(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる燃料電池システムの構成を模式的に示すブロック図である。燃料電池システムは、例えば、移動体である車両に搭載されており、この車両は燃料電池システムから供給される電力によって駆動する。
燃料電池システムは、燃料電池セルを複数積層して構成される燃料電池スタック1を主体に構成されている。燃料電池スタック1を構成する個々の燃料電池セルは、固体高分子電解質膜を挟んで燃料極と酸化剤極とを対設した燃料電池構造体を、一対のセパレータで挟持して構成される。燃料電池スタック1は、個々の燃料電池セル毎に、燃料極および酸化剤極にそれぞれ供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスを電気化学的に反応させて電力を発生する。
燃料電池スタック1には、燃料電池セルの積層方向に延在する一対の内部流路(マニホールド)が、燃料ガスおよび酸化剤ガスのそれぞれに対応して構成されている。燃料ガス側に対応する一対のマニホールドのうち、一方のマニホールドである供給用マニホールドは、個々の燃料電池セルが備えるガス用流路(セル流路)を介して燃料極の反応面に燃料ガスをそれぞれ供給し、他方のマニホールドである排出用マニホールドは、当該セル流路から排出されたガス(以下「燃料極オフガス」という)がそれぞれ流入する。同様に、酸化剤ガスに対応する一対の内部流路(マニホールド)のうち、一方のマニホールドである供給用マニホールドは、個々の燃料電池セルが備えるガス用流路(セル流路)を介して酸化剤極の反応面に酸化剤ガスをそれぞれ供給し、他方のマニホールドである排出用マニホールドは、当該ガス流路から排出されたガス(以下「酸化剤極オフガス」という)が流入する。
ここで、本実施形態では、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用いるケースについて説明する。また、本明細書では、「燃料電池セル」、「燃料極」または「酸化剤極」という用語を、単一の燃料電池セル、またはその燃料極または酸化剤極を指す場合のみに用いるだけでなく、燃料電池スタック1を構成する燃料電池セルのすべて、または、その燃料極または酸化剤極のすべてを総称する場合にも用いることとする。
燃料電池システムは、燃料電池スタック1に水素を供給するための水素系と、燃料電池スタック1に空気を供給するための空気系とをさらに有している。
水素系において、燃料ガスである水素は、燃料タンク10(例えば、高圧水素ボンベ)に貯蔵されており、この燃料タンク10から水素供給流路(燃料極入口流路)L1を介して燃料電池スタック1に供給される。具体的には、水素供給流路L1は、一方の端部が燃料タンク10に接続されるとともに、他方の端部が燃料電池スタック1の燃料ガス供給用マニホールドの入口側に接続されている。この水素供給流路L1において、燃料タンク10の下流にはタンク元バルブ(図示せず)が設けられており、このタンク元バルブが開状態となると、燃料タンク10からの高圧水素ガスは、その下流に設けられた減圧バルブ(図示せず)によって機械的に所定の圧力まで減圧される。減圧された水素ガスは、減圧バルブよりも下流に設けられた水素調圧バルブ11によってさらに減圧された後に、燃料電池スタック1に供給される。燃料電池スタック1に供給される水素圧力、すなわち、燃料電池スタック1の燃料極における水素圧力は、水素調圧バルブ11の開度を制御することによって調整することができる。燃料タンク10、水素供給流路L1およびこの水素供給流路L1に設けられた水素調圧バルブ11によって、燃料電池スタック1の燃料極へ水素を供給する水素供給手段が構成される。
本実施形態において、燃料電池スタック1は、燃料ガス排出用マニホールドの外部へ通じる出口側が基本的に閉塞されている。すなわち、本実施形態にかかる燃料電池システムは、燃料電池スタック1からの燃料極オフガスの排出が制限されている、いわゆる、閉塞系を採用するシステム(非循環型燃料電池システムともいう)である。ただし、これは厳密な意味での閉塞を指すものではなく、窒素などの不活性ガスや液水などの不純物を燃料極から排出するために、燃料ガス用の排出用マニホールドの出口側を例外的に開放する排出システムが設けられている。具体的には、燃料ガス排出用マニホールドの出口側には、燃料極オフガス流路(排出流路)L2が接続されている。燃料極オフガス流路L2は、他方の端部が、後述する酸化剤極オフガス流路L6に接続されている。
燃料極オフガス流路L2には、所定容量、例えば、燃料電池スタック1を構成する全燃料電池セルに関する燃料極側の容積と同程度もしくは8割程度の容積を空間として備える容積部(容積手段)12が設けられている。この容積部12は、燃料極側から流入する燃料極オフガスを一次的に蓄えるバッファとして機能する。容積部12の鉛直方向の下部には、一方の端部が開放された排水流路L3が接続されており、この排水流路L3には、排水バルブ13が設けられている。容積部12へと流入した燃料極オフガスに含まれる液水は容積部12の下部にたまり、排水バルブ13の開閉状態を制御することにより、排出することができる。また、燃料極オフガス流路L2には、容積部12よりも下流側にパージバルブ(開閉手段)14が設けられている。容積部12へと流入した燃料極オフガス、具体的には、不純物(主として、窒素などの不活性ガス)および未反応な水素を含むガスは、パージバルブ14の開閉状態を制御することにより、排出することができる。
一方、空気系において、酸化剤ガスである空気は、例えば、大気がコンプレッサ20によって取り込まれるとこれが加圧され、空気供給流路L5を介して燃料電池スタック1に供給される。空気供給流路L5は、一方の端部がコンプレッサ20に接続されるとともに、他方の端部が燃料電池スタック1における酸化剤ガス供給用マニホールドの入口側に接続されている。また、空気供給流路L5には、燃料電池スタック1へ供給される空気を加湿するための加湿装置21が設けられている。
燃料電池スタック1における酸化剤ガス排出用マニホールドの出口側には、酸化剤極オフガス流路L6が接続されている。燃料電池スタック1における酸化剤極からの酸化剤極オフガスは、酸化剤極オフガス流路L6を介して外部に排出される。この酸化剤極オフガス流路L6には、上述した加湿装置21が設けられており、発電により生成された水分の除湿が行われる(この除湿した水分は、供給空気の加湿に用いられる)。また、酸化剤極オフガス流路L6には、加湿装置21により下流側に、空気調圧バルブ22が設けられている。燃料電池スタック1に供給される空気圧力、すなわち、燃料電池スタック1の酸化剤極における空気圧力は、空気調圧バルブ22の開度を制御することによって調整することができる。
また、燃料電池システムには、燃料電池スタック1から取り出す出力(例えば、電流)を制御する出力取出装置30が備えられている。燃料電池スタック1において発電された電力は、出力取出装置30を介して、例えば、車両駆動用の電動モータ(図示せず)や燃料電池スタック1の発電動作に必要な種々の補機に供給される。また、出力取出装置30において発電された電力は、二次電池(図示せず)にも供給されている。この二次電池は、システムの起動時や過渡応答時などに、燃料電池スタック1から供給される電力の不足を補うために備えられている。
制御部(制御手段)40は、システム全体を統合的に制御する機能を担っており、制御プログラムに従って動作することにより、システムの運転状態を制御する。制御部40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。この制御部40は、ROMに格納された制御プログラムに従い各種の演算を行い、この演算結果を制御信号として各種のアクチュエータ(図示せず)に出力する。これにより、制御部40は、水素調圧バルブ11、排水バルブ13、パージバルブ14、コンプレッサ20、空気調圧バルブ22、出力取出装置30といった種々の要素を制御し、燃料電池スタック1の発電動作を行う。
制御部40には、システムの状態を検出するために、各種センサ等からのセンサ信号が入力されている。本実施形態では、水素圧力センサ41と、空気圧力センサ42と、スタック温度センサ43とが挙げられる。水素圧力センサ41は、燃料電池スタック1に供給される水素の圧力を検出する。空気圧力センサ42は、燃料電池スタック1に供給される空気の圧力を検出する。スタック温度センサ43は、燃料電池スタック1の温度を検出する。
制御部40は、以下に示す形態で燃料電池システムを制御する。制御部40は、燃料電池スタック1に空気および水素を供給し、これにより、燃料電池スタック1による発電を行う。この場合、制御部40は、燃料電池スタック1へと供給される空気および水素の圧力が、所定の運転圧力となるように空気および水素を供給する。この運転圧力は、例えば、燃料電池スタック1による発電電力に拘わらず一定の基準値、あるいは、燃料電池スタック1による発電電力に応じた可変値として設定される。
本実施形態において、制御部40は、酸化剤極への空気供給については、所定の運転圧力にしたがって圧力制御を行う。これに対して、制御部40は、燃料極の水素供給については、上限圧力P1と下限圧力P2との範囲内において圧力の増加および減少を行う制御パターンにしたがって水素の供給および停止を制御する。そして、制御部40は、制御パターンにしたがった動作を繰り返すことにより、図2に示すように、燃料電池スタック1の燃料極における水素の圧力を周期的に変動させながら、燃料極へ水素を供給する。
具体的には、制御部40は、燃料極の水素圧力が上限圧力P1に到達しており、燃料極内に発電を行うための十分な水素濃度が確保されていることを前提に、水素調圧バルブ11を最小開度に制御し、燃料電池スタック1への水素の供給を停止させる。制御部40は、出力取出装置30を介して燃料電池スタック1から、システムに要求される要求負荷(以下、単に負荷ともいう)に対応した負荷電流の取り出しを継続すると、発電反応により水素が消費されるので、燃料極の水素の圧力が低下する。つぎに、制御部40は、燃料極の水素圧力が下限圧力P2まで低下したことを条件に、水素調圧バルブ11を最大開度に制御し、燃料電池スタック1へ水素の供給を再開させる。これにより、燃料極における水素の圧力が増加する。そして、制御部40は、水素圧力が上限圧力P1に到達(復帰)したことを条件に、水素調圧バルブ11を最小開度に制御することにより、水素の供給を再度停止させる。このような一連の処理を1サイクルの制御パターンとして繰り返すことで、制御部40は、水素の圧力を周期的に変動させながら、燃料電池スタック1の燃料極へ水素を供給する。
ここで、上限圧力P1および下限圧力P2は、例えば、規定の運転圧力をベースに、上限側の圧力および下限側の圧力がそれぞれ設定されている。燃料電池スタック1の燃料極の水素圧力は、水素圧力センサ41の検出値を参照することにより、モニタリング可能である。また、圧力増加を行う場合には、水素調圧バルブ11よりも上流側の水素圧力を十分に高くしておき、圧力の増加速度を極力速めることが望ましい。例えば、下限圧力P2から上限圧力P1までの圧力増加の期間を0.1〜0.5秒程度に設定するといった如くである。一方、上限圧力P1から下限圧力P2まで達する時間は1秒から10秒程度であるが、上限圧力P1、下限圧力P2および燃料電池スタック1から取り出す電流値、すなわち、水素消費速度に依存する。
このような周期的な圧力増減をともなう水素供給制御において、本実施形態の特徴の一つとして、制御パターンは、燃料極の圧力を上限圧力P1または下限圧力P2において保持する保持時間Tp1,Tp2を設定することができる。制御部40は、これらの第1および第2の保持時間Tp1,Tp2として、ゼロから所定値までの範囲において任意に設定することができる。
第1の保持時間Tp1は、図3に示すように、燃料極の圧力を上限圧力P1から下限圧力P2へと低下させる第1の過程の実行前に、燃料極の圧力を上限圧力P1において保持する時間である。具体的には、制御部40は、燃料極の圧力が下限圧力P2まで低下したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最大開度O1に制御することにより、燃料電池スタック1へ水素の供給を再開させて、燃料極の圧力を増加させる。制御部40は、燃料極の圧力が上限圧力P1に到達したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最大開度O1から所定開度まで減少させて、燃料極の圧力を上限圧力P1に保持する。そして、制御部40は、燃料極の圧力が上限圧力P1に到達したタイミングから、第1の保持時間Tp1が経過したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最小開度O2に制御することにより、燃料電池スタック1への水素の供給を停止させる。
これに対して、第2の保持時間Tp2は、図4に示すように、燃料極の圧力を下限圧力P2から上限圧力P1へと増加させる第2の過程の実行前に、燃料極の圧力を下限圧力P2において保持する時間である。具体的には、制御部40は、燃料極の圧力が上限圧力P1に到達したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最小開度O2に制御して、燃料電池スタック1への水素の供給を停止させる。制御部40は、燃料極の水素圧力が下限圧力P2まで低下したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最小開度O2から所定開度まで増加させて、燃料極の圧力を下限圧力P2に保持する。そして、制御部40は、燃料極の圧力が下限圧力P2に到達したタイミングから、第2の保持時間Tp2が経過したことを条件に、水素調圧バルブ11の開度Otを最大開度O1に制御することにより、燃料電池スタック1へ水素の供給を再開させて、燃料極の圧力を増加させる。
図5は、負荷と、各保持時間Tp1,Tp2との対応関係を示す説明図である。例えば、システムの運転シーンとして低負荷(例えば、定格負荷電流に対して1/3程度以下までの負荷電流の取り出し状態)の場合、第1および第2の保持時間Tp1,Tp2はゼロに設定されている。そして、中負荷(例えば、定格負荷電流に対して1/3程度よりも大きく2/3程度よりも小さい範囲の負荷電流の取り出し状態)の場合、第1の保持時間Tp1は、ゼロに設定されており、第2の保持時間Tp2は、ゼロを始点として、負荷が高くなる程、値が増加するように設定されている。また、高負荷(例えば、定格負荷電流に対して2/3程度以上の負荷電流の取り出し状態)の場合、第1の保持時間Tp1は、ゼロを始点として、負荷が高くなる程、値が増加するように設定されており、第2の保持時間Tp2は一定値に設定されている。このように、制御部40は、第1および第2の保持時間Tp1,Tp2を、負荷状態に応じて決定することができる。換言すれば、燃料極の圧力を上限圧力P1において保持させるか、それとも下限圧力P2において保持させるかという点を、負荷に応じて選択することができる。
このように本実施形態において、制御部40は、要求負荷が高い場合(負荷電流が大きい場合)、それが低い場合と比べ、制御パターンの一回の実行期間における水素の供給量を増加させている。高負荷といった運転シーンでは、水素の消費量が多い傾向となる。そのため、水素の供給を賄うために、一回の制御パターンに対応する圧力増減の実行回数が増加する可能性がある。しかしながら、本実施形態によれば、制御パターンの一回の実行期間における水素の供給量を増加させているので、単位時間あたりの圧力増減の実行回数の増加を抑制することができる。これにより、燃料電池スタック1や水素系の部品にかかるストレスを緩和することができるので、システムの劣化を抑制することができる。
また、本実施形態において、制御パターンは、第1の過程の実行前に燃料極の圧力を上限圧力P1において保持する第1の保持時間Tp1、または第2の過程の実行前に燃料極の圧力を下限圧力P2において保持する第2の保持時間Tp2を設定可能となっている。そして、制御部40は、要求負荷が高い程、第1の保持時間Tp1または第2の保持時間Tp2を長く設定する。要求負荷が高くなると、水素の消費量が増えるため、第1の過程における圧力下降速度が速くなるものの、本実施形態によれば、要求負荷が大きい程、第1の保持時間Tp1または第2の保持時間Tp2が長く設定される。これにより、燃料極の圧力が上限圧力P1に到達したタイミングから、燃料極の圧力を下限圧力P2から上限圧力P1へと復帰させるタイミングまでの期間の長く設定することができる。すなわち、保持時間Tp1,Tp2により、制御パターンの一回の実行期間が長くなるので、単位時間あたりの圧力増減の実行回数の増加を抑制することができる。これにより、燃料電池スタック1や水素系の部品にかかるストレスを緩和することができるので、システムの劣化を抑制することができる。
とくに、制御部40は、要求負荷が高い程、第1の保持時間Tp1を長く設定することが好ましい。要求負荷が増大すると、燃料極における水素分圧を確保することが困難となる可能性がある。そのため、上限圧力P1における第1の保持時間Tp1を長く設定することにより、要求負荷が高い状態であっても水素分圧が確保されやすくなるという効果を奏する。
また、本実施形態では、要求負荷が低負荷から中負荷の領域において要求負荷が高くなる程、第2の保持時間Tp2を長く設定する。低負荷から中負荷では、燃料極に液水が溜まりやすい傾向にある。下限圧力P2における第2の保持時間Tp2を長く設定することで、液水の排出処理の実行精度を高めることができる。さらに、制御部40は、要求負荷が中負荷から高負荷の領域において要求負荷が高くなる程、第1の保持時間Tp1を長く設定することが好ましい。要求負荷が増大すると、燃料極における水素分圧を確保することが困難となる可能性がある。そのため、上限圧力P1における第1の保持時間Tp1を長く設定することにより、要求負荷が高い状態であっても水素分圧が確保されやすくなるという効果を奏する。
なお、図6に示すように、起動直後といった燃料極内の窒素などの不純物濃度が高いシーン程、上限圧力P1を保持する第1の保持時間P1を長く設定することで、水素分圧を確保してもよい。このとき、停止してから起動するまでの時間が長い程、燃料極内の不活性ガス濃度は高くなる。そのため、停止期間を計測したり、起動時の燃料極内の窒素濃度を計測したりすることで上限圧力を保持する時間を可変にしてもよい。
さらに、低負荷時などに、燃料電池スタック1の発電を一時的に停止し、2次電池の電力で走行するアイドルストップを採用するシステムでは、アイドルストップから復帰した直後も燃料極内の窒素濃度は高い状況にある。そこで、このようなシーンでも第1の保持時間P1を長く設定してもよい。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる燃料電池システムについて説明する。なお、燃料電池システムの構成は第1の実施形態と同じであるため、説明は省略する。本実施形態では、上限圧力P1および下限圧力P2の設定方法について説明する。
第1の手法として、上限圧力P1および下限圧力P2は、負荷電流に応じて設定することができる。制御部40は、車両の速度、ドライバーのアクセル操作量、さらには二次電池に関する情報に基づいて、システムに要求される要求負荷として、燃料電池スタック1の目標発電電力を決定する。制御部40は、目標発電電力に基づいて、燃料電池スタック1から取り出す電流値である負荷電流を演算する。
図7は、負荷電流Ctと、上限圧力P1および下限圧力P2との対応関係を示す説明図である。燃料電池スタック1から負荷電流Ctを取り出すために必要な反応ガスを供給するための運転圧力Psaは、燃料電池スタック1、水素系および空気系などのシステムの特性を考慮することにより、実験やシミュレーションを通じて定義することができる。酸化剤極へ空気を供給する場合には、この運転圧力Psaが目標運転圧力として設定される。図7に示すように、制御部40は、負荷電流Ctが大きくなるほど、運転圧力Psaを高く設定する。
これに対して、燃料極へ水素を供給する場合には、運転圧力Psaをベースに、上限圧力P1および下限圧力P2がそれぞれ設定されている。ここで、上限圧力P1および下限圧力P2は、負荷電流Ctが大きいほど、上限圧力P1と下限圧力P2との差圧、すなわち、ガス供給時の圧力変動幅(圧力増減幅ともいう)が大きくなるような関係に設定されている。また、負荷電流Ctの増加に対する下限圧力P2の増加率は、図7に示すように、負荷電流Ctが大きい場合の増加率が、負荷電流Ctが小さい場合の増加率より大きくなるように設定される。
かかる構成によれば、圧力変動幅が、要求負荷が高い場合の圧力変動幅が要求負荷が低い場合の圧力変動幅より大きくなるように設定されるので、要求負荷の変化に応じて圧力増減を抑制することができる。これにより、システムの劣化を抑制することができる。
第2の手法として、上限圧力P1および下限圧力P2は、燃料電池スタック1の発電の安定性を考慮して設定してもよい。低負荷の場合、すなわち、負荷電流が小さい場合は、上限圧力P1と下限圧力P2との差圧が相対的に小さくなるように、例えば、50kPa程度に設定する。この場合、個々の燃料電池セルにおける平均的な水素濃度は、40%程度となる。これに対して、高負荷の場合、すなわち、負荷電流が大きい場合、ガス圧力を大きくしたほうが発電効率が高くなることから、酸化剤極側および燃料極側とも全体的に供給圧力(運転圧力)を上げる。また、上限圧力P1と下限圧力P2との差圧は、100kPa程度に設定されている。この場合、個々の燃料電池セルにおける平均的な水素濃度は、75%程度で運転が行われる。
周期的な圧力増減を行う本実施形態において、燃料電池スタック1の内部(燃料極)の雰囲気は、下限圧力P2のタイミングにおいて水素濃度が低い状態にあり、上限圧力P1のタイミングおいて水素濃度が高い状態になる。すなわち、下限圧力P2から上限圧力P1まで圧力を増加させることにより、高水素濃度のガスが燃料極へ導入され、これにより、低水素濃度のガスが燃料電池スタック1から容積部12へ押し込まれる。また、高水素濃度のガスにより燃料極内のガスが攪拌されることとなる。
図8は、燃料電池スタック1における燃料極側の容積Rsと容積部12の容積Rtとを模式的に示す説明図である。例えば、上限圧力P1を200kPa(絶対圧)とし、下限圧力P2を150kPa(絶対圧)とした場合、上限圧力P1と下限圧力P2との圧力比P1/P2は概ね1.33となる。この場合、同図(a)に示すように、下限圧力P2から上限圧力P1への圧力増加により、燃料系の容積(具体的には、燃料電池スタック1および容積部12の容積)のうち1/4程度、つまり燃料電池スタック1の5割地点まで新たな水素が流入することとなる(以下、この状態を水素交換率0.5と表現する(同図(b)参照))。
低負荷の場合は水素の消費速度が遅いため、概ねこの程度の水素交換率において燃料電池スタック1の発電が可能となる。このシーンにおいて、例えば、時間平均された燃料極オフガス中の水素濃度は、約40%である。これに対して、高負荷の場合には、燃料電池スタック1の燃料極全体が新たな水素で置き換わる程の圧力比P1/P2(例えば、2以上)、つまり水素交換率が1程度となることが望ましい。排出される水素濃度を低く抑えたいものの、水素消費速度が速いため、発電を安定的に行うためにはある一定以上の水素濃度が必要となる(例えば、約75%以上が必要となる)。
このようなケースにおいて、水素濃度を調整するために、パージバルブ14により燃料極オフガス流路L2を開放する。これにより、パージバルブ14から、周期的な圧力増減による水素の供給を妨げない程度の微小流量を連続的あるいは間欠的に排出させる。パージバルブ14より排出されるガスは微小流量のため、カソード側の排気により希釈され安全に系外へ排出される。パージバルブ14の開放は、燃料極から不純物(窒素や水蒸気)を排出するために行うものであるが、燃料極には水素も混在している。そのため、水素の排出を抑制して、不純物を有効に排出することが好ましい。
そこで、本実施形態では、水素供給において、その圧力を下限圧力P2から上限圧力P1へと増加させる過程(第2の過程)に対応して、パージバルブ14を開状態に制御し、これを開放する(パージ処理)。具体的には、制御部40は、燃料電池スタック1の燃料極の圧力をモニタリングし、これが下限圧力P2に到達したタイミングに対応してパージバルブ14を開状態に制御し、また、これが上限圧力P1に到達したタイミングに対応してパージバルブ14を閉状態に制御する(基本制御パターン)。これにより、低水素濃度のガスが燃料電池スタック1から容積部12に押し込まれ、かつ、高濃度水素がパージバルブ14に到達する前に、容積部12から低水素濃度のガスがパージバルブ14を介して排出される。これにより、効率よく多くの不純物を排出することが可能となる。
ただし、パージバルブ14の開閉制御は、この基本制御パターンに限定されず、少なくとも下限圧力P2から上限圧力P1へと圧力を増加させる過程を含むように、パージバルブ14が開状態に制御されていれば足りる。そのため、パージバルブ14を閉状態に制御するタイミングは、水素圧力が上限圧力P1に到達したタイミング(以下、「基準閉タイミング」という)よりも遅延したタイミングに修正することもできる。例えば、高濃度水素と低濃度水素の境目は、拡散速度を考えた場合、短時間の範囲なら一定の面として判別できる。そこで、水素の供給時、燃料電池スタック1および容積部12において、どのくらいの時間でどの位置まで境界面(いわゆる、水素フロント)が到達するかを、実験やシミュレーションを通じて予測しておく。そして、この境界面がパージバルブ14に到達するまで、パージバルブ14を閉状態に制御するタイミングを基準閉タイミングよりも遅らせることができる。
また、パージ処理は、制御パターンの実行毎、具体的には、圧力増加過程(第2の過程)毎に、これらの全てに対応して行う必要はない。例えば、燃料極における水素濃度がある判定閾値以下となったことを条件に、その後の圧力増加過程に対応してパージバルブ14を開放すればよい。
また、発電反応を阻害する要因として液水も考えられるので、これも併せて排出してもよい。ただし、不活性ガスの存在に比べ、液水が影響するまでの時間は長いため、周期的な圧力増減の毎回ではなく、複数回に1回、あるいは一定時間毎に、この液水排出のための処理を実行することが好ましい。液水は、燃料電池スタック1内から除去されればよいので、これを燃料電池スタック1から容積部12へと排出することを考える。この場合、流速を上げる必要があるので、上限圧力P1と下限圧力P2との差圧を100kPa程度とすることが好ましい。
また、上限圧力P1および下限圧力P2は、これまで述べてきたような要求負荷により可変とする手法に加えて、以下のような付加的な手法を加味した設定を行うことが考えられる。まず、第1の付加的な手法としては、燃料電池セルにおける酸化剤極と燃料極との許容極間差圧に応じて上限圧力P1および下限圧力P2を設定してもよい。
また、第2の付加的な手法としては、燃料極内に蓄積される不活性ガスを排出するためのパージ処理を行うシステムでは、パージを確実に行うための最低圧力を確保するように、上限圧力P1および下限圧力P2を制限してもよい。
さらに、第3の付加的な手法としては、燃料極内の窒素濃度が高い程、上限圧力P1を大きな値に設定し、燃料極内の液水滞留量または液水生成量が多いと予測される状態では下限圧力P2を小さな値に設定する。これにより、実際に液水が溜まったと判断したときに、大きな圧力差が確保されているので、液水の排出を確実に行うことができる。
また、第4の付加的な手法としては、燃料電池スタック1内の液水の滞留量が多いと推定されるようなシーンでは、図9に示すように、上限圧力P1と下限圧力P2との圧力比(P1/P2)を一時的に大きな値(P1w/P2w)となるように、上限圧力P1および下限圧力P2を設定する。燃料極内の液水を排出するために必要な圧力幅ΔP2は、例えば、100kPa以上であり、燃料極内の不活性ガスを排出するための圧力幅ΔP1は、例えば、50kPa以上である。このように両者の圧力幅が異なるため、液水排出の観点から上記の如く、上限圧力P1および下限圧力P2を設定する。
ここで、上記の手法のように上限圧力P1を高く設定した場合、低負荷領域では、水素消費速度が少ないため、上限圧力P1から下限圧力P2へと圧力が低下する速度が遅くなる。この場合、下限圧力P2へと到達するまでに時間を要するため、上限圧力P1へと圧力増加させる第2の過程が暫く実行できなくなる虞がある。
そこで、図10に示すように、低負荷時に上限圧力P1を高い値(例えば、圧力P1w)に設定した場合、制御部40は、燃料電池スタック1から取り出す電流を一時的に増加させて、圧力下降速度を速めてもよい。例えば、電流を増加させない場合には、上限圧力P1wから下限圧力P2に低下するまでに要する時間が、時間Tm2であるのに対して、電流を増加させることにより、上限圧力P1wから下限圧力P2に低下するまでに要する時間が、時間Tm2よりも短い時間Tm3となるといった如くである。これにより、不活性ガス排出のための圧力増減の制御や、次回の液水排出のための圧力増減の制御への干渉を抑制することができる。
なお、燃料電池スタック1の電圧が低下しているシーンなど、燃料電池スタック1から取り出す電流を一時的に増加することにより、発電状態が不安定になるおそれがある場合や、取り出した電流を蓄える2次電池の充電レベルが高い場合は、取り出し電流を増加させる手法に代えて、別の方法で圧力下降速度を速めてもよい。
圧力下降速度を速める別の方法としては、例えば、パージバルブ14から排出される燃料極オフガスの流量を増加させることである。また、燃料極の容積を拡大することで、圧力下降速度を速めてもよい。燃料極の容積を拡大する方法としては、燃料極における液水の管理レベルを下げ、燃料極内の液水を排出することが挙げられる。
なお、燃料極内に滞留する液水量を推定する手法としては、液水生成量が負荷電流に概ねに比例するという特性に基づいて、負荷電流の積算で推定することが考えられる。また、従前に行った液水排出タイミングからの経過時間で推定してもよい。また、燃料電池セルの電圧を計測し、電圧が異常に低下したことで液水の滞留量が多いと推定してもよい。また、液水滞留量を推定する際には、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度で補正してもよい。なぜならば、同じ負荷電流であっても、冷却水温度が低い程、多く液水が滞留するからである。同様に、圧力脈動回数やカソードの空気量で補正することも可能である。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる燃料電池システムについて説明する。第1の実施形態では、燃料電池スタック1において負荷電流に対応した発電を行う通常運転時の処理を述べたが、本実施形態では、システムの起動時およびシステムの停止時の処理についてそれぞれ説明する。なお、燃料電池システムの構成は第1の実施形態と同じであるため、重複する説明は省略することとし、以下相違点を中心に説明を行う。
まず、起動処理について説明する。システム停止後、燃料電池スタック1が直ぐに起動されることなく暫く放置された場合、燃料極内には、低水素濃度のガスが充満している。このような状況において燃料電池システムを起動する場合には、この低水素濃度のガスを燃料電池スタック1の燃料極から排出させるため、高水素濃度のガスを燃料タンク10から所定の起動時上限圧力で瞬間的に供給し、燃料極におけるガス圧力を昇圧する。この際、パージバルブ14も開状態へと制御する。これにより、低水素濃度のガスと、高水素濃度のガスとの境界面である、水素フロントの通過を速めることができるとともに、水素フロントを燃料極から押し出すことができる。
つぎに、水素フロントがパージバルブ14に到達するタイミングよりも前に、水素調圧バルブ11およびパージバルブ14を閉状態に制御し、発電を行い、水素を消費させるとにより、燃料極における水素圧力を減圧させる。そして、水素圧力が、所定の起動時下限圧力まで到達したら、再度、所定の起動時上限圧力まで昇圧させる。そして、燃料電池スタック1の燃料極の濃度が所定の平均水素濃度になるまで、このような圧力増減を繰り返し行う。
なお、実際の車両では、このような起動処理を実行している間にも発進してしまう可能性があるが、この場合には、搭載された二次電池からの出力を利用すればよい。
つぎに、停止処理について説明する。停止後の起動のシーンとして、低温環境を想定した場合、停止時に燃料電池スタック1およびバルブ等に液水が存在すると、凍結等により起動不能に陥る可能性がある。そのため、停止時にこの液水を除去するための処理が必要となる。まず、酸化剤極に空気を供給しながら、低負荷の状態で発電を行う。燃料極側は、第1の実施形態と同様に制御パターンにしたがって圧力増減を繰り返し行う。この場合、例えば、上限圧力P1を200kPa(絶対圧)、下限圧力P2を101.3kPaとして、燃料極から液水が排出されるのに十分な値を設定しておく。また、この繰り返す回数は、実験やシミュレーションを通じて、液水を十分に排出できる回数を取得しておき、この回数に基づいて行う。これにより発電を終了させる。
次に、燃料電池スタック1から容積部12へ排出された液水を排水バルブ13を開状態に制御して排水する。そして、排水後、直前まで発電していた電力を用いて、ヒータなどの加熱手段を作動させ、パージバルブ14および排水バルブ13を加熱し、乾燥させる。 このように本実施形態によれば、停止処理により起動時の起動性を図るとともに、起動時の処理であっても、水素よりも不純物を優先的に排出することができる。