体から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上が挙げられる。
以上の構成を有する発光デバイスを応用し、ELとすることができる。具体的には、結晶性多孔質亜鉛薄膜を主成分としたN型半導体を作製し、このN型半導体をELでいう電子輸送層とし、ブリッジ配位子と希土類金属とで形成された金属錯体を発光層とし、無機化合物により作製されたP型半導体をELでいう正孔輸送層として、これらを積層し、その両外層に電極層を設けてELとする。
ELとするには、前述した発光デバイスに正孔輸送層を設ける。正孔輸送層としては、P型半導体として機能する物質無機化合物が選択される。たとえば、CuI、CuSCN、NiO、Cu2Oから選ばれるいずれか1種若しくは2種以上が挙げられる。
さらに、本発明のELにキャッピング層を設けるか否かは問わないが、発光層と、正孔輸送層の間に希土類と錯体を形成するキャッピング配位子によってキャッピングを施せば、より安定したELを形成することができる。キャッピング配位子としては、上記発光デバイスに用いた配位子と同様のものを用いることができる。
電極層の材料は、特に限定するものではなく、従来から提案されている種々の電極を用いることができる。例えば、電極としては、ITO、FTO、Au、Pt、Ag、Al、C、ITO等が例として挙げられるがこれに限定するものではない。陰極、陽極の材料の選択としては、トップエミッション型、ボトムエミッション型にするかによって陽極又は陰極のいずれかが透明電極であれば、仕事関数等の条件を考慮して適宜設定すればよい。好ましくは、陰極にITO、若しくはFTOを採用するとよい。
さらに、電極の少なくとも一方の外層に、基板を設けることができる。基板は、ガラスや透明な熱可塑性樹脂が用いられる。本発明のELは酸素、水分に強いため、外気に対して、ガラス並みのバリヤー性を必要としない。また、全ての材料は化学的、電気化学的原理によって100℃以下の低温で形成し得るため、基材は非耐熱性であっても良い。そのため本発明において基板は、単に発光デバイスの支えとしての役割を果たせばよく、バリヤー性が低く、高温に耐えない熱可塑性樹脂等のプラスチックを採用しても問題はない。
本発明によれば、発光層として希土類金属の錯体を用いた発光デバイスを、無機化合物に積層させることで作製することができる。しかも、低分子発光物質を用いながら、蒸着ではなく、浸漬又は電析によって作製することができるため、100℃以下の低温で発光デバイスを提供することができる。よって軽量且つ柔軟で割れにくい発光デバイスを提供できる。
また、真空プロセスを採用することなく作製することが可能であるので、作製コストの低減に貢献することができる。さらに、溶液の浸漬又は電析を中心にELを作製することになるため、真空プロセスの様に薄膜形成に利用されなかった化合物が蒸散することがない。本発明によっては、基本的に廃液処理ですむので、廃棄コストを低減することができて、この観点からも作製コストの低減に貢献することができる。
また、本発明は、希土類金属錯体を発光中心に用いているので、希土類を変更すること及び混合することで、多色の発光を発現することができる。また、これら希土類錯体及び基体である酸化亜鉛は可視光線を吸収しないために無色であり、演色性に優れた発光デバイスを提供出来る。
また、発光層に希土類錯体を用いながら、水分や酸化に強い発光デバイスを提供することができる。
さらに、発光デバイスを応用して、結晶性多孔質亜鉛薄膜を主成分としたN型半導体を作製して電子輸送層とし、ブリッジ配位子と希土類金属とで形成された金属錯体を発光層とし、無機化合物により作製されたP型半導体をELでいう正孔輸送層として、これらを積層し、その両外層に電極層を設けることで、容易にELを作製することができるようになる。
次に、本発明の発光デバイス及びこの発光デバイスを応用したELの実施の最良の形態を示すが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
(1)結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜の電気化学的作成
(a)方法1
導電性基板として、酸化スズドープ酸化インジウム(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの透明導電性セラミックスの薄い皮膜を透明ガラス板上に形成した透明導電性基板が用いられる。また、結晶性多孔質酸化亜鉛は高温で焼成する必要が無く、強酸、強塩基などの反応性の高い薬品も用いないので、ITO皮膜を表面に形成したPET樹脂などの透明なプラスチックを基板として用いても構わない。
導電性基板を使用前に、脱脂洗浄し、表面の活性化処理を行うことが好ましい。活性化処理としては、例えば、45%程度の硝酸水溶液に2〜3分間浸漬させて、表面を親水化し、酸素還元に対する活性化を行う方法、亜鉛塩を含まないKCl水溶液中で、対極にPt等の貴金属を用いて、基板を−1.0V(vs.SCE=飽和カロメル電極)程度でカソード分極し継続して酸化還元反応を行って、基板を活性化させる方法が挙げられる。勿論活性化方法は、これらに限定されるものではない。
この導電性基板を、亜鉛塩溶液中で温度、30℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃から80℃の間で、酸素ガスを流通させ浴中に酸素を溶存させた状態で、カソード分極することにより、結晶性の酸化亜鉛薄膜を得ることができる。亜鉛塩には、塩化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、あるいは硝酸亜鉛、過塩素亜鉛等を用いることができる。溶媒としては、主として水を用いるが、アルコールなどのプロトン性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピレンカーボネートなどの非プロトン性極性溶媒、あるいは混合溶媒を用いることができる。なお、亜鉛塩の濃度が充分高い場合(概ね50mM以上)は、原料は亜鉛塩のみでよいが、低い時は、支持電解質を適宜加えることで溶液の導電性を補う。ハロゲン化亜鉛を原料に用いる場合は、溶液中酸素を流通することで、酸素を溶解させる。これ以外の塩の場合は、脱気下でも構わないが、空気下など酸素が存在する条件であってもよい。
溶存酸素の還元や硝酸イオン、過塩素酸イオンの還元により、OH-イオンが電極近傍に生成し、生じたOH-イオンが亜鉛イオンと反応し、脱水することで結晶性多孔質酸化亜鉛が生じる。なお、この他過酸化水素、ベンゾキノン、亜硝酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸などの電気化学的に還元されて水酸化物イオンを生じるもの、若しくは還元反応にプロトン消費が伴うもの)を用いることができる。
(b)方法2
結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜として、本発明においては、酸化亜鉛に対する吸着性を有するテンプレート化合物を混合した亜鉛塩を含む電解液中において導電性基板をカソード分極して、当該導電性基板上に酸化亜鉛/テンプレート分子複合体を析出させた後、該酸化亜鉛/テンプレート分子複合体からテンプレート分子を除去してなる酸化亜鉛を用いることもできる。以下、この酸化亜鉛薄膜の形成方法について説明する。
ここでいうテンプレート化合物とは、カソード電析により形成される酸化亜鉛の内部表面に吸着される化合物をいう。テンプレート化合物は、化学吸着により酸化亜鉛のバルク内部に存在するのではなく、亜鉛イオンと錯体を形成して酸化亜鉛の内部表面に吸着される化合物であれば良い。このようなものは電気化学的に還元性を有し、これらが酸化亜鉛薄膜成長過程で還元され、求核性が増すことにより亜鉛イオンと錯体を形成し、これが酸化亜鉛結晶の内部表面に吸着されるためにそれ以上の結晶成長を抑制し、テンプレート化合物の分子サイズ+αの3次元的に連結したナノポアを結晶粒内に形成する化合物である。カルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有し、電気化学的に還元性を有する芳香族化合物などのπ−電子を有するものが好適であり、具体的に例示すれば以下の通りである。
キサンテン系色素のEosinY、フルオレセイン、エリスロシンB、フロキシンB、ローズベンガル、フルオレクソン、マーキュロクロム、ジブロモフルオレセイン、ピロガロールレッドなど、クマリン系色素のクマリン343など、トリフェニルメタン系色素のブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、フェノールフタレインなどがある。又、これら以外にシアニン系色素、メロシアニン系色素、ポルフィリン、フタロシアニン、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、インジゴ色素、オキソノール色素や天然色素のアントシアニン、クチナシ色素、ウコン色素、ベニバナ色素、カロテノイド色素、コチニール色素、パプリカ色素、Ru、Osなどのポリピリジン錯体などを挙げることができる。その他、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ヘキデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルリン酸ナトリウム、ヘキデシルリン酸ナトリウム等の他の界面活性剤を用いることも可能である。
酸化亜鉛薄膜を形成するカソード電析は、所望の基板の存在下、亜鉛塩を含む電解浴中で行う。亜鉛塩は、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛などを用いることができ、ハロゲン化亜鉛の場合は酸素を供給する(バブリング)が、酸素のバブルが電極に接触すると色素は酸化してしまい脱着不能となるので、電極にバブルが接触しないようにする工夫が必要である。亜鉛塩を用いる場合の対極としては、亜鉛、金、白金、カーボンなどが挙げられるが、特に亜鉛を用いると酸化亜鉛形成によって消費される分の亜鉛を供給する事ことができ、同時に溶液のPH低下を抑制出来できるので都合が良い。カソード分極により、酸化亜鉛の規則的薄膜構造が得られ、また酸化チタンのような熱処理が不要なことにより基板の選択性が広まる。多孔質酸化亜鉛薄膜は、テンプレート化合物を前記の電解浴に予め混合しておいてからカソード分極して酸化亜鉛とテンプレート分子の複合体薄膜を得る。さらに酸化亜鉛薄膜の内部表面に吸着されたテンプレート化合物を脱着手段を講じることにより得ることができる。これにより、酸化亜鉛薄膜の表面からテンプレート化合物を除去することにより、多数の空隙が形成され極めてポーラスで比表面積が増大した酸化亜鉛被膜が得られる。テンプレート化合物の脱着手段は、テンプレート化合物がカルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有する化合物であれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基の水溶液を用いて洗浄することで行えるが、これに限定されるものではなく、テンプレート化合物の種類に応じて適宜行うことができる。アルカリによる洗浄は、pH9〜13で行うことが好ましい。
具体的な例として、5mM ZnCl2 + 0.1M KCl +50μM EosinYを含み、酸素飽和された水溶液(70℃)中、−1.0V(vs.SCE),20min, 500rpmの定電位カソード分極によって、FTOガラス基板上酸化亜鉛/EosinY複合体薄膜を形成した後、膜をpH10.5の希KOH水溶液に浸漬してEosinY分子を除去することで得られた結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜の顕微鏡写真を図1に示す。この写真より明らかなように、作製された酸化亜鉛薄膜は、微粒子が集合して多孔質を形成しているのではなく、ワイヤー状の酸化亜鉛が相互に規則的に連結して全体として数μmサイズの酸化亜鉛結晶を形成しており、高い非常面積を得ると同時に速い電荷輸送に必要な高い結晶性を両立した結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜を提供することができる。
(2)結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜の表面へのブリッジ配位子の修飾
次いで、この結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜の表面にブリッジ配位子を修飾する。ブリッジ配位子を結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜に修飾するには、2通りの方法がある。1つは、結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜をブリッジ配位子溶液に浸漬して吸着させる方法であり、もう一つは、酸化亜鉛薄膜作製する際に、酸化亜鉛電析浴にブリッジ配位子を混合しておき、カソード電析して複合薄膜を作製する方法である。
(a)ブリッジ配位子溶液に浸漬して吸着させる方法
ブリッジ配位子には、1分子中に希土類金属イオンに対する配位性を示す部位を2種以上有する有機分子が用いられ、相手となる希土類金属イオンの種類によって位置選択的な配位化合物を形成しうるものが望ましい。好適なブリッジ配位子の例としては、dcbpyが挙げられる。dcbpyは、キレート配位子であるビピリジンは、希土類イオンと安定な錯化合物を形成するが、亜鉛のイオンとの結合安定は比較的小さく、一方で、dcbpyが有するカルボキシル基は亜鉛イオンとの親和性が高いため、dcbpyは、選択的にカルボキシル基を介して酸化亜鉛表面に吸着することができる。
多孔質酸化亜鉛薄膜の表面にブリッジ配位子を修飾するには、ブリッジ配位子を溶解した溶液に浸漬すればよい。例えば、上述の多孔質酸化亜鉛薄膜基板をdcbpyのエタノール溶液に浸漬することで、吸着させることができる。
(b)カソード分極して複合薄膜を作製する方法
多孔質酸化亜鉛薄膜作製時に、酸化亜鉛電析浴にブリッジ配位子を混合しておき、カソード分極することによっても酸化亜鉛薄膜/ブリッジ配位子の複合薄膜を作製することができる。具体的な例として、dcbpyを修飾する場合を示すと、FTO基板、対極に亜鉛線、参照極にSCE(飽和カロメル電極)とした三極一体型セルを用い、酸素飽和させた0.1M KCl、5mMZnCl2、200μM dcbpy水溶液中で、電位−1.0V vs.SCEにて20分間定電位電解を行うことによってZnO/dcbpy複合薄膜を作製することができる。dcbpy分子の表面吸着によって図2に示すような多孔質構造の薄膜が得られる。
(3)希土類イオンの吸着
以上のdcbpyを吸着させた多孔質酸化亜鉛薄膜又は酸化亜鉛薄膜/ブリッジ配位子の複合薄膜を希土類イオン溶液に浸漬すると、dcbpy分子がN原子を介して希土類イオンにキレート配位することで希土類イオンが吸着されて、発光性錯体が表面に形成されて発光層を形成する。例えば、EuCl3、TbCl3、TmCl3エタノール溶液に浸漬して吸着することで、Eu3+、Tb3+、Tm3+イオンが吸着されて、発光層をなすと考えられる。
以上により、本発明の発光デバイスが作製される。
(4)キャッピング処理
さらに、発光デバイスの錯体の安定化を図るためにキャッピング配位子を吸着させることができる。キャッピング配位子は、希土類金属と配位して、希土類錯体を覆い、かつ錯体の安定化を図るためのものであり、配位性を1箇所以上有する配位子であればよい。例えば、フェナントロリン、4,4,4-トリフルオロ-1-(2−チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)を用いた場合には、200μM TTAエタノール溶液に80℃、1時間浸漬することで好適にTTAを吸着させることができる。これにより、発光強度を増強させると共に、大気中の水分等による発光特性の劣化を抑制し、長期間安定な発光デバイスを提供できる。
以上の如く作製された発光デバイスを用いてELとして応用することができる。前述した発光デバイス、すなわち、多孔質酸化亜鉛薄膜にdcbpyを修飾し、希土類金属を吸着させて金属錯体を形成させたもの、又はこれにさらにキャッピング配位子を吸着させたもの、の表層にp型半導体の析出を行うことによってELとすることができる。例えば、p型半導体としてCuI、CuSCN、NiO、Cu2O等の層を電析や溶液のキャスト及び乾固によって形成することによって、好適なEL素子を作製することができる。図3に、本発明のELのうち、1つの例として、FTO電極、結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜、dcbpy、Eu、TTA、CuSCNからなるELの構造参考図が示した。勿論、これは一つの理論上のモデル図である。また、構成材料はこれに限定されるものではないことは当然である。
こうして作製されたEL素子は、N型半導体である結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜が電子輸送層として機能し、CuI、CuSCN、NiO、Cu2O等のP型半導体を用いた正孔輸送層として機能し、電子輸送層に修飾されたブリッジ配位子と希土類金属とで形成された金属錯体が発光層として機能することになる。
このEL素子の正孔輸送層の外層にそれぞれ適当な電極を配設して、ELとされる。電極の素材としては、限定するものではなく、従来より開発されている種々のものを用いることができる。
(実施例)以下、本発明の発光デバイスの実施例とともに、実験結果を示す。
本実施例における発光デバイスの製造フローを、図4に示す。基板として、アセトン、2−プロパノール、0.5%ビスタ溶液、蒸留水中でそれぞれ15分間超音波洗浄し、その後45%硝酸により2分間エッチング処理を行ったFTO基板を用いた。そして、このFTO基板を作用極として用い、対極を亜鉛線、参照極をSCEとした三極一体型セルを用い、酸素飽和させた0.1 KCl、5mM ZnCl2、200μM dcbpy水溶液中で電位E=−1.0VvsSCEにて20分間定電位電解を行いZnO/dcbpy複合薄膜を作製した。なお、浴温は70℃に保ち、作用極は、回転ディスクとし、回転数を500rpmで行った。その後希土類イオンを吸着するために、1mM EuCl3エタノール溶液に80℃で1時間浸漬してEu3+の吸着を行い、発光デバイスを得た。
実施例1の発光デバイスに電着されたdcbpyの存在及び酸化亜鉛薄膜に対する吸着を確認するための、Euのdcbpy金属錯体及び実施例1について、それぞれFTIRにて、スペクトルを測定した。その結果を表1に示す。
表1により、Eu3+のdcbpy金属錯体と実施例1のスペクトルから類似するA、B、Cの明確なエネルギーピークを示しており、dcbpyは、結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜に吸着していることを示している。なお、領域Bの約1600、1560、1400cm―1の3つのバンドは、C=C,C=N及び、dcbpyにおけるカルボン酸グループ(-CO2-)の伸縮振動によるものである。
表2に、実施例1の発光デバイスの励起スペクトル及び発光スペクトルを示す。
実施例1においては、330nmの紫外光励起により、613nmで最強となる赤色の発光が確認された。発光は肉眼ではっきりと確認出来る強度を有していた。モニター波長を613nmとして測定される励起スペクトルにおいて330nmに見られるピークはdcbpyの吸収帯を反映しており、dcbpyとEu3+の錯形成によってdcbpyからEu3+へのエネルギー移動とそれに伴う発光が生じていることが確認される。
さらに、実施例1の発光デバイスに対し、200μM TTAエタノール溶液80℃に1時間浸漬し、キャッピング配位子であるTTAの吸着処理を行い、キャッピングの効果をみる測定を行った。表3に、TTAでキャッピング処理した発光デバイスと、未処理の発光デバイスの蛍光スペクトル及び1ヶ月後の両サンプルの蛍光スペクトルを示す。
表3により、TTAによるキャッピング処理によって発光スペクトルの強度の増大が確認された。これはTTAの配位によってEu3+錯体の配位子場が安定化されて発光量子収率が向上したことによる効果であると考えられ、TTAによる錯体キャッピングが確認できた。さらに試料を大気中に1ヶ月放置した後の発光スペクトルを比較すると、未処理のものでは発光強度が若干低下するのに対してTTA吸着処理を行ったものは蛍光強度が強くなるという結果を得た。これによりキャッピング配位子が錯体の安定化に寄与していることが確認された。
実施例1に対して、希土類イオンの吸着として、1mM EuCl3エタノール溶液に代わって、1mM TbCl3エタノール溶液に80℃で1時間浸漬してTb3+の吸着を行い、実施例2の発光デバイスを得た。
得られた実施例2の発光デバイスの励起スペクトル及び発光スペクトルを表4に示す。
実施例2を270nmの紫外光で励起したところ、543nmで強度が最強となる緑色の発光が確認された。
本実施例における発光デバイスの製造フローを図5に示す。本実施例の発光デバイスは、実施例1に対して、希土類イオンの吸着として、1mM EuCl3エタノール溶液に加えて、さらに3mM TbCl3エタノール溶液に80℃で1時間浸漬してTb3+の吸着を行い、発光デバイスを得た。
このようにして得られた発光デバイスを、さらに1mM フェナントロリン溶液に1時間浸漬し、キャッピング処理を施した発光デバイスを得た。そして、キャッピング処理を行った発光デバイスと、キャッピング処理を行わなかった発光デバイスについて発光スペクトルを測定した。その結果を表5に示す。
表5により、EuとTbに由来する発光ピークが同時に確認され、希土類金属イオンの混合によって発光の色調を変化させ得ることが確認された。フェナントロリンによるキャッピング処理によっては、発光スペクトルに対して、大きな改善は確認できなかった。
その後、実施例3の発光デバイスについて、キャッピング処理を施した発光デバイスとキャッピング処理を施さなかった発光デバイスの両方を空気中に放置し、Eu錯体の613nmの発光ピークについて相対強度の経時変化を測定した。その結果を表6に示す。
表6より、キャッピング処理を施していない発光デバイスは、10日後には、元の発光強度の約90%程度、16日後には、40%強にまで減少が確認できるのに対し、キャッピング処理を施した発光デバイスは、発光強度は安定しているのが確認された。すなわち、キャッピング処理が酸素や水分による発光特性の劣化防止に寄与することが分かった。
本実施例における発光デバイスの製造フローを、図6に示す。本実施例の発光デバイスの結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜は、亜鉛塩とテンプレート分子を含む電解液中で、基板をカソード分極することにより、得られている。基板として、アセトン、2−プロパノール、0.5%ビスタ溶液、蒸留水中でそれぞれ15分間超音波洗浄し、その後45%硝酸により2分間エッチング処理を行ったFTO基板を用いた。そして、このFTO基板を作用極として用い、対極を亜鉛線、参照極をSCEとした三極一体型セルを用い、酸素飽和させた0.1 KCl、5mM ZnCl2、テンプレート分子である200μM EosinY水溶液中で電位E=−1.0Vvs.SCEにて20分間定電位電解を行いZnO/EosinY複合薄膜を作製した。なお、浴温は70℃に保ち、作用極は、回転ディスクとし、回転数を500rpmで行った。作製したZnO/EosinY複合薄膜をpH10.5に調整したKOH水溶液に浸漬させて色素脱着を行い、結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜を得た。こうして得られた結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜を200μM dcbpyエタノール溶液に浸漬してブリッジ配位子の吸着を行い、その後希土類イオンを吸着するために、1mM EuCl3エタノール溶液に80℃で1時間浸漬してEu3+の吸着を行い、実施例4の発光デバイスを得た。
得られた実施例4の発光デバイスに電着されたdcbpyの存在及び結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜に対する吸着を確認するため、結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜、200μM dcbpyエタノール溶液に浸漬してブリッジ配位子の吸着を行った結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜及び実施例4の各サンプルについて、FTIRでスペクトルを測定した。その結果を表7に示す。
約1400〜1600cm―1の3つのバンドは、C=C、C=N及び、dcbpyにおけるカルボン酸グループ(-CO2-)の伸縮振動によるものである。200μM dcbpyエタノール溶液に浸漬してブリッジ配位子の吸着を行った結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜及び実施例4の各サンプルにおいてピークが確認できることから、dcbpyエタノール溶液に多孔質酸化亜鉛薄膜を浸漬することで、dcbpyの吸着が可能であることが確認された。また、Eu3+の吸着処理後においてもdcbpyが脱離していないことが確認された。
次に、実施例4の発光スペクトルを表8に示す。
実施例4に対して、希土類イオンの吸着として、1mM TbCl3エタノール溶液に80℃で1時間浸漬してTb3+の吸着を行い、実施例5の発光デバイスを得た。
実施例5の発光スペクトルを表8に示してある。表8によって、Eu3+、Tb3+を吸着させた発光デバイスが、発光を示すことが確認された。また、実施例4、5ともに3つのピークを示し、これはdcbpy錯体に特異的なスペクトルであることから、希土類金属のエタノール溶液にdcbpyを吸着させた結晶性多孔質酸化亜鉛薄膜を浸漬することで薄膜上に錯体が形成されていることが確認された。また、dcbpy処理を省略して多孔質酸化亜鉛薄膜をEuCl3溶液に浸漬した試料は発光を示さなかった。発光性希土類錯体の形成にブリッジ配位子を用いることが必須であることが確認された。
次に実施例1の発光デバイスを用い、三極一体型セルを用いて0.1M Cu(ClO4)2、0.025M LiSCNエタノール溶液中で電析電位E=+0.2Vvs.Ag/AgClにて20分間電位電解を行うことで発光デバイス上に正孔輸送層としてのp型半導体であるCuSCNを析出した。作用極は実施例1の発光デバイスを用い回転電極によって回転数を500rpmとした。対極はPt線を用い、浴温は15℃で行った。CuSCNの電析後、その表面にAuを蒸着した。FTO基板を陰極とし、Auを陽極として、10Vの電圧を与えたところ、実施例1の発光デバイスと同様の発光が確認された。
以上、実施例において本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。たとえば、実施例においては、ブリッジ配位子と希土類金属とで形成された金属錯体を適用した発光部を備えた発光デバイスについて説明したが、発光部には、ブリッジ配位子と、Zn,Be,Al,Ir等の遷移金属若しくは典型金属との錯体を適用することも可能である。又、発光部に、発光性の有機分子を適用することも可能である。
本発明の発光デバイスは、光によって励起するフォトルミネッセンス (PL)、電界によって励起するエレクトロルミネッセンス (EL)、電子線によるカソードルミネッセンス (CL)等に利用することができ、自発光型のディスプレイ、照明器具等としての応用が可能である。
結晶性多孔質酸化亜鉛/テンプレート分子複合体からテンプレート分子を除去してなる結晶性多孔質酸化亜鉛の顕微鏡写真である。
ZnO/dcbpy複合薄膜によってdcbpy分子が表面に吸着された状態を示す顕微鏡写真である。
多孔質酸化亜鉛薄膜、ブリッジ配位子としてdcbpy、希土類金属としてEu3+を、正孔輸送層としてCuSCNを用いた場合の本発明の発光デバイスの基本構造を示す参考図である。
実施例1の発光デバイスの製造フローを示す図である。
実施例3の発光デバイスの製造フローを示す図である。
実施例4の発光デバイスの製造フローを示す図である。