本発明は、駆動基本周波数より高い周波数の信号(高周波電圧あるいは高周波電流)の印加に対し回転子が突極特性を示す交流電動機(例えば、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期電動機、巻線形同期電動機、同期リラクタンス電動機、回転子に永久磁石と界磁巻線をもつハイブリッド界磁形同期電動機、誘導電動機など)のための駆動制御装置に使用される回転子の位相(位置と同義)、速度を位置速度センサを利用することなく、すなわちセンサレスで推定するための回転子位相速度推定装置に関する。
交流電動機の高性能な制御は、いわゆるベクトル制御法により達成することができる。ベクトル制御法には、回転子の位相あるいはこの微分値である速度の情報が必要であり、従来よりエンコーダ等の位置速度センサが利用されてきた。しかし、この種の位置速度センサの利用は、信頼性、軸方向の容積、センサケーブルの引回し、コスト等の観点において、好ましいものではなく、位置速度センサを必要としない、いわゆるセンサレスベクトル制御法の研究開発が長年に行なわれてきた。
有力なセンサレスベクトル制御法として、駆動基本周波数より高い周波数の高周波電圧を電動機に強制印加し、これに対応した高周波電流を抽出・処理して回転子位相を推定する方法(いわゆる高周波電圧印加法)が、あるいは、駆動基本周波数より高い周波数の高周波電流を電動機に強制印加し、これに対応した高周波電圧を抽出・処理して回転子位相を推定する方法(いわゆる高周波電流印加法)が、これまで、種々、開発・報告されてきた。
以下の説明では、説明の簡明性を図るため、高周波電圧印加法と高周波電流印加法の両者を一括して呼称する場合には、高周波信号印加法と呼ぶ。印加高周波電圧と印加高周波電流の両者を一括して呼称する場合には、印加高周波信号と呼ぶ。また、これら対応した各々の応答値である高周波電流、高周波電圧の両者を一括して呼称する場合には、応答高周波信号と呼称する。
推定すべき回転子位相は回転子の任意の位置に定めてよいが、回転子の負突極位相または正突極位相の何れかを回転子位相に選定するのが一般的である。当業者には周知のように、負突極位相と正突極位相の間には、電気的に±π/2(rad)の位相差があるに過ぎず、何れかの位相が判明すれば、他の位相は自ずと判明する。以上を考慮の上、以降では、特に断らない限り、回転子の負突極位相を回転子位相とする。
高周波信号印加法の技術的な分類は、幾つか考えられるが、簡単な分類方法は、印加高周波信号の形状に基づく分類方法であろう。少なくとも先行発明によれば、基本的には、印加高周波信号の形状の相違によって、回転子位相推定値を決定するための基本原理、ひいては、回転子位相推定値を得るための応答高周波信号の処理方法も異なっている。このため、印加高周波信号の形状に基づく分類方法は、技術分類的には、合理性の高い分類方法であると言える。高周波信号印加法は、印加高周波信号の形状を正弦状とするものと、矩形状とするものとに大別される。先行発明における、正弦状の信号を印加する高周波信号印加法は、空間的に真円軌跡をもつ高周波信号を印加する方法と、空間的に非真円軌跡をもつ高周波信号を印加する方法とに大別される。空間的な非真円軌跡は、直線軌跡と楕円軌跡とに分類することができる。直線軌跡は、空間的には回転しない軌跡として捕らえることも、あるいは、楕円短軸がゼロで空間的に回転する楕円軌跡として捕らえることも、可能である。
本発明は、正弦状の信号を印加する高周波信号印加法であって、特に、空間的に非真円形軌跡をもつ高周波信号を印加する方法を対象としている。本発明と同類の印加高周波信号を用いる先行発明の中で、特に直線軌跡をもつ印加高周波信号(以下、この種の印加高周波信号を利用する高周波信号印加法を、直線形高周波信号印加法と呼称)を利用する先行発明としては、例えば、次のものがある。
(1)藍原隆司、「電動機の磁極位置検出装置」、特開平7−245981
(2)T.Aihara、A.Toba、T.Yanase、A.Mashimo、and K.Endo、“Sensorless Torque Control of Salient−Pole Synchronous Motor at Zero−Speed Operation”、IEEE Trans.on Power Electronics、Vol.14、No.1、pp.202−208(1999−1)
(3)セウン−キスル、ジョン−イクハ、「交流電動機の磁束基準制御方法及び制御システム」、特開2002−58294
(4)D.W.Chung、 J.I.Ha、 S.K.Sul、井出耕三、室北幾磨、沢俊裕、「誘導電動機の高周波電圧重畳による速度センサレスベクトル制御」、電気学会論文誌D、Vol.120、No.11、pp.1257−1264(2000−11)
(5)井手耕三、「同期電動機の磁極位置推定方法および制御装置」、特開2002−291283
(6)山本康弘、「PMモータの制御方法、および制御装置」、特開2003−153582
(7)J.H.Jang、S.K.Sul、J.I.Ha、K.Ide、and M.Sawamura:“Sensorless Drive of SMPM Motor by High−Frequency Signal Injection Based on Magnet Saliency”、Proc.of 17th IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition(APEC 2002)、Vol.1、pp.279−285(2002−3)
(8)山本康弘、「PMモータの制御装置」、特開2003−348896
上記文献で公開された、直線形高周波信号印加法における回転子位相の推定法について、回転子位相推定原理に着目し、概要を説明する。文献(1)、(2)は同一発明者である藍原らによるものであり、応答高周波信号のFFT処理を通じて、回転子位相を推定するものである。また、文献(3)〜(5)は、同一発明者であるSul、Haらによるものであり、回転子位相推定値に対して45度の変位をもつ直交座標系を考え、同直交座標系の各軸の印加高周波信号に基づくインピーダンスを検出し、各軸インピーダンスの差を利用して、再び回転子位相推定値を得るものである。文献(6)の方法は、高周波電流の座標変換処理を通じて、2倍の高周波をもつ信号を作成し、これを平滑化処理して、回転子位相を得るものである。文献(7)、(8)は、高周波電流の推定q軸上の成分に対して印加高周波信号に対してπ/2(rad)の位相遅れをもつキャリア信号と呼ばれる正弦信号を乗じて、回転子位相を検出するものであり、スカラーヘテロダイン法あるいは検波法とも呼ばれているものである。
先行発明による直線形高周波信号印加法のための位相推定法は、回転子速度はゼロまたはこれに準ずるものとして開発されており、本方法が有効に位相推定を行なえる運転速度範囲は、公開の実験結果によると、ゼロ〜数(rad/s)の極低速域に限定さており、これ以上の速度域では、安定な位相推定は期待できなかった。中には、文献(8)のように、平滑化処理等を追加に施すことにより、中〜高速域までの利用できるようにしたものもあるが、平滑化処理等の追加の代償として、位相推定の速応性(quick response)低減が要求された。
本発明と同類の印加高周波信号を用いる先行発明の中で、特に楕円軌跡をもつ印加高周波信号(以下、この種の印加高周波信号を利用する高周波信号印加法を、楕円形高周波信号印加法と呼称)を利用する先行発明としては、わずかに次の3件があるに過ぎないようである。
(9)新中新二、「交流電動機の回転子位相速度推定装置」、特願2006−27662
(10)新中新二、「突極形永久磁石同期モータセンサレス駆動のための速応楕円形高周波電圧印加法の提案、高周波電流相関信号を入力とする一般化積分形PLL法による位相推定」、電気学会論文誌D、Vol.126、No.11、pp.1572−1584(2006−11)
(11)鷲尾宏、富樫仁夫、岸本圭司、「高周波電流相関信号を利用した突極形永久磁石同期モータの軸誤差推定法」、平成19年電気学会全国大会講演論文集、4、pp.195−196(2007−3)
次に、上記の楕円形高周波信号印加法における回転子位相の推定法について、回転子位相推定原理に着目し、概要を説明する。文献(9)〜(11)に示された楕円形高周波信号印加法のための回転子位相推定法としては、「高周波電流相関信号法」と通称される方法があるに過ぎない。これは、推定dq座標系上の高周波電流の各成分の積(高周波電流相関信号と呼ばれる)をとり、これを処理して回転子位相推定値を得るものである。なお、高周波電流相関信号法は、文献(9)、(10)に示されている通り、本発明と同一発明者による発明である。
高周波電流相関信号法は、楕円形高周波信号印加法おける応答高周波信号が空間的に直線軌跡をとるか、あるいは近似的に直線と扱える軌跡をとることを適用の基本条件としている。楕円形高周波信号印加法による場合、一般に、低速域では本条件が満足され得るが、中〜高速域では文献(9)、(10)に示されたような特別な楕円形高周波信号印加法を除けば、本条件は達成されない。文献(11)では、平滑化処理等を追加に施すことにより、中〜高速域までの利用できるようにしているが、平滑化処理等の追加の代償として、位相推定の速応性(quick response)低減が必要であった。
以上のように、従来の直線形高周波信号印加法及び楕円形高周波信号印加法においては、応答高周波信号の軌跡は直線的であることを必要とした。これが保証されるゼロ速度を含む低速域では所期の性能を発揮できたが、これが保証されない条件下では所期の性能を発揮できなかった。また、直線形高周波信号印加法のための位相推定法は、楕円形高周波信号印加法の位相推定法としては基本的に利用できず、反対に、楕円形高周波信号印加法のための位相推定法は、直線形高周波信号印加法の位相推定法としては基本的に利用できないと言う、汎用性に乏しいものであった。
発明が解決しようとする課題
本発明は上記背景の下になされたものであり、その目的は、非真円軌跡をもつ高周波信号を印加する高周波信号印加法に基づく回転子位相速度推定装置において、応答高周波信号の軌跡が直線的でない場合にも、換言するならば中〜高速域においても、推定の速応性を低下することなく、回転子位相あるいはこれと微積分の関係を有する回転子速度を推定できる回転子位相速度推定装置を提供することにある。また、直線形高周波信号印加法と楕円形高周波信号印加法との両者に適用可能な汎用性の高い回転子位相速度推定装置を提供することにある。
本発明が対象とする回転子位相速度推定装置は、直線軌跡と楕円軌跡との両者を特別の場合として包含する非真円形軌跡をもつ高周波信号を印加する高周波信号印加法に基づくものであり、以降では、この種の高周波信号印加法を非真円形高周波信号印加法と呼称する。なお、長軸と短軸が同一となる軌跡は真円であり、真円の軌跡を有する高周波信号印加法に基づく回転子位相速度推定装置は、本発明の対象とするものではない。
課題を解決するための手段
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、駆動基本周波数より高い周波数ωhの高周波信号の印加に対し回転子が突極特性を示す交流電動機のための駆動制御装置に使用される回転子位相速度推定装置であって、回転子の位相に、ゼロ位相差で代表される一定位相差で同期を目指した準同期座標系上で、非真円形軌跡をもつ高周波数ωhの高周波信号を該交流電動機へ印加するようにした高周波信号印加手段と、印加高周波信号に対応した応答高周波信号を検出処理して、高周波数ωhで回転する座標系上で直流となる空間的に高周波数ωhで正回転する応答高周波信号正相成分相当値と高周波−ωhで回転する座標系上で直流となる空間的に高周波−ωhで逆回転する応答高周波信号逆相成分相当値の少なくとも何れかを抽出する正逆相成分抽出手段と、抽出した応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値の少なくとも1つを用いて、該準同期座標系の位相と、準同期座標系位相と該一定位相差をもつ回転子位相の推定値あるいはこれと基本的に微積分関係にある回転子速度推定値の少なくとも1つとを、生成する回転子位相速度生成手段と、を備えることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の回転子位相速度推定装置であって、応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値との両者を抽出するように該正逆相成分抽出手段を構成し、かつ、抽出した応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値との両者を用いて、先ず、該準同期座標系上で応答高周波信号が描く回転子位相自体と異なるが回転子位相と正相関をもつ楕円軌跡の長軸位相を検出し、次に、検出した長軸位相がゼロなどの予め決めた値に収斂するように、該準同期座標系の位相と、準同期座標系位相と該一定位相差をもつ回転子位相の推定値あるいはこれと基本的に微積分関係にある回転子速度推定値の少なくとも1つとを、生成するように該回転子位相速度生成手段を構成した、ことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2記載の回転子位相速度推定装置であって、該印加高周波信号を高周波電圧とし該応答高周波信号を高周波電流とすることを、または、該印加高周波信号を高周波電流とし該応答高周波信号を高周波電圧とすることを、特徴とする。
次に本発明の作用を、数式を用いて、詳しく説明する。以下に示す本発明の作用等に関する説明は、駆動基本周波数より高い周波数の高周波信号の印加に対し回転子が突極特性を示す交流電動機であれば、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期電動機、巻線形同期電動機、同期リラクタンス電動機、ハイブリッド界磁形同期電動機、誘導電動機などの何れの交流電動機にも適用される。埋込磁石形永久磁石同期電動機、同期リラクタンス電動機等は、駆動用電圧・電流に対して突極特性を示す。これらの電動機は、高周波信号に対しても同様に突極特性を示す。一方、駆動用電圧・電流に対しては突極特性を示さない表面磁石形永久磁石同期電動機、誘導電動機は、高周波信号に対しては突極特性を示す。ハイブリッド界磁形同期電動機は、永久磁石形と巻線形の両同期電動機の特性を有しており、高周波信号印加に対して突極特性を示し得る。特に、自励式ハイブリッド界磁同期電動機は、突極性が強い。
図1に示したように、制御設計者が指定した速度ωで回転するγδ座標系を考える。主軸(γ軸)から副軸(δ軸)への回転を正方向とする。また、一般性を失うことなく、回転子位相を回転子の負突極位相とする。更には、回転子の負突極がγ軸に対し、ある瞬時に位相θγをなしているものとする。以下に扱う交流電動機の物理量を表現した2x1ベクトル信号は、特に断らない限り、すべて本座標系上で定義されているものとする(正突極位相を回転子位相とする場合には、改めて断る)。
先ず、請求項1の発明の作用を説明する。説明上の混乱を避け、簡明性を維持するために、印加高周波信号を高周波電圧とし、対応の応答高周波信号を高周波電流として、説明する。また、同様な理由で、一般性を失うことなく、高周波信号の高周波数ωhは正とし、電動機も正回転するものとする。高周波の符号や電動機回転方向の符号が反転すると、応答高周波信号の正相成分や逆相成分の定義が反転し、説明に混乱を起こすことがある。本前提は、この混乱を避けるためである。
電動機駆動用の電圧に、位相推定用の高周波電圧を重畳印加することを考える。この場合には、次のように、固定子の電圧v1、電流i1、鎖交磁束φ1は、大きくは2成分の合成ベクトルとして表現することができる。
(1)式右辺の信号の脚符f,hは、それぞれ駆動周波数、高周波の成分であることを示している。特に、(1)式各3式の第2項であるν1h,i1h,φ1hの3信号が、本発明と深く関係する、印加された高周波電圧、この応答としての高周波電流、印加高周波電圧に起因した高周波磁束、を各々示している。なお、位相推定用に重畳印加した高周波電圧の周波数ωhは、次の(2)式の関係が成立する十分に高いものとする。
ここに、Iは2x2単位行列であり、Jは次式で定義された2x2交代行列である。
また、R1は固定子巻線の抵抗であり、記号sは微分演算子d/dtである。
(2)式が成立する場合には、高周波電圧の印加に対し回転子が突極特性を示す交流電動機における固定子の高周波成分に関しては、次の(4)〜(6)式の関係が成立する。
ここに、Li、Lmは固定子の同相インダクタンス、鏡相インダクタンスであり、いわゆるd軸、q軸インダクタンスとは次の関係を有する。
なお、鏡相インダクタンスは、回転子位相として負突極位相を選定する場合には負となり、正突極位相を選定する場合には正となる。
(4)、(5)式より、高周波電圧に対する高周波電流は、次の(8)式の関係を満足することになる。
高周波電流を駆動用電流から平易に分離するには、両電流の周波数の開きを大きくすることが望ましい。これには、γδ座標系を、回転子位相(負突極位相)にゼロ位相差で正確に同期したdq座標系に追随させ(図1参照)、γδ座標系上で強制印加すべき高周波電圧指令を生成し、これに対応した高周波電流を得るようにすればよい。実際の追随には、若干の追随誤差たる位相差(すなわちγ軸からみた回転子位相)を伴うことになるので、γδ座標系は、回転子位相へゼロ位相差で位相同期を目指した準同期座標系となる。以降では、特に断らない限り、γδ座標系は、回転子位相へゼロ位相差で位相同期を目指した準同期座標系とする。また両座標系は、特に断らない限り、同義で使用する。
ここで、非真円形の印加高周波電圧の第1の例として、文献(1)、(2)、(5)〜(8)で使用された次の直線形高周波電圧を考える。
(9)式を(8)式に用いて整理すると、(9)式の印加高周波電圧に対応した応答高周波電流として、次の高周波電流が発生する。
ただし、K
ωは、(12)式で定義された周波数比であり、R(・)は、(13)式で定義されたベクトル回転器であり、u
p(・)、u
n(・)は、(14)式で定義された、一定高周波数ωhをもつ正相信号、逆相信号を意味する2x1単位信号である。
(11a)、(11b)式は、(14)式の考慮より、応答高周波電流の逆相成分と正相成分を意味していることがわかる。また、(11a)、(11b)式に示した逆相成分、正相成分は、共に、(13)式の考慮より、回転子位相情報θγを有していることもわかる。
次に、非真円形の印加高周波電圧の第2の例として、次式で記述された速応楕円形高周波電圧を考える。
ただし、Kは、設計者に選定が委ねられた、次の性質を持つ設計パラメータである。
一般に周波数比に関し|K
ω|<1が成立するので、(16)式の条件の下では、2x1ベクトルを意味する(15)式の第1成分と第2成分の振幅は異なる。(15)式の第1成分と第2成分は、π/2(rad)の位相差を有し、更に、しかも振幅は異なっている。本事実は、(15)式の印加高周波電圧は、楕円軌跡を描くことを意味している。なお、このときの楕円は、その長軸と短軸が、回転速度に比例した周波数比に応じて(従って、速度に応じて)変化するので、楕円は速応楕円となる。
(15)式を(8)式に用いて整理すると、(15)式の印加高周波信号に対応した応答高周波信号として、次の高周波電流が発生する。
(18a)、(18b)式は、(14)式の考慮より、各々、応答高周波電流の正相成分と逆相成分を意味していることがわかる。また、(18a)、(18b)式に示した正相成分、逆相成分は、共に、(13)式の考慮より、回転子位相情報θ
γを有していることもわかる。なお、(17)式の応答高周波電流には、(15)式に示したように印加高周波電圧の振幅を速応的に変化させた効果として、回転子速度の影響が排除されている。すなわち、応答高周波電流は、回転子の速度如何にかかわらず、一様である。
応答高周波電流(18)式と応答高周波電流(11)式とは、対応の夫々印加高周波電圧の形状は大きく異なるが、回転子位相情報の応答高周波電流での含まれ方に関しては、両者は同一と言えるほどの高い類似性が存在する。この点には特に注意されたい。
以上、非真円形の印加高周波電圧の代表的な例として、速度如何にかかわらず一定振幅の直線形高周波電圧と、速度に応じて第1、第2成分の振幅を共に変更する速応振幅の楕円形高周波電圧と、の2例を示した。また、何れの非真円形印加高周波電圧による場合にも、応答高周波信号である応答高周波電流は、正相成分と逆相成分に2分され、かつ何れの成分も回転子位相情報を有することを示した。回転子位相情報の両応答高周波電流への含まれ方は、同一と言えるほどの高い類似性があることも示した。印加高周波信号を高周波電流とし、応答高周波信号を高周波電圧とする場合にも、同様なことが言える。すなわち、一般に、駆動基本周波数より高い周波数ωhの高周波信号の印加に対し回転子が突極特性を示す交流電動機に、非真円形高周波信号を印加する場合には、印加高周波信号に対応した応答高周波信号は、正相成分と逆相成分から構成され、各成分は共に、高い類似性を有する形で回転子位相情報を有する。
請求項1の発明によれば、「課題を解決するための手段」の欄で説明したように、回転子位相速度推定装置は、高周波信号印加手段と、正逆相成分抽出手段と、回転子位相速度生成手段と、を有することになる。このときの正逆相成分抽出手段は、印加高周波信号に対応した応答高周波信号を検出処理して、空間的に正回転する応答高周波信号正相成分相当値と空間的に逆回転する応答高周波信号逆相成分相当値の少なくとも何れかを抽出することができる。本発明で言う正逆相成分相当値とは、正逆相成分自体、あるいは正逆相成分の処理信号、あるいは正逆相成分の良好な近似値を意味する。既に数式を用いて具体的に明らかにしたように、応答高周波信号正相成分相当値、応答高周波信号逆相成分相当値の何れも、回転子位相情報を有するので、正逆相成分相当値の少なくともいずれかを1つを用いれば、回転子位相に同期を目指した準同期座標系の位相を生成し、生成した座標系位相を利用して、回転子の位相と速度の少なくとも何れかの推定値を生成する回転子位相速度生成手段も構成できることなる。このときの正逆相成分相当値は、既に数式を用いて具体的に明らかにしたように、非真円形の印加高周波信号の形状が異なっていても、速度如何にかかわらず、一定振幅であろうとなかろうと(換言するならば、速応形であろうとなかろうと)、非真円形を維持していれば、高い類似性を有する形で回転子位相情報を有する。以上より当業者には明らかなように、請求項1の発明による正逆相成分抽出手段を備えた、非真円形高周波信号印加法を利用した位相速度推定装置は、印加高周波信号が非真円形であれば、非真円形の細部形状に依存することなく汎用性のある形で、更には、回転子の速度に依存することなく、回転子の位相情報を抽出できるようになると言う作用が得られる。
続いて、請求項2の発明による作用について説明する。(10)、(11)式の応答高周波電流は、正相成分と逆相成分から構成されることを意味している。応答高周波電流が本2成分から構成されると言うことは、とりも直さず、応答高周波電流は楕円軌跡を描くことを意味する。楕円軌跡の長軸の位相をθ
γeとすると、これは、(10)、(11)式の応答高周波電流に関しては、正相成分と逆相成分による長軸位相に対する鏡相特性より、(19)式のように求めることができる。
(20)式のγsは、交流電動機のインダクタンスによって定まる突極比である((7)式参照)。
(19)式は、応答高周波電流の長軸位相θγeは、回転子位相θγとは同一ではないが、回転子位相と相関を有していることを示している。図2(a)は、(19)、(20)式に基づき、周波数比|Kω|=|ω/ωh|=0.2を条件に、回転子位相と楕円長軸位相の関係を描画したものである。
同図より、回転子位相が約0.7(rad)以内であれば、回転子位相と長軸位相との間には正の相関が存在することが確認される。図3は、回転子位相が約0.7(rad)であることを条件に、応答高周波電流の楕円軌跡の様子を、概略的に示したものである。同図では、γδ座標系の基軸であるγ軸から位相を評価している。また、d軸位相が回転子位相を示している。応答高周波電流に対応した非真円形高周波電圧(すなわち、(9)式)は、これまでの説明と整合性が維持されるように、γδ座標系上で印加されているものとしている。
以上は、(9)式の非真円形高周波電圧の印加に対応した(10)、(11)式の応答高周波電流の挙動の説明であるが、他の非真円形高周波電圧を印加した場合も、類似性の高い応答高周波電流が発生する。例えば、(15)式の非真円形高周波電圧の印加に対応した(17)、(18)式の応答高周波電流も楕円軌跡を描くが、この時の楕円長軸位相と回転子位相の関係は、正相成分と逆相成分による長軸位相に対する鏡相特性より、次式となる。
(21)式は、設計パラメータKを周波数比の絶対値|K
ω|に形式的に置換すると、(19)式と同一である。図2(b)は、(20)、(21)式に基づき、設計パラメータK=0.2を条件に、回転子位相と楕円長軸位相の関係を描画したものである。図2(b)は、図2(a)と同一の特性をもつことが、両図の比較より明らかである。当然のことながら、図3に概略的に示した応答高周波電流の楕円軌跡は、(9)式の非真円形高周波電圧のみならず、(15)式の非真円形高周波電圧を印加した場合にも、有効である。
非真円形高周波電圧を印加した場合には、一般に、応答高周波電流に関し、(19)式、(21)式の関係が得られる。非真円形高周波電圧の具体的な形状に応じて、同式おける係数である、周波数比の絶対値|Kω|や設計パラメータKが形式的に変わるに過ぎない。一般に、応答高周波電流の長軸位相θγeは、回転子位相θγとは同一ではないが、突極比が0.1以上で、回転子位相が約0.7(rad)以下であれば、回転子位相と正の相関を有する。
(19)式、(21)式で具体的に示した、回転子位相と応答高周波電流の楕円長軸位相の正の相関は、本発明を通して新規に解明されたものである点には、特に注意されたい。非真円形高周波信号印加法における本正相関を考慮するならば、このための回転子位相の推定戦略として、次のものが新規に考案できる。
(a) γδ座標系上での応答高周波電流楕円長軸位相θ
γeを検出する。
軸から評価したγδ座標系の位相(γ軸位相と同義)を調整する(図1参照)。
回転子位相(d軸)に収斂したことを意味し(すなわち、γδ座標系が準同期座標系となったことを意味し)、α軸から評価したγδ座標系位相が、α軸から評価した回転子位相推定値となる(図1参照)。
上記(a)〜(c)の推定戦略の実現には、応答高周波電流の長軸位相の検出が特に重要である。応答高周波電流の楕円軌跡は、同正相成分と同逆相成分により生じている。従って、楕円長軸の位相の検出は、正逆相の両成分を利用するのが、合理的である。正逆相の両成分を利用する場合には、電動機パラメータを利用することなく、長軸位相の検出することが可能となる。たとえば、この1方法として、本発明と同一発明者により、真円の高周波電流あるいは高周波電圧を印加する真円形高周波信号印加法のためのに発明された鏡相推定法がある。鏡相推定法は、真円形高周波信号印加において、高周波磁束あるいは高周波電流が、回転子位相に対して鏡相特性を示すことを利用したものである。非真円形高周波信号印加においては、高周波磁束あるいは高周波電流は、回転子位相に対して鏡相特性を示さない。しかし、非真円形高周波電圧印加法では、応答高周波電流の正相成分と逆相成分が、楕円長軸位相に対して鏡相特性を示す。本発明に関連して新たに導出した(19)式、(21)式がこれを裏付けている。なお、真円形高周波信号印加法に関連して、本発明と同一発明者により発明された鏡相推定法の詳細は、次の文献に詳しく説明されている。
(12)新中新二、「同期電動機のベクトル制御方法」、特開2002−051597
(13)新中新二、「交流電動機のベクトル制御方法及び同装置」、特開2002−171799
(14)新中新二、「同期リラクタンス電動機のベクトル制御方法及び同装置」、特開2002−199799
(15)新中新二、「交流電動機のベクトル制御方法及び同装置」、特開2003−274700
以上の説明は、基本的に、非真円形の印加高周波信号として高周波電圧を、これに対応した応答高周波信号として高周波電流を対象としたものである。非真円形の印加高周波信号として高周波電流を、これに対応した応答高周波信号として高周波電圧を対象とする場合にも、既に当業者には容易に理解できるように、同様な議論が展開できる。若干の違いは、応答高周波信号の長軸楕円が回転子位相(負突極位相)に対して、±π/2(rad)シフトする点にあるに過ぎない。図4(a)に、印加高周波電流に対応した応答高周波信号である高周波電圧の様子を概略的に示した。図4(a)では、回転子位相は、これまでの議論と同様、負突極位相に選定している。同図では、準同期座標系たるγδ座標系がd軸とπ/2(rad)シフトしたq軸へ収斂する様子、換言するならば、長軸位相がd軸に対してπ/2(rad)の位置へ収斂している様子を示している。これに対して、図4(b)は、回転子位相を正突極位相とした場合の例である。図4(b)と図3との比較より明白なように、非真円形高周波電流印加おいて回転子位相を正突極位相に選定する場合には、非真円形高周波電圧印加において回転子位相を負突極位相に選定した場合と、同様な位相関係が得られる。
請求項2の発明は、応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値との両者を抽出するように該正逆相成分抽出手段を構成し、かつ、抽出した応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値との両者を用いて、先ず、準同期座標系上で応答高周波信号が描く楕円軌跡の長軸位相を検出し、次に、検出した長軸位相がゼロなどの予め決めた値に収斂するように、回転子位相に同期を目指した準同期座標系の位相を生成し、生成した座標系位相を利用して、回転子の位相と速度の少なくとも何れかの推定値を生成するように該回転子位相速度生成手段を構成するものである。推定戦略を交えた上記説明より既に明らかなように、請求項2の発明によれば、電動機パラメータを利用することなく、応答高周波信号が描く楕円軌跡の長軸位相を検出できるようになる。ひいては、電動機パラメータを利用することなく、準同期座標系の位相に加えて、回転子の位相推定値、速度推定値を得ることができると言う作用が得られる。
続いて、請求項3の発明の作用について説明する。本発明のよる非真円形高周波信号印加法において、適切に回転子位相を推定するには、入力信号である高周波信号を、所定の非真円形状を正確に維持した上で、印加する必要がある。高周波信号の実際の印加は電力変換器を介して行なうことを考慮すると(後掲の図5を参照)、電圧形電力変換器を利用する場合には、印加高周波信号を高周波電圧とすると、所定の非真円形状を正確に維持し易い。一方、電流形電力変換器を利用する場合には、印加高周波信号を高周波電流とすると、所定の非真円形状を正確に維持し易い。請求項3の発明によれば、印加高周波信号を高周波電圧とし応答高周波信号を高周波電流とするか、または、印加高周波信号を高周波電流とし応答高周波信号を高周波電圧とすることができる。この結果、請求項3の発明によれば、電圧形電力変換器、電流形電力変換器の何れによる場合にも、所定の非真円形高周波信号を正確に維持・印加できるようになると言う作用が得られるようになる。この作用の波及結果として、請求項1、あるいは請求項2の作用を、達成しやすくなると言う作用も得られるようになる。
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明する。代表的な交流電動機ある同期電動機に対し、本発明の回転子位相速度推定装置を備えた駆動制御装置を適用した1実施形態例を図5に示す。本発明の主眼は回転子位相速度推定装置にあるが、電動機駆動制御システム全体における回転子位相速度推定装置の位置づけを明示すべく、あえて、駆動制御装置を含む電動機駆動制御システム全体から説明する。1は同期電動機を、2は電力変換器(電圧形)を、3は電流検出器を、4a、4bは夫々3相2相変換器、2相3相変換器を、5a、5bは共にベクトル回転器を、6は電流制御器を、7は指令変換器を、8は速度制御器を、9はバンドストップフィルタを、10は本発明を利用した位相速度推定器を、11は係数器を、12は余弦正弦信号発生器を、各々示している。図5では、1の電動機を除く、2から12までの諸機器が駆動制御装置を構成している。本図では、簡明性を確保すべく、2x1のベクトル信号を1本の太い信号線で表現している。以下のブロック図表現もこれを踏襲する。
電流検出器3で検出された3相の固定子電流は、3相2相変換器4aで固定αβ座標系上の2相電流に変換された後、ベクトル回転器5aで回転子位相へゼロ位相差で位相同期を目指した準同期座標系の2相電流に変換される。変換電流からバンドストップフィルタ9を介して駆動用電流を抽出し、これを電流制御器6へ送る。電流制御器6は、準同期座標系上の駆動用2相電流が、各相の電流指令に追随すべく準同期座標系上の駆動用2相電圧指令を生成する。ここで、位相速度推定器10から受けた2相の高周波電圧指令を、駆動用2相電圧指令に重畳させ、重畳合成した2相電圧指令を、ベクトル回転器5bへ送る。5bでは、準同期座標系上の重畳合成の電圧指令を固定αβ座標系の2相電圧指令に変換し、2相3相変換器4bへ送る。4bでは、2相電圧指令を3相電圧指令に変換し、電力変換器2への指令として出力する。電力変換器2は、指令に応じた電力を発生し、同期電動機1へ印加しこれを駆動する。
位相速度推定器10は、ベクトル回転器5aの出力である固定子電流を受けて、回転子位相推定値、回転子の電気速度推定値、及ぶ高周波電圧指令を出力している。回転子位相推定値は、余弦正弦信号発生器12で余弦・正弦信号に変換された後、準同期座標系を決定づけるベクトル回転器5a、5bへ渡される。
準同期座標系上の2相電流指令は、当業者には周知のように、トルク指令を指令変換器7に通じ変換することにより得ている。速度制御器8には、位相速度推定器10からの出力信号の1つである回転子速度推定値(電気速度推定値)が、一定値である極対数Npの逆数を係数器11を介して乗じられ機械速度推定値に変換された後、送られている。図5の本例では、速度制御システムを構成した例を示しているので、速度制御器8の出力としてトルク指令を得ている。当業者には周知のように、制御目的がトルク制御にあり速度制御システムを構成しない場合には、速度制御器8は不要である。この場合には、トルク指令が外部から直接印加される。
本発明の核心は位相速度推定器10にある。速度制御、トルク制御の何れにおいても、位相速度推定器10には何らの変更を要しない。また、駆動対象電動機を誘導電動機等の他の交流電動機とする場合にも位相速度推定器10には何らの変更を要しない。以下では、速度制御、トルク制御等の制御モードに関し一般性を失うことなく、更には、駆動対象の交流電動機に対して一般性を失うことなく、位相速度推定器10の実施形態例について説明する。
図6に、本位相速度推定器10の1実施形態例を示した。本位相速度推定器10は、非真円形高周波電圧指令器(HFVCと表示)10−1、正逆相成分抽出器10−2、及び位相速度生成器10−3から構成されている。非真円形高周波電圧指令器10−1は、準同期座標系(γδ座標系)上で非真円形軌跡をもつ高周波数ωhの高周波信号を該交流電動機へ印加するようにした高周波信号印加手段を実現したものである。正逆相成分抽出器10−2は、印加高周波信号に対応した応答高周波信号を検出処理して、空間的に高周波数ωhで正回転する応答高周波信号正相成分相当値と空間的に高周波−ωhで逆回転する応答高周波信号逆相成分相当値の少なくとも何れかを抽出する正逆相成分抽出手段を実現したものである。位相速度生成器10−3は、抽出した応答高周波信号正相成分相当値と応答高周波信号逆相成分相当値の少なくとも1つを用いて、回転子位相に同期を目指した準同期座標系の位相を生成し、生成した座標系位相を利用して、回転子の位相と速度の少なくとも何れかの推定値を生成する回転子位相速度生成手段を実現したものである。
位相速度推定器においては、先ず、非真円形高周波電圧指令器で高周波電圧指令を生成する。非真円形高周波電圧指令としては、例えば、(9)式、(15)式に各々基づいた次の(22)、(23)式などを使用すればよい。
高周波電圧指令の生成に使用する振幅Vhと周波数ωhとは、原則として一定値であるので、予め定めておけばよい。なお、(23)式を使用する場合には、準同期座標系の速度を用いて周波数比を決める必要があるが、準同期座標系速度は、位相速度生成器10−3から得ることができる(後述の段落56参照)。
高周波電圧指令が、駆動用電圧指令に重畳されて、電力変換器を介して、交流電動機に印加されると、この応答として固定子電流が流れる。正逆相成分抽出器10−2は、固定子電流(ベクトル)を受け取ると、これをバンドパスフィルタリング処理して、これに含まれる高周波電流正相成分と高周波電流逆相成分とを抽出し、抽出した両成分を位相速度生成器へ渡す。正逆相成分を分離抽出するためのバンドパスフィルタとしては、D因子フィルタして当業者に広く知られている2入力2出力フィルタを利用すればよい。D因子フィルタの実現には、高周波ωhが必要であるが、非真円形高周波電圧指令器からもらうようにしてもよいし、原則一定であるので、予め設定してもよい。図7は、正逆相成分抽出器を、2連のD因子フィルタを用いて構成した例である。なお、D因子フィルタは、本発明と同一発明者により発明されたものである。
位相速度生成器10−3は、高周波電流正相成分と同逆相成分を受け取ると、これを処理して、回転子位相の位相と速度の推定値を生成・出力している。このときの回転子位相と準同期座標系の位相とを、図3のように予め定義しておけば、すなわち、準同期座標系はゼロ位相差で回転子位相に同期を目指すものとしておけば、準同期座標系の位相と速度は、各々、回転子の位相推定値と(電気)速度推定値と基本的に同一となり、位相速度生成器の構成が簡単になる。本実施形態例では、最も簡単でひいては最も実際的な、図3のようにゼロ位相差での同期を想定している。図8に、位相速度生成器の1実施形態例として、最も実際的なゼロ位相差同期を想定したものを示した。本例では、位相速度生成器は、長軸位相検出器10−3aと位相同期器10−3bから構成されている。
長軸位相検出器10−3aは、高周波電流正相成分と同逆相成分を利用して、両成分が長軸位相に対して有する鏡相特性に基づき、γδ座標系(準同期座標系)の基軸γ軸からみた高周波電流楕円の長軸位相を検出している。鏡相特性に基づく位相検出の基本原理は、本発明と同一発明者による文献(12)〜(15)に詳しく説明されている。本発明に好適な形は、次のものである。
非真円形高周波信号印加法における上の(24)式は、(19)、(21)式、ひいては、図2と本質的に等価であることを、数学的に証明することが可能である。
位相同期器10−3bは、本発明と同一発明者によって体系化された一般化積分形PLL法に忠実に基づき構成されている。これは、次式で表現される。
図9は、(25)式の基づく位相同期器10−3bの内部構成を示したものである。位相同期器は、γδ座標系(準同期座標系)の位相と速度ωを出力する。このときのγδ座標系はゼロ位相差で回転子位相へ同期を目指しているので(図1、図3参照)、γδ座標系の位相はそのまま、固定αβ座標系からみた回転子位相の推定値となっている。すなわち、γδ座標系位相から回転子位相推定値の生成に必要とされる、一定位相差(ゼロ位相差)加減は、実質消滅する。回転子に同期を目指した準同期座標系の速度は、当然のことながら回転子速度推定値となる。図9の例では、回転子速度推定値(準同期座標系の速度)は、積分器を通して準同期座標系の位相を生成することにより、準同期座標系位相の純粋微分値として生成している。本速度は、回転子速度推定外部に対しては、速度制御のための係数器11へ向け出力される。また、必要に応じて、内部の非真円形高周波電圧指令器10−1に対しても送られる((22)、(23)式参照)。図6では、必要性の有無を考慮し、非真円形高周波電圧指令器10−1への出力を破線で示している。図6、図8、図9に示した実施形態例では、位相速度生成器は、準同期座標系の位相に加え、回転子位相推定値(準同期座標系位相と同一)と回転子速度推定値(準同期座標系速度と同一)とを生成している(図1参照)点には、注意されたい。
本発明の実施形態例の説明に利用した図5の駆動制御システムは、駆動すべき交流電動機として同期電動機を選定している。この同期電動機として、特に、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期電動機、同期リラクタンス電動機を対象としする場合には、図5の構成をそのまま使用することができる。巻線形同期電動機、回転子に永久磁石と界磁巻線をもつハイブリッド界磁形同期電動機などの他の同期電動機に関しては、当業者には既に明らかなように、界磁巻線に関する制御の追加が必要であるが、本発明である位相速度推定器に関しては、変更は必要としない。誘導電動機を駆動対象にした駆動制御システムにおいて、本発明の位相速度推定器を活用するには、従来の位相速度推定器を本発明のものと単純に置換すればよい。誘導電動機を駆動対象にし、位相速度推定器を用いた代表的な駆動制御システムは、たとえば、本発明の発明者による文献(15)を通じ既に公開されている。仮に文献(15)の駆動制御システムを対象とするならば、本単純置換は、文献(15)の図11における「ベクトル位置推定器」ブロックと「HFV」ブロックとを、本発明の位相速度推定器ブロック1個で置換することで、完了する。
図5をはじめとする諸図を用いて説明した以上の実施形態例は、電力変換器としては、基本的に電圧形のものを想定した。請求項3の発明の作用に関する説明で述べたように、電流形の電力変換器を利用する場合には、印加高周波信号としては高周波電流を選定し、これに対応した高周波電圧を処理して回転子位相を推定するようにした方がよい。この場合の位相速度推定器の構成は、図6に示したものと原理的には同一である。印加高周波信号と応答高周波信号との変更に伴う位相速度推定器の変更は、位相速度推定器の出力信号としての高周波信号と入力信号としての高周波信号にあるに過ぎない。位相速度推定器の内部での実質的な変更はない。具体的には、図6におけるHFVC10−1を非真円形高周波電流指令を出力するためのブロックとして扱い、かつ正逆相成分抽出器への入力高周波信号を応答高周波電圧とすればよい。また、これに対応して、回転子位相の定義を負突極位相から正突極位相へ変更すればよい(図3、図4参照)。
以上、本発明に関し、各種の図を利用しつつ複数の実施形態例を用いて具体的かつ詳しく説明した。上記説明の本発明は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者によって本発明の技術的範囲を外れない範囲内で多様な変形及び変更が可能であり、前述した実施例及び添付図面に限定されるものではないことを指摘しておく。
発明の効果
以上の説明より明白なように、本発明は以下の効果を奏する。請求項1の発明によれば、正逆相成分抽出手段を備えた非真円形高周波信号印加法を利用した位相速度推定装置は、印加高周波信号が非真円形であれば、非真円形の細部形状に依存することなく汎用性のある形で、更には、回転子の速度に依存することなく、回転子の位相情報を抽出できるようになると言う作用が得られた。本作用の結果、請求項1の発明によれば、直線形高周波信号印加法と楕円形高周波信号印加法との両者に適用可能な汎用性の高い回転子位相速度推定装置を、更には、中〜高速域においても、推定の速応性を低下することなく、回転子位相あるいはこの微分値である回転子速度を推定できる回転子位相速度推定装置を構成できると言う効果が得られる。
次に、請求項2の本発明による効果を説明する。請求項2の発明によれば、電動機パラメータを利用することなく、回転子の位相、速度の推定値を得ることができると言う作用が得られた。ひいては、請求項2の発明によれば、電動機パラメータの変動にロバストな回転子位相速度推定装置を構成できると言う効果が得られる。ひいては、請求項1の効果を高めることができると言う効果も得られる。
続いて、請求項3の本発明の効果を説明する。請求項3の発明によれば、電圧形電力変換器、電流形電力変換器の何れによる場合にも、所定の非真円形高周波信号を正確に維持・印加できるようになると言う作用が得られた。ひいては、請求項3の発明によれば、請求項1、あるいは請求項2の作用を、達成しやすくなると言う作用が得られた。本作用の結果、請求項3の発明によれば、請求項1あるいは請求項2の発明の効果を更に高めることができると言う効果が得られる。
3種の座標系と回転子位相の1関係例を示す図
回転子位相と応答高周波信号の長軸位相との正相関の1関係例を示す図
応答高周波電流の楕円軌跡の1例を示す図
応答高周波電圧の楕円軌跡例とdq座標の選定例を示す図
1実施形態例における駆動制御装置の基本構成を示すブロック図
1実施形態例における位相速度推定器の基本構成を示すブロック図
1実施形態例における正逆相成分抽出器の基本構成を示すブロック図
1実施形態例における位相速度生成器の基本構成を示すブロック図
1実施形態例における位相同期器の基本構成を示すブロック図
符号の説明
1 同期電動機
2 電力変換器
3 電流検出器
4a 3相2相変換器
4b 2相3相変換器
5a ベクトル回転器
5b ベクトル回転器
6 電流制御器
7 指令変換器
8 速度制御器
9 バンドストップフィルタ
10 位相速度推定器
10−1 非真円形高周波電圧指令器
10−2 正逆相成分抽出器
10−3 位相速度生成器
10−3a 長軸位相検出器
10−3b 位相同期器
11 係数器
12 余弦正弦信号発生器