本発明は、光触媒と、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂と、カルシウムよりもイオン半径の大きい金属の水酸化物及び/又はカルシウムよりもイオン半径の大きい錯イオンと、を溶媒に分散又は溶解させて調製した光触媒塗料を提供するものである。
光触媒塗料は、任意の塗布対象物(以下、「被塗布物」という。)に塗布することで、被塗布物に塗膜面を形成し、撥水性でありながら光触媒効果を付与することが可能となる。
本実施形態に係る光触媒塗料の着目すべき効果としては、以下の点を挙げることができる。
(1)菌やカビなどの微生物の繁殖を効果的に抑制できる点。
(2)光触媒の作用領域を飛躍的に拡大できる点。
(3)空気中に浮遊する有害物質を効率的に分解できる点。
(4)付着した汚れを容易に除去できる点。
ここではまず、本実施形態に係る光触媒塗料の理解を容易とするために、上記(1)〜(4)の効果について、発明の概要を交えながら順に説明する。
(1)菌やカビなどの微生物の繁殖を効果的に抑制できる点。
本実施形態に係る光触媒塗料は、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂をバインダーとした光触媒塗料である。このスルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂は、一般に「ナフィオン(登録商標)」として知られている樹脂である。なお、以下において当該樹脂を単に「ナフィオン」ともいう。
ナフィオンは、光触媒が励起した場合であっても侵されにくく、塗膜が劣化してしまうのを効果的に防止することができる。
しかしながらナフィオンは、塗料の分野で親水性樹脂に分類される樹脂であり、通常、その塗膜面は親水性を示す。それゆえ、単にナフィオンをバインダーとし、光触媒を分散させて調製した光触媒塗料は、形成した塗膜が水分を引き寄せてしまうこととなり、菌やカビなどの繁殖を助長してしまう場合がある。これは、屋内に塗布して塗膜を形成した場合において特に顕著に現れる。
また、水分中には、微生物の成育に必要な栄養素が溶解している場合も多く、光触媒が励起しにくい屋内において、水分と、栄養と、空気とが相俟って、微生物の成育に好適な条件となっている場合があった。
そこで、本実施形態に係る光触媒塗料では、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物及び/又はカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンを含ませるようにしている。
カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物や、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンは、ナフィオンに親水性を付与する官能基、すなわち酸性のスルホ基(-SO3H)と中和反応して、ナフィオンの親水性を弱める働きを有している。なお、以下の説明において、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物と、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンとの両者を総称して「中和剤」という場合がある。
また、中和剤は、両者ともカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有することとしている。これは本発明者らの鋭意研究によって明らかになったことであり、後にその実験結果を説明するが、金属イオンを含む化合物を中和剤とした時はその金属のイオン半径がカルシウムのイオン半径以上であり、また、錯イオンを中和剤とした場合には、その錯イオンのイオン半径をカルシウムのイオン半径以上とすることにより、塗膜面の疎水性がより強く現れる。なお、以下の説明において、金属の水酸化物を中和剤とした時の金属のイオンや、錯イオンを総称して「中和剤イオン」ともいう。
この現象は、ナフィオンのスルホ基に結合した中和剤イオンの半径が、カルシウムのイオン半径を以上となると、ナフィオンに結合した中和剤イオン同士が互いに影響を及ぼして、蛇行していた直鎖状のナフィオン分子が直線状に伸び、分子構造内のフッ素が外側を向くことにより起こるものと考えられる。
これにより、ナフィオンの親水性は減殺又は失われ、塗膜は疎水性を示すこととなる。
したがって、本実施形態に係る光触媒塗料により形成された塗膜面は、微生物の繁殖に必要な水分を寄せ付けることなく、微生物の繁殖を効果的に抑制することができる。この効果は、特に、日光の当たりにくい屋内において有用である。
(2)光触媒の作用領域を飛躍的に拡大できる点。
一般に、塗料を被塗布物に塗布して形成した塗膜は、バインダーとしての樹脂分子が複雑に絡み合って網の目の様な構造を有している。
図1Aに、従来の光触媒塗料で形成した塗膜10の断面構造の模式図を示す。なお、図中において、塗膜10内の網掛けの粗さは、前述の網の目の大きさを示しているが、理解を容易とするために、その大きさは必ずしも正確ではない。また、符号13は、被塗布物を示している。
図1Aからもわかるように、従来の光触媒塗料で形成した塗膜10は、バインダーが非常に緻密に絡み合って形成されており、バインダーの網の目は密な状態となっている。
したがって、有機物(四角で示す)が塗膜10の内部に侵入することはなく、光触媒12による反応は、表面11に表出した光触媒12のみにより行われるため、光触媒の機能は低い。図中において、星形は、有機物の分解によって生じた生成物(以下、分解物ともいう。)を示している。なお、光触媒12による劣化に耐性を有するシリケート系バインダーにより構成された塗膜も同様の構造である。
一方、図1Bに示すように、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、前述したように、バインダーとしてのナフィオンが直線状に伸びて粗い網の目構造を形成しているため、特にガス状の有機物は光触媒塗膜20の内部に至るまで浸透可能である。
また、光触媒塗膜20は、薄膜とすることにより光を透過させることができるため、光触媒塗膜20の内部に埋没した光触媒も励起可能である。
それゆえ、表面21上に表出した光触媒12で光触媒反応を生起できるのは勿論のこと、光触媒塗膜20内部の光触媒によっても光触媒反応を生起することができる。このように、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した塗膜は、光触媒の作用領域を飛躍的に拡大することができる。
(3)空気中に浮遊する有害物質を効率的に分解できる点。
前述したように、図1Bに示す本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、図1Aに示す従来の塗膜10に比して、粗い網の目構造を有している。
従来の光触媒塗料で形成した塗膜10は、図1Aに示すように、例えばガス状有害物質などの有機物(四角で示す)は、塗膜10の内部に侵入することができないため、表面11に接近しても再び離れていってしまう。
したがって、光触媒12による反応は、表面11に表出した光触媒12のみにより行われており、分解物(星形で示す)の生成は僅かである。
一方、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、表面21近傍に存在する光触媒12で光触媒反応を生起して有機物の分解を行えるのは勿論のこと、上述したように、バインダーとしてのナフィオンが直線状に伸びて粗い網の目構造を形成しているため、特にガス状の有機物は光触媒塗膜20の内部に至るまで浸透する(図1B参照。)。
それゆえ、光触媒塗膜20内部の光触媒によって、光触媒反応により有機物を分解することができ、その分解物もまた、再び光触媒塗膜20外へ放出することができるため、効率よく有害物質を分解することができる。
特に近年では、室内のアセトアルデヒドによって誘発されるシックハウス症候群が懸念されているが、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、このようなガス状の有害物質に対して非常に有効である。換言すれば、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、屋外使用で有用であるのは勿論のこと、屋内使用においてさらに有用性を発揮する。
また、同様に、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、後に試験結果を示すが、抗菌成分を含む抗菌塗膜を下層とし、同光触媒塗膜20を上層とする積層塗膜構造において、抗菌塗膜中に含まれる抗菌成分を、容易に透過させて、光触媒塗膜20表面に表出させ、放散させることも可能である。
(4)付着した汚れを容易に除去できる点。
本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、その表面21が疎水性を示す。したがって、水分に馴染みやすい汚れを寄せ付けにくく、仮に付着した場合であっても、容易に除去することが可能である。
このことは、表面21において、外観上の汚れが付着しにくく、また、除去が容易であるのは勿論のこと、微生物が繁殖する上で必要な養分の供給を絶ち、また、容易に除去できるという観点から、微生物の繁殖抑制とも密接な関係にある。すなわち、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜20は、微生物の繁殖に必要な栄養供給を低減することによっても、微生物の繁殖を抑制する。
本実施形態に係る光触媒塗料は、上述のような効果を生起することのできる光触媒塗膜20を形成することができる。
これは、本実施形態に係る光触媒塗料を、光触媒と、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂と、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物及び/又はカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンと、を溶媒に分散又は溶解させて調製したことに由来する。
ここで光触媒は、金属酸化物系の物質であって、紫外線や可視光線などの光で励起されて、水を分解或いは過酸化物の発生を生じる顔料成分であれば特に限定されるものではなく、例えば、チタニア、酸化鉄、酸化銅、酸化タングステン、チタン酸リチウム、チタン酸ストロンチウム等、半導体になるような金属を使用することができる。また、これらの金属酸化物にはその特性に応じて適宜側鎖等を修飾するようにしても良い。
また、前記光触媒は、可視光応答型の光触媒とすると良い。例えば、本発明の光触媒塗料を、屋内の防菌塗料や防カビ塗料として使用する場合、太陽光が無くとも、屋内照明などにより塗料中の光触媒を励起させることができる。
この可視光応答型の光触媒は、例えば硫黄ドープ型の酸化チタンや、Ptで表面の一部を修飾した酸化チタンや、窒素ドープ型の酸化チタンを好適に用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、屋内の照明目的で使用される照明器具等から放射される可視光線により励起可能な光触媒であれば良い。
これらの光触媒は、調製後の光触媒塗料中において、0.1重量%〜50.0重量%、好ましくは、0.5重量%〜10.0重量%が含まれるようにする。このような配合割合とすることにより、十分な光触媒効果を享受することができる。
また、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂は、調製後の光触媒塗料中において、0.5容量%〜90.0容量%、好ましくは、2.0容量%〜60.0容量%が含まれるようにする。
また、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物は、この条件に合致する物であれば特に限定されるものではない。すなわち、金属イオンを含む化合物としては、水酸化物、無機のアニオンをカウンターイオンとする化合物、水素化物、窒化物、酸化物などを挙げることができる。なかでも好適には、前記化合物は水酸化物とすることができ、具体例を挙げれば、水酸化カルシウム、水酸化バリウムや、水酸化カリウム、またはこれらの混合物を用いることができる。カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物を水酸化物とすることにより、水和した際に弱アルカリ性を示す化合物等に比して、効率的に中和を行うことができるため、使用する中和剤の量を少なくすることができる。
このカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物は、調製した光触媒塗料中において、0.01重量%〜10.0重量%、好ましくは、0.1重量%〜2.0重量%とする。このような配合割合とすることにより、十分な撥水効果を享受することができる。
また、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンは、例えば、テトラアンミン銅イオンや、ヘキサシアノ鉄イオンや、アルミン酸、またはこれらの混合物とすることができる。特に、前記錯イオンをテトラアンミン銅イオンとした場合には、形成した塗膜に抗菌、抗カビ、抗ウイルス効果を付与することが可能となる。このことについては、後に試験データを参照しながら説明する。
このカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンは、添加したスルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂の容量に対して、0.01容量%〜10.0容量%、好ましくは、0.2容量%〜5.0容量%とする。このような配合割合とすることにより、十分な撥水効果を享受することができる。
併せて、前記光触媒は、銅を担持させた可視光応答型の光触媒としても良い。これにより、さらに銅による殺菌効果を向上させることができ、しかも、紫外線の少ない屋内照明の光であっても効率的に光触媒効果を生起することができる。
そして、光触媒塗料中には、上述の錯イオンに含まれる銅や光触媒に含まれる銅が6重量%以上の割合で含まれるのがより好ましい。銅の含量を6重量%以上とすることにより、銅による殺菌効果を飛躍的に向上させることができる。したがって、塗膜面に光が当たらない条件下(以下、「暗条件下」ともいう。)であっても、殺菌効果を生起することが可能となる。
溶媒は、アルコール系が好ましい。好適なアルコール系溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールや、n−プロピルアルコールや、エチルアルコールや、メチルアルコールや、ブタノールを挙げることができる。
この溶媒の量は、調製した光触媒塗料中において、5.0容量%〜80.0容量%、好ましくは、20.0容量%〜60.0容量%とする。このような配合割合とすることにより、各溶質を十分に分散又は溶解させることができる。
また、この光触媒塗料には、電気的に中性な界面活性剤を添加するようにしても良い。本発明に係る光触媒塗料は、界面活性剤を添加することにより、より塗装性を向上させることができる。この電気的に中性な界面活性剤としては、例えば、ジエチルポリシロキサンや、ジメチルポリシロキサンや、ポリメチルシロキサンを好適に用いることができる。
この界面活性剤の量は、調製した光触媒塗料中において、0.002容量%〜5.0容量%、好ましくは、0.01容量%〜0.5容量%とする。このような配合割合とすることにより、より塗装性を顕著に向上させることができる。
また、この光触媒塗料には、疎水性樹脂をさらに添加するようにしても良い。この疎水性樹脂は、本発明に係る光触媒塗料全量の約2〜40重量%程度添加することにより、光触媒が励起した場合であっても塗料自身が侵されにくく、かつ、疎水傾向の強い塗装面を形成することができ、しかも、単位量当たりの価格を安価とすることができる。
また、この光触媒塗料には、多孔性を有する吸着材を添加するようにしても良い。多孔性を有する吸着材を添加することにより、塗装面に空気中に存在する有害物質等を引き寄せて光触媒効果による分解の効率を向上させることができる。
付言すれば、一般の光触媒塗料は、光触媒の有機物分解能に耐性を有するバインダーを使用していない場合、吸着材が光触媒の有機物分解能によって侵されてしまい、急速に吸着材の効果が失われてしまうという課題がある。
また、光触媒の有機物分解能に耐性を有するバインダーを使用した場合であっても、例えば、前述のシリケート系のバインダーのように網の目が細かすぎるバインダーにあっては、有害物質等を効率的に分解することはできないという問題もある。
本実施形態に係る光触媒塗料では、光触媒の有機物分解能に耐性を有し、しかも、比較的粗い網の目を形成することのできるスルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂をバインダーとして使用することとしたため、光触媒が励起した場合であっても、塗膜中に吸着材を安定して存在させることができ、しかも、吸着材による有害物質の吸引効果を最大限に生かすことができる。すなわち、バインダーが、吸着材を光触媒の有機物分解能から守ることとなる。また、本実施形態に係る光触媒塗料は、疎水性を有しているため、疎水傾向を有する吸着材であっても塗料中に比較的容易に分散させることができる。
光触媒塗料に添加する吸着材としては、無機系吸着材、炭素系吸着材、有機系吸着材等を挙げることができる。
無機系吸着材としては、例えば、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、アルミノリン酸塩型モレキュラーシーブ、メソ多孔質シリカ等を好適に使用することができる。
シリカゲルは、親水性を有しているため、水分やアルコール等の極性を有する物質の吸着に提起している。また、活性アルミナの表面は、シリカゲルよりも極性が強く、酸性と塩基性との両方の性質を併せ持っている。また、シリカゲルに比して耐水性や耐熱性に優れ、様々な種類の物質を吸着することができるため、応用範囲を広範囲とすることができる。また、ゼオライトは、アンモニアや硫化水素など、分子径が小さく極性を有する物質の吸着に適している。
炭素系吸着材としては、例えば、活性炭やカーボンモレキュラーシーブを挙げることができる。活性炭は、疎水性の吸着材として知られており、炭化水素の吸着に効果を発揮することができる。例えば、メチルメルカプタンやB.T.X等の分子量の大きい物質や、有機溶剤等を吸着するのに適している。また、そのほか、ハロゲンガス、ハロゲン化水素、硝酸、鎖式炭化水素類、環式炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アニリン、二硫化炭素、亜硫酸ガス、青酸ガス、硫化水素、臭化メチル、塩化ビニル、ホスフィン、アンモニア等の吸着に有用である。
カーボンモレキュラーシーブは、疎水性であるため、炭化水素を吸着するのに適している。極性分子よりも非極性分子の吸着に適している。
有機系吸着材としては、例えば、植物系吸着材や、合成系吸着材やバイオマス吸着材を挙げることができる。植物系吸着材は、植物から抽出された成分を用いることができ、例えば、ポリフラパン誘導体、セドレン系化合物、タンニン酸、タンニン、フラボノイド、アビエチン酸等とすることができる。
また、吸着材は、無機系吸着材、炭素系吸着材、有機系吸着材をそれぞれ単独で使用しても良いが、これらを混合した混合吸着材とすることにより、より広範の物質を吸着可能な塗膜を形成することができる。
また、上述してきた材料により調製した光触媒塗料は、繊維加工品に塗膜を形成することで、光触媒が励起した際に繊維加工品が侵されてしまうことを防止しながらも、繊維加工品に光触媒の機能や抗菌効果を容易に付与することができる。ここで、繊維加工品は、例えば、衣類、寝具、タオル等の布製品や、紙、不織布等を挙げることができる。
また、上述してきた材料により調製した光触媒塗料は、繊維加工品に塗布することで、光触媒が励起した際に繊維加工品が侵されてしまうことを防止しながらも、繊維加工品に光触媒の機能を容易に付与することができる。
上述の吸着材と同様に、光触媒の有機物分解能に耐性のない一般の光触媒塗料では、光触媒が励起した場合、光触媒が有する有機物分解能によって、繊維加工品が侵されてしまうが、本実施形態に係る光触媒塗料では、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂をバインダーとして使用することとしたため、繊維加工品に光触媒によるダメージを与えることなく、光触媒能を付与した繊維加工品を提供することが可能となる。すなわち、バインダーが、繊維加工品を光触媒の有機物分解能から守ることとなる。
また、上述してきた材料により調製した光触媒塗料は、建築物を構成する建材に塗膜を形成することで、同建材に光触媒の機能や抗菌効果を容易に付与することができる。特に、建材が木を用いた物(以下、木質建材という。)の場合には、同木質建材に塗膜を形成することで、光触媒が励起した際に木質建材が侵されてしまうことを防止しながらも、木質建材に光触媒の機能や抗菌効果を容易に付与することができる。ここで、木質建材とは木を一部または全部に用いて形成した建材のことを言う。具体的には、例えば、柱や壁材、天井材、屋根材、造作材を挙げることができる。
また、繊維加工品や建材等への光触媒塗料の塗布は、光触媒塗膜単層のみの形成を目的とするものであってもよいが、後述の積層塗膜構造の形成を目的とするものであっても良い。すなわち、繊維加工品や建材の表面には、本実施形態に係る光触媒塗料を用いた光触媒塗膜を上層とし、抗菌剤を含む抗菌塗料により形成した抗菌塗膜を下層とする積層塗膜構造を形成しても良い。
[光触媒塗料及び光触媒塗膜の調製方法及び試験]
次に、本実施形態に係る光触媒塗料及び光触媒塗膜について、調製方法や他の比較サンプルとの試験結果を交えながらさらに具体的に説明する。
まず、本実施形態に係る光触媒塗膜の性質を試験するために、以下の6種の光触媒塗料の調製を行った。
〔1-1-1.本実施形態に係る光触媒塗料X1の調製〕
光触媒塗料X1(以下、「塗料X1」ともいう。):2L容量のステンレス容器に、0.3LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に60gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製品)と、2gの水酸化バリウムと、ジエチルポリシロキサン0.3gを添加し、更に溶剤としてイソプロパノールを0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行うことにより調製した。
〔1-1-2.本実施形態に係る光触媒塗料X4の調製〕
光触媒塗料X4(以下、「塗料X4」ともいう。):X1と同様の調製方法であるが、2gの水酸化バリウムの代わりに、2gの水酸化カリウムを添加して調製した。
〔1-1-3.本実施形態に係る光触媒塗料X5の調製〕
光触媒塗料X5(以下、「塗料X5」ともいう。):X1と同様の調製方法であるが、2gの水酸化バリウムの代わりに、2gの水酸化カルシウムを添加して調製した。
〔1-1-4.比較用光触媒塗料Y1の調製〕
比較用光触媒塗料Y1(以下、「塗料Y1」ともいう。):2L容量のステンレス容器に、0.3LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に60gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製品)と、2gの水酸化リチウムを添加し、更に溶剤としてイソプロパノールを0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行うことにより調製した。
〔1-1-5.比較用光触媒塗料Y2の調製〕
比較用光触媒塗料Y2(以下、「塗料Y2」ともいう。):2L容量のステンレス容器に、0.3Lのシリケート系塗料(三菱化学社製MS−57)を分注し、容器中に60gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製品)を添加し、更に溶剤としてイソプロパノールを0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行うことにより調製した。
〔1-1-6.比較用光触媒塗料Y8の調製〕
比較用光触媒塗料Y8(以下、「塗料Y8」ともいう。):Y1と同様の調製方法であるが、2gの水酸化リチウムの代わりに、2gの水酸化鉄を添加して調製した。
〔1-2.塗膜面の撥水効果試験〕
次に、調製した塗料X1,X4,X5,Y1,Y2,Y8を用いて、塗膜面の光触媒効果試験を行った。試験は、明条件下にて塗膜上に水を噴霧し、水の挙動を観察することにより行った。また、塗膜は、被塗布物としてのカラー鋼板上にスプレーガンにより各塗料を噴霧して乾燥させることにより形成した。塗膜の膜厚は5.0μmであった。試験結果を表1に示す。
表1にも示すように、塗料X1の塗膜表面では水膜が収縮して、顕著な疎水傾向が確認された。このときの動接触角は47°であった。
また、塗料X4の塗膜表面も同様に、水膜が収縮して顕著な疎水傾向が確認された。このときの動接触角は塗料X1よりも大きい50°であった。
また、塗料X5の塗装表面では、やはり水膜が収縮して疎水傾向が見られたが、塗料X1よりはやや疎水傾向が弱いように思われた。このときの動接触角は40°であった。
一方、比較塗料である塗料Y1は、中和剤を含有させているものの、カルシウムのイオン半径よりも小さいイオン半径を持つリチウムの水酸化物を中和剤として用いているため、塗膜表面では親水性表面に特徴的な水膜形成が観察された。また、このときの動接触角は28°であった。
また、比較塗料である塗料Y8についても、カルシウムイオン半径よりも小さいイオン半径を持つ鉄の水酸化物を中和剤として用いているため、塗装表面では親水性表面に特徴的な水膜形成が観察された。このときの動接触角は30°であった。
また、塗料Y2は、シリケート系塗料であるが、これもまた塗料Y1と同様に親水傾向が観察された。しかも、動接触角は測定不能であったため、塗料Y1の塗膜よりも強い親水傾向を有することが示唆された。
これらの結果から、本実施形態に係る光触媒塗料は、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンの含有により、疎水性を有する塗膜面が得られることが示された。
〔1-3.塗装性の検証〕
次に、塗料X1を代表例として、界面活性剤の有無による塗装性の違いについて検証を行った。本試験では、さらに本実施形態に係る光触媒塗料塗料X6(以下、「塗料X6」ともいう。)の調製を行った。この塗料X6は、塗料X1とほぼ同様に調製を行うが、界面活性剤としてのジエチルポリシロキサンを添加しない点で相違する。
評価は、塗料や塗装に関する十分な知識を有する5名により、塗料X1又は塗料X6を、金属板、木材板、樹脂板上にそれぞれ塗布することにより行った。その結果、評価者5名全員が、塗料X1は、塗料X6に比して、金属板、木材板、樹脂板のいずれにおいても良好な塗装性を有すると評価した。また、いずれの5名も、塗料X6は、塗料X1に比して塗装性はやや劣るものの、金属板、木材板、樹脂板上でそれぞれ実用に耐えうる十分な塗装性は有していると評価した。
〔1-4.塗膜面の防カビ効果試験〕
次に、各塗料の防カビ効果試験を行った。本試験では、各塗料を直径3cmの円形濾紙上に塗布して塗膜を形成した塗膜サンプルを、カビ培養用の寒天培地が収容されたシャーレ内に配置し、それぞれの塗膜サンプルに対して同量のカビを接種して、4週間後の塗膜サンプル上におけるカビの成育面積を比較した。なお、カビの培養は、紫外線ランプの照射下と、暗条件下との両方で行った。
試験に使用した塗料は、前述の本実施形態に係る塗料X1、X4、X5の他に、新たに調製した比較塗料Y3及び比較塗料Y4を用いた(以下、それぞれ「塗料Y3」「塗料Y4」ともいう。)。塗料Y3は、前述の塗料Y1の光触媒を、紫外線励起型の光触媒に置き換えたものであり、また、塗料Y4は、前述の塗料Y2の光触媒を紫外線励起型の光触媒に置き換えたものである。
また、本試験では、前述の塗料X1,X4,X5,Y3,Y4に加え、塗料を塗布しない濾紙を配置したブランクも併せて試験を行った。本試験結果を表2に示す。
ブランクにおけるカビの生息範囲を100%として各塗膜サンプルを比較したところ、紫外線照射の有無にかかわらず、塗料X1,X4,X5におけるカビの生息範囲が最も少なかった。
また、紫外線照射下に比して、暗条件下はカビが生息し易い環境であるが、塗料X1,X4,X5の塗膜上では、カビの繁殖がほぼ完全に抑制された。これは、培地の養分を含む水分を寄せ付けなかったためであると考えられる。
〔1-5.食品工場内でのフィールドテスト〕
次に、惣菜の製造を行う食品工場の壁面に、塗料X1,X4,X5,Y3,Y4を塗布して、それぞれの塗膜上でのカビの成育度合いを比較した。
なお、試験を行った壁面の近くには、惣菜を炊き込むための直径1.5m程の大鍋があり、煮汁が壁面に掛かるなどしてカビが繁殖しやすい状況にある。
試験は塗膜形成後11ヶ月間行った。以下の表7に、11ヶ月後のカビの成育状況を示す。なお表中において「○」はカビの成育が見られなかったもの、「×」は僅かにカビの成育が見られたもの、「××」は塗膜面積のほぼ8割程度にカビの成育がみられたもの、「×××」は、塗膜面積のほぼ全域にカビの成育が見られたものを示している。
表3にも示すように、実用的な環境下における試験にあっても、塗料X1,X4,X5にて形成した塗膜は、優れた防カビ性を発揮した。
特に、屋外に比して紫外光や可視光の光量が少ない屋内であっても、化学的な防カビ成分を含むことなく、これほどまでにカビの成育を抑制することは、驚くべき点である。
また、塗料Y3や塗料Y4により形成した塗膜は、ブランクに比べれば防カビ効果が生起されたものの、塗膜表面の8割程度にカビの繁殖が見られ、事実上、カビを防いでいるとは言い難い結果となった。
〔2-1.銅の添加に関する試験〕
次に、本実施形態に係る光触媒塗料に銅を添加した場合の防菌、防カビ、抗ウイルス効果について検討を行った。
従来、銅は、抗菌効果を有することが知られている。しかしながら、光触媒塗料に添加する場合において、銅をどのような方法で添加すれば良いのかについては、未だ検討の余地が残されていた。
すなわち、光触媒塗料中に、単に銅の粉末を混入させただけでは、調製後の光触媒塗料の重量中において、せいぜい3重量%程度しか含有させることができず、十分な抗菌効果を得ることができなかった。
そこで、本発明者らが鋭意研究を行い、以下の(a)〜(e)の5つの方法により、銅を比較的高い濃度で含有させることが可能となるのを見出した。
具体的には、(a)銅を光触媒の表面に担持させ、銅を担持した光触媒を用いる方法、(b)銅を含有する中和剤を用いる方法、(c)ナフィオンのスルホ基に銅を結合させる方法、(d)後述する疎水性樹脂に銅を混入させる方法、(e)(a)〜(d)の方法をそれぞれ組み合わせる方法、が挙げられる。
これらの添加法により、光触媒塗料中の銅の含有量を3重量%以上に高めることが可能となり、今までにない抗菌性を付与することが可能となった。そこで、以下に、銅を添加した光触媒塗料により形成した塗膜の抗菌効果を検証した試験について述べる。
〔2-2.銅の含有量検討試験〕
まず、実用的な抗菌効果を発揮できる銅の含有量を検討するために、光触媒塗料中に含有させる銅の量を、それぞれ3重量%、5重量%、6重量%、7重量%に調整して、試験を行った。試験に供した塗料は、以下に示す本実施形態に係る光触媒塗料X2である。
本実施形態に係る光触媒塗料X2(以下、「塗料X2」ともいう。):2L容量のステンレス製容器に、0.3LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に20g〜60gのCu坦持硫黄ドープ型光触媒酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製品)を添加して更に溶剤としてN−プロパノールを0.3L加え、そこに中和剤として[Cu(NH3)4](OH)2を0.5〜2g加えて、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行うことにより調製した。なお、以下において、銅を3重量%添加したものを「塗料X2−Cu3%」、5重量%添加したものを「塗料X2−Cu5%」、6重量%添加したものを「塗料X2−Cu6%」、7重量%添加したものを「塗料X2−Cu7%」という。
次いで、これらの塗料X2群を、被塗布物にそれぞれ塗布して塗膜を形成し、この塗膜上に大腸菌の培養液(4.5×105cfu/ml)を滴下して12時間常温下で静置し、暗条件下における抗菌活性の検討を行った。なお、各塗膜の膜厚は一定とした。
その結果、塗料X2−Cu3%と、塗料X2−Cu5%は、塗料X2群を塗布しないブランクに比して若干の抗菌効果が認められたものの、実用的なレベルに達するものではなかった。具体的には、1mlあたり105オーダーの菌数が維持される程度の抗菌効果であった。
ところが、塗料X2−Cu6%にて形成した塗膜は、105オーダーの菌数を、104オーダーに低下させていた。また、塗料X2−Cu7%に関しても同様に菌数を104オーダーに低下させていた。これらのことから、本実施形態に係る光触媒塗料は、銅の含有量を6%以上とすることにより、暗条件下においても殺菌効果を生起させることが可能であることが示唆された。なお、暗条件下において殺菌効果が生起されるということは、明条件下における殺菌効果も、光触媒が励起することによる殺菌効果と銅の殺菌効果との相乗効果によって、更に向上しているものと考えられた。
〔2-3.膜厚の違いによる抗菌効果の検討〕
次に、前述の塗料X2−Cu6%を用いて、形成する膜厚の違いによる抗菌効果の検討を行った。
塗膜は、被塗布物に塗料X2−Cu6%を塗布し、乾燥させることで形成した。なお、形成した塗膜の膜厚は、1μmと5μmの二種類とした。
また、照明の条件は、明条件と暗条件とし、明条件は、蛍光灯(東芝製 メロウホワイトFL10_NX)にて200±50Luxと、900±50Luxとの2つの条件で試験を行った。
また、試験時間は常温で8時間とし、塗膜上には、大腸菌の培養液を300μl滴下した。
また、評価は下記の抗菌活性値計算式により抗菌活性値を算出し、これらの値を比較することにより行った。
・光照射抗菌活性値R=[log(B/A)−[log(C/A)]=[log(B/C)]
・暗条件抗菌活性値R=[log(B’/A)−[log(C’/A)]=[log(B’/C’)]
なお、式中において、Aはブランクの接種直後の生菌数であり、Bは光照射ブランク培養後の生菌数であり、Cは光照射テストピースの培養後の生菌数であり、B’は暗条件ブランク培養後の生菌数であり、C’は暗条件テストピースの培養後の生菌数である。
なお、上記式におけるA,B,B’の値は次の表4の通りであった。
図2に、本試験の試験結果を示す。図2に示す結果から、膜厚を5μmとした塗膜は、1μmとした塗膜に比して、抗菌活性が高いことが示された。
これは、塗料X2−Cu6%にて形成した塗膜が、大きな網の目構造を有し、この網の目の隙間を銅が比較的自由に移動することができ、膜厚が厚い程、多くの銅が菌に作用を及ぼすことができるためであると考えられる。
〔2-4.膜厚の違いによる防カビ効果の検討〕
次に、前述の塗料X2−Cu6%を用いて、形成する膜厚の違いによる防カビ効果の検討を行った。
試験条件は、2種の明条件(900Lux,200Lux)で行い、その他については前述の〔膜厚の違いによる防菌効果の検討〕と同様である。なお、抗菌活性値の算出式におけるA,Bの値は次の表5の通りであった。
図3に、本試験の試験結果を示す。図3に示す結果から、塗料X2−Cu6%で形成した塗膜は、カビに対しても優れた防カビ活性を示すことが分かった。また、膜厚を5μmとした塗膜は、1μmとした塗膜に比して、防カビ活性が高いことが示された。特に、照度が200Luxしかない条件下においても、105オーダーのカビを104オーダーまで低下させることができた。
これも、前述の〔膜厚の違いによる防菌効果の検討〕と同様に、塗料X2−Cu6%にて形成した塗膜が、大きな網の目構造を有し、この網の目の隙間を銅が比較的自由に移動することができ、膜厚が厚い程、多くの銅がカビに作用を及ぼすことができるためであると考えられる。
〔2-5.焼酎工場内でのフィールドテスト〕
次に、前述の塗料X2−Cu6%を用いて、焼酎工場内の壁面に塗膜を形成し、防カビ性を確認する試験を行った。焼酎は、コウジカビを用いて製造を行うため、工場内の壁面にはカビが著しく繁殖する傾向がある。本試験においても、クロコウジカビが一面に繁殖した壁面を試験場所として選定した。
試験は、塗膜を形成したプラスチック板を壁面に貼付し、9ヶ月後及び24ヶ月後の塗膜上のカビの成育度合いを目視にて比較することで評価した。なお、塗膜形成に使用した塗料は、前述の塗料X2−Cu6%に加え、比較塗料として光触媒が添加されていない一般的なウレタン樹脂系の塗料(以下、「塗料Y5」という。)と、塗料Y5に防カビ成分(サンアイゾール(三愛石油株式会社製))を含有させた防カビ塗料(以下、「塗料Y6」という。)と、大同塗料株式会社製の市販の光触媒塗料(イートシック:以下、「塗料Y7」という。)である。本試験結果を表6に示す。なお、表中において「○」は塗膜表面にカビの繁殖が認められなかった状態を示し、「×」はカビの繁殖が認められた状態を示している。
表6からも分かるように、一般的なウレタン塗料である塗料Y5は、試験開始後9ヶ月で既にカビの繁殖が認められ、24ヶ月後には、さらに著しい繁殖が認められた。
防カビ成分を含有する塗料Y6は、試験開始後9ヶ月の時点では、塗膜表面にカビが認められず、防カビ成分による防カビ効果が確認された。しかしながら、24ヶ月後では、塗膜表面に著しいカビの繁殖が認められた。
光触媒を含有する塗料Y7は、試験開始後9ヶ月の時点でカビの発生が認められた。しかも、この時点での塗膜表面のカビの繁殖度合いは、塗料Y5の同時期におけるカビの繁殖度合いよりも激しいものであった。これは、光触媒が塗膜表面を親水化させて、水分をひきよせるため、カビの繁殖を助長してしまったものと考えられる。
一方、塗料X2−Cu6%は、9ヶ月後、及び24ヶ月後の両方において、カビの発生は認められなかった。このことから、本実施形態に係る光触媒塗料は、極めて効果的な防カビ作用を有することが示された。また、塗料X2−Cu6%の塗膜表面は、他の塗料の塗膜表面のカビが生えていない部位と比較しても、汚れの付着が殆ど認められなかった。これは、本実施形態に係る光触媒塗料の撥水効果により、汚れの付着が抑制されたためであると考えられる。
〔2-6.ハム・ソーセージ工場内でのフィールドテスト〕
次に、前述の〔焼酎工場内でのフィールドテスト〕と同様に、塗料X2−Cu6%を用いて、ハム・ソーセージ工場内の壁面に塗膜を形成し、防カビ性を確認する試験を行った。試験に使用した塗料は、前述の塗料X2−Cu6%と、塗料Y5であり、試験期間は5ヶ月とした。なお、試験方法は、〔焼酎工場内でのフィールドテスト〕と同様であるため、説明を省略する。本試験結果を表7に示す。
表7に示すように、試験開始後5ヶ月の塗膜表面は、塗料Y5のものではカビの発生が認められたが、塗料X2−Cu6%にて形成した塗膜の表面には、カビの発生は認められなかった。
〔2-7.抗ウイルス作用検証試験〕
次に、本実施形態に係る光触媒塗料の抗ウイルス作用を検証するために試験を行った。試験に供した塗料は、前述の塗料X2−Cu6%であり、塗膜の膜厚は5μmである。その試験結果を表8に示す。
表8からも分かるように、塗料X2−Cu6%にて形成した塗膜表面は、抗ウイルス作用を有することが確認された。また、特に着目すべき点は、遮光下においても、照明下と同様の抗ウイルス効果を生起した点である。
上述してきたように、本実施形態に係る光触媒塗料は、低照度下、暗条件下で極めて優れた抗菌・抗ウィルス、防カビ効果がを生起することが可能であることが示された。このような結果が得られる光触媒塗料は、本発明者らが今まで知り得た情報の中でも類を見ない。
次に、疎水性樹脂を添加して調製した本実施形態に係る光触媒塗料(以下、疎水性樹脂添加光触媒塗料ともいう)について述べる。
まず、理解を容易とするために、従来の光触媒塗料により形成した塗膜と、疎水性樹脂添加光触媒塗料により形成した塗膜との構造の違いについて図4〜6を参照しながら説明する。なお、図4〜6は、構造を模式的に示すものであり、膜厚や粒子径、後述の網の目構造などの大きさの比率は必ずしも正確ではない。また、粒子形状についても、説明を容易とするために円形状としている。
図4は、塗膜形成対象である基材1に、従来の光触媒塗料を塗布して塗膜100を形成した塗膜構造103を示す説明図である。従来の光触媒塗料は、塗料ベース中に光触媒粒子2を分散させただけの構成であるため、図4Aの塗膜構造103の断面図に示すように、光触媒粒子2が略均一に塗膜100中に存在している。
また、図4Bに示すように、塗膜表面101にも光触媒粒子2が一部露出して存在しており、これらの光触媒粒子2に紫外線や可視光線などの励起光が照射されることにより、光触媒効果が生起することとなる。
しかしながら、従来の光触媒塗料に使用される塗料ベースの多くは、光触媒粒子2が生起する光触媒効果に対して耐性が低い有機系の樹脂であり、塗膜100の耐久性を著しく損なう原因となっていた。
また、基材1が有機系の樹脂である場合には、塗膜100のみならず基材1をも侵してしまう場合がある。そのため、基材1を守るために、図4Cに示すように、基材1と塗膜100との間に光触媒効果で侵されにくい樹脂で保護層102を形成した塗膜構造104としていた。
しかし、この方法では、塗膜100の耐久性は改善されておらず、また、塗膜構造104を形成するためには、基材1上に一旦保護層102を形成し、さらに塗膜100を形成するという2段階の処理が必要となり工程が煩雑であった。
一方、本実施形態に係る光触媒塗料では、少なくとも光触媒と、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂と、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物及び/又はカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンと、を溶媒に分散又は溶解させて調製しており、この光触媒塗料に相溶性を有する疎水性樹脂を添加して疎水性樹脂添加光触媒塗料とすることとしている。
そして、この疎水性樹脂添加光触媒塗料にて形成した塗膜構造10は、図5に示すような特徴的な構造を形成する。
すなわち、基材1上には、図中網掛けで示すナフィオンにより形成される領域(以下、ナフィオン領域211という。)中に、光触媒粒子2と、疎水性樹脂領域212とが分散された塗膜構造10が形成される。なお、図5及び後述の図6において、疎水性樹脂領域212は、真円状または球状とし、整然と並んだ状態を示しているが、これは説明を容易とすべく模式的に示したものであり、実際はさらに複雑な形状や分散状態を有する。また、表面に露出している割合についても、必ずしも正確な記載ではない。
疎水性樹脂領域212は、フッ素樹脂及び/またはアクリルシリコン樹脂などの疎水性樹脂により形成される疎水性の領域であり、水をはじく性質を有している。
また、図5Bの表層部13の平面図に示すように、塗膜構造10の表層部13は、一様にナフィオン領域211で薄く覆われており、疎水性樹脂領域212が一部露出している。
また、ナフィオン領域211や疎水性樹脂領域212は、それぞれの樹脂により網の目構造を有しており、液状の水は透過することはないが、分子状(例えば、気体状)の水は透過できる。
この構造について図6を参照しながら更に説明する。図6は、平面視における表層部13の拡大模式図であり、膜の厚み方向へ奥行きを持たせて表現している。なお、図6中において、ナフィオン領域211を構成するナフィオン樹脂鎖14を黒い太線で示し、光触媒粒子2は網掛けの小さい円で示し、疎水性樹脂領域212を大きめの円で示し、同疎水性樹脂領域212を構成する疎水性樹脂鎖15を細い線で示している。
図6にも示すように、疎水性樹脂領域212や光触媒粒子2はナフィオン領域211中に分散した状態となっており、表層はナフィオン樹脂鎖14で覆われた状態となっている。
また、ナフィオン樹脂鎖14の網の目中には、疎水性樹脂領域212として疎水性樹脂鎖15による網の目が所々に形成されており、水の侵入を阻むよう構成している。
また、ナフィオン樹脂鎖14は、光触媒粒子2が生起する光触媒効果で劣化しにくいため、塗膜構造10自体の劣化が防止される。
このようにして形成された塗膜は、静的接触角は疎水性を示すが、振動付与した場合の動的接触角は親水性を示すようになる。
すなわち、光触媒粒子2が励起した場合であっても塗料(塗膜構造10)自身が侵されにくく、かつ、疎水性樹脂領域212により、さらに疎水傾向の強い塗装表面下を形成して、カビや微生物の繁殖を抑制することができる。
なお、ナフィオン領域211中に分散する複数の疎水性樹脂領域212同士の間隙16は、分子状の水を通過させることができるため、塗膜のやや深い場所に存在する光触媒粒子2b等に対しても、光触媒反応に必要な程度の水分を供給することは可能である。
上述してきたことをまとめると、従来の塗膜構造103や塗膜構造104では、光触媒粒子2が励起した際に、その塗膜表面101が必ず強い親水性となっていたが、疎水性樹脂を添加して調製した本実施形態に係る光触媒塗料によれば、疎水傾向の強い塗装面を形成することができ、しかも、単位量当たりの価格が安価な光触媒塗料を提供することができる。また、本実施形態に係る光触媒塗料に添加する疎水性樹脂の配合割合を適宜変化させることにより、塗装面の親水度合い(疎水度合い)を適宜調整できる。
付言すれば、従来の光触媒塗料で形成した塗膜面及び塗膜内部は、光触媒が励起すると光触媒の作用が大きく働いて親水性にしかならなかったため、水が過剰に引き寄せては困る状況、例えば、防カビ効果抗菌効果を生起させたい場合などでは不都合であった。
一方、疎水性樹脂を添加して調製した本実施形態に係る光触媒塗料によって形成した塗膜面及び塗膜内部では、励起により親水性が進行するという現象が抑制されるので、防カビ抗菌など親水性が邪魔となる場面では、本来セルフクリーニング等では有用であった親水性がそれほど、或いは殆ど上昇しないという独特の現象が生じる。
また、特徴的には、親水性樹脂をスルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂のように光触媒により生じた過酸化物に対して耐性を有する樹脂とし、このような親水性樹脂中に光触媒を分散し、この光触媒を包持する親水性樹脂の微細な液滴が疎水性樹脂中に分散していると考えられ、光触媒の酸化反応に強く、しかも、疎水性表面を形成可能な光触媒塗料を実現している。すなわち、疎水性樹脂と光触媒とが直接接触していないという点が特徴の一つである。
PTFEを基本骨格とするナフィオンは(電気)化学的安定性や柔軟性また乾燥時の高い撥水性等はPTFEそのものと全く同じと看做せるがスルホ基の影響で水への親和性が非常に高くまた、プロトン(水素イオン)がその固体内を自由に泳ぎまわることが可能なため良好なイオン伝導性も有している。
また、PTFEそのものはどのような溶剤にも不溶であり従って単体での成膜は300℃以上への加熱溶解しかありえないのに対しナフィオンは周知の通り水の他アルコール系溶剤にもよく溶解することを特長としている。
分子量20万の長大な高分子であるため水あるいは溶剤の揮発で膜を形成し硬化反応を伴わない。
そして最も顕著な特長として水溶性樹脂でありながら硬化成膜後に水溶性を全く示さないことが挙げられる。
一般に水溶性樹脂は硬化造膜後も水溶性が残るため再度水に溶けやすく、耐水性に乏しいがナフィオンは平均分子量が200000以上の非常に巨大な分子である。本来、非常に粘度が高い高分子であることが予期される分子量領域ではあるが、直鎖状の分子の鎖内で相互作用を生起させ、タンパク質のフォールディングの如く粒状に折り畳んで分散させているため、比較的低い粘度の溶液として安定しており、一度造膜すれば巨大な分子量のポリマー膜となるため他の樹脂ではありえないような性質が発現する。
光触媒反応は水の光電気化学分解を基本としており発生する過酸化物に対して安定であることに加えて水溶性が全くなく、しかも水を層内に含ませることができるという性質が光触媒を膜の形状で担持する樹脂として最も好ましいが、上記のナフィオンの各特性がこれにまさに相当する。
そして、このナフィオンは、光触媒が励起した場合であっても、生じた過酸化物等によって侵襲されにくい。
そして、このような親水性樹脂に光触媒を分散させ、疎水性樹脂中で光触媒を包持させることにより、光触媒と疎水性樹脂との直接的な接触を可及的防止して、疎水性の塗膜を形成可能でありながら、光触媒に侵されにくい光触媒塗料とすることができるのである。
ところで、菌やカビは、水分の多い場所で良好に生育する傾向がある。近年光触媒作用により菌類やカビの生育を抑制しようとする試みがなされているが、今まで提案されている光触媒塗料の塗布面における抗菌防カビ作用は、励起した光触媒が塗装面に水分を強く引きつけてしまうため、むしろ、菌類やカビの生育を助長してしまう場合があった。
そこで、疎水性樹脂を添加して調製した本実施形態に係る光触媒塗料は、疎水性樹脂の添加割合を変化させ塗装面の親水度合いを調整して、塗装面に吸着する水分をコントロールすることにより、防菌や防カビ効果をより効率的に行うことも可能である。
また、光触媒は、防臭効果や揮発性有害物質等の分解が可能であると考えられているが、一般に、臭気物質や揮発性の物質は、疎水度が高い物質が多い。
それゆえ、疎水性樹脂を添加して調製した本実施形態に係る光触媒塗料で形成した塗膜表面では、これらの物質をさらに効率よく誘引することができるため、消臭や分解の機能を効果的に生起させて、防臭したり揮発性有害物質等を低減させることができる。
また、前記疎水性樹脂は、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、塩化ビニル樹脂を主成分として好適に用いることができる。アクリルシリコン樹脂は、例えば、図7に示す基本構造を有する物質である。
このフッ素樹脂やアクリルシリコン樹脂は、前述のナフィオンと異なり、疎水性を有する樹脂であり、塗装面における光触媒の超親水性を見かけ上弱める働きを有するものである。
しかも、フッ素樹脂やアクリルシリコン樹脂は、光触媒が励起した際に発生させる過酸化物に対し比較的耐性を有していないが、光触媒自体はそれに耐性を有する親水性樹脂にまず被覆されているためにこれらの疎水性樹脂は過酸化物の直接的な分解を受けにくい。また、これらの疎水性樹脂はUV光に対する卓越した耐性を有するためこれらの組み合わせにより光触媒が発生させる過酸化物に対すると同時にUV光にも耐性の高い塗膜を形成可能な光触媒塗料とすることができる。
また、疎水性樹脂は、耐アルコール性の高いフッ素樹脂やアクリルシリコン樹脂とすることにより、光触媒塗料の耐アルコール性を高めることができる。すなわち、ナフィオン樹脂は耐アルコール性が比較的低い樹脂であるが、フッ素樹脂やアクリルシリコン樹脂などの疎水性樹脂を添加することにより、形成した塗膜の耐アルコール性を高めることが可能となる。
また、疎水性樹脂は、前記フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、塩化ビニル樹脂より選ばれる2種以上を組み合わせてなるエマルジョンを主成分とするよう調製しても良い。これらの疎水性樹脂は、乾燥塗膜が(動的あるいは静的のいずれかの)水との接触角で95°以上を示すような高い撥水性有する撥水性樹脂あるいはその混合物であるのが望ましい。
また、上述してきた本実施形態に係る光触媒塗料を被塗布物に塗布し、乾燥して塗膜を形成した後に、塗膜表面にシランカップリング剤を反応させて、さらに疎水化を高めた光触媒塗膜の表面構造としても良い。
ここでシランカップリング剤は特に限定されるものではないが、例えば、オクチルトリクロロシラン(Trichloro-n-octylsilane)や、トリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリクロロシラン(Tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl trichlorosilane)や、フェネチルトリクロロシラン(Phenethyl trichlorosilane)を用いることができる。
そして、具体的には、所定の溶媒(例えば、エタノール、トルエン、イソプロパノール)等に、前記シランカップリング剤を添加して撹拌してシランカップリング反応液を調製し、本実施形態に係る光触媒塗料により形成した塗膜の表面に前記シランカップリング反応液を接触させて反応を行わせると良い。
シランカップリング反応液の塗膜表面への接触は、特に限定されるものではなく、刷毛や筆、ローラー等により塗布したり、噴霧器によりシランカップリング反応液をエアゾル状として噴霧するようにしても良い。
これにより、塗膜表面を構成する樹脂や光触媒とシランカップリング反応を行わせて、塗膜表面をさらに疎水化することができるのである。
なお、このシランカップリング反応液を塗膜の表面へ反応させる際には、反応面に光触媒が励起可能な光が当たっている状態で行うのが良い。
光は紫外光であっても良く、また、光触媒が可視光にて励起可能なものであれば、可視光であっても良い。
このように光を当てた状態とすることにより、光触媒が励起して同光触媒の表面に多数のOH基が出現することとなるため、光触媒とシランカップリング剤との反応効率を向上させることができる。
また、別の観点から、光の照射量を変更することにより、シランカップリング剤と光触媒とのシランカップリング反応速度を制御しながら、疎水度を調整することもできる。
〔3-1.疎水性樹脂添加光触媒塗料の調製〕
以下、疎水性樹脂を添加した本実施形態に係る光触媒塗料の調製について詳説する。以下では、A〜Dの4種類の本実施形態に係る光触媒塗料と、従来の光触媒塗料Eとを調製し、壁面に塗膜を形成させた上で防カビ試験に供することとした。そこでまず、光触媒塗料A〜Eの調製手順について説明する。
〔3-2.疎水性樹脂添加光触媒塗料Aの調製〕
2L容量のステンレス製容器に、0.2LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に平均一次粒子粒度6nmの光触媒酸化チタンST−01(石原産業株式会社製品)を30gと、2gの水酸化バリウムと、ジエチルポリシロキサン0.3gを添加し、更にイソプロパノール0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間撹拌を行なった。
次いで、この混合液中に疎水性樹脂としてフッ素樹脂ルミフロンFE4400を(旭硝子株式会社製品)0.1L添加し、20℃にて3分間さらに撹拌を行うことで疎水性樹脂添加光触媒塗料Aを調製した。
〔3-3.疎水性樹脂添加光触媒塗料Bの調製〕
2L容量のステンレス製容器に、0.085Lの加水分解性シロキサン系樹脂MS56(三菱化学株式会社製品)を分注し、容器中に30gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタンPP2Y(東邦チタニウム株式会社製品)と、2gの水酸化バリウムと、ジエチルポリシロキサン0.3gを添加し、更に溶剤としてN−プロパノールを0.3L加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間撹拌を行なった。
次いで、この混合液中に疎水性樹脂として疎水性シリコーン樹脂ポリゾールAP−3900(昭和高分子株式会社製品)を0.1L添加し、20℃にて3分間さらに撹拌を行うことで疎水性樹脂添加光触媒塗料Bを調製した。
〔3-4.疎水性樹脂添加光触媒塗料Cの調製〕
2L容量のステンレス製容器に、0.1LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製品)と、0.04Lの加水分解性シロキサン系樹脂メチルシリケートA53(コルコート株式会社製品)とを分注し、容器中に40gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタンPP2Yと、2gの水酸化バリウムと、ジエチルポリシロキサン0.3gを添加し、更にイソプロパノール0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間撹拌を行なった。
次いで、この混合液中に疎水性樹脂として、0.05Lのフッ素樹脂ルミフロンFE4300(旭硝子株式会社製品)と、0.05Lの疎水性アクリルシリコン樹脂ポリゾールAP−3900(昭和高分子株式会社製品)とを添加し、20℃にて3分間さらに撹拌を行うことで疎水性樹脂添加光触媒塗料Cを調製した。
〔3-5.疎水性樹脂添加光触媒塗料Dの調製〕
2L容量のステンレス製容器に、0.2LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に平均一次粒子粒度6nmの光触媒酸化チタンST−01(石原産業株式会社製品)を30gと、2gの水酸化バリウムと、ジエチルポリシロキサン0.3gを添加し、更にイソプロパノール0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間撹拌を行なった。
次いで、この混合液中に、疎水性樹脂として水分散ポリエステル樹脂バイロナールMD−1100(東洋紡績株式会社製品)を0.125L添加し、20℃にて3分間さらに撹拌を行うことで疎水性樹脂添加光触媒塗料Dを調製した。
〔3-6.光触媒塗料Eの調製〕
2L容量のステンレス製容器に、親水性樹脂として0.2Lの高分子アクリル酸樹脂ジュリマーAC−10H(日本純薬株式会社製品)を分注し、容器中に40gの硫黄ドープ型光触媒酸化チタンPP2Y(東邦チタニウム株式会社製品)を添加して、更にイソプロパノール0.2L、水0.2Lを加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間撹拌を行なった。
次いで、この混合液中に疎水性樹脂として水分散ポリエステル樹脂バイロナールMD−1100(東洋紡績株式会社製品)を0.125L添加し、光触媒塗料Eを調製した。
上述してきた手順にて、光触媒塗料A〜Eを調製した。表9に各光触媒塗料の組成をまとめて示す。
〔3-7.光触媒塗料A〜Eを用いた防カビ試験〕
次に、調製した光触媒塗料A〜Eを用いて行った防カビ試験について、図8を用いて説明する。図8は、本試験において、各光触媒塗料A〜Eにより施工した壁面Pの説明図である。
試験は、食品加工工場の水回り近傍の壁面Pにおいて実施した。この壁面Pは、当工場にてカビの発生に悩まされている箇所である。また、この壁面Pは、左右方向においてほぼ一様にカビの発生が見られるのを確認している。
各光触媒塗料は、前述の壁面に20cm×30cmの区画を6カ所作り、そのうちの5つの区画にそれぞれA〜Eの塗料を約12mL使用して塗布し、14日間約25℃で自然乾燥させて塗膜を形成させた。
また、光触媒塗料A〜Eにより塗膜を形成した各区画の右半分は、シラン処理を施した。このシラン処理は、乾燥させた前記A〜Eの塗料の塗膜表面に、シランカップリング反応液を、工場の照明を点灯した状態で、刷毛で塗布することにより行った。
シランカップリング反応液は、500mlのビーカーに、294mlのエタノールを分注し、このエタノール中に6mlのオクチルトリクロロシラン(Trichloro-n-octylsilane)を添加し、スターラーにて10分間撹拌して十分に溶解させることで調製を行った。
図1のP−1〜P−12の下部に記載している角度は、水との接触角(動的接触角)を示しており、疎水度(親水度)の指標である。すなわち、P−1における水との接触角は20度、P−2における水との接触角は70度、P−3における水との接触角は15度、P−4における水との接触角は60度、P−5における水との接触角は15度、P−6における水との接触角は65度、P−7における水との接触角は25度、P−8における水との接触角は80度、P−9における水との接触角は30度、P−10における水との接触角は70度、P−11における水との接触角は60度、P−12における水との接触角は90度であった。
施工後、工場を操業させた状態で8ヵ月に亘り放置し、カビの発生度合いについて検討を行った。その結果を表10に示す。
表10を見ても分かるように、コントロールでは、試験開始後1週間経過した時点で既に僅かなカビの発生が認められ、その後3ヵ月経過する時点まで顕著なカビの増殖が認められた。
次に、光触媒塗料A〜Dに目を転じると、試験開始後4週目(約1ヵ月)に亘って、カビの発生が効果的に抑制されているのが示された。
特に光触媒塗料A〜Cについては、2ヵ月後においても、カビの発生が見られなかった。しかも、シラン処理を施したP−2,P−4,P−6の塗装面については、3ヵ月経過した後であっても、カビの発生を認めることはできなかった。
また、光触媒塗料A〜Cのシラン処理を施していないP−1,P−3,P−5の塗装面では、3ヵ月後において、カビか汚れかは判別不能の僅かな付着物が確認されたが、ほぼ良好な防カビ効果を生起しているのが確認された。
光触媒塗料Dについては、シラン処理を施していない塗装面P−7において、2ヵ月後に僅かな付着物を認め、3ヵ月後には僅かなカビの発生が認められたが、コントロールに比して効果的にカビを抑制していることが示された。
また、シラン処理を施した塗装面P−8では、2ヵ月後であってもカビの発生は認められず、3ヵ月後に僅かな付着物が確認されたものの、カビを効果的に抑制することが示された。
一方、光触媒塗料Eは、1週間経過した時点ではカビの発生が認められなかったものの、シラン処理を施していない塗装面P−9では2週目に、シラン処理を施した塗装面P−10では4週目にカビの発生が認められた。
特に、塗装面P−9及びP−10に共通して確認された事項として、塗装面の劣化が認められた。これは、工場内の照明によって励起した光触媒が、光触媒塗料Eの樹脂成分を侵したことにより生じたものと考えられる。
これらの結果から、本実施形態に係る光触媒塗料A〜Dは、光触媒が励起した場合であっても塗料自身が侵されにくく、しかも、塗装面の親水度合いを適宜調整してカビの増殖を効果的に抑制することのできる光触媒塗料であることが示された。
上述してきたように、光触媒粒子を分散した親水性樹脂と、同親水性樹脂に相溶性を有する疎水性樹脂とを含有する光触媒塗料であって、前記親水性樹脂は、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂とすることにより、光触媒が励起した場合であっても塗料自身が侵されにくく、かつ、疎水傾向の強い塗装面を形成することができ、しかも、塗装面の親水度合いを適宜調整してカビの増殖を効果的に抑制することができる。
なお、ここでは各光触媒塗料を用いて防カビの性能試験を行ったが、他の生物の繁殖についても抑制することができるのは勿論である。
これらの光触媒塗料によれば、例えば、菌類や藻類、藻、アメーバなど、水中や湿気を好む生物に対して特に繁殖の抑制効果を生起することができる。
また、光触媒塗料を塗布する場所や対象の素材は特に限定されるものではない。
例えば、タイルなどを並べた際に形成される目地部分に、コーキング剤を充填して固化させ、次いで、このコーキング剤の上から光触媒塗料を塗布するようにしても良い。
このような目地構造とすることにより、目地部分に顕著な防カビ効果を生起させることができ、しかも、コーキング剤を侵すことがないため、目地部分の耐久性を保つことができる。
〔4-1.本実施形態に係る光触媒塗料への吸着材の添加〕
次に、吸着材を添加した本実施形態に係る光触媒塗料のアセトアルデヒド分解効果について検討を行った。
〔4-2.光触媒塗料の調製〕
本実施例では、吸着材として活性炭を用いた本実施形態に係る光触媒塗料X3(以下、「塗料X3」ともいう。)の調製を行った。この塗料X3は、前述の塗料X2−Cu6%とほぼ同様の配合であるが、塗料中に5重量%の活性炭を含有させている点で異なっている。
〔4-3.アセトアルデヒド分解試験〕
予めウレタン塗膜を形成したプラスチックプレート上に、塗料X3を塗布して塗膜を形成し、密閉容器内のアセトアルデヒド雰囲気下に前記プラスチックプレートを収容して、雰囲気中のアセトアルデヒド濃度と、二酸化炭素濃度の経時変化の確認を行った。また、活性炭を含有しない塗料塗料X2−Cu6%で形成した塗膜を、コントロールとして使用した。その結果を図9A及び図9Bに示す。
図9Aに示すように、活性炭を含有しない塗料X2−Cu6%の塗膜に比して、塗料X3の塗膜は、アセトアルデヒドを効率的に分解することが示された。また、アセトアルデヒドの分解物として生成する二酸化炭素についてであるが、図9Bに示すように、活性炭を含有しない塗料X2−Cu6%の塗膜に比して、塗料X3の塗膜の方が、二酸化炭素の発生量が多いことが認められた。
本試験結果から、本実施形態に係る吸着材を含有させた光触媒塗料は、より吸着能が向上していることが示された。
〔5-1.本実施形態に係る光触媒塗料の繊維加工品への塗布〕
従来より、繊維加工品に光触媒機能を付与したいという要望は非常に多いものの、これまでの技術では、光触媒によって繊維加工品が侵されてしまうなど課題も多く、また、コスト的にも高いのが問題となっている。
一方、以下に説明するように、本実施形態に係る光触媒塗料を用いれば、高性能かつ安価に、光触媒能を付与した繊維加工品を提供することが可能となる。
特に、本実施形態に係る光触媒塗料では、光触媒はナフィオンに取り囲まれた形になるため、繊維加工品を構成する繊維と、光触媒との間にはナフイオンが介在する。従って、繊維と光触媒とが直接接触して繊維部が分解されてしまうことを回避できることとなる。
特に、本実施形態に係る光触媒塗料中のバインダーは、分子量20万ほどのナフイオン高分子であり、繊維加工品上に塗布すると、ナフイオンが繊維に絡まった状態となり、塗膜が繊維加工品から剥がれ落ちてしまうことを防止できる。すなわち、洗濯等を行った場合でも、塗膜の剥離を可及的防止することができ、光触媒能を維持することができる。
本実施形態に係る光触媒塗料を用いて、繊維加工品に光触媒能を付与する方法としては、繊維加工品に光触媒塗料を含浸させる方法と、繊維加工品の表面に光触媒塗料をコーティングしたり付着・吸着させる方法との2つの方法が挙げられる。
例えば、紙製品に光触媒塗料を含浸させる方法としては、例えば、抄紙工程中に光触媒塗料を添加して、紙中にすき込む方法が挙げられる。
また、布製品に光触媒塗料を含浸させる方法としては、例えば、光触媒塗料を予め塗布した糸を用いて編織する方法が挙げられる。
また、紙製品に光触媒塗料をコーティングしたり付着・吸着させる方法としては、例えば、抄紙工程後にスプレイ法、塗工法、押し出し塗工、ラミネート樹脂への練込み、サイズプレス(サイズプレス付抄紙機)(オンマシン)、ペースト法、ラミネート法、印刷等により実現することができる。
また、布瀬遺品に光触媒塗料をコーティングしたり付着・吸着させる方法としては、例えば、繊維製造後加工(布帛)でスプレイ法により行うことができる。
〔5-2.光触媒塗料を塗布した繊維加工品の抗菌効果の検証〕
次に、本実施形態に係る光触媒塗料を塗布した繊維加工品の抗菌効果の検証試験を行った。
具体的には、ステンレス板に吸水性を有する紙製品と織布製品とをそれぞれ取付け、これらの表面にスプレイ法により、前述の塗料X2を塗布した。紙製品と織布製品に形成された塗膜の厚さは5μmである。
また、比較試料として、ステンレス板上にウレタン塗膜を予め形成し、このウレタン塗膜上に塗料X2−Cu6%を塗布し、塗料X2−Cu6%により形成された塗膜の厚みを1μmとしたサンプルと、同様に塗膜の厚みを5μmとしたサンプルとについても作成した。
また、照明の条件は、明条件と暗条件とし、明条件は、蛍光灯(東芝製 メロウホワイトFL10_NX)にて200±50Luxと、900±50Luxとの2つの条件で試験を行った。
また、試験時間は常温で8時間とし、塗膜上には、大腸菌の培養液を300μl滴下した。
また、評価は下記の抗菌活性値計算式により抗菌活性値を算出し、これらの値を比較することにより行った。
・光照射抗菌活性値R=[log(B/A)−[log(C/A)]=[log(B/C)]
・暗条件抗菌活性値R=[log(B’/A)−[log(C’/A)]=[log(B’/C’)]
なお、式中において、Aはブランクの接種直後の生菌数であり、Bは光照射ブランク培養後の生菌数であり、Cは光照射テストピースの培養後の生菌数であり、B’は暗条件ブランク培養後の生菌数であり、C’は暗条件テストピースの培養後の生菌数である。
なお、上記式におけるA,B,B’の値は次の表11の通りであった。
図10に、本試験の試験結果を示す。図10に示す結果から、紙製品に塗料X2−Cu6%を用いて膜厚5μmの塗膜を形成したサンプルは、ウレタン塗膜上に塗料X2−Cu6%を塗布して塗膜を形成したサンプル同様、高い抗菌活性を有することが示された。
また、布製品に塗料X2を用いて膜厚5μmの塗膜を形成したサンプルについても、ウレタン塗膜上に塗料X2−Cu6%を塗布して塗膜を形成したサンプルよりはやや劣るものの、高い抗菌活性を有することが示された。
このように、本実施形態に係る光触媒塗料は、繊維加工品に塗布や含浸を行うことにより、極めて効果的な抗菌性を付与できることが示された。
〔6-1.本実施形態に係る光触媒塗料の建材への塗布〕
従来、建材用の塗料の塗料商品は数多く発売されている、例えば、木質建材に使用する塗料としては、それぞれ通気性、膨潤追随性、撥水性を有するものが知られているが、塗着した塗膜に十分な耐久性を有する光触媒塗料は未だ開発されていない。
そこで、建材に本実施形態に係る光触媒塗料で塗装することにより、光触媒能を有し、通気性、膨潤追随性、撥水性を有するのは勿論のこと、高耐久性を有する建材の開発に成功したため、その試験結果を以下に説明する。なお、以下に示す試験は、木材にて形成した建材(木質建材)を朽ちやすい建材の代表例として用いているが、金属やプラスチックなどの建材への適用を妨げるものではない。
〔6-2.紫外線等による風化劣化試験結果〕
市販の木材塗料を木材に塗布した上に、本実施形態に係る光触媒塗料をコートしてその耐久性がどの程度向上するかをSWOM試験で評価した。
使用した市販の木材塗料は、下記表12に示す3種類である。
また、塗装方法は、それぞれ次の通り行った。光触媒塗料は、それぞれのサンプルに塗料を50mL/m2塗布して、14日間約25℃で自然乾燥させて約5μmの膜厚を形成させた。HM65塗料は、1回塗りでHM65を100mL/m2塗布し乾燥させた。ガードラックアクアは、1回塗りでガードラックアクアを100mL/m2塗布し乾燥させた。ガードラックLXは、1回塗りでガードラックLXを100mL/m2塗布し乾燥させた。
また、本試験では、本実施形態に係る光触媒塗料として前述の塗料X2−Cu6%を用い、また、比較用の光触媒塗料として前述の塗料Y1を用いて試験を行った。その試験結果を表13に示す。
表13にも示すように、本実施形態に係る光触媒塗料を木質建材表面に塗布することにより、木質建材の耐久性を格段に向上させることができた。
〔6-3.光触媒塗料を塗布した木質建材の防カビ効果の検証〕
次に、本実施形態に係る光触媒塗料を塗布した木質建材の防カビ効果の検証試験を行った。
具体的には、木質建材の表面にスプレイ法により、前述の塗料X2−Cu6%を塗布した。塗膜の厚さは1μmと5μmの2種である。
また、照明の条件は、明条件と暗条件とし、明条件は、蛍光灯(東芝製 メロウホワイトFL10_NX)にて200±50Luxと、900±50Luxとの2つの条件で試験を行った。
また、試験時間は常温で8時間とし、塗膜上には、カビの培養液を300μl滴下した。
また、評価は下記の抗菌活性値計算式により抗菌活性値を算出し、これらの値を比較することにより行った。
・光照射抗菌活性値R=[log(B/A)−[log(C/A)]=[log(B/C)]
・暗条件抗菌活性値R=[log(B’/A)−[log(C’/A)]=[log(B’/C’)]
なお、式中において、Aはブランクの接種直後の生菌数であり、Bは光照射ブランク培養後の生菌数であり、Cは光照射テストピースの培養後の生菌数であり、B’は暗条件ブランク培養後の生菌数であり、C’は暗条件テストピースの培養後の生菌数である。
なお、上記式におけるA,B,B’の値は次の表14の通りであった。
図11に、本試験の試験結果を示す。図11に示す結果から、本実施形態に係る光触媒塗料を塗布した木質建材は、高い防カビ活性を有することが示された。
〔6-4.耐朽性試験〕
次に、木材を朽ちさせる腐朽菌を用いて、本実施形態に係る光触媒塗料を塗布した木質建材における耐朽性試験を行った。試験は日本工業規格であるJISK1571に準拠して行った。なお、使用した光触媒塗料は、前述の塗料X2−Cu6%と、塗料Y2である。試験結果を図12に示す。
図12に示すように、本実施形態に係る光触媒塗料を、ビュータツクシーラー・クリヤー上に塗布することにより、耐朽性もがりほとんど腐朽しない結果が得られた。
また、SWOM試験結果もより良好となっていた。これらの結果より、今までになく耐久性の高い木材塗料及び木質建材を提供することができる。
〔7.インモールド成形品への応用〕
インモールド成形は、成形と同時に金型で塗装する成形方法である。光触媒コーティングは、射出成形品の表面化の機能化に寄与するので、今後、光触媒コーティング液をインモールド成形する必要性が出てくるものと考えられる。
しかし、今までに光触媒塗料をインモールド成形に応用した例はない。それは、次のような問題により実現していないものと考えられる。
(1)コーティング液固形濃度が薄く溶媒を金型内で蒸発させる事になるので、直接インモールド成形出来ない。
(2)熱可塑性樹脂射出成形品の上にコーティングすることになり、光触媒に対するガード層が必要となるために、複数層の薄膜形成となり、これが技術的に難しっかたり、コストアップとなる。またガード層は無機系のものが使われる場合が多く、マッチングが悪い。
(3)インモールド成形時に金型と射出成形物との離型が必要になるが、光触媒塗膜上層は離型効果はないので、離型層を設けなければならない。しかし、その層が光触媒効果を阻害してしまう。
なお、インモールド成形には、表15に示す5通りの方法が挙げられる。
そこで、まず、本実施形態に係る光触媒塗料に適したインモールド成形方法について検討を行った。その検討結果を表16に示す。
塗料を注入する方式は、溶媒が蒸発するため、適用はかなり困難であるものと考えられた。その結果、光触媒塗料がインモールド成形可能なのは、3のモールドコート法と、5の転写成形法であると思われた。
インモールド成形に適用するためには、成型時に短時間で塗料を硬化させる必要がある。本実施形態に係る光触媒塗料にバインダーとして含まれるナフイオンは、分子量20万の長大な高分子であるため、溶媒の蒸発で膜を形成し、硬化反応を伴なわないで塗膜を形成するため、短時間で硬化するというメリットがある。
従来の塗料の場合、3の成形方法においては金型との間に、また、5の成形方法の場合は転写用フィルムとの間に剥離層が必要となり、さらに、成形品側には成形樹脂との結合性が求められるのでプライマー層が必要となる。それゆえ、少なくとも3コートのコーティングや塗工が必要となる。
しかし、本実施形態に係る光触媒塗料によれば、1コート、すなわち、1回のコーティング作業で成形が可能となる。特に、ナフィオン系光触媒塗料より表面張力の小さい疎水樹脂を用いると上側に層が形成され剥離効果が発現される。逆にナフィオン系光触媒塗料より表面張力の大きい疎水樹脂を用いると上側に層が形成される。また、使用する疎水樹脂としては、プライマー効果を持つ樹脂を選択する必要がある。具体的には、図13に示すような塗膜構成とすることにより実現できる。
ここで、インモールド成形に適した本実施形態に係る光触媒塗料の調製方法について言及すると、2L容量のステンレス製容器に、0.3LのナフィオンDE2020(米国デュポン社製)を分注し、容器中に60gのCu坦持硫黄ドープ型光触媒酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製品)を添加して更に溶剤としてN−プロパノールを0.3L加え、そこに中和剤として[Cu(NH3)4](OH)2を2g加えて、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行う。
次いで酸化チタンを十分に攪拌した上で、そこに疎水性樹脂として0.05Lのフッ化ビニリデンー6フッ化プロピレン共重合体(KYNAR 東京材料株式会社製品)と0.01Lの低分子エポキシ樹脂とを添加し、20℃にてさらに3分間さらに攪拌を行う。
光触媒塗料をこのような組成とすることにより、塗膜中央部に(疎水性ナフィオン+6%Cu担持Sドープ光触媒)層があり、その上部にフィルムとの剥離の役目を担うフッ化ビニリデンー6フッ化プロピレン共重合体層が、その下部に射出成形体との結合を助ける低分子エポキシ樹脂層が形成された構造を有する塗膜を形成することができる。また、これら(疎水性ナフィオン+6%Cu担持Sドープ光触媒)層、その上部のフッ化ビニリデンー6フッ化プロピレン共重合体層、(疎水性ナフィオン+6%Cu担持Sドープ光触媒)層の下部の低分子エポキシ樹脂層は、それぞれ濃度勾配を形成して徐々に各層を形成する。
このように、本実施形態に係る光触媒塗料によれば、3層を形成するのに1コートで済むため、労力を飛躍的に軽減しながら、光触媒塗料によるインモールド成形を行うことができる。
[積層塗膜構造]
次に、本実施形態に係る積層塗膜構造について説明する。
光触媒による殺菌効果は、耐性を生じず多種多様な菌やカビに優れた効果を示すものの、光触媒塗料の塗装面の単位面積当たりの生菌数が多い(例えば、106〜108cfu/cm2程度)場合には、殺菌が追いつかず、十分な効果を生起するのが困難な場合があった。
そこで本発明では、抗菌成分を含有する抗菌塗料により形成された抗菌塗膜と、少なくとも光触媒と、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂と、カルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する金属イオンを含む化合物及び/又はカルシウムのイオン半径以上のイオン半径を有する錯イオンと、を溶媒に分散又は溶解させて調製した光触媒塗料により、前記抗菌塗膜の表面に形成された光触媒塗膜と、を備える積層塗膜構造を提供する。換言すれば、前記抗菌塗膜を下層とし、前記光触媒塗膜を上層とする積層塗膜構造を提供する。
ここで、抗菌塗料は、菌やカビに対して殺菌効果を生起可能な塗料であれば特に限定されるものではない。
より具体的には、抗菌塗料に含有させる抗菌成分は、ジメチル・フェニル・スルファミド系抗菌剤、ベンズイミダゾール系抗菌剤、トリハロメチルチオ化合物系抗菌剤、銀ゼオライト系抗菌剤から選ばれる少なくともいずれか1つとすることにより、後述の光触媒塗膜を透過させて抗菌成分による抗菌効果を効率的に発揮させることができる。
また、抗菌塗料には、吸着剤を含有させるようにしても良い。すなわち、抗菌塗料により形成する抗菌塗膜中には、吸着剤が分散状態で存在しているようにしても良い。
抗菌塗料に添加する吸着材としては、先に光触媒塗料中に含ませた吸着材と同様の、無機系吸着材、炭素系吸着材、有機系吸着材等を挙げることができる。
また、本実施形態に係る積層塗膜構造を構成する光触媒塗料は、前述の本実施形態に係る光触媒塗料であり、光触媒と、スルホン酸をグラフト重合させた四フッ化エチレン系樹脂と、カルシウムよりもイオン半径の大きい金属の水酸化物及び/又はカルシウムよりもイオン半径の大きい錯イオンと、を溶媒に分散又は溶解させて調製したものである。
本発明に係る積層塗膜構造では、この光触媒塗料を抗菌塗膜の表面に塗布することで、抗菌塗膜の表面に光触媒塗膜を形成して抗菌塗膜と光触媒塗膜とからなる積層塗膜構造と成し、撥水性でありながら光触媒効果を付与することができ、しかも、優れた抗菌効果を発揮させることができることとなる。
より具体的に説明すると、抗菌塗膜のみでは、抗菌効果は生起されるものの、薬剤耐性菌が生じる可能性があり、長期的な抗菌効果が望めないという問題がある。
一方、光触媒塗料によれば、耐性菌の問題は回避できるものの、多量の菌やカビに対しては殺菌が追いつかず、十分な防菌効果を生起するのが困難な場合がある。
これらの問題を解決するために、光触媒塗料に抗菌成分を添加して塗膜を形成すればよいとも思われるが、実際は、光触媒が光を受けて励起すると、塗膜中の抗菌成分が分解されてしまい、十分な抗菌効果は得られなくなってしまう。
そこで、抗菌塗膜を下層とし、光触媒塗膜を上層とする積層塗膜構造を形成すれば、塗膜中の抗菌成分が光触媒によって分解されてしまうことを回避できるのであるが、従来の光触媒塗料では、塗料中に含まれる樹脂の高分子鎖が形成する網の目構造が非常に密であるため、下層の抗菌成分が上層の光触媒塗膜をすり抜けて、光触媒塗膜表面から放散されることは不可能であった。
そこで、本発明では、光触媒塗料を前述の構成とすることで、これらの問題を解決するようにしている。
次に、積層塗膜構造の作製、及び各種試験について以下に述べる。
〔8-1.光触媒塗料の調製〕
本実施形態に係る積層塗膜構造に用いることのできる光触媒塗料は、前述の本実施形態に係る光触媒塗料X1〜X6や本実施形態に係る光触媒塗料A〜Dのいずれでも使用可能である。ここでは代表として、前述の光触媒塗料X1を調製した。具体的な調製方法については前述したため省略する。
〔8-2.抗菌塗料の調製〕
積層塗膜構造に用いられる抗菌塗料W1:20L容量のステンレス容器に、16Lのアクリルエマルジョン系塗料(菊水化学工業社製)を分注し、容器中に320gのジメチル・フェニル・スルファミド系抗菌剤(エプロ社製品)を抗菌成分として加え、顔料分散用ガラスビーズと混合後攪拌機にて20℃、120分間攪拌を行うことにより調製した。
〔8-3.積層塗膜構造の作製〕
縦50mm×横100mm×厚み0.6mmのステンレス板上に、抗菌塗料W1を塗布し、160℃にて20分焼付を行い、抗菌塗膜を形成した。この抗菌塗膜の厚みは50μmであった。次に、この抗菌塗膜上に、塗料X1を塗布し、130℃で5分間焼き付けを行うことにより、ステンレス板上に積層塗膜V1を形成した。この塗料X1により形成された光触媒塗膜の厚みは5μmであった。このように積層塗膜V1が形成されたステンレス板をサンプルWX11とした。
〔8-4.撥水効果試験用比較サンプルの作製〕
縦50mm×横100mm×厚み0.6mmのステンレス板上に、抗菌塗料W1を塗布し、160℃にて20分焼付を行い、抗菌塗膜を形成した。この抗菌塗膜の厚みは50μmであった。次に、この抗菌塗膜上に、市販の光触媒塗料を塗布し、130℃で5分間焼き付けを行うことにより、ステンレス板上に積層塗膜を形成した。
市販の光触媒塗料は、光触媒塗料J1(TOTO社製)、光触媒塗料J2(日本特殊塗料社製)、光触媒塗料J3(石原産業社製)を用い、光触媒塗膜がそれぞれ異なる三種類の積層塗膜U1、U2、U3を形成した。市販の光触媒塗料により形成された光触媒塗膜の厚みは、いずれも5μmであった。積層塗膜U1が形成されたステンレス板を比較サンプルWJ11、積層塗膜U2が形成されたステンレス板を比較サンプルWJ12、積層塗膜U3が形成されたステンレス板を比較サンプルWJ13とした。
〔8-5.積層塗膜の撥水効果試験〕
次に、サンプルWX11上に形成した積層塗膜V1面の撥水効果試験を行った。試験は、明条件下にて積層塗膜V1上に水を噴霧し、水の挙動を観察することにより行った。なお、比較対象として、前述の比較サンプルWJ11、比較サンプルWJ12、比較サンプルWJ13を用いた。試験結果を表17に示す。
表17にも示すように、サンプルWX11の積層塗膜V1表面では水膜が収縮して、顕著な疎水傾向が確認された。また、このときの動接触角は47°であった。一方、比較対象である比較サンプルWJ11の積層塗膜U1の表面では、水膜が収縮することはなく、薄く広がったままであり、光触媒に独特な顕著な親水傾向が見られた。また、このときの動接触角は測定不能であった。また、比較サンプルWJ12や比較サンプルWJ13も同様に、顕著な親水傾向が見られ、動接触角の測定は不能であった。このことから、積層塗膜V1は、一般的な光触媒塗料により形成される塗膜に比して、顕著な疎水傾向にあることが示された。
〔8-6.積層塗膜の抗菌効果検証試験〕
次に、形成した積層塗膜V1面の抗菌効果試験を行った。試験は、サンプル又は比較サンプルの塗膜上に1mlあたり105オーダーの生菌を含む菌液(以下、低濃度菌液という。)又は1mlあたり108オーダーの生菌を含む菌液(以下、高濃度菌液という。)の大腸菌液300μlを滴下し、24時間後の生菌数を測定することにより行った。なお、比較対象は、前述の比較サンプルWJ11に加えて、以下に示す各比較サンプルも用いた。
比較サンプルNJ01:縦50mm×横100mm×厚み0.6mmのステンレス板上に、市販の光触媒塗料J1を塗布し、130℃で5分間焼き付けを行うことにより、ステンレス板上に光触媒塗料J1の光触媒塗膜を形成した。光触媒塗料J1の光触媒塗膜の膜厚は5μmであった。
比較サンプルNX01:縦50mm×横100mm×厚み0.6mmのステンレス板上に、前述の光触媒塗料X1を塗布し、130℃で5分間焼き付けを行うことにより、ステンレス板上に塗料X1の光触媒塗膜を形成した。塗料X1の光触媒塗膜の膜厚は5μmであった。
また、評価は下記の抗菌活性値計算式により抗菌活性値を算出し、これらの値を比較することにより行った。
・抗菌活性値R=[log(B/A)−[log(C/A)]=[log(B/C)]
なお、式中において、Aはブランクの接種直後の生菌数であり、Bは光照射ブランク培養後の生菌数であり、Cは光照射テストピースの培養後の生菌数である。
上述のサンプルWX11及び比較サンプルWJ11、NJ01、NX01を用いて行った抗菌効果試験の試験結果を表18に示す。表18中において、各サンプルの値は抗菌活性値Rを示している。
表18にも示すように、サンプルWX11の積層塗膜V1表面では、低濃度菌液において優れた抗菌活性を示すのは勿論のこと、高濃度菌液においても十分な抗菌効果を発揮することが示された。一方、比較サンプルWJ11は、低濃度菌液に対してはやや抗菌効果が見られたもののサンプルWX11に及ぶものではなく、また、高濃度菌液に対してはより抗菌活性値が低下する現象が見られた。この比較サンプルWJ11が、抗菌塗膜を有しながらも十分な抗菌効果が発揮できないのは、市販の光触媒塗料J1が、抗菌塗膜に含まれる抗菌成分の表出を妨げているためであると考えられた。比較サンプルNJ01は、抗菌塗膜を有しないため低濃度菌液に対するの抗菌活性値は2.1、高濃度菌液に対する抗菌活性値は1.2に留まった。比較サンプルNX01は、抗菌塗膜を有していないものの、低濃度菌液に対するの抗菌活性は、比較サンプルWJ11や比較サンプルNJ01に比して高い結果となった。この結果は、後に詳述する光触媒塗料X1や、この光触媒塗料X1の組成を一部変更した塗料で形成した光触媒塗膜の抗菌活性の高さを示唆することとなった。しかしながら、高濃度菌液に対する抗菌活性は、サンプルWX11には及ばなかった。これは、抗菌塗膜を有していないことに由来するものと考えられた。
〔8-7.抗菌成分の違いによる抗菌効果検証試験〕
次に、前述の〔8-6.積層塗膜の抗菌効果検証試験〕にて最も良好な抗菌活性を示したサンプルWX11を基準とし、このサンプルWX11に用いた抗菌成分をその他の成分に変えて抗菌効果の検証を行った。検証に用いたサンプルは、サンプルWX11に加え、下記のサンプルを用いた。
サンプルWX21:抗菌塗料W1中に添加した抗菌成分に代えて、ベンズイミダゾール系抗菌剤(三愛石油株式会社社製品)を抗菌成分として添加し、抗菌塗料W2を調製した。そして、この抗菌塗料W2を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX21を作製した。
サンプルWX31:抗菌塗料W1中に添加した抗菌成分に代えて、トリハロメチルチオ化合物系抗菌剤(バイエル社製品)を抗菌成分として添加し、抗菌塗料W3を調製した。そして、この抗菌塗料W3を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX31を作製した。
サンプルWX41:抗菌塗料W1中に添加した抗菌成分に代えて、銀ゼオライト系抗菌剤(シナネンゼオミック社製品)を抗菌成分として添加し、抗菌塗料W4を調製した。そして、この抗菌塗料W4を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX41を作製した。
上記、サンプルWX11、サンプルWX21、サンプルWX31、サンプルWX41を用い、前述の〔8-6.積層塗膜の抗菌効果検証試験〕と同様の方法により、検証を行った。なお、抗菌塗膜中の各抗菌成分は、光触媒塗膜を形成しないそれぞれの抗菌塗膜上に低濃度及び高濃度の菌液を滴下した場合、いずれのサンプルもほぼ同様の抗菌活性値となる量が添加されている。結果を表19に示す。表19中において、各サンプルの値は抗菌活性値Rを示し、カッコ内の値は試験後の生菌数(cfu/ml)を示している。
表19に示すように、検証に供したいずれのサンプルにおいても、高濃度菌液での抗菌活性値が、低濃度菌液での抗菌活性値を上回る良好な抗菌活性を示した。このことから、後に詳述する光触媒塗料X1で形成した光触媒塗膜は、様々な抗菌成分を良好に表出可能であることが示された。また、この光触媒塗料X1の組成を一部変更した塗料においても、様々な抗菌成分を良好に表出可能であることが示唆された。なお、表は示さないが、光触媒塗料X1に代えて、市販の光触媒塗料J1にて光触媒塗膜を形成した場合の抗菌活性について検証によれば、いずれも、〔1-5.積層塗膜の抗菌効果検証試験〕で示した比較サンプルWJ11と同様の結果であり、良好な抗菌活性は見られなかった。
〔8-8.抗菌塗膜に吸着材を混在させた場合の吸着力の検証〕
次に、サンプルWX11を基準とし、抗菌塗膜中に種々の吸着材を混在させた場合の臭気成分の吸着力の検証を行った。
試験は、内容積5Lの密閉されたアクリル製の容器内の空気中にメチルメルカプタンを1.5ppmとなるようにインジェクションし、同容器内に後述のサンプルを挿入後、直ちに暗室内に静置して、メチルメルカプタン濃度の経時変化を測定することで行った。なお、メチルメルカプタンの濃度は、GASTEC社製のメチルメルカプタン検知管(品番 No,70L)により測定した。
また、検証に用いたサンプルは、サンプルWX11に加え、下記のサンプルを用いた。なお、抗菌塗膜中の各吸着材は、光触媒塗膜を形成せず抗菌塗膜のみ形成した各サンプルを上述の試験に供した場合、24時間後にいずれのサンプルもほぼ同様のメチルメルカプタンの濃度となる量が添加した。
サンプルWX51:抗菌塗料W1中に、無機系吸着材に分類されるシリカゲル(富士シリシア化学社製品)を吸着材として添加し、抗菌塗料W5を調製した。そして、この抗菌塗料W5を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX51を作製した。
サンプルWX61:抗菌塗料W1中に、炭素系吸着材に分類される活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製品)を吸着材として添加し、抗菌塗料W6を調製した。そして、この抗菌塗料W6を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX61を作製した。
サンプルWX71:抗菌塗料W1中に、有機系吸着材に分類される植物系吸着材(プレジール社製品)を吸着材として添加し、抗菌塗料W7を調製した。そして、この抗菌塗料W7を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWX71を作製した。
サンプルWJ51:前記抗菌塗料W5と、市販の光触媒塗料J1を用い、サンプルWX11と同様の方法によりサンプルWJ51を作製した。
上記、サンプルWX11、サンプルWX51、サンプルWX61、サンプルWX71、サンプルWJ51を用いた検証の結果を表20に示す。
表20に示すように、サンプルWX51、サンプルWX61、サンプルWX71のいずれにおいても、吸着材を含まないサンプルWX11を上回る良好な吸着効果を示した。このことから、臭気成分は、抗菌塗膜に含まれる吸着材により、光触媒塗料X1にて形成した光触媒塗膜を介して吸着されることが示された。
これら〔8-5.積層塗膜の撥水効果試験〕〜〔8-8.抗菌塗膜に吸着材を混在させた場合の吸着力の検証〕の結果から、本実施形態に係る積層塗膜構造は、従来の光触媒塗料と比較して優れた抗菌効果を有することは勿論のこと、本実施形態に係る光触媒塗料にて形成した光触媒塗膜を単層で用いる場合に比して、より優れた抗菌効果を発揮することができることが示された。
すなわち、本実施形態に係る積層塗膜構造は、本実施形態に係る光触媒塗料を用いて形成していることから、光触媒が励起した場合であっても塗料自身が侵されにくく、また、疎水傾向の強い塗装面を形成することができ、しかも、上層の光触媒塗膜をすり抜けて、下層の抗菌成分を光触媒塗膜表面より放散させて優れた抗菌力を発揮させることのできる積層塗膜構造を提供することができる。
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。