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JP5446017B2 - リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法 - Google Patents
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リチウムイオン二次電池用正極材料およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、携帯型電子機器や電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池正極材料およびその製造方法に関する。詳細には、従来のコバルト酸リチウム(LiCoO)に代わる、安価かつ大量合成に効果的なリン酸塩系正極材料およびその製造方法に関する。
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車に不可欠な高容量で軽量な電源としての地位を確立している。このリチウムイオン二次電池の正極材料には、これまでコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム(LiMnO)等の無機金属酸化物が用いられてきている。近年の電子機器の高性能化による消費電力の増大に伴い、更なるリチウムイオン二次電池の高容量化が要求されている。また、環境保全問題やエネルギー問題の観点から、CoやMnなどの環境負荷の大きい材料からより環境調和型の材料への転換が求められている。さらに近年、コバルト資源の枯渇問題が注目されており、そのような観点からもLiCoOに代わる安価な正極材料への転換が望まれている。
近年、コストおよび資源などの面で有利なことから、鉄を含有するリチウム化合物の中で、マンガン系スピネル型、NASICON型LiFe(POおよびオリビン型LiFePO結晶が注目されており、種々、研究および開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。中でもオリビン型LiFePO結晶はLiCoOに比べて温度安定性に優れ、高温での安全な動作が期待される。また、リン酸を骨格とする構造ゆえに、充放電反応による構造劣化への耐性に優れるという特徴を有する。
なお、マンガン系スピネル型、NASICON型LiFe(POおよびオリビン型LiFePO結晶の鉄サイトは、種々の遷移金属イオンで置換可能であることが知られている。例えば、完全に鉄をマンガンで置換した、LiMn(PO、LiMnPOなどや、部分置換したLi(MnFe1−x(PO、LiMnFe1−xPO(0<x<1)なども正極材料としての機能を有する。
また、リチウムイオン二次電池の正極材料に要求される特性としてイオン伝導度および電子伝導度が高いことが挙げられるが、リン酸鉄リチウム正極材料の電子伝導度は、通常、LiCoOと比べて低いことが問題点として報告されている。
また、リン酸鉄リチウムの合成手法として、二価の原子価を持つ鉄原料を低温で熱処理してナノメートルオーダーの結晶粒を得る水熱法や熱分解法などが提案されている(例えば、非特許文献1参照)が、二価の鉄を含む原料試薬は高価であり、ひいては製造コストの上昇をもたらしてしまう。従って、安価な製造コストでリン酸鉄リチウムの大量合成を実現するためには製造工程は簡便であることが望まれる。
これらの課題を解決するために、現在までに本願発明者らは、特許文献2に示すように、リチウム系酸化物、鉄系酸化物、及びリン酸系酸化物を含んだ混合物を還元雰囲気中で溶融・急冷することで前駆体ガラス体を作製し、得られる前駆体ガラスの結晶化温度近傍で熱処理を施すことでリン酸鉄リチウムを製造する手法を提案している。
しかしながら、特許文献2に記載の製造方法における還元溶融工程は複雑なプロセスであり、当該工程の雰囲気制御は実用上難しいため、より簡便な合成方法が望まれている。
特許文献2の上記課題を解決するために、本願発明者らは、特許文献3に示すように、リチウム系酸化物、鉄系酸化物、及びリン酸系酸化物を含んだ混合物を大気中で溶融することで前駆体ガラスを作製し、この前駆体ガラスを粉砕した後に炭素化合物を混ぜて、前駆体ガラスと炭素化合物とを500〜700℃近傍で同時焼成することでオリビン型LiFePO、またはLiMnFe1−xPOの固溶体を合成する方法を提案している。なお、この手法は均一な組成分布をもつガラス(非晶質)粉体に熱処理を施すことで目的結晶の合成が可能であり、従来の合成法に比べて低温かつ短時間で合成プロセスが完了するのが特徴である。
しかしながら、特許文献3に記載の製造方法では、特許文献2の製造方法に必須の還元溶融工程を要しないが、リチウム・鉄・リン酸系酸化物の混合物に通常の大気溶融を施す工程はなお必要である。上記混合物の溶融工程は、膨大なエネルギーを要するとともに、混合物を収容する貴金属製容器(例えば、白金系材料からなる容器)を腐食させてしまうなどの問題がある。すなわち、鉄などの遷移金属酸化物を多量に含有する融液は貴金属を腐食させるため、貴金属製容器の寿命を著しく低下させる恐れがある。また、この大気溶融工程により一旦作製されたガラス試料(前駆体ガラス)を細かく粉砕する工程も必要となる。従って、製造工程の更なる簡略化の余地があり、そのためには、これらの問題を克服する必要がある。
特開平9−134725号公報 特開2008−047412号公報 特開2009−087933号公報
S.Franger 他3名、Electrochemical and Solid−State Letters, 5(10),2002年,A231−A233
このように低温でのリチウム二次電池用正極材料の合成法がいくつか提案されているが、高価な遷移金属化合物を出発原料とし、この出発原料に対して溶融・粉砕工程等の前処理を含んだ複雑な製造プロセスとなっている。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、製造プロセスが一層簡略化され、正極材料粒子表面に効率よく導電助剤を付与することが可能なリチウムイオン二次電池正極材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
本願発明者らは前記課題を解決すべく検討した結果、メタリン酸リチウム(リンとリチウムとの複合酸化物)と遷移金属化合物を原料として所定のモル比で調合し、還元雰囲気下に設定し又は還元剤を添加した上で450〜700℃の温度領域で焼成すれば、オリビン型LiMPO結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1つ以上)の結晶化ガラス粉末を得ることができること、及び当該ガラス粉末には電子伝導性を向上させる導電助剤を効率よく複合化でき、導電性の高いリチウムイオン二次電池正極材料を得ることができることを見出し、本発明として提案するものである。
すなわち、本発明の第一の態様は、(1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)調合されたバッチの周囲環境を還元雰囲気下に設定する工程と、(3)得られた混合粉体を焼成し、LiMPO結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法に関する。
なお、遷移金属イオンを種々のイオンで置換することで電気化学特性が変化する。例えば、リン酸鉄リチウムLiFePOは鉄資源が豊富であり原材料コストが安価であるという特徴がある。また、鉄の代わりにマンガンやコバルトあるいはニッケルで置換したLiMnPO、LiCoPO及びLiNiPOは、LiFePOよりも電圧が高いため、高出力化の観点から優位な材料である。
また、本発明の第二の態様は、(1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)還元剤を添加する工程と、(3)得られた混合粉体を焼成し、LiMPO結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法に関する。
本第二の態様と第一の態様との違いは、調合されたバッチに還元剤を実際に添加するか、調合されたバッチの周囲環境を所定の還元雰囲気下(例えば、7%水素−93%アルゴン)に設定するかの点にある。第一の態様の製造方法では、グルコース等の還元剤を添加せずとも所定の還元雰囲気下で熱処理するとLiMPO結晶(例えば、LiFePO)が形成できることが長所であるが、より高い還元力を付与するためには第二の態様の製造方法が好適である。
第三の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、形成されたLiMPO結晶が、LiMnFe1−xPO結晶(0<x<1)であることを特徴とする。
なお、LiMnPOはLiFePOよりも高電圧であるが、リチウムの脱挿入が乏しいため、鉄とマンガンの混合した固溶体LiMnFe1−xPO結晶(0<x<1)を形成することでLiMnPOよりもリチウムの脱挿入が改善し、LiFePOよりも高電圧な正極材料が合成可能となる。
第四の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、還元剤の添加量が、(1)工程で調合された混合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることを特徴とする。これにより、遷移金属イオンの原子価状態が制御され、効果的に還元が促進する。
第五の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、還元剤がグルコースであることを特徴とする。
ここで、結晶合成のための還元剤として添加したグルコースは、熱処理中に導電性を有する炭素系物質(アモルファスカーボン)に変化するため、リチウムイオン二次電池正極材料の導電性を向上させる点で有効である。
第六の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、(4)炭素系化合物を含んだ導電助剤を添加する工程をさらに含むことを特徴とする。
オリビン型LiMPOは結晶単体での電子伝導性が無いため、電子伝導性を補うことを目的として炭素を含有する導電助剤を結晶表面にコーティングすることで電子伝導性に優れた二次電池正極材が合成可能となる。上述の通り、所定の還元剤も熱処理中に導電性を有する炭素系物質に変化するため還元剤の添加も導電性の向上に有効であるが、電子伝導性を増大させるために、導電助剤を別途加えてもよい。なお、グラファイトやアセチレンブラック、アモルファスカーボンなどの炭素系材料は化学的に安定な物質であり、LiMPO粉体の表面を炭素系導電助剤でコーティングすることによりさらに高い電気伝導性を有するリチウムイオン二次電池正極材料の合成が可能となる。
第七の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、焼成温度が600〜700℃の範囲であることを特徴とする。
第八の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、(1)の調合工程前に、メタリン酸リチウムLiPOを1000〜1200℃の温度で溶融して非晶質状態にさせ、非晶質状態のメタリン酸リチウムLiPOを粉砕する前処理工程をさらに含むことを特徴とする。非晶質状態のメタリン酸リチウムを原料とすることで、下記のように更に低温域での焼成が可能となる。
第九の態様として、第八の態様に記載の製造方法は、焼成温度が450〜700℃の温度範囲であることを特徴とする。つまり、第八の態様に記載の前処理工程で得られた非晶質状態のメタリン酸リチウムを原料とすることで、結晶性メタリン酸リチウムを原料とする場合よりも更に低温の焼成温度でリン酸鉄リチウムを合成することが可能となる。
第十の態様として、本発明は、粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるように混合し、還元雰囲気下にて焼成されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料に関する。
第十一の態様として、本発明は、粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるように混合し、還元剤をさらに添加して焼成されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料に関する。
第十二の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料は、第十又は第十一の態様に記載のメタリン酸リチウムLiPOが非晶質状態であることを特徴とする。
第十三の態様として、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料は、第十〜十二の態様のいずれかに記載の焼成物には、リン酸、リチウム、遷移金属から構成された無機酸化物の非晶質相が含まれ、その含有量が0.01〜20容量部であることを特徴とする。
後述するように本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の電気伝導度は、従来品の値(通常、1.0×010−9S・cm−1のオーダー)に対して4〜5桁のオーダーで向上する。これは、最終的な焼成物内に非晶質相が多く残存し、これがイオン伝導性に優れている(つまり、非晶質相が良イオン伝導相として振る舞う)ためであると考えられる。
第十四の態様として、第十〜十三の態様のいずれかに記載の焼成物に加え、導電助剤がさらに含有されることを特徴とする。
本発明によれば、メタリン酸リチウムを原料とするため、リチウムとリンのモル比が1:1であり、これに遷移金属酸化物を加えることでオリビン型結晶の組成であるリチウム、リン、遷移金属のモル比を容易に1:1:1近傍に設定することができる。また、メタリン酸リチウムの融点は640℃で、オルトリン酸リチウムの融点837℃より低温であることから、オリビン型結晶の低温合成が可能になる。
本発明によれば、リチウムイオン二次電池正極材料の製造にあたって、リチウム・鉄(遷移金属)・リン酸系の混合物に対して溶融・粉砕を行う前処理プロセスを必要としない。従って、製造プロセスが一層簡略化できるとともに、膨大なエネルギーを要しかつ混合物を収容する容器を腐食させてしまうなどの従来の製造方法の課題を解決することが可能となる。
なお、本発明の一態様においては、非晶質状態メタリン酸リチウムを得るために、メタリン酸リチウム自体を溶融・粉砕する前処理を施すことが好ましいが、リチウム・鉄(遷移金属)・リン酸系酸化物の混合物に対して溶融・粉砕を行う従来の前処理プロセスのような問題を生ずることはない。鉄などの遷移金属酸化物を多量に含有する融液は、貴金属を腐食するため貴金属製容器(例えば白金系材料からなる容器)の寿命を著しく低下させる恐れがある。これに対して本発明で採用するメタリン酸リチウムの場合は、白金系の容器中で溶融を行ってもメタリン酸リチウムを含んだ融液は該容器と反応を起こさない。
また、本発明の上記態様によれば、平均粒径は比較的大きいメタリン酸リチウム粉体を使用しても高品質のオリビン型結晶を得ることができるため、メタリン酸リチウムの粉砕プロセスに要する時間や労力は少なくて済む。
実施例1で作製した試料の粉末X線回折パターン(還元剤添加の場合)を示す図である。 実施例1で作製した試料の粉末X線回折パターン(還元剤無添加の場合)を示す図である。 実施例3で作製したメタリン酸リチウムLiPOガラスの示差熱分析曲線を示す図である。 実施例3で作製した試料の粉末X線回折パターンを示す図である。
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料は、メタリン酸リチウムLiPOと化学式MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とをリチウム、リン及び遷移金属のモル比(molar ratio)が1:1:1近傍(つまり、0.8〜1.2)になるように混合された粉体を原料とすることを特徴とする。
ここで、遷移金属イオンMの原子価が2価の場合、遷移金属酸化物は化学式MOで表され、例えばFe(II)OやNiOが挙げられる。遷移金属イオンMの原子価が3価の場合、遷移金属酸化物は化学式M、又はMで表され、例えばヘマタイトFe、マグネタイトFe、Co、Mnが挙げられる。遷移金属イオンMの原子価が4価の場合、遷移金属酸化物は化学式MOで表され、例えば、MnOが挙げられる。
次に、組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。
メタリン酸リチウムはリンとリチウムのモル比が1:1の複合酸化物である。メタリン酸リチウムを原料とする利点は、リチウムとリンのモル比が1:1であり、これに遷移金属酸化物を加えることでオリビン型結晶の組成であるリチウム、リン、遷移金属のモル比1:1:1とすることが容易である。例えば他のリチウムリン酸塩でオルトリン酸リチウム(LiPO)を原料とする場合はリンとリチウムとの比が1:3となってしまうため、不足するリン酸を補うためにオルトリン酸や、リン酸二水素アンモニウムなどを添加する必要がある。またメタリン酸リチウムの融点は640℃で、オルトリン酸リチウムの融点837℃より低温であることから、低温合成に好適である。
メタリン酸リチウムは非晶質状態であることが好ましい。メタリン酸リチウムはそれ自体が溶融急冷を経ることで容易に非晶質状態(つまりガラス状態)を示す。ガラス状メタリン酸リチウムのガラス転移温度は329℃と極めて低温であることから、融点である640℃まで加熱しなくとも、329℃以上に加熱すれば過冷却液体状態となり流動性を呈する。このため結晶性メタリン酸リチウムを原料とした場合よりも一層低温で遷移金属化合物との反応が起こると予測できる。
メタリン酸リチウム粉体の平均粒径の範囲は、小さければ小さい程(例えば3μm以下)好ましいが、平均粒径20μm程度と比較的大きな寸法であってもよい。なお、メタリン酸リチウムは結晶化の手前で液相になるので、寸法が比較的大きい平均粒径20μm程度の粉体を用いても所望の結晶化ガラスを得ることができる。従って、この程度の平均粒径のメタリン酸リチウムを用いれば、メタリン酸リチウムの粉砕に要する手間を低減することが可能になる。
化学式MO、MO、M、又はM(Mは、Fe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物も、オリビン型結晶の主成分である。オリビン結晶LiMPOで示される遷移金属イオンMの原子価状態は+2であることから、この結晶を析出するためには原料中の遷移金属イオンの原子価が+2であることが好ましいが、後述の還元剤の効果により焼成の過程で原子価状態が+2となるのであれば、その他の原子価状態をもつ原料を用いてもよい。鉄であればFe(II)Oは高価であるため、原材料コストの低減には向かないが、ヘマタイトFeやマグネタイトFeを用いても還元により容易に原子価状態を+2にすることができるので、これらを原料とすることが好ましい。原材料コストの低減という観点から、その他の遷移金属酸化物も同様にマンガンであればMnO,コバルトであればCo,ニッケルはNiOなどを選択することが好ましい。遷移金属酸化物の粒径は小さい方が反応性に富んでおり、得られるオリビン型結晶の粗大化防止に効果的であることから、具体的には平均粒径5μm以下が好ましく、1μm以下であればさらに好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料において、化学式LiMPO中の遷移金属イオンMはFe、Mn,Co、Niのいずれか1つからなる化合物、あるいは二つ以上の組み合わせからなる固溶体を形成する組成であれば特に限定されるものではないが、リチウム鉄マンガンリチウムLiMnFe1−xPO結晶(0<x<1)は全率で固溶体を形成するため、鉄とマンガンの配合を変えることによりxの値を変化させることができる。
なお、オリビン型LiMPO中の遷移金属イオンMの原子価は+2価であるため、大気開放中で熱処理すると酸化還元平衡の関係から+3価に酸化されナシコン類似構造のLi(POを形成しやすい。そこで、原子価状態を制御するために、加熱時にグルコースなどの炭素を含有する還元剤を結晶構成原料(メタリン酸リチウムと遷移金属酸化物)100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲で添加することが好ましい。還元剤の添加量が0.1質量部よりも少ないと遷移金属イオンの効果的な還元が進まず、Li(POなどの異相を形成する恐れがある。また、50質量部よりも多いと電池を形成した際に実質的な電池容量が低下してしまう恐れがある。
また、還元性ガスを充満させた気密性に優れた反応容器中で結晶構成原料を熱処理することも好ましい。さらに、水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元雰囲気中にて熱処理する等、遷移金属酸化物の価数状態を一旦制御した後に、結晶構成原料を450〜700℃の温度範囲で熱処理することも好ましく、これによりLiMPO単一からなる結晶粉を作製することができる。
なお、焼成温度が450℃よりも低温では遷移金属イオンの還元は進行するがLiMPOが形成するための反応は進行しない恐れがある。また焼成温度が700℃を超えると粒成長および焼結が起こり粗大な結晶が形成し、充放電反応に重要な比表面積が低下する恐れがある。
形成されたオリビン型LiMPO結晶粉末の粒径は小さい程、正極材料全体としての表面積が大きくなり、イオンや電子の交換がより行いやすくなるため好ましい。具体的には、結晶化ガラス粉末の平均粒径は50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には0.05μm以上である。
イオン伝導性を向上させるには結晶中のイオン伝導の方位依存性を解消することが重要である。このため等方的なイオン伝導性を示す酸化物の非晶質相が残留した正極材料であることが好ましい。通常、リン酸鉄リチウムLiFePOの理論密度は3.5〜3.6g・cm−3であり、非晶質相がある程度、残留すると理論密度よりも低密度となる。好適な非晶質相の含有量は、検出限界である0.01容量部から20容量部である。非晶質相が20容量部以上となると充放電容量が低下する恐れがある。
本発明のリチウム二次電池正極材料は、結晶化ガラス粉末に対して、導電性を向上させるために、電子伝導性が高く安定な導電助剤を含有していることが好ましい。なお、導電助剤に関しては、以下の実施例にて後述するように結晶構成原料の焼成前に添加された還元剤が焼成後に導電助剤としての役目を果たすものであってもよいし、還元剤とは別の導電助剤を焼成前あるいは焼成後に付与してもよい。
また、導電助剤は結晶粉末界面にコーティングされてなることが好ましい。導電助剤としては、グラファイト、アセチレンブラック、アモルファスカーボンなどの炭素系導電助剤や金属粉末などの金属系導電助剤などが挙げられる。アモルファスカーボンとしては、FTIR分析において、正極材料の導電性低下の原因となるC−O結合ピークやC−H結合ピークが実質的に検出されないものが好ましい。
導電助剤の粒子径は小さいほど、各結晶粉末粒子界面に均一に分散させることができる。具体的には、導電助剤の粒子径は、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。導電助剤の粒子径が50μmより大きいと、各結晶化ガラス粉末粒子界面に均一に分散させることが困難になる傾向がある。下限については特に限定されないが、現実的には0.05μm以上である。
導電助剤の含有量としては、結晶粉末100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、2〜40質量部であることが好ましく、3〜30質量部であることがさらに好ましい。導電助剤の含有量が0.1質量部未満であると、結晶に対する導電性付与の効果が十分に得られない傾向がある。導電助剤の含有量が50質量部を超えると、リチウムイオン二次電池において正極と負極の電位差が小さくなり、所望の起電力が得られなくなるおそれがある。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の電気伝導度は、1.0×10−8S・cm−1以上であり、1.0×10−6S・cm−1以上であることが好ましく、1.0×10−4S・cm−1以上であることがより好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
(実施例1:リン酸鉄リチウムLiFePOの合成法1)
メタリン酸リチウムLiPOと、平均粒径1μmのヘマタイトFeとを、リチウム、リン及びヘマタイトのモル比が1:1:1となるように10g(つまり、メタリン酸リチウムが5.1831g、ヘマタイトが4.8169g)秤量・混合し、それらの混合粉体100質量部に対して10質量部(つまり、1g)の還元剤であるグルコースを添加し、アルコールを加えてアルミナ乳鉢にて5分間混合した。乾燥後アルミナボートに移し、7%水素‐93%アルゴンで満たした管状炉に導入し、所定の温度条件で3時間熱処理を行った。ここで、焼成温度の比較のために500℃、600℃、及び640℃の各温度で熱処理した。
また、本発明者らは、還元剤であるグルコースを混合粉体に添加せずとも、この混合粉体の周囲環境を前述の還元雰囲気下(7%水素−93%アルゴン)に置くだけの状態で熱処理した場合にも、リン酸鉄リチウムLiFePOの合成が可能か否かについても試験した。
図1にグルコースを10質量部添加し、熱処理後の合成粉末のエックス線回折パターン(還元剤添加の場合)を示す。図1に示すように500℃で熱処理した試料はLiPOとFeの回折パターンが確認された。原料であるFeおよび目的結晶であるLiFePOの回折ピークが確認されないことから、500℃においては鉄の還元が進行してはいるが、メタリン酸リチウムとの反応は起こっていないと考えられる。一方、600℃および640℃で熱処理した試料はLiFePO由来の回折ピークが確認された。
グルコース無添加で得られた結晶粉体のエックス線回折パターン(還元剤無添加の場合)を図2に示す。図1の結果と同様に600℃以上でLiFePO由来の回折パターンが確認された。
図1のグルコース添加の場合と図2のグルコース無添加の場合とにおいて形成された焼成物のそれぞれの密度を測定したところ、いずれも3.42g・cm−3であった。これは、LiFePOに関する従来の文献等に示される理論密度(3.5〜3.6g・cm−3)に比べて約3%程度低い密度であった。
実施例1の方法により得られた結晶粉末を、一軸加圧成形により直径13mmφ、厚さ0.5mmとなるようにペレット状に成形し、交流インピーダンス法により室温での電気伝導度を測定した。その結果、グルコース無添加の試料では5×10−5S・cm−1を示し、一方、グルコースを10質量部だけ添加した試料では4.8×10−4S・cm−1を示した。この実測値は報告されているLiFePOの伝導度(およそ1.0×10−9S・cm−1)よりも遙かに高い伝導度である。
(実施例2:リン酸鉄リチウムLiFePOの合成法2)
実施例2では、実施例1で使用した鉄の試薬をヘマタイトFeの代わりに平均粒径1μmのマグネタイトFeとした以外は実施例1の工程と同じである。この実施例2の工程で合成粉体を作製した場合においても、エックス線回折法でLiFePOの形成が確認された試料は、焼成温度600℃以上で熱処理した試料であった。
(実施例3:非晶質状態のメタリン酸リチウムLiPOを用いたリン酸鉄リチウムLiFePOの合成法3)
メタリン酸リチウムLiPOを白金ルツボに入れ1100℃に加熱した電気炉中で10分間溶融した。溶融した融液を鉄板上に流し出すことでガラス体(非晶質状態のメタリン酸リチウム)を得た。このガラス体を粉砕し、平均粒径20μmの粉末にした。このガラス体の示差熱分析結果を図3に示す。ガラス体のガラス転移温度Tgは329℃、結晶化開始温度Txは440℃、結晶化ピーク温度Tpは482℃、結晶の融点は640℃であった。形成された結晶はエックス線回折法によりLiPOであることが確認された。
その後、粉砕された非晶質メタリン酸リチウム粉体と平均粒径1μmのヘマタイトFeとを、リチウム、リン及びヘマタイトのモル比が1:1:1となるように10g(つまり、メタリン酸リチウムが5.1831g、ヘマタイトが4.8169g)秤量・混合し、それらの混合粉体100質量部に対して10質量部(つまり、1g)のグルコースを添加し、アルコールを加えてアルミナ乳鉢にて5分間混合した。乾燥後アルミナボートに移し、7%水素-93%アルゴンで満たした管状炉に導入し、所定の温度条件に設定して3時間熱処理を行った。なお、焼成温度の影響を検討するために、設定した温度条件は、それぞれ340℃、500℃、及び640℃である。
図4に熱処理後の合成粉末のエックス線回折パターンを示す。340℃で熱処理した試料においては、原料として添加したFe由来の回折ピークと還元されたFe由来の回折ピークのみが確認された。このことから非晶質メタリン酸リチウムはガラス状態のままであることが分かる。500℃で熱処理を施した試料においては、LiFePOとLiPO由来の回折ピークが確認された。図1に示した結晶性LiPOを原料とした場合と比較して、LiFePOが低温で合成できることを確認した。この現象(結果)を生ずるメカニズムは完全に明らかになっていないが、ガラス状LiPOがガラス転移温度以上に加熱されることにより流動性を示し、還元されたFe粒子表面を覆い、過冷却液体状のLiPOとFe粒子との反応によりLiFePOが形成するものと考えられる。500℃で熱処理を施した試料においては一部LiPOが結晶化したが、LiPOの融点である640℃近傍では再び液相となり、完全に単相のLiFePOが得られた。
(実施例4:リン酸鉄リチウムLiFePOペレットの作製)
実施例3と同様の方法で、平均粒径20μmのLiPOガラス粉末と平均粒径1μmのヘマタイトFeとを、リチウム、リン及びヘマタイトのモル比が1:1:1となるように10g(つまり、メタリン酸リチウムが5.1831g、ヘマタイトが4.8169g)秤量・混合し、それらの混合粉体100質量部に対して10質量部(つまり、1g)のグルコースを添加し、アルコールを加えてアルミナ乳鉢にて5分間混合した。混合粉末を乾燥させた後、一軸加圧成形により直径13mmφ、厚さ0.5mmとなるように混合粉末をペレット状に成形した。その後640℃で3時間熱処理を施すことで、ペレット状の焼結体試料を得た。
実施例4のペレット状の焼結体試料をエックス線回折法により評価したところ、単相のLiFePOから構成されていることを確認した。また、このペレット試料のラマン散乱分光スペクトルを測定したところ、アモルファスカーボンの存在が確認された。さらに、このペレット試料に金電極を形成し、交流インピーダンス法により、室温での電気伝導度を測定したところ3.3×10−3S・cm−1を示し、実施例1の試料の電気伝導度よりも一桁向上した。このことから、本実施例においては、還元剤として添加したグルコースはアモルファスカーボンに一層変化しており、Feの還元のみならず、導電助剤として電気伝導度の向上に一層効果的であることがわかった。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、ノートパソコンや携帯電話等の携帯型電子機器や電気自動車などに好適である。

Claims (8)

  1. (1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)調合されたバッチの周囲環境を還元雰囲気下に設定する工程と、(3)得られた混合粉体を600〜700℃の温度範囲で焼成し、LiMPO結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  2. (1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPOと、化学式MO、MO、M、又はM(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)還元剤を添加する工程と、(3)得られた混合粉体を600〜700℃の温度範囲で焼成し、LiMPO結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  3. 形成されたLiMPO結晶が、LiMnFe1−xPO結晶(0<x<1)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  4. 還元剤の添加量が、(1)工程で調合された混合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることを特徴とする請求項2又は3に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  5. 還元剤がグルコースであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  6. (4)炭素系化合物を含んだ導電助剤を添加する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  7. (1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPO と、化学式MO、MO 、M 、又はM (MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)調合されたバッチの周囲環境を還元雰囲気下に設定する工程と、(3)得られた混合粉体を450〜700℃の温度範囲で焼成し、LiMPO 結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含み、かつ、
    (1)の調合工程前に、メタリン酸リチウムLiPOを1000〜1200℃の温度で溶融して非晶質状態にさせ、非晶質状態のメタリン酸リチウムLiPOを粉砕する前処理工程をさらに含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
  8. (1)粉体状のメタリン酸リチウムLiPO と、化学式MO、MO 、M 、又はM (MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)で表される遷移金属酸化物とを、リチウム、リン及び遷移金属のモル比が1:1:(0.8〜1.2)になるようバッチを調合する工程と、(2)還元剤を添加する工程と、(3)得られた混合粉体を450〜700℃の温度範囲で焼成し、LiMPO 結晶(MはFe,Mn,Co,Niから選ばれる少なくとも1種)またはそれらの固溶体から構成される結晶を形成する工程と、を含み、かつ、
    (1)の調合工程前に、メタリン酸リチウムLiPOを1000〜1200℃の温度で溶融して非晶質状態にさせ、非晶質状態のメタリン酸リチウムLiPOを粉砕する前処理工程をさらに含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
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